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特許7469039触媒の排ガス成分リザーバの充填を制御する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】触媒の排ガス成分リザーバの充填を制御する方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20240409BHJP
   F02D 41/14 20060101ALI20240409BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
F02D45/00 368F
F02D41/14
F01N3/20 R
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019231031
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2020122480
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】10 2018 251 725.8
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ファイ,ミヒャエル
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-019105(JP,A)
【文献】特開2002-323904(JP,A)
【文献】特開2000-179384(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0107696(US,A1)
【文献】特開平09-228873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 41/14
F01N 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(10)の触媒(26)の排ガス成分リザーバの充填レベルを制御する方法において、充填レベルの制御は触媒モデル(102)を有するプラントモデル(100)を利用して行われ、充填レベルの制御に影響を及ぼす測定量またはモデル量の不確実性が、前記触媒(26)の出力側に配置された排ガスプローブ(34)の信号をベースとするアダプションによって修正される、そのような方法において、前記アダプションが複数のパス(210,220,230)で行われ、出力側に配置された前記排ガスプローブ(34)の互いに異なる信号領域(260,280,300)に属する信号が互いに異なるパスで処理され
第1のアダプションパス(220)を通じて第1の制御回路(22,32,128,130,132)のフィードフォワード制御(104)の修正が行われ、前記第1のアダプションパス(220)を通じて、前記触媒モデル(102)と逆の触媒モデルを用いて前記フィードフォワード制御(104)により計算される前記触媒(26)のモデル化された充填レベルが前記触媒(26)の実際の充填レベルに合わせて補正され、実際の充填レベルは出力側の前記排ガスプローブ(34)の信号から判定されることを特徴とする方法。
【請求項2】
第2のアダプションパス(210)を通じて、前記触媒モデル(102)を用いて計算された充填レベルが実際の充填レベルに合わせて補正され、実際の充填レベルは出力側の前記排ガスプローブ(34)の信号から判定されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記補正はそれぞれ不連続的に行われることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記触媒モデル(102)を用いて計算される充填レベルの実際の充填レベルに合わせた補正は逆触媒モデルを用いて前記フィードフォワード制御(104)により計算される充填レベルの実際の充填レベルに合わせた補正とともに行われることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
不連続的に行われるアダプションプロセスは出力側の前記排ガスプローブ(34)の大きい信号値と小さい信号値をベースとし、信号値が大きい領域(260)は、大きい信号値と小さい信号値の間に位置する中程度の信号値の領域(280)によって、信号値が小さい領域(300)から分かれることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
内燃機関(10)の触媒(26)の排ガス成分リザーバの充填レベルを制御する方法において、充填レベルの制御は触媒モデル(102)を有するプラントモデル(100)を利用して行われ、充填レベルの制御に影響を及ぼす測定量またはモデル量の不確実性が、前記触媒(26)の出力側に配置された排ガスプローブ(34)の信号をベースとするアダプションによって修正される、そのような方法において、前記アダプションが複数のパス(210,220,230)で行われ、出力側に配置された前記排ガスプローブ(34)の互いに異なる信号領域(260,280,300)に属する信号が互いに異なるパスで処理され、
第3のアダプションパス(200)を通じて、フィードフォワード制御(104)により形成されるラムダ目標値(BLSW)が、排ガス成分リザーバに関して入力側のラムダ値と出力側の前記排ガスプローブ(34)の信号の出力側の信号値との比較から導き出されるラムダオフセットを用いて修正されることを特徴とする、方法
【請求項7】
前記出力側の信号値は出力側の前記排ガスプローブ(34)の信号の中程度の信号値であり、出力側の前記排ガスプローブの信号値が中程度の信号値の領域にあるときに、前記第3のアダプションパス(200)を通じて行われる修正が連続的に実行されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第3のアダプションパス(200)を通じて行われる修正は出力側の前記排ガスプローブ(34)の小さい信号値および大きい信号値のときにも行われ、前記第3のアダプションパス(200)を通じて行われる修正が重みづけされ、前記第3のアダプションパス(200)で形成される修正の影響は信号値が大きい領域では信号値が増すにつれて減少していき、信号値が小さい領域では出力側の前記排ガスプローブ(34)の信号値が減るにつれて減少していくことを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
