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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ショベル
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/00 20060101AFI20240409BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
E02F9/00 Q
F01N3/08 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018054170
(22)【出願日】2018-03-22
(65)【公開番号】P2019167681
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-01-20
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】502246528
【氏名又は名称】住友建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】林 茂耕
【合議体】
【審判長】前川 慎喜
【審判官】有家 秀郎
【審判官】佐藤 史彬
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-31160(JP,A)
【文献】特開2015-137643(JP,A)
【文献】特開2015-121102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F9/00
B60K11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体還元剤が貯留される液体還元剤用タンクと、
前記液体還元剤用タンクの上部に設けられる給液口からタンク内部に前記液体還元剤を導くフィラーと、
を備え、
前記フィラーには、前記液体還元剤用タンクの内部に前記液体還元剤を通すチューブが設けられ、
給液時における前記チューブの下端は、前記液体還元剤用タンクの下側半分に位置する、
ショベル。
【請求項2】
液体還元剤が貯留される液体還元剤用タンクと、
前記液体還元剤用タンクの上部に設けられる給液口からタンク内部に前記液体還元剤を導くフィラーと、
を備え、
前記フィラーには、前記液体還元剤用タンクの内部に前記液体還元剤を通すチューブが設けられ、
前記チューブの下端は、前記液体還元剤用タンクの下側半分に位置し、
前記チューブは、外側チューブと内側チューブとを有する二重構造であり、
前記内側チューブの下端は、前記液体還元剤用タンクの下側半分に位置する、
ショベル。
【請求項3】
前記チューブの下端は、前記液体還元剤の補給を促す残量となる警告ラインより下方に位置する、
請求項1または2に記載のショベル。
【請求項4】
前記液体還元剤用タンクに貯留されている前記液体還元剤の品質を測定する品質センサを備え、
前記品質センサは、前記液体還元剤用タンクの下側に配置され、前記チューブの下端の直下から離間した位置に配置される、
請求項1~3のいずれか1項に記載のショベル。
【請求項5】
液体還元剤が貯留される液体還元剤用タンクと、
前記液体還元剤用タンクの上部に設けられる給液口からタンク内部に前記液体還元剤を導くフィラーと、
前記液体還元剤用タンクに貯留されている前記液体還元剤の品質を測定する品質センサと、
を備え、
前記フィラーには、前記液体還元剤用タンクの内部に前記液体還元剤を通すチューブが設けられ、
前記品質センサは、前記液体還元剤用タンクの下側に配置され、前記チューブの下端の直下から離間した位置に配置され
前記液体還元剤用タンクのタンク底面は矩形状であり、
前記チューブの下端は、前記矩形状のタンク底面の中心位置よりいずれかの角部側に配置され、
前記品質センサは、前記矩形状のタンク底面の前記中心位置より、前記チューブの下端が配置される前記角部以外の他の角部側に配置される、
ショベル。
【請求項6】
前記品質センサは、前記液体還元剤用タンクの内部の前記液体還元剤を解凍するための不凍液を通す配管の端部に配置され、
前記配管は、前記液体還元剤用タンクの底面に沿って伸びる、
請求項4または5に記載のショベル。
【請求項7】
下部走行体と、
前記下部走行体の上部に設けられ前記下部走行体に対して旋回可能な上部旋回体と、
