(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】フェライト焼結体およびコイル部品
(51)【国際特許分類】
H01F 1/34 20060101AFI20240409BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20240409BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240409BHJP
C04B 35/30 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
H01F1/34 140
H01F17/04 F
H01F27/255
C04B35/30
(21)【出願番号】P 2023060649
(22)【出願日】2023-04-04
(62)【分割の表示】P 2020163626の分割
【原出願日】2020-09-29
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】塚田 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 裕子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇規
(72)【発明者】
【氏名】島村 篤
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-151564(JP,A)
【文献】特開2011-93776(JP,A)
【文献】特開2002-104873(JP,A)
【文献】特開2013-10685(JP,A)
【文献】特開2016-113329(JP,A)
【文献】特開2003-286071(JP,A)
【文献】国際公開第2014/3061(WO,A1)
【文献】特開2007-48902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/26-35/40
H01F 1/12- 1/38
H01F 1/44- 3/14
H01F 17/00-21/12
H01F 27/00
H01F 27/02
H01F 27/06
H01F 27/08
H01F 27/23-27/26
H01F 27/28-27/29
H01F 27/30
H01F 27/32
H01F 27/36
H01F 27/42
H01F 30/00-38/12
H01F 38/16
H01F 38/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、Mn、Zn、CuおよびNiを含有するフェライト焼結体であって、
Fe、Mn、Zn、CuおよびNiをそれぞれFe
2O
3、Mn
2O
3、ZnO、CuOおよびNiOに換算し、
Fe
2O
3、Mn
2O
3、ZnO、CuOおよびNiOの合計含有量を100mol%としたときの含有量が、
Fe
2O
3+Mn
2O
3:48.47mol%以上、49.93mol%以下、
Mn
2O
3:0.07mol%以上、0.37mol%以下、
ZnO:28.95mol%以上、33.50mol%以下、
CuO:2.98mol%以上、6.05mol%以下、であり、
さらに
、Zr
およびAl
を含有し、
前記フェライト焼結体の断面においては、ポアの面積率が2.0%以下であり、かつ、Cuを含む偏析の面積率が2.0%以下であ
り、
1000以上の比透磁率μ、100℃以上のキュリー点、および、170MPa以上の3点曲げ強度を有する、フェライト焼結体。
【請求項2】
さらに、P、CrおよびSを含有する、請求項1に記載のフェライト焼結体。
【請求項3】
前記フェライト焼結体の断面において、ポアの面積率が1.0%以下である、請求項
2に記載のフェライト焼結体。
【請求項4】
