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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】染色装置及び染色方法
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/20 20060101AFI20240409BHJP
   D06P 7/00 20060101ALI20240409BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
D06P5/20 C
D06P5/20 D
D06P7/00
G02C7/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019140233
(22)【出願日】2019-07-30
(65)【公開番号】P2021021176
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(73)【特許権者】
【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 稔
(72)【発明者】
【氏名】阿部 功児
(72)【発明者】
【氏名】柴田 良二
(72)【発明者】
【氏名】柴本 貴央
(72)【発明者】
【氏名】植田 浩安
(72)【発明者】
【氏名】長津 義之
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-127722(JP,A)
【文献】特開2013-015824(JP,A)
【文献】国際公開第2019/120847(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/230419(WO,A1)
【文献】特開2001-306103(JP,A)
【文献】特開2012-031537(JP,A)
【文献】特開2009-244515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P 5/20
D06P 7/00
G02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に染料が付着された樹脂体を加熱することにより前記染料を前記樹脂体に定着させる染色装置であって、
レーザ光を表面に染料が付着された樹脂体に向けて照射するレーザ光照射手段と、
前記レーザ光照射手段により照射される前記レーザ光を前記樹脂体に対して相対的に走査するための走査手段と、
前記走査手段を制御し、前記樹脂体上における前記レーザ光の照射位置を変更する制御手段と、
前記樹脂体の二次元領域の温度分布を検出する温度検出手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記樹脂体上の二次元領域に対して、前記温度検出手段による前記温度分布に基づいて、前記レーザ光の照射条件を変更しながら、前記レーザ光を複数回繰り返し照射することによって、表面に前記染料が付着された前記樹脂体を加熱し、前記染料を前記樹脂体に定着させることを特徴とする染色装置。
【請求項2】
請求項1の染色装置において、
前記温度検出手段は、少なくともサーモカメラを含むことを特徴する染色装置。
【請求項3】
請求項1又は2の染色装置において、
前記制御手段は、前記樹脂体上の前記二次元領域に対して、2回目以降の前記レーザ光の照射において、前記温度検出手段による前記温度分布に基づいて、前記レーザ光の照射条件を変更しながら、前記レーザ光を照射することを特徴する染色装置。
【請求項4】
表面に染料が付着された樹脂体を加熱することにより前記染料を前記樹脂体に定着させる染色方法であって、
前記樹脂体の二次元領域の温度分布を検出する温度検出ステップと、
レーザ光を前記染料が付着された前記樹脂体に向けて照射し、前記レーザ光の照射位置を変更することにより表面に前記染料が付着された前記樹脂体を加熱し、前記染料を前記樹脂体に定着させる制御ステップであって、前記樹脂体上の二次元領域に対して、前記温度検出ステップによる前記温度分布に基づいて、前記レーザ光の照射条件を変更しながら、前記レーザ光を複数回繰り返し照射することによって、表面に前記染料が付着された前記樹脂体を加熱し、前記染料を前記樹脂体に定着させる制御ステップを備えることを特徴とする染色方法。
【請求項5】
請求項4の染色方法において、
前記温度検出ステップは、少なくともサーモカメラを用いて前記樹脂体の二次元領域の温度分布を検出することを特徴する染色方法。
【請求項6】
請求項4又は5の染色方法において、
前記制御ステップは、前記樹脂体の前記二次元領域に対して、2回目以降の前記レーザ光の照射において、前記温度検出ステップによる前記温度分布に基づいて、前記レーザ光の照射条件を変更しながら、前記レーザ光を照射することを特徴する染色方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ光を用いて樹脂体を染色する染色装置及び染色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックレンズ等の樹脂体を染色する方法として、レンズを染色液の中に所定時間浸漬してレンズを染色する方法(浸染法)が知られている。この方法は従来から用いられているものであるが、作業環境が良くないこと、高屈折率のレンズには染色を行うことが困難であることが問題となっていた。そこで本出願人はインクジェットプリンタを用いて、昇華性染料を含有する染色用インクを紙等の基体上に塗布(出力)させ、これを真空中でレンズと非接触に置き、昇華性染料をレンズ側に飛ばして染色を行う方法(以下 気相転写染色方法と記す)による染色方法を提案した(例えば、特許文献1参照)。この方法では、オーブン内でレンズ全体を加熱することにより、染料をレンズ表面に定着させている。
【0003】
また、このような気相転写染色方法では定着に必要とする加熱温度が高いと樹脂体が黄変してしまう場合があり、このような問題を解決するために、レーザ光を樹脂体上を横断するように走査(ライン走査)し(例えば、特許文献2の図3参照)、樹脂体表面を部分的に加熱し、染料を定着させる方法を提案した。また、レーザ光による定着を行う場合に、樹脂体における厚みの変化を考慮せずに染料が蒸着されている樹脂体の全領域(染色予定面)に対して一定の出力条件にてレーザ光の照射を行った場合、色ムラが発生しやすい。
【0004】
この対応のため、レーザ光の照射による樹脂体表面の加熱温度が染色予定領域の全域において略同じ加熱温度(表面温度)となるように、樹脂体上の加熱箇所に対するレーザ光の照射条件を適宜変更させる方法を提案した(例えば、特許文献2参照)。例えば、樹脂体の情報に基づいて、レーザ光の出力条件を変えることにより、色ムラを抑制する方法を提案されている。また、例えば、レーザ照射位置の温度を検出し、検出結果に基づいて、レーザ光の出力条件を変えることにより、色ムラを抑制する方法を提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-215306号公報
【文献】特開2013-015824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来は、上記のような色ムラ抑制方法を実施しながら、レーザ光の照射位置を変更し、樹脂体の二次元領域に対して、1回(周期)でレーザ光の照射を完了させている。しかしながら、このような従来方法でレーザ光の照射を完了させた場合に、各照射位置で温度が上昇するまでに、所定の時間がそれぞれかかるため、レーザ光の照射を開始した段階でレーザ光の照射によって加熱された位置と、レーザ光の照射が完了する段階でレーザ光の照射によって加熱された位置と、で温度差が生じてしまうことがわかった。つまり、各照射位置において、所望の温度まで加熱したとしても、その後、熱は、内部へ拡散及び外部へ放熱されるため、異なるタイミング加熱された位置間で温度差が生じ、この影響によって色ムラや歪が生じることがわかった。特に、1回のレーザ光の照射にて、樹脂体の加熱を完了させる方法においては、レーザ光の照射を開始した段階と、レーザ光の照射が完了する段階と、でより時間差が生じやすいため、温度差が生じやすく色ムラや歪が生じてしまうことがわかった。
【0007】
本開示は、上記問題点に鑑み、樹脂体の歪を抑制しつつ、樹脂体を好適に染色することのできるレーザ光を用いた染色装置及び染色方法を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0009】
(1) 本開示の第1態様に係る染色装置は、表面に染料が付着された樹脂体を加熱することにより前記染料を前記樹脂体に定着させる染色装置であって、レーザ光を表面に染料が付着された樹脂体に向けて照射するレーザ光照射手段と、前記レーザ光照射手段により照射される前記レーザ光を前記樹脂体に対して相対的に走査するための走査手段と、前記走査手段を制御し、前記樹脂体上における前記レーザ光の照射位置を変更する制御手段と、前記樹脂体の二次元領域の温度分布を検出する温度検出手段と、を備え、前記制御手段は、前記樹脂体上の二次元領域に対して、前記温度検出手段による前記温度分布に基づいて、前記レーザ光の照射条件を変更しながら、前記レーザ光を複数回繰り返し照射することによって、表面に前記染料が付着された前記樹脂体を加熱し、前記染料を前記樹脂体に定着させることを特徴とする。
