(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】保護機構を有するモータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/024 20160101AFI20240409BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240409BHJP
H02P 29/68 20160101ALI20240409BHJP
【FI】
H02P29/024
H02M7/48 M
H02P29/68
(21)【出願番号】P 2019226651
(22)【出願日】2019-12-16
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】田内 宏直
(72)【発明者】
【氏名】益田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 正人
(72)【発明者】
【氏名】永井 宏和
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-142115(JP,A)
【文献】特開平11-341883(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030031(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/024
H02M 7/48
H02P 29/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源から供給された電力をモータを駆動するための交流電力に変換して出力する主電力変換回路と、
前記主電力変換回路の交流出力側と前記モータとの間に設けられる逆起電力保護回路であって、前記モータの逆起電力に基づく交流電力を整流して直流電力を出力する整流部と、前記整流部の直流出力側の端子間を短絡する短絡部と、異常発生時にアラーム信号を出力するアラーム信号出力部と、を有する逆起電力保護回路と、
前記アラーム信号出力部から前記アラーム信号が出力されたか否かを監視する監視部と、
前記監視部により前記アラーム信号出力部から前記アラーム信号が出力されたと判定された場合、前記主電力変換回路の損傷を防ぐための保護動作を実行する保護動作部と、
を備え、
前記アラーム
信号出力部は、前記短絡部内のスイッチ機構の接点故障である第1の異常を示すアラーム信号、前記逆起電力保護回路内の部品の異常発熱である第2の異常を示すアラーム信号、及び前記短絡部へ駆動電力を供給する制御電源の故障である第3の異常を示すアラーム信号のうちのいずれかを出力し、
前記監視部は、前記アラーム信号出力部から出力された前記アラーム信号に基づき、前記逆起電力保護回路で発生した異常の内容が、前記第1の異常、前記第2の異常、及び前記第3の異常のうちのいずれであるかを判別する、モータ駆動装置。
【請求項2】
前記監視部により判別された前記異常の内容を記録する記録部をさらに備える、請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記監視部により判別された前記異常の内容を表示する表示部をさらに備える、請求項1または2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記監視部により判別された前記異常の内容を外部装置に記録または表示させるよう制御する外部装置制御部をさらに備える、請求項1~3のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記保護動作部は、前記監視部により前記アラーム信号出力部から前記アラーム信号が出力されたと判定された場合、前記モータの加減速度が、前記監視部による当該判定前のときの値よりも小さい値になるよう前記主電力変換回路による電力変換動作を制御する、請求項1~4のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記保護動作部は、前記監視部により前記アラーム信号出力部から前記アラーム信号が出力されたと判定された場合、前記モータに対する励磁をオフする制御を実行する、請求項1~4のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【請求項7】
前記主電力変換回路は、
交流入力側から供給された交流電力を直流電力に変換して直流出力側であるDCリンクへ出力するコンバータと、
前記DCリンクに設けられるDCリンクコンデンサと、
前記DCリンクにおける直流電力を前記モータの駆動のための交流電力に変換して出力するインバータと、