前記液体還元剤用タンクに貯留されている前記液体還元剤の残量を測定する残量センサと、
を備え、
前記残量センサは、前記液体還元剤用タンクの底面中央より前記上部旋回体の後方側に配置される、
請求項1~6のいずれか1項に記載のショベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショベルに関する。
【背景技術】
【0002】
ショベルには尿素SCR(Selective Catalytic Reduction:選択触媒還元)システムが搭載される。尿素SCRシステムは、還元剤として用いられる尿素水を貯留しておくタンクが必要であり、尿素水タンク内には尿素水の品質、残量、温度等を計測する各種センサが搭載されている。例えば特許文献1には、尿素水タンクに貯留される尿素水の残量を計測する尿素水液位センサの検出結果に基づき、尿素水が規定残量となったときに運転者に報知する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-160057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、尿素水タンク(液体還元剤用タンク)に尿素水(液体還元剤)を補給する際には、フィラーから供給された尿素水がタンク内部の尿素水の液面に落下することで、多くの泡が発生する。例えば尿素品質センサは、超音波によって品質を測定しているが、超音波の放射部や反射部に泡が付くと測定不能になったり、誤検知を起こしたりすることがある。
【0005】
本発明は、液体還元剤用タンクに設けられるセンサの測定不能や誤検知を回避できるショベルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の一観点に係るショベルは、液体還元剤が貯留される液体還元剤用タンクと、前記液体還元剤用タンクの上部に設けられる給液口からタンク内部に前記液体還元剤を導くフィラーと、を備え、前記フィラーには、前記液体還元剤用タンクの内部に前記液体還元剤を通すチューブが設けられ、給液時における前記チューブの下端は、前記液体還元剤用タンクの下側半分に位置する。

【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、液体還元剤用タンクに設けられるセンサの測定不能や誤検知を回避できるショベルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係るショベルの側面図である。
図2図1のショベルの上部旋回体を概略的に示す上面図である。
図3図1のショベルに搭載される排気ガス処理装置の構成例を示す図である。
図4図1のショベルの右側前部を左斜め上前方から見た斜視図である。
図5図1のショベルの右側前部を右方から見た側面図である。
図6】尿素水タンクの縦断面図である。
図7】尿素水タンクの水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0010】
なお、以下の説明において、X方向、Y方向、Z方向は互いに垂直な方向であり、典型的には、X方向およびY方向は水平方向、Z方向は鉛直方向である。X方向は、ショベルの前後方向であり、前方側がX正方向であり、後方側がX負方向である。Y方向は、ショベルの左右幅方向であり、左側がY正方向、右側がY負方向である。Z方向は、ショベルの高さ方向であり、上側がZ正方向、下側がZ負方向である。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係るショベル(掘削機)の側面図を示す。ショベルは、下部走行体1に上部旋回体2が旋回可能に搭載され、上部旋回体2の前方左側部にキャブ3が設けられている。また、上部旋回体2の前方中央部にブーム4が回動可能に連結され、ブーム4の先端部にはアーム5が回動可能に連結されている。更に、アーム5の先端部にはバケット6が回動可能に連結されている。
【0012】
図2は、図1のショベルの上部旋回体2を概略的に示す上面図である。図2に示すように、上部旋回体2にはエンジンルーム7が形成され、このエンジンルーム7内にはディーゼルエンジン8が設置されている。また、ディーゼルエンジン8のY正方向側には冷却ファン12が設けられると共に、冷却ファン12のY正方向側にはラジエータ等を含む熱交換機ユニット13が設置されている。
【0013】
