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  • 特許-密閉型陽極燃料電池の始動方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】密閉型陽極燃料電池の始動方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20240409BHJP
   H01M 8/04225 20160101ALI20240409BHJP
   H01M 8/04302 20160101ALI20240409BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20240409BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20240409BHJP
【FI】
H01M8/04 Z
H01M8/04225
H01M8/04302
H01M8/04537
H01M8/04746
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019534307
(86)(22)【出願日】2017-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 CA2017051553
(87)【国際公開番号】W WO2018112630
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-04
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】62/437,421
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502451258
【氏名又は名称】ハイドロジェニクス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ヨース、ナサニエル イアン
(72)【発明者】
【氏名】フォート、パオロ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジン
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】長馬 望
【審判官】八木 敬太
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-165018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04
H01M 8/04225
H01M 8/04302
H01M 8/04537
H01M 8/04746
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池モジュールを始動させる方法であって、
スタックからの電力以外の電力を用いてモジュールのカソード側を通して空気を吹き付けるステップと、
前記モジュールのアノード側のパージ弁を閉じた状態でかつ水素を循環させることなく有限量の水素を保持しかつ前記アノード側と連通するリザーバから、前記アノード側に、前記カソード側の空気の圧力よりも大きい第1の圧力下で水素を供給した後、前記第1の圧力よりも低い第2の圧力の下で水素を供給するステップと、
十分に充電された状態の出現のために前記モジュール内のセル群のすべてのセルの電圧を監視するステップと、
前記十分に充電された状態が出現すると、前記モジュールを動作状態に変換するステップと、
を含み、
空気が、通常の運転条件で使用されるファンよりも小さいファンによって、カソード側に吹き込まれる、
方法。
【請求項2】
前記水素は、前記リザーバと前記アノード側との間に挿入された前方圧力調整器を介して供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記十分に充電された状態は、前記セル群のすべてのセルの電圧が予め定めた最小電圧に到達している状態である、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記十分に充電された状態が、前記セル群の中で最小の電圧のセルが予め定めた最小電圧に到達することによって示される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記動作状態は、前記モジュールの燃料電池がプラントの少なくとも残りの部分に電力を供給することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記動作状態は、前記モジュールに水素を連続的に供給することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の圧力は、可変圧力である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
燃料電池モジュールを始動させる方法であって、
電池からの電力を用いてモジュールのカソード側に空気を吹き込むステップと、
