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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】加飾フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20240409BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20240409BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20240409BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20240409BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240409BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240409BHJP
   C09J 7/20 20180101ALI20240409BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20240409BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B7/022
B32B7/06
B32B7/12
B32B27/00 M
B32B27/20 A
B32B27/30 A
B32B27/30 101
C09J7/20
C09J7/38
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019104502
(22)【出願日】2019-06-04
(65)【公開番号】P2020196213
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】390023009
【氏名又は名称】共和レザー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】笹瀬 忠久
(72)【発明者】
【氏名】松本 晴貴
(72)【発明者】
【氏名】石津 治之
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-052146(JP,A)
【文献】特開2010-077287(JP,A)
【文献】国際公開第2011/111575(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/204248(WO,A1)
【文献】特開2009-166960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09J 1/00-5/10、7/00-7/50、
9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂を含み、23℃で測定した弾性率が2.0×10Pa~5.0×10Paの範囲であり、厚みが30μm~100μmの粘着層と、
前記粘着層の一方の面に設けられ、ポリ塩化ビニルを含み、25℃で測定した100%モジュラスが8MPa~30MPaであり、厚みが50μm~150μmの平滑保持層と、
前記平滑保持層の前記粘着層側とは反対側の面に設けられ、着色剤と熱可塑性樹脂とを含む着色層と、を備え、
電着塗装により形成された下塗り層を有する基材の前記下塗り層上に、直接貼付して適用する加飾フィルム。
【請求項2】
前記粘着層の、前記平滑保持層側とは反対側の面にセパレータを備える請求項1に記載の加飾フィルム。
【請求項3】
前記平滑保持層と、前記着色層との間に、さらに、接着層を有する請求項1又は請求項2に記載の加飾フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加飾フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、鉄道車輌、航空機などの外装、家庭電化製品、家具などは、種々の色相の外観を呈する。これら成形体の着色は、通常、塗装で仕上げられることが多い。塗装は、塗装対象物に液状塗料を吹き付けたり、対象物を液状塗料に浸漬したりして行なわれ、その後、塗料を乾燥して仕上げられる。
塗装による着色は、自動車の車体(ボディ)の外装を例に挙げれば、さび止めの下塗り電着塗装を行い、乾燥後に、傷防止及び発色向上のための中塗りを行い、中塗り塗料の乾燥後に、着色剤を含む上塗りを行ない、乾燥して仕上げられることが一般的である。このように、通常は、3回にわたって液状塗料を噴霧又は浸漬して着色がなされている。
【0003】
上記のように、塗装工程では液状塗料を加熱炉に入れ乾燥をさせる乾燥工程が必要であり、大量の熱エネルギーを必要とし、COの発生の要因ともなっている。また、噴霧、浸漬のいずれの塗装方法においても、必要な着色塗膜の形成量にたいして、過剰の量の塗料を必要とし、残塗料の処理も問題となっている。
また、電着塗装後の中塗り、上塗りの前には、塗装表面のゴミ、噴霧ムラ等を取り除いて下地、即ち、塗装面を平滑にする必要があった。ゴミ、噴霧ムラ等を取り除く作業を行なわないと、塗装面に残存したゴミ、塗装ムラ等の凹凸が、その上に塗った塗装膜に吸収されることなく塗装後の表面に表れて外観を著しく損なう。これは、一度に塗装できる塗料の量に限りがあり、ゴミ、塗装ムラ等の凹凸を吸収しうる塗料の塗膜が形成できないためと考えられる。
【0004】
