(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】FRPと金属材の接着一体化物とその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/48 20060101AFI20240409BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20240409BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20240409BHJP
B29C 70/68 20060101ALI20240409BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20240409BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240409BHJP
B29K 105/06 20060101ALN20240409BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
B29C65/48
B29C45/14
B29C70/16
B29C70/68
B29C70/42
B32B15/08 Z
B29K105:06
B29L9:00
(21)【出願番号】P 2021040744
(22)【出願日】2021-03-12
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000206141
【氏名又は名称】大成プラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【氏名又は名称】富崎 曜
(72)【発明者】
【氏名】安藤 直樹
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第99/010168(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/129360(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/133030(WO,A1)
【文献】特開2021-037662(JP,A)
【文献】特開2019-119147(JP,A)
【文献】特開2016-221784(JP,A)
【文献】国際公開第2008/114669(WO,A1)
【文献】特開2017-036426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00- 65/82
B29C 45/00- 45/84
B29C 70/00- 70/88
B32B 1/00- 43/00
C09J 1/00- 5/10
C09J 9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単方向に引き揃えた炭素繊維を有するCFRP又はCFRTPプリプレグを、前記炭素繊維方向を合致させて積層して作成されたFRP厚板状物と、
前記FRP厚板状物
に一面が固着され他面が化成処理された表面を有する厚さ0.2~1.0mmの金属薄板と、
前記金属薄板の
前記化成処理された表面に接着剤で接合された
、化成処理された表面を有する高強度Al合金材と
が一体に積層して作成された一体化物において、
前記接着剤がエポキシ樹脂系接着剤であり、かつ接着後に硬化された接着剤層の肉厚が0.3mm以上である
ことを特徴とするFRPと金属材の接着一体化物。
【請求項2】
単方向に引き揃えられた炭素繊維が互いに交差するようにCFRP又はCFRTPプリプレグを積層し、又は、前記炭素繊維の織布を有するCFRP又はCFRTPプリプレグを積層して作成されたFRP厚板状物と、
前記FRP厚板状物
に一面が固着され他面が化成処理された表面を有する厚さ0.2~1.0mmの金属薄板と、
前記金属薄板の
前記化成処理された表面に接着剤で接合された
、化成処理された表面を有するTi合金材と
が一体に積層して作成された一体化物において、
前記接着剤がエポキシ樹脂系接着剤であり、かつ接着後の前記接着剤の肉厚が0.3mm以上ある
ことを特徴とするFRPと金属材の接着一体化物。
【請求項3】
単方向に引き揃えられた炭素繊維有するCFRPプリプレグと、前記炭素繊維と交差し、単方向に引き揃えられたガラス繊維を有するGFRPプリプレグを積層して作成されたFRP厚板状物と、
前記FRP厚板状物
に一面が固着され、他面が化成処理された表面を有する厚さ0.2~1.0mmの金属薄板と、
前記金属薄板の
前記化成処理された表面に接着剤で接合された
、化成処理された表面を有するTi合金材と
が一体に積層して作成された一体化物において、
前記接着剤がエポキシ樹脂系接着剤であり、かつ、接着後に硬化された接着剤層の肉厚が0.3mm以上である
ことを特徴とするFRPと金属材の接着一体化物。
【請求項4】
請求項
1、2及び3から選択される1項に記載のFRPと金属材の接着一体化物において、
前記の金属薄板は、A5052Al合金、A5083Al合金、及びA6061Al合金から選択される1種である
ことを特徴とするFRPと金属材の接着一体化物。
【請求項5】
請求項
2及び3から選択される1項に記載のFRPと金属材の接着一体化物において、
前記交差する角度は、90度である
ことを特徴とするFRPと金属材の接着一体化物。
【請求項6】
請求項
1ないし5から選択される1項に記載のFRPと金属材の接着一体化物の製造方法であって、
表面が化成処理された前記金属
材を射出成形金型にインサートして、高さが0.3~2.0mmの液体を貯留可能な囲壁を射出成形する囲壁成形工程と、
前記金属
材の前記囲壁内に、加熱硬化されていない前記エポキシ樹脂系接着剤である硬化前エポキシ樹脂系接着剤を充填する接着剤充填工程と、
前記FRP厚板状物、前記金属材、及び前記金属薄板から選択される一つの表面に、前記硬化前エポキシ樹脂系接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
前記硬化前エポキシ樹脂系接着剤が充填された前記囲壁
を前記一つの表面に圧着させて接合する接合工程と、
前記接合された前記一体化物を加熱して、前記硬化前エポキシ樹脂系接着剤を加熱して硬化させる接着剤硬化工程と
からなることを特徴とするFRPと金属材の接着一体化物の製造方法。
【請求項7】
請求項
6に記載のFRPと金属材の接着一体化物の製造方法であって、
前記接着剤充填工程、及び前記接着剤塗布工程後に、前記硬化前エポキシ樹脂系接着剤を減圧、常圧の繰り返しに操作により、前記硬化前エポキシ樹脂系接着剤内の気体を脱気する接着剤脱気工程と
からなることを特徴とするFRPと金属材の接着一体化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRPと金属材の接着一体化物とその製造方法に関する。詳しくは、飛行機、自動車等の構造体において、高強度構造材用の金属とCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)の異材質同士を接着により接合した、FRPと金属材の接着一体化物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CFRP材が超軽量高強度材として、大型旅客機の主翼等の構造材に使用されるようになって既に10年以上経過している。ここで採用されている主翼材であるCFRP部材と、金属構造材で作られている胴体への固定は、直接的な固定ではなく、超々ジュラルミン(A7075Al合金)製の締結部材により、胴体に機械的な締結方法により固定されている。CFRPの機械的な剛性は、高強度金属に匹敵する機械強度を備えているが、正確には炭素繊維(以下「CF」という。)に支えられたプラスチックであり、構造物として締結構造とすると、例えば、CFRPに貫通孔を開けて、ボルト・ナット結合するとき、ナット締め過ぎるとCFRPは簡単に破壊される。このために特殊なボルト・ナット構造等も提案されている。
【0003】
CFRP材は、熱硬化型エポキシ樹脂がマトリックス樹脂であるCFを使用した繊維強化樹脂材であり、エポキシ接着剤を使って金属部材と接着可能である。しかしながら、実際に大型旅客機等で採用されたのは、伝統的な多数のTi合金製リベットを使用したリベット接合法であった。CFRP材と金属の接合に、ボルト・ナットによる締結方法が採用されていない事実から伺えることは、接着剤接合法には未解決事項が多々あるためである。高強度金属材同士の機械的な組立では、リベットによる接合方法は組立方法として十分完成しており、その歴史は軽く半世紀を超える。しかし、仮に接着剤による接合組立法が航空機で実用化できたとすれば、この方法は、リベット接合法、ボルト・ナット締結法に比較して、機体の軽量構造をより容易に貢献できる。取り分け、接着剤によりCFRP材の翼と、高強度金属製である胴体中央部の主構造部との締結が実用化できれば、その技術は大型旅客機だけでなく小型機、軍用機、高速ドローン機等の飛行体のみならず、軽量化が要請される自動車等の組立構造物にも適用できる。
【0004】
[接着法の問題点]
現在の機械、建造物等の構造体の組立物の固着には、ネジ構造が多く採用されている。即ち、部品間の接着に接着剤を用いた組立方法は、機械製造業全体で見れば稀な固着方法である。旅客機の胴体部の組立には、今日では接着構造が一部採用されている。即ち、A7075Al合金(超々ジュラルミン)製の肋骨構造部と、A2024Al合金(超ジュラルミン)製の表皮用板材との固着には、接着剤接合が通常の旅客機胴部構造となっている。この部分の組立は、過去はリベットにより、その後はネジ若しくは抵抗溶接も使われたが、今日では接着法が最も軽量で信頼性も高いことから定着した。逆に言えば、航空機製造業以外に重要な構造部組立に接着構造が採用されることは殆どない。又、別の観点でいうと、接着剤による固着法は、同種の金属材同士の接合にしか採用されていない。即ち、上記の例も、超々ジュラルミンと超ジュラルミンとの接着剤接合物であり、アルミ合金同士の接着物である。
【0005】
何故に、CFRP材とA7075Al合金の接着剤接合物が航空機の基本構造部に採用されていないかである。結論からすれば、部材間の熱膨張率の差が大きいことにより、接着剤が耐えられないためである。仮に、今日の接着剤で、最高の接着力があるとされている1液性エポキシ接着剤を使用しても、その2/3程度の接着力しか得られない。常温付近で接着硬化操作が可能な2液性エポキシ接着剤を使用しても同様である。この接着構造を航空機で採用すると、成層圏から熱帯地方で使用されるので、-50℃~+150℃となり、温度差が大きくその接着部は熱膨張の差により、接着剤が破壊される。なお、本発明者は、後述する「NAT(Nano adhesion technologyの略)」の発明者である。即ち、NATとは本発明者が提案した接着剤による接合技術を指し、そこで使用する接着剤はエポキシ接着剤である。以下に出てくる「NAT処理」(金属表面の化成処理であり、この具体的な化成処理は、実験例等で後述する。)とは、各種金属材に対して良被着性を示すように行う、各種金属材向けの表面処理法を指している。
【0006】
更には、同じCFRPの試験片同士を、エポキシ接着剤を使用して、
図1に示す形状物の接着対(試験片)でせん断接着強さを測定した。この測定結果は、接着力の高いエポキシ接着剤を用い、最適な接着面で接着硬化させた接着対であっても、そのせん断接着強さは、平均で約40MPa、又は、最大でも55~60MPaである。最大値を示す接着対の破断後の接着面跡を観察すると、CF髭(破損したCF)が観察された。この試験片の破断は、CFRP片の表面と接着剤硬化物表面の間で生じたものではなく、CF繊維表面とCFRPのマトリックス樹脂間で破断していることを示す。要するに、繊維断面が真円形で、かつ繊維側面が円滑で円滑な最新型CF(引張り強さ約6GPa)では、CF表面と、マトリックス樹脂と成す熱硬化型エポキシ樹脂間の接着力が約40MPaである。なお、CFの断面形状は、正確には楕円形、菱形、瓢箪型等であって、かつ繊維側面には縦筋や所々に凸部凹部が存在する旧型CF(引張り強さ約3GPa)がある。このためにCF表面と、マトリックス樹脂成す熱硬化型エポキシ樹脂間の真の接着力は、約40MPaである。計算した見かけの接着力が55~60MPaを示すのは、これらの変形したCF断面形状を円形断面物として計算されたものであり、いわば見かけの接着力である。要するに、表面が化成処理された金属材と、CFRP材を直接接着して線膨張率差もない状態で、その
図1に示した接着対(試験片)を引張り試験しても、その破断面が金属側表面近傍になることはなく、必ずCFRP材側のCFとマトリックス樹脂の界面付近で破断する(特許文献1参照)。
【0007】
結局、各種金属材に対応して接着力を向上すべく、表面形状を最適化するための化成処理法を改善して、エポキシ接着剤使用時の被着力を60MPa以上にする研究開発を行うことは、CFRP材とエポキシ接着剤硬化物間の接着力が、40MPa、又は55~60MPaしかないので技術的に意味のないことであるし、金属材との直接接着を考えている限り意味がないことになる。特に、航空機の用途では、引張強さが強い6GPaある最新型CFを用いたCFRP材が使用されていることから、金属材の表面の化成処理法を改善して、エポキシ接着剤に対する被着力を40MPa以上にする努力を行う意味はないことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-073191
【文献】特願2020-018513
【文献】WO2004/041532
【文献】WO2012/070654
【文献】WO2008/081933
【文献】WO2008/078714
【文献】WO2009/011398
【文献】WO2008/114669
【文献】WO2008/133096
【文献】WO2008/133296
【文献】WO2008/133030
【文献】WO2008/146833
【文献】特開2018-111277
【文献】特開2011-006544
【文献】特開2016-150547
【非特許文献】
【0009】
【文献】日経ものづくり 機械要素技術展報告「アルミとCFRPを積層した高比強度複合材、大成プラスと東レが共同開発 2009年6月24日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のような問題点を解決するために、本発明は以下のような目的を達成するものである。
本発明の目的は、熱膨張率が大きく異なる高強度金属とCFRPとの接着強度を最大化した、FRPと金属材の接着一体化物とその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、構造物の軽量化が図れる、FRPと金属材の接着一体化物とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明
1のFRPと金属材の接着一体化物は、「単方向炭素繊維のCFRP又はCFRTP厚板状物に、金属薄板を接着し、これに高強度Al合金材を接着したもの(
図18参照)」であり、単方向に引き揃えた炭素繊維を有するCFRP又はCFRTPプリプレグを、前記炭素繊維方向を合致させて積層して作成されたFRP厚板状物と、前記FRP厚板状物
に一面が固着され他面が化成処理された表面を有する厚さ0.2~1.0mmの金属薄板と、前記金属薄板の
前記化成処理された表面に接着剤で接合された
、化成処理された表面を有する高強度Al合金材とが一体に積層して作成された一体化物において、前記接着剤がエポキシ樹脂系接着剤であり、かつ接着後に硬化された接着剤層の肉厚が0.3mm以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明2のFRPと金属材の接着一体化物は、「交差(90度等)、布型炭素繊維のCFRP又はCFRTPに、金属薄板を接着し、この金属薄板にTi合金材を接着したもの」であり、単方向に引き揃えられた炭素繊維が互いに交差するようにCFRP又はCFRTPプリプレグを積層し、又は、前記炭素繊維の織布を有するCFRP又はCFRTPプリプレグを積層して作成されたFRP厚板状物と、前記FRP厚板状物に一面が固着され他面が化成処理された表面を有する厚さ0.2~1.0mmの金属薄板と、前記金属薄板の前記化成処理された表面に接着剤で接合された、化成処理された表面を有するTi合金材とが一体に積層して作成された一体化物において、前記接着剤がエポキシ樹脂系接着剤であり、かつ接着後の前記接着剤の肉厚が0.3mm以上あることを特徴とする。
