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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】包装フィルム、包装容器及び包装製品
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20240409BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20240409BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240409BHJP
   B32B 27/32 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B7/022
B65D65/40 D
B32B27/32 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023548243
(86)(22)【出願日】2023-01-05
(86)【国際出願番号】 JP2023000061
(87)【国際公開番号】W WO2023145393
(87)【国際公開日】2023-08-03
【審査請求日】2023-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2022012538
(32)【優先日】2022-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022012539
(32)【優先日】2022-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】田中 歩実
(72)【発明者】
【氏名】古田 薫
(72)【発明者】
【氏名】山田 幹典
(72)【発明者】
【氏名】西川 健
(72)【発明者】
【氏名】福上 美季
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-041620(JP,A)
【文献】特開2017-177685(JP,A)
【文献】特開2019-119132(JP,A)
【文献】特開平09-192593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 3/00-7/06
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂からなる基材層と、金属酸化物層と、ガスバリア性被覆層と、をこの順に備え、前記ガスバリア性被覆層の硬さが、ナノインデンテーション法による測定において0.15GPa以上1.10GPa未満である、ガスバリア性積層体と、
シーラント層と、を備える包装フィルム
【請求項2】
前記ガスバリア性被覆層の複合弾性率が、11GPa以下である、請求項1に記載の包装フィルム
【請求項3】
前記ガスバリア性積層体の、JIS K-7126-2に準拠して測定される、レトルト処理後の酸素透過度が2.4cc/m・day・atm以下であり、かつゲルボフレックス試験後の酸素透過度が18.5cc/m・day・atm以下である、請求項1に記載の包装フィルム
【請求項4】
前記ガスバリア性被覆層の硬さが、ナノインデンテーション法による測定において0.15GPa以上0.7GPa以下である、請求項1に記載の包装フィルム
【請求項5】
前記ガスバリア性積層体が、前記基材層と前記金属酸化物層との間にアンカーコート層をさらに備える、請求項1に記載の包装フィルム
【請求項6】
前記金属酸化物層が、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素の少なくともいずれかを含む、請求項1に記載の包装フィルム
【請求項7】
前記ガスバリア性被覆層が、アルキルケイ素アルコキシド及びその加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも一方と、水溶性高分子と、を含む組成物の加熱硬化物である、請求項1に記載の包装フィルム
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の包装フィルムを備える包装容器。
【請求項9】
請求項に記載の包装容器と、前記包装容器内に充填される内容物とを備える包装製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスバリア性積層体の製造方法、ガスバリア性積層体、包装フィルム、包装容器及び包装製品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品等の包装に用いられる包装袋などの包装容器においては、内容物の変質や腐敗などを抑制し、それらの機能や性質を保持するために、水蒸気、酸素、その他の内容物を変質させる気体の進入を遮断するガスバリア性が要求される。そのため、従来、これら包装袋においてはガスバリア性積層体が用いられている。
【0003】
ガスバリア性積層体は一般に、基材層、金属酸化物層及びガスバリア性被覆層をこの順に備えており、ガスバリア性被覆層は、ガスバリア性の機能を付与しうるガスバリア性被覆層形成用組成物を金属酸化物層上に塗布し硬化させることによって形成される。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、バリアコート層と、無機酸化物蒸着層と、基材層とをこの順に備えるバリアフィルムが開示されており、バリアコート層はガスバリア性組成物(バリアコート液)を塗布した後に140℃~200℃の高温で加熱・乾燥させることで形成されるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-041620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載された方法によりバリアフィルムを作製すると、基材層にシワが生じ易く、また外力が加わることでバリアコート層にクラックが入り易い傾向がある。そのようなバリアフィルムは、外観やバリア性能において改善の余地を有している。
【0007】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、外観及びバリア性能が良好なガスバリア性積層体を製造することのできる、ガスバリア性積層体の製造方法を提供することを目的とする。本開示はまた、ガスバリア性積層体、包装フィルム、包装容器及び包装製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面は、ガスバリア性積層体の製造方法であって、ポリプロピレン樹脂又はポリエステル樹脂からなる基材層上に、真空成膜法により金属酸化物層を形成する工程と、金属酸化物層上にガスバリア性被覆層形成用組成物を塗布して塗膜を形成する工程と、塗膜を赤外線により予備加熱する工程と、赤外線により予備加熱した塗膜を、50~120℃の雰囲気で加熱することによって硬化させ、ガスバリア性被覆層を形成する工程と、を備え、ガスバリア性被覆層形成用組成物が、アルキルケイ素アルコキシド及びその加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも一方と、水溶性高分子と、を含む、製造方法を提供する。
【0009】
上記の製造方法によれば、ガスバリア性被覆層を形成する際に、従来技術程の高熱を積層体全体に掛けずに、均一にガスバリア性被覆層を硬化させることができる。これにより、基材層におけるシワの発生が抑制され、かつガスバリア性被覆層の表面のみが硬くなりすぎることも抑制される。そのため、外観及びバリア性能が良好なガスバリア性積層体を製造することができる。
【0010】
本開示の製造方法の一態様において、ガスバリア性被覆層形成用組成物が、さらにシランカップリング剤を含んでよい。これにより、ガスバリア性被覆層と金属酸化物層との密着性をより向上させることが可能となり、ガスバリア性積層体における層内剥離を抑制し易くなる。
【0011】
本開示の一側面は、ポリプロピレン樹脂又はポリエステル樹脂からなる基材層と、金属酸化物層と、ガスバリア性被覆層と、をこの順に備え、ガスバリア性被覆層の表面の硬さが、ナノインデンテーション法による測定において0.15GPa以上1.10GPa未満である、ガスバリア性積層体を提供する。
