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  • 特許-熱硬化性樹脂組成物およびステータ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物およびステータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20240409BHJP
   H02K 15/12 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
H02K3/34 C
H02K15/12 D
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023532227
(86)(22)【出願日】2022-11-10
(86)【国際出願番号】 JP2022041888
(87)【国際公開番号】W WO2023085357
(87)【国際公開日】2023-05-19
【審査請求日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2021183829
(32)【優先日】2021-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】余川 晃崇
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-16669(JP,A)
【文献】特開2020-94092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
H02K 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に交互に形成された複数のティース部および複数のスロットを有するステータコアと、前記スロットに巻回され、かつ前記スロットに収容され、前記ステータコアから軸方向両側にそれぞれ突出する一対のコイルエンドを有するコイルと、前記スロット内に前記コイルを被覆して設けられる封止部材と、を有するステータにおいて、
前記封止部材を形成するために用いる熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物は、
エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
無機充填材と、を含み、
前記無機充填材の含有量が、当該熱硬化性樹脂組成物全体に対して、80質量%以上95質量%以下であり、
最低溶融粘度が、5Pa・s以上40Pa・s以下である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
ラボプラストミルを用いて、回転数30rpm、測定温度175℃の条件でトルク値を経時的に測定した際に、トルク値が最低トルク値の2倍以下である時間Tが40秒以上90秒以下であり、最低トルク値が0.8N・m以下である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物の、25℃における曲げ弾性率が、10GPa以上30GPa以下である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
ゲルタイムが40秒以上100秒以下である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物の熱伝導率が、0.7W/m・K以上である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記無機充填材が破砕シリカを含む、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、およびナフトール型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
粉粒状、顆粒状、タブレット状またはシート状の形態である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
周方向に交互に形成された複数のティース部および複数のスロットを有するステータコアと、
前記スロットに巻回され前記スロットに収容され、前記ステータコアから軸方向両側にそれぞれ突出する一対のコイルエンドを有するコイルと、
記スロット内に前記コイルを被覆して設けられる封止部材と、を有するステータであって、
前記封止部材が、請求項1乃至8のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる、ステータ。
【請求項10】
前記封止部材は、前記スロット内のみで、前記コイルを被覆して設けられる、請求項9に記載のステータ。
【請求項11】
前記封止部材は、前記スロット内で前記コイルを被覆するとともに、前記一対のコイルエンドの片側を被覆するように設けられる、請求項9に記載のステータ。
【請求項12】
前記封止部材は、前記スロット内で前記コイルを被覆するとともに、前記一対のコイルエンドの両側を被覆するように設けられる、請求項9に記載のステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物およびステータに関する。より詳細には、ステータコアの封止材として用いるための熱硬化性樹脂組成物、および当該熱硬化性樹脂組成物を封止材として備えるステータに関する。
【背景技術】
【0002】
ステータコアに樹脂材料を用いる技術として、特許文献1(特開2003-284277号公報)に記載にものがある。同文献には、複数の電磁鋼板を積層したステータコアに複数のコイルを所定間隔で巻線したステータと、このステータに対し回転可能に保持されたロータと、ステータを固定する冷却フレームを有する回転電機において、ステータの巻線部分となるスロットを樹脂成分中に異方性構造が存在する熱硬化性樹脂で構成した高熱伝導複合材を配置した回転電機について記載されており、かかる構成により、コイルで発生した熱が伝わりやすく放熱性のよい回転電機が提供されるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-284277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者が検討したところ、ステータコアに樹脂材料を充填する際の作業性と、樹脂材料の充填性のバランスという点で改善の余地があることが明らかになった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、