を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護機構を有するモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械、鍛圧機械、射出成形機、産業機械、あるいは各種ロボット内のモータの駆動を制御するモータ駆動装置においては、電源から供給された電力から変換された交流電力にてモータを駆動している。モータを駆動するための交流電力を生成する主電力変換回路は、例えばコンバータ及びインバータを有する。より詳しくは、交流電源から供給された交流電力をコンバータにて直流電力に変換してDCリンクへ出力し、さらにインバータにてDCリンクにおける直流電力を交流電力に変換して、この交流電力をモータ駆動電力としてモータに供給している。ここで、「DCリンク」とは、コンバータの直流出力側とインバータの直流入力側とを電気的に接続する回路部分のことを指し、「DCリンク部」、「直流リンク」、「直流リンク部」、「直流母線」あるいは「直流中間回路」などとも別称されることもある。DCリンクには、DCリンクコンデンサが設けられる。
【0003】
モータ駆動装置、モータ駆動装置が設けられた機械、またはモータ駆動装置に電力を供給する交流電源などに異常が発生すると、モータ駆動装置はモータを緊急停止させる。その際、モータには逆起電力に基づくエネルギーが発生する。モータで発生したエネルギーは、交流電源へ回生されたり、DCリンクに設けられた回生用負荷(回生用抵抗)へ回生される。しかしながら、モータが大型であったりあるいはモータが高速で回転していた場合は、モータを緊急停止させる際に発生する逆起電力に基づくエネルギーは非常に大きなものとなり、当該エネルギーを交流電源または回生用負荷へ回生できない。よって何らかの対策が必要である。
【0004】
例えば、位置指令とサーボモータの有する回転角度位置検出器から送信される回転角度位置情報に応じて電流を指令する電流指令手段(102、104)と、該電流指令を受けてPWM信号を発生させる電流制御手段(106)と、該PWM信号を受信して前記サーボモータへ通電する駆動電流を制御する通電制御手段(110、112、114、116、118、120)と、該駆動電流を検出する電流検出手段(124、126)と、該検出された駆動電流情報と前記サーボモータの回転角度位置情報とを受けて前記駆動電流の位相が該回転角度位置と対応しているか否かを判定すると共に対応していない場合には前記PWM信号を遮断する位相監視手段(28)とを具備し、前記電流制御手段は前記電流指令の他前記駆動電流情報とを受けて前記PWM信号を発信させることを特徴とする異常電流に対するサーボシステム保護装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
例えば、モータに駆動電力を供給するモータ駆動回路であって、第1の入力に基準電圧が印加された差動増幅器と、該差動増幅器と前記モータ間に接続され、且つ前記モータ側が前記差動増幅器の第2の入力に接続された抵抗とからなり、前記モータに所定電圧の電力を供給するよう動作するモータ駆動回路に於いて、前記抵抗による降下電圧値を検出し、該降下電圧値が所定電圧値を越えた場合にモータに過電流が流れていることを示す信号を出力する過電流検出回路を設けたことを特徴とするモータ駆動回路が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
例えば、電源投入時に複数の検出器用受信回路の送信側接続状態を検出して実際に接続されている検出器型名を自動判別し、パラメータで指定された検出器タイプと実際に接続されている検出器が異なる場合にはパラメータ異常アラームを発生することを特徴とするサーボ制御システムの異常検出・診断方法が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平01-185186号公報
【文献】特開平09-103088号公報
【文献】特開2004-103031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
モータを緊急停止させる際に発生する逆起電力に基づくエネルギーが大きいと、交流電源や回生用負荷にエネルギーを回生しきれず、DCリンク電圧が大幅に上昇する。このため、逆起電力に基づくエネルギーを消費する逆起電力保護回路が設けられることがある。しかしながら、逆起電力保護回路が設けられた場合であっても、逆起電力保護回路が故障していると逆起電力に基づくエネルギーを消費しきれず、DCリンク電圧が大幅に上昇する。DCリンク電圧がDCリンクコンデンサの耐圧を超えると、DCリンクコンデンサが破損しこれにより主電力変換回路自体も破損するので非常に危険である。