(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】造形データの生成方法、人工爪の製造方法及び人工爪の製造システム
(51)【国際特許分類】
A45D 31/00 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
A45D31/00
(21)【出願番号】P 2021019303
(22)【出願日】2021-02-09
(62)【分割の表示】P 2019510201の分割
【原出願日】2018-03-29
【審査請求日】2021-02-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2017066067
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017084814
(32)【優先日】2017-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】酒巻 俊一
(72)【発明者】
【氏名】塩出 浩久
【合議体】
【審判長】窪田 治彦
【審判官】八木 敬太
【審判官】柿崎 拓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/044693(WO,A1)
【文献】特表2017-500983(JP,A)
【文献】国際公開第2016/042610(WO,A1)
【文献】特開2011-67385(JP,A)
【文献】特開2014-212819(JP,A)
【文献】特開2004-5631(JP,A)
【文献】特開2010-120260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
形成する人工爪の三次元の外形形状を特定可能な形状情報を受け付ける受付ステップと、
三次元の造形データ及び所定の造形情報に基づいて三次元造形装置により光造形された後、所定の硬化条件で硬化装置により光硬化された造形物に生じる反りの変化を含む収縮状態を、予め定めた予測情報に基づいて予測する予測ステップと、
前記形状情報から得られる前記形成する人工爪の三次元の形状データを、前記予測ステップの予測結果に基づいて補正して、前記形成する人工爪の造形物を前記三次元造形装置により光造形する三次元の造形データを生成する生成ステップと、
前記生成ステップにより生成された前記造形データを出力する出力ステップと、
を含み、
前記予測情報
は、前記人工爪の形状データと、光造形されて光硬化された造形物の硬化後の外形形状を示す三次元の硬化後データと、前記三次元造形装置及び前記三次元造形装置において光造形に用いる光造形材料を含む造形条件
並びに適用した造形データを示す造形情報と、前記硬化条件を示す硬化情報と、が関連付けて記憶されているデータベースである、
造形データの生成方法。
【請求項2】
前記造形データに基づいて光造形されて光硬化された造形物の硬化後の外形形状を示す三次元の硬化後データを取得する取得ステップと、
前記取得ステップにおいて取得された前記硬化後データ、該硬化後データに対する前記形成する人工爪の形状データ、該形状データに対して前記予測ステップで予測された予測結果、及び該予測結果に基づいて生成された前記造形データに基づいて前記予測情報を更新する更新ステップと、
を含む請求項1に記載の造形データの生成方法。
【請求項3】
複数の前記形成する人工爪が基板上に配列されて、前記三次元造形装置により一体に形成されるように、複数の前記形成する人工爪の前記造形データを合成する合成ステップを含む請求項1又は請求項2に記載の造形データの生成方法。
【請求項4】
前記合成ステップは、複数の前記形成する人工爪の各々を識別可能に特定する識別情報が前記基板上に形成されるデータを付与することを含む請求項3に記載の造形データの生成方法。
【請求項5】
前記合成ステップは、各々に前記複数の前記形成する人工爪が配列された複数の前記基板が前記三次元造形装置により並行して光造形されるように前記造形データを合成する請求項3又は請求項4に記載の造形データの生成方法。
【請求項6】
形成する人工爪の三次元の外形形状を特定可能な形状情報を受け付ける受付ステップと、
三次元の造形データ及び所定の造形情報に基づいて三次元造形装置により光造形された後、所定の硬化条件で硬化装置により光硬化された造形物に生じる反りの変化を含む収縮状態を、予め定めた予測情報に基づいて予測する予測ステップと、
前記形状情報から得られる前記形成する人工爪の三次元の形状データを、前記予測ステップの予測結果に基づいて補正して、前記形成する人工爪の造形物を前記三次元造形装置により光造形する三次元の造形データを生成する生成ステップと、
前記生成ステップにより生成された前記造形データに基づき、前記三次元造形装置により造形物を生成する造形ステップと、
前記造形ステップにより造形された前記造形物を更に光硬化させる硬化ステップと、
を含み、
前記予測情報
は、前記人工爪の形状データと、光造形されて光硬化された造形物の硬化後の外形形状を示す三次元の硬化後データと、前記三次元造形装置及び前記三次元造形装置において光造形に用いる光造形材料を含む造形条件
並びに適用した造形データを示す造形情報と、前記硬化条件を示す硬化情報と、が関連付けて記憶されているデータベースである、
人工爪の製造方法。
【請求項7】
前記硬化ステップにより光硬化された硬化後の造形物から該造形物の外形形状を示す三次元の硬化後データを取得する取得ステップと、
前記硬化後データと前記形成する人工爪の形状データとを比較することで、前記硬化後の造形物を評価する評価ステップと、
を含む請求項6に記載の人工爪の製造方法。
【請求項8】
前記評価ステップの評価結果に基づいて、前記予測情報を更新する更新ステップを含む請求項7に記載の人工爪の製造方法。
【請求項9】
前記硬化ステップに先立って、前記造形ステップにより光造形された造形物から該造形物の光造形に用いた余剰の光造形材料を除去する洗浄ステップを含む請求項6から請求項8の何れか1項に記載の人工爪の製造方法。
【請求項10】
入力される三次元の造形データに基づいて三次元の造形物を光造形する三次元造形装置と、
前記三次元造形装置により光造形された前記造形物を光硬化させる硬化装置と、
形成する人工爪の三次元の外形形状を特定可能な形状情報を受け付ける受付部、三次元の造形データ及び所定の造形情報に基づいて前記三次元造形装置により光造形された後、所定の硬化条件で前記硬化装置により光硬化された造形物に生じる反りの変化を含む収縮状態を、予め定められて記憶された予測情報に基づいて予測する予測部、前記形状情報から得られる前記形成する人工爪の三次元の形状データを、前記予測部の予測結果に基づいて補正して、前記形成する人工爪の造形物を前記三次元造形装置により光造形する三次元の造形データを生成する生成部、及び前記造形データを前記三次元造形装置に出力する出力部を含む造形設計装置と、
を有し、
前記予測情報
は、前記人工爪の形状データと、光造形されて光硬化された造形物の硬化後の外形形状を示す三次元の硬化後データと、前記三次元造形装置及び前記三次元造形装置において光造形に用いる光造形材料を含む造形条件
並びに適用した造形データを示す造形情報と、前記硬化条件を示す硬化情報と、が関連付けて記憶されているデータベースである、
人工爪の製造システム。
【請求項11】
前記造形設計装置は、
前記造形データに基づいて光造形されて光硬化された造形物の硬化後の外形形状を示す三次元の硬化後データを取得する取得部と、
前記取得部において取得された前記硬化後データ、該硬化後データに対する前記形成する人工爪の形状データ、該形状データに対して前記予測部で予測された予測結果、及び該予測結果に基づいて生成された前記造形データに基づいて前記予測情報を更新する更新部と、
を含む請求項10に記載の人工爪の製造システム。
【請求項12】
前記造形設計装置は、
複数の前記形成する人工爪が基板上に配列されて、前記三次元造形装置により一体に形成されるように、複数の前記形成する人工爪の前記造形データを合成する合成部を含む請求項10又は請求項11に記載の人工爪の製造システム。
【請求項13】
前記造形設計装置の前記合成部は、複数の前記形成する人工爪の各々を識別可能に特定する識別情報が前記基板上に形成されるデータを付与することを含む請求項12に記載の人工爪の製造システム。
【請求項14】
前記造形設計装置の前記合成部は、各々に前記複数の前記形成する人工爪が配列された複数の前記基板が前記三次元造形装置により並行して造形されるように前記造形データを合成する請求項12又は請求項13に記載の人工爪の製造システム。
【請求項15】
前記硬化装置により光硬化された硬化後の造形物から該造形物の外形形状を示す三次元の硬化後データを取得する取得部、及び前記硬化後データと前記形成する人工爪の形状データとを比較することで、前記硬化後の造形物を評価する評価部を有する評価装置を含む請求項10から請求項14の何れか1項に記載の人工爪の製造システム。
【請求項16】
前記造形設計装置は、前記評価装置の前記評価部の評価結果に基づいて、前記予測情報を更新する更新部を含む請求項15に記載の人工爪の製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性組成物、人工爪、人工爪の造形データ生成方法、人工爪の製造方法及び人工爪の製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ネイルケア、マニュキア、ペデキュアなどの手足の爪のケア、化粧、装飾を施すネイルアートが普及している。近年、装飾した付け爪(即ち、人工爪)を用いたネイルチップ、スカルプチャ、チップオーバーレイなどのネイルアートの人気が高まっている。
【0003】
ネイルアートとは、手足の爪に施す化粧や装飾の事である。ネイルアートを施す店をネイルサロン、その技術者をネイリストと言う。さまざまなネイルアート用品が市販されており、個人でプロ顔負けのネイルアートを行っている女性も多い。
19世紀にアメリカで自動車用のラッカー塗料が発明され、この技術を応用して現在使われているマニキュアが開発された。
しかしながら、ラッカー塗料を応用したマニキュアは、現在も広く普及しているが、天然爪との接着性に乏しく、施術後短期間で剥離、離脱することが問題であった。このため、歯科用常温重合レジンを応用した人工爪材料が開発された。
【0004】
人工爪材料は、ラッカー塗料を応用したマニキュアと比較すると、強度、耐久性に優れ、一部のプロネイリストには受け入れられたものの、アクリルモノマー由来の刺激性や、刺激臭等さらには、施術操作性の悪さなどにより、一般のネイリストには十分に普及しなかった。
しかし、最近では人工爪材料の臭気刺激性や施術操作性を改善したジェルネイルが市場の中心となっている。現在市販されているジェルネイルは、(メタ)アクリル系モノマーと光重合開始材とを主構成成分とする高粘度液体材料であり、素爪に塗布し紫外線を照射することにより硬化する。これらの市販ジェルネイルは、開発当初の人工爪材料と比較して、臭気刺激及び皮膚刺激が少なく、施術操作性が良好であることから、一般のネイリストの多くに受け入れられている。
特開2010-37330号公報には、硬化性の改善された人工爪組成物に関して、特定の光重合開始剤を用いることを特徴とする人工爪組成物が開示されている。
【0005】
特開2010-110451号公報には、フィット性に優れるのみならず、個々の爪に適合した自然な外観を有する人工爪として、爪形状を有する外層と、その外層に直接又は間接に取り付けられた内装とを含み、外層と内層とが協働して、全体として人工爪の長手方向中心軸に垂直な断面が所望の湾曲状態に形成される多層構造の人工爪が提案されている。
また、特開2015-209375号公報には、人工爪を自爪から容易に除去できる人工爪原料組成物として、光照射により硬化する人工爪原料組成物が記載されている。
【0006】
近年、所謂3Dプリンタと呼ばれる三次元造形装置が開発されて、様々な分野で利用されつつある。ネイルアートの分野に3Dプリンタを適用しようとする場合、製造した人工爪に対して、ある程度の硬さが要求され、人工爪の製造には、硬化工程が必要となる。しかし、硬化させる過程においては、人工爪に硬化収縮による変形が生じ、このために、製造精度の低下が生じ、人工爪を装着した際には、高いフィット感が得られないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、光硬化性組成物、人工爪、人工爪を高精度で製造できる造形データの生成方法、人工爪の製造方法、及び人工爪の製造システムの提供を目的とする。
【0008】
近年、三次元プリンタ(即ち、3Dプリンタ)が開発され様々な分野に応用されている。ネイルアートの分野に3Dプリンタを適用しようとする場合、従来のジェルネイル用の硬化性樹脂は、直接素爪に塗布して硬化させることにより使用することが想定されており、光造形法によるネイルチップ作成の用途に適しているとはいえず、硬化物の曲げ強度、曲げ弾性率、屈曲耐性、引張強度及び伸び率等に問題がある。
3Dプリンタを用い、光造形物、好ましくは、人工爪を作製する場合、実用性を考慮すると、光硬化後の光硬化性組成物に対し、優れた曲げ強度(即ち、曲げ強さ)、曲げ弾性率、屈曲耐性、引張強度及び伸び率が求められる。
【0009】
即ち、本発明の一実施形態の目的は、光造形に用いられ、光硬化後において、曲げ強度及び曲げ弾性率に優れ、更には屈曲耐性、引張強度及び伸び率にも優れる光硬化性組成物を提供することである。
また、本発明の一実施形態の目的は、上記光硬化性組成物の硬化物であって、曲げ強度及び曲げ弾性率に優れ、更には屈曲耐性、引張強度及び伸び率にも優れる人工爪を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、鋭意検討した結果、特定のモノマー種の組み合わせを含有する光硬化性組成物が、光硬化後において、曲げ強度及び曲げ弾性率に優れ、更には屈曲耐性、引張強度及び伸び率にも優れることを見出し、さらに、光造形による人工爪の作製に特に好適であることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、前記課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