前記モジュールのアノード側のパージ弁を閉じた状態でかつ水素を循環させることなく有限量の水素を保持しかつ前記アノード側と連通するリザーバから、前記アノード側に前記カソード側の空気の圧力よりも大きい第1の圧力下で水素を供給するステップと、
十分に充電された状態の出現のために、前記モジュール内のセル群のすべてのセルの電圧を監視するステップと、
前記十分に充電された状態が出現すると、前記モジュールを動作状態に変換するステップと、
を含み、
空気が、通常の運転条件で使用されるファンよりも小さいファンによって、カソード側に吹き込まれる、
方法。
【請求項9】
前記リザーバは、入口が水素タンクと水素入口弁を介して接続されかつ出口が前記アノード側と連通しており、
前記水素供給するステップが、前記水素入口弁を開放して前記水素タンクから前記リザーバに水素を充填し、次いで前記水素入口弁を閉じた状態にして前記リザーバに有限量の水素を保持させることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記水素は、前記リザーバと前記アノード側との間に挿入された前方圧力調整器を介して供給される、請求項8又は請求項9に記載の方法。
【請求項11】
十分に充電された状態は、前記セル群のすべてのセルの電圧が予め定めた最小電圧に到達している状態である、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
十分に充電された状態は、前記セル群の中で最小の電圧のセルが予め定めた最小電圧に到達することによって示される、請求項8~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記動作状態は、前記モジュールの燃料電池がプラントの少なくとも残りの部分に電力を供給することを特徴とする、請求項8~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記動作状態は、水素タンクと前記リザーバとの間の水素入口弁を開いて、前記モジュールに水素を連続的に供給することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は2016年12月21日に出願された米国特許出願第62/437,421号の非仮出願であり、これは参照により組み込まれる。
【0002】
本明細書は、燃料電池パワーモジュール、例えばPEM燃料電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0003】
PEM燃料電池モジュールをシャットダウンするための1つの例示的なプロセスでは、モジュールのカソード側がアノード側が閉じられている間に通気されるが、リザーバが空になるまで、小さなシャットダウンリザーバ(すなわち、5L未満)から小さな圧力(すなわち、大気圧より5psi未満高い圧力)で水素を受け取る。アノード側とカソード側とは、抵抗を介して電気的に接続されている。カソード側の酸素は消費され、それによってカソード側を窒素で覆う。アノード側の水素も消費され、窒素をアノード側に引き寄せる真空を作り出す。これにより、燃料電池モジュールは窒素で覆われる。セルの容量性電荷も抵抗を介して放電される。モジュールを長時間放置すると、窒素の一部または全部が空気に置換されることがある。例は、WO2004114448およびWO2007090284、表題「燃料電池における受動電極ブランケッティング(Passive Electrode Blanketing in a Fuel Cell)」に記載されている。
【0004】
モジュールを再始動させるためには、電池または他のエネルギー源によって電力供給される小型ファンを作動させて、カソード側の窒素を空気で置換する。水素は、より大きな燃料リザーバからモジュールのアノード側に導入され、再循環ポンプを用いて、またはパージ弁を開くことによって、モジュールのアノード側全体に分散される。モジュールのセルが十分な電荷を取り戻すと、モジュールはプラントのバランスを実行するのに十分な電気化学反応を維持することができ、モジュールは再始動したと考えられる。
【0005】
例えば、上述したような停止手順の後、燃料電池のアノード側及びカソード側は窒素又は主として窒素であるガス(すなわち、空気)の混合物で覆われてもよい。混合物は、周囲空気よりも多くの窒素、おそらく100%に近い窒素を有してもよく、典型的には有している。さらに、PEM燃料電池における膜の両側のガス拡散層は、始動手順の間、酸素および水素による窒素の置換を抑制し得る。
【0006】
燃料電池スタック内のMEAは、本質的に容量性である。燃料電池モジュールの再始動はスタックが材料電流を供給するために使用される前に、全てのセルが少なくとも部分的に充電された状態に達することを必要とする。この充電状態を達成するために、水素および酸素は、スタックのアノード側およびカソード側全体に分散されなければならない。水素はアノード側の周りのループ内に水素再循環ポンプを用いて分散させることができるが、これは蓄積された電力を消費する複雑な問題であり、またはスタックから電力を供給される場合、燃料電池スタック全体の水素および空気濃度、ならびに燃料電池スタック内の個々の電池電圧に応じて、始動を遅らせるか、または妨げる可能性がある。あるいは、水素がモジュールのアノード側を通って、アノード側の出口の通気弁またはパージ弁に水素を流すことによって分散させることができる。これにより、大気中に水素が放出され、これは汚染物質ではないが、場合によっては通気口の外側に可燃性混合気を生成することがある。可燃性混合物の存在はカソード側排気に水素を放出し、カソード側を通して十分な空気を吹き付けることによって防止することができる。しかし、希釈に必要な空気流量はスタックを充填するのに必要な空気流量を超えるので、この方法はより多くの蓄積電力を消費する。
