(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】更新最適化システム、更新最適化方法及び更新最適化プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20240101AFI20240409BHJP
G06Q 10/20 20230101ALI20240409BHJP
【FI】
G06Q50/06
G06Q10/20
(21)【出願番号】P 2023176914
(22)【出願日】2023-10-12
【審査請求日】2023-10-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391044410
【氏名又は名称】フジ地中情報株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 寿一
【審査官】関 博文
(56)【参考文献】
【文献】特許第7343025(JP,B1)
【文献】特開2023-059365(JP,A)
【文献】特開2021-192150(JP,A)
【文献】特開2021-131310(JP,A)
【文献】青野 昌行,テックトレンド 加速する建築DX AIで水道管の劣化予測も,日経ビジネス 第2108号,日経BP,2021年09月20日,第2108号,pp.088-090
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00ー99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管路の更新最適化システムであって、
既設管路
の管路属性情報を記憶する記憶部と、
交換の候補である2以上の候補管路の管路属性情報に基づいて
、更新対象の既設管路を前記候補管路に交換した場合における劣化予測を行い、
2以上の予測結果を決定する予測部と、を備え、
前記管路属性情報は、管路の属性に関する情報であって、管路の布設された位置とは関係しない管自体の属性である候補管路属性と、管路の布設された位置と関係する属性である固定管路属性と、を含み、
前記2以上の候補管路の管路属性情報は、前記候補管路属性において互いに異なり、かつ該固定管路属性が前記更新対象の既設管路と同じである、
更新最適化システム。
【請求項2】
更新最適化システムは、更に、決定部を備え、
前記決定部は、
前記予測部が決定した、前記2以上の予測結果に基づいて、
前記更新対象の
既設管路の最適な候補管路属性を決定する、
請求項1に記載の更新最適化システム。
【請求項3】
更新最適化システムは、更に、受付部を備え、
前記予測部は
、候補管路属性
が異なる2以上の
既設管路の管路属性情報を利用して学習を行った数理モデルを用いて管路の劣化予測を行い、
前記受付部は、前記数理モデルが学習を行った管路の候補管路属性より選択された候補管路属性の入力を受け付け、
前記予測部は、選択された候補管路属性を備えた管路属性情報を含む、
前記2以上の候補管路の管路属性情報に基づいて劣化予測を行い、
前記2以上の予測結果を決定し、
前記決定部は、
前記2以上の予測結果に基づいて、2以上の候補管路属性より最適な候補管路属性を特定する、
請求項2に記載の更新最適化システム。
【請求項4】
更新最適化システムは、更に、算出部を備え、
前記記憶部は、候補管路属性ごとの管路の費用に関する費用情報を記憶し、
前記算出部は、前記費用情報及び管路の候補管路属性に基づいて、候補管路属性ごとの管路の費用を算出する、
請求項1に記載の更新最適化システム。
【請求項5】
更新最適化システムは、更に、表示処理部を備え、
前記表示処理部は、前記決定部により最適として決定された候補管路属性における予測結果を含む
前記2以上
の予測結果を表示する比較画面を表示処理する、
請求項2に記載の更新最適化システム。
【請求項6】
更新最適化システムは、更に、表示処理部を備え、
前記記憶部は、管路に関する地図である地図情報を記憶し、
前記管路属性情報は、管路の位置に関する位置情報を含み、
前記表示処理部は、前記地図情報、前記位置情報及び前記決定部により決定された最適な候補管路属性に基づいて、既設管路
が管路属性情報として備えていた候補管路属性
とは異なる候補管路属性が最適と
して決定された既設管路を識別可能な地図を表示する地図表示画面を表示処理する、
請求項2に記載の更新最適化システム。
【請求項7】
前記予測部は、前記
更新対象の既設管路と同じ地盤情報
を備え、かつ、候補管路属性に関する情報及び地盤情報以外の管路属性情報の一部又は全部が前記
更新対象の既設管路と同じである
、前記2以上の候補管路の管路属性情報に基づいて地震の影響によ
る劣化予測を行い、前記
2以上の予測結果を決定する、
請求項1に記載の更新最適化システム。
【請求項8】
更新最適化システムは、更に、分類部を備え、
前記更新対象の
既設管路がイベント情報未取得管路であるとき、
前記予測部は、管路属性情報に基づいて劣化予測を行い、仮の予測結果である推論結果を決定し、
前記分類部は、算出した推論結果と管路属性情報に基づいて分類を行って分類結果を決定し、
前記予測部は、管路属性情報に基づく推論結果と前記分類結果に基づいて、予測結果を決定する、
請求項1に記載の更新最適化システム。
【請求項9】
既設管路
の管路属性情報を記憶部に記憶するコンピュータが実行する管路の更新最適化方法であって、
交換の候補である2以上の候補管路の管路属性情報に基づいて
、更新対象の既設管路を前記候補管路に交換した場合における劣化予測を行い、
2以上の予測結果を決定する予測工
程を備え、
前記管路属性情報は、管路の属性に関する情報であって、管路の布設された位置とは関係しない管自体の属性である候補管路属性と、管路の布設された位置と関係する属性である固定管路属性と、を含み、
前記2以上の候補管路の管路属性情報は、前記候補管路属性において互いに異なり、かつ該固定管路属性が前記更新対象の既設管路と同じである、
更新最適化方法。
【請求項10】
管路の更新最適化プログラムであって、
交換の候補である2以上の候補管路の管路属性情報に基づいて
、更新対象の既設管路を前記候補管路に交換した場合における劣化予測を行い、
2以上の予測結果を決定する予測
部として、既設管路
の管路属性情報を記憶部に記憶するコンピュータを機能させ、
前記管路属性情報は、管路の属性に関する情報であって、管路の布設された位置とは関係しない管自体の属性である候補管路属性と、管路の布設された位置と関係する属性である固定管路属性と、を含み、
前記2以上の候補管路の管路属性情報は、前記候補管路属性において互いに異なり、かつ該固定管路属性が前記更新対象の既設管路と同じである、