また、ディーゼルエンジン8は、エンジンルーム7の外部に設置されたエアフィルタ9a及び吸気管9bを通じて外気を吸入する。更に、ディーゼルエンジン8には排気管9cが接続され、排気管9cの下流側にはエンジン排気ガス中の窒素酸化物(以下、NOxという)を浄化する排気ガス処理装置10が設置されている。
【0014】
本実施形態では、排気ガス処理装置10は、還元剤として尿素水を用いた尿素選択還元型のNOx処理装置である。排気ガス処理装置10は、排気管9cに備えられた還元触媒(図示せず)の上流側に尿素水を噴射して排気ガス中のNOx(窒素酸化物)を還元し、この還元反応を還元触媒により促進してNOxを無害化する。
【0015】
尿素水タンク20(液体還元剤用タンク)は、尿素水を蓄えるための容器であり、上部旋回体2のブーム4を挟んでキャブ3の反対側(Y負方向側)に配置される。また、尿素水タンク20の後方(X負方向側)には燃料タンク19が配置され、燃料タンク19の後方(X負方向側)には作動油タンク18が配置される。ここで、燃料タンク19は、上部旋回体2のキャブ3の後方に配置されてもよい。このとき、尿素水タンク20及び作動油タンク18は、上部旋回体2のブーム4を挟んでキャブ3の反対側(Y負方向側)に配置される。同様に、作動油タンク18が、上部旋回体2のキャブ3の後方に配置され、尿素水タンク20及び燃料タンク19が、上部旋回体2のブーム4を挟んでキャブ3の反対側(Y負方向側)に配置されてもよい。
【0016】
また、作動油タンク18、燃料タンク19、及び尿素水タンク20はエンジンルーム7の外部に設置される。また、尿素水タンク20は、尿素水ホース69及び尿素水供給ポンプ70を介して排気ガス処理装置10に接続される。
【0017】
図3は、図1のショベルに搭載される排気ガス処理装置10の構成例を示す図である。本実施形態では、排気ガス処理装置10はディーゼルエンジン8から排出される排気ガスを浄化する。ディーゼルエンジン8は、エンジンコントロールモジュール(以下、「ECM」とする)60により制御される。
【0018】
エアフィルタ9aを通じて吸気管9b内に導入された空気は、ターボチャージャ61及びインタークーラ65等を通過してディーゼルエンジン8に供給される。そして、ディーゼルエンジン8からの排気ガスは、ターボチャージャ61を経た後にその下流の排気管9cに至り、排気ガス処理装置10により浄化処理が行われた後で大気中に排出される。
【0019】
排気管9cには、排気ガス中の粒子状物質を捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ66と、排気ガス中のNOxを還元除去する選択還元触媒67とが直列に設けられている。
【0020】
選択還元触媒67は、還元剤の供給を受けて排気ガス中のNOxを連続的に還元除去する。本実施形態では取扱いの容易さから還元剤として尿素水(尿素水溶液)が用いられる。
【0021】
排気管9cにおける選択還元触媒67の上流側には、選択還元触媒67に尿素水を供給するための尿素水噴射装置68が設けられている。尿素水噴射装置68は、尿素水ホース69を介して尿素水タンク20に接続されている。
【0022】
また、尿素水ホース69の中間にはサプライモジュールSMが設けられる。サプライモジュールSMは、尿素水供給ポンプ70及びフィルタ71を含む。本実施形態では、サプライモジュールSMは、尿素水タンク20と尿素水供給ポンプ70との間にフィルタ71が配置されるように構成される。
【0023】
尿素水タンク20内に貯留された尿素水は、尿素水供給ポンプ70により尿素水噴射装置68に供給され、尿素水噴射装置68から排気管9cにおける選択還元触媒67の上流位置に噴射される。
【0024】
尿素水噴射装置68から噴射された尿素水は選択還元触媒67に供給される。供給された尿素水は、選択還元触媒67内において加水分解されてアンモニアを生成する。このアンモニアが選択還元触媒67内で排気ガスに含まれるNOxを還元する。このようにして排気ガスの浄化が行われる。
【0025】
第1NOxセンサ72及び第2NOxセンサ73は、排気ガス内のNOx濃度を検出するセンサである。本実施形態では、第1NOxセンサ72は尿素水噴射装置68の上流側に配置され、第2NOxセンサ73は選択還元触媒67の下流側に配置される。
【0026】
尿素水残量センサ74(残量センサ)は、尿素水タンク20内の尿素水残量を検出するセンサである。本実施形態では、尿素水残量センサ74は、タンク内部で上下方向に移動可能に設置され液面に浮かぶフロートの位置に基づいて尿素水残量を検出する所謂フロート式のセンサであるが(図6参照)、他の方式のものを用いてもよい。尿素水残量センサ74は、排気ガスコントローラ75に尿素水残量の情報を出力する。