前記フェライト焼結体の断面においては、円相当径で5μm以上のポアがなく、かつ、円相当径で2μm以下のポアが全ポア中に占める個数割合が90%以上である、請求項3に記載のフェライト焼結体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のフェライト焼結体を磁性体コアとして備える、コイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト焼結体およびコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル部品に用いられるフェライト焼結体の材料として、特許文献1には、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化ニッケルおよび酸化銅で構成してある主成分を含むフェライトであって、上記主成分100mol%中の各酸化物の含有量が、酸化鉄:Fe2O3に換算して49.15~49.65mol%、酸化亜鉛:ZnOに換算して32.35~32.85mol%、酸化ニッケル:NiOに換算して11.90~12.30mol%、酸化銅:CuOに換算して5.25~6.55mol%、であるフェライトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、主成分の組成を上記の範囲とすることで、キュリー点が100℃以上であり、かつ、透磁率が2300以上(好ましくは2500以上)であるフェライトが得られるとされている。
【0005】
しかしながら、高い透磁率および高いキュリー点に加えて、高い強度を同時に満足する材料は得られていないのが現状である。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、高い透磁率、高いキュリー点および高い強度を有するフェライト焼結体を提供することを目的とする。本発明はさらに、上記フェライト焼結体を磁性体コアとして備えるコイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のフェライト焼結体は、Fe、Mn、Zn、CuおよびNiを含有するフェライト焼結体であって、Fe、Mn、Zn、CuおよびNiをそれぞれFe2O3、Mn2O3、ZnO、CuOおよびNiOに換算し、Fe2O3、Mn2O3、ZnO、CuOおよびNiOの合計含有量を100mol%としたときの含有量が、Fe2O3+Mn2O3:48.47mol%以上、49.93mol%以下、Mn2O3:0.07mol%以上、0.37mol%以下、ZnO:28.95mol%以上、33.50mol%以下、CuO:2.98mol%以上、6.05mol%以下、であり、さらに、Fe2O3、Mn2O3、ZnO、CuOおよびNiOの合計含有量100重量部に対して、ZrをZrO2に換算して102ppm以上、4010ppm以下、AlをAl2O3に換算して10ppm以上、220ppm以下、含有し、上記フェライト焼結体の断面においては、ポアの面積率が2.0%以下であり、かつ、Cuを含む偏析の面積率が2.0%以下である。
【0008】
本発明のコイル部品は、本発明のフェライト焼結体を磁性体コアとして備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い透磁率、高いキュリー点および高い強度を有するフェライト焼結体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、試料36の断面のSEM画像である。
【
図3】
図3は、試料41のCu元素のマッピング像である。
【
図4】
図4は、試料39のCu元素のマッピング像である。
【
図5】
図5は、本発明のコイル部品の一例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のフェライト焼結体およびコイル部品について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0012】
[フェライト焼結体]
本発明のフェライト焼結体は、Fe、Mn、Zn、CuおよびNiを含有する。
【0013】
本発明のフェライト焼結体においては、Fe、Mn、Zn、CuおよびNiをそれぞれFe2O3、Mn2O3、ZnO、CuOおよびNiOに換算し、Fe2O3、Mn2O3、ZnO、CuOおよびNiOの合計含有量を100mol%としたときの含有量が、
Fe2O3+Mn2O3:48.47mol%以上、49.93mol%以下、
Mn2O3:0.07mol%以上、0.37mol%以下、
ZnO:28.95mol%以上、33.50mol%以下、
CuO:2.98mol%以上、6.05mol%以下、である。
【0014】
本明細書において、「Fe2O3+Mn2O3」の記載は、Fe2O3およびMn2O3の合計含有量を意味する。
【0015】
