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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】密封装置及び密封構造
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/324 20160101AFI20240409BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20240409BHJP
【FI】
F16J15/324
F16J15/3204 201
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020025314
(22)【出願日】2020-02-18
(65)【公開番号】P2021131102
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000167196
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトシーリングテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杢保 優
(72)【発明者】
【氏名】伊丹 康郎
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/149745(WO,A1)
【文献】特公昭37-006755(JP,B1)
【文献】特開2019-183975(JP,A)
【文献】国際公開第2013/121813(WO,A1)
【文献】実開平06-056568(JP,U)
【文献】特開2019-210998(JP,A)
【文献】国際公開第2009/031199(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/324
F16J 15/3204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する軸の外周面に接触する環状のリップを備え、軸方向一方の液体又は半固体が軸方向他方に漏れるのを防ぐ密封装置であって、
前記リップは、
前記軸の外周面に滑り接触するリップ先端部と、
前記リップ先端部の軸方向一方に設けられ軸方向一方に向かうにつれて内径が大きくなる面を含む第一面と、
前記リップ先端部の軸方向他方に設けられ軸方向他方に向かうにつれて内径が大きくなる面を含む第二面と、
を有し、
前記第一面は、前記リップ先端部と隣接する内側面と、当該内側面の径方向外側と隣接する外側面と、を有し、
前記内側面は、前記軸の外周面に滑り接触する前記リップ先端部に向かって縮径するテーパ面であり、前記内側面と前記外側面との境界は、前記軸側に向かって凸となる折れ曲がり部であり、
前記境界から前記リップ先端部側に位置する前記内側面は、平滑な面であり、
前記境界から前記リップ先端部と反対側に位置する前記外側面に、前記軸の回転に伴って周方向に流れるエアに押される前記液体又は半固体を、径方向内方に導く突条又は溝が設けられている、
密封装置。
【請求項2】
回転する軸の外周面に接触する環状のリップを備え、軸方向一方の液体又は半固体が軸方向他方に漏れるのを防ぐ密封装置であって、
前記リップは、
前記軸の外周面に滑り接触するリップ先端部と、
前記リップ先端部の軸方向一方に設けられ軸方向一方に向かうにつれて内径が大きくなる面を含む第一面と、
前記リップ先端部の軸方向他方に設けられ軸方向他方に向かうにつれて内径が大きくなる面を含む第二面と、
を有し、
前記第一面は、前記リップ先端部と隣接する内側面と、当該内側面の径方向外側と隣接する外側面と、を有し、
前記内側面は、前記軸の外周面に滑り接触する前記リップ先端部に向かって縮径するテーパ面であり、前記内側面と前記外側面との境界は、前記軸側に向かって凸となる折れ曲がり部であり、
前記外側面に、前記軸の回転に伴って周方向に流れるエアに押される前記液体又は半固体を、径方向内方に導く突条又は溝が設けられていて、
前記外側面の前記突条又は溝は、前記境界を跨いで、前記リップ先端部と隣接する前記内側面に連続して設けられている、
密封装置。
【請求項3】
前記突条又は溝は、螺旋状となって設けられている、請求項1又は請求項2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記外側面は、梨地面である領域を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の密封装置。
【請求項5】
回転する軸と、
前記軸の外周面に接触するリップを備える密封装置と、を含む密封構造であって、
前記密封装置は、請求項1~のいずれか一項に記載の密封装置であり、
前記軸の外周面のうち、前記リップ先端部が接触する接触部よりも軸方向一方の領域に、凸部又は凹部が形成されている、密封構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、密封装置、及び、密封装置を備える密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