【0011】
[1] 光造形に用いられる光硬化性組成物であって、1分子中に水酸基及びカルボキシ基を有さず2個の芳香環と2個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有するジ(メタ)アクリルモノマーから選ばれる少なくとも1種であり重量平均分子量が400以上800以下である(メタ)アクリルモノマー(X)と、1分子中に少なくとも1個の環構造と、1個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有する(メタ)アクリルモノマーから選ばれる少なくとも1種であり重量平均分子量が130以上350以下である(メタ)アクリルモノマー(D)、並びに、光重合開始剤を含有する光硬化性組成物。
[2] 前記(メタ)アクリルモノマー(X)を構成するジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種が、1分子中にエーテル結合を有する[1]に記載の光硬化性組成物。
[3] 前記(メタ)アクリルモノマー(X)を構成するジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種が、1分子中に1個以上10個以下のエーテル結合を有する[1]又は[2]に記載の光硬化性組成物。
【0012】
[4] 前記(メタ)アクリルモノマー(X)を構成するジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種が、下記一般式(x-1)で表される化合物である[1]~[3]のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
【化1】
〔一般式(x-1)中、R
1x、R
2x、R
11x、及びR
12xは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。R
3x及びR
4xは、それぞれ独立に、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数2~4のアルキレン基を表す。mx及びnxは、それぞれ独立に、0~10を表す。但し、1≦(mx+nx)≦10を満たす。〕
【0013】
[5] 前記アクリルモノマー(X)を構成するジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種が、下記一般式(x-2)で表される化合物である[1]~[4]のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
【化2】
〔一般式(x-2)中、R
5x、R
6x、R
7x、R
8x、R
11x、及びR
12xは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。mx及びnxは、それぞれ独立に、0~10を表す。但し、1≦(mx+nx)≦10を満たす。〕
【0014】
[6] 前記(メタ)アクリルモノマー(D)を構成する(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種が、下記の一般式(d-1)で表される化合物である[1]~[5]のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
【化3】
〔一般式(d-1)中、R
1dは水素原子又はメチル基を表す。R
2dは単結合、又は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素原子数1~5のアルキレン基を表す。R
3dは単結合、エーテル結合(-O-)、エステル結合(-O-(C=O)-)、又は-C
6H
4-O-を表す。A
1dは置換基を有していてもよい芳香環を表す。ndは、1~2を表す。〕
【0015】
[7] 前記(メタ)アクリルモノマー(D)を構成する(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種が、下記一般式(d-2)で表される化合物である[6]に記載の光硬化性組成物。
【化4】
〔一般式(d-2)中、R
1d、R
4d及びR
5dは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。A
2dは置換基を有していてもよい芳香環を表す。ndは、1~2を表す。〕
【0016】
[8] 前記(メタ)アクリルモノマー(D)を構成する(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種が、下記の一般式(d-3)で表される化合物である[1]~[5]のいずれか1項に記載の光硬化性組成物。
【化5】
〔一般式(d-3)中、R
6dは水素原子又はメチル基を表し、R
7dは単結合又はメチレン基を表す。A
3dは少なくとも1個の芳香環以外の環構造を表す。〕
【0017】
[9] 前記芳香環以外の環構造が、ジシクロペンテニル骨格、ジシクロペンタニル骨格、シクロヘキサン骨格、テトラヒドロフラン骨格、モルホリン骨格、イソボルニル骨格、ノルボルニル骨格、ジオキソラン骨格又はジオキサン骨格を有する環構造である[8]に記載の光硬化性組成物。
[10] 前記(メタ)アクリルモノマー(D)を構成する(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種が、1分子中に少なくとも1個の環構造と、1個の水酸基と、1個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有する(メタ)アクリルモノマーである[1]~[5]のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
[11] 前記(メタ)アクリルモノマー(D)が、o-フェニルフェノールEO変性アクリレートである[1]~[6]のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
[12] 前記(メタ)アクリルモノマー(D)が、3-フェノキシベンジルアクリレートである[1]~[6]のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
【0018】
[13] 前記アクリルモノマー(X)の含有量が、(メタ)アクリルモノマー成分の合計含有量1000質量部に対し、200質量部以上である[1]~[12]のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
[14] 前記アクリルモノマー(D)の含有量が、前記(メタ)アクリルモノマー成分の合計含有量1000質量部に対し、30質量部~800質量部である[1]~[13]のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
[15] 前記光重合開始剤が、アルキルフェノン系化合物及びアシルフォスフィンオキサイド系化合物から選ばれる少なくとも1種である[1]~[14]のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
[16] 前記光重合開始剤の含有量が、(メタ)アクリルモノマー成分の合計含有量1000質量部に対し、1質量部~50質量部である[1]~[15]のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
【0019】
[17] E型粘度計を用いて測定された、25℃、50rpmにおける粘度が、20mPa・s~3000mPa・sである[1]~[16]のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
[18] 光造形による、人工爪の作製に用いられる<1>~<17>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
[19] [18]に記載の光硬化性組成物の硬化物である人工爪。
【0020】
また、人工爪を高精度で製造できる造形データの生成方法、人工爪の製造方法、及び人工爪の製造システムの具体的な態様は、以下の通りである。
<1> 形成する人工爪の三次元の外形形状を特定可能な形状情報を受け付ける受付ステップと、
三次元の造形データ及び所定の造形情報に基づいて三次元造形装置により光造形された後、所定の硬化条件で硬化装置により光硬化された造形物に生じる収縮状態を、予め定めた予測情報に基づいて予測する予測ステップと、
前記形状情報から得られる前記形成する人工爪の三次元の形状データを、前記予測ステップの予測結果に基づいて補正して、前記形成する人工爪の造形物を前記三次元造形装置により光造形する三次元の造形データを生成する生成ステップと、
前記生成ステップにより生成された前記造形データを出力する出力ステップと、
を含む造形データの生成方法。
【0021】
<2> 前記予測情報には、前記三次元造形装置、前記三次元造形装置において光造形に用いる光造形材料を含む造形条件を示す造形情報、及び前記硬化条件を示す硬化情報を含む<1>の造形データの生成方法。
<3> 前記予測情報には、予め製造された前記人工爪の形状データ、該形状データから生成された造形データ、及び該造形データに基づいて光造形されて光硬化された造形物の硬化後の外形形状を示す三次元の硬化後データが含まれる<1>又は<2>の造形データの生成方法。
【0022】
<4> 前記造形データに基づいて光造形されて光硬化された造形物の硬化後の外形形状を示す三次元の硬化後データを取得する取得ステップと、
前記取得ステップにおいて取得された前記硬化後データ、該硬化後データに対する前記形成する人工爪の形状データ、該形状データに対して前記予測ステップで予測された予測結果、及び該予測結果に基づいて生成された前記造形データに基づいて前記予測情報を更新する更新ステップと、
を含む<1>から<3>の何れかの造形データの生成方法。
【0023】
<5> 複数の前記形成する人工爪が基板上に配列されて、前記三次元造形装置により一体に形成されるように、複数の前記形成する人工爪の前記造形データを合成する合成ステップを含む<1>から<4>の何れかの造形データの生成方法。
<6> 前記合成ステップは、複数の前記形成する人工爪の各々を識別可能に特定する識別情報が前記基板上に形成されるデータを付与することを含む<5>の造形データの生成方法。
<7> 前記合成ステップは、各々に前記複数の前記形成する人工爪が配列された複数の前記基板が前記三次元造形装置により並行して光造形されるように前記造形データを合成する<5>又は<6>の造形データの生成方法。
【0024】
<8> 形成する人工爪の三次元の外形形状を特定可能な形状情報を受け付ける受付ステップと、
三次元の造形データ及び所定の造形情報に基づいて三次元造形装置により光造形された後、所定の硬化条件で硬化装置により光硬化された造形物に生じる収縮状態を、予め定めた予測情報に基づいて予測する予測ステップと、
前記形状情報から得られる前記形成する人工爪の三次元の形状データを、前記予測ステップの予測結果に基づいて補正して、前記形成する人工爪の造形物を前記三次元造形装置により光造形する三次元の造形データを生成する生成ステップと、
前記生成ステップにより生成された前記造形データに基づき、前記三次元造形装置により造形物を生成する造形ステップと、
前記造形ステップにより造形された前記造形物を更に光硬化させる硬化ステップと、
を含む人工爪の製造方法。
【0025】
<9> 前記硬化ステップにより光硬化された硬化後の造形物から該造形物の外形形状を示す三次元の硬化後データを取得する取得ステップと、
前記硬化後データと前記形成する人工爪の形状データとを比較することで、前記硬化後の造形物を評価する評価ステップと、
を含む<8>の人工爪の製造方法。
<10> 前記評価ステップの評価結果に基づいて、前記予測情報を更新する更新ステップを含む<9>の人工爪の製造方法。
<11> 前記硬化ステップに先立って、前記造形ステップにより光造形された造形物から該造形物の光造形に用いた余剰の光造形材料を除去する洗浄ステップを含む<8>から<10>の何れかの人工爪の製造方法。
【0026】
<12> 入力される三次元の造形データに基づいて三次元の造形物を光造形する三次元造形装置と、
前記三次元造形装置により光造形された前記造形物を光硬化させる硬化装置と、
形成する人工爪の三次元の外形形状を特定可能な形状情報を受け付ける受付部、三次元の造形データ及び所定の造形情報に基づいて前記三次元造形装置により光造形された後、所定の硬化条件で前記硬化装置により光硬化された造形物に生じる収縮状態を、予め定められて記憶された予測情報に基づいて予測する予測部、前記形状情報から得られる前記形成する人工爪の三次元の形状データを、前記予測部の予測結果に基づいて補正して、前記形成する人工爪の造形物を前記三次元造形装置により光造形する三次元の造形データを生成する生成部、及び前記造形データを前記三次元造形装置に出力する出力部を含む造形設計装置と、
を有する人工爪の製造システム。
【0027】
<13> 前記予測情報には、前記三次元造形装置、前記三次元造形装置において造形に用いる光造形材料を含む造形条件を示す造形情報、並び前記硬化条件を示す硬化情報が含まれる<12>の人工爪の製造システム。
<14> 前記造形設計装置に記憶された前記予測情報には、予め製造された前記人工爪の形状データ、該形状データから生成された造形データ、及び該造形データに基づいて光造形されて光硬化された造形物の硬化後の外形形状を示す三次元の硬化後データが含まれる<12>又は<13>の人工爪の製造システム。
<15> 前記造形設計装置は、
前記造形データに基づいて光造形されて光硬化された造形物の硬化後の外形形状を示す三次元の硬化後データを取得する取得部と、
前記取得部において取得された前記硬化後データ、該硬化後データに対する前記形成する人工爪の形状データ、該形状データに対して前記予測部で予測された予測結果、及び該予測結果に基づいて生成された前記造形データに基づいて前記予測情報を更新する更新部と、
