(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】液層厚さの検出方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G01V 8/12 20060101AFI20240409BHJP
G01F 1/00 20220101ALI20240409BHJP
G01B 11/06 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
G01V8/12 A
G01F1/00 H
G01B11/06 Z
(21)【出願番号】P 2020182545
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110711
【氏名又は名称】市東 篤
(72)【発明者】
【氏名】飛田 南斗
【審査官】野口 聖彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0280834(US,A1)
【文献】特表平03-501652(JP,A)
【文献】特開2010-101799(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0222238(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00-99/00
G01N 21/00
G01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基盤を覆う液層の表面から背面の基盤に向けて波長の異なる複数の光を照射して各波長の光が基盤で反射して照射位置に戻るまでの往復時間を検知し,前記各波長の光の往復時間の差と前記各波長の光の液層中の屈折率とに基づいて前記液層の厚さを測定してなる液層厚さの検出方法。
【請求項2】
基盤を覆う液層の表面から背面の基盤に向けて波長の異なる複数の光を照射して各波長の光が基盤で反射して照射位置まで戻る反射波の照射波に対する位相遅延を検知し,前記各波長の光の位相遅延と前記各波長の光の液層中の屈折率とに基づいて前記液層の厚さを測定してなる液層厚さの検出方法。
【請求項3】
基盤を覆う液層の表面から背面の基盤に向けて波長の異なる複数の光を
選択的に同じ投光部から基盤上の同じ位置に照射して各波長の光が基盤で反射して戻る反射光の受光位置を検知し,照射位置から対象までの距離と照射位置から対象に向けて照射した光が対象で反射して戻る反射光の受光位置との対応関係を予め求めておき,前記各波長の光の受光位置と前記各波長の光の液層中の屈折率と前記対応関係とに基づいて前記液層の厚さを測定してなる液層厚さの検出方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れかの検出方法により前記基盤を覆う液層の厚さを求め,前記基盤を覆う液層の範囲を測定し,前記液層の厚さと範囲とに基づいて前記液層の
体積を推定してなる液層
厚さの検出方法
【請求項5】
基盤を覆う液層の表面から背面の基盤に向けて波長の異なる複数の光を照射して各波長の光が基盤で反射して照射位置に戻るまでの往復時間を検知する検知手段,前記各波長の光の液層中の屈折率を記憶する記憶手段,及び前記
検知手段で検知した各波長の光の往復時間の差と前記記憶手段に記憶した各波長の光の屈折率とに基づいて前記液層の厚さを算出する算出手段を備えてなる液層厚さの検出装置。
【請求項6】
基盤を覆う液層の表面から背面の基盤に向けて波長の異なる複数の光を照射して各波長の光が基盤で反射して照射位置まで戻る反射波の照射波に対する位相遅延を検知する検知手段,前記各波長の光の液層中の屈折率を記憶する記憶手段,及び前記
検知手段で検知した各波長の光の位相遅延と前記記憶手段に記憶した各波長の光の屈折率とに基づいて前記液層の厚さを算出する算出手段を備えてなる液層厚さの検出装置。
【請求項7】
基盤を覆う液層の表面から背面の基盤に向けて波長の異なる複数の光を
選択的に同じ投光部から基盤上の同じ位置に照射して各波長の光が基盤で反射して戻る反射光の受光位置を検知する検知手段,前記各波長の光の液層中の屈折率と共に照射位置から対象までの距離と照射位置から対象に向けて照射した光が対象で反射して戻る反射光の受光位置との対応関係を記憶する記憶手段,及び前記