回転する軸とその軸を支持するハウジングの一部との間に設けられ、オイル等の液体が外に漏れるのを防ぐために、密封装置が用いられる。密封装置は、例えば、ハウジング側に取り付けられる固定部と、その固定部から延び弾性変形が可能であるリップとを有する。特許文献1に、前記のような密封装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-210998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
密封装置のリップは、回転する軸の外周面に滑り接触するリップ先端部を有する。リップ先端部が過度に摩耗すると、密封の対象となる液体の漏れが発生する。特に軸が高速で回転する場合、リップ先端部が異常摩耗することがある。
【0005】
リップ先端部の摩耗の原因は次のとおりであると推測される。すなわち、密封の対象となる液体が例えば油である場合、リップ先端部と軸との間にその油による油膜が形成され、潤滑性が確保される。しかし、軸の回転により油膜を形成する油が飛散すると、潤滑性が低下し、異常摩耗が発生する。特に軸が高速回転すると、その現象が顕著に発生することが考えられる。なお、密封の対象は、グリースのような半固体(半流動体)の場合もある。
【0006】
そこで、本開示は、密封する対象であって潤滑性確保のために用いることが可能となる液体又は半固体によって、リップ先端部の潤滑性を高めることが可能となる新たな技術的手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の密封装置は、回転する軸の外周面に接触する環状のリップを備え、軸方向一方の液体又は半固体が軸方向他方に漏れるのを防ぐ密封装置であって、前記リップは、前記軸の外周面に滑り接触するリップ先端部と、前記リップ先端部の軸方向一方に設けられ軸方向一方に向かうにつれて内径が大きくなる面を含む第一面と、前記リップ先端部の軸方向他方に設けられ軸方向他方に向かうにつれて内径が大きくなる面を含む第二面と、を有し、前記第一面は、前記リップ先端部と隣接する内側面と、当該内側面の径方向外側と隣接する外側面と、を有し、前記外側面に、前記軸の回転に伴って周方向に流れるエアに押される前記液体又は半固体を、径方向内方に導く突条又は溝が設けられている。
【0008】
軸が回転すると、その軸に引っ張られて周囲のエアが周方向に流れる。リップが有する前記第一面の前記外側面に液体又は半固体が付着していると、その液体又は半固体は、前記エアに押されることによって、そのエアの流れ方向に移動することができる。このように移動する液体又は半固体は、前記突条又は溝によれば、径方向内方、つまり、軸側に導かれる。このため、導かれた液体又は半固体がリップ先端部に供給される可能性が高くなり、その液体又は半固体がリップ先端部の潤滑に寄与する。このように、外側面に付着する液体又は半固体が径方向内方に導かれることで、その液体又は半固体によってリップ先端部の潤滑性を高めることが可能となる。
【0009】
また、前記内側面は平滑な面であってもよい。この場合、前記外側面の突条又は溝は、その外側面と内側面との境界までの範囲内に形成されている。外側面と軸とは非接触であるが接近しているため、外側面の内周側にまで突条又は溝によって液体又は半固体が導かれれば、その液体又は半固体は、軸の外周面に接触し、リップ先端部に供給される可能性が高い。このため、外側面にのみ突条又は溝が形成されていてもよい。
または、前記外側面の前記突条又は溝は、前記内側面に連続して設けられていてもよい。この場合、外側面の突条又は溝に沿って径方向内方へ導かれる液体又は半固体は、引き続き、内側面に設けられている突条又は溝によってリップ先端部に導かれる。このため、液体又は半固体によってリップ先端部の潤滑性を高める作用が高まる。
【0010】
また、前記突条又は溝は、複数形成されていて、それぞれが他と非連続である独立した突条又は溝であってもよいが、好ましくは、前記突条又は溝は、螺旋状となって設けられている。
前記密封装置によれば、液体又は半固体は、突条又は溝に沿って、径方向内方へ誘導される。なお、突条又は溝が螺旋状であっても、その突条又は溝は複数設けられていてもよい。
【0011】
また、好ましくは、前記外側面は、梨地面である領域を含む。
この場合、外側面に液体又は半固体が補足されやすい。外側面に補足された液体又は半固体が、突条又は溝に沿って径方向内方へ導かれる。
【0012】
本開示の密封構造は、回転する軸と、前記軸の外周面に接触するリップを備える前記密封装置と、を含む密封構造であって、前記軸の外周面のうち、前記リップ先端部が接触する接触部よりも軸方向一方の領域に、凸部又は凹部が形成されている。
前記密封構造によれば、軸が回転すると、凸部又は凹部によってエアの流れが生じやすい。このため、前記突条又は溝により、液体又は半固体を径方向内方に導く作用を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
液体又は半固体が底壁部及び堰部によって保持されることで、その液体又は半固体によってリップ先端部の潤滑性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】回転する軸及び密封装置を備える密封構造の一例を示す図である。
図2】密封装置の一部を示す断面斜視図である。