【0027】
尿素品質センサ25(品質センサ)は、尿素水タンク20内の尿素水の品質を検出するセンサである。尿素品質センサ25は、例えば尿素水タンク20の内部で、尿素水の液面レベルが出力制限ラインA2(図6参照)となる高さより下の位置に設置される。尿素品質センサ25は、排気ガスコントローラ75に尿素品質の情報を出力する。
【0028】
第1NOxセンサ72、第2NOxセンサ73、尿素水残量センサ74、尿素品質センサ25、尿素水噴射装置68、及び尿素水供給ポンプ70は、排気ガスコントローラ75に接続されている。排気ガスコントローラ75は、第1NOxセンサ72及び第2NOxセンサ73のそれぞれで検出されるNOx濃度に基づき、尿素水噴射装置68及び尿素水供給ポンプ70を制御して適正量の尿素水が噴射されるようにする。
【0029】
また、排気ガスコントローラ75は、尿素水残量センサ74から出力される尿素水残量に基づき、尿素水タンク20の全容積に対する尿素水残量の割合を算出する。本実施形態では、尿素水タンク20の全容積に対する尿素水残量の割合を尿素水残量比とする。例えば、尿素水残量比50%は、尿素水タンク20の容量の半分の尿素水が尿素水タンク20内に残存していることを表す。
【0030】
排気ガスコントローラ75は通信手段を介してECM60と接続されている。また、ECM60は通信手段を介してショベルコントローラ76に接続され、ショベルコントローラ76は通信手段を介してモニター77(表示装置)に接続されている。モニター77には、警告、運転状態等が表示される。
【0031】
なお、排気ガスコントローラ75はDCU(Dosing Control Unit)、ECM60はECU(Engine Control Unit)、ショベルコントローラ76はMCU(Main Control Unit)とも呼ぶことができる。
【0032】
排気ガスコントローラ75が有している排気ガス処理装置10に関する各種情報は、ショベルコントローラ76が共有し得る構成となっている。なお、ECM60、排気ガスコントローラ75、及びショベルコントローラ76はそれぞれ、CPU、RAM、ROM、入出力ポート、記憶装置等を含む演算装置である。
【0033】
また、排気ガス処理装置10は、尿素水タンク20及び尿素水ホース69に熱を供給する熱供給機能を有する。熱供給機能は、例えば、寒冷地での尿素水の凍結を防止するため、或いは、凍結した尿素水を溶解するために実行される。本実施形態では、冷却水ホース80を通過するディーゼルエンジン8のエンジン冷却水(例えばロング・ライフ・クーラント)を利用する。
【0034】
具体的には、ディーゼルエンジン8を冷却した直後のエンジン冷却水は、比較的高い温度を維持しながら、冷却水ホース80の第1部分81を通って第2部分82に至る。第2部分82は尿素水タンク20の外面に接する冷却水ホース80の一部である。尿素水より高温のエンジン冷却水は第2部分82を流れるときに尿素水タンク20及びその内部にある尿素水に熱を供給する。
【0035】
その後、エンジン冷却水は第3部分83及びサプライモジュールSMに至る。第3部分83は尿素水ホース69に密着する冷却水ホース80の一部である。尿素水より高温のエンジン冷却水は尿素水ホース69に沿う冷却水ホース80の第3部分83を流れるときに尿素水ホース69及びその内部にある尿素水に熱を供給する。また、尿素水より高温のエンジン冷却水は、サプライモジュールSM内に形成された流路を流れるときにサプライモジュールSM(尿素水供給ポンプ70及びフィルタ71を含む)並びにその内部にある尿素水に熱を供給する。
【0036】
その後、第2部分82及び第3部分83での熱の供給を終えて比較的低い温度となったエンジン冷却水は冷却水ホース80の第4部分84を通って熱交換機ユニット13(図2参照)に至る。第4部分84は第3部分83及び第5部分85と熱交換機ユニット13との間に配索される冷却水ホース80の一部であり、尿素水ホース69には密着しない。
【0037】