したがって、逆起電力保護回路の異常発生に起因するDCリンクコンデンサ及び主電力変換回路の破損を防ぐことができるモータ駆動装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様によれば、モータ駆動装置は、電源から供給された電力をモータを駆動するための交流電力に変換して出力する主電力変換回路と、主電力変換回路の交流出力側とモータとの間に設けられる逆起電力保護回路であって、モータの逆起電力に基づく交流電力を整流して直流電力を出力する整流部と、整流部の直流出力側の端子間を短絡する短絡部と、異常発生時にアラーム信号を出力するアラーム信号出力部と、を有する逆起電力保護回路と、アラーム信号出力部からアラーム信号が出力されたか否かを監視する監視部と、監視部によりアラーム信号出力部からアラーム信号が出力されたと判定された場合、主電力変換回路の損傷を防ぐための保護動作を実行する保護動作部とを備え、アラーム信号出力部は、短絡部内のスイッチ機構の接点故障である第1の異常を示すアラーム信号、逆起電力保護回路内の部品の異常発熱である第2の異常を示すアラーム信号、及び短絡部へ駆動電力を供給する制御電源の故障である第3の異常を示すアラーム信号のうちのいずれかを出力し、監視部は、アラーム信号出力部から出力されたアラーム信号に基づき、逆起電力保護回路で発生した異常の内容が、第1の異常、第2の異常、及び第3の異常のうちのいずれであるかを判別する。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によれば、逆起電力保護回路の異常発生に起因するDCリンクコンデンサ及び主電力変換回路の破損を防ぐことができるモータ駆動装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一実施形態によるモータ駆動装置を示す図である。
【
図2】三相フルブリッジ回路からなるコンバータ及びインバータを有する主電力変換回路の一例を示す回路図である。
【
図3】本開示の一実施形態によるモータ駆動装置における逆起電力保護回路の動作を説明する図である。
【
図4】本開示の一実施形態によるモータ駆動装置におけるアラーム信号出力部が出力するアラーム信号を例示する図である。
【
図5】本開示の一実施形態によるモータ駆動装置の動作フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下図面を参照して、保護機構を有するモータ駆動装置について説明する。理解を容易にするために、これらの図面は縮尺を適宜変更している。図面に示される形態は実施をするための一つの例であり、図示された実施形態に限定されるものではない。
【0013】
図1は、本開示の一実施形態によるモータ駆動装置を示す図である。また、
図2は、三相フルブリッジ回路からなるコンバータ及びインバータを有する主電力変換回路の一例を示す回路図である。
【0014】
一例として、モータ駆動装置1により、モータ3を制御する場合について示す。本実施形態においては、モータ3の種類は特に限定されず、例えば誘導モータであっても同期モータであってもよい。また、モータ3の相数は、例えば三相であっても単相であってもよい。図示の例では、モータ3を三相としている。モータ3が設けられる機械には、例えば工作機械、ロボット、鍛圧機械、射出成形機、産業機械、各種電化製品、電車、自動車、航空機などが含まれる。
【0015】
図1に示すように、本開示の一実施形態によるモータ駆動装置1は、主電力変換回路11と、逆起電力保護回路12と、監視部15と、保護動作部13とを備える。また、モータ駆動装置1は、モータ制御部14と、記録部16と、表示部17と、外部装置制御部18とを備える。
【0016】
主電力変換回路11は、電源から供給された電力を交流電力に変換し、この交流電力をモータ3を駆動するための電力として出力する。
図1に示す例では、主電力変換回路11は、コンバータ21と、インバータ22と、DCリンクコンデンサ23とを有する。
【0017】
コンバータ21の交流入力側には、交流電源2が接続される。交流電源2の相数は、例えば三相であっても単相であってもよい。交流電源2の一例を挙げると、三相交流400V電源、三相交流200V電源、三相交流600V電源、単相交流100V電源などがある。
図1及び
図2に示す例では、交流電源2を三相としている。なお、コンバータ21と交流電源2との間には、交流リアクトル、ACラインフィルタ、電磁接触器、ブレーカなどが設けられることがあるが、ここでは図示を省略している。
【0018】
コンバータ21は、交流入力側から入力された交流電力を直流電力に変換して直流出力側であるDCリンクへ出力する整流器である。
図1及び
図2に示す例では、交流電源2を三相交流電源としたので、コンバータ21は三相フルブリッジ回路で構成される。交流電源2から単相交流電力が供給される場合は、コンバータ21は単相ブリッジ回路として機能する。コンバータ21の例としては、ダイオード整流器、120度通電方式整流器、及びPWMスイッチング制御方式整流器などがある。