図3】密封装置(変形例)の一部を示す断面斜視図である。
図4】密封装置(別の変形例)の一部を示す断面斜視図である。
図5】密封装置10の一部を示す断面斜視図である。
図6】突条を拡大して示す断面斜視図である。
図7】溝を拡大して示す断面斜視図である。
図8】リップが有する第一面の一部を軸方向から見た図である。
図9】突条(溝)の変形例を示す密封装置の断面斜視図である。
図10】第一面の変形例を示す密封装置の断面斜視図である。
図11A】軸の説明図である。
図11B】軸の説明図である。
図11C】軸に形成されている凸部の説明図である。
図12】第一面の変形例を示す密封装置の断面斜視図である。
図13A】リップの変形例を示す断面斜視図である。
図13B】リップの変形例を示す断面斜視図である。
図14A図2に示す形態の密封装置が備えるリップの温度の時間変化を示すグラフである。
図14B】従来の密封装置が備えるリップの温度の時間変化を示すグラフである。
図15】回転する軸及び密封装置を備える密封構造の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔密封構造について〕
図1は、回転する軸7及び密封装置10を備える密封構造の一例を示す図である。図1は、軸7を側面から見た状態を示し、密封装置10を断面図として示している。図1に示す密封装置10の断面は、軸7の中心線Cを含む面における断面である。
【0016】
軸7は、円柱形状を有し、ハウジングの一部8において図外の軸受等によって回転可能に支持されている。軸7は、その軸7の中心線C回りに回転する。軸7とハウジングの一部8との間には環状空間Sが形成されている。本開示では、軸7は、その中心線Cが水平面に沿う姿勢で設けられている。軸7の中心線Cと密封装置10の中心線とは一致する。密封装置10は、例えば、モータ、変速機等に用いられるが、他の機器にも適用可能である。
【0017】
密封装置10は、環状空間Sに設けられていて、その環状空間Sにおいて軸方向一方の液体又は半固体(半流動体)が軸方向他方に漏れるのを防ぐ。本開示では、前記液体はオイルLである。つまり、密封装置10よりも軸方向一方にオイルLが存在していて、そのオイルLが密封装置10よりも軸方向他方に漏れるのを、その密封装置10が防ぐ。オイルLは、例えば、前記ハウジング内に設けられている他の部分の潤滑剤として用いられていて、その一部が、密封装置10側に飛来する等して供給され、密封装置10の潤滑剤としても用いられる。つまり、密封装置10は、オイルLが飛来する環境で用いられる。
密封装置10による密封の対象は、オイルL以外であってもよく、半固体であるグリースの場合もある。密封の対象がグリースである場合、密封装置10は、グリースそのものの漏れを防ぐ他に、グリースの基油の漏れを防ぐ。また、そのグリースは、密封装置10及び軸7等に予め付着されているもの以外に、オイルLのように周囲から飛来するグリースもある。以下、特に説明しない場合、密封の対象はオイルLである。
【0018】
〔密封装置10について〕
図2は、密封装置10の一部を示す断面斜視図である。図1図2とにより密封装置10の構成を説明する。密封装置10は、環状である固定部11と、環状である第一のリップ12とを有する。本開示の密封装置10は、第二のリップ19を更に有する。固定部11は、固定部材である前記ハウジングの一部8に嵌合して取り付けられる。固定部11は、金属製である芯材13と、芯材13を覆う被覆部14とを有する。芯材13は、円筒状である円筒部15と、円筒部15の軸方向他方側の部分から径方向内方に延びて設けられている円環状である円環部16とを有する。被覆部14は、円筒部15を径方向外方が覆う第一被覆部17と、円環部16を軸方向他方から覆う第二被覆部18とを有する。被覆部14は、芯材13を、その軸方向他方とその径方向外方とのうちの少なくとも一方から覆っていればよい。
【0019】
第一のリップ12は、固定部11(円環部16)の径方向内側部11aから軸方向一方に延びて設けられている。第一のリップ12は、回転する軸7の外周面7aに滑り接触するリップ先端部20を有する。図1及び図2に示す密封装置10は、環状のスプリング30を有する。スプリング30は、その弾性復元力によって、リップ先端部20を軸7に押し付ける。
【0020】
第二のリップ19は、固定部11(円環部16)の径方向内側部11aから軸方向他方かつ径方向内方に延びて設けられている。第二のリップ19は、軸7の外周面7aに滑り接触する又は隙間を有して対向する第二のリップ先端部19aを有する。
【0021】
被覆部14、第一のリップ12、及び第二のリップ19は、ゴム等の弾性部材により構成されている。被覆部14、第一のリップ12、及び第二のリップ19により構成される弾性部は、芯材13に加硫接着されている。つまり、芯材13に被覆部14を加硫接着する際に、リップ12,19も被覆部14と共に成型される。
【0022】
密封装置10は、リップ先端部20の潤滑性を高めるために、周囲から飛来してリップ12の一部に付着するオイルLをリップ先端部20側に導くための構成、及び、周囲から飛来してくるオイルLを溜めるための構成を備える。
本開示の発明(各実施形態)では、密封装置10は、オイルLを導くための構成を備えるが、オイルLを溜めるための構成については省略されていてもよく、その例を図15の断面図に示している。
