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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】液体中のNDIRグルコース検出
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3577 20140101AFI20240409BHJP
【FI】
G01N21/3577
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019547585
(86)(22)【出願日】2017-11-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-14
(86)【国際出願番号】 US2017062475
(87)【国際公開番号】W WO2018098058
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2020-11-20
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】15/358,873
(32)【優先日】2016-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/444,136
(32)【優先日】2017-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/594,418
(32)【優先日】2017-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/644,775
(32)【優先日】2017-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/785,829
(32)【優先日】2017-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519180312
【氏名又は名称】エアウェア インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AIRWARE, INC.
【住所又は居所原語表記】8 Northam Avenue,Newbury Park,CA 91320,U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブ ワイ ウォン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス キャンベル
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】松本 隆彦
【審判官】渡戸 正義
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-534661(JP,A)
【文献】特開2007-175514(JP,A)
【文献】特開2000-230900(JP,A)
【文献】特開2016-010717(JP,A)
【文献】特表2011-522264(JP,A)
【文献】米国特許第6509567(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/00-21/01
G01N21/7-21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの干渉分子Mがターゲット分子Mと共存する液体サンプリングマトリックス中の所与の時間期間内における前記ターゲット分子Mの濃度を判定するプロセスであって、
第1信号ソース、干渉ソースとしての第2信号ソース、及び基準ソースからの赤外線放射をマルチプレクサ内にパルス化し、且つ前記マルチプレクサを離脱した放射を、前記液体サンプリングマトリックスのスポットの法線に対して傾斜角度(θ)において方向付けされるパルス化ビームにコリメートするステップと、
前記スポット内に貫通した後の前記パルス化ビームから、パルス化第1信号及び基準チャネル出力並びにパルス化干渉信号としてのパルス化第2信号及び基準チャネル出力として、前記スポットから出現した後の赤外線放射を検出器によって検出するステップと、
前記パルス化第1信号及び基準チャネル出力から、第1の予め選択された時間期間(「t」)にわたるRave(t)の平均比率値を取得するために信号処理を使用するステップであって、Rave(t)=前記第1の予め選択された時間期間にわたる第1信号チャネル出力/基準チャネル出力である、ステップと、
前記パルス化干渉信号としてのパルス化第2信号及び基準チャネル出力から、第2の予め選択された時間期間(「t2」)にわたるRJave(t)の平均比率値を取得するために信号処理を使用するステップであって、RJave(t)=前記第2の予め選択された時間期間にわたる第2信号チャネル出力/基準チャネル出力である、ステップと、
ave(t)及較正曲線の使用により、前記液体サンプリングマトリックス中の前記ターゲット分子Mの前記濃度を算出するために電子回路を使用するステップと、
前記電子回路からの出力として、前記液体サンプリングマトリックス中の前記ターゲット分子Mの前記濃度を提供するステップと
を含み、
前記第1信号ソースは、前記ターゲット分子Mの第1の吸収帯域内である信号波長において放射を放出し、前記干渉ソースとしての前記第2信号ソースは、前記少なくとも1つの干渉分子Mの第2の吸収帯域内である干渉波長において放射を放出し、及び前記基準チャネル出力は、中立であり、且つ前記第1の吸収帯域又は前記第2の吸収帯域のいずれかの中ではない基準波長において放射を放出し、
前記少なくとも1つの干渉分子Mは、前記信号波長において放射を吸収し、
前記第1信号ソース、前記干渉ソースとしての前記第2信号ソース、及び前記基準ソースは、予め選択された周波数(少なくともNHz)であって少なくともNHzの予め選択された周波数においてそれぞれパルス化され
前記NHzの周波数は、少なくとも10%のデューティファクタを伴って10KHz超である、プロセス。
【請求項2】
前記パルス化ビームは、前記第1信号ソース、それに続く前記基準ソース、それに続く前記干渉ソースとしての前記第2信号ソース、それに続く前記基準ソースの反復するパターンの交互の且つ連続的なパルス化から構成される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記パルス化ビームは、前記第1信号ソース、前記基準ソース、及び前記干渉ソースとしての前記第2信号ソースの反復するパターンの交互の且つ連続的なパルス化から構成される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