【0012】
このようなガスバリア性積層体は上記の製造方法により製造されるものであって、基材層におけるシワの発生が抑制され、かつ耐クラック性に優れるガスバリア性被覆層を有する、外観及びバリア性能が良好なガスバリア性積層体であるということができる。
【0013】
本開示のガスバリア性積層体の一態様において、ガスバリア性被覆層の複合弾性率が、11GPa以下であってよい。この場合、ガスバリア性積層体が優れた耐虐待性を有すると言える。
【0014】
本開示のガスバリア性積層体の一態様において、ガスバリア性積層体が、基材層と金属酸化物層との間にアンカーコート層をさらに備えていてよい。この場合、アンカーコート層の表面の平滑性が、基材層の表面の平滑性よりも向上する。このため、金属酸化物層の厚みを均一にすることが可能となり、ガスバリア性積層体のガスバリア性をより向上させることができる。
【0015】
本開示のガスバリア性積層体の一態様において、金属酸化物層が、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素の少なくともいずれかを含んでよい。これにより、ガスバリア性をより向上させることができる。
【0016】
本開示の一側面は、上記ガスバリア性積層体と、シーラント層とを備える包装フィルムを提供する。この包装フィルムは、上記ガスバリア性積層体を備えるため、外観及びバリア性能が良好なフィルムであるということができる。
【0017】
本開示の一側面は、上記包装フィルムを備える包装容器を提供する。この包装容器は、上記包装フィルムを備えるため、外観及びバリア性能が良好な容器であるということができる。
【0018】
本開示の一側面は、上記包装容器と、上記包装容器内に充填される内容物とを備える包装製品を提供する。この包装製品は、外観及びバリア性能が良好な上記包装容器を備えているため、内容物の視認性に優れ、また酸素の侵入による内容物の品質の低下を長期間にわたって抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、基材層におけるシワの発生を抑制しつつ、耐クラック性に優れるガスバリア性被覆層を形成することができる。すなわち、本開示によれば、外観及びバリア性能が良好なガスバリア性積層体を製造することのできる、ガスバリア性積層体の製造方法が提供される。また、本開示によれば、ガスバリア性積層体、包装フィルム、包装容器及び包装製品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本開示のガスバリア性積層体の一実施形態を示す断面図である。
図2】本開示の包装フィルムの一実施形態を示す断面図である。
図3】本開示の包装製品の一実施形態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0022】
<ガスバリア性積層体の製造方法>
ガスバリア性積層体の製造方法は、ポリプロピレン樹脂又はポリエステル樹脂からなる基材層上に、真空成膜法により金属酸化物層を形成する工程と、金属酸化物層上にガスバリア性被覆層形成用組成物を塗布して塗膜を形成する工程と、塗膜を赤外線により予備加熱する工程と、赤外線により予備加熱した塗膜を50~120℃の雰囲気で加熱することによって硬化させ、ガスバリア性被覆層を形成する工程と、を備える。上記製造方法は、必要に応じ、金属酸化物層を形成する工程に先立ち、ポリプロピレン樹脂又はポリエステル樹脂からなる基材層上に、アンカーコート層を形成する工程を更に備えていてよい。
【0023】
以下、ガスバリア性積層体の製造方法の一例について説明する。
【0024】
まずポリプロピレン樹脂又はポリエステル樹脂からなる基材層を用意する。
【0025】
次に、基材層の一面上にアンカーコート層を形成する。
具体的には、基材層の一面上に、アンカーコート層を形成するアンカーコート層形成用組成物を塗布し加熱して乾燥させることによってアンカーコート層を形成する。このとき、加熱温度は、例えば、50~120℃であり、加熱時間は、例えば、10秒~10分程度である。
【0026】
次に、アンカーコート層の上に金属酸化物層を形成する。
金属酸化物層は真空成膜法により形成することができる。真空成膜法としては、物理気相成長法及び化学気相成長法が挙げられる。物理気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタ蒸着法、イオンプレーティング法等を挙げることができる。物理気相成長法としては、真空蒸着法が特に好ましく用いられる。真空蒸着法としては、抵抗加熱式真空蒸着法、EB(Electron Beam)加熱式真空蒸着法、誘導加熱式真空蒸着法が挙げられる。化学気相成長法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等を挙げることができる。
【0027】
次に、金属酸化物層上にガスバリア性被覆層を形成する。
【0028】
ガスバリア性被覆層は、例えば、金属酸化物層上にガスバリア性被覆層形成用組成物を塗布し、得られた塗膜を硬化させることによって形成できる。上記のとおりガスバリア性被覆層形成用組成物は、上記アルキルケイ素アルコキシド及びその加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも一方と、水溶性高分子と、必要に応じシランカップリング剤と、を含む。
ここで、塗膜を硬化させるとは、具体的には塗膜中に含まれる固形分を硬化させることを意味する。固形分が硬化するとは、固形分中のアルキルケイ素アルコキシド若しくはその加水分解物及び水溶性高分子、又は、アルキルケイ素アルコキシド若しくはその加水分解物、水溶性高分子及びシランカップリング剤が互いに反応して一体化することをいう。
【0029】
ガスバリア性被覆層形成用組成物の塗布方法としては、公知の方法を採用することができる。塗布方法としては、具体的には、グラビアコート法、ディップコート法、リバースコート法、ワイヤーバーコート法、ダイコート法等のウェット成膜法が挙げられる。
【0030】
塗膜の厚みは、所望のガスバリア性被覆層が得られる限りにおいて特に制限されないが、例えば700nm以下とすることができる。塗膜の厚みが700nm以下であると、塗膜の厚みが700nmを超える場合に比べて、赤外線により均一に予備加熱し易い。但し、形成されるバリア性被覆層のガスバリア性を向上させる観点からは、塗膜の厚みは、100nm以上であることがより好ましく、200nm以上であることが特に好ましい。
【0031】
塗膜はまず赤外線により予備加熱される。塗膜を熱風等により加熱・硬化させる前に赤外線を行うのは、主として面荒れを抑制するため、塗膜全体が均一に乾燥するよう塗膜全体に予め均一に熱量を与えるため、そして基材フィルムへの熱負荷を抑制するためである。
熱風による乾燥(加熱)は塗膜を乾燥させて硬化させる手段として優れるものの、対流伝熱を用いる乾燥方式であるため、塗膜に面荒れが生じ易い。また、塗膜表面から乾燥が進むため、塗膜の厚み方向で溶媒(水性媒体)の濃度勾配が生じ易い。これにより、塗膜表面に濃縮層が形成されて、内部の溶剤が揮発せずに残留し易くなる、皮張りという現象が生じる。特に溶質としてPVA等の水溶性高分子を用いる場合、その水分保持性と造膜性の高さから皮張りが生じ易い。皮張りにより塗膜表面が収縮すると、塗膜にシワが入ったりカールしたりするだけでなく、塗膜表面及び内部で加熱斑が生じる。このような加熱斑は、ガスバリア性被覆層表面の硬度を高く、内部の硬度を低くし易くするため、折り曲げ、引張、レトルトでのヒートショック等の外力によりクラックが入り易い。クラックの発生はバリア性の劣化に繋がる。