【0007】
場合によっては、上述の手順はまた、非常に古い、または(環境汚染によって)損傷したモジュールを始動することができず、したがって、通常よりも透過性が高い膜を有することがある。
【0008】
少なくともいくつかの状況では、燃料電池モジュールを始動するのに必要な(すなわち、外部バッテリ内の)蓄積電力の量を最小限に抑えることが望ましい。また、少なくともいくつかの場合では、少なくとも大量の空気流が水素を希釈するために利用可能になる前に、水素の排出を回避することが望ましい。また、少なくともいくつかの状況では、古いまたは損傷した燃料電池モジュールを再始動できることが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本明細書では、燃料電池モジュールの始動方法について説明する。任意選択で、このプロセスは、水素をパージすることなく、またはモジュールのアノード側を通して水素を再循環させることなく実施することができる。このプロセスはまた、新しい膜よりも透過性が高い古いまたは劣化した膜でモジュールを始動するために使用することができる。このプロセスでは、モジュールのアノード側を通して水素が分配される。モジュールのアノード側の圧力は、モジュールのセルが少なくとも最小電圧に達するように調整される。次に、モジュールは動作状態に変換される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
いくつかの例では、プロセスが少量の外部電力、例えば1000W未満または100W未満を使用して、モジュールのカソード側を通して空気を吹き付けることを含む。水素は、好ましくはカソード側の空気の圧力よりも高い圧力下で、好ましくは実質的に全ての電池に水素を分配するのに有効な量及び圧力で、モジュールのアノード側に放出される。水素の分配は、差圧によって駆動されるアノード側からカソード側へのガスの透過によって助けられる。次いで、膜を横切る圧力差は随意的に、有限量の加圧水素のみを放出することによって減少され、一方、アノード側は、カソード側へのガスの透過が時期アノード側の圧力を本質的に減少させるように、前の工程において閉じられる。モジュール内のセル電圧はモジュールを始動させるのに十分な充電状態の出現、すなわち、外部電力ではなく燃料電池スタックからプラントのバランスに電力を供給するのに十分な充電状態の出現について監視される。充電状態が観測されると、モジュールは動作状態に変換される。動作状態では水素の一般的に連続的な供給がアノード側に提供され、スタックはカソード側を通るより高い空気流に電力を供給するために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、燃料電池モジュールの部品の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
PEM燃料電池モジュールのアノード側とカソード側は膜によって分離されているが、PEM燃料電池では膜を通るガスの流れが常にいくらか存在する。膜は典型的には20ミクロン未満の厚さであり、膜を横切る圧力または濃度差の影響下で、窒素、水素または空気を透過する。通常の動作では、モジュールのカソード側に水素が存在することはアノード側に空気を有することよりも好ましいと典型的に考えられる。膜を横切る水素透過はカソード側で燃焼を引き起こし得るが、得られる水はモジュールが動作している間にカソード側を通して空気を吹き付けることによって除去され得るか、または未燃焼の水素が希釈され得る。スタックのアノード側への空気の浸透はアノード上に窒素の蓄積をもたらす可能性があり、これは、燃料電池性能に影響を及ぼす濃度の蓄積を防止するために追加のパージを必要とする。したがって、いくつかのモジュールは小さい圧力、すなわち、カソード側の圧力より5psi未満または1psi未満高い圧力で水素を供給するようにバイアスされた順方向圧力調整器を通して水素を供給する。モジュールが老化することにつれて、または環境汚染に曝されるにつれて、膜の透過性が増加する。
【0013】