t=tである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記第1信号チャネル出力は、1,150nm(1.150μ)の信号ビーム中心波長を有し、及び前記基準チャネル出力は、1,060nm(1.06μ)の中心波長を有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記第2信号チャネル出力は、1,210nmの中心波長を有する、請求項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記ターゲット分子Mは、グルコースである、請求項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記少なくとも1つの干渉分子Mは、身体の間質液中に含有されている複数の干渉分子から構成される、請求項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記スポットから出現する放射は、レンズによって前記検出器上に収集される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
少なくとも1つの干渉分子Mがターゲット分子Mと共存する液体サンプリングマトリックス中の所与の時間期間内における前記ターゲット分子Mの濃度を判定する装置であって、
第1信号ソースと、
干渉ソースとしての第2信号ソースと、
基準ソースと、
前記第1信号ソース、前記干渉ソースとしての第2信号ソース、及び前記基準ソースからの赤外線放射を、前記液体サンプリングマトリックスのスポットの法線に対して傾斜角度(θ)において方向付けされるパルス化ビームにパルス化するように構成されたマルチプレクサ及びコリメータと、
前記スポットに貫通した後の前記パルス化ビームから、第1パルス化信号及び基準チャネル出力並びにパルス化干渉信号としてのパルス化第2信号、及び基準チャネル出力として、前記スポットから出現した後の赤外線放射を検出するように構成された検出器と、
信号処理であって、
前記第1パルス化信号及び基準チャネル出力から、第1の予め選択された時間期間(「t」)にわたるRave(t)の平均比率値を取得することであって、Rave(t)=前記第1の予め選択された時間期間にわたる第1信号チャネル出力/基準チャネル出力である、取得することと、
前記パルス化干渉信号としてのパルス化第2信号、及び基準チャネル出力から、第2の予め選択された時間期間(「t」)にわたるRJave(t)の平均比率値を取得することであって、RJave(t)=前記第2の予め選択された時間期間にわたる第2信号チャネル出力/基準チャネル出力である、取得することと
のための信号処理と、
ave(t)及較正曲線の使用により、前記液体サンプリングマトリックス中の前記ターゲット分子Mの前記濃度を算出し、且つ前記液体サンプリングマトリックス中の前記ターゲット分子Mの前記濃度を出力として提供するように構成された電子回路と
を含み、
前記第1信号ソースは、前記ターゲット分子Mの第1の吸収帯域内である信号波長において放射を放出し、前記干渉ソースとしての第2信号ソースは、前記少なくとも1つの干渉分子Mの第2の吸収帯域内である干渉波長において放射を放出し、及び前記基準チャネル出力は、中立であり、且つ前記第1の吸収帯域及び前記第2の吸収帯域のいずれかの中ではない基準波長において放射を放出し、
前記少なくとも1つの干渉分子Mは、前記信号波長において放射を吸収し、
前記第1信号ソース、前記干渉ソースとしての第2信号ソース、及び前記基準ソースは、予め選択された周波数(少なくともNHz)であって少なくともNHzの予め選択された周波数においてそれぞれパルス化され
前記NHzの周波数は、少なくとも10%のデューティファクタを伴って10KHz超である、装置。
【請求項11】
前記パルス化ビームは、前記第1信号ソース、それに続く前記基準ソース、それに続く前記干渉ソースとしての前記第2信号ソース、それに続く前記基準ソースの反復するパターンの交互の且つ連続的なパルス化から構成される、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記パルス化ビームは、前記第1信号ソース、前記基準ソース及び前記干渉ソースとしての前記第2信号ソースの反復するパターンの交互の且つ連続的なパルス化から構成される、請求項10に記載の装置。
【請求項13】
t=tである、請求項10に記載の装置。
【請求項14】
前記第1信号チャネル出力は、1,150nm(1.150μ)の信号ビーム中心波長を有し、及び前記基準チャネル出力は、1,060nm(1.06μ)の中心波長を有する、請求項10に記載の装置。
【請求項15】
前記第2信号チャネル出力は、1,210nmの中心波長を有する、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記ターゲット分子Mは、グルコースであり、前記少なくとも1つの干渉分子Mは、身体の間質液中に含有されている複数の干渉分子から構成され、及び前記スポットから出現する放射は、レンズによって前記検出器上に収集される、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
少なくとも1つの干渉分子Mがターゲット分子Mと共存する液体サンプリングマトリックス中の所与の時間期間内における前記ターゲット分子Mの濃度を判定する装置であって、前記ターゲット分子Mは、グルコースであり、及び前記少なくとも1つの干渉分子Mは、身体の間質液中に含有されている複数の干渉分子から構成され、前記装置は、
第1信号ソースと、
干渉ソースとしての第2信号ソースと、
基準ソースと、
前記第1信号ソース、前記干渉ソースとしての第2信号ソース、及び前記基準ソースからの赤外線放射を、前記液体サンプリングマトリックスのスポットの法線に対して傾斜角度(θ)において方向付けされるパルス化ビームにパルス化するように構成されたマルチプレクサ及びコリメータと、
前記パルス化ビームであって、前記スポット内に貫通した後であり、且つ前記スポットから出現する放射がレンズによって前記検出器上に収集された後の前記パルス化ビームから、第1パルス化信号及び基準チャネル出力並びにパルス化干渉信号としてのパルス化第2信号、及び基準チャネル出力として、前記スポットから出現した後の赤外線放射を検出するように構成された検出器と、
信号処理であって、
前記第1パルス化信号及び基準チャネル出力から、第1の予め選択された時間期間(「t」)にわたるRave(t)の平均比率値を取得することであって、Rave(t)=前記第1の予め選択された時間期間にわたる第1信号チャネル出力/基準チャネル出力である、取得することと、
前記パルス化干渉信号としてのパルス化第2信号、及び基準チャネル出力から、第2の予め選択された時間期間(「t」)にわたるRJave(t)の平均比率値を取得することであって、RJave(t)=前記第2の予め選択された時間期間にわたる第2信号チャネル出力/基準チャネル出力である、取得することと
のための信号処理と、
ave(t)及較正曲線の使用により、前記液体サンプリングマトリックス中の前記ターゲット分子Mの前記濃度を算出し、且つ前記液体サンプリングマトリックス中の前記ターゲット分子Mの前記濃度を出力として提供するように構成された電子回路と
を含み、
前記第1信号ソースは、1,150nm(1.150μ)の信号ビーム中心波長を有する放射を放出し、前記干渉ソースとしての第2信号ソースは、1,210nmの中心波長を有する放射を放出し、及び前記基準チャネル出力は、1,060nm(1.06μ)の中心波長を有する放射を放出し、
前記少なくとも1つの干渉分子Mは、そのような信号波長において前記放射を吸収し、