中塗り及び上塗り前の塗装面の異物を除去して、仕上げ塗装面のゴミブツ不良を低減する塗装方法として、電着塗装処理を施した後、電着乾燥処理を施す前に、自動車ボディの外板に形成された未乾燥の電着塗膜の表面の一部または全部に対し、柔軟性を有する繊維質の払拭材を押し付け、未乾燥の電着塗膜の表面を払拭する払拭工程を有する自動車ボディの塗装方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
一方、液状塗料の塗装を必要としない加飾成形体の製造方法として、自動車のボディ、自動車の外装部品等の屋外用の成形物に適用される、熱可塑性樹脂層、未硬化の紫外線硬化型ハードコート層、及び離型性フィルム層が積層した加飾フィルムを用いる方法が提案されている(特許文献2参照)。上記加飾フィルムを、射出成形用の金型の凸型に、加飾フィルムの熱可塑性樹脂層が射出成形樹脂に接するように配置し、凸型と加飾フィルムとの間の間隙に溶融樹脂を圧入して成形体とした後、紫外線を照射してハードコート層を硬化させ、次いで離型性フィルムを剥離することにより表面に加飾フィルム層が形成された成形物の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-221408号公報
【文献】特許第4627099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既述のように、特許文献1に記載の方法では、中塗り前の異物除去は効率的に行なわれるが、各工程後に行なわれる乾燥工程はなお必要である。従って、液状塗料の塗装工程における工程の煩雑さ、乾燥工程におけるエネルギーの問題点等はなお存在し、乾燥工程におけるエネルギー消費、及び、過剰な液状塗料の処理などの問題点が解決し得ない。
また、特許文献2に記載の方法では、未硬化のハードコート層を有する加飾フィルムを有する樹脂成形体を得た後、紫外線を照射して硬化させることが必要であり、工程が煩雑である。さらに、樹脂成形体に適用することは容易であるが、自動車のボディなど、予め成形された基材の表面に適用する場合には、十分な密着性を得ることが困難であり、塗装の代替として使用するには至っていない。
【0008】
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、簡易な工程で施工性よく、液状塗料による塗装工程と同等の良好な平滑性及びツヤを有する外観を与えることができる加飾フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を解決する手段は以下の実施形態を含む。
<1> 23℃で測定した弾性率が2.0×10Paから5.0×10Paの範囲であり、厚みが30μm~100μmの粘着層と、前記粘着層の一方の面に設けられ、25℃で測定した100%モジュラスが8MPa~30MPaであり、厚みが50μm~150μmの平滑保持層と、前記平滑保持層の前記粘着層側とは反対側の面に設けられ、着色剤と熱可塑性樹脂とを含む着色層と、を備える加飾フィルム。
【0010】
<2> 前記粘着層は、アクリル樹脂、ポリウレタン、シリコーン樹脂、天然ゴム及び合成ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む<1>に記載の加飾フィルム。
<3> 前記平滑保持層は、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニル樹脂、及びポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種を含む<1>又は<2>に記載の加飾フィルム。
【0011】
<4> 前記粘着層の、前記平滑保持層側とは反対側の面にセパレータを備える<1>~<3>のいずれか1つに記載の加飾フィルム。
<5> 前記平滑保持層と、前記着色層との間に、さらに、接着層を有する<1>~<4>のいずれか1つに記載の加飾フィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、簡易な工程で施工性よく、液状塗料による塗装工程と同等の良好な平滑性及びツヤを有する外観を与えることができる加飾フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の加飾フィルムの一態様である加飾フィルムの層構成の概略を示す断面図である。
図2】さらに、セパレータを備える加飾フィルムの一実施形態を示す概略断面図である。
図3】さらに、表皮層、及び接着層を有する加飾フィルムの一実施形態を示す概略断面図である。
図4】表面に凹凸模様を有する表皮層、及び接着層を備える加飾フィルムの一実施形態を示す概略断面図である。
図5】粘着層、平滑保持層、接着層、着色層及び表皮層をこの順に備えた加飾フィルムの一実施形態を、電着塗装層を有する基材に貼付した状態の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示において「~」を用いて記載した数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を表す。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0015】
自動車のボディ塗装等、基材には下塗りとしての電着塗装が施される。一般的な塗装工程では、電着塗装後に、塗膜面のゴミ、ブツと称される異物等を取り除く払拭処理などの前処理が行なわれる。
本発明者らの検討によれば、塗装工程或いは本開示の加飾フィルムの貼着工程後に、外観に影響を与えるゴミ、ブツ(以下、単に「異物」と称することがある)の大きさは、約30μmであり、30μm未満のものは、外観に大きな影響を与え難い。このため、本開示では、電着塗装面などの基材表面における問題となる異物を30μm以上の異物と定める。