検知手段で検知した各波長の光の受光位置と前記記憶手段に記憶した各波長の光の屈折率と前記対応関係とに基づいて前記液層の厚さを算出する算出手段を備えてなる液層厚さの検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液層厚さの検出方法及び装置に関し,とくに基盤を覆う液層の厚さを検出する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル等の掘削工事では,掘削に伴って湧水が発生すると土砂の流出や切羽の崩壊等のリスクが高まり,施工性や安全性も大きく低下することから,切羽前方の地下水の状態を把握して適切な対策を施しながら施工することが求められる。従来から先進ボーリングによって切羽前方の地下水状態を予想しながら施工しているが,先進ボーリングだけでは限られた線情報しか得ることができず,掘削に伴う湧水量を適切に把握できないことが経験されている。これに対して,掘削直後の切羽上の湧水を非接触で検出し,検出された切羽上の湧水によって切羽前方の地下水状態を面的に評価することが提案されている(特許文献1,2参照)。
【0003】
図5(A)は,特許文献2の開示する地下水状態評価システム60を示す。図示例の評価システム60は,トンネル1の切羽2を撮影して温度分布情報Gaを出力する赤外線カメラ61と,切羽2を撮影して強度分布情報Gbを出力する近赤外線カメラ62とを備えている。赤外線カメラ61は,切羽2から放射される熱赤外線(例えば遠赤外線及び中赤外線)を検知する撮像素子を有しており,
図5(B)に示すような切羽2の温度分布情報(画像)Gaを作成して出力する。近赤外線カメラ62は,切羽2に向けて近赤外線を掃射する投光器と,切羽2で反射された近赤外線を検知する撮像素子とを有しており,
図5(C)に示すような切羽2からの近赤外線の反射強度を反映した強度分布情報(画像)Gbを作成して出力する。
【0004】
また
図5(A)の評価システムは,赤外線カメラ61の温度分布情報Gaと近赤外線カメラ62の強度分布情報Gbとから切羽2上の湧水の状態を評価する演算装置63を備えている。演算装置63は,温度分布情報Gaに基づいて,所定閾値(例えば21.5℃)より低い温度となっている切羽2上のエリア(温度低下部)Aaを湧水の発生している可能性の高いエリアとして特定する。また演算装置63は,強度分布情報Gbに基づいて,所定閾値よりも高い強度となっている切羽2上のエリア(高吸収部)Abを湧水の発生している可能性の高いエリアとして特定する。切羽2上の温度低下部Aaと高吸収部Abとを照らし合わせ,例えば両者の重複する部分を湧水発生エリアAとして特定することにより,切羽前方の地下水の状態を面的に評価することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-160857号公報
【文献】特開2010-101799号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】左貝潤一「光計測入門」森北出版,2016年7月5日発行,pp.98~111
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図5に示す従来の地下水状態評価システム60によれば,切羽前方の地下水の状態を面的に評価することができ,例えば特定した湧水発生エリアAの範囲(面積,或いは切羽2の全体に対する面積割合等)を予め設けた基準値と比較することにより切羽前方の地下水状態の危険度等を評価することができる。しかし,従来の評価システム60は,切羽2の湧水発生エリアAの場所や面積を特定できるものの,特定した湧水発生エリアAにおける水深(湧水層の厚さ)を検知することができず,切羽2上の湧水量(体積)を評価することができない問題点がある。
【0008】
切羽2上の湧水量は,トンネル掘削工事において作業の施工性・安全性を図るうえで重要な項目であるにも拘らず,非接触式で湧水の深さ(液層の厚さ)を評価するシステムが開発されていないことから,従来は作業員が切羽2に接近して目視により見積り,或いは切羽2に接触して計測しているのが実情である。しかし,切羽2上の湧水のように挙動を予測することができない自然水を定量するために切羽2に接近することは危険を伴う。作業員の安全を確保する観点からも,切羽上の湧水の深さを非接触で検知できるシステムの開発が望まれている。
【0009】
そこで本発明の目的は,切羽上の湧水のように基盤を覆う液層の厚さを非接触で検出する方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
図1及び
