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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】体液吸引器
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/00 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
A61M1/00 107
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020127215
(22)【出願日】2020-07-28
(65)【公開番号】P2022024555
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000200677
【氏名又は名称】泉工医科工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100161090
【弁理士】
【氏名又は名称】小田原 敬一
(72)【発明者】
【氏名】横井 洋
(72)【発明者】
【氏名】勝田 聡一
(72)【発明者】
【氏名】庄司 翼
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-048621(JP,A)
【文献】特開昭57-078861(JP,A)
【文献】特開2002-291869(JP,A)
【文献】国際公開第2004/047886(WO,A1)
【文献】特開2013-176513(JP,A)
【文献】特開2007-236590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液を受け入れるための拡縮可能なバッグと、
前記バッグ内に収容される内部モジュールとを備え、
前記内部モジュールは、
前記バッグに対して内側から接するように配置され、かつ偏平なプレート状の一対の作用部材と、
前記作用部材が、縮小したバッグ内に収まるように接近した待機位置と、前記バッグを拡げるように互いに離れた作用位置との間で変位できるように相互に連結する連結手段と、
前記作用部材を前記作用位置に向けて変位させる方向の弾性復元力を前記内部モジュールに生じさせる弾性体と、
前記作用部材を、前記待機位置に拘束する拘束状態と、前記待機位置の拘束を解除する解放状態との間で切替可能な拘束手段と、
を含み、
前記弾性体を含む前記内部モジュールの全体が非磁性体にて構成され
前記連結手段は、前記一対の作用部材のそれぞれに設定された第1連結点にて各作用部材と回転自在に連結された二組のリンク部材を含み、かつ一方の組のリンク部材同士、及び他方の組のリンク部材同士が、前記リンク部材の組の並び方向に関して前記第1連結点よりも前記作用部材の外方に位置する第2連結点にて互いに回転自在に連結されるように構成され、
前記弾性体は帯状であって、前記一対の作用部材間に帯状の表裏面を各作用部材に向けるようにして配置され、
さらに、前記弾性体は、前記一方の組のリンク部材又は当該リンク部材間の前記第2連結点と、前記他方の組のリンク部材又は当該リンク部材間の前記第2連結点とを接続するように、かつ前記作用部材が前記待機位置にあるときに伸び変形するように設けられている体液吸引器。
【請求項2】
前記弾性体としてシリコンゴムが使用されている請求項に記載の体液吸引器。
【請求項3】
前記第1連結点が前記作用部材の両端部に設定されている請求項に記載の体液吸引器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッグを拡げて陰圧を発生させることにより、患者の体液をバッグ内に吸引する体液吸引器に関する。
【背景技術】
【0002】
患者に装着された状態で、その患者の体内から血液や浸潤液等の体液を吸引するポータブル式の吸引具として、患者に装着可能なサイズでかつ拡縮可能なバッグ内に、折り畳み可能な枠状の内部モジュールを収容し、その内部モジュールをばねにより押し拡げてバッグを拡大させ、その拡大に伴ってバッグ内に生じる陰圧を利用して体液をバッグ内に吸い込む吸引器が知られている(例えば特許文献1~3参照)。弾性材料製の球体やベローズ等のポンプ部を操作して体液回収容器に陰圧を発生させるタイプの吸引器も知られている(特許文献4及び5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平2-49747号公報
【文献】特開2007-236590号公報