(2) 本開示の第2態様に係る染色方法は、表面に染料が付着された樹脂体を加熱することにより前記染料を前記樹脂体に定着させる染色方法であって、前記樹脂体の二次元領域の温度分布を検出する温度検出ステップと、レーザ光を前記染料が付着された前記樹脂体に向けて照射し、前記レーザ光の照射位置を変更することにより表面に前記染料が付着された前記樹脂体を加熱し、前記染料を前記樹脂体に定着させる制御ステップであって、前記樹脂体上の二次元領域に対して、前記温度検出ステップによる前記温度分布に基づいて、前記レーザ光の照射条件を変更しながら、前記レーザ光を複数回繰り返し照射することによって、表面に前記染料が付着された前記樹脂体を加熱し、前記染料を前記樹脂体に定着させる制御ステップを備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】レーザ光を用いた染色方法に使用される染色システムの概略構成を示した図である。
図2】染色システムにおいて、染料を樹脂体に定着させる染色装置の概略構成を示した図である。
図3】レーザ光の照射について説明する図である。
図4】レーザ光が照射された後のサーモカメラによる二次元的な温度検出結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<概要>
以下、表面に染料が付着された樹脂体を加熱することにより染料を樹脂体に定着させることができる染色装置の典型的な実施形態の1つについて、図面を参照して説明する。図1図4は本実施形態に係る染色装置について説明するための図である。なお、以下の<>にて分類された項目は、独立又は関連して利用されうる。
【0012】
なお、以下では、樹脂体の1つであるレンズ(例えば、レンズ8)に対して、気相転写染色法を用いて染色し、染色レンズを製造する場合を例示して説明を行う。なお、レンズについては、屈折力は問わず、本開示の技術を適用することができる。例えば、本開示の技術は、種々の屈折力(例えば、低ディオプター、高ディオプター、0ディオプター等)のレンズに適用できる。もちろん、以下で例示する技術は、レンズ以外の樹脂体(例えば、ゴーグル、携帯電話のカバー、ライト用のカバー、アクセサリー、玩具、フィルム(例えば、厚みが400μm以下等)、板材(例えば、厚みが400μm以上等)等のいずれかの成形体等)に対して、気相転写染色法を用いて、染色を行う場合にも適用できる。もちろん、樹脂体としては、部材(例えば、木材、ガラス等)に対して樹脂が付加された部材も含む。この場合、樹脂に対して、気相転写染色法を用いて染色されるようにしてもよい。
【0013】
例えば、樹脂体としては、ポリカーボネート系樹脂(例えば、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート重合体(CR-39))、ポリウレタン系樹脂(トライベックス)、アリル系樹脂(例えば、アリルジグリコールカーボネート及びその共重合体、ジアリルフタレート及びその共重合体)、フマル酸系樹脂(例えば、ベンジルフマレート共重合体)、スチレン系樹脂、ポリメチルアクリレート系樹脂、繊維系樹脂(例えば、セルロースプロピオネート)、チオウレタン系またはチオエポキシ等の高屈折材料、ナイロン系樹脂(ポリアミド系樹脂)、等の少なくともいずれかを材質(材料)とした樹脂体を用いてもよい。
【0014】
例えば、図1は本開示のレーザ光を用いた染色方法に使用される染色システムの概略構成を示した図である。また、例えば、図2は染色システムにおいて、染料を樹脂体に定着させる染色装置の概略構成を示した図である。
【0015】
本実施形態における染色システム(例えば、染色システム10)は、染色用基体作成装置(例えば、染色用基体作成装置100)、真空気相転写機(例えば、真空気相転写機20)、および染色装置(例えば、染色装置30)を備える。
【0016】
例えば、染色用基体作成装置は、樹脂体に蒸着される昇華性の染料を、染色用基体(例えば、染色用基体1)に付着させて、染料の付着した染色用基体を作成するために用いられる。例えば、真空気相転写機は、染色用基体に塗布された染料を被染色物となる樹脂体に昇華性染料を蒸着(転写)するために用いられる。例えば、染色装置は、表面に染料が付着された樹脂体を加熱することにより染料を樹脂体に定着させるために用いられる。例えば、本開示の染色装置は、染料が付着した樹脂体にレーザ光を照射し、樹脂体を加熱することにより染料を樹脂体に定着させる。
【0017】
例えば、本実施形態において、染色装置は、レーザ光照射手段(例えば、レーザ光源33)と、走査手段(例えば、光スキャナ36及び駆動機構38)と、制御手段(例えば、制御部39)と、を備えている。
【0018】
例えば、レーザ光照射手段は、レーザ光を表面に染料が付着された樹脂体に向けて照射する。例えば、レーザ光照射手段としては、所定の波長のレーザ光を出射する。例えば、レーザ光照射手段は赤外域の波長のレーザ光を出射する。なお、レーザ光照射手段としては、赤外域の波長のレーザ光を照射するレーザ光照射手段に限定されない。例えば、レーザ照射手段は、樹脂体の基材に吸収可能な波長域のレーザ光を出射するものを用いるようにしてもよい。例えば、レーザ光照射手段としては、紫外域(近紫外を含む)の波長のレーザ光を出射するものであってもよい。
【0019】
なお、例えば、染料に加えて特定の波長域を吸収する吸収剤(例えば、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤等)を樹脂体に載せて(塗布、蒸着)おき、レーザ光を吸収剤に吸収させることにより樹脂体を加熱することも可能である。なお、吸収剤を用いる場合には樹脂体に対して染料、吸収剤の順番に積層されることが好ましい。
【0020】
例えば、走査手段としては、レーザ光照射手段により照射されるレーザ光を樹脂体に対して相対的に走査する。例えば、走査手段としては、レーザ光照射手段により照射されるレーザ光を樹脂体に対して相対的に二次元的に走査する。なお、例えば、二次元的に走査とは、レーザ光が照射される光軸に対して直交する方向に二次元的に走査することを示す。
【0021】
例えば、走査手段としては、レーザ光に対して樹脂体を移動することによって、レーザ光を樹脂体に対して相対的に走査する構成であってもよい。また、例えば、走査手段は、樹脂体に対してレーザ光を走査することによって、レーザ光を樹脂体に対して相対的に走査する構成であってもよい。もちろん、例えば、走査手段としては、レーザ光に対する樹脂体の移動と、樹脂体に対するレーザ光を走査と、の双方の構成を組み合わせることによって、レーザ光を樹脂体に対して相対的に走査する構成であってもよい。
【0022】
例えば、レーザ光に対して樹脂体を移動する走査手段としては、樹脂体が載置される移動ステージ(例えば、ステージ32)が移動される構成であってもよい。一例として、例えば、樹脂体が載置された移動ステージが駆動手段によって任意に移動されるようにしてもよい。なお、移動ステージに対して、直接的に樹脂体が載置されるようにしてもよい。また、例えば、移動ステージに対して、載置部材(例えば、載置台11)が設けられ、載置部材を介して、移動ステージに対して、樹脂体が間接的に設置されるようにしてもよい。また、例えば、レーザ光に対して樹脂体を移動する走査手段としては、樹脂体を保持する保持手段が移動される構成であってもよい。一例として、例えば、樹脂体が保持手段によって保持され、保持手段が駆動手段によって任意に移動されるようにしてもよい。
【0023】
例えば、樹脂体に対してレーザ光を走査する走査手段としては、光スキャナによって、レーザ光が樹脂体上で二次元的に走査される構成であってもよい。一例として、例えば、光スキャナは、ガルバノミラーであり、その反射角度が駆動手段によって任意に調整されるようにしてもよい。これにより、レーザ照射手段から出射されたレーザ光はその反射(進行)方向が変化され、樹脂体上で任意の位置に走査され、樹脂体上におけるレーザ光の照射位置が変更される。なお、光スキャナとしては、ガルバノミラーに限定されない。例えば、光スキャナとしては、レーザ光を偏向させる構成であればよい。例えば、光スキャナとしては、反射ミラー(ガルバノミラー、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ)と、光の進行(偏向)方向を変化させる音響光学素子(AOM)等と、の少なくともいずれかであってもよい。
【0024】
例えば、制御手段としては、走査手段を制御し、樹脂体上におけるレーザ光の照射位置を変更する。本実施形態において、例えば、制御手段は、樹脂体上の二次元領域に対して、レーザ光を複数回(複数の周期)繰り返し照射することによって、表面に染料が付着された樹脂体を加熱し、染料を樹脂体に定着させる。すなわち、例えば、制御手段は、樹脂体上の染色予定面である二次元領域に対して、レーザ光を複数回繰り返し照射することによって、表面に染料が付着された樹脂体を加熱し、染料を樹脂体に定着させる。上記のように、例えば、本実施形態における染色装置は、二次元領域に全体に対して繰り返し加熱を行うことになるため、樹脂体上における加熱温度のばらつきを抑制することができ、色ムラを抑制した染色を行うことができる。
【0025】