図2の示す例では、ダイオードのフルブリッジ回路からなるダイオード整流器を示している。また例えば、コンバータ21が120度通電方式整流器及びPWMスイッチング制御方式整流器である場合は、スイッチング素子及びこれに逆並列に接続されたダイオードのフルブリッジ回路からなり、モータ制御部14から受信した駆動指令に応じて各スイッチング素子がオンオフ制御されて交直双方向に電力変換を行う。コンバータ21が120度通電方式整流器及びPWMスイッチング制御方式整流器である場合におけるスイッチング素子の例としては、IGBT、FET、サイリスタ、GTO(Gate Turn-OFF thyristor:ゲートターンオフサイリスタ)、トランジスタなどがあるが、その他の半導体素子であってもよい。
【0019】
コンバータ21の直流出力側とインバータ22の直流入力側とを接続するDCリンクには、DCリンクコンデンサ23が設けられる。DCリンクコンデンサ23は、インバータ22が交流電力を生成するために用いられる直流電力を蓄積する機能及びコンバータ21の直流出力の脈動分を抑える機能を有する。DCリンクコンデンサ23の例としては、例えば電解コンデンサやフィルムコンデンサなどがある。なお、DCリンクには、モータからの回生エネルギーを消費するための回生用負荷(回生用抵抗)が設けられてもよい。
【0020】
インバータ22は、DCリンクを介してコンバータ21に接続され、DCリンクにおける直流電力をモータ駆動のための交流電力に変換して出力する。
図1及び
図2に示す例では、モータ3を三相交流モータとしたので、インバータ22は三相フルブリッジ回路で構成される。モータ3が単相交流モータである場合は、インバータ22は単相フルブリッジ回路で構成される。
図2に示すように、三相フルブリッジ回路からなるインバータ22において、ダイオードが逆並列に接続されたスイッチング素子が、高電位側の上アーム及び低電位側の下アームそれぞれに設けられる。スイッチング素子の例としては、IGBT、FET、サイリスタ、GTO、トランジスタなどがあるが、その他の半導体素子であってもよい。インバータ22は、モータ制御部14の駆動指令に基づき例えばPWM制御方式に従いスイッチング素子がオンオフ制御されることで、DCリンクにおける直流電力をモータ駆動のための交流電力に変換して出力する。モータ3は、インバータ22から供給される交流電力に基づいて、速度、トルクまたは回転子の位置が制御される。なお、インバータ22は、モータ制御部14によりスイッチング素子のオンオフ動作が適切にPWM制御されることにより、モータ3で発生した電力を交流電源2またはDCリンクに回生することもできる。DCリンクに回生する際は、DCリンクに回生用負荷(回生用抵抗)が設けられ、モータ3からインバータ22を介して回生されたエネルギーが回生用負荷で消費される。
【0021】
なお、主電力変換回路11へ電力を供給する電源を、交流電源2に代えて、バッテリなどの直流電源(図示せず)としてもよく、この場合、コンバータ21は省略される。
【0022】
モータ制御部14は、モータ3の動作を制御する。モータ3は、主電力変換回路11から供給される交流電力に基づいて、速度、トルク、もしくは回転子の位置が制御されるので、結局のところ、モータ制御部14によるモータ3の制御は、主電力変換回路11の電力変換動作を制御することで実現される。モータ制御部14は、主電力変換回路11内のインバータ22のスイッチング素子をオンオフ制御する。モータ制御部14によるインバータ22のスイッチング素子の制御方式には、例えばPWM制御方式がある。モータ制御部14は、モータ3の回転速度(速度フィードバック)、モータ3の電流(電流フィードバック)、所定のトルク指令、及びモータ3の動作プログラムなどに基づいて、スイッチング素子をオンオフ制御し、インバータ22の電力変換動作を制御する。モータ3は、インバータ22から供給される例えば電圧可変及び周波数可変の交流電力に基づいて、速度、トルクまたは回転子の位置が制御される。なお、ここで説明したモータ制御部14の構成はあくまでも一例であって、例えば、位置指令生成部、位置制御部、速度制御部、電流制御部、トルク指令作成部、スイッチング指令生成部などの用語を含めてモータ制御部14の構成を規定してもよい。
【0023】
なお、コンバータ21がPWMスイッチング制御方式整流器である場合は、モータ制御部14は、PWM制御方式に従ってコンバータ21内のスイッチング素子についてもオンオフ制御する。また、コンバータ21が120度通電方式整流器である場合は、モータ制御部14は、三相交流電源の各相の電圧が入れ替わる度に、各相のうち、三相交流電源の電圧が最大となる相の上アームにおけるスイッチング素子をオンするとともに三相交流電源の電圧が最小となる相における下アームのスイッチング素子をオンすることで、直流電力を三相交流電源に電源回生する。
【0024】
逆起電力保護回路12は、主電力変換回路11内のインバータ22の交流出力側とモータ3との間に設けられる。逆起電力保護回路12は、整流部31と、短絡部32と、アラーム信号出力部33と、温度検出部34とを有する。
【0025】