前記第1信号ソース、前記干渉ソースとしての第2信号ソース及び前記基準ソースは、予め選択された周波数(少なくともNHz)であって、少なくとも10%のデューティファクタを伴って10kHz超であり少なくともNHzの予め選択された周波数においてそれぞれパルス化される、装置。
【請求項18】
前記パルス化ビームは、前記第1信号ソース、それに続く前記基準ソース、それに続く前記干渉ソースとしての第2信号ソース、それに続く前記基準ソースの反復するパターンの交互の且つ連続的なパルス化から構成される、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記パルス化ビームは、前記第1信号ソース、前記基準ソース及び前記干渉ソースとしての第2信号ソースの反復するパターンの交互の且つ連続的なパルス化から構成される、請求項17に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射検出技法を介して、ターゲット分子による弱い吸収、液体バックグラウンド吸収によるプロービングエネルギーの弱化並びに散乱及び吸収干渉ノイズ(AIN)の両方の抑制を軽減する、液相において分子を検出するための改善された非分散型赤外線(NDIR)吸収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非分散型赤外線(NDIR)は、雰囲気中のガスを検出するための一般的な計測原理である。NDIRセンサは、様々なガスが赤外線放射スペクトルにおける特定の波長で大きい吸収を示すという原理を利用する。本明細書において使用される「非分散型」という用語は、計測を目的として、計測されるガスの強力な吸収帯域と一致する特定の波長帯域内の放射を隔離するためにプリズム又は回折格子などの分散型の要素の代わりに使用される装置を意味し、通常、狭帯域の光又は赤外線透過フィルタである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、ガス中ではなく、液体媒質中の分子を検出するためのNDIRの使用から生じる問題への対処に関係する。
【0004】
この及び更なる目的及び利点は、以下に記述される本発明の図及び詳細な説明に関連して当業者に明らかになるであろう。
【0005】
本発明は、一般に、少なくとも1つの干渉分子Mが、NDIRプロセスで使用される信号波長において放射を吸収する際、NDIRの使用を通して、液相における選択された分子Mのサンプル濃度を判定するために有用である装置を対象とする。1つ又は複数の干渉分子Mによる吸収について補償するために、干渉ソースと呼称される第3のソースが追加される。信号ソースは、ターゲット分子Mの第1の吸収帯域内である波長における放射を放出し、干渉ソースは、前記少なくとも1つの干渉分子Mの第2の吸収帯域内である干渉波長において放射を放出し、及び基準ビームは、中立であり、且つ第1の吸収帯域又は第2の吸収帯域のいずれかの中ではない基準波長において放射を放出する。信号ソース、干渉ソース及び基準ソースは、少なくともNHz(例えば、少なくとも10%のデューティファクタを伴って10KHz以上)の予め選択された周波数であって、ターゲット分子M又は干渉分子Mの所与の分子が、予め選択された周波数において液体サンプリングマトリックス内に且つそれから通過しないように十分に高速である、少なくともNHzの予め選択された周波数においてそれぞれパルス化される。このような方法は、米国特許第9,606,053号明細書で開示されているように、NDIR技法が、気相ではなく液相において分子を検出するために使用される際、散乱ノイズを大幅に抑制する。
【0006】
信号、干渉及び基準ソースは、マルチプレクサ内にパルス化され、且つスポットにおいて液体を収容するサンプル空間の法線に対して傾斜角度(π/2-θ)において方向付けされるパルス化ビームにコリメートされる。検出器は、スポットから出現した後の赤外線放射をパルス化信号として検出する。それぞれ波長λ及びλにおけるその濃度Cの関数としての液体中のターゲット分子の透過率の計測を介して、吸収係数αMNC(λ)及びαMNC(λ)を生成するために、信号処理電子回路が使用される。液体の状態は、分析的に判定されると、米国特許第9,726,601号明細書で開示されているように、液体中のターゲット分子の較正曲線F(C,β)が吸収干渉ノイズ(AIN)の抑制において確立され得るようにパラメータβによって表記される。
【0007】
本発明の目的は、反射サンプリング技法の使用を介して、NDIRを介した干渉分子の存在下における液体中のグルコース分子の計測で散乱ノイズ及び吸収干渉ノイズ(AIN)の両方の抑制の利点を維持する、機能的且つ実際的なグルコースセンサ設計を更に提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】信号ダイオードレーザー及び基準ダイオードレーザーが高速波形生成器によって交互に且つ連続的に駆動される方式を示す。
図2】信号ダイオードレーザー及び基準ダイオードレーザーの出力が、光マルチプレクサの使用を介して、両方のダイオードレーザーを交互に且つ連続的に表す単一の放射ビームとして組み合わされる方式を示す。
図3】液体マトリックス及び更なる任意の光学要素を収容するサンプルチャンバを通過した後の、赤外線検出器までの組み合わされた信号及び基準ダイオードレーザービームの軌跡を示す。
図4】最終的なデータ処理及び分析のためのコンピュータ内への入力前にアナログ赤外線検出器信号をデジタルデータに変換するステップを示す。
図5】デジタル化前の組み合わされたレーザービームのための信号及び基準ダイオードレーザーを駆動するためのアナログ電圧出力及びアナログ検出器出力を示す。
図6】ミリグラム/100c.c.(mg/dL)を単位として計測される液体中の粒子濃度レベルの関数として、信号及び基準ビームのセンサ出力比率Rave(t)を示すNDIR液体センサのための較正曲線を示す。
図7】ターゲット分子M及び干渉分子M(MJ1及びMJ2)の正規化済みの吸収係数を波長の関数として示す。
図8】干渉分子によって生成される吸収干渉ノイズ(AIN)の存在を伴うことなく、吸収係数の関数として分子Mの濃度の較正曲線F(C,β)の組を示す。
図9】信号ダイオードレーザー、基準ダイオードレーザー及び干渉ダイオードレーザーが3チャネル高速波形生成器によって交互に且つ連続的に駆動される方式を示す光学セットアップを示す。
図10】液体サンプル中のターゲット分子の濃度を判定するための本発明による光反射システムの設計を示す。
図11】信号ダイオードレーザー、基準ダイオードレーザー及び干渉ダイオードレーザーが3チャネル高速波形生成器によって交互に且つ連続的に駆動され、及び光マルチプレクサによって単一の放射ビームにファイバ結合される方式を示す光学セットアップを示す。
図12】液体中のグルコース分子の濃度を判定するための本発明による効率的且つ実際的な反射センサの設計を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
気相において分子を検出するために使用されるNDIRセンサは、通常、放射を、検出されるガスの吸収帯域と一致する放射のみを通過させるスペクトルフィルタを有する検出器にサンプルチャンバを通して送る赤外線ソースを利用する。このようなNDIRセンサのノイズソースは、主にソース、検出器及びセンサ環境の温度に由来する。
