(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ポリマーコーティング膜の形成方法およびポリマーコーティング膜
(51)【国際特許分類】
C23C 24/04 20060101AFI20240409BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20240409BHJP
C08L 29/10 20060101ALI20240409BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C23C24/04
C08L27/12
C08L29/10
C08K3/22
(21)【出願番号】P 2020157844
(22)【出願日】2020-09-18
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000222037
【氏名又は名称】東北電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】ウエスリー アナク ロック シュレン
(72)【発明者】
【氏名】小川 和洋
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆
(72)【発明者】
【氏名】吉川 祐明
(72)【発明者】
【氏名】藤村 祥基
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 隼司
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-098164(JP,A)
【文献】特開2015-227497(JP,A)
【文献】特開2009-006294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の表面に、ボンドコート層を形成した後、フッ素樹脂を含む粉末を、コールドスプレー法により前記ボンドコート層の表面に衝突させてポリマーコート層を形成し、
前記ボンドコート層は、
チタン製であり、チタン粉末をコールドスプレー法により前記金属基材の表面に衝突させて形成されることを
特徴とするポリマーコーティング膜の形成方法。
【請求項2】
前記フッ素樹脂は、疎水性であることを特徴とする請求項1記載のポリマーコーティング膜の形成方法。
【請求項3】
前記フッ素樹脂は、ペルフルオロアルコキシ(perfluoroalkoxy)フッ素樹脂から成ることを特徴とする請求項1記載のポリマーコーティング膜の形成方法。
【請求項4】
前記粉末は、前記フッ素樹脂に、フュームド・ナノ・セラミック(fumed nano-ceramic)を2wt%乃至10wt%の割合で混合して成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリマーコーティング膜の形成方法。
【請求項5】
前記フュームド・ナノ・セラミックは、シリカまたはアルミナのナノ粒子から成ることを特徴とする請求項4記載のポリマーコーティング膜の形成方法。
【請求項6】
前記ポリマーコート層を形成するとき、コールドスプレー法により前記粉末を噴射するときのガス温度が550K乃至773Kであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリマーコーティング膜の形成方法。
【請求項7】
金属基材の表面に形成されたボンドコート層と、
フッ素樹脂を含む材料により、前記ボンドコート層の表面に形成されたポリマーコート層とを有し、
前記ボンドコート層は、前記ポリマーコート層の前記フッ素樹脂中に含まれる
酸素、炭素、または窒素との間で化合物を生成可能な
チタン製で、その表面が凹凸であることを
特徴とするポリマーコーティング膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーコーティング膜の形成方法およびポリマーコーティング膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超疎水性のコーティング膜の材料の一つとして、フッ素樹脂が使用されている。フッ素原子は強い陰性を有しているため、炭素とフッ素との結合は強い両極性を有し、他の原子との反応性が小さい。このため、フッ素樹脂は、低摩擦、低表面エネルギー、耐摩耗性、耐薬品性、耐食性、不活性、高温抵抗のような顕著な特性を有している。
【0003】
フッ素樹脂等のポリマーは温度に敏感な材料であるため、そのコーティング膜を形成する方法として、粒子を未溶融のまま高速で基材に衝突させることにより、低温でコーティング膜を形成することができるコールドスプレー法が利用されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、コールドスプレー法によりフッ素樹脂の粒子のみを使用して、金属基材の表面にコーティング膜を形成しても、成膜効率が1%以下と低く、密着強度も小さいという問題があった。