これに対し赤外線加熱(赤外線乾燥)は、輻射伝熱を用いる乾燥方式であり、塗膜に面荒れが生じ難い。また、赤外線により塗膜をその厚み方向に均一に加熱することができる。そのため、熱風による乾燥に先立ち赤外線により予備加熱を行うことで、上述の皮張りが生じ難く、塗膜や基材フィルムにおけるシワやカールを抑制することができる。また、加熱斑が生じ難いことからガスバリア性被覆層の硬度も均一になり易く(表面ばかりが硬くなり難く)、上述の皮張り状態と比較して外力によるクラックが入り難い。さらに、赤外線加熱では、塗膜の温度上昇よりも塗膜中の溶媒揮発へのエネルギー付加を支配的にすることで、基材フィルムへの熱負荷を抑制することができる。赤外線加熱により与えられるエネルギーは、塗膜の温度上昇と溶媒揮発に使用される。溶媒揮発へのエネルギー付加が支配的であるとき、溶媒の揮発潜熱により塗膜から熱エネルギーが奪われる。赤外線加熱による乾燥速度が速く効率的に乾燥が行われるとき、塗膜の加熱と揮発潜熱がバランスし、塗膜の温度上昇が行われない(恒率乾燥と呼ばれる)。したがって、塗膜だけでなく下層の基材フィルムも低温の状態が保たれるため、基材フィルムへの熱負荷を抑えることができる。
【0032】
赤外線による予備加熱は、例えば赤外線ヒーター(遠赤外線ヒーター)等の赤外線乾燥機を用いて実施することができる。赤外線ヒーターの条件は、例えば、中心波長4~30μm(遠赤外)とすることが好ましい。赤外線としては、遠赤外線、中赤外線及び近赤外線のいずれも採用し得るが、多くの溶媒は遠赤外線の範囲に吸収スペクトルを持っていることから遠赤外線であることが好ましい。また、溶媒が水である場合は高周波やマイクロ波による誘電加熱を用いることもできる。
【0033】
予備加熱温度は、塗膜全体に充分な熱量を与える観点から、40℃以上とすることができ、50℃以上であることが好ましい。また、予備加熱温度は、基材フィルムへの熱負荷を抑える観点から、70℃以下とすることができ、60℃以下であることが好ましい。予備加熱温度は、非接触の表面温度計(例えば、日置電機社製 放射温度計FT3700)により測定される塗膜の表面の温度である。
上記同様の観点から、予備加熱時間は、3秒以上とすることができ、5秒以上であることが好ましく、また15秒以下とすることができ、10秒以下であることが好ましい。
【0034】
予備加熱工程を経た塗膜は、上記のとおりある程度の低温状態が保たれたまま、溶媒量が減少している状態にあると言える。塗膜中に含まれる固形分を硬化させる(例えばシラノール基の脱水縮合をさせる)には、所定の温度まで塗膜自体の温度を上げる必要がある。
具体的には、塗膜の硬化は、熱風加熱等により、塗膜を所定の温度雰囲気下で加熱することによって行うことができる。熱風加熱は、例えばジェットノズル式ドライヤーを用いて実施することができる。加熱温度及び加熱時間は、基材層の変形(例えば熱収縮)を抑制し、かつガスバリア性被覆層形成用組成物中の固形分の硬化と水性媒体等の液体の除去を同時に行うことができるように設定される。加熱温度は、ガスバリア性被覆層形成用組成物中の固形分の硬化と水性媒体等の液体の除去を行う観点から、50℃以上であるが、60℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。また、加熱温度は、基材層の変形(例えば熱収縮)を抑制する観点から120℃以下であるが、110℃以下であることが好ましい。
上記同様の観点から、加熱時間は、3秒以上であることが好ましく、5秒以上であることがより好ましく、10秒以上であることがさらに好ましく、また10分以下であることが好ましく、5分以下であることがより好ましく、3分以下であることがさらに好ましい。
【0035】
以上のようにしてガスバリア性積層体が得られる。
【0036】
<ガスバリア性積層体>
図1は、本開示のガスバリア性積層体の一実施形態を示す断面図である。図1において、ガスバリア性積層体10は、ポリプロピレン樹脂又はポリエステル樹脂からなる基材層1と、金属酸化物層3と、ガスバリア性被覆層4とを、この順に備える。ガスバリア性被覆層4の硬さは、ナノインデンテーション法による測定において0.15GPa以上1.10GPa未満である。なお、ガスバリア性積層体10は、基材層1と金属酸化物層3との間にアンカーコート層2を有してもよい。
【0037】
このガスバリア性積層体10は、基材層におけるシワの発生が抑制された、外観及びバリア性能が良好なガスバリア性積層体であるということができる。
【0038】
以下、基材層1、アンカーコート層2、金属酸化物層3及びガスバリア性被覆層4について詳細に説明する。
【0039】
(基材層)
基材層1は、ガスバリア性被覆層4の支持体となる層であり、ポリプロピレン樹脂からなる。基材層1がポリプロピレン樹脂からなることで、例えば無延伸ポリプロピレン(CPP)とラミネートして得られる包装フィルムのリサイクル性が向上する。基材層1は実質的にポリプロピレン樹脂からなるものであればよく、ポリプロピレン樹脂としてはホモポリプロピレンでもプロピレンコポリマーでもよい。ポリプロピレン樹脂の含有率は、基材層1の全量を基準として99.5質量%以上であってよい。基材層1は、微量成分として帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤等の添加剤を含んでいてもよい。基材層1には、積層される層との密着性を向上するため、プラズマ処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0040】
基材層1は、ポリエステル(系)樹脂からなるものであってもよい。基材層1がポリエステル樹脂からなることで、ガスバリア性積層体の耐熱性が向上する。基材層1は実質的にポリエステル樹脂からなるものであればよく、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)、ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN)などが挙げられる。PETとしては、石油などの原料から新規に合成されたバージンPETや、再生されたPETであるリサイクルPETが挙げられる。リサイクルの対象であるPET製品には、使用済みペットボトルが含まれる。リサイクルPETとしては、メカニカルリサイクルにより再生されたPETや、ケミカルリサイクルにより再生されたPETが挙げられる。PETのテレフタル酸の一部がフタル酸に変性されていてもよい。ポリエステル樹脂の含有率は、基材層1の全量を基準として99.5質量%以上であってよい。基材層1は、微量成分として帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤等の添加剤を含んでいてもよい。基材層1には、積層される層との密着性を向上するため、プラズマ処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0041】
基材層1は、延伸フィルムでもよいし、無延伸フィルムでもよいが、酸素バリア性の観点からは、延伸フィルムであることが好ましい。ここで、延伸フィルムとしては、一軸延伸フィルム及び二軸延伸フィルムが挙げられるが、二軸延伸フィルムが、耐熱性を向上させることから、好ましい。
【0042】
基材層1の厚みは、特に制限されないが、例えば0.1mm以下であればよい。中でも、基材層1の厚みは、40μm以下であることが好ましく、35μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることが特に好ましい。基材層1の厚みが0.1mm以下であると、基材層1の厚みが0.1mmを超える場合に比べて、ガスバリア性積層体10の柔軟性がより向上し、虐待後のガスバリア性積層体10の酸素ガスバリア性をより向上させることができる。但し、強度を向上させる観点からは、基材層1の厚みは、10μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましい。
【0043】
(アンカーコート層)
アンカーコート層2は、基材層1と金属酸化物層3との密着性をより向上させるための層であり、基材層1と金属酸化物層3との間に設けられている。
【0044】
アンカーコート層2を構成する材料は、基材層1と金属酸化物層3との密着性を向上させることが可能なものであれば特に制限されるものではないが、このような材料としては、オルガノシラン又は有機金属化合物と、ポリオール化合物と、イソシアネート化合物との反応物を含む。すなわち、アンカーコート層2は、ウレタン系接着剤層であるということもできる。オルガノシランは、例えば3官能オルガノシラン、又は3官能オルガノシランの加水分解物である。有機金属化合物は、例えば金属アルコキシド又は金属アルコキシドの加水分解物である。有機金属化合物に含まれる金属元素は、例えばAl、Ti、Zr等である。オルガノシランの加水分解物及び金属アルコキシドの加水分解物はそれぞれ、少なくとも一つの水酸基を有していればよい。透明性の観点から、ポリオール化合物はアクリルポリオールであることが好ましい。イソシアネート化合物は、主に架橋剤又は硬化剤として機能する。ポリオール化合物及びイソシアネート化合物は、モノマーでもよいしポリマーでもよい。