周方向に交互に形成された複数のティース部および複数のスロットを有するステータコアと、前記スロットに巻回され、かつ前記スロットに収容され、前記ステータコアから軸方向両側にそれぞれ突出する一対のコイルエンドを有するコイルと、前記スロット内に前記コイルを被覆して設けられる封止部材と、を有するステータにおいて、
前記封止部材を形成するために用いる熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物は、
エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
無機充填材と、を含み、
前記無機充填材の含有量が、当該熱硬化性樹脂組成物全体に対して、80質量%以上95質量%以下であり、
最低溶融粘度が、5Pa・s以上40Pa・s以下である、熱硬化性樹脂組成物が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ステータコアに樹脂材料を充填する際の作業性と、樹脂材料の充填性とを良好なバランスで有する、ステータコアの封止材として用いるための熱硬化性樹脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】モータの回転軸方向と垂直な方向の断面図である。
図2】モータの回転軸方向の縦断面図である。
図3】スロット周辺を拡大して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。なお、本明細書中、数値範囲の、「a~b」は、「a以上b以下」を表す。
【0009】
[熱硬化性樹脂組成物]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、周方向に交互に形成された複数のティース部および複数のスロットを有するステータコアと、スロットに巻回され、スロットに収容され、前記ステータコアから軸方向両側にそれぞれ突出する一対のコイルエンドを有するコイルと、スロット内にコイルを被覆して設けられる封止部材と、を有するステータにおいて、上記封止部材を形成するための材料として用いられる。本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の封止材としての使用方法については、以下に詳述する。
【0010】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機充填材とを含む。また上記組成を有する本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、その最低溶融粘度が40Pa・s以下である。本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、低減された最低溶融粘度を有することにより、ステータコアに対する充填性が良好であるとともに、封止工程における作業性を確保するのに十分な流動性を有する。
【0011】
以下、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物(本明細書中、単に「樹脂組成物」)と称する場合がある)に用いられる成分について説明する。
【0012】
(エポキシ樹脂)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物に用いられるエポキシ樹脂としては、たとえば、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂等の2官能性または結晶性エポキシ樹脂;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;フェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格含有ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂およびアルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の3官能型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、テルペン変性フェノール型エポキシ樹脂等の変性フェノール型エポキシ樹脂;トリアジン核含有エポキシ樹脂等の複素環含有エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
エポキシ樹脂は、得られる樹脂組成物の流動性と、樹脂組成物の硬化物の強度を確保する観点から、好ましくはフェノールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂からなる群から選択される1または2以上のエポキシ樹脂を含み、より好ましくはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を含む。
【0013】
樹脂組成物中におけるエポキシ樹脂の含有量は、得られる樹脂組成物の流動性を向上させ、作業性および成形性を向上する観点から、樹脂組成物の全固形分に対して、たとえば3質量%以上としてもよく、好ましくは8質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは12質量%以上である。
また、樹脂組成物を用いて形成される硬化物の強度および耐熱性を向上する観点から、エポキシ樹脂の含有量は、樹脂組成物の全固形分に対して、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下である。
【0014】
