(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ココア風味の飲料および飲料のココア風味増強方法
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20240409BHJP
A23L 2/66 20060101ALI20240409BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20240409BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23L2/66
A23L2/38 D
(21)【出願番号】P 2019227925
(22)【出願日】2019-12-18
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】596126465
【氏名又は名称】アサヒ飲料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】松浦 啓一
(72)【発明者】
【氏名】竹中 沙織
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-155870(JP,A)
【文献】特開2009-142222(JP,A)
【文献】特開2008-156344(JP,A)
【文献】特開2001-161328(JP,A)
【文献】特開2007-189946(JP,A)
【文献】特開2012-110248(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0154358(US,A1)
【文献】Amazon [オンライン], 2012.06.01 [検索日 2024.03.13], インターネット:<URL:https://amzn.asia/d/c36HA4Z>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
A23L 2/66
A23L 2/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチド(ただし、カゼインホスホペプチドを除く)を含有し
、
前記ペプチドの含有量が0.05質量%以上1.0質量%以下であり、
前記ペプチドが乳ペプチドであるココア風味の飲料
(ただし、不溶性カルシウムを含む飲料は除く)。
【請求項2】
前記飲料がココアパウダーおよび/またはココアフレーバーを含有する、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
前記ペプチドは、分子量分布が500以上10000以下のペプチドを50質量%以上含む、請求項1
または2に記載の飲料。
【請求項4】
容器詰めされた、請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項5】
飲料にペプチド
(ただし、カゼインホスホペプチドを除く)を配合
し、前記ペプチドの含有量を0.05質量%以上1.0質量%以下とする工程を含み、
前記ペプチドが乳ペプチドである飲料のココア風味増強方法
(ただし、不溶性カルシウムを含む飲料のココア風味増強方法は除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ココア風味の飲料および飲料のココア風味増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ココア風味は、菓子や飲料との相性が良く、広く親しまれている。そこで、従来、ココア風味を増強させる方法について、検討がなされている。ココア風味を増強させる技術としては、例えば、特許文献1、2に記載のものがある。より詳細には、特許文献1には、2-エチル-3,5,6-トリメチルピラジン(ピラジン誘導体)を用いること、特許文献2には、ケール粉末をココアパウダーに対して10~60質量%添加することが開示されている。
【0003】
一方、ペプチドは、2個以上のアミノ酸が結合した化合物であり、人体に有用な生理作用が注目され、多くの食品に用いられている。例えば、特許文献3には、ココア飲料にカゼインホスホペプチドを添加することで、ココア飲料の苦渋味を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭49-25347号公報
【文献】特開2015-100324号公報
