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特許7468841無機充填剤、窒化ホウ素組成物、無機充填剤の製造方法、および窒化ホウ素組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】無機充填剤、窒化ホウ素組成物、無機充填剤の製造方法、および窒化ホウ素組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20240409BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20240409BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20240409BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240409BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240409BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240409BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C01B21/064 M
C08K3/38
C08K9/04
C08L101/00
C08L63/00 C
C08L83/04
C08L33/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020146988
(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公開番号】P2022041651
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】504005035
【氏名又は名称】三笠産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000844
【氏名又は名称】弁理士法人クレイア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野上 修
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-182369(JP,A)
【文献】特開2021-113270(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106744735(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素粒子と、
前記窒化ホウ素粒子の表面に形成されたコーティング層と、を有する処理窒化ホウ素粒子が凝集した無機充填剤であって、
前記コーティング層がポリヒドロキシ化合物から形成され
前記ポリヒドロキシ化合物は、ヒドロキシ基を複数有し、カルボキシ基またはエステル基を有する無機充填剤。
【請求項2】
前記ポリヒドロキシ化合物が、没食子酸、タンニン酸、酒石酸及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種である請求項1に記載の無機充填剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の無機充填剤と、ポリマーマトリックスと、を含む窒化ホウ素組成物。
【請求項4】
前記ポリマーマトリックスが、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、およびアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項3に記載の窒化ホウ素組成物。
【請求項5】
前記ポリヒドロキシ化合物が、タンニン酸または没食子酸であり、
前記ポリマーマトリックスが、アクリル樹脂である、請求項3に記載の窒化ホウ素組成物。
【請求項6】
窒化ホウ素粒子と、ポリヒドロキシ化合物とを混合して混合物を調製する調製工程と、
前記混合物を攪拌しながら70℃以上130℃以下の温度で加熱する第1の加熱工程と、
前記第1の加熱工程で得られた加熱混合物を、さらに攪拌しながら180℃以上220℃以下の温度で加熱する第2の加熱工程と、を含み、
前記ポリヒドロキシ化合物は、ヒドロキシ基を複数有し、カルボキシ基またはエステル基を有する無機充填剤の製造方法。
【請求項7】
前記混合物が、溶媒を含有し、前記窒化ホウ素粒子が分散されたスラリーである、請求項6に記載の無機充填剤の製造方法。
【請求項8】
前記ポリヒドロキシ化合物が、没食子酸、タンニン酸、酒石酸及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記溶媒が水溶液であり、前記ポリヒドロキシ化合物を0.1重量%以上2.0重量%以下含有する請求項7に記載の無機充填剤の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法で製造された無機充填剤と、ポリマーマトリックスとを混合し混錬する混錬工程を、さらに含み
前記ポリマーマトリックスが、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、およびアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種である、窒化ホウ素組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱用充填材料などとして使用される無機充填剤、その無機充填剤の製造方法、窒化ホウ素粉末とポリマーマトリックスと含む窒化ホウ素組成物、および窒化ホウ素組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タブレット型端末、ノートパソコン、ゲーム機等に使用される集積回路の高密化が進み、それに伴う放熱特性の要求が高まっている。例えば、回路基板の封止剤としてエポキシ樹脂が使用されているが、エポキシ樹脂そのものの電気抵抗性は優れているものの熱伝導率に乏しく放熱材料としては好ましくない。そのため、エポキシ樹脂にフィラーと呼ばれる無機充填剤を添加することで封止剤の熱伝導率を向上させ放熱させることが行われている。
【0003】
代表的なフィラーとしては、熱伝導率が高く、且つ電気抵抗率も高い酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等が挙げられる。フィラーの充填率を上げることで、さらに熱伝導率を向上させ高放熱を必要とする機器類に効果を発揮する。
【0004】
しかし、酸化アルミニウムを用いる場合は、十分な熱伝導性を得るにはかなりの高充填化をしなければならないため流動性等に問題があり、よい成形性が得られないという欠点がある。
そこで、酸化アルミニウムよりも高い熱伝導率と低線膨張係数を有する窒化アルミニウムを高熱伝導性充填剤とすることが検討されてきたが、窒化アルミニウムは水と容易に反応するため耐湿性が劣る。
酸化マグネシウムは、窒化アルミニウムと同様に容易に水と反応するために耐湿性が劣る。
【0005】
そこで、高熱伝導性、高流動性、および良好な耐湿性を有する窒化ホウ素を使用することが検討されている。
【0006】