図2(B)の実施例を参照するに,本発明による液層厚さの検出方法の一態様は,基盤(例えば切羽)2を覆う液層(例えば湧水)10の表面から背面の基盤2に向けて波長λr,λbの異なる複数の光R,Bを照射して各波長の光R,Bが基盤2で反射して照射位置に戻るまでの往復時間tr,tbを検知し,各波長の光R,Bの往復時間tr,tbの差(tr-tb)と各波長の光R,Bの液層10中の屈折率nr,nbとに基づいて液層10の厚さを測定してなるものである。
【0011】
また,
図1及び
図3(B)の実施例を参照するに,本発明による液層厚さの検出方法の他の態様は,基盤(例えば切羽)2を覆う液層(例えば湧水)10の表面から背面の基盤2に向けて波長λr,λbの異なる複数の光R,Bを照射して各波長の光R,Bが基盤2で反射して照射位置まで戻る反射波の照射波に対する位相遅延φr,φbを検知し,各波長の光R,Bの位相遅延φr,φbと各波長の光R,Bの液層10中の屈折率nr,nbとに基づいて液層10の厚さを測定してなるものである。
【0012】
また,
図1及び
図4(B)の実施例を参照するに,本発明による液層厚さの検出方法の更に他の態様は,基盤(例えば切羽)2を覆う液層(例えば湧水)10の表面から背面の基盤2に向けて波長λr,λbの異なる複数の光R,Bを
選択的に同じ投光部から基盤上の同じ位置に照射して各波長の光R,Bが基盤2で反射して戻る反射光の受光位置Xr,Xbを検知し,照射位置から対象までの距離Lと照射位置から対象に向けて照射した光が対象で反射して戻る反射光の受光位置Xとの対応関係Fを予め求めておき,各波長の光R,Bの受光位置Xr,Xbと各波長の光R,Bの液層10中の屈折率nr,nbと対応関係Fとに基づいて液層10の厚さを測定してなるものである。
【0013】
他方,本発明による液層厚さの検出装置の一態様は,
図2(B)に示すように,基盤(例えば切羽)2を覆う液層(例えば湧水)10の表面から背面の基盤2に向けて波長λr,λbの異なる複数の光R,Bを照射して各波長の光R,Bが基盤2で反射して照射位置に戻るまでの往復時間tr,tbを検知する検知手段21,各波長の光R,Bの液層10中の屈折率nr,nbを記憶する記憶手段51,及び
検知手段21で検知した各波長の光R,Bの往復時間tr,tbの差(tr-tb)と記憶手段51に記憶した各波長の光R,Bの液層10中の屈折率nr,nbとに基づいて液層10の厚さを算出する算出手段50を備えてなるものである。
【0014】
また,
図3(B)に示すように,本発明による液層厚さの検出装置の他の態様は,基盤(例えば切羽)2を覆う液層(例えば湧水)10の表面から背面の基盤2に向けて波長λr,λbの異なる複数の光R,Bを照射して各波長の光R,Bが基盤2で反射して照射位置まで戻る反射波の照射波に対する位相遅延φr,φbを検知する検知手段31,各波長の光R,Bの液層10中の屈折率nr,nbを記憶する記憶手段51,及び検知手段31で検知した各波長の光R,Bの位相遅延φr,φbと記憶手段51に記憶した各波長の光R,Bの液層10中の屈折率nr,nbとに基づいて液層10の厚さを算出する算出手段50を備えてなるものである。
【0015】
また,
図4(B)に示すように,本発明による液層厚さの検出装置の更に他の態様は,基盤(例えば切羽)2を覆う液層(例えば湧水)10の表面から背面の基盤2に向けて波長λr,λbの異なる複数の光R,Bを
選択的に同じ投光部から基盤上の同じ位置に照射して各波長の光R,Bが基盤2で反射して戻る反射光の受光位置Xr,Xbを検知する検知手段41,各波長の光R,Bの液層10中の屈折率nr,nbと共に照射位置から対象までの距離Lと照射位置から対象に向けて照射した光が対象で反射して戻る反射光の受光位置Xとの対応関係Fを記憶する記憶手段51(又は46),及び
検知手段41で検知した各波長の光R,Bの受光位置Xr,Xbと記憶手段51に記憶した各波長の光R,Bの液層10中の屈折率nr,nbと対応関係Fとに基づいて液層10の厚さを算出する算出手段50を備えてなるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明による液層厚さの検出方法及び装置は,基盤2を覆う液層10の表面から背面の基盤2に向けて波長λr,λbの異なる複数の光R,Bを照射し,各波長の光R,Bが基盤2で反射して照射位置に戻るまでの往復時間tr,tb,照射位置まで戻る反射波の照射波に対する位相遅延φr,φb,又は反射波の受光位置Xr,Xbと,各波長の光R,Bの液層10中の屈折率nr,nbとに基づいて液層10の厚さを測定するので,液層10の厚さを非接触で検知することができる。
【0017】
従って,本発明を切羽2の湧水に適用した場合に,切羽2に接近することなく離れた位置から作業員の安全を図りながら切羽2を覆う湧水2の厚さを非接触で検知することができる。また,
