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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】印刷方法
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/60 20060101AFI20240409BHJP
   B41J 2/21 20060101ALI20240409BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240409BHJP
   B41J 2/525 20060101ALI20240409BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
H04N1/60
B41J2/21
B41J2/01 451
B41J2/525
G06T1/00 510
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020013515
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2021121047
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-12-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000116057
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】吉田 世新
【審査官】豊田 好一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-320594(JP,A)
【文献】特表2018-507598(JP,A)
【文献】特開2012-124563(JP,A)
【文献】特開2003-078777(JP,A)
【文献】特開2006-173823(JP,A)
【文献】特開2007-282211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 1/60
B41J 2/21
B41J 2/01
B41J 2/525
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のプリンタを基準として色合わせされた印刷画像を第2のプリンタによって印刷する方法であって、
前記第1のプリンタ用の変換テーブルを使用して、印刷画像のデータから前記印刷画像の色域を得る工程と、
前記得られた印刷画像の色域を、予め定められた第1の色域に属する第1グループと、前記第1の色域以外の色域に属する第2グループと、を少なくとも含む複数のグループに分ける工程と、
前記第2のプリンタ用の第1変換テーブルを使用して、前記第1グループから前記第1グループのインク値を得る工程と、
前記第2のプリンタ用の第2変換テーブルを使用して、前記第2グループから前記第2グループのインク値を得る工程と、
前記第1グループおよび前記第2グループのインク値に基づいて前記第2のプリンタによって前記印刷画像の印刷を行う工程と、
を含み、
前記第1変換テーブルの格子点間隔は、前記第2変換テーブルの格子点間隔よりも狭く、
前記第1変換テーブルは、前記第1の色域に対応する色を前記第2のプリンタで印刷した印刷物を測色した結果に基づいて構成されており、
前記第2変換テーブルは、色域全体に対する前記第2のプリンタの色変換特性に基づいて構成されている、印刷方法。
【請求項2】
前記印刷物は、前記第1の色域に対応する色を前記第2変換テーブルによって変換することによって得られたインク値に基づいて印刷されている、
請求項1に記載の印刷方法。
【請求項3】
前記第1の色域は、前記第1の色域以外の色域よりも狭い、
請求項1または2に記載の印刷方法。
【請求項4】
前記第1の色域は、グレーに対応する色域である、
請求項1~3のいずれか一つに記載の印刷方法。
【請求項5】
前記色域は、L値で表現され、
軸には、0以上100以下の範囲のL値が設定され、
軸には、-128以上127以下の範囲のa値が設定され、
軸には、-128以上127以下の範囲のb値が設定され、
前記第1の色域は、
値が0以上100以下であり、
値が-10以上10以下であり、
値が-10以上10以下の色域である、
請求項1~4のいずれか一つに記載の印刷方法。
【請求項6】
前記第1変換テーブルおよび前記第2変換テーブルマージされ統合テーブルを構成している、