本開示の課題の一つとして、液状塗料による塗装工程と同等の良好な平滑性及びツヤを有する外観を与えることが挙げられるが、本開示の加飾フィルムによれば、30μm以上の異物を有する場合においても、着色層などの外観に影響を与えず、液状塗料による塗装工程と同等の良好な平滑性及びツヤを有する外観を与えることができる。
【0016】
<加飾フィルム>
本開示の加飾フィルムは、23℃で測定した弾性率が2.0×10Paから5.0×10Paの範囲であり、厚みが30μm~100μmの粘着層と、前記粘着層の一方の面に設けられ、25℃で測定した100%モジュラスが8MPa~30MPaであり、厚みが50μm~150μmの平滑保持層と、前記平滑保持層の前記粘着層側とは反対側の面に設けられ、着色剤と熱可塑性樹脂とを含む着色層と、を備える。
【0017】
本開示の作用は明確ではないが、以下のように考えている。
本開示の加飾フィルムでは、加飾を施す基材に接触する側に粘着層を有する。粘着層の23℃で測定した弾性率が2.0×10Paから5.0×10Paの範囲であること、及び厚みが30μm~100μmの範囲であることで、電着塗装などを施した基材の表面において、ブツ、凹凸等が存在する場合でも、従来の如き表面を平滑化する前処理を行なわなくても、粘着層が基材表面の凹凸に追従して形状を吸収し、且つ、適度な弾性を有することで基材との密着性が良好となる。さらに、粘着層の面上に位置する平滑保持層の25℃で測定した100%モジュラスが8MPa~30MPaであることで、加飾フィルムは適度な柔軟性と層形状の保持性を有するため、粘着層が吸収しきれなかった凹凸が残る場合でも、凹凸を吸収し、凹凸が着色層の外観へ影響を与えることを効果的に抑制しうる。
従って、加飾に適する着色層の選択の自由度が大きく、本開示の加飾フィルムを使用することで、任意の色相を有する表面が基材上に形成される。さらに、本開示の加飾フィルムを用いる施工は、塗装工程により加色する場合に比較して、ブツ、凹凸の除去等の前処理工程、乾燥工程などが必要ではないために、簡易な方法により、塗装による外観と同等の外観を基材上に与えることができると考えている。
【0018】
本開示の加飾フィルムについて、図を参照して説明する。
図1は、本開示の一態様の加飾フィルム10の層構成の概略を示す断面図である。
図1の加飾フィルム10は、加飾を施す基材(図示せず)側から、粘着層12と、平滑保持層14と、着色層16とを備える積層構造を有する。
図1における着色層16には特に制限はなく、任意の色相を選択することができる。
本開示の加飾フィルムは、図2示す加飾フィルム11のように、粘着層12の粘着面を、基材に貼付するまで保護するセパレータ18を有することが好ましい。
図2に示す加飾フィルム11の例では、粘着層12の加飾を施す基材(図示せず)側に、粘着層12を保護するセパレータ18を有し、加飾フィルムを基材に貼付する際には、セパレータ18を剥離して、粘着層12の露出した面を基材に貼付して用いる。
図1及び図2のいずれの態様においても、加飾フィルム10、11の着色層16が、基材の外観を特徴付ける。
以下、本開示の加飾フィルムが備える各層について説明する。
【0019】
〔粘着層〕
本開示の加飾フィルムは、23℃で測定した弾性率が2.0×10Pa~5.0×10Paの範囲であり、厚みが30μm~100μmの粘着層を備える。
粘着層の厚み範囲は、30μm~100μmであり、好ましくは50μm~70μmである。粘着層の厚みが30μm以上であることで、基材表面において問題となる凹凸、ブツ等を効果的に隠蔽することができる。また、粘着層は100μm以下であることで、加飾フィルムの柔軟性が良好となる。なお、粘着層の厚みは、100μmを超えてもよいが、異物の隠蔽性が厚みに対応して向上することはなく、却って、フィルムの柔軟性が低下したり、材料コストがかさんだりするため好ましくない。
粘着層の厚みは、加飾フィルムを面方向から切断した断面を走査型電子顕微鏡で観察し、5箇所を測定した平均値で表す。
【0020】
粘着層の物性としては、異物の凹凸に追従し、その凹凸形状を吸収し、平滑に補正する役割を果たす観点から、弾性率(23℃)が、2.0×10Pa~5.0×10Paの範囲の値を持つものを選択する。弾性率(23℃)は、2.5×10Pa~4.0×10Paの範囲の値を持つものが好ましい。
弾性率が2.0×10Pa以上であることで、初期のタック(べたつき)が適切な範囲となり、貼り位置を修正したい場合にも、容易に剥がすことができる。また、弾性率が5.0×10Pa以下である場合は、異物及び塗布ムラに起因する凹凸形状に追従し易くなり、粘着層表面に、異物等に起因する凹凸の痕跡を反映し難くなる。
【0021】
粘着層の弾性率は、以下の方法で測定される。
測定機種:株式会社ユービーエム製「DVE-4」
測定法:動的粘弾性測定
温度範囲(℃):-100~200
昇温速度(℃/min):2
測定間隔(℃):1
周波数(Hz):10
測定治具:引っ張り
試料形状(mm):幅5、厚み0.1、長さ20
【0022】
上記好ましい弾性率を達成し易いという観点から、粘着層は、アクリル樹脂、ポリウレタン、シリコーン樹脂、天然ゴム及び合成ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、なかでも、透明性、及び熱圧着性が良好であることから、アクリル樹脂、及びポリウレタンから選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0023】
