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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂製防水材
(51)【国際特許分類】
   E04D 5/06 20060101AFI20240409BHJP
   E04D 5/10 20060101ALI20240409BHJP
   D06N 5/00 20060101ALI20240409BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
E04D5/06 G
E04D5/10 Z
D06N5/00
C09K3/18 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019179581
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021055404
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000010010
【氏名又は名称】ロンシール工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】進藤 旭
(72)【発明者】
【氏名】松岡 悠子
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-306892(JP,A)
【文献】国際公開第2019/146783(WO,A1)
【文献】特開平10-119200(JP,A)
【文献】国際公開第2019/117085(WO,A1)
【文献】特開2001-146833(JP,A)
【文献】特開2019-064099(JP,A)
【文献】再公表特許第2019/117085(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 5/00-12/00
B32B 1/10-43/00
D06N 5/00
C09K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂100重量部に対し可塑剤20~80重量部と界面活性剤0.1~10重量部とを含有する汚れ防止層を少なくとも最表面に有し、前記熱可塑性樹脂がポリ塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニリデンのうちの1種類またはこれら2種類以上の樹脂の組み合わせであることを特徴とする熱可塑性樹脂製防水材。
【請求項2】
前記界面活性剤が非イオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂製防水材。
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤がグリセリン脂肪酸エステル系化合物、ソルビタン脂肪酸エステル系化合物、しょ糖脂肪酸エステル系化合物、アミン系化合物、アミド系化合物およびこれらの化合物でオキシアルキレン、ポリオキシアルキレン、ヒドロキシル基を有する化合物、オキシアルキレン、ポリオキシアルキレン、ヒドロキシル基を有するアルキルエーテル系の化合物、オキシアルキレン、ポリオキシアルキレン、ヒドロキシル基を有するアルキルフェニルエーテル系の化合物から選ばれる1種以上である請求項2に記載の熱可塑性樹脂製防水材。
【請求項4】
前記汚れ防止層の表面と水との接触角が100°未満であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂製防水材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の屋上、屋根、ベランダ等の防水構造に使用する防水材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の屋上、屋根、ベランダ等の防水構造において防水シートを敷設することが行われており、熱可塑性樹脂製の防水シートが一般的に使用されている。他にも防水構造で用いられるコーナー用役物やオーバーフロー管などの部材は、防水シートとの接合性を高める為に、部分的に熱可塑性樹脂製防水材が使用されている。これら熱可塑性樹脂製防水材には柔軟性を付与するため可塑剤が含有されることがある。熱可塑性樹脂製防水材中の可塑剤が経時で防水材表面に移行することにより、屋外に長期にわたって暴露されている防水材の表面に汚れが付着しやすくなることがあり、外観が悪くなるほか、遮熱性能を有する防水材にいたっては汚れの付着により遮熱性能が十分に発揮されないケースもある。