【0045】
アンカーコート層2の厚みは、基材層1と金属酸化物層3との密着性を向上させることが可能な厚みであれば特に制限されるものではないが、好ましくは30nm以上である。この場合、アンカーコート層2の厚みが30nm未満である場合に比べて、基材層1の表面よりもアンカーコート層2の表面の平滑性をより向上させることが可能となり、金属酸化物層3の厚みをより均一にすることが可能となるとともに、酸素バリア性をより向上させることもできる。このため、ガスバリア性積層体10の酸素バリア性をより一層向上させることができる。アンカーコート層2の厚みは40nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましい。アンカーコート層2の厚みを大きくすることにより、延伸等の外力がかかった場合の水蒸気バリア性の低下を一層抑制することができる。アンカーコート層2の厚みは300nm以下であることが好ましい。この場合、アンカーコート層2の厚みが300nmを超える場合に比べて、ガスバリア性積層体10の柔軟性がより向上し、虐待後のガスバリア性積層体10の酸素ガスバリア性をより向上させることができる。アンカーコート層2の厚みは200nm以下であることがより好ましい。
【0046】
(金属酸化物層)
金属酸化物層3は、金属酸化物を含む層である。ガスバリア性積層体10は、金属酸化物層3を有することにより、ガスバリア性をより向上させることができる。
【0047】
金属酸化物を構成する金属としては、Si、Al、Mg、Sn、Ti、及びInからなる群より選択される少なくとも1種の原子が挙げられる。金属酸化物としては、水蒸気バリア性の観点から、SiO又はAlO(酸化ケイ素又は酸化アルミニウム)が好ましい。中でも、金属酸化物としては、SiOが好ましい。この場合、ガスバリア性積層体10がより優れた水蒸気バリア性を有することが可能となる。
金属酸化物層3は単層からなっていてもよく、複数層からなっていてもよい。
【0048】
金属酸化物層3の厚みは特に制限されるものではないが、5nm以上であることが好ましい。この場合、金属酸化物層3の厚みが5nm未満である場合に比べて、ガスバリア性積層体10の酸素バリア性がより向上する。金属酸化物層3の厚みは8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが特に好ましい。
【0049】
また、金属酸化物層3の厚みは80nm以下であることが好ましい。この場合、金属酸化物層3の厚みが80nmを超える場合に比べて、ガスバリア性積層体10の柔軟性がより向上し、虐待後のガスバリア性積層体10の酸素バリア性をより向上させることができる。また、レトルト処理後のガスバリア性積層体10の酸素バリア性をより向上させることもできる。金属酸化物層3の厚みは70nm以下であることがより好ましく、60nm以下であることが特に好ましい。
【0050】
(ガスバリア性被覆層)
ガスバリア性被覆層4は、ガスバリア性被覆層形成用組成物の硬化体で構成される。すなわち、ガスバリア性被覆層4は、アルキルケイ素アルコキシド及びその加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも一方と、水溶性高分子と、を含む組成物の加熱硬化物であるということができる。
【0051】
ガスバリア性被覆層4の硬さは、ナノインデンテーション法による測定において0.15GPa以上1.10GPa未満である。硬さが0.15GPa以上であることは、ガスバリア性被覆層形成用組成物中の固形分の硬化と水性媒体等の液体の除去が充分に行われたことを示す。また、硬さが0.15GPa以上であることで、必要とされるバリア性を確保しつつ、層が柔らか過ぎることによる裏移りが抑制されるため、均一な層が形成し易くなる。さらにヒートショック耐性が向上するため、レトルト処理等により劣化し難い。
一方で、硬さが1.10GPa未満であることは、加熱によりガスバリア性被覆層形成用組成物中の固形分の硬化と水性媒体等の液体の除去を行う際に、基材層に過度な熱が加わらなかったことを示し、これにより基材層の変形(例えば熱収縮)が抑制されたことになる。また、硬さが1.10GPa未満であることで、層が硬くなり過ぎることが抑制されるため、耐虐待性が向上する。
【0052】
ガスバリア性被覆層4の硬さは、好ましくは0.20GPa以上であり、より好ましくは0.50GPa以上である。また、ガスバリア性被覆層4の硬さは、好ましくは1.05GPa以下であり、より好ましくは1.0GPa以下であり、さらに好ましくは0.7GPa以下である。
【0053】
ガスバリア性被覆層4の複合弾性率は、11GPa以下であることが好ましい。この場合、ガスバリア性積層体は優れた耐虐待性を有すると言える。ガスバリア性被覆層4の複合弾性率は、より好ましくは10GPa以下であり、さらに好ましくは9GPa以下であり、特に好ましくは7GPaである。複合弾性率の下限は特に制限されないが、バリア性の観点から2GPa又は6GPaとすることができる。
【0054】
ガスバリア性被覆層4の硬さ及び複合弾性率は、ナノインデンテーション法より測定される。ナノインデンテーション法とは、目的の測定対象に対して準静的な押し込み試験を行い、試料の機械特性を取得する測定法である。
測定試料(断面試料)は以下のとおり作製する。すなわち、ガスバリア性積層体の両面にコロナ処理を実施後、可視光硬化性樹脂D-800に包埋させる。そして、ウルトラミクロトーム Leica EM UC7を用いてダイヤモンドナイフ マイクロスター LHにて、ガスバリア性積層体を積層方向に垂直に切断する。現れた断面に対し、切削厚 Feed 100nm、切削速度 Speed 1mm/sの条件にて仕上げ処理を行い、測定試料とする。
測定には、測定装置としてブルカージャパン株式会社製のHysitron TI-Premier(商品名)を、圧子としてブルカージャパン株式会社製のバーコビッチ型ダイヤモンド圧子を用いる。測定条件は以下のとおりとする。
温度:常温(25℃)。
モード:荷重制御モード。
押込み及び除荷:押し込み速度1.5μN/秒にて荷重15μNまで押し込みを行った後、最大荷重にて5秒間保持後、1.5μN/秒の速度にて除荷する。
測定箇所:圧子によって試料表面を走査する測定装置の形状測定機能によって、ガスバリア性被覆層断面の形状像を取得し、形状像からガスバリア性被覆層断面上を1μm以上の間隔で20点指定。
硬さ及び複合弾性率の算出に際しては、標準試料として溶融石英を用いて、圧子と試料の接触深さと接触投影面積の関係を予め校正しておく。その後、除荷時の最大荷重に対して60~95%領域の除荷曲線を、Oliver-Pharr法にて解析し、硬さ及び複合弾性率を算出する。
【0055】
ガスバリア性被覆層形成用組成物は、アルキルケイ素アルコキシド及びその加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも一方と、水溶性高分子と、を含む。
アルキルケイ素アルコキシドは、下記一般式(1)Si(OR)で表される。
Si(OR)・・・・・・(1)
一般式(1)中、Rは、アルキル基を表す。アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基などが挙げられる。中でも、エチル基が好ましい。この場合、アルキルケイ素アルコキシドはテトラエトキシシランとなり、加水分解後、水系の溶媒中で比較的安定化することが可能となる。
【0056】