アクリル樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表されるメタクリル酸又はメタクリル酸エステルの重合体或いは共重合体、メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルとスチレンの共重合体等が挙げられ、成形性の観点からは、メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルとスチレンの共重合体及びメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合体の混合物等が挙げられる。
【0024】
ポリウレタンとしては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物が挙げられる。なかでも、長期耐久性が良好であるという観点からポリカーボネート系ポリウレタン等が好ましく挙げられる。
【0025】
粘着層の形成には、市販の樹脂、ゴムなどを用いてもよい。市販品としては、三菱ケミカル(株)のポリメチルメタクリレート樹脂(アクリル樹脂)であるアクリプレン(登録商標)、信越化学工業(株)製のシリコーン粘着剤などが挙げられる。
【0026】
粘着層は、接着層の主成分となる樹脂、ゴムなどの材料を1種のみ含んでもよく、目的に応じて2種以上含んでいてもよい。
なお、主成分とは、層を構成する成分のうち、50質量%以上の成分を意味する。
2種以上を含む場合には、互いに相溶性の高い材料同士を組み合わせることが好ましい
粘着層を有することで、下地における凹凸を吸収することができる。
【0027】
〔平滑保持層〕
本開示の加飾フィルムは、25℃で測定した100%モジュラスが8MPa~30MPaであり、厚みが50μm~150μmの平滑保持層を備える。平滑保持層は、既述の粘着層の一方の面に設けられる。
平滑保持層の厚みの範囲は、50μm~150μmであり、好ましくは、70μm~100μmの範囲である。平滑保持層の厚みが、50μm以上であることで、既述の粘着層が吸収しきれなかった凹凸が粘着層表面に残る場合においても、平滑保持層の表面の平滑性を保持することができ、平滑保持層の、粘着層とは反対側の面に、電着塗装などの下地の凹凸の痕跡が反映されるのを抑制できる。
また、平滑保持層の厚みが150μm以下であることで、加飾フィルムを基材に貼り合せる際における良好な柔軟性が維持できる。
平滑保持層の厚みは、既述の粘着層の厚みと同様にして測定することができる。
【0028】
平滑保持層に適する硬度の範囲は、常温(25℃)における100%モジュラスが8MPa~30MPaであり、好ましくは、10MPa~20MPaの範囲である。
平滑保持層の硬度が8MPa以上であることで、層の形状保持性と、異物の凹凸吸収性が共に良好となる。また、平滑保持層の硬度が30MPa以下であることで、加飾フィルムの基材への施工に好適な柔軟性が維持される。
平滑保持層の硬度は、JIS K7161(2014年)に規定される引張試験において、サンプルにつけた標線が2倍の長さになった時の応力とする。
【0029】
平滑保持層は、上記弾性率を達成しやすいという観点から、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニル樹脂、及びポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニル樹脂、及びポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0030】
平滑保持層に用いうるアクリル樹脂及びポリウレタンの例は、粘着層において説明したものと同じである。
【0031】
平滑保持層に用いうる塩化ビニル樹脂としては、従来、塩化ビニルレザーに使用されているものであれば特に制限なく使用できる。具体的には、平均重合度800~2000、好ましくは800~1500程度のポリ塩化ビニルの他、塩化ビニルを主体とする、エチレン、酢酸ビニル、メタクリル酸エステル等との共重合樹脂や、これらの樹脂とポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、アクリロニトリル、スチレン-ブタジエン共重合樹脂、部分ケン化ビニルアルコール等との混合樹脂等が挙げられる。
【0032】
平滑保持層は、主成分である樹脂を1種のみ含んでもよく、目的に応じて2種以上含んでいてもよい。
2種以上を含む場合には、互いに相溶性の高い材料同士を組み合わせることが好ましい
【0033】
平滑保持層は、樹脂に加え、弾性率を調整したり、感触を調整したりする目的で、樹脂以外の添加剤を含んでいてもよい。
添加剤としては、エポキシ化大豆油、フタル酸系等の可塑剤、ステアリン酸バリウム、炭酸カルシウム等の無機粉体、ウレタンビーズ等の有機粉体などが挙げられる。
平滑保持層を有することで、粘着層により吸収しきれなかった下地における凹凸がある場合にも、凹凸を吸収することができ、積層される着色層へ下地における凹凸が影響を与えることを抑制することができる。
【0034】
〔着色層〕
本開示の加飾フィルムは、着色層を備える。着色層は、加飾フィルムが貼付される基材に対し、塗装工程を実施した場合と同等又はそれ以上の外観を与える機能を有する。
着色層は、既述の平滑保持層の、粘着層側とは反対側の面に設けられる。
着色層は、着色剤と熱可塑性樹脂とを含む以外には特に制限はなく、基材に目的とする色相及び外観を付与できれば、その他の成分を含んでいてもよい。
【0035】
着色層の形成に用い得る熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニル樹脂、及びポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニル樹脂、及びポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく挙げられる。