【0016】
本発明
3のFRPと金属材の接着一体化物は、「単方向の炭素繊維のCFRPと単方向のガラス繊維のCFRPを積層したFRPに、金属薄板をを接着し、この金属薄板にTi合金材を接着したもの(
図19参照)」であり、単方向に引き揃えられた炭素繊維有するCFRPプリプレグと、前記炭素繊維と交差し、単方向に引き揃えられたガラス繊維を有するGFRPプリプレグを積層して作成されたFRP厚板状物と、前記FRP厚板状物
に一面が固着され、他面が化成処理された表面を有する厚さ0.2~1.0mmの金属薄板と、前記金属薄板の
前記化成処理された表面に接着剤で接合された
、化成処理された表面を有するTi合金材とが一体に積層して作成された一体化物において、前記接着剤がエポキシ樹脂系接着剤であり、かつ、接着後に硬化された接着剤層の肉厚が0.3mm以上であることを特徴とする。
【0017】
本発明4のFRPと金属材の接着一体化物は、「金属薄板の材質」であり、本発明1、2,3から選択される1発明のFRPと金属材の接着一体化物において、前記の金属薄板は、A5052Al合金、A5083Al合金、及びA6061Al合金から選択される1種であることを特徴とする。本発明5のFRPと金属材の接着一体化物は、本発明2及び3から選択される1発明のFRPと金属材の接着一体化物において、前記交差する角度は、90度であることを特徴とする。
【0018】
本発明6のFRPと金属材の接着一体化物の製造方法は、「一体化物の製造方法であり、金属材に接着剤溜まり用の囲壁を形成する複合体の製造方法」であり、本発明1ないし5から選択される1発明のFRPと金属材の接着一体化物の製造方法であって、表面が化成処理された前記金属材を射出成形金型にインサートして、高さが0.3~2.0mmの液体を貯留可能な囲壁を射出成形する囲壁成形工程と、前記金属材の前記囲壁内に、加熱硬化されていない前記エポキシ樹脂系接着剤である硬化前エポキシ樹脂系接着剤を充填する接着剤充填工程と、前記FRP厚板状物、前記金属材、及び前記金属薄板から選択される一つの表面に、前記硬化前エポキシ樹脂系接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、前記硬化前エポキシ樹脂系接着剤が充填された前記囲壁を前記一つの表面に圧着させて接合する接合工程と、前記接合された前記一体化物を加熱して、前記硬化前エポキシ樹脂系接着剤を加熱して硬化させる接着剤硬化工程とからなることを特徴とする。
【0019】
本発明7のFRPと金属材の接着一体化物の製造方法は、「CFRP厚板状物と、金属材との間の接着剤壮の脱気方法」であり、本発明6のFRPと金属材の接着一体化物の製造方法において、前記接着剤充填工程、及び前記接着剤塗布工程後に、前記硬化前エポキシ樹脂系接着剤を減圧、常圧の繰り返しに操作により、前記硬化前エポキシ樹脂系接着剤内の気体を脱気する接着剤脱気工程とからなることを特徴とする。
【0020】
以下、上記本発明を構成する各要素について、技術的背景とその技術的意味について説明する。
本発明を構成するFRP(繊維強化プラスチック)
[1-1]CFRP(炭素繊維強化プラスチック)
本発明を構成する各種材料について、その要点を説明する。CFRP(炭素繊維強化プラスチック)と称されるものの、正確には炭素繊維強化熱硬化性プラスチック(Carbon fiber reinforced thermo-set plastics)であって、実際に本発明で使用するCFRPは、その熱硬化型樹脂にエポキシ樹脂を使用した物を示している。更に言えば、CFRPに使用される樹脂はマトリックス樹脂とも呼ばれており、それには1液性エポキシ接着剤とほぼ同組成の、エポキシ樹脂にジシアンジアミド粉体が10%程度混ぜられたもので汎用型とでも言えるものと、2液性エポキシ樹脂接着剤とほぼ同理論に基づくタイプ、即ち、エポキシ樹脂と芳香族ジアミンの当量型混合物からなる耐熱型がある。
【0021】
汎用型は、硬化したマトリックス樹脂の耐熱性が低いと100℃前後、高いと150~160℃であり、その耐熱性温度を越えるとCFRP内の樹脂部が軟化して外力に対し変形し易くなる。一方、耐熱型は、2液性エポキシ接着剤と硬化に関する理論的には似ているものの、樹脂硬化は交互共重合反応により生じることが同じというだけで、その完全硬化温度は汎用型より高く、その耐熱性は約200℃前後である。汎用型も耐熱型も最新型の旅客機の製造に使用されているが、主翼材に使われるとしてエンジンに近い箇所には耐熱型CFRPが使われているものと推定される。
【0022】
それ故、CFRP材と金属材とをエポキシに接着剤を使用して、熱衝撃に耐えるように接合する本発明では、その接着剤硬化物もそれ相当の耐熱性がないと意味をなさぬことになる。本発明者が市場で見出した耐熱性エポキシ接着剤としては、1液性エポキシ接着剤として市販されている「EW2040」(スリーエム ジャパン株式会社(本社:日本国東京都)製)であり、150℃下で約35MPa、本発明者が提案した組成物が、150℃下で約42MPaのせん断接合強度を示した(特許文献14)。それ故に、160℃以上の高温下に曝される箇所で使用されるCFRP、CFRTPの接着構造に本発明を使用すべきでないことが分かる。勿論、エポキシ接着剤の樹脂組成を、エポキシ樹脂と芳香族ジアミン型の耐熱性ある熱硬化型エポキシ樹脂組成物に代えればこの問題は片付く。しかし、その場合には、その接着剤自体が常温下で固形物か粉体物となり扱い方が全く変わる。それ故に、別の新しい改良発明が必要になる。
【0023】
[1-2]CFRTP(炭素繊維強化熱可塑性樹脂)
次に、CFRTPについて述べる。CFRTP(Carbon fiber reinforced thermo-plastics)は、この文字通りの炭素繊維強化熱可塑性樹脂であって、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である。この樹脂成分が熱可塑性になっただけで、この樹脂成分が熱硬化性樹脂であればCFRPとなる。CFRPと大きく異なるのはCFRTP材を高温下に置くと、マトリックス樹脂が加熱により軟化するので、温度、加圧力を調整すると平たいCFRTP板状物から、曲面、捩り変形等の塑性加工ができる。この塑性加工は、大きく形状を変化させるのは難しいが、加熱、加圧により小さな変形をさせることが出来る。端的に言えば、板状のCFRTP材を作成し、これを熱成形金型に投入して、その後に熱プレス機をゆっくりと稼働させることにより、翼状物等の曲面に形状変化させて、所望の形状を得ることができる。但し、本発明者が知る限りでは、CFRTPは、未だ航空機には実用化されたとの情報はない。
【0024】
熱プレスで成形が可能なCFRTP板状物は、既にマトリックス樹脂としてPA6、PA66等のポリアミド樹脂、PPS、PEEK等を使った物が量産試作のような形で製造されており、約2015年以降はその用途探しが始まり、そのまま続いている状態と言える。ただ、石油価格が米国におけるシェールガス、シェールオイルの急速な開発で高値は消え、かつ、ハイブリッド車の普及もあって石油余剰感が漂い、航空機ではCFRP機の運用メリットが小さくなった。長期的に重要であるが、省エネへ進む世の中の力は以前より弱くなり、むしろ地球環境問題対応で石炭や石油消費を抑制しようという動きに変化している。このことは、米国ボーイング社の787機等に採用されているCFRPを用いた航空機を採用しようとする動きにならず、やや採用速度は遅くなっている。更に言えば、CFRP材をCFRTP品に換える開発は更に遅いと思われる。
【0025】
この変化だが、CFRPをCFRTPに変え、GFRPをGFRTPに変えるだけで行うことの原理は同じであり、その製造法は勿論、変更せねばならぬが、その製造法に関しても、本発明者や本発明者等が開示したNMT、新NMT等の射出接合技術、そしてNAT関係の接着剤接合技術を参考にすれば容易にその作業工程は理解できる。即ち、ポリアミド樹脂やPPSをマトリックス樹脂としたCFRTPと金属材との接合方法に関する基礎技術は特許文献15で開示されているし、CFRTPとして耐熱性が高く最高の物と言われているPEEK、PAEK(ポリアリールエーテルケトン樹脂)等をマトリックス樹脂とした物に関しては、そのPEEK製CFRTPと、金属材を接着法で一体化するとした本発明記載の製造技術(特許文献15記載の手法)を使用し、特許文献13記載のPEEK系樹脂と金属材間の射出接合技術等を利用すれば得られる。従って、本発明において、CFRP又はCFRTPと金属とを接合するとき、接合方法、接合に用いる素材は異なるが、本発明を構成する同等の素材として取り扱う。
【0026】
[2]高強度の構造用金属材
本発明で用い対象とした高強度金属材は、アルミニウム合金であり、規格化されたものでいうと、A7075Al合金材であるが、他には、A2024、A2017、A2014Al合金等のジュラルミン材だけでなく、A6063、A6061、A5083、A5052Al合金等の展伸型Al合金、それに加えてADC12等の鋳造用Al合金も使用できる。又、本発明の高強度金属材は、アルミニウム合金以外では、Tiやα-β型Ti合金、α型Ti合金、β型Ti合金が使用できる。航空機用としてよく使用されるTi材は、α-β型Ti合金の64Ti合金である。
【0027】
[3]金属薄板
本発明の本発明のFRPと金属材の接着一体化物の金属薄板は、主にCFRTP厚板状物、又はCFRTP厚板状物の表面に、接着、又は射出接合等で接合されたものをいう。金属材は、この金属薄板を介して、CFRTP厚板状物、又はCFRTP厚板状物とエポキシ系接着剤で接着される。金属薄板は、例えば、A6061Al合金で、0.5mm厚程度のものが良い。その理由は、このAl合金は、展伸性、熱伝導性も高く、かつCFRTP厚板状物、又はCFRTP厚板状物の熱収縮、機械的な荷重による弾性変形による追従性も高い。しかしながら、この金属薄板は、Al合金に限ることなく、CFRP厚板状物、又はCFRTP厚板状物の熱収縮に追従できるものであれば、鋼板等の材質のものでも良い。鋼板等の金属薄板は、荷重による弾性変形もでき、環境温度による熱伝導も早く、CFRTP厚板状物、又はCFRTP厚板状物の熱収縮にも追従できる。但し、肉厚が厚いと追従できない、又は内部応力が高くなるので、可能な限り薄いものが良く、凡そ0.2~1.0mm程度の厚さが良い。
【0028】
[4]エポキシ樹脂系接着剤とその硬化層
本発明のFRPと金属材の接着一体化物の接着剤は、エポキシ樹脂系接着剤であり、かつ、接着後に硬化された接着剤層の肉厚が0.3mm以上のものをいう。好ましくは、硬化された接着剤層の肉厚は、0.3~2.0mmが良い。本発明でいう硬化された接着剤層は、CFRTP厚板状物、又はCFRTP厚板状物と、高強度AI合金材、又はTi合金材との間、又は、金属薄板と、高強度AI合金材、又はTi合金材との間の接着層をいう。このエポキシ樹脂系接着剤は、好ましくは、1液性エポキシ接着剤が良いが、エポキシ接着剤であれば2液性のエポキシ接着剤であっても良い。
【0029】
[本発明の基本的な技術思想]
上記の前提で、本発明のFRPと金属材の接着一体化物は、次の要件(i)~(iv)で説明する技術的要件が重要であり、必須である。結論として、要件(i)「線膨張率の近似性」、要件(ii)「接着面の2方向の線膨張率の近似化」、要件(iii)「CFRP又は金属材の積層構造による膨張率の最適化」、要件(iv)「接着剤硬化物層の肉厚の確保」することが、機械的な接着強度と熱衝撃にも耐える最適な接着の要件である。
【0030】
[各要件(i)~(iv)の説明]
要件(i)「線膨張率の近似性」は、CFRP材と、例えばアルミニウム合金(A7075Al合金)を強固に直接接着するには、CFRP材の接着面の線膨張率を、2.3×10-5K-1(この数値はAl合金の線膨張率値)に近づけること(線膨張率の近似性)、要件(ii)「接着面の2方向の線膨張率の近似化」は、CFRP材と金属材とを強固に二次元である面で直接接着せんとすれば、可能な限り両者の接着面(直交する2方向)での膨張率が近いものが好ましい(接着面の2方向の線膨張率の近似化)。Al合金材以外で、金属材とCFRP材を強固に直接接着せんとすれば、Ti合金材の線膨張率が近いので好ましい。何故なら実用的な金属中で最も線膨張率が低いのは、Ti合金材であり、約0.8×10-5K-1であり、線膨張率はCFRP材と近い。このTi合金材とCFRP材と接着すべき接着面は、このためには、CF繊維の方向による影響を少なくして、接着面での膨張率を均一にする必要がある。このために、布型のCFを使用したプリプレグ、又は、単方向型CFのCFRPプリプレグを交差(角度90度等)させて、積層したCFRP材を用いるのが良い。このCFRP材の板面の線膨張率は、約0.2×10-5K-1となり、Ti合金材との線膨張率差0.6×10-5K-1程度でありかなり近くなる。
【0031】
更に言えば、本発明で提案する新たな課題ともいえる新たな要件(iii)「CFRP又は金属材の積層構造による膨張率の最適化」がある。この要件(iii)の技術的意味を、
図7を用いて説明する。図中には、幅広の長尺型FRP厚板材の構造図を示してあり、CFRPプリプレグとG(Glass)FRPプリプレグを交互に積層し、複合化したものである。長尺型FRP厚板材の最上部は、繊維方向がx軸に揃った平行な単方向型CFRPプリプレグである。上から2層目のプリプレグは、その
図7の左部を成すのは、1層目と同じ方向にCFが揃えられた単方向型のCFRPプリプレグであるが、図示した点線部分までで切れている。この点線部より右部は繊維方向が、y軸に揃った平行な単方向型GFRPプリプレグに変えたものであり、上から3層目は1層目と同じ方向に積層したCFRPプリプレグであり、上から4層目は2層目と同じGFRPプリプレグである。要するに、上から奇数目の層は全て1層目と同じCFRPプリプレグで、上から偶数目の層は2層目と同じGFRPプリプレグであり、全層が積層されオートクレーブ内で硬化され、FRP化されたものである。
【0032】
図7に示したCFRPとGFRPを積層したFRP厚板は、その端部(点線より右の部分)での板面における線膨張率がx軸に平行な線上ではCFと同じ0.1×10
-5K
-1程度となり、二層目がGFRPなのでy軸に平行な線上では、GFRPの線膨張係数の0.8×10
-5K
-1程度となる。要するに、
図7のようにCFRPとGFRPを積層することで、y軸方向はGFRPの線膨張率である0.8×10
-5K
-1となり、この線膨張率はTi合金に近くなり追従できる。従って、
図7に示した形状の幅広の長尺型CFRP厚板は、その端部の幅広面にTi合金が強力に接着されていれば伸縮に追従できる。しかしながら、この接着面においても、接着面のx軸方向はCFの線膨張率0.1×10
-5K
-1の方向性があるので、熱による伸縮にこのままではTi合金でも追従できない。そこで、後述するように、接着面の2方向の伸縮差を吸収するための、要件(iv)「接着剤硬化物層の肉厚の確保」することが必要になる。即ち、要件(iii)の「CFRP又は金属材の積層構造による膨張率の最適化」は、この要件(iii)のみでは成立せず、x軸方向とy軸方向の差を吸収できる程度に、肉厚を有した、要件(iv)「接着剤硬化物層の肉厚の確保」することが必要になる。
【0033】
この要件(iii)の「CFRP又は金属材の積層構造による膨張率の最適化」は、要件(ii)に類似しているが、
図7で例示してCFRPを異材質で積層することにより、y軸の線膨張率をTi材に合わせたものである。この要件(iii)により機械的な締結に必要なFRP端部の金属化を、接合力だけでなく接合面の伸縮にも合致させることが出来る。構造物の端部のみに金属材を固定するとき、例えば、幅広の飛行機の主翼を胴体に取り付けるようなときである。要するに、
図7に示したFRP厚板のように異材質を組み合わせて積層した構造物の主要部として使用すれば、その右端部にTi合金厚板を接着して一体化することができる。
図19は、FRP厚板の右端部に薄板のA6061Al合金材を接着し、この上層にTi合金材厚板を接着した締結構造物を示す。この構造物は、CFRP厚板状物をTi合金材厚板により、ボルト・ナット締結構造として採用できる。薄板で伸縮し易いA6061Al合金材とTi合金厚板は、接着により積層されているが、CFRP厚板状物とTi合金厚板の間に介在し、熱による両者の伸縮を吸収する。また、CFRP厚板状物とA6061Al合金材の接着面積が広いので、CFRPと金属材の弱い接着力をカバーできる効果もある。