更新最適化プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、更新最適化システム、更新最適化方法及び更新最適化プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
埋設管路の更新率は低下しており、かつ、管路の経年劣化率は年々増加の一途を辿っている。このことから、上水道、下水道、ガスの管路の更新の必要性は増大すると予測される。
【0003】
一方で、水道事業者等の管路を管理する事業者は、人材減少や高齢化、経営状態の悪化が問題となっている。したがって、増大する管路の更新の必要性に対応するため、今後の管路の更新において、単純な更新だけではなく、効率的な更新計画が求められる。
【0004】
特許文献1では、高い破損リスクを有する管路を識別し、交換の優先付けを行う技術に関して開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「最近の水道行政の動向について」、[online]、平成31年2月、厚生労働省医薬・生活衛生局水道課、[2023年10月6日検索]、インターネット<URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000486455.pdf>
【0007】
ここで、特許文献1は、破損リスクを有する管路を識別し、交換の優先付けを行う技術について開示しているが、交換先の管路に関する候補管路属性を決定する技術に関して開示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、更新対象である管路に関して最適な候補管路属性を決定する新規な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、管路の更新最適化システムであって、
既設管路の属性に関する管路属性情報を記憶する記憶部と、
前記管路属性情報に基づいて管路の劣化予測を行い、予測結果を決定する予測部と、を備え、
前記予測部は、異なる候補管路属性を備え、かつそれ以外の管路属性情報の一部又は全部が同じである更新対象の管路についての2以上の予測結果を決定し、
前記候補管路属性は、交換の候補となる管路の属性であって、管路の布設された位置とは関係しない管自体の属性である。
【0010】
このような構成とすることで、更新対象の管路が布設された位置に他の候補管路属性を備える管路が布設される場合など、更新対象の管路に関して複数の候補管路属性における劣化予測を行って、最適な更新計画の立案を支援することができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、更新最適化システムは、更に、決定部を備え、
前記決定部は、異なる候補管路属性を備え、かつそれ以外の管路属性情報の一部又は全部が同じである更新対象の管路についての2以上の予測結果に基づいて、更新対象の管路の最適な候補管路属性を決定する。
【0012】
このような構成とすることで、更新対象の管路に関する2以上の予測結果に基づいて、交換先の管種として最適な管種など、最適な候補管路属性を決定することができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、更新最適化システムは、更に、受付部を備え、
前記予測部は、異なる候補管路属性を備える2以上の管路の管路属性情報を利用して学習を行った数理モデルを用いて管路の劣化予測を行い、
前記受付部は、前記数理モデルが学習を行った管路の候補管路属性より選択された候補管路属性の入力を受け付け、
前記予測部は、選択された候補管路属性を備える管路の劣化予測を行い、更新対象の管路に関して異なる候補管路属性を備える場合における2以上の予測結果を決定し、
前記決定部は、2以上の予測結果に基づいて、2以上の候補管路属性より最適な候補管路属性を特定する。
【0014】
このような構成とすることで、学習にデータを利用したことがあり、劣化予測によりシミュレーション可能な候補管路属性を候補として、ユーザが希望する候補管路属性より最適な候補管路属性を高い精度で決定することができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、更新最適化システムは、更に、算出部を備え、
前記記憶部は、候補管路属性ごとの管路の費用に関する費用情報を記憶し、
前記算出部は、前記費用情報及び管路の候補管路属性に基づいて、候補管路属性ごとの管路の費用を算出する。
【0016】
このような構成とすることで、更に、最適な候補管路属性を含む候補管路属性ごとの費用を提示し、管路を管理する事業者等のユーザによる費用を考慮した管路の更新に関する計画の立案を支援することができる。
【0017】
本発明の好ましい形態では、更新最適化システムは、更に、表示処理部を備え、
前記表示処理部は、前記決定部により最適として決定された候補管路属性における予測結果を含む2以上の更新対象の管路に関する劣化予測結果を表示する比較画面を表示処理する。
【0018】
このような構成とすることで、当該システムが提示する最適な候補管路属性に関して候補となる候補管路属性における予測結果を比較して表示し、最適な管路の更新計画の立案を支援することができる。
【0019】
本発明の好ましい形態では、更新最適化システムは、更に、表示処理部を備え、
前記記憶部は、管路に関する地図である地図情報を記憶し、
前記管路属性情報は、管路の位置に関する位置情報を含み、
前記表示処理部は、前記地図情報、前記位置情報及び前記決定部により決定された最適な候補管路属性に基づいて、既設管路の候補管路属性より候補の候補管路属性が最適と判断した管路を識別可能な地図を表示する地図表示画面を表示処理する。
【0020】
このような構成とすることで、既設管路から候補管路属性の異なる管路に変更したほうがよい管路を地図上で直感的に把握することができる。
【0021】
本発明の好ましい形態では、前記予測部は、地盤情報を含む管路属性情報に基づいて、異なる候補管路属性を備え、かつ同じ地盤情報を含み、その他の管路属性情報の一部又は全部が同じである、更新対象の管路について地震の影響による2以上の管路の劣化予測を行い、予測結果を決定する。
【0022】
このような構成とすることで、地震の影響による劣化予測の予測結果に基づいて、地震に対応した最適な候補管路属性を決定することができる。
【0023】
本発明の好ましい形態では、更新最適化システムは、更に、分類部を備え、
更新対象の管路がイベント情報未取得管路であるとき、
前記予測部は、管路属性情報に基づいて劣化予測を行い、仮の予測結果である推論結果を決定し、
前記分類部は、算出した推論結果と管路属性情報に基づいて分類を行って分類結果を決定し、
前記予測部は、管路属性情報に基づく推論結果と前記分類結果に基づいて、予測結果を決定する。
