(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】蓄電池のカソード、関連する蓄電池および電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240409BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240409BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240409BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240409BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/66 A
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2018537768
(86)(22)【出願日】2017-05-30
(86)【国際出願番号】 FR2017051351
(87)【国際公開番号】W WO2018220285
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2020-04-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】523281294
【氏名又は名称】アルモール バッテリー フィルムズ
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】507421289
【氏名又は名称】ナント・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】NANTES UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・ブッソン
(72)【発明者】
【氏名】ベルナール・レストリエ
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・ギシャール
(72)【発明者】
【氏名】マリー-アンヌ・ブラン
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】小池 秀介
【審判官】須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-323131(JP,A)
【文献】特開2003-68364(JP,A)
【文献】特開2012-99467(JP,A)
【文献】特開2016-164868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/139
H01M 10/052
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極(18)と、
集電体(22)と、
界面層(20)とを含み、
界面層が集電体(22)上にコーティングされ、界面層(20)が電極(18)とも接触し、5マイクロメートル未満の厚さを有し、
電極(18)が、第1のインターカレーション材料および第1のバインダー材料からなる第1の組成物で作られて
おり、
界面層(20)が第2のバインダー材料を含み、
第2のバインダー材料の含有量が、界面層(20)の30重量%以上であり、
第1のバインダー材料の含有量は、5重量%未満である、電気化学蓄電池のカソード(16)。
【請求項2】
第1のバインダー材料が、1つ以上のポリマーからなる、請求項1に記載のカソード。
【請求項3】
界面層(20)が、10ナノメートル以上の厚さを有する、請求項1または2に記載のカソード。
【請求項4】
界面層(20)が、50ナノメートルから1マイクロメートルの間の厚さを有する、請求項1から3の何れか一項に記載のカソード。
【請求項5】
集電体(22)が、金属シートである、請求項1から4の何れか一項に記載のカソード。
【請求項6】
界面層(20)が、第2のバインダー材料および第2の導電性添加剤を含む第2の組成物で作られている、請求項1から5の何れか一項に記載のカソード。
【請求項7】
第2のバインダー材料が、1つ以上のポリマーからなる、請求項
1から6の何れか一項に記載のカソード。
【請求項8】
第2の導電性添加剤の含有量が、界面層(20)の10重量%以上である、請求項
1から
7の何れか一項に記載のカソード。
【請求項9】
請求項1から
8の何れか一項に記載のカソード(16)を有する電気化学蓄電池(10)。
【請求項10】
蓄電池(10)が、リチウムイオン蓄電池である、請求項
9に記載の電気化学蓄電池。
【請求項11】
少なくとも1つの電気化学蓄電池(10)が、請求項
9または