出力側の前記排ガスプローブ(34)の小さい信号値と大きい信号値のときに前記第1のアダプションパス(220)を通じて行われる不連続的な充填レベル修正が重みづけされ、前記第1のアダプションパス(220)で形成される修正の影響は信号値が大きい領域では信号値が増すにつれて増加していき、信号値が小さい領域では信号値が減るにつれて増加していくことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法を実施するためにセットアップされることを特徴とする、制御装置(16)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプレアンブルの記載に基づく、内燃機関の排ガスの中の触媒の排ガス成分リザーバの充填を制御する方法に関する。本発明は、装置態様においては、独立の装置請求項のプレアンブルに基づく制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような方法およびこのような制御装置は、排ガス成分としての酸素について、それぞれ出願人の特許文献1から公知である。
【0003】
この公知の方法では充填レベルの制御は、触媒モデルを有するプラントモデルを利用して行われる。充填レベルの制御に影響を及ぼす測定量やモデル量の不確実性が、触媒の出力側に配置された排ガスプローブの信号をベースとするアダプションによって修正される。制御装置は、このような方法を実施するためにセットアップされる。
【0004】
ガソリンエンジンでの空気・燃料混合物の燃焼が不完全であると、窒素(N)、二酸化炭素(CO)、および水(HO)に加えて数多くの燃焼生成物が吐出され、そのうち炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、および窒素酸化物(NO)は法律で制限されている。自動車についての現行の排ガス限界値は、現在の技術水準では触媒による排ガス後処理によってでなければ守ることができない。三元触媒を利用することで、上述した有害物質成分を浄化することができる。
【0005】
HC,COおよびNOについて同時に高い浄化率は、三元触媒の場合、ストイキ動作点(ラムダ=1)を中心とする狭いラムダ範囲、いわゆる浄化ウィンドでしか実現されない。
【0006】
三元触媒を浄化ウィンド内で作動させるために、現在のエンジン制御システムでは典型的に三元触媒の前と後に配置されたラムダプローブの信号をベースとするラムダ制御が適用される。内燃機関の燃料/空気比率の構成を表す目安となる空燃比ラムダの制御のために、三元触媒の前の排ガスの酸素含有率が、そこに配置された入力側の排ガスプローブによって測定される。この測定値に依存して制御部が、フィードフォワード制御関数のベース値の形態で設定される燃料量または噴射パルス幅を修正する。
【0007】
フィードフォワード制御の枠内では、噴射されるべき燃料量のベース値が、たとえば内燃機関の回転数と負荷に依存して設定される。いっそう正確な制御のために、別の排ガスプローブにより三元触媒の下流側で排ガスの酸素濃度が追加的に検出される。この出力側の排ガスプローブの信号がセットポイント制御のために利用され、入力側の排ガスプローブの信号をベースとする三元触媒の前のラムダ制御にこれが重ね合わされる。三元触媒の後に配置される排ガスプローブとしては、通常、ラムダ=1の近辺で非常に急峻な特性曲線を有し、したがってラムダ=1を非常に正確に表示することができるジャンプ・ラムダプローブが使用される(非特許文献1)。
【0008】
一般にラムダ=1からの小さな誤差だけを補正し、比較的低速に設計されるセットポイント制御のほか、現在のエンジン制御システムには、通常、ラムダ=1からの大きな逸脱後にラムダ・フィードフォワード制御の形態で浄化ウィンドに再び迅速に達するように配慮がなされる機能性があり、このことは、たとえば三元触媒が酸素で負荷される惰性走行を含む段階後に重要である。酸素での負荷はNO浄化を劣化させる。
【0009】
三元触媒の前でリッチまたはリーンのラムダが調整された後、三元触媒の酸素蓄積能力のゆえに、三元触媒の後ではなおも数秒間にわたりラムダ=1が存在し得る。酸素を一時的に蓄積するこのような三元触媒の特性は、三元触媒の前でのラムダ=1からの一時的な逸脱を補償するために利用される。三元触媒の前で長い時間にわたって1に等しくないラムダが生じると、ラムダ>1(酸素過剰)の場合には酸素充填レベルが酸素蓄積能力を上回ったとき、またはラムダ<1の場合には三元触媒で酸素をそれ以上蓄積できなくなったとき、ただちにこれと同じラムダが三元触媒の後でも生じる。
【0010】
するとこの時点で三元触媒の後のジャンプ・ラムダプローブも、浄化ウィンドからの離脱を示す。しかしこの時点まで、三元触媒の後のラムダプローブの信号が目前に迫っているその発生を示唆することはなく、したがってこの信号をベースとするセットポイント制御はしばしば反応が遅くなりすぎ、そのため、発生前に燃料配分が早期に反応することができなくなる。その結果、上昇したテールパイプエミッションが生じる。したがって現在の制御コンセプトは、三元触媒の後のジャンプ・ラムダプローブの電圧を参照して、浄化ウィンドからの離脱を認識するのが遅すぎるという欠点を有する。
【0011】
三元触媒の後のラムダプローブの信号をベースとする制御の1つの代替案は、三元触媒の平均の酸素充填レベルの制御である。このような平均の充填レベルは測定可能ではないものの、冒頭に挙げた特許文献1に基づいて計算によってモデル化することができる。
【0012】
しかし三元触媒は、時変プラントパラメータを有する複雑で非線形のプラントである。それに加えて、三元触媒のモデルについて測定またはモデル化される入力量は、不確実性を免れないのが普通である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】ドイツ特許第19606652B4号明細書
【非特許文献】
【0014】
【文献】自動車技術ハンドブック(Kraftfahrtechnisches Taschenbuch)、第23版、524頁
【発明の概要】
【0015】
以上に挙げた従来技術に対して本発明は、方法態様においては請求項1の特徴部の構成要件によって相違し、装置態様においては独立装置請求項の特徴部の構成要件によって相違する。
【0016】
請求項1の特徴部の構成要件は、アダプションが複数のパスで行われ、出力側に配置された排ガスプローブの互いに異なる信号領域に属する信号が互いに異なるパスで処理されることを意図する。制御装置は、このような方法を実施するためにセットアップされる。
【0017】
請求項1のプレアンブルの構成要件との組み合わせで、特徴部の構成要件により、プラントモデルに取り入れられる測定量やモデル量の不確実性およびプラントモデルの不確実性が補償される多段階のアダプションが具体化される。
【0018】
多段階のアダプションは、連続的に作動する小さな誤差の非常に正確なアダプションと、不連続的で迅速な大きな誤差の修正とを組み合わせる。
【0019】