【0010】
従来のNDIR技法は、ノイズを低減するためにダブルビーム構成を使用する。信号チャネルと呼称される第1のチャネルは、ターゲットガスを検出するために選択された吸収波長と、ターゲットガスの吸収と一致する第1のフィルタを有する第1の検出器とを使用する。基準チャネルと呼称される第2のチャネルは、吸収波長に近接して配置された(ターゲットガスが吸収しない)中立波長を使用し、ターゲットガスの吸収と決して一致しない第2のフィルタを有する第2の検出器を有する。放射が同一のソースから発せられる状態で2つの異なる検出器が存在するため、信号及び基準チャネルは、2つの異なるビーム経路を有する。その理論は、信号チャネルが、信号チャネルにノイズを導入し得るすべての非ガス現象の影響を等しく受け、従って2つのチャネル、即ち信号及び基準チャネルの出力の比率を取得することにより、センサ内において不可避的に存在するノイズ生成要因のすべてを極小化し得るというものである。従って、理想的には、比率に影響するのは、光学経路内でのターゲットガスの存在のみである。ダブルビーム構成がノイズの低減においてこのように良好に機能する理由は、気相における粒子が、その間の多数の空間を伴って相互に高度に分離されるためである。ガス分子は、通常、非常に高速で動き、且つ約500m/sの近傍の分子速度を有する。この結果、任意の特定の瞬間において、ソースと検出器との間にそれ自体が見出されるのは、(検出のためのターゲット分子を含む)非常にわずかな数の分子のみである。これは、望ましくない散乱に起因する外来ノイズが非常に小さく、従って他の従来のノイズソースとの比較で無視され得る、この特定の粒子環境によるものである。
【0011】
液体中の分子を検出するためにNDIRの使用が所望される場合、新しいノイズのソース、即ち気相における分子密度と液相における分子密度との間の差に起因する散乱を介したものが導入される。ソースと検出器との間に位置する分子によるソース放射の散乱は、分子間の大量の自由空間に起因して、ガス媒質中では大きいノイズのソースではないが、これは、分子間の自由空間が大幅に低減される液相では大きいノイズのソースとなり得る。
【0012】
気相及び液相において一般的である異なる粒子環境に起因して、粒子の検出のためのNDIR吸収技法は、液相ではなく気相において良好に機能する。この問題を解決するため、本発明は、NDIR吸収技法が、まさに気相におけるように液相でも機能するようにする方法及び装置を提供するための前例のない方式を採用する。従来のNDIR吸収技法と同一のダブルビーム構成が踏襲されるが、これは、信号チャネルのものから外れている中立波長で動作する第2のチャネルの使用を含む。2つのチャネル、即ち信号及び基準からの信号出力の比率を処理することにより、予想されるように、センサの性能に影響する誤差生成要因のいくつかは、気相において同一の技法を使用する際にまさにそれらが同様に除去されるように除去される。本方法の更なる且つ固有の特徴は、信号及び基準ビームの両方が計測時にほぼ正確に同一の粒子環境に遭遇するセンサハードウェア構成を提供することである。これは、以下の4つのステップを実行することにより実現される。
【0013】
ステップ1は、それぞれがその独自のパルス化ソースを有する状態で信号ビーム及び基準ビームを別個に動作させることである。更に、両方のビームのソースは、通常、ほぼ20~25%であるデューティファクタを伴って10KHz超である同一の且つ非常に大きい周波数レートでパルス化される。この高パルス周波数要件に起因して、半導体LED及び/又はダイオードレーザーソースのみが満足できるものとなる。
【0014】
ステップ2は、一度に1回ずつ且つ特に好適な実施形態ではそのパルス化時間期間の半分以下だけ分離した状態において、交互に且つ連続的にオンにされるように信号及び基準ソースの出力をタイミング設定することである。更に、これら2つのソースの出力は、信号及び基準ビームの両方が単一の赤外線検出器によって検出される前に液体マトリックスの同一の空間を物理的に横断するように、マルチプレクサ又は同一の機能を実行する他の手段を介して光学的に組み合わされる。検出器は、信号及び基準ビームからの高速で入射する放射パルスから正しい信号出力を十分に生成するために十分に高速な応答時間を有する必要がある。
【0015】
ステップ3は、信号及び基準チャネルの波長を選択することである。信号チャネルのための波長の選択肢は、計測されるターゲット粒子の吸収帯域と一致しなければならない。基準チャネルの波長は、中立でなければならず、吸収から外れているが、それに可能な限り近接していなければならず、且つ決してそれと一致してはならない。基準チャネルの波長を選択するこの方法は、散乱を目的とした同一の粒子環境が、(それらの波長がほとんど同一である場合に)信号ビーム及び基準ビームの両方についてほとんど同一であることを保証することに関係する。これは、弾性散乱が入射ビームにおける放射の波長の関数であるという事実によるものである。
【0016】
ステップ4は、検出器によって受け取られたデータの処理であり、液体中の粒子の濃度レベルを取得するために較正手順が実行される方式を説明する。信号ビーム及び基準ビームがNHz(N>10)で交互に且つ連続的にパルス化される際、それぞれの生成された信号チャネル出力及び対応する基準チャネル出力ごとに比率値「R」が算出され、即ちR=信号/基準である。NHzのパルスレートにおいて、このようなN個の比率値が毎秒生成される。秒を単位とする「t」の予め選択されたパルス化時間期間の場合、N×「t」個の比率値が生成される。この時間期間「t」にわたるRの平均値、即ちRave(t)は、液体中の粒子の濃度に照らして較正される。従って、検出器出力を分析するための信号処理技法を使用することによって得られたRave(t)の値は、液体中の粒子の濃度レベルをもたらす。
【0017】
本発明は、液相における分子の密度が非常に大きいが、液相において動いている分子の速度が非常に低速であり、通常、約5mm/秒であるという事実を活用する。従って、サンプリングマトリックスの断面積が数mmのレベルであると仮定することにより、分子がサンプリングエリアの内部及び外部において多数回にわたって運動するために要する時間は、数百ミリ秒のレベルである。従って、信号ビームと基準ビームとの間の計測時間が1ミリ秒の数十分の1のレベルである場合、計測時に両方のビームによって横断される粒子環境は、ほとんど不変であるか又は実質的に同一であると見なすことができる。換言すれば、その個々の計測時の信号及び基準チャネルのための粒子環境は、液相において上述のステップ1~4が実行された際にほとんど変化しないことから、望ましくない散乱の現象は、両方のビームについてほとんど同一の状態に留まり、これにより液相サンプリング環境から生じる散乱に帰され得るノイズの大幅な低減及び抑制の結果がもたらされる。
【0018】
図1図4は、ソースと検出器との間の液体マトリックス中の多数の可動粒子の存在に起因する望ましくない散乱ノイズを抑制することにより、NDIR吸収技法を液相において機能可能にする方法を実装するために使用される特別に設計された装置を概略的に示す。
【0019】