【0003】
一方で、可塑剤を含有しない熱可塑性エラストマー系の防水シートがある。特許文献1には、熱可塑性エラストマーからなる防水シートが開示されている。また、特許文献2には、可塑剤含有塩化ビニル樹脂シート表面に可塑剤の浮き出し防止用に、アクリル樹脂やフッ素樹脂などの樹脂層を設けた防水シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-201295号公報
【文献】特開平9-1745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような防水シートは可塑剤を含有する熱可塑性樹脂製防水シートに比べ汚れは付着しにくいが、シートの柔軟性が劣るために防水シートを施工する際に出入隅部などにおいて追従しにくく施工しにくいという問題がある。また可塑剤の有無にかかわらず施工後において、大気中の塵などの汚れを含んだ雨水がシート表面に溜まったあと水が蒸発することにより、シートに汚れが付着するという場合がある。また、特許文献2に至っては、防水シート表面と裏面の熱可塑性樹脂が異なる為、隣接するシート同士を熱融着や溶剤溶着によって接合する際に、防水シートの表面と裏面とで熱融解性や溶剤への溶解性が異なることから接合しにくく、施工しにくいという問題がある。
【0006】
本発明はこのような問題を解消し、柔軟性や施工性を維持したまま水溜まりによる屋外暴露による汚れ付着を防止する防水材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明が講じた手段の概要は、界面活性剤を含有する汚れ防止層を最表面に備えた熱可塑性樹脂製防水材としたことである。
【0008】
具体的には、熱可塑性樹脂100重量部に対し可塑剤20~80重量部と界面活性剤0.1~10重量部とを含有する汚れ防止層を少なくとも最表面に有する熱可塑性樹脂製防水材である。
【0009】
さらに、界面活性剤が非イオン性界面活性剤である上記熱可塑性樹脂製防水材であり、また非イオン性界面活性剤がグリセリン脂肪酸エステル系化合物、ソルビタン脂肪酸エステル系化合物、しょ糖脂肪酸エステル系化合物、アミン系化合物、アミド系化合物およびこれらの化合物でオキシアルキレン、ポリオキシアルキレン、ヒドロキシル基を有する化合物、オキシアルキレン、ポリオキシアルキレン、ヒドロキシル基を有するアルキルエーテル系の化合物、オキシアルキレン、ポリオキシアルキレン、ヒドロキシル基を有するアルキルフェニルエーテル系の化合物から選ばれる1種以上である上記熱可塑性樹脂製防水材である。
【0010】
またさらに、上記汚れ防止層の表面と水との接触角が100°未満である上記熱可塑性樹脂製防水材である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記のような汚れ防止層を最表面に配することにより、柔軟性や施工性を有し、水溜まりによる汚れの付着を防止する防水材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の熱可塑性樹脂製防水材である、複層防水シートの一実施態様を示す断面図
図2】本発明の熱可塑性樹脂製防水材である、単層防水シートの一実施態様を示す断面図
図3】本発明の熱可塑性樹脂製防水材である、出隅用接合役物の一実施様態を示す正面図
図4】フランジ面が本発明の熱可塑性樹脂製防水材である、オーバーフロー管の一実施様態を示す斜視図
図5】本発明の熱可塑性樹脂製防水材である、防水シート同士を接合した一実施様態を示す断面図
図6】防水シートが本発明の熱可塑性樹脂製防水材である、防水シートと出隅用接合役物を接合した一実施様態を示す斜視図
図7】出隅用接合役物が本発明の熱可塑性樹脂製防水材である、防水シートと出隅用接合役物を接合した一実施様態を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂製防水材(4)は、少なくともその最表面に汚れ防止層を備える。図1は汚れ防止層(1)と樹脂層(2)からなる防水シート(4-1)である。
基材(3)は図1のように汚れ防止層(1)と樹脂層(2)の中間に設けてもよく、最下層に設けてもよい。汚れ防止層(1)と樹脂層(2)のみの積層で基材はなくてもよい。また樹脂層は一層でも、複数の層であってもよく、複数層の場合は、それぞれの層の組成を異なるものとしてもよい。また、図2の防水シート(4-2)のように汚れ防止層(1)のみでもよい。
【0015】