請求項1に記載の印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のプリンタの間で色合わせをして印刷を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数のプリンタの間で色合わせをする技術が知られている。例えば、特許文献1には、入力画像の入力プロファイル、既存の印刷エンジンのB2AテーブルおよびA2Bテーブル、追加的なプリンタのB2Aテーブルを使用して、追加的なプリンタの色出力を既存の印刷エンジンに類似させる方法が開示されている。この方法では、入力画像の入力プロファイルを使用して、入力画像のデバイス依存座標をデバイス非依存座標に位置付ける。さらに、既存の印刷エンジンのB2AテーブルおよびA2Bテーブルを使用して、既存の印刷エンジンによる印刷画像をデバイス非依存座標で特定する。その後、既存の印刷エンジンのデバイス非依存座標を追加的なプリンタのB2Aテーブルによってデバイス依存座標に変換することによって、追加的なプリンタの色出力を既存の印刷エンジンに高い精度で類似させる。特許文献1には、最もよく知られたプロファイルの例として、ICC(International Color Consortium)プロファイルが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2018-507598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば特許文献1に開示された方法のようなカラープロファイルを使用した色合わせ方法においては、カラープロファイル内の変換テーブルの格子点間隔によって色合わせの精度が影響を受ける。詳しくは、変換テーブルの格子点間隔が狭いと色合わせの精度が高くなり、変換テーブルの格子点間隔が広いと色合わせの精度が低くなる。そこで、高い精度で色合わせを行おうとすると変換テーブルの格子点間隔を狭くすることになり、変換テーブルのサイズが大きくなる。変換テーブルのサイズが大きくなると、例えば、ハードディスクやメモリの容量を大きくしなければならないというデメリットが発生する。逆に、サイズを抑えるために変換テーブルの格子点間隔を広くすると、色合わせの精度が低下し、色合わせ品質が低下する。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、変換テーブルのサイズを抑えながらも複数のプリンタの間で高い色合わせ品質を実現できる印刷方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示する印刷方法は、第1のプリンタを基準として色合わせされた印刷画像を第2のプリンタによって印刷する方法であって、前記第1のプリンタ用の変換テーブルを使用して、印刷画像のデータから前記印刷画像の色域を得る工程と、前記得られた印刷画像の色域を、予め定められた第1の色域に属する第1グループと、前記第1の色域とは異なる色域に属する少なくとも1つの他のグループと、に分ける工程と、前記第2のプリンタ用の第1変換テーブルを使用して、前記第1グループから前記第1グループのインク値を得る工程と、前記第2のプリンタ用であって前記少なくとも1つの他のグループにそれぞれ対応する少なくとも1つの他の変換テーブルを使用して、前記少なくとも1つの他のグループからそれぞれインク値を得る工程と、前記第1グループおよび前記少なくとも1つの他のグループのインク値に基づいて前記第2のプリンタによって前記印刷画像の印刷を行う工程と、を含む。前記第1変換テーブルおよび前記少なくとも1つの他の変換テーブルは、互いに格子点間隔が異なっている。
【0007】
上記印刷方法によれば、印刷画像の色域は少なくとも2つのグループに分けられ、それぞれのグループの色彩値は異なる格子点間隔の変換テーブルによってインク値に変換される。そこで、1の色域では格子点間隔が狭い変換テーブルで高精度の色変換を行い、他の色域では格子点間隔が広くサイズの小さい変換テーブルで比較的精度の高くない色変換を行うことができる。本願発明者は、すべての色域で高精度の色合わせを行わなくても、人間の視覚が色の差異に敏感な色域で高精度の色合わせを行えば、高い色合わせ品質が得られることを見出した。そのため、上記印刷方法によれば、変換テーブルのサイズを抑えながらも第1のプリンタと第2のプリンタとの間で高い色合わせ品質を実現できる。
【0008】
