(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ポリジメチルアクリルアミド粉体、ポリジメチルアクリルアミド溶液およびポリジメチルアクリルアミド粉体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20240409BHJP
A61L 15/24 20060101ALI20240409BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20240409BHJP
A61L 29/04 20060101ALI20240409BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240409BHJP
C08F 20/56 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C08J3/12 A CEY
A61L15/24 100
A61L31/04 110
A61L29/04 100
C08J5/18
C08F20/56
(21)【出願番号】P 2022566339
(86)(22)【出願日】2022-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2022040356
(87)【国際公開番号】W WO2023085121
(87)【国際公開日】2023-05-19
【審査請求日】2023-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2021182341
(32)【優先日】2021-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022088240
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北川 瑠美子
(72)【発明者】
【氏名】中村 正孝
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-273215(JP,A)
【文献】特開平07-062022(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113150228(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0163698(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-5/02;5/12-5/22;99/00
C08J 9/00- 9/42
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B29C 41/00-41/52
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00
A61L 15/00-33/00
A61F 2/00-2/18;3/00-4/00
G02C 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリジメチルアクリルアミドを主成分として含み、
かさ密度が0.60g/mL以下
であり、
該ポリジメチルアクリルアミドにおける、N,N-ジメチルアクリルアミドモノマー由来の構造単位の含有率が75~100mol%である、ポリジメチルアクリルアミド粉体。
【請求項2】
前記ポリジメチルアクリルアミドの重量平均分子量が100,000以上である、請求項
1記載のポリジメチルアクリルアミド粉体。
【請求項3】
前記ポリジメチルアクリルアミド粉体の空隙率が、
4.0%以上である、請求項
1記載のポリジメチルアクリルアミド粉体。
【請求項4】
含水率が10.0質量%以下である、請求項
1記載のポリジメチルアクリルアミド粉体。
【請求項5】
ポリジメチルアクリルアミドを主成分として含み、空隙率が、
4.0%以上である、ポリジメチルアクリルアミドシート。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項記載のポリジメチルアクリルアミド粉体または請求項5記載のポリジメチルアクリルアミドシートを溶媒に溶解してなる、ポリジメチルアクリルアミド溶液であって、該溶液中のポリジメチルアクリルアミドにおける、N,N-ジメチルアクリルアミドモノマー由来の構造単位の含有率が75~100mol%であるポリジメチルアクリルアミド溶液。
【請求項7】
ポリジメチルアクリルアミド溶液を保持体の表面に塗布して塗膜を得る、塗布工程と、
前記塗膜を加熱乾燥して乾燥ポリジメチルアクリルアミドを得る、乾燥工程と、を備える、ポリジメチルアクリルアミド粉体の製造方法
であって、
該ポリジメチルアクリルアミドにおける、N,N-ジメチルアクリルアミドモノマー由来の構造単位の含有率が75~100mol%であり、かつ、
前記保持体が、円筒状の回転体である、ポリジメチルアクリルアミド粉体の製造方法。
【請求項8】
さらに、水性溶媒中でN,N-ジメチルアクリルアミドを重合して前記ポリジメチルアクリルアミド溶液を得る、重合工程を備える、請求項
7に記載のポリジメチルアクリルアミド粉体の製造方法。
【請求項9】
前記ポリジメチルアクリルアミド溶液が含有するポリジメチルアクリルアミドの重量平均分子量が、100,000以上である、請求項
7記載のポリジメチルアクリルアミド粉体の製造方法。
【請求項10】
ポリジメチルアクリルアミド溶液を保持体の表面に塗布して塗膜を得る、塗布工程と、
前記塗膜を加熱乾燥してポリジメチルアクリルアミドを主成分として含む乾燥ポリジメチルアクリルアミドを得る、乾燥工程と、を備える、ポリジメチルアクリルアミドシートの製造方法