Fe、Mn、Zn、CuおよびNiの含有量は、焼結体の蛍光X線(XRF)分析により測定することができる。
【0016】
本発明のフェライト焼結体は、さらに、Fe2O3、Mn2O3、ZnO、CuOおよびNiOの合計含有量100重量部に対して、
ZrをZrO2に換算して102ppm以上、4010ppm以下、
AlをAl2O3に換算して10ppm以上、220ppm以下、含有する。
【0017】
ZrおよびAlの含有量は、焼結体の誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により測定することができる。
【0018】
本発明のフェライト焼結体では、フェライトの組成を上記の範囲とすることで、焼結を促進する適度な液相が生成するため、焼結過程の調整が容易となり、適度にグレイン成長が促進される。その結果、効果的に透磁率μを高くすることができる。
【0019】
本発明のフェライト焼結体の断面においては、ポアの面積率(以下、「ポア率」と略記する)が2.0%以下であり、かつ、Cuを含む偏析の面積率(以下、「Cu偏析率」と略記する)が2.0%以下である。
【0020】
本発明のフェライト焼結体では、フェライトの組成を上記の範囲とすることに加えて、ポア率およびCu偏析率を上記の範囲とすることで、磁壁移動の阻害要因である、ポアおよびCu偏析物を減らすことが可能になるとともに、磁束の通過を阻害する粒界層を形成するCu層を極力薄くすることができる。その結果、相乗的に透磁率μを高くすることが可能になる。
【0021】
また、焼成時、降温過程で熱収縮率の差があるCu偏析物が少なくなるため、焼結体に微細なクラックが入りにくくなる。そのため、破壊起点となるようなポアを少なくできるとともに、結合強度が弱く、破壊起点やクラック進展の原因となりやすい粒界層を極力薄くできることから、高強度な焼結体を得ることができる。
【0022】
ポア率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影したフェライト焼結体の断面の画像を二値化処理して解析し、ポアと認識した部分の面積割合から算出することができる。
【0023】
Cu偏析率は、ポア率を求めるときと同じ断面について、走査型電子顕微鏡/波長分散型X線(SEM/WDX)分析により各元素の分布を確認し、10atom%以上Cuが存在する部分の面積割合から算出することができる。
【0024】
以上のように、フェライトの組成を上記の範囲とすることに加えて、ポア率およびCu偏析率を上記の範囲とすることで、高い透磁率、高いキュリー点および高い強度を有するフェライト焼結体が得られる。
【0025】
本発明のフェライト焼結体は、さらに、P、CrおよびSを含有してもよい。
【0026】
本発明のフェライト焼結体は、さらに、Fe2O3、Mn2O3、ZnO、CuOおよびNiOの合計含有量100重量部に対して、PをP2O5に換算して5ppm以上、50ppm以下、CrをCr2O3に換算して10ppm以上、305ppm以下、Sを5ppm以上、108ppm以下、含有し、フェライト焼結体の断面において、ポア率が1.0%以下であることが好ましい。
【0027】
P、CrおよびSが上記の範囲で含有されていると、低温域で液相が生成するため、低温域でグレイン成長が促進される。そのため、透磁率μをさらに高くすることができる。このように、透磁率μを高くするためには、グレイン成長を促進することが効果的である。しかし、グレイン成長を促進するために液相の生成量が多くなり過ぎると、グレイン成長が急激に起き、異常粒成長となり好ましくない。この場合、粒成長が進んだ部分と、進んでいない部分とで輝度差が大きくなり、外観検査時に傷との判別がしにくくなる等の不具合が生じる。P、CrおよびSが上記の範囲で含有されていると、異常粒成長が抑えられるため、外観検査時に外観不良を認識しやすくなる。
【0028】
さらに、グレインサイズを適度に抑えることに加えて、ポア率を1.0%以下にすることにより、機械的な負荷が焼結体全体に分散することで、強度を高めることができる。
【0029】
PおよびCrの含有量は、焼結体のICP発光分析により測定することができる。また、Sの含有量は、JIS G 1215-4:2010に準じた燃焼-赤外線吸収法を用いた焼結体の分析により測定することができる。
【0030】
