(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20240409BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240409BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20240409BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C08L23/00
C08K3/013
C08K9/04
C08K3/26
(21)【出願番号】P 2023193751
(22)【出願日】2023-11-14
(62)【分割の表示】P 2023137126の分割
【原出願日】2023-08-25
【審査請求日】2023-11-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311018921
【氏名又は名称】株式会社TBM
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】大森 望
(72)【発明者】
【氏名】井原 大貴
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-023945(JP,A)
【文献】特開2003-034760(JP,A)
【文献】特開昭63-210144(JP,A)
【文献】特開昭64-040540(JP,A)
【文献】特開平04-036332(JP,A)
【文献】特開2021-031644(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102050962(CN,A)
【文献】特開平05-178607(JP,A)
【文献】特開2007-075176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物に対する前記無機物質粉末の含有量が、50質量%以上90質量%以下であり、
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂を含み、
前記無機物質粉末が、炭酸カルシウム粉末を含み、
前記無機物質粉末が、植物由来材料によって表面処理さ
れ、
前記植物由来材料が、植物油を含む、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記植物油が、大豆油、とうもろこし油、及び紅花油からなる群から選択される1以上の植物油を含む、請求項
1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記炭酸カルシウム粉末が、重質炭酸カルシウム粉末を含む、請求項
1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記重質炭酸カルシウム粉末が、JIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が0.7μm以上6.0μm以下の重質炭酸カルシウム粉末を含む、請求項
4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを含む成形品であって、
前記成形品に対する前記無機物質粉末の含有量が、50質量%以上90質量%以下であり、
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂を含み、
前記無機物質粉末が、炭酸カルシウム粉末を含み、
前記無機物質粉末が、植物由来材料によって表面処理さ
れ、
前記植物由来材料が、植物油を含む、
成形品。
【請求項7】
熱可塑性樹脂と無機物質粉末との混合工程を含む、樹脂組成物の製造方法であって、
前記樹脂組成物に対する前記無機物質粉末の含有量が、50質量%以上90質量%以下であり、
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂を含み、
前記無機物質粉末が、炭酸カルシウム粉末を含み、
前記無機物質粉末が、前記混合工程の前に植物由来材料によって予め表面処理され、
前記植物由来材料が、植物油を含む、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の低減等の観点から、樹脂製品に対して無機物質粉末を高充填する試みがなされている。
また、無機物質粉末に対し、樹脂への分散性等を向上させることを目的として、脂肪酸系表面処理剤等で表面処理を行う技術も知られる(例えば、特許文献1)。
【0003】
無機物質粉末を高充填した樹脂製品は、通常、材料である成分(樹脂、無機物質粉末等)からなる樹脂組成物を溶融混練し、得られた混練物を成形することで得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らは、樹脂組成物の混練時に、無機物質粉末に起因するスクリューの摩耗が生じ易いことを見出した。これは、例えば、不定形である無機物質粉末(重質炭酸カルシウム等)は、スクリューの表面を傷付け易いこと等による。
摩耗したスクリューは、混練の安定性を損ない易く、樹脂組成物中の無機物質粉末の分散不良等を生じ得る。