ここに開示する他の印刷方法は、第1のプリンタを基準として色合わせされた印刷画像を第2のプリンタによって印刷する方法であって、前記第1のプリンタ用の変換テーブルを使用して、印刷画像のデータから前記印刷画像の色域を得る工程と、前記第2のプリンタ用の変換テーブルを使用して、前記印刷画像の色域から前記印刷画像のインク値を得る工程と、前記印刷画像のインク値に基づいて前記第2のプリンタによって前記印刷画像の印刷を行う工程と、を含む。前記第2のプリンタ用の変換テーブルは、色域に応じて区分された複数の部分を含んでいる。前記複数の部分は、互いに格子点間隔が異なるように構成されている。
【0009】
上記他の印刷方法によっても、最初の印刷方法と同じ作用効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係るプリンタの色合わせシステムの構成例を示す模式図である。
図2】色合わせシステムのブロック図である。
図3】従来の色合わせ印刷のプロセスの一例を示すフローチャートである。
図4】L色空間を示す模式図である。
図5】B2Aテーブルの格子点数とデータサイズとの関係を示す表である。
図6】色合わせ印刷のプロセスの一例を示すフローチャートである。
図7】第1B2Aテーブルを作成するプロセスの一例を示すフローチャートである。
図8】色合わせ印刷のプロセスの他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る印刷方法について説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら本発明を特に限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。
【0012】
[色合わせシステムの構成]
図1は、一実施形態に係るプリンタの色合わせシステム(以下、色合わせシステム100)の構成例を示す模式図である。図1に示すように、色合わせシステム100は、コンピュータ30と、測色器40とを備えている。コンピュータ30には、プリンタの発色を調整するためのソフトウェアがインストールされている。ただし、コンピュータ30の役割は、プリンタの発色を調整するためのハードウェアとソフトウェアとを備えた専用装置によって達成されてもよい。コンピュータ30には、第1プリンタ10および第2プリンタ20が、それぞれ通信可能に接続されている。詳しくは後述するが、ここでは、第2プリンタ20が調整対象のプリンタであり、第1プリンタ10を基準として発色が調整される。なお、以下では、複数のプリンタの間で発色が類似するように行われる印刷のことを適宜、色合わせ印刷と呼ぶ。
【0013】
第1プリンタ10と第2プリンタ20とは、ここでは、異なる機種のプリンタである。ただし、第1プリンタ10と第2プリンタ20とは、同じ機種のプリンタであってもよい。第1プリンタ10および第2プリンタ20は、ここでは、いずれもインクジェットプリンタである。ただし、第1プリンタ10および第2プリンタ20は、例えば、オフセット印刷用プリンタなどであってもよい。第1プリンタ10および第2プリンタ20の種類、構成等は、それぞれ特に限定されない。
【0014】
第1プリンタ10および第2プリンタ20は、それぞれ、各部の動作を制御する制御装置を備えている。制御装置の構成は特に限定されない。制御装置は、例えばマイクロコンピュータである。マイクロコンピュータのハードウェアの構成は特に限定されないが、例えば、ホストコンピュータなどの外部機器から印刷データなどを受信するインターフェイス(I/F)と、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(CPU:central processing unit)と、CPUが実行するプログラムを格納したROM(read only memory)と、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAM(random access memory)と、プログラムや各種データを格納するメモリなどの記憶装置と、を備えている。第1プリンタ10および第2プリンタ20の制御装置は、それぞれ、第1プリンタ10および第2プリンタ20の本体部の内部に設けられている。ただし、第1プリンタ10および第2プリンタ20の制御装置は、第1プリンタ10および第2プリンタ20の本体部の内部に設けられていなくてもよい。また、その機能の一部は、例えば、コンピュータ30などによって実現されてもよい。
【0015】
図2は、本実施形態に係る色合わせシステム100のブロック図である。図2に示すように、第1プリンタ10は、画像処理に係る処理部として、画像入力モジュール11と、色変換モジュール12と、ハーフトーンモジュール13と、ラスタライズモジュール14とを備えている。ただし、インクジェットプリンタでない場合には、プリンタは、ハーフトーンモジュールやラスタライズモジュールを備えなくてもよい。なお、第1プリンタ10は、印刷において各部の動きを制御する印刷制御部などを備えているが、ここでは説明および図示を省略する。