なお、例えば、レーザ光を複数回繰り返して照射をする場合に、前の周期でレーザを照射した照射位置と同一の照射位置に対して、レーザ光を繰り返し照射するようにしてもよい。同一位置を繰り返し照射することによって、温度ムラを抑制しつつより効率よく加熱を行うことができる。なお、本開示において、同一の照射位置とは略同一の照射位置を含む。
【0026】
例えば、樹脂体上の二次元領域(染色予定面)に対して、レーザ光を複数回繰り返して照射をする場合に、同一の照射条件にて、レーザ光を複数回繰り返して照射していくようにしてもよい。この場合、例えば、制御手段は、樹脂体上の二次元領域に対して、同一の照射条件にて、レーザ光を複数回繰り返して照射することによって、表面に染料が付着された樹脂体を加熱し、染料を樹脂体に定着させるようにしてもよい。すなわち、例えば、制御手段は、各回(各周期)間でレーザ光の照射条件を変更することなく、レーザ光を複数回繰り返して照射していくようにしてもよい。なお、例えば、樹脂体上の二次元領域とは、レーザ光が照射される光軸に対して直交する方向の二次元領域を示す。
【0027】
また、例えば、樹脂体上の二次元領域に対して、レーザ光を複数回繰り返して照射をする場合に、レーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光を複数回繰り返して照射していくようにしてもよい。この場合、例えば、制御手段は、樹脂体上の二次元領域に対して、レーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光を複数回繰り返し照射することによって、表面に染料が付着された樹脂体を加熱し、染料を樹脂体に定着させるようにしてもよい。このような構成によって、例えば、温度の高低(温度が高い、温度が低い等)、温度変化のしやすさ(温度が変化しやすい、温度が変化しづらい等)等の樹脂体の状態を考慮したレーザ光の照射が可能となるため、樹脂体上における加熱温度のばらつきをより抑制することができる。これによって、容易に色ムラを抑制した染色を行うことができる。
【0028】
例えば、照射条件の変更としては、出力条件(照射出力)、走査速度(照射速度)、走査パターン(照射パターン)、走査位置(照射位置)等の少なくともいずれかの条件の変更であってもよい。もちろん、上記と異なる照射条件が変更されるようにしてもよい。例えば、照射条件の変更とは、レーザ光の照射状態が変更される構成であればよい。なお、照射条件に含まれる各照射条件(例えば、出力条件、走査速度、走査パターン、走査位置等)において、各照射条件の内、複数の照射条件が予め対応付けされて記憶手段(例えば、メモリ41)に記憶されていてもよい。一例として、例えば、照射条件に含まれる出力条件と走査位置とが予め対応付けされて記憶手段に記憶されていてもよい。
【0029】
例えば、出力条件(照射出力)の変更としては、レーザ光源の出力を制御して、レーザ光の出力を調整するようにしてもよい。また、例えば、出力条件の変更としては、レーザ光が樹脂体に照射される光路中に、レーザ光の出力を調整する部材を設ける構成としてもよい。例えば、部材としては、光量調整フィルタ、光減衰器であってもよい。もちろん、出力条件の変更は、上記構成に限定されない。例えば、レーザ光の出力条件の変更は、樹脂体にレーザ光が照射された際のレーザ光の出力状態が変更されている構成であればよい。
【0030】
例えば、走査パターン(照射パターン)としては、一次元的に照射する走査パターンであってもよい。この場合、例えば、走査パターンとしては、ラインスキャン、サークルスキャン等であってもよい。また、例えば、走査パターンとしては、二次元的に照射する照射パターンであってもよい。この場合、例えば、走査パターンとしては、螺旋スキャン(螺旋状の走査パターン)、クロススキャン、マップスキャン、マルチスキャン、ラジアルスキャン等であってもよい。もちろん、上記と異なる走査パターンにてレーザ光の照射が実施されるようにしてもよい。
【0031】
例えば、走査位置(照射位置)の変更としては、照射位置間の幅(間隔)を変更すること、照射位置をずらすこと、特定の位置のみに照射をする、等の少なくともいずれかの構成であってもよい。一例として、例えば、照射位置をずらす場合、樹脂体上の二次元領域に対して、レーザ光の照射位置をずらして照射するようにしてもよい。この場合、例えば、レーザ光を複数回繰り返して照射をする場合に、前の周期でレーザを照射した照射位置と異なる照射位置に対して、レーザ光を繰り返し照射するようにしてもよい。もちろん、上記と異なる走査位置の変更が行われるようにしてもよい。
【0032】
例えば、レーザ光の照射条件を変更するタイミングは、任意のタイミングで実施するようにしてもよい。例えば、制御手段は、レーザ光の照射条件を変更する場合、1回目(1周期目)のレーザ光の照射からレーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光の照射を行ってもよい。また、例えば、制御手段は、レーザ光の照射条件を変更する場合、少なくとも2回目(2周期目)以降のレーザ光の照射からレーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光の照射を行ってもよい。この場合、例えば、制御手段は、1回目のレーザ光の照射からレーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光の照射を行ってもよい。また、この場合、例えば、制御手段は、樹脂体の二次元領域に対して、1回目のレーザ光の照射においてはレーザ光の照射条件を変更せず、2回目以降のレーザ光の照射において、レーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光を照射するようにしてもよい。もちろん、適宜、任意の回(周期)においてのみ、レーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光を照射するようにしてもよい。
【0033】
例えば、レーザの照射条件の変更は、レンズ情報に基づいて行われるようにしてもよい。例えば、レンズ情報としては、レンズの材料、レンズの種類、レンズの光学特性、染色濃度、レンズ度数、染色パターン等のいずれかであってもよい。もちろん、上記と異なるレンズ情報であってもよい。
【0034】
また、例えば、レーザ光の照射条件の変更は、温度検出手段(例えば、サーモカメラ50)に基づいて行われるようにしてもよい。例えば、染色装置は、さらに、樹脂体の温度を検出する温度検出手段を備えるようにしてもよい。この場合、例えば、制御手段は、樹脂体上の二次元領域に対して、温度検出手段の検出結果に基づいて、レーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光を複数回繰り返し照射することによって、表面に前記染料が付着された樹脂体を加熱し、染料を樹脂体に定着させるようにしてもよい。一例として、例えば、制御手段は、温度検出手段の検出結果に基づいて、レーザ光の各照射位置における照射条件を設定するようにしてもよい。次いで、制御手段は、設定した照射条件となるように、レーザ光の照射条件を変更するようにしてもよい。このような構成によって、例えば、レーザ光の照射中において、樹脂体上の温度が想定していた温度となっていない場合であっても、実際の温度状態を把握しながら、レーザ光の照射を行うことができるため、温度変化に合わせたレーザ光の照射が可能となる。これによって、樹脂体上における温度のばらつきをより抑制することができるため、より色ムラを抑制した樹脂体の染色を行うことができる。
【0035】
例えば、温度検出手段は、レーザ光の照射位置の加熱温度を非接触で検出(測定)する構成であってもよい。一例として、例えば、温度検出手段は、物体からの赤外線や可視光線の強度を測定して物体の温度を測定する放射温度計を好適に用いることができる。もちろん、樹脂体上の温度が検出できる構成であれば上記構成に限定されない。
【0036】
例えば、温度検出手段は、任意の位置に設置することができる。一例として、例えば、温度検出手段は、樹脂体上における温度を斜め上方から検出できるように設置されていてもよい。また、一例として、例えば、温度検出手段の測定軸とレーザ光照射手段の光軸とが同軸となるように、設置されていてもよい。もちろん、温度検出手段は、上記と異なる位置に設置されるようにしてもよい。
【0037】
例えば、温度検出手段は、樹脂体上における特定の位置のみの温度を検出する構成であってもよい。一例として、例えば、温度検出手段は、レーザ光を照射している位置における温度を検出するようにしてもよい。この場合、例えば、制御手段は、レーザ光を照射している位置における温度を検出し、レーザ光の照射位置の温度が所望の温度となるようにレーザ光を照射するようにしてもよい。また、一例として、例えば、温度検出手段は、レーザ光が照射された後の位置における温度を検出するようにしてもよい。この場合、例えば、制御手段は、レーザ光を照射した後の位置における温度を検出し、温度状況を参考としながら、レーザ光を照射するようにしてもよい。
【0038】