であって、
該ポリジメチルアクリルアミドにおける、N,N-ジメチルアクリルアミドモノマー由来の構造単位の含有率が75~100mol%であり、かつ、
前記保持体が、円筒状の回転体である、ポリジメチルアクリルアミドシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリジメチルアクリルアミド粉体、ポリジメチルアクリルアミド溶液およびポリジメチルアクリルアミド粉体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリジメチルアクリルアミドを製造原料とする医療デバイスは、その表面の易滑性をはじめとする生体適合性や親水性等において極めて優れており、近年注目を集めつつある。
【0003】
ポリジメチルアクリルアミドを製造原料として成型した医療デバイスの生体適合性や親水性を高め、あるいは、その透明度を高めるためには、ポリジメチルアクリルアミドの純度が高いことは勿論、製造プロセスにおいて各種の溶媒や他の製造原料とポリジメチルアクリルアミドとの相溶性が高いことが望まれる。
【0004】
ポリジメチルアクリルアミドのようなポリマーと各種の溶媒や他の製造原料との相溶性を高める、すなわち、ポリマー自体の溶解度を高めるための手段としては、例えば、ポリマーの水分率のような性状を調整することが考えられる。その一例として、ポリビニルピロリドンの例では、高粘度のポリビニルピロリドン水溶液等をドラムドライヤーで十分に乾燥したり、その見かけ密度を大きくしたりする方法が開示されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-285267号公報
【文献】特開2008-095048号公報
【文献】特開2009-249473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリジメチルアクリルアミドの溶解度を顕著に高めるための具体的な手段は、これまでのところ一切知られていないのが現状であった。
【0007】
そこで本発明は、各種の溶媒や他の製造原料への溶解性が極めて良好であり、医療デバイスの原料に用いた場合に、高い親水性、易滑性および透明度を発現可能な、ポリジメチルアクリルアミド粉体、ポリジメチルアクリルアミド溶液およびポリジメチルアクリルアミド粉体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、ポリジメチルアクリルアミドを主成分として含み、かさ密度が0.60g/mL以下である、ポリジメチルアクリルアミド粉体、および、その製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリジメチルアクリルアミド粉体によれば、透明度、易滑性および親水性が高い医療デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリジメチルアクリルアミド粉体は、ポリジメチルアクリルアミドを主成分として含み、かさ密度が0.60g/mL以下であることを特徴とする。
【0011】
本明細書においてポリジメチルアクリルアミドとは、N,N-ジメチルアクリルアミドモノマーの単独重合体、または、N,N-ジメチルアクリルアミドモノマーと他のモノマーとの共重合体をいう。ここでポリジメチルアクリルアミドがN,N-ジメチルアクリルアミドモノマーと他のモノマーとの共重合体である場合には、該共重合体は、50mol%以上の含有率でN,N-ジメチルアクリルアミドモノマー由来の構造単位を含むもののみを「ポリジメチルアクリルアミド」という。すなわち、本明細書におけるポリジメチルアクリルアミドとは、N,N-ジメチルアクリルアミドモノマー由来の構造単位の含有率が、50~100mol%である重合体をいう。
【0012】
ポリジメチルアクリルアミドは、ポリジメチルアクリルアミド粉体を溶媒等に溶解させた際に適度な粘性を発現させて、得られる医療デバイスの親水性および易滑性を高めるため、N,N-ジメチルアクリルアミドモノマー由来の構造単位の含有率が75~100mol%であることが好ましく、90~100mol%であることがより好ましく、100mol%(N,N-ジメチルアクリルアミドモノマーの単独重合体)であることがさらに好ましい。
【0013】
ここで「主成分として含む」とは、上記ポリジメチルアクリルアミド粉体に占めるポリジメチルアクリルアミドの質量割合が、50%以上であることをいう。
【0014】
本明細書において粉体とは、複数のポリマーの粒子が互いに接触しつつ間隙を形成している、ポリマー粒子の集合体をいう。ポリジメチルアクリルアミド粉体とは、複数のポリジメチルアクリルアミド粒子が互いに接触しつつ間隙を形成している、ポリジメチルアクリルアミド粒子の集合体をいう。
【0015】
本発明のポリジメチルアクリルアミド粉体は、かさ密度が0.60g/mL以下であることを必要とする。ここでかさ密度とは、一定容積の容器にポリジメチルアクリルアミド粉体を満たして充填し、その内容積を体積とした場合の密度をいう。具体的には、250mLメスフラスコに本発明のポリジメチルアクリルアミド粉体を10.0g、一切のタッピングを伴わずに充填した場合のかさ密度を算出して決定することができる。
【0016】
本発明のポリジメチルアクリルアミド粉体のかさ密度は、各種の溶媒や医療デバイスの他の製造原料との相溶性を高めるため、0.0001g/mL以上が好ましく、0.0005g/mL以上がより好ましく、0.001以上がより好ましく、0.005g/mL以上がより好ましく、0.01g/mL以上がさらに好ましく、0.05g/mL以上が特に好ましい。また、かさ密度は、0.50g/mL以下が好ましく、0.40g/mL以下がより好ましく、0.20g/mL以下がさらに好ましく、0.10g/mL以下が特に好ましい。