【0016】
第2プリンタ20の制御部も、同様に、画像入力モジュール21と、色変換モジュール22と、ハーフトーンモジュール23と、ラスタライズモジュール24とを備えている。画像入力モジュール、色変換モジュール、ハーフトーンモジュール、およびラスタライズモジュールの機能は、第1プリンタ10と第2プリンタ20とで共通する。そこで、以下、第1プリンタ10の画像入力モジュール11、色変換モジュール12、ハーフトーンモジュール13、およびラスタライズモジュール14について説明する。
【0017】
画像入力モジュール11には、印刷画像のデータが入力される。印刷画像のデータは、例えば、コンピュータ30やその他の外部コンピュータなどによって作成され、画像入力モジュール11に送信される。第1プリンタ10および第2プリンタ20は、それぞれ、画像入力モジュール11および21に入力された印刷画像データに基づいて印刷を行う。印刷画像データは、ここでは、CMYK値の色データである。
【0018】
色変換モジュール12は、例えばICC(International Color Consortium)プロファイルなどのカラープロファイルを使って、デバイス依存の印刷画像データ(ここでは、CMYKインク値、以下では、適宜、単にインク値とも言う)をデバイス非依存の色空間の色彩値(ここでは、L値)に変換し、または、デバイス非依存の色空間の色彩値(ここでは、L値)をデバイス依存の印刷データ(ここでは、CMYKインク値)に変換する。デバイス依存の印刷画像データをデバイス非依存の色空間の色彩値に変換するにあたっては、カラープロファイルの中にあるA2Bテーブルと呼ばれる変換テーブル(Look Up table : LUP)が使用される。逆に、デバイス非依存の色空間の色彩値をデバイス依存の印刷データに変換する場合、カラープロファイルの中にあるB2Aテーブルと呼ばれる変換テーブルが使用される。
【0019】
なお、被調整側のプリンタである第2プリンタ20の色変換モジュール22では、2つのB2Aテーブル(以下、第1B2Aテーブルおよび第2B2Aテーブルと言う。詳細は後述)が使い分けられる。第1プリンタ10も同様に構成されていてもよい。
【0020】
ハーフトーンモジュール13は、色変換モジュール12で作成されたインク値をドットデータに変換する。また、ラスタライズモジュール14は、ハーフトーンモジュール13で作成されたドットデータをパス毎のデータに変換する。第1プリンタ10および第2プリンタ20は、それぞれ、ラスタライズモジュール14および24で作成されたパス毎のドットデータを実行することで印刷を行う。
【0021】
測色器40は、印刷された画像の色彩値と濃度値を測定可能に構成されている。測色器40は、例えば、光の波長ごとに強さを計測可能なスペクトル方式の分光光度計である。測色器40は、コンピュータ30に通信可能に接続され、コンピュータ30によって制御されている。また、測色器40は、コンピュータ30に測色データを送信する。
【0022】
以下、本実施形態に係る色合わせシステム100を使用した色合わせ印刷の方法について、従来の場合と比較しながら説明する。
【0023】
[従来の方法]
まず、従来の色合わせ印刷の方法について説明する。図3は、従来の色合わせ印刷のプロセスの一例を示すフローチャートである。図3に示すように、従来の色合わせ印刷のプロセスでは、ステップS101において、印刷画像のデータ(例えば、CMYK値)が入力される。ステップS102では、入力プロファイルのA2Bテーブルにより、印刷画像のデータが色彩値、例えば、L値に変換される。入力プロファイルは、入力された印刷画像の色特性を表すカラープロファイルである。
【0024】
続くステップS103では、ステップS102で生成された印刷画像のL値が第1プリンタ10のB2AテーブルによりCMYKインク値に変換される。ステップS104では、ステップS103で生成されたCMYKインク値が第1プリンタ10のA2BテーブルによりL値に変換される。このL値は、第1プリンタ10が再現可能な印刷画像の色範囲(色域)である。
【0025】