また、本発明者らは、表面処理剤(例えば、脂肪酸系表面処理剤)で処理した無機物質粉末を使用した場合、スクリューの表面との接触により摩耗を生じさせつつ、無機物質粉末の分散性を向上させている可能性を見出した。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、無機物質粉末を高充填した樹脂組成物について、混練時のスクリューの摩耗を抑制出来る技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、樹脂組成物に配合する無機物質粉末として、植物由来材料によって表面処理された無機物質粉末を使用することで上記課題を解決出来る点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0008】
(1) 熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物に対する前記無機物質粉末の含有量が、50質量%以上90質量%以下であり、
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂を含み、
前記無機物質粉末が、植物由来材料によって表面処理された、樹脂組成物。
【0009】
(2) 前記植物由来材料が、植物油を含む、(1)に記載の樹脂組成物。
【0010】
(3) 前記植物油が、大豆油、とうもろこし油、及び紅花油からなる群から選択される1以上の植物油を含む、(2)に記載の樹脂組成物。
【0011】
(4) 前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂を含む、(1)に記載の樹脂組成物。
【0012】
(5) 前記無機物質粉末が、炭酸カルシウム粉末を含む、(1)に記載の樹脂組成物。
【0013】
(6) 前記炭酸カルシウム粉末が、重質炭酸カルシウム粉末を含む、(5)に記載の樹脂組成物。
【0014】
(7) 前記重質炭酸カルシウム粉末が、JIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が0.7μm以上6.0μm以下の重質炭酸カルシウム粉末を含む、(6)に記載の樹脂組成物。
【0015】
(8) 熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを含む成形品であって、
前記成形品に対する前記無機物質粉末の含有量が、50質量%以上90質量%以下であり、
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂を含み、
前記無機物質粉末が、植物由来材料によって表面処理された、
成形品。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、無機物質粉末を高充填した樹脂組成物について、混練時のスクリューの摩耗を抑制出来る技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0018】
<樹脂組成物>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを含み、特に、無機物質粉末が植物由来材料によって表面処理されている点に主要な技術的特徴がある。
【0019】
本発明者らは、無機物質粉末を高充填した樹脂組成物について、その混練時にスクリューの摩耗を低減出来る技術を鋭意検討した。
その結果、植物由来材料によって表面処理された無機物質粉末を配合することで、スクリューの摩耗を顕著に抑制出来ることを見出した。このような効果は、意外にも、表面処理剤として従来知られる脂肪酸系表面処理剤(ステアリン酸等)を使用した場合には認められなかった。
【0020】
本発明の一実施形態において、「樹脂組成物の混練」とは、樹脂組成物を構成する成分を混合撹拌等することで、成分を均一に分散させる工程を包含する。
【0021】
本発明一実施形態において、「混練」は、スクリューを備える装置(成形装置等)によって行われる。混練は、通常、樹脂組成物に含まれる樹脂を溶融させて流体を形成するために、加熱下で行われる。
【0022】
本発明の一実施形態において、「スクリュー」とは、流体中で回転し、回転軸方向に流体の流れを生じさせる部品であっても良い。スクリューは、混練中、樹脂組成物に含まれる成分と直接接触する。
スクリューの形状や、材料は特に限定されず、樹脂組成物の混練において通常使用される任意のものを採用出来る。
【0023】
本発明の一実施形態において、「スクリューの摩耗が抑制されている」とは、スクリュー表面の摩耗痕が、植物由来材料によって表面処理されていない点以外は同様の無機物質粉末を使用した場合と比較して、スクリュー表面の摩耗痕が認められないか、少ないことを包含する。
スクリュー表面の摩耗痕の有無や、その程度は、スクリュー表面の顕微鏡観察や目視観察等によって特定出来る。
【0024】
混練時のスクリューの摩耗の有無や、その程度は、実施例に示した方法で評価し得る。
【0025】
本発明の一実施形態において、「成分Aからなる」とは、成分A以外の成分を実質的に含まないことを意味する。
【0026】
本発明の一実施形態において「成分Bを実質的に含まない」とは、成分Bの含有量が、その配合対象全体(例えば、樹脂組成物)に対して、0.1質量%未満である態様、より好ましくは0.01質量%以下である態様、更に好ましくは成分Bを全く含まない態様を包含する。
【0027】
以下、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の構成について詳述する。
【0028】