逆起電力保護回路12内の整流部31は、モータ3の逆起電力に基づく交流電力を整流して直流電力を出力する整流器である。図示の例では、モータ3を三相交流モータとしたので、整流部31は三相フルブリッジ回路で構成される。モータ3が単相交流モータである場合は、整流部31は単相フルブリッジ回路で構成される。整流部31の例としては、ダイオード整流器、120度通電方式整流器、及びPWMスイッチング制御方式整流器などがある。
【0026】
逆起電力保護回路12内の短絡部32は、モータ3を停止させる際に発生する逆起電力に基づくエネルギーを消費する必要がある場合に整流部31の直流出力側の端子間を短絡し、これ以外の場合(すなわち逆起電力に基づくエネルギーを消費する必要がない場合)には短絡しないスイッチ機構を有する。例えば、モータ3を緊急停止させると、発生する逆起電力に基づくエネルギーは非常に大きなものとなる。このような非常に大きな逆起電力に基づくエネルギーを消費するために、逆起電力保護回路12内の短絡部32は、整流部31の直流出力側の端子間を短絡する。一般に、モータ3を緊急停止させる事態が発生する際には、外部装置から緊急停止信号が出力されるので、外部装置からの緊急停止信号の出力に連動して、逆起電力保護回路12内の短絡部32は、整流部31の直流出力側の端子間を短絡するようにしてもよい。
【0027】
逆起電力保護回路12内の短絡部32による切替え動作は、例えばモータ制御部14により制御されてもよく、あるいは、モータ制御部14とは別個の制御部(図示せず)を設けてもよい。短絡部32が整流部31の直流出力側の端子間を短絡しない場合は、整流部31の直流出力側の端子間には何も接続されないので、整流部31は、交流電力を整流して直流電力を出力する動作を実行しない。整流部31は、短絡部32により整流部31の直流出力側の端子間が短絡された場合にのみ、交流電力を整流して直流電力を出力する動作を実行する。スイッチ機構の例としては、IGBT、FET、サイリスタ、GTO、もしくはトランジスタなどの半導体素子、あるいはリレーなどの機械的スイッチなどがある。
【0028】
図3は、本開示の一実施形態によるモータ駆動装置における逆起電力保護回路の動作を説明する図である。
図3において、記録部16、表示部17、及び外部装置制御部18については図示を省略している。整流部31内のダイオードのうち、どの相のダイオードに電流が流れるかは、モータ3の各相の相電圧の大きさによって変わってくる。例えば
図3は、ある瞬間における電流の流れを示している。
【0029】
逆起電力保護回路12が正常に動作する限りにおいては、モータ3の緊急停止時において発生する逆起電力に基づくエネルギーは、逆起電力保護回路12内の整流部31及び短絡部32を介して相間が短絡状態にあるモータ巻線にて全て消費されてモータ3は停止し、DCリンク電圧が大幅に上昇することはない。しかしながら、逆起電力保護回路12に何らかの異常が発生すると短絡部32による整流部31の直流出力側の端子間の短絡は実行されず、逆起電力に基づくエネルギーが消費されない可能性もある。この場合、DCリンク電圧が徐々に上昇し、DCリンクコンデンサ23の耐圧を超えると、DCリンクコンデンサ23が破損しこれにより主電力変換回路11自体も破損してしまう。そこで、本実施形態では、後述する保護動作部13により、DCリンクコンデンサ23及び主電力変換回路11の損傷を防ぐための保護動作を実行する。
【0030】
逆起電力保護回路12内のアラーム信号出力部33は、逆起電力保護回路12の異常発生時にアラーム信号出力部33はアラーム信号を出力する。ここで、逆起電力保護回路12の異常の例をいくつか列挙する。
【0031】
第1の異常として、例えば、短絡部32内のスイッチ機構の接点故障がある。短絡部32内のスイッチ機構の接点故障が発生すると、短絡部32は整流部31の直流出力側の端子間を短絡すべきときに短絡できない。アラーム信号出力部33は、このような場合にアラーム信号を出力する。より詳細には、逆起電力保護回路12内に、短絡部32が整流部31の直流出力側の端子間を短絡していると思われるときに短絡部32内のスイッチ機構の接点端子間に微小電圧を印加する電圧印加部(図示せず)及び当該接点間に電流が流れるか否かを判定する電流判定部(図示せず)を設ける。アラーム信号出力部33は、短絡部32が整流部31の直流出力側の端子間を短絡していると思われるときに電圧印加部により短絡部32内のスイッチ機構の接点端子間に微小電圧を印加し、このとき電流判定部により当該接点間に電流が流ないと判定された場合に、アラーム信号を出力する。
【0032】