を含む<12>から<14>の何れかの人工爪の製造システム。
【0028】
<16> 前記造形設計装置は、
複数の前記形成する人工爪が基板上に配列されて、前記三次元造形装置により一体に形成されるように、複数の前記形成する人工爪の前記造形データを合成する合成部を含む<12>から<15>の何れかの人工爪の製造システム。
<17> 前記造形設計装置の前記合成部は、複数の前記形成する人工爪の各々を識別可能に特定する識別情報が前記基板上に形成されるデータを付与することを含む<16>の人工爪の製造システム。
<18> 前記造形設計装置の前記合成部は、各々に前記複数の前記形成する人工爪が配列された複数の前記基板が前記三次元造形装置により並行して造形されるように前記造形データを合成する<16>又は<17>の人工爪の製造システム。
【0029】
<19> 前記硬化装置により光硬化された硬化後の造形物から該造形物の外形形状を示す三次元の硬化後データを取得する取得部、及び前記硬化後データと前記形成する人工爪の形状データとを比較することで、前記硬化後の造形物を評価する評価部を有する評価装置を含む<12>から<18>の何れかの人工爪の製造システム。
<20> 前記造形設計装置は、前記評価装置の前記評価部の評価結果に基づいて、前記予測情報を更新する更新部を含む<19>の人工爪の製造システム。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように本発明の一実施形態によれば、人工爪を高精度に製造できる造形データが得られる。また、本発明の一実施形態によれば、人工爪を高精度に製造できる。
【0031】
本発明の一実施形態によれば、光造形に用いられ、光硬化後において、曲げ強度及び曲げ弾性率に優れ、更には屈曲耐性及び伸び率にも優れる光硬化性組成物が提供される。
また、本発明の一実施形態によれば、上記光硬化性組成物の硬化物であって、曲げ強度及び曲げ弾性率に優れ、更には屈曲耐性及び伸び率にも優れる人工爪が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本実施の形態に係る人工爪の製造工程を示す流れ図である。
【
図2】形成する人工爪及び硬化後の人工爪の概略を示す斜視図である。
【
図3】本実施の形態に係る造形設計システムの構成を示すブロック図である。
【
図5】光造形される造形物の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において「エーテル結合」とは、通常定義されるとおり、2つの炭化水素基間を酸素原子によって結ぶ結合(即ち、-O-で表される結合)を示す。従って、エステル結合(即ち、-C(=O)-O-)中の「-O-」は、「エーテル結合」には該当しない。
また、本明細書において、「(メタ)アクリルモノマー」は、アクリルモノマー及びメタクリルモノマーの両方を包含する概念である。
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの両方を包含する概念である。
また、本明細書において、「(メタ)アクリロイルオキシ基」は、アクリロイルオキシ基及びメタクリロイルオキシ基の両方を包含する概念である。
【0034】
[光硬化性組成物]
本発明の一実施形態に係る光硬化性組成物は、光造形に用いられる光硬化性組成物であって、1分子中に水酸基及びカルボキシ基を有さず2個の芳香環と2個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有するジ(メタ)アクリルモノマーから選ばれる少なくとも1種であり重量平均分子量が400以上800以下である(メタ)アクリルモノマー(X)と、1分子中に少なくとも1個の環構造と、1個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有する(メタ)アクリルモノマーから選ばれる少なくとも1種であり重量平均分子量が130以上350以下である(メタ)アクリルモノマー(D)、並びに、光重合開始剤を含有する光硬化性組成物である。
【0035】
本発明の一実施形態の光硬化性組成物は、上記アクリルモノマー(X)と上記(メタ)アクリルモノマー(D)との組み合わせを含むことにより、光硬化後において、曲げ強度及び曲げ弾性率に優れ、更には屈曲耐性及び伸び率にも優れる。
従って、本実施形態の光硬化性組成物を用い、光造形によって作製された光造形物、好ましくは、人工爪も、曲げ強度及び曲げ弾性率に優れ、更には屈曲耐性及び伸び率にも優れる。 更に、本実施形態の光硬化性組成物は、光造形による人工爪等(つまり、光造形物の好ましい形態の例、以下同じ。)の作製に適した粘度を有し、光硬化後において曲げ強度、曲げ弾性率、屈曲耐性、引張強度及び伸び率が人工爪として好適な範囲である。つまり、本実施形態の光硬化性組成物は光硬化人工爪組成物とすることができる。
【0036】
本明細書中において、「(メタ)アクリルモノマー成分」とは、光硬化性組成物に含まれる(メタ)アクリルモノマー全体を指す。
「(メタ)アクリルモノマー成分」には、少なくとも(メタ)アクリルモノマー(X)及び(メタ)アクリルモノマー(D)が含まれる。
「(メタ)アクリルモノマー成分」には、他の(メタ)アクリルモノマーが含まれていてもよい。
【0037】
本実施形態の光硬化性組成物では、(メタ)アクリルモノマー(X)を含むことにより、(メタ)アクリルモノマー(X)に代えて、1分子中に水酸基及びカルボキシ基を有さず1個の芳香環と1個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有する(メタ)アクリルモノマーを含む場合と比較して、光硬化後の曲げ強度及び曲げ弾性率が向上する。
【0038】
本実施形態の光硬化性組成物では、(メタ)アクリルモノマー(X)を含むことにより、(メタ)アクリルモノマー(X)に代えて、1分子中に水酸基及びカルボキシ基を有さず1個の芳香環と2個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有するジ(メタ)アクリルモノマーを含む場合と比較して、モノマーの結晶性が高くなりすぎる現象が抑制され、光硬化性組成物の粘度が低減される。
【0039】
本実施形態の光硬化性組成物では、(メタ)アクリルモノマー(X)を含むことにより、(メタ)アクリルモノマー(X)に代えて、1分子中に水酸基及びカルボキシ基を有さず3個以上の芳香環を有する(メタ)アクリルモノマーを用いた場合と比較して、光硬化性組成物の粘度が低減される。
【0040】
前記光硬化性組成物では、(メタ)アクリルモノマー(X)を含むことにより、(メタ)アクリルモノマー(X)に代えて、1分子中に水酸基及びカルボキシ基を有さず3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリルモノマーを用いた場合と比較して、光硬化後の屈曲耐性、引張強度及び伸び率が向上する。
【0041】
また、(メタ)アクリルモノマー(X)の重量平均分子量の上限である800は、光硬化後の、曲げ強度及び曲げ弾性率の観点から設けられた上限である。
なお、(メタ)アクリルモノマー(X)の重量平均分子量の下限である400は、モノマーの製造容易性又は入手容易性の観点から設けられた下限である。
【0042】
更に、本実施形態の光硬化性組成物では、(メタ)アクリルモノマー(D)を含むことにより、光硬化後の屈曲耐性が向上する。また、メタ)アクリルモノマー(D)を含むことにより、光硬化後の曲げ強度、曲げ弾性率、屈曲耐性、引張強度及び伸び率がバランス良く優れている。
理由は明らかではないが、(メタ)アクリルモノマー(D)が少なくとも1つの環構造を有することによって、(メタ)アクリルモノマー(X)の環構造と(メタ)アクリルモノマー(D)の環構造の分子間力および(メタ)アクリルモノマー(D)の環構造同士の分子間力が強まることにより屈曲耐性が向上していると考えられる。
(メタ)アクリルモノマー(D)の重量平均分子量の上限である350は、光硬化後の、曲げ強度及び曲げ弾性率の観点から設けられた上限である。
(メタ)アクリルモノマー(D)の重量平均分子量の下限である130は、モノマーの製造容易性又は入手容易性の観点から設けられた下限である。
【0043】
本実施形態の光硬化性組成物は、得られる人工爪等の実用性の観点から、光硬化後において、以下の曲げ強度(曲げ強さ)及び以下の曲げ弾性率を満たすことが好ましい。
即ち、本実施形態の光硬化性組成物は、80mm×10mm×厚さ4mmの大きさに造形して造形物とし、得られた造形物に対し5J/cm2の条件で紫外線照射して光硬化させて光造形物(即ち、硬化物。以下同じ。)とし、ISO178(又は、JIS K7171)に準拠して曲げ強度(曲げ強さ)を測定したときに、この曲げ強度(曲げ強さ)が、10MPa以上を満たすことが好ましく、40MPa以上を満たすことがさらに好ましく、60MPa以上を満たすことがより好ましい。
また、本実施形態の光硬化性組成物は、80mm×10mm×厚さ4mmの大きさに造形して造形物とし、得られた造形物に対し5J/cm2の条件で紫外線照射して光硬化させて光造形物とし、ISO178(又は、JIS K7171)に準拠して曲げ弾性率を測定したときに、この曲げ弾性率が、400MPa以上であることが好ましく、1500MPa以上を満たすことがさらに好ましく、2000MPa以上を満たすことがより好ましい。
【0044】
本実施形態の光硬化性組成物は、得られる人工爪等の実用性の観点から、光硬化後において、以下の屈曲耐性を満たすことが好ましい。
即ち、光硬化性樹脂組成物を、3Dプリンタを用い、外径8mm、内径7.5mm(厚みが0.5mm)で、円周90°、長さ15mmの大きさに造形し、波長365nmの紫外線を5J/cm2の条件で照射して本硬化させることにより光造形物とし、得られた造形物5個を、縦50mm、横50mm、高さ50mmの金属製立方体の下に1枚置き、上から20kg重の荷重をかけた後、割れたか否かを目視で確認したときに、5枚割れずに形状を保持することが好ましい。
【0045】
また、本実施形態の光硬化性樹脂組成物を、3Dプリンタを用い、外径8mm、内径7mm(厚みが1.0mm)で、円周90°、長さ15mmの大きさに造形し、波長365nmの紫外線を5J/cm2の条件で照射して本硬化させることにより光造形物とし、得られた造形物5個を、縦50mm、横50mm、高さ50mmの金属製立方体の下に1枚置き、上から20kg重の荷重をかけた後、割れたか否かを目視で確認したときに、5枚割れずに形状を保持することが好ましい。
【0046】
本実施形態の光硬化性組成物は、得られる人工爪等の実用性の観点から、光硬化後において、以下の引張強度及び伸び率を満たすことが好ましい。
即ち、光硬化性樹脂組成物を、3Dプリンタを用い、30mm×10mm×厚さ0.5mmの大きさに造形し、波長365nmの紫外線を5J/cm2の条件で照射して本硬化させることにより光造形物とし、ISO527-1(又は、JIS K7161)に記載されている方法に準拠し、得られた造形物(つまり、引張試験片)を、引張り試験装置を用い、チャック間距離20mm、引張速度5mm/分の条件で測定し、引張試験片が破断した時の引張強度が15MPa以上であることが好ましく、40MPa以上であることが好ましい。また、引張試験片が破断した時の伸び率が10%以上であることが好ましく、好ましくは20%以上であることがさらに好ましい。
【0047】
また、本実施形態の光硬化性組成物の光硬化後のガラス転移温度(Tg)は特に制限はないが、曲げ強度、曲げ弾性率、屈曲耐性、引張強度及び伸び率のバランスの観点から、光硬化後のガラス転移温度(Tg)は、20~100℃であることが好ましく、40~80℃であることがさらに好ましい。
【0048】
本実施形態において、「光造形」は、3Dプリンタを用いた三次元造形方法のうちの1種である。
光造形の方式としては、SLA(Stereo Lithography Apparatus)方式、DLP(Digital Light Processing)方式、インクジェット方式などが挙げられる。
本実施形態の光硬化性組成物は、SLA方式又はDLP方式の光造形に特に好適である。
【0049】
本発明の一実施形態において「光造形」は、造形材料を用いた立体像の造形において、造形材料として光造形材料を用いた造形(造形物の製造)としている。また、本実施の形態において「光硬化」は、光造形により得られた造形物を更に光により硬化させることをいう。
本実施の形態における光造形は、三次元造形装置(以下、3Dプリンタという)を用いた三次元造形方法のうちの一種である。具体的な光造形の方式としては、SLA(Stereo Lithography Apparatus)方式、DLP(Digital Light Processing)方式、及びインクジェット方式などが挙げられる。
【0050】
SLA方式としては、スポット状の紫外線レーザー光を光硬化性組成物に照射することにより立体造形物を得る方式が挙げられる。
SLA方式によって人工爪等を作製する場合、例えば、液状の光硬化性組成物を容器に貯留し、液状光硬化性組成物の液面に所望のパターンが得られるようにスポット状の紫外線レーザー光を選択的に照射して光硬化性組成物を硬化させ、所望の厚みの硬化層を造形テーブル上に形成し、次いで、造形テーブルを移動(即ち、上昇又は下降)させ、硬化層の上に1層分の液状光硬化性組成物を供給し、同様に硬化させ、連続した硬化層を得る積層操作を繰り返せばよい。
【0051】
DLP方式としては、面状の光を光硬化性組成物に照射することにより立体造形物を得る方式が挙げられる。DLP方式によって立体造形物を得る方法については、例えば、特許第5111880号公報及び特許第5235056号公報の記載を適宜参照することができる。
DLP方式によって造形物としての人工爪や歯科補綴物等を作製する場合、例えば、光源として高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプなどのレーザー光以外の光を発射するランプ、LEDなどを用い、光源と光硬化性組成物の造形面との間に、複数のデジタルマイクロミラーシャッターを面状に配置した面状描画マスクを配置し、前記面状描画マスクを介して光硬化性組成物の造形面に光を照射して所定の形状パターンを有する硬化層を順次積層させればよい。