なお、各図において、同じ構成については同じ符号を付している。
以下において、オイルLを溜めるための構成について先に説明し、その後、オイルLを導くための構成について説明する。
密封の対象がグリースである場合、本開示の密封装置10が備える構成(後述の突条33又は溝34)によれば、リップ12に付着するグリースがリップ先端部20側に導かれる場合の他に、リップ12に付着するグリースの基油がリップ先端部20側に導かれる場合もある。また、密封の対象がグリースである場合、本開示の密封装置10は、グリースを溜めるための構成(後述の底壁部23及び堰部24)を備える。
以下において、密封の対象がオイルLであるとして説明するが、グリースの場合も密封装置10は同様の構成を備える。
【0023】
〔オイルLを溜めるための構成〕
図1及び図2において、固定部11は、更に、底壁部23と堰部24とを有する。底壁部23と堰部24とは、一つの部材から構成されていて一体である他に、二つの部材(金属部材とゴム部材)が結合されて一体となる構成であってもよい。底壁部23と堰部24とによって付属部25が構成され、図1に示す形態では、付属部25は円筒部15の内周側に嵌合して取り付けられている。つまり、図1及び図2に示す付属部25は、芯材13及び被覆部14と別体である。この場合、付属部25は、ゴム製、樹脂製、又は金属製である。
【0024】
なお、図3に示すように、付属部25は、被覆部14と一つの部材から構成されていて一体であってもよい。つまり、付属部25は、被覆部14と共に弾性部材(ゴム)によって構成されている。芯材13に被覆部14を加硫接着する際に、付属部25も被覆部14及びリップ12,19と共に成型される。
【0025】
本開示では、底壁部23及び堰部24は、それぞれ環状であるが、周方向に沿って固定部11の一部のみに設けられていてもよく、少なくとも密封装置10が環状空間Sに取り付けられた状態で、底部に設けられていればよい。
図1及び図2により、底壁部23及び堰部24を更に説明する。底壁部23は、リップ12の径方向外方に設けられている部分である。底壁部23は、オイルLを下から(径方向外方から)受けることが可能となる。堰部24は、底壁部23の軸方向一方から径方向内方に向かって延びて設けられている部分である。堰部24は、底壁部23によって受けられるオイルLが軸方向一方に流出するのを阻止することができる。底壁部23によって受けられるオイルLが軸方向他方に流出するのを、円環部16が阻止する。
【0026】
堰部24と、底壁部23と、円環部16とによって凹溝29が形成される。堰部24と、底壁部23と、円環部16とによって囲まれる領域、つまり、凹溝29はオイルLの溜まり領域となる。密封装置10が取り付けられる前記ハウジング内のオイルLは、例えば、軸7の回転やその周囲のギア等の部材が回転することによって、かき上げられる。このかき上げによってオイルLが密封装置10側に飛来する。これにより、飛来するオイルLが凹溝29に溜められる。凹溝29に溜められるオイルLは、例えば、軸方向一方から飛来する。
【0027】
底壁部23は、芯材13の一部である円筒部15の径方向内方に設けられている。底壁部23は、径方向に厚肉である底上げ部26を有する。底上げ部26の肉厚寸法、つまり、径方向の寸法の代表値が図1において「T」で示されている。底上げ部26は、被覆部14(第一被覆部17、第二被覆部18)よりも大きな厚さ寸法を有する。このため、底壁部23で受けられるオイルLが少なくても、そのオイルLの液面をリップ12に近づけることが可能となる。図1において、第一被覆部17の厚さ寸法は「t1」であり、第二被覆部18の厚さ寸法は「t2」である。
【0028】
底壁部23は、軸方向一方の第一底部27と、軸方向他方の第二底部28とを有する。第二底部28の底面28aは、第一底部27の底面27aよりも径方向内側に存在する。このため、底壁部23で受けられるオイルLが少なくても、オイルLは軸方向他方よりも軸方向一方で多く溜められる。軸方向一方に多く溜められるオイルLは、軸7とリップ12との間に形成される開口Pに近く、このため、軸7とリップ先端部20との間に供給されやすい。
【0029】
図1及び図2に示す形態、並びに図3に示す形態では、第一底部27の底面27aは中心線Cを中心とする円筒面であり、第二底部28の底面28aは中心線Cを中心とするテーパ面である。なお、底面28aは中心線Cを中心とする円筒面であってもよく、この場合、二つの底面27aと底面28aとによって底壁部23は断面において段付き形状を有する。
【0030】
底壁部23及び堰部24の形状(断面形状)は他であってもよく、図4に示すように、第一底部27の底面27aと第二底部28の底面28aとが共通するテーパ面に沿う形状であってもよい。この場合でも、オイルLは底壁部23によって受けられ、そのオイルLが軸方向一方に流出するのを堰部24によって阻止される。なお、図4に示す形態の場合、リップ12と径方向について対向する部分が底壁部23であり、それ以外の軸方向一方側の部分が、堰部24である。
【0031】
以上のように、本開示の密封装置10は、ハウジングの一部8に取り付けられる固定部11と、固定部11から軸方向一方に延びて設けられているリップ12とを備える。固定部11は、オイルLを受けることが可能となる底壁部23と、その底壁部23によって受けられるオイルLが軸方向一方に流出するのを阻止する堰部24とを有する。