【0017】
また本発明のポリジメチルアクリルアミド粉体は、重量平均分子量が100,000以上のポリジメチルアクリルアミドを主成分として含むことが好ましい。主成分として含まれるポリジメチルアクリルアミドの重量平均分子量が100,000以上であることで、該粉体を原料として得られる医療デバイスに十分な親水性や易滑性を付与することができる。主成分として含まれるポリジメチルアクリルアミドの重量平均分子量は、150,000以上であることが好ましく、400,000以上であることがより好ましく、600,000以上であることがさらに好ましい。また主成分として含まれるポリジメチルアクリルアミドの重量平均分子量は、製造安定性の観点から1,200,000以下が好ましく、1,000,000以下がより好ましい。ここでいう重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(水系溶媒)で測定される、ポリエチレングリコール換算の重量平均分子量である。
【0018】
ここで「主成分として含む」とは、上記ポリジメチルアクリルアミド粉体に占める、重量平均分子量が上記特定範囲のポリジメチルアクリルアミドの質量割合が、50%以上であることをいう。
【0019】
N,N-ジメチルアクリルアミドモノマーと共重合させる他のモノマーとしては、例えば、ビニルアミド、ビニルイミド、ビニルラクタム、親水性(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドもしくはその誘導体、親水性スチレン系化合物、ビニルエーテル、ビニルカーボネート、ビニルカルバメートまたはビニル尿素のような、不飽和基を含む構造を有する化合物が挙げられる。
【0020】
具体的な化合物としては、例えば、N-ビニルピロリドン、N-ビニル-2-ピペリドン、N-ビニル-2-カプロラクタム、N-ビニル-3-メチル-2-カプロラクタム、N-ビニル-3-メチル-2-ピペリドン、N-ビニル-4-メチル-2-ピペリドン、N-ビニル-4-メチル-2-カプロラクタム、N-ビニル-3-エチル-2-ピロリドン、N-ビニル-4,5-ジメチル-2-ピロリドン、ビニルイミダゾール、N,N-ジエチルアクリルアミド、アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、アクリロニトリル、N-イソプロピルアクリルアミド、2-エチルオキサゾリン、N-(2-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、3-(ジメチル(4-ビニルベンジル)アンモニオ)プロパン-1-スルホネート(DMVBAPS)、3-((3-アクリルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)プロパン-1-スルホネート(AMPDAPS)、3-((3-メタクリルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)プロパン-1-スルホネート(MAMPDAPS)、3-((3-(アクリロイルオキシ)プロピル)ジメチルアンモニオ)プロパン-1-スルホネート(APDAPS)、3-((3-メタクリロイルオキシ)プロピル)ジメチルアンモニオ)プロパン-1-スルホネート(MAPDAPS)、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルプロピオンアミド、N-ビニル-N-メチル-2-メチルプロピオンアミド、N-ビニル-2-メチルプロピオンアミド、N-ビニル-Ν,Ν’-ジメチル尿素、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートまたはメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0021】
中でも、N,N-ジメチルアクリルアミドモノマーと共重合し易いことから、N-ビニルピロリドン、N-ビニル-2-ピペリドン、N-ビニル-2-カプロラクタム、N-ビニル-3-メチル-2-カプロラクタム、N-ビニル-3-メチル-2-ピペリドン、N-ビニル-4-メチル-2-ピペリドン、N-ビニル-4-メチル-2-カプロラクタム、N-ビニル-3-エチル-2-ピロリドン、N-ビニル-4,5-ジメチル-2-ピロリドン、ビニルイミダゾール、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルプロピオンアミド、N-ビニル-N-メチル-2-メチルプロピオンアミド、N-ビニル-2-メチルプロピオンアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートまたはジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートが好ましく、N-ビニルピロリドン、N-ビニル-N-メチルアセトアミドまたはメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0022】
本発明のポリジメチルアクリルアミド粉体の空隙率は、各種の溶媒や医療デバイスの他の製造原料との相溶性を高めるため、1.0%以上であることが好ましく、4.0%以上であることがより好ましく、7.0%以上であることがさらに好ましい。また、製造のしやすさ、取り扱い性の良さの観点から空隙率は90.0%以下であることが好ましく、80.0%以下であることがより好ましく、70.0%であることがさらに好ましい。空隙率の測定方法は後述する。
【0023】