例えば、特許文献1(特開2015-34269号公報)には、高い熱伝導性を有し、優れた成膜性を有し、基材上に成膜した際に優れた基材追従性を有する熱伝導性樹脂組成物が提案されている。また、高い熱伝導性を有する熱伝導性部材が提案されている。
【0007】
特許文献1に記載の熱伝導性樹脂組成物は、平均一次粒子径が0.1~15μmの熱伝導性粒子(A)100質量部と、有機結着剤(B)0.1~30質量部とを含む、平均粒子径が2~100μm、圧縮変形率10%に要する平均圧縮力が5mN以下である、易変形性凝集体である。熱伝導性粒子(A)が窒化ホウ素であり、有機結着剤(B)が窒素原子を有し、反応性官能基をも有する易変形性凝集体(D)である。
【0008】
特許文献2(特開平05-051540号公報)には、窒化硼素の全重量に対して、チタネートカップリング剤、シランカップリング剤およびノニオンカップリング剤から選ばれた少なくとも1種を0.1~5.0重量%混合処理することを特徴とする窒化硼素の処理方法が提案されている。
【0009】
特許文献2に記載の窒化硼素の処理方法によれば、窒化硼素の全重量に対してチタネートカップリング剤、シランカップリング剤およびノニオンカップリング剤の1種または2種以上0.1~5.0%を混合処理することにより窒化硼素と溶剤、樹脂等との濡れ性を向上することができる。
【0010】
また、特許文献3(特開2019-137608号公報)には、パワー半導体デバイスの放熱シートの熱伝導性フィラーとして好適な、熱伝導の等方性、耐崩壊性、樹脂との混練性に優れた窒化ホウ素凝集粒子が提案されている。
【0011】
特許文献3に記載の窒化ホウ素凝集粒子は、窒化ホウ素一次粒子(以下「BN一次粒子」と称する。)が凝集してなる窒化ホウ素凝集粒子(以下「BN凝集粒子」と称す。)であって、10mmφの粉末錠剤成形機で0.85ton/cm2の成型圧力で成型して得られたペレット状の試料を粉末X線回折測定して得られる、BN一次粒子の(100)面と(004)面のピーク面積強度比((100)/(004))が0.25以上であり、かつ該BN凝集粒子を0.2mm深さのガラス試料板に表面が平滑になるように充填し、粉末X線回折測定して得られる、BN一次粒子の(002)面ピークから求めたBN一次粒子の平均結晶子径が375Å以上であることを特徴とするBN凝集粒子である。
【0012】
また、特許文献4(特開平9-202663号公報)には、六方晶窒化ほう素の優れた特性を損なうことなく異方性の小さい樹脂やゴム製品あるいは六方晶窒化ほう素焼結体を製造する方法が提案されている。
【0013】
特許文献4に記載の六方晶窒化ほう素焼結体を製造する方法は、ほう酸メラミンの針状結晶の一次粒子が集合してなるほう酸メラミン粒子又はそれを含む混合物を製造し、それに結晶化触媒を添加して加熱処理して、六方晶窒化ほう素の鱗片状の一次粒子が配向せずに集合してなる六方晶窒化ほう素粒子20~100重量%とそれ以外の窒化ほう素粒子80~0重量%との混合物からなり、粉末X線回折法による黒鉛化指数(GI)が1.0~2.5であり、(002)回折線の強度I002と(100)回折線の強度I100 との比(I002/I100)が6~20である六方晶窒化ほう素粉末を製造し、それを樹脂及び/又はゴムの充填材として配合して成形するか、又は焼結して焼結体とすることによって解決することができる。
【0014】
また、特許文献5(特開2015-6985号公報)には、熱伝導の等方性、耐崩壊性、樹脂との混練性に優れた窒化ホウ素凝集粒子を用いて、厚み方向の熱伝導性にも優れた層間充填層を形成することができる三次元集積回路用の組成物が提案されている。
【0015】
特許文献5に記載の三次元集積回路用の組成物は、六方晶窒化ホウ素の一次粒子が凝集した窒化ホウ素凝集粒子であって、該窒化ホウ素凝集粒子中の一次粒子同士がカードハウス構造を有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2015-34269号公報
【文献】特開平05-051540号公報
【文献】特開2019-137608号公報
【文献】特開平9-202663号公報
【文献】特開2015-6985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
窒化ホウ素(以下「BN」ともいう。)は、絶縁性のセラミックであり、ダイヤモンド構造を持つc-BN、黒鉛構造をもつh-BN、乱層構造を持つα-BN、β-BNなど様々な結晶型が知られている。
これらの中で、窒化ホウ素h-BNは、黒鉛と同じ層状構造を有し、合成が比較的容易でかつ熱伝導性、固体潤滑性、化学的安定性、耐熱性に優れるという特徴を備えていることから、電気・電子材料分野で多く利用されている。
【0018】
特に電気・電子分野では集積回路の高密度化に伴う発熱が問題となっている。h-BNは絶縁性であるにもかかわらず、高い熱伝導性を有するので、放熱部材用熱伝導性フィラーとして注目されている。
【0019】
ところで、窒化ホウ素h-BNは板状の粒子形状であり、その板面方向(ab面内あるいは(100)方向)には高い熱伝導性を示す(通常、熱伝導率として400W/mK程度)。しかし、板厚方向(C軸方向あるいは(002)方向)には低い熱伝導性(通常、熱伝導率として2~3W/mK程度)しか示さない。
そのため、h-BNを樹脂に配合してBN粒子含有の樹脂組成物を調製し、例えば、板状の成形体を成形した場合、h-BNが成形時に樹脂組成物の流動方向である成形体の板面方向に配向することになる。その結果、得られた成形体は、板面方向には熱伝導率に優れるものの、厚み方向には低熱伝導率しか示さないという問題があった。
【0020】
本発明の目的は、高熱伝導性、高流動性、良好な耐湿性を有し、半導体装置封止用樹脂組成物等に対する充填剤(フィラー)として、高い熱伝導性を付与できる無機充填剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、ポリマーマトリックスへの添加量を従来より多くすることができる、無機充填剤を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、ポリマーマトリックスを成形体とした場合に、熱伝導性の異方性が少ない無機充填剤を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、上記無機充填剤を含む窒化ホウ素組成物、無機充填剤の製造方法、および窒化ホウ素組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
(1)
一局面に従う無機充填剤は、窒化ホウ素粒子と、窒化ホウ素粒子の表面に形成されたコーティング層と、を有する処理窒化ホウ素粒子が凝集した無機充填剤であって、コーティング層がポリヒドロキシ化合物から形成されているものである。
【0022】
これにより、窒化ホウ素粒子がコーティング層を介して凝集体が形成される。窒化ホウ素粒子は平面の厚み方向の熱伝導は悪いが、平面に沿った側面方向の熱伝導は大きいため、窒化ホウ素凝集体とすることにより熱伝導異方性がなくなり、凝集体の熱伝導が向上する。
また、窒化ホウ素を凝集化させることで、3倍以上の濡れ性効果を得ることができる凝集性窒化ホウ素粉末を得ることができる。
窒化ホウ素h-BNは六方晶系に属する結晶構造を有しており、a-b軸面に官能基を有しておらず、c軸にのみ水酸基、アミノ基を多少有する構造となっている。そのため、ポリマーマトリックス等への分散性に乏しく、多量の窒化ホウ素粒子をポリマーマトリックスに混合しようとすると、窒化ホウ素組成物の粘度が極端に高くなり、混合が困難になり、また分散性が低下するという問題があった。