【0032】
軸7が中心線C回りに回転すると、その軸7に引っ張られて軸7の周囲のエアが周方向に流れる。前記各形態の密封装置10によれば、ハウジング内で飛来するオイルLが、底壁部23によって受けられ堰部24によって流出が阻止される。つまり、飛来するオイルLは、底壁部23及び堰部24によりリップ12の径方向外方に溜められる。溜められるオイルLは、軸7の回転により発生するエアの流れやエアの圧力(風圧)によって、例えば飛散することで、リップ12側に付着することが可能となる。リップ12に付着したオイルLは濡れ広がってリップ先端部20に供給されることで、リップ先端部20の潤滑に寄与する。このように、オイルLが底壁部23及び堰部24によって保持されることで、そのオイルLによってリップ先端部20の潤滑性を高めることが可能となる。この結果、密封装置10を高寿命にすることが可能となる。
【0033】
底壁部23及び堰部24の形状について図1により更に説明する。
図1に示す形態では、堰部24の径方向内方の端(最内端)41は、リップ12の軸方向一方でかつ径方向外方の端(最外端)42よりも、径方向外方に位置する。堰部24の端41は、リップ12の端42よりも軸方向一方に位置する。この構成により、堰部24とリップ12の端42との間に空間が形成され、この空間を通じて、飛来するオイルLが底壁部23及び堰部24によって保持され、また、保持されるオイルLが前記エアによってリップ12側に飛ばされる。
【0034】
堰部24の端41は、リップ12の端42よりも径方向内方に位置していてもよい。この場合、堰部24によって溜められるオイルLの液面が、リップ12に接近し、更に、その液面がリップ12に接触する。ただし、この場合、飛来するオイルLが凹溝29に到達し難くなる可能性がある。そこで、後述するリップ12の第一面21が有する外側面32と内側面31との境界(境界線Q)よりも径方向外方に、堰部24の端41が設けられるのが好ましい。
【0035】
底壁部23の底面27a,28aは、周方向に連続する面であり、その周方向の途中に底壁部23を径方向に貫通する穴は設けられていない。本開示では、底壁部23が全周に設けられることから、底面27a,28aは、穴の無い環状の面となる。
堰部24の軸方向他方側の側面、及び、底壁部23の底面27a,28aは、断面において、直線形状でなくてもよく、曲線形状であってもよい。
【0036】
また、後に説明するが(図5参照)リップ12が有する外側面32等に、突条33又は溝34が形成されていると、オイルLをリップ先端部20に供給する機能が高まる。また、後に説明するが、リップ12が有する外側面32等に、梨地状の面(梨地面35)が含まれていると、リップ12の外側面32にオイルLは付着しやすくなる。
特に軸7が高速回転するとエアの流れが強くなるため、オイルLはリップ先端部20に供給されやすくなる。
本開示では、底壁部23及び堰部24は、固定部11の全周にわたって設けられていて環状であるが、オイルLを下から保持することが可能であればよいことから、密封装置10の少なくとも底部に設けられていればよい。
【0037】
〔オイルLを導くための構成〕
図5は、密封装置10の一部を示す断面斜視図である。リップ12は、その内周側に、軸7の外周面7aに滑り接触するリップ先端部20の他に、リップ先端部20の軸方向一方に設けられている第一面21と、リップ先端部20の軸方向他方に設けられている第二面22とを有する。第二面22は、軸方向他方に向かうにつれて内径が大きくなる面22aを有する。第二面22の軸方向他方への延長側に第二のリップ19が設けられている。
【0038】
第一面21は、軸方向一方に向かうにつれて内径が大きくなる面を有する。その面として、第一面21は、リップ先端部20と隣接する内側面31を有する。内側面31は、リップ先端部20に向かって縮径するテーパ面である。第一面21は、更に、内側面31の径方向外側と隣接する外側面32を有する。外側面32は、リップ先端部20と隣接しない。本開示では、外側面32は、中心線C(図1参照)に直行する仮想面に沿った円環状の面であるが、当該仮想面に対して傾斜する面であってもよい。
【0039】
内側面31は、リップ12の成型後、その一部が切除されることで形成される面とされる場合があり、このため、カット面とも呼ばれる。外側面32は、切除されず、金型による転写面であり、ノーズ面と呼ばれることがある。
【0040】
図5では、オイルLの油滴が第一面21に付着している状態が示されている。前記のとおり(図1参照)、軸7が回転すると、その回転に伴って軸7の周囲のエアが、軸7の回転方向と同方向に流れる。第一面21にオイルLが付着していると、そのオイルLには、前記のように周方向に沿って流れるエアに押されることで周方向に移動する力が作用する。
そこで、図5に示す形態では、第一面21が有する外側面32に、軸7の回転に伴って周方向に流れるエアに押されるオイルLを、径方向内方に導く突条33が設けられている。図6は、その突条33を拡大して示す断面斜視図である。
【0041】
突条33の代わりに、軸7の回転に伴って周方向に流れるエアに押されるオイルLを径方向内方に導く溝34(図7参照)が、外側面32に形成されていてもよい。