本発明のフェライト焼結体の断面においては、円相当径で5μm以上のポアがなく、かつ、円相当径で2μm以下のポアが全ポア中に占める個数割合が90%以上であることが好ましい。
【0031】
同じポア率であっても、径の小さいポアは強度低下への寄与が小さい。よって、円相当径で5μm以上のポアがなく、かつ、円相当径で2μm以下のポアが全ポア中に占める個数割合が90%以上であると、フェライト焼結体の強度がより高くなる。
【0032】
各ポアの円相当径は、SEMを用いてフェライト焼結体の断面の画像を撮影し、画像処理により測定することができる。
【0033】
本発明のフェライト焼結体は、好ましくは、以下のように製造される。以下、Fe、Mn、Zn、Cu、Ni、Zr、Al、P、CrおよびSを含有するフェライト焼結体の製造方法の一例について説明する。
【0034】
まず、焼成後に所定の割合となるように各成分の原料を秤量し、それらをすべてボールミルまたはビーズミルを用いて湿式混合し、水などの分散媒を飛ばした後、例えば650℃以上900℃以下の温度で仮焼して仮焼粉を得る。
【0035】
PおよびS以外の成分の原料としては酸化物が用いられる。Fe2O3、Mn2O3、ZnO、CuOおよびNiOの合計含有量100重量部に対して、ZrO2、Al2O3、P2O5、Cr2O3およびSの各成分を秤量、混合する。100ppm=0.01重量部である。ZrO2、Al2O3およびCr2O3については酸化物の粉末、P2O5についてはリン酸水溶液などの希釈水溶液、Sについてはスルホン酸系分散剤などの分散剤を添加することにより、添加量を調整する。
【0036】
上記仮焼粉を所定の比表面積(例えば2m2/g以上7m2/g以下)となるようにボールミルまたはビーズミルを用いて粉砕を行った後、ポリビニルアルコール(PVA)、アクリル系、ブチラール系などのバインダー(好ましい使用量は1重量%以上10重量%以下)およびジグリセリン、フタル酸系、グリセリン多量体などの可塑剤を添加し、スプレー造粒などにより造粒粉を作製する。スプレー造粒に代えて、蒸発乾燥させたスラリーをメッシュに通すことにより造粒粉を作製してもよい。造粒粉の平均粒径D50は、例えば20μm以上100μm以下とする。
【0037】
得られた造粒粉を所定のコア形状になるようにプレス成型する。成型時の圧力は例えば200MPa以上1000MPa以下である。成型時の圧力が高いほど、焼成後の粗大なポアの発生を抑制することができる。
【0038】
得られた成形体を脱脂した後、焼成することにより、焼結体を得る。
【0039】
低温で長時間焼成するほど微小なポアの発生を抑制することができるため、保持時間または焼成温度を変更することにより、円相当径で2μm以下のポア量を調整することができる。焼成温度が低すぎると、焼成温度範囲の保持時間が長くなってしまう(例えば、900℃で15時間など)。一方、焼成温度が高くなりすぎると、焼成時間は短くできるものの、ZnOおよびCuOの揮発が進行し、焼結体の組成(主にFe2O3、Mn2O3、ZnO、CuO、NiOの比率)にずれが生じるため、特性管理が難しくなる。そこで、実用的な温度範囲を910℃以上1150℃以下(トップ温度)、トップ温度での保持時間を1時間以上10時間以下と定めて、焼成を実施する。
【0040】
なお、Cuの添加量または焼成時の酸素濃度を焼成することで、CuO偏析量を調整し、Cu偏析率を調整することができる。具体的には、Cuの添加量が多くなると偏析量は多くなり、焼成時の酸素濃度が高くなると偏析量は少なくなる。
【0041】
以上により、本発明のフェライト焼結体が得られる。
【0042】
以下、本発明のフェライト焼結体をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0043】
(焼結体の作製)
(1)焼成後に表1に示す割合となるように各成分の原料を秤量し、それらをすべてボールミルを用いて水中で湿式混合し、水を飛ばした後、仮焼して仮焼粉を得た。本実施例では、空気中、800℃、2時間の仮焼を実施した。
【0044】
PおよびS以外の成分の原料としては酸化物を用いた。Fe2O3、Mn2O3、ZnO、CuOおよびNiOの合計含有量100重量部に対して、ZrO2、Al2O3、P2O5、Cr2O3およびSの各成分を秤量、混合した。ZrO2、Al2O3およびCr2O3については酸化物の粉末、P2O5についてはリン酸水溶液、Sについてはアルキルスルホン酸系分散剤を添加することにより、添加量を調整した。