【0024】
このような構成とすることで、未知な特徴量が多い管路の集合である可能性が十分高いイベント情報未取得管路に関して、分類結果と他の管路の分類結果を利用することで、近い特徴量を備える管路の推論結果も参照したより精度の高い劣化予測を行い、最適な候補管路属性を決定することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、更新対象である管路に関して最適な候補管路属性を決定する新規な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して、本発明をよりに詳細に説明する。図面には好ましい実施形態が示されるが、本発明は、異なる形態で実施されることが可能であり、本明細書に記載される実施形態に限定されない。本実施形態では更新最適化装置の構成、動作などについて説明するが、装置などにより実行される方法、コンピュータプログラムなどによっても、同様の作用効果を奏することができる。コンピュータプログラムは、コンピュータが読み取り可能な非一過性の記録媒体として提供されてもよい。
【0028】
以下、説明する実施例において、流体の供給を行う管路の更新を最適化する更新最適化システムは、上水道管などの液体を供給する管路の更新の最適化を行うが、管路に関する更新最適化であれば、ガス管などの管路の劣化予測を行ってもよい。
【0029】
また、本実施形態において、水道事業者やガス会社等の管路を管理する事業者が管理する管路に関するデータを利用して管路の劣化予測及び管路の更新最適化に関する処理を行う。
【0030】
更新最適化システムは、更新対象の管路に関して、異なる候補管路属性を備える2以上の管路属性に対して劣化予測を行い、決定した2以上の予測結果を利用して、更新対象の管路に関して最適な候補管路属性を決定する。本実施形態において、更新最適化システムは、管種や継手等、布設される管路によって相違する属性である候補管路属性が異なり、かつ、その他の給水人口や平均気温、平均降水量等の布設位置に応じた属性が同じである管路のデータに基づいて劣化予測を行い、候補管路属性が異なる場合における2以上の予測結果を比較することで最適な候補管路属性を決定する。また、本実施形態において、更新最適化システムは、更新対象の管路に関して、現在布設されている既設管路と交換の候補となっている候補管路の属性ごとの予測結果を比較することで、管路の交換時に既設管路から管種を変更すべきかなど、最適な更新計画の立案を支援する。
【0031】
<データの定義>
本実施形態では、管路を管理する事業者の管理するデータベース等に記録されたデータを管路に関する生データとする。この生データに対しては、システム内で利用可能とする為に、必要に応じて情報の置換、追加、削除等の変換処理を行う場合があるが、この変換処理が行われたデータが管路に関する処理データとなる。更新最適化装置では、この管路に関する生データを処理した処理データを利用して劣化予測や更新最適化を行う。加工が不要であれば、生データをそのまま処理データとする。また、本実施形態において、数理モデルは、管路属性情報及びイベント情報に対して各種変換処理が行われた処理データを教師データとして学習を行った学習済みのモデルである。処理データ並びに生データは、管路に関するデータであって、管路属性情報とイベント情報とを含む。また、生データに対する前処理の一環として管路属性情報の欠落する部分を補完する処理が行われてもよい。
【0032】
この処理データ並びに生データには、過去のイベント発生が記録されたデータと、過去にイベントが発生していないことが記録されたデータと、過去にイベントが発生したか不明なデータと、が含まれる。イベントとは、管路に発生する異常な出来事であって、漏水や漏洩、破損等を含む。過去のイベント発生が記録されたデータとは、例えば、過去に漏水等のイベントが検出されたイベント発生済管路に関するデータである。過去にイベントが発生していないことが記録されたデータとは、例えば、管路の調査が実施され、イベントが発生していないことが確認されたイベント調査済エリアの管路に関するデータである。また、過去にイベントが発生したか不明なデータとは、例えば、イベントが発生しておらず、かつ調査未実施のイベント未調査エリアにおける管路であって、イベント情報未取得管路に関するデータである。過去のイベント発生が記録されたデータと、過去のイベントが発生していないことが記録されたデータが数理モデルの学習に利用される。イベント調査は、管路に発生したイベントを把握するための調査であって、本実施形態では漏水調査であるが、管路がガス管等であるときは、漏洩に関する調査を含む管路の調査や点検等であってもよい。
【0033】
<システムの構成>
図1は、一実施形態のシステムの構成を示すブロック図である。
図1に示すように、更新最適化システム0は、更新最適化装置1を備える。
【0034】
図1に示す更新最適化装置1は、本実施形態において、管路属性情報を含む管路に関する情報を記憶する管路DBを含む。更新最適化装置1は、管路を管理する事業者等が利用するコンピュータ等の情報処理装置である。更新最適化装置1は、後述する機能構成を実現可能に構成される。
【0035】
本実施形態において、更新最適化装置1は、扱うデータが流出するリスク等の観点から、USBメモリやCD-ROMなどの可搬記憶媒体を用いて管路属性情報を含む事業者の管理する管路に関するデータのやり取りを他の情報処理装置と行うものとする。一方で、これらの事業者の一部又は全部に事業者に関して、更新最適化装置1と接続された図示しないIP(Internet Protocol)ネットワーク上のVPN(Virtual Private Network)など、任意のネットワークを介して通信可能に構成し、ネットワーク経由でのデータのやり取りを行ってもよい。
【0036】
本実施形態において、更新最適化システム0は、外部より取得した情報を可搬記憶媒体等を介して取得するが、更に、気象データを提供する気象情報提供システムや地図情報提供システムなどの外部システムにアクセスし、更新最適化に利用するためのデータを取得して外部DBに格納する外部データ配信装置と、取得したデータが格納される外部DBと、を備え、直接外部よりデータを取得してもよい。また、更新最適化システム0は、外部システムより取得したデータを利用して管路の劣化予測等、更新最適化に関する処理を行ってもよい。
【0037】
<ハードウェア構成>
図2は、ハードウェア構成図である。
図2に示すように、更新最適化装置1は、処理部101、記憶部102、通信部103、入力部104、及び出力部105を備え、各部及び各工程の作用発揮に用いられる。更新最適化装置1としては、コンピュータ等の情報処理装置を1又は複数利用することができる。また、更新最適化装置1は、後述する機能構成を備えているが、更新最適化装置1が備える機能構成の一部が更新最適化装置1と接続された別の装置に配置されてもよい。