図4は、L色空間を示す模式図である。L色空間は、互いに直交するL軸、a軸、b軸から構成される三次元座標である。色のL値、a値、b値は、それぞれL色空間のL軸、a軸、b軸に沿ってプロットされる。図4に示すように、一般的に、L色空間のLの範囲は0~100に設定される。L色空間のaの範囲およびbの範囲は-128~127に設定される。L色空間に格子点Pを設定する際には、L色空間は、L軸、a軸、およびb軸の長さがそれぞれ所望の長さに設定された多数の小直方体に分割される。この小直方体の頂点がB2Aテーブルの格子点Pとなる。また、L軸、a軸、b軸に関する小直方体の辺の長さが、それぞれL軸、a軸、b軸の格子点間隔である。格子点Pには、それぞれCMYKインク値が保存されている。なお、図4は、格子点Pの実際のプロポーションを反映したものではない。
【0026】
ステップS105では、ステップS104で生成されたL値が、第2プリンタ20のB2AテーブルによってCMYKインク値に変換される。第2プリンタ20のB2Aテーブルは、第2プリンタ20によって印刷された画像の測色結果に基づき、第2プリンタ20の色変換特性を表すように予め設定されている。第2プリンタ20は、ステップS105で得られたCMYKインク値に基づいて印刷画像の印刷を行う。詳しくは、ステップS106においてハーフトーン処理およびラスタライズ処理(両者を合わせて画像印刷処理と言う、以下同じ)が行われ、ステップS107において実際に印刷が行われる。
【0027】
上記ステップS105において使用される第2プリンタ20のB2Aテーブルには、格子点数が設定されている。B2Aテーブルの格子点数は、L色空間の各軸(L軸、a軸、b軸)に関してCMYKインク値を読み出す点の数である。図5は、B2Aテーブルの格子点数とデータサイズとの関係を示す表である。図5の表の一番上の格子点数の場合、B2Aテーブルは、L軸、a軸、b軸に関して、それぞれ「11」の格子点からCMYKインク値を読み出す。B2Aテーブルの格子点間隔は、L軸、a軸、b軸に関して、それぞれCMYYK値が読み出される格子点Pの間の間隔である。よって、この場合のB2Aテーブルの格子点間隔は、L軸に関して「10」、a軸に関して「25」、b軸に関して「25」である。
【0028】
例えば、B2Aテーブルの格子点数が「11」の場合、図5に示すように、B2Aテーブルのサイズ(バイト数)は、「10648」である。これは、L軸の格子点数11×a軸の格子点数11×b軸の格子点数11×4色(CMYK)×2(CMYKは各2バイト相当)の計算による。このように、B2Aテーブルのサイズは、L値をCMYK値に変換する場合、格子点数の三乗に比例する。同様の計算により、図5に示すように、B2Aテーブルの格子点数が「17」の場合、変換テーブルのバイト数は、「39304」である。B2Aテーブルの格子点数が「33」の場合、変換テーブルのバイト数は、「287496」である。このようにB2Aテーブルの格子点数が大きくなると(言い換えれば、格子点間隔が狭くなると)、B2Aテーブルのサイズが幾何級数的に大きくなる。第2プリンタ20またはコンピュータ30のハードディスクやメモリの容量を考慮すると、B2Aテーブルの格子点数はそれほど多くできない。あるいは、B2Aテーブルの格子点数を多くしようとすると、第2プリンタ20またはコンピュータ30のハードディスクやメモリの容量が莫大な容量となる。
【0029】
なお、A2Bテーブルにも格子点数(または格子点間隔)が設定されており、A2Bテーブルのサイズは、CMYK値をL値に変換する場合、格子点数の四乗に比例する。
【0030】
一方で、第1プリンタ10と第2プリンタ20との間の色合わせの精度は、B2Aテーブルの格子点数が大きいほど(言い換えれば、格子点間隔が狭いほど)高精度となる。B2Aテーブルの格子点数は有限であるため、入力されたL値が必ずしも格子点P上にあるとは限らない。そこで、B2Aテーブルを使って色変換を行う場合、格子点Pの間にあるL値に対応するCMYK値は、一般的に補間演算により求められる。B2Aテーブルの格子点数が少ないと(言い換えれば、格子点間隔が広いと)、補間演算の精度が低くなる。それにより、第1プリンタ10と第2プリンタ20との間の色合わせの精度は低くなり、それに伴って、見た目の色の類似度も低くなる。
【0031】
このように、従来の色合わせ印刷の方法では、色合わせの品質を高めようとすると変換テーブルのサイズが増加し、変換テーブルのサイズを抑えようとすると色合わせの品質が低下するという背反関係が存在する。
【0032】
[本実施形態に係る色合わせ印刷]