連続的なアダプションと不連続的な修正は、排ガス流の中で触媒の下流側およびそれに伴って出力側に配置された排ガスプローブの異なる信号領域に属する信号値をベースとするが、根本的に異なる2つの情報がこれらの信号値から導き出される。本発明は、排ガス組成に関して、および触媒の充填レベルに関して、異なる信号領域に属する信号値の相違する情報提供力を考慮することを可能にする。
【0020】
これに加えてさらに多くの信号値領域が意図されていてよく、これらの中で連続的なアダプションが単独でアクティブになり、不連続的な修正が単独でアクティブになり、またはこの両者が共にアクティブになる。
【0021】
不連続的なアダプションでは、出力側の排ガスプローブの電圧が触媒の後のリッチまたはリーンの排ガスの発生を示し、それに伴って低すぎる、または高すぎる実際の酸素充填レベルを示したときに、モデル化された充填レベルが実際の充填レベルに即して修正される。この修正は、触媒の後のラムダプローブの電圧の反応を判定できるようにするために、不連続的に行われる。このような反応は、プラントむだ時間と触媒の蓄積挙動に基づいて遅延して行われるので、第2の排ガスプローブの信号のラムダ値が触媒の実際の酸素充填レベルの推定を可能にするときに、修正がさしあたり1回だけ実行されることが意図される。
【0022】
連続的なアダプションでは、触媒の後のジャンプ・ラムダプローブのラムダ信号が、触媒の後のモデル化されたラムダ信号と比較される。この比較から、触媒の前のラムダと触媒の後のラムダとの間のラムダオフセットを導き出すことができる。このラムダオフセットを用いて、たとえばフィードフォワード制御により形成されるラムダ目標値が修正される。
【0023】
原則として、触媒の充填レベルのモデルベースの制御は、目前に迫っている触媒ウィンドからの離脱を、触媒の下流側に配置された排ガスプローブの信号をベースとするセットポイント制御の場合よりも早期に認識できるという利点を有する。それにより、触媒ウィンドからの離脱が生じたとき、空気・燃料混合物の早期かつ的確な修正によって対処をすることができる。
【0024】
本発明に基づく測定不確実性とモデル不確実性の多段階の補償により、モデルベースの制御のロバスト性を改善することができる。それによってエミッションをいっそう低減することができる。法律上のいっそう厳しい要求事項を触媒のより少ないコストで満たすことができる。その結果、触媒ウィンドからの離脱が早期に認識されて防止される、さらに改善された触媒の充填レベルのモデルベースの制御がもたらされる。
【0025】
1つの好ましい実施形態は、第1のアダプションパスを通じて第1の制御回路のフィードフォワード制御の修正が行われ、第1のアダプションパスを通じて、触媒モデルに対して逆触媒モデルを用いてフィードフォワード制御により計算された触媒のモデル化された充填レベルが、触媒の実際の充填レベルに合わせて補正され、実際の充填レベルは出力側の排ガスプローブの信号から判定されることを意図する。このことは、フィードフォワード制御でのモデル化された充填レベルの不連続的な修正(または再初期化)に相当する。
【0026】
第2のアダプションパスを通じて、触媒モデルを用いて計算された充填レベルが実際の充填レベルに合わせて補正され、実際の充填レベルは出力側の排ガスプローブの信号から判定されるのも好ましい。このことは、プラントモデルでのモデル化された充填レベルの不連続的な修正(または再初期化)に相当する。
【0027】
さらに、補正がそのつど不連続的に行われるのが好ましい。
【0028】
さらに別の好ましい実施形態は、実際の充填レベルに合わせた、触媒モデルを用いて計算された充填レベルの補正が、実際の充填レベルに合わせた、逆触媒モデルを用いてフィードフォワード制御により計算された充填レベルの補正とともに行われることを意図する。フィードフォワード制御はプラントモデルの逆として設計されているので、そうしないとプラントモデルとフィードフォワード制御のモデル化されたそれぞれの充填レベルが一貫性を欠くことになる。
【0029】
不連続的に行われるアダプションプロセスが、出力側の排ガスプローブの大きい信号値と小さい信号値をベースとし、大きい信号値は小さい信号値から、大きい信号値と小さい信号値の間に位置する中程度の信号値の領域によって分かれているのも好ましい。
【0030】
さらに第3のアダプションパスを通じて、フィードフォワード制御により形成されるラムダ目標値が、排ガス成分リザーバに関して入力側のラムダ値と出力側の排ガスプローブの信号の出力側の信号との比較から導き出されるラムダオフセットを用いて修正されるのが好ましい。
【0031】
さらに別の好ましい実施形態は、出力側の信号値が出力側の排ガスプローブの信号の中程度の信号値であり、出力側の排ガスプローブの信号値が中程度の信号値の範囲内にあるときに、第3のアダプションパスを通じて行われる修正が連続的に実行されることを意図する。
【0032】
第3のアダプションパスを通じて行われる修正は出力側の排ガスプローブの小さい信号値のときと大きい信号値のときにも行われるのも好ましく、第3のアダプションパスを通じて行われる修正が重みづけされ、第3のアダプションパスで形成される修正の影響は、大きい信号値の領域では信号値が増すにつれて減少していき、小さい信号値の領域では出力側の排ガスプローブの信号値が減るにつれて減少していく。
【0033】
さらに、出力側の排ガスプローブの小さい信号値のときと大きい信号値のときに第1のアダプションパスを通じて行われる不連続的な充填レベル修正が重みづけされるのが好ましく、第1のアダプションパスで形成される修正の影響は、大きい信号値の領域では信号値が増すにつれて増加していき、小さい信号値の領域では信号値が減るにつれて増加していく。
【0034】
装置態様に関しては、制御装置は、本方法の上述した各実施形態に基づく方法を実施するためにセットアップされるのが好ましい。
【0035】
その他の利点は発明の詳細な説明および添付の図面から明らかとなる。
【0036】
当然ながら、以上に挙げた、およびこれから以下に説明する構成要件は、それぞれ記載されている組み合わせとしてだけでなく、本発明の枠組みから外れることなく別の組み合わせでも単独でも適用可能である。
【0037】
本発明の実施例が図面に示されており、以下の記述において詳しく説明する。このとき異なる図中の同じ符号は、それぞれ同じ部材または少なくとも機能の点からして同等の部材を表す。図面はそれぞれ模式的な形態で次のものを示す。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】空気供給システムと、排ガスシステムと、制御装置とを有する内燃機関である。
図2】プラントモデルの機能ブロック図である。
図3】本発明の方法態様と装置態様が両方とも明示されている機能ブロック図である。