燃料電池スタック(特にMEA)内のセルは、本質的にコンデンサのようにある程度動作する。スタック、またはスタック内のセルまたはセルのグループの容量性電荷(または単に電荷)は等価回路モジュールに従って決定することができ、またはセル、セルのグループ、またはスタックの電圧を測定することによって近似することができる。モジュールがオフであるとき、セルは安全上の懸念(すなわち、セルスタック上で作業する人が衝撃を受ける可能性があること)がより少なくなるように、典型的には放電される。モジュールが再始動されると、スタックがかなりの電力(または電流)を供給することができるようになる前に、スタック内のすべてのセルが最小の電荷(または電圧)を発生しなければならない。さもなければ、弱く充電されたセルの電圧が負になる可能性がある。この極性の反転は、セルを損傷する可能性がある。したがって、セル電圧が監視され、スタックはスタック内のすべてのセルが少なくとも最小電荷(すなわち、電圧)、例えば、通常または最大セル電圧の25%または50%、あるいは、通常(または名目上)0.5V~0.6Vで動作するセルについてはさらに、例えば、セル当たり0.1Vまたは0.2Vを有するまで、材料電力、または任意選択で電力を供給することができない。セル電圧は、スタック、セルの群、または個々のセルの電圧を監視することによって監視することができる。しかしながら、スタックの電圧のみが測定される場合、いくつかのセルがセル当たりの平均電圧未満を有するリスクを考慮するために、安全係数が好ましくは適用される(すなわち、セル当たりのより大きな最小電圧が必要とされる)。セルのグループの電圧、すなわち、10個以下または5個以下のセルの電圧が監視される場合、安全係数を低減することができる。好ましくは、セルまたは個々のセルのグループの電圧が監視される。
【0014】
非常に透過性の膜では常圧差で連続的に水素を供給しながら、カソードを通して低速で空気を吹き込むことは各セルに必要な最小電荷を決して生成しないかもしれない。カソード側での水素の燃焼は酸素を消費し、電池を充電するのに必要な電気化学反応のために不十分な酸素を残す。より多くの空気を供給することによってモジュールを始動させることは可能であるが、外部電力を使用して大型の空気ファン(例えば、通常動作の送風機)に電力を供給することは少なくともいくつかの状況では望ましくない。以下に記載される方法は有意な外部電力なしに(すなわち、制御電子機器に電力を供給するために典型的に提供される小型バッテリ以外に)、非常に透過性の膜を有するモジュールを始動するために使用され得る。この方法は、通常は透過性の膜を用いてモジュールを始動させるためにも使用することができる。これらの場合、従来の始動手順はかなりの外部電力を使用して水素を排気するか、またはポンプを用いて水素を再循環させることを含むが、上記の方法はいずれも必要としない。いくらかの水素がカソード側に放出されるが、放出速度は少量の水素のみが燃料電池モジュールの外側の大気に放出されるか、または水素が全く放出されないように、水素がモジュールのカソード側で制御された方法で燃焼されるようにすることができる。
【0015】
図1は、燃料電池パワーモジュール10を示す。モジュール10は、図1においてアノード側12およびカソード側14によって概略的に表される、典型的には多くのセルを含む燃料電池スタックを有する。水素タンク16は、入口弁18、シャットダウンリザーバ20及び前方圧力調整器22を介してアノード側12に水素を供給する。アノード側12からの出口は、パージ弁24で閉じることができる。カソード側14は、外部バッテリまたは電源によって電力供給される小型送風機26、またはスタックまたは別の外部電源によって電力供給される大型送風機28のいずれかから空気を受け取る。前方圧力レギュレータ22は、そのドームがカソード側への入口に接続されたドーム負荷圧力レギュレータであってもよい。
【0016】
抵抗器30は窒素ブランケット停止手順中に使用するために、アノード側12とカソード側14との間に取り付けられる。シャットダウンリザーバ20は入口弁18及びパージ弁24を閉じた後に、シャットダウン手順のためのある量の水素を供給するために使用される。前方圧力レギュレータ22は十分な水素が利用可能である限り、アノード側12内の水素の圧力を、カソード側14内の圧力よりも高い増分、例えば、0.1psi~5psi、または0.5psi~1psiの範囲に維持する。したがって、シャットダウン方法の間、シャットダウンリザーバ20は100psi(または任意選択で調整された、タンク16から供給される任意の圧力)である体積の水素を含むことができ、前方圧力調整器22を介して経時的に水素を放出する。シャットダウン手順の後、アノード側12及びカソード側14は少なくとも部分的に窒素で覆われ、スタックの電気化学的及び容量性電荷は抵抗器30を通して消散される。
【0017】
モジュールを再始動するために、小型送風機26は例えば、モジュール10のためのコントローラ及びバルブ(典型的にはソレノイドバルブ)に電力を供給するために使用される外部バッテリによって作動される。小型送風機26に電力を供給する外部バッテリはスタックとは異なる公称電圧を有することができ、例えば、バッテリは3~24ボルトの範囲の公称電圧を有することができ、一方、スタックは、48ボルト以上の公称電圧を有する。パージ弁24が閉じられ、水素再循環ループがある場合には、それに電力が供給されない。入口弁18を一時的に開いて、有限量の水素をシャットダウンリザーバ20に入れ、次いで閉じる。水素はシャットダウンリザーバ20からアノード側12に放出され、随意に、シャットダウンリザーバ20内で十分な水素が利用可能である限り、膜を横切る圧力差を維持する前方圧力調整器22を介して放出される。水素はアノード側12を通って拡散し、ガス(すなわち、水素および窒素)は、カソード側14に透過する。カソード側14への浸透は最終的に、シャットダウンリザーバが減圧されるにつれて、膜を横切る圧力差を減少させる。その結果、膜を横切る水素透過速度も低下するが、圧力差によって水素がアノード側を通って分散されることが有益である。この手順の間、セル電圧が監視される。すべてのセル(セルのグループまたはスタックを監視することによって任意に決定することができる)が十分な電荷または電圧(膜を横切る圧力差の減少とほぼ一致することが観察されている)を示すとき、モジュール10は動作状態に変換される。動作状態への変換はソレノイド弁18を再開し、スタックまたは他の外部電源から大型送風機28に電力を供給することを含む。
