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特許7468959ダイヤモンド薄膜の厚さ及び光学定数の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ダイヤモンド薄膜の厚さ及び光学定数の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/21 20060101AFI20240409BHJP
   G01B 11/06 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
G01N21/21 Z
G01B11/06 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023524482
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-02
(86)【国際出願番号】 CN2021103742
(87)【国際公開番号】W WO2022105244
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】202011296380.X
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521319258
【氏名又は名称】華僑大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】崔 長彩
(72)【発明者】
【氏名】李 子清
(72)【発明者】
【氏名】陸 静
(72)【発明者】
【氏名】胡 中偉
(72)【発明者】
【氏名】徐 西鵬
(72)【発明者】
【氏名】黄 輝
(72)【発明者】
【氏名】黄 国欽
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112361972(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106706521(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109752321(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107462530(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103575663(CN,A)
【文献】Ziqing LI et al.,“Characterization of amorphous carbon films from 5 nm to 200 nm on single-side polished a-plane sapphire substrates by spectroscopic ellipsometry”,Frontiers in Physics,2022年10月03日,Vol. 10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
G01N 21/84-G01N 21/958
G01N 23/00-G01N 23/2276
G01B 11/00-G01B 11/30
H01L 21/64-H01L 21/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド薄膜の膜厚及び光学定数の検出方法であって、
ダイヤモンド薄膜を基板上に堆積するステップS1と、
ダイヤモンド薄膜の楕円偏光スペクトルデータ及び吸収スペクトルデータを測定するステップS2と、
測定されたダイヤモンド薄膜の楕円偏光スペクトルデータ及び吸収スペクトルデータに基づいて、ダイヤモンド薄膜が単結晶ダイヤモンド薄膜又は多結晶ダイヤモンド薄膜であるかを判断し、単結晶ダイヤモンド薄膜である場合はステップS41を実行し、多結晶ダイヤモンド薄膜である場合はステップS42を実行するステップS3と、
Cauchyモデルを用いて、全波長帯域の薄膜光学定数及び膜厚dを計算し、該薄膜光学定数は少なくとも屈折率のnと消衰係数のkを含むステップS41と、
多結晶ダイヤモンド薄膜から透明域のセグメントを選択し、Cauchyモデルを用いて該波長帯域の範囲の薄膜光学定数及び膜厚を計算するステップS42と、
多結晶ダイヤモンド薄膜の吸収スペクトルデータに誘電率振動子モデルを加え、楕円偏光スペクトルデータに基づいて、少なくとも振動子の振幅及び薄膜の幅を調整するステップS5と、
ダイヤモンド薄膜の光学定数n、k及び膜厚dを決定するように、評価関数MSEを用いて実験値とフィッティング値との間の差を評価するステップS6と、を含み、
前記S5において、前記誘電率振動子モデルはLorentz振動子であり、前記Lorentz振動子の計算式は以下に示し、そのうち、Aがモデルパラメータの振幅であり、E がモデルパラメータの中心位置であり、B がモデルパラメータの半波長幅であることを特徴とする検出方法。
【請求項2】
前記S3において、吸収の差異に基づいてダイヤモンド薄膜が単結晶ダイヤモンド薄膜又は多結晶ダイヤモンド薄膜であるかを判断することを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド薄膜の厚さ及び光学定数の検出方法。
【請求項3】