なお、第5部分85は、尿素水噴射装置68を冷却するために用いられる冷却水ホース80の一部である。高温状態の尿素水噴射装置68よりも低温のエンジン冷却水は第5部分85を流れるときに高温状態の尿素水噴射装置68から熱を奪い尿素水噴射装置68を冷却してその過熱を防止する。その後、熱の供給を受けて比較的高い温度となった(尿素水より高温の)エンジン冷却水は、尿素水ホース69に沿う部分85aを流れるときに尿素水ホース69及びその内部にある尿素水に熱を供給する。尿素水噴射装置68が低温状態にある場合には、低温状態の尿素水噴射装置68よりも高温のエンジン冷却水は第5部分85を流れるときに尿素水噴射装置68及びその内部にある尿素水に熱を供給する。その後、部分85aでの熱の供給を終えて比較的低い温度となったエンジン冷却水は、第3部分83を流れてきたエンジン冷却水と合流した後で第4部分84を通って熱交換機ユニット13に至る。
【0038】
このようにして、熱供給機能は、エンジン冷却水を利用して尿素水タンク20、尿素水ホース69、サプライモジュールSM、及び尿素水噴射装置68に熱を供給し、それらの内部にある尿素水の凍結を防止し、或いは、凍結した尿素水を溶解する。
【0039】
次に、図4及び図5を参照し、上部旋回体2の右側前部の詳細について説明する。図4はショベルの右側前部を左斜め上方から見た斜視図である。図5は上部旋回体2の右側前部を右側から見た側面図である。なお、図5は昇降設備30の内部を透過的に示す。
【0040】
昇降設備30は、作業者が上部旋回体2を昇降する際に用いる構造物である。本実施形態では、昇降設備30は燃料タンク19の前方に配置され、尿素水タンク20及び収納部21を覆う。
【0041】
燃料タンク19はディーゼルエンジン8の燃料が貯留されるタンクであり、旋回フレーム31に強固に固定されている。また、燃料タンク19の下には燃料タンク用アンダーカバー31vが取り付けられる。燃料タンク用アンダーカバー31vは外側(底側)からアクセス可能なボルト等の締結部材によって旋回フレーム31に締結固定される。
【0042】
尿素水タンク20は、SCRシステム(選択還元触媒システム)で用いられる液体還元剤としての尿素水溶液が貯留されるタンクであり、旋回フレーム31に強固に固定されている。また、尿素水タンク20の下には尿素水タンク用アンダーカバー31wが取り付けられる。尿素水タンク用アンダーカバー31wは、燃料タンク用アンダーカバー31vと同様、外側(底側)からアクセス可能なボルト等の締結部材によって旋回フレーム31に締結固定される。なお、エンジンの下に取り付けられるエンジン用アンダーカバー(図示せず)、ラジエータの下に取り付けられるラジエータ用アンダーカバー(図示せず)等も同様に外側(底側)からアクセス可能なボルト等の締結部材によって旋回フレーム31に締結固定される。
【0043】
収納部21は収納スペースを区切る部材の集合であり、例えば、集合して箱、容器、仕切り等の形をとる。本実施形態では、収納部21は上部旋回体2においてブーム4を挟んでキャブ3の反対側に配置される。また、収納部21は昇降設備30と旋回フレーム31によって区切られる収納スペース21aを有する。収納スペース21aには、例えば、メンテナンス時に使用される工具類、給油用ポンプ等の収納物21bが収納される。また、収納部21の下には底板32が取り付けられる。ここで、収納スペース21aと尿素水タンク20が配置される空間との間は、板によって区切られてもよいし、板を設けずに空間が繋がっていてもよい。
【0044】
図4に示すように、上部旋回体2の旋回フレーム31の前方には左右一対のブーム取り付け用の支持ブラケット17が立設される。また、支持ブラケット17の右側には燃料タンク19及び昇降設備30が配置される。また、昇降設備30の外側には作業者が昇降設備30を昇降する際に把持する手摺33が設けられる。
【0045】
昇降設備30は、第1昇降部30Aと第2昇降部30Bを有する。第1昇降部30Aは、作業者が昇降するステップとして機能すると共に、尿素水タンク20を覆うカバー、及び収納部21の一部としても機能する。第2昇降部30Bは昇降設備30の最下段に位置する。第2昇降部30Bは金属製であり、旋回フレーム31に固定される。また、第2昇降部30Bは旋回フレーム31の前端部分から前方に突出した構成を有する。
【0046】
また、昇降設備30は第1昇降部30Aにおける2つの踏板部44、45及び2つの蹴込板部48、49と第2昇降部30Bとを含む3段構造を有する。なお、第1昇降部30Aに設ける踏板部の数は2つに限定されるものではない。
【0047】
また、踏板部44は開閉可能な開閉部として構成される。本実施形態では踏板部44は図5で示すように上開きとなるように構成される。作業者は、踏板部44を開くことで収納部21に対して工具等を出し入れできる。また、踏板部44は鍵44aで施錠可能である。
【0048】