【0045】
(2)上記仮焼粉を、比表面積が2m2/g以上3m2/g以下となるようにボールミルを用いて粉砕を行った後、バインダーとしてPVA(使用量は3重量%)および可塑剤としてジグリセリンを添加し、スプレー造粒により造粒粉を作製した。造粒粉の平均粒径D50は20μm以上100μm以下とした。
【0046】
(3)得られた造粒粉を所定のコア形状になるようにプレス成型した。成型時の圧力は200MPa以上1000MPa以下とした。本実施例では、コア形状として、焼成前サイズで内径12mmφ、外径20mmφ、厚み2mmのトロイダル形状および36mm×4mm×厚み3mmの板状を採用した。また、一部の試料では、円相当径で5μm以上の粗大なポアが焼成後に残るように、中空の造粒粉、もしくは、へそのような大きなくぼみを持つ造粒粉を添加したものをプレス成型した。
【0047】
(4)得られた成形体を脱脂した後、焼成することにより、焼結体を得た。脱脂条件は、450℃、5時間、空気中とした。焼成条件は、試料79以外は空気中、試料79は酸素濃度0.5体積%中とした。上記のとおり、実用的な温度範囲を910℃以上1150℃以下(トップ温度)、トップ温度での保持時間を1時間以上10時間以下と定めて、任意の温度で焼成を実施した。
【0048】
(比透磁率およびキュリー点)
焼成後に得られたトロイダル形状の焼結体に対して、Cu線を用いて20Tの巻き線を施した。インピーダンスアナライザー(型式4294A、KEYSIGHT TECHNOLOGIES製)を用いて、25℃、100kHzの比透磁率μ、および、100kHzの比透磁率の温度特性を測定する。また、JIS C 2560-2に従い、キュリー点を算出した。
【0049】
(3点曲げ強度)
焼成後に得られた板状の焼結体に対して、JIS R 1601:2008に従い、3点曲げ強度を測定した。
【0050】
(各成分の含有量)
各試料に対して、焼結体の中心近傍断面を研磨し、研磨断面の任意の2箇所でXRF分析により測定を行い、その平均値からFe、Mn、Zn、CuおよびNiの含有量を求めた。Zr、Al、PおよびCrの含有量は、焼結体のICP分析により測定した。Sの含有量は、JIS G 1215-4:2010に準じた燃焼-赤外線吸収法を用いた焼結体の分析により測定した。各成分の含有量を表1に示す。S以外の含有量については、酸化物に換算した値を表1に示している。
【0051】
(ポア率)
各試料に対して、焼結体の中心近傍断面を研磨し、SEMを用いて倍率3000倍で撮影した画像を二値化処理して解析し、ポアと認識した部分の面積割合を求めた。これを任意の5視野を撮影し、平均値からポア率を算出した。各試料のポア率を表1に示す。
【0052】
図1は、試料36の断面のSEM画像である。試料36のポア率は4.0%である。
【0053】
図2は、試料6の断面のSEM画像である。試料6のポア率は0.1%である。
【0054】
(Cu偏析率)
ポア率を求めるときと同じ研磨面について、SEM/WDX分析により、20μm×20μmの視野を加速電圧20kVで各元素の分布を確認し、10atom%以上Cuが存在している部分の面積割合を求めた。これを任意の5視野を撮影し、平均値からCu偏析率を算出した。各試料のCu偏析率を表1に示す。
【0055】
図3は、試料41のCu元素のマッピング像である。試料41のCu偏析率は4.5%である。
【0056】
図4は、試料39のCu元素のマッピング像である。試料39のCu偏析率は1.0%である。
【0057】
(ポアの円相当径の分布)
各試料に対して、焼結体の中心近傍断面を研磨し、SEMを用いて倍率1000倍で撮影した画像を取得し、100×100μmのエリアを画像処理により、各ポアの円相当径の分布を測定した。これを任意の5視野を測定することにより、円相当径で5μm以上のポアの有無を判別するとともに、円相当径で2μm以下のポアが全ポア中に占める個数割合を算出した。結果を表1に示す。
【0058】
(異常粒成長)
各試料について、以下の方法により異常粒成長の抑制を判別した。焼結体の外観を5視野確認し、最も大きいグレインの直径が30μm以上90μm以下の場合は○(良)、30μm未満の場合は◎(優)とした。結果を表1に示す。
【0059】
【0060】
表1において、*印を付した試料は、本発明の範囲外となる比較例である。
【0061】