また、例えば、温度検出手段は、樹脂体上の二次元領域の温度を検出する構成であってもよい、すなわち、例えば、温度検出手段は、樹脂体の温度を二次元的に検出する構成であってもよい。この場合、例えば、温度検出手段は、樹脂体上において、少なくともレーザ光を照射していない位置における温度検出を行っている。もちろん、例えば、温度検出手段は、樹脂体上において、レーザ光を照射していない位置及びレーザ光を照射している位置における温度検出を行うようにしてもよい。なお、例えば、レーザ光を照射していない位置は、レーザ光の照射が未実施の位置であってもよいし、レーザ光が照射された後の位置であってもよい。例えば、温度を二次元的に検出することで、樹脂体の全体の温度分布を把握した状態で照射条件を変更することができるため、より適切な照射条件を設定することができ、色ムラを抑制できる。また、例えば、レーザ光を照射して樹脂体を加熱する場合には、レーザ光の照射後に遅れて温度上昇をすることがある。温度を二次元的に検出することで、レーザ光の照射後の温度変化も捉えることが可能となるため、樹脂体の全体の温度分布を把握した状態で照射条件を変更することができるため、より適切な照射条件を設定することができ、色ムラを抑制できる。
【0039】
なお、例えば、樹脂体の温度を二次元的に検出し、レーザ光の照射条件を変更する構成の場合、制御手段は、予め設定された加熱温度と二次元的に検出された加熱温度とが略同じ程度となるようにレーザ光の照射条件の変更を行うようにしてもよい。また、例えば、制御手段は、樹脂体上において、二次元的に検出された検出結果を解析し、樹脂体上において、レーザ光の各照射位置間の温度差が所定の閾値を超えないように、レーザ光の照射条件の変更を逐次行うようにしてもよい。なお、所定の閾値は、予め、実験やシミュレーションによって求めることができる。
【0040】
なお、樹脂体の温度を二次元的に検出し、レーザ光の照射条件を変更する構成の場合、例えば、制御手段は、樹脂体上におけるレーザ光の各照射位置の温度が、目標温度(所望の温度)にむけて、可能な限り均一に温度が上昇するように、レーザ光の照射条件を変更することがより好ましい。本実施形態においては、樹脂体の温度を二次元的に検出することができるため、樹脂体の二次元領域全体の温度を考慮して、レーザ光の照射条件の設定を行うことができる。例えば、制御手段は、検出した二次元的な温度の検出結果(二次元温度分布)に基づいて、樹脂体の温度が目標の温度に向かって、均一に上昇するように、レーザ光の各照射位置における照射条件を変更していくようにしてもよい。もちろん、樹脂体の温度を二次元的に検出し、レーザ光の照射条件を変更する構成は、上記構成に限定されない。
【0041】
例えば、樹脂体上の二次元領域の温度を検出する構成として、温度検出手段は、少なくともサーモカメラを含む構成であってもよい。例えば、サーモカメラを用いることで、二次的に温度変化を検出することが容易となる。また、例えば、樹脂体上の二次元領域の温度を検出する構成として、複数の温度検出手段を設ける構成としてもよい。もちろん、樹脂体上の二次元領域の温度を検出する構成としては、上記に限定されない。
【0042】
なお、例えば、温度検出手段の検出結果に基づいてレーザ光の照射条件を変更する場合、温度検出手段による温度検出のタイミングにおいても任意のタイミングで実施するようにしてもよい。例えば、所定の回数(例えば、1回、2回等)のレーザ光の照射が完了する毎に検出するようにしてもよい。また、例えば、逐次、リアルタイムで検出していくようにしてもよい。もちろん、温度検出手段による温度検出のタイミングは上記構成に限定されない。
【0043】
なお、例えば、温度検出手段の検出結果に基づいてレーザ光の照射条件を設定する場合、レーザ光の照射条件の設定は、任意の検出結果に基づいて実施するようにしてもよい。例えば、所定の周期前(例えば、1回前、2回前等)に温度が検出された検出結果に基づいて、レーザ光の照射条件を設定するようにしてもよい。また、例えば、逐次、リアルタイムに検出された検出結果に基づいて、照射条件の設定を変更(更新)していくようにしてもよい。もちろん、温度検出手段の検出結果に基づくレーザ光の照射条件の設定は上記構成に限定されない。
【0044】
例えば、制御手段は、温度検出手段の検出結果に基づいて、レーザ光の照射条件を変更する場合、1回目(1周期目)のレーザ光の照射からレーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光の照射を行ってもよい。
【0045】
また、例えば、制御手段は、温度検出手段の検出結果に基づいて、レーザ光の照射条件を変更する場合、少なくとも2回目(1周期目)以降のレーザ光の照射からレーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光の照射を行ってもよい。この場合、例えば、制御手段は、1回目のレーザ光の照射からレーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光の照射を行ってもよい。また、この場合、例えば、制御手段は、樹脂体の二次元領域に対して、2回目以降のレーザ光の照射において、温度検出手段の検出結果に基づいて、レーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光を照射するようにしてもよい。このように、例えば、同一の照射条件にて1回目のレーザ光を照射した後の樹脂体の温度変化状態を検出して、2回目以降のレーザ光の照射条件を設定することができる。このため、樹脂体毎の温度変化の特性を検出することができ、特性に応じたレーザ光の照射条件を設定することができる。これによって、より色ムラを抑制した染色を行うことができる。
【0046】
なお、例えば、レーザ光の照射条件を変更する制御手段と、走査手段を制御する制御手段とが、別途設けられている構成であってもよい。もちろん、レーザ光の照射条件を変更する制御手段と、走査手段を制御する制御手段とが、兼ねられている構成であってもよい。
【0047】
<実施例>
以下、本実施例における染色装置の構成について説明する。例えば、図1は本開示のレーザ光を用いた染色方法に使用される染色システムの概略構成を示した図である。なお、本実施例においては、染色を行う樹脂体として、レンズを用いる場合を例に挙げて説明する。
【0048】
本実施例における染色システム10は、染色用基体作成装置100、真空気相転写機20、および染色装置30を備える。例えば、染色用基体作成装置100は、レンズ8に蒸着される昇華性の染料を、染色用基体1に付着させて、染料の付着した染色用基体1を作成するために用いられる。例えば、真空気相転写機20は、染色用基体1に塗布された染料を被染色物となるレンズ8に昇華性染料を蒸着(転写)するために用いられる。例えば、染色装置30は、染料が付着したレンズ8にレーザ光を照射し染色を行うために用いられる。
【0049】
<染色用基体作成装置>
例えば、染色用基体作成装置100は、後にレンズ8に蒸着される昇華性の染料を、染色用基体1に付着させることで、染料層を形成する。染色用基体1は、レンズ8の染色に用いられる染料を一旦保持する媒体である。
【0050】
本実施例の染色用基体作成装置100は、一例として、昇華性の染料が含有された液体のインクを、インクジェットプリンタ103を用いて染色用基体1に付着(本実施形態では印刷)させる。従って、染色用基体作成装置100は、作業者が所望する色合いの染料を、より正確に染色用基体1に付着させることができる。つまり、染色用基体1に付着させる染料の分量、色相、グラデーションの程度等の正確性が向上する。また、作業者は、染料を容易に取り扱うことができる。さらに、インクジェットプリンタ103を用いることで、使用する染料が削減される。本実施形態では、インクジェットプリンタ103によって印刷されたインクを乾燥させる工程が行われる。なお、本実施形態において、染料を印刷する方法として、インクジェットプリンタを用いる構成を例に挙げて説明したがこれに限定されない。レーザープリンタを用いて、印刷をすることで、染料を染色用基体に付着させる構成としてもよい。この場合、例えば、昇華性トナーを用いて、レーザープリンタによって、染料が染色用基体に付着される。
【0051】
例えば、染色用基体1は、インクジェットプリンタ103に使用可能な紙等の媒体に所定の形状にて染色用インクが塗布(出力)されたものである。なお、染色用基体1の熱の吸収効率を上げるために、裏面(印刷を行わない面)の全域が黒色となっているものが使用される。
【0052】
本実施例では、インクジェットプリンタ103の駆動制御に用いられる印刷データは、パーソナルコンピュータ(以下、「PC」という)102によって作成される。作業者は、例えば、PC102にインストールされたドローソフト等を用いることで、染色用基体1に付着させる染料(インク)の色相、彩度、明度、グラデーションの有無および程度等を容易に調整することができる。作業者は、PC102のメモリ、インクジェットプリンタ103のメモリ、USBメモリ等に印刷データ保存させることで、インクを同一の色合いで複数の染色用基体1に繰り返し付着させることもできる。また、作業者は、メーカー等によって予め作成された複数の印刷データの中から1つを選択し、インクジェットプリンタ103に印刷を実行させることも可能である。
【0053】
なお、インクジェットプリンタ103を用いずに染料を染色用基体1に付着させることも可能である。例えば、染料付着部10は、ディスペンサー(液体定量塗布装置)、ローラ等を駆動することでインクを染色用基体1に付着させてもよい。スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷等を使用することも可能である。また、染色用基体作成装置100を用いずに、作業者自身が筆またはローラ等を用いてインクを染色用基体1に付着させてもよい。