(1)熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂を含む点以外は特に限定されず、樹脂製品に通常配合され得る樹脂を採用出来る。熱可塑性樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0029】
(1-1)熱可塑性樹脂の種類
熱可塑性樹脂としては、少なくともポリオレフィン系樹脂を含み、好ましくは、ポリオレフィン系樹脂からなる。ポリオレフィン系樹脂を、後述する無機物質粉末と組み合わせることで、良好な抗菌性を実現出来る。
ポリオレフィン系樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂等が挙げられる。
【0030】
本発明の一実施形態において「ポリオレフィン系樹脂」とは、オレフィン成分単位を主成分とするポリオレフィン系樹脂を意味する。
「オレフィン成分単位を主成分とする」とは、オレフィン成分単位がポリオレフィン系樹脂中に50質量%以上(好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上)含まれることを意味する。
なお、本発明に使用されるポリオレフィン系樹脂の製造方法は特に限定されず、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系触媒、ラジカル開始剤(酸素、過酸化物等)等を用いる方法等の何れでも良い。
【0031】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂は、本発明の効果が奏され易く、更に、良好な外観等を実現し易いという観点から、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂を含むことが好ましく、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂からなることがより好ましい。
【0032】
(1-1-1)ポリプロピレン系樹脂
本発明におけるポリプロピレン系樹脂は、プロピレン成分単位が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、最も好ましくは80質量%以上の樹脂を包含する。
【0033】
ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレンホモポリマー(プロピレン単独重合体)、プロピレンと他のα-オレフィン(プロピレンと共重合可能なもの)との共重合体等が挙げられる。
「他のα-オレフィン」としては、例えば、炭素数4~10のα-オレフィン(エチレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、3-メチル-1-ヘキセン等)が挙げられる。
【0034】
プロピレン単独重合体としては、種々の立体規則性(アイソタクティック、シンジオタクティック、アタクチック、ヘミアイソタクチック等)を示す、直鎖状又は分枝状のポリプロピレン等が包含される。
【0035】
プロピレンの共重合体は、ポリプロピレンランダムコポリマー(ランダム共重合体)、ポリプロピレンブロックコポリマー(ブロック共重合体)、二元共重合体、三元共重合体等の何れであっても良い。具体的には、エチレン-プロピレンランダム共重合体、ブテン-1-プロピレンランダム共重合体、エチレン-ブテン-1-プロピレンランダム3元共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0036】
上記のポリプロピレン系樹脂のうち、ポリプロピレンブロックポリマーを含む樹脂が好ましく、ポリプロピレンブロックポリマーからなる樹脂がより好ましい。
【0037】
(1-1-2)ポリエチレン系樹脂
本発明におけるポリエチレン系樹脂は、エチレン成分単位が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、最も好ましくは80質量%以上の樹脂を包含する。
【0038】
ポリエチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン1共重合体、エチレン-ブテン1共重合体、エチレン-ヘキセン1共重合体、エチレン-4メチルペンテン1共重合体、エチレン-オクテン1共重合体等が挙げられる。
【0039】
ポリエチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンを含む樹脂が好ましく、高密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンからなる樹脂がより好ましい。
【0040】
高密度ポリエチレンは、JIS K 6922-1(ISO1133)によるMFR(190℃、21.6kg)が、5g/10分以上15g/10分以下であるものが好ましく、7g/10分以上13g/10分以下であるものがより好ましい。
【0041】
直鎖状低密度ポリエチレンは、JIS K 6922-1(ISO1133)によるMFR(190℃、2.16kg)が、0.5g/10分以上1.5g/10分以下であるものが好ましく、0.7g/10分以上1.3g/10分以下であるものがより好ましい。
【0042】
高密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンを含む樹脂において、両者の質量比(高密度ポリエチレン:直鎖状低密度ポリエチレン)は、好ましくは90:10~50:50、より好ましくは92:8~50:50、更に好ましくは94:6~50:50である。