【0042】
図8は、リップ12が有する第一面21の一部を軸方向から見た図である。突条33(又は溝34)は、所定長さを有した線状となって設けられている。図8において、軸7の回転方向を矢印R方向とすると、軸7の周囲のエアが流れる方向も矢印R方向と同じ周方向となる。周方向に流れるエアによって、外側面32に付着するオイルLは、突条33(又は溝34)で補足され、更に、突条33(又は溝34)に沿って径方向内方、つまり、軸7側へ向かって流れることができる。このために、突条33(又は溝34)は、中心線Cを通過する径方向の仮想線Jに対して傾斜している。より具体的に説明すると、突条33(又は溝34)は、軸7の回転方向前方に向かうにつれて径方向内方に延びるように傾斜して設けられている。なお、突条33(又は溝34)は、仮想線Jに対して傾斜する直線に沿って長く形成されていてもよく、曲線に沿って長く設けられていてもよい。
【0043】
以上のように、リップ12が有する第一面21の外側面32にオイルLが付着していると、そのオイルLは、前記エアに押されることによって、そのエアの流れ方向に移動することができる。このように移動するオイルLは、突条33又は溝34によれば、径方向内方、つまり、軸7側に導かれる。また、突条33(又は溝34)で補足されたオイルLは、軸7が回転していなくても、突条33(又は溝34)の長手方向に沿って浸透する。
突条33(又は溝34)により径方向内方に導かれたオイルLがリップ先端部20に供給される可能性が高くなり、そのオイルLがリップ先端部20の潤滑に寄与する。この結果、リップ先端部20の潤滑性を高めることが可能となる。
【0044】
図5に示す形態では、内側面31は、平滑な面(テーパ面)である。つまり、第一面21のうち、外側面32にのみ突条33又は溝34が形成されている。このように内側面31が、突条33又は溝34の形成されていない平滑な面であっても、オイルLをリップ先端部20に供給することが可能である。つまり、外側面32の突条33又は溝34は、その外側面32と内側面31との境界(境界線Q)までの範囲内に形成されている。外側面32と軸7とは非接触であるが接近していることから、外側面32の内周側にまで突条33又は溝34によってオイルLが導かれれば、そのオイルLは、軸7の外周面7aに接触し、表面張力によってリップ先端部20に供給される可能性が高い。特に、突条33又は溝34に補足されたオイルLは集約され、比較的大きな油滴となることができる。その油滴が、軸7の外周面7aとリップ12の内側面31との間からリップ先端部20に供給される。
なお、突条33又は溝34は、図5に示すように境界線Qに到達していてもよく、境界線Qよりも径方向外方の位置までであってもよい。また、突条33又は溝34は、図5に示すように、外側面32の径方向外側の縁に沿った線Uに到達していてもよく、その線Uよりも径方向内方の位置までであってもよい。
【0045】
〔突条33、溝34の変形例〕
図9は、突条33(溝34)の変形例を示す密封装置10の断面斜視図である。図9に示す突条33(溝34)は、螺旋状となって外側面32に形成されている。図5に示す形態では、各突条33(溝34)は、外側面32に沿って一周以下(360度以下)の範囲に設けられている。これに対して、図9に示す形態では、突条33(溝34)は、外側面32に沿って一周を超えた範囲(360度を超えた範囲)に長く、螺旋状となって設けられている。
【0046】
〔第一面21の変形例〕
図10は、第一面21の変形例を示す密封装置10の断面斜視図である。図10に示す形態では、図5に示す形態と同様に、外側面32に、軸7の回転に伴って周方向に流れるエアに押されるオイルLを、径方向内方に導く突条33(溝34)が設けられている。更に、図10に示す形態では、内側面31にも突条33(溝34)が設けられている。しかも、外側面32の一つの突条33(溝34)と、内側面31の一つの突条33(溝34)とは連続している。つまり、突条33(溝34)は、外側面32と内側面31との境界(境界線Q)を跨いで第一面21に設けられている。
【0047】
このように、図10に示す形態では、外側面32の突条33(溝34)が、内側面31に連続して設けられている。この場合、外側面32の突条33(溝34)に沿って径方向内方へ導かれるオイルLは、引き続き、内側面31に設けられている突条33(溝34)によってリップ先端部20に導かれる。このため、オイルLによってリップ先端部20の潤滑性を高める作用が高まる。
【0048】
なお、図示しないが、図10に示す密封装置10の突条33(溝34)の変形例として、外側面32から内側面31に連続する突条33(溝34)が、(図9により説明した形態と同様に)螺旋状であってもよい。
内側面31にも突条33(溝34)が形成される場合、その突条33(溝34)の内周側の端は、リップ先端部20に到達しないで、内側面31の範囲内に位置する。つまり、リップ先端部20には突条33(溝34)が形成されない。これは、突条33(溝34)によりリップ先端部20が軸7に対して接触不良となるのを防ぐためである。
【0049】
〔第一面21の表面の形態〕
前記各形態において、第一面21のうち、外側面32は、梨地面35であってもよい。なお、梨地面35は、外側面32の全体であってよく、外側面32の一部であってもよい。つまり、外側面32は、梨地面35である領域を含む。梨地面35では、粗さの度合いが、他の面よりも高くなっている。