【0034】
[本発明の必須要件]
CFRPと金属材の接着は、上記した(i)「線膨張率の近似性」、要件(ii)「接着面の2方向の線膨張率の近似化」、要件(iii)「CFRP又は金属材の積層構造による膨張率の最適化」を前提にしても、両者の収縮差は吸収できない。そこで、更に、この熱収縮を吸収する方策として、要件(iv)「接着剤硬化物層の肉厚の確保」することが、機械的な接着強度と熱衝撃にも耐える最適な接着の要件である。CFRPと金属材との間の接着剤硬化物層厚を0.3~1.0mm程度の厚くしたものである。前提として、接着剤は、耐熱性が高い物を使用することが前提である。通常は、これらの条件を満たすものは、エポキシ樹脂系接着剤硬化物層である。結局は、本発明は、要件(i)、要件(ii)、又は要件(iii)の単独では成立しないので、本発明では、次の要件の組み合わせのみをいう。(1)要件(i)「線膨張率の近似性」+要件(iv)「接着剤硬化物層の肉厚の確保」による接着方法、(2)要件(ii)「接着面の2方向の線膨張率の近似化」+要件(iv)「接着剤硬化物層の肉厚の確保」の接着方法、そして、(3)要件(iii)「CFRP又は金属材の積層構造による膨張率の最適化」+要件(iv)「接着剤硬化物層の肉厚の確保」の3つの接着方法となる。
【0035】
本発明者は、上記した要件(i)、要件(ii)、要件(iii)、及び要件(iv)の全ては、航空機の機体等に向けの生産にはそのままでは、生産技術的に実現できないと判断し、全く別のCFRP材と金属材間の接着剤接合法を開発した。これは積層構造により、異材質間の線膨張を緩和するものである(特許文献2)。その接着構造の基本形は、CFRPや64Ti合金、そしてSPCC、SUS430鋼、SUS304鋼、そしてA5083やA6061に各種ジュラルミン含む高強度Al合金等の高強度材料群から選んだ線膨張率が、0.3×10-5K-1以上異なる材料の2種を「A」材、「B」材とし、この「A」材と「B」材の間に軟質金属、例えばA1050Al合金板材を挟み込んで、全接着した複合材一体化構造物の提案である。CFRP材は、化成処理により表面を粗面化する等のエポキシ接着剤に対し、被着性を向上する処理を行い、金属類は各々に対し優れたNAT処理をしておき、これら全てを耐熱性がある1液性エポキシ接着剤で接合するのが基本技術である。本発明者は、本発明者の先願発明である特許文献2に記載した発明において、本発明者等が提唱し命名した化成処理方法をNATとし、これについて多くの知見と、その後に実施した長い応用技術開発努力を全て詰め込むことができた。
【0036】
しかしながら、正確には、先行する特許文献2に示したCFRP材とA7075Al合金材とを接着一体化することにより、航空機等の超軽量化に資するための基本研究は完成したことにはならない。本発明者は、この金属とCFRP材との接着、取分け最新の旅客機等に採用するには、両者の線膨張係数の差異を考慮して更なる改良をする必要がある。加えて、同様の目的とする発明が、特許文献2に記載された発明以外にないのか再考することにした。その結果、前述した要件(i)、要件(ii)、要件(iii)、及び要件(iv)について、これを実用化するために、以下に示す接着方法を採用すると良い。この接着方法は、接着剤による接合技術ではないが、本発明者が既に獲得し、提唱した「NMT(Nano molding technologyの略)」、「新NMT(New Nano molding technologyの略)」等と命名したものであり、即ち、射出成形により、金属と樹脂を接合する射出接合技術を利用すれば、本発明の上記基本思想を生産技術的にも実現できる。この点については、具体的には後述する。
【0037】
[接着剤の層厚について](要件(iv))
前述したように、概略すれば、CFRP材とジュラルミン材含む金属材とを接着一体化するためには、CFRP材側を実質的な接着面の線膨張率を金属材に近づけることである。CFRPプリプレグの構造の配置を行い、同時にエポキシ接着剤の場合、その層厚を0.3mm以上、好ましくは0.3mm~2.0mm厚にするのが最適との結論に達した。但し、この場合でも、接着面積が余りに大きいと、その一体化部品が受ける温度衝撃数千サイクル試験で、接着面の外周部に剥がれが生じて接着面積を狭める危険性がある。この対応策の一つが、本発明では、GFTP構造を用いた前述した「要件(iii)「CFRP又は金属材の積層構造による膨張率の最適化」+要件(iv)「接着剤硬化物層の肉厚の確保」」である。これらの接着面積の限界についても、実用機製造前に行う試験片での実験で確認が可能である。それ故に、先願発明である特許文献2に加えるべき改良技術だと本発明者は判断し本発明を提案する。近年、最新の大型旅客機は、CFRP材が多用されている。超軽量で高強度のCFRP材は、航空機用途に最適の構造材である。ここで採用されている主翼材であるCFRP部材と、金属構造材で作られている胴体への固定構造は、超々ジュラルミン(A7075Al合金)製の締結部材が、胴体に機械的な締結方法により固定されている。
【0038】
この締結部材と翼材であるCFRP部材と固着構造は、接着により固着されている。CFRP製の翼材と胴体とは、強固に接合する最も簡単な方法が接着法であるが、双方に大きな線膨張率差のあることから使用できない。それ故、上記最新の大型旅客機では、その両者の接合固定方法として、Ti合金製の大型リベットを使うリベット工法を採用されている。即ち、燃料費が従来型機(基本構造がジュラルミン製の大型旅客機)に比べて約80%で済むこと、機体の保持管理や腐食部品の交換等総メンテナンス費用が半減すること、等が伝えられている。
【0039】
ただ、実際の最新の大型旅客機の製造に当たっては、従来のボルト、リベット結合部の連結構造を、CFRP材、Ti合金、胴体の超々ジュラルミンとの連結構造に置換するのに、相当期間がかかったことはよく知られている。その苦心された具体的内容は、公表されていない。大型の64Ti合金製リベットの製作精度、又は、このリベットを挿入するCFRP材に削り込んだ穴形状の精度、それらの量産技術獲得は困難であったと推定される。実際、CFRP材に高速回転のドリル刃で高精度に穴を開ける操作は予期するほど易しくない。昨今CFRP材の機械加工に関して、多くの専門書が公開されているが実作業を実施している企業は少なく、当然ながらその実務ノウハウは企業秘密である。
【0040】
即ち、CFRP材とA7075Al合金材、又は、CFRP材と64Ti合金材とで間接的であろうと直接的であろうと、エポキシ接着剤を使用した全接着構造の一体化物作成に成功すれば、後は既存の技術を使って軽量な飛行体を製作することができ、この構造物は全天候型の性能を持つ構造体になり得ることが予期できる。要するに、本発明者が提案した接着剤による接合技術である金属表面の化成処理(NAT)で既に分かっていることは、1液性エポキシ接着剤使用物で、CFRP材同士、又は、CFRP材と金属材の接着剤接合技術では、前述したように、約40MPaが最大の接合力を示す。硬質金属材と硬質金属材の接着剤接合技術では、約60MPaが最大の接合力である。その接着能力は、金属材がAl合金、純銅、SUS304鋼、Ti及びTi合金の場合は、高温高湿条件下でも問題ないことも判明している。それ故に、この最大接着力の下で、エポキシ接着剤硬化物の表面層(被着物と接している樹脂硬化物の超微細凸部)の変形による接着剥がれ、微細凸部の本体からの破断等が生じなければ、全接着構造は十分に保たれると考えた。このようなことも含め、本発明者による特許文献2に記載された発明と本発明も同様であるが、CFRP材を基本構造材の一つとした飛行体等の構造物において、その金属部品との接合部からリベット構造部を除き、全接着構造が採用できるようにし、構造物を軽量化するのが本発明の課題の一つでもある。
【0041】
[CFRP材の線膨張率の方向性について]
先ず、CFRP材の線膨張率は、前述したように、金属と異なり方向により線膨張係数が異なるのでこれを考慮する必要がある。CFRP材は、布型CFRPプリプレグを積層して得た板状物、又は、単方向型(束型)CFRPプリプレグに関して繊維方向をクロス(交差)させながら積層して得た板状物であれば、双方の板面における線膨張率は、平均化されどの方向に沿って線膨張率を測定してもほぼ0.2×10-5K-1となる。しかしながら、単方向型(束型)CFRPプリプレグをCF繊維の方向変えず積層して得た、CFRP板状物の板面における線膨張率は、繊維方向に沿って測定すれば0.1×10-5K-1程度だが、その直角面に沿って線膨張率を測ると(5~7)×10-5K-1となり全く違う。この大きな方の数値(5~7)は、CFRP内の繊維密度(繊維含有率)によって異なるものの金属材の場合よりも更に大きい。何故なら、プラスチック材その物の数値に近い故である。更に言えば、単方向型CFRPプリプレグの繊維方向をそのままにして、積層で得た厚板状CFRP材の断面にあたる部分の線膨張率は、これを立体図でみれば理解が容易であるが、強化繊維の繊維方向が重なる方向(積層方向)の線膨張率は大きい。即ち、その直角面に沿って線膨張率を測ると(5~7)×10-5K-1となり、樹脂単体と近く非常に大きい点である。厚板状CFRP材の板面は、線膨張率の全く異なる方向が90度交差している。
【0042】
そして、この場合のCFRP板状物の側面を見るとここでも線膨張率の90度交差があり、線膨張率値は(5~7)×10
-5K
-1と約0.1×10
-5K
-1が90度交差したものになると考察される。一方、
図5に示した布型CFRPプリプレグを使用して得たCFRP材に関しても、同じく線膨張率の全く異なる線が交差している場合を見つけることができる。例えば、側面と断面だが、積層面に平行な線方向は0.2×10
-5K
-1程度であり、その直角方向の線上では(5~7)×10
-5K
-1となる。要するに、このCFRP材は同じ面内でも異なる線膨張率が交差していることになる。この種々のCFRPプリプレグの種類やその積層物に関する理解は、
図3~7を見て理解される。
【0043】
図3は、単方向型CFRPプリプレグを繊維方向が同一になるように積層して、その後に真空・加圧の処理しつつ加熱して樹脂硬化させて得た、CFが単方向型に引き揃えられたCFRP板状物を示すものである。
図4は、CFRP材構造の例を示す構造図であり、単方向型CFRPプリプレグを繊維方向が交差(90度で回転)するように、順次積層してその後に真空・加圧の処理をしつつ、加熱して樹脂硬化させて得たCFRP板状物を示すものである。
図5は、CFRP材構造の例を示す構造図であり、布型CFRPプリプレグを積層して、その後に真空・加圧の処理しつつ加熱して、樹脂硬化させて得たCFRP板状物を示すものである。
図6は、CFRP材構造の1つを示す構造図であり、CFの積層構造の異なるものを一つのCFRP板状物としたものである。
図6に示すCFRP板状物は、図中の左側部は単方向型CFRPプリプレグを、繊維方向が90度交差するように順次積層し、右側部は単方向型CFRPプリプレグを繊維方向が同一になるように積層して、その後に真空・加圧の処理しつつ加熱して、樹脂硬化させて得たものである。この
図6に示すCFRP板状物は、全長で単方向型CFRPプリプレグであり、左側部(
図4と同一積層構造)も右側部(
図3と同一積層構造)も同一のCFRPプリプレグであり、長手方向の繊維は
図6の左右に連続して繋がっている。
【0044】
図7に示したCFRP厚板は、一部をCFとGF(Glass Fiber)を積層したものである。この積層体の
図7の左部は、CF単方向に積層したCFRPであり、右部は、CFプリプレグとGFプリプレグを積層したものである。この厚板材は、機械的な締結構造のために、端部の積層構造のみが異ならせたものである。この右端部は、Ti合金厚板材と接合できるように(要件(iii))、FRP構造を特殊なものに変えて、かつ、左部の単方向型CFRPプリプレグはそのまま延長したものである。この端部の特殊な構造のFRP部分は、長さ方向の半分を占めるプリプレグを交差して積層したものとし、残りのプリプレグ群は、単方向型G(Glass)FRPプリプレグとした物である。即ち、端部の特殊なFRP部分は、CFRPプリプレグとGFRPプリプレグが交互積層したものである。
【0045】
(接着剤層厚のモデル化)
本発明の基本となる技術思想で要件(iv)「接着剤硬化物層の肉厚の確保」であるとした。即ち、本発明において、CFRPと金属材を接着された一体化物の接合強度は、CFRPと金属材の間の硬化した接着剤層の肉厚が重要な技術的意味を有する。以下、この点について、詳細に説明する。先ずは、CFが単方向に引き揃えられたCFRP厚板材(
図3参照)は、その上面であれ側面であれ、その面にはCFの0.1×10
-5K
-1程度の線膨張率と(CF方向)、エポキシ樹脂の5×10
-5K
-1程度の線膨張率が直角に交差(CFと直交方向)していることになる。この両者の線膨張率値の単純平均値が2.5×10
-5K
-1であるから、線膨張率2.3×10
-5K
-1のA7075Al合金に近いとも言える。その考察は、技術的な意味について、CFRP厚板とA7075Al合金厚板が硬化した接着剤層で接合されている状況を「接着一体化物」で考察した(
図8の参考図参照)。この場合、接着面を構成する硬化した接着剤の形状(CFRP厚板と金属との間の接着剤硬化層)は、正方形である50mm四方の25cm
2であるものとして考察した(
図9参照)。
【0046】
この接着剤が1液性エポキシ接着剤「EW2040」であり、その完全硬化温度が150℃だとする。この接着一体化物(CFRPと金属材の一体化物)が150℃で硬化された接着剤硬化物の形状は、
図9(a)に示すように、肉厚が1mmで、50mm四方の正方形で、上面も下面も全く同一寸法であるとして考察する。これが-200℃冷やされて-50℃になったとき縮むことになる。この収縮は、Al合金側(図示上の下面)では、正方形で各辺長さは50mmから2.3×10
-5K
-1×200℃×50mm=0.23mmだけ縮み、49.77mm角の正方形になる。これに対してCFRPは方向性があるので、CFRP側(図示上の上面)は、0.1×10
-5K
-1×200℃×50mm=0.01mm縮んで49.99mmの辺となるものと、5×10
-5K
-1×200℃×50mm=0.5mm縮んで49.5mmになった辺が共存する長方形に変形する(
図9(b)参照)。
【0047】
図9(a)~(c)は、環境温度による接着剤硬化物層の形状変化を概念的に示したものである。要するに、辺長さの差として、一辺はAl合金側では四辺が0.23mmに均等に縮んだ形状になり、CFRP側では0.01mm縮んだ辺と、0.50mm縮んだ辺となり、二つの異なる長さの矩形になる。接着剤硬化物の層厚さが1mmの場合、150℃下で50mm×50mm×1mmのシート形状物(薄肉の正方体状)が-50℃になると、変形した台形状になる(
図9(c))。更に言えば、このエポキシ接着剤硬化物は、強化繊維不在の樹脂成形物なので、樹脂本来の線膨張率は7~8×10
-5K
-1である。本例のエポキシ接着剤硬化物は、150℃で硬化したものが-50℃に冷却されるので、200℃の冷却となる。従って、何れの辺長も縮み、正確には図示するように、肉厚1mmの中間部が凹部の形状になると推測される(
図9(b))。しかし、加熱、冷却による変形の考察では、薄い肉厚であり、硬化したエポキシ樹脂成形物の軟質性のモデルとしては、単純化しても良いと考えられる。即ち、上下面を強い接着力でCFRP材とA7075Al合金材に拘束された形の硬化したエポキシ樹脂の場合、
図9(c)に示すように、全て直線で表す姿、即ち、角錐形状に近いと考察される。
【0048】
何れにしても、CFRP材とA7075Al合金材の双方が、接着剤硬化物の厚板モデルは、概略で板形状に保つ場合、各辺の長さが分かり易い
図9(c)のような形状になると推定することで、単純化できる。要するに、厚さ約1mmのシート状である接着剤硬化物層は、やや軟質な熱硬化性樹脂製シートであり、CFRP材、A7075Al合金材に比較すればかなり剛性がない軟質なものである。このために、接着力により樹脂製シートの上面、下面は、別々にCFRP、A7075Al合金材に引きずられて伸び縮みする。ただし、実験結果でも明らかなように、軟質と言ってもゴム状のものではなく、熱応力により大きく変形されると接着面で剥がれが始まる。特に、CFRPに接着していた側で、接着力が弱く、4面方向から熱を受ける影響が大きい4隅の何れかで発生する。