10に記載の蓄電池である、一組の蓄電池を含む電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソードに関する。本発明はまた、電気化学蓄電池およびそのようなカソードを含む電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学蓄電池は、典型的には、少なくとも4つの要素、すなわち、正極、負極、電解質、ならびに各電極の集電体を含む。負極および集電体のアセンブリはアノードを形成し、正極および集電体のアセンブリはカソードを形成する。
【0003】
これらの蓄電池の動作原理は、2つの別々のかつ対の電気化学反応の実施による化学エネルギー中の電気エネルギーの可逆的貯蔵に基づいている。正極および負極は、ファラデー反応と呼ばれる電気化学的反応の場である電解質に浸漬される。電極は、特に、酸化反応および還元反応を通じてイオンを取り込みおよび放出するための活物質で作られる。
【0004】
放電中、負極において活物質は酸化され、一方では、集電体を通って外部回路に送られる電子を放出し、他方では、陽イオンが電解質を通って正極に移動する。そして、エネルギーを利用した回路を通過した電子と、陽イオンとは、還元された正極において活物質に捕らえられる。蓄電池が放出することができるエネルギー密度は、電気化学セルの電位および容量の両方に応じて変化し、両方ともシステムの化学的性質に直接関係する。電池の電位は、正負の電極で同時に起こる酸化還元反応の電位の差によって決定される。
【0005】
電極は組成物によって製造され、該組成物は、全ての活物質に対する電子の良好な輸送を確実にする1つ以上の活物質(90重量%を超える)の導電性粒子と、粒子の凝集および基材への接着を確実にすることを可能にするバインダーとを主に含む。
【0006】
全体としての製品は、一般的に、電極のコーティングを可能にする溶媒の助けを借りて、配合物として製造される。
【0007】
次に、正および負の2つの電極は、電解質によってイオン的に接続される。電解質は、液体、ゲルまたは固体の形態であってよい。
【0008】
蓄電池イオンの固有の移動挙動に起因して、それらの電極は、イオンを取り込みおよび/または放出することができる材料を必要とする。したがって、これらの電極を最適化し、より高い比エネルギー密度およびより高い比出力を得るために、多くの開発がなされてきた。選択基準は、主に使用可能な容量と動作可能性、結果的に利用可能なエネルギーに集中しているが、材料の出力または安全性およびコストにも重点が置かれている。
【0009】
質量エネルギーまたは比エネルギーは、所与のレート(蓄電池が放電される放電レート)で再構成され得るエネルギーと蓄電池の質量との間の比として定義される。比エネルギーはWh/kgで表される。
【0010】
この概念は、質量が主要な寸法基準である組み込みシステムにおける電池の寸法設定に特に有用である。
【0011】
エネルギー密度は、所与のレートで再構成され得るエネルギーと蓄電池の体積との間の比である。エネルギー密度はWh/Lで表される。この概念は、固定電池の寸法設定に有用である。なぜなら、これらの用途では、体積が質量よりも重要な基準であることが多いためである。
【0012】
リチウム技術は、質量エネルギー密度および体積エネルギー密度に関して最も優れた特性を有する。したがって、これらの技術は、携帯電話通信およびノート型パソコンなどの非固定用途において優先的に選択される。他方、このタイプの蓄電池のコストが高いため、他の記憶技術には依然として多くの用途が見出されている。鉛蓄電池は、据え置き用途(例えば、再生可能なエネルギーの貯蔵)または車両の始動に好ましいことが多い。ニッケル-カドミウム(Ni-Cd)電池またはニッケル水素(Ni-MH)電池は、それらが低コストでありかつ信頼性があることから、主に携帯用電動工具およびハイブリッド電気自動車に未だ使用されている。
【0013】
このように、多くの用途では、質量エネルギー密度および体積エネルギー密度の観点から性能を高めることによって、再生可能エネルギーの電気的移動度および貯蔵を改善することが望ましい。
【0014】
この目的のために、電池の電解質または電極に使用される活物質の様々なパラメータを最適化するための研究が行われている。
【0015】
しかし、これらの研究の何れも、現在まで満足のいく結果をもたらしていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【文献】Advanced Energy Materials(2016年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、特定のエネルギー密度およびより高い比出力を有する蓄電池を得ることを可能にする電気化学蓄電池の電極が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的のために、本明細書は、電極、集電体、界面層を含む電気化学蓄電池カソードに関し、ここで界面層は集電体上にコーティングされ、界面層もまた電極と接触し、厚さは5μm未満である。
【0019】
特定の実施形態によれば、カソードは、別個に、または技術的に実現可能な任意の組み合わせで、以下の特性のうちの1つまたは複数を含む。