【0052】
インクジェット方式としては、インクジェットノズルから光硬化性組成物の液滴を基材に連続的に吐出し、基材に付着した液滴に光を照射することにより立体造形物を得る方式が挙げられる。
インクジェット方式によって人工爪等を作製する場合、例えば、インクジェットノズル及び光源を備えるヘッドを平面内で走査させつつ、インクジェットノズルから光硬化性組成物を基材に吐出し、かつ吐出された光硬化性組成物に光を照射して硬化層を形成し、これらの操作を繰り返して、硬化層を順次積層させればよい。
【0053】
本実施形態の光硬化性組成物は、光造形による人工爪等の作製に対する適性の観点から、E型粘度計を用いて測定された、25℃、50rpmにおける粘度が、20mPa・s~3000mPa・sであることが好ましく、20mPa・s~1500mPa・sであることがさらに好ましく、20~1200mPa・sであることが特に好ましい。前記粘度の範囲の下限は、30mPa・sであることがより好ましく、40mPa・sであることが特に好ましい。
【0054】
また、光造形の方式に応じて、光硬化性組成物の、25℃、50rpmにおける粘度を調整してもよい。
例えば、SLA方式により人工爪等を作製する場合、前記粘度は、20mPa・s~3000mPa・sであることが好ましく、20mPa・s~1500mPa・sであることがさらに好ましく、30mPa・s~1200mPa・sであることが特に好ましい。
例えば、DLP方式により人工爪等を作製する場合、前記粘度は、50mPa・s~500mPa・sであることが好ましく、50mPa・s~250mPa・sであることがより好ましい。
例えば、インクジェット方式により人工爪等を作製する場合、前記粘度は、20mPa・s~500mPa・sであることが好ましく、20mPa・s~100mPa・sであることが好ましい。
【0055】
次に、本実施形態の光硬化性組成物の成分について説明する。
【0056】
<(メタ)アクリルモノマー(X)>
本実施形態の光硬化性組成物における(メタ)アクリルモノマー成分は、(メタ)アクリルモノマー(X)を含む。
(メタ)アクリルモノマー(X)は、1分子中に水酸基及びカルボキシ基を有さず2個の芳香環と2個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有するジ(メタ)アクリルモノマーから選ばれる少なくとも1種であり、重量平均分子量が400以上800以下である。
本実施形態の光硬化性組成物において、(メタ)アクリルモノマー(X)は、主として、光硬化後の曲げ強度及び曲げ弾性率向上に寄与する。
【0057】
上記(メタ)アクリルモノマー(X)は、1分子中に水酸基及びカルボキシ基を有さず2個の芳香環と2個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有するジ(メタ)アクリルモノマーの1種のみからなるものであってもよいし、このジ(メタ)アクリルモノマーの2種以上からなる混合物であってもよい。
【0058】
(メタ)アクリルモノマー(X)を構成するジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種は、光硬化後の破壊靱性をより向上させる観点から、1分子中にエーテル結合を有することが好ましい。
詳細には、(メタ)アクリルモノマー(X)を構成するジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種が1分子中にエーテル結合を有することにより、分子運動の自由度が増し、光硬化後の硬化物に柔軟性が付与されることで靱性が向上し、その結果、上記硬化物の破壊靱性(即ち、光硬化性組成物の光硬化後の破壊靱性)が向上する。
【0059】
上記ジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種は、1分子中に1個以上10個以下のエーテル結合を有することがより好ましい。
上記ジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種において、1分子中のエーテル結合の数が10個以下であると、光硬化後の曲げ強度及び曲げ弾性率がより向上する。
1分子中のエーテル結合の数は、光硬化後の曲げ強度及び曲げ弾性率をより向上させる観点から、2個以上6個以下であることが更に好ましく、2個以上4個以下であることが特に好ましい。
【0060】
上記ジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種は、光硬化性組成物の粘度を低減させ、光硬化後の、破壊靱性、曲げ強度、及び曲げ弾性率をより向上させる観点から、下記一般式(x-1)で表される化合物であることが更に好ましい。
【0061】
【0062】
一般式(x-1)中、R1x、R2x、R11x、及びR12xは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。R3x及びR4xは、それぞれ独立に、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数2~4のアルキレン基を表す。mx及びnxは、それぞれ独立に、0~10を表す。但し、1≦(mx+nx)≦10を満たす。
【0063】
一般式(x-1)中にR3xが複数存在する場合、複数のR3xは同一であっても異なっていてもよい。R4xについても同様である。
【0064】
前記一般式(x-1)では、R1x及びR2xは、メチル基であることが好ましい。
また、R3x及びR4xは、それぞれ独立に、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、1-メチルエチレン基、1-エチルエチレン基又は2-メチルトリメチレン基であることが好ましく、エチレン基又は1-メチルエチレン基であることがより好ましい。
さらに、R3x及びR4xは、共にエチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、1-メチルエチレン基又は2-メチルトリメチレン基であることが好ましく、共にエチレン基又は1-メチルエチレン基であることがより好ましい。
また、mx+nxは1~10であるが、光硬化後の曲げ強度及び曲げ弾性率をより向上させる観点から、2~6であることが特に好ましい。
【0065】
(メタ)アクリルモノマー(X)を構成するジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種は、光硬化性組成物の粘度を低減させ、光硬化後の、破壊靱性、曲げ強度、及び曲げ弾性率をより向上させる観点から、下記一般式(x-2)で表される化合物であることが更に好ましい。
【0066】
【0067】
一般式(x-2)中、R5x、R6x、R7x、R8x、R11x、及びR12xは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。mx及びnxは、それぞれ独立に、0~10を表す。但し、1≦(mx+nx)≦10満たす。
【0068】
一般式(x-2)中にR5xが複数存在する場合、複数のR5xは、同一であっても異なっていてもよい。R6x、R7x、及びR8xの各々についても同様である。
【0069】
一般式(x-2)において、R5x及びR6xのうちの一方がメチル基であって他方が水素原子であり、かつ、R7x及びR8xのうちの一方がメチル基であって他方が水素原子であることが好ましい。
一般式(x-2)において、特に好ましくは、R5x及びR8xが共にメチル基であって、R6x及びR7xが共に水素原子であることである。
【0070】
また、mx+nxは1~10であるが、光硬化後の曲げ強度及び曲げ弾性率をより向上させる観点から、2~6であることが特に好ましい。
【0071】
(メタ)アクリルモノマー(X)の具体例としては、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート(EO=2mol、2.2mol、2.6mol、3mol、4mol、又は10mol)、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート(PO=2mol、3mol、4mol、又は8mol)、エトキシ化ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート(EO=2mol、2.2mo1l、2.6mol、3mol、4mol、又は10mol)等が挙げられる。
例として、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、及びエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートの構造式を下記に示す。
【0072】
【0073】
本実施形態の光硬化性組成物において、(メタ)アクリルモノマー(X)の含有量は、(メタ)アクリルモノマー成分の合計含有量1000質量部に対し、組成物の粘度低減、並びに、光硬化後の曲げ強度及び曲げ弾性率向上の観点から、200質量部以上であることが好ましく、300質量部以上であることがより好ましく、400質量部以上であることが更に好ましく、500質量部以上であることが更に好ましく、550質量部以上であることが更に好ましい。
また、(メタ)アクリルモノマー(X)の含有量は、(メタ)アクリルモノマー成分の合計含有量1000質量部に対し、1000質量部未満であれば特に制限はないが、光硬化後の破壊靱性の観点から、950質量部以下であることが好ましく、900質量部以下であることがより好ましく、850質量部以下であることが更に好ましい。
【0074】
<(メタ)アクリルモノマー(D)>
本実施形態の光硬化性組成物は、(メタ)アクリルモノマー(D)を含む。
(メタ)アクリルモノマー(D)は、1分子中に少なくとも1個の環構造と、1個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有する(メタ)アクリルモノマーから選ばれる少なくとも1種であり重量平均分子量が130以上350以下である。
(メタ)アクリルモノマー成分が(メタ)アクリルモノマー(D)を含むことによって、光硬化後の屈曲耐性が顕著に向上する。
(メタ)アクリルモノマー(D)は、1分子中に少なくとも1個の環構造と、1個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有する(メタ)アクリルモノマーの1種のみからなるものであってもよいし、前記(メタ)アクリルモノマーの2種以上からなる混合物であってもよい。
【0075】
(メタ)アクリルモノマー(D)を構成する(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種は、光硬化後の屈曲耐性をより向上させる観点から、下記一般式(d-1)で表される化合物であることが好ましい。
【0076】
【0077】
一般式(d-1)中、R1dは水素原子又はメチル基を表す。R2dは単結合、又は、直鎖又もしくは分岐鎖の炭素原子数1~5のアルキレン基を表す。R3dは単結合、エーテル結合(-O-)、エステル結合(-O-(C=O)-)、又は-C6H4-O-を表す。A1dは置換基を有していてもよい芳香環を表す。ndは、1~2を表す。また、一般式(d-1)中、エーテル結合又はエステル結合(アクリロイルオキシ基に含まれるものを除く)が1個又は2個含まれることが好ましい。
【0078】
A1dにおける芳香環の置換基としてはアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基等)、アリール基、アルキルアリール基、アリールオキシ基等が挙げられる。
A1dにおける置換基を有していてもよい芳香環としては、例えば、フェニル基、フェニルエーテル基、ビフェニル基、テルペニル基、ベンズヒドリル基、ジフェニルアミノ基、ベンゾフェノン基、ナフチル基、アントラセニル基又はフェナンスレニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クミル基、スチリル基又はノニルフェニル基があげられる。
A1dにおける芳香環としては、フェニル基、フェニルエーテル基、ビフェニル基、ナフチル基、クミル基又はノニルフェニル基が好ましい。
【0079】
R2dにおける直鎖又もしくは分岐鎖の炭素原子数1~5のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、n-ペンチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基、sec-ペンチレン基、tert-ペンチレン基又は3-ペンチレン基があげられる。R2dは、単結合、メチレン基またはエチレン基であることが好ましい。
R3dは、エーテル結合又はエステル結合であることが好ましい。
【0080】
一般式(d-1)で表される(メタ)アクリルモノマーの具体例としては、例えば、フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、3-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、o-フェニルフェノールEO変性(メタ)アクリレート、o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、p-クミルフェノール(メタ)アクリレート、p-ノニルフェノール(メタ)アクリレート、p-メチルフェノール(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール-(メタ)アクリル酸-安息香酸エステル、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェニルグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、ナフトキシEO変性(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリート、EO変性p-クミルフェノール(メタ)アクリレートまたはノニルフェノールEO変性(メタ)アクリレート(好ましくは、EO=1~2mol)があげられる。