なお本実施形態において、樹脂組成物の全固形分とは、樹脂組成物中における不揮発分を指し、水や溶媒等の揮発成分を除いた残部を指す。また、本実施形態において、樹脂組成物全量に対する含有量とは、溶媒を含む場合には、樹脂組成物のうちの溶媒を除く固形分全体に対する含有量を指す。
【0015】
一実施形態において、樹脂組成物は、上記エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂をさらに含んでもよい。使用できる熱硬化性樹脂としては、たとえば、ビスマレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびベンゾシクロブテン樹脂が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0016】
(硬化剤)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物に用いられる硬化剤としては、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物に一般に使用されているものであれば制限はないが、たとえば、フェノール樹脂系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、メルカプタン系硬化剤等、およびその他の硬化剤が挙げられる。これらの中でも、耐燃性、耐湿性、電気特性、硬化性、保存安定性等のバランスの点からフェノール樹脂系硬化剤が好ましい。
【0017】
フェノール樹脂系硬化剤としては、たとえばエポキシ樹脂組成物に一般に使用されているものであれよく、さらに具体的には、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール、α-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のフェノール類とホルムアルデヒドやケトン類とを酸性触媒下で縮合または共縮合させて得られるノボラック樹脂;上記したフェノール類とジメトキシパラキシレンまたはビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂;ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂などのフェノールアラルキル樹脂;および、トリスフェニルメタン骨格を有するフェノール樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。フェノール樹脂系硬化剤は、好ましくは、フェノールノボラック樹脂を含む。
【0018】
硬化剤がフェノール樹脂系硬化剤の場合、エポキシ樹脂と硬化剤との当量比、すなわち、(エポキシ樹脂中のエポキシ基モル数/フェノール樹脂系硬化剤中のフェノール性水酸基モル数)の比は、樹脂組成物の成形性および信頼性を向上する観点から、好ましくは、0.5以上であり、より好ましくは、0.6以上であり、さらに好ましくは、0.8以上である。また、同様の観点から、上記比は、好ましくは、2以下であり、より好ましくは、1.8以下であり、さらに好ましくは1.5以下である。
【0019】
アミン系硬化剤としては、たとえば、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシリレンジアミン(MXDA)などの脂肪族ポリアミン;ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m-フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)などの芳香族ポリアミン;および、ジシアンジアミド(DICY)や有機酸ジヒドララジドなどのポリアミン化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
酸無水物系硬化剤としては、たとえば、ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)、無水マレイン酸などの脂環族酸無水物;および無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)、無水フタル酸などの芳香族酸無水物が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
メルカプタン系硬化剤としては、たとえば、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、および、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトブチレート)が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
その他の硬化剤としては、たとえば、イソシアネートプレポリマーやブロック化イソシアネートなどのイソシアネート化合物;および、カルボン酸含有ポリエステル樹脂などの有機酸類が挙げられる。なお、硬化剤は、上記のうち異なる系の硬化剤の2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
樹脂組成物中の硬化剤の含有量は、封止工程において、優れた流動性を実現し、充填性や成形性の向上を図る観点から、樹脂組成物全量に対して、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。
一方、樹脂硬化物の耐湿信頼性や耐熱性を向上させる観点から、硬化剤の含有量は、樹脂組成物全量に対して、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、よりいっそう好ましくは5質量%以下である。
【0024】
(無機充填材)
無機充填材としては、たとえば、溶融破砕シリカおよび溶融球状シリカ等の溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化珪素、および窒化アルミが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。無機充填材は、樹脂組成物の硬化物の機械特性または熱特性を好ましいものとする観点から、好ましくはシリカを含み、より好ましくは破砕シリカおよび溶融球状シリカからなる群から選択される1種以上を含む。