第2の異常として、例えば、逆起電力保護回路12内の部品の異常発熱がある。逆起電力保護回路12内の部品が異常発熱すると、短絡部32は整流部31の直流出力側の端子間を短絡すべきときに短絡できないことがある。特に短絡部32内のスイッチ機構が半導体スイッチング素子で構成される場合、半導体スイッチング素子は異常発熱により動作が不安定になる。アラーム信号出力部33は、このような場合にアラーム信号を出力する。より詳細には、逆起電力保護回路12内に、温度検出部34及び温度検出部34が検出した温度が温度閾値を超えたか否かを判定する温度判定部(図示せず)を設ける。アラーム信号出力部33は、温度検出部34が検出した温度が温度閾値を超えたと温度判定部により判定された場合、アラーム信号を出力する。温度閾値は、逆起電力保護回路12内の部品の許容温度よりも、安全性を考慮して例えば数パーセントから十数パーセント程度低い値に設定すればよい。ここで示した数値例はあくまでも一例であって、これ以外の値であってもよい。逆起電力保護回路12内の部品の許容温度としては、例えばスイッチ機構を構成する半導体スイッチング素子の規格表や取扱説明書などに諸元データの1つとして規定されたものを用いてもよい。なお、温度閾値については、書き換え可能な記憶部(図示せず)に記憶されて外部機器によって書き換え可能であってもよく、温度閾値を一旦設定した後であっても、必要に応じて適切な値に変更することができる。
【0033】
第3の異常として、例えば、短絡部32へ駆動電力を供給する制御電源(図示せず)の故障がある。制御電源が故障すると、短絡部32は整流部31の直流出力側の端子間を短絡すべきときに短絡できないことがある。アラーム信号出力部33は、このような場合にアラーム信号を出力する。より詳細には、逆起電力保護回路12内に、短絡部32の駆動電力を供給する制御電源が出力する電圧を検出する電圧検出部(図示せず)及び電圧検出部から電圧が出力されているか否かを判定する電圧判定部(図示せず)を設ける。アラーム信号出力部33は、電圧判定部により制御電源から電圧が出力されていないと判定された場合、アラーム信号を出力する。
【0034】
上述のように、逆起電力保護回路12には複数種類の異常が発生し得る。
図4は、本開示の一実施形態によるモータ駆動装置におけるアラーム信号出力部が出力するアラーム信号を例示する図である。1周期あたりのH(ハイ)とL(ロー)との切替え回数及びパルス幅を変えた複数種類のアラーム信号を、逆起電力保護回路12の複数種類の異常にそれぞれ割り当てることで、逆起電力保護回路12で発生した異常の内容の判別が可能となる。例えば、
図4(A)に示したアラーム信号を第1の異常(短絡部32内のスイッチ機構の接点故障)に割り当て、
図4(B)に示したアラーム信号を第2の異常(逆起電力保護回路12内の部品の異常発熱)に割り当て、
図4(C)に示したアラーム信号を第3の異常(短絡部32の駆動電力を供給する制御電源の故障)に割り当てることができる。なお、ここで示したアラーム信号の波形及び割り当ては一例であって、これ以外のアラーム信号の波形及び割り当てであってもよい。
【0035】
再び説明を
図1に戻す。監視部15は、アラーム信号出力部33からアラーム信号が出力されたか否かを監視する。監視部15による監視結果は、保護動作部13に送られる。また、監視部15は、アラーム信号出力部33から出力されたアラーム信号に基づき、逆起電力保護回路12で発生した異常の内容を判別する。監視部15による判定結果は、記録部16、表示部17、及び外部装置制御部18に送られる。
【0036】
保護動作部13は、監視部15によりアラーム信号出力部33からアラーム信号が出力されたと判定された場合、DCリンクコンデンサ23及び主電力変換回路11の損傷を防ぐための保護動作を実行する。なお、保護動作部13は、モータ制御部14内に設けられてもよい。ここで、保護動作部13による保護動作の形態についていくつか列記する。
【0037】
第1の形態による保護動作では、保護動作部13は、監視部15によりアラーム信号出力部33からアラーム信号が出力されたと判定された場合、モータ3の加減速度が、監視部15による当該判定前のときの値よりも小さい値になるよう主電力変換回路11による電力変換動作を制御する。上述のように、主電力変換回路11内のインバータ22による電力変換動作は、モータ制御部14によって制御される。よって、主電力変換回路11の損傷を防ぐための保護動作は、保護動作部13がモータ制御部14を制御することで実現される。第1の形態による保護動作により、モータ3の加減速度は、監視部15による当該判定前のときよりも緩やかになる。例えば、モータ制御部14におけるモータ3の加速制御及び減速制御のための演算処理に用いられる加速度時定数及び減速度時定数を変更することで、モータ3の加減速度を変更することができる。加速度時定数及び減速度時定数は、モータ駆動装置1がモータ3を制御するために用いられるプログラム中にパラメータとして規定されている。保護動作部13は、監視部15によりアラーム信号出力部33からアラーム信号が出力されたと判定された場合、モータ制御部14の演算処理に用いられる加速度時定数及び減速度時定数を、監視部15による当該判定前のときに設定されていたものよりも大きい値に変更する。より大きい値に設定された加速度時定数及び減速度時定数にてモータ3の加減速制御を行うと、モータ3の加速度及び減速度がより小さくなる。この結果、モータ3の速度変化が緩やかになり、モータ3を停止させる際に発生する逆起電力に基づくエネルギーが小さくなるので、DCリンク電圧の上昇を抑制することができ、DCリンクコンデンサ23及び主電力変換回路11が破損することを防ぐことができる。