図6は、本実施形態に係る色合わせ印刷のプロセスの一例を示すフローチャートである。図6に示すように、本実施形態に係る色合わせ印刷は、ステップS01~S04までは従来の色合わせ印刷のステップS101~S104と同様に行われる。すなわち、ステップS01では、印刷画像のデータ(ここでは、CMYK値)が入力される。ステップS02では、入力プロファイルのA2Bテーブルにより、印刷画像のデータが色彩値、ここでは、L値に変換される。ステップS03では、ステップS02で生成された印刷画像のL値が第1プリンタ10のB2AテーブルによりCMYKインク値に変換される。ステップS04では、ステップS03で生成されたCMYKインク値が第1プリンタ10のA2BテーブルによりL値に変換される。ステップS01~S04は、第1プリンタ10用の変換テーブルを使用して、印刷画像のデータから印刷画像の色域を得る工程である。
【0033】
本実施形態では、ステップS05において、得られた印刷画像の色域を、予め定められた第1の色域に属する第1グループと、第1の色域以外の色域に属する第2グループと、に分ける。詳しくは、図4に示すように、得られた印刷画像の色域を、予め設定されたグレー領域R1(第1グループ)と、グレー領域R1以外の色域R2(第2グループ)と、に分ける。第1の色域は、グレー(灰色)に対応する色域である。これにより、L色空間の多数の格子点Pは、グレー領域R1に属する格子点P1と、グレー領域R1以外の色域R2に属する格子点P2とに区別される。グレー領域R1は、オペレータ等によって予め設定されたものである。
【0034】
図4に示すように、グレー領域R1は、例えば、L値が0以上100以下であり、a値が-10以上10以下であり、b値が-10以上10以下の色域に設定される。ただし、上記範囲は一例に過ぎず、グレー領域R1の範囲は適宜に設定されてよい。ここでは、グレー領域R1は、グレー領域R1以外の色域R2よりも狭い。図4の場合には、グレー領域R1は、L色空間全体に対して約0.6%の体積しか占めない。
【0035】
図6に示すように、ステップS05に続くステップS06-1では、第2プリンタ20用の第1B2Aテーブルを使用して、グレー領域R1からインク値を得る。詳しくは、第1B2Aテーブルによって、グレー領域R1のL値をCMYKインク値に変換する。
【0036】
一方、ステップS06-2では、第2プリンタ20用であってグレー領域R1以外の領域R2に対応するB2A変換テーブル(第2B2Aテーブル)を使用して、領域R2からインク値を得る。詳しくは、第2B2Aテーブルによって、グレー領域R1以外の領域R2のL値をCMYKインク値に変換する。このように、本実施形態では、ステップS06-1およびS06-2において、2つの色域R1およびR2に対して異なるB2Aテーブル(それぞれ、第1B2Aテーブルおよび第2B2Aテーブル)が使用される。
【0037】
第2B2Aテーブルは、色域全体に対する第2プリンタ20の色変換特性に基づいて構成された変換テーブルである。第2B2Aテーブルは、従来の色合わせ方法による第2プリンタ20のB2Aテーブルと同様に構成されている。ただし、本実施形態に係る第2B2Aテーブルは、比較的少ない格子点数(広い格子点間隔)に設定されている。そのため、第2B2Aテーブルのサイズは小さい。第2B2Aテーブルの格子点数は特に限定されるわけではないが、例えば、「17」である。
【0038】
第1B2Aテーブルは、グレー領域R1に対する第2プリンタ20の色変換特性に基づいて構成されている。より詳しくは、第1B2Aテーブルは、グレー領域R1に対応する灰色を第2プリンタ20で印刷した印刷物を測色した結果に基づいて構成されている。
【0039】
図7は、第1B2Aテーブルを作成するプロセスの一例を示すフローチャートである。図7に示すように、第1B2Aテーブルの作成プロセスでは、ステップS11において、グレー領域R1の範囲が設定される。例えば、グレー領域R1は、L値が0以上100以下かつ、a値が-10以上10以下かつ、b値が-10以上10以下の色域に設定される。ステップS12では、設定されたグレー領域R1内に位置するL値を複数生成する。例えば、Lでは5刻み、a、bでは4刻みで、計(100/5+1)×(20/4+1)×(20/4+1)=756個のL値を生成する。続くステップS13では、第2プリンタ20の第2B2Aテーブル(作成済み)によってグレー領域R1のL値を変換し、グレー領域R1のCMYKインク値を得る。ステップS13で得られたCMYK値は、ステップS14で保存される。
【0040】