【文献】特開2012-217442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に開示される技術は、ココア風味の増強に着目したものであったが、ペプチドを用いることについて何ら検討されたものではなかった。また、特許文献3に開示される技術は、ココア飲料の苦渋味を抑制する目的で、カゼインホスホペプチドを用いることを要件とするものであり、ココア風味を強くすることについて着目したものではなかった。
【0006】
そこで、本発明者は、飲料のココア風味を増強させる観点から鋭意検討を行った結果、飲料にペプチドを含ませることで意外にもココア風味が強く感じられることを見出し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ペプチドを含有するココア風味の飲料が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、飲料にペプチドを配合する、飲料のココア風味増強方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ココア風味を強く感じられる飲料が提供できる。なお、ココア風味とは、飲食品において一般にココア風味として広く知られる風味であり、適度な苦みと、ココアの原料となるカカオ特有の香ばしさ、ミルク感、甘み、コク感などがバランスよく感じられる風味を意図する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。
【0011】
<飲料>
本実施形態の飲料は、ペプチドを含有するものである。
以下、本実施形態の飲料の詳細について説明する。
【0012】
[ペプチド]
本実施形態におけるペプチドは、飲料のココア風味を増強するために用いられる。ペプチドにより飲料のココア風味が増強される理由の詳細は明らかではないが、ペプチドが有する特有の苦みや、雑味や旨味等が組み合わさったコクといった風味が、ココア風味と相性がよいこと等から、結果的にココア風味を増強できると推測される。すなわち本実施形態の飲料は、ココア風味を呈する飲料において、上記のペプチドを含むものと含まないものとを対比した場合に、ペプチドを含む飲料のほうがココア風味が増強される点に特徴を有するものである。
【0013】
本実施形態におけるペプチドは、例えば、動植物性あるいは微生物由来のタンパク質を酸、アルカリまたは蛋白質加水分解酵素で加水分解する等により得られるものである。具体的には、コラーゲンペプチド、大豆ペプチド、乳ペプチド(ただし、カゼインホスホペプチド(CPP)を除く)、小麦ペプチドおよび卵ペプチドからなる群から選択される少なくとも1種類以上が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なかでも、ココア風味との相性がよく、効果的にココア感を増強できる観点から、好ましくは、コラーゲンペプチドおよび、カゼインホスホペプチド(CPP)を除く乳ペプチドであり、より好ましくは、カゼインホスホペプチド(CPP)を除く乳ペプチドである。
乳ペプチドとしては、例えば、牛乳、馬乳、山羊乳、および羊乳等の獣乳に由来するペプチドが挙げられる。なかでも、乳酸菌の働きにより牛乳のタンパク質から作られるラクトトリペプチド(LTP)、ラクトノナデカペプチド(LNDP)が好ましく用いられる。
【0014】
また、本実施形態におけるペプチドの分子量分布は、分子量500~6000のものがサイズ排除クロマトグラフ法のピーク面積比として5質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。
ペプチドの分子量を、上記下限値以上とすることにより、ココア風味を増強しやすくなる。一方、ペプチドの平均分子量を、上記上限値以下とすることにより、ペプチドに由来する臭いを抑制しつつ、ココア風味が得られやすくなる。そのため、ペプチドの分子量分布を適切に制御することにより、ペプチドに由来する臭いの抑制と、ココア風味の増強とのバランスを高水準で実現しやすくなる。
なお、ペプチドに由来する臭いとは、原料となる動植物由来の独特の不快な臭いを意図する。
【0015】
本実施形態におけるペプチドの分子量は、公知の方法で測定することができ、例えば、粘度測定、HPLC及びサイズ排除クロマトグラフ法等の定量方法によって測定できる。なかでも、サイズ排除クロマトグラフ法であることが好ましい。サイズ排除クロマトグラフ法を用いる場合、使用カラムはTSKgel G2500PWXL(東ソー株式会社製)とすることが好ましい。
【0016】
本実施形態の飲料において、ペプチドの含有量は、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましい。ペプチドの含有量を、上記下限値以上とすることにより、ココアらしい苦みを強くしつつ良好なココア感が得られ、かつココア風味を増強しやすくなる。