【0025】
無機充填材の平均粒径d50は、樹脂組成物の流動性を良好なものとし、成形性を向上させる観点から、好ましくは0.01μm以上であり、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。また、無機充填材の平均粒径d50は、充填性を向上し、未充填の発生を抑制する観点から、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは40μm以下である。
【0026】
また、無機充填材として、平均粒径d50の異なる2種以上の充填材を併用してもよい。これにより、樹脂組成物の全固形分に対する無機充填材の充填性をより効果的に高めることができる。たとえば、樹脂組成物の充填性を向上させる観点から、無機充填材は、好ましくは平均粒径1μm以上12μm以下の第1の充填材と、平均粒径12μmより大きく30μm以下の第2の充填材とを含む。また、同様の観点から、無機充填材は、たとえば平均粒径0.01μm以上1μm以下の第1の充填材と、平均粒径1μmより大きく50μm以下の第2の充填材とを含んでもよい。
【0027】
また、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定される累積頻度が90%となる無機充填材の粒子径d90の値と、無機充填材の平均粒径d50の値とから算出される、(d50/d90)の値は、樹脂組成物の流動性を向上する観点から、好ましくは0.2以上であり、より好ましくは0.25以上、さらに好ましくは0.3以上である。また、狭部充填性を向上する観点から、上記比(d50/d90)は、好ましくは1.0以下であり、より好ましくは0.9以下、さらに好ましくは0.8以下である。
【0028】
ここで、無機充填材の粒径、具体的にはd50、d90は、市販のレーザー回折式粒度分布測定装置(たとえば、島津製作所社製、SALD-7000)を用いて粒子の粒度分布を体積基準で測定することにより、得ることができる。
【0029】
樹脂組成物中の無機充填材の含有量は、樹脂組成物の吸湿性および熱膨張性を抑制し、樹脂組成物の硬化物の耐温度サイクル性や耐湿性より効果的に向上させる観点から、樹脂組成物全量に対して、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは65質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。また、樹脂組成物の成形時における流動性や充填性をより効果的に向上させる観点から、無機充填材の含有量は、樹脂組成物全量に対して、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは93質量%以下である。
【0030】
また、無機充填材がシリカを含むとき、樹脂組成物中のシリカの含有量は、樹脂組成物の吸湿性および熱膨張性を抑制し、樹脂組成物の硬化物の耐温度サイクル性や耐湿性をより効果的に向上させる観点から、樹脂組成物全量に対して好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは65質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。
また、樹脂組成物の成形時における流動性や充填性をより効果的に向上させる観点から、樹脂組成物中のシリカの含有量は、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは93質量%以下である。
【0031】
(その他の成分)
本実施形態において、樹脂組成物は上述した成分以外の成分をさらに含んでもよい。たとえば、樹脂組成物は、硬化促進剤、カップリング剤、難燃剤、イオン捕捉剤、着色剤、および酸化防止剤をさらに含んでもよい。
【0032】
(硬化促進剤)
硬化促進剤は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、の架橋反応を促進させるものであればよく、一般のエポキシ樹脂組成物に使用するものを用いることができる。
硬化促進剤の具体例としては、たとえば、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7等のジアザビシクロアルケンおよびその誘導体;トリフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;2-メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物(イミダゾール系硬化促進剤);ならびに、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等のテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレートが挙げられる。
【0033】
イミダゾール系硬化促進剤としては、たとえば、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2'-メチルイミダゾリル(1')]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2'-ウンデシルイミダゾリル(1')]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2'-エチル-4-メチルイミダゾリル(1')]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2'-メチルイミダゾリル(1')]-エチル-s-トリアジンのイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2-メチルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシジメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールが挙げられる。