【0038】
処理部101は、命令セットを実行可能なCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを有し、OS(Operating System)並びに、管路劣化予測プログラムを含む更新最適化プログラムなどを実行する。
【0039】
記憶部102は、命令セットを記憶可能なRAM(Random Access Memory)などの揮発性メモリ、OSなどを記録可能な、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの不揮発性の記録媒体を有する。更新最適化装置1の記憶部102は、管路劣化予測プログラムを含む更新最適化プログラム並びに、管路劣化予測のための学習済みの数理モデル又は学習済の数理モデルのパラメータを記憶する。また、更新最適化装置1の記憶部102は、更に数理モデルの学習のための学習プログラムを記憶していてもよい。
【0040】
通信部103は、ネットワークに接続するためのインタフェースを有し、ネットワークとの通信制御を実行して、他の情報処理装置や端末装置等との通信を行う。USBメモリ等の可搬記憶媒体を介してデータのやり取りを行う場合、更新最適化装置1は、通信部103を備えていなくてもよい。
【0041】
入力部104は、タッチパネルやキーボードなどの入力処理が可能な操作入力デバイス、マイクなどの音声入力が可能な音声入力デバイスなどを有する。出力部105は、ディスプレイなどの表示処理が可能な表示デバイス、スピーカなどの音声出力デバイスを有する。
【0042】
<データ構成>
以下、
図3を用いて記憶部102に記憶される更新最適化に関する処理に利用されるデータ構成の例を示す。本実施形態に示すデータ構成は一例であって、
図3に示す構成以外のデータが管路の更新最適化に関する処理に利用されてもよい。
【0043】
図3(a)において記憶部102に記憶される管路属性情報のデータ構成の例を示す。管路属性情報は、管路属性に関する情報であって、水道事業者等の管路の管理者が管理する管路に関するデータである。
図3(a)に示す管路属性情報は、本実施形態において、管路DBより取得された生データであるが、処理データであってもよい。
図3(a)に示す管路属性情報は、管路の布設された年度に関する布設年と、ダクタイル鋳鉄管(DIP)や鋳鉄管(CIP)などの管路の材料に関する情報である管種と、管路の口径と、漏水調査が行われたかなどのイベント情報の有無に関する漏水調査の有無と、に関するデータを含む。また、本実施形態において、管路属性情報は、管路に関する一意なIDである管路IDと紐づけて記憶される。管路属性情報は、候補管路属性に関する情報を含む。候補管路属性は、管路の更新の際に、交換の候補である候補管路の属性であって、管路の布設される位置とは関係しない管自体の属性である。また、
図3(a)において図示されないが、管路属性情報は、それぞれの管路の長さである管路長を含む。また、更新対象の管路に関する仮のデータである候補管路属性情報は、
図3(b)に示す管路属性情報と同様のデータ構成を備える。本実施形態において、管路属性情報は、特定の管路に関する複数の属性に関する情報を含み、一つの既設管路に対して一つずつ紐づけて記憶される。
【0044】
管路属性は、管路の属性であって、管路の種類に関する属性である候補管路属性を含む。候補管路属性は、候補管路の管路属性情報に含まれた仮の属性であって、本実施形態において、管路の材質に関連する管種及び管路の継手に関する属性である。また、候補管路属性として管路の口径が含まれていてもよい。管種は、管路の材質であって、ダクタイル鋳鉄管や鋳鉄管、ポリエチレン管(PE)や塩化ビニール管(VP)を含む。また、継手は、管路を接続するための部品である。同じダクタイル鋳鉄管であっても、継手の材質が異なることで、非耐震管や耐震管となるなど、管種と継手の組み合わせによって管路の特性が異なる場合があるため、本実施形態において、更新最適化システム0は、管種と継手の組み合わせに関して、最適な候補管路属性を決定する。また、更新最適化システム0は、本実施形態において、管路の材質や継手の組み合わせに関して劣化予測を行い、最適な候補管路属性の組み合わせを決定するが、管種又は継手の何れかに関して最適な候補管路属性を決定してもよい。記憶部102は、管路属性ごとの情報を含む管路属性情報を記憶する。
【0045】
本実施形態において、管路劣化予測に利用する管路属性情報は、管路の属性である管路属性に関する情報であって、
図3(a)に示す情報に加えて、水理計算に関連する特徴量である水理計算特徴量と、管路の布設位置における環境に関する環境情報と、管路の異常な劣化に関する異常情報と、隣接する管路の管種を含む隣の管路に関する隣接管路情報と、を含む。本実施形態において、異常情報は、異常な劣化を示す管路の布設年度に関する情報であって、布設工事のミス等によってその年度に布設された管路の劣化が激しい場合などにおいて、異常な劣化を示す年度に布設された管路に付与される異常年度フラグである。
【0046】
環境情報は、管路の布設された場所の環境に関する情報であって、布設位置における平均気温、最低気温、最高気温、平均降水量、交通量、建物密集度、主要道路からの距離、最も近い主要道路の交通量などの情報を含む。また、管路の劣化に関係する特徴量であれば、管路の設置場所など、その他の情報が管路属性情報として含まれてもよい。本実施形態において、環境情報は、管路の布設位置における環境に関する情報として地盤に関する地盤情報を含む。地盤情報は、管路が布設された位置における地盤に関する情報であって、管路の布設される位置における地盤に関する情報であって、平均S波速度(AVS)や表層地盤増幅率、地形の種類や地質等を含む。また、更新最適化装置1は、管路劣化予測又は学習に利用するデータを外部の情報配信システムや学部のDB等より取得し、取得したデータを管路属性情報として記憶部102に記憶してもよい。
【0047】
水理計算特徴量は、管路属性特徴量などに基づいて水理計算を行ったことで得られた特徴量など水理計算に関連する特徴量であって、管路における水流の流量や圧力、給水人口、流量、流速などを含む。
【0048】
図3(b)において、記憶部102に記憶されるイベント情報のデータ構成の例を示す。イベント情報は、管路において発生した漏水や破損などの以上な現象であるイベントに関する情報であって、本実施形態では、水道事業者などの管路を管理する事業者によるイベント調査によって取得された漏水の発生履歴などのイベントに関する情報と、突発的な漏水事故が発生した管路の修理や交換を行った水道事業者などによって取得された管路における発生済みのイベントに関する情報と、を含む。