【0050】
梨地面35の形成方法は、金型の転写(シボ加工)による。つまり、リップ12は、金型を用いて加硫成型され、その金型の表面のうち、外側面32に対応する面に、粗面処理が施されている。その粗面処理がされている金型面の一部が、リップの素材に転写される。前記粗面処理としては、金型の一部に対して行われる、サンドブラスト、レーザ加工、放電加工等による処理が挙げられる。本開示の梨地面35はシボ加工面であるが、機械的又は化学的に表面が荒らされている面(凹凸面)であればよい。
【0051】
このように、第一面21(外側面32)に梨地面35が含まれることで、第一面21(外側面32)にオイルLが補足されやすい。外側面32に補足されたオイルLが、突条33(又は溝34)に沿って径方向内方へ導かれる。
更に、内側面31は、平滑面であってもよいが、外側面32と同様に梨地面35である領域を含んでいてもよい。
【0052】
〔突条33、溝34の形状〕
図6により、突条33の形状について説明する。突条33は、外側面32から突出していればよいが、好ましくは、エアの流れる周方向に交差する面45を有する。図6では、エアの流れ方向を矢印Rとしている。なお、その面45は、エアの流れ方向に対して直角に交差する面でなくてよく、エアの流れ方向と平行な面以外の面であればよい。
面45と、その面45に隣接する外側面32との成す角度(劣角)θは、90度であってもよいが、90度未満であるのが好ましい。角度θが90度未満であることで、突条33によって補足されたオイルLが、その突条33を乗り越え難くなり、突条33の長手方向に沿って導かれやすくなる。
突条33の断面形状は、図6に示すように三角形状以外であってもよく、少なくとも一部に円弧形状が含まれていてもよい。
【0053】
図7により、溝34の形状について説明する。溝34は、外側面32から凹んでいればよいが、好ましくは、エアの流れる周方向に交差する仮想面に沿った面46を有する。図7では、エアの流れ方向を矢印Rとしている。なお、その面46(仮想面)は、エアの流れ方向に対して直角に交差する面でなくてよく、エアの流れ方向と平行な面以外の面であればよい。
面46と、その面46に隣接する外側面32との成す角度(劣角)θは、90度であってもよいが、90度未満であるのが好ましい。角度θが90度未満であることで、溝34によって補足されたオイルLが、その溝34を離脱し難くなり、溝34の長手方向に沿って導かれやすくなる。
溝34の断面形状は、図7に示すように三角形状以外であってもよく、少なくとも一部に円弧形状が含まれていてもよい。
【0054】
〔軸7の外周面7aの形態〕
図1により、軸7の外周面7aの形態について説明する。外周面7aは中心線Cを中心とする円筒面である。図1に示すように、外周面7aに凸部48が形成されている。凸部48は外周面7aから突出していて、図1に示す形態では、中心線Cと平行である軸方向に沿って所定長さを有する凸条である。凸部48は、外周面7aのうち、リップ先端部20が接触する接触部50よりも軸方向一方の領域に形成されている。凸部48は、周方向に沿って複数設けられている。
【0055】
凸部48の代わりに、凹部49が形成されていてもよい。凹部49は、例えば、中心線Cと平行である軸方向に沿って所定長さを有する凹溝である。凹部49は、外周面7aのうち、リップ先端部20が接触する接触部50よりも軸方向一方の領域に形成されている。凹部49は、周方向に沿って複数設けられている。
【0056】
前記のような軸7と、前記各形態の密封装置10とを含む密封構造によれば、軸7が回転すると、その軸7に設けられている凸部48又は凹部49によってエアの流れが生じやすい。このため、底壁部23によって受けられ堰部24によって流出が阻止されるオイルLは、軸7の回転により発生するエアの流れによって、飛散することで、リップ12側に付着しやすい。また、エアの流れが生じやすいことから、リップ12の第一面21に設けられている突条33又は溝34により、オイルLを径方向内方に導く作用を高めることが可能となる。
【0057】
リップ先端部20の軸7への接触不良を防ぐため、凸部48(凹部49)は接触部50以外の領域に形成されている。更に、図1に示す形態では、軸7の外周面7aのうち、リップ12(内側面31)よりも軸方向一方に位置する領域に、凸部48(凹部49)が形成されている。この構成によれば、不測の事態によって仮にリップ先端部20の摩耗が大きく進行したとしても、リップ12が凸部48(凹部49)に接触するのを防ぐことができる。
【0058】
凸部48(凹部49)は、図11Aに示すように、中心線Cに平行な直線に対して傾斜していてもよい。この場合、軸7が回転すると、その周囲のエアの流れは、主に周方向成分を有するが、軸方向成分も有する。特に、軸7が回転することで生じるエアの流れ方向に、リップ先端部20側に向かう軸方向成分を有するように、凸部48(凹部49)は中心線Cに平行な直線に対して傾斜しているのが好ましい。
なお、軸7が正回転及び逆回転の双方に切り替わって回転する場合、図11Bに示すように、中心線Cに平行な直線に対して周方向一方及び他方の双方に傾斜するV形の凸部48(凹部49)が形成されるのが好ましい。
【0059】