【0034】
(カップリング剤)
カップリング剤としては、たとえばエポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン、メタクリルシラン等の各種シラン系化合物、チタン系化合物、アルミニウムキレート類、アルミニウム/ジルコニウム系化合物等の公知のカップリング剤を用いることができる。これらを例示すると、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-[ビス(β-ヒドロキシエチル)]アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(β-アミノエチル)アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N-(ジメトキシメチルシリルイソプロピル)エチレンジアミン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミンの加水分解物等のシラン系カップリング剤、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等のチタネート系カップリング剤が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシランまたはビニルシランのシラン系化合物がより好ましい。また、充填性や成形性をより効果的に向上させる観点からは、フェニルアミノプロピルトリメトキシシランに代表される2級アミノシランを用いることがさらに好ましい。
【0035】
カップリング剤を用いる場合、その含有量は、樹脂組成物の流動性を好ましいものとする観点から、樹脂組成物の全固形分に対して好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.10質量%以上である。また、樹脂組成物の硬化物の機械的強度を向上する観点から、カップリング剤の含有量は、樹脂組成物の全固形分に対して好ましくは1.5質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0036】
(着色剤)
着色剤としては、カーボンブラック、ベンガラ、酸化チタン等が挙げられる。中でも、着色剤としては、カーボンブラックが好ましく用いられる。
着色剤の含有量は、樹脂組成物の硬化物を好ましい外観とする観点から、樹脂組成物全量に対して好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.10質量%以上である。また、樹脂粘度を好ましいものとする観点から、着色剤の含有量は、樹脂組成物全量に対して好ましくは1.5質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0037】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物およびチオエーテル系化合物等が挙げられる。
【0038】
(熱硬化性樹脂組成物またはその硬化物の特性)
次いで、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物またはその硬化物の特性を説明する。
上記成分を含む本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、その最低溶融粘度が、40Pa・s以下であり、好ましくは、35Pa・s以下である。樹脂組成物の最低溶融粘度の下限値は特に限定されないが、例えば、5Pa・s以上である。
本実施形態の樹脂組成物は、上記範囲の最低溶融粘度を有し、その結果、ステータコアに対する充填性が良好であるとともに、封止工程において良好な作業性を有する。
【0039】
本実施形態の樹脂組成物は、ラボプラストミルを用いて、回転数30rpm、測定温度175℃の条件でトルク値を経時的に測定した際に、トルク値が最低トルク値の2倍以下である時間Tが40秒以上90秒以下であり、最低トルク値が0.8N・m以下である。
【0040】
樹脂組成物の硬化物の25℃で測定した曲げ弾性率は、硬化物の強度を高める観点から、10GPa以上であり、より好ましくは12GPa以上である。また、硬化物の応力緩和特性を好ましいものとする観点から、25℃で測定した曲げ弾性率は、30GPa以下であり、より好ましくは25GPa以下である。
なお、樹脂組成物の硬化物の曲げ弾性率は、たとえば、JIS K 7171に準拠して測定される。
【0041】
本実施形態の樹脂組成物のゲルタイムは、樹脂組成物の成形性の向上を図りつつ成形サイクルを速くする観点から、好ましくは40秒以上であり、より好ましくは50秒以上である。また、硬化性に優れた硬化物を実現する観点から、樹脂組成物のゲルタイムは、好ましくは100秒以下であり、より好ましくは90秒以下である。
【0042】
ゲルタイムの測定は、175℃に加熱した熱板上で樹脂組成物を溶融した後、ヘラで練りながらタックフリーになるまでの時間(ゲルタイム)を測定することによりおこなうことができる。
【0043】
本実施形態の樹脂組成物は、その硬化物の熱伝導率が、例えば、0.7W/m・K以上であり、好ましくは2W/m・K以上であり、より好ましくは、3W/m・K以上である。
【0044】
[熱硬化性樹脂組成物の製造方法]
本実施形態の樹脂組成物は、上記成分および必要に応じて用いられる添加剤を所定の含有量となるように、タンブラーミキサーやヘンシェルミキサー等のミキサーやブレンダー等で均一に混合した後、ニーダー、ロール、ディスパー、アジホモミキサー、及びプラネタリーミキサー等で加熱しながら混練することにより製造できる。なお、混練時の温度としては、硬化反応が生じない温度範囲である必要があり、エポキシ樹脂および硬化剤の組成にもよるが、70~150℃程度で溶融混練することが好ましい。混練後に冷却固化し、混練物を、粉粒状、顆粒状、タブレット状、またはシート状に加工してもよい。
【0045】