【0049】
イベント調査は、管路の管理を行う事業者によって実施される、管路において漏水等のイベントが発生したかに関する調査であって、本実施形態では管路の漏水調査である。また、本実施形態において、イベント情報は、まだイベント調査が行われていないイベント未調査エリアにおいて、突発的に発生した漏水事故などのイベントに関する情報を含む。また、本実施形態において、イベント情報は、管路IDにより管路属性情報と紐づけられて記憶されるが、漏水事故など突発的に管路に発生したイベントに関するイベント情報は、管路属性情報と紐づいていなくてもよい。
【0050】
図3(b)に示すイベント情報は、イベントを特定するための一意なIDである漏水データIDと、イベントが発生した管路の管路IDと、漏水原因と、タイミング情報としてイベントの発生した年度に関するイベント発生年度(漏水年)を含む。タイミング情報は管路においてイベントが発生したタイミングに関する情報である。
図3(b)に示すデータでは、タイミング情報としてイベントが発生した年度に関するデータが含まれるが、管路の布設年度とイベント発生年度より取得したイベント発生までの管路の生存時間がタイミング情報として含まれていてもよい。本実施形態において、イベント情報とタイミング情報とは同じ漏水データIDに紐づいて管理される。
【0051】
本実施形態において、イベント情報に含まれるイベント種別は、管路の損傷の原因及びイベント発生の有無を示す情報であって、例えば、水道管の腐食劣化と電食漏水と振動漏水などの漏水原因に関する情報が格納される。また、漏水の発生していない管路に関しては、イベント種別として漏水無しという情報が格納される。本実施形態では、イベント情報は水道管の漏水に関する情報であるが、ガス管等の管路の破裂や破損、漏洩などその他管路で発生するイベントに関する情報であってもよい。
【0052】
図3に示すデータは、布設されている既設管路に関するデータであって、管路の劣化予測を行う数理モデルの学習に利用されるデータの例である。更新最適化装置1は、
図3(a)に示す管路属性情報と同様のデータ構成を有し、かつ候補管路属性が異なる複数の管路属性情報を利用して、管路の劣化予測を行い、最適な候補管路属性を決定する。本実施形態において、更新最適化装置1は、現在布設されている既設管路の管路属性情報と、既設管路の候補管路属性を交換の候補の候補管路属性とした管路属性情報に基づく予測結果と、を比較することで候補管路属性ごとの予測結果を比較し、最適な候補管路属性を決定するが、劣化予測が可能な候補管路属性であればいずれの候補管路属性の予測結果を利用して最適な候補管路属性を決定してもよい。
【0053】
更に、記憶部102は、本実施形態において、地震被害に対応する劣化予測を行うため、地震により発生した漏水等のイベントに関するイベント情報を記憶する。本実施形態において、地震に関するイベント情報は、発生したイベントが地震の影響によるものか否かに関する地震影響情報を含む。地震被害に対応する数理モデルは、地震影響情報に基づいて、地震の影響により発生したイベントに関するイベント情報が利用されて学習を行ったモデルである。また、記憶部102は、数理モデルの学習に利用される、自治体など特定の事業者が管理する範囲において過去に発生した地震に関する履歴を記憶する。
【0054】
<機能構成>
図1に示すように、更新最適化装置1は、受付部11と、予測部12と、分類部13と、決定部14と、算出部15と、表示処理部16と、を備える。これは、ソフトウェア(記憶部102などに一過的又は非一過的に記憶されたプログラム)による情報処理が、ハードウェア(処理部101など)によって具体的に実現されたものである。
【0055】
受付部11は、候補管路属性の選択を含むユーザによる各種情報の入力を受け付ける。本実施形態において、受付部11は、更に、受け付けた情報を記憶部102に記憶する処理を行う。また、受付部11は、USBメモリ等の可搬記憶媒体を介して管路属性情報を含む管路に関する管路情報がやり取りされるとき、USBメモリから管路属性情報を含む各種情報を受け付ける処理を行ってもよい。
【0056】
受付部11は、劣化予測に利用するため、ユーザにより選択された候補の候補管路属性の入力を受け付ける。本実施形態において、受付部11は、劣化予測を行うための数理モデルの学習に管路属性情報を利用した管路の候補管路属性より選択された候補管路属性の入力を受け付ける。
【0057】
予測部12は、管路属性情報に基づいて管路の劣化予測を行い、予測結果を決定する。本実施形態において、予測部12は、例えば、既設管路の候補管路属性を変更した管路属性情報に基づいて劣化予測を行う等、更新対象の管路に関して、候補管路属性が異なり、かつその他の管路属性情報の全部又は一部が同じ2以上のデータ(管路属性情報)に基づいて劣化予測を行い、候補管路属性が異なる場合における複数の予測結果を決定する。
【0058】
予測部12は、更新対象の既設管路の管路属性情報を用いてそれぞれ異なる候補管路属性を含んだ仮の管路属性情報である候補管路属性情報を2以上生成し、それぞれの候補管路属性情報を用いて管路劣化予測を行う。候補管路属性情報は、交換の候補である候補管路に関する仮の管路属性情報である。候補管路属性を含んだ候補管路属性情報は、管路属性として候補管路属性と固定管路属性を含む。固定管路属性は、ある更新対象の既設管路に対して生成された候補管路属性情報間で共通する管路属性である。本実施形態において、候補管路属性は、管種や継手を含む布設される管路によって相違する、管路の布設された位置に影響を受けない管路属性である。また、本実施形態において、固定管路属性は、平均気温や平均降水量や、隣の管種に関する情報など、管路の布設された位置に応じて決定される管路属性である。本実施形態において、予測部12は、固定管路属性が既に布設されている管路である既設管路と同じであり、かつ候補管路属性がそれぞれ異なる複数の候補管路属性情報を利用して劣化予測を行い、更新対象の管路に関してそれぞれの候補管路属性ごとの劣化予測の予測結果を決定する。
【0059】
また、口径が候補管路属性として含まれ、予測部12は、口径が異なる管路属性情報に基づく劣化予測を行い、口径が異なる場合の2以上の予測結果を決定してもよい。本実施形態において、予測部12は、更新対象の管路に関して、管種と継手の組み合わせが異なるなど、異なる候補管路属性を備える場合の更新対象の管路の劣化予測を行うが、例えば、管種が固定で継手が異なる場合の予測を行う等、候補管路属性の一部が固定され、その他の一部が異なる複数の管路属性情報に関して劣化予測を行ってもよい。
【0060】
管路劣化予測のために利用される数理モデルは、