【0054】
また、本実施例では、少なくとも赤、青、黄の3色の染料が、インクジェットプリンタ103によって染色用基体1に付着される。染料は、昇華性を有し、且つ昇華時の熱に耐え得る必要がある。一例として、本実施形態では、キノフタロン系昇華性染料またはアントラキノン系昇華性染料が用いられる。
【0055】
<真空気相転写機>
例えば、真空気相転写機20は、染色用基体1に付着された染料を電磁波によって加熱することで、染料をレンズ8に向けて昇華させる。その結果、染料がレンズ8に蒸着される。なお、レンズ8には、後述する定着工程による染料の定着を容易にするための受容膜等、各種の層が形成されていてもよい。本実施形態の真空気相転写機20は、電磁波発生部21、ポンプ22、バルブ23および染色用治具200を備える。例えば、真空気相転写機20には、レンズ8や前述した染色用基体1等を出し入れするための図示無き開閉扉が設けられている。
【0056】
例えば、本実施例において、電磁波発生部21は、赤外線を発生させるハロゲンランプが使用されている。しかし、電磁波発生部21は、染色用基体1を加熱が可能なものであればこれに限るものではない。例えば、ハロゲンランプの代わりに、紫外線、マイクロ波等の他の波長の電磁波を発生させる構成を使用してもよい。
【0057】
例えば、電磁波発生部21は、電磁波を染色用基体1に照射することで、短時間で染料の温度を上昇させることができる。また、染色用基体1の染料を昇華させる場合、高熱となった鉄板等を染色用基体1に接触させることで染料を加熱することも考えられる。しかし、染色用基体1と鉄板等とを均一に(例えば、隙間無く)接触させることは難しい。接触状態が均一でなければ、染料が均一に加熱されずに色ムラ等が生じる可能性がある。これに対し、本実施形態の真空気相転写機20は、染色用基体1から離間した電磁波発生部21からの電磁波によって、染料を均一に加熱させることができる。
【0058】
例えば、染色用治具200は、染色用基体1とレンズ8が配置される載置台11を保持する。例えば、染色用治具200は載置台11に配置されたレンズ8(染色予定面)と染色用基体1(インク塗布面)とを非接触にて向き合うように保持する。すなわち、染色用基体1は、染料が付着した面がレンズ8に対向するように配置される。なお、染色用基体1の染料付着面とレンズ8の間の距離が狭すぎると、染料の昇華が十分に行われず、色ムラ等が生じる傾向がある。染色用基体1とレンズ8が接触して色ムラ等が生じる場合もある。また、染色用基体1の染料付着面とレンズ8の間の距離が広すぎると、昇華した染料が再度集結して色ムラが生じる可能性があり、蒸着される染料の濃度も薄くなる。従って、染色用基体1とレンズ8の間の距離を適切な距離(例えば、2mm~30mm)とすることが望ましい。
【0059】
例えば、ポンプ22は、真空気相転写機20の内部の気体を外部に排出し、真空気相転写機20の内部の気圧を低下させる。例えば、蒸着時における真空気相転写機20の内部の気圧は、30Pa~10KPa、より望ましくは、50Pa~500Pa程度とすればよい。すなわち、例えば、ポンプ22は、真空気相転写機20内をほぼ真空にさせるために使用することができる。例えば、バルブ23は、真空気相転写機20の内部空間の開放および閉鎖を切り替える。すなわち、例えば、バルブ23は、このバルブ23を開くことで、ポイプ22によって、ほぼ真空になった真空気相転写機20内に外気を入れ、大気圧に戻す際に用いることができる。
【0060】
<染色装置>
例えば、染色装置30は真空気相転写機20にて昇華性染料がついたレンズ8にレーザ光を照射して所定温度で加熱し、染料を定着、発色させるために用いられる。例えば、図2は染色システムにおいて、染料を樹脂体に定着させる染色装置の概略構成を示した図である。なお、本実施形態において、図2の紙面上における染色装置30の左右方向(水平方向)をX方向、図2の紙面上における染色装置30の奥行き方向(前後方向)をY方向、図2の紙面上における染色装置30の上下方向(鉛直方向)をZ方向、として説明する。
【0061】
例えば、染色装置30は、レーザ光を出射する装置本体31とステージ32からなる。装置本体31は、ステージ32、レーザ光源33、光スキャナ36、レンズ37、駆動機構38、制御部39、コントロール部40、メモリ41等を備える。
【0062】
例えば、レーザ光源33は、所定の波長のレーザ光を出射する。本実施例において、例えば、レーザ光源33は赤外域の波長のレーザ光を出射する。例えば、本実施例において、レーザ光源33は、波長10.2~10.8μmのCO2レーザ光を出射するこの波長は、赤外光であり、昇華性染料は、この波長の光をほとんど吸収しない。本実施例において、レンズ8の材料として、チオウレタン系やチオエポキシ系等の高い屈折率を持つ材料を使用している。本実施例において用いられるレンズ8の材料は、10.2~10.8μmの波長を50~100%程度吸収する。CO2レーザ光は、染料に吸収されにくく、レンズ8に吸収されるので、レンズ8の表面のみを加熱して、樹脂の高分子の分子構造を緩くして、高分子の分子構造が緩んだ部分に昇華性の分散染料を拡散させることにより、分散染料をレンズ8の表面に定着させることができる。
【0063】
なお、例えば、レーザ光源33としては、これに限定されない。本実施例において、例えば、レーザ光源33は、樹脂体(本実施形態においては、レンズ)の基材に吸収可能な赤外域の波長、または紫外域(近紫外を含む)の波長のレーザ光を出射するものであれば使用可能である。
【0064】
例えば、レーザ光源33から出射されたレーザ光は、光スキャナ36により折り曲げられた後、レンズ37を通過し集光される。例えば、本実施形態ではレーザ光源から直径2.0mm程度のレーザ光を出射する。なお、本実施形態ではレンズ37を通過した後、レンズ8の表面で直径約10mm~35mm程度となるようにデフォーカスされている。例えば、デフォーカスによるレンズ上のレーザ光の径は、これに限るものではなく、生産性や照射エネルギーを考慮して適宜決定させればよい。例えば、レンズ8上でレーザ光のスポット径が5mm以上50mm以下程度が好ましく、より好ましくは10mm以上40mm以下程度である。また、シリンドリカルレンズ等を用いてレーザ光をライン状に形成することも可能である。
【0065】
例えば、光スキャナ36は、レンズ8上で二次元的に(XY方向)にレーザ光を走査させる。本実施例において、例えば、光スキャナ36は、2つのガルバノミラーであり、その反射角度や走査速度が駆動機構38によって任意に調整される。なお、例えば、ガルバのミラーの反射角度の調整は、移動量と移動方向で調整される。例えば、駆動機構38の駆動によって移動され、その反射角度や走査速度は図示無き検出手段により常時検出されている。例えば、駆動機構38の駆動制御は、制御部39によって行われ、その制御情報(反射角度や走査速度)は、図示無きスイッチ類が用意されたコントロール部(条件設定部)40により設定される。このような構成により、レーザ光源33から出射されたレーザ光はその反射(進行)角度が変化され、レンズ8上で任意の位置に走査される。これにより、レンズ8上におけるレーザ光の照射位置が変更される。なお、光スキャナ36としては、光を偏向させる構成であればよい。例えば、反射ミラー(ガルバノミラー、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ)の他、光の進行(偏向)方向を変化させる音響光学素子(AOM)等が用いられる。
【0066】
例えば、デフォーカスされるレーザ光の照射先には、ステージ32が設置されている。例えば、ステージ32上には、載置台11が固定的に置かれ、昇華性染料が蒸着されたレンズ8がその蒸着面(染色予定面)を上向きにして置かれる。
【0067】
図2に示した染色装置30において、レンズ8に対するレーザ光の照射位置の加熱温度(レンズ表面温度)を非接触で検出(測定)するための温度検出手段となるサーモカメラ50が設けられている。例えば、サーモカメラ50を用いることによって、レンズ8の温度を二次元的に検出することができる。すなわち、レンズ8の二次元温度分布を検出することができる。
【0068】
例えば、サーモカメラ50は、レンズ8上におけるレーザ光の照射位置(加熱箇所)を斜め上方から検出できるように設置されている。より好ましくはサーモカメラ50の測定軸とレーザ光の光軸とが所定角度で交差するようにサーモカメラ50が設置され、この交差点がレンズ8上に位置するようにレンズ8の高さ位置が設定されているとよい。
【0069】
例えば、サーモカメラ50は、制御部39に接続されており、サーモカメラ50による加熱温度の検出結果は、制御部39に送信される。制御部39は受信した加熱温度の検出結果に基づいて、予め設定されている加熱温度が所定の範囲で維持できるように、レンズ8上のレーザ光の各照射位置に対してレーザ照射条件を適宜変更し、レーザ光源33から出射されるレーザ光の出力を制御する。レーザ光の各照射位置における目標とする加熱温度の設定はコントロール部40を用いて予め設定される。例えば、加熱温度の設定は被染色物である透明樹脂体(ここではレンズ)の材料を考慮して、レンズ8に染料を定着させることが可能な加熱温度に設定される。加熱温度の設定は樹脂材料にもよるが、染料の定着に必要な加熱温度であって染料の再昇華が生じ難い温度で設定される。このような加熱温度は、好ましくは100℃乃至200℃、より好ましくは110℃乃至180℃の範囲である。なお、設定される加熱温度によってはレンズ8に付いている染料の一部が昇華してしまう可能性があるが、レンズの染色予定面の全域において略同じ加熱温度が維持できるため、染料の昇華はレンズの照射位置によらず同じ程度となり色ムラの発生は抑制される。