【文献】特開2007-195601号公報
【文献】特開2003-284770号公報
【文献】特開平6-296683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3の吸引器は、バッグ及び内部モジュールの主要部分が樹脂等の非磁性体材料にて形成されるものの、内部モジュールを動作させるために金属製のばねが使用されている。そのため、MRI検査のように磁性体を避けるべき環境では、吸引器を患者から取り外す必要がある。特許文献4、5のような吸引器では、ポンプ部が樹脂製であるためにMRI検査等でも不都合が生じないものの、ポンプ部が球状であると転がりやすい、その操作に手間を要するといった点で取り扱いに不便な面がある。
【0005】
そこで、本発明は、磁性体を避けるべき環境でも使用が可能であり、かつ取り扱いも容易な体液吸引器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る体液吸引器は、体液を受け入れるための拡縮可能なバッグと、前記バッグ内に収容される内部モジュールとを備え、前記内部モジュールは、前記バッグに対して内側から接するように配置され、かつ偏平なプレート状の一対の作用部材と、前記作用部材が、縮小したバッグ内に収まるように接近した待機位置と、前記バッグを拡げるように互いに離れた作用位置との間で変位できるように相互に連結する連結手段と、前記作用部材を前記作用位置に向けて変位させる方向の弾性復元力を前記内部モジュールに生じさせる弾性体と、前記作用部材を、前記待機位置に拘束する拘束状態と、前記待機位置の拘束を解除する解放状態との間で切替可能な拘束手段と、を含み、前記弾性体を含む前記内部モジュールの全体が非磁性体にて構成され、前記連結手段は、前記一対の作用部材のそれぞれに設定された第1連結点にて各作用部材と回転自在に連結された二組のリンク部材を含み、かつ一方の組のリンク部材同士、及び他方の組のリンク部材同士が、前記リンク部材の組の並び方向に関して前記第1連結点よりも前記作用部材の外方に位置する第2連結点にて互いに回転自在に連結されるように構成され、前記弾性体は帯状であって、前記一対の作用部材間に帯状の表裏面を各作用部材に向けるようにして配置され、さらに、前記弾性体は、前記一方の組のリンク部材又は当該リンク部材間の前記第2連結点と、前記他方の組のリンク部材又は当該リンク部材間の前記第2連結点とを接続するように、かつ前記作用部材が前記待機位置にあるときに伸び変形するように設けられたものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一形態に係る体液吸引器の一例を示す正面図。
図2】内部モジュールのプレートが待機位置にある状態を示す図。
図3】内部モジュールのプレートが作用位置にある状態を示す図。
図4】シリコンゴムの保管中の伸び率が引張強度に与える影響を検証した結果の一例を示す図。
図5】シリコンゴムの経時変化が引張強度に与える影響を検証した結果の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1図3を参照して、本発明の一形態に係る体液吸引器を説明する。図1に示すように、体液吸引器1は、患者の体外に吸い出された体液を受け入れるためのバッグ2と、そのバッグ2内に配置される内部モジュール3とを備えている。内部モジュール3はバッグ2内に位置するが、図1ではその外観部分が実線にて示されている。体液吸引器1は、患者がその身体に装着した状態で動き回ることが可能な範囲の大きさに構成される。それにより、体液吸引器1は、いわゆるポータブル式の体液吸引器として使用される。
【0009】
バッグ2は、拡縮可能な可撓性、あるいは柔軟性を備えるように構成されている。一例として、熱可塑性樹脂製の2枚のシート又はフィルムを重ね合わせ、それらの外周部2aをヒートシールすることによりバッグ2が形成されてよい。バッグ2は、その内容積が変化するように拡大及び縮小ができればよく、その変形は、必ずしもバッグ2の素材それ自体の柔軟性に依存しなくともよい。つまり、伸縮性を有しない素材にて構成されたバッグであっても、その内容積が変化するように内部を拡大させ、あるいは縮小させることが可能であれば「拡縮可能なバッグ」の範疇に含まれる。バッグ2の拡縮を容易化し、あるいは十分な変形量を確保するため、バッグ2の側面、あるいは底面にガゼットが設けられてもよい。バッグ2は、その内部の状態、例えば体液の容量等を観察できるように、可視光領域にて透過性を有する素材にて構成されてよい。
【0010】