図4】重みづけスケールに対する出力側の排ガスプローブの電圧領域である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下においては三元触媒を例にとり、蓄積されるべき排ガス成分としての酸素について本発明を説明する。しかし本発明は、他の触媒型式や窒素、炭化水素などの他の排ガス成分にも内容に即して応用可能である。以下においては便宜上、三元触媒を有する排ガス設備を前提とする。本発明は、これ以上の触媒を有する排ガス設備にも内容に即して応用可能である。以下に記述している前側のゾーンと後側のゾーンは、このようなケースでは複数の触媒を通じて延びており、またはそれぞれ異なる触媒内に位置する。
【0040】
具体的には図1は、空気供給システム12と、排ガスシステム14と、制御装置16とを有する内燃機関10を示している。空気供給システム12には、エアマスセンサ18と、エアマスセンサ18の下流側に配置されたスロットルバルブユニット19のスロットルバルブがある。空気供給システム12を介して内燃機関10に流れ込む空気が、内燃機関10の燃焼室20で、噴射弁22を通じて燃焼室20へ直接的に噴射される燃料と混合される。本発明は直接噴射が行われる内燃機関だけに限定されるものではなく、インテークパイプインジェクションや、ガスで作動する内燃機関とともに適用することもできる。結果として生じる燃焼室充填物が、たとえば点火プラグなどの点火装置24によって点火されて燃焼される。回転角センサ25が内燃機関10のシャフトの回転角を検出し、それにより、シャフトの事前設定された角度位置での点火のリリースが制御装置16にとって可能となる。燃焼の結果として生じる排ガスは、排ガスシステム14を通して導出される。
【0041】
排ガスシステム14は触媒26を有している。触媒26は、たとえば周知のとおり3つの反応経路で3つの排ガス成分である窒素酸化物、炭化水素、一酸化炭素を浄化し、酸素を蓄える作用を有する三元触媒である。酸素を蓄える作用により、および酸素は排ガス成分であるので、触媒は排ガス成分リザーバを有する。三元触媒26は、図示した例では、第1のゾーン26.1と第2のゾーン26.2とを有している。これら両方のゾーンが排ガス28によって貫流される。第1の前側のゾーン26.1は、流動方向で三元触媒26の前側領域にわたって延びている。第2の後側のゾーン26.2は第1のゾーン26.1の下流側で、三元触媒26の後側領域にわたって延びている。当然ながら、前側のゾーン26.1の前および後側のゾーン26.2の後に、ならびにこれら両方のゾーンの間に別のゾーンが位置することができ、これらのゾーンについて、場合によりそのつどの充填レベルが計算モデルによってモデル化される。
【0042】
三元触媒26の上流側には、排ガス28に暴露される入力側の排ガスプローブ32が三元触媒26の直前に配置されている。三元触媒26の下流側には、同じく排ガス28に暴露される出力側の排ガスプローブ34が三元触媒26の直後に配置されている。入力側の排ガスプローブ32はワイドバンド・ラムダプローブであるのが好ましく、ワイドバンド・ラムダプローブは広い空燃比範囲を越える空燃比λの測定を可能にする。出力側の排ガスプローブ34はいわゆるジャンプ・ラムダプローブであることが好ましく、この排ガスプローブ34の信号がそこで飛躍的に変化するのでλ=1を非常に正確に測定することができる。Bosch社の非特許文献1を参照のこと。
【0043】
図示した実施例では、三元触媒26の温度を検出する、排ガス28に暴露される温度センサ36が排ガス28と熱接触するように三元触媒26に配置されている。
【0044】
制御装置16は、エアマスセンサ18、回転角センサ25、入力側の排ガスプローブ32、出力側の排ガスプローブ34、および温度センサ36の信号を処理し、スロットルバルブの角度位置を調整するための制御信号、点火装置24による点火を作動させるための制御信号、および噴射弁22により燃料を噴射するための制御信号をそこから形成する。その代替または補足として制御装置16は、図示しているアクチュエータを制御するための他のセンサもしくは別のセンサの信号も処理し、または他のアクチュエータもしくは別のアクチュエータの信号も処理し、たとえばアクセルペダル位置を検出する運転者希望検出器40の信号も処理する。たとえば燃料供給が停止される惰性走行が、アクセルペダルを離すことによって惹起される。これらの機能、およびさらに以下で説明する機能が、内燃機関10の作動時に制御装置16で進行するエンジン制御プログラム16.1によって実行される。
【0045】
本件出願では、プラントモデル100、触媒モデル102、出力ラムダモデル106(図2参照)、および逆触媒モデルが援用される。これらのモデルはそれぞれアルゴリズムであり、特に、制御装置16で実行または計算される連立方程式であり、計算モデルで模倣される実際の対象物にも作用する入力量を出力量と組み合わせて、アルゴリズムを用いて計算された出力量が実際の対象物の出力量にできる限り正確に一致するようにする。
【0046】
図2は、プラントモデル100の機能ブロック図を示している。プラントモデル100は、触媒モデル102と出力ラムダモデル106で成り立っている。触媒モデル102は、入力エミッションモデル108と充填レベル・出力エミッションモデル110とを有している。これに加えて触媒モデル102は、触媒26の平均充填レベルθ modを計算するためのアルゴリズム112を有している。
【0047】
入力エミッションモデル108は、入力量として、三元触媒26の前に配置された排ガスプローブ32の信号λin,measを、後続する充填レベル・出力エミッションモデル110のために必要な入力量win,modへと変換するためにセットアップされている。たとえば、入力エミッションモデル108を用いて三元触媒26の前のラムダがO,CO,H,HCの濃度に換算されるのが好ましい。
【0048】
入力エミッションモデル108によって計算された量win,modを用いて、および場合により追加の入力量(たとえば排ガス温度または触媒温度、排ガス質量流量、三元触媒26の現在の最大の酸素蓄積能力)を用いて、充填レベル・出力エミッションモデル110で三元触媒26の充填レベルθmodと、三元触媒26の出力部での個々の排ガス成分の濃度wout,modとがモデル化される。
【0049】
充填プロセスと放出プロセスをいっそう現実的に反映できるようにするために、三元触媒26がアルゴリズムによって仮想的に、排ガス28の流動方向に相前後して位置する複数のゾーンまたは部分容積26.1,26.2に下位区分されるのが好ましく、これらの各々のゾーン26.1,26.2についての反応動力学を用いて個々の排ガス成分の濃度が判定される。さらにこれらの濃度を、個々のゾーン26.1,26.2の充填レベルに換算することができ、好ましくは、現在の最大の酸素蓄積能力に対して標準化された酸素充填レベルに換算することができる。
【0050】