図1に示されるように、信号ダイオードレーザー4及び基準ダイオードレーザー5をそれぞれ駆動するために電圧パルス2及び3を交互に且つ連続的に生成するように2チャネル高速波形生成器1(>10KHz)が利用される。図1に示されるように、ダイオードレーザー4及びダイオードレーザー5の両方の出力は、それぞれ光ファイバ6及び7に接続される。信号ダイオードレーザー4の狭いスペクトル出力は、液体マトリックス中の検出されるターゲット分子の吸収帯域と一致するように選択される。但し、基準ダイオードレーザー5の狭いスペクトル出力は、検出される液体マトリック中のターゲット分子の吸収帯域から外れているが、それと近接するように選択される。
【0020】
図2は、信号レーザービーム4及び基準レーザービーム5の出力が赤外線検出器上で合焦される前に単一の放射ビームとして空間的に組み合わされる方式を示す。図2に示されるように、信号レーザービーム6の出力及び基準レーザービーム7の出力は、コリメーティングレンズ10によって平行ビーム11にコリメートされる前に、単一の放射ビーム9を形成するために光マルチプレクサ8内で組み合わされる。
【0021】
図3は、平行放射ビーム11(図2を参照されたい)が赤外線検出器までの自らの進路を見出す方式を示す。図3に示されるように、図1の2チャネル高速波形生成器1によって交互に且つ連続的にオンにされた単一の平行ビーム11(実際には、信号レーザービーム6及び基準レーザービーム7の両方を有する)は、(必要に応じて)ノイズ低減のための任意のフィルタ又はウィンドウ13を通過した後、TE冷却型の赤外線検出器14上に入射する前に、まず液体マトリックスを収容するサンプリングチャンバ12を横断する。
【0022】
図4に示される信号処理の場合、赤外線検出器14の出力は、まずトランスインピーダンス増幅器15内に供給され、その出力は、波形生成器1(図1を参照されたい)及び高速クロック17によってトリガされる18ビットアナログ-デジタルコンバータ16に入力される。アナログ信号は、デジタル信号がデータ分析のためにコンピュータ19に供給される前にオシロスコープ18によって監視され得る。算出された比率値は、既知の複合濃度値と相互参照される。これらの複合濃度値は、フラットパネルディスプレイなどの出力装置に個々に報告することができる。値が時間の経過に従って収集されるにつれて、これらは、時間に伴う傾向を示すためにグラフィカルなフォーマットでプロットすることができる。変化する複合濃度値は、一例として、相対的に滑らかなデータ追跡のために時間に伴って平均化することができる。データ出力は、検出器の電子回路からBluetooth(登録商標)又はWiFi規格などの有線又は無線インターフェイスによって外部装置に送信することができる。
【0023】
図5は、オシロスコープ18(図4を参照されたい)によって監視されるアナログ出力を示す。図5に示されるように、オシロスコープディスプレイの上部の2つのトレース20及び21は、信号ダイオードレーザー4及び基準ダイオードレーザー5(図1を参照されたい)を個々に駆動するために、高速波形生成器1によって交互に且つ連続的に生成された電圧パルス2及び3である。オシロスコープディスプレイの下部のトレース22は、赤外線検出器14(図3を参照されたい)からの信号レーザービーム23及び基準レーザービーム24のアナログ出力を交互に示す。
【0024】
初期のデータ操作後に赤外線検出器からコンピュータによって受け取られたデジタルデータの処理は、以下のように進行する。信号及び基準チャネルの両方が、秒を単位とする計測時間期間「t」にわたってNHz(N>10)でパルス化された際、N×t個の信号チャネル出力と、等しい数の基準チャネル出力とが赤外線検出器によって生成される。それぞれの生成された信号チャネル出力及び対応する基準チャネル出力ごとに比率値「R」が算出され、即ちR=信号出力/基準出力である。計測時間期間「t」にわたって算出されたRのN×t個の比率値について、平均、即ちRave(t)が算出される。算出されたRave(t)の値は、時間期間「t」にわたる液体中の粒子の平均濃度レベルの計測信号を表す。Rave(t)の計測値対液体中の粒子の平均濃度レベルにおける信号対ノイズ(S/N)は、予め選択された時間期間「t」の値の関数であることに留意することが重要である。予め選択された計測時間期間「t」が長いほど、その計測値について平均化されるべき多くの収集データが存在するため、Rave(t)の値中のノイズが小さくなる。
【0025】
図6は、ミリグラム/100cc(mg/dL)を単位として計測された液体中の平均化された粒子濃度レベル「D」の関数として、特定の予め選択された計測時間期間「t」にわたるRave(t)の値を示すグラフ25を示す。図6に見ることができるように、グラフ25は、本質的に、NDIR液体センサのための粒子濃度レベルの較正曲線である。このような較正曲線は、まず、その内部の特定の粒子の異なる濃度の判定を要する液体を選択することによって実現される。次いで、液体中において異なる粒子濃度レベルを有するサンプルが調製される。次いで、較正のために計測時間期間「t」が選択される。計測手順について先に説明した4つのステップを実行することにより、液体中のそれぞれのサンプル濃度ごとにRave(t)の値が判定される。図6に示されるグラフ25は、予め選択された計測時間期間「t」を有する液体中の粒子の濃度レベルの関数としてRave(t)の値を示す。
【0026】
以上では、散乱ノイズを抑制するための発明概念について検討したが、図7に示されるように、オーバーラップした吸収帯域を有する分子と混合された液体中のターゲット分子を検出するためにNDIRが使用される際、別のノイズソースが生じる。以下では、この新しい吸収干渉ノイズ(AIN)を抑制するための発明概念について検討する。図7に示されるように、ターゲット分子Mは、1,150nm(λ)において吸収帯域を有し、及び干渉分子M(MJ1及びMJ2)は、約1,200nm(λ)及びオーバーラップするλにおいて吸収帯域を有する。このような場合、干渉分子MJ1及びMJ2は、軽減されない限り、ターゲット分子Mの透過率計測に対して影響を及ぼす吸収干渉ノイズ(AIN)を生成する。
【0027】
ランベルト-ベールの法則によれば、液体サンプルなどの媒質を通した特定の波長λにおける光の透過は、
I=I-OD、T=I/I、α=1-T及びOD=Log(1/T) (1)
として表現され、ここで、Iは、初期の光強度であり、Iは、媒質を通過した後の強度であり、Tは、透過率であり、αは、吸収係数であり、及びODは、光学的深さである。液体サンプル中に存在する複数のタイプの分子がある場合、サンプルを通した波長λにおける合計吸収又は複合透過率は、以下:
OD(λtotal=Log[1/Ttotal(λ)]=[Cα+Cα+…]×L (2)
のように分子の個々の光学的深さの合計に関係付けられ、ここで、OD(λtotalは、合計光学的深さであり、C及びαは、それぞれ異なる分子「i」の分子濃度及び吸収係数であり、及びLは、共通光経路又はサンプルセル経路長である。
【0028】
上記の式(2)は、液体中の値T(λ)、透過率、ターゲット分子Mの濃度C及びα(λ)、液体サンプル中のターゲット分子Mの吸収係数間に固有の関係が存在することを意味する。更に、ターゲット分子Mの吸収係数及び混合された干渉分子Mの吸収係数は、計測された合計透過率における個々の部分として別個に出現し、即ち、