この他熱可塑性樹脂製防水材としては、出隅入隅で用いるコーナー用役物や屋上やベランダの壁面に取り付けられるオーバーフロー管のフランジ面などがある。図3は出隅用接合役物(4-3)である。図4はフランジ面(4-4)を有する樹脂製のオーバーフロー管(5)である。役物やフランジ面は、一般的に防水シートを覆うように接合され、屋外側が汚れ防止層(1)となる。役物やフランジ面は、防水シートと同じく、単層であっても複数の層であってもよい。
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂製防水材は、少なくともその最表面に界面活性剤が添加されていることを特徴としている。これは防水材の汚れ防止性能の向上を目的とするものである。主に屋上等の屋外で使用される防水材、例えば防水シートであるが、雨風によって運ばれる塵などが堆積することで表面が汚れる。特に、降雨時に防水シート表面に雨水が水滴状に溜まった場合、水滴中の雨水に含んだ大気中の塵などは雨水が蒸発することで汚れのみが防水シートに付着した状態で残り、斑点状の模様となって外観を悪くする。本発明では、界面活性剤を添加することで、防水材の表面を親水化し、降雨時に表面に水滴をつくりにくくすることで、斑点状の汚れの付着を防止するものである。
【0017】
熱可塑性樹脂に添加された界面活性剤は、熱可塑性樹脂表面に浮き出てくることで表面を親水化する。この浮き出てくる現象は、一般的にブリード又はブルーム(以下、ブリード等)と呼ばれる。界面活性剤の添加量が多いと、ブリード等が起こり易くなり、表面に多量の界面活性剤が浮き出ることで逆に汚れが付着しやすくなる場合もある。
【0018】
界面活性剤は、少なくとも汚れ防止層(1)に添加する。界面活性剤は汚れ防止層(1)に添加されていればよく、樹脂層(2)やそれ以外の層に添加してもしなくても良い。樹脂層(2)やその他の層にも界面活性剤を添加することで、経時により汚れ防止層(1)へ界面活性剤が移行し、効果の持続性が期待できる。
【0019】
界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両面界面活性剤などのイオン性界面活性剤や非イオン性界面活性剤が使用できる。
【0020】
通常、本発明の熱可塑性樹脂製防水材は、熱可塑性樹脂に各種材料を添加して加熱混合し、溶融混練することにより成形される。上記界面活性剤のなかでも、本発明の熱可塑性樹脂製防水材の成形加工中において他の添加剤への影響が少なく耐熱性の良い非イオン性界面活性剤が好ましい。
非イオン性界面活性剤には、グリセリン脂肪酸エステル系化合物、ソルビタン脂肪酸エステル系化合物、しょ糖脂肪酸エステル系化合物、アミン系化合物、アミド系化合物およびこれらの化合物でオキシアルキレン、ポリオキシアルキレン、ヒドロキシル基を有する化合物、オキシアルキレン、ポリオキシアルキレン、ヒドロキシル基を有するアルキルエーテル系の化合物、オキシアルキレン、ポリオキシアルキレン、ヒドロキシル基を有するアルキルフェニルエーテル系の化合物などが挙げられ、これら2種類以上の非イオン性界面活性剤を組み合わせて使用しても良い。特に、加工中の耐熱の面から、グリセリン脂肪酸エステル系化合物、ソルビタン脂肪酸エステル系化合物が好ましく、ブリード性の面から、ソルビタン脂肪酸エステル化合物がさらに好ましい。
【0021】
界面活性剤の添加量は、加工時の耐熱性と、防汚性、ブリード性の面から、熱可塑性樹脂100重量部に対して0.1~10重量部が好ましく、防汚性の面から0.5~7重量部がさらに好ましく、耐熱性の面から0.5~5重量部がさらに好ましい。0.1重量部未満の場合は防汚性の効果がほとんどなく、10重量部以上の場合は界面活性剤が汚れ防止層(1)表面にブリードしやすくなり、逆に防汚性が低下する。
【0022】
本発明の熱可塑性樹脂製防水材の汚れ防止層および樹脂層の熱可塑性樹脂には、ポリ塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル、ポリ乳酸、ポリウレタン系エラストマー、ポリ塩化ビニリデンなどが挙げられ、これら2種類以上の樹脂を組み合わせて使用しても良い。
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル単独重合体であるポリ塩化ビニル樹脂、塩化ビニルと酢酸ビニル、エチレン、(メタ)アクリル酸エステル、塩化ビニリデンなどとの共重合体などが挙げられる。
アクリル系樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、アクリル酸とスチレン、ウレタン、シリコーン、ポリエステルなどとの共重合体などが挙げられる。