粉粒状の樹脂組成物を得る方法としては、たとえば、粉砕装置により、混練物を粉砕する方法が挙げられる。混練物をシートに成形したものを粉砕してもよい。粉砕装置としては、たとえば、ハンマーミル、石臼式磨砕機、ロールクラッシャーを用いることができる。
【0046】
顆粒状または粉末状の樹脂組成物を得る方法としては、たとえば、混練装置の出口に小径を有するダイスを設置して、ダイスから吐出される溶融状態の混練物を、カッター等で所定の長さに切断するというホットカット法に代表される造粒法を用いることもできる。この場合、ホットカット法等の造粒法により顆粒状または粉末状の樹脂組成物を得た後、樹脂組成物の温度があまり下がらないうちに脱気を行うことが好ましい。
【0047】
[用途]
本実施形態の封止用樹脂組成物は、周方向に交互に形成された複数のティース部および複数のスロットを有するステータコアと、スロットに巻回されスロットに収容されたコイルと、スロット内にコイルを被覆して設けられる封止部材と、を有するステータにおいて、上記封止部材を形成するための材料として用いられる。本実施形態の封止用樹脂組成物を封止材として備えるステータは、例えば、回転電機(電動機、発電機または電動機/発電機の両用機)として電動機(モータ)に適用される。
以下、一実施形態として、モータの用途について説明する。
【0048】
図1はモータ100の回転軸方向と垂直な方向の断面図を模式的に示している。図2はモータ100の回転軸方向の断面図を模式的に示している。図3は、スロット周辺(図1の領域X)を拡大して示した図であって、コイル9がスロット8の端部から突出した部分の断面図を模式的に示している。
【0049】
<モータ100の基本構造>
モータ100は、ケース1と、ケース1の内部に収容されたロータ2とステータ4とコイル9とを備える。
【0050】
<ケース1>
ケース1は、円筒部1aと、この円筒部1aの軸方向両端を閉塞する側板部1b、1cとを有して構成される。ケース1の材料として、例えば、アルミニウム合金(鋳物鋳造品)や樹脂材料、それらを組み合わせたものを用いることができる。
【0051】
<ロータ2>
図1に示すように、ロータ2は、ケース1の内部に収容されている。ロータ2の中心には、図2に示すように、図出力軸として回転軸3が取り付けられている。回転軸3の両端がそれぞれベアリング3aを介して側板部1b、1cに支持されている。これによって、ロータ2は回転軸3を中心に回転自在となっている。
【0052】
ロータ2には永久磁石5が内装されている。具体的には、図1に示すように、複数(ここでは8個)の永久磁石5が同一円周上に等間隔で配置されている。このとき、隣合う永久磁石5の磁極は互いに異なるように設置されている。
【0053】
図2に示すように、円筒部1aの内周側には円筒型のステータ4が、ロータ2の外周を取り囲むように配置され固定されている。ステータ4の内周面とロータ2の外周面との間には微少な間隙(エアギャップ)が設けられている。
【0054】
<ステータコア41>
ステータコア41は、複数の電磁鋼板を軸方向に積層し密着固定して設けられており、図1に示すように軸方向端部から見たときに、環状に設けられたヨーク部6と、ヨーク部6からロータ2側(内周側)に向かって延出する複数のティース部7とが設けられている。複数のティース部7は周方向に等間隔に配列されて設けられている。ここでは、図1に示すように、24個のティース部7が設けられている。各ティース部7の間にスロット8が設けられている。また、ティース部7には、樹脂組成物で周回させて薄肉に覆った樹脂層50が設けられている。
【0055】
<コイル9>
コイル9は、平角線U字形状であって、ティース部7を跨いで離間した二つのスロット8に収納されるようにして巻かれている。ここでは、スロット8に配置されたライナー部材20にコイル9が分布巻きで収容されている(図1)。コイル9は、第1のコイルエンドと、第2のコイルエンドとを有する。第1のコイルエンドは、ステータコア41の軸方向一方側に突出する。第2のコイルエンドは、ステータコア41の軸方向他方側に突出する。すなわち、コイル9は、ステータコア41の軸方向両側にそれぞれ突出する一対のコイルエンドを有する。
【0056】
<ティース部7>
ティース部7は上述したロータ2の永久磁石5と対応して設けられ、各コイル9を順次励磁していくことにより、これに対応した永久磁石5との吸引、反発によりロータ2が回転する。
【0057】
ティース部7は、外周側の周方向の幅が大きく、内周側の幅が小さく、内周側に向けて先細に形成されている。ティース部7の内周側の端部には、スロット8の幅を縮めるように周方向に沿って対向するティース部先端71が形成されている。
【0058】
<スロット8>
スロット8は、隣接するティース部7間の空間であって、図3に示すように、径方向に沿って対向するティース部7の壁面72が平行面となるように設けられている。ティース部先端71間がスロット8の内周側開口となっている。スロット8には、外周側(ヨーク部6側)に配置された複数のコイル9と、内周側(ティース部先端71側)に設けられた樹脂封止部65とを備える。
【0059】
<樹脂封止部65>
図3に示すように、樹脂封止部65は、スロット8の内周側(ティース部先端71側)に設けられている。樹脂封止部65は、インサート成形によって設けられてもよいし、別部品として設けられてもよい。樹脂封止部65に用いられる樹脂材料は、上述の本実施形態の封止用樹脂組成物が用いられる。
【0060】
一実施形態において、樹脂封止部65は、スロット8内でのみ、コイル9を被覆するように設けられる。
別の実施形態において、樹脂封止部65は、スロット8内コイル9を被覆するとともに、一対のコイルエンドのうち一方のコイルエンドを被覆する、換言すると第1、第2のコイルエンドのいずれか一方のみを被覆するように設けられる。
さらに別の実施形態において、樹脂封止部65は、スロット8内コイル9を被覆するとともに、一対のコイルエンドの両方を被覆する、換言すると第1、第2のコイルエンドの両方を被覆するように設けられる。
【0061】
<ステータ4の製造方法>
本実施形態のステータ4の製造方法を説明する。
まず、複数の電磁鋼板を軸方向に積層し密着固定させたステータ4を用意する(ステータ準備工程)。