【0049】
図9(c)の変形した熱硬化性樹脂製シートを考慮すると、ここまで変形されれば、樹脂材の4隅部分に内部応力が発生し、CFRP部との接着力(この接着力は、常温下なら40MPaだがより低温ではこれより高く、又、高温ではこれより低くなる。)を越える故と理解される。ただ、実際に剥がれが生じるのは、特に、高温と低温が加えられる温度衝撃を受けたとき、低温時に発生すると推定される。実際の自然環境においては、例えば、航空機の場合、環境の温度変化が成層圏の-50℃と、空港の30℃、熱帯の砂漠空港の100℃の場合もある。このように、厳しい温度衝撃を数百回も繰り返せば、何とか厳しいその形状変化に耐えていた複合体も、やはり最も接着力の弱く、熱を4面から受ける熱硬化した接着剤の4隅に近いCFと、マトリックス樹脂の部分で、破断が始まり出すことが予測される。前述したように、CFRP材板面の線膨張率は、0.1×10
-5K
-1程度と5×10
-5K
-1程度の2種が直角交差して存在しており、そのことは単純平均で2.5×10
-5K
-1である。この単純平均とした場合、線膨張率2.3×10
-5K
-1のA7075Al合金に近いと言え、この単純な見方が本発明者を楽観させていたのである。
【0050】
即ち、この熱硬化性樹脂製シート状物のモデルは、基本的には剛体ではなく柔軟物と見なして考察したものであり、元々接着剤層厚をゼロmmではなく1mm厚と前提を置いて考察した意味がない。モデルを考察する場合の問題は、このシート状物がやや硬めの柔軟物だとして、それは硬質ゴムのような物か、鉛、純アルミニウム等のような軟質金属のような物か、それともLDPE(低分子量ポリエチレン)のような軟質性ある熱可塑性樹脂のような物かという選択である。仮に、鉛や純アルミニウム等の軟質金属に似ていれば、温度変化がx軸方向で大きく変化し、y軸方向で小さく変化する線膨張率に従う変化をして、シート状物の下面だけが同等でない変化をし、一方の上面ではどの辺も同じだけの変化をした場合、その下面での面積変化、上面での面積変化が結局のところほぼ同じなら、z軸長さ(厚み)も同じ変化をするはずで、シートの容積変化率は一定値になるはずである。このような熱による変形は、容積膨張率で表されることになる。当初、x、y、及びz軸毎に細かい計算をしないで、単にCFRP面側の2種の線膨張率の平均値と、Al合金側の線膨張率がよく似た値になったことで、その間に挟まれたシート状物が容積膨張率だけに従う軟質物質なら、厳しい温度変化や温度衝撃を受けても破壊されることはないと推察した。確かに、鉛の板なら叩けば凹部状の窪みが形成されるが、他の箇所でその分が厚くなる。この形状変化を計算して、
図9(a)~(c)に示す形状図を得たとき、これは正しい結果であると確信した。
【0051】
それはこのシート状物は、液体、鉛等のように形状が少々変わろうと、温度による容積変化を把握していれば破壊されないという物質ではないからである。即ち、使用した接着剤は高耐熱性ある1液性エポキシ接着剤である。この接着剤には、エポキシ基を2つ持つ標準的なエポキシ樹脂に加えて、エポキシ基を3個以上有する多機能型エポキシ樹脂を含んでいる。それ故、この接着剤が硬化して出来上がったシート状は、無数の架橋部を有する3次元型の1個の巨大分子となった高分子である。それ故に、形状の自由度は、容積膨張率にだけ従う軟質金属のような物では全くなく、形状が余りに大きく変化させられると接着力が弱いCFRP側であって、かつ接着面中の中心から最も離れている箇所、即ち、接着面が正方形や長方形ならその4隅部で先ず剥がれが発生し、その後は接着面が徐々に縮小し、次第に接着力は弱まることになる。上記接着剤硬化層のモデルによる考察が正しいか否かを確認するために、以下の実験をした。高強度に接着させた試験片(
図8参照)を作成し、この試験片は-50℃/+150℃温度衝撃3千サイクル試験もクリアーすると推定される形状物である。
【0052】
即ち、
図8に示した試験片の場合、この接着面(接着剤硬化層)は、25mm×25mmであり、接着剤の層厚は1mmという物である(
図10(a)参照)。試験片は、加熱、又は冷却されたとき、このときの接着剤硬化層は、接着剤硬化時の+150℃のとき、上図(
図10(a))に示す形状になり、-50℃に冷却されたとき、下図(
図10(b))に示す形状になる。
図10(b)の右図は、-50℃の冷却時の2側面の形状を示す図であり、図中に直角三角形として計算した。計算上、この三角形の長辺が1.0023mmであるが、これはこの面の垂直長さが面中央部で1mmだとして、4隅部が0.0023mm+0.0015mm伸ばされたことを示し、その伸び歪が0.38%であるが、これは本発明者の考察から熱により強制的に伸ばされた率としては小さく、この歪率はエポキシ系接着剤硬化層としては、-50℃/+150℃の温度衝撃3千サイクルに耐えると判断した。この形状モデルによる推定であるが、この伸び比が1%以下であれば、実用的に使えるだろうと考え、実物を試作して温度衝撃試験で実証することにした。
【0053】
その意味で
図10に示しモデル化した25mm×25mm矩形で肉厚1mmの接着剤硬化層は、接着面積50mm×50mmの矩形で広く、肉厚も1mmあるので-50℃/+150℃(温度差200℃)の温度衝撃に余裕があると考えられる。そこで、
図11の接着面積25mm×25mmの矩形で、接着剤層の肉厚が薄い0.5mmについて検討した。
図11の右方に示す側面図は、熱変形後の2側面図である。台形状に変形であるので、その端部を直角三角形で示した。温度差200℃で三角形の長辺が計算で0.50453mmに伸びる。この数値は、この面の垂直長さが面中央部で0.5mmの場合、計算上4隅部が、斜辺が0.50453mmであり、200℃の温度差で+150℃のときの斜辺が+0.00302mm伸ばされることを示し、その伸び歪が1.5%である。この伸び歪の値は、1%を超すが接着剤硬化層の機械的な強度特性から使える限度と考えられる。そこで、これを温度衝撃試験に投入して上記モデルによる考察が適正か否かを確認すべきと考えた。
【0054】
(接着剤「EW2040」の硬化物、
図11に示す形状物は、どのような物性持つ樹脂成形品か)
図11に示す接着剤硬化層は、接着工程で150℃下にあるとき、25mm×25mm×約0.5mm(肉厚)の正方形板形状である。これが
図8に示す接着対(試験片)を加熱、冷却したとき、接着剤硬化層の上面と仮面の双方における温度変化により、-50℃に冷却された場合、
図11(b)に示した形状に熱変形される。この変形した物の細かい側面の形状が、
図11(b)の右欄に示したものである。この変形について、本発明者は前述したように、その4隅の角部における縦角部の長さが、元の長さである0.5mmより0.91%+0.60%の計1.5%程度伸ばされており、この程度なら引き千切られることはないと判断した。その判断に関する説明は、論理的に不明瞭にも考えられるので、以下、この詳細な説明をする。
【0055】
[CFRPのマトリックス樹脂]
耐熱性を有する1液性エポキシ接着剤とは、そしてそれが硬化した重合硬化物は、どのような樹脂成形物なのか明確にする必要がある。即ち、接着剤である前述した「EW2040」、特許文献14で本発明者が開示した耐熱性の1液性エポキシ接着剤は、加熱重合しで固まり、形成された樹脂の物性とはどのような特徴があるのかという意味である。先ずは、それに先立ってCFRP材に含まれるマトリックス樹脂、及びその硬化物についても考察が必要である。何故なら、通常CFRPで使用されているマトリックス樹脂は、組成、物性が1液性エポキシ接着剤に酷似しているからである。一般的な組成は、90%近くのエポキシ樹脂と10%近くのジシアンジアミドを含むと言える。CFRPプリプレグは、CF束、CF布等に未硬化の前記マトリックス樹脂を塗り混んだような状態、又は、マトリックス樹脂の中をCF束、CF布を通して余分なマトリックス樹脂を除いたと表現されるようなものである。これは、重量比で言えば、半々程度のCFとマトリックス樹脂を含む粘り気のあるベタベタした長いシート状物がCFRPプリプレグである。CFRPプリプレグは、この硬化していないマトリックス樹脂を、上下に配置したポリエチフィルムに挟まれて製造され、これを裁断され、更にカバーして通常は冷蔵庫に保管され使用される。冷蔵庫で保管される理由は、マトリックス樹脂が事実上1液性エポキシ接着剤と、ほぼ同じ物故に常温保管して、数か月、1年過ぎても重合反応の走りが起らぬようにするためである。
【0056】
CFRPプリプレグはシート状物であり、これを冷蔵庫から出して裁断し、ポリエチフィルムを剥がして得たCFRPプリプレグは、下型の上で重ねて積層後、積層したCFRPプリプレグの上に上型を乗せた後に、オートクレーブ内で減圧操作と加圧操作を行い、CFRPプリプレグ層間の空気を抜き、内部のボイドも潰し、加熱して重合させて硬化させる。この加熱、重合操作は、1液性エポキシ接着剤を使用した金属片同士の接着、CFRPと金属片の前述した接着方法であるところの前述したNAT接着操作と同様で接着される。これらの操作で得たCFRP厚板において、この中に含まれるマトリックス樹脂硬化物について、その物性、特性を理解することが必要である。要するに、CFRP材自体の線膨張率は、前述したようにCFの並び方向に拠って大きく変化し、並び方向については(0.1~0.2)×10-5K-1となるが、その直角方向では(4~5)×10-5K-1となる。更に言えば、もしもCF不在のマトリックス樹脂のみの樹脂、これは1液性エポキシ接着剤のみの硬化物にも似ているはずの樹脂成形物であるが、その線膨張率には方向性なく(8~10)×10-5K-1になるとみられる。
【0057】
要するに、マトリックス樹脂硬化物は、非強化の熱可塑性樹脂、非強化の熱硬化性樹脂の塊と同じである。勿論、マトリックス樹脂硬化物が対象とする温度域は、樹脂の特性から-50~80℃位の範囲に限られるが、樹脂の軟化点、樹脂の融点という高温域からずっと離れた低温から常温域である。その域では全ての上記樹脂は、似たような線膨張率である。これは、全て主鎖がメチレン基で繋がった高分子であることから、その基本はその長さが温度変化で伸び縮みすることによると思われる。当然であるが、そのときその線膨張率に方向性はない。樹脂自体で、この線膨張率やその強度、硬度に大影響を与えるのは、これに混入されたGF、無機粉体、強化繊維等の強化物等であり、20~30重量%も加えられた物である。一般に、樹脂にこれら強化物を加えると、線膨張率は、(2~5)×10-5K-1と大幅に下がり、強化繊維の添加物では、その成形物が射出成形品であれば、その線膨張率にも方向性があらわれる。要するに、CFRP厚板材をマトリックス樹脂製成形物として見た場合、その線膨張率は本来無方向で(8~9)×10-5K-1あった物が、50%近いCFを加えた影響で、その線膨張率が(0.1~0.2)×10-5K-1にも、(4~6)×10-5K-1にもなるのである。添加物の影響が大きいとも言えるが、逆に樹脂成分は添加した強化繊維や強化物に支配される豆腐のような柔軟物であるとも理解できる。
【0058】
以上の説明は前提であり、本発明でいう本論は以下に説明する。
図11で示された前述の「EW2040」、即ち、耐熱性がある1液性エポキシ接着剤の硬化物は、前記したCFRP用のマトリックス樹脂とその物の硬化物と何が違うのかである。一般論で言えば、組成的には接着剤側にはその耐熱性を確保すべく、エポキシ樹脂組成中にスター型の(エポキシ基を2個ずつではなく、3個又は4個保有する。)エポキシ樹脂を10~20%含んでいるから、これはマトリックス樹脂にはないのではないかとの見方もできる。しかし、本発明の観点からはその見解はことなっており、昨今はCFRP材自体の耐熱性を得るべく、マトリックス樹脂も耐熱性要請があり、現在ではスター型エポキシ樹脂は間違いなく加えられ、1液性エポキシ接着剤との違いは実質的にはない。但し、接着剤には無機粉体、超微粉のアルミ等の添加材が加えられているが、マトリックス樹脂ではこれらのものは添加されていない。これはマトリックス樹脂に求められる物性は、炭素繊維との耐熱接着性そのものだけであって、これを阻害する添加物は添加すべきでないという考える故である。要するに、本発明者が提案した
図11に示した形状のモデルは、「EW2040」接着剤硬化物による樹脂製板材である。このモデルは、CFRPに採用されているマトリックス樹脂と殆ど同じ機械物性を有し、CFRP材が有する0.1×10
-5K
-1からマトリックス樹脂自身が有する(8~10)×10
-5K
-1までの広範囲の変化があっても、自身の基本形状は壊れない柔軟さを有しているということである。
【0059】
更に言えば、
図11に示す樹脂形状物で元の形は、+150℃下での正方形板状の形である。それ故に、これが-50℃に冷却された場合、最も変形の大きな形状にされたとき4面から熱の影響を受けるに隅部に破断が起り易く、仮に破断が生じたとすれば4隅の角部であり、かつ大きく熱膨張差が大きく、収縮した金属片に接着している部分である。
図11に示す樹脂の形状物が接着剤硬化物である故に、この僅かな形状変化が起こっても、樹脂部自身の破壊、破断等はない。しかしながら、この樹脂による接着力は、-50℃に至ってどうなるか、実はNAT処理したA7075Al合金同士の「EW2040」の接着剤使用による前述した化成処理であるNAT接着対(
図1に示す試験片)でしか、5~150℃でのせん断接着強さの実測はしておらず、150℃では30~35MPa、23℃では60MPa、5℃では65MPaであり、低温では接着力は上がるが、これは硬度が上がるためである。但し、温度を下げるに従って接着力の上がり方は低下しており、-50℃の強度について、本発明者は最適な試験機がなく測定していない。
【0060】
それ故に、確かに本発明者が示した1液性エポキシ接着剤硬化物の厚板材に関し、その柔軟性を主張する推論があっても、低温下での金属材との接着力がもしかして不十分ではないかという疑念は残るのである。CFRP材製の主翼を持つ旅客航空機は、世界を飛んでおり北極成層圏の-65℃下も飛んでいる事実である。そこでCFRP中のマトリックス樹脂は、本来この温度下ならもっと縮んで短くなりたいところを、CF束に抑え込まれ何の剥がれも生じていない故に無事である。本発明者等の実験では、CFとマトリックス樹脂間の接着力は、23℃下なら約40MPa程度である。それ故に、-65℃下なら60MPaになるのかもしれないが、何しろ、マトリックス樹脂自体が伸縮しようとする力をCFが抑え込んでいるともいえ内部応力となる。1液性エポキシ接着剤の硬化物も基本的にはマトリックス樹脂と同じであれば、低温下にて
図11に示す形状の接着構造の四隅部分でも接着力不足で剥がれることはない。
【0061】
[その他の接着剤硬化層のモデル]
前述した
図11に示した以外の形状の接着剤硬化層のモデルとして、肉厚、サイズが異なるものを、
図12、
図13、
図14に示す。前述したように、単方向型CFRPプリプレグを、同方向に引き揃え整列させて作成したCFRP材は、CFRP材のCF方向の引張り強さを最高度に上げたタイプの物である。これより使用度の高いCFRP材は、布型CFRPプリプレグを積層した物である。ほぼ同性能の物を、単方向型CFRPプリプレグを45度ずつ交差して積層、90度ずつ交差して積層しても作成できる。これらCFRP板状物の板面での線膨張率は、全方向に対し約0.2×10
-5K
-1とされる。これらCFRP厚板材と金属中で最も線膨張率が低く、かつ錆び難い軽量金属である64Ti合金の接着対(CFRP厚板と64Ti合金)についても同様な計算をした。このときの接着剤硬化層のモデルを
図12に示す。なお、64Ti合金の線膨張率は、約0.8×10
-5K
-1である。また、このモデルの接着面積は、50mm×50mmであり、接着剤層の肉厚は1.0mmとして計算を開始した。
図12(a)は、+150℃、
図12(b)は-50℃の時の形状である。
図12(c)は、
図12(b)のA視示図であり、接着剤硬化層の側面図である。この
図12(c)において、小三角形の斜線部の伸ばされた長さは、1.00045mmであり、その歪は0.045%となる。但し、4隅部は、側面と側面が接合する交線なので、正確な歪比は0.090%となる。この歪値は、小さく熱応力による破断等の問題がないレベルである。
【0062】
同様の計算を、接着剤硬化物層の肉厚が0.5mmの場合のモデルとして行った。これを
図13に示す。
図13(a)は+150℃、