また、蹴込板部49は開閉可能な開閉部として構成される。本実施形態では蹴込板部49は横開きとなるように構成される。作業者は、蹴込板部49を開くことで尿素水タンク20の給液口20hにアクセスできる。
【0049】
次に、図6及び図7を参照し、尿素水タンク20の構造の詳細について説明する。図6は、尿素水タンク20の縦断面図である。図7は、尿素水タンク20の水平断面図である。
【0050】
尿素水タンク20は樹脂製であり、水平断面が略矩形状で、全体として略箱形状である。尿素水タンク20は、略矩形状のタンク底面20bと、このタンク底面20bの四辺からZ正方向に立接するタンク前面20cと、タンク後面20dと、一対のタンク側面20e,20fと、タンク上面20aとを有する。タンク前面20cとタンク後面20dとはX方向に対向配置され、タンク前面20cがX正方向側(ショベル前方側)、タンク後面20dがX負方向側(ショベル後方側)に配置される。一対のタンク側面20e,20fは、Y方向に対向配置され、タンク側面20eがY正方向側、タンク側面20fがY負方向側に配置される。タンク上面20aとタンク底面20bはZ方向に対向配置され、タンク上面20aがZ正方向側(上側)、タンク底面20bがZ負方向側(下側)に配置される。また、尿素水タンク20の前方上部には、傾斜面20gが形成されている。この傾斜面20gは、Z正方向側(上方側)に向かうにつれてX負方向側(後方側)に倒れるよう傾斜している。
【0051】
また傾斜面20gには、給液口20hが設けられている。この給液口20hにはフィラー22が着脱可能に取り付けられる。尿素水は、補給時においてこのフィラー22を介して給液口20hから尿素水タンク20内に補給される。ここで、傾斜面20gを設けずに、給液口20hが、タンク上面20aに設けられるように構成されてもよい。
【0052】
また、傾斜面20gにはレベルゲージ26が設けられている。このレベルゲージ26は、尿素水タンク20内の尿素水のレベル(液面高さ)が表示される。よって尿素水の補給処理時において、作業者がレベルゲージ26を見ながら尿素水の補給を行うことにより、尿素水の溢れ出しを防止できる。
【0053】
また、尿素水タンク20のタンク底面20b底面には、ドレインプラグ27が設けられている。このドレインプラグ27は尿素水タンク20内に残留する尿素水を排水する際に取り外されるプラグである。
【0054】
更に、尿素水タンク20にはフィラー22が取り付けられる。フィラー22は、補給時に尿素水を尿素水タンク20の給液口20hに導くものである。このフィラー22は、フィラー本体22a、外側チューブ22b、内側チューブ22c、連結ホース22f及びフィラーキャップ23等を有している。
【0055】
フィラー本体22aは筒状の部材であり、金属或いは他の材料(例えば、樹脂等)により形成されている。このフィラー本体22aは、フィラーブラケット24に溶接或いは接着等により取り付けられる。この際、筒形状のフィラー本体22aは、軸線方向の略中央位置がフィラーブラケット24に固定される。よって固定状態において、フィラー本体22aの一端部はフィラーブラケット24の外側に突出して外側突出部22a1を形成し、他端部は内側に突出して内側突出部22a2を形成する。
【0056】
フィラーキャップ23は、フィラー本体22aの外側突出部22a1に着脱可能に装着される。
【0057】
フィラー本体22aの内側突出部22a2には、内側チューブ22cの一端が取り付けられる。また内側チューブ22cの他端部は、尿素水タンク20の給液口20hと通ってタンク内部で下方に垂れ下がっている。内側チューブ22cは、尿素水タンク20の内部に尿素水を通すものである。
【0058】
外側チューブ22bは、内部に内側チューブ22cを通して設置される。すなわち外側チューブ22bと内側チューブ22cとは二重構造となっている。外側チューブ22bは、給液口20hに取り付けられる。外側チューブ22bは、尿素水タンク20の一部であり、尿素水タンク20の給液口20hに溶着されている。
【0059】
給液口20hは傾斜面20gから略垂直に突出して設けられる。また、フィラーブラケット24のうちフィラー本体22aが設置される開口部24aは給液口20h側に突出している。フィラー22の連結ホース22fは、尿素水タンク20の給液口20hとフィラーブラケット24の開口部24aの外周側に取り付けられて両者を連結している。
【0060】