【0043】
(1-2)熱可塑性樹脂の配合量
熱可塑性樹脂の含有量は、無機物質粉末の配合量等に応じて適宜設定出来る。
【0044】
熱可塑性樹脂の含有量は、成形性等の観点から、樹脂組成物に対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。
【0045】
熱可塑性樹脂の含有量は、充分な量の無機物質粉末を配合することが出来、良好な機械的特性等を奏し易いという観点から、樹脂組成物に対して、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
【0046】
(2)無機物質粉末
熱可塑性樹脂とともに、所定の割合で、植物由来材料によって表面処理された無機物質粉末を配合することで、無機物質粉末を高充填した樹脂組成物であっても、混練時のスクリューの摩耗を抑制出来る。
【0047】
(2-1)無機物質粉末の種類
無機物質粉末としては特に限定されず、通常の樹脂成形品等に含まれるものを採用出来る。無機物質粉末は、1種類の物質を単独で、又は2種類以上の物質を組み合わせて用いても良い。
ただし、本発明の好ましい態様は、本発明の効果が奏され易いという観点から、無機物質粉末として炭酸カルシウム粉末を含む態様を包含し、炭酸カルシウム粉末のみを含む態様を包含する。
【0048】
(2-1-1)炭酸カルシウム
炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウム、及び軽質炭酸カルシウムのうち、何れであっても良い。
「重質炭酸カルシウム」とは、CaCO3を主成分とする天然原料(石灰石等)を機械的に粉砕(乾式法、湿式法等)して得られる炭酸カルシウムである。
「軽質炭酸カルシウム」とは、合成法(化学的沈殿反応等)により調製された炭酸カルシウムである。
したがって、重質炭酸カルシウム、及び軽質炭酸カルシウムは互いに明確に区別される。
【0049】
重質炭酸カルシウム、及び軽質炭酸カルシウムの違いは、例えば、SEM画像の分析に基づき算出された真円度から特定出来る。
重質炭酸カルシウム粉末の真円度は、例えば、0.50以上0.95以下の範囲である。軽質炭酸カルシウム粉末の真円度は、例えば、ほぼ1.00である。
【0050】
本発明の一実施形態において「真円度」とは、下式で表される値であり、粒子の不定形性度合いの指標である。真円度が「1」(最大値)に近いほど真円に近いことを意味し、数値が低いほど不定形の度合いが高いことを意味する。
「真円度」=(粒子の投影面積)/(粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の面積)
【0051】
重質炭酸カルシウムは、その製法上、形状等が一定ではなく、低コストであるにもかかわらず、樹脂成形品に対して良好な機械的特性を安定的に付与し易い。
他方で、その形状等から、重質炭酸カルシウムは、混練時のスクリューの摩耗を生じ易い成分でもあった。しかし、本発明によれば、植物由来材料によって表面処理された重質炭酸カルシウムを用いることで、このような摩耗を良好に抑制出来る。
したがって、本発明の好ましい態様は、炭酸カルシウムが重質炭酸カルシウムを含む態様や、炭酸カルシウムが重質炭酸カルシウムからなる態様を包含する。
【0052】
(2-1-2)炭酸カルシウム以外の無機物質粉末
炭酸カルシウム以外の無機物質粉末としては、例えば、以下のものが挙げられる。
金属(マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等)の炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、又はホウ酸塩;
金属(カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等)の酸化物;
上記塩又は酸化物の水和物等。
【0053】
炭酸カルシウム以外の無機物質粉末としては、例えば、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、カーボンブラック、ゼオライト、モリブデン、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、黒鉛等が挙げられる。
【0054】
無機物質粉末は合成のものであっても良く、天然鉱物由来のものであっても良い。
【0055】
(2-2)無機物質粉末の表面処理
本発明における無機物質粉末は、その表面が、植物由来材料によって表面処理されている点に技術的特徴がある。
【0056】
本発明の一実施形態において、「無機物質粉末の表面が、植物由来材料によって表面処理されている」とは、無機物質粉末の表面が、植物由来材料に被覆されていることを包含する。
無機物質粉末の表面の全て(100%)又は一部が植物由来材料によって表面処理されている態様を包含する。
無機物質粉末の表面の一部が表面処理されている場合、無機物質粉末全体の表面積のうち、好ましくは50%、より好ましくは75%、更に好ましくは95%以上が表面処理されていても良い。
【0057】
本発明の一実施形態において、「植物由来材料」とは、その原料が任意の植物に由来し、かつ、無機物質粉末の表面を被覆した状態を維持出来る材料を包含する。
植物由来材料は、1種類の物質を単独で、又は2種類以上の物質を組み合わせて用いても良い。