図13(b)は-50℃のときのその形状である。
図13(c)は、
図13(b)のA矢視図であり、肉厚0.5mmの接着剤硬化層の側面図である。ここでは小三角形の斜線部長さが0.5009mmであり、-50℃のときに縮んだ長さ(歪)は0.18%となった。ここでも4隅部は側面と側面の交線である故に、正確な歪比は0.36%となる。この歪比では温度衝撃試験に十分に耐えると推定される。
【0063】
それ故に、同計算を接着面積が100mm×100mm、接着剤層厚が0.5mmとして計算した。これを
図14(a)、
図14(b)に示す。
図14(a)は+150℃、
図14(b)は-50℃のときのその形状である。
図14(b)の右図に、厚さ0.5mmとしたときの接着剤硬化層の側面図を描いた。ここでは、小三角形の斜線部長さが0.50359mmとあり、伸ばされた長さ(歪)は0.72%となった。ここでも4隅部は、側面と側面が交わる交線であるので、正確な歪比は1.44%となる。自ら安全域と決めた歪比1%を越したがこのモデルでも実用的には問題がない範囲である。
【0064】
[CFRPと金属厚板の接着法(金属薄板の介在)]
CFRPと金属厚板を直接的に接着する方法もあるが、ここでは直接接着以外の接着法について論じる。前述した考察とは別に、本発明で重要な要件の一つは、CFRP材と1液性エポキシ接着剤との接着力である。前述したように、同じCFRP片の表面を粗面化処理し、1液性エポキシ接着剤「EW2040」で接着して、
図1に示す形状の接着対(試験片)を作成した。このCFRPと金属厚板の接着対のせん断接着強さは、新型CF(引張り強度約6GPa)使用のCFRP材の場合には約40MPa、旧型CF(引張り強度約3GPa)使用のCFRP材の場合には最高で約60MPaであると述べた。このようなCFRP材の接着剤接合法をドライ法と言い、前処理として粗面化、その後の洗浄乾燥工程の方法によっては、実際にはそのせん断接着強さは8割程度しか達しない。前述したNAT接着法に記載した「染み込まし処理」(微細凹凸面への接着剤の充填)を省くと、これも8割程度しか達しないことがある。要するに、実用時にはCFRP材の接着に使う片面側に、金属板であるA6061Al合金薄板等を接着した金属薄板付きCFRP材を前もって作成し、この金属薄板に他方の金属厚板を接着させると接着力が安定する。
【0065】
図19は、CFRP厚板とTi合金厚板の接合するとき、金属薄板を介して間接的に接着する例を示す。この接合例は、CFRP厚板とTi合金厚板を直接的に接合するのではなく、薄板のA6061Al合金を介在させて接合する方法である。CFRP材に薄板金属を接着するときに使用する接着法は、ウエット法と呼ばれている接着方法である。この接着方法は、CFRPプリプレグの積層物の最上部に1液性エポキシ接着剤、又は、マトリックス樹脂を塗布する。これに、前述したNAT処理済みのA6061Al合金である0.5mm厚の薄板等の金属薄板を積層し、その後はCFRPの製造と同じ方法でオートクレーブにより一体化する手法である。
【0066】
この手法により、CFRP部と薄板金属との接着面積を広く取り、一方でこの薄板部とジュラルミン材、64Ti合金材等のNAT処理された金属材との接着面積を、CFRP部と薄板金属の半分以下にすれば、CFRP部と薄板金属間のせん断接着強さが最大で40MPaであっても、CFRP材とジュラルミン材や64Ti合金材等の金属材間のせん断接着強さは60MPaに拡大できる。要するに、CFRP材の伸縮に追従できる適切な金属薄板をCFRP厚板材に接着し、金属薄板とCFRP材と接着させたい金属厚板を接着するものである。CFRP材と金属厚板の接着に金属薄板を介在させるものであり、これらの間の接着を本発明者等が提唱する全てをNAT接着すれば、CFRP材自身の被着力も安定し、その最終的なせん断接着強さも約60MPaと最大値にできる。この内容は特許文献2に詳細に記載されている。
【0067】
[接着剤硬化層の層厚を0.3~2.0mm]
前述したモデルでは、接着剤硬化層の肉厚が1.00mm、0.5mmのものを想定した。結局、前述したように、
図11に示した1液性エポキシ接着剤硬化物は、25×25×0.5mmであり、この硬化物のサイズで接着対(
図8に示す試験片)を作成した。この接着対を-50℃/+150℃の温度衝撃3千サイクル試験機に投入して、その結果を観察して本発明で実証したことは前述した。しかしながら、接着剤硬化物層の肉厚は、可能な限り薄いものが良い。この理由は、接着対(金属と樹脂の複合体)が熱衝撃に耐えたとしても、装置等に複合体に使用されたとき、肉厚が厚いと機械的な変形は少ないものが良い。そこで、前述した「(iv)接着剤硬化物層の肉厚を0.3mm程度の肉厚とする」と、耐熱衝撃にも耐えるものとなり、接着しやすい。但し、この接着剤硬化物層の肉厚が薄すぎても、生産技術的に接着作業が困難である。肉厚が0.3mmの意味は、エポキシ樹脂系接着剤に限らないが、接着剤を硬化させるために過熱した後冷却するとき、溶融している接着剤に接している被接着材の部分から硬化を直ちに開始する。この肉厚は少なくとも約0.2mm程度となり、これが一般的に射出成形等でも呼ばれている外皮層である。同様に、CFを取り巻く接着剤層もこの外皮が約0.1mm程度となる。この合計で、エポキシ樹脂系接着剤で0.3mm程度の硬化層が形成される。この硬化層の肉厚が最大で2.0mmとしたのは、肉厚が厚すぎても接着強度上は問題はないが、接着一体化物に外から荷重がかかると変形は少ないものが良い。また、肉厚が厚すぎると、空気が混入し易くなるし、減圧で脱気しても抜けにくい。以上の理由で、本件発明のエポキシ樹脂系接着剤が硬化した層厚は、0.3mm以上、好ましくは、0.3mm~2.0mmとした。この1液性エポキシ接着剤は、特殊なものは必要なく、耐熱性に優れた市販されている前述した「EW2040」も使用できるし、これ以外でも本発明者が特許文献14で提案したものでも良い。
【0068】
金属材同士の接着剤において、150℃下で35MPaのせん断接着強さを示す接着剤であれば良い。但し、これらは、その完全硬化条件が150~170℃と高温であり、これが本項での接着剤硬化物層厚を、例えば0.5mm程度の厚さを目指す上で作業が一挙に難しくしている。その一方、2液性エポキシ接着剤は、基本的に常温下での硬化が可能であり、硬化時間を短くするために50℃前後の加熱室を設ければ1日程度で硬化終了も出来る。但し、2液性エポキシ接着剤の常温下での接着力は、概して1液性エポキシ接着剤の2/3程度で低い。但し、歴史的に耐熱性ある2液性エポキシ接着剤は、市場から開発要請されなかったので、本発明の発明者が知るかぎりでは、開発されてなく市販品もない。本発明や本発明者による先願発明の特許文献2に記載の発明のように、薄板を介在させた接着技術が実用化されてくると、2液性エポキシ接着剤を耐熱性あるものに改良する研究開発は進むとみられる。従って、本発明において、2液性エポキシ接着剤を排除するものではない。本発明の接着剤層厚は、0.3mm以上、好ましくは0.3~2.0mmが良く、この肉厚を確保する実用技術の開発に関し、使用接着剤は市販の1液性エポキシ接着剤「EW2040」を例として考察する。
【0069】
前述したNAT理論に従った接着では、常温で粘度がある糊状物でもある1液性エポキシ接着剤を、粗面化処理したCFRP片とNAT処理(接着用の表面処理を指す。)した金属片に塗りつけ、その後にデシケータに入れて減圧真空処理する。この減圧真空処理で、CFRP材と金属材表面に形成された超微細凹部に残存している空気、接着剤中に溶け込んだ空気、低沸点溶剤等が除去される。減圧真空化の後に、一旦常圧に戻して接着剤層を大気圧により、上記超微細凹部から抜けた気体跡に、接着剤を押し込む操作も要る。このような接着剤を2材に塗布する操作をした上で、何れかの材料に追加の接着剤を乗せ、そして両材を突き合わせて、指定の接着剤層厚を確保する。更に、これをデシケータに入れて、減圧/常圧戻しをした後、接着剤中に空気が残存せぬようにし、それから150℃以上に加熱して硬化させる。この硬化工程の最初の昇温で、温度70~90℃になると塗布した1液性エポキシ接着剤は、低粘度液体に変って粘度は急減少する。その後、低粘度液体の接着剤は重合が進み始めるのは120℃以上になってからである。それ故に、低粘度液体を接着硬化すべき場所から漏れ出さぬようにする接着方法を確立する必要がある。
【0070】
[接着剤硬化層の肉厚の確保とシート状接着剤等]
本発明者は、航空機メーカー等が常用しているシート状接着剤を市場から購入した。このシート状接着剤は、ナイロン繊維のような合成繊維の不織布に、1液性エポキシ接着剤を染み込ませたものである。航空機製造において、機体胴部ではA7075Al合金製の肋骨構造に、A2024Al合金製薄板材を接着して胴部構造を作り上げる工程はよく知られており、その接着工程で糊状接着剤に代えて、裁断したシート状接着剤を使う例もよく知られている。本発明で、このシート状接着剤が使用できないか検討した。本発明では、シート状接着剤を本発明でいう前述した接着剤硬化層を形成するためではなく、接着剤を塗り重ねなくても良いように、塗り工程を簡略化する目的物で用いた。被接着表面に、このシート状物を5枚も重ねて使用し、接着する両材の押し付けは単にクリップ等で加圧するだけで、容易に接着剤層厚を0.5mm程度は形成出来るものと予期し実験をした。しかしながら、加熱時の加圧が強かったのか、加熱時に軟化し、シート状接着剤は不織布繊維も含めて接着層から流れ出し、この実験方法でき所望の肉厚は形成できないことを確認した。
【0071】
不織布に使用する繊維は、高融点の樹脂繊維、又は絹、木綿麻等の天然繊維でなければ、両材を加圧して押さえ付けると、所望の肉厚のある接着剤層は形成されない。不織布ではなく、織目が荒い平織りの天然繊維布を使ったシート状接着剤の場合、所望の接着剤層厚を確保できる可能性があると推察される。但し、例えば麻繊維使用の布状物に、1液性エポキシ接着剤を染み込ませたシート状接着剤では、これは明らかに麻のFRPプリプレグである。炭素繊維に代わって、天然素材の絹、木綿、麻等を使用すれば、この天然素材の絹、木綿、麻等を含んだ接着剤硬化層そのものが、一定の線膨張率を持つことになる。本発明で0.3~3mm厚の接着剤硬化層の肉厚を持たせる理由は、これらが強化繊維を含まない軟質物である。天然素材の絹、木綿、麻等を含んだ接着剤硬化層は、例えば、CFRPとA7075Al合金片の間に有って、両者の線膨張率に対しても従順に追従する、という柔軟性を持っているだけであり、機械的な強度の保持という観点から使えないと判断した。
【0072】
他方、接着剤硬化層は、所定の肉厚を確保する必要がある。そこで、繊維でなく、内部スペーサーとして、粒径1~3mmの耐熱性あるプラスチック粒子を1液性エポキシ接着剤に数重量%混ぜ込み、この接着剤を硬化させて、接着剤硬化層の肉厚を1~3mmにする手法が考えられるが、この方法では肉厚は確保できなかった。仮に、接着剤硬化層の肉厚を数mmと厚くすれば、加熱硬化のために昇温により接着剤が低粘度液化したとき、接着剤が被接着部から漏れ出す可能性がある。そこで、本発明では、確実に接着部の接着剤硬化層の肉厚を確保する方法を開発した。即ち、詳細な構造は後述するが、接着層にスペーサーのようなものを介在させて、加熱時に液状化する接着剤の流出を防ぐために、接着層の外周部を、プール状のスペーサー壁で囲う方法である。
【0073】
[接着剤硬化層の肉厚の確保]
本発明のFRPと金属材の接着一体化物の接着剤硬化層は、前述したモデルの説明から理解されるように、所定の肉厚を確保する必要がある。実際のエポキシ系接着剤の場合、高温に加熱する必要があり粘度が低下し、肉厚の確保は困難である。以下、この肉厚の確保の手法について説明する。結論的には、液状化した接着剤が流れ出ないように、プール状の閉じられたスペーサー壁を金属材の表面に形成し、この壁内に接着剤を入れて硬化させる手法である。この具体的な例を
図15~
図18に示す。即ち、樹脂製のスペーサー壁を形成するために、金属材側に射出接合用の表面処理をし、例えば、PPS系樹脂である「SGX120(東ソー株式会社(本社:日本国東京都)製」(以下、「SGX120」という。)等の樹脂をその表面に射出して、形成するものである。より効果的には、金属材側に前述したNAT処理(表面の化成処理)をして、この金属表面にスペーサー壁を射出成形により形成する。そして、このスペーサー壁内にエポキシ接着剤を満杯にし、CFRP材で蓋をする形で前述した接着硬化操作が出来ると推察した。スペーサー壁の外枠としては、例示すれば
図15~18に示したような枠体を形成する。このような壁状のスペーサー壁を金属の表面上に射出成形で形成する技術は周知技術であり、詳記しない。なお、本発明者は、金属と樹脂を射出成形により接合する射出接合技術である「NMT」、「新NMT」(特許文献3~7)(5.6要確認)の発明者であり、この射出接合技術を提案した。
【0074】
このスペーサー壁は、CFRPと金属との2部材の接着力に、直接関与するものではなく、加熱したとき液状化した接着剤の流出を防ぐためのものである。この射出接合技術は、特殊な射出接合法、特殊な素材である樹脂等で壁を形成するものでなくてもよい。樹脂でなく、例えば、紙粘土で形成するものでなくてもよい。何しろスペーサー壁を意図的に最初から作るために、エポキシ接着剤を使用した、公知技術であり本発明者が提案したNAT型接着剤接合技術を用いると良い。このNAT型接着剤接合技術は、結果的に前述した(i)及び(iv)と、(ii)及び(iv)と、(iii)及び(iv)の全てを含めた解決策になる([0024]参照)。そして、このNAT型接着剤接合技術は、CFRP、GFRP等に代えて、CFRTPを使用した場合にも使用できる。本発明は、接着面積が小さめの飛行体等でも十分実用に耐える技術であると判断した。
【0075】
(高度接着技術:NATについて)
本発明者は、前述したNAT(Nano adhesion technologyの略)と命名した接着力を高くするための高度接着技術を発明し提案した。これは接着剤そのものを高性能化するという技術ではなく、接着する金属片、即ち被着物である金属片の表面処理法に関係する。即ち、NATは、本発明者が全金属種を対象にした接着剤接合技術であり、NATはその成立の必要条件として以下5点を要求した。即ち、使用する金属片に関しては、以下3点が必要条件であり、この3点を満足するように化学処理する表面処理法を「NAT処理」と称し、これを提案した。NATでの必要条件は、
(1)金属表面を0.8~10μm周期の凹凸ある粗面にすること、
(2)その粗面上に5~300nm周期の微細凹凸があるようにすること、
(3)上記の2重凹凸面をなす表面は、金属酸化物、金属リン酸化物等の硬質なセラミック質の薄層で成っていること、
の全条件を満たすようにする処理法である。更に、NATで使用する接着剤種、及び、接着操作に関する次の2条件が必要である。
(4)接着剤として、1液性接着剤の使用を優先的に求め、1液性接着剤が存在しない場合には硬化剤として最も遅効性の物を選んで採用すること、
(5)接着操作において、「染み込まし処理」の工程を含むこと、
の2点である。
【0076】
上記の条件(4)は、接着剤が未硬化の低分子量分子のままで金属材表面に接することを求め、条件(5)は、その低分子量分子が条件(2)記載の超微細凹凸面上の超微細凹部の奥底まで侵入するように仕向けている。即ち、NATの目指すものを端的に言えば、被着材としての金属の表面形状として、より好ましいのは、5~100nm周期の超微細凹凸面の存在であること、かつ、ミクロンオーダー周期の粗面があることは、前述した超微細凹凸面が広いこと(表面積/見かけ面積の比が大きいこと)、及び、接着剤が低分子量状態のまま(粘度の低いまま)塗布され、かつ、前記超微細凹凸面の凹部底まで侵入し、その後に重合が促進され硬化するのが最も強い接着力を生むとの簡単な理論を明文化したものである。
【0077】
このNAT理論は、各種金属材で実証された(特許文献8~12)。又、条件(4)には1液性接着剤が好ましいとあるが、NATが最も役立つのは1液性エポキシ接着剤であると本発明者等は判断し、前記実証試験は殆どが1液性エポキシ接着剤によるものとなった。実際、NATが示した強力な接着力は多くの技術者に衝撃を与えた。実例から言えば、特別なものではなく市販の1液性エポキシ接着剤の使用により、ほぼ全金属種にてNAT処理した同種金属片同士の接着対のせん断接着強さとして、23℃下で約55~70MPaが得られた。
【0078】
(過去10年のNATの発展状況)