本発明のポリジメチルアクリルアミド粉体の含水率は、製造のしやすさの観点からは、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。また、含水率は、各種の溶媒や医療デバイスの他の製造原料との相溶性、または、得られる医療デバイスの透明度を高めるためには、10.0質量%以下であることが好ましく、8.0質量%以下であることがより好ましく、5.0質量%以下であることがさらに好ましい。含水率の測定方法は後述する。
【0024】
本発明のポリジメチルアクリルアミド粉体は、重合せずに残存した、N,N-ジメチルアクリルアミドモノマーおよび/または他のモノマーを未重合モノマーとして含んでいても構わない。そのような未重合モノマーの含有量、中でも、未重合のN,N-ジメチルアクリルアミドモノマーの含有率は、毒性や加水分解による不純物増加の懸念を抑制するため、0ppm以上230ppm以下が好ましく、0ppm以上100ppm以下がより好ましく、0ppm以上50ppm以下がさらに好ましく、0ppm以上20ppm以下が特に好ましい。ここで0ppmとは、未重合のN,N-ジメチルアクリルアミドモノマーの含有率が検出限界以下であることを表す。未重合モノマー含有率の測定方法は後述する。
【0025】
本発明のポリジメチルアクリルアミド溶液は、本発明のポリジメチルアクリルアミド粉体または後述のポリジメチルアクリルアミドシートを溶媒に溶解してなる溶液である。溶媒としては、後述のものを好ましく用いることができる。本発明のポリジメチルアクリルアミド粉体は溶媒に対する相溶性が高いので、溶け残り無く溶解することができる。
【0026】
本発明の溶液を成型することにより、医療デバイスを得ることができる。具体的には、ポリジメチルアクリルアミド溶液を、所望の形状を有する型に充填した後、硬化させることにより、医療デバイスを得ることができる。なおポリジメチルアクリルアミド溶液は、溶解せずに残存した一部のポリジメチルアクリルアミドを含んでいても構わないが、本発明のポリジメチルアクリルアミド粉体は溶媒への溶解性が高いため、溶け残りが無く、高い親水性、易滑性、生体適合性および透明度を有する医療デバイスを得ることができる。
【0027】
医療デバイスとしては、例えば、眼用レンズ、皮膚用被覆材、創傷被覆材、皮膚用保護材、皮膚用薬剤担体、輸液用チューブ、気体輸送用チューブ、排液用チューブ、血液回路、被覆用チューブ、カテーテル、ステント、シース、バイオセンサーチップ、人工心肺または内視鏡用被覆材が挙げられる。中でも、十分な親水性と易滑性との発現に加えて、透明度を顕著に高めることができることから、眼用レンズの製造原料とされることが好ましい。ここで眼用レンズとしては、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜、角膜インレイ、角膜オンレイまたはメガネレンズが挙げられる。
【0028】
溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、tert-ブタノールもしくはtert-アミルアルコール等のアルコール系溶媒;ベンゼン、トルエンもしくはキシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、石油エーテル、ケロシン、リグロインもしくはパラフィン等の脂肪族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトンもしくはメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、フタル酸ジオクチルもしくは二酢酸エチレングリコール等のエステル系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランもしくはジオキサン等のエーテル系溶媒;または、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールブロック共重合体もしくはポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールランダム共重合体等のグリコールエーテル系溶媒が挙げられる。得られる医療デバイスから水洗浄により容易に除去することが可能な、アルコール系溶媒またはグリコールエーテル系溶媒が好ましい。
【0029】
また溶媒として、ポリジメチルアクリルアミドが溶解可能なものであれば、重合可能な各種モノマーを用いても構わない。溶媒としてモノマーを含むポリジメチルアクリルアミド溶液中で当該モノマーを重合させた場合、ポリジメチルアクリルアミドは、当該モノマーから得られる単独重合体または共重合体の内部やその表面に存在することとなる。
【0030】
得られる単独重合体または共重合体の機械的性質を向上させるためのモノマーとしては、例えば、スチレン、tert-ブチルスチレンもしくはα-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、または、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘプチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートもしくはn-ステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
【0031】
得られる単独重合体または共重合体の親水性を向上させるためのモノマーとしては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、グリセロールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルアセトアミドまたはN-ビニル-N-メチルアセトアミドが挙げられる。
【0032】