凸部48は、その長手方向(例えば軸7の中心線Cに平行な方向)に沿って同じ高さであってもよいが(図11C中の上側の図参照)、その長手方向(例えば軸7の中心線Cに平行な方向)に沿って変化していてもよい(図11C中の下側の図参照)。また、図示しないが、凹部49は、その長手方向(例えば軸7の中心線Cに平行な方向)に沿って同じ深さであってもよいが、その長手方向(例えば軸7の中心線Cに平行な方向)に沿って変化していてもよい。
また、凸部48及び凹部49は、一方向に長い直線状でなくてもよく、湾曲形状であってもよい。このように凸部48(凹部49)の形状を変化させることで、軸7の回転によるエアの流れがリップ先端部20側に向かう成分を有することが可能となる。
【0060】
凸部48(凹部49)の、周方向に沿った寸法である幅寸法、幅寸法に直交する方向の長さ寸法、高さ(深さ)、数、角度等は、軸7の回転数(周速)に応じて変更可能である。
【0061】
〔その他について〕
図12は、第一面21の変形例を示す密封装置10の断面斜視図である。図12は、図5に示す第一面21の変形例を示す。第一面21は、内側面31と外側面32とを有する点で、図5に示す第一面21と同じであるが、図12に示す内側面31は、径方向の途中で傾斜角度が変化する複数(図12では二つ)の面(31a,32a)を有する。このような内側面31を含む第一面21に対しても、前記各形態の構成(突条33、溝34、梨地面35)が適用される。
また、図示しないが、外側面32が、径方向の途中で傾斜角度が変化する複数の面を有していてもよい。このような外側面32を含む第一面21に対しても、前記各形態の構成(突条33、溝34、梨地面35)が適用される。
【0062】
図13Aは、リップ12の変形例を示す断面斜視図である。前記各形態では(例えば図5参照)リップ12の第一面21が有する内側面31と外側面32との間には、境界線Qが存在している。図13Aに示すリップ12の第一面21は、内側面31と外側面32とを有するが、これら内側面31と外側面32との間に境界線が存在していない。つまり、一つの共通するテーパ面に沿って、内側面31と外側面32とが形成されている。このような第一面21に対しても、前記各形態の構成(突条33、溝34、梨地面35)が適用される。
【0063】
図13Aを除く他の形態では、例えば図5に示すように、密封装置10はスプリング30を有する。図13A及び図13Bに示す密封装置10は、図5に示すようなスプリング30を有していない。このようなスプリング30を有していない密封装置10のリップ12に対しても、前記各形態の構成(突条33、溝34、梨地面35)が適用される。
また、前記各形態において、図13A及び図13Bに示す形態のように、例えば図5に示すような第二のリップ19が省略されていてもよい。
【0064】
以上のように、前記各形態の密封装置10によれば、軸7が高速で回転しても、密封する対象であって潤滑性確保のために用いることが可能となるオイルLによって、リップ先端部20の潤滑性を高めることが可能となる。リップ先端部20にオイルLが供給され、リップ先端部20と軸7との間の摺動熱による温度上昇を抑えることができ、密封装置10を長寿命化させることが可能となる。
【0065】
図14Aは、図2に示す形態の密封装置10が備えるリップ12の温度の時間変化を示すグラフである。軸7を回転させ、その軸7にリップ先端部20が滑り接触する状態で温度の計測が行われた結果を図14Aは示している。図14Aの縦軸がリップ先端部20の近傍の温度を示す。図14A中、矢印e1はリップ温度であり、矢印e2は油槽温度であり、矢印e3は大気温度である。前記油槽温度とは、軸7及び密封装置10が設けられているハウジングの底部に溜められているオイルの温度である。なお、ハウジングの底部のオイルは、軸7の回転によってかき上げられ、ハウジング中を飛散する環境にある。図14Aに示すように、図2に示す形態の密封装置10によれば、時間が経過しても、リップ温度は、油槽温度とほぼ同じであり、リップ12(リップ先端部20)が高温となるのを防ぐことができる。
【0066】
図14Bは、従来の密封装置が備えるリップの温度の時間変化を示すグラフである。従来の密封装置は、図2に示す形態のような堰部24を備えず、また、突条33及び溝34を備えていない。油槽温度(矢印e2)について大きな変化は無いが、リップ12(リップ先端部20)が高温となる(矢印e1)。つまり、従来の密封装置では、ハウジングの底部に溜められているオイルは、リップ先端部の潤滑のために効果的に用いられない。
【0067】
また、図示しないが、本開示の発明の他の形態(例えば図5参照)の密封装置10においても、図14Aに示す結果と同様の結果が得られる。つまり、本開示の発明によれば、オイルによって、リップ先端部20の潤滑性を高めることが可能となる。
【0068】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0069】
7:軸 7a:外周面 10:密封装置
12:リップ 20:リップ先端部 21:第一面
22:第二面 31:内側面 32:外側面
33:突条 34:溝 35:梨地面
48:凸部 49:凹部 50:接触部
L:オイル(液体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図15