NATの開発の過程を簡単に説明する。1液性エポキシ接着剤(「EW2040(スリーエムジャパン株式会社(本社:日本国東京都)製)」)を使用したものでは、NAT処理や改善されたNAT型表面処理(以下、従前及び改善されたNATのための表面処理を「NAT処理」という。)をなした同種金属片同士の接着対で、58~63MPa(23℃)、バラつきもあるので雑駁に言えば、約60MPaのせん断接着強さが観察され、約60MPaがこの接着剤での上限値であると思われた。
【0079】
(本発明における接着力測定法について)
本発明で採用した接着力測定法は、一般的な接着力測定法とは異なる。即ち、本発明に記載のせん断接着強さと引張り接着強さは、JISK6849、6850に規定された手法で測ったものではない。これらの従来規定されている公的規格に規定された手法では、本発明のように接着力が強いとき、正確なせん断接着強さが測定出来できない。又、引張り接着強さ測定に関しては、前記手法で決められた形状の金属片の入手が困難であり、特に、薄い0.4~3.0mm厚の金属材は、接着面積が確保できず正確な測定が出来ない。本発明者等が提案した前述のNATに関係する各発明(特許文献8~12)及び本発明では、
図1に示した試験片を使用して、規格化された方法でせん断接着強さを測定した。しかし、Al材が関係するNAT特許(特許文献8)を開発した時点では、引張り接着強さを18mm×4mm×3mm厚の金属片2個の4mm×3mm端面同士を接着した形の接着対(試験片)で測定し、その数年後では、引張り接着強さを100mm×25mm×3mmの金属片2個の25mm×3mm厚端面同士を接着した形の接着対で測定し、更に特許文献2に使用した頃、即ち、最近では引張り接着強さを45mm×18mm×1.5mm厚の金属片2個の18mm×1.5mm厚端面同士を接着した形、即ち
図2で示した形状の接着対で測定した。
【0080】
(射出接合技術:NMT、新NMTについて)
スペーサー壁等を形成するためのもので、参考技術として前文で示した射出接合技術のNMT(Nano molding technologyの略)、新NMT(New nano molding technologyの略)について、簡単に説明する。これは予め金属片に、本発明者等が提唱した前述した「NMT処理」、「新NMT」等の化成処理である表面処理操作を行った上で、それを射出成形金型にインサートし、そこへ射出接合用の組成調整を行った高結晶性熱可塑性樹脂組成物を射出し、金属片と樹脂成形物が強く接合した一体化物とした技術である。接合させる金属片毎に好ましい表面処理法があり、その探索と改良で最適処理法を見つける化学処理法技術、そして射出接合用として、最適の樹脂組成物を見つけ出す技術の双方が鍵であった。これらは、ほぼ市販品として得られる全金属や金属合金類について、又、射出樹脂種としてPBT系樹脂、ポリアミド系樹脂、PPS系樹脂、そしてPEEK系樹脂についてほぼ確立されている。これらに関しては特許文献3~7、及び特許文献13に開示されている。
【0081】
金属と樹脂が強い射出接合力を生むメカニズムであるが、金属側には、数十nm周期の超微細凹凸面含む凹凸周期が異なる2重3重の複合凹凸面形状があることであり、その表面にアミン系分子が化学吸着している場合には樹脂組成物との射出接合が円滑に進み易い。それ故に、表面処理法にアミン系分子の化学吸着工程を含んでいる処理法をNMT処理法と称し、表面処理品にアミン系分子の吸着物を含まない処理法を新NMT処理法と称した。そして、それらから得た射出接合技術をNMT、新NMTと称した。実際にはアミン系分子が化学吸着するのはAl合金類であり、結局は、Al合金に関しては「NMT」と「新NMT」があり、他の金属に関しては全て「新NMT」が使える射出接合技術である。
【0082】
そして、前記した接着剤接合技術「NAT」にて各種金属材に対して行うNAT処理法の基本は本発明者が最初に提案し、かつ、それは射出接合技術で得た新NMT処理法そのものだった。即ち、本発明者は最初にNMT、新NMTの射出接合技術を発明し、次いでその水平展開から接着剤接合技術のNATを発明した。即ち、金属合金種毎に最高の射出接合力、接着剤接合力を得るべく開発を進めて得た個々の表面処理法は、微妙に異なるが全ては類似している。それ故に、本発明に関して言えば、ジュラルミン材含むAl合金だけでなくTi材やTi合金、そしてステンレス鋼含む一般鋼材に関しても各々のNAT処理法はその新NMT処理法、NMT処理法に類似している。要するに、最適なNAT処理法をした各種金属材は、射出接合における接合力も最高度でなくとも、接着工程時のスペーサー壁構造を作り上げる目的としては十分に使える。
【0083】
(まとめ)
本発明は、本発明者等による先願発明(特許文献2)と同一目的の物であり、先願発明を補填する改良発明である。即ち、本発明は、CFRP材と特定の金属材とを直接的に接着剤接合する技術であって、通常では不可能だとされる直接的接着を、CFRP材の積層構造や使用されるCFRPプリプレグの選択から注文を付ける中で可能な手法があることを開示するものである。
【0084】
[FRPと金属材の接着一体化物の製造方法]
本発明のFRPと金属材の接着一体化物の製造方法の概要は、次の通りである。化成処理された金属材形状物を接着面が水平になるように固定して、プール状に囲まれ囲壁内の接着面に、1液性エポキシ接着剤をやや過度に充填する。次に、これを大型真空袋や大型オートクレーブに入れて、減圧・常圧戻し操作等を行って接着剤中に溶解したガス分等を脱気する。一方のCFRPやFRP厚板状物に、その接着面に粗面化操作を加え、洗浄、乾燥して接着操作に備える。その後、その接着面の部分に薄く1液性エポキシ接着剤を塗り、これらも大型デシケータや大型オートクレーブに入れて、減圧・常圧戻し操作等を行って接着剤中に溶解したガス分等を脱気して用意する。保持物に固定した前述の接着剤付きの金属材形状物の上に、この接着剤付きのCFRP厚板状物を所定位置になるように乗せて軽く押し付け固定する。その固定のまま熱風乾燥機内にて150℃以上の温度にして接着剤を硬化させる。
【0085】
更に、本発明のFRPと金属材の接着一体化物の製造方法の詳細は、次の通りである。常法、又は前述したNATにより、金属薄板付きのFRP厚板状物を先ず作成する(
図18の上部の部材)。この金属薄板付きのFRP厚板状物を、連結された大型水槽群に順次浸漬する等の化学処理法で、金属薄板部に好被着性を与える。一方、前記金属薄板部に対して接着する金属材につき、その形状を設計し機械加工して用意するが、接着面となるべき場所を囲むように合成樹脂製の囲壁を作る。この囲壁形成の前に、機械加工等で設計通り得た金属材に対し射出接合用の表面処理を行う。その上で、この金属材自身を射出成形金型にインサートし、射出接合用の特定樹脂を金属材の表面に射出し、囲壁を形成する。この囲壁は、接着面となるべき場所の周囲に高さ0.3~数mmの樹脂製の壁である。
【0086】
次に、前記の金属材形状物を接着面が水平になる様にして何らかの保持物に固定し、プール状になった接着面になるべき部分に1液性エポキシ接着剤をやや過度に充填し、次いで大型真空袋や大型オートクレーブに入れて減圧・常圧戻し操作等を行って接着剤中に溶解したガス分等を脱気し、先ほどの表面処理済みの金属薄板付きCFRP厚板状物につき、その金属薄板部の接着面とすべき部分に薄く1液性エポキシ接着剤を塗り、これらも大型デシケータや大型オートクレーブに入れて減圧・常圧戻し操作等を行って接着剤中に溶解したガス分等を脱気して用意し、保持物に固定した前記の接着剤付きの金属材形状物の上に、この接着剤付きのCFRP厚板状物を所定位置になる様に乗せて軽く押し付け固定し、その位置形状のまま熱風乾燥機内にて150℃以上の温度にして接着剤を硬化することを特徴とする。
【0087】
[3]接着剤層厚を0.3mm以上にするための技術
射出接合技術に、ついてその概要は前述のNMT、新NMTに関する説明の中で述べたが、本発明で使用する具体的な手法について述べたい。即ち、CFRP厚板材とA7075Al合金厚板材とを接着する場合、又、CFRP厚板材と64Ti合金厚板材とを接着する場合、双方共に金属材側に接着剤を滞留するための一種のプールを作るための枠壁状物がNMTや新NMTで作成する。その形状として
図15、16、17、及び18に示す構造がある。
図17は、このプールが0.3mm深さ等と浅く、かつ広い場合に何らかの歪で中央付近が浅くならぬようにスペーサーとして、中央部に島、又は浅瀬状の突起を設けたものである。接着面中央は、温度衝撃を受けても上下面(厚さ方向)の移動はないので、接着剤硬化物層の肉厚はゼロmmでもよい場所であり、スペーサーとしての機能を果たすことができる。又、この射出接合に最も適しているのは、前述したPPS系樹脂「SGX120」であろう。その理由は、このプール壁状物として、金属材上に射出接合した樹脂材と金属材間に強烈な射出接合力は不必要であり、接合力の耐熱性も200℃下であれば僅かな形状維持力さえ有していれば接着剤硬化時の工程進行にトラブルを生じないと思われるからである。それ故に、Al合金用のNMT処理法、64Ti合金用の新NMT処理法は簡便な初期に開発された表面処理法でもよく、明確に言えばAl合金や64Ti合金用のNAT処理法で十分に役立つ。
【0088】
一方、その件で工程上心配なことは、NAT処理したAl合金厚板や64Ti合金厚板を射出成形機内の射出接合用金型にインサートし、射出接合を済ませて次のエポキシ接着剤使用の接着剤接合工程に進めた場合、先に行ったNAT処理済み金属面がそのまま効果を発揮できるか否かという問題である。接着面部に当たる部分が、射出接合金型に挟まれて元々の複雑な超微細凹凸が壊されている可能性、又、射出接合時に生じる射出樹脂の分解ガスが元々の複雑な超微細凹凸面に吸着や付着して接着性能を落としている可能性がある。それ故に、射出接合物が得られた後に、そのPPS系樹脂製射出接合物付きの金属材自体を、脱脂洗浄工程含む最新のNAT処理を行うべきと思われる。この点、Al合金のNMT処理、そしてPPS製プール状物が射出接合された後に行うNAT処理を行う場合には何ら問題はない。
【0089】
しかし、64Ti合金材に対して新NMT処理を行い、その後にPPS製プール状物が射出接合された後に行うNAT処理は避けたい。何故なら、Ti合金のNAT処理には強アルカリ性水溶液に浸漬する工程があり、PPS系樹脂が分解するからである。要するに、PPS系樹脂「SGX120」の射出接合工程時に、先に処理された64Ti合金面のプール内に当たる面積部分について超微細凹凸面形状を傷つけない様にする(金型形状を工夫しておくこと)、又、射出接合物が得られた後に射出樹脂の熱分解ガスがこの面積物に付着固化していることが予想できるので、トルエン等で溶かし拭き取ることも必要だろう。
【0090】
同様に、CFRP材やFRP材に金属薄板を接着して行う発明品(発明2,4、6、7)がある。これらでは薄板にNAT処理をして更に接着剤を薄く塗り、これをCFRPプリプレグやGFRPプリプレグの積層物に最後に乗せる工程がある。その後にオートクレーブ法で一体化して金属薄板付きのCFRPやFRPにするわけであるが、この積層物の接着硬化工程で接着した金属薄板材が汚れる、即ち、未硬化の接着剤やマトリックス樹脂が移動して表面に付着し硬化膜を作るおそれがある。この様に明確に汚れが付着している場合だけでなく綺麗に見える場合も含め、この金属材に関しては2回のNAT表面を行うことになる。2回目は、FRP材に金属薄板が接着したままであり、そのNAT処理に強酸、又は強塩基を使う場合は、やや不安になる可能性がある。金属薄板として使用実験は各種Al合金だけでなく薄板が入手できたSUS304、SUS316、C1100銅等あるが、弱酸弱塩基性の水溶液でNMT、新NMT、NAT処理が出来るのはAl合金だけであり、その点で、薄板材としてはAl合金薄板が好ましい。
【0091】
[4]2液性エポキシ接着剤について
本発明に関し1液性エポキシ接着剤について主に検討したが、2液性エポキシ接着剤が使用できないわけではない。NAT処理をした各種金属片は接着剤接合に適した金属表面になっている。これらNAT処理済み金属片の同種同士をNAT型接着した場合、市販の1液性エポキシ接着剤を使用すると常温下60~80MPaとなる。そして本発明や先行発明の特許文献2で使用した耐熱性に優れる1液性エポキシ接着剤「EW2040(スリーエムジャパン株式会社(本社:日本国東京都)発売)」は、約60MPaだった。同様に、2液性エポキシ接着剤として最も広く使用されている「DP420(スリーエムジャパン株式会社(本社:日本国東京都)発売)」は、常温下約40MPaである。構造用接着剤として信頼性あるとされている接着剤は、2液性エポキシ接着剤で得た接着対でのせん断接着強さは、概して1液性エポキシ接着剤使用物の2/3程度となった。多種の2液性エポキシ接着剤を使用して、
図1に示す形状物(試験片)を作り、100℃下、150℃下で、そのせん断接着強さ値を測る等、その耐熱性品はどれかという詳細な比較試験を本発明者はしていない。150℃下で30MPa与える前述の「EW2040」のような高い耐熱性のないことは推定できる。要するに、高温下での高接着力を求める目的の開発目標として、2液性エポキシ接着剤では元々されていないので致し方がない。
【0092】
ただ、1液性エポキシ接着剤の硬化条件は、温度が150~170℃で、加熱時間が20~60分の高温加熱である。要するに、150~170℃で接着剤は硬化し固化する。それ故に、得た接着対を常温下に戻すと、接着剤層部分は金属材の線膨張率×150℃の分だけ縮むのにつられて縮むことになり、本来の縮み長さと異なる縮み方を強制される。要するに、その接着対が常温まで冷やされて23℃になろうと、もっと冷やされて-50℃になろうと、接着剤硬化物層は、これ自身が有する線膨張率とは異なる伸び縮みを強制される。この強い強制(内部応力)を守っているのは、接着剤硬化物の軟性とNAT処理した金属材と接着剤硬化物間の強い接着力の双方によると言える。実際には一般に1液性エポキシ接着剤で得た接着対では、
図1に示す形状物(試験片)のように、接着剤硬化層の厚さは0(測定器レベル)~0.1mmとごく薄く、この層が熱伸縮に追従するので、線膨張率等は殆ど関係しない。それが、本発明のように、例えば
図8に示すような接着構造のように、一方がCFRP厚板であり、一方がA7075Al合金厚板であって、接着剤硬化物層の厚が1mmほどある場合を想定する。
【0093】
この接着構造の場合、接着剤硬化層の下面部(図示上)では縦横で、0.2×10-5K-1と5×10-5K-1の交差した線膨張率、敢えて言えば、接着剤硬化層と金属厚板との平均2.6×10-5K-1の線膨張率に従い伸縮する。上面部では、同様に接着剤硬化層とCFRP厚板との平均である2.3×10-5K-1の線膨張率に従うことになるので、接着剤硬化物層の形状は、変形した台形型の立体物になる。軟質物として捉えている接着剤硬化物製の台形型立体物が、-50℃まで冷えて最も変形した時に壊れずに存在するかということ自体が本発明の成功か否かという分かれ目になる。
【0094】
2液性エポキシ接着剤の使用時はどうなるか。元々耐熱性が低いとして温度衝撃試験の温度範囲として-50℃/+100℃が限度であろう。航空機や飛行体としては、そのエンジン部、発熱する発光部に近辺に配置しなければ上記の温度範囲内で使用できるから、2液性エポキシ接着剤は十分に使用可能と思われる。特に、接着剤硬化条件として、通常、45℃×48時間にて完全硬化させ得る接着剤はあるから、その場合は工場内に設けた室内での接着操作も可能である。接着剤の硬化温度を45℃とすれば、-50℃になった場合でも中心温度(硬化温度)より95K下がったことになり、1液性エポキシ接着剤使用時の中心温度170℃から-50℃まで下がった場合の220Kの下がりの半分に過ぎない。その意味では2液性エポキシ接着剤の接着力の弱さを多少消しているとも言える。
【0095】
何れにしても接着面積の大きさで決めることである。例えば、この接着構造が小型のドローンのような小型飛行体であれば、オートクレーブを使用してCFRP部の作成も、最終接着工程も高温加熱が可能にて1液性エポキシ接着剤を使用しての作業が出来る。一方、大きめの部材に接着工程を進める場合等でオートクレーブに入りきらぬ等、厄介が多ければ、2液性エポキシ接着剤を使用しての作業が可能であろう。何れにしても2液性エポキシ接着剤の性能で足りない点は耐熱性である。過去から2液性エポキシ接着剤に耐熱性を求める用途はなかった。しかしながら、本発明においても、2液性エポキシ接着剤を使用すればより工程化が容易になる部分がある。本発明での応用が進めば、2液性エポキシ接着剤においてもその耐熱性を高める研究が進むだろう。