図5を参照して上述した地下水状態評価システム60と組み合わせ,地下水状態評価システム60によって切羽上の湧水発生エリアAの面積を求めると共に,本発明によって切羽上の湧水発生エリアAの厚さ(水深)を求めることにより,切羽2上の湧水発生エリアAの湧水量(体積)を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
以下,添付図面を参照して本発明を実施するための形態及び実施例を説明する。
【
図1】は,本発明の液層厚さの
検出方法の一実施例の説明図である。
【
図2】は,本発明の液層厚さの
検出装置の一実施例の説明図である。
【
図3】は,本発明の
検出装置の他の実施例の説明図である。
【
図4】は,本発明の
検出装置の更に他の実施例の説明図である。
【
図5】は,従来の切羽前方の地下水状態評価システムの一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1(A)は,トンネル1の掘削工事において切羽2に生じた亀裂3から切羽1を部分的に覆うように流れ出る湧水10の厚さ(水深)dの測定に本発明の検出装置20(或いは検出装置30,検出装置40)を適用した実施例を示す。例えば,検出装置20をトンネル1内の切羽2から離れた作業員9に保持させ,掘削直後の切羽2上の湧水10の表面と対向させることにより,湧水10の厚さ(水深)dを非接触で検出する。以下,図示例に沿って説明するが,本発明の適用対象は切羽2上の湧水10に限定されるわけではなく,基盤2を覆うように存在する液層10の厚さdの測定に広く適用可能である。
【0020】
図示例の検出装置20は,異なる波長λr,λbの複数の光R,B(例えばレーザー光)を液層10の表面側から背面の基盤2に向けて投光して基盤2までの距離を検知する検知手段21r,21bと,検知手段21r,21bの各波長λr,λbの検知距離の差に基づいて液層10の厚さを算出する算出手段50とを有する。従来から光を利用して距離を求める複数の方式が開発されており(非特許文献1参照),図示例の検出装置20の一例は
図2に示すようなTOF(Time of Flight)方式(光パルス方式と呼ばれることもある)を利用したものであるが,
図3に示すような位相遅延検出方式の検出装置30,或いは
図4に示すような三角測量方式の検出装置40とすることもできる。
【0021】
図2(A)を参照して,従来の光パルス方式を説明する。光パルス方式の検知手段21は,所定波長λ(周波数f)で比較的短いパルス光Iを出力する光源(例えばレーザーダイオード)22と,パルス光Iを基盤(計測対象)2に向けて照射する投光部24と,基板2からの反射パルス光Iを受信する受光部25と,照射から受信までのパルス光Iの往復時間tを検知する検知器23とを有する。図示例では,光源22と投光部24との間のビームスプリッタ(BS)経由で照射パルス光Iを検知器23に入力し,受光部25の反射パルス光を全反射ミラー(M)経由で検知器23に入力し,両者から検知器23において往復時間tを検知している。往復時間tが検知できれば,(1)式のパルス光Iの速度(光速)cを用いて,(2)式のように検出装置20から基板2までの距離L(=c・t/2)を算出することができる。
【0022】
c=f・λ=fr・λr=fb・λb ……………………………………………(1)
L=c・t/2 ………………………………………………………………………(2)
cr=c/nr ………………………………………………………………………(3)
cb=c/nb ………………………………………………………………………(4)
【0023】
ただし,(1)式はパルス光Iの空気中の光速cであり,
図1(A)のように基盤2の表面が液層10で覆われている場合は,液層10中においてパルス光Iの速度が空気中よりも遅くなる。例えば波長λrのパルス光Rの液層10中の速度crは(3)式のように波長λrの屈折率nrに応じて遅くなり,波長λbのパルス光Bの液層10中の速度cbは(4)式のように波長λbの屈折率nbに応じて遅くなる。従って,複数の異なる波長λr,λbのパルス光R,Bを利用して液層10で覆われた基盤2までの往復時間tr,tbを検知すると,後述する(14)式のように各波長λr,λbの往復時間tr,tbに液層10の厚さdに応じた差(tr-tb)が生じる。
【0024】