得られる単独重合体または共重合体の寸法安定性を向上させるためのモノマーとしては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、ビニルメタクリレート、アクリルメタクリレートもしくはこれらのメタクリレート類に対応するアクリレート類、あるいは、ジビニルベンゼンまたはトリアリルイソシアヌレートが挙げられる。
【0033】
得られる単独重合体または共重合体の酸素透過性を向上させるためのモノマーとしては、例えば、公知のシリコーンモノマーが挙げられる。
【0034】
本発明のポリジメチルアクリルアミド粉体の製造方法は、ポリジメチルアクリルアミド溶液を保持体の表面に塗布して塗膜を得る、塗布工程と、上記塗膜を加熱乾燥して乾燥ポリジメチルアクリルアミドを得る、乾燥工程と、を備えることを特徴とする。
【0035】
塗布工程において保持体の表面に塗布するポリジメチルアクリルアミド溶液とは、ポリジメチルアクリルアミドが溶媒に溶解された溶液をいう。ポリジメチルアクリルアミド溶液としては、例えば、水性溶媒中でN,N-ジメチルアクリルアミドモノマーを重合した後の反応溶液、または、ポリジメチルアクリルアミド粉体を溶媒に溶解した溶液が挙げられる。ポリジメチルアクリルアミド溶液は、溶解せずに残存した一部のポリジメチルアクリルアミドを含んでいても構わないが、取り扱いが容易であるため、ポリジメチルアクリルアミドの全量が溶解した溶液であることが好ましい。ポリジメチルアクリルアミド溶液中のポリジメチルアクリルアミド濃度は、溶液の粘度を好適なものとし、ポリジメチルアクリルアミド粉体の製造効率を高めるため、3~40質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましく、10~20質量%がさらに好ましい。なおポリジメチルアクリルアミド溶液は、主溶媒以外の有機溶媒や、各種低分子化合物を含んでいても構わない。
【0036】
塗布工程における「保持体」とは、曲面の表面を有し、その表面にポリジメチルアクリルアミド溶液の塗膜を保持することが可能な、構造体または成形体をいう。
【0037】
保持体としては、塗膜が均質に得られ、かつ、連続的に処理をすることが可能な、円筒状の回転体が好ましい。加熱乾燥に好適に用いられる乾燥機としては、例えば、ドラムドライヤー、ベルトドライヤーまたは棚段式乾燥機が挙げられる。熱効率、迅速性および連続操作性に優れ、よりかさ密度が小さいポリジメチルアクリルアミド粉体が得られることから、ドラムドライヤーが好ましい。ここでドラムドライヤーとは、水蒸気等の熱媒体を用いてその内側から加熱が可能な回転ドラム、すなわち円筒状の回転体を備える乾燥機をいう。ドラムドライヤーは上記の保持体と乾燥機との役割を兼ねるものであり、その表面(加熱面)にポリジメチルアクリルアミド溶液を薄い膜状に塗布して塗膜を得て(塗布工程)、回転させながら加熱乾燥して剥離させ、乾燥ポリジメチルアクリルアミドを得る(乾燥工程)ことができる。ドラムドライヤーとしては、例えば、シングルドラムドライヤー、ダブルドラムドライヤーまたはツインドラムドライヤーが挙げられる。
【0038】
塗布工程においてポリジメチルアクリルアミド溶液を保持体の表面に塗布する方法としては、保持体の形状や性質等に応じて適切なものを選択すればよいが、保持体がドラムドライヤーである場合は、例えば、スプラッシュフィード方式、ディップフィード方式、下部ロール転写方式、上部ロールフィード方式、サイドロールフィード方式またはマルチロールフィード方式等が挙げられる。
【0039】
塗布工程で得られるポリジメチルアクリルアミド溶液の塗膜の平均厚さは、その後の乾燥工程で得られる乾燥ポリジメチルアクリルアミドの乾燥を十分なものとし、かつ、その剥離を容易にするため、0.01~5.00mmであることが好ましい。
【0040】
塗布工程における保持体がドラムドライヤーである場合において、乾燥工程後に得られる乾燥ポリジメチルアクリルアミドは、例えば、スクレーパーナイフを用いてドラムドライヤーから剥離をすることができる。剥離された乾燥ポリジメチルアクリルアミドは、粉体にしやすく、かつ、かさ密度が小さいポリジメチルアクリルアミド粉体が得られることから、シート状が好ましい。乾燥ポリジメチルアクリルアミドの含水率は10.0質量%以下が好ましく、8.0質量%以下がより好ましく、5.0質量%以下がさらに好ましい。
【0041】
乾燥工程における加熱乾燥の温度は、ポリジメチルアクリルアミド溶液の温度やその供給方法に応じて適宜設定することができるが、ポリジメチルアクリルアミド溶液の溶媒の沸点以上が好ましく、沸点より10℃以上高い温度がより好ましい。例えば、ポリジメチルアクリルアミド溶液の溶媒が水性溶媒である場合には、80~180℃が好ましく、100~170℃が好ましく、120~160℃がさらに好ましい。加熱のための熱媒体としては一般的なものが使用でき、例えば、有機熱媒油、温水、水蒸気、シリコーンオイルまたは電気ヒーターが挙げられる。安全性が高く製造コストの低い、水蒸気が好ましい。
【0042】
また乾燥雰囲気は大気中で構わないが、ポリジメチルアクリルアミドは高吸湿性であるため、相対湿度が0~60%であることが好ましい。
【0043】
塗布工程におけるポリジメチルアクリルアミド溶液の塗布から、乾燥工程における乾燥ポリジメチルアクリルアミドの剥離までの時間については、ポリジメチルアクリルアミド溶液の濃度、その溶液の供給方法、または、加熱乾燥に用いる乾燥機等に応じて適宜設定できるが、一般的には0.1~180分が好ましい。
【0044】
乾燥工程により得られた乾燥ポリジメチルアクリルアミドを、保持体から剥離することによって、シート状のポリジメチルアクリルアミドシートを得る。保持体からのポリジメチルアクリルアミドシートの剥離方法は、限定されないが、例えば、スクレーパーナイフ等を用いて行うことができる。
【0045】