また、窒化ホウ素h-BNは、異方性を有しており、ポリマーマトリックスに混合して窒化ホウ素組成物を成形すると窒化ホウ素h-BNが配向して、熱伝導性の異方性が成形体に生じるという問題があった。
そこで、本発明のように、窒化ホウ素凝集体の表面にポリヒドロキシ化合物のコーティング層を形成することによって、窒化ホウ素組成物の粘度が下がり、かつポリマーマトリックス等への分散性が向上する。したがって、分散性が向上することによって、窒化ホウ素組成物の粘度が下がるため、ポリマーマトリックスへの無機充填材の添加量を従来より多くすることができる。その結果、より高い熱伝導性を付与できる窒化ホウ素組成物を調製することができる。
さらに、鱗片状の窒化ホウ素h-BNが凝集体となるため、無機充填剤を含む窒化ホウ素組成物を成形した場合でも、熱伝導性の異方性が少ない成形体を得ることができる。
【0023】
(2)
第2の発明に係る無機充填剤は、一局面の発明に係る無機充填剤であって、ポリヒドロキシ化合物が、カテコール、ピロガロール、没食子酸、タンニン酸、酒石酸及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種であってよい。
【0024】
これにより、ポリマーマトリックスと3倍以上の濡れ性効果を得ることができるため、より高い熱伝導性を付与できる無機充填剤を提供することができる。
なお、ポリヒドロキシ化合物としては、ポリフェノール化合物を好ましく使用することができる。ポリフェノール化合物としては、カテコール、ピロガロール、没食子酸、タンニン酸が挙げられる。ポリヒドロキシ化合物は、ヒドロキシル基(水酸基)を2以上4以下有する化合物であることが好ましく、分子量100以上250以下の低分子化合物が好ましい。また、ポリヒドロキシ化合物は、ヒドロキシル基に加えて、アミノ基、カルボキシル基などの官能基を有していてもよい。
【0025】
(3)
他の局面に従う窒化ホウ素組成物は、第1または第2の発明に係る無機充填剤と、ポリマーマトリックスと、を含むものである。
【0026】
これにより、高い熱伝導性を有する窒化ホウ素組成物を得ることができる。
(4)
第4の発明に係る窒化ホウ素組成物は、第3の発明に係る窒化ホウ素組成物であって、ポリマーマトリックスが、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、およびアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種であってもよい。
【0027】
これにより、より高い熱伝導性を有する窒化ホウ素組成物を得ることができる。
【0028】
(5)
第5の発明に係る窒化ホウ素組成物は、第3の発明に係る窒化ホウ素組成物であって、ポリヒドロキシ化合物が、タンニン酸または没食子酸であり、ポリマーマトリックスが、アクリル樹脂であってもよい。
【0029】
これにより、より高い熱伝導性を有する窒化ホウ素組成物を得ることができる。
【0030】
(6)
他の局面に従う無機充填剤の製造方法は、窒化ホウ素粒子と、ポリヒドロキシ化合物とを混合して混合物を調製する調製工程と、混合物を攪拌しながら70℃以上130℃以下の温度で加熱する第1の加熱工程と、第1の加熱工程で得られた加熱混合物を、さらに攪拌しながら180℃以上220℃以下の温度で加熱する第2の加熱工程と、を含むものである。
【0031】
これにより、調整工程において、窒化ホウ素粒子の表面にポリヒドロキシ化合物を付着またはコーティングし、第1の加熱工程において、窒化ホウ素粒子の表面に対するポリヒドロキシ化合物の付着力を高めると共に窒化ホウ素粒子が凝集するようにし、第2の加熱工程において、窒化ホウ素粒子の表面にポリヒドロキシ化合物をさらに強固に付着力させることができる。
よって、製造された無機充填剤は、窒化ホウ素粒子の表面からポリヒドロキシ化合物のコーティング層が剥離することが抑えられるため、また凝集力が強いため、無機充填剤がポリマーマトリックスに混錬された場合でも、混錬時に無機充填剤が破壊されることなく、ポリマーマトリックスへ分散させることができる。
【0032】
(7)
第7の発明に係る無機充填剤の製造方法は、第6の発明に係る無機充填剤の製造方法であって、混合物が、溶媒を含有し、窒化ホウ素粒子が分散されたスラリーであってもよい。
【0033】
これにより、溶媒の揮発とそれに伴う濃度変化を防止しつつ、窒化ホウ素粒子に対して効果的にコーティング層を形成し、さらに最適な形状の窒化ホウ素粒子の凝集体とすることができる。
これにより窒化ホウ素組成物の粘度が下がり、かつポリマーマトリックス等への分散性が向上する。したがって、分散性が向上することによって、窒化ホウ素組成物の粘度が下がるため、ポリマーマトリックスへの添加量を従来より多くすることができる。その結果、より高い熱伝導性を付与できる窒化ホウ素組成物を製造することができる。
さらに、鱗片状の窒化ホウ素h-BNが凝集体となるため、無機充填剤とポリマーマトリックスとを含む窒化ホウ素組成物を成形した場合でも、熱伝導性の異方性が少ない成形体を製造することができる。
【0034】
(8)
第8の発明に係る無機充填剤の製造方法は、第7の発明に係る無機充填剤の製造方法であって、ポリヒドロキシ化合物が、カテコール、ピロガロール、没食子酸、タンニン酸、酒石酸及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種であり、溶媒が水溶液であり、ポリヒドロキシ化合物を0.5重量%以上2.0重量%以下含有してもよい。
【0035】
これにより、より高い熱伝導性を有する無機充填剤を製造することができる。
【0036】
(9)
他の局面に従う窒化ホウ素組成物の製造方法は、第8の製造方法で製造された無機充填剤と、ポリマーマトリックスとを混合し混錬する混錬工程を、さらに含み、第1の加熱工程および第2の加熱工程の攪拌速度が2000rpmであり、ポリマーマトリックスが、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、およびアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種であってもよい。
【0037】
これにより、より高い熱伝導性を有する窒化ホウ素組成物を製造することができる。また、熱伝導性の異方性が少ない窒化ホウ素組成物を製造することにある。
【0038】
(10)
他の局面に従う無機充填剤の製造方法は、窒化ホウ素粒子と、水とを混合して混合物を調製する調製工程と、混合物を攪拌しながら80℃以上100℃以下の温度で加熱する第1の加熱工程と、第1の加熱工程で得られた加熱混合物を、さらに攪拌しながら180℃以上220℃以下の温度で加熱する第2の加熱工程と、を含むものである。
調製工程の混合物に用いられる水は、純水である。
【0039】
これにより、凝集力の高い窒化ホウ素凝集体を得ることができる。また、マトリックス樹脂をエポキシ樹脂またはシリコーン樹脂としたときに、窒化ホウ素組成物の粘度を効果的に低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】実施例1の窒化ホウ素凝集体のSEM写真である。
図2】比較例1の窒化ホウ素凝集体のSEM写真である。
図3】実施例1、3および比較例1のFT-IR測定結果である。