【0018】
上述の方法の結果として、水素は、最初に第1の圧力下でモジュールのアノード側に供給される。第1の圧力は、前方圧力調整器によって決定される量だけ、カソード側の空気の圧力よりも大きくてもよい。その後、水素のいくらかが消費されるか、さもなければ水素がモジュールのアノード側を通って分散された後、水素は、可変圧力であってもよい第2の圧力下でモジュールのアノード側に提供される。第2の圧力は、第1の圧力よりも低い。好ましくは、第2の圧力が常に、モジュールのカソード側の圧力よりも依然として大きいか、または少なくともモジュールのカソード側の圧力に等しい。任意選択で、第2の圧力は短時間(すなわち、1秒未満の間)、モジュールのカソード側の圧力未満であってもよい。しかしながら、モジュールのアノード側の負圧は好ましくはアノード側に材料量の空気を引き込むのに、時間および持続時間において十分ではない。
【0019】
別の方法では入口弁18は閉じられないが、前方圧力調整器22は第2の圧力を提供するために膜を横切る圧力差を減少させるように調整される。例えば、順方向圧力調整器22は、セルがモジュールを動作状態に変換するのに十分な電荷または電圧を示すまで、セル電圧を監視しながら連続的に調整することができる。別の例では第2の圧力が例えば、本明細書に記載される可変アノード側圧力方法のいずれかを使用して、電池電圧の上昇と一致する圧力差を観察することによって予め決定され、前方圧力調整器22は予め決定された第2の圧力を提供するように調整される。例えば、第2の圧力は、0.5psi以下または0.25psi以下であってもよい。場合によっては、別個の第1の圧力が必要とされないように、モジュール10のアノード側を通して水素を分散させるために、所定の第2の圧力も有効であり得る。しかしながら、これはモジュール10を始動させるのに十分であるかもしれないが、より高い第1の圧力を有する方法と比較して、モジュール10を始動させるのに必要な時間を増加させる可能性がある。
【0020】
走行状態への変換は、好ましくはセル内の電圧または電荷が抵抗30を介して消散される前に、迅速に行われる。代替的に、抵抗器30は十分なセル電圧を観測したとき、または圧力差の減少を観測したときに、モジュール10を迅速に動作状態に変換する必要性を回避または低減するために、始動手順中に切断され得る。スタック内のMEAは本質的に容量性であり、電荷を保持し、放出することができるが、数秒を超えて抵抗器30を通って放電し、次いで、持続動作に十分な電気化学反応を発生させるのに十分な時間、大型送風機28を動作させるのに十分な蓄積容量を有していない。
【0021】
本発明者らは少なくとも、透過性モジュール10(すなわち、燃料電池スタック内の膜が、年齢、使用、または環境汚染からガスクロスオーバー漏れを生じたモジュール10)が小型送風機26を使用して再始動されるとき、水素がアノード側12に送達され、前方圧力調整器22によって膜を横切って圧力差が維持される間、電池は電荷を生じないことを観察した。図示の例では小型送風機26が、モジュール10が大型送風機28の動作を監視するために作動しているが、この小型送風機26は始動方法で使用するために電力を供給されているときに通常使用される空気流量計である。この小型送風機26は50ワット未満、典型的には20ワット未満を使用し、主としてソレノイド弁およびコントローラを動作させるために、小型バッテリサイズ(電圧およびワット時の両方)で動作される。水素圧力および透過は理論によって制限されることを意図することなく、アノード側12を通して水素を有効に分配するが、膜を横切って透過する水素は燃焼中にカソード側14上の利用可能な酸素を十分に消費し、したがって、電池を充電するための電気化学反応を生成するのに不十分な酸素を残す可能性がある。しかしながら、シャットダウンリザーバ20が入口弁18を閉じた状態で空になると、アノード側12の水素圧力は、前方圧力調整器22の作用にもかかわらず減少する。水素透過は減少し、一方、小型送風機26は、カソード側14に新鮮な空気を供給し続ける。最終的に、電気化学反応に適した条件が現れ、電池は電荷を発生する。
【0022】
このプロセスは古いまたは損傷したモジュールを始動するのに有用であると上述したが、おそらく供給される水素の初期量および圧力を修正して、新しいモジュールにも適用することができる。新しいモジュールの場合、この方法は、水素の通気または再循環を回避する。通気は、状況によっては全く許可されないか、または大きな空気流の存在下でカソード側出口にのみ許可されてもよい。ポンプによって水素を再循環させること、または空気の希釈流を提供することの両方は大量の電力を必要とし、これは、モジュール10が外部電源によって始動されること、またはかなり大きなバッテリを保持することを必要とする。