図1(B)は,異なる波長λr,λbの複数のパルス光R,Bを用いて液層10の厚さを算出する光パルス方式の検出装置20の実施例を示す。図示例の検出装置20は,波長λrのパルス光Rの光源22r及びその反射光の検知器23を有する光パルス方式の検知手段21rと,波長λbのパルス光Bの光源22b及びその反射光の検知器23を有する光パルス方式の検知手段21bと,記憶手段51を有する算出手段50とを有する。検知手段21rにより波長λrのパルス光Rの基盤2までの往復時間trを検知し,検知手段21bにより波長λbのパルス光Bの基盤2までの往復時間tbを検知し,算出手段50により往復時間trと往復時間tbとの差(tr-tb)から液層10の厚さを算出する。算出手段50の一例はコンピュータであり,算出手段50の記憶手段51には各波長λr,λbのパルス光R,Bの液層10中の屈折率nr,nbを記憶する。
【0025】
図2(B)を参照して,光パルス方式の検出装置20により液層10の厚さを算出する手順を説明する。基盤2を覆う厚さdの液層10の表面に向けて,基盤2から距離L(L>d)だけ隔てた位置から波長λrのパルス光Rを照射した場合,検知器23で検知される基盤2からの往復時間trは(11)式で表される。同様に,波長λbのパルス光Bを照射した場合,検知器23で検知される基盤2からの往復時間tbは(12)式で表される。従って,(13)式のような往復時間tr,tbの差(tr-tb)が発生し,(14)式のように往復時間の差(tr-tb)と記憶手段51に記憶した各波長のパルス光R,Bの屈折率nr,nbとから液層10の厚さdを算出することができる。なお,(14)式におけるパルス光Iの速度(光速)cは定数((1)式参照)であり,予め算出手段50の記憶手段51に記憶しておくことができる。
【0026】
tr=(2L-2d)/c+2d/cr
=(2L-2d)/c+2d・nr/c …………………………………(11)
tb=(2L-2d)/c+2d/cb
=(2L-2d)/c+2d・nb/c …………………………………(12)
tr-tb=2d(nr-nb)/c …………………………………………(13)
d=c(tb-tr)/2(nb-nr) ……………………………………(14)
【0027】
検出装置20で用いるパルス光R,Bの波長λr,λbにとくに制限はなく,異なる波長λr,λbのパルス光R,Bを適宜選択できるが,好ましくは可視光線の範囲内(380nm~760nm程度の範囲内)からそれぞれ選択する。可視光波長のパルス光R,Bを用いることにより,作業員が視覚でパルス光R,Bの照射位置を確認しながら液層10の厚さdを求めることができる。また,液層10中での吸収が比較的小さいパルス光R,Bを選択することが有効である。例えば赤色パルス光R(波長λr=640~770nm)と青色パルス光B(波長λb=450~495nm)を用いる。ただし,液層10中での吸収及び液相10の液面での反射を考慮する必要がなければ,紫外線領域又は赤外線領域のパルス光を用いることも可能である。
【0028】
更に,
図1(B)の検出装置20は2種類のパルス光R,Bを用いているが,3種類以上の波長の異なるパルス光を用いることも有効である。例えば3種類のパルス光を用いることで(13)式のような往復時間の差(tr-tb)を3つ取得することができ,3つの往復時間の差(tr-tb)から液層10の厚さdを検出することで精度を高めることが期待できる。好ましくは,複数のパルス光R,Bでそれぞれ液層10の同じ部位の厚さdが検出されるように,各パルス光R,Bの照射位置をできるだけ一致させる。例えば
図1(B)の検出装置20では,複数の検知手段21r,21bを同時に駆動することもできるが,各パルス光R,Bを同時に照射すると照射位置がずれるので,液層10の厚さdの検出誤差が大きくなりうる。各検知手段21r,21bを液層10の同じ部位に順次対向させ,各パルス光R,Bを照射位置が一致するように別々に照射することが望ましい。
【0029】
図1(C)は,複数のパルス光R,Bの照射位置を一致させながら液層10の厚さを検出することができる光パルス方式の検出装置20の他の実施例を示す。
図1(C)の検出装置20は,異なる波長λrの複数の光源22r,22b及び光源切替スイッチ26を有する単独の検知手段21と,記憶手段51を有する算出手段50とで構成されている。光源切替スイッチ26で複数の光源22r,22bを選択的に投光部24と接続し,複数のパルス光R,Bを同じ投光部24から照射することにより,各パルス光R,Bの照射位置を一致させることができる。例えば光源切替スイッチ26で各パルス光R,Bの照射を一定時間で切り替え,切替前(又は切替後)に検知器23で検知されたパルス光Rの往復時間trと,切替後(又は切替前)に検知器23で検知されたパルス光Bの反射時間tbとの差(tr-tb)から液層10の厚さdを算出する。
【0030】