表1より、Fe、Mn、Zn、Cu、Ni、ZrおよびAlを所定の範囲で含有し、ポア率が2.0%以下であり、かつ、Cu偏析率が2.0%以下である試料2~7、10~12、16~18、21~24、27~30、32~35、38~40、43~46、48~78では、1000以上の比透磁率μ、100℃以上のキュリー点、および、170MPa以上の3点曲げ強度を全て満たす焼結体が得られている。
【0062】
これに対して、試料1、8、9、13~15、19、20、25、26、31、36、37、41、42、47および79では、1000以上の比透磁率μ、100℃以上のキュリー点、および、170MPa以上の3点曲げ強度の少なくとも1つを満たしていない。例えば、試料15および37では、CuOの含有量が0mol%であるため、焼結しにくく、ポア率が高くなったと考えられる。試料19および41では、CuOの含有量が多いため、Cu偏析率が高くなったと考えられる。試料79では、焼成時の酸素濃度が低いため、Cu偏析率が高くなったと考えられる。
【0063】
特に、Fe2O3、Mn2O3、ZnO、CuOおよびNiOの合計含有量100重量部に対して、PをP2O5に換算して5ppm以上、50ppm以下、CrをCr2O3に換算して10ppm以上、305ppm以下、Sを5ppm以上、108ppm以下、含有し、ポア率が1.0%以下である試料2~6、17、18、22、23、32~34、40、43、44~46、49~52、55~58、61~64、69、70、73~77では、1100以上の比透磁率μ、および、185MPa以上の3点曲げ強度を満たす焼結体が得られている。
【0064】
中でも、円相当径で5μm以上のポアがなく、かつ、円相当径で2μm以下のポアが全ポア中に占める個数割合が90%以上である試料4~6、17、18、32、33、40、44、45、51、52、55~58、61~63、75および76では、200MPa以上の3点曲げ強度を満たす焼結体が得られている。
【0065】
[コイル部品]
本発明のコイル部品は、本発明のフェライト焼結体を磁性体コアとして備える。本発明のコイル部品においては、磁性体コアに巻線が巻回される。
【0066】
本発明のコイル部品を製造する場合、上述の[フェライト焼結体]で説明した方法により得られる造粒粉を所定の形状に成型した後、焼結体を得る。得られた焼結体を磁性体コアとして、外部電極を形成する。その後、Cu線などの巻き線を施し、外部電極と接続する。必要に応じて天板などを配置して、コイル部品とする。
【0067】
本発明のコイル部品において、磁性体コアの形状は特に限定されず、例えば、ドラム型、ドーナツ型、E型、I型等、各種の形状を適用することができる。
【0068】
図5は、本発明のコイル部品の一例を模式的に示す斜視図である。
図5に示すコイル部品1は、ドラム型の磁性体コア12と、巻線20および21と、外部電極22、23、24および25と、を備える。磁性体コア12は、本発明のフェライト焼結体から構成される。
【0069】
なお、
図5に示すコイル部品1では、2本の巻線20および21が磁性体コア12に巻回されている。しかし、本発明のコイル部品において、巻線の本数は2本に限定されず、1本でもよく、3本以上でもよい。
【0070】
図5に示す例では、磁性体コア12は、巻芯部14と、鍔部16および18とを含んでいる。巻芯部14と鍔部16および18とは一体に形成されている。
【0071】
巻芯部14は、X軸方向に延在している角柱状の部材である。ただし、巻芯部14は、角柱状に限らず、円柱状であってもよい。
【0072】
鍔部16および18は、巻芯部14におけるX軸方向(延在方向)の両端に設けられている。具体的には、鍔部16は、巻芯部14のX軸方向の正方向側の一端に設けられており、鍔部18は、巻芯部14のX軸方向の負方向側の他端に設けられている。
【0073】
鍔部16は、巻芯部14から少なくともZ軸方向の正方向側に張り出した形状を有している。本実施形態では、鍔部16は、Z軸方向の正負両側およびY軸方向の正負両側に張り出すことにより、X軸方向に直交する全ての方向に張り出した形状を有している。
【0074】
鍔部18は、巻芯部14から少なくともZ軸方向の正方向側に張り出した形状を有している。本実施形態では、鍔部18は、Z軸方向の正負両側およびY軸方向の正負両側に張り出すことにより、X軸方向に直交する全ての方向に張り出した形状を有している。
【0075】