一方、本実施形態の飲料において、ペプチドの含有量は、過度な苦みを抑制しつつ、ココア風味を増強させる観点から1.0質量%以下が好ましく、ココア風味の増強作用と良好なココア感を得る観点から0.9質量%以下がより好ましく、0.7質量%以下がさらに好ましい。
【0017】
本実施形態の飲料は、本発明の効果が得られる限りにおいて、上記以外の種々の成分を含んでもよい。
【0018】
[ココア]
本実施形態の飲料は、ココア風味増強効果を顕著に得る観点から、ココアパウダー、ココアフレーバーの少なくともいずれか一方を含有することが好ましい。また、本実施形態の飲料は、調整ココアパウダーを含むものであってもよい。
【0019】
本実施形態において「ココアパウダー」とは、カカオニブ又はカカオマスから機械的方法等により、脂肪分の一部を除いたものを粉砕したものであり、特有の香味を有するものである。本実施形態においては「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」で規定されるココアパウダー(ココアバターが全重量の8パーセント以上、水分が全重量の7パーセント以下のものであって、バニラ系の香料以外のものを含まないもの)だけでなく、脱脂ココアパウダー(ココアバター含量8%未満)も含む。また、上記の「調整ココアパウダー」とは、同規約で規定される調整ココアパウダーに準ずる。
なお、ココアパウダーは焙煎されて調製されたものでもよく、これにより焙煎香を呈し、また、ココアパウダーやコーヒーパウダー本来の香味や苦味が得られやすくなる。
【0020】
ココアパウダーの含有量は、ココア風味が感じられればよく、特に限定されないが、例えば、飲料全量に対して、0.1~5.0質量%であることが好ましく、0.5~3.0質量%であることがより好ましく、0.5~2.0質量%がさらに好ましい。なお、調整ココアパウダーを使用する場合には、該調整ココアパウダーに含まれるココアパウダーの含有量をいう。
【0021】
上記のココアフレーバーとは、ココアを想起させるフレーバーであり、例えば、カカオやチョコレートの香ばしさとミルク感、コク感やおいしさのある香味が得られるフレーバーが挙げられる。また、ココアフレーバーとして公知のものを用いることができる。また、その使用方法、含有量も公知のものを用いることができる。
【0022】
さらに、本実施形態の飲料は、乳、甘味料、酸味料、乳化剤、pH調整剤、果汁、各種栄養成分、着色料、希釈剤、酸化防止剤、増粘安定剤等を含んでもよい。
【0023】
上記の乳としては、生乳、牛乳、全粉乳、脱脂粉乳、生クリーム、濃縮乳、部分脱脂乳、練乳、粉乳、および発酵乳等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
上記甘味料としては、例えば、果糖、ショ糖、ブドウ糖、グラニュー糖、乳糖、および麦芽糖等の糖類、キシリトール、およびD-ソルビトール等の低甘味度甘味料、タウマチン、ステビア抽出物、グリチルリチン酸二ナトリウム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム、サッカリン、ネオテーム、およびサッカリンナトリウム等の高甘味度甘味料などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0025】
上記の酸味料としては、例えば、クエン酸三ナトリウムなどのクエン酸塩、無水クエン酸、アジピン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、酢酸、リン酸、フィチン酸、アスコルビン酸又はそれらの塩類等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0026】
[pH]
本実施形態の飲料の20℃におけるpHは、4.0~8.0であることが好ましく、5.5~7.5であることがより好ましい。pHをかかる数値範囲とすることで、ココア風味を良好に保持しやすくなる。
なお、pHの測定は、市販のpH測定器を用いるなどして行うことができる。pHの調整は、例えば、特定酸の量を変えることや、pH調整剤等を用いることによって行われる。
【0027】
[ブリックス値]
本実施形態の飲料のブリックス値は、飲料の嗜好性を向上させる観点から、好ましくは1~30°であり、より好ましくは5~25°であり、さらに好ましくは5~15°である。
ブリックス値は、例えば、前述の甘味料の量、その他の各種成分の量などにより調整することができる。
【0028】
[容器]