ステップS15では、ステップS13で得られたCMYK値を使って、第2プリンタ20によりグレーのパッチが印刷される。このグレーのパッチは、グレー領域R1に対応する灰色を第2B2Aテーブルによって変換することによって得られたインク値に基づいて印刷されている。ステップS16では、ステップS15で印刷されたグレーのパッチを測色器40によって測色する。ただし、測色は他の測色器によって行われてもよい。ステップS16により、第1B2Aテーブルによって変換されるグレー領域R1のL値が得られる。このL値は、第2プリンタ20によってグレー領域R1を印刷し、印刷物を測色した結果に基づいて得られたL値である。そのため、このようにして得られた第2プリンタ20のグレー領域R1におけるL値とCMYK値との間の変換精度は、第2プリンタ20の第2B2Aテーブル(作成済み)のグレー領域R1におけるL値とCMYK値との間の変換精度よりも高い。
【0041】
ステップS17では、ステップS16で得られたL値と、ステップS14で保存されたCMYK値とを使って、グレー領域R1用の第1B2Aテーブルを作成する。
【0042】
上記のようにして作成される第1B2Aテーブルの格子点間隔は、第2B2Aテーブルの格子点間隔よりも狭く設定されている。言い換えれば、第1B2Aテーブルの格子点数は、第2B2Aテーブルのグレー領域R1内にある格子点数よりも多く設定されている。例えば、第1B2Aテーブルの格子点数は、L軸では33、a軸では11、b軸では11の計2541点に設定される。これにより、第1B2Aテーブルを使ったグレー領域R1の色合わせ精度は、第2B2Aテーブルを使ったグレー領域R1の色合わせ精度よりも高いものとなる。
【0043】
従来の色合わせ印刷では、前述したように、色合わせの品質を高めようとすると第2プリンタ20のB2Aテーブルの格子点間隔を狭くしなければならず、その結果、B2Aテーブルのサイズが増加する。一方、B2Aテーブルのサイズを抑えようとすると、B2Aテーブルの格子点間隔を広くしなければならず、その結果、色合わせの品質が低下するという背反関係が存在する。しかし、本願発明者は、例えば、すべての色域で高精度の色合わせを行わなくても、人間の視覚が色の差異に敏感な色域で高精度の色合わせを行えば、高い色合わせ品質が得られることを見出した。本願発明者の知見によれば、例えばグレー領域は、人間の視覚が色の差異に最も敏感な色域の1つである。
【0044】
本実施形態に係る色合わせ印刷の方法は、上記知見に基づいている。本実施形態に係る色合わせ印刷の方法では、人間の視覚が色の差異に敏感なグレー領域R1の色合わせにおいては、格子点間隔の狭い第1B2AテーブルによってCMYKインク値を得る。これにより、グレー領域R1では高精度の色合わせが行われる。その結果、印刷物全体としても高い色合わせ品質が得られる。
【0045】
また、グレー領域R1よりも人間の視覚が色の差異に敏感でない他の領域R2の色合わせにおいては、第1B2Aテーブルよりも格子点間隔が広くサイズの小さい第2B2Aテーブルが使用される。それに伴って第2プリンタ20のB2Aテーブルの合計サイズが抑制される。そのため、本実施形態に係る色合わせ印刷の方法によれば、変換テーブルのサイズを抑えながらも第1プリンタ10と第2プリンタ20との間で高い色合わせ品質を実現できる。
【0046】
本実施形態では、格子点間隔が狭くサイズの大きい第1B2Aテーブルに対応するグレー領域R1は、他の色域R2よりも狭い。上記した例では、L色空間におけるグレー領域R1の体積は、L色空間全体の体積の約0.6%である。そのため、第2プリンタ20の変換テーブルのサイズを効果的に抑制することができる。逆に言うと、第2プリンタ20の変換テーブルのサイズをあまり大きくすることなく高い色合わせ品質を実現できる。
【0047】
図6に示すように、ステップS06-1およびS06-2において、2つの色域R1およびR2に対して異なる色変換処理が行われた後、ステップS07で画像印刷処理が行われる。その後、ステップS08において、印刷画像の印刷が行われる。ステップS07およびS08は、グレー領域R1および他の領域R2のCMYKインク値に基づいて、第2プリンタ20によって印刷画像の印刷を行う工程である。
【0048】
なお、図6のステップS06-1およびS06-2は統合されてもよい。図8は、色合わせ印刷のプロセスの他の例を示すフローチャートである。図8に示すように、色合わせ印刷のプロセスの他の例では、印刷画像の色域から印刷画像のインク値を得る工程は、第1B2Aテーブルと第2B2Aテーブルとがマージされた統合LUT(統合Look Up table)を使って1つのステップ(ステップS06A)で行われてもよい。統合LUTは、第1B2Aテーブルと第2B2Aテーブルとがマージされて構成されているため、色域に応じて区分された複数の部分を含んでいる。ここでは、統合LUTは、グレー領域R1を色変換する第1の部分と、グレー領域R1以外の領域R2を色変換する第2の部分とを含んでいる。上記第1の部分の格子点間隔は、上記第2の部分の格子点間隔よりも狭く設定されている。