【0023】
本発明の熱可塑性樹脂製防水材同士、例えば複数の防水シートの端部同士を重ねて溶剤溶着又は熱融着することを考慮すると、溶融着性の面から、汚れ防止層(1)と樹脂層(2)は同一樹脂であることが好ましい。すなわち、熱可塑性樹脂製防水材の接合面同士が同じ樹脂からなることが好ましく、熱可塑性樹脂製防水材が単層でも複数層の場合でも同様である。
【0024】
特に、成形加工性、柔軟性、施工性に優れるポリ塩化ビニル系樹脂が好ましい。
【0025】
特に、ポリ塩化ビニル系樹脂の場合は、柔軟性を付与する為に含有する可塑剤によって汚れが付着し易くなるため、界面活性剤添加による防汚効果が大きくなる。
【0026】
汚れ防止層(1)および樹脂層(2)の可塑剤には、フタル酸系可塑剤、アジピン酸系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、シクロヘキサン系可塑剤などが挙げられ、これら2種類以上の可塑剤を組み合わせて使用しても良い。DOP、DINP、DUPなどの特に、フタル酸系可塑剤が耐候性、耐久性、可塑化効率、相溶性、加工性の面から好ましい。フタル酸エステル系可塑剤としては、DOP、DINP、DUPなどが挙げられ、さらに屋外暴露での揮発性と汚れ付着性も考慮すると、DINPがより好ましい。
【0027】
可塑剤の添加量は、成形加工性、柔軟性の面から、熱可塑性樹脂100重量部に対し可塑剤20~80重量部が好ましく、30~70重量部がさらに好ましい。20重量部未満では十分な柔軟性が得られず、80重量部を超えると可塑剤が防水材表面に浮き出てしまうため好ましくない。
【0028】
また、汚れ防止層(1)には、780~2500nmの近赤外領域の日射反射率が50%以上である遮熱顔料を配合することができる。これにより、近赤外領域の光を効率的に反射することができるために、屋上用防水シートの表面温度の上昇を通常の屋上用防水シートと比較して低くすることができる。そのため、屋上用防水シートの熱劣化の進行を低減でき、また建物屋内の温度上昇を緩和する効果が得られる。
ここで、遮熱顔料としてはフタロシアニン系、アゾ系、縮合アゾ系、アンスラキノン系、ペリノン・ペリレン系、キナクリドン系、トリフェニルメタン系、ジオキサジン系、酸化チタン系、酸化鉄系(赤色酸化鉄、黄色酸化鉄)、スピネル型焼成系、クロム酸鉛系、紺青系、酸化クロム系、複合酸化物系、縮合多環系が挙げられる。
【0029】
さらに、汚れ防止層(1)には、780~2500nmの近赤外領域の日射反射率が50%以上である遮熱顔料を配合することにより、上述したような効果を奏するだけでなく、その汚れ防止機能による遮熱性能の経時での維持を図ることが可能となる。
【0030】
汚れ防止層(1)および樹脂層(2)には樹脂、可塑剤、界面活性剤の他にも、各種添加剤を配合することができ、例えば充填剤、安定剤、難燃剤、滑剤、加工助剤などを用いることができる。また熱可塑性樹脂製防水材(4)は主に屋外で使用されることから、汚れ防止層および樹脂層は紫外線吸収剤や光安定剤、酸化防止剤などを添加した高耐候性の樹脂組成物であることが望ましい。
【0031】
基材(3)としては、ポリエステル繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維等などからなる織布または不織布などを使用できる。
【0032】
汚れ防止層(1)および樹脂層(2)の成形方法には、樹脂、可塑剤、界面活性剤、その他添加剤を混合した後、カレンダー法や押出法などによってシート成形されたり、また、基材(3)を有する場合には、カレンダー法、ラミネート法などで汚れ防止層(1)、樹脂層(2)をシート成形するとともに基材(3)に積層する。
【0033】
このように得られた本発明にかかる熱可塑性樹脂製防水材(4)の厚さは、総厚で1.0~3.3mm程度が好ましい。また、汚れ防止層(1)の厚さは、防汚性の面から、0.3~3.0mm程度が好ましい。
【0034】
図5は、本発明の熱可塑性樹脂製防水材(4)である防水シート(4-1)が防水下地上に敷設施工され、隣接する防水シートの端部同士が重ねて接合された接合部(6)における施工構造の実施形態である。防水シート(4-1)の汚れ防止層(1)と、もう一方の防水シートの樹脂層(2)が接合部(6)で溶融着されている。図5の防水シートは汚れ防止層(1)と樹脂層(2)からなるが、防水シートは単層でもよく、その場合は汚れ防止層(1)同士で接合されることとなる。
【0035】