【0004】
そこで、この問題を解決するために、フッ素樹脂にフュームド・ナノ・セラミック(fumed nano-ceramic;FNC)を5wt%の割合で混合した粉末を使用し、コールドスプレー法により金属基材の表面にコーティング膜を形成する方法が、本発明者等により開発されている(例えば、非特許文献1参照)。この方法により、FNCとして、アルミナのナノ粒子(fumed nano-alumina;FNA)やシリカのナノ粒子(fumed nano-silica;FNS)を使用して、アルミニウム基材や鋼製基材の表面にコーティングを行っており、成膜効率が改善されることが確認された。この成膜効率の改善は、フッ素樹脂粒子の表面電荷と、フッ素樹脂の粒子の中に均一に配分されたフュームド・ナノ・セラミック粒子の表面電荷との差異によるものと考えられるが、成膜効率はまだ2%以下であった。
【0005】
そこで、さらに成膜効率を改善させるために、鋼製の金属基材の表面にレーザーで多数の溝を形成しておき、その表面に、フッ素樹脂にFNAを5wt%の割合で混合した粉末を使用して、コールドスプレー法によりコーティング膜を形成する方法が、本発明者等により開発されている(例えば、非特許文献2参照)。この方法では、金属基材の表面に形成された溝に、コーティング膜の材料が食い込んで機械的に結合するため、密着強度を高めることができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】W. L. Sulen, K. Ravi, C. Bernard, Y. Ichikawa, K. Ogawa, “Deposition Mechanism Analysis of Cold Sprayed Fluoropolymer Coatings and Its Wettability Evaluation”, [online], J. Therm. Spray Technol.,8 June 2020, インターネット〈URL : https://doi.org/10.1007/s11666-020-01059-w〉
【文献】K. Ravi, W.L. Sulen, C. Bernard, Y. Ichikawa, K. Ogawa, “Fabrication of micro-/nano-structured super-hydrophobic fluorinated polymer coatings by cold-spray”, Surf. Coat. Technol., 15 September 2019, Vol. 373, p.17-24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献2のポリマーコーティング膜の形成方法によれば、成膜効率を50%近くまで高めることができ、密着強度も 1.3 MPaと比較的高くすることができたが、成膜効率はまだ半分(50%)以下であり、さらに高い成膜効率および密着強度が求められている。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、成膜効率および密着強度をさらに高めることができるポリマーコーティング膜の形成方法およびポリマーコーティング膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係るポリマーコーティング膜の形成方法は、金属基材の表面に、ボンドコート層を形成した後、フッ素樹脂を含む粉末を、コールドスプレー法により前記ボンドコート層の表面に衝突させてポリマーコート層を形成し、前記ボンドコート層は、チタン製であり、チタン粉末をコールドスプレー法により前記金属基材の表面に衝突させて形成されることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るポリマーコーティング膜は、金属基材の表面に形成されたボンドコート層と、フッ素樹脂を含む材料により、前記ボンドコート層の表面に形成されたポリマーコート層とを有し、前記ボンドコート層は、前記ポリマーコート層の前記フッ素樹脂中に含まれる酸素、炭素、または窒素との間で化合物を生成可能なチタン製で、その表面が凹凸であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るポリマーコーティング膜は、本発明に係るポリマーコーティング膜の形成方法により好適に形成される。本発明に係るポリマーコーティング膜の形成方法は、金属基材の表面にボンドコート層を形成した後、その表面に、コールドスプレー法によりフッ素樹脂を含む粉末を衝突させてポリマーコート層を形成することにより、成膜効率を高めることができる。また、ボンドコート層に含まれる元素が、ポリマーコート層のフッ素樹脂中に含まれる元素との間で化合物を生成することにより、ボンドコート層とポリマーコート層との間の密着強度を高めることができる。さらに、ボンドコート層は、ポリマーコート層よりも金属基材の表面への密着強度が高いため、ポリマーコーティング膜全体の密着強度を高めることができる。