【0070】
また、制御部39は、レンズ8のレーザ照射位置において設定された加熱温度によってレンズ10に染料が定着するのに必要な時間が十分与えられるように、光スキャナ36を駆動させる。なお、光スキャナ36による相対的なレーザ光の走査速度は、設定される加熱温度によらず固定であってもよいし、設定される加熱温度に対応付けて設定されてもよい。例えば、メモリ41に種々の樹脂材料に応じて異なる加熱温度や走査速度を設定するためのレーザ照射条件の情報を予め複数記憶させておき、レンズの種類(樹脂材料、レンズ形状、染色濃度、染色パターン、レンズ度数等)をコントロール部40にて指定することで対応するレーザ照射条件(例えば、加熱温度や走査速度)をメモリ41から呼び出して設定することもできる。
【0071】
なお、本実施例では設定された加熱温度を所定の範囲で維持できるようにレーザ光源33から出射されるレーザ光の出力を調整するものとしているが、これに限定されない。例えば、レーザ光の出力は一定とし、光学部材を用いてレーザ光のレンズ8上におけるデフォーカス状態を変化させたり、レーザ光をパルス状に照射させる等、他のレーザ照射条件を変更させることにより設定された加熱温度を維持できるようにするようにしてもよい。
【0072】
なお、レーザ光の反射光(散乱光)がサーモカメラ50に入射し検出結果に影響を及ぼす場合には、レーザ光の波長をカットし、他の波長を透過させるフィルタをサーモカメラ50の前方に設置するようにしてもよい。
【0073】
なお、本実施例において、温度検出手段(本実施例では、サーモカメラ50)を用いて、レーザ光の照射条件を変更する構成を例に挙げて説明しているがこれに限定されない。温度検出手段を用いることなく、レーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光の照射を行うようにしてもよい。この場合、例えば、レンズ情報に基づいて、レーザ光の照射条件を変更するようにしてもよい。
【0074】
レンズ情報に基づく、レーザ光の照射条件を変更について、より詳細に説明する。例えば、メモリ41には、レンズ情報と、好適に染色するために必要なレーザ照射条件(例えば、走査位置に基づいた出力条件、走査速度条件、走査パターン等)と、が予め対応付けされて記憶されている。例えば、レンズ情報としては、レンズの材料、レンズの種類(例えば、プラスレンズ、マイナスレンズ等)、色情報(染色濃度、染色パターン)、レンズの光学特性(例えば、球面度数、円柱度数、軸角度等)等の少なくともいずれかであってもよい。なお、例えば、レンズ情報に対するレーザ照射条件の対応付けは、シミュレーションや実験等によって、色ムラや黄変が生じづらく、良好に染色を行うことができるレーザ照射条件を算出することによって設定するようにしてもよい。
【0075】
例えば、染色装置30を用いてレンズ8を染色する場合には、染色しようとするプラスチックレンズの種類(レンズ情報)を、コントロール部40を用いて入力する。例えば、制御部39は入力されたレンズ情報に対応する設定情報(レーザ光照射条件)を記憶部41から呼び出し、呼び出された設定情報に基づいて、レーザ光源33や駆動機構38を制御する。
【0076】
なお、本実施例では、レーザ光を光スキャナ36によって走査する構成を例に挙げているがこれに限定されない。例えば、レンズ8側を移動させることにより、染色予定面に対してレーザ光を走査するようにしてもよい。この場合、例えば、ステージ32を移動可能とし、ステージ32を移動させることによって、レンズ8側を移動させるようにしてもよい。もちろん、レーザ光を走査する構成と、レンズ8側を移動させる構成と、の双方を用いて、レンズ8に対してレーザ光を走査する構成としてもよい。
【0077】
<染色方法>
以下、レンズ8の染色方法の一連の流れについて説明する。なお、本実施例に用いるレンズ8は、マイナス度数を持ったメニスカスレンズであり、レンズ周辺の厚みに対して中心付近の厚みが薄くなっているものとする。
【0078】
例えば、図2に示すように、レンズ8は、その表面に昇華性染料が均一に付着された状態で、昇華性染料が付着された面を上向きにして、載置台11に置かれる。次いで、レンズ8の昇華性染料付着面に、レーザ光を照射する。本実施例において、例えば、レーザ光はパワーが強いため、レーザ光をレンズ37を介することにより一旦集光させた後、レンズ8の表面でデフォーカスさせている。これにより、照射されるスポット光は広がりを持ち、光の密度が弱められている。また、図示なき検出手段を用いることにより、駆動機構38による光スキャナ36の駆動位置は常に制御部39に把握されており、載置台11上に置かれた既知の大きさのレンズ8に対するレーザ光の照射位置は検出可能となっている。
【0079】
なお、レーザ光によるレンズへの加熱によってレンズが変形してしまい、レンズ表面に歪が生じる可能性がある。このような歪みは、レンズ表面の各領域に対するレンズの厚みの違いによって生じる表面付近の除熱(放熱)の差(温度差)からくるものであると考えられる。例えば、色ムラを抑制するためにレンズ表面の加熱温度を一定にするようなレーザ光の加熱制御を行っていても、加熱後(レーザ光走査後)のレンズ表面の各領域の温度変化は、各領域に対応するレンズの厚みによって異なる。
【0080】
例えば、レンズの厚みが薄い部分(領域)とレンズの厚みが厚い部分(領域)とでは、加熱後の温度低下の速度に差がある。このため、レンズ周辺領域の厚みと中心付近の厚みが異なっているレンズの場合に、レンズ上の温度差がより大きくなり歪が生じやすいと考えられる。なお、レンズの厚みが均一の場合には、レンズ内で温度差は生じるものの、その温度差は小さいと考えられる。
【0081】
したがって、レーザ光をレンズに対して相対的に走査しレンズ表面に対して加熱部分(領域)を継時的に変更しながら加熱を行う場合、レンズ表面における加熱中のある部分の温度と、直前まで加熱されていた部分であって除熱し始めている他の部分の温度との差が小さくなるように、レーザ光の走査を行う必要がある。
【0082】
本実施例において、走査パターンとしては、螺旋スキャン(螺旋状の走査パターン)が設定される。すなわち、本実施例において、例えば、本実施例において、レーザ光を照射した際に、制御部39は、レーザ光を螺旋状にレンズ8に対して相対的に走査する。例えば、制御部39は、駆動機構38を駆動し、光スキャナ36を制御することによって、レーザ光を螺旋状にレンズ8に対して走査する。
【0083】
例えば、本実施例において、サーモカメラ50によって、レンズ8上の温度を二次元的に検出する。例えば、制御部39は、検出した二次元的温度分布に基づいて、予め設定されている加熱温度が所定の範囲で維持できるようにレーザ照射条件を適宜変更し、レーザ光源33から出射されるレーザ光の出力を制御する。なお、レーザ光の各照射位置における目標とする加熱温度の設定はコントロール部40を用いて設定される。
【0084】
例えば、本実施例において、制御部39は、レンズ8上の二次元領域に対して、レーザ光を複数回繰り返し照射することによって、表面に染料が付着されたレンズ8を加熱し、染料をレンズ8に定着させる。例えば、制御部39は、レンズ8の二次元領域に対して、2回目以降のレーザ光の照射において、サーモカメラ50の検出結果に基づいて、レーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光を照射する。すなわち、例えば、制御部39は、初めに、レンズ8の二次元領域として染色予定面に対して、レーザ光の照射条件を変更せず、同一の照射条件にて、レーザ光の1回目(1周期眼)のレーザ光の照射(プレ照射)を行う。なお、例えば、レーザ光のプレ照射は、染色予定面の全領域に対して行われる。例えば、制御部39は、その後の周期(2周期目以降)のレーザ光の照射において、サーモカメラ50の検出結果に基づいて、レーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光を照射する。
【0085】
より詳細に説明する。図3は、レーザ光の照射について説明する図である。図3に示すように、例えば、制御部39は、螺旋状の走査パターンSに沿って、光スキャナ36を制御し、レーザ光をXY方向に制御しながら、レンズ8の染色予定面(本実施例においては、全領域)に対するレーザ光の照射を行う。
【0086】
本実施例においては、複数回の繰り返し照射において、二次元領域として、同一の走査領域(照射領域)に対して、レーザ光の走査を繰り返し行う。例えば、制御部39は、同一の走査領域に対して、光スキャナ36を用いて複数回のレーザ光の照射を行う。もちろん、同一の走査領域とは、完全に同一な走査領域である必要はなく、略同一の走査領域で走査されるものであってもよい。
【0087】