1-Ttotal(λ)=α(λ)+αMJ(λ) (3)
であり、この知識は、AINノイズを有しない液体サンプルの計測された合計透過率に照らしてターゲット分子Mの濃度を較正するために利用される。
【0029】
ターゲット分子Mが、液体サンプル中において、λに配置された中心波長(CWL)を有する吸収帯域を有し、及びその濃度Cが、その吸収係数α(λ)=[1-T(λ)](ここで、T(λ)は、λで計測された透過率である)を介して光学的に判定される場合を検討する。ターゲット分子Mと共存するのは、波長λとオーバーラップした吸収帯域を有する別のタイプの分子Mである。この状況下において、分子Mは、液体中のターゲット分子Mの濃度に到達するため、吸収係数α(λ)=[1-T(λ)]を判定するための、λにおける透過率計測に対する吸収干渉ノイズ(AIN)を生成する。
【0030】
同時にλとオーバーラップしつつ、1つ又は複数の干渉分子Mの吸収帯域が存在するスペクトル箇所で波長λを有する更なる近赤外線干渉ビームを選択及び利用することにより、吸収干渉ノイズ(AIN)の抑制を実現する較正プロセスを開発することができる。干渉分子Mは、波長λにおいて何らかの吸収を有しなければならず、且つλにおいて何らかのオーバーラップする吸収も有しなければならないことに留意されたい。また、波長λを有する更なるNIR干渉ビームを利用することにより、任意の更なる数の混合された干渉分子Mを取り扱うこともできる。
【0031】
狭い放射ビームでλにおいて透過率計測を実行することにより、干渉分子Mの吸収係数、即ちαMJ(λ)=1-TMJ(λ)のみが計測される。λにおける干渉分子Mの吸収係数、即ちαMJ(λ)は、影響を受けない。但し、計測された吸収係数αMJ(λ)及びαMJ(λ)は、液体サンプル中に存在する特定の物理的状態に応じて互いに関係付けられる。その個々の値は、2つの異なる波長λ及びλにおけるその吸収強度にのみ依存する。換言すれば、
αMJ(λ)=β×αMJ(λ) (4)
として表現することでき、ここで、βは、液体サンプルの特定の物理的状態を定義するパラメータであり、及びその値は、分子Mの吸収係数がλよりも波長λにおいて強力である場合に1未満である。αMJ(λ)及αMJ(λ)の両方は、同一の、但し異なる波長においてのみ計測された分子Mを意味するため、液体サンプル中の分子Mの濃度は、β=αMJ(λ)/αMJ(λ)の値を変更することができない。但し、βの値は、液体サンプルの物理的状態に依存する。αMJ(λ)及びβの値が既知である場合、上述の式(4)を使用することにより、αMJ(λ)を算出することができる。但し、αMJ(λ)が既知である場合、α(λ)は、ここで、Mの存在及び液体サンプル中のその濃度とは独立して、Ttotal(λ)の計測を通して式(3)から判定することができる。この状況下において、液体サンプル中の分子Mの濃度が計測された際、液体サンプル中のMの存在によって生成される吸収干渉ノイズ(AIN)は、大幅に抑制又は除去される。
【0032】
以下では、吸収干渉ノイズ(AIN)を抑制するこの較正方法の実装形態について、以下のように更に詳細に明らかにすることができる。上述の式(1)で記述されるランベルト-ベールの法則によれば、「β」によって定義された特定の物理的状態における液体サンプル中の分子Mの異なる濃度Cは、以下:
1-TMC1(λ)=αMC1(λ)+β×αMJC1(λ).....濃度Cの場合
1-TMC2(λ)=αMC2(λ)+β×αMJC2(λ).....濃度Cの場合



1-TMCN(λ)=αMCN(λ)+β×αMJCN(λ).....濃度Cの場合 (5)
のように表現することができ、ここで、TMCN(λ)は、濃度Cを有する液体サンプル中の分子Mのλにおいて計測された合計透過率であり、αMCN(λ)は、濃度Cを有する液体サンプル中の分子Mのλにおける吸収係数であり、αMJCN(λ)は、液体サンプル中の濃度Cを有する干渉分子M及び分子Mのλにおける吸収係数であり、及び「β」は、上述の式(4)で定義された液体サンプルの物理的状態を特徴付ける一定のパラメータである。代わりに、上述の式(5)を、以下:
αMCN(λ)=1-TMCN(λ)-β×αMJCN(λ)=F(C,β) (6)
のように表現することもでき、ここで、Cは、液体サンプル中の分子Mの異なる濃度を表記する。すべてのCについて、TMCN(λ)及びαMJCN(λ)=1-TMCN(λ)は、それぞれ波長λ及びλで計測可能である。但し、パラメータβは、サンプリング液体の未知の物理的状態に依存するため、液体サンプル中の分子Mの吸収係数αMCN(λ)は、そのC及び「β」の関数、即ち図8に示されるようにF(C,β)としてのみ較正することができる。
【0033】
図8に示されるように、液体サンプルの異なる物理状態パラメータ「β」によって表記された較正曲線のファミリーF(C,β)、即ちαMCN(λ)対異なるCは、まず、液体サンプルの物理状態として任意に表記された「β」=0.2の特定の値を担持するλ及びλにおける、それぞれTMCN(λ)及びαMJCN(λ)=1-TMCN(λ)の計測された値に照らして分子Mの濃度Cを較正することによって取得される。次いで、較正曲線のファミリーは、図8に示されるように、液体サンプルの異なる物理状態を表す「β」の異なる割り当てられた値を有する、この計測された較正曲線によって生成される。較正曲線のファミリーは、必要に応じた微細なスケールのβを有する第1の計測較正曲線から構築され得ることに留意されたい。「β」の値によって表される液体サンプルの物理状態は、未知であることから、対応する較正曲線が液体サンプル中の分子Mの濃度の後続の計測のために使用され得る前に、まずこの値を正しく判定しなければならない。これは、分子Mの既知の濃度Cを収容する特定の液体サンプルのTMCN(λ)及びαMJCN(λ)=1-TMJCN(λ)の値を計測し、且つ最良のC値をもたらす図8のβ値を有する較正曲線を選択することによって実現される。このようにして選択された較正曲線は、その内部に未知の量の干渉分子Mが存在する場合にも吸収干渉ノイズ(AIN)の影響を伴うことのない、液体サンプル中の分子Mの濃度の後続の計測のための較正曲線となる。
【0034】
正しいβの値は、センサのための図8の特定の選択された較正曲線を使用する前に、現時点で計測されたαMJCN(λ)=1-TMJCN(λ)の値をセンサ内における予め保存されるものと比較することによってチェックされ得ることに留意されたい。この値の一貫性は、液体サンプルの物理状態が変化しておらず、且つ図8の具体的に選択された較正曲線がセンサについて使用するために有効であることを意味する。
【0035】
大部分の一般的な液体の主な成分である水は、近赤外線(NIR)スペクトル領域内に位置する波長を有する放射を強力に吸収することが周知である。上述のように、NIRスペクトル領域内に位置する吸収帯域を有する液体中の分子を検出するための吸収サンプリング技法を通過したNDIRの使用は、水吸収に起因する放射ソースから検出器への利用可能なプロービングエネルギーの低減に起因して、信号対ノイズ(S/N)性能において大きい欠点を有する。更に、腕時計スタイルの分子濃度センサの設計における吸収サンプリング技法を通過したNDIRの使用は、不適切であり且つ非効率的である。
【0036】