・電極は、第1のインターカレーション材料、第1のバインダー材料および第1の導電性添加剤を含む第1の組成物を含み、第1の導電性添加剤の含有量は2重量%以下、好ましくは1重量%以下である。
・電極は、第1のインターカレーション材料および第1のバインダー材料を含む第1の組成物を含む。
・第1のバインダー材料は、1つ以上のポリマーからなる。
・界面層は、10nm以上の厚さを有する。
・界面層は、50nmから1μmの間の厚さを有する。
・集電体は、金属シートである。
・界面層は、第2のバインダー材料および第2の導電性添加剤を含む第2の組成物を含む。
・第2のバインダー材料は、1つ以上のポリマーからなる。
・第2のバインダー材料の含有量は、界面層の30重量%以上である。
・第2の導電性添加剤の含有量は、界面層の10重量%以上である。
【0020】
本発明はまた、前述したようなカソードを含む電気化学蓄電池に関する。
【0021】
一実施形態によれば、蓄電池はリチウムイオン電池である。
【0022】
本明細書はまた、一組の蓄電池を含む電池を記載し、少なくとも1つの蓄電池は、前述したような蓄電池である。
【0023】
本発明の他の特徴および利点は、図面に関連しかつ例示のためにのみ与えられる本発明の実施形態の以下の説明を読むことによって明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】カソードを有する電池の蓄電池の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
【0026】
蓄電池10は、所定の容量を有する電圧発生器を形成するために他の電気蓄電池に接続されることが意図される。そのような電圧発生器は、蓄電池または単に電池と呼ばれる。
【0027】
蓄電池10は、エネルギーを貯蔵し、その後エネルギーを供給するために可逆的エネルギー変換法を利用する。
【0028】
記載の蓄電池10は、電気化学反応を利用する。すなわち、蓄電池10は電気化学蓄電池である。
【0029】
蓄電池10は、電解質12と、アノード14と、カソード16とを含む。
【0030】
提案された例では、蓄電池10は、リチウムイオン電池用のリチウムイオン蓄電池であるが、請求項に係る構成要素は、以下のタイプの蓄電池と同じ構成要素を含む他の電気化学蓄電池技術にも適用可能であり得る:鉛-酸、ニッケル-カドミウム(NiCd)、ニッケル-金属水素化物(NiMH)、ニッケル-亜鉛(NiZn)、ナトリウム-硫黄(Na-S)、ナトリウムイオン(Na-イオン)、リチウム金属ポリマー(LMP)、リチウム-ポリマー(Li-Po)、リチウム-硫黄(Li-S)、ニッケル-リチウム(Ni-Li)である。
【0031】
電解質12と、アノード14およびカソード16との間の相互作用は、蓄電池10が電気化学蓄電池として機能することを可能にする。
【0032】
電解質12は、従来、電荷貯蔵またはファラデー反応のためのイオンを提供する様々なイオン性塩、炭酸塩およびイオンを可溶にする溶媒または溶媒混合物から構成される。
【0033】
リチウムイオン蓄電池において、イオン性塩は、従来、LiPF6(リチウムヘキサフルオロホスフェート)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(LiTFSI)、LiBF4(リチウムテトラフルオロボレート)およびLiBOB(リチウムビスオキサラートボレート)である。LiDFOB(リチウムジフルオロオキサラートボレート)でもある。炭酸塩は、例えばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(EMC)またはジエチルカーボネート(DEC)である。より少ない割合で、酢酸メチルまたはギ酸メチル、アセトニトリル、テトラヒドロフランまたはγ-ブチロラクトン、ならびにこれらの二成分または三成分または四成分混合物、ならびにイオン性液体を含むことも可能である。
【0034】
アノード14は、イオンをインターカレートするための材料で作られ、該材料は、例えば、主としてメゾカーボンマイクロビーズ(MCMB)、グラファイト(ソフトカーボンまたはハードカーボンなど人工または天然または黒鉛質の材料)の形態で使用される、リチウムイオン電池の中炭素、またはチタン酸リチウム(Li4Ti5O12またはLTO)、ケイ素、スズまたは合金に基づく他のタイプの負極材料である。
【0035】
【0036】
カソード16は、電極18と、界面層20と、集電体22とを含む。
【0037】
電極18、集電体22および界面層20は、符号Zで示す積層方向に層の積層体を形成する。
【0038】
電極18は、電解質12と接触している。
【0039】
電極18は、その特性を以下に説明する第1の組成物C1を含む。
【0040】
第1の組成物C1は、第1のインターカレーション材料MI1、第1のバインダー材料ML1および第1の導電性添加剤AC1を含む。
【0041】
インターカレーション材料は、「活物質」とも呼ばれる。
【0042】