これらの中でも、一般式(d-1)で表される(メタ)アクリルモノマーは、o-フェニルフェノールEO変性(メタ)アクリレートまたは3-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートであることが特に好ましい。ここで、「EO変性」とはエチレンオキシドユニット(即ち、-CH2-CH2-O-)の構造を有することを意味する。
フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、3-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、o-フェニルフェノールEO変性(メタ)アクリレート(EO=1mol)、フェニルグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、2-ヒドロキシエチルメタクリートの構造式を以下に示す。
【0081】
【0082】
(メタ)アクリルモノマー(D)を構成する(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種は、光硬化後の屈曲耐性、引張強度及び伸び率をより向上させる観点から、下記一般式(d-2)で表される化合物であることがより好ましい。
【0083】
【0084】
一般式(d-2)中、R1d、R4d及びR5dは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。A2dは置換基を有していてもよい少なくとも1個の芳香環を表す。ndは、1~2を表す。A2dにおける芳香環の例及び好ましい芳香環の例は、A1dで例示されたものをそのまま適用することができる。
【0085】
一般式(d-2)中にR4dが複数存在する場合、複数のR4dは、同一であっても異なっていてもよい。R5dについても同様である。
(メタ)アクリルモノマー(D)の重量平均分子量は130以上350以下であるが、150以上300以下であることが好ましく、150以上280以下であることがより好ましい。
【0086】
(メタ)アクリルモノマー(D)を構成する(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種は、光硬化後の屈曲耐性及び伸び率をより向上させる観点から、下記一般式(d-3)で表される化合物であることもまた好ましい。
【0087】
【0088】
一般式(d-3)中、R6dは水素原子又はメチル基を表し、R7dは単結合又はメチレン基を表す。A3dは少なくとも1個の芳香環以外の環構造を表す。
芳香環以外の環構造は特に限定されず、単環構造でもよいし多環構造でもよい。芳香環以外の環構造の環員数は限定されないが、5~12員環であることが好ましい。また、芳香環以外の環構造は、脂環構造又はヘテロ環構造が好ましい。ヘテロ環構造におけるヘテロ原子としては、O、S及び/又はNが挙げられる。
【0089】
芳香環以外の環構造としては、例えば、ジシクロペンテニル骨格、ジシクロペンタニル骨格、シクロヘキサン骨格、テトラヒドロフラン骨格、モルホリン骨格、イソボルニル骨格、ノルボルニル骨格、ジオキソラン骨格又はジオキサン骨格、シクロプロパン骨格、シクロブタン骨格、シクロペンタン骨格、シクロヘプタン骨格、シクロオクタン骨格、シクロプロペン骨格、シクロブテン骨格、シクロペンテン骨格、シクロヘキセン骨格、シクロヘプテン骨格、シクロオクテン骨格、シクロヘキサジエン骨格、シクロオクタジエン骨格、ノルボルネン骨格、ノルボルナジエン骨格、ノルボルナン骨格、エチレンイミン骨格、エチレンオキシド骨格、エチレンスルフィド骨格、アザシクロブタン骨格、オキセタン骨格、チエタン骨格、ピロリジン骨格、イミダゾリジン骨格、ピラゾリジン骨格、テトラヒドロチオフェン骨格、ピペリジン骨格、ピペラジン骨格、テトラヒドロピラン骨格、テトラヒドロチオピラン骨格、アゼパン骨格、オキセパン骨格、チエパン骨格又はイミダゾリン骨格が挙げられる。
【0090】
また、一般式(d-3)で表される(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種は、吸水を抑制する観点から、イミド構造を含まない化合物であることが好ましい。
即ち、一般式(d-3)で表される(メタ)アクリルモノマーは、光硬化後の曲げ強度及び曲げ弾性率をより向上させる観点から、下記の一般式(d-4)で表される化合物であることが更に好ましい。
【0091】
【0092】
一般式(d-4)中、R6dは、水素原子又はメチル基を表す。R7dは単結合又はメチレン基を表す。A4dは、ジシクロペンテニル骨格、ジシクロペンタニル骨格、シクロヘキサン骨格、テトラヒドロフラン骨格、モルホリン骨格、イソボルニル骨格、ノルボルニル骨格、ジオキソラン骨格又はジオキサン骨格を有する環構造を表す。
一般式(d-4)中、A4dで表される環構造は、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等)等の置換基を有していてもよい。
【0093】
一般式(d-4)で表される(メタ)アクリルモノマーの重量平均分子量は130以上350以下であるが、150以上240以下であることが好ましく、180以上230以下であることがより好ましい。
【0094】
一般式(d-4)で表される(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルフォリン、4-tert-ブチルシクロヘキサノール(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマルアクリレート、等が挙げられる。
【0095】
本実施形態の光硬化性組成物において、上記(メタ)アクリルモノマー(D)含有量は、(メタ)アクリルモノマー成分の合計含有量1000質量部に対し、30質量部~800質量部であることが好ましく、50質量部~700質量部であることがより好ましい。
【0096】
本実施形態の光硬化性組成物における(メタ)アクリルモノマー成分は、発明の効果を奏する範囲で、前述した、(メタ)アクリルモノマー(X)、及び(メタ)アクリルモノマー(D)以外のその他の(メタ)アクリルモノマーを少なくとも1種含んでいてもよい。
但し、(メタ)アクリルモノマー成分中における、(メタ)アクリルモノマー(X)及び(メタ)アクリルモノマー(D)の合計含有量は、(メタ)アクリルモノマー成分の全量に対し、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。また、この合計含有量は、(メタ)アクリルモノマー成分の全量に対し、100質量%であってもよい。
【0097】
<光重合開始剤>
本実施形態の光硬化性組成物は、光重合開始剤を含有する。
光重合開始剤は、光を照射することでラジカルを発生するものであれば特に限定されないが、光造形の際に用いる光の波長でラジカルを発生するものであることが好ましい。
光造形の際に用いる光の波長としては、一般的には365nm~500nmが挙げられるが、実用上好ましくは365nm~430nmであり、より好ましくは365nm~420nmである。
【0098】
光造形の際に用いる光の波長でラジカルを発生する光重合開始剤としては、例えば、アルキルフェノン系化合物、アシルフォスフィンオキサイド系化合物、チタノセン系化合物、オキシムエステル系化合物、ベンゾイン系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、α-アシロキシムエステル系化合物、フェニルグリオキシレート系化合物、ベンジル系化合物、アゾ系化合物、ジフェニルスルフィド系化合物、有機色素系化合物、鉄-フタロシアニン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、アントラキノン系化合物等が挙げられる。
これらのうち、反応性等の観点から、アルキルフェノン系化合物、アシルフォスフィンオキサイド系化合物が好ましい。
【0099】
アルキルフェノン系化合物としては、例えば、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(Irgacure184:BASF社製)が挙げられる。
アシルフォスフィンオキサイド系化合物としては、例えば、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(Irgacure819:BASF社製)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(IrgacureTPO:BASF社製)などが挙げられる。
ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(Irgacure819:BASF社製)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(IrgacureTPO:BASF社製)の構造式を以下に示す。
【0100】
【0101】
本実施形態の光硬化性組成物は、光重合開始剤を1種のみ含有していてもよいし、2種以上含有していてもよい。
本実施形態の光硬化性組成物中における光重合開始剤の含有量(2種以上である場合には総含有量)は、(メタ)アクリルモノマー成分の合計含有量1000質量部に対し、1質量部~50質量部であることが好ましく、2質量部~30質量部であることがより好ましく、3質量部~25質量部であることが更に好ましい。
【0102】
<その他の成分>
本実施形態の光硬化性組成物は、必要に応じ、(メタ)アクリルモノマー成分及び光重合開始剤以外のその他の成分を少なくとも1種含んでいてもよい。
但し、(メタ)アクリルモノマー成分及び光重合開始剤の総含有量は、光硬化性組成物の全量に対し、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0103】
その他の成分としては、色材が挙げられる。
例えば、本実施形態の光硬化性組成物を人工爪の作製に用いる場合、審美性の観点から、光硬化性組成物に色材を含有させることにより、所望の色調に着色してもよい。
色材としては、顔料、染料、色素等が挙げられる。より具体的には、色材として、合成タール色素、合成タール色素のアルミニウムレーキ、無機顔料、天然色素などが挙げられる。
【0104】
また、その他の成分としては、上記(メタ)アクリルモノマー成分以外のその他の硬化性樹脂(例えば、上記(メタ)アクリルモノマー成分以外のその他の硬化性モノマー等)も挙げられる。
【0105】
また、その他の成分としては、熱重合開始剤も挙げられる。
本実施形態の光硬化性組成物が熱重合開始剤を含有する場合には、光硬化と熱硬化との併用が可能となる。熱重合開始剤としては、例えば、熱ラジカル発生剤、アミン化合物などが挙げられる。
【0106】
また、その他の成分としては、シランカップリング剤(例えば3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン)等のカップリング剤、ゴム剤、イオントラップ剤、イオン交換剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤等の添加剤が挙げられる。
【0107】
本実施形態の光硬化性組成物の調製方法は特に制限されず、アクリルモノマー(X)、(メタ)アクリルモノマー(D)、及び光重合開始剤(及び必要に応じその他の成分)を混合する方法が挙げられる。
各成分を混合する手段は特に限定されず、例えば、超音波による溶解、双腕式攪拌機、ロール混練機、2軸押出機、ボールミル混練機、及び遊星式撹拌機等の手段が含まれる。
本実施形態の光硬化性組成物は、各成分を混合した後、フィルタでろ過して不純物を取り除き、さらに真空脱泡処理を施すことによって調製してもよい。
【0108】
[光硬化物]
本実施形態の光硬化性組成物を用いて光硬化を行うに当たっては、特に制限されず、公知の方法及び装置のいずれも使用できる。例えば、本実施形態の光硬化性組成物からなる薄膜を形成する工程と、該薄膜に対して光を照射し硬化層を得る工程とを複数回繰り返すことにより、硬化層を複数積層させ、所望の形状の光硬化物を製造する方法が挙げられる。なお、得られる光硬化物はそのまま用いてもよいし、更に光照射、加熱等によるポストキュアなどを行って、その力学的特性、形状安定性などを向上させた後に用いてもよい。
【0109】
[人工爪]
本実施形態の光硬化性組成物の硬化物(即ち、光造形物)としては、人工爪が特に好ましい。本実施形態の光硬化性組成物の硬化物である人工爪は、曲げ強度、曲げ弾性率、屈曲耐性、引張強度及び伸び率に優れる。
本実施形態の人工爪のサイズは特に限定されず、所望のサイズの人工爪を製造することができる。また、本実施形態の人工爪はセットであってもよい。
また、本実施形態の人工爪は、一部分のみが本実施形態の光硬化性組成物を用いて作製されていてもよく、全体が本実施形態の光硬化性組成物を用いて作製されていてもよい。
【0110】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。なお、以下の説明の中で「装置」(つまり、デバイス)は所定の機能を有するデバイスであればよく、独立した機器として存在してもよいし、他の機能をも有する機器の一部として存在してもよい。例えば、三次元造形装置、硬化装置、光硬化装置、造形設計装置、三次元形状測定装置及び評価装置は、それぞれが説明される箇所に記載の機能を有していればどのような形態で存在していてもよい。例えば、光硬化装置は、3Dプリンタに組み込まれた光照射機能を有するデバイスであってもよいし、3Dプリンタとは独立した機器であってもよい。