個々のゾーンまたは全部のゾーン26.1,26.2の充填レベルを、適当な重みづけによって、三元触媒26の状態を反映する全体充填レベルにまとめることができる。たとえばもっとも単純な事例では、全部のゾーン26.1,26.2の充填レベルをすべて同じに重みづけし、それに伴って平均の充填レベルを判定することができる。あるいは適当な重みづけによって、三元触媒26の後の目下の排ガス組成については、三元触媒26の出力部の比較的小さいゾーン26.2での充填レベルが決定的に重要であり、それに対して三元触媒26の出力部のこの小さいゾーン26.2における充填レベルの動向については、その前に位置するゾーン26.1における充填レベルとその動向が決定的に重要であることを考慮することもできる。便宜上、以下においては平均の酸素充填レベルを想定する。
【0051】
出力ラムダモデル106のアルゴリズムは、触媒モデル102を用いて計算された触媒26の出力部での個々の排ガス成分の濃度wout,modを、プラントモデル100のアダプションのために、触媒26の後に配置された排ガスプローブ34の信号λout,measと比較することができる信号λout,modへと変換する。三元触媒26の後のラムダがモデル化されるのが好ましい。出力ラムダモデル106は、目標酸素充填レベルをベースとするフィードフォワード制御のために絶対に必要というわけではない。
【0052】
それに伴ってプラントモデル100は、一方では、触媒26が確実に触媒ウィンドの範囲内にある(およびそれに伴って酸素の吸収も排出もすることができる)目標充填レベルに合わせて調節される、触媒26の少なくとも1つの平均充填レベルθ modをモデル化するための役目を果たす。他方ではプラントモデル100は、触媒26の後に配置された排ガスプローブ34のモデル化された信号λout,modを提供する。このモデル化された出力側の排ガスプローブ34の信号λout,modが、プラントモデル100のアダプションのためにどのように好ましく利用されるかはあとでさらに詳しく説明する。このアダプションは、プラントモデルの入力量、特に触媒の前のラムダプローブの信号が免れない不確実性を補うために行われる。同様にフィードフォワード制御もアダプトされる。
【0053】
図3は、本発明の方法態様と装置態様がいずれも明示された機能ブロック図を示している。具体的には図3は、出力ラムダモデル106によりモデル化された出力側の排ガスプローブ34の信号λout,modと、出力側の排ガスプローブ34の実際の出力信号λout,measとが、アダプションブロック114に供給されることを示している。アダプションブロック114はこれら両方の信号λout,mod,λout,measを相互に比較する。たとえば三元触媒26の後に配置されたジャンプ・ラムダプローブが排ガスプローブ34として、三元触媒26がいつ酸素で完全に充填されるか、またはいつ酸素が完全に放出されるかを一義的に表示する。
【0054】
このことを、リーン段階もしくはリッチ段階の後にモデル化された酸素充填レベルを実際の酸素充填レベルと一致させ、または、モデル化された出力ラムダλout,modを三元触媒26の後で測定されるラムダλout,measと一致させ、誤差がある場合にプラントモデル100をアダプトするために利用することができる。
【0055】
アダプションのブロック114から発する第1のアダプションパス220がフィードフォワード制御104へと通じている。このアダプションパス220を通じて、フィードフォワード制御104の逆触媒モデルで利用されているモデル化された充填レベルが、実際の充填レベルと照合される。このことは、フィードフォワード制御104でのモデル化された充填レベルの不連続的な修正(または再初期化)に相当する。
アダプションのブロック114から発する第2のアダプションパス210がプラントモデル100へと通じている。第2のアダプションパス210を通じて、プラントモデル100で利用されているモデル化された充填レベルが実際の充填レベルと照合される。このことは、プラントモデル100におけるモデル化された充填レベルの不連続的な修正(または再初期化)に相当する。
【0056】
不連続的な修正のこれら両方の介入は常に共同で、すなわち同時に行われるのが好ましい。フィードフォワード制御はプラントモデルの逆として設計されるからである。そうしないと、プラントモデル100とフィードフォワード制御104の両方の機能ブロックにおけるモデル化された充填レベルの非一貫性が生じることになる。
【0057】
これらの介入が第1のアダプション段階を形成する。これらの不連続的に行われるアダプションプロセスは、出力側の排ガスプローブ34の大きい信号値と小さい信号値(ただし中程度の信号値ではない)に依拠する。
【0058】
アダプションのブロック114から発する第3のアダプションパス200がフィードフォワード制御104へと通じている。第3のアダプションパス200を通じて、出力側の排ガスプローブ34の中程度の信号値に依拠する連続的なアダプションが行われる。このような中程度の信号値では、出力側の排ガスプローブ34の信号は排ガスのラムダ値を正確に表示する。
【0059】
入力側の排ガスプローブ32の不具合によって、または両方の排ガスプローブの間で行われる排ガスへの漏れ空気供給によって生じ得るオフセットΔλoffsがラムダ制御回路に生じると、中程度の信号値の領域にある出力側の排ガスプローブ34の信号が、このようなオフセットΔλoffsを予想される値からの逸脱として表示する。この逸脱がブロック114でたとえば信号値と予想値の差異として判定されて、フィードフォワード制御104でラムダ目標値への加算として算入される。このことは、たとえばラムダオフセット値Δλoffsが暫定的なフィードフォワード制御ラムダ値に加算されることによって行うことができる。
【0060】
アダプションの必要性が生じるのは、両方の値(信号値と予想値)が特に所定の閾値を超えて互いに相違しているときである。入力側のラムダ値についての目標ラムダ値と、判定された目標充填レベル軌跡を、アダプションの必要性を表す目安となるラムダオフセット値を用いて修正するのが好ましい。このようなアダプションの必要性を表す目安は、プラントモデルによってモデル化された出力側のラムダ値と、測定された出力側のラムダ値との間の相違から、特にその差異としてラムダオフセット値としてもたらされる。
【0061】
入力側のラムダ値についての目標ラムダ値が修正されることで、ラムダ制御がラムダオフセット値の変化に対して直接的に反応することができる。プラントモデルがアダプトされるので、モデル化された平均の充填レベルは実際の充填レベルからは外れるものの、目標充填レベル・目標値軌跡も同じくアダプトされるので、この目標充填レベル・目標値軌跡はプラントモデルのモデル化された誤った充填レベルに追随し、それにより充填レベル制御器はアダプションの前と後で同一の制御誤差を見出す。充填レベル制御の跳躍につながりかねない制御誤差の飛躍が、それによって回避される。
【0062】