図1及び
図2のような検出装置20を用いれば,掘削直後の切羽2上の湧水10の厚さ(水深)dを切羽2から離れた位置から非接触で検出することができる。また,
図1の検出装置20を
図5の地下水状態評価システム60と組み合わせ,地下水状態評価システム60によって切羽2上の湧水発生エリアAの面積を求めると共に,
図1及び
図2の検出装置20によって切羽2上の湧水発生エリアAの厚さdを求めることにより,切羽2上に発生した湧水発生エリアAの湧水量(体積)を評価することができる。
【0031】
こうして本発明の目的である「切羽上の湧水のように基盤を覆う液層の厚さを非接触で検出する方法及び装置」を提供することができる。
【実施例1】
【0032】
図3は,異なる波長λr,λbの複数の光R,Bを用いて位相遅延検出方式に基づき液層10の厚さを算出する本発明の検出装置30の実施例を示す。上述した
図2の光パルス方式に基づく検出装置20は,液層10の厚さを非接触で簡便に検出できるが,基板2を覆う液層10の厚さdが薄くなると,パルス光R,Bが液層10を往復する時間が非常に短くなり,厚さdを精度よく検出することが難しくなりうる。光パルス方式に代えて位相遅延検出方式の検出装置30を用いることにより,液層10が薄い場合であっても厚さdを精度よく検出することが期待できる。
【0033】
図3(A)を参照して,従来の位相遅延検出方式を説明する。位相遅延検出方式の検知手段31は,所定波長λの光Iを出力する光源(例えばレーザーダイオード)32と,その光Iを基盤2に向けて照射する投光部34と,基板2からの反射光Iを受信する受光部35と,照射光に対する反射光の位相遅延(照射光に対する反射光の位相差)φを検知する検知器33とを有する。基盤2から距離Lだけ隔てて波長λの光Iを照射した場合,距離Lの往復に相当する分だけ反射光の位相が遅れる。位相には2πの整数q倍だけ不確実さがあることを考慮すると,照射光に対する反射光の位相遅延φは(21)で表すことができる。位相遅延φが検知できれば,光Iの波長λを用いて,(22)式のように検出装置20から基板2までの距離Lを算出することができる。(22)式に含まれる定数qは,予め校正することにより決定しておくことができ,算出手段50の記憶手段51に記憶しておくことができる。
【0034】
φ=2π(2L/λ)-2π・q=2π・f・t-2π・q ………………(21)
L=λ・(φ/2π+q)/2 …………………………………………………(22)
φr=2π{(2L-2d)/λr+2d/(λr/nr)}-2π・q
=2π{(2L-2d)/λr+2d・nr/λr-q}
=2π{2d(nr-1)/λr+2L/λr-q} …………………(23)
φb=2π{(2L-2d)/λb+2d/(λb/nb)}-2π・q
=2π{(2L-2d)/λb+2d・nb/λb-q}
=2π{2d(nb-1)/λb+2L/λb-q} …………………(24)
d=(λb・φb-λr・φr)/4π・(nb-nr)
+q(λb-λr)/2(nb-nr) ………………(25)
【0035】
図3(B)は,異なる波長λr,λbの複数の光(例えばレーザー光)R,Bを用いて液層10の厚さを算出する位相遅延検出方式の検出装置30の実施例を示す。図示例の検出装置30は,所定波長λrの光Rの光源32r及び検知器33を有する位相遅延検出方式の検知手段31rと,異なる所定波長λbの光Bの光源32b及び検知器33を有する位相遅延検出方式の検知手段31bと,記憶手段51を有する算出手段50とを有する。検知手段31rにより波長λrの光Rが基盤2までの往復したときの位相遅延φrを検知し,検知手段31bにより波長λbの光Bが基盤2までの往復したときの位相遅延φbを検知し,算出手段50により位相遅延φrと位相遅延φbとから液層10の厚さを算出する。算出手段50の記憶手段51には,各波長λr,λbの光R,Bの液層10中の屈折率nr,nbを記憶する。
【0036】
図3(B)に示すように基盤2の表面が液層10で覆われている場合は,異なる波長λr,λbによる位相遅延が生じるだけでなく,液層10中において各波長λr,λbの屈折率nr,nbによる位相遅延が生じる。すなわち,基盤2を覆う厚さdの液層10の表面に向けて,基盤2から距離L(L>d)だけ隔てた位置から波長λrの光Rを照射した場合,検知器33で検知される反射光Rの位相遅延φrは(23)式で表される。同様に,波長λbの光Bを照射した場合,検知器33で検知される反射光Bの位相遅延φbは(24)式で表される。(23)式及び(24)式から距離Lを消去することにより,(25)式のように厚さdを解くことができる。(25)式に含まれる波長λr,波長λb,定数qは予め決定されているので,(25)式は各波長λr,λbの位相遅延φr,φbと各波長λr,λbの屈折率nr,nbとから液層10の厚さdが算出できることを示している。