リチウムイオン電池において、電極18の活物質は、従来、例えばLiCoO2(LCO)、LiNiMnCoO2(NMC)、LiNiCoAlO2(NCA)、LiMn2O4(LMO)、LiFePO4(LFP)、Li(LiNiMn)O2またはLiNiMnO(LNMO)などのリチウム化金属酸化物;LiSで構成される。電極18の活物質の他の例としては、例えばナトリウムイオン電池に関するものが可能であり、その例は、出版物「Advanced Organic Electrode Materials for Rechargeable Sodium-Ion Batteries」(Zhao,Q.,Lu,Y,およびChen,J.Advanced Energy Materials(2016年)に記載される。
【0043】
第1のML1バインダー材料の選択は、第1のバインダー材料ML1が他の電極材料に対して不活性である限り、非常に様々なものであり得る。第1のバインダー材料ML1は、通常はポリマーであり、その製造中に電極の具現を容易にする材料である。第1のバインダー材料ML1は、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、エラストマーおよびそれらの混合物から選択される1つ以上のポリマーを含む。
【0044】
熱可塑性ポリマーの例としては、非制限的に、ポリオレフィン(ポリエチレンまたはポリプロピレンを含む)などの脂肪族または脂環式ビニルモノマーの重合から誘導されたポリマー、ポリスチレンなどのビニル芳香族モノマーの重合から誘導されたポリマー、アクリルモノマーおよび/または(メタ)アクリレートの重合から誘導されたポリマー、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリイミドがある。
【0045】
熱硬化性ポリマーの例としては、非制限的に、ポリウレタンまたはポリエーテルポリオールと任意に混合された熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂など)があり、またはその逆も同様である。
【0046】
エラストマーポリマーの例としては、非制限的に、天然ゴム、合成ゴム、スチレンブタジエンコポリマー(略語SBRでも知られている)、エチレンプロピレンコポリマー(略語EPMでも知られている)、シリコーンがある。
【0047】
第1のバインダー材料ML1は、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマーおよび/またはエラストマーポリマーの混合物であってよい。
【0048】
他の好適な第1のバインダー材料ML1としては、カルボキシ基を有するポリマーおよび架橋剤から製造されたものなどの、架橋ポリマーがある。
【0049】
第1のバインダー材料ML1の含有量は、5重量%未満である。
【0050】
以下では、組成物の元素の重量含有量は、全組成物の重量に対して計算される。
【0051】
第1の導電性添加剤AC1は、電子伝導性を改善するための1つ以上のタイプの導電性要素を含む。
【0052】
導電性要素の例としては、非制限的に、導電性炭素、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、活性カーボンファイバー、不活性化カーボンナノファイバー、金属フレーク、金属粉末、金属繊維および導電性ポリマーがある。
【0053】
第1の導電性添加剤AC1の含有量は4重量%以下である。
【0054】
一例として、電極18の厚さe18は50μmである。
【0055】
集電体22は、電極18のための基板として機能するために、軽く、薄く、機械的に耐久性を有し、電子輸送を提供するために十分な導電性を有する材料で作られる。
【0056】
例えば、集電体22は、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、チタンまたはステンレス鋼で作られた金属シートである。
【0057】
他の例では、集電体22の材料は、カーボンペーパー、またはグラフェンまたは金属粒子で被覆されたプラスチックフィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)など)である。
【0058】
一例として、集電体22の厚さe22は20μmである。
【0059】
界面層20は、集電体22と電極18との間の界面を提供する。
【0060】
これは、特に、界面層20が、一方では集電体22と接触し、他方では電極18と接触する層であることを意味する。
【0061】
界面層20は、集電体22上にコーティングされている。
【0062】
界面層20は、5μm未満の厚さe20を有する。
【0063】
好ましくは、界面層20は10nm以上の厚さe20を有する。
【0064】
有利には、界面層20は50nmから1μmの間の厚さe20を有する。
【0065】
界面層20は、第2組成物C2により作られる。
【0066】
第2の組成物C2は、第2のバインダー材料ML2および第2の導電性添加剤AC2を含む。