【0038】
第2の形態による保護動作では、保護動作部13は、監視部15によりアラーム信号出力部33からアラーム信号が出力されたと判定された場合、モータ3に対する励磁をオフする制御を実行する。モータ3に対する励磁をオフすることで、モータ3は、惰性で回転して負荷や摩擦により停止するいわゆる「フリーラン停止」にて停止する。これにより、モータ3を停止させる際に発生する逆起電力に基づくエネルギーが小さくなるので、DCリンク電圧の上昇を抑制することができ、DCリンクコンデンサ23及び主電力変換回路11が破損することを防ぐことができる。
【0039】
上述の第1の形態及び第2の形態による保護動作は、DCリンクコンデンサ23及び主電力変換回路11の損傷を防ぐことを目的とするものである。この変形例として、保護動作部13は、モータ駆動装置1が駆動するモータ3、モータ3が設けられた機械、及びモータ3が接続された部材などの損傷を防ぐための保護動作を、外部装置に実行させてもよい。
【0040】
記録部16、表示部17、外部装置制御部18は、逆起電力保護回路12で発生した異常の内容を作業者に報知するために設けられるものである。上述のように、監視部15は、アラーム信号出力部33から出力されたアラーム信号に基づき、逆起電力保護回路12で発生した異常の内容を判別する。よって、記録部16、表示部17、及び外部装置制御部18は、監視部15による判定結果に基づき、逆起電力保護回路12で発生した異常の内容を記録、表示することができる。
【0041】
記録部16は、監視部15により判別された逆起電力保護回路12で発生した異常の内容を記録する。記録部16は、例えば、モータ駆動装置1に付属のハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)、EEPROM(登録商標)、DRAM、あるいはSRAMなどがある。また例えば、記録部16に記録された内容に基づき、後日、プリンタを用いて紙面等にプリントアウトして表示させてもよい。
【0042】
表示部17は、監視部15により判別された逆起電力保護回路12で発生した異常の内容を表示する。表示部17の例としては、モータ駆動装置1に付属のディスプレイ、携帯端末及びタッチパネルなどがある。例えば、表示部17は、「逆起電力保護回路内の短絡部に接点故障が発生しました」、「逆起電力保護回路内の部品が異常発熱しています」、及び「逆起電力保護回路内の制御電源に故障が発生しました」などといった表示を行うことができる。なお、表示部17による上述の表示例はあくまでも一例であって、表示部17はこの表示例以外の文字表現や絵に基づいて逆起電力保護回路12で発生した異常の内容を表示してもよい。この代替例として、表示部17に代えて、例えば音声、スピーカ、ブザー、チャイムなどのような音を発する音響機器にて実現してもよく、この場合、音響装置は、逆起電力保護回路12が正常に動作している間は、無音とするのが好ましい。またあるいは、表示部17による表示及び音響機器による音響表現を適宜組み合わせて実現してもよい。
【0043】
外部装置制御部18は、監視部15により判別された逆起電力保護回路12で発生した異常の内容を外部装置(図示せず)に記録または表示させるよう制御する。外部装置には、例えば、モータ駆動装置1の外部に設けられたハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)、EEPROM(登録商標)、DRAM、SRAM、付属のディスプレイ、携帯端末及びタッチパネルなどがある。
【0044】
作業者は、記録部16による記録内容、表示部17の表示内容、または外部装置による表示内容もしくは記録内容に基づき、逆起電力保護回路12に異常が発生したこと及び異常の内容を容易に認識することができる。よって、作業者は、例えば、直ちに逆起電力保護回路12の修理や交換といった作業を行うことができる。また、作業者は、例えば、記録部16に記録された内容を演算処理装置を用いて分析し、逆起電力保護回路12で発生した異常の傾向を把握することができる。
【0045】
なお、モータ駆動装置1は、記録部16、表示部17、及び外部装置制御部18を必ずしも全て同時に備える必要は無く、必要に応じて適宜備えればよい。
【0046】
図5は、本開示の一実施形態によるモータ駆動装置の動作フローを示すフローチャートである。
【0047】
ステップS101では、本実施形態によるモータ駆動装置1において、モータ制御部14によりインバータ22の電力変換動作を制御してモータ3の駆動を行う。
【0048】