図3(c)に示すような管路属性情報及びイベント情報の組み合わせを教師データとして学習を行った学習済みのモデルである。数理モデルは、異なる管種と継手の組み合わせ等の様々な候補管路属性を備える多数の管路の管路属性情報に基づいて学習を行った、様々な組み合わせの候補管路属性を備える管路の劣化予測が可能なモデルである。また、本実施形態において、数理モデルは、教師データに含まれるイベント種別に基づいて付与される教師ラベルに基づいて、それぞれのイベント種別に対応して学習された複数のモデルを含む。本実施形態において、数理モデルは、腐食劣化、電食漏水、振動漏水、その他漏水というイベント種別に対応するモデルを含む。
【0061】
図3(c)において、管路属性情報及びイベント情報を組み合わせて生成される、学習のために形式を整えられた処理データである教師データのデータ構成の例を示す。教師データは、数理モデルの学習に用いられる管路と管路に発生したイベントに関する情報であって、漏水データIDと、布設年と、管路IDと、管路の布設からイベント発生までの時間又は前回のイベント発生からその次のイベント発生までの時間である生存時間と、イベント種別に関するラベルである教師ラベルと、イベントが発生した管路におけるその時点での過去の漏水発生件数と、イベントが異常に多い異常年度に関する異常情報と、を含む。教師ラベルは、イベント種別に関するデータであって、それぞれのイベント種別ごとに付与されるラベルである。受付部11は、管路属性情報とイベント情報を含む管路情報を受け付け、受け付けたデータに前処理を行うことで教師データを生成する処理を行ってもよい。
【0062】
予測部12において利用される数理モデルは、イベント種別ごとに異なる手法を用いて構成された数理モデルである。本実施形態において、イベント種別が電食漏水、振動漏水、その他漏水であるとき、管路劣化予測に利用される数理モデルは、勾配ブースティングの手法を利用して構成されたモデルであるが、勾配降下法やブースティング、決定木やニューラルネットワーク、ロジスティック回帰やk近傍法などの手法を用いて構成されていてもよい。また、イベント種別が腐食劣化であるとき、数理モデルは、生存時間分析を行うため、カプランマイヤー法やCox比例ハザードモデルなどの生存時間分析に関する手法を利用して構成されるモデルである。
【0063】
本実施形態において、予測部12は、管路属性情報及び管路に発生したイベントに関するイベント情報に基づいて学習を行った数理モデルを利用して管路の劣化予測を行い、予測結果を決定する。本実施形態において、予測部12は、イベント種別ごとに対応するモデルを用いて劣化予測を行い、1年以内のイベントの発生する確率と3年以内のイベントの発生する確率と5年以内のイベントの発生する確率と10年以内のイベントの発生する確率を含む所定の期間内にそれぞれのイベント種別におけるイベントが発生する確率を予測結果として決定する。更に、予測部12は、管路の劣化の程度や管路の余寿命を予測結果として決定する。管路の余寿命を決定するとき、予測部12は、例えば、10年以内のイベントの発生率が閾値を超えたときに10年を管路の余寿命として決定する等、数理モデルを利用して取得した所定の期間内のイベントの発生率が閾値以上であるとき、その期間を余寿命として決定してもよい。予測部12は、それぞれのイベント種別に対応する数理モデルを利用して予測を行い、それぞれのイベント種別ごとの予測結果を決定してもよい。また、それぞれのイベント種別に対応するモデルを用いて予測結果を決定する場合、予測部12は、それぞれのイベント種別ごとに対応する複数の予測結果より、例えば最も高い劣化の確率や最も短い余寿命等、最終的な一つの予測結果を決定してもよい。
【0064】
更に、予測部12は、地震に対応する数理モデルを用いて、地盤情報を含む管路属性情報に基づく管路劣化予測を行い、地震の影響による被害の予測として劣化予測を行う。予測部12は、本実施形態において、特定の地震指標(本実施形態では震度)における管路の漏水確率を予測結果として決定する。本実施形態において、地震指標として取得が比較的容易な震度を利用するが、その他、震度、マグニチュード、最大加速度(peak ground acceleration)、最大速度(Peak Ground Velocity)、SI値(Spectrum Intensity)等のうち1又は複数を地震指標として用いてもよい。また、地震指標は、公的なデータベースのようなデータベースより取得した震度等の地震指標を利用したものであってもよい。本実施形態では予測部12は、震度5強や震度6弱等、複数の段階の地震指標における管路の漏水確率(イベントの発生率)を予測結果として決定する。
【0065】
予測部12は、地震が発生した場合の管路の被害に関するシミュレーションとして地震の影響による管路の劣化予測を行い、予測結果を決定する。本実施形態において、予測部12は、想定される地震指標の地震に関するダミーのデータである地震情報と管路に関する管路属性情報から生成した予測用のデータに基づいて管路の地震被害の予測を行い、想定される地震指標の地震の影響による管路の漏水確率等のイベントの発生率を予測結果として決定する。本実施形態において、予測部12は、地震被害の予測結果として管路の特定の震度の地震の影響によるイベントの発生率(管路の破損の確率)を決定するが、地震の影響による管路の被害(破損)の程度等を決定してもよい。
【0066】
地震に関する劣化予測を行うための数理モデルは、地盤情報を含む管路属性情報及び地震の影響によって発生した漏水等のイベントに関するイベント情報に基づいて学習を行った学習済みのモデルである。地震に対応する数理モデルは、地震の影響により発生した破損や漏水等のイベントに関するイベント情報と、地震の影響により破損等のイベントが発生しなかったイベント発生なしというイベント情報と、イベントの発生に影響を与えた地震の震度等の地震指標と、地震の発生年度と、を含む地震に関する教師データに基づいて学習を行った学習済みのモデルである。本実施形態において、予測部12は、震度を含む地震指標や、地盤に関する地盤情報を含む地震特有の管路属性情報を利用して地震被害に関する劣化予測を行い、予測結果に基づいて地震の被害に強い管路など地震に対して最適な候補管路属性を決定することができる。
【0067】
地震に関する劣化予測を行うための数理モデルは、電食漏水、振動漏水、その他漏水に対応する数理モデルと同様に、勾配ブースティングの手法を利用して構成されたモデルであるが、勾配降下法やブースティング、決定木やニューラルネットワーク、ロジスティック回帰やk近傍法など、また、複数の手法を組み合わせるような手法で構成されたモデルであってもよい。
【0068】