【0067】
第2のバインダー材料ML2の選択は、第2のバインダー材料ML2が第2の組成物C2の他の材料に対して不活性である限り、非常に様々なものであり得る。第2のバインダー材料ML2は、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、エラストマーおよびそれらの混合物から選択される1つ以上のポリマーを含む。
【0068】
熱可塑性ポリマーの例としては、非制限的に、ポリオレフィン(ポリエチレンまたはポリプロピレンを含む)などの脂肪族または脂環式ビニルモノマーの重合から誘導されたポリマー、ポリスチレンなどのビニル芳香族モノマーの重合から誘導されたポリマー、アクリルモノマーおよび/または(メタ)アクリレートの重合から誘導されたポリマー、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、フッ素化ポリマー、ポリアクリロニトリルがある。
【0069】
熱硬化性ポリマーの例としては、非制限的に、ポリウレタンまたはポリエーテルポリオールと任意に混合された熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂など)があり、またはその逆も同様である。
【0070】
エラストマーポリマーの例としては、非制限的に、天然ゴム、合成ゴム、スチレンブタジエンコポリマー(略語SBRでも知られている)、エチレンプロピレンコポリマー(略語EPMでも知られている)、シリコーンがある。
【0071】
第2のバインダー材料ML2は、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマーおよび/またはエラストマーポリマーの混合物であってよい。
【0072】
他の好適な第2のバインダー材料ML2としては、カルボキシ基を有するポリマーおよび架橋剤から製造されたものなどの架橋ポリマーがある。
【0073】
第2のバインダー材料ML2の含有量は、30重量%以上である。
【0074】
好ましくは、第2のバインダー材料ML2の含有量は、80重量%以下である。
【0075】
有利には、第2バインダー材料ML2の含有量は、40重量%から70重量%の間である。
【0076】
第2の導電性添加剤AC2は、電子伝導性を改善するための1つ以上のタイプの導電性要素を含む。
【0077】
導電性要素の例としては、非制限的に、導電性炭素、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、活性カーボンファイバー、不活性化カーボンナノファイバー、金属フレーク、金属粉末、金属繊維および導電性ポリマーがある。
【0078】
第2の導電性添加剤AC2の含有量は、20重量%以上である。
【0079】
好ましくは、第2の導電性添加剤AC2の含有量は、70重量%以下である。
【0080】
有利には、第2の導電性添加剤AC2の含有量は、30重量%から60重量%の間である。
【0081】
蓄電池10の動作は、従来技術の電気化学蓄電池の動作に従う。
【0082】
界面層20は、接着および接触抵抗を最適化することによって集電体/電極界面を改善することに留意すべきである。接触抵抗はアセンブリの電子伝導率に大きな影響を与え、強い抵抗はサイクル中の電子輸送に対する障壁として作用する。この場合、界面層20は、伝導経路を改善することによってこの現象を低減させるのを助けることができる。
【0083】
界面層20の他の機能は、集電体の腐食がかなり広範に起こる現象であるため、集電体22の保護を可能にすることである。良好な耐腐食性のためには、電解質の集電体への接近を遮断する必要がある。結果的に、界面層20は、腐食の原因となるイオンの接近に対する物理的障壁として作用するが、集電体界面/界面層の電位の安定化にも作用する。
【0084】
従来技術の蓄電池と比較して、実験セクションに示すように性能が改善される。
【0085】
蓄電池10では、カソード16の電極18の配合物中の導電性添加剤の含量が低いにもかかわらず、導電性添加剤の含有量が2%を超える従来技術のカソードと比較して、比容量が維持される。
図13の結果は、請求項に係るカソードについて、エネルギー密度(質量エネルギーまたは体積エネルギー)の改善が可能であることを示している。
【0086】
さらに、500サイクル後の容量維持は、従来技術によるカソードでは約50%であり、導電性添加剤の含有量がゼロであるカソード16では60%である。これは、容量維持の点で20%の利得に相当する。このようなカソード16を蓄電池10に使用することにより、蓄電池のサイクル特性および寿命を改善することが可能になる。
【0087】
最後に、蓄電池においてカソード16を使用することにより、高い動作速度でのその使用が可能となり、エネルギー密度における利得を改善された利用可能な電力と関連付けることが可能となる。
【0088】
あるいは、第1の導電性添加剤AC1の含有量は2重量%以下であってよい。
【0089】
好ましくは、第1の導電性添加剤AC1の含有量は1重量%以下である。