固形分中のアルキルケイ素アルコキシド(及びその加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも一方)の含有率は特に制限されるものではないが、アルキルケイ素アルコキシドをSiOに換算した場合、8質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが特に好ましく、30質量%以上、40質量%以上、又は45質量%以上であることがさらに好ましい。固形分中のアルキルケイ素アルコキシドの含有率が8質量%以上であると、固形分中のアルキルケイ素アルコキシドの含有率が8質量%未満である場合に比べて、加熱殺菌処理後のガスバリア性積層体の酸素ガスバリア性及び密着性をより向上させることができる。
固形分中のアルキルケイ素アルコキシドの含有率は80質量%以下であることが好ましく、78質量%以下であることがより好ましく、75質量%以下であることが特に好ましい。固形分中のアルキルケイ素アルコキシドの含有率が80質量%以下であると、固形分中のアルキルケイ素アルコキシドの含有率が80質量%を超える場合に比べて、虐待後のガスバリア性積層体の酸素ガスバリア性をより向上させることができる。
【0057】
水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、その変性体、及び、ポリアクリル酸などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール樹脂又はその変性体が好ましい。この場合、この組成物は、硬化により、ガスバリア性積層体10に対してより優れたガスバリア性を付与することができる。また、この組成物は、硬化されても、ガスバリア性積層体10に対しより優れた柔軟性を付与することができ、虐待後における酸素バリア性をより向上させることができる。
【0058】
水溶性高分子が、ポリビニルアルコール樹脂又はその変性体で構成される場合、水溶性高分子の鹸化度は、特に制限されるものではないが、ガスバリア性積層体10のガスバリア性を向上させる観点からは、95%以上であることが好ましく、100%であってもよい。
【0059】
水溶性高分子の重合度は、特に制限されるものではないが、ガスバリア性積層体10のガスバリア性を向上させる観点からは、300以上であることが好ましい。水溶性高分子の重合度は、450~2400が好ましい。
【0060】
固形分中の水溶性高分子の含有率は20質量%以上であることが好ましく、22質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることが特に好ましい。固形分中の水溶性高分子の含有率が20質量%以上であると、固形分中の水溶性高分子の含有率が20質量%未満である場合に比べて、虐待後のガスバリア性積層体の酸素ガスバリア性をより向上させることができる。
固形分中の水溶性高分子の含有率は92質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることが特に好ましく、70質量%以下、60質量%以下、又は55質量%以下であることがさらに好ましい。固形分中の水溶性高分子の含有率が92質量%以下であると、固形分中の水溶性高分子の含有率が92質量%を超える場合に比べて、レトルト処理後のガスバリア性積層体10における層間密着性をより向上させることができる。
【0061】
ガスバリア性被覆層形成用組成物は、さらに硬化剤としてシランカップリング剤を含んでもよい。
【0062】
シランカップリング剤は特に制限されるものではないが、下記一般式(2)で表されるケイ素化合物及びその加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも一方であることが好ましい。
(RSi(OR・・・・・・(2)
上記一般式(2)中、Rは1価の有機官能基を表し、Rは、アルキル基、又は、-COCHを表す。
この場合、ガスバリア性被覆層4と金属酸化物層3との密着性を向上させることが可能となり、ガスバリア性積層体10における層間剥離(デラミネーション)を抑制することができる。
なお、RとRは互いに同一でも異なってもよい。R同士は互いに同一でも異なっていてもよい。
で示される1価の有機官能基としては、ビニル基、エポキシ基、メルカプト基、アミノ基、又は、イソシアネート基を含有する1価の有機官能基が挙げられる。中でも、1価の有機官能基としては、イソシアネート基が好ましい。この場合、組成物が、硬化によって、より優れた熱水耐性を有することが可能となり、ガスバリア性積層体10に対してレトルト処理後でもより大きなラミネート強度を付与することが可能となる。
で表されるアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基などが挙げられる。中でも、メチル基が好ましい。この場合、加水分解が速く行われる。
nは1以上の整数を表す。nが1である場合、シランカップリング剤は単量体を表すのに対し、nが2以上である場合、シランカップリング剤は多量体を表す。nは3であることが好ましい。この場合、ガスバリア性被覆層4の熱水耐性をより向上させることができ、ガスバリア性積層体10に対してレトルト処理後でもより大きなラミネート強度を付与することが可能となる。
【0063】
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基を持つシランカップリング剤;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン等のエポキシ基を持つシランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプト基を持つシランカップリング剤;3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を持つシランカップリング剤;3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、1,3,5-トリス(3-メトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等のイソシアネート基を持つシランカップリング剤が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
固形分中のシランカップリング剤の含有率は特に制限されないが、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは2質量%以上であり、特に好ましくは5質量%以上である。この場合、固形分中のシランカップリング剤の含有率が1質量%未満である場合に比べて、硬化により、ガスバリア性積層体10に対し、レトルト処理後でもより大きなラミネート強度を付与することができる。
固形分中のシランカップリング剤の含有率は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは18質量%以下であり、特に好ましくは15質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下である。この場合、固形分中のシランカップリング剤の含有率が20質量%を超える場合に比べて、シランカップリング剤がブリードアウトしにくくなり、表面を汚染することが抑制される。
なお、固形分中のシランカップリング剤の含有率は、例えばシランカップリング剤が上記一般式(2)で表される場合、シランカップリング剤の質量を、RSi(OH)の質量に換算して計算される。
【0065】
(固形分中のその他の成分)
固形分は、ガスバリア性被覆層4のガスバリア性を損なわない範囲で、分散剤、安定化剤、粘度調整剤、着色剤などの公知の添加剤を必要に応じてさらに含んでもよい。
【0066】
(固形分中の成分の合計含有率)
固形分中のアルキルケイ素アルコキシド又はその加水分解物、水溶性高分子及びシランカップリング剤の合計含有率は特に制限されるものではないが、通常は95質量%以上であり、好ましくは97質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0067】
(液体)
上記固形分を溶解又は分散させる液体としては、通常、水性媒体が用いられる。水性媒体としては、水、親水性の有機溶剤、またはこれらの混合物が挙げられる。親水性の有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン等のエーテル類;セロソルブ類;カルビトール類;アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