図1には、本実施の形態に係る人工爪の製造工程の概略が示されている。本実施の形態に係る人工爪の製造工程は、受付部としての形状取得工程80、設計部としての設計工程82、造形部としての造形工程84、洗浄工程86、硬化部としての硬化工程88を含む。人工爪は、形状取得工程80、設計工程82、造形工程84、洗浄工程86、及び硬化工程88を経て、装飾等の施されていない無地の人工爪として製造される。なお、本実施の形態において、洗浄工程86は、造形工程84の後処理として造形工程84に含まれても良く、また、洗浄工程86は、硬化工程88の前処理として硬化工程88に含まれても良い。
【0111】
本実施の形態では、ラピッドプロトタイプ法を応用して三次元のデータ(以下、造形データともいう)に基づいて人工爪の立体像(即ち、三次元モデル、以下、造形物ともいう)を作成する。造形手法としては、結合剤噴射法、指向性エネルギー体積法、材料抽出法、材料噴射法、粉末床溶融結合法、シート積層法、液槽光重合法のほか、積層造形法、光造形法、粉末造形法、熱溶解積層法、及びインクジェット法等、何れを適用しても良い。
【0112】
本実施の形態に係る造形工程84では、光造形材料として光硬化性組成物を用い、光造形により人工爪とする造形物を製造する。光造形の方法および光硬化性組成物の粘度については上記に記載の通りである。
【0113】
本実施の形態に係る造形工程84においては、SLA方式、DLP方式、及びインクジェット方式の何れかが適用された3Dプリンタが用いられ、3Dプリンタが三次元のデータ(以下、造形データ)により動作して造形物を製造する。なお、3Dプリンタは、SLA方式、DLP方式、及びインクジェット方式以外の方式が適用されても良い。
【0114】
洗浄工程86では、造形工程84において光硬化性組成物を用いて光造形により製造した造形物から、余剰となった光硬化性組成物を洗い落として除去する。即ち、造形物に付着している硬化していない光硬化性組成物を除去する。
【0115】
本実施の形態に係る硬化工程88では、光硬化性組成物を更に光硬化して人工爪を仕上げる。硬化工程88では、予め設定された光硬化条件に基づいて、造形物に対する光硬化を行う。硬化条件には、光硬化装置の指定、及び光硬化装置の動作条件の指定が含まされる。硬化工程88では、硬化条件において指定された光硬化装置を用い、硬化条件において設定された動作条件に基づいて、造形物に対する光硬化を行うことで、人工爪を製造する。
本実施の形態において、光造形及び光硬化に適用する光(例えば、レーザー光)としては、任意の波長の光を適用できるが、比較的高い光エネルギーが得られる波長の光であることが好ましく、例えば、波長が320nm~420nmであることがより好ましい。これにより、光造形及び光硬化の際のエネルギー効率を向上できて、効果的に光造形及び光硬化を行うことができる。
【0116】
形状取得工程80は、形成する人工爪の形状、寸法に関する形状情報を受け付ける。形成する人工爪の形状、寸法に関する形状情報には、形成する人工爪の外形、長さ、幅、厚さ、長さ方向の反り(即ち、湾曲)の度合い、及び幅方向の反りの度合いを含めた立体的形状を特定しうる情報が含まれることが好ましい。このような、人工爪の形状情報としては、少なくとも人の爪(以下、素爪という)の表面に接する面(以下、人工爪の裏面という)の形状を示す三次元のデータ、及び形成する人工爪の裏面の各位置における厚さを含む情報が適用される。即ち、人工爪の形状情報には、形成する人工爪の立体形状(即ち、外形形状)を特定可能な三次元データ(以下、形状データという)又は形状データを生成可能なデータが含まれる。なお、人工爪の裏面は、素爪から外れた面(例えば、爪先から突出する面等)を含む。
【0117】
形状取得工程80は、形成する人工爪の形状、寸法に関する形状情報を受け付けのみならず、三次元形状測定装置(即ち、3Dスキャナー)を用いて、形成する人工爪の形状及び寸法に関する形状情報を読み取って取得しても良い。
形状取得工程80において取得する人工爪の形状情報には、依頼者、及び形成する人工爪の装着対象を特定する情報が含まれることが好ましい。即ち、形成する人工爪の形状情報には、誰の指の爪に装着することを目的とするものか又は人工爪の形成を依頼した顧客を特定する情報(例えば、顧客情報)が含まれることが好ましい。また、形状情報には、少なくとも、左右何れの手足の指に装着されるものかを示す情報と共に、第1指(即ち、母指、親指)、第2指(即ち、示指、人差し指)、第3指(即ち、中指)、第4指(即ち、薬指)、及び第5指(即ち、小指)の何れの爪に装着されるものかを示す情報(即ち、対象情報)が含まれることが好ましい。
【0118】
形状取得工程80では、依頼者、及び形成する人工爪の装着対象を特定する情報が入力されることで、入力された情報を、人工爪の形状情報として受け付ける。
さらに、形状取得工程80において取得される形状情報には、人工爪の光造形に用いる光造形材料(例えば、光硬化性組成物又は光硬化性組成物に含まれる成分)、光造形に使用する3Dプリンタの指定、及び硬化条件の指定が含まれても良い。この場合、形状取得工程80では、光造形材料、3Dプリンタの指定、及び硬化条件の指定が入力されることで、入力された指定を人工爪の形状情報として受け付ける。
【0119】
設計工程82では、人工爪の形状情報から形成する人工爪の三次元の形状データを生成する。また、設計工程82では、生成した形状データから造形工程84に用いる造形データを生成する。
また、設計工程82は、造形工程84における造形条件を設定する。造形条件には、造形工程84において造形物の製造に用いる三次元造形装置としての3Dプリンタの設定(または、指定)、及び3Dプリンタを動作させる際の光の波長(例えば、中心波長又は波長帯)、光強度、照射時間などの設定が挙げられる。また、造形条件には、光造形に用いる光硬化性組成物が含まれる。
【0120】
形成する人工爪の形状情報において3Dプリンタの指定、及び造形条件の指定が含まれる場合、設計工程82では、形成する人工爪の形状情報に基づいて3Dプリンタの指定、及び造形条件の指定を行う。また、形成する人工爪の形状情報において3Dプリンタの指定、及び造形条件の指定が含まれていない場合、設計工程82では、3Dプリンタ及び造形条件が、入力されて指定されるか、又は予め設定された組み合わせから選択されて指定される。
【0121】
さらに、設計工程82は、硬化工程88における硬化条件を指定する。硬化条件には、硬化工程88において造形物の光硬化に用いる硬化装置としての光硬化装置の指定、及び光硬化装置を作動させる際の光(例えば、レーザー光)の波長(即ち、中心波長又は波長帯)、光強度、光照射時間等が含まれる。硬化条件の設定は、形成する人工爪の形状情報において光硬化装置の指定、及び硬化条件の指定が含まれる場合、形成する人工爪の形状情報に基づいて行われる。また、形成する人工爪の形状情報において光硬化装置の指定、及び硬化条件の指定が含まれていない場合、設計工程82では、造形条件と同様の手法で硬化条件が指定される。
【0122】
設計工程82では、形状データから造形データを生成する際、造形条件、硬化条件、及び予め設定されている予測情報に基づいて、硬化後の造形物としての人工爪の寸法及び形状を予測して、予測した人工爪の寸法及び形状が、形成する人工爪の寸法及び形状と一致(但し、略一致しているとみなせる状態も含む)するように造形データを生成する。
これにより、造形工程84では、設計工程82において生成された造形データ及び造形条件に基づいた光造形により造形物を製造し、硬化工程88では、設計工程82において指定された硬化条件に基づいて造形物の光硬化を行う。光造形された造形物を更に光硬化して、人工爪を製造することで、曲げ強度及び曲げ弾性率に優れる人工爪を得ることができる。
【0123】
一方、本実施の形態に人工爪の製造工程においては、評価工程90が設けられている。評価工程90では、形成する人工爪と同様のサイズ(寸法)及び形状の人工爪が製造されたか否かを評価する。この際、評価工程90では、硬化後(例えば、硬化工程88における光硬化後)の造形物の三次元データとしての硬化後データを取得すると共に、設計工程82から形成する人工爪の形状データ及び造形データを取得する。評価工程90では、硬化後データと形状データとを照合(又は、比較)することで、製造した人工爪を評価する。
評価工程90において、製造した人工爪の寸法及び形状が形成する人工爪の寸法及び形状と同様と評価される場合、製造した人工爪が製品として顧客に納入される。
【0124】
また、
図2には、人工爪の概略が斜視図にて示されており、形状データにより表される人工爪10が二点鎖線にて示され、造形後データにより表される人工爪(即ち、硬化後の造形物)12が実線にて示されている。なお、
図2には、人工爪10、12の根元側(即ち、指先とは反対側)をZ軸の原点側にしてX、Y、Z軸を示している。
【0125】
一般に、造形物を硬化させた場合、硬化前の造形物に対して硬化後の造形物に少なからず長さ、幅、厚さ、及び体積について収縮が生じる。光硬化性組成物を用いて光造形する造形物においても、光造形時、及び光硬化後においては、光硬化前に比べて収縮が生じている。即ち、造形物には、造形データに対して、造形工程84において光造形される際に収縮が生じると共に、硬化工程88においても光硬化される際に少なからず収縮が生じる。
光造形及び光硬化における造形物の収縮には、光造形に用いる光硬化性組成物、造形条件、硬化条件等が影響する。また、光造形及び光硬化における造形物の収縮には、造形物が光硬化及び硬化する際の環境状態(例えば、温度及び湿度)等が影響することも考えられる。
人工爪は、薄肉に形成されると共に、素爪の表面に接する面(以下、人工爪の裏面ともいう)側が凹状となるように長さ方向及び幅方向の少なくとも一方に反りを有する。このため、硬化後の人工爪12に僅かな収縮が生じることで反りが変化して、人工爪10として実際に爪に装着した際のフィット感が変化する。
【0126】
ここから、本実施の形態では、予測情報として、少なくとも造形に用いる光硬化性組成物(又は光硬化性組成物の成分)、造形条件、及び硬化条件に基づいて、造形物の硬化後の収縮状態を予測する。また、予測情報としては、造形環境及び硬化環境の各々における温度及び湿度等の環境情報が含まれても良い。予測する収縮状態には、長さ、幅、厚さ及び体積などの寸法に加えて、人工爪の厚さ等に起因する反りの変化を含む。
【0127】
本実施の形態に係る設計工程82では、人工爪の形状データから光造形に用いる造形データを生成する際に、硬化後の造形物に生じる収縮状態(例えば、収縮量又は収縮率、反りの変化など)を予測し、予測した収縮状態に基づいて形状データを補正して人工爪の造形データを生成する。造形データは、硬化後の人工爪12が、形成する人工爪10と同様の長さ、幅、厚さ、及び体積となると共に、人工爪12に生じた反りが人工爪10の反りと同様になるように生成される。
【0128】
また、設計工程82では、評価工程90により取得された人工爪10の硬化後データ及び人工爪10を製造する際の造形条件、及び硬化条件を用いて、予測情報の更新を行う。また、予測情報の更新には、環境情報を含めることがより好ましい。
なお、評価工程90において、形状データにより示される人工爪と硬化後の硬化後データにより示される人工爪との間に、寸法及び形状等に相違があると評価された場合(例えば、製造された人工爪12が人工爪10とみなすことができない場合)には、予測情報の更新を行うと共に、更新された予測情報に基づいて、該当する人工爪の形状データを再補正することで造形データを再生成して、再生成した造形データに基づいた人工爪12の造り直し(即ち、再製造)が行われる。
【0129】
図3には、本実施の形態に係る造形設計システム20の概略構成がブロック図にて示されている。本実施の形態の造形設計システム20には、CAD(Computer aided design)システムが用いられており、CADシステムにより設計工程82における処理機能を担っている。また、造形設計システム20は、少なくとも評価工程90の処理機能を担う構成を含むことが好ましく、形状取得工程80の処理機能を担う構成を含んでも良い。さらに、造形設計システム20は、造形工程84及び硬化工程88の各々の処理機能を担う構成を含んでも良い。本実施の形態の造形設計システム20は、一例として形状取得工程80、造形工程84、硬化工程88、及び評価工程90における処理機構を担う構成を含むことで、造形設計システム20は、人工爪10の製造システムとしても機能する。
【0130】
造形設計システム20は、CPU等が設けられた演算処理部22、主記憶部24、入力部26、出力部28、補助記憶部30、及びインターフェイス部32を含み、演算処理部22、主記憶部24、入力部26、出力部28、補助記憶部30、及びインターフェイス部32がバス34を介して相互に接続されたコンピュータによって構成されている。
【0131】
主記憶部24には、演算処理部22のオペレーションプログラム(OS)等が記憶されており、演算処理部22が主記憶部24からオペレーションプログラムを読み出して実行することで、造形設計システム20が動作する。また、入力部26には、キーボード、マウス、タブレット等の入力デバイスが設けられており、出力部28には、ディスプレイ及びプリンタ等の出力デバイスが設けられている。
【0132】
造形設計システム20のインターフェイス部32には、造形設計システム20が形状取得工程80及び評価工程90として機能する際の読取部として用いられる三次元計測装置(即ち、3Dスキャナー)36、造形工程84に用いられる三次元造形装置(即ち、3Dプリンタ)38、及び硬化工程88に用いられる硬化装置としての光硬化装置40が接続されている。
3Dプリンタ38としては、例えば、卓上型3DプリンタForm2(Formlabs社製)等が用いられる。
【0133】
また、本実施の形態では、造形工程84における造形時の温度及び湿度などの環境情報(例えば、3Dプリンタ38の設置環境)を検出する環境センサー42を設けていると共に、硬化工程88における硬化時の温度及び湿度などの環境情報(例えば、光硬化装置40の設置環境)を検出する環境センサー44を設けている。環境センサー42、44の各々は、造形設計システム20に接続されている。
【0134】