図4】実施例1、比較例1および3のX線回折測定結果である。
図5】本発明の窒化ホウ素凝集体の熱伝導性が向上する理由を説明する概略説明図である。
図6】実施例3において、調製工程における蒸留水の混合量を変化させ(横軸)、混錬工程後の窒化ホウ素組成物の測定粘度(縦軸)のグラフである。
図7】(a)、(b)は実施例3において、調製工程における蒸留水の混合量を変化させ第1の加熱工程終了後の加熱混合物の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
(無機充填剤)
本発明の無機充填剤は(以下、窒化ホウ素凝集体ともいう。)、窒化ホウ素粒子(以下、窒化ホウ素粉末ともいう。)の表面にコーティング層が形成された処理窒化ホウ素粒子が凝集したものである。
【0042】
窒化ホウ素凝集体の平均粒子径は2μm以上50μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以上20μm以下であり、6μm以上15μm以下がさらに好ましい。窒化ホウ素凝集体の平均粒子径が2μmより小さい場合、凝集体を構成する窒化ホウ素粉末の数が少なくなり、凝集体としての効果が低く、変形性にも劣る傾向にある。窒化ホウ素凝集体の平均粒子径が50μmを超えると、単位体積あたりの窒化ホウ素凝集体の質量が大きくなり、分散体として用いた場合に沈降する恐れがある。
本発明における窒化ホウ素凝集体の「平均粒子径」は、粒度分布計(例えば、Malvern Instruments社製マスターサイザー2000、マイクロトラック・ベル社製マイクロトラックHRA9320-X100)で測定したときの値である。
また、窒化ホウ素凝集体は必要に応じて、上記以外の他の任意成分を含むことができる。
【0043】
本発明の窒化ホウ素凝集体は、熱伝導率は5w/mK以上が好ましく、平均粒径は10μm以下の高窒化ホウ素粉末を造粒、焼結することにより得られる球状で平均粒径が2μm以上50μm以下のものが好ましい。
【0044】
(窒化ホウ素粒子)
窒化ホウ素粒子は、公知の方法で製造された結晶性又は部分結晶性の窒化ホウ素粒子を使用することができる。窒化ホウ素粉末は、市販品を使用することができ、例えば、窒化ホウ素(信越化学社製KBN-10n)を使用することができる。
窒化ホウ素粉末の製造方法としては、例えば、炭化ホウ素を加圧窒化焼成し、焼成後に脱炭結晶化することにより製造することができる。
【0045】
一実施形態では、窒化ホウ素粒子は2μm以上100μm以下の平均粒径を有することができる。特に、5μm以上30μm以下の平均粒径を有する窒化ホウ素粒子が好ましい。
窒化ホウ素粉末は、鱗片状のものが特に好ましい。ここで鱗片状の窒化ホウ素粉末とは、平均アスペクト比が約50以上300以下の形態をいう。
【0046】
本発明の窒化ホウ素凝集体を得るために用いる窒化ホウ素粉末が有する熱伝導率は、窒化ホウ素凝集体が十分な熱伝導性を有し、かつ、半導体封止用樹脂組成物に配合する際に十分な熱伝導性を与えることが好ましい。熱伝導率は5W/mK以上、好ましくは10~20W/mKにすることがより好ましい。
熱伝導率が5W/mK未満であると、得られる窒化ホウ素凝集体の熱伝導性が不十分となる場合があり、特に樹脂組成物に配合してもニーズに応じた良好な熱伝導性を付与することが難しい場合がある。樹脂に配合した際の好ましい熱伝導率が10~20W/mKである。
【0047】
(ポリヒドロキシ化合物)
ポリヒドロキシ化合物としては、ポリフェノール化合物または酒石酸を使用することができ、このうち、ポリフェノール化合物を好ましく使用することができる。ポリヒドロキシ化合物は、ヒドロキシル基(水酸基)を2以上4以下有する化合物であり、分子量100以上250以下の低分子化合物が好ましい。また、ポリヒドロキシ化合物は、ヒドロキシル基に加えてアミノ基、カルボキシル基などの官能基を有していてもよい。
ポリフェノール化合物としては、例えば、カテコール、ガロカテキン、エピガロカテキン、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、タンニン酸(ガロイル没食子酸)、ハマメリタンニン(1,5-ジガロイルハマメロース)、カフェー酸誘導体、および没食子酸などが挙げられる。
このうち、カテコール、ピロガロール、没食子酸、タンニン酸及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも一種とすることが、ポリマーマトリックスに対する濡れ性向上の観点で好ましい。
ポリヒドロキシ化合物が窒化ホウ素凝集体の表面にコーティングされることによって、窒化ホウ素凝集体のポリマーマトリックスに対する濡れ性が高くなり、これにより窒化ホウ素組成物の粘度を大幅に下げることができる。
この理由は、ポリヒドロキシ化合物は、鱗片状窒化ホウ素粉末を凝集体にするための結着材として機能するとともに、窒化ホウ素凝集体をポリマーマトリックスと混合した際に、ポリマーマトリックスに対する相溶化剤として機能するものと推測される。
【0048】
すなわち、図5に示すように、ポリヒドロキシ化合物が窒化ホウ素粒子の間に介在して窒化ホウ素粒子の凝集を促進する。さらに、官能基のある窒化ホウ素粒子の側面が外側表面を向いて凝集体が形成される。
h-BNの熱伝導率は2.5W/mK以上250W/mK以下であり、その分布はブロードである。窒化ホウ素粒子の平面方向の熱伝導は悪いが、平面方向と直交する側面方向の熱伝導は大きいため、凝集体において窒化ホウ素粒子の側面が外に向いているため熱伝導が向上する。
このようにして、窒化ホウ素粒子は凝集体を形成するとともに、ポリヒドロキシ化合物と窒化ホウ素粒子とが化学的に反応し、窒化ホウ素凝集体の表面にOH基を有する反応基が修飾されるものと推測される。
【0049】
(コーティング層)
本発明の窒化ホウ素凝集体は、窒化ホウ素粉末100質量部に対し、ポリヒドロキシ化合物を0.1質量部以上30質量部以下含有することができ、好ましくは1質量部以上10質量部以下含有する。
ポリヒドロキシ化合物の含有量が0.1質量部より少ないと、窒化ホウ素粉末の表面にコーティング層が形成され難いため窒化ホウ素粉末を充分に結着することができず、凝集形態を維持するために充分な強度が得られない場合がある。ポリヒドロキシ化合物の含有量が30質量部より多い場合は、窒化ホウ素粉末同士を結着させる効果は大きくなるが、窒化ホウ素粉末間に必要以上にポリヒドロキシ化合物が入り込み、熱伝導性を阻害する恐れがある。
【0050】
(無機充填剤の製造方法)
本発明の無機充填剤の製造方法は、(A)窒化ホウ素粒子、ポリヒドロキシ化合物、必要に応じて添加される任意成分を混合し、混合物を加熱することにより製造することができる。
また、無機充填剤の製造方法は、(B)窒化ホウ素粒子、ポリヒドロキシ化合物、必要に応じて添加される任意成分、および溶媒を混合し、得られた混合物(スラリー)を加熱して窒化ホウ素粒子の表面にポリヒドロキシ化合物の被膜(コーティング層)を形成し、次いで、スラリーから溶媒を除去することによっても製造することができる。
【0051】
さらに、無機充填剤の製造方法は、(C)窒化ホウ素粉末、ポリヒドロキシ化合物、必要に応じて添加される任意成分、およびこれらの成分を溶解または分散する溶媒を含有する液(溶液または分散液)を窒化ホウ素粉末に吹き付けた後、もしくは吹き付けつつ、溶媒を除去する方法によっても得られる。