水性媒体としては、水のみからなる水性媒体、又は、水を主成分として含む水性媒体が好ましい。水性媒体が水を主成分として含む場合、水性媒体中の水の含有率は70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0069】
ガスバリア性被覆層4の厚みは特に制限されるものではないが、50nm以上であることが好ましい。
この場合、ガスバリア性被覆層4の厚みが50nm未満である場合に比べて、ガスバリア性積層体10の酸素バリア性がより向上する。
【0070】
ガスバリア性被覆層4の厚みは、ガスバリア性を向上させる観点から、100nm以上であることがより好ましく、200nm以上であることが特に好ましい。
一方、ガスバリア性被覆層4の厚みは700nm以下であることが好ましい。ガスバリア性被覆層4の厚みが700nmを超える場合に比べて、ガスバリア性積層体10の柔軟性がより向上し、虐待後のガスバリア性積層体10の酸素バリア性をより向上させることができる。また、レトルト処理後のガスバリア性積層体10の酸素バリア性をより向上させることもできる。
【0071】
ガスバリア性被覆層4の厚みは、ガスバリア性積層体10の柔軟性をより向上させる観点からは、500nm以下であることがより好ましく、400nm以下であることが特に好ましい。
【0072】
<包装フィルム>
次に、本開示の包装フィルムの実施形態について図2を参照しながら説明する。なお、図2において、図1と同一の構成要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0073】
図2は、本開示の包装フィルムの一実施形態を示す断面図である。図2に示すように、包装フィルム20は、ガスバリア性積層体10と、ガスバリア性積層体10に積層されるシーラント層21とを備えており、シーラント層21は、ガスバリア性積層体10の基材層1のガスバリア性被覆層4側に配置されている。図2に示すように、ガスバリア性積層体10において、ガスバリア性被覆層4とシーラント層21とが接着剤層22によって接着されていてもよい。
【0074】
この包装フィルム20は、上記ガスバリア性積層体10を備えるため、外観及びバリア性能が良好なフィルムであるということができる。
【0075】
接着剤層22の材料としては、例えば、ポリエステル-イソシアネート系樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル系樹脂などを用いることができる。包装フィルム20をレトルト用途に使用するには、レトルト処理耐性のある2液硬化型のウレタン系接着剤を好ましく用いることができる。
【0076】
(シーラント層)
シーラント層21の材質としては、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられるが、ポリオレフィン樹脂が一般的に使用される。具体的に、ポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体などのエチレン系樹脂、ホモポリプロピレン樹脂(PP)、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂、又はこれらの混合物等を使用することができる。シーラント層21の材質は、上述した熱可塑性樹脂の中から、使用用途やボイル処理、レトルト処理などの温度条件によって適宜選択できる。
【0077】
シーラント層21を構成する熱可塑性樹脂は、延伸されていても延伸されていなくてもよいが、融点を低下させ、ヒートシールを容易にする観点からは、延伸されていない方(例えばCPP)が好ましい。
【0078】
シーラント層21の厚みは、内容物の質量や、包装袋の形状などにより適宜定められ、特に限定されるものではないが、包装フィルム20の柔軟性及び接着性の観点から、30~150μmであることが好ましい。
【0079】
<包装製品>
次に、本開示の包装製品の実施形態について図3を参照しながら説明する。なお、図3は、本開示の包装製品の一実施形態を示す側面図である。図3において、図1又は図2と同一の構成要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
図3に示すように、包装製品40は、包装容器30と、包装容器30内に充填された内容物Cとを備えている。図3に示す包装容器30は、一対の包装フィルム20を用い、シーラント層21同士を対向させた状態で包装フィルム20の周縁部をヒートシールすることによって得られたものである。なお、図3において、包装フィルム20の接着剤層22は省略して示してある。
【0080】
この包装製品40は、包装容器30を備えており、包装容器30は外観及びバリア性能が良好であるため、内容物の視認性に優れ、また酸素の混入による内容物Cの品質の低下を長期間にわたって抑制することができる。
【0081】
なお、包装容器30は、1つの包装フィルム20を折り曲げ、シーラント層21同士を対向させた状態で包装フィルム20の周縁部をヒートシールすることによっても得ることができる。
【0082】
包装容器30としては、包装袋、ラミネートチューブ容器、液体紙容器などが挙げられる。
【0083】
内容物Cは、特に限定されるものではなく、内容物Cとしては、食品、液体、医薬品、電子部品などが挙げられる。
【0084】
本開示は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、包装フィルム20において、シーラント層21が、ガスバリア性積層体10の基材層1のガスバリア性被覆層4側に配置されているが、シーラント層21は、基材層1のガスバリア性被覆層4と反対側に配置されていてもよい。
【0085】
<本実施形態の概要>
[1]
ポリプロピレン樹脂又はポリエステル樹脂からなる基材層上に、真空成膜法により金属酸化物層を形成する工程と、
前記金属酸化物層上にガスバリア性被覆層形成用組成物を塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を赤外線により予備加熱する工程と、
前記赤外線により予備加熱した前記塗膜を、50~120℃の雰囲気で加熱することによって硬化させ、ガスバリア性被覆層を形成する工程と、を備え、
前記ガスバリア性被覆層形成用組成物が、アルキルケイ素アルコキシド及びその加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも一方と、水溶性高分子と、を含む、ガスバリア性積層体の製造方法。
[2]
前記ガスバリア性被覆層形成用組成物が、さらにシランカップリング剤を含む、[1]に記載の製造方法。
[3]
ポリプロピレン樹脂又はポリエステル樹脂からなる基材層と、金属酸化物層と、ガスバリア性被覆層と、をこの順に備え、
前記ガスバリア性被覆層の硬さが、ナノインデンテーション法による測定において0.15GPa以上1.10GPa未満である、ガスバリア性積層体。
[4]
前記ガスバリア性被覆層の複合弾性率が、11GPa以下である、[3]に記載のガスバリア性積層体。
[5]
前記基材層と前記金属酸化物層との間にアンカーコート層をさらに備える、[3]又は[4]に記載のガスバリア性積層体。
[6]
前記金属酸化物層が、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素の少なくともいずれかを含む、[3]~[5]のいずれか一項に記載のガスバリア性積層体。
[7]
[3]~[6]のいずれか一項に記載のガスバリア性積層体と、シーラント層とを備える包装フィルム。
[8]
[7]に記載の包装フィルムを備える包装容器。
[9]
[8]に記載の包装容器と、前記包装容器内に充填される内容物とを備える包装製品。
【実施例
【0086】
以下、実施例を挙げて本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0087】
<コート液の調製>
各例で用いられるガスバリア性被覆層形成用組成物としてのコート液1~2を以下のようにして調製した。
【0088】
(コート液1)
以下のA~C液を混合し、コート液1を得た。コート液1は、固形分を100とした場合に、TEOS(SiO換算値)とPVAとイソシアヌレートシラン(RSi(OH)換算値)との質量比率が68/27/5になるように調製した。