【0037】
位相遅延検出方式の検出装置30で用いる光R,Bの波長λr,λbにとくに制限はないが,好ましくは可視光線の範囲内(380nm~760nm程度の範囲内)からそれぞれ選択し,照射位置を視覚で確認しながら液層10の厚さdを求めることができるようにする。
図3(B)の検出装置30は2種類の光R,Bを用いているが,3種類以上の波長の異なる光を用いることも有効である。更に,複数の光R,Bでそれぞれ液層10の同じ部位の厚さdが検出されるように,各光R,Bの照射位置をできるだけ一致させることが望ましい。
図1(C)に示すように,異なる波長λrの複数の光源32r,32bと光源切替スイッチ26とを有する単独の検知手段31を用いることにより,各光R,Bの照射位置を一致させながら液層10の厚さdを検出する
検出装置30とすることができる。
【実施例2】
【0038】
図4は,異なる波長λr,λbの複数のレーザー光R,Bを用いて三角測量方式に基づき液層10の厚さを算出する本発明の検出装置40の実施例を示す。
図4(A)を参照して,従来の三角測量方式を説明する。三角測量方式の検知手段41は,所定波長λの光Iを出力する光源(例えばレーザーダイオード)42と,その光Iを基盤(対象)2に向けてほぼ垂直に照射する投光部44と,基板2で乱反射した反射光Iの一部を受信する受光部45と,受光した反射光Iの受光位置Xを検知する検知器43と,記憶手段46とを有する。図示例の受光部45の一例は,基盤2からの反射光Iを受信して検知器43に結像するレンズである。図中の符号Pは,基盤2上の光Iの反射位置を示す。
【0039】
基盤2からの特定角度の反射光Iを受信して位置Xに結像することにより,反射光Iの受光位置Xを,照射位置から基盤(対象)2上の反射位置までの距離Lと1対1対応させることができる。すなわち,受光位置X(例えば受光位置Xの照射位置からの変位s)と基盤(対象)2までの距離Lとの対応関係Fを予め求めて記憶手段46に設定しておけば,その対応関係Fを用いて反射光Iの受光位置Xから基板2までの距離L(=F(s))を求めることができる。図示例では,対応関係Fを検出装置40の内部の記憶手段46に記憶しているが,例えば後述する算出手段50の記憶手段51のように,検出装置40の外部において受光位置X(例えば受光位置Xの照射位置からの変位s)と対応関係Fとから基盤2までの距離Lを算出することも可能である。また,受光位置Xの照射位置からの変位sと照射位置から基盤2までの距離L(=F(s))とから(31)式のように反射光Iの反射角度θが表される。
【0040】
tanθ=s/L=s/F(s) ………………………………………………(31)
tanθr=sr/Lr=sr/F(sr) …………………………………(32)
tanθb=sb/Lb=sb/F(sb) …………………………………(33)
nr=sinθr/sinθ ∴sinθ=sinθr/nr ……………(34)
nb=sinθb/sinθ ∴sinθ=sinθb/nb ……………(35)
sr=d・tanθ+(L-d)tanθr …………………………………(36)
sb=d・tanθ+(L-d)tanθb …………………………………(37)
d=(sr・tanθb-sb・tanθr)/tanθ(tanθb-tanθr)
…………………………………………(38)
【0041】
図4(B)は,異なる波長λr,λbの複数のレーザー光R,Bを用いて液層10の厚さを算出する三角測量方式の検出装置40の実施例を示す。図示例の検出装置40は,所定波長λrの光Rの光源42r及び検知器43を有する三角測量方式の検知手段41rと,異なる所定波長λbの光Bの光源42b及び検知器43を有する三角測量方式の検知手段41bと,記憶手段51を有する算出手段50とを有する。算出手段50の記憶手段51には,各波長のレーザー光R,Bの液層10中の屈折率nr,nbと共に従来の三角測量方式で求めた対応関係F,すなわち照射位置から対象までの距離Lと照射位置から照射した光が対象で反射して戻る反射光の受光位置X(例えば受光位置Xの照射位置からの変位s)との対応関係Fを記憶する。
【0042】
検知手段41r及び検知手段41bは,何れも基板2まで同じ距離Lとなるような照射位置に配置する。また,異なる波長λr,λbの光R,Bが液層10の同じ部位に照射されるように,検知手段41r及び検知手段41bの照射位置を一致させる。好ましくは,