以上では、散乱ノイズ及び吸収干渉ノイズ(AIN)の両方を抑制するために吸収サンプリング技法を通過したNDIRを使用して液体中の分子を計測するための発明概念について検討したが、以下では、水吸収及びセンサ不適設計問題を軽減する、液体中の分子を検出するための新しいNDIR反射サンプリング技法について検討する。
【0037】
図9は、3チャネル高速波形生成器により、信号ダイオードレーザー、基準ダイオードレーザー及び干渉ダイオードレーザーが2のグループにおいて交互に且つ連続的に駆動される方式を示す光学セットアップである。図9に示されるように、信号ダイオードレーザー27の出力26は、ペアとして、基準ダイオードレーザー29の出力28により交互に且つ連続的に駆動される一方、干渉ダイオードレーザー31の出力30は、別のペアとして、基準ダイオードレーザー29の出力28により交互に且つ連続的に駆動される。これは、両方が同一の散乱ノイズ低減の利点を基本的に有するように、透過率が、λで計測されるのと基本的に同時にλで計測され得るように実行される。3ダイオードレーザーシステムが散乱ノイズ及びAINノイズの両方を抑制するための光学的且つ電子的処理システムセットアップの残りの部分は、米国特許第9,606,053号明細書(2017)で開示されている2ダイオードレーザーシステムと同一である。
【0038】
図10は、その透過率「T」の計測を介して液体媒質中の分子を検出するためにNDIR反射サンプリング技法を使用する特別に設計された光学システム32を概略的に示す(上述の式(1)を参照されたい)。このような光学システムは、このような計測の場合にNDIR吸収技法の使用において一般的に遭遇される散乱ノイズ及び吸収干渉ノイズ(AIN)の両方を抑制する能力を有する。図10は、信号ダイオードレーザー(λ)33、基準ダイオードレーザー(λ)35及び干渉ダイオードレーザー(λ)37が、3チャネル高速波形生成器40により、2のグループ、即ち(ペアとしての信号レーザー33及び基準レーザー35)及び(別のペアとしての干渉レーザー37及び基準レーザー35)内に交互に且つ連続的に駆動される方式を示す。図10に示されるように、信号ダイオードレーザー33の出力34は、3チャネルマルチプレクサ(トリバイナ)39に光学的に結合されたペアとして、基準ダイオードレーザー35の出力36により交互に且つ連続的に駆動される。一方、干渉ダイオードレーザー37の出力38は、同一のトリバイナ39内に光学的に結合された別のペアとして、基準ダイオードレーザー35の出力36により交互に且つ連続的に駆動される。
【0039】
まず、波長λでサンプルエリア42のスポット41に配置される液体サンプルの透過率計測について検討する(図10を参照されたい)。信号レーザーダイオード33の出力34は、光マルチプレクサ(トリバイナ)39内に結合され、その出力43は、次いで、サンプルエリアの法線46に対して傾斜角度θでサンプルエリア42のスポット41において入射する前に、レンズ44により、約1.0mmの直径を有する狭いビーム45にコリメートされる。基準ダイオードレーザー35の出力36は、同一の光マルチプレクサ(トリバイナ)39内に結合され、その出力47は、次いで、サンプルエリア法線46に対して傾斜角度θでサンプルエリア42の同一のスポット41において入射する前に、レンズ44により、約1.0mmの直径を有する狭いビーム45にコリメートされる。信号ビーム(λ)及び基準ビーム(λ)の両方は、順番に且つ交互にパルス化され、及びサンプルエリア42の同一のスポット41において、本発明で使用されないビーム48として鏡面反射される。信号ビーム(λ)及び基準ビーム(λ)の両方は、小さい距離だけサンプルエリア42内に貫通し、この場合、スポット41においてサンプルエリア表面49から出現する前に、入射放射の透過、吸収及び反射が発生する。スポット41から出た放射は、信号処理のためにレンズ50によって検出器51上に収集される。本明細書に記述される信号ビーム(λ)及び基準ビーム(λ)のためのこの光学計測技法は、米国特許第9,606,053号明細書(2017)で開示されているように、波長λでの計測透過率値における散乱ノイズの抑制を可能にする。
【0040】
以下では、波長λにおけるサンプルエリア42のスポット41に配置された液体サンプルの透過率計測について検討する(図10を参照されたい)。干渉レーザーダイオード37の出力38は、光マルチプレクサ(トリバイナ)39に結合され、その出力52は、次いで、サンプルエリア42の法線46に対して傾斜角度θでサンプルエリア42のスポット41において入射する前に、レンズ44により、約1.0mmの直径を有する狭いビーム45にコリメートされる。基準ダイオードレーザー35の出力36は、同一の光マルチプレクサ(トリバイナ)39に結合され、その出力47は、次いで、サンプルエリア42の法線46に対して角度θでサンプルエリア42の同一のスポット41において入射する前に、レンズ44により、約1.0mmの直径を有する狭いビーム45にコリメートされる。干渉ビーム(λ)及び基準ビーム(λ)の両方は、小さい距離だけサンプルエリア42内に貫通し、この場合、放射がスポット41においてサンプルエリア表面49から出現する前に、放射ビームの透過、吸収及び反射が発生する。(表面スポットの外側である必要はないが、別の層又は物質の下方に配置され得る)スポット41から出た放射は、信号処理のためにレンズ50によって検出器51上に収集される。干渉ビーム(λ)及び基準ビーム(λ)のための本明細書に記述されるこの光学計測技法は、米国特許第9,606,053号明細書(2017)で開示されているように、波長λでの計測透過率値における散乱ノイズの抑制を可能にする。
【0041】
ターゲット分子が、同一の吸収帯域シグネチャとオーバーラップする何らかの他の種類の分子と混合される液体サンプルを取り扱うためのNDIR反射サンプリング技法を使用する、上述の散乱ノイズ及びAINノイズの両方を抑制するための信号処理手順は、吸収サンプリング技法を通過したNDIRを使用するために米国特許第9,726,601号明細書で開示されているものとまったく同一である。
【0042】
以上では、散乱ノイズ及び吸収干渉ノイズ(AIN)の両方を抑制するための発明概念と共に、相対的に効率的なNDIR反射サンプリング技法について検討したが、以下では、血液又は間質液中のグルコース濃度を判定するための非侵襲型センサの設計を参照し、以上で記述されるこれらの原理について説明する。米国特許第9,678,000号明細書及び同第9,726,601号明細書で以前に開示されているように、グルコースは、信号ビームの中心波長λとして使用され得る1,150nmにおける近赤外線(NIR)スペクトル領域内に配置されたオーバートーン吸収帯域を有する。この吸収帯域は、望ましいものであり、なぜなら、これは、約1.0cm-1以下である水吸収係数を有し、これによりソースからのプロービング放射の減衰が極小化されるからである。グルコース又は他の分子吸収が存在しない1,060nmにおける波長を基準ビームの中心波長λとして使用することができる。最後に、脂質及びコラーゲンのような、血液又は間質液中でグルコースと共存する特定の干渉分子の場合、これらの分子は、約1,210nmにおける且つ1,150nmでグルコースの信号波長λとオーバーラップする吸収を有する。従って、1,210nmにおける波長を干渉ビームの中心波長λとして選択することができる。