【0090】
他の実施形態によれば、第1の組成物C1は、インターカレーション材料およびバインダー材料からなる。したがって、第1の組成物C1は導電性添加剤を含まない。
【0091】
実験セクション
実験プロトコル
材料
本検討では、集電体としてアルミニウムシート(1085系、厚さ20μm)を用いた。
【0092】
界面層を形成することを意図した炭素系配合物(熱可塑性ポリマー70重量%およびカーボンブラック30重量%)は、アルミニウムペーパーの同じシート上に薄層の形態でコーティングとして堆積される。コーティングを乾燥した後のコーティングの厚さは、1μmから1.5μmの間である。
【0093】
正極は、活物質であるリン酸鉄リチウム(LiFePO4-LFP)(Pholicat Fe100、Umicore)、カーボンブラック(C65、Timcal)およびポリマーバインダーであるポリフッ化ビニリデン-PVdF(Solef 5130、Solvay)から作られる。複合電極について同じ機械特性を得るように、PVdFの質量とC65(62m2/g-1)およびLFP(20.9m2.g-1)の比質量との間の同様の比を得るために、乾燥重量比が炭素含有量の各変更に適合された。LFP/PVdF/C65の様々な重量比を表1に示す。
【0094】
【0095】
様々な懸濁液を同じ条件下で調製した。
【0096】
まず、N-メチル-2-ピロリドン(M-Pyrol、Ashland)を用いて、PVdFを磁気攪拌しながら60℃で2時間溶解させた。カーボンブラックを適切に分散させるために、PVdF溶液との機械的攪拌によって1時間完全に混合した。最後に、LFP粉末を添加し、攪拌機(IKA)を室温で75分間使用した。乾燥含量は、電極の処方に関係なく40%に設定した:したがって、レオロジー特性は最適化されなかった。
【0097】
Elcometerの自動フィルムアプリケータ(AAF)を用いて様々な混合懸濁液をコーティングした:一方では、剥き出しのアルミニウムシート上にカソードの実施例(これ以降CaR1、CaR2、CaR3、CaR4、CaR5と表記する)を形成し、他方では、界面層で予め被覆されたアルミニウムシート上にカソードの実施例(CaE1、CaE2、CaE3、CaE4、CaE5と表記する)を形成した。
【0098】
コーティングされた種々の懸濁液は、空気中で80℃から130℃で1時間乾燥され、130℃で1時間真空下に保持された。活物質の典型的な担持量は10-11mg/cm2であった。電極は、それらの組成に関係なく、38±2%の気孔率にカレンダー加工された。
【0099】
負極側では、Mti社のグラファイト電極がそのまま使用された。電極は、95.7重量%のメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)と、バインダーとしてのカルボキシメチルセルロース(CMC)およびスチレン-ブタジエン(SBR)の混合物とを含む。厚み40μm、活物質担持量6mg/cm2の複合負極を、厚さ9μmの銅集電体で支持した。請求項に係る比容量は330mAh.g-1である。
【0100】
完成セルの作製
蓄電池は、アルゴン雰囲気下、グローブボックス内で組み立てられた。2つの0.5mmのステンレス鋼スペーサおよび波形ばねを使用して、電極上に良好な圧力を確保した。正極を1.27cm2の試料に切断し、組み立て前に真空下で90℃で1時間乾燥させた。負極は、正側と負側との容量比を負側に典型的な値である約20%多くするために、1.13cm2の試料として切断した。これらの試料は、組み立てる前に、真空下、150℃で5時間処理された。使用した電解質は、エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート(体積で1:1、Solvionic)中のLiPF6の1M溶液であり、ファイバーガラスセパレータ(Whatman)中でクエンチされた。蓄電池は、最終的に1.8mAhcm-2の理論容量に達する。
【0101】
特徴付け
セルの電気化学的性能は、VMP3マルチポテンショスタット(Biologic)によって特徴付けられた。
【0102】
まず、グラファイト電極上に固体電解質相間(SEI)層を形成し、両方の電極が完全に機能することを確実にするために、C/5速度(理論容量で計算)において、4.3V vs Li+/Li°と2.2V vs Li+/Li°との間の6回の形成サイクルを実施した。
【0103】
次いで、セルを50%充電状態(SOC)でサイクル処理し、安定電位を確保するために1時間放置した。
【0104】
次に、C/5から10Cの間でセルを放電させることによって放電特性を調べ、完全充電を確実にするために各放電の間にセル充電をC/5に設定した。最後に、2Cでの定電流サイクルを500サイクル行った。
【0105】
結果と考察
実施された実験の結果は、それぞれ
図3から
図13に見ることができ、各々については以下のとおりである。
・
図3から