造形設計システム20は、インターフェイス部32がLAN(Local Area Network)などの専用通信回線網又はインターネットなどの公衆通信回線網に接続されていても良く、好ましい。この場合、3Dスキャナー36、3Dプリンタ38、光硬化装置40及び環境センサー42、44の各々は、専用通信回線網又は公衆通信回線網を介して相互にデータ(又は、情報)の送受信可能にされて、造形設計システム20に接続できる。これにより、3Dスキャナー36、3Dプリンタ38、光硬化装置40、及び造形設計システム20の各々が互いに異なる場所(例えば遠隔地)に設けられていても、造形設計システム20により3Dスキャナー36、3Dプリンタ38、及び光硬化装置40の制御を可能にできて、造形設計システム20を、各々が一つ又は複数の3Dスキャナー36、3Dプリンタ38、及び光硬化装置40の各々に接続できて、人工爪の製造システムを構成できる。
【0135】
造形設計システム20の補助記憶部30は、例えば、ハードディスク装置等の情報の書き換えが可能な不揮発性の記憶媒体が用いられている。補助記憶部30には、例えば、市販のCADソフトウェア(例えば、3DCADソフトウェア)などの造形設計プログラム50がインストールされている。また、補助記憶部30には、形状取得プログラム52、造形プログラム54、光硬化プログラム56、及び評価プログラム58等が記憶されている。さらに、補助記憶部30には、予測情報のデータベース60が形成されていると共に、予測プログラム62及び学習プログラム64が記憶されている。
【0136】
演算処理部22が、補助記憶部30から造形設計プログラム50、及び形状取得プログラム52を読み出して実行することで、造形設計システム20は、設計工程82を担う設計部、形状取得工程80を担う受付部として機能する。造形設計システム20は、受付部及び設計部として機能することで、人工爪の形状情報を受け付けて、受け付けた形状情報から形状データを生成する。また、造形設計システム20は、形状データから造形データを生成すると共に、造形条件及び硬化条件の設定を行う。
【0137】
造形設計システム20は、インターフェイス部32が出力部として機能することで、造形データ、造形情報及び硬化情報を出力できる。
また、演算処理部22が、造形プログラム54を実行することで、造形設計システム20は、出力部として機能すると共に、造形工程84を担う造形部として機能して、3Dプリンタ38の作動を制御して人工爪を光造形する。
さらに、演算処理部22が、光硬化プログラム56、及び評価プログラム58を読み出して実行することで、造形設計システム20は、硬化工程88を担う硬化部、評価工程90を担う評価部として機能する。これにより、造形設計システム20は、光硬化装置40の作動を制御して人工爪の光硬化を行って、人工爪12を形成する。また、造形設計システム20は、3Dスキャナー36の作動を制御して、人工爪12から硬化後データを取得して、取得した硬化後データの評価を行う。
【0138】
演算処理部22が、学習プログラム64を読み出して実行することで、造形設計システム20は、学習部として機能してデータベース60の構築(又は、更新)を行う。また、演算処理部22が、予測プログラム62を読み出して実行することで、造形設計システム20は、データベース60に格納された予測情報から形状データ又は造形データに対する硬化後データを予測する予測部として機能する。また、造形設計システム20が予測部として機能することで、造形設計システム20は、予測結果に基づいて形状データを補正した造形データを生成する。
【0139】
予測情報としてのデータベース60には、人工爪の形状情報に、造形情報及び硬化情報が関連付けられて格納されている。データベース60に格納される人工爪の形状情報には、少なくとも形成する人工爪の寸法、及び形状を示す形状データが含まれる。
人工爪の形状情報に関連付けられる造形情報には、少なくとも光造形に適用した造形データ、造形データによる光造形に使用する3Dプリンタを特定する情報、及び光造形に使用される光硬化性組成物を特定する情報が含まれる。すなわち、造形情報には、造形条件の指定を用いることができる。
【0140】
また、人工爪の形状情報に関連付けられる硬化情報には、少なくとも光硬化に使用する光硬化装置40を特定する情報、光硬化に用いる光の波長、光の照射時間、及び硬化環境(例えば、温度及び湿度)が含まれる。即ち、硬化情報には、硬化条件の指定を用いることができる。また、硬化情報は、人工爪の形状情報のみでなく、人工爪の形状情報に関連付けられた造形情報にも関連付けられる。
【0141】
さらに、データベース60には、製造された人工爪12の評価情報が含まれ、評価情報は、人工爪の形状情報、造形情報及び硬化情報に関連付けられる。評価情報には、少なくとも硬化後データが含まれると共に、形状データに関連つけられている造形情報の造形データと硬化後データとの相違としての収縮状態を示す情報が含まれる。収縮状態を示す情報には、人工爪12に生じた収縮量(又は収縮率でも良い)及び形状変化(例えば、反りの変化)が含まれる。
また、人工爪の形状情報には、人工爪10の製造を依頼した顧客情報が含まれても良く、顧客情報により形成する人工爪を装着する人を特定できるようにすることで、データベース60に格納されている顧客情報に基づいて人工爪を製造できる。
【0142】
造形情報には、人工爪を造形した際の環境状態(例えば、温度及び湿度)が含まれても良い。また、造形した人工爪を硬化する際には、環境状態(例えば、温度及び湿度)に応じて硬化速度等が変化することが考えられることから、硬化情報には、造形した人工爪を硬化した際の環境状態(例えば、温度及び湿度)が含まれることが好ましい。
【0143】
造形設計システム20は、学習部として機能することで、人工爪の形状情報、造形情報、硬化情報及び評価情報の各々を取得して、人工爪の形状情報、造形情報、硬化情報及び評価情報の各々を互いに関連付けでデータベース60に格納して、データベース60の構築及び更新を行う。
【0144】
これにより、造形設計システム20が予測部として機能する際に、造形情報及び硬化情報が設定されることで、収縮状態を予測して、硬化後データが形状データと同様となるように造形データを生成する。なお、予めデータベース60に格納される予測情報の初期値は、任意に設定した初期値(例えば、デフォルト値)が適用されても良く、指の爪についての平均的な形状情報(例えば、モデルデータ、平均データ又はリファレンスデータ)について、基準とする造形情報及び硬化情報で造形した際の評価結果を用いても良い。
【0145】
次に、
図4を参照しながら、本実施の形態に係る造形設計システム20(即ち、造形システム)による人工爪の製造を説明する。
本実施の形態に係る人工爪の製造には、光造形材料として光硬化性組成物を用いる。本実施の形態に適用される光硬化性組成物は光造形に用いることができるものであれば特に限定はされないが、上記に記載の1分子中に水酸基及びカルボキシ基を有さず2個の芳香環と2個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有するジ(メタ)アクリルモノマーから選ばれる少なくとも1種であり重量平均分子量が400以上800以下である(メタ)アクリルモノマー(以下、(メタ)アクリルモノマー(X)という)と、1分子中に少なくとも1個の環構造と、1個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有する(メタ)アクリルモノマーから選ばれる少なくとも1種であり重量平均分子量が130以上350以下である(メタ)アクリルモノマー(いか、ジ(メタ)アクリルモノマー(D)という)、並びに、光重合開始剤を含有する光硬化性組成物が好ましい。
【0146】
なお、3Dプリンタ38において光造形に適用する光(例えば、レーザー光)の波長、及び光硬化装置40において光硬化に適用する光(例えば、レーザー光)の波長は、光重合開始剤にあわせた波長が適用されることが好ましい。
【0147】
図4に示すように、人工爪10(又は、人工爪10とする人工爪12)の製造では、最初のステップ100において、形成する人工爪10の形状情報を取得する。形状情報の取得には、例えば、形成する人工爪10のサンプル(例えば実際の爪を有する人の手であっても良い)がある場合には、サンプルを3Dスキャナー36に装着して爪の表面形状を三次元的(即ち、立体的)に読み取る。これにより、サンプルの三次元画像が得られ、サンプルの三次元画像から人工爪10の形状デー0を構築できる。このような、三次元画像は、専用通信回線網又は公衆通信回線網を介して、造形設計システム20に入力されるものであっても良い。
【0148】
人工爪10の形状情報には、顧客情報、人工爪10を適用する指に関する情報を含むことが好ましい。また、一人の人の左右の両手の各指に装着するのを想定して、10個の人工爪10を1セットして製造する際には、10個の人工爪10の各々について、例えば、装着する指を特定する情報が合せて取得される。造形設計システム20では、一例として10個の人工爪10(即ち、人の左右の指の各々の爪に装着する人工爪)を1セットとして製造するものとして説明する。
【0149】
人工爪10の製造に用いる光硬化性組成物の指定がある場合、ステップ100では、指定する光硬化性組成物(例えば、光硬化性組成物の含有成分、含有成分の割合、光硬化性組成物の商品名であっても良い)を受け付ける。また、人工爪10を製造する際の造形条件或いは、硬化条件等の指定があれば、ステップ100において、これらの指定を受け付ける。
【0150】
次のステップ102では、取得した人工爪10の形状情報に基づいて形状データを生成する。形状データの生成には、市販の3DCADソフトウェア等が用いられ、形状データは、形状情報(例えば、サンプルの三次元画像等)から作成することができる。
【0151】
形状データを作成すると、ステップ104では、光造形した後に光硬化させて得られる人工爪12を製造した際に人工爪12に生じる収縮状態を予測する。この際、形状情報において光硬化性組成物、造形条件及び硬化条件が指定されている場合、形状情報において指定された光硬化性組成物、造形条件及び硬化条件に基づいて予測情報(例えば、データベース60)から収縮状態を読み込む(又は、予測する)。また、形状情報において光硬化性組成物、造形条件及び硬化条件樹脂の何れか少なくとも一つが指定されていない場合、指定されていない条件を、造形設計システム20に接続されている3Dプリンタ38及び光硬化装置40に合せて設定する。
【0152】
また、収縮状態を予測する際には、環境センサー42、44によって光造形に用いる3Dプリンタ38の設置環境の環境情報(例えば、温度及び湿度)、及び光硬化に用いる光硬化装置40の設置環境の環境情報(例えば、温度及び湿度)を、環境センサー42、44により検出し、検出した環境情報を含めて収縮状態を予測することがより好ましい。
この後、ステップ106では、予測した収縮状態に基づいて形状データを補正することで、造形データを生成する。
【0153】
ここで、
図5を参照しながら、本実施の形態に係る造形データの生成の一例を説明する。なお、
図5には、造形データにより表される光造形される造形物の画像が斜視図にて示されている。
【0154】
本実施の形態では、1セット分の人工爪10を製造する際に、左右の手ごとに5個ずつに分けて二つのユニット70L、70Rを光造形するように造形データを生成する。ユニット70L、70Rにおいては、親指側の人工爪72Aから小指側の人工爪72Eまでの人工爪72A、72B、72C、72D、72Eが配列される。
【0155】
本実施の形態では、SLA方式が適用された3Dプリンタ38を用いており、3Dプリンタ38のプラットフォーム側に略矩形平板状のベース74を設けると共に、ベース74に5個の架台76を設けて、架台76上に人工爪72A~72Eを形成するように設定される。また、人工爪72A~72Eは、指先側とは反対側が架台76上に接するように配置される。
【0156】
一方、ベース74には、人工爪72A~72Eを特定する識別符号としてのID78を設ける。このID78としては、ユニット70L、70Rの各々において人工爪72A~72Eを特定しうる任意の符号を適用できる。また、ID78としては、ユニット70L、70Rの間で異なると共に、ユニット70L、70Rがセット(つまり、1セット分)であることを明確に識別できるように設定される。
【0157】
本実施の形態では、ID78の一例として顧客名に対応するアルファベットの配列を適用している。また、ユニット70Lには、ID78として、左手の爪に対応していることを示す符号を含めたID78Lを適用していると共に、ユニット70Rには、ID78として、右手の爪に対応していることを示す符号を含めたID78Rを適用している。
【0158】
具体的には、親指(つまり、親指の爪)を識別する符号を「0」とすると共に、小指(つまり、小指の爪)を識別する符号を「4」としている。ユニット70Lには、左手の親指の人工爪72Aを示す符号L0、及び小指の人工爪72Eを示す符号L4と共に、親指の人工爪72Aから小指の人工爪72Eへの配列方向を示す矢印を含むID78Lが形成されるようにしている。また、ユニット70Rには、左手の親指の人工爪72Aを示す符号R0、及び小指の人工爪72Eを示す符号R4と共に、親指の人工爪72Aから小指の人工爪72Eへの配列方向を示す矢印を含むID78Rが形成されるようにしている。
このように形成される造形データの三次元データファイル(例えば、STLファイル)には、各人工爪の形状データが、予測情報に基づいて補正された造形データとして含まれる。また、STLファイルにおいては、3Dプリンタ38において、ベース74側から光造形されるようにデータが生成されている。
【0159】
また、複数セットの人工爪10を並行して光造形される場合には、各セットのユニット70L、70Rが一つのプラットフォーム上に並んで光造形されるようにデータが配列された合成データとしてのSTLファイルが生成される。
このようにしてSTLファイルを生成すると、ステップ108へ移行して、光造形処理を行う。光造形処理は、3Dプリンタ38において、造形条件において設定された光硬化性組成物が用いられる。これにより、光硬化性組成物が層状(例えば、厚さ100μmの層状)に積層された光造形物が得られる。この光造形物は、各セットの人工爪がベース74の各架台76に形成されると共に、一つ又は複数セット分が光造形されて形成されている。なお、造形設計システム20は、造形時の3Dプリンタ38の設置環境の環境条件(例えば、環境温度及び環境湿度)を環境センサー42により検出し、検出した環境条件を、データベース60に格納して予測情報に含める。