A液:アルキルケイ素アルコキシドとしてのテトラエトキシシラン(商品名:KBE04、固形分:100%、信越化学工業株式会社製、「TEOS」ともいう)17.9g、メタノール(関東化学)10g、及び0.1N 塩酸(関東化学株式会社製)72.1gを混合し、加水分解した溶液(TEOSの5質量%(SiO換算)加水分解溶液)。
B液:ポリビニルアルコール(商品名:クラレポバール60-98、株式会社クラレ製、「PVA」ともいう)の5質量%水溶液。
C液:シランカップリング剤(SC剤)としての1,3,5-トリス(3-メトキシシリルプロピル)イソシアヌレート(商品名:X-12-965P、信越化学工業株式会社製)を、水/IPA=1/1の質量比の混合溶液で、固形分の割合が5%(質量比、RSi(OH)換算)となるように希釈、調整してなる溶液。
【0089】
(コート液2)
上記のA~C液を混合し、コート液2を得た。コート液2は、固形分を100とした場合に、TEOS(SiO換算値)とPVAとイソシアヌレートシラン(RSi(OH)換算値)との質量比率が47.6/47.6/4.8になるように調製した。
【0090】
<アンカーコート層形成用組成物の調製>
アンカーコート層形成用組成物は以下のようにして調製した。
アクリルポリオールとトリレンジイソシアネートとを、アクリルポリオールのOH基の数に対してトリレンジイソシアネートのNCO基の数が等量となるように混合し、固形分(アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量)が5質量%になるよう酢酸エチルで希釈した。希釈後の混合液に、さらにβ-(3,4エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシランを、アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量100質量部に対して5質量部となるように添加し、これらを混合することでアンカーコート層形成用組成物(アンカーコート剤)を調製した。
【0091】
<ガスバリア性積層体の作製:実験A(PP)>
(実施例A-1)
ガスバリア性積層体をロールtoロール方式で以下のように作製した。まず、厚み20μmの基材層としてのポリプロピレン樹脂フィルム(商品名「U-1」、二軸延伸フィルム:OPP、三井化学東セロ株式会社製)を、巻き出し装置、搬送装置、及び巻き取り装置に装着した。
【0092】
次に、搬送中の基材層の一面上に、上記のようにして調製したアンカーコート層形成用組成物をグラビアコート法により塗布して塗膜を形成した。そして、塗膜を120℃で10秒間加熱し、乾燥させることにより、厚み50nmのアンカーコート層(AC層)を形成し、積層体を得た。こうして得られた積層体を巻き取り装置で巻き取り、ロール状積層体を得た。
【0093】
次に、ロール状積層体を巻き出し装置、搬送装置、及び巻き取り装置に装着した。そして、ロール状積層体から積層体を繰り出し、搬送中の積層体のアンカーコート層上に、厚みが20nmとなるようにSiO膜(金属酸化物層)を形成した。このとき、SiO膜の形成は、電子ビーム加熱方式の真空蒸着装置を用いて、二酸化ケイ素を電子ビーム加熱によって蒸発させることによって行った。
【0094】
このSiO膜上にコート液1を塗工して塗膜を形成した。形成した塗膜に対し、遠赤外線ヒーターを用いて、予備加熱温度:50℃、時間:5秒間の条件にて遠赤外線による予備加熱を行った。遠赤外線ヒーターの条件は、中心波長:6μm、セラミック温度:203℃、放射率0.93であった。
【0095】
赤外線により予備加熱した塗膜を、さらに表1に示す条件(60℃の雰囲気で60秒間)にてショットノズル式ドライヤーを用いて加熱乾燥させて、300nmの厚みを有するガスバリア性被覆層を形成した。このとき、加熱は、コート液1中の固形分を構成するTEOSとPVAとイソシアヌレートシランとが硬化して硬化体を形成しつつ、コート液1中の液体を除去するように行った。
【0096】
以上のようにして、基材層、アンカーコート層、金属酸化物層、及びガスバリア性被覆層がこの順で積層されたガスバリア性積層体を得た。
【0097】
(実施例A-2、A-4及びA-5)
バリア性被覆層の厚み及び乾燥条件を表1に示すとおりとしたこと以外は、実施例A-1と同様にしてガスバリア性積層体を得た。
【0098】
(実施例A-3)
アンカーコート層を形成せずに基材層の一面上に表面処理を施したこと以外は、実施例A-1と同様にして各層を積層し、基材層、金属酸化物層、及びガスバリア性被覆層がこの順で積層されたガスバリア性積層体を得た。表面処理は、真空装置内において基材層の表面にグロー放電(出力350W)によるプラズマ処理を施すことで行った。処理雰囲気は酸素ガス(10Pa)とした。
【0099】
(実施例A-6)
アンカーコート層上に、厚みが15nmとなるようにAlO膜(金属酸化物層)を形成したこと以外は、実施例A-1と同様にしてガスバリア性積層体を得た。AlO膜の形成は、電子ビーム加熱方式の真空蒸着装置を用いて、アルミニウムインゴットを電子ビーム加熱によって蒸発させながら、圧力が1.2×10-2Paとなるよう酸素を導入することによって行った。
【0100】
(実施例A-7)
バリア性被覆層の厚み及び乾燥条件を表1に示すとおりとしたこと以外は、実施例A-6と同様にしてガスバリア性積層体を得た。
【0101】
(実施例A-8及びA-9)
コート液1に代えてコート液2を用いたこと、バリア性被覆層の厚み及び乾燥条件を表1に示すとおりとしたこと以外は、実施例A-1と同様にしてガスバリア性積層体を得た。
【0102】
(実施例A-10及びA-11)
コート液1に代えてコート液2を用いたこと、バリア性被覆層の厚み及び乾燥条件を表1に示すとおりとしたこと以外は、実施例A-6と同様にしてガスバリア性積層体を得た。
【0103】
(比較例A-1及びA-3)
バリア性被覆層に対し遠赤外線加熱を行わなかったこと、バリア性被覆層の厚み及び乾燥条件を表1に示すとおりとしたこと以外は、実施例A-1と同様にしてガスバリア性積層体を得た。
【0104】
(比較例A-2及びA-4)
コート液1に代えてコート液2を用いたこと、バリア性被覆層に対し遠赤外線加熱を行わなかったこと、バリア性被覆層の厚み及び乾燥条件を表1に示すとおりとしたこと以外は、実施例A-1と同様にしてガスバリア性積層体を得た。
【0105】
<ガスバリア性積層体の作製:実験B(PET)>
(実施例B-1)
ガスバリア性積層体をロールtoロール方式で以下のように作製した。まず、厚み12μmの基材層としてのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名「P60」:東レ株式会社製)を、巻き出し装置、搬送装置、及び巻き取り装置に装着した。
【0106】
次に、搬送中の基材層の一面上に表面処理を施した。表面処理は、真空装置内において基材層の表面にグロー放電(出力350W)によるプラズマ処理を施すことで行った。処理雰囲気は酸素ガス(10Pa)とした。これを巻き取り装置で巻き取り、表面処理が施されたロール状のPETフィルムを得た。
【0107】
次に、当該ロール状のPETフィルムを巻き出し装置、搬送装置、及び巻き取り装置に装着した。そして、ロール状のPETフィルムからPETフィルムを繰り出し、搬送中のPETフィルムの表面処理が施された面上に、厚みが20nmとなるようにSiO膜(金属酸化物層)を形成した。このとき、SiO膜の形成は、電子ビーム加熱方式の真空蒸着装置を用いて、二酸化ケイ素を電子ビーム加熱によって蒸発させることによって行った。
【0108】
このSiO膜上にコート液1を塗工して塗膜を形成した。形成した塗膜に対し、遠赤外線ヒーターを用いて、予備加熱温度:50℃、時間:5秒間の条件にて遠赤外線による予備加熱を行った。遠赤外線ヒーターの条件は、中心波長:6μm、セラミック温度:203℃、放射率0.93であった。
【0109】
赤外線により予備加熱した塗膜を、さらに表2に示す条件(80℃の雰囲気で60秒間)にてショットノズル式ドライヤーを用いて加熱乾燥させて、300nmの厚みを有するガスバリア性被覆層を形成した。このとき、加熱は、コート液1中の固形分を構成するTEOSとPVAとイソシアヌレートシランとが硬化して硬化体を形成しつつ、コート液1中の液体を除去するように行った。