組成がより均一な窒化ホウ素凝集体を得るためには、上記方法(A)または(B)が好ましい。
【0052】
以下に、本実施の形態における無機充填剤の製造方法を詳細に説明する。
本実施形態の無機充填剤の製造方法は、以下の3つの工程を含む。
(1)調製工程:ポリヒドロキシ化合物を含有する溶媒に、窒化ホウ素粉末を混合する。これにより混合物(スラリーなど)を調製する。
(2)第1の加熱工程:混合物を70℃以上130℃以下の温度で加熱しながら攪拌する。
(3)第2の加熱工程:第1の加熱工程で得られた加熱混合物(加熱されたスラリーなど)を、さらに180℃以上220℃以下の温度で加熱しながら攪拌する。
これにより、鱗片状の窒化ホウ素粉末が互いに凝集し、かつ窒化ホウ素凝集体の表面にポリヒドロキシ化合物のコーティング層が形成された処置窒化ホウ素の凝集体(無機充填剤)が得られる。このようにして得られた無機充填剤は、ポリマーマトリックス等への分散性が向上し、窒化ホウ素組成物の粘度が下がる。
したがって、ポリマーマトリックスへの無機充填剤の添加量を従来より多くすることができる。その結果、より高い熱伝導性を有する窒化ホウ素組成物を製造することができる。また、鱗片状の窒化ホウ素h-BNが凝集体となるため、無機充填剤とポリマーマトリックスとを含有する窒化ホウ素組成物を成形または硬化させた場合でも、熱伝導性の異方性が少ない成形体または硬化物を製造することができる。
【0053】
(調製工程)
窒化ホウ素凝集体の表面をコーティングするために用いられる混合物(スラリー)は、主に窒化ホウ素粉末と、ポリフェノールなどのポリヒドロキシ化合物と、溶媒とを含有する。
ポリヒドロキシ化合物の添加量は、混合物中に0.1重量%以上10.0重量%以下のポリヒドロキシ化合物が含有されるように添加量を決定することが好ましく、さらに好ましくは0.3重量%以上5.0重量%以下である。最も好ましいポリヒドロキシ化合物の添加量は、混合物中に0.5重量%以上2.0重量%以下である。
【0054】
(溶媒)
溶媒としては特に限定されないが、有機溶剤、水等が挙げられる。溶媒は、窒化ホウ素粉末を分散し、かつポリヒドロキシ化合物を分散または溶解するものを使用することができる。溶媒としては、例えば、水、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、脂肪族系溶剤、芳香族系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤等を使用することができる。溶媒は1種または2種類以上を用いることができる。
溶媒は除去し易さの点からその沸点は低いほうが好ましく、沸点が110℃以下であることが好ましく、例えば、水、エタノール、メタノール、および酢酸エチル等が好ましい。
溶媒の使用量は除去し易さの点からは少ない方が好ましいが、ポリヒドロキシ化合物の溶解性あるいは溶媒乾燥用の装置に合わせて適宜変更することができる。
【0055】
調製工程で作製される溶媒は、蒸留水のみとしてもよい。すなわち、蒸留水に窒化ホウ素粉末を混合することにより、スラリーを調製してもよい。溶媒を蒸留水とした場合も、窒化ホウ素の表面にヒドロキシル基(水酸基)が修飾されるものと考えられる。なお溶媒を蒸留水のみとする場合、後述のように添加物としてアルコールを添加することが好ましい。
調製工程で蒸留水を添加する場合、窒化ホウ素粒子100重量部に対して、蒸留水の添加量は30重量部以上70重量部以下が好ましく、35重量部以上60重量部以下とすることがより好ましい。この場合、ポリマーマトリックスがエポキシ樹脂またはシリコーン樹脂のときに窒化ホウ素組成物の粘度を低くすることができる。また、ポリマーマトリックスがUV硬化樹脂(アクリル系樹脂)の場合は、窒化ホウ素粒子100重量部に対して、蒸留水の添加量は100重量部以上150重量部以下とすることが好ましい。
【0056】
混合物(スラリー)から溶媒を除去する方法は特に制限はなく、市販の装置を用いることができる。例えば、噴霧乾燥、攪拌乾燥、および静置乾燥等の方法の中から選択することができる。中でも、比較的丸く粒子径の揃った窒化ホウ素凝集体を生産性良く得られ、乾燥速度が速く、より変形しやすい窒化ホウ素凝集体を得られるという点から、噴霧乾燥を好適に用いることができる。この場合、スラリーを霧状に噴霧しながら、溶媒を揮発除去すればよい。噴霧条件および揮発条件は適宜選択することができる。
混合物としてスラリーの形態である場合、混合物の固形分濃度は、通常、20~70重量%とすることができる。好ましくは50~70重量%である。混合物を混合、撹拌する際の温度は特に限定されず、室温で行うことができる。
【0057】
また、混合物はスラリー状であることが好ましい。スラリー状の混合物を加熱工程で処理することにより、窒化ホウ素粒子の表面処理を確実に行うことができる。
混合物をスラリーの形態とするために、添加物として混合物にアルコールを適宜添加しても良い。アルコールを添加することにより、窒化ホウ素粉末が分散しやすくなり、滑らかなスラリーを得ることができる。
アルコールとしては、特に限定されないが、メチルアルコール、エチルアルコール、変性エタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソブチルアルコール、高級アルコールを用いることができる。このうち、スラリーの形成には、エタノールを用いることが好ましい。後の加熱工程においてアルコールが揮発することにより、表面修飾に影響を及ぼさないようにするためである。
アルコールの添加量は、混合物に対して3重量%以上20重量%以下が好ましく、5重量%以上15重量%以下がより好ましい。これにより窒化ホウ素粉末が分散し、スラリー状の混合物を得ることができる。
【0058】
(加熱工程)
本発明においては、混合物に対して、第1の加熱工程、および第1の加熱工程における加熱温度よりも高い加熱温度である第2の加熱工程を実施して造粒することにより、窒化ホウ素粉末同士の凝集力を向上させ、封止材を製造した場合の硬化阻害や耐湿性の低下を防ぐことができる。
【0059】
第1の加熱工程では、窒化ホウ素粒子とポリヒドロキシ化合物と(必要に応じて溶媒と)を含む混合物を加熱攪拌することにより、窒化ホウ素粒子の表面にポリヒドロキシ化合物を付着させる。そして、第2の加熱工程では、ポリヒドロキシ化合物が窒化ホウ素粒子と反応して表面にOH基が形成されるとともに、窒化ホウ素粒子がOH基を介して凝集して本発明の無機充填剤(窒化ホウ素凝集体)が得られる。
【0060】
(第1の加熱工程)
本発明の無機充填剤は、混合物(スラリー)を攪拌しながら加熱する工程を繰り返すことにより製造することができる。すなわち、混合物は、主に窒化ホウ素粒子と、ポリヒドロキシ化合物、必要に応じて溶媒とを含み、これを一定速度で攪拌する。これにより窒化ホウ素粒子の表面全体にポリヒドロキシ化合物が付着または塗布される。
そして、混合物を攪拌した状態のまま、混合物の環境温度を室温から70℃以上130℃以下に加熱する(第1の加熱工程)。これによって、窒化ホウ素粒子の表面にポリヒドロキシ化合物のコーティング層が形成された加熱混合物が得られる。
なお、混合物がスラリーである場合、スラリーの攪拌および加熱は、この順に行うことが好ましい。スラリーの加熱と攪拌とを同時にしたり、加熱の後に攪拌すると、溶媒が揮発することによりスラリーの濃度が変化し、ポリヒドロキシ化合物を窒化ホウ素粒子の十分に表面に十分にコーティングすることができなくなる場合がある。必要に応じて、スラリーを密閉な撹拌容器中に封入して、撹拌する際に加熱・加圧するようにしてもよい。