【0013】
本発明に係るポリマーコーティング膜の形成方法およびポリマーコーティング膜で、フッ素樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene;PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(polychlorotrifluoroethylene;PCTFE)、フッ化エチレンプロピレン(fluorinated ethylene propylene;FEP)、4フッ化エチレンのエチレン共重合体(ethylene copolymer of tetrafluoroethylene;ETFE)、クロロトリフルオロエチレンのエチレン共重合体(ethylene copolymer of chlorotrifluoroethylene;ECTFE)、ペルフルオロアルコキシ(perfluoroalkoxy;PFA)、ポリフッ化ビニル(polyvinylfluoride;PVF)、フッ化ポリビニリデン(polyvinyldifluoride;PVDF)、ナフィオン(Nafion、登録商標)、フルオロエチレンビニルエーテル(fluoroethylenevinylether;FEVE)、テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)とヘキサフルオロプロペン(hexafluoropropylene)とフッ化ビニリデン(vinylidene fluoride)の半結晶三成分テルポリマー(semicrystalline three-component terpolymer;THV)、テフロン(Teflon、登録商標)AF、サイトップ(Cytop、登録商標)、ハイフロン(Hyflon、登録商標)などである。また、前記フッ素樹脂は、疎水性であることが好ましい。
【0014】
本発明に係るポリマーコーティング膜の形成方法およびポリマーコーティング膜で、前記粉末は、前記フッ素樹脂に、フュームド・ナノ・セラミック(fumed nano-ceramic)を2wt%乃至10wt%の割合で混合して成ることが好ましい。この場合、フュームド・ナノ・セラミックが個々のポリマー粒子の表面に付着することにより、成膜効率および密着強度をさらに高めることができる。フュームド・ナノ・セラミックが2wt%より少ないときには、添加の効果が弱く、ポリマーコート層が剥離しやすい。また、フュームド・ナノ・セラミックが10wt%より多いときには、個々のポリマー粒子の表面を覆う量よりも多くなってしまうため、成膜を阻害してしまう。さらに高い成膜効率および密着強度を得るために、前記フッ素樹脂は、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂から成ることが好ましい。また、前記フュームド・ナノ・セラミックは、シリカまたはアルミナのナノ粒子から成ることが好ましい。このとき、フュームド・ナノ・セラミックは、3wt%乃至8wt%であることが好ましく、4wt%乃至6wt%であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明に係るポリマーコーティング膜の形成方法は、ポリマーコート層を形成するとき、コールドスプレー法により粉末を噴射するときのガス温度が550K乃至773Kであることが好ましい。この場合、特に高い成膜効率および密着強度を得ることができる。ガス温度が550Kより低いときには、粉末の粒子の飛翔速度が不十分となり、成膜が困難になる。また、ガス温度が773Kより高いときには、粉末の粒子が飛翔中に一部溶融し酸化してしまうため、ポリマーコート層の劣化の原因になる。
【0016】
本発明に係るポリマーコーティング膜の形成方法およびポリマーコーティング膜で、ボンドコート層は、いかなる方法で形成されてもよい。ボンドコート層は、チタン製であり、チタン粉末をコールドスプレー法により金属基材の表面に衝突させて形成されることにより、形成されるボンドコート層の表面の凹凸の程度が大きくなり、凹部の穴が大きく、その数も多いため、ポリマーコート層の成膜効率やポリマーコート層との密着強度を特に高めることができる。
【0017】
本発明に係るポリマーコーティング膜の形成方法およびポリマーコーティング膜で、金属基材は、その表面にボンドコート層を形成可能であれば、いかなる材料から成っていてもよいが、ボンドコート層の成膜効率が高く、ボンドコート層との密着強度が高いものが特に好ましい。