なお、外側チューブ22bは、図6に示す構成の代わりに、内側チューブ22cと同様に、外側チューブ22bの一端がフィラー本体22aに取り付けられる構成でもよい。
【0061】
上記構成とされたフィラー22は、フィラーブラケット24を用いて尿素水タンク20に取り付けられる。フィラーブラケット24は板状部材であり、金属或いは他の材料(例えば樹脂等)により形成されている。フィラーブラケット24は、例えばボルト締結によって尿素水タンク20に固定される。これによりフィラー22も尿素水タンク20に取り付けられる。
【0062】
尿素水の補充は、フィラー22が尿素水タンク20に装着された状態で行われる。尿素水を補充するには、フィラーキャップ23をフィラー本体22aから取り外し、フィラー本体22aの外側端部から尿素水を注入する。これにより、尿素水は内側チューブ22cを介して尿素水タンク20に補充される。
【0063】
また、尿素水タンク20のタンク上面20aには、配管取付け口20iが設けられる。配管取付け口20iから、上述の尿素水ホース69、冷却水ホース80の第2部分82、尿素品質センサ25、尿素水残量センサ74がタンク内部に挿入されて封止されている。
【0064】
尿素水残量センサ74は、配管取付け口20iから直下の液面の位置を検出する。同様に、尿素水ホース69は配管取付け口20iから直下に延び、配管取付け口20iの直下の位置から尿素水を吸い上げる。
【0065】
冷却水ホース80の第2部分82は、配管取付け口20iから直下に延び、タンク底面20b近傍で略直角に曲がり、タンク底面20bに沿って延びる。図7に示すように、タンク底面20bに沿う延在方向は、X正方向側かつY負方向側である(図7では右斜め下方向)。なお、この延在方向は、少なくとも内側チューブ22cの下端22eの位置から離れていればよい。図7に例示する配置の場合、内側チューブ22cの下端22eは、タンク底面20bの中心位置よりY正方向側かつX負方向側(図7では左斜め上側)であるので、冷却水ホース80の第2部分82の延在方向は、中心位置よりY負方向側(図7では右側)の領域を向くのが好ましい。例えば、冷却水ホース80の第2部分82の延在方向は、X負方向側かつY負方向側(図7では右斜め上方向)でもよいし、Y負方向側(図7では右方向)でもよいし、X正方向側(図7では下方向)でもよい。
【0066】
ここで、冷却水ホース80の第2部分82は、タンク底面20b近傍において、内側チューブ22cの下端22eから遠ざかる方向へ延出している。冷却水ホース80の第2部分82は、XY平面において、U字形状になるように、タンク底面20bの中心位置から特定の位置(図7では、内側チューブ22cの下端22eから遠ざかる方向であるX正方向且つY負方向)に延出し、この特定の地点で折り返され、タンク底面20bの中心位置へ再び延出する。
【0067】
尿素品質センサ25は、このように配置される冷却水ホース80の第2部分82(不凍液配管)の先端部分に設置される。具体的には、尿素品質センサ25は、冷却水ホース80の第2部分82のU字形状箇所において、折り返し前後の配管に囲われる態様で配置される。尿素品質センサ25には配線25aが接続され、この配線25aが尿素水タンク20の外部に引き出されて、排気ガスコントローラ75に接続される。
【0068】
図6に示すように、外側チューブ22bは、給液口20hから傾斜面20gの法線方向に沿って直線状にタンク内部に進出している。すなわち、外側チューブ22bは、水平面に対して傾斜しており、傾斜面20gから斜め下方に延在している。
【0069】
外側チューブ22bと内側チューブ22cの間における空気を尿素水タンク20の外に逃がすための空気孔がフィラー本体22a、フィラーブラケット24等に設けられる。これによって、尿素水タンク20内へ尿素水を補充する際、尿素水タンク20内の空気を外部へ逃がすことができる。また、タンク内への尿素水の補充時に、尿素水の液面が外側チューブ22bの下端22dまで達すると、タンク内部の空気が給液口20hや空気孔を介して外部に逃げることができなくなるため、これ以上尿素水を補充できず、液面が上昇しなくなる。つまり、外側チューブ22bの下端22dの位置が、液面の上限位置である液面規制位置A3となる。レベルゲージ26の最大値は、この液面規制位置A3に相当する。ここで、液面が液面規制位置A3に達しているのにも関わらず、尿素水を補充しようとすると、外側チューブ22b内の液面が上昇することになる。
【0070】
このように外側チューブ22bは、従来のフィラーに設けられるフィラーチューブと同様に、液面規制の機能を有するものである。