アダプションの必要性を表す目安を、すなわちモデル化された出力側のラムダ値と測定された出力側のラムダ値との間の差異を、ラムダオフセット値を得るためにアダプションブロックでフィルタによって平滑化するのが好ましい。このフィルタはたとえばPT1フィルタとして構成されていてよく、動作点依存的な時間定数を有することができ、この時間定数は、たとえば相応のパラメータ化可能な特性マップから読み取ることができる。このフィルタには任意選択として、長期的な効果を考慮するために積分器が後置されていてよい。定常状態にあるとき、フィルタリングされた信号はアダプションの必要性に正確に呼応する。
【0063】
さらに、走行サイクルの最後にアダプション値を保存しておき、次回の走行サイクルで相応のアダプション値を初期値として利用するのが好都合である。
【0064】
1つの実施形態では、任意選択として第4のアダプションパス230がさらに存在する。第4のアダプションパスは、アダプションブロック114から、入力側の排ガスプローブ32のラムダ実際値がラムダオフセット値と加算により組み合わされるブロック240へと通じている。
【0065】
ラムダレベルで連続的に行われるアダプションは、ラムダオフセットがその原因を有している個所での修正に遅かれ早かれつながるのが好都合である。通常、このことは入力側の排ガスプローブ32で該当する。したがって、入力側の排ガスプローブ32の測定信号λin,measを信号Δλoffsによって修正するのが好ましい。このことは図3ではブロック240で行われる。それによってフィードフォワード制御とブロック240で二重の修正が生じないようにするために、ブロック240とアダプションブロック114の間のハンドシェークが好ましい。このハンドシェークは、たとえばハンドシェークパス250を通じて、フィードフォワード制御104のブロックについての修正信号が、ブロック240で入力側の排ガスプローブ32の信号の実際値と組み合わされる値の分だけ低減されるように行われる。そのために、両方の修正のうちの一方をたとえば0<x<1である係数xと乗算することができ、このとき両方の修正のうちの他方が係数(1-x)と乗算される。
【0066】
全体としてさまざまなアダプションプロセスにより、プラントモデル100に取り込まれる測定量またはモデル量の不正確性が補償される。モデル化された値λout,modが測定されたラムダ値λout,measに対応しているという状況から、プラントモデル100または第1の触媒モデル102によりモデル化される充填レベルθ modも、車載の手段によっては測定可能でない三元触媒26の充填レベルに対応していると推定することができる。そしてさらに、フィードフォワード制御104の一部を形成する、第1の触媒モデル102と逆の第2の触媒モデルも、モデル化されたプラントの挙動を正しく記述していると推定することができる。
【0067】
このことは、フィードフォワード制御104の一部を形成する第2の逆触媒モデルを用いてベースラムダ目標値を計算するために利用することができる。そのためにフィードフォワード制御104に、任意選択のフィルタリング120によりフィルタリングされる充填レベル目標値θ set,fltが入力量として供給される。フィルタリング120は、フィードフォワード制御104の入力量の変化のうち制御プラントが全体として追随することができるものだけを許容する目的のために行われる。なおもフィルタリングされなかった目標値θ setが、制御装置16の記憶装置118から読み出される。そのために記憶装置118は、内燃機関10の最新の動作特性量でアドレッシングされるのが好ましい。この動作特性量は一例として、ただし絶対にというわけではなく、回転数センサ25により検出される回転数や、エアマスセンサ18により検出される内燃機関10の負荷である。
【0068】
フィードフォワード制御ブロック104で、一方ではフィードフォワード制御ラムダ値がベースラムダ目標値BLSWとして決定され、他方では、フィルタリングされた充填レベル目標値に依存して目標充填レベル軌跡θ set,trjが決定される。この決定と並行して演算部122で、プラントモデル100もしくは第1の触媒モデル102を用いてモデル化された充填レベルθ modと、フィルタリングされた充填レベル目標値θ set,fltまたは目標充填レベル軌跡θ set,trjとの誤差として、充填レベル制御誤差FSRAが形成される。この充填レベル制御誤差FSRAが充填レベル制御アルゴリズム124に供給され、これがそこからラムダ目標値修正値LSKWを形成する。このラムダ目標値修正値LSKWが演算部126で、フィードフォワード制御104により計算されたベースラムダ目標値BLSWに加算される。
【0069】
こうして形成された合計が、従来式のラムダ制御の目標値λin,setとしての役目を果たすことができる。このラムダ目標値λin,setから、第1の排ガスプローブ32により提供されるラムダ実際値λin,measが演算部128で減算される。こうして形成された制御誤差RAが、通常の制御アルゴリズム130によって目標量SGに変換され、これが演算部132でたとえば内燃機関10の動作パラメータに依存して事前設定される噴射パルス幅tinjのベース値BWと乗算により組み合わされる。ベース値BWは制御装置16の記憶装置134に保存される。動作パラメータはここでも好ましくは、ただし絶対にというわけではなく、内燃機関10の負荷と回転数である。この積から導き出される噴射パルス幅tinjによって噴射弁22が制御される。
【0070】
第1の制御回路で行われる従来式のラムダ制御に、このようにして、第2の制御回路で行われる触媒26の酸素充填レベルの制御が重ね合わされる。このとき、プラントモデル100を用いてモデル化される平均の酸素充填レベルθ modが、たとえばリーンおよびリッチの発生の可能性を最小化し、そのようにして最小のエミッションをもたらす目標値θ set,fltに合わせて調節される。フィードフォワード制御104の第2の逆プラントモデルによってベースラムダ目標値BLSWが形成されるので、充填レベル制御の制御誤差がゼロに等しくなるのは、モデル化された平均の充填レベルθ modが予備フィルタリングされた目標充填レベルθ set,fltと同一になったときである。プラントモデル100の逆としてのフィードフォワード制御104の具体化は、プラントモデルを用いてモデル化された触媒の実際充填レベルが、フィルタリングされた充填レベル目標値θ set,fltまたはフィルタリングされていない充填レベル目標値θ setから外れているときにだけ、充填レベル制御アルゴリズム124が介入をすればよいという利点がある。
【0071】
プラントモデル100は、触媒の前の入力ラムダを触媒の平均の酸素充填レベルに換算するのに対して、逆プラントモデルとして具体化されるフィードフォワード制御104は、平均の目標酸素充填レベルを触媒の前の相応の目標ラムダへと換算する。
【0072】