ポリジメチルアクリルアミドシートを構成するポリジメチルアクリルアミドにおける、N,N-ジメチルアクリルアミドモノマー由来の構造単位の含有率、重量平均分子量、空隙率および含水率の好ましい範囲は、上記のポリジメチルアクリルアミド粉体の場合と同じである。
【0046】
ポリジメチルアクリルアミドシートを粉砕機を用いて粉砕する粉砕工程を経て、ポリジメチルアクリルアミド粉体を得ることができる。本発明の方法で得られたポリジメチルアクリルアミドシートは一度の粉砕工程で適度なかさ密度を有するポリジメチルアクリルアミド粉体を得ることができるので、得られたポリジメチルアクリルアミド粉体は、そのまま用いても構わないが、さらに粉砕機を用いて、適宜かさ密度を調整しても構わない。ここで粉砕機としては、例えば、パドルタイプ粉砕機、回転刃タイプ粉砕機、ハンマーミル、ピンミル、ボールミル、うす式ミルまたは振動ミルが挙げられる。
【0047】
本発明のポリジメチルアクリルアミド粉体の製造方法は、さらに水性溶媒中でN,N-ジメチルアクリルアミドを重合してポリジメチルアクリルアミド溶液を得る、重合工程を備えることが好ましい。重合工程を備えることにより、該重合工程により得られた反応溶液をポリジメチルアクリルアミド溶液として前記塗布工程に供することにより、重合および/または精製後のポリジメチルアクリルアミドを溶媒に再溶解する作業が省略化され、製造プロセス全体の効率化を図ることが可能となる。
【0048】
重合工程における水性溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、tert-ブタノール、tert-アミルアルコール、3,7-ジメチル-3-オクタノールまたはテトラヒドロリナロール等のアルコール系溶剤を挙げることができる。重合を阻害しにくく、安全性が高いことから、水性溶媒としては、水、tert-ブタノール、tert-アミルアルコールまたは3,7-ジメチル-3-オクタノールがより好ましく、水がさらに好ましい。
【0049】
重合工程におけるN,N-ジメチルアクリルアミドの重合には、モノマーとの反応により重合の開始を促進させるため、過酸化物またはアゾ化合物に代表される、熱重合開始剤または光重合開始剤を添加することが好ましい。熱重合開始剤については、所望の反応溶媒に溶解し、所望の反応温度において最適な分解特性を有するものを選択すればよいが、一般的には、10時間半減期温度が40~120℃のアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤が好ましい。光開始剤としては、例えば、カルボニル化合物、過酸化物、アゾ化合物、硫黄化合物、ハロゲン化合物または金属塩が挙げられる。これらの重合開始剤は、混合して用いても構わない。
【0050】
重合工程により得られるポリジメチルアクリルアミドのN,N-ジメチルアクリルアミドモノマー由来の構造単位の含有率は、粉体化後、各種の溶媒や他の製造原料へ溶解させた際に適度な粘性を発現させて、得られる医療デバイスの親水性および易滑性を高めるため、50~100モル%が好ましく、75~100モル%がより好ましく、90~100モル%がさらに好ましく、100モル%(N,N-ジメチルアクリルアミドモノマーの単独重合体)が特に好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。まず、分析方法および評価方法を以下に示す。
【0052】
<重量平均分子量>
ポリジメチルアクリルアミド粉体の重量平均分子量は、以下に示す条件で測定した。
装置:Prominence GPCシステム(株式会社島津製作所製)
ポンプ:LC-20AD
オートサンプラ:SIL-20AHT
カラムオーブン:CTO-20A
検出器:RID-10A
カラム:GMPWXL(東ソー株式会社製;内径7.8mm×30cm、粒子径13μm)
溶媒:水/メタノール=1/1(0.1N硝酸リチウム添加)
流速:0.5mL/分
測定時間:30分
サンプル濃度:0.1~0.3質量%
サンプル注入量:100μL
標準サンプル:ポリエチレンオキシド標準サンプル(Agilent社製;0.1~1258kD)
<かさ密度>
250mLメスフラスコにポリジメチルアクリルアミド粉体を10.0g、一切のタッピングを伴わずに充填した場合の体積を読み取り、その質量(g)を、読み取った体積(mL)で除した値を算出した。N=3の値の平均値を、ポリジメチルアクリルアミド粉体のかさ密度(g/mL)とした。
【0053】
<未重合モノマー含有率>
ポリジメチルアクリルアミド粉体中の未重合モノマーの含有量は、蒸留水10mLにポリジメチルアクリルアミド粉体0.1gを溶解したものをサンプルとし、以下に示す条件で測定した。
装置:Prominence 高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)
ポンプ:LC-20AD
UV検出機:SPD-20AV(217nm)
カラム:EclipseXDB-C18USP L(Agilent社製)
移動相:水/アセトニトリル
カラム温度:40℃
測定時間:20分
サンプル注入量:10μL
流速:1.5mL/分
検量線用標準サンプル:モノマー水溶液(2~100ppm)。
【0054】
<含水率>
ポリジメチルアクリルアミド粉体をアルミ皿に入れ、その質量(Ww)を測定した。その後、真空乾燥器を用いて粉体を105℃で2時間真空乾燥した後、粉体の質量(Wd)を測定した。これらの質量から、下式(1)により、ポリジメチルアクリルアミド粉体のポリマー粉体の含水率を算出した。N=3の値の平均値を含水率とした。
ポリジメチルアクリルアミド粉体の含水率(質量%)=100×(Ww-Wd)/Ww・・・式(1)
<空隙率>
ポリジメチルアクリルアミド粉体をホルダーに保持して、以下に示す条件でX線CTにより非破壊三次元観察を行った。