例えば、制御部39は、1回目のレーザ光の照射が完了すると、1回目と同一の走査領域で2回目のレーザ光の照射を行う。例えば、制御部39は、図3に示す走査パターンSに沿ってレーザ光を照射させた後、再びレーザ光を照射させる。
【0088】
例えば、制御部39は、1回目の照射中にサーモカメラ50によって、所定のタイミングで、二次元的に温度を検出する。なお、所定のタイミングは、任意に設定することができる。例えば、サーモカメラ50は、逐次、レンズ8の温度をリアルタイムに検出するようにしてもよいし、各回(各周期)のレーザ光の照射が完了したタイミングでレンズ8の温度を検出するようにしてもよい。例えば、制御部39は、2回目以降のレーザ光の照射時において、サーモカメラ50によって検出された検出結果に基づいて、レーザ光の照射条件を変更しながら、走査パターンSに沿って、レーザ光の照射を行う。なお、本実施例においては、1回目のレーザ光の照射(プレ照射)においては、照射条件を変更することなく、レーザ光の照射を行う。
【0089】
なお、本実施例において、プレ照射を1回行う構成を例に挙げているがこれに限定されない。例えば、プレ照射は、任意の回数実施するようにしてもよい。一例として、例えば、制御部39は、同一の照射条件にて、20回のプレ照射を行うようにしてもよい。
【0090】
例えば、レーザ光源33から出射されたレーザ光は、レンズ37により集光した後、デフォーカスな状態でレンズ8に照射される。照射されるレーザ光によりレンズ8の一部が加熱されると赤外線が発生する。例えば、サーモカメラ50は、レンズ8に生じているレーザ光照射位置における特定波長の赤外光の強度を検出し、加熱温度を検出する。
【0091】
例えば、サーモカメラ50による検出結果は、制御部39に送信される。制御部39は受信した加熱温度の検出結果に基づいて、予め設定されている加熱温度が所定の範囲で維持できるようにレーザ照射条件を適宜変更し、レーザ光源33から出射されるレーザ光の出力を制御する。目標とする加熱温度の設定はコントロール部40を用いて予め設定される。例えば、加熱温度の設定はレンズ8の材料を考慮して、レンズ8に染料を定着させることが可能な加熱温度に設定される。加熱温度の設定は樹脂材料にもよるが、染料の定着に必要な加熱温度であって染料の再昇華が生じ難い温度で設定される。このような加熱温度は、好ましくは100℃乃至200℃、より好ましくは110℃乃至180℃の範囲である。なお、設定される加熱温度によってはレンズ8に付いている染料の一部が昇華してしまう可能性があるが、レンズの染色予定面の全域において略同じ加熱温度が維持できるため、染料の昇華はレンズの照射位置によらず同じ程度となり色ムラの発生は抑制される。
【0092】
なお、例えば、レンズ情報の取得は、制御部39が別装置によって取得されたレンズ情報を受信手段によって受信することによって取得する構成としてもよい。また、例えば、レンズ情報の取得は、制御部39が検者によってコントロール部40を用いて入力されたレンズ情報を受信することによって取得する構成としてもよい。
【0093】
図4は、1回目のレーザ光が照射された後のサーモカメラ50による二次元的な温度検出結果の一例を示す図である。図4に示すように、例えば、サーモカメラ50によって、二次元温度分布Pが取得される。図4において、ハッチングが濃くなっているほど、温度が高いことを示している。例えば、図4において、中心領域に向かうほど温度が高くなっている。例えば、1回目のレーザ光の照射においては、同一の照射条件にてレーザ光を照射している。このため、レンズ8の中心領域P1に向かうにつれて、レンズの厚みが薄くなるため、温度が上昇しやすい。このため、周辺領域P2に対して、中心領域P1の温度が高くなっている。
【0094】
例えば、制御部39は、二次元温度分布Pを受信し、二次元温度分布Pに基づいて、レーザ光の照射条件を適宜変更する。例えば、制御部39はコントロール40にて予め設定された加熱温度と、二次元温度分布Pのおける加熱温度とが略同じ程度となるようにレーザ光源33を制御してレーザ光の出力の調整を逐次行う。また、例えば、制御部39は、レンズ8上において、二次元温度分布Pを解析し、レンズ8上において、レーザ光の各照射位置間の温度差が所定の閾値を超えないように、レーザ光源33を制御してレーザ光の出力の調整を逐次行う。なお、所定の閾値は、予め、実験やシミュレーションによって求めることができる。
【0095】
なお、例えば、制御部39は、レンズ8上におけるレーザ光の各照射位置の温度が目標温度にむかって可能な限り均一に温度が上昇するように、レーザ光の照射条件を変更することがより好ましい。本実施例においては、レンズ8の二次元温度分布Pを検出することができるため、レンズ8の染色予定面の領域全体の温度を考慮して、レーザ光の照射条件の設定を行うことができる。例えば、制御部39は、検出した二次元温度分布Pに基づいて、樹脂体の全体の温度が目標の温度に向かって、均一に上昇するように、レーザ光源33を制御してレーザ光の出力の調整を逐次行う。
【0096】
本実施例において、制御部39は、レーザ光源33から出射されるレーザ光の出力を制御する。なお、本実施例において、制御部39は、1回目のレーザ光の照射が完了したタイミングでの温度の検出結果に基づいて、2回目のレーザ光の照射条件の設定を行う。また、本実施例において、制御部39は、2回目のレーザ光の照射が完了したタイミングでの温度の検出結果に基づいて、3回目のレーザ光の照射条件の設定を行う。すなわち、本実施例において、例えば、制御部39は、2回目以降のレーザ光の照射においては、各回(各周期)のレーザ光の照射が完了したタイミングでサーモカメラ50によって検出された二次元温度分布の取得と、その検出結果に基づくレーザ光の照射条件の設定と、のフィードバック制御を繰り返し行っていく。
【0097】
もちろん、上記フィードバック制御を行うタイミングは上記構成に限定されない。フィードバック制御は任意のタイミングで実施するようにしてもよい。一例として、リアルタイムでフィードバック制御を行うようにしてもよい。この場合、例えば、サーモカメラ50は、逐次、リアルタイムに二次元的に温度を検出し、検出した検出結果に基づいて、逐次、レーザの照射条件をリアルタイムで変更(所定の周期でのレーザ照射中において変更を含む)していくようにしてもよい。
【0098】
なお、本実施例においては、照射条件の変更として、レーザ光源から出射されるレーザ光の出力を調整するものとしているが、これに限るものではない。例えば、光学部材を用いてレーザ光のレンズ8上におけるデフォーカス状態を変化させたり、レーザ光をパルス状に照射させたり、走査速度を変更することでレーザの照射位置における照射時間を変更させたり等、他のレーザ照射条件を変更させることにより設定された加熱温度を維持できるようにすることも可能である。
【0099】
以上のように、例えば、本実施例において、染色装置は、レーザ光を表面に染料が付着された樹脂体に向けて照射するレーザ光照射手段と、レーザ光照射手段により照射されるレーザ光を樹脂体に対して相対的に走査するための走査手段と、走査手段を制御し、樹脂体上におけるレーザ光の照射位置を変更する制御手段と、を備える。また、制御手段は、樹脂体上の二次元領域に対して、レーザ光を複数回繰り返し照射することによって、表面に染料が付着された樹脂体を加熱し、染料を樹脂体に定着させるようにしてもよい。このような構成によって、例えば、本実施例における染色装置は、二次元領域に全体に対して繰り返し加熱を行うことになるため、樹脂体上における加熱温度のばらつきを抑制することができ、色ムラを抑制した染色を行うことができる。
【0100】
また、例えば、制御手段は、樹脂体上の二次元領域に対して、レーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光を複数回繰り返し照射することによって、表面に染料が付着された樹脂体を加熱し、染料を樹脂体に定着させるようにしてもよい。このような構成によって、例えば、温度の高低(温度が高い、温度が低い等)、温度変化のしやすさ(温度が変化しやすい、温度が変化しづらい等)等の樹脂体の状態を考慮したレーザ光の照射が可能となるため、樹脂体上における加熱温度のばらつきをより抑制することができる。これによって、容易に色ムラを抑制した染色を行うことができる。
【0101】
また、例えば、染色装置は、樹脂体の温度を検出する温度検出手段を備えるようにしてもよい。この場合、例えば、制御手段は、樹脂体上の二次元領域に対して、温度検出手段の検出結果に基づいて、レーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光を複数回繰り返し照射することによって、表面に前記染料が付着された樹脂体を加熱し、染料を樹脂体に定着させるようにしてもよい。このような構成によって、例えば、レーザ光の照射中において、樹脂体上の温度が想定していた温度となっていない場合であっても、実際の温度状態を把握しながら、レーザ光の照射を行うことができるため、温度変化に合わせたレーザ光の照射が可能となる。これによって、樹脂体上における温度のばらつきをより抑制することができるため、より色ムラを抑制した樹脂体の染色を行うことができる。
【0102】