着色層は、熱可塑性樹脂を1種のみ含んでいてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
着色層に含まれる熱可塑性樹脂として、平滑保持層に含まれる樹脂と同じ樹脂を含むことで、着色層と平滑保持層との密着性がより良好となり、好ましい。
【0037】
着色層が含みうる着色剤としては、染料及び顔料のいずれも用いることができ、なかでも、耐久性、耐候性等の観点から、顔料が好適である。
また、着色剤としてパール粒子、アルミ粉等の金属粉等を用いると、加飾成形体の外観に光沢、金属光沢などを付与することができる。
【0038】
顔料には特に制限はなく、所望の色相を達成するため、従来公知の種々の無機顔料、有機顔料等の1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。
着色層に用いうる顔料としては、カーボンブラック、二酸化チタン等の無機顔料及び以下に例示する有機顔料が挙げられる。
有機顔料、無機顔料、パール粒子等の粒子径としては、発色性、基材の隠蔽性及びハンドリング性の観点からは、平均一次粒子径が0.5μm~100μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは、3μm~50μmの範囲である。
顔料の平均一次粒子径は、走査型顕微鏡(SEM)、又は透過型顕微鏡(TEM)で観察し、粒子が凝集していない部分で粒子サイズを100個計測し、平均値を算出することによって求めることができる。
【0039】
着色層に用いうる有機顔料としては、例えば、以下のものが挙げられるがこれに制限されない。
C.I.ピグメント イエロー 11,24,108,109,110,138,139,150,151,154,167,180,185,
C.I.ピグメント オレンジ 36,71,
C.I.ピグメント レッド 122,150,171,175,177,209,224,242,254,255,264,
C.I.ピグメント バイオレット 19,23,32,
C.I.ピグメント ブルー 15:1,15:3,15:6,16,22,60,66,
C.I.ピグメント ブラウン 25,28,
C.I.ピグメント グリーン 7,36,37,
C.I.ピグメントブラック 1,
【0040】
着色剤として顔料を用いる場合には、着色層において、顔料の分散媒となる熱可塑性樹脂中における顔料の分散性をより良好にする目的で顔料分散剤を用いることが好ましい。
顔料分散剤は、着色層に含まれる顔料及び熱可塑性樹脂のそれぞれの特性を考慮し選択して用いることが好ましい。
例えば、顔料としてカーボンブラックを用いる場合、カーボンブラックとエステル系分散剤と合成樹脂とを予め混合した混合物を用いて着色層を形成することが顔料の均一分散性の観点から好ましい。
また、顔料の均一分散性の観点から、合成樹脂、界面活性剤等で表面を被覆した加工顔料などを用いることもできる。
着色剤には、目的に応じて、可塑剤、安定化剤、分散剤等を用いてもよい。
【0041】
顔料の使用態様の一例を挙げれば、着色層の主成分である熱可塑性樹脂100質量部に対して、着色剤としての顔料を3質量部~15質量部投入し、熱ミキシングロールで加熱混合することで熱可塑性樹脂中に着色剤が均一に分散され、熱可塑性樹脂が着色される。
着色層は、着色剤を1種のみ含んでもよく、調色等の目的で2種以上含んでいてもよい。着色剤の含有量には特に制限はなく、目的とする加飾フィルムの目的とする色相に応じて適宜選択される。一般的には、着色層を構成する全固形分中に3質量%~20質量%の範囲で含有されることが好ましい。なお、ここで固形分とは、着色層を構成する全成分中、溶剤を除いた成分を指す。
【0042】
着色層の厚みには特に制限はない。基材の隠蔽性、所望の外観等を考慮して適宜選択される。
基材への貼り付け容易性及び良好な外観を与えうるという観点からは、着色層の厚みは50μm~200μmの範囲であることが好ましく、80μm~150μmの範囲であることがより好ましい。
【0043】
〔その他の層〕
加飾フィルムは、既述の粘着層、平滑保持層及び着色層に加え、効果を損なわない限りその他の層を備えてもよい。
その他の層としては接着層、印刷層、表皮層、粘着層を保護するセパレータ等が挙げられる。
【0044】
(接着層)
本開示の加飾フィルムは、着色層と平滑保持層との密着性を向上させる目的で、着色層と平滑保持層との間に接着層を備えてもよい。
接着層の形成に使用される接着剤、粘着剤には特に制限はなく、着色層及び平滑保持層に含まれる樹脂の種類により適宜選択される。
【0045】
加飾フィルムが接着層を備える場合、接着層の形成に用いうる接着剤又は粘着剤としては、例えば、ポリウレタン、ポリエステル、シリコーン樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、シアノアクリレート樹脂などが挙げられる。
なかでも、(1)2液硬化型ポリエステル系接着剤、(2)2液硬化型ウレタン接着剤、(3)2液硬化型アクリル接着剤等が好適に挙げられる。
なお、接着層の形成に使用される接着剤は市販品としても入手可能であり、例えば、(株)日本触媒製、粘着剤 AST‐8207等が挙げられる。
【0046】
接着剤や粘着剤により形成される接着層の厚さは、乾燥膜厚で50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがさらに好ましい。
なお、着色層と平滑保持層とが同じ樹脂を含む場合には、樹脂同士の密着性が良好となることから、必ずしも接着層は必要ではない。