装置:高分解能3DX線顕微鏡 nano3DX(株式会社リガク製)
X線源:Cu
管電圧-管電流:40kV-30mA
検出器:S-CMOSカメラ(レンズ:1080,270)
解像度:2.534μm/pix
解析ソフト:Avizo(ThermoFisherScientific製)
観察範囲約2.5mm角、解像度2.5μm/pixの条件で取得した観察データからポリジメチルアミド粒子を抽出して、ポリジメチルアミド部分のセグメンテーションを実施した。その後、解析ソフトのCompute ambient occlusion機能を活用して、ポリジメチルアミド粒子の外周の形態に沿って輪郭を抽出し、ポリジメチルアミド粒子のボイド(空隙)部分のセグメンテーションを実施した。セグメンテーション後の三次元像から、ポリジメチルアミド部分の体積とボイド部分の体積とをそれぞれ算出して、両者の体積の合計を100%とした場合のボイド部分の体積の割合を、ポリジメチルアクリルアミド粉体の空隙率とした。
【0055】
<液滴接触角>
接触角測定装置Drop master DM500(協和界面科学株式会社製)(液滴法)FAMASアドインソフトウェア(協和界面科学株式会社製)を用いて、医療デバイスの表面の液滴接触角を測定した。具体的には、半球状の医療デバイスの表面の水分を軽く拭き取った後、直径14mmの半球状のポリプロピレンに乗せたものを測定サンプルとした。滴下するリン酸緩衝液の液滴量は20μLとした。N=3の値の平均値を液滴接触角とした。
【0056】
<摩擦係数>
以下の条件で、リン酸緩衝液で濡れた状態の半球状の医療デバイスの表面の摩擦係数をN=5で測定し、N=5の値の平均値を摩擦係数とした。
装置:摩擦感テスターKES-SE(カトーテック株式会社製)
摩擦SENS:H
測定SPEED:2×1mm/秒
摩擦荷重:44g
<全光線透過率>
シート状の医療デバイスを測定サンプルとして、SMカラーコンピューター(型式SM-7-CH;スガ試験機株式会社製)を用いて全光線透過率を測定した。シート状の医療デバイスの表面の水分を軽く拭き取った後、ABCデジマチックインジケータ(型式ID-C112;株式会社ミツトヨ製)を用いて厚みを測定し、厚みが0.50~0.60mmであるものを、測定サンプルとして用いた。透明性の合格基準を全光線透過率80%以上とした。
【0057】
<リン酸緩衝液>
下記実施例および比較例並びに上記の各測定において使用したリン酸緩衝液の組成は、以下のとおりである。
KCl 0.20g/L
KH2PO4 0.20g/L
NaCl 8.00g/L
Na2HPO4(anhydrous) 1.15g/L
EDTA(エチレンジアミン四酢酸) 0.25g/L
(合成例1)<N,N-ジメチルアクリルアミドモノマーの単独重合体水溶液>
撹拌機、温度計、冷却管および三方コックを備えた500mL四つ口フラスコに、蒸留水292.07gおよびN,N-ジメチルアクリルアミド34.67g(KJケミカルズ株式会社製;0.35mol)を入れ、超音波脱気、窒素置換を5回行った。系内の窒素置換完了後、撹拌しながら、104℃に設定したオイルバスへフラスコ下部を浸した。フラスコ内温が85℃を超えた時点から、蒸留水20.00gに溶解させた23.7mgの重合開始剤V-50(富士フィルム和光純薬株式会社製;0.0875mmol)を5分間隔で6回に分割して添加した。重合開始剤の全量添加後にフラスコ内温90℃~95℃で2時間保温し、N,N-ジメチルアクリルアミドモノマーの単独重合体水溶液を得た(重合工程)。
【0058】
[実施例1]
上記合成例1で得られたN,N-ジメチルアクリルアミドモノマーの単独重合体水溶液5kgを、大気中でシングルドラムドライヤー(カツラギ株式会社製;回転ドラム寸法φ800mm×500mm、回転ドラム表面積1.25m2、S-0805型)の回転ドラムの表面に塗布して乾燥した後(塗布工程および乾燥工程)スクレーパーナイフを用いて剥離させ、シート状のポリジメチルアクリルアミドを得た。回転ドラムの表面温度は、153℃であった。得られたシート状のポリジメチルアクリルアミドは、小型粉砕機(株式会社三商製;フォースミルFM-1)を用いて粉砕し、ポリジメチルアクリルアミド粉体を得た。得られたポリジメチルアクリルアミド粉体の重量平均分子量、かさ密度、未重合モノマー含有率、含水率および空隙率は表1に示す通りであった。
【0059】
[実施例2~5]
N,N-ジメチルアクリルアミドモノマーの単独重合体水溶液(大阪有機化学工業株式会社製;10質量%水溶液)5kgを、実施例1と同様の方法で乾燥および粉砕し、ポリジメチルアクリルアミド粉体を得た。得られたポリジメチルアクリルアミド粉体の重量平均分子量、かさ密度、未重合モノマー含有率、含水率および空隙率は表1に示す通りであった。
【0060】
[比較例1]
上記合成例1で得られたN,N-ジメチルアクリルアミドモノマーの単独重合体水溶液をアルミ皿に200g採取し、薄い膜状に塗布して塗膜を得て(塗布工程)、真空乾燥器にて60℃で8時間乾燥した(乾燥工程)。得られたシート状のポリジメチルアクリルアミドは、小型粉砕機(株式会社三商製;フォースミルFM-1)を用いて粉砕し、ポリジメチルアクリルアミド粉体を得た。得られたポリジメチルアクリルアミド粉体の重量平均分子量、かさ密度、未重合モノマー含有率、含水率および空隙率は表1に示す通りであった。
【0061】
[比較例2~5]
N,N-ジメチルアクリルアミドモノマーの単独重合体水溶液(大阪有機化学工業株式会社製;10質量%水溶液)200gを、比較例1と同様の方法で乾燥してさらに粉砕し、ポリジメチルアクリルアミド粉体を得た。得られたポリジメチルアクリルアミド粉体の重量平均分子量、かさ密度、未重合モノマー含有率、含水率および空隙率は表1に示す通りであった。
【0062】
【0063】