【0160】
ここで、3Dプリンタ38における光造形に要する時間は、プラットフォームの上下移動時間及び各移動位置における光(例えば、レーザー光)の照射時間となる。3Dプリンタ38のプラットフォームが、例えば16セット分を光造形可能な大きさの場合において、2セット分の人工爪の光造形に要する時間が60分であっても、2セットの8倍の16セット分の人工爪の光造形に要する時間は、2倍の120分程度で済む。また、各セットには、ユニット70L、70RにID78が付与されている。このため、複数セットを並行して光造形しても、光造形した人工爪の各々を間違えることなく特定できる。
【0161】
造形設計システム20が適用する人工爪の製造工程には、洗浄工程86が含まれる。光造形された直後のユニット70L、70Rの表面には、未硬化液(つまり、液状の光硬化性組成物)が付着している。このため、3Dプリンタ38からプラットフォームを取り外す際、プラットフォーム上の光造形物に付着している未硬化液が掻き落とされる。
【0162】
洗浄工程86では、このときに掻き落とされずに光造形物(即ち、ユニット70L、70R)の各々に残っている未硬化液を除去する。洗浄工程86においては、プラットフォームから取り外された人工爪(即ち、架台76を介してベース74に取り付けられた状態の人工爪のユニット)に対して行われる。また、洗浄工程86では、例えば、洗浄液としてエタノール(EtOH)、イソプロピルアルコール(IPA)などを用いた超音波洗浄機などが用いられる。
【0163】
図4に示すように、ステップ110では、洗浄処理の終了した人工爪のユニット70L、70Rに対して、光硬化装置40を用いて光硬化処理を行う。光硬化処理は、硬化条件により指定された波長の光(例えば、レーザー光)、光強度、及び光照射時間で実行される。これにより、人工爪10を光造形した人工爪12が製造される。
なお、造形設計システム20は、環境センサー44により取得される光硬化装置40の設置環境を人工爪10の形状情報に関連付けられた予測情報としてデータベース60に格納する。
【0164】
この後、ステップ112では、硬化後の人工爪12のユニット70L、70Rの各々を3Dスキャナー36に装着して読み取ることで、ユニット70L、70Rに形成されている人工爪12の各々の三次元データである硬化後データを取得する。
ステップ114、ステップ116では、人工爪12の各々について硬化後データと形状データとを比較することで、人工爪10に対する人工爪12を評価する。この際、硬化後データにより示される人工爪12の寸法(例えば、長さ、幅、厚さ、体積など)、及び外形形状(例えば、長さ方向及び幅方向の各々の反り)が、人工爪10と比較されて、寸法及び形状について、各人工爪12が人工爪10と一致するか又は一致するとみなせる場合(つまり、許容可能に設定された誤差範囲内である場合)、良好と評価されてステップ116において肯定判定される。
【0165】
ステップ116において肯定判定されると、ステップ118に移行して、人工爪12の硬化後データを人工爪10の形状情報に関連付けてデータベース60に格納する。この際、人工爪10の造形データに対する硬化後データの収縮状態を含めた収縮情報と共にデータベース60に格納される。
【0166】
これに対して、何れかの人工爪12において、硬化後データにより示される人工爪12の寸法、及び形状状態の少なくとも一方が、形状データにより示される人工爪10と相違する場合(例えば、人工爪10に対して人工爪12の寸法、及び形状状態の一方が予め設定された誤差範囲を超えている場合)、不良と評価されてステップ116において否定判定される。
ステップ116において否定判定されるとステップ120へ移行する。このステップ120では、硬化後データに対する造形データの差分(例えば、収縮量又は収縮率、反りの度合い)が求められて、形状データ(又は、形状情報)、造形データ(又は、造形情報)、及び硬化情報の各々に関連付けてデータベース60に格納される。これと共に、ステップ120では、人工爪10に対する予測情報の更新が行われる。
【0167】
この後、ステップ104に移行して、更新された予測情報に基づいて人工爪10の形状データの補正(又は、再補正)を行って造形データを生成して、人工爪10の作り直しが行われる。この際、セット単位で行ってよいが、本実施の形態では、ユニット70L、70Rの各々に、互いを特定しうるID78を設けているので、ユニット単位で人工爪の再製造を行うことができる。これにより、製造された人工爪12が、良好と評価されると、製造された人工爪12が、人工爪10として納品(又は、製品化)される。
【0168】
このように、造形設計システム20では、人工爪10の形状データから造形データを生成する際、硬化後の収縮状態を予測して、予測結果に基づいて造形データを生成する。このために、高精度に人工爪10とする人工爪12を製造できる。これにより、フィット感の高い人工爪10が得られる。
【0169】
また、予測に用いる予測情報には、光造形に基づいて光硬化性組成物、造形条件に応じた造形情報、及び硬化条件に応じた硬化情報を含むので、光造形ごとの収縮状態のみならず、光硬化後の収縮状態を含めて高精度に予測できる。なお、予測情報には、光造形時の環境情報及び光硬化時の環境情報を含めることが好ましく、これにより、例えば、僅かな硬化速度の変化(例えば、環境情報の相違)に起因する収縮状態の変化を高精度に予測できる。
【0170】
さらに、予測情報には、人工爪10を特定する顧客情報等を含むことが好ましく、これにより、同様の人工爪の製造が要求(又は依頼)された場合に、依頼された人工爪10を、容易に且つ高精度に製造できる。
【0171】
また、造形設計システム20では、硬化後データを取得して、取得した硬化後データを含む収縮情報を形状情報に関連付けて予測情報を更新(又は学習)するので、形成する人工爪10の数が増加するにしたがって、より高精度に光硬化後の収縮状態を予測できて、より高精度の人工爪10の製造を可能にできる。
また、造形設計システム20は、一人分の人工爪10を1セットにして、人工爪10のセット及びセット中の人工爪10の各々を特定可能に製造するので、多数の人工爪12の製造を容易にできて、且つ、人工爪12の各々が人工爪10の何れに対応するかを明確にできる。
【0172】
なお、本実施の形態では、造形設計システム20が、形状取得工程80、造形工程84、硬化工程88、及び評価工程90に対する処理機能を合わせ持っているが、これに限るものではない。形状取得工程80、造形工程84、硬化工程88、及び評価工程90には、造形設計システム20とは別に制御のためのコンピュータを設けても良い。この場合、形状取得工程80、造形工程84、硬化工程88、及び評価工程90の各々に設けたコンピュータを、専用通信回線網や公衆通信回線網等を介してデータの送受信が可能にされて造形設計システム20に接続されることが好ましい。これにより、形成する人工爪10の受け付けから人工爪10とする人工爪12の製造までを容易に行うことができる。しかも、人工爪10とする人工爪12を効率的に且つ高精度に製造できる。
【実施例】
【0173】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0174】
〔実施例1~30、比較例1~7〕
<光硬化性組成物の調製>
下記表1~4に示す各成分を混合し、光硬化性組成物を得た。
<測定及び評価>
得られた光硬化性組成物を用い、以下の測定及び評価を行った。結果を表1~4に示す。
【0175】
(光硬化性組成物の粘度)
光硬化性組成物の粘度を、E型粘度計により、25℃、50rpmの条件で測定した。
【0176】
(光造形物の曲げ強度及び曲げ弾性率)
得られた光硬化性組成物を、3Dプリンタ(FormLab社Form2)を用い、80mm×10mm×厚さ4mmの大きさに造形し、造形物を得た。得られた造形物に対し、波長365nmの紫外線を5J/cm2の条件で照射して本硬化させることにより、光造形物を得た。
試験片の曲げ強度及び曲げ弾性率を、それぞれ、ISO178(又は、JIS K7171)に準拠して測定した。これらの測定は、引張り試験装置((株)インテスコ製)を用い、ポンチ半径5mm、支点半径5mm、支点間距離64mm、押込み速度2mm/分の条件で行った。
【0177】
上記光硬化性組成物を人工爪等の作製に用いる場合、上記曲げ強度は、好ましくは10MPa以上であり、より好ましくは40MPa以上である。
また、この場合、上記曲げ弾性率は、好ましくは400MPa以上であり、より好ましくは1500MPa以上である。
【0178】
(光造形物の屈曲耐性(0.5mm厚の場合))
得られた光硬化性樹脂組成物を、3Dプリンタ(FormLab社Form2)を用い、外径8mm、内径7.5mm(但し、厚みが0.5mm)で、円周が90°、長さ15mmの大きさに造形し、波長365nmの紫外線を5J/cm2の条件で照射して本硬化させることにより、光造形物を得た。
【0179】
得られた造形物(以下「人工爪1」という)を、縦50mm、横50mm、高さ50mmの金属製立方体の下に1枚置き、上から20kg重の荷重をかけた後、割れたか否かを目視で確認した。計5枚の人工爪1を評価し、5枚割れずに形状を保持したものを「A」、2枚から4枚割れずに形状を保持したものを「B」、0枚から1枚割れずに形状を保持したものを「C」とした。
【0180】
(光造形物の屈曲耐性(1.0mm厚の場合))
得られた光硬化性樹脂組成物を、3Dプリンタ(FormLab社Form2)を用い、外径8mm、内径7mm(但し、厚みが1.0mm)で、円周が90°、長さ15mmの大きさに造形し、波長365nmの紫外線を5J/cm2の条件で照射して本硬化させることにより、光造形物を得た。
【0181】
得られた造形物(以下「人工爪2」という)を、縦50mm、横50mm、高さ50mmの金属製立方体の下に1枚置き、上から20kg重の荷重をかけた後、割れたか否かを目視で確認した。計5枚の人工爪2を評価し、5枚割れずに形状を保持したものを「A」、2枚から4枚割れずに形状を保持したものを「B」、0枚から1枚割れずに形状を保持したものを「C」とした。
【0182】
(光造形物の引張強度および伸び率)
得られた光硬化性樹脂組成物を、3Dプリンタ(FormLab社Form2)を用い、30mm×10mm×厚さ0.5mmの大きさに造形し、波長365nmの紫外線を5J/cm2の条件で照射して本硬化させることにより、光造形物を得た。
【0183】
ISO527-1(又はJIS K7161)に記載されている方法に準拠し、得られた造形物(以下「引張試験片」という)を、引張り試験装置(インテスコ(株)製)を用い、チャック間距離20mm、引張速度5mm/分の条件で測定し、引張試験片が破断した時の引張強度(単位:MPa)、伸び率(単位:%)を得た。
【0184】
(光造形物のTg(ガラス転移温度))
引張試験片を、示差走査熱量計(DMS)(日立ハイテクサイエンス社製DMS6100動的粘弾性測定装置)により5℃/分の昇温速度で測定してTg(即ち、ガラス転移温度)を得た。
【0185】
【0186】
【0187】
【0188】
【0189】
表1~4中、各実施例及び各比較例における「光硬化性組成物の組成」欄の数字は、質量部で表されている。
【0190】
表1~4中、(メタ)アクリルモノマー(X)の各々の構造は以下のとおりである。
ここで、ABE-300、A-BPE-4、A-BPE-10は、新中村化学工業(株)製のアクリルモノマーであり、BP-4PAは、共栄社化学(株)製のアクリルモノマーであり、BP-2EMは、共栄社化学(株)製のメタクリルモノマーである。
【0191】
【0192】
表1~4中、(メタ)アクリルモノマー(D)の各々の構造は以下のとおりである。
ここで、PO-A、POB-A、M-600A及び4EG-Aは共栄社化学(株)製のアクリルモノマーであり、POは、共栄社化学(株)製のメタクリルモノマーであり、A-LEN-10及びAPG-200は新中村化学工業(株)製、THFA及びAIBは大阪有機化学工業(株)製、FA511ASは日立化成(株)製、CHDMMAは日本化成(株)製のアクリルモノマーである。
【化16】
【0193】
【0194】
【0195】
表1~4中、光重合開始剤の各々の構造は以下のとおりである。
ここで、Irg819は、BASF社製の「Irgacure819」(アシルフォスフィンオキサイド系化合物)であり、Irg184は、BASF社製の「Irgacure184」(アルキルフェノン系化合物)であり、TPOは、BASF社製の「IrgacureTPO」(アシルフォスフィンオキサイド系化合物)である。
【0196】
【0197】
表1~4に示すように、(メタ)アクリルモノマー(X)と(メタ)アクリルモノマー(D)とを含有する実施例1~30では、特に屈曲耐性に優れた光造形物を得ることができた。また、曲げ強度、曲げ弾性率、屈曲耐性、引張強度及び伸び率がバランスよく良好であった。
実施例1~30の光硬化性組成物の粘度及びガラス転移温度(つまり、Tg)は、光造形に適した範囲であった。
以上により、実施例1~30の光硬化性組成物は、人工爪の光造形による作製に特に適していることが確認された。
【0198】
日本国特許出願2017-066067及び2017-084814の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。本発明の例示的実施形態についての以上の記載は例示および説明の目的でされたものであり、網羅的であることあるいは発明を開示されている形態そのものに限定することを意図するものではない。明らかなことではあるが、多くの改変あるいは変更が当業者には自明である。上記実施形態は発明の原理及び実用的応用を最もうまく説明し、想定される特定の用途に適するような種々の実施形態や種々の改変と共に他の当業者が発明を理解できるようにするために選択され、記載された。本発明の範囲の範囲は以下の請求項およびその均等物によって規定されることが意図されている。