【0061】
第1の加熱工程で用いられる攪拌装置は、プラネタリーミキサー、ゲートミキサー、品川ミキサー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、3本ロール、ニーダー等の汎用的な設備を使用して均一混合することができる。本実施の形態ではヘンシェルミキサーを用いて攪拌した。
第1の加熱工程で用いられる攪拌装置の攪拌速度は、20L容量ヘンシェルミキサーで1000rpm以上3000rpmが好ましく、1500rpm以上2500rpmがさらに好ましい。この下限未満の場合、無機充填剤の凝集体の粒径が大きくなる傾向にあり、上限を超えると無機充填剤の凝集体の粒径が小さくなる傾向にあるため、窒化ホウ素組成物を得たときに高い熱伝導性を得ることができない場合があるためである。
【0062】
また、第1の加熱工程で加熱する温度(目標温度)は、60℃以上150℃以下であり、70℃以上130℃以下が好ましく、80℃以上100℃以下がより好ましい。また、攪拌している混合物の昇温速度は、5℃/min以上14℃/min以下であり、10℃/min以上14℃/min以下が好ましい。この第1の加熱工程の目標温度は、使用する溶媒の種類に応じて適宜調整することが可能であるが、溶媒の沸点の-20℃以上+5℃以下とすることが好ましく、溶媒の沸点と同じ温度とすることがより好ましい。上記温度範囲でない場合、ポリヒドロキシ化合物を窒化ホウ素粒子の表面に十分にコーティングすることができなくなる傾向にある。
また、第1の加熱工程において目標温度に達した後に加熱を継続する時間は、10分以上50分以下が好ましく、20分以上40分以下がより好ましい。下限値未満の場合、ポリヒドロキシ化合物を窒化ホウ素粒子の表面に十分にコーティングすることができなくなる場合がある。また上限値を超える場合、コーティングの効果が飽和する傾向にある。
【0063】
(第2の加熱工程)
第1の加熱工程で得られた加熱混合物は、攪拌を続けながら、さらに第2の加熱を行う。第2の加熱工程において、元の混合物(スラリー)に含まれていた溶媒が完全に除去されてもよく、あるいは溶媒は除去されなくてもよい。このように第1の加熱工程における加熱温度よりも高い2段階目の加熱を行うことで、窒化ホウ素粒子は凝集体を形成するとともに、ポリヒドロキシ化合物と窒化ホウ素粒子とが化学的に反応し、窒化ホウ素凝集体の表面にOH基を有する反応基が修飾されると推測される。
なお、第2の加熱工程は、徐熱などを行わず、第1の加熱工程と連続して行うことが好ましい。
【0064】
第2の加熱工程で用いられる攪拌装置の攪拌速度は、第1の加熱工程の攪拌速度と変更しても良いし同じでもよい。本実施の形態では、第1の加熱工程の攪拌速度と同じとした。この攪拌速度を調節することにより、得られる窒化ホウ素粒子の凝集体の粒径を調節することができる。
【0065】
また、第2の加熱工程で加熱する温度(目標温度)は、150℃以上250℃以下であり、180℃以上220℃以下が好ましく、190℃以上210℃以下がより好ましい。また、攪拌している加熱混合物の昇温速度は、5℃/min以上14℃/min以下であり、10℃/min以上14℃/min以下が好ましい。
この第2の加熱工程の温度が下限値未満の場合、窒化ホウ素粒子の表面にOH基を十分に修飾させることができなくなる傾向にあり、また窒化ホウ素粒子を十分に凝集させることができなくなる傾向にある。また、温度が上限値を超える場合、ポリヒドロキシ化合物が分解しやすくなり、窒化ホウ素粒子の表面にOH基を十分に修飾させることができなくなる場合がある。
また、第2の加熱工程において目標温度に達した後に加熱を継続する時間は、限定するものではないが、5分以上60分以下とすることができ、15分以上30分以下が好ましい。これにより確実に窒化ホウ素粒子は凝集体を形成するとともに、窒化ホウ素凝集体の表面に反応基が修飾される。
【0066】
そして、第2の加熱工程で得られた無機充填剤は、攪拌を続けながら常温になるまで除熱する。
上記製造方法によって、本発明の無機充填剤(窒化ホウ素凝集体)が得られる。
【0067】
また、窒化ホウ素凝集体は、粒子の凝集力が不十分であると、充填剤としてポリマーマトリックスに配合される際の混練り作業等によっては、結合していた粒子が解離するおそれがあり、また、球状に形成されないと配合する樹脂組成物の流動性が悪くなる原因になる場合がある。従って、窒化ホウ素凝集体の形成状況に応じて焼結を行い、粒子の凝集力を高めることが好ましい。
このようにして得られる窒化ホウ素凝集体は、5w/mK以上、通常10~200w/mK、特に30~150w/mK程度の熱伝導率を有する高熱伝導性の窒化ホウ素凝集体である。
【0068】
本発明の窒化ホウ素凝集体は、充填剤として使用することを考慮すると、球状に形成することが好ましい。窒化ホウ素凝集体の形状が、従来の充填剤にみられた破砕状等の球状以外であると、窒化ホウ素凝集体を充填剤として配合した場合、組成物の流動性が著しく劣化し、成形性が低下してしまう場合がある。
更に、窒化ホウ素凝集体を充填剤として良好に使用するために、上述したように平均粒径2μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上20μm以下に形成することがさらに好ましい。これにより、導体封止用樹脂に良好に用いられ、多ピン、多ワイヤー等を有するパッケージを良好に封止することができる。
【0069】
(窒化ホウ素組成物)
本発明の窒化ホウ素凝集体は、充填剤として、エポキシ樹脂組成物等の半導体封止用樹脂組成物等に良好に配合することができる。
窒化ホウ素組成物は、上記の窒化ホウ素凝集体20体積%以上90体積%以下と、ポリマーマトリックス10体積%以上80体積%以下とを含有することができる。
また、本発明の窒化ホウ素凝集体は、0.5重量%以上5重量%以下のポリヒドロキシ化合物で被覆した窒化ホウ素粉末を含むことができる。
【0070】
(ポリマーマトリックス)
窒化ホウ素組成物に含まれるポリマーマトリックスとしては、以下が挙げられる。
ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アルキッド樹脂、ブチラール樹脂、アセタール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、スチレン樹脂、ニトロセルロース、ベンジルセルロース、セルロース(トリ)アセテート、カゼイン、シェラック、ギルソナイト、ゼラチン、スチレン-無水マレイン酸樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル/マレイン酸共重合体樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ケトン樹脂、石油樹脂、ロジン、ロジンエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルニトロセルロース、エチレン/ビニルアルコール樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、変性塩素化ポリオレフィン樹脂、および塩素化ポリウレタン樹脂等。ポリマーマトリックスは、1種または2種以上の樹脂を用いることができる。
【0071】