バッグ2には、体液を吸引するための吸引管5、及びバッグ2から体液を排出するための排液管6が、それぞれの先端の吸引ポート5a及び排液ポート6aをバッグ2外に突出させるようにして設けられている。内部モジュール3、吸引管5及び排液管6は、バッグ2の外周部2aをシールする前の段階でバッグ2内に収容される。それらの収容後にバッグ2の外周部2aがシールされることにより、バッグ2はその全周に亘って密閉される。吸引ポート5a、及び排液ポート6aのそれぞれは、着脱可能なキャップ(不図示)にて閉鎖可能である。
【0011】
図2及び図3にも示したように、内部モジュール3は、一対のプレート10と、プレート10を相互に連結する連結機構11とを含んでいる。一対のプレート10は、一対の作用部材の一例として設けられている。プレート10は互いに平行であって、かつバッグ2に対して内側から接するように配置される。
【0012】
連結機構11は、一対のプレート10を、縮小したバッグ2内に収まるように接近した待機位置P1(図2)と、その待機位置P1と比較して互いに離れた作用位置P2(図3)との間で変位できるように相互に連結する。プレート10が待機位置P1から作用位置P2に向かって変位することにより、バッグ2はプレート10に押されるようにして拡がる。それにより、連結機構11は連結手段の一例として機能する。
【0013】
連結機構11は、一例として、一対のプレート10のそれぞれの両端部に設定された第1連結点CP1にて各プレート10とヒンジ13を介して回転自在に連結された二組S1、S2のリンク部材14を含む。一方の組S1のリンク部材14同士は第2連結点CP2にてヒンジ15を介して回転自在に連結され、他方の組S2のリンク部材14同士は別の第2連結点CP2にてヒンジ15を介して回転自在に連結されている。第2連結点CP2は、各組S1、S2の並び方向(図2図3の左右方向)に関して第1連結点CP1よりもプレート10の外方に位置している。言い換えれば、第1連結点CP1間の距離よりも第2連結点CP2間の距離が大きくなるように各連結点CP1、CP2の位置が定められている。したがって、プレート10が待機位置P1の場合、各組S1、S2のリンク部材14がプレート10の外側に突出するように倒れて内部モジュール3の全体が扁平に畳まれる。この場合、プレート10間にリンク部材14が挟まれることがなく、内部モジュール3の厚みを十分に小さくすることができる。一方、プレート10が作用位置P2に変位すると各組S1、S2のリンク部材14がプレート10の内側に向かって引き込まれて内部モジュール3が概ね菱形の枠状に開かれる。なお、連結点CP1、CP2は、内部モジュール3を図2及び図3のごとく側面視したときの回転中心点を意味する。プレート10とリンク部材14との連結部分、及びリンク部材14の連結部分が点接触であることは要件ではなく、それらの連結部分は適度の長さを有する線接触又は適度な広さを有する面接触であってよい。
【0014】
リンク部材14は、一例として扁平な板状であるが、その形状は軸状、アーム状その他、適宜の形状に変更されてよい。ヒンジ13、15は、図1の例では、図中の左右方向に距離をおいて2箇所に設けられているが、個数及び位置は適宜でよい。図1において、リンク部材14は、左右のヒンジ13、15に対して一体的に設けられているが、ヒンジ13、15ごとに分離してリンク部材14が設けられてもよい。なお、プレート10及びリンク部材14は吸引管5及び排液管6と干渉しないように設けられる。例えば、吸引管5及び排液管6を通す抜き孔がリンク部材14に設けられてよい。
【0015】
プレート10及び連結機構11は、いずれも非磁性体材料から構成されている。例えば、体液によって浸食されるおそれがないポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂等の硬質の樹脂素材にてプレート10及び連結機構11が形成される。
【0016】
プレート10を待機位置P1から作用位置P2に変位させるため、内部モジュール3には弾性体20が設けられている。弾性体20もまた非磁性体材料にて形成されている。一例として、弾性体20は、シリコンゴムを素材として帯状に形成される。弾性体20は、プレート10の両側のリンク部材14又はリンク部材14間のヒンジ15を相互に連結するように設けられている。図1では、内部モジュール3の幅方向(図1の左右方向)のほぼ中央の位置に単一の弾性体20を配置した状態が示されているが、弾性体20の個数及び位置は適宜に変更されてよい。
【0017】