図5に示す例では、外部電極22および23は、鍔部16のZ軸方向の正方向側の端面に設けられている。外部電極24および25は、鍔部18のZ軸方向の正方向側の端面に設けられている。外部電極22、23、24および25は、例えば、コイル部品1が回路基板に実装される際に、回路基板の電極と電気的に接続される。外部電極22、23、24および25は、例えば、Ni-Cr、Ni-Cu等のNi系合金や、Ni、Ag、Cu、Sn等により構成される。
【0076】
巻線20および21は、
図5に示すように、巻芯部14に巻回されている導線である。巻線20および21は、例えば、CuまたはAg等の導電性材料を主成分とする芯線がポリウレタン等の絶縁材料により被覆されることにより構成される。
【0077】
巻線20のX軸方向の正方向側の一端は、外部電極22と接続され、巻線20のX軸方向の負方向側の他端は、外部電極24と接続されている。巻線21のX軸方向の正方向側の一端は、外部電極23と接続され、巻線21のX軸方向の負方向側の他端は、外部電極25と接続されている。
【0078】
図5に示すコイル部品1は、例えば、以下のように製造される。
【0079】
まず、磁性体コア12の材料となるフェライトを主成分とした粉末を準備する。そして、準備したフェライト粉末を、雌型に充填する。充填した粉末を雄型で加圧することによって、巻芯部14の形状と鍔部16および18の形状とを成型する。
【0080】
巻芯部14と鍔部16および18との成型が終了した後、焼成を行うことにより、磁性体コア12が得られる。必要に応じてバレル研磨を行ってもよい。
【0081】
続いて、磁性体コア12の鍔部16に外部電極22および23を形成するとともに、鍔部18に外部電極24および25を形成する。例えば、鍔部16および18の端面にAg等を含む導電性ペーストを塗布し、焼付け処理を行って下地金属層を形成した後に、電解めっき等により、Ni系合金等のめっき膜を下地金属層の上に形成する。
【0082】
次いで、磁性体コア12の巻芯部14に巻線20および21を巻回する。この際、巻線20および21の両端を所定量だけ巻芯部14から引き出しておく。最後に、熱圧着などにより、巻線20の引き出された部分を外部電極22および24に接続するとともに、巻線21の引き出された部分を外部電極23および25に接続する。以上の工程を経て、コイル部品1を製造することができる。
【0083】
本発明のコイル部品においては、実装面と反対側の表面に、磁性材料からなる天板(以下、磁性体板ともいう)が配置されてもよい。あるいは、実装面と反対側の表面に、磁性材料を含有する樹脂からなる磁性体層が配置されてもよい。磁性体板または磁性体層を配置することにより、巻線が発生させる磁界の一部または全部が外部に漏れることを遮断できる。そのため、コイル部品の周囲に存在する配線および電子部品との干渉が起こりにくくなる。
【0084】
磁性体板または磁性体層は、磁性体コアの表面のうち、実装面と反対側の面の全体に配置されてもよいし、実装面と反対側の面の一部に配置されてもよい。
【0085】
磁性体板は、本発明のフェライト焼結体から構成されてもよいし、他の磁性材料から構成されてもよい。磁性体板は、さらに、有機物、金属等を含んでもよい。また、磁性体板は、非磁性体のセラミックスを含んでもよい。
【0086】
磁性体層を構成する磁性材料は、本発明のフェライト焼結体と同じ磁性材料でもよいし、他の磁性材料でもよい。磁性体層を構成する樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。磁性体層は、さらに、有機物、金属等を含んでもよい。また、磁性体層は、非磁性体のセラミックスを含んでもよい。
【0087】
本発明のコイル部品は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の応用、変更を加えることが可能である。
【0088】
本発明のコイル部品において、巻線の太さ(線径)、巻数(ターン数)、断面形状および本数は特に限定されず、所望の特性、実装場所に合わせて適宜変更することができる。また、外部電極の位置および数についても、巻線の本数および用途に応じて適宜設定することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 コイル部品
12 磁性体コア
14 巻芯部
16、18 鍔部
20、21 巻線
22、23、24、25 外部電極