【0018】
本発明に係るポリマーコーティング膜の形成方法は、例えば、発電機のタービンのブレードや、配管の内側面に対して、エロージョンやコロージョン等を抑制する保護膜としてのポリマーコーティング膜を形成したり、パワー半導体に対して絶縁皮膜としてのポリマーコーティング膜を形成したりするために使用される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、成膜効率および密着強度をさらに高めることができるポリマーコーティング膜の形成方法およびポリマーコーティング膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態のポリマーコーティング膜の形成方法の、ボンドコート層の材料として使用される、(a)銅粉末、(b)チタン粉末の粒度分布を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施の形態のポリマーコーティング膜の形成方法の、(a)ボンドコート層、(b)ポリマーコート層を形成する際のコールドスプレーの走査軌道を示す表面図である。
【
図3】本発明の実施の形態のポリマーコーティング膜の形成方法の、コールドスプレー法により、アルミニウム板の表面に(a)Cu、(b)Tiのボンドコート層を形成したときの、断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図4】本発明の実施の形態のポリマーコーティング膜の形成方法の、コールドスプレー法により、アルミニウム板の表面に(a)Cu、(b)Tiのボンドコート層を形成したときの、ボンドコート層表面のSEM写真、(c) (a)中の破線の矩形枠内を拡大したSEM写真、(d) (b)中の破線の矩形枠内を拡大したSEM写真である。
【
図5】本発明の実施の形態のポリマーコーティング膜の形成方法の、コールドスプレー法により、アルミニウム板(Al)および鋼板(S)の表面に、それぞれCuまたはTiのボンドコート層を形成したときの、ガス温度と成膜効率との関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施の形態のポリマーコーティング膜の形成方法の、PFA粉末を用いてコールドスプレー法により、(a)Cu、(b)Tiのボンドコート層の表面にポリマーコート層を形成したときの、ポリマーコート層表面の電子顕微鏡写真、(c) (a)の断面のSEM写真、(d) (b)の断面のSEM写真である。
【
図7】本発明の実施の形態のポリマーコーティング膜の形成方法の、PFAまたはPFA+5%の粉末を用いて、コールドスプレー法により、Cuのボンドコート層の表面にポリマーコート層を形成したときの、ガス温度と成膜効率との関係を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施の形態のポリマーコーティング膜の形成方法の、PFAまたはPFA+5%の粉末を用いて、コールドスプレー法により、Tiのボンドコート層の表面にポリマーコート層を形成したときの、ガス温度と成膜効率との関係を示すグラフである。
【
図9】本発明の実施の形態のポリマーコーティング膜の形成方法の、PFA粉末を用いて、ガス温度を(a)473K、(b)573K、(c)673Kとし、コールドスプレー法により、Tiのボンドコート層の表面にポリマーコート層を形成したとき、PFA+5%の粉末を用いて、ガス温度を(d)473K、(e)573K、(f)673Kとし、コールドスプレー法により、Tiのボンドコート層の表面にポリマーコート層を形成したときの、断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施例に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態のポリマーコーティング膜の形成方法は、金属基材の表面に、ボンドコート層を形成した後、フッ素樹脂を含む粉末を、コールドスプレー法によりボンドコート層の表面に衝突させてポリマーコート層を形成する。
【0022】
ボンドコート層は、ポリマーコート層を形成したとき、フッ素樹脂中に含まれる酸素、炭素、または窒素などとの間で化合物を生成可能な元素を含んでいる。ボンドコート層は、例えば、Ti、Al、Mg、Hf、Yb、Be、Dy、Er、Ce、Lu、Ho、Li、La、Nd、Gd、Sc、Pr、Zr、Sr、Sm、Th、Tb、およびTmのうちの1種または複数種類の元素を含んでおり、これらの元素の粉末をコールドスプレー法により金属基材の表面に衝突させて形成される。また、ポリマーコート層を形成するための粉末は、疎水性であることが好ましく、例えば、シリカまたはアルミナのナノ粒子から成るフュームド・ナノ・セラミック粒子を、2wt%乃至10wt%の割合でフッ素樹脂の粒子に混合して成っている。