本実施形態の飲料は容器詰めされていてもよい。容器としては、ガラス、紙、プラスチック(ポリエチレンテレフタレート等)、アルミ、およびスチール等の単体もしくはこれらの複合材料又は積層材料からなる密封容器が挙げられる。また、容器の種類は、特に限定されるものではないが、たとえば、ペットボトル、アルミ缶、スチール缶、紙パック、チルドカップ、瓶等が挙げられる。
また、容器詰めの方法は、公知の方法を用いることができ、また、加熱処理を施してもよい。
【0029】
<飲料のココア風味増強方法>
本実施形態の飲料のココア風味増強方法は、飲料にペプチドを配合するものである。これにより、飲料のココア風味を強く感じられるようになる。飲料としては、上記飲料と同様のものを用いることができる。
【0030】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. ペプチド(ただし、カゼインホスホペプチドを除く)を含有するココア風味の飲料。
2. 前記飲料がココアパウダーおよび/またはココアフレーバーを含有する、1.に記載の飲料。
3. 前記ペプチドの含有量が0.05質量%以上1.0質量%以下である、1.または2.に記載の飲料。
4. 前記ペプチドが、コラーゲンペプチド、大豆ペプチド、乳ペプチド、小麦ペプチドおよび卵ペプチドからなる群から選択される少なくとも1種類以上である、1.乃至3.いずれか一つに記載の飲料。
5. 前記ペプチドは、分子量分布が500以上10000以下のペプチドを50質量%以上含む、1.乃至4.のいずれか一つに記載の飲料。
6. 容器詰めされた、1.乃至5.のいずれか一つに記載の飲料。
7. 飲料にペプチドを配合する、飲料のココア風味増強方法。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、表中「%」は、「質量%」である。
【0032】
まず、以下の3種類のペプチドを準備した。
・乳カゼインペプチド-1:ラクトノナデカペプチド(以下、「LNDP」)
特許第5718741号公報段落[0108]~[0110]に記載の方法に従って作製し、7時間反応させたものを用いた。
分子量分布は、500~6000のものがサイズ排除クロマトグラフ法のピーク面積比として65質量%であった。
・フィッシュコラーゲンペプチド: HPフィッシュコラーゲン(協和発酵バイオ株式会社製)
・乳カゼインペプチド-2:ラクトトリペプチド(以下、「LTP」)
特開2011-102327号公報段落[0024]実施例1に記載の方法で作製した。
分子量分布は、500~6000のものがサイズ排除クロマトグラフ法のピーク面積比として7質量%であった。
【0033】
[実験例1]ペプチド(LNDP)濃度の違いの検証
<試作品1~7>
まず、市販のココア飲料(原材料名:牛乳、砂糖、ココアパウダー、全粉乳、食塩、デキストリン、セルロース、乳化剤、香料、安定剤(増粘多糖類))に対し、飲料中の濃度が表1に示す値となるように上記のペプチド(LNDP)を混合して、ココア風味飲料を調合した。
得られた飲料について以下の評価を行い、結果を表1に示した。
【0034】
<評価>
・官能評価:試作品1~7の飲料(20℃)それぞれを、熟練した5名のパネラー(A~E)が試飲し、以下の評価基準に従い、「ココア風味の良さ」、「ココア風味の強さ」、「ココアらしい苦味の良さ」、「ココアらしい苦味の強さ」、それぞれについて、8段階(1~8点)評価を実施し、その平均点を求めた。また、評価する際は、試作品1の飲料を対照品(基準値4点)として評価を実施した。なお、評価は、数値が大きいほど良好な結果であることを表す。
【0035】
・評価基準
「ココア風味の強さ」、「ココアらしい苦味の強さ」
8点・・・対象品よりも非常に強い
7点・・・対象品よりもとても強い
6点・・・対象品よりも強い
5点・・・対象品よりもわずかに強い
4点・・・対象品と同等の強さ
3点・・・対象品よりもわずかに弱い
2点・・・対象品よりも弱い
1点・・・対象品よりも非常に弱いか全く感じない
「ココア風味の良さ」、「ココアらしい苦味の良さ」
8点・・・対象品よりも非常によい
7点・・・対象品よりもとてもよい
6点・・・対象品よりもよい
5点・・・対象品よりもわずかによい
4点・・・対象品と同等程度
3点・・・対象品よりもわずかに悪い
2点・・・対象品よりも悪い
1点・・・対象品よりも非常に悪い
【0036】
【0037】
[実験例2]ペプチドの種類の違いの検証
<試作品1,4,8,9>
ペプチドの種類を、表2に示すものに変更した以外は、試作品4(ペプチド濃度0.4質量%)と同様にして、飲料を得た。
得られた飲料について、熟練した5名のパネラー(F~J)が試飲し、上記実験例1と同様にして、評価を行い、結果を表2に示した。
【0038】