フィードフォワード制御104は、既知であると前提される触媒26の第1のプラントモデル100をベースとする、数値的に逆の計算モデルを有している。フィードフォワード制御104は特に第2のプラントモデルを有していて、その連立方程式は第1のプラントモデル100の連立方程式と同一であるが、異なる入力量の供給を受ける。
【0073】
フィードフォワード制御104は、ラムダ制御のためのフィードフォワード制御ラムダ値BSLWと、フィルタリングされた充填レベル目標値に依存する目標充填レベル軌跡θ set,trjとを提供する。フィルタリングされた充填レベル目標値に対応するフィードフォワード制御ラムダ値BSLWを計算するために、フィードフォワード制御ブロック104は、プラントモデル100に対して逆のプラントモデルに相当する計算モデルを含んでおり、すなわち、フィルタリングされた充填レベル目標値にベースラムダ目標値BLSWを暫定的なフィードフォワード制御ラムダ値として割り当てるモデルを含んでいる。そして、BLSWが適切に選択されれば所望の充填レベルがもたらされる。
【0074】
このような方式の利点は、フォワード・プラントモデル100または100’についての連立方程式をもう一度解くだけでよく、高い計算コストをかけなければ解けない、または解くことができない、図3のフィードフォワード制御104のバックワード・プラントモデルについての連立方程式を解かなくてよいことにある。
【0075】
解かれるべき連立方程式は、たとえば二分法やはさみ打ち法などのインクルージョン法によって反復式に解かれる。このときベースラムダ目標値が反復式に変更される。はさみ打ち法などのインクルージョン法は一般に知られており、反復式の近似値を供給するだけでなく、それを両方の側から限定していくという特徴がある。該当するベースラムダ目標値BLSWを決定するための計算コストが、それによって明らかに制限される。
【0076】
制御装置16での計算コストを最小化するために、反復が実行される範囲を決定する反復限界が規定されるのが好ましい。この反復限界は、最新の動作条件に依存して規定されるのが好ましい。たとえば、予想される目標ラムダBLSWを中心とするできる限り狭いインターバルでのみ反復を実行するのが好ましい。さらに、反復限界を規定するにあたっては、目標ラムダBLSWに対する充填レベル制御124の介入およびその他の機能性の介入を考慮するのが好ましい。
【0077】
排ガスシステム26、排ガスプローブ32,34、エアマスセンサ18、回転角センサ25、および噴射弁22を例外として、図4に示すすべての部材は本発明による制御装置16の構成要素である。記憶装置118,134を例外として、図4のその他すべての部材は制御装置16に格納されていてその中で進行するエンジン制御プログラム16.1の一部である。
【0078】
部材22,32,128,130および132は、第1の排ガスプローブ(32)の信号λin,measがラムダ実際値として処理されるラムダ制御が行われる第1の制御回路を形成する。第1の制御回路のラムダ目標値λin,setは、部材22,32,100,122,124,126,128,132を有する第2の制御回路で形成される。
【0079】
さまざまなアダプションの選択肢に関して、連続的なアダプションが少なくとも1つの不連続的な修正と組み合わされるのが好ましい。その際に利用されるのは、触媒の後のジャンプ・ラムダプローブの電圧信号から、根本的に異なる2つの帰結を触媒の状態に関して導き出すことができ、これらの帰結の妥当性はそれぞれ電圧信号の特定の電圧領域でのみ与えられ、一方もしくは他方の帰結のみが可能であるか、または両方の帰結が同時に可能である電圧領域があることである。これらの領域の間の移行は流動的である。
【0080】
触媒26の後の出力側の排ガスプローブ34が高い電圧または低い電圧を一義的に表示しているとき、その信号値は触媒の最新の充填レベルと相関関係にある。このことが特に該当するのは、信号値が1の領域のラムダに相当していない場合である。このようなケースでは触媒は、リッチまたはリーンの排ガスが発生する程度まで酸素が放出されており、またはその程度まで酸素で充填されている。このようなケースでは、排ガスラムダに関する情報は通常可能ではない。この場合、信号値のラムダ精度が温度効果、横感度、および排ガスプローブ34としてのジャンプ・ラムダプローブの電圧ラムダ特性曲線の誤った特性によって著しく損なわれているからである。
【0081】
ラムダ=1を中心とする狭い範囲内で、出力側の排ガスプローブ34(ジャンプ・ラムダプローブ)の信号値は触媒の後の排ガスラムダと相関する。この範囲内でのラムダ精度は、電圧ラムダ特性曲線の急峻な特性と、低い温度依存性ならびに横感度とに基づいて非常に高い。触媒26の最新の充填レベルに関する情報は、このケースでは通常は可能でない。排ガス成分の還元時に遊離する酸素がまだ蓄えられる限り、または、排ガス成分の酸化のために必要な酸素をまだ放出することができる限り、触媒26は比較的広い充填レベル範囲で1の排ガスラムダを調整することができるからである。
【0082】
これらの領域の間の移行部では、出力側の排ガスプローブ34の信号値は、そのつど制約された精度をもってではあるが、最新の充填レベルとも触媒の後の最新の排ガスラムダとも同時に相関する。
【0083】
したがって1つの実施形態では、出力側の排ガスプローブ34の電圧/信号値に依存して、ラムダ情報を利用した連続的なアダプションのみ、または充填レベル情報を利用した不連続的な修正のみ、またはこれら両方の情報を利用した連続的なアダプションと不連続的な修正のいずれかが目的に即している複数の領域が存在する。
【0084】
たとえば、出力側の排ガスプローブ34の電圧信号値の次のような5つの電圧領域を区別するのが好適である。
【0085】
1)非常に高い電圧信号値(たとえば900mV超)。ここでは、モデル化された酸素充填レベルの不連続的な修正が非常に低い値に合わせて行われる。連続的なアダプションは行われない。
【0086】
2)高い電圧信号値(たとえば900mVから800mVの間)。ここでは、モデル化された酸素充填レベルの不連続的な修正が低い値に合わせて行われ、触媒の前のラムダと触媒の後のラムダとの間のラムダオフセットの連続的なアダプションが重ね合わせて行われる。
【0087】
3)中程度の電圧信号値(たとえば800mVから600mVの間)。ここでは、触媒の前のラムダと触媒の後のラムダとの間のラムダオフセットの連続的なアダプションが行われる。不連続的なアダプションは行われない。
【0088】
4)低い電圧信号値(たとえば600mVから400mVの間)。モデル化された酸素充填レベルの不連続的な修正が高い値に合わせて行われ、触媒の前のラムダと触媒の後のラムダとの間のラムダオフセットの連続的なアダプションが重ね合わせて行われる。
【0089】
5)非常に低い電圧信号値(たとえば400mV未満)。ここでは、モデル化された酸素充填レベルの不連続的な修正が非常に高い値に合わせて行われる。連続的なアダプションは行われない。
【0090】