接着層を形成する際には、接着層形成用組成物に含まれる溶媒を除去したり、接着剤の硬化反応を促進させたりするため、30℃以上200℃未満の温度範囲で加熱、乾燥することが好ましい。加熱温度は、40℃以上150℃以下の範囲が好ましく、40℃以上60℃以下の範囲であることがより好ましい。加熱、乾燥は、非接触で行なわれることが好ましく、例えば、温風による乾燥、所定の温度に設定した加熱ゾーン内を搬送することによる乾燥等が挙げられる。
【0047】
(印刷層)
本開示の加飾フィルムは印刷層を備えてもよい。
本開示の加飾フィルムは、着色層の平滑保持層側とは反対側に印刷層を備えてもよい。印刷層を備えることで、加飾フィルムに目的に応じた任意の意匠性を与えることができる。詳細には、例えば、印刷層において、文字、画像等を印刷することで、加飾フィルムにさらに複雑な任意の意匠を付与することができる。
また、印刷法により、着色層の面上に、撥水性の樹脂層、透明樹脂層等を印刷層として形成することで、着色層の光沢度を挙げたり、着色層の表面に撥水性を付与したり、着色層の表面強度を向上させたりすることもできる。
【0048】
印刷層としては、例えば、着色層の面上に、樹脂を含む印刷インクにより公知の印刷法により形成された層が挙げられる。
樹脂を含む印刷インクとしては、クリアな印刷画像の形成が可能であるという観点から、アクリル樹脂、ポリウレタン、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等を含む印刷インクが好ましく、アクリル樹脂又は塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種を含む印刷インクが好ましい。
なかでも、アクリル樹脂は、耐候性、延伸性に優れ、隣接して設けられる他の層との密着性が良好である。
また、アクリル樹脂は透明性が良好であることから、アクリル樹脂に着色剤等を添加したり、金属光沢を有する顔料、パール顔料等の光散乱性の着色剤を添加したりすることにより、加飾フィルムに所望の良好な色相、光沢に優れた印刷層を形成しうる印刷インクとすることができる。
印刷方法には特に制限はなく、グラビヤ印刷(凹版印刷)、凸版印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷など、任意の印刷方法を適用することができる。
【0049】
本開示の加飾フィルムが印刷層を有する場合の印刷層の厚みは1μm~10μmの範囲であることが好ましく、3μm~5μmの範囲であることがより好ましい。印刷層の厚みが上記範囲にあることで、所望の意匠を加飾フィルムにさらに付与することができ、且つ、隣接する着色層との良好な密着性が維持される。
【0050】
(表皮層)
本開示の加飾フィルムは、表面の光沢度をより向上させたり、表面の強度及び耐摩耗性を向上させたりする目的で、着色層の平滑保持層とは反対側の面に、表皮層を備えることができる。表皮層は樹脂を主成分として含むことが好ましい。
表皮層に用いることができる樹脂には特に制限はない。隣接する着色層における色相、所望により設けられる印刷層における印刷などの意匠を視認することができ、加飾フィルムに必要な強度と耐久性を有する膜形成性の樹脂から、目的に応じて1種又は2種以上を選択して用いることができる。
合成樹脂としては、アクリル樹脂、ポリウレタン、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、オレフィン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、及びポリカーボネート等が挙げられる。
なかでも、透明性及び耐久性の観点から、アクリル樹脂、ポリウレタン、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、及びポリビニルアルコールから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
表皮層は、樹脂を1種のみ含んでもよく、2種以上を含んでもよい。
【0051】
表皮層の形成方法には特に制限はなく、公知の層形成方法、例えば、塗布法、転写法等を適用して形成すればよい。
また、表皮層の形成には、市販のフィルムを用いることができる。表皮層の形成に使用しうるフィルムとしては、アクリル樹脂を含有する合成樹脂フィルムである三菱ケミカル(株)製、アクリプレン(登録商標) HBS006等を挙げることができる。
【0052】
表皮層の表面、即ち、着色層側とは反対側の表面に凹凸を形成することができる。凹凸を形成する方法は、公知の方法を適宜使用することができる。
例えば、絞ロールに予め天然皮革様の凹凸を形成し、凹凸が形成された絞ロールを用いて表皮層をラミネートエンボスすることにより、貼り合わせと同時に絞押しが行われ、最表面に天然皮革様の凹凸が転写される。
表皮層の形成方法、及び表皮層表面の凹凸の形成方法に拘らず、ラミネートエンボスにおける加熱温度は、100℃~190℃が好適である。
【0053】
加飾フィルムが、表面に凹凸を有する表皮層を備えることで、基材に、任意の色相のみならず、特徴的な外観を与えることができる。
【0054】
図3は、本開示の加飾フィルムの一例としての、接着層と、表皮層とをさらに有する加飾フィルムの一実施形態を示す概略断面図である。
図3に示す加飾フィルム30は、粘着層12、平滑保持層14をこの順に有し、さらに、平滑保持層14と着色層16との間に、平滑保持層14と着色層16との密着性向上のための接着層20を有する。さらに、本実施形態では、着色層16の表面、即ち、着色層16の接着層20側とは反対の面に表皮層22を有する。