【0049】
本実施形態では、第2B2Aテーブルは、色域全体に対する第2プリンタ20の色変換特性に基づいて構成された変換テーブルである。第1B2Aテーブルは、グレー領域R1に対する第2プリンタ20の色変換特性に基づいて構成された変換テーブルである。より詳しくは、第1B2Aテーブルは、グレー領域R1に対応する灰色を第2のプリンタ20で印刷した印刷物を測色した結果に基づいて構成されている。そのため、第2プリンタ20は、全体として第1プリンタ10に類似の発色を得ることができ、さらに、グレーに関しては特に類似度の高い発色を得ることができる。そこで、印刷画像全体として色合わせ品質が高くなっている。
【0050】
さらに、本実施形態に係る第1B2Aテーブルは、グレー域R1のL値を第2B2Aテーブルによって変換することによって得られたCMYK値に基づいてグレーのパッチを印刷し、印刷されたグレーのパッチの測色することによって作成されている。即ち、第1B2Aテーブルは、第2B2Aテーブルをベースに作成されている。そのため、グレー領域R1とその周辺領域との間のCMYKインク値の変化が連続的なものとなる。これにより、印刷物においてグレー領域周辺の階調の連続性が確保される。例えば、第1B2Aテーブルが第2B2Aテーブルをベースに作成されず、他の変換テーブルをベースに作成された場合には、上記したような階調の連続性が得られないおそれがある。
【0051】
以上、好適な一実施形態について説明した。しかし、ここに開示する印刷方法は、上記した実施形態に限定されない。
【0052】
例えば、上記した実施形態では、印刷画像の色域は、グレー領域とその他の領域とに分割された。しかし、色域が分割される数は3以上でもよい。すなわち、色域の分割工程では、得られた印刷画像の色域を、予め定められた第1の色域に属する第1グループと、第1の色域とは異なる色域に属する2つ以上の他のグループと、に分けてもよい。他のグループのインク値を得る工程では、第2のプリンタ用であって上記他のグループにそれぞれ対応する他の変換テーブルを使用して、上記他のグループからそれぞれインク値を得てもよい。印刷画像の印刷工程では、第1グループおよび上記他のグループのインク値に基づいて、第2のプリンタによって印刷画像の印刷が行われてもよい。第1グループに対応する第1の変換テーブルおよび他の変換テーブルは、互いに格子点間隔が異なっていればよい。例えば、本願発明者の知見によれば、肌色の領域も、比較的に人間の視覚によって色の差異が見分けられやすい領域である。よって、肌色の領域用の変換テーブルの格子点間隔を、グレー領域用の変換テーブルよりも広く、かつ、他の領域用の変換テーブルよりも狭く設定してもよい。統合LUTを使用する場合も同様である。
【0053】
さらに、上記した実施形態では、印刷画像の入力から第2プリンタ20による画像印刷までは連続的に行われたが、断続して行われてもよい。その際、色合わせ元の第1プリンタは必ずしも色合わせ装置としてのコンピュータに接続されている必要はない。
【0054】
なお、上記した実施形態の説明では言及されなかったが、A2Bテーブルも高精度の色変換を行うためのA2Bテーブルと、それほど高精度ではない色変換を行うためのA2Bテーブルとを備えていてもよい。その場合、高精度の色変換を行うためのA2Bテーブルは、例えばグレー領域などの比較的に人間の視覚によって色の差異が見分けられやすい色域においてデバイス依存の印刷画像データをデバイス非依存の色空間の色彩値に変換するとよい。あまり高精度でない色変換を行うためのA2Bテーブルは、例えばグレー領域以外の領域などの比較的に人間の視覚によって色の差異が見分けられにくい色域においてデバイス依存の印刷画像データをデバイス非依存の色空間の色彩値に変換するとよい。A2Bテーブルのサイズは、例えば、CMYK値をL値に変換する場合、格子点数の四乗に比例する。そのため、A2Bテーブルは、格子点数を少なくすることにより、B2Aテーブルよりも大きくサイズを低減できる。なお、A2Bテーブルも統合LUT化されてもよい。
【0055】
その他、特に言及されない限り、上記した実施形態は本発明を限定しない。
【符号の説明】
【0056】
10 第1プリンタ
20 第2プリンタ
30 コンピュータ
40 測色器
100 色合わせシステム
P 格子点
P1 グレー領域の格子点
P2 グレー領域以外の領域の格子点
R1 グレー領域(第1グループ)
R2 グレー領域以外の領域(第2グループ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8