数値は、適用される排ガスプローブ型式に強く依存し、一例としてのみ理解されるべきものである。これ以外の領域を付け加えることもでき、各領域をまとめたり省略することもできるのは自明である。
【0091】
領域1)、2)、4)、および5)におけるようなモデル化された充填レベルの不連続的な修正は、モデル化された充填レベルの目標値からの逸脱をもたらす。これがその後に補正される。この逸脱は、充填レベル制御の目標値の方向への空気・燃料混合物の調節をもたらし、触媒を非常に迅速に触媒ウィンドの方向へと移す。すなわちこの逸脱はエミッション改善へと直接的につながり、比較的大きい測定とモデルの不正確性を迅速に補償することができる。
【0092】
このような修正段階の後に、すなわち修正の結果としての制御誤差が補正されるとただちに、触媒が再び触媒ウィンドの中に入り、制御に基づいてそこにとどまるのが望ましい。その前提となるのは、プラントモデルに取り込まれる測定量またはモデル量の不確実性、およびモデル不正確性が十分に小さいことである。この前提が満たされないとき、制御にもかかわらず、ある程度の時間後に再び触媒ウィンドから外れる。調整されたモデル化された充填レベルが実際の充填レベルに即していないからであり、そのため、モデル化された充填レベルの新たな修正が必要になる。
【0093】
領域1)および5)でそのような修正が繰り返し必要になるときには、比較的大きい測定またはモデルの不確実性があると考えざるを得ない。これを補償すると同時に修正のさらなる繰返しを回避するために、領域1)および5)では、第1の修正段階に引き続いて第2の修正段階までに触媒に取り込まれる、またはこれから取り出される酸素量と、第2の修正段階で判定される充填レベルの修正の必要性Δθ・OSCとから、たとえば次式に従い、触媒の前のラムダと触媒の後のラムダの間のラムダオフセットλoffsを計算して、たとえば入力側の排ガスプローブ32の信号値を相応に修正するのが好ましい。
【数1】
【0094】
ここで、K・∫mLuftは2つの不連続的な修正の間に触媒26に取り込まれる、またはこれから取り出される酸素量であり、Δθ・OSCは第2の修正段階で判定される充填レベルについての修正の必要性であり、Δθは-1から1の間の数であり、OSCは触媒の最大の酸素蓄積能力である。
【0095】
領域2)および4)では、典型的な場合、比較的小さな測定またはモデルの不正確性しか存在せず、これは理想的にはモデル化された酸素充填レベルの1回の修正によって、およびラムダオフセットλoffsの重ね合わされた連続的なアダプションによって、ラムダプローブの電圧がその後に領域3)に入る程度まですでに補償することができる。
【0096】
これが該当するようになるとただちに、あとは小さな測定またはモデルの不確実性を補償するだけでよいと考えることができる。このことは、連続的なアダプションによって高い精度で行われる。領域2)および4)では出力側の排ガスプローブ34の信号のラムダ精度が比較的低いので、これらの領域では連続的なアダプションによって判定されるラムダオフセットλoffsを領域3)よりも低い強さで重みづけするのが好ましい。同様に、過剰修正を確実に回避するために、判定された修正の必要性を引き下げることによって、領域2)および4)における触媒の後のラムダプローブの信号の充填レベル情報の比較的低い精度を考慮に入れるのが好ましい。
【0097】
特別に好ましい実施形態では、触媒の後のラムダプローブの電圧の3つの領域だけが区別される。
【0098】
図4は一例として、出力側の排ガスプローブ34の電圧のn個の領域について、出力側の排ガスプローブ34の3つの電圧領域を重みづけスケールに対して示している。
【0099】
信号値が高い第1の領域260は、たとえば800mVよりも大きい高いプローブ電圧/信号値によって特徴づけられる。この領域では第1の段階で、モデル化された酸素充填レベルの迅速で不連続的な修正が、プローブ電圧に依存する低い値に合わせて行われる。さらに、触媒の前のラムダと触媒の後のラムダの間のラムダオフセットの正確でゆっくりとした判定が行われ、連続的なアダプションの重みはプローブ電圧が増すにつれて減少していき、不連続的なアダプションの重みはプローブ電圧/信号値が増すにつれて増加していく。
【0100】
中程度の信号値の第2の領域280は、たとえば(ラムダ=1を中心として)800mVから600mVの間にある中程度のプローブ電圧/信号値によって特徴づけられる。この領域では、触媒の前のラムダと触媒の後のラムダの間のラムダオフセットの連続的なアダプションのみが行われる。不連続的なアダプションは行われない。
【0101】
信号値の低い第3の領域300は、たとえば600mVよりも低い、低いプローブ電圧/信号値によって特徴づけられる。この領域では第1の段階で、モデル化された酸素充填レベルの迅速で不連続的な修正が、プローブ電圧に依存する高い値に合わせて行われる。さらに、触媒の前のラムダと触媒の後のラムダの間のラムダオフセットの正確でゆっくりとした判定が行われ、連続的なアダプションの重みはプローブ電圧が減るにつれて減少していき、不連続的なアダプションの重みはプローブ電圧が減るにつれて増加していく。
【0102】
第1の領域260と第3の領域300における出力側の排ガスプローブ34の信号値の低下したラムダ精度、および中程度のプローブ電圧における出力側の排ガスプローブ34としてのジャンプ・ラムダプローブの信号値の充填レベル情報の低下した正確性が、連続的なラムダオフセットアダプションと不連続的なラムダオフセット判定の結果のそれぞれ異なる重みづけによって考慮される。
【0103】
誤った修正またはアダプションを回避するために、適当な動作条件が整っているときにのみ個々の修正とアダプションが行われるのが好ましい。たとえば、上述したすべての修正とアダプションを成功裡に実行できるのは、排ガス側の排ガスプローブ34の信号が信頼できる場合に限られ、特に、当該排ガスプローブ34の動作準備が整っている場合に限られることは自明である。個々の修正とアダプションについて、各々の修正またはアダプションが誤った修正またはアダプションにつながることなく、可能な限り頻繁にアクティブになることを可能にする独立したスイッチオン条件が選択されるのが好ましい。
【0104】
ラムダオフセット判定のための両方の方式の本発明に基づく組み合わせ、触媒の状態に関する2つの異なる情報の利用、および基礎となる測定信号の相違する領域でのこれらの情報の信頼度の考慮によって、測定とモデルの不正確性を従来よりも迅速かつ同時にロバストに所要の精度で補償することができる。
【符号の説明】
【0105】
10 内燃機関
16 制御装置
22,32,128,130,132 制御回路
26 触媒
34 排ガスプローブ
100 プラントモデル
102 触媒モデル
104 フィードフォワード制御
200,210,220,230 パス
260,280,300 信号領域
図1
図2
図3
図4