また、粘着層12の裏面、即ち、粘着層12の平滑保持層14側とは反対側の面に、粘着層12を保護するセパレータ18を有する。
図3におけるセパレータ18、接着層20及び表皮層22は、所望により設けられる任意の層である。
【0055】
図4は、本開示の加飾フィルムの別の一例を示す概略断面図である。
図4に示す加飾フィルム31では、表皮層22Bの表面、即ち、表皮層22Bの着色層16側とは反対側の面上に、微細な凹凸模様を有する。
図4に示す加飾フィルム31によれば、基材表面に、着色層16による色相に加え、表皮層22Bに形成された凹凸模様により、より複雑な外観を基材に与えることができる。
【0056】
(セパレータ:粘着層を保護するセパレータ)
本開示の加飾フィルムは、粘着層の表面を保護するため、粘着層の平滑保持層とは反対側の面にセパレータを有していてもよい。
セパレータとしては、合成樹脂フィルム(合成樹脂基材)、離型処理された合成樹脂フィルム、離型処理された紙等を用いることができる。
【0057】
セパレータに用いられる合成樹脂基材には、セパレータとして、粘着層を保護し得る強度を有する限り、特に制限はない。
セパレータにおける合成樹脂基材に用いうる合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂等が挙げられ、なかでも、寸法安定性の観点から、ポリプロピレンが好ましい。ポリプロピレンを用いた合成樹脂基材は、一軸延伸ポリプロピレン、二軸延伸ポリプロピレン、無延伸ポリプロピレン等が挙げられる。
セパレータの厚みは、30μm~100μmであることが好ましく、50μm~70μmであることがより好ましい。
【0058】
セパレータは、粘着層との安定な密着性と容易剥離性とを有する合成樹脂基材であれば、合成樹脂基材のみで構成されていてもよい。また、合成樹脂基材又は紙基材の粘着層と接する側の表面に離型処理されたものを用いてもよい。
離型処理としては、フッ素含有樹脂、シリコーン樹脂等を塗布する方法など、公知の離型処理方法を適用することができる。
【0059】
<加飾フィルムの使用方法>
既述の本開示の加飾フィルムは、任意の基材に貼付して基材に意匠性を付与することができる。
図5は、図3に示す本開示の加飾フィルム30を基材24に貼付した状態を示す概略断面図である。基材24に貼付する際に、粘着層12を保護していたセパレータ18は剥離される。
基材24は、電着塗装による下塗り層が形成され、表面に異物、塗布ムラ等に起因する凹凸を有する。そこに、本開示の加飾フィルム30を貼付すると、適度の弾性率を有する粘着層12が、基材24と直接接触する。適切な弾性率と厚みとを有する粘着層12により、基材24の表面に形成された凹凸が吸収され、粘着層12の基材24側とは反対側の面における凹凸は粘着層12の機能により僅かな凹凸となる。その僅かな凹凸は平滑保持層14でさらに吸収されるため、平滑保持層14の接着層20及び着色層16側の面が平滑となり、基材24における凹凸が着色層16の外観に与える影響が抑制される。このため、本開示の加飾フィルムによれば、表面が平滑な、塗装面と同様の平滑さと色相とを基材24の表面に付与することができる。
【0060】
本開示の加飾フィルムによれば、電着塗装などの下塗り層を有する基材に対し、何らの前処理も必要とせず、簡易な工程で、施工性よく、塗装工程によって得られるのと同様の良好な平滑性、ツヤなどの外観を与えることができることから、その応用範囲は広い。
また、本開示の加飾フィルムによれば、塗装工程に必要な複数回に亘る乾燥工程が不要であり、余剰の塗料の処理も必要がないことから、自動車の車体などの基材に対する外観の仕上げ工程における消費エネルギーを大幅に低減することができるという副次的効果をも有する。
【実施例
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。以下に示す実施例は本発明の実施態様の一例を示すに過ぎず、本発明は以下の実施例に制限されない。
なお、特に断らない限り、以下の「%」及び「部」は質量基準である。
【0062】
〔実施例1〕
(着色層の形成)
着色層として、分子量1300のストレート塩化ビニル樹脂(大洋塩ビ(株)製、商品名:TH-1300)100部に、可塑剤としてリネボール(商品名:シェル(株))20部、安定剤としてステアリン酸バリウム3部、着色顔料(日本ピグメント(株)製、塩化ビニル樹脂用マスターバッチ)8部を混合して着色層形成用組成物を調製し、カレンダー圧延法により、厚さ150μmのフィルム状に形成して着色層とした。
【0063】
(平滑保持層の形成)
平滑保持層として分子量1300のストレート塩化ビニル樹脂(着色層に用いたものと同じ樹脂)100部にエポキシ化大豆油15部、ステアリン酸バリウム3部を配合した平滑保持層形成用組成物を調製し、厚さ100μmのフィルム状に成形して平滑保持層とした。
得られた平滑保持層の100%モジュラスを、前記と同様の方法で測定したところ、10MPaであった。
次に、上記で得た着色層に、平滑保持層を150℃、30Nで熱ラミネートした。
【0064】
(表皮層の形成)
着色層の、平滑保持層側とは反対側の面に、光沢と、表面強度とをより良好とするために表皮層を形成した。着色層に、表皮層形成用として、大日精化工業(株)社製 アクリル系表面処理剤RUB-273を20g/m塗布し、乾燥して、乾燥後の厚さ5μmの表皮層を形成した。
【0065】
(粘着層の形成)
平滑保持層の、着色層側とは反対側の面に、アクリル系粘着剤(綜研化学(株)、SKダイン(登録商標)1310DT)に硬化剤を規定量加えた混合物を調製し、得られた粘着層形成用の混合物を、100g/m塗布し、90℃1分間加熱乾燥して厚さ35μmの粘着層を形成した。