前記S42において、Cauchyモデルの計算式は以下に示し、A、B及びCがCauchyモデルのパラメータであり、λが波長であり、消衰係数kがA、B及びEの3つのパラメータによって記述され、E=1240/λ、Eが基板材料と関連することを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド薄膜の厚さ及び光学定数の検出方法。
【請求項4】
前記S6において、前記評価関数MSEの計算式は以下に示し、そのうち、modがフィッティング値、expが測定値、δが測定誤差、Nが同時にエリプソメータで測定されたψ、Δの総対数、Mが選択されたフィッティングパラメータの対数であることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド薄膜の厚さ及び光学定数の検出方法。
【請求項5】
前記S1中の基板は、Si、Al又はダイヤモンド基板であることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド薄膜の厚さ及び光学定数の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的測定の技術分野に関し、特に、ダイヤモンド薄膜の厚さ及び光学定数の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の光学薄膜の超広帯域光学定数試験方法として、例えばCN06706521Aは以下の内容を開示している、S1:まず、所定の厚さの光学薄膜をシリコン基板上に堆積する。S2:堆積された光学薄膜の紫外から近赤外波長帯域の楕円偏光スペクトル、及び赤外波長帯域の透過スペクトルを測定する。S3:光学薄膜のスペクトルデータに基づいて、薄膜の透過領域を一段選択し、Cauchyモデルを用いて、その波長帯域における薄膜の屈折率n及び厚さd1を計算する。S4:紫外から赤外波長帯域の光学定数のスペクトル範囲の光学定数モデルを構築し、吸収スペクトル領域に誘電率振動子モデルを追加し、振動子の中心周波数が吸収の位置であり、振動子の振幅及び幅がスペクトルデータに基づいて調整される。S5:紫外から近赤外波長帯域の楕円偏光スペクトル及び赤外波長帯域の透過スペクトルを複合目標として、薄膜の光学定数の紫外から赤外までの全スペクトル範囲における逆算を行い、厚さの初期値をd1に設定し、測定値と理論モデル計算値との間の平均二乗差である評価関数MSEを設定し、MSEを小さいほどよいようにフィッティングさせる。S6:MSEフィッティングの結果に基づき、誘電率モデルの各パラメータを求め、さらに屈折率n、消衰係数k、膜物理膜厚dを含む紫外~赤外の超広帯域スペクトル領域における薄膜の光学定数が得られる。しかし、上記の試験方法は、単結晶ダイヤモンド薄膜または多結晶ダイヤモンド薄膜であるかを区別できず、得られたパラメータの正確さが不十分である一方、消衰係数を計算することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、背景技術の光学薄膜の超広帯域光学定数試験方法の欠点を克服したダイヤモンド薄膜の厚さ及び光学定数の検出方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の技術的課題を解決するために採用した技術的手段は、ダイヤモンド薄膜の厚さ及び光学定数の検出方法であって、
ダイヤモンド薄膜を基板上に堆積するステップS1と、
ダイヤモンド薄膜の楕円偏光スペクトルデータ及び吸収スペクトルデータを測定するステップS2と、
測定されたダイヤモンド薄膜の楕円偏光スペクトルデータ及び吸収スペクトルデータに基づいて、ダイヤモンド薄膜が単結晶ダイヤモンド薄膜又は多結晶ダイヤモンド薄膜であるかを判断し、単結晶ダイヤモンド薄膜である場合はステップS41を実行し、多結晶ダイヤモンド薄膜である場合はステップS42を実行するステップS3と、
Cauchyモデルを用いて、全波長帯域の薄膜光学定数及び膜厚dを計算し、該薄膜光学定数は少なくとも屈折率のnと消衰係数のkを含むステップS41と、
多結晶ダイヤモンド薄膜から透明域のセグメントを選択し、Cauchyモデルを用いて該波長帯域の範囲の薄膜光学定数及び膜厚を計算するステップS42と、
多結晶ダイヤモンド薄膜の吸収スペクトルデータに誘電率振動子モデルを加え、楕円偏光スペクトルデータに基づいて、少なくとも振動子の振幅及び薄膜の幅を調整するステップS5と、
ダイヤモンド薄膜の光学定数n、k及び膜厚dを決定するように、評価関数MSEを用いて実験値とフィッティング値との間の差を評価するステップS6と、を含んでいる。
【0005】
一実施例において、前記S3において、吸収の差異に基づいてダイヤモンド薄膜が単結晶ダイヤモンド薄膜又は多結晶ダイヤモンド薄膜であるかを判断する。
【0006】
一実施例において、前記S42において、Cauchyモデルの計算式は以下に示し、A、B及びCがCauchyモデルのパラメータであり、λが波長であり、消衰係数kがA、B及びEの3つのパラメータによって記述され、Eb=1240/λ、Eが基板材料と関連する。
【0007】
一実施例において、前記S5において、前記誘電率振動子モデルはLorentz振動子であり、前記Lorentz振動子の計算式は以下に示し、そのうち、Aがモデルパラメータの振幅であり、Eがモデルパラメータの中心位置であり、Bがモデルパラメータの半波長幅である。
【0008】