【発明の効果】
【0096】
本発明FRPと金属材の接着一体化物とその製造方法は、CFRP材とジュラルミン等、Al合金含む高強度金属材、CFRPやFRPとTi合金材とを強く接着一体化する技術を明らかにしたこと、及び、温度衝撃試験や耐湿熱性試験に耐え得るものができた。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【
図1】
図1は、金属片同士の接着対(試験片)であり、金属間のせん断接着強さを測定するための試験片である。
【
図2】
図2は、金属片とCFRP材の接着対であり、引張り接着強さを測定するための試験片である。
【
図3】
図3は、CFRP材が単方向に引き揃えた炭素長繊維と熱硬化性樹脂硬化物とから構成されたCFRP材の1つを示す構造図である。
【
図4】
図4は、CFRP材の1つを示す構造図であり、単方向型に引き揃えた炭素長繊維を有するCFRPプリプレグを、交互に90度で交差させて積層したCFRP板状物の構造例である。
【
図5】
図5は、CFRP材造の1つを示す構造図であり、布型CFRPプリプレグを積層したCFRP板状物を示す積層構造例である。
【
図6】
図6は、CFRP材構造の1つを示す構造図であり、図中の左部は単方向型CFRPプリプレグの繊維方向を90度で回転させて順次積層したものであり、右部は単方向型CFRPプリプレグを繊維方向で引き揃えて積層した積層構造例である。
【
図7】
図7は、FRP材構造の1つを示す構造図であり、図中の左部は単方向型に引き揃えた炭素長繊維を有するCFRPプリプレグであり、右部はTi合金厚板材と接合できるように、単方向型CFRPプリプレグと単方向型GFプリプレグを90度交差して積層したものである。
【
図8】
図8は、を厚さある接着剤硬化物層を挟んで接着してなる接着対の最も簡単な接着対の形状例である。
【
図9】
図9は、金属厚板とCFRP厚板の接着対から、接着剤硬化物(50×50×1.0mm)の部分だけを取り出して図式モデル化したものであり、
図9(a)~(c)は、形状が硬化温度の+150℃の時と冷やされて-50℃になった時について示したものである。
【0098】
【
図10】
図10は、金属厚板とCFRP厚板の接着対から、接着剤硬化物(25×25×1.0mm)の部分だけを取り出して図式モデル化したものであり、
図10(a)、(b)は、形状が硬化温度の+150℃の時と冷やされて-50℃になった時について示したものである。
【
図11】
図11は、金属厚板とCFRP厚板の接着対から、接着剤硬化物(25×25×0.5mm)の部分だけを取り出して図式モデル化したものであり、
図11(a)、(b)は、形状が硬化温度の+150℃の時と冷やされて-50℃になった時について示したものである。
【
図12】
図12は、金属厚板とCFRP厚板の接着対から、接着剤硬化物(50×50×1.0mm)の部分だけを取り出して図式モデル化したものであり、
図12(a)~(c)は、形状が硬化温度の+150℃の時と冷やされて-50℃になった時について示したものである。
【
図13】
図13は、金属厚板とCFRP厚板の接着対から、着剤硬化物(50×50×0.5mm)の部分だけを取り出して図化したもので、その形状が硬化温度の+150℃の時と冷やされて-50℃になった時について示したものであり、
図13(a)~(c)は、形状が硬化温度の+150℃の時と冷やされて-50℃になった時について示したものである。
【
図14】
図14は、金属厚板とCFRP厚板の接着対から、接着剤硬化物(100×100×0.5mm)の部分だけを取り出して図化したもので、その形状が硬化温度の+150℃の時と冷やされて-50℃になった時について示したものであり、
図14(a)~(c)は、形状が硬化温度の+150℃の時と冷やされて-50℃になった時について示したものである。
【
図15】
図15は、
図8と同じくCFRP厚板と金属厚板を接着する場合の構成図を示したものであり、肉厚を確保するための接着剤を満たすプール状の正方形枠体を形成したものである。
【
図16】
図16は、
図8と同じくCFRP厚板と金属厚板を接着する場合の構成図を示したものであり、肉厚を確保するための接着剤を満たすプール状の変形させた正方形状枠体を形成したものである。
【
図17】
図17は、
図15に示した正方形枠体を形成したものであるが、その中心部に肉厚保持島を配置した例である。
【
図18】
図18は、積層された金属厚板材と、金属薄板が接着されたCFRP又はCFRTP厚板を接着する場合の構成図を示したものであり、肉厚を確保するための接着剤を満たすプール状の正方形枠体を形成したものである。
【
図19】
図19は、
図7に示した積層構造のFRP厚板材の右部に、金属薄板を介して、金属厚板を接着した例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0099】
以下、実施例にてその具体的な最良の発明品の製作法、そして得られる発明品自体について説明する。
【実施例】
【0100】
以下、本発明の実施例を実験例に換えて詳記する。
(a)電子顕微鏡観察
主に基材表面の観察のために電子顕微鏡を用いた。この電子顕微鏡は、走査型(SEM)の電子顕微鏡「SSM-7000F(日本電子株式会社(本社:日本国東京都)製)」を使用し、1~2kVにて観察した。
(b)接着強度の測定
引張り試験機で、接着剤接合物(
図1に示す試験片)を引張り破断するときの破断力をせん断接着強さとした。又、引張り試験機で接着剤接合物(
図2)を引張り破断するときの破断力を引張り接着強さとした。使用した引張り試験機は、「AG-500N/1kN(株式会社 島津製作所(本社:日本国東京都)製)」を使用し、引張り速度10mm/分で測定した。
【0101】
(c)せん断接着ねばり性の測定
本発明でいう「せん断接着ねばり性」は、引張り試験機で接着剤接合物(
図1に示す試験片)を引張り破断させるのではなく、引張り接着強さを前もって測定しておき、その力量の75%程度の力を300回だけ連続的に繰り返し与える試験である。引張り試験機の運転ソフトのモードをこの操作が出来るようにセットし、最大引張り力を上記の力量、最小引張り力を前記力量の約2/3とし、かつ、引張り速度を±10mm/分として運転する。これで破断しなければ、約2MPaを前記の最大引張り力に加えて同じ、300回の繰り返し負荷を与える試験をする。それでも破断しない場合は、更に約2MPa程を加えて同操作を繰り返し、
図1に示す試験片が破断するまで続ける。破断したら、破断前の最大引張り力を得て、その力量をMPaで表示し、これを「せん断接着ねばり性」値とする測定法である。使用した引張り試験機は、上記「AG-500N/1kN」である。
【0102】
(d)非破壊検査
試験片の剥離の検査は、簡易的には着色した水性浸透液を接着層の外観部に塗布して拭き取り、着色部が拭き取れるか否かで検査する試験法で十分に確認できる。しかし、接着面のどの範囲まで剥離が拡がっているかを確認したい場合には、超音波による非破壊検査機を用いて確認した。使用した機器は、超音波型の非破壊検査機「MSライン(株式会社 日立パワーソリューションズ(本社:日本国茨城県)製)」で、その剥離の範囲を確認した。
【0103】
(e)温度衝撃サイクル試験
本実験の温度衝撃サイクル試験には、「小型冷熱衝撃装置TSE-12-A(エスペック株式会社(本社:日本国大阪府)製)」を使用した。標準的に行った温度衝撃サイクル試験の条件は、冷室温度-50℃、高温室温度+150℃とし、各室の滞在時間25分、移動時間約5分とした。この試験機自体は、温度27℃に常時温調している室内に置き、かつ、定期的に冷室温度を室温に上げて機械氷結部を自然溶解させる自動運転とした。しかしながら、この自動運転でも起こり得る高湿度時において、機構部が氷結する事故をも完全防止するために、週末、及び、正月、5月、8月等の連続休日時は試験機の運転を止め安全運転に徹した。
【0104】
[実験例]各素材の表面処理
[実験例1]A7075Al合金の表面処理(NAT処理(接着の前処理))
厚さ1~3mmにわたる種々の形状のA7075Al合金板を購入し、必要な形状に機械加工しAl合金片とした。浸漬槽に、アルミ用脱脂剤「NA-6(メルテックス株式会社(本社:日本国東京都)製)」10%を含む水溶液を温度60℃とし、前記Al合金片を5分間浸漬した後、これを水道水(群馬県太田市)(以下、省略する。)で水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃とした1%濃度の塩酸水溶液を用意し、これに前記Al合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、温度40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに前記Al合金片を4分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、温度40℃とした3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これに前記Al合金片を3分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、温度60℃とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意して、これに2分間浸漬し、次に別の浸漬槽に温度33℃とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に0.5分間浸漬した後、これを水洗した。そして、5%濃度の過酸化水素水に5分間浸漬した後、これをよく水洗し、温度67℃に設定した温風乾燥機に、15分間入れて前記処理を終えたAl合金片を乾燥し、これを清浄なアルミ箔でまとめて包み保管した。
【0105】
[実験例2]A7075Al合金の表面処理(NMT2処理(射出接合の前処理))
厚さ1~3mmにわたる種々の形状のA7075Al合金板を購入し、これを必要な形状に機械加工して、これをAl合金片とした。浸漬槽に、上記アルミ用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃とし、前記Al合金片を5分間浸漬して、水洗した。次に別の浸漬槽に、温度40℃とした1%濃度の塩酸水溶液を用意し、これにAl合金片を1分間浸漬して水洗した。次に別の浸漬槽に、温度40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにAl合金片を4分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、温度40℃とした3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これに前記Al合金片を3分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、温度60℃とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意して、これに前記Al合金片を1分間浸漬し、次に別の浸漬槽に、温度33℃とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に0.5分浸漬した後、これを水洗した。これを温度67℃に設定した温風乾燥機に15分間入れて、前記各処理を終えたAl合金片を乾燥し、これを清浄なアルミ箔でまとめて包み保管した。
【0106】
[実験例3]A6061Al合金の表面処理(NAT処理(接着の前処理))
厚さ0.5~2mmにわたる種々の形状のA6061のAl合金板を購入し、必要な形状に機械加工し、これをAl合金片とした。浸漬槽に、上記アルミ用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を温度60℃として、前記Al合金片を5分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、温度40℃とした1%濃度の塩酸水溶液を用意し、これにAl合金片を1分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、温度40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これにAl合金片を4分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、温度40℃とした3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これにAl合金片を3分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、温度60℃とした3.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意して、これに2分間浸漬し、更に、別の浸漬槽に、温度33℃とした0.5%濃度の水和ヒドラジン水溶液に0.5分浸漬した後、これを水洗した。そして、これを5%濃度の過酸化水素水に5分間浸漬した後、よく水洗した。これを温度67℃に設定した温風乾燥機に、15分間入れて前記各処理を終えたAl合金片を乾燥し、清浄なアルミ箔でまとめて包み保管した。
【0107】
[実験例4]64Ti合金の表面処理(NAT処理(接着の前処理))
厚さ1~3mm厚の種々形状の64Ti合金形状物(Ti合金片)を作成した。浸漬槽に、上記アルミ用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を60℃とし、前記Ti合金片を5分間浸漬した後、これを水洗した。次に、別の浸漬槽に、温度65℃とした5%濃度の1水素2弗化アンモン水溶液を用意し、これにTi合金片を5分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、温度40℃とした3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これにTi合金片を3分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、温度70℃とした2%濃度の過マンガン酸カリと3%濃度の苛性カリ含む水溶液を用意し、これにTi合金片を30分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、温度55℃とした5%濃度の亜塩素酸ソーダと10%濃度の苛性ソーダ含む水溶液を用意して、これに10分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、1.5%濃度の過酸化水素水を用意して、これに1分間浸漬した後、これを水洗した。この各処理をして得たTi合金を、更に超音波発振端付きの水槽にて数分浸漬して水洗した。次に別の浸漬槽に、温度40℃とした0.2%濃度のトリエタノールアミン水溶液を用意して、これに15分間浸漬した後、これをよく水洗した。これを温度80℃の温風乾燥機に15分入れて乾燥した後、これを清浄なアルミ箔でまとめて包み保管した。
【0108】
[実験例5]64Ti合金の表面処理(新NMT処理(射出接合の前処理))
厚さ1~3mm厚の種々形状の64Ti合金形状物(64Ti合金片)を作成した。浸漬槽に、上記アルミ用脱脂剤「NA-6」10%を含む水溶液を温度60℃とし、前記64Ti合金片を5分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、温度65℃とした5%濃度の1水素2弗化アンモン水溶液を用意し、これに64Ti合金片を4分間浸漬し、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、温度40℃とした3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これに64Ti合金片を3分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、温度70℃とした2%濃度の過マンガン酸カリと3%濃度の苛性カリ含む水溶液を用意し、これに64Ti合金片を30分間浸漬した後、これを水洗した。次に別の浸漬槽に、温度55℃とした5%濃度の亜塩素酸ソーダと10%濃度の苛性ソーダ含む水溶液を用意して、これに10分間浸漬した後、これを水洗した。温度80℃に設定した温風乾燥機に、15分間入れて前記処理を終えたTi合金片を乾燥した後、これを清浄なアルミ箔でまとめて包み保管した。