上記のうち、ポリマーマトリックスは、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、およびアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
アクリル樹脂はUV硬化樹脂として使用することができるため、精密な部品の封止剤として用いることができる。また、シリコーン樹脂は耐熱性、柔軟性及びヒートシンク等への密着性が優れていることから熱インターフェース材として好適である。また、エポキシ樹脂(好適にはナフタレン型エポキシ樹脂)は、耐熱性と銅箔回路への接着強度が優れていることから、プリント配線板の絶縁層として好適である。
【0072】
上記のうち、エポキシ樹脂およびシリコーン樹脂は、本発明の無機充填剤の分散性を好ましく向上させることができる。したがって、窒化ホウ素組成物の粘度が下がることによって、ポリマーマトリックスへの添加量を従来より多くすることができるため、より高い熱伝導性を付与できる無機充填剤とすることができる。
【0073】
(混錬工程)
窒化ホウ素組成物は、無機充填剤(窒化ホウ素凝集体)、およびポリマーマトリックスを含み、必要に応じて他の任意成分を添加し、撹拌混合することで製造することができる。
撹拌混合には一般的な撹拌方法を用いることができる。撹拌混合機としては例えば、ディスパー、スキャンデックス、ペイントコンディショナー、サンドミル、らいかい機、メディアレス分散機、三本ロール、およびビーズミル等が挙げられる。
【0074】
撹拌混合後は、窒化ホウ素組成物から気泡を除去するために、脱泡工程を経ることが好ましい。脱泡方法としては例えば、真空脱泡、および超音波脱泡等が挙げられる。
窒化ホウ素組成物の製造においては、攪拌混合と脱泡とを同時に行うことができる真空脱泡ミキサーを用いることが好ましい。
【0075】
無機充填剤を含有する窒化ホウ素組成物は、溶融混合のような当技術分野で公知の技術によって、ミル、バンバリー、ブラベンダー、単軸又は二軸押出機、連続ミキサー、混練機などの装置で成型することができる。
【0076】
本実施の形態の窒化ホウ素組成物においては、ポリマーマトリックスがエポキシ樹脂またはシリコーン樹脂である場合、窒化ホウ素凝集体の充填率は30重量%以上90重量%以下が好ましく、50重量%以上80重量%以下がより好ましい。また、ポリマーマトリックスがアクリル樹脂である場合、窒化ホウ素凝集体の充填率は20重量%以上60重量%以下が好ましく、30重量%以上50重量%以下がより好ましい。
【0077】
本発明の処理窒化ホウ素粒子を用いると、未処理の窒化ホウ素粒子をポリマーマトリックスに配合した同じ組成物に比して、組成物の粘度をほとんど増加させることなく窒化ホウ素粒子の配合割合を高めることができ、そのため熱伝導率の向上と粘度の低下、或いは単に組成物の粘度を低下させて加工性を高めることができる。
別の実施形態では、処理窒化ホウ素粒子を(未処理の窒化ホウ素粒子を含む組成物の総重量を基準として)20重量%を超える量で添加したときに、組成物の粘度は50%以上低下する。
【0078】
窒化ホウ素組成物の放熱対象の物品としては、以下が挙げられる。
集積回路、ICチップ、ハイブリッドパッケージ、マルチモジュール、パワートランジスタ、およびLED(発光ダイオード)用基板等の種々の電子部品;建材、車両、航空機、および船舶等に用いられ、熱を帯び易く、性能劣化を防ぐためにその熱を外部に逃がす必要がある物品等。
高熱伝導性を実現するためには、熱伝導の異方性をなくすことが重要である。
【0079】
本発明の無機充填剤は、エポキシ樹脂組成物等の半導体装置封止用樹脂組成物に充填剤として好適に使用することができ、該樹脂組成物に熱伝導性、耐湿性、良好な流動性を与える等、優れた性質を付与することができる。このような樹脂組成物で封止された半導体装置は優れた熱伝導率、流動性を有すると共に、特性のバランスが良好であり、信頼性の高いものである。
【実施例
【0080】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明の構成は以下の例示によって限定されるものではない。
【0081】
<実施例1>
タンニン酸(富士化学社製タンニン酸S)を1重量%含有する水溶液を作成した。このタンニン酸水溶液40重量部と、窒化ホウ素粒子(信越化学社製KBN(h)-10)100重量部と、を混合して混合物を調製した(調製工程)。
この混合物をヘルシンキミキサー(松井製作所製MCAX-50-CT-J)によって、100℃の環境で2000rpm×30分間攪拌した(第1の加熱工程)。
得られた加熱混合物を200℃に加熱し、同じヘルシンキミキサーを用いて、2000rpm×30分の条件で攪拌した(第2の加熱工程)。
【0082】
(混錬工程)
ポリマーマトリックスとしてエポキシ樹脂(三菱ケミカル社製jER-807)を用意し、第2の加熱工程で得られた無機充填剤を60重量%添加して、室温環境で混錬し、窒化ホウ素組成物1Aを得た。
また、ポリマーマトリックスとしてシリコーン樹脂(信越化学社製KR-165)を用意し、第2の加熱工程で得られた無機充填剤を60重量%添加して、室温環境で混錬し、窒化ホウ素組成物1Bを得た。
また、ポリマーマトリックスとしてアクリル樹脂(DIC株式会社製 V-4260)を用意し、第2の加熱工程で得られた無機充填剤を40重量%添加して、室温環境で混錬し、窒化ホウ素組成物1Cを得た。
得られた窒化ホウ素組成物1A、1B,1Cの粘度をB型粘度計(FUNGILAB社製 Visco Basic Plus)を用いて20rpmの回転速度で測定した。粘度測定の結果を表1に示す。
【0083】
<実施例2>
タンニン酸水溶液40重量部の代わりに没食子酸ドデシル粉末(富士フィルム和光純薬社製)2重量部を用い、また、第1の加熱工程において温度環境を120℃としたことを除いて、実施例1と同様にして無機充填剤を得た。
すなわち、没食子酸ドデシル粉末2重量部と、窒化ホウ素粒子(信越化学社製KBN(h)-10)100重量部と、を混合して混合物を調製した。
この混合物をヘルシンキミキサーによって、120℃の環境で2000rpm×30分間攪拌した(第1の加熱工程)。
得られた加熱混合物を200℃に加熱し、同じヘルシンキミキサーを用いて、2000rpm×30分の条件で攪拌し(第2の加熱工程)、無機充填剤を得た。
また、混錬工程においても実施例1と同様にして窒化ホウ素組成物2A,2B,2Cを得た。
【0084】
<実施例3>
調製工程において、タンニン酸水溶液40重量部の代わりに蒸留水40重量部のみを用いたことを除いて、実施例1と同様にして混合物を調製した。
また、第1の加熱工程において温度環境を80℃としたことを除いて、実施例1と同様にして無機充填剤を得た。
また、混錬工程においても実施例1と同様にして窒化ホウ素組成物3A,3B,3Cを得た。
【0085】
<実施例4>
混合物の調製において、タンニン酸の代わりに酒石酸(富士フィルム和光純薬社製)を用い、酒石酸を1重量%含有する水溶液を用いて混合物を調製したことを除いて、実施例1と同様にして無機充填剤を得た。
また、混錬工程においても実施例1と同様にして窒化ホウ素組成物4A,4B,4Cを得た。
【0086】
<比較例1>
混合物の調製において、タンニン酸水溶液を添加せず、窒化ホウ素粉末のみとして、また、第1および第2の加熱工程を行わず、無機充填剤を得た。
すなわち、窒化ホウ素粒子(信越化学社製KBN(h)-10)を無機充填剤として、混錬工程のみを行い、実施例1と同様にして窒化ホウ素組成物5A,5B,5Cを得た。
【0087】