図8は、異なるレートまたは異なる電流での電極の種々の実施例の放電曲線を示す。このレートは、電池容量の一部として表される。
図3および
図4は、C/5における放電曲線を示し、
図3はCaR
iカソード実施例、
図4はCaE
iカソード実施例を示す。
図5および
図6は、Cでの放電曲線を示し、
図5はCaR
iカソードの実施例、
図6はCaE
iカソードの実施例を示す。
図7および
図8は、5Cにおける放電曲線を示し、
図7は、CaR
iカソードの実施例についての図であり、
図8は、CaE
iカソードの実施例についての図である。
・
図9および
図10は、様々な電極の実施例について、蓄電池の動作条件に従って利用可能な比容量を示す。
図9はCaR
iカソードの実施例の測定結果を組み合わせたものであり、
図10はCaE
iカソードの実施例の測定結果である。
・
図11は、すべてのCaR
iおよびCaE
iカソードの実施例について、蓄電池によって実施された充放電のサイクル数に応じて維持された容量を示す。
・
図12は、電極の炭素含有量に応じて、カソードCaR
iおよびCaE
iのすべての実施例について、2Cでの200サイクルの充放電後に維持された比容量を示す。
・
図13は、従来技術によるカソードとCaE
0カソードとを比較するエネルギー密度対出力密度を示す。
【0106】
カソードの電気特性
電気化学特性を
図3から
図13に示す。
種々の図の分析から、界面層20がカソード内に存在するので、電気化学特性が電極18の炭素含有量とは無関係に維持されることが示されている。
【0107】
増加したエネルギー密度
図3から
図8は、試験したすべての電極のC/5、Cおよび5Cレートにおける放電電圧プロファイルを示す。
【0108】
電極(E3、E2、E1)の炭素含有量を減少させると、界面層をもたないカソード実施例(CaRi)を含む蓄電池の動作は、全てのレートにおいて電圧の点で、また比容量の点で、かなりの影響を受ける。
【0109】
同時に、界面層(CaEi)を含むカソード実施例の炭素含有量を減少させることによって、蓄電池の動作は、電極の組成にかかわらず影響されない(または影響はごく僅かである)。
【0110】
中間のレート(C)では、CaR0およびCaR1カソードは、0に近い比容量を有するが、それらの等価電極CaE0およびCaE1は、約120mAh/gの比容量を有する。
【0111】
高レート(5C)では、CaE1またはCaE5界面層を有するすべての電極組成物について、分極および比容量は実質的に同じままである(約80mAh/g)が、界面層を持たず炭素含有量が2%未満の電極(CaR1およびCaR2)を備えた蓄電池は、分極が高すぎて電荷移動を得ることができないので、もはや機能しない。
【0112】
増加した出力
放電状態に応じた容量維持率という観点からみた特性が、
図9および10に示されている。従来のカソードでは、放電レートが増加すると容量維持率が低下するが、この傾向は電極の炭素含有量の減少により顕著であり、炭素は、良好な容量維持を確実にする。この低下は、炭素含有量が3%に低下すると直ちに明らかなものとなり、容量維持率が1Cレートの0に近い、炭素含有量が2から0%の場合に決定的になる。
【0113】
同時に、容量維持の観点からみた性能は、本発明による電極の炭素含有量にかかわらず、さらには炭素を含まない電極についても、すべての動作レートにおいてほぼ同一のままである。
【0114】
炭素含有量が低い場合に電極が非常に低い導電率を示す(表1)にもかかわらず、蓄電池が依然として機能的であり、非常に良好な性能を示すというこの結果はさらに予想外である。
【0115】
耐用寿命(充放電サイクル数)の増加
図11は、2Cレートにおいて500サイクルという困難な条件の下での充放電サイクル数に応じた容量維持率を示す。従来技術のカソードの場合、電極の炭素含有量の減少はサイクル性を低下させ、2%未満では不可能になる。請求項に係るカソードCaE
iは大きく異なる挙動を示し、これらの電極の炭素含有量の減少は蓄電池のサイクル特性を改善する。カソードCaE1(炭素なし)は、500サイクルにわたる蓄電池のカソードCaE5と同様の挙動を示す。
【0116】
図12は、2Cレートにおける200サイクルの充放電後に維持される比容量を示す。従来技術のカソードでは、維持される容量はCaE
iカソードの容量よりも低く、導電性炭素の減少はCaR
i電極の維持容量を大きく減少させる。CaE
iカソードは、炭素含有量にかかわらず同様の挙動を示す。
【0117】
容量密度および出力密度の向上
出力密度に応じたエネルギー密度を表す
図13は、CaE0カソードを含む蓄電池が、従来技術の何れのカソードよりも良好なレベルで、これら2つの量、エネルギーおよび出力を維持することを示している。最後に、これらの顕著な特性は、200サイクル後でさえも維持され(
図13に示される点)、カソード16を含む蓄電池のエネルギー密度および寿命の点で性能の向上が確認される。
【符号の説明】
【0118】
10 蓄電池
12 電解質
14 アノード
16 カソード
18 電極
20 界面層
22 集電体