プレート10を待機位置P1に保持したとき、弾性体20はその無負荷状態(自由長の状態)と比較して適度に伸ばされるようにして内部モジュール3に取り付けられている。それにより、プレート10を待機位置P1から作用位置P2に向かって変位させる方向の弾性復元力が内部モジュール3に作用する。その弾性復元力により、プレート10が作用位置P2に向かって変位する一方で弾性体20は徐々に収縮し、それに伴って弾性体20から内部モジュール3に作用する弾性復元力が減少する。ただし、待機位置P2にて弾性体20の伸び変形量が0、つまり弾性体20が無負荷状態に戻ることは必ずしも要しない。例えば、バッグ2が拡がるとプレート10には待機位置P1に押し返す方向の反力が作用する一方、バッグ2に体液が流入するに従ってバッグ2にはこれを押し拡げようとする力も作用する。これらの力と弾性体20の弾性復元力とが釣り合った位置がプレート10の作用位置P2であって、その作用位置P2では弾性体20がまだ伸び変形した状態であってよい。
【0018】
内部モジュール3には、さらに拘束機構30が設けられている。拘束機構30は、プレート10を待機位置P1に拘束する拘束状態(図2の状態)と、待機位置P1の拘束を解除する解放状態(図3の状態)との間で切替可能な拘束手段の一例として設けられている。例えば、拘束機構30は、一方のプレート10に設けられたロック部材31の先端の爪部32を、他方のプレート10の貫通部33を介してプレート10に掛け止めすることにより、プレート10を弾性体20の弾性復元力に抗して待機位置P1に拘束する。爪部32をその位置がずれるようにバッグ2の外側から操作すれば、爪部32とプレート10との噛み合いが外れる。それにより、プレート10を待機位置P1に拘束する作用が失われ、弾性体20の弾性復元力によりプレート10が作用位置P2に向かって変位する。
【0019】
以上のように構成された体液吸引器1によれば、以下の手順により患者からバッグ2内に体液を吸引することができる。まず、拘束機構30によりプレート10を待機位置P1に拘束し、かつ排液ポート6aをキャップにて閉じた状態で、患者に装着されたドレンチューブを吸引ポート5aに接続する。次に、バッグ2の外側から拘束機構30を操作してプレート10の拘束を解除する。それにより、弾性体20の弾性復元力でバッグ2が拡がり始めてバッグ2内に陰圧が発生する。その陰圧により体液がバッグ2に吸引される。体液の吸引に伴ってバッグ2は徐々に拡大し、プレート10が作用位置P2に達するまで体液が継続的にバッグ2に吸引される。バッグ2内の体液を排出する必要が生じた場合には、排液ポート6aを開いて排液管6から体液を排出すればよい。体液の排出後、プレート10を押し込んでバッグ2を縮小させ、拘束機構30の爪部32をプレート10に掛け止めすれば、バッグ2を初期の縮小状態に戻してその状態を維持することも可能である。
【0020】
本形態の体液吸引器1によれば、内部モジュール3の全体、すなわち内部モジュール3の構成部品の全てを非磁性体にて構成している。バッグ2はその可撓性、あるいは柔軟性を確保するために、当然ながら樹脂シート等の非磁性体材料で構成される。したがって、MRI検査のように磁性体を避けるべき環境において、体液吸引器1を患者から取り外す必要がない。また、バッグ2を一対のプレート10にて押し拡げる構成であるため、体液吸引器1が転がるといった不都合も生じない。バッグ2を縮小させた状態では体液吸引器1が全体として扁平な形状となるため、その保管に要するスペースが嵩むおそれもない。拘束機構30によるプレート10の拘束を解除するだけで吸引を開始させることができるので、操作の手間が嵩むおそれもない。よって、取り扱いも容易である。
【0021】
上述した体液吸引器1を、そのバッグ2が縮小した状態、言い換えればプレート10が待機位置P1に拘束された状態で保管する場合、弾性体20は伸び変形した状態に維持される。一方、弾性体20の一例として使用されるシリコンゴムは、その保存期間が長期化すると伸び量に対する強度が増加する傾向がある。そのため、仮に、バッグ2を縮小させた状態で体液吸引器1を比較的長期に亘って保管した場合には、弾性体20の強度が増加して体液吸引器1の動作特性が変化する可能性がある。しかしながら、発明者らの検証によれば、シリコンゴムの引張強度は、保管中の伸び量よりも経時変化の影響をより大きく受けること、及び、シリコンゴムの保管中における伸び量の相違が破断強度に与える影響は比較的小さいことが確認されている。
【0022】