図1(C)に示すように,異なる波長λrの複数の光源42r,42bと光源切替スイッチ26とを有する単独の検知手段41を用いることにより,各光R,Bの照射位置を一致させながら液層10の厚さdを検出する
検出装置40とする。三角測量方式の検出装置40で用いる光R,Bの波長λr,λbにとくに制限はないが,好ましくは可視光線の範囲内(380nm~760nm程度の範囲内)からそれぞれ選択し,照射位置を視覚で確認しながら液層10の厚さdを求めることができるようにする。また,
図4(B)の検出装置
40は2種類の光R,Bを用いているが,3種類以上の波長の異なる光を用いることも有効である。
【0043】
図4(B)に示すように,基盤2を覆う厚さdの液層10の表面に向けて,基盤2から距離L(L>d)だけ隔てた照射位置から波長λrの光Rを照射し,基盤2から反射角度θで乱反射される反射光Rを受信した場合,液層10の通過時に反射光Rが屈折して反射角度θrになるので,検知手段41rの検知器43で検知される反射光Rの受光位置Xrの照射位置からの変位srは(36)式のようになる。検知手段41rで検知した反射光Rの受光位置Xr(例えば受光位置Xrの照射位置からの変位sr)は,算出手段50に入力する。算出手段50において,反射光Rの受光位置Xr(例えば受光位置Xrの照射位置からの変位sr)から対応関係Fを用いて基盤2までの距離Lr(=F(sr))を求め,(32)式のように反射光Rの反射角度θrを算出することができる。なお,対応関係Fを用いて求めた基盤2までの距離Lrは,基盤2上の実際の反射位置までの距離ではなく,屈折した反射光Rから推定される見かけ上の反射位置Prまでの距離である。
【0044】
同様に,
図4(B)に示すように同じ照射位置から波長λbの光Bを照射し,基盤2から反射角度θで乱反射される反射光Rを受信した場合,液層10の通過時に反射光Bが屈折して反射角度θbになるので,検知手段41bの検知器43で検知される反射光Bの受光位置Xbの照射位置からの変位sbは(37)式のようになる。検知手段41bで検知した反射光Bの受光位置Xb(例えば受光位置Xbの照射位置からの変位sb)は,算出手段50に入力する。算出手段50において,反射光Bの受光位置Xb(又は受光位置Xbの照射位置からの変位sb)から対応関係Fを用いて基盤2までの距離Lb(=F(sb))を求め,(33)式のように反射光Bの反射角度θbを算出することができる。なお,対応関係Fを用いて求めた基盤2までの距離Lbも,基盤2上の実際の反射位置までの距離ではなく,屈折した反射光Bから推定される見かけ上の反射位置Pbまでの距離である。
【0045】
(36)式及び(37)式から距離Lを消去することにより,液層10の厚さを(38)式のように解くことができる。(38)式に含まれる屈折した反射角度θrは,上述した(32)式のように算出することができ,(38)式に含まれる屈折した反射角度θbも,上述した(33)式のように算出することができる。また,(38)式に含まれる基盤2から反射角度θは,各波長λr,λbの光R,Bの屈折した反射角度θr,θbと各波長λr,λbの光R,Bの液層10中の屈折率nr,nbとから,(34)式又は(35)式に基づき算出することができる。すなわち(38)式は,各波長λr,λbの光R,Bの受光位置Xr,Xb(例えば受光位置Xr,Xbの照射位置からの変位sr,sb)と,各波長λr,λbの光R,Bの液層10中の屈折率nr,nbと,対応関係Fとから,算出手段50において液層10の厚さdが算出できることを示している。
【符号の説明】
【0046】
1…トンネル坑道 2…基盤(切羽)
3…亀裂 9…作業員
10…液層(湧水)
20…液層厚さ検出装置 21,21r,21b…往復時間検知手段
22…光源 23…検知器
24…投光部 25…受光部
26…光源切替スイッチ
30…液層厚さ検出装置 31,31r,31b…位相遅延検知手段
32…光源 33…検知器
34…投光部 35…受光部
40…液層厚さ検出装置 41,41r,41b…受光位置検知手段
42…光源 43…検知器
44…投光部 45…受光部
46…記憶手段
50…算出手段 51…記憶手段
60…地下水状態評価システム 61…赤外線カメラ
62…近赤外線カメラ 63…演算装置
Aa…温度低下部 Ab…高吸収部
Ga…温度分布情報(画像) Gb…強度分布情報(画像)
d…液層の厚さ L…基盤までの距離
t,tr,tb…反射時間 φ,φr,φb…反射位相遅延
X,Xr,Xb…受光位置 s,sr,sb…受光位置の照射位置からの変位
F…対応関係 P,Pr,Pb…反射位置(見かけ上の反射位置)