【0043】
図11は、λ=1,150nmにおいて放出する信号ダイオードレーザー、λ=1,060nmにおいて放出する基準ダイオードレーザー及びλ=1,210nmにおいて放出する干渉ダイオードレーザーが、3チャネル高速波形生成器53により、2のグループにおいて交互に且つ連続的に駆動される方式を示す光学セットアップを示す。図11に示されるように、信号ダイオードレーザー57の出力56は、ペアとして、基準ダイオードレーザー59の出力58により交互に且つ連続的に駆動され、且つ3チャネルマルチプレクサ(トリバイナ)54に光学的に結合される。一方、干渉ダイオードレーザー61の出力60は、別のペアとして、基準ダイオードレーザー59の出力58により交互に且つ連続的に駆動され、及びこの場合にもトリバイナ54に光学的に結合される。この方式によって3つのダイオードレーザーを動作させるプロセスは、血液又は間質液中の他の干渉分子と共存するグルコースの透過率が、両方の計測によって遭遇される散乱ノイズ及び吸収干渉ノイズ(AIN)が基本的に同一となるように、基本的に同時に、(基準としてλを有する)波長λ及びλで計測され得ることを保証するためのものである。図11に示されるように、信号レーザービーム(λ)、基準レーザービーム(λ)及び干渉レーザービーム(λ)の出力は、更に処理される前に、レンズ63によって狭い平行なレーザービーム64にコリメートされた単一ファイバ結合放射ビーム62を形成するために、3チャネルマルチプレクサ(トリバイナ)54内で組み合わされる。
【0044】
それぞれ1,150nm、1,060nm及び1,210nmにおける信号(λ)、基準(λ)及び干渉(λ)ビームのための波長の戦略的な選択と、それらが血液又は間質液の透過率を計測するために駆動及び処理される方式とは、散乱ノイズ及び吸収干渉ノイズ(AIN)の重大な影響を回避する、脂質やコラーゲンなどと共存する血液又は間質液中のグルコース濃度の問題のない非侵襲型の計測に対する本発明概念の実装にとって極めて重要である。本発明の更なる目的は、脂質やコラーゲンなどのような干渉分子の存在下において、血液又は間質液中のグルコース分子の非侵襲型の濃度計測における散乱ノイズ及び吸収干渉ノイズ(AIN)の両方の低減を実現する能力を有する特別に設計された反射センサシステムを提供することである。本発明は、糖尿病を患う人物が必要とする、痛みを伴う日々の指の穿刺を軽減する能力を有する実行可能な且つ実際的な非侵襲型の血液グルコースモニタを提供するために、NIRレーザーソース、ヒ化インジウムガリウム(InGaAs)光検出器、マイクロ電気機械システム(MEMS)、複雑な信号処理回路を有するASIC、クラウドに基づいた創造的なソフトウェア並びにナノCHIP構造を利用したミニチュアパッケージング技法における現在の進歩した技術を更に全面的に活用する。
【0045】
図12は、(基準としてλを有する)それぞれ波長λ及びλにおけるその合計透過率TMCN(λ)及びTMCN(λ)の計測を介して、血液又は間質液中のグルコース濃度を検出するためにNDIR反射サンプリング技法を使用する特別に設計された光センサ65を概略的に示し、この場合、TMCN(λ)=1-αMCN(λ)であり、及びTMCN(λ)=1-αMCN(λ)である。量αMCN(λ)及びαMCN(λ)は、それぞれ(基準としてλを有する)波長λ及びλにおける計測された血液又は間質液の吸収係数であり、その内部に未知の量の脂質及びコラーゲンと共存するCのグルコース濃度値を有する。
【0046】
図12に示されるように、約3cm×6cm×1cmの寸法を有する光センサ65は、センサ65が人間の皮膚のものに似た表面69上で休止することを可能にする周辺エッジ68によって画定された相対的に小さい開口底部67を有する肉薄の上部開口型の矩形フレーム66を有する。フレーム66の2つの短い側部のそれぞれの上部に1つずつである、2つのストラップ70及び71がそれぞれヒンジ72及び73によって保持される。ストラップ70及び71は、腕時計のようにセンサ65を人間の手首上又は被験者の上腕に沿った部分上に固定するように使用することができる。
【0047】
センサ65の光学コンポーネント及び電子回路のすべては、ボックスフレーム66の上方に配置され、且つその上部部分として機能する印刷回路基板(PCB)74上に物理的に又ははんだを介して取り付けられる。図11に詳細に上述したセンサ65の光学セットアップのコンポーネントのすべては、図示のように、PCB74の左手側に配置される。PCB74の左手側から始まって、75は、3チャネル高速波形生成器であり、これには、λ、λ及びλの出力波長を有するそれぞれ信号、基準及び干渉レーザーのための3チャネル電子ドライバモジュール76が後続する。77は、その出力が単一放射ビーム78内にファイバ結合される3チャネルマルチプレクサ又はトリバイナである。ビーム78は、サンプリングエリア83のスポット82に向かってミラー81によって反射される前にレンズ79によって平行ビーム80にコリメートされる。
【0048】
平行ビーム80は、PCB74に対する傾斜角度θでサンプリングエリア83のスポット82において入射する。ビーム80は、スポット82においてサンプルエリア83内に小さい距離だけ貫通し、この場合、入射したビームには、スポット82においてサンプリングエリア83から出現する前に透過、吸収及び反射が発生する。スポット82から出た放射は、信号処理のためにレンズ84によって検出器85上に収集される。レンズ84及び検出器85の両方の軸は、スポット82においてサンプリングエリア83の法線86とアライメントされる。これらの両方は、スポット82でサンプリングエリア83に対向するPCB74上に固定された特別なハウジング87内に取り付けられる。
【0049】
3チャネル高速波形生成器75及び3チャネルレーザードライバモジュール76の制御及び動作を含む処理電子回路は、PCB74の右手側に配置される。これは、基準ビーム(λ)と連携して信号(λ)及び干渉(λ)ビームの透過率計測の論理及びシーケンスを制御する、ASIC88のCPUの内部に設置され、且つメモリチップ89によって支持されたソフトウェア及び処理回路である(図12を参照されたい)。センサ65のための動作命令及び制御と共に、(即座の且つ/又は傾向的な)グルコース計測結果は、表示チップ90によって提供される。センサ65によって接触された表面69の温度を監視するために使用される温度トランスデューサ94は、センサフレーム66の底部エッジ68に配置され、且つPCB74に電気的に接続される。電池91は、電力をセンサ65の全体に提供するために、PCB74の下方でセンサフレーム66の内部に収容される。最後に、PCB74上に取り付けられるコンポーネントのすべては、その上方に開口部93が存在する表示チップ90を除いて、カバー92によって保護される。
【0050】
本明細書では、好適な実施形態を参照して本発明を説明したが、これらの実施形態は、本発明の範囲を限定するためのものではなく、例として提示されたものに過ぎない。この詳細な説明の利益を有する当業者には、その更なる実施形態が明らかになるであろう。また、本発明概念から逸脱することなく代替実施形態に対する更なる変更形態が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12