【0110】
以上のようにして、基材層、金属酸化物層、及びガスバリア性被覆層がこの順で積層されたガスバリア性積層体を得た。
【0111】
(実施例B-2)
表面処理を施さずにアンカーコート層を形成した。具体的には、搬送中の基材層の一面上に、上記のようにして調製したアンカーコート層形成用組成物をグラビアコート法により塗布して塗膜を形成した。そして、塗膜を120℃で10秒間加熱し、乾燥させることにより、厚み50nmのアンカーコート層(AC層)を形成し、積層体を得た。こうして得られた積層体を巻き取り装置で巻き取り、ロール状積層体を得た。その後は、得られたロール状積層体を用いて実施例B-1と同様にして各層を積層することで、基材層、アンカーコート層、金属酸化物層、及びガスバリア性被覆層がこの順で積層されたガスバリア性積層体を得た。
【0112】
(実施例B-3)
アンカーコート層上に、厚みが15nmとなるようにAlO膜(金属酸化物層)を形成したこと以外は、実施例B-2と同様にしてガスバリア性積層体を得た。AlO膜の形成は、電子ビーム加熱方式の真空蒸着装置を用いて、アルミニウムインゴットを電子ビーム加熱によって蒸発させながら、圧力が1.2×10-2Paとなるよう酸素を導入することによって行った。
【0113】
(実施例B-4)
バリア性被覆層の厚み及び乾燥条件を表2に示すとおりとしたこと以外は、実施例B-3と同様にしてガスバリア性積層体を得た。
【0114】
(実施例B-5)
基材層として、PETフィルムに代えて、厚み15μmのポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム(商品名「ボブレットST」:興人フィルム&ケミカルズ株式会社製)を用いたこと、バリア性被覆層の乾燥条件を表2に示すとおりとしたこと以外は、実施例B-3と同様にしてガスバリア性積層体を得た。
【0115】
(実施例B-6)
基材層として、PETフィルムに代えて、厚み12μmのポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(商品名「テオネックス Q51」:東洋紡株式会社製)を用いたこと、バリア性被覆層の乾燥条件を表2に示すとおりとしたこと以外は、実施例B-3と同様にしてガスバリア性積層体を得た。
【0116】
(比較例B-1及びB-3)
バリア性被覆層に対し遠赤外線加熱を行わなかったこと、バリア性被覆層の厚み及び乾燥条件を表2に示すとおりとしたこと以外は、実施例B-3と同様にしてガスバリア性積層体を得た。
【0117】
(比較例B-2)
実施例B-3と同様にしてAlO膜(金属酸化物層)を形成したこと、バリア性被覆層に対し遠赤外線加熱を行わなかったこと、バリア性被覆層の厚み及び乾燥条件を表2に示すとおりとしたこと以外は、実施例B-1と同様にしてガスバリア性積層体を得た。
【0118】
<ガスバリア性被覆層の硬さ及び複合弾性率測定>
各例で得られたガスバリア積層体のガスバリア性被覆層の硬さ及び複合弾性率を、以下のようにしてナノインデンテーション法により測定した。
測定試料(断面試料)は以下のとおり作製した。すなわち、ガスバリア性積層体の両面にコロナ処理を実施後、可視光硬化性樹脂D-800に包埋させた。そして、ウルトラミクロトーム Leica EM UC7を用いてダイヤモンドナイフ マイクロスター LHにて、ガスバリア性積層体を積層方向に垂直に切断した。現れた断面に対し、切削厚 Feed 100nm、切削速度 Speed 1mm/sの条件にて仕上げ処理を行い、測定試料とした。
測定には、測定装置としてブルカージャパン株式会社製のHysitron TI-Premier(商品名)を、圧子としてブルカージャパン株式会社製のバーコビッチ型ダイヤモンド圧子を用いた。測定条件は以下のとおりとした。
温度:常温(25℃)。
モード:荷重制御モード。
押込み及び除荷:押し込み速度1.5μN/秒にて荷重15μNまで押し込みを行った後、最大荷重にて5秒間保持後、1.5μN/秒の速度にて除荷。
測定箇所:圧子によって試料表面を走査する測定装置の形状測定機能によって、ガスバリア性被覆層断面の形状像を取得し、形状像からガスバリア性被覆層断面上を1μm以上の間隔で20点指定。
硬さ及び複合弾性率の算出に際しては、標準試料として溶融石英を用いて、圧子と試料の接触深さと接触投影面積の関係を予め校正した。その後、除荷時の最大荷重に対して60~95%領域の除荷曲線を、Oliver-Pharr法にて解析し、ガスバリア性被覆層の硬さ及び複合弾性率を算出した。結果を表1及び2に示す。
【0119】
<ガスバリア性積層体の評価>
(1)外観検査
各例で得られたガスバリア積層体の外観検査を行った。具体的には1m×100mのサイズに加工した後、そこから無作為に10cm角のサンプルを10枚切り出し、10枚のうち1枚でもシワが視認された場合を「不良」とし、1枚も視認されない場合を「良好」と評価した。結果を表1及び2に示す。
【0120】
(2)ラミネートフィルムの作製
各例で得られたガスバリア性積層体のガスバリア性被覆層の表面上に、2液型の接着剤(商品名「タケラックA-525/タケネートA-52」、三井化学株式会社製)を用いて、厚み60μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP、商品名「トレファン ZK207」、東レフィルム加工株式会社製)を貼り付けることによって、表面の幅が210mmであるラミネートフィルムを作製した。
【0121】
(3)酸素透過度の測定
酸素透過度測定装置(製品名「OX-TRAN2/20」、MOCON社製)を用い、上記ラミネートフィルムについて、温度30℃、相対湿度70%の条件で酸素透過度(単位:cc/m・day・atm)を初期の酸素透過度(レト前)として測定した。このとき、測定は、JIS K-7126-2に準拠して行った。結果を表1及び2に示す。
【0122】
(4)レトルト処理後の酸素バリア性
(試験サンプルの作製)
上記のようにして作製したラミネートフィルムを用いて、開口を有する三方パウチを作製した。このとき、三方パウチは、ラミネートフィルムを、未延伸ポリプロピレンフィルム同士が対向するように折り曲げ、未延伸ポリプロピレンフィルム同士を熱融着させることによって形成した。そして、開口から水道水(市水)を注入して三方パウチの開口を封止することにより、封止体を用意し、この封止体を試験サンプルとした。
(レトルト処理)
上記のようにして得られた試験サンプルについて、121℃で30分間の加熱処理(レトルト処理)を行った。そして、レトルト処理後の酸素透過度(レト後)を、上述した初期の酸素透過度の測定と同様にして測定した。結果を表1及び2に示す。
【0123】
(5)虐待後の酸素バリア性
上記ラミネートフィルムに対して、以下のようにして屈曲試験(ゲルボフレックス試験)及び延伸試験を行うことにより虐待を行い、虐待後の酸素透過度(ゲルボ後)を、上述した初期の酸素透過度の測定と同様にして測定した。結果を表1及び2に示す。
(屈曲試験)
上記ラミネートフィルムから縦297mm×横210mmの試験サンプルを切り出し、この試験サンプルを、ゲルボフレックステスター(テスター産業社製)の固定ヘッドに、直径87.5mm×210mmの円筒状になるように取り付け、円筒体を作製した。そして、円筒体の両端を保持し、初期把持間隔を175mm、ストロークを87.5mmに設定して440度のひねりを加える動作を繰り返し行う往復運動を、速度40回/分で10回行い、円筒体を屈曲させた。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
表1及び2に示すように、実施例のガスバリア性積層体は、比較例のガスバリア性積層体に比べて、基材層におけるシワの発生が抑制されており、またガスバリア性被覆層にクラックが入り難い傾向があった。すなわち、実施例のガスバリア性積層体は、外観及びバリア性能が良好なガスバリア性積層体であると言える。
【符号の説明】
【0127】
1…基材層、3…金属酸化物層、4…ガスバリア性被覆層、10…ガスバリア性積層体、20…包装フィルム、21…シーラント層、30…包装容器、40…包装製品。
図1
図2
図3