【0023】
本発明の実施の形態のポリマーコーティング膜の形成方法によれば、金属基材の表面に形成されたボンドコート層と、その表面に、フッ素樹脂を含む材料により形成されたポリマーコート層とを有する、本発明の実施の形態のポリマーコーティング膜を形成することができる。また、これにより、ポリマーコート層の成膜効率を高めることができる。また、ボンドコート層に含まれる元素が、ポリマーコート層のフッ素樹脂中に含まれる元素との間で化合物を生成することにより、ボンドコート層とポリマーコート層との間の密着強度を高めることができる。また、ボンドコート層は、ポリマーコート層よりも金属基材の表面への密着強度が高いため、ポリマーコーティング膜全体の密着強度を高めることができる。
【実施例1】
【0024】
本発明の実施の形態のポリマーコーティング膜の形成方法を用いて、ポリマーコーティング膜を形成した。ポリマーコーティング膜を形成する金属基材として、SPCC(JIS G 3141)の冷間圧延鋼板(縦60 mm、横60 mm、厚さ3 mm)、および、A1100(JIS A1100P)のアルミニウム板(縦50 mm、横50 mm、厚さ2 mm)を用いた。また、ボンドコート層の材料として、銅粉末(Cu-HWQ; Dv(50)=9.8 μm、比重 0.8945、比熱 0.38 J/g℃、熱伝導率(25℃) 386 W/mK)、および、チタン粉末(TILOP-45; Dv(50)=23.2 μm、比重 0.451、比熱 0.544 J/g℃、熱伝導率(25℃) 15.6 W/mK)を用いた。銅粉末およびチタン粉末の粒度分布を、それぞれ
図1(a)および(b)に示す。
【0025】
また、ポリマーコート層の材料として、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂の粉末(PFA;ダイキン工業株式会社製「ネオフロンPFA ACX-31」;Dv(50)=21.2 μm)、および、そのPFAの粉末に、フュームド・ナノ・セラミック(fumed nano-ceramic)として、疎水性のアルミナ粉(FNA;エボニックインダストリーズAG社製「Aeroxide Alu C805」)を5wt%の割合で混合した粉末(以下、「PFA+5%」と呼ぶ)の2種類を用いた。PFA+5%の粉末は、エタノール中にPFAとFNAとを分散させ、均一に混合して調製した。
【0026】
ポリマーコーティング膜を形成する際には、まず、金属基材の表面に、チタン粉末または銅粉末を用いて、コールドスプレー法によりボンドコート層を形成した。さらに、形成されたボンドコート層の表面に、PFAまたはPFA+5%の粉末を用いて、コールドスプレー法によりポリマーコート層を形成した。コールドスプレー法では、低圧コールドスプレー(LPCS)装置(Obnisk Center for Powder Spraying (OCPS)社製「Dymet 423」)を用い、噴射ガスとして空気を使用した。ボンドコート層およびポリマーコート層を形成する際のコールドスプレー法の各条件を、それぞれ表1および表2に示す。また、ボンドコート層およびポリマーコート層を形成する際のスプレーの走査軌道を、それぞれ
図2(a)および(b)に示す。
【0027】
【0028】
【0029】
ガス温度を773K、ガス圧力を0.5MPaとして、コールドスプレー法により、アルミニウム板の表面に、CuおよびTiのボンドコート層を形成した。その断面を、走査型電子顕微鏡(SEM;株式会社日立ハイテク製「FE-SEM SU-70」)により観察した結果を、それぞれ
図3(a)および(b)に示す。また、ガス温度を773K、ガス圧力を0.5MPaとして、コールドスプレー法により、アルミニウム板の表面に、Cuのボンドコート層を形成した。そのボンドコート層の表面をSEMにより観察した結果を、
図4(a)および(c)に示す。また、ガス温度を823K、ガス圧力を0.5MPaとして、コールドスプレー法により、アルミニウム板の表面に、Tiのボンドコート層を形成した。そのボンドコート層の表面をSEMにより観察した結果を、
図4(b)および(d)に示す。
図3および
図4に示すように、Tiのボンドコート層の方が、Cuのボンドコート層よりも表面の凹凸の程度が大きくなっており、凹部の穴が大きく、その数も多いことが確認された。
【0030】
ガス圧力を0.5MPaとし、ガス温度を変えてコールドスプレー法により、アルミニウム板(Al)および鋼板(S)の表面に、それぞれCuまたはTiのボンドコート層を形成した。このときのガス温度と成膜効率との関係を求め、
図5に示す。
図5に示すように、Tiのボンドコート層は、ガス温度の上昇に従って、成膜効率が上昇することが確認された。また、Cuのボンドコート層は、ガス温度が823Kまで上昇すると、成膜効率が低下することが確認された。
【0031】