【0058】
本発明の一実施形態において、植物由来材料は、好ましくは植物油である。
植物油としては、好ましくは、大豆油、とうもろこし油、紅花油、菜種油、ヤシ油、パーム核油、オリーブ油等が挙げられる。
これらの植物油のうち、本発明の効果が特に奏され易いという観点から、大豆油、とうもろこし油、及び紅花油からなる群から選択される1以上がより好ましい。
【0059】
無機物質粉末の表面処理方法としては、従来知られる方法を採用出来る。
例えば、無機物質粉末を植物由来材料に浸漬する方法、無機物質粉末に対して植物由来材料を噴霧する方法等が挙げられる。
【0060】
表面処理された無機物質粉末における表面処理層の厚さ(つまり、無機物質粉末の表面を被覆した植物由来材料の厚さ)は特に限定されないが、好ましくは0.1μm以上5μm以下、より好ましくは0.5μm以上2μm以下である。
表面処理層の厚さは均一であっても良く、不均一であっても良い。ただし、本発明の効果が安定的に奏され易いという観点から、表面処理層の厚さは均一であること(例えば、最も厚い箇所と最も薄い箇所の差が0.3μm以下であること)が好ましい。
【0061】
(2-3)無機物質粉末の平均粒子径等
無機物質粉末の平均粒子径は、得ようとする樹脂組成物の成形性等に応じて適宜設定出来る。
ただし、安定した分散性を実現し易く、樹脂成形品全体で均質な機械的特性を奏し易いという観点から、無機物質粉末における、JIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が、好ましくは0.7μm以上6.0μm以下、より好ましくは1.0μm以上5.5μm以下である。
無機物質粉末の平均粒子径は、無機物質粉末全体が上記の要件を満たしていれば良い。
【0062】
無機物質粉末の形状は、特に限定されず、粒子状(球形、不定形状等)、フレーク状、顆粒状、繊維状等の何れであっても良い。
【0063】
(2-4)無機物質粉末の配合量
植物由来材料によって表面処理された無機物質粉末の含有量は、樹脂組成物に対する無機物質粉末の含有量が、50質量%以上90質量%以下であれば特に限定されない。
植物由来材料によって表面処理された無機物質粉末の含有量が上記範囲を満たしていれば、表面処理されていない無機物質粉末や、植物由来材料以外によって表面処理された無機物質粉末が更に含まれる態様は排除されない。ただし、本発明の効果が奏され易いという観点から、本発明における無機物質粉末は、植物由来材料によって表面処理された無機物質粉末からなる。
【0064】
無機物質粉末の含有量の下限は、機械的特性を高め易いという観点から、樹脂組成物に対して、50質量%以上、好ましくは52質量%以上、より好ましくは54質量%以上、更に好ましくは56質量%以上である。
【0065】
無機物質粉末の含有量の上限は、成形性等の観点から、樹脂組成物に対して、90質量%以下、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。
【0066】
無機物質粉末における炭酸カルシウムの含有量は、良好な機械的特性を奏し易いという観点から、無機物質粉末全体に対して、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0067】
無機物質粉末に炭酸カルシウムが含まれているかどうかや、その含有量は、樹脂成形品を焼成し、その灰分分析によって特定出来る。
【0068】
(3)その他の成分
樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂以外のその他の成分を配合しても良く、配合しなくても良い。
【0069】
その他の成分としては、樹脂成形品に通常配合され得る任意の成分を採用出来る。
このような成分として、着色剤、潤滑剤、分散剤、静電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
これらの成分の種類や量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定出来る。
【0070】
本発明の好ましい態様における樹脂組成物は、熱可塑性樹脂、及び無機物質粉末のみからなるものを包含する。
【0071】
(4)熱可塑性樹脂と無機物質粉末との割合
樹脂組成物において、熱可塑性樹脂と、無機物質粉末との質量比(熱可塑性樹脂:無機物質粉末)は、好ましくは50:50~15:85、より好ましくは45:55~15:85、更に好ましくは40:60~20:80である。
このように、熱可塑性樹脂に対する無機物質粉末の比率を同等以上とすることで、無機物質粉末による機械的特性の向上効果を奏し易くなる。
【0072】
<樹脂組成物の製造方法>
樹脂組成物の製造方法としては、樹脂組成物の形態や用途等に応じて、従来知られる方法や条件を採用出来る。
【0073】
樹脂組成物は、例えば、構成成分を、スクリューを備える装置を用いて、混合、溶融混練等することで得られる。
樹脂組成物を製造するための機械は、スクリューを備える装置である限り、樹脂組成物の形態や用途等に応じて選択出来、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、混練機(二軸混練機等)が挙げられる。
【0074】
スクリューの素材や形状等は、樹脂の混練等に通常採用される任意のものであり得る。
例えば、スクリューの素材として、アルミニウムクロムモリブデン鋼材、ステンレス鋼材等が挙げられる。
【0075】