分類部13は、予測を行う管路がイベント情報未取得管路であるとき、管路属性情報及び予測部12が決定した仮の予測結果である推論結果(推論値)に基づいて管路の分類を行う。機械学習により生成されたモデルは、学習されている範囲の特徴量に関しては高精度の予測を行うことができるが、未知の特徴量に対してはその限りではない。イベント情報未取得管路は、未知の特徴量が多い管路の集合になっている可能性が高いため、分類結果を利用して近しい特徴量を備える管路の推論結果を利用することで劣化予測の精度を高めることができる。近しい管路属性情報を備える管路同士は推論結果も近いことが想定されるため、分類部13は、本実施形態において、管路属性情報及び推論結果を用いて分類を行うが、未知の特徴量を有する可能性が十分高いイベント情報未取得管路に関して、比較的近い特徴を備える管路に分類できればよいため、管路属性情報のみを用いて管路の分類を行ってもよい。管路属性情報が地理的な特性を有するデータであり、教師あり機械学習モデルと相性が良くないため、分類部13は、本実施形態において、管路属性情報に含まれる空間的な自己相関性の少ない管路属性に関するデータを利用して分類を行う。
【0069】
本実施形態において、予測部12は、数理モデルを用いて管路属性情報に基づく管路の劣化予測を行い、仮の予測結果である推論結果を決定する。推論結果は、仮の管路劣化予測の予測結果であって、本実施形態において、管路属性情報に基づくイベント発生率や余寿命等の予測結果の仮の値である。更新対象の管路がイベント情報未取得管路であるとき、予測部12は、推論結果と管路属性情報に基づいて分類を行い、近似する管路属性及び推論結果を有する管路に分類分けを行う。そして、予測部12は、分類の結果及び自身の管路属性情報に基づいて決定した推論結果と、同じ分類に分類分けされた他の管路の推論結果と、に重みづけを行うことで最終的な予測結果を決定する。更新対象の管路がイベント情報未取得管路であるとき、予測部12は、分類結果に基づいて劣化予測を行う対象の管路と近い管路属性情報及び推論結果を備える他の管路の推論結果を利用して最終的な予測結果を決定する。
【0070】
決定部14は、異なる候補管路属性を備え、かつそれ以外の管路属性情報の一部又は全部が同じである更新対象の管路についての2以上予測結果に基づいて、更新対象の管路の最適な候補管路属性を決定する。決定部14は、予測部12による予測結果に基づいて、更新対象の管路の最適な候補管路属性を決定する。決定部14は、例えば、DIP(ダクタイル鋳鉄管)とPE(ポリエチレン管)とで候補管路属性が異なり、布設位置や布設年、口径等のその他の管路属性が既設管路の管路属性情報と同じである管路属性情報を利用した劣化予測の予測結果に基づいて、更新対象の管路の候補管路属性として最適な候補管路属性を決定する。
【0071】
決定部14は、劣化予測の予測結果を入力データとし、最適な候補管路属性を出力データとして学習を行った学習済みの数理モデルを利用して最適な候補管路属性を決定してもよく、また、イベントの発生率や余寿命等の複数の予測結果に基づいて候補管路属性又は複数の候補管路属性の組み合わせごとに点数をつけ、点数が高い候補管路属性を最適な候補管路属性として決定してもよい。また、本実施形態において決定部14は、管路属性情報を入力データとして含み、管路属性情報に含まれる更新対象の管路から最も近いメイン管(学校や病院等の重要施設に接続されている管路)に関する情報と、地盤情報と、に基づいて最適な候補管路属性を決定してもよい。
【0072】
本実施形態において、決定部14は、電食漏水、振動漏水、腐食劣化等のイベントの発生率や余寿命、地震の影響によるイベントの発生率など複数の管路劣化予測の予測結果に基づいて決定するが、イベント発生率(漏水等のイベントが発生する確率)に基づくイベントの発生率の低い候補管路属性や、余寿命に基づく余寿命の長い候補管路属性などを最適な候補管路属性として決定する等、特定の予測結果に基づいて最適な候補管路属性を決定してもよい。また、ユーザにより耐震を優先すると設定されたとき、本実施形態において、決定部14は、地震被害に対応する数理モデルを用いて行った劣化予測の予測結果を利用して最適な候補管路属性を決定する。
【0073】
本実施形態において、決定部14は、DIP(ダクタイル鋳鉄管)や、PE(ポリエチレン管)など、数理モデルの学習に利用された候補管路属性から選択された候補管路属性を備える管路より最適な候補管路属性を決定する。
【0074】
また、決定部14は、最適な候補管路属性を決定する際にユーザにより設定された条件に基づいて、予測結果より最適な候補管路属性を決定してもよい。例えば、ユーザにより耐震を優先すると設定されているとき、決定部14は、特定の地震指標における漏水確率等の地震に関する予測結果により重みをもたせ、最適な候補管路属性を決定してもよい。また、決定部14は、耐震を優先するときは既設管路の候補管路属性と比較する候補の候補管路属性として耐震管路(例えば、GX形ダクタイル鋳鉄管やポリエチレン管)を利用し、費用の削減を優先するときは、安価な管路(例えば、塩化ビニール管)を利用して、更新対象の管路の最適な候補管路属性を決定してもよい。
【0075】
算出部15は、候補管路属性と記憶部102に記憶される費用情報に基づいて、決定部14により最適な候補管路属性として決定された候補管路属性の管路を含む管路の費用を算出する。費用情報は、記憶部102に記憶される候補管路属性ごとの費用に関する情報であって、本実施形態では候補管路属性ごとの管路の費用を算出するためのテーブルであって、所定の年代の全候補管路属性の管路の1m単位の単価に関する情報である。本実施形態において、算出部15は、費用として管路の布設費用を算出するが、管路自体の購入費用や維持管理費用等であってもよい。また、算出部15は、物価の変動などの影響を除いた実質的な値を算出するためのデフレータ機能を備え、算出した管路の費用を基準となる年度における金額に修正してもよい。
【0076】
表示処理部16は、比較画面と地図表示画面を含む各種画面を表示処理する。また、表示処理部16は、候補管路属性を含む管路劣化予測の際における設定を入力するための画面を表示処理してもよい。
【0077】
表示処理部16が表示処理する比較画面について説明を行う。表示処理部16が表示処理する比較画面は、候補管路属性の異なる2以上の管路に関する情報を表示して比較するための画面であって、本実施形態においては、複数の管路の劣化予測結果を表示することで比較するための画面である。比較画面は、算出部15が算出した候補管路属性ごとの管路の費用や、決定部14により最適な候補管路属性として決定された候補管路属性を表示する画面であってもよい。
【0078】
また、表示処理部16は、最適として決定した候補管路属性と複数の候補管路属性における劣化予測の予測結果を表示処理する。
【0079】
<画面表示例>
図4及び
図5を用いて表示処理部16が表示処理する画面表示の例を示す。本実施形態において、