図6および図7は、防水下地である平場および立ち上がり壁にかけて防水シートが施工されている出隅部分に、出隅用接合役物を接合した実施形態である。図6は、防水シートが本発明の熱可塑性樹脂製防水材(4)であり、出隅用接合役物が一般の熱可塑性樹脂製防水材(7)である。図7は、出隅用接合役物が本発明の熱可塑性樹脂製防水材(4)であり、防水シートが一般の熱可塑性樹脂製防水材(7)である。このように、本発明の熱可塑性樹脂製防水材(4)は、防水構造における一部に使用されてもよい。なかでも防水構造において、特に平場において通常広い面積を覆っている防水シートが本発明の熱可塑性樹脂製防水材(4)であることが好ましい。また本発明の熱可塑性樹脂製防水材(4)が防水構造全面に渡って使用されることで全体的に汚れにくく、より美観を保つことができる。
【実施例
【0036】
次に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、全ての表中の配合は特に記載が無い限り重量部で表示している。
【0037】
ポリ塩化ビニル樹脂100重量部、フタル酸エステル系可塑剤70重量部、安定剤3部、炭酸カルシウム50部、顔料2部からなる配合にて、カレンダー成形法で厚さ1.0mmの樹脂層(2)を得て、これらにガラス繊維織布を積層した。
次に、表1~3に示した配合に、安定剤5部、炭酸カルシウム10部、顔料5部を添加して、カレンダー成形で厚さ0.5mmの汚れ防止層(1)を得て、当該汚れ防止層(1)と上記のガラス繊維織布を積層した樹脂層(2)を積層し屋上用防水シートを得た。顔料は、得られた屋上用防水シートがマンセル値N8程度となる色とした。界面活性剤a~eは、それぞれ以下のものを使用した。
a:ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤(非イオン性)
b:グリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤(非イオン性)
c:アミン系界面活性剤(非イオン性)
d:アミド系界面活性剤(非イオン性)
e:カチオン界面活性剤
なお、表3の比較例8はポリ塩化樹脂組成物からなる樹脂層の上にアクリル系樹脂(可塑剤添加無し)からなるアクリル樹脂層が積層された防水シートである。
得られた熱可塑性樹脂製防水材については、ブリード性、耐熱性、接触角、汚染性、柔軟性、溶融着性の評価を以下に示す方法に基づいて実施した。これら得られた結果を表1~3に示す。なお、ブリード性、耐熱性、接触角、汚染性の評価については全て汚れ防止層の表面を対象として行っている。
【0038】
<ブリード性>
サイズ100mm×100mmの試験体を40℃80%の恒温恒湿槽に投入後、1ヵ月後にそれぞれ取り出しブリード有無を目視確認した。
〇:なし
△:僅かにあり
×:あり
【0039】
<耐熱性試験>
サイズ100mm×100mmの試験体を180℃オーブンに投入後、60分後にそれぞれ取り出し、カラーコンピューター(スガ試験機株式会社製、型式SM-4)にてランダムに選んだ4箇所のYI値を測定し、4箇所の平均値を求めた。ΔYIは次式により算出した。
ΔYI=[投入後の平均YI]-[投入前の平均YI]
◎:3未満
○:3以上5未満
△:5以上10未満
×:10以上
【0040】
<接触角試験>
サイズ10mm×30mmの試験体に水道水の水滴を垂らし、接触角計(ジャスコインタナショナル製、型式FTA125)を用いて、水滴下25秒後の試験体と水との接触状態を真横から撮影した。得られた画像から真円フィッティング法にて水接触角を解析した。
(試験温度:23℃、滴下量:0.01ml)
〇:90°未満
△:90°以上100°未満
×:100°以上
【0041】
<汚染性試験>
サイズ300mm×300mmの試験体を約1/60の勾配をつけた屋外暴露試験台に貼り付け、3ヵ月間暴露試験を実施した後、カラーコンピューター(スガ試験機株式会社製、型式SM-4)にてランダムに選んだ4箇所の色相CIE L*a*b*を測定しそれぞれの平均値を求めた。暴露前の試験体も同様に色相を測定した。暴露前と暴露後のそれぞれのΔE*と、雨水による斑模様の有無を確認した。ΔE*は次式により算出した。
ΔE*={([暴露前L*]-[暴露後L*])^2+([暴露前a*]-[暴露後a*])^2+([暴露前b*]-[暴露後b*])^2}^(1/2)
(評価基準)
ΔE*について
○:5.5未満
△:5.5以上6.5未満
×:6.5以上
斑模様の有無
〇:見られない
△:僅かにみられる
×:はっきり見られる
【0042】
<柔軟性>
サイズ100mm×150mmの試験体を23℃環境下に24時間養生後、手で折り曲げたときの折り曲げやすさを確認した。