樹脂組成物の形態は特に限定されず、所望の樹脂成形品(シート、容器等)へ成形可能な任意の形態を採用出来る。
【0076】
<樹脂成形品>
本発明は、下記樹脂成形品も包含する。
熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを含む成形品であって、
成形品に対する無機物質粉末の含有量が、50質量%以上90質量%以下であり、
熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂を含み、
無機物質粉末が、植物由来材料によって表面処理された、
成形品。
【0077】
本発明の成形品を構成する各成分等の詳細は、本発明の樹脂組成物におけるものと同様であり得る。
【0078】
本発明の成形品は、例えば、本発明の樹脂組成物を、成形品の種類に応じた方法で成形することで得られる。
【0079】
本発明の成形品を得るための成形方法としては、射出成形、押出成形、インフレーション成形、真空成形、ブロー成形、カレンダー成形、圧空成形、マッチモールド成形、プレス成形等が挙げられる。
したがって、本発明の成形品は、射出成形品、押出成形品、インフレーション成形品、真空成形品、ブロー成形品、カレンダー成形品、圧空成形品、マッチモールド成形品、プレス成形品の何れかである態様を包含する。
【実施例】
【0080】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
<樹脂組成物の作製及び評価>
以下の方法で樹脂組成物を作製する過程において、混練時のスクリューの摩耗の有無や程度を評価した。
【0082】
(1)材料の準備
各層の材料を以下の通り準備した。
【0083】
(1-1)無機物質粉末
無機物質粉末として、炭酸カルシウム粒子(重質炭酸カルシウム粒子)を使用した。該炭酸カルシウム粒子における、JIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径は、2.5μmに設定した。
また、無機物質粉末の表面全体を、以下の何れかの表面処理剤で、厚さ約1μmとなるように均一に被覆した。
・植物由来材料からなる表面処理剤:大豆油、とうもろこし油、紅花油、又は菜種油
・脂肪酸系表面処理剤:ステアリン酸
あわせて、表面処理剤で処理していない無機物質粉末(未処理)も準備した。
【0084】
(1-2)熱可塑性樹脂
以下の何れかの熱可塑性樹脂(何れも、ポリオレフィン系樹脂に相当する。)を使用した。
ポリプロピレン系樹脂(PP):ポリプロピレンブロックコポリマー(融点160℃)
ポリエチレン系樹脂(PE):HDPE及びLLDPEのブレンド(HDPE:LLDPE(質量比)=70:30)
なお、上記HDPEにおける、JIS K 6922-1(ISO1133)によるMFR(190℃、21.6kg)は、7.5g/10分である。
上記LLDPEにおける、JIS K 6922-1(ISO1133)によるMFR(190℃、2.16kg)は、0.8g/10分である。
【0085】
(2)樹脂組成物及び成形品の作製
表1及び2に示す割合で熱可塑性樹脂(PP又はPE)、及び無機物質粉末を溶融混練した後、ペレット状の樹脂組成物を作製した。
樹脂組成物の作製には、スクリューを備える小型二軸押出機(スクリュー径=ψ25mm,L/D=41)を使用した。スクリューは、sacm645(アルミニウムクロムモリブデン鋼材)製のものを使用した。
混練の条件は、スクリュー回転数50rpm、200℃、20分間、樹脂組成物の吐出量800gに設定し、この条件で合計20回の混練を行った(つまり、各樹脂組成物について合計400分間ずつの運転を行った。)。次いで、押出成形を行い、樹脂組成物から成形品を作製した。
スクリューは、各樹脂組成物の混練完了ごとに、未使用のスクリューに交換した。
【0086】
(3)スクリューの摩耗評価
成形品の作製後、小型二軸押出機からスクリューを外して洗浄及び乾燥し、その表面の摩耗痕の有無や程度を以下の基準で目視評価した。その結果を表1及び2に示す。
A:スクリュー表面に摩耗痕が全く認められなかった。
B:スクリュー表面に摩耗痕がわずかに認められた。
C:スクリュー表面に摩耗痕が明確に認められた。
【0087】
【0088】
【0089】
表に示される通り、植物由来材料によって表面処理された無機物質粉末を使用すると、スクリューの摩耗が良好に抑制されていた。
本例では無機物質粉末として重質炭酸カルシウム粉末を使用したが、その他の無機物質粉末(タルク等)を使用した場合であっても、同様の傾向が認められた。
【0090】
植物由来材料について、大豆油、とうもろこし油、及び紅花油のうち何れかを使用すると、スクリューの摩耗の抑制効果が安定的に得られる傾向にあった。
【0091】
これに対し、ステアリン酸によって表面処理された無機物質粉末を使用すると、溶融混練時の分散性は良好であったものの、スクリューの摩耗の抑制効果は確認出来なかった。
【0092】
本例では、無機物質粉末の平均粒子径を2.5μmに設定したが、より高い値の平均粒子径(つまり、スクリューの摩耗がより生じ易い無機物質粉末)であっても、スクリューの摩耗の抑制効果が本例と同様の傾向で認められた。
【要約】
【課題】本発明の課題は、無機物質粉末を高充填した樹脂組成物について、混練時のスクリューの摩耗を抑制出来る技術を提供することである。
【解決手段】本発明は、熱可塑性樹脂と、所定の要件を満たす無機物質粉末とを含む樹脂組成物を提供する。
【選択図】なし