得られた粘着層の弾性率を前記と同様の方法で測定したところ、2.8×10Paであった。
その後、ポリエチレンテレフタレート系の厚さ50μmのセパレーターフィルムを粘着層に貼付して、50℃で48時間熟成して実施例1の加飾フィルムを作製した。
【0066】
〔実施例2〕
平滑保持層として、実施例1で用いた平滑保持層形成用組成物を用いて、厚さ100μmに代えて、厚さ70μmのフィルム状に成形した物を平滑保持層とした以外は実施例1と同様にして、実施例2の加飾フィルムを得た。
【0067】
〔実施例3〕
着色層の表面に形成された表皮層として、デンカ(株)社製 フッ素PVCフィルム 15S0650 50μmを、140℃、30Nで熱ラミネートした以外は実施例1と同様にして、実施例3の加飾フィルムを得た。
【0068】
〔比較例1〕
平滑保持層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1の加飾フィルムを得た。
【0069】
〔比較例2〕
平滑保持層の厚みを、100μmから20μmとした以外は、実施例1と同様にして、比較例2の加飾フィルムを得た。
【0070】
〔比較例3〕
平滑保持層の厚みを、100μmから180μmとした以外は、実施例1と同様にして、比較例3の加飾フィルムを得た。
【0071】
〔比較例4〕
粘着層の厚みを、35μmから18μmとした以外は、実施例1と同様にして、比較例4の加飾フィルムを得た。
【0072】
〔比較例5〕
粘着層の形成に用いたアクリル系粘着剤(綜研化学(株)、SKダイン(登録商標)1310DT)に代えて、アクリル系粘着剤(綜研化学(株)、SKダイン(登録商標)1986DT)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例5の加飾フィルムを得た。
得られた粘着層の弾性率を前記と同様の方法で測定したところ、5×10Paであった。
【0073】
〔比較例6〕
粘着層の形成に用いたアクリル系粘着剤(綜研化学(株)、商品名:SKダイン(登録商標)1310DT)に代えて、アクリル系粘着剤(綜研化学(株)、SKダイン(登録商標)1838)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例6の加飾フィルムを得た。
得られた粘着層の弾性率を前記と同様の方法で測定したところ、1.2×10Paであった。
【0074】
(加飾フィルムの評価)
得られた各実施例及び比較例の加飾フィルムを、基材サンプルとしての電着塗装を行なった電着塗装鉄板に貼り合せた。
電着塗装鉄板は、自動車ボディ塗装調色用に使用する電着塗装鉄板片を用いた。
電着塗装鉄板片は、国内塗料メーカーから提供された標準電着塗装鉄板を用いた。
加飾フィルムを貼り合せた電着塗装鉄板の表面平滑度及びツヤ度を、BYK社製ウェブスキャンII測定機にて装置の標準的な条件により測定した。測定結果より、以下の評価基準で評価した。評価結果を下記表1に示す。
ウェブスキャンの測定原理は、加飾フィルムを貼付した電着塗装鉄板の加飾フィルム側の表面に、レーザーを照射しながら走査し、その反射の強度をセンサーで検出、解析し数値化を行なう。
表面平滑度W1ではうねり波長2.4mm以上を検出
ツヤ度W4では、うねり波長0.32mm未満の反射の強度値を検出
【0075】
-評価基準-
1.表面平滑度
A:W1の測定結果が20mm以下
B:W1の測定結果が20mmを超える
【0076】
2.ツヤ度
A:W4の測定結果が15mm以下
B:W4の測定結果が15mmを超える
【0077】
3.施工性
加飾フィルムを電着塗装鉄板に貼付する際の貼りやすさ、貼り合せ位置の調整のし易さについて、評価担当者が以下の基準で官能評価した。
A:加飾フィルムが柔軟で貼り合せやすく、一度貼り合せた後の修正が容易であり、施工性が良好であった。
B:加飾フィルムが硬いか、又は、一度貼り合せた後の剥離が困難で修正がし難く、施工性に劣っていた。
【0078】
4.総合評価
上記の3つの評価項目のうち、全てがAランクの場合、ランクAと評価し、3つの評価項目のうち、1つでもBランクの場合、ランクBと評価した。ランクAが実用上問題のないレベルである。
【0079】
〔対照例〕
対照例(I)として、電着塗装鉄板の面上に、中塗り、及び上塗りの標準的な塗装工程を経た塗装済み試料について、表面平滑度及びツヤ度を同様にして測定した。
【0080】
【表1】
【0081】
表1の結果より、実施例1~実施例3の加飾フィルムを貼付した試料では、表面が平滑であり、ツヤも良好であり、塗装品と遜色のない外観を示すことが確認された。さらに、施工性にも優れており、基材である電着塗装鉄板に、簡易に施工性よく、良好な外観を与え得ることがわかる。
なお、下地材である電着塗装鉄板に標準的な塗装工程を施して表面仕上げをした試料(対照例(I))に対し、平滑性及びツヤの点で、同等又はそれ以上の外観を示した。
【0082】
他方、比較例1、比較例2、比較例4及び比較例6の加飾フィルムを貼付した試料では、基材表面の凹凸、ブツなどに起因する凹凸が表面に影響を与え、表面の平滑性、及び表面のツヤの少なくともいずれかが劣っていて、実用上問題のあるレベルであった。
比較例3の加飾フィルムは、電着塗装鉄板基材に貼り合せた後、表面は平滑になるものの、加飾フィルムが硬すぎて施工性が劣る結果となった。
比較例5の加飾フィルムは、弾性率が低く柔軟ではあるが、タックが大きすぎ、一度貼り合せると、剥離できず、貼り合せの修正がきかないため施工性が劣る結果となった。
【符号の説明】
【0083】
10、11、30、31 加飾フィルム
12 粘着層
14 平滑保持層
16 着色層
18 セパレータ
20 接着層
22 表皮層
24 基材
図1
図2
図3
図4
図5