ついで、インサート成形によりティース部7の周縁(壁面73、上面75a及び下面75b)を絶縁性の樹脂組成物で一体に周回させて覆って樹脂層50を形成する(樹脂層形成工程)。
つぎに、樹脂層50が設けられたスロット8内に、コイル9を配置する(コイル配置工程)。
全てのコイル9の収容後、スロット8の内周側の領域に、本実施形態の樹脂組成物を充填してインサート成形することで樹脂封止部65を得る(樹脂充填工程)。
以上の工程により、図3に示したステータ4が得られる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、実施形態の例を付記する。
1. 周方向に交互に形成された複数のティース部および複数のスロットを有するステータコアと、前記スロットに巻回され、かつ前記スロットに収容され、前記ステータコアから軸方向両側にそれぞれ突出する一対のコイルエンドを有するコイルと、前記スロット内に前記コイルを被覆して設けられる封止部材と、を有するステータにおいて、
前記封止部材を形成するために用いる熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物は、
エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
無機充填材と、を含み、
最低溶融粘度が、40Pa・s以下である、熱硬化性樹脂組成物。
2. 1.に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
ラボプラストミルを用いて、回転数30rpm、測定温度175℃の条件でトルク値を経時的に測定した際に、トルク値が最低トルク値の2倍以下である時間T が40秒以上90秒以下であり、最低トルク値が0.8N・m以下である、熱硬化性樹脂組成物。
3. 1.または2.に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物の、25℃における曲げ弾性率が、10GPa以上30GPa以下である、熱硬化性樹脂組成物。
4. 1.乃至3.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
ゲルタイムが40秒以上100秒以下である、熱硬化性樹脂組成物。
5. 1.乃至4.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物の熱伝導率が、0.7W/m・K以上である、熱硬化性樹脂組成物。
6. 前記無機充填材の含有量が、当該熱硬化性樹脂組成物全体に対して、50質量%以上95質量%以下である、1.乃至5.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
7. 前記無機充填材が破砕シリカを含む、1.乃至6.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
8. 前記エポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、およびナフトール型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1つを含む、1.乃至7.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
9. 粉粒状、顆粒状、タブレット状またはシート状の形態である、1.乃至8.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
10. 周方向に交互に形成された複数のティース部および複数のスロットを有するステータコアと、
前記スロットに巻回され前記スロットに収容され、前記ステータコアから軸方向両側にそれぞれ突出する一対のコイルエンドを有するコイルと、
記スロット内に前記コイルを被覆して設けられる封止部材と、を有するステータであって、
前記封止部材が、1.乃至9.のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる、ステータ。
11. 前記封止部材は、前記スロット内のみで、前記コイルを被覆して設けられる、10.に記載のステータ。
12. 前記封止部材は、前記スロット内で前記コイルを被覆するとともに、前記一対のコイルエンドの片側を被覆するように設けられる、10.に記載のステータ。
13. 前記封止部材は、前記スロット内で前記コイルを被覆するとともに、前記一対のコイルエンドの両側を被覆するように設けられる、10.に記載のステータ。
【実施例
【0063】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0064】
各実施例、各比較例で用いた原料成分について、以下に示す。
(エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂1:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、製品名「EPICRON N-670」)
・エポキシ樹脂2:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、製品名「EPICRON N-660」)
・エポキシ樹脂3:ビフェニル型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、YX-4000K)
【0065】
(硬化剤)
・硬化剤1:ノボラック型フェノール化合物(住友ベークライト株式会社製、PR-51470)
・硬化剤2:ノボラック型フェノール化合物(住友ベークライト株式会社製、PR-51714)
・硬化剤3:トリフェノールメタン型フェノール樹脂(明和化成株式会社製、MEH-7500)
【0066】
(無機充填材)
・無機充填材1:溶融球状シリカ(デンカ株式会社製、FB-950)
・無機充填材2:溶融球状シリカ(デンカ株式会社製、FB-105)
・無機充填材3:溶融破砕シリカ(フミテック株式会社製、FMT-15C)
・無機充填材4:ガラス繊維(日東紡績株式会社製、CS3E479)