図4及び
図5に示すような表示処理部16が表示処理する画面は、更新最適化装置1の画面において表示されるが、更新最適化装置1と通信可能に接続された端末装置等の画面において表示されてもよい。
【0080】
図4において、既設管路の候補管路属性を示す既設管路地図画面W1の画面表示例を示す。表示処理部16は、管路の位置情報と地図情報とに基づいて、管路を地図上に表示処理する。また、本実施形態において、既設管路地図画面W1は、既設管路の候補管路属性ごとに管路が色分けされて表示されているため、直感的に既設管路の候補管路属性を認識することができる。また、既設管路地図画面W1に表示される管路が押下されると、受付部11は、位置情報に基づいて詳細な情報を確認する管路の選択を受け付け、表示処理部16が複数の候補管路属性における管路を比較する比較画面を表示処理する。本実施形態において、表示処理部16は、選択された管路に関して
図5に示すような画面を表示処理する。本実施形態において、表示処理部16は、
図4に示すように既設管路の候補管路属性を色分けして示す地図画面を表示処理するが、決定部14により最適な候補管路属性として決定された候補管路属性に基づいて管路を色分けし、最適な候補管路属性を示す地図画面を表示処理してもよい。また、表示処理部16は、既設管路より候補管路の候補管路属性が最適として選択された管路のみを着色して示す地図を表示処理してもよい。
【0081】
図5において、複数の候補管路属性に関して予測結果を比較する比較画面W2の画面表示例を示す。比較画面W2は、選択された管路に関して複数の候補管路属性における管路属性情報と、劣化予測の予測結果を表示する画面である。また、
図5に示すように、比較画面W2は、本実施形態において、管路の劣化予測結果として、特定の期間におけるイベントの発生率(〇年以内劣化率)と、管路の想定される生存年数である劣化予測生存年数(余寿命)と、所定の地震指標における管路の漏水確率と、を含む複数の形式の予測結果を表示する画面である。
図5に示す画面表示例は、ダクタイル鋳鉄管の非耐震管(DIP-K)と、ポリエチレン管(PE)に関する予測結果を示す画面である。
図5に示すように、更新最適化装置1は、候補管路属性が異なり、かつその他の管路属性が既設管路と同じであるデータに基づいて管路の劣化予測を行い、複数の候補管路属性における予測結果を決定し、最適な候補管路属性を決定する。また、
図5に示す比較画面W2は、本実施形態では複数のイベント種別ごとの予測結果に基づく一つの予測結果を表示するが、イベント種別ごとの予測結果をそれぞれ表示してもよい。
【0082】
また、表示処理部16は、
図4に示すような管路の地図表示において、更新対象の管路が既設管路の候補管路属性より布設の候補の候補管路属性が最適な候補管路属性として決定されている管路を塗りつぶすなど、既設管路とは異なる候補管路属性が最適な候補管路属性として決定された管路を識別可能な地図を表示する地図表示画面を表示処理する。
【0083】
<処理の流れ>
以下、図面を用いて管路の更新最適化に関する処理の流れの説明を行う。以下に示す処理のフローは一例であって、処理の流れが以下に説明するものと異なっていてもよい。
【0084】
受付部11がユーザによる候補管路属性の選択を受け付けると(S101)、予測部12は、数理モデルを用いて管路属性情報に基づく管路の劣化予測を行い、仮の予測結果である推論結果を決定する(S102)。更新対象の管路がイベント調査済エリアの管路又はイベント情報取得済管路であるとき、予測部12は、推論結果を予測結果として決定する(S103)。更新対象の管路がイベント情報未取得管路であるとき、分類部13は、推論結果と管路属性情報に基づいて管路の分類を行う(S104)。予測部12は、分類部13による分類結果と管路属性情報に基づく推論結果に基づいて、予測結果を決定する(S105)。このとき、予測部12は、更新対象の管路に関して、ユーザにより選択された候補管路属性を含む2以上の異なる候補管路属性における劣化予測を行い、予測結果を決定する。決定部14は、予測部12による、異なる候補管路属性を備え、かつそれ以外の管路属性の一部又は全部が同じである更新対象の管路に関する2以上の予測結果に基づいて、更新対象の管路の最適な候補管路属性を決定する(S106)。表示処理部16は、最適として決定された候補管路属性と、候補管路属性ごとの予測結果を表示処理する(S107)。
【0085】
<実施の形態>
本実施形態において、決定部14は、水道事業者等の事業者が管理するすべての管路等、所定の範囲内のすべての管路に関して最適な候補管路属性を決定するが、イベントの発生率が高い管路や、余寿命が短い管路など、交換の優先度の高い管路に対して最適な候補管路属性を決定してもよい。
【0086】
本実施形態において、更新最適化装置1は、予測結果や最適な候補管路属性を画面上に表示することで出力するが、エクセルやCSV形式等のファイルとして出力してもよい。また、更新最適化装置1は、既存管路の候補管路属性より候補の候補管路属性が適しており、管種を交換することが望ましいとして決定された管路に関するレポートを印刷等により出力してもよい。
【0087】
また、決定部14は、ユーザにより選択された優先すべき項目に基づいて、最適な候補管路属性を決定してもよい。例えば、優先すべき項目が耐震であるとき、予測部12が決定した予測結果のうち地震における予測結果(地震が発生した場合のイベント発生率等)に重きを置き、地震の影響における漏水の発生率が低い候補管路属性を最適な候補管路属性として決定する。また、イベント種別ごとや地震等、異なる数理モデルを用いて決定した複数の予測結果に基づいて最適な候補管路属性を決定するとき、決定部14は、優先すべき項目に関連性の高い予測結果の比重を重くするような重みづけを行い、最適な候補管路属性を決定してもよい。
【0088】
更新最適化装置1は、更に、学習部を備え、管路属性情報及びイベント情報に基づいて管路の劣化予測に利用される数理モデルの学習を行ってもよい。
【符号の説明】
【0089】
0 更新最適化システム
1 更新最適化装置
【要約】
【課題】
本発明は、更新対象である管路に関して最適な候補管路属性を決定する新規な技術を提供することを課題とする。
【解決手段】
管路の更新最適化システムであって、
既設管路の属性に関する管路属性情報を記憶する記憶部と、
前記管路属性情報に基づいて管路の劣化予測を行い、予測結果を決定する予測部と、を備え、
前記予測部は、異なる候補管路属性を備え、かつそれ以外の管路属性情報の一部又は全部が同じである更新対象の管路についての2以上の予測結果を決定し、
前記候補管路属性は、交換の候補となる管路の属性であって、管路の布設された位置とは関係しない管自体の属性である。
【選択図】
図1