(評価基準)
○:容易に折り曲げることができる
△:抵抗はあるも折り曲げることができる
×:折り曲げることができない
【0043】
<溶剤溶着性>
サイズ150mm×150mm試験体二枚を汚れ防止層を上側にして置き、互いの端部を40mmの幅で重ね合わせ、この重ね合わせ部に溶剤(THF)を浸した刷毛を挿入し、両面に溶剤を塗布した直後に重ね合わせ部を上から手で圧着させたときの、手では容易に剥れない程度まで貼り合わされるまでの圧着時間を測定した。
(評価基準)
○:5秒未満
△:5秒以上、10秒未満
×:10秒以上
【0044】
各評価結果は、実施例を表1、表2に、比較例を表3にそれぞれ示した。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
表1~3より、汚れ防止層(1)に界面活性剤を1~10重量部添加した実施例においては、界面活性剤を添加していない比較例1~3や添加量が0.05重量部と少ない比較例4,6と比べ接触角が小さく、ΔE*や斑模様の有無の評価が高く耐汚染性に優れることが分かる。なかでも、実施例1~10のソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤や実施例11~13のグリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤においては耐熱性に優れており、さらにソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤はブリード性にも優れることが分かる。
また、表3の比較例5,7より、界面活性剤の添加量が多過ぎると表面へのブリードが多くなり、耐汚染性が低下した。比較例8は防汚性、溶剤溶着性ともに実施例より劣る結果であった。これより本発明の熱可塑性樹脂製防水材は従来の防水材と比較して耐汚染性および施工性に優れることが分かる。
【0049】
表4は最表面が780~2500nmの近赤外領域の日射反射率が50%以上である屋上用防水シートの屋外暴露後の汚染性および日射反射率の保持率を評価した結果を示している。実施例21~24および比較例8は、顔料の代わりに遮熱性能を有する顔料5部を汚れ防止層に添加した以外は、実施例1~20および比較例1~7と同様にして得られた屋上用防水シートである。なお、表4の比較例10はポリ塩化樹脂組成物からなる樹脂層の上にアクリル系樹脂(可塑剤添加無し)からなるアクリル樹脂層が積層された遮熱タイプの防水シートである。
各屋上用防水シートについて、汚染性と日射反射率の保持率の評価を行った。汚染性については表1~3のΔE*と同様の評価を行い、日射反射率の保持率については以下に示す方法に基づいて実施した。なお、各評価については全て汚れ防止層の表面を対象として行っている。
【0050】
<日射反射率保持率>
サイズ300mm×300mmの試験体を約1/60の勾配をつけた屋外暴露試験台に貼り付け、3ヵ月間および6ヵ月間暴露試験を実施した後、分光光度計V-570(日本分光(株)製)を用いて780~2500nmの波長領域で測定した。日射反射率はJIS K 5602(780~2500nm)に準拠した。日射反射率保持率は以下のようにして算出した。
日射反射保持率(%)=((暴露後の日射反射率)/(暴露前の日射反射率))*100
(評価基準)
○:日射反射率保持率が85%以上
△:日射反射率保持率が85%未満、80%以上
×:日射反射率保持率が80%未満
【0051】
【表4】
【0052】
表4より、比較例9に比べ界面活性剤が添加された実施例21~24の方が耐汚染性に優れており、日射反射率保持率についても実施例はより保持率が高く、遮熱性能を維持できていることが分かる。また、比較例10については、長期間の暴露により日射反射保持率が急激に低下しており、経時による耐汚染性の低下が影響しているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の屋上用防水材は、防汚性に優れるとともに、施工性に優れるので、構造物の屋上、屋根、ベランダなどの防水構造として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 汚れ防止層
2 樹脂層
3 基材
4 熱可塑性樹脂製防水材
4-1 防水シート(複層)
4-2 防水シート(単層)
4-3 出隅用接合役物
4-4 フランジ面
5 オーバーフロー管
6 接合部
7 熱可塑性樹脂製防水材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7