・無機充填材5:結晶破砕シリカ(株式会社龍森製、HFC-7)
・無機充填材6:溶融球状アルミナ(デンカ株式会社製、DAB-45SI)
【0067】
(硬化促進剤)
・硬化促進剤1:テトラフェニルホスフォニウム 2,3-ジヒドロキシナフタレート
・硬化促進剤2:2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、2PHZ-PW)
【0068】
(離型剤)
・ワックス1:カルナバワックス(東亜化成株式会社製、TOWAX-132)
【0069】
(シランカップリング剤)
・シランカップリング剤1:N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社製、CF-4083)
(着色剤)
・着色剤1:カーボンブラック(三菱ケミカル株式会社製、カーボン#5)
【0070】
(樹脂組成物の調製)
まず、表1に従い配合された各原材料を常温でミキサーを用いて混合した後、70℃以上110℃以下でロール混練した。次いで、得られた混練物を冷却した後、これを粉砕して樹脂組成物を得た。
【0071】
各例で得られた樹脂組成物について、以下の測定をおこなった。測定結果を表1に合わせて示す。
【0072】
(製造直後の樹脂組成物のスパイラルフロー)
各例で得られた封止用樹脂組成物に対しスパイラルフロー測定を行った。スパイラルフロー測定は、低圧トランスファー成形機(コータキ精機社製、「KTS-15」)を用いて、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用の金型に金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で封止用樹脂組成物を注入し、流動長(cm)を測定することにより行った。スパイラルフローは、流動性の指標であり、数値が大きい方が、流動性が良好である。
【0073】
(ゲルタイム)
各例で得られた封止用樹脂組成物のゲルタイムを測定した。ゲルタイムの測定は、175℃に加熱した熱板上で封止用樹脂組成物を溶融した後、へらで練りながら硬化するまでの時間(ゲルタイム:秒)を測定することによりおこなった。
【0074】
(ガラス転移温度、線膨張係数(α1))
各例について、得られた樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度を、次のように測定した。まず、トランスファー成形機を用いて金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間3分で封止用樹脂組成物を注入成形し、15mm×4mm×4mmの試験片を得た。次いで、得られた試験片を175℃、4時間で後硬化した後、熱機械分析装置(セイコー電子工業(株)製、TMA100)を用いて、測定温度範囲40℃~300℃、昇温速度5℃/分の条件下で測定を行った。この測定結果から、ガラス転移温度、および測定温度範囲40℃~80℃における線膨張係数(α1)を算出した。
【0075】
(曲げ弾性率)
樹脂組成物を、175℃/3分でのトランスファー成型後に、さらに175℃/4時間で硬化して、JIS K 7171に準じて、25℃での曲げ弾性率を測定した。
【0076】
(曲げ強さ)
上記の曲げ弾性率の測定と同様に硬化物を作成し、JIS K 7171に準じて、25℃での曲げ強度を測定した。
【0077】
(熱伝導率)
各例で得られた樹脂組成物を、トランスファー成形機を用いて金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間3分で封止用樹脂組成物を注入成形し、10mm×10mm×1mmの硬化体を得た。
得られた硬化物の熱伝導率を、レーザーフラッシュ法(ハーフタイム法)にて測定した熱拡散係数(α)、DSC法により測定した比熱(Cp)、JIS K 6911に準拠して測定した密度(ρ)より次式を用いて算出した。熱伝導率の単位はW/m・Kである。
熱伝導率[W/m・K]=α[mm/s]×Cp[J/kg・K]×ρ[g/cm
【0078】
(絶縁破壊強さ)
各例で得られた樹脂組成物を、トランスファー成形機を用いて金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間3分で封止用樹脂組成物を注入成形し、100mmφ×2mmの硬化体を得た。
上記で得た樹脂組成物の硬化物の絶縁破壊電圧をJIS K 6911に準じて、次のように測定した。まず、得られた硬化物を円電極に挟んだ状態で絶縁油中に設置した。次いで、菊水電子社製TOS9201を用いて、両電極に昇圧速度2.5kV/秒の速度で電圧が上昇するように、交流電圧を印加した。試験片が破壊した電圧を、絶縁破壊電圧とした。絶縁破壊電圧の値が大きいほど、絶縁破壊強さが良好であることを示す。
【0079】
(硬化挙動測定)
得られた樹脂組成物について、最低トルク値、およびトルク値が最低トルク値の2倍以下である時間Tの測定を次のように行った。まず、ラボプラストミル試験機((株)東洋精機製作所製、4C150)を用いて、回転数30rpm、測定温度175℃の条件で樹脂組成物の溶融トルクを経時的に測定した。次いで、トルク値が最低トルク値の2倍以下である時間Tを測定結果に基づいて算出した。測定開始点は、ラボプラストミル試験機に材料を投入し、急激にトルクが立ち上がった後、トルクが下がり始める点とした。また、測定結果から、最低トルク値を算出した。結果を表1に示す。表1における時間Tの単位は秒であり、最低トルク値の単位はN・mである。
【0080】
【表1】
【0081】
この出願は、2021年11月11日に出願された日本出願特願2021-183829号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0082】
100 モータ
1 ケース
2 ロータ
4 ステータ
5 永久磁石
6 ヨーク部
7 ティース部
8 スロット
9 コイル
21 コイル収容部
41 ステータコア
50 樹脂層
51 内面樹脂層
52 外面樹脂層
55 樹脂層表面
65 樹脂封止部
71 ティース部先端
72 壁面
図1
図2
図3