ガス温度を673K、ガス圧力を0.5MPa、走査速度を20mm/sとして、PFA粉末を用いてコールドスプレー法により、CuおよびTiのボンドコート層の表面にそれぞれポリマーコート層を形成した。そのボンドコート層の表面を電子顕微鏡により観察した結果、および、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した結果を、
図6(a)~(d)に示す。
図6(a)に示すように、Cuのボンドコート層の表面にポリマーコート層を形成したとき、ポリマーコート層の形成後すぐに、表面にクラックが発生するのが確認された(図中の黒矢印の部分)。また、
図6(c)に示すように、ボンドコート層とポリマーコート層との間に空隙が存在することも確認された(図中の白矢印の部分)。これは、ボンドコート層とポリマーコート層との間の密着強度が小さいためであると考えられる。これに対し、
図6(b)および(d)に示すように、Tiのボンドコート層の表面にポリマーコート層を形成したときには、表面のクラックや、ボンドコート層とポリマーコート層との間の空隙は認められなかった。このことから、ボンドコート層をTiで形成することにより、ボンドコート層とポリマーコート層との間の密着強度を高めることができると考えられる。
【0032】
アルミニウム板(Al)または鋼板(S)の表面に形成されたCuのボンドコート層の表面に、ガス圧力を0.5MPa、走査速度(TS)を10mm/sまたは20mm/sとして、異なるガス温度で、PFAまたはPFA+5%の粉末を用いて、コールドスプレー法によりポリマーコート層を形成した。このときのガス温度と成膜効率との関係を求め、
図7に示す。また、同様の条件で、Tiのボンドコート層の表面に、コールドスプレー法によりポリマーコート層を形成した。このときのガス温度と成膜効率との関係を求め、
図8に示す。
【0033】
図7に示すように、Cuのボンドコート層を用いた場合には、ガス温度の上昇に従って、成膜効率が上昇することが確認された。特に、ガス温度が673Kのとき、PFA+5%の粉末を用いたときの成膜効率が飛躍的に上昇することが確認された。しかしながら、そのときの成膜効率は、最大で35%程度であった。これに対し、
図8に示すように、Tiのボンドコート層を用いた場合には、ガス温度が573Kまでは、ガス温度の上昇に従って、成膜効率が飛躍的に上昇していることが確認された。また、ガス温度が673Kになると、走査速度が10mm/sで、PFA+5%の粉末を用いたときには成膜効率がやや上昇するが、他の条件では、成膜効率が低下することが確認された。成膜効率は、ガス温度が550Kを超えると、全ての条件で50%より高くなり、最大で81.2%であった。また、ガス温度が673Kになると、PFA粉末を用いたときには、成膜効率が50%より低くなるが、PFA+5%の粉末を用いたときには、成膜効率が概ね55%以上を維持することが確認された。
【0034】
アルミニウム板(Al)の表面に形成されたTiのボンドコート層の表面に、ガス圧力を0.5MPa、走査速度(TS)を20mm/sとして、異なるガス温度で、PFAまたはPFA+5%の粉末を用いて、コールドスプレー法によりポリマーコート層を形成した。その断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した結果を、
図9に示す。
図9に示すように、ガス温度が673Kのとき、PFA+5%の粉末を用いて形成されたポリマーコート層の層厚(
図9(f)参照)が、PFA粉末を用いて形成されたポリマーコート層の層厚(
図9(c)参照)よりも、特に大きくなっていることが確認された。これは、成膜効率の違いによるものと考えられる。
【0035】
CuまたはTiのボンドコート層の表面に、ガス圧力を0.5MPa、走査速度(TS)を20mm/sとして、異なるガス温度で、PFAまたはPFA+5%の粉末を用いて、コールドスプレー法によりポリマーコート層を形成した。形成された各ポリマーコート層に対し、国際規格のASTM D4541に従って、密着強度(引き剥がし強さ)の測定を行った。測定には、Elcometer社製「106 Pull-Off Adhesion Tester Type II」を用いた。測定は、各試料に対し5回行い、その平均値を密着強度とした。
【0036】
測定の結果、Tiのボンドコート層の表面に形成されたポリマーコート層では、ガス温度の上昇に従って、密着強度が飛躍的に上昇することが確認され、ガス温度が673Kのとき、PFA+5%の粉末を用いたときの密着強度が約3.2MPa、PFA粉末を用いたときの密着強度が約2.7MPaであった。また、Cuのボンドコート層の表面に形成されたポリマーコート層では、ガス温度によらず、密着強度はほぼ一定であることが確認され、PFA粉末およびPFA+5%の粉末を用いたときの密着強度は共に、約0.2MPaであった。