【0071】
内側チューブ22cは、この外側チューブ22bの内側を通ってフィラー22に取り付けられ、外側チューブ22bからタンク内部に進出した後には、鉛直下方に延在する。内側チューブ22cの下端22eは、尿素水の補給を促す残量となる警告ラインA1より下方に位置する。
【0072】
なお、この警告ラインA1は、例えば残量10%の位置である。警告ラインA1は、所定の所定残量以下となった場合にディーゼルエンジン8の出力を制限するために設定された液面規制位置A2(例えば残量5%)より高い位置である。
【0073】
本実施形態では、内側チューブ22cの下端22eが警告ラインA1より下方に位置することによって、内側チューブ22cから吐出される尿素水の液面への自由落下を規制できる。通常は液面が警告ラインA1と同レベルにある状態か、警告ラインA1より上方の状態で尿素水の補充を行うので、大半の尿素水補充時では、内側チューブ22cは液面より下方に位置する。このため、尿素水の補充時に液面に泡が発生することを抑制できる。尿素水補充時の泡の発生を抑制できると、尿素品質センサ25の計測部位に泡が付着することを回避でき、センサの測定不能や誤検知を防止できる。
【0074】
また、本実施形態では、尿素品質センサ25は、尿素水タンク20の下側に配置され、かつ、内側チューブ22cの下端22eの直下から離間した位置に配置される。これにより、内側チューブ22cから尿素水がタンク内に補充される際に発生する泡がセンサに付着するのをさらに抑制でき、センサの測定不能や誤検知をさらに防止できる。
【0075】
また、本実施形態では、尿素品質センサ25は、尿素水タンク20の内部の尿素水を解凍するための不凍液を通す配管(冷却水ホース80の第2部分82)の端部に配置される。これにより、尿素品質センサ25の周囲には常に液化した尿素水が存在する状態にできるので、尿素水の品質計測を安定して行うことができる。
【0076】
また本実施形態では、尿素水残量センサ74は、尿素水タンク20の底面中央より上部旋回体2の後方側(X負方向側)に配置される。ここで「尿素水タンク20の底面中央」とは、図7に一点鎖線Cで示すように、タンク底面20bのX方向の中央位置をいう。本実施形態では、これを実現すべく、尿素水残量センサ74が設置される配管取付け口20iが、タンク底面20bの中央よりX負方向側に配置されている。このように尿素水残量センサ74を配置することにより、尿素水残量センサ74が液面を検出できるショベルの走行条件を広くできる。
【0077】
例えば、ショベルが坂道を登坂する場合には、尿素水タンク20が後方側に傾斜するためタンク内部の尿素水も後方側へ偏って液面が傾斜する。このような状況では、尿素水残量センサ74が前方側(X正方向側)にあると、液面を検出できずに尿素水残量が実際より少ないように誤検出する状況が考えらえる。これに対して、本実施形態のように尿素水残量センサ74が後方側にあると、液面を検出できるので誤検出の虞が少ない。つまり、尿素水残量センサ74を尿素水タンク20の底面中央より後方側に配置することにより、ショベルが坂道を登坂する場合でも良好に尿素水残量を検出できるので、尿素水残量センサ74が液面を検出できるショベルの走行条件を広くできる。
【0078】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【0079】
上記実施形態では、外側チューブ22bと内側チューブ22cとを有する二重構造を例示したが、単一のチューブが給液口20hから尿素水タンク20の内部に延びる構成として、このチューブの下端がタンクの下側半分に位置する構成でもよい。
【0080】
上記実施形態では、内側チューブ22cの下端22eが警告ラインA1より下方に位置する構成を例示したが、内側チューブ22cの下端22eは、尿素水タンク20の下側半分に位置すればよい。これにより、尿素水の補充時に液面に泡が発生することを抑制できる。
【符号の説明】
【0081】
1 下部走行体
2 上部旋回体
20 尿素水タンク(液体還元剤用タンク)
20b タンク底面
20h 給液口
22 フィラー
22b 外側チューブ
22c 内側チューブ(チューブ)
22e 内側チューブの下端
25 尿素品質センサ(品質センサ)
74 尿素水残量センサ(残量センサ)
82 冷却水ホースの第2部分(不凍液配管)
A1 警告ライン
C 底面中央
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7