ステップS102において、モータ制御部14は、モータ3を停止させる際に発生する逆起電力に基づくエネルギーが発生したか否かを判定する。ステップS102において、逆起電力に基づくエネルギーが発生したと判定された場合はステップS103へ進み、逆起電力に基づくエネルギーが発生したと判定されなかった場合はステップS101へ戻る。なお、ステップS102の代替例として、外部装置から出力される緊急停止信号に連動して短絡部32に整流部31の直流出力側の端子間を短絡させる場合は、モータ制御部14は、外部装置から緊急停止信号が出力されたか否かを判定する。この代替例では、ステップS102において、外部装置から緊急停止信号が出力されたと判定された場合はステップS103へ進み、外部装置から緊急停止信号が出力されたと判定されなかった場合はステップS101へ戻る。
【0049】
ステップS103において、逆起電力保護回路12は、短絡部32を動作させて整流部31の直流出力側の端子間を短絡する。ここで、逆起電力保護回路12が正常に動作する限りにおいては、逆起電力に基づくエネルギーは、逆起電力保護回路12内の整流部31及び短絡部32を介して相間が短絡状態にあるモータ巻線にて全て消費されてモータ3は停止し、DCリンク電圧が大幅に上昇することはない。しかしながら、逆起電力保護回路12に異常が発生すると、整流部31の直流出力側の端子間が短絡されず、DCリンク電圧が徐々に上昇する。逆起電力保護回路12に異常が発生すると、アラーム信号出力部33は、アラーム信号を出力する。
【0050】
ステップS104において、監視部15は、アラーム信号出力部33からアラーム信号が出力されたか否かを監視する。ステップS104においてアラーム信号出力部33からアラーム信号が出力されたと判定された場合は、ステップS105へ進む。一方、ステップS104においてアラーム信号出力部33からアラーム信号が出力されたと判定されなかった場合は、逆起電力に基づくエネルギーは、正常動作している逆起電力保護回路12内の整流部31及び短絡部32を介して相間が短絡状態にあるモータ巻線にて全て消費されてモータ3は停止し、DCリンク電圧が大幅に上昇することはないので、処理を終了する。
【0051】
ステップS105において、保護動作部13は、主電力変換回路11の損傷を防ぐための保護動作を実行する。保護動作を実行することにより、モータ3を停止させる際に発生する逆起電力に基づくエネルギーが小さくなるので、DCリンク電圧の上昇を抑制することができ、DCリンクコンデンサ23及び主電力変換回路11が破損することを防ぐことができる。また、
図5では図示していないが、記録部16、表示部17、または外部装置制御部18により、逆起電力保護回路12で発生した異常の内容を記録または表示する処理が実行される。その後、処理を終了する。
【0052】
上述した保護動作部13、モータ制御部14、監視部15、記録部16、表示部17、外部装置制御部18、及びアラーム信号出力部33は、例えばソフトウェアプログラム形式で構築されてもよく、あるいは各種電子回路とソフトウェアプログラムとの組み合わせで構築されてもよく、あるいは各種電子回路のみで構成されてもよい。例えばこれらをソフトウェアプログラム形式で構築する場合は、例えばDSPやFPGAなどの演算処理装置をこのソフトウェアプログラムに従って動作させることで、上述の各部の機能を実現することができる。またあるいは、保護動作部13、モータ制御部14、監視部15、記録部16、表示部17、外部装置制御部18、及びアラーム信号出力部33を、各部の機能を実現するソフトウェアプログラムを書き込んだ半導体集積回路として実現してもよい。またあるいは、保護動作部13、モータ制御部14、監視部15、記録部16、表示部17、外部装置制御部18、及びアラーム信号出力部33を、各部の機能を実現するソフトウェアプログラムを書き込んだ記録媒体として実現してもよい。また、保護動作部13、モータ制御部14、監視部15、記録部16、表示部17、外部装置制御部18、及びアラーム信号出力部33は、例えば工作機械の数値制御装置内に設けられてもよく、ロボットを制御するロボットコントローラ内に設けられてもよい。
【0053】
また、温度検出部34は、アナログ回路とディジタル回路との組み合わせで構成されてもよく、あるいは、アナログ回路のみで構成されてもよい。
【0054】
また、温度閾値を記憶する記憶部は、例えばEEPROM(登録商標)などのような電気的に消去・記録可能な不揮発性メモリ、または、例えばDRAM、SRAMなどのような高速で読み書きのできるランダムアクセスメモリなどで構成されてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 モータ駆動装置
2 交流電源
3 モータ
11 主電力変換回路
12 逆起電力保護回路
13 保護動作部
14 モータ制御部
15 監視部
16 記録部
17 表示部
18 外部装置制御部
21 コンバータ
22 インバータ
23 DCリンクコンデンサ
31 整流部
32 短絡部
33 アラーム信号出力部
34 温度検出部