<シリコーンモノマーを含有する重合原液の調製>
<重合原液1の調製>
実施例1で得られたポリジメチルアクリルアミド粉体1.0質量部、下記式(a)で表されるシリコーンモノマー38.0質量部、2-エチルへキシルアクリレート(東京化成工業株式会社製)9.0質量部、ジメチルアミノエチルアクリレート(株式会社興人製)0.1質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(東京化成工業株式会社製)49.9質量部、トリエチレングリコールジメタクリレート(東京化成工業株式会社製)2.0質量部と、これらのモノマーの総質量に対して5,000ppmの光開始剤“イルガキュア”(登録商標)819(長瀬産業株式会社製)を準備した。40.0質量部のt-アミルアルコールに前記の原料のうち、ポリジメチルアクリルアミド粉体を全て添加した後、60℃のインキュベータ中200rpmで2.5時間撹拌した。その後、他の原料を全て添加してから、60℃のインキュベータ中200rpmで2.0時間撹拌した後、目視でポリジメチルアクリルアミド粉体の溶け残りが無いことを確認した。その後、得られた混合物をポアサイズ0.45μm、直径13mmのPPシリンジフィルター(Membrane Solutions製)を用いてろ過し、重合原液1を得た。
【0064】
【0065】
<重合原液2、3、6、7、9、10および11の調製>
実施例1で得られたポリジメチルアクリルアミド粉体を、実施例2、3または比較例1、2、4、5で得られたものにそれぞれ置き換えた以外は、上記の重合原液1の調製と同様の操作を行い、重合原液2、3、6、7、9および10をそれぞれ得た。それぞれの調製過程におけるポリジメチルアクリルアミドの溶け残りについての目視での確認結果は、表2に示す通りであった。
【0066】
またポリジメチルアクリルアミド粉体を添加せず(0.0質量部)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート50.9質量部とした以外は、上記の重合原液1の調製と同様の操作を行い、重合原液11を得た。
【0067】
<シリコーンモノマーを含有しない重合原液の調製>
<重合原液4の調製>
2-ヒドロキシエチルメタクリレート(東京化成工業株式会社製)99.0質量部および実施例4で得られたポリジメチルアクリルアミド粉体1.0質量部と、これらの総質量に対して2,500ppmの光開始剤“イルガキュア”819を準備し、これら全てを混合して60℃のインキュベータ中200rpmで1.0時間撹拌した。その後、目視でポリジメチルアクリルアミド粉体の溶け残りが無いことを確認した。得られた混合物をポアサイズ0.45μm、直径13mmのPPシリンジフィルター(Membrane Solutions製)を用いてろ過し、重合原液4とした。
【0068】
<重合原液5、8および12の調製>
実施例4で得られたポリジメチルアクリルアミド粉体を、実施例5または比較例3で得られたものにそれぞれ置き換えた以外は、上記の重合原液4の調製と同様の操作を行い、重合原液5および8を得た。それぞれの調製過程におけるポリジメチルアクリルアミド粉体の溶け残りについての目視での確認結果は、表2に示す通りであった。
【0069】
またポリジメチルアクリルアミド粉体を添加せず(0.0質量部)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(東京化成工業株式会社製)100質量部とした以外は、上記の重合原液4の調製と同様の操作を行い、重合原液12を得た。
【0070】
<シート状の医療デバイスの成型>
4cm角、厚さ3.0mmのガラス板2枚の間に、中央部を2.5cm角のサイズでくり抜いた厚さ0.5mmのシリコーンシートをスペーサーとして挟み込んだものを準備した。窒素雰囲気下のグローブボックス中で、シリコーンシートの中央部に重合原液1を充填し、蛍光ランプ(東芝ライテック株式会社製;FL6D、8.4キロルクス)で20分間光照射して硬化させた。
【0071】
重合原液1はシリコーンモノマーを含有するため、硬化物を60質量%イソプロパノール(IPA)水溶液に60℃で30分間浸漬して、ガラス板から剥離した後、さらに80質量%IPA水溶液に60℃で2時間浸漬して、残存モノマーなどの不純物を抽出した。その後、硬化物をさらに50質量%IPA水溶液、25質量%IPA水溶液、水の順に30分ずつ浸漬して水和した。水和後の硬化物を4mLバイヤル瓶中のリン酸緩衝液に浸漬してバイヤル瓶ごとオートクレーブに入れ、121℃で30分間煮沸処理を行ってシート状の医療デバイス1を得た。
【0072】
重合原液1を重合原液2~12にそれぞれに置き換えた以外は、上記と同様の操作を行い、シート状の医療デバイス2~12を得た。なお重合原液がシリコーンモノマーを含有しない場合には、光照射後の硬化物を、IPA水溶液の代わりに90℃の純水中に1時間浸漬してガラス板から剥離し、さらに90℃の純水中に2時間浸漬させたものを煮沸処理した。
【0073】
<半球状の医療デバイスの成型>
直径14mmの半球状のモールドの窪みに重合原液1~12をそれぞれ充填した以外は、シート状の医療デバイスの成型と同様の操作を行い、半球状の医療デバイス1~12を得た。
【0074】
<医療デバイスの評価>
シート状の医療デバイス1~12について全光線透過率を、半球状の医療デバイス1~12について液滴接触角および摩擦係数を、それぞれ評価した。評価結果は、表2の通りであった。実施例1~5で得られたポリジメチルアクリルアミド粉体をそれぞれ用いた場合、透明度の指標である全光線透過率は何れも十分に高く、良好な値であった。さらに、親水性の指標である液滴接触角、および、易滑性の指標である摩擦係数の何れもが低く、顕著な親水性および易滑性を発現できていることが確認できた。
【0075】