図4は、シリコンゴムの保管期間が引張強度及び破断強度に与える影響を検証した結果を示す。図4の例では、無負荷状態のシリコンゴムの長さ(自由長)を100%としたときに、伸び率100%、120%、130%、140%に設定したシリコンゴムを試験片1~4として用意し、それらの試験片1~4を伸び率が維持された状態で所定期間(9か月)保管し、その保管後に、試験片1~4の伸び率と引張強度及び破断強度との関係を調査した。比較例1、2として、入手日の翌日のシリコンゴムの伸び率と引張強度及び破断強度との関係を併せて調べて同図に示している。図中の縦軸の引張強度は、シリコンゴムに与えた引張荷重であり、試験片1~4及び比較例1、2を同形同大としているため、その縦軸はシリコンゴムに生じている引張応力を表現すると解して差し支えない。破断強度は、図中で引張強度が失われた時点での引張強度に相当する。シリコンゴムの自由長は10mmに設定した。
【0023】
図4によれば、試験片1及び比較例1、2に対して、伸び変形を与えて保管した試験片2~4は、伸び率に対する引張強度が増加し、かつ破断強度が低下する傾向を示すものの、試験片2~4間の引張強度及び破断強度の相違は小さい。むしろ、試験片1及び比較例1、2と試験片2~4との比較によれば、経時変化、すなわち保管期間の大小が引張強度や破断強度に与える影響が相対的に大きいことが確認できる。
【0024】
また、図5は、シリコンゴムの経時変化が引張強度に与える影響をさらに検証した結果を示す。図5の例では、無負荷状態のシリコンゴムを13か月保管した試験片5を用意し、その保管後の伸び率と引張強度の関係を調査した。上述した試験片1及び比較例1、2に関する図4の結果を同図に併せて示す。つまり、図5は、シリコンゴムを無負荷状態とし、保管期間の相違が伸び率と引張強度との関係に与える影響を示している。なお、縦軸の引張強度に関しては図4の例と同様に引張応力を表現すると解してよい。
【0025】
図5によれば、保管期間が長期化すると伸び率に対する引張強度が増加する傾向が現れるものの、その傾向は伸び率が50~60%を超える領域で顕著に出現することが確認できる。したがって、長期保管による動作特性の変化を避けるためには、プレート10が待機位置P1にあるときの弾性体20の伸び率を適度に制限すれば、長期に保管しても影響がない体液吸引器を提供することが可能である。
【0026】
本発明は上述した形態に限定されず、適宜の変形又は変更が施された形態にて実施されてよい。例えば、作用部材はプレート10のような板状の部材に限らず、バッグに対して内側から接し、待機位置では縮小したバッグ内に収まり、作用位置ではバッグを内側から押し拡げることが可能であれば、適宜の形状に形成されてよい。例えば、作用部材は線材や軸材等を組み合わせたフレーム状に構成されてもよい。ただし、作用部材をプレート10のように扁平な形状に構成した場合には、バッグの縮小時の厚みを減らして保管に要するスペースを削減する点で有利である。
【0027】
連結手段もリンク部材14及びヒンジ13、15を利用した例に限らず、作用部材を待機位置と作用位置との間で変位させるようにして作用部材を相互に連結する限り、適宜の構成であってよい。例えば、リンク部材14をプレート10と一体的に形成し、リンク部材14とプレート10との境界部分、及びリンク部材14同士の境界部分を薄肉化してそれらの境界部分が実質的にヒンジ13、15と同様に適度な範囲で相対的に回転できるように連結手段を構成してもよい。つまり、リンク部材14、ヒンジ13、15は必ずしもプレート10とは別部材として設けられることを要しない。上記の形態では、プレート10の両端部に第1連結点を設定してリンク部材14を連結したが、左右のリンク部材14の組S1、S2同士で第1連結点CP1を共有し、言い換えれば各組S1、S2のリンク部材14を同一の連結点CP1でプレート10と回転自在に連結して連結機構11をパンタグラフ機構として構成してもよい。その他にも、スライダリンク機構、カム機構等、一方向の変位をそれと交差する方向の変位に変換する各種の運動変換機構を連結手段として用いてよい。弾性体は、作用部材が待機位置にあるときに弾性変形し、作用部材を作用位置に向けて変位させる弾性復元力を内部モジュールに発生させるように設けられる限り、適宜の位置に設けられてよい。作用部材が待機位置にあるときに圧縮変形されるように弾性体が設けられてもよい。弾性体はシリコンゴムに限らず、非磁性体である限りにおいて、各種の材料にて構成されてよい。
【0028】
上述した実施の形態及び変形例のそれぞれから導き出される本発明の各種の態様を以下に記載する。なお、以下の説明では、本発明の各態様の理解を容易にするために添付図面に図示された対応する構成要素を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0029】