また、例えば、温度検出手段は、樹脂体の温度を二次元的に検出するようにしてもよい。このように、例えば、温度を二次元的に検出することで、樹脂体の全体の温度分布を把握した状態で照射条件を変更することができるため、より適切な照射条件を設定することができ、色ムラを抑制できる。また、例えば、レーザ光を照射して樹脂体を加熱する場合には、レーザ光の照射後に遅れて温度上昇をすることがある。温度を二次元的に検出することで、レーザ光の照射後の温度変化も捉えることが可能となるため、樹脂体の全体の温度分布を把握した状態で照射条件を変更することができるため、より適切な照射条件を設定することができ、色ムラを抑制できる。
【0103】
また、例えば、温度検出手段は、少なくともサーモカメラを含むようにしてもよい。例えば、サーモカメラを用いることで、二次的に温度変化を検出することが容易となる。
【0104】
また、例えば、制御手段は、樹脂体の二次元領域に対して、2回目以降のレーザ光の照射において、温度検出手段の検出結果に基づいて、レーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光を照射するようにしてもよい。このような構成によって、例えば、同一の照射条件にて1回目のレーザ光を照射した後の樹脂体の温度変化状態を検出して、2回目以降のレーザ光の照射条件を設定することができる。このため、樹脂体毎の温度変化の特性を検出することができ、特性に応じたレーザ光の照射条件を設定することができる。これによって、より色ムラを抑制した染色を行うことができる。
【0105】
なお、本実施例ではレンズ面に染料を載せる(塗布する)方法として真空中にて昇華性染料を加熱してレンズに染料を蒸着させる方法を用いたが、これに限るものではない。例えば、大気圧中にて昇華性染料を昇華させ、レンズ面に蒸着させても良い。また、例えば、スピンコート法等にてレンズ面に染料を塗布することも可能である。例えば、スピンコート法によってレンズ面に染料を塗布する場合、染料を含む親水性樹脂をスピンコートすることによって、レンズ面に染料を含む親水性樹脂の膜を形成してもよい。
【0106】
以下、実験例を示して本開示を具体的に説明するが、本開示は、下記実験例に制限されるものではない。以下の実験例1では、樹脂体に対して、レーザ光を複数回螺旋状に相対的に走査し、表面に染料が付着された樹脂体を加熱して染料を樹脂体に定着させた。また、実験例2では、実験例1の制御に加え、温度検出手段によって樹脂体の温度を二次元的に検出し、検出結果に基づいてレーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光の照射を行った。実験例で得られた染色された樹脂体の歪、樹脂体上の温度差、染色の品質、をそれぞれ評価した。
【0107】
<実験例1>
紙厚が100μmの染色用基体(上質PPC用紙)に、PCのドローソフトを用いて、プリンタ(EPSON PX-6250S)によって着色層を印刷して、染料を付着させた。印刷に使用した昇華性インキはニデック社製の分散染料(水性)を使用し、色相はグレイ色(配合比赤:青:黄=153:80:250)に決定した。以上のようにして、染色用基体を製造した。
【0108】
このようにして得た染色用基体用いて染色を行った。治具に染色用基体とMR8レンズ(S-0.00)を取り付けて、真空気相転写機(ニデック製 TTM-1000)に入れて、MR8レンズへの染料の蒸着作業を行った。この時の条件は、MR8レンズの染色面側と染色用基体との距離は5mmとした。ポンプにて真空気相転写機内の気圧を0.5kPaまで下げた後、加熱ユニット(本実験例ではハロゲンランプを使用)にて染色用基体の表面温度を225℃まで加熱させた。なお、MR8レンズの屈折率は、1.60である。温度センサにより染色用基体の付近の温度を測定し、225℃到達と同時にハロゲンランプの電源を切り、染料を昇華、付着させた。
【0109】
染料が付着されたMR8レンズを染色装置(レーザコヒーレント社製 GEM-30A)のステージにセットした。染色装置には、サーモカメラ(Heimann製 HTPA80×64dR2L10.5/0.95F7.7HiA)が設置されている。染色装置の2つのガルバノミラーを制御して、MR8レンズに対して、レーザ光を螺旋状に走査させてMR8レンズに染料を定着させた。レーザ光の照射において、60回(周期)のレーザ光の照射を行った。
【0110】
螺旋状に走査する際、MR8レンズに対して、2mmずつ走査半径が狭くなるように内側に移動させながら、MR8レンズの全領域にレーザ光が照射されるように螺旋状の走査を行った。なお、この時のレーザ光の照射条件としては、レーザ光源から直径2.0mm程度のレーザ光を出射して、ガルバノミラーを用いて、レーザ光を曲げ、その後、fθレンズ(焦点距離:100mm)を通過させ、レンズまでの距離を300mmとし、デフォーカスさせることにより、MR8レンズ上で直径約22mmのスポット径となるように照射した。なお、レーザ光の照射条件は、MR8レンズの各部での表面温度が175℃となるように設定し、レーザ光の出力は30Wとして一定と、周辺領域の走査速度を500mm/min、中心領域(MR8レンズの半径30mmの中心領域)の走査速度を750mm/minとした。
【0111】
上記のようにして、染色されたMR8レンズについて評価した。なお、下記についても同様の評価をした。結果は表1に示した。
【0112】
[レンズの歪評価]
染色されたMR8レンズについて、染色されたMR8レンズの形状の変化を目視にて確認し、歪が生じていないかを確認した。
大きく歪が生じた:×
ほとんど歪が生じていない:○
[温度差評価]
レーザ光の照射がすべて完了した時点におけるレンズに対して、サーモカメラを用いてレンズの二次元温度分布を検出した。検出した二次元温度分布において、レンズの中心位置と4つの周辺位置(レンズの右上、左上、右下、左下)とにおける温度をそれぞれ確認し、温度差が所定の閾値(本実験例では50℃に設定)を超えているか否かを確認した。
温度差が閾値を超えている:×
温度差が閾値内である:◎
[染色の品質評価]
染色されたMR8レンズについて、染色されたMR8レンズの形状の色ムラを目視にて確認し、色ムラが生じていないかを確認した。
色ムラが見られる:×
ほとんど色ムラが見らない:○
色ムラが見られない:◎
【0113】
<実験例2>
染色装置におけるレーザ光の照射方法をサーモカメラを用いた照射方法に変更した以外は、実施例1と同様にして染色されたMR8レンズの評価をした。結果は表1に示した。レーザ光の照射において、初めに、実験例2では、レーザ光の照射において、20回(周期)のプレ照射を行った。プレ照射において、螺旋状に走査する際、MR8レンズに対して、2mmずつ走査半径が狭くなるように内側に移動させながら、MR8レンズの全領域にレーザ光が照射されるように螺旋状の走査を行った。なお、この時のレーザ光の照射条件としては、レーザ光源から直径2.0mm程度のレーザ光を出射して、ガルバノミラーを用いて、レーザ光を曲げ、その後、fθレンズ(焦点距離:100mm)を通過させ、レンズまでの距離を300mmとし、デフォーカスさせることにより、MR8レンズ上で直径約22mmのスポット径となるように照射した。なお、レーザ光の照射条件は、MR8レンズの各部での表面温度が175℃となるように設定し、レーザ光の出力は30Wとして一定と、周辺領域の走査速度を500mm/min、中心領域(MR8レンズの半径30mmの中心領域)の走査速度を750mm/minとした。なお、20回のプレ照射においては、上記のレーザ光の照射条件を変更することなく、同一の照射条件にて、レーザ光の照射を繰り返し行った。プレ照射が完了した後、続けて、40回のレーザ照射を行った。プレ照射完了後のレーザ光の照射おいては、サーモカメラによって、MR8レンズの表面温度を二次元的に検出し、検出結果に基づいて、レーザ光の各照射位置における出力条件の設定を行い、設定した出力の調整を逐次行いながらレーザ光の照射を行った。サーモカメラによる温度検出は、1回の走査が完了する毎に実施した。また、1回のレーザ光の照射が完了する毎に、検出したサーモカメラによる温度検出結果に基づいて、次の周期のレーザ光の出力条件の設定を行った。本実験例において、レーザ光の出力条件としては、予め設定された目標の加熱温度(本実験例においては、197℃)と、サーモカメラによって二次元的に検出された各照射位置における加熱温度とが略同じ程度となる、且つ、レーザ光の各照射位置間の温度差が所定の閾値(本実験例においては、50℃)を超えないような出力条件が設定されるようにした。
【0114】
【表1】
【0115】
(結果)
表1に示すように、実施例1から、レンズに対して、レーザ光を複数回螺旋状に相対的に走査し、表面に染料が付着されたレンズを加熱して染料を樹脂体に定着させた場合に、レンズの歪を抑制しつつ、レンズにおける加熱温度のばらつきをより抑制することができ、色ムラを抑制した染色を行うことができることが示された。
【0116】
また、実験例2から、実験例1の制御に加え、温度検出手段によって樹脂体の温度を二次元的に検出し、検出結果に基づいてレーザ光の照射条件を変更しながら、レーザ光の照射を行うことで、実験例1よりもさらに、レンズにおける加熱温度のばらつきをより抑制することができることが示された。すなわち、より色ムラを抑制した染色を行うことができることが示された。
【符号の説明】
【0117】
1 染色用基体
8 レンズ
20 真空気相転写機
30 染色装置
32 ステージ
33 レーザ光原
36 光スキャナ
38 駆動機構
39 制御部
40 コントロール部
41 メモリ
100 染色用基体作成装置
図1
図2
図3
図4