<比較例2>
混合物の調製において、タンニン酸水溶液40重量部の代わりに加水分解した3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン加水分解物2重量部を用いたことを除いて、実施例1と同様にして無機充填剤を得た。
すなわち、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン加水分解物2重量部と、窒化ホウ素粒子(信越化学社製KBN(h)-10)100重量部と、を混合して混合物を調製した。
この混合物をヘルシンキミキサーによって、120℃の環境で2000rpm×30分間攪拌した(第1の加熱工程)。
得られた加熱混合物を、さらに200℃に加熱し、同じヘルシンキミキサーを用いて、2000rpm×30分の条件で攪拌し(第2の加熱工程)、無機充填剤を得た。
また、混錬工程においても実施例1と同様にして窒化ホウ素組成物6A,6B,6Cを得た。
【0088】
<比較例3>
加熱工程において、第1の加熱工程および第2の加熱工程の代わりに、ヘンシェルミキサーによって100℃の環境で2000rpm×60分間攪拌したことを除いて、実施例1と同様にして無機充填剤を得た。
また、混錬工程においても実施例1と同様にして窒化ホウ素組成物7A,7B,7Cを得た。
【0089】
(粘度測定)
表1に、得られた窒化ホウ素組成物の粘度を測定した結果を示す。粘度測定にあたっては、B型粘度計(FUNGILAB社製 Visco Basic Plus)L4型を用いて、回転速度を20rpmとして、せん断速度0.11/secにおける窒化ホウ素組成物の粘度(mPa・s)を測定した。
【0090】
その結果、ポリマーマトリックスとしてエポキシ樹脂およびシリコーン樹脂を用いた場合は、特に実施例3の粘度が低く、アクリル樹脂を用いた場合は、特に実施例1の粘度が低い結果となった。これらの結果から、ポリマーマトリックスの種類と窒化ホウ素凝集体の表面状態とによって、窒化ホウ素組成物の分散性が異なることが確認された。
一方で、未処理の窒化ホウ素粒子(比較例1)を用いた窒化ホウ素組成物は、すべての種類のポリマーマトリックスに対して高い粘度を示し、また、比較例2および3の場合も表面改質がされているものの、実施例と比較して高い粘度となり、ポリマーマトリックスに対する分散性が十分でない結果となった。
【0091】
【表1】
【0092】
(SEM画像撮影)
図1および図2に、それぞれ実施例1で得られた無機充填剤および比較例1で得られた無機充填剤のSEM撮影画像を示す。SEM画像の撮影は、日本電子社製フィールドエミッション走査電子顕微鏡JSM7000Fを用いて行った。
実施例1および比較例1(未処理の窒化ホウ素粒子)を比較すると、比較例1の無機充填剤は窒化ホウ素が集団で存在する場合があるが異方性があり鱗片化した粒子が存在している(図2)。一方で、実施例1の無機充填剤は、窒化ホウ素粒子が凝集体を形成しており、鱗片化した粒子の様子がみられず、また異方性もないことが図1の写真からも判別できた。
【0093】
表2に、実施例および比較例の無機充填剤についてSEMで撮影した画像から、窒化ホウ素の凝集の様子を分類した結果を示す。比較例2および3の無機充填剤は凝集した球形状を有するが、表面状態が実施例とは異なるために、実施例のようなポリマーマトリックス等への高い分散性が得られなかったものと推測される。
【0094】
【表2】
【0095】
(FT-IR測定)
図3に、実施例1、実施例3および比較例1(未処理の窒化ホウ素粒子)で得られた無機充填剤のFT-IR測定結果を示す。FT-IRの測定にあたっては、日本分光社製FTIR6300のFT-IR装置を用いて、窒化ホウ素凝集体を粉末状態で測定した。
実施例1および3の無機充填剤では、比較例1の無機充填剤と比較して、ヒドロキシル基(OH基)に起因するピーク(3300cm-1付近)が大きいことが確認された。したがって、本発明の無機充填剤は、窒化ホウ素粒子の表面にOH基が形成されることによって、ポリマーマトリックス等への分散性が向上すると推測される。
【0096】
(接触角測定)
実施例1、実施例3および比較例1(未処理の窒化ホウ素粒子)で得られた無機充填剤と、蒸留水との接触角を測定した。接触角の測定にあたっては、協和界面化学社製CA-Sミクロ2型の接触角測定装置を用い、試験片(無機充填剤)を一定圧力にてガラス板に押圧した。
測定の結果、ある程度誤差を含むものの実施例1の無機充填剤の接触角は0度であり、実施例3の無機充填剤の接触角は120度であり、比較例1の無機充填剤の接触角は120度であった。したがって、比較例が最も接触角が低く、実施例1が最も接触角が大きかった。これは、無機充填剤の表面に形成されたOH基に起因すると考えられる。
【0097】
(X線回折試験)
図4に、実施例1、比較例1および比較例3で得られた無機充填剤のX線回折試験結果を示す。
X線回折装置としてリガク社製SmartLab9kW を使用した。縦軸方向(c軸)の配向である(002)では、比較例1の無機充填剤(未処理)の強度が高く、また凝集固化が促進するほど強度が低くなる。
さらに窒化ホウ素粒子の面方向の(100)では強度比が逆転している。I002/I100を算出すると、実施例1は1.6、比較例1(未処理の窒化ホウ素粒子)は6.1、比較例3は3.3であり、表面処理した実施例1は面方向(100)の配向が強くなっていた。したがって、実施例1は、比較例1および比較例3と比べて、一次粒子が等方的に配向した結果であると推測される(無配向の凝集体となった)。
【0098】
(粒子径測定)
各実施例および比較例で使用した窒化ホウ素粒子(BN粉末)、および各実施例および比較例で得られた無機充填剤(凝集体)の粒径(μm)の測定結果を表3に示す。表3の右欄は、窒化ホウ素粒子(BN粉末)の粒径と無機充填剤(凝集体)の粒径の差を示す。粒径の測定は、ISO 13320に準拠し、NIKKISO社製マイクロトラックHRA9320-X100を用いて行った。
【0099】
その結果、他の実施例と比較して実施例2では、加熱工程を経ても窒化ホウ素の粒径が小粒径にならない結果となった。
【0100】
【表3】
【0101】
実施例3において、調製工程における蒸留水の混合量を変化させて、混錬工程後の窒化ホウ素組成物の粘度測定を行った。その粘度測定の結果を図6に示す。また、第1の加熱工程終了後の加熱混合物の写真を図7に示す。
図6に示すように、ポリマーマトリックスがUV硬化樹脂(アクリル系樹脂)の場合は、蒸留水の添加量が増加するにしたがって粘度が線形に減少する。一方で、ポリマーマトリックスがエポキシ樹脂の場合は、蒸留水の添加量が40重量部のときに粘度が最も低くなる。また、ポリマーマトリックスがシリコーン樹脂の場合は、蒸留水の添加量が40重量部のときに粘度が最も低くなる。
また、図7に示すように、第1の加熱工程終了後の加熱混合物は、蒸留水が80重量部以下の場合は水分がほぼなくなるが、蒸留水が120重量部の場合は水分が残ったスラリー状となる。
【0102】
本発明の好ましい一実施の形態は上記の通りであるが、本発明はそれだけに制限されない。本発明の精神の範囲から逸脱することのない様々な実施形態が他になされることは理解されよう。さらに、本実施形態において、本発明の構成による作用および効果を述べているが、これら作用および効果は、一例であり、本発明を限定するものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7