【0109】
[実験例6]CFRP厚板とA7075Al合金厚板の接着対の作成
厚さ0.2mmのCFRP単方向プリプレグ「P2255S-25(東レ株式会社(本社:日本国東京都)製)」を入手し、CF方向を揃えて厚さ10mmの110mm×40mmのCFRP厚板材を作成した。次に、厚さ0.5mmのA6061Al合金薄板の110mm×40mm片を実験例3に記載した表面処理した物を用意して、前述した1液性エポキシ接着剤「EW2040」をこの合金薄板の片面に塗布し、これを前記CFRP厚板材の上に積層し、そのままオートクレーブ法で積層一体化した。こうして得られた物は、100mm×35mmに裁断し、厚さ10.5mmのA6061Al合金薄板付きのCFRP片を得た(
図18の図示上の上部材)。
【0110】
次に、
図18に図示した素材である、2mm厚のA7075Al合金板材を入手し、これから100mm×35mmの小片を多数作成した。これらを実験例1の方法で化成処理してNAT処理品として、これを5枚積層して10mmの厚板とするものである。この厚板の各面は、前述したエポキシ系接着剤である「EW2040」で全面を面接着して、100mm×35mm×約10mmの長方形の厚板を得た。積層して得た積層物は、接着剤により積層した厚さが増加している恐れがあるので、機械加工して100mm×35mm×10mmの形状に作成した。一方、積層したこの形状のA7075Al合金厚板片に、壁で囲まれたような凹部(プール枠という。)を形成すべく、射出接合用の金型を作成した。即ち、
図18の左側図にある正方形状に形成した壁状物は、射出樹脂によって形成されたものであり、液体状である接着剤が流出しないための一種の堰のようなものである。
【0111】
このプール枠の成形は、射出成形により形成した。即ち、積層して得られた100mm×35mm×10mm厚のA7075Al合金製厚板の表面を、実験例2の化成処理方法であるNMT2処理し、それを射出接合用金型にインサートし、射出接合用のPPS系樹脂である前述した「SGX120」を射出して成形した。そして、
図15の左部の位置に描かれた壁状物であるプール状の正方形枠体に成形した。なお、正方形枠体の樹脂壁の高さの微細な調整は、射出接合用金型の作成時に高さ調整もできるし、射出接合物として成形後に機械加工で所望の高さに切削により所望の高さに加工する方法でも良い。本実験では、当初の設計品は、高さ1.5mmとして射出成形後、機械加工で0.5mm高さに削った。次に、これを実験例1に記載したNAT処理(接着のための前処理)をして、これを乾燥した。
【0112】
これらの加工で得たNAT処理品を水平に保ち、プール状の正方形枠体の底に当たる部分に、1液性エポキシ接着剤「EW2040」を2%とMIBK溶剤98%からなる溶液(正しくは懸濁液)を筆で塗り(微細表面への浸透)、50℃の温風乾燥機で20分乾燥して溶剤を揮発させた。次に上記「EW2040」で、プール枠が満杯になるように満たした。この作業の一方で、先に得ていたA6061Al合金薄板付きの上記CFRP片を取り出し、そのAl合金面の必要な箇所に、前記の溶剤希釈した接着剤液を塗り、そしてこれも50℃の温風乾燥機で20分乾燥して溶剤を揮発させた。
【0113】
水平台の上に、接着剤をプール状の正方形枠体に満たしたA7075Al合金厚板を置き、その上に接着剤を薄く塗布した形となっているAl合金薄板付きのCFRP厚板を裏返して乗せ(積層)、
図18に示した2材が接着対(
図8)のように積層した。そして、重りである上板を更に乗せた。CFRP部材と上板の重量で、プール状の正方形枠体が破壊されないように、正方形枠体とほぼ同一厚さのスペース材を挟んで、これらの個々が互いに動かないように治具で固定した。これを、予め50℃としておいた大型デシケータに入れ、真空ポンプで0.05気圧まで引き、次に、この大型デシケータ内に空気を入れ、そして再度減圧し、再び常圧(大気圧)に戻すという操作を3サイクル行う。このサイクル操作は、接着面に混入した空気を除去するためである。全体を取り出して、次は温度170℃にセットしていた熱風乾燥機に入れ、温度170℃×25分の接着剤硬化処理を行った。そして、熱風乾燥機の扉を開けて放冷した。翌日、組立物を外して、上記の接着対を取り出した。溢れた接着剤が硬化して正方形枠体の周辺に固化していたが、機械加工で、削り取れる部分は削り取り、2材間の隙間で硬化固化していた物はそのままとした。この実験では、接着剤硬化物は、
図11に示すような矩形で薄板のような形状となる。
【0114】
[実験例7]CFRP厚板と64Ti合金厚板の接着対の作成
厚さ0.25mmの平織りCFRPプリプレグ「CO6363(東レ株式会社(本社:日本国東京都)製)」を入手し、厚さ10mmの110mm×40mmのCFRP厚板材を作成した。一方、厚さ0.5mmのA6061Al合金薄板の110mm×40mm片を実験例3に記載した化成処理方法(NAT処理)で表面処理した物を用意して、これに1液性エポキシ接着剤「EW2040」を片面に塗布した。これを上述のCFRP厚板材の上に積層し、そのままオートクレーブ法で積層一体化した。こうしてえられた物を、100mm×35mmに裁断し、厚さ10.5mmのA6061Al合金薄板付きのCFRP片を得た。
【0115】
他方、機械加工して100mm×35mm×10mmの厚板形状にした64Ti合金片を得た。この64Ti合金片に、プール状の凹部を形成すべく、用意した射出接合用の金型は、
図18に示したAl合金厚板のように作成した。この64Ti合金製厚板を実験例5の方法で新NMT処理し、それを上記の射出接合用金型にインサートし、射出接合用のPPS系樹脂である「SGX120」を射出した。そして
図18の左側図に描かれたように、プール状の正方形枠体を成形したものとした。なお、この正方形枠体を所望の形状、寸法には、射出成形金型、機械加工により行う。本例では、当初の高さ2mmとし、射出成形後に機械加工で、0.5mmの高さにした。次に、これを実験例4に記載のNAT処理した後、これを乾燥した。
【0116】
えられたNAT処理品を水平に保ち、正方形枠体内部の底に当たる部分に1液性エポキシ接着剤「EW2040」を2%と、MIBK溶剤98%からなる溶液(正しくは懸濁液)を筆で塗り、50℃の温風乾燥機で20分乾燥して溶剤を揮発させた。次いで「EW2040」自体をプール状の正方形枠体に満杯になるように詰め込んだ。この作業の一方で、先に得ていたA6061Al合金薄板付きのCFRP片を取り出し、そのAl合金面の必要な箇所に、前記の溶剤希釈した接着剤液を塗り、そしてこれも50℃の温風乾燥機で20分乾燥して溶剤を揮発させた。水平台の上に、正方形枠体に接着剤を満たした64Ti合金厚板を置き、その上に接着剤を薄く塗布した上記Al合金薄板付きのCFRP厚板を裏返して乗せ、
図18に示した2材が接着対の形を取るように積層した。
【0117】
そして、固定治具、及び錘となる上板を更に乗せた。CFRP部材と上板の重量で、正方形枠体が壊れないように、更に、スペース材も挟んで全体がズレないように、接着対である積層体全体を治具で固定した。これを予め50℃としておいた大型デシケータに入れ、真空ポンプで0.05気圧まで引き、次いで空気を入れ、そして再度減圧し、再び常圧戻しするという操作を3サイクル行い、全体を取り出して次は170℃にセットしていた熱風乾燥機に入れ、170℃×25分の接着剤硬化処理を行った。そして熱風乾燥機の扉を開けて放冷した。翌日、組立物を外して接着対を取り出した。溢れた接着剤が硬化してプール枠周辺に固化していたがリュータで削り取れる物は削り取ったが2材間の隙間で硬化固化していた物はそのままとした。なお、
図18に示した接着対のCFRPは、CFRTPであっても良い。CFRTPとA6061Al合金との接合は、本発明者等が提案した公知技術であり、その詳細は説明しない(特許文献15参照)。
【0118】
[実験例8]-50℃/+150℃温度衝撃3千サイクル試験の実施
実験例6、実験例7で作成した上記接着対2対で、計4対を-50℃/+150℃温度衝撃で、3千サイクル試験にかけた。この3千サイクル試験の途中である千サイクル、2千サイクル終了時にも取り出し、超音波型の非破壊検査機で接着面中に異常箇所ないか検査しつつ行ったが、3千サイクル終了品も含めて異常品は発見できなかった。
【0119】
実験例6では、単方向型CFRP材とA7075Al合金との接着を25mm×25mm×0.5mm厚の接着剤硬化物でなしたものであり、
図11と同じ形の接着剤硬化物と同形状が故に、十分に耐温度衝撃性はあると推定したものであったが、実際に接着剤硬化層に何ら壊れた様子がなかったのはやはり厚さ有る接着剤硬化層のあったこと故であり本発明の有用性は確認できた。
【0120】
又、実験例7では布型CFRPプリプレグ積層のCFRP材と64Ti合金との接着を25mm×25mm×0.5mm厚の接着剤硬化層を形成して接着したものである。この接着剤硬化層は、これより面積が広い
図13で示した50mm×50mm×0.5mm厚の接着剤硬化物より、耐温度衝撃性はあると推定される。これらの上記実験では、実際に接着剤硬化層に何ら壊れた形跡がなかったのは、接着剤面に肉厚がある接着剤硬化層を有しているためであり、本発明の有用性は確認できた。
【0121】
[思考実験例1]
以上の実験結果から、以下の考察ができる。単方向CFRPプリプレグを繊維方向に合わせて積層して接着したCFRP厚板では、繊維方向線での線膨張率として、CF自身の線膨張係数がほぼ現れて0.1×10
-5K
-1になる。この線と直角をなす全方向に関しては、エポキシ樹脂硬化物の線膨張率が主に影響して(5~8)×10
-5K
-1と大差があるものになる。この線膨張率がそのままCFRP厚板の板面に出現する、又は影響すると推定して、本発明者の推論と実験により、そのCFRP材と金属厚板材の間を占めるエポキシ接着剤硬化物層の形状変形につき論じて来た。要するに、高耐熱性ある1液性エポキシ接着剤の硬化物(接着剤硬化層)の形状が、接着面に負荷される外力によって、
図9~14のようにモデル化し図示したように変形させられると論じた。このとき、接着剤硬化層が破壊されるか破壊されないか、特に4隅の角部分に接着力を上回る内部応力の集中が生じるか否かで考察した。この考察は、この接着剤硬化物である接着剤硬化層である固体が、鉛、純アルミ、軟鉄等のように、金属であって外力、温度変化等で、形状変化を強制されたときにどんな特性を示すかである。この接着剤硬化層の特性の一つは、金属のようにヤング率に先ず従い弾性変形し、それ以上の変形なら塑性変形する金属材に近いシク性を示すものがである。この接着剤硬化層が他の特性として、架橋度の高い硬質ゴムのように形状変化を外力により強制された時に、それが一部の架橋部を引き千切るような強い変形なら破壊される。この接着剤硬化物は、この何れかであるかという判断が鍵である。勿論、本発明者は、強化繊維を含まない合成樹脂材は、外力や温度変化等で形状変化を強制されたときに起こす変化は硬質ゴム材に近い、要するにそれは後者だと判断した。それ故に、
図10~14に示したように、モデル化して、その寸法値、形状変化を見て、接着部が剥がれるか否かの予測をした。
【0122】
図7で示したFRPは、CFRPプリプレグとGFRPプリプレグがその繊維方向を90度交差させて積層し、一体化したFRPの形をそのFRP右側部で示している。このFRP部分の上面、即ち板面における線膨張率は、前述した推論に合致するものとして、その長さ方向(x軸方向)は0.1×10
-5K
-1、そして幅方向(y軸方向)はGF並みの(0.7~0.8)×10
-5K
-1となるとした。実際に飛行機の翼等の構造物をCFRPで作る場合、
図7に示した形状の大型のFRP(例えば、長さ10m、幅2m、厚さ30mmで右辺のGFRPプリプレグ含有部のx方向長さ50cmもの)を作り、この右端部のCFとGFの双方を使ったFRP部分に長さ2m、幅50mm、厚さ10mmとする。
図19に示すように、この右部に、3つの半島状の形の64Ti合金厚板を、そのTi合金板の面積に近い大きな面積で、FRP材に64Ti合金厚板を接着した物となる。ただし、実際にその目的を果たそうとすると、FRP材と金属材間のエポキシ接着剤の接着力を信頼あるものかる必要がある。このために前述した締結部の締結強度を向上させるために、NAT処理済みのA6061Al合金薄板を、64Ti合金厚板の接着前に必要箇所に接着すべきである。それ故に、長さ2m、幅100mm、厚さ0.5mmのA6061Al合金薄板を用意し、これはNAT処理した後にウエット接着法でFRP部分に接着し、形としてAl合金薄板付きのFRP大型厚板物とする。イメージとしては
図19である。
図19に示すような締結構造の場合、Ti合金にある3つの半島状のフランジにはボルト穴を設け本体との結合用にする。
【0123】
FRPに対する接着相手の64Ti合金材の大きさは、例えば、長さ2m、幅50mm、厚さ10mmで3つのフランジ付きであり、これは射出接合用の新NMT処理をして後で接着部となる2m×50mmの面積を確保する。この接着部分に、根本幅が4mm、高さ1mm、頭部幅2mmの外周壁(接着剤溜)を、射出接合で作るべく射出成形機、金型を作成する。この射出樹脂として、PPS系樹脂「SGX120」を射出してこの外周壁を作り、実際に求めるべき接着剤層厚を計算する。この金属側接着部のモデルは、例えば
図18である。
【0124】
接着面は(2m-4mm×2)の199.2cmと(50mm-4mm×2)の4.2cmの長方形となる。この辺約2mの長い辺は、GF繊維の向きと同じなので線膨張率は(0.7~0.8)×10
-5K
-1として、64Ti合金と線膨張率が殆ど同じとなり、もう一つの辺の4.2cm幅の線膨張率がCFの線膨張率に近い0.1×10
-5K
-1である。この4.2cm幅に関係するのが64Ti合金側の4.2cmである。+150℃から-50℃の200℃の温度低下があった場合、FRP側は0.1×10
-5K
-1×200℃×4.2cm=0.0084cmだけ小さくなり4.0916cmに縮む。もう一方はTi合金の0.8×10
-5K
-1×200℃×4.2cm=0.00672cmだけ小さくなり4.1933cmに縮む。寸法差は4.1933-4.0916=0.1017cmで、
図11に示す右図のように、両端の小三角形の床幅は0.1017/2=0.0508cmで小三角形の高さは接着剤厚さの0.5mmであるから正に
図11の右図下の様である。これ位なら全く問題はない。
【0125】
このように思考によるシミュレーションだけで、0.5mm厚の接着剤層厚があれば問題は生じないことが分かる。勿論、実験6、7だけの知識で実用化できるわけはなく、実用物に即した実験モデルを作成し、温度衝撃試験を繰り返す必要がある。特に、本実験のように、GFRPプリプレグをCFRPプリプレグと積層して使用する例は殆どなかったと思い、実物実験は必要である。即ち、現在実用化されているGFRP製品は、別名でガラエポと呼ばれて、電気製品、建設土建業分野で使用されている。これは、GFRPプリプレグの積層硬化物であり、マトリックス樹脂も熱硬化型エポキシ樹脂を使用するので製造プロセスはCFRPと同じである。しかし、繊維の太さや熱硬化型エポキシ樹脂の成分が異なること、例えば2液性エポキシ樹脂が使われることもあり、GFRP製品として要求される機械性能や耐熱性能が異なるので、本発明のようにCFRPプリプレグとGFRPプリプレグを同列に扱う。即ち、繊維形状も似たものでマトリックス樹脂は、CFRP用と同じ物を用意するとなれば、現行のGFRP用の市販の原料素材では殆どがそのまま使えず、独自開発をするか現CFRPメーカーから譲り受ける等の結構な作業量が要るが、実現可能である。
【0126】
コストが掛かろうと技術的に可能ならやれば出来るとして進めることになるから、この思考実験はこのような中間作業を省いてはいるものの、GFRPプリプレグがCFRPプリプレグと同様に扱えるようになるだろうし、それほど難しいことだと思えないから必ず達成できるだろう。本発明は、可能であると判断した製品、例えば
図19の複合体部品が、温度衝撃3千サイクル試験を経てその金属との接着部に問題が生じるか否かを計算でみて、可能とした。要するに、接着剤硬化物の層厚が0.5mmもあれば十分な寿命があると推察した。