【0023】
上記の例では、カソード側14は本質的に大気圧である。しかしながら、この方法は水素がアノード側にさらに高い圧力で一時的に供給されるならば、加圧カソード側14で依然として機能することが予想される。いくつかの例では、シャットダウンリザーバ20が必要とされないことが可能である。シャットダウンリザーバ20の機能は、入口弁18とアノード側12との間のパイプによって、またはスタックのアノード側12内のマニホールドによって、またはその両方によって提供されてもよい。代替的に又は追加的に、入口弁18は一緒になって有効量の加圧水素をアノード側に供給する水素のパルスを受け入れるために、短時間複数回開くことができる。別の選択肢では、水素がアノード側12に供給された後にアノード側圧力を低下させるのではなく、カソード側14の圧力を上昇させて圧力差を同様に低下させることができる。所望される全体的な効果は水素(およびおそらく窒素)がある期間、膜を通って透過することを可能にし、次いで、好ましくは、少なくとも少量の空気流を提供しながら、水素(およびおそらく窒素)透過を減少時期停止させ、最初に、透過した水素を燃焼させ、次いで、電池を充電するための電気化学反応を提供することである。
【0024】
上述の方法では、カソード圧力に対して、好ましくは既存のアノード圧力に対しても、圧力下で、少量(すなわち、質量またはモル量)の水素を、他の閉じたアノードに添加することによって、アノード側12を通して水素を分散させる。膜を通るいくらかの水素透過を可能にすることは、アノード側12を通る水素の分配を助けると考えられる。添加される水素の量は、好ましくは電池を充電するのに十分な水素濃度を生成するのに十分である。3%の水素で十分である。上述の方法はパージ弁24を開くことを伴わないが、水素が分散された後に、少量の水素のみをアノード側12に送達した後に入口弁18を閉じた状態でパージ弁24を開くことを使用して、アノード側12を減圧することができる。パージ弁24を通って放出される水素の量は入口弁18が開いた状態での従来の始動パージの下よりもはるかに少なく、新しいかまたはそうでなければ最小限の透過性の膜を有するモジュール10と共に使用されるときに、始動手順に必要な時間を有効に短縮することができる。
【0025】
モジュール10を始動させようとするとき、またはそうでなければ一定量の水素のみをアノード側12に供給しようとするとき、直感に反するが、入口弁18を一時的に閉じることはカソード側14への水素透過が最終的に停止するか、または電気化学反応が起こり、電池を充電するのに十分小さくなることを可能にする。セル電圧は電気化学反応が起こるにつれて上昇し、セルを充電する。しかしながら、特にシャットダウン抵抗30が取り付けられている場合には、電荷はすぐに消失する。したがって、セル充電を監視し、モジュール10を自動的に作動させる(すなわち、最小充電セル(またはセルのグループ)が所定の最小充電状態に達するとすぐに、入口弁18を再開し、大型送風機28をオンにする)自動制御装置を提供することが有用であり得る。
【0026】
始動方法が最小透過性膜を有するモジュール10と共に使用される場合、典型的なシャットダウンリザーバ20に含まれる水素の量を透過させることは、数分以上を要し得る。この場合、入口弁18は非常に短時間だけ開放され、その結果、シャットダウンリザーバ20は完全には加圧されず、水素タンク16から充填されない。代替的に又は追加的に、前方圧力調整器20によって提供される圧力差は、始動手順中に増加させることができる。別の代替例では、バイパスラインをシャットダウンリザーバ20の周りに設けて、入口弁18を開くと、入口弁18の下流に加える水素が、前方圧力レギュレータ20が許容する量だけ一時的に供給されるようにすることができる。この場合、バイパスラインはある程度、より小さなシャットダウンリザーバ20として作用し、それに応じて、大きさを決める(または、小さなリザーバを備える)ことができる。あるいは任意のパージ弁31を使用して、燃料電池のアノード側の水素圧力をより迅速に低下させることができ、および/または燃料電池のアノード側からカソード側にガスを導入することによって燃料電池スタック全体にわたる十分な水素分布を確実にすることができ、それによって、ガスは燃料電池スタック内部で燃焼(触媒的に促進され得る)によって消費される。
【0027】
代替の方法では、異なる方法(第1の圧力を加えること以外の)を使用して水素を分散させることができる。例えば、少量の水素を、モジュールを通して排出することができ、または水素再循環ループをバッテリによって短時間電力供給することができる。水素を分散させた後、水素は第2の圧力、すなわち、通常の動作圧力よりも低い圧力で、任意選択で0.5psi以下または0.25psi以下の圧力差で、任意選択で可変圧力で加えられる。次に、モジュールは動作状態に変換される。しかしながら、これらの方法は漏れやすいモジュールを有効に始動させることができるが、水素を分散させるために第1の圧力を加えるほど効率的ではない。
図1