本発明の一態様に係る体液吸引器(1)は、体液を受け入れるための拡縮可能なバッグ(2)と、前記バッグ内に収容される内部モジュール(3)とを備え、前記内部モジュールは、前記バッグに対して内側から接するように配置される一対の作用部材(10)と、前記作用部材が、縮小したバッグ内に収まるように接近した待機位置(P1)と、前記バッグを拡げるように互いに離れた作用位置(P2)との間で変位できるように相互に連結する連結手段(11)と、前記作用部材を前記作用位置に向けて変位させる方向の弾性復元力を前記内部モジュールに生じさせる弾性体(20)と、前記作用部材を、前記待機位置に拘束する拘束状態(図2)と、前記待機位置の拘束を解除する解放状態(図3)との間で切替可能な拘束手段(30)と、を含み、前記弾性体を含む前記内部モジュールの全体が非磁性体にて構成されたものである。
【0030】
上記の態様によれば、拘束手段にて作用部材を拘束することにより作用部材を待機位置に保持してバッグを縮小した状態に維持することができる。拘束状態では弾性体が弾性変形して内部モジュールに弾性復元力が作用する。そのため、拘束手段による作用部材の拘束を解除すれば、その弾性復元力で作用部材が作用位置に向かって変位し、それに伴ってバッグが拡がってその内部に陰圧が発生する。その陰圧を利用してバッグ内に体液を吸引することができる。内部モジュールの全体が非磁性体にて構成されることにより、MRI検査のように磁性体を避けるべき環境下でも体液吸引器を患者から取り外す必要がない。作用部材を待機位置に保持することにより、作用位置の場合と比較してバッグを相対的に扁平に縮小させることができるので、球状の吸引器のように転がるおそれがない。拘束手段による拘束を解除することによって吸引を開始させることができるので、操作の手間も軽減される。したがって、体液吸引器の取り扱いも容易である。
【0031】
上記態様においては、前記作用部材が扁平なプレート状であってもよい。作用部材をプレート状とすれば、縮小時のバッグの厚みを小さく制限し、その保管に要するスペースを削減できるといった利点が得られる。
【0032】
前記連結手段は、前記一対の作用部材のそれぞれに設定された第1連結点(CP1)にて各作用部材と回転自在に連結された二組のリンク部材(14)を含み、かつ一方の組(S1)のリンク部材同士、及び他方の組(S2)のリンク部材同士が、前記リンク部材の組の並び方向(図2及び図3の左右方向)に関して前記第1連結点よりも前記作用部材の外方に位置する第2連結点(CP2)にて互いに回転自在に連結されるように構成され、前記弾性体は、前記一方の組のリンク部材又は当該リンク部材間の前記第2連結点と、前記他方の組のリンク部材又は当該リンク部材間の前記第2連結点とを接続するように、かつ前記作用部材が前記待機位置にあるときに伸び変形するように設けられてもよい。これによれば、作用部材が待機位置にあるとき、第1連結点よりも第2連結点が作用部材の外側に突出するようにリンク部材が変位する。作用部材の拘束を解除すれば、第2連結点が内側に引き寄せられるようにリンク部材が変位し、それに伴って作用部材が作用位置に向けて変位してバッグが拡がる。弾性体は、伸び変形した状態で各組のリンク部材又は第2連結点を接続する。そのため、弾性体の伸びに対する弾性復元力でリンク部材を引き寄せ、作用部材を作用位置に向けて変位させる力を内部モジュールに生じさせることができる。
【0033】
前記第1連結点は前記作用部材の両端部に設定されてもよい。これによれば、作用部材を待機位置に保持したとき、リンク部材が作用部材の外側に突出するように変位する。そのため、待機位置の作用部材間にリンク部材が挟まれることがなく、縮小時のバッグの厚みをさらに減少させて体液吸引器の保管に要するスペースをさらに削減することが可能である。
【0034】
前記弾性体としてシリコンゴムが使用されてもよい。シリコンゴムは、内部モジュール用の弾性体として必要十分な特性を有し、これを利用することにより比較的簡素に内部モジュールを構成することが可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 体液吸引器
2 バッグ
3 内部モジュール
10 プレート(作用部材)
11 連結機構(連結手段)
14 リンク部材
20 弾性体
30 拘束機構(拘束手段)
CP1 第1連結点
CP2 第2連結点
P1 待機位置
P2 作用位置
S1 リンク部材の一方の組
S2 リンク部材の他方の組
図1
図2
図3
図4
図5