一実施例において、前記S6において、前記評価関数MSEの計算式は以下に示し、そのうち、modがフィッティング値、expが測定値、δが測定誤差、Nが同時にエリプソメータで測定されたψ、Δの総対数、Mが選択されたフィッティングパラメータの対数である。
【0009】
一実施例において、該S1における基板は、Si、Al又はダイヤモンド基板である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の解決策は、背景技術と比較して以下の利点を有する。
【0011】
まず楕円偏光スペクトルデータ及び吸収スペクトルデータに基づいて、ダイヤモンド薄膜が単結晶ダイヤモンド薄膜又は多結晶ダイヤモンド薄膜であるかを判断し、さらにスペクトルデータに基づいてそれぞれ異なる計算方式を選択して、光学定数及び薄膜の厚さを計算する。これにより、屈折率及び薄膜の厚さだけでなく、消衰係数も計算できる一方、単結晶ダイヤモンド薄膜の場合、Cauchyモデルを用いて光学定数及び薄膜の厚さを計算し、多結晶ダイヤモンド薄膜の場合、波長帯域を選定して、振動子モデル及び評価関数MSEに基づいて光学定数及び薄膜の厚さを計算する。従って、単結晶及び多結晶ダイヤモンド薄膜の光学定数の屈折率、消衰係数及び厚さを検出することができ、検出精度が高く、測定時間が短い。
【0012】
Cauchyモデルの計算式は以下に示す。
【0013】
Lorentz振動子の計算式は以下に示す。
【0014】
価関数MSEの計算式は以下に示す。
検出精度が高い。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のダイヤモンド薄膜の厚さ及び光学定数の測定方法は以下のステップを含んでいる。
【0016】
S1:Si、Al、またはダイヤモンド基板などの基板上にダイヤモンド薄膜を堆積させるが、基板はこれらに限定されず、必要に応じて他の基板を選択することもできる。
S2:例えばエリプソメータ測定によって、ダイヤモンド薄膜の楕円偏光スペクトルデータ及び吸収スペクトルデータを測定する。
【0017】
S3:測定により得られた楕円偏光スペクトルデータ及び吸収スペクトルデータに基づいて、ダイヤモンド薄膜が単結晶ダイヤモンド薄膜又は多結晶ダイヤモンド薄膜であるかを判断し、単結晶ダイヤモンド薄膜であればS41を実行し、多結晶ダイヤモンド薄膜であればS42を実行する。吸収の違いに基づいてダイヤモンド薄膜が単結晶ダイヤモンド薄膜又は多結晶ダイヤモンド薄膜であるかを判断するのは、具体的には吸収係数kの変化に基づいて、吸収kが0でない場合、単結晶ダイヤモンド薄膜であると判断し、吸収kが曲線である場合、多結晶ダイヤモンド薄膜であると判断する。
【0018】
S41:Cauchyモデルを用いて、全波長帯域における薄膜光学定数および薄膜の厚さdを計算し、該薄膜光学定数は少なくとも屈折率のnと消衰係数のkを含む。
【0019】
S42:Cauchyモデル(コーシー・モデル)を用いて、多結晶ダイヤモンド薄膜から選定された透明域のセグメントの光学定数および膜厚を計算する。
【0020】
Cauchyモデルの計算式は、以下に示す。
【0021】
、B、およびCはCauchyモデルのパラメータであり、λは波長であり、消衰係数kはA、B、およびEの3つのパラメータによって記述され、E=1240/λ、Eは基板材料と関連している。
【0022】
S5:多結晶ダイヤモンド薄膜の吸収スペクトルデータに誘電率振動子モデルを加え、楕円偏光スペクトルデータに基づいて少なくとも振動子の振幅と薄膜の幅を調整する。
【0023】
この誘電率振動子モデルはLorentz振動子であり、このLorentz振動子の計算式は以下に示す。
【0024】
そのうち、Aはモデルパラメータの振幅であり、Eはモデルパラメータの中心位置であり、Bはモデルパラメータの半波長幅である。
【0025】
S6:ダイヤモンド薄膜の薄膜光学定数n、k及び薄膜厚さdを決定するように、評価関数MSEを用い実験値とフィッティング値との間の差を評価して、MSEが小さいほど、フィッティング効果がよい。
【0026】
評価関数MSEの計算式は以下に示す。
【0027】
そのうち、modはフィッティング値、expは測定値、δは測定誤差、Nはエリプソメータで同時に測定されたψ、Δの総対数、Mは選択されたフィッティングパラメータの対数である。
【0028】
以上の説明は、本発明の好ましい実施例に過ぎず、従って、本発明の実施範囲をこれらによって限定することはできず、即ち、本発明の特許請求の範囲及び明細書の内容に基づいた等価な変更及び修飾は、いずれも本発明の包括的な範囲内に含まれるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、ダイヤモンド薄膜の厚さ及び光学定数の検出方法を開示し、まず楕円偏光スペクトルデータ及び吸収スペクトルデータに基づいて、ダイヤモンド薄膜が単結晶ダイヤモンド薄膜又は多結晶ダイヤモンド薄膜であるかを判断し、さらにスペクトルデータに基づいてそれぞれ異なる計算方式を選択して、光学定数及び薄膜の厚さを計算する。これにより、屈折率及び薄膜の厚さだけでなく、消衰係数も計算できる一方、単結晶ダイヤモンド薄膜の場合、Cauchyモデルを用いて光学定数及び薄膜の厚さを計算し、多結晶ダイヤモンド薄膜の場合、波長帯域を選択して、振動子モデル及び評価関数MSEに基づいて光学定数及び薄膜の厚さを計算する。従って、単結晶及び多結晶ダイヤモンド薄膜の光学定数の屈折率、消衰係数及び厚さを検出することができ、検出精度が高く、測定時間が短く、産業上の実用性を有する。