(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】細胞保持容器
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20240409BHJP
C12M 1/42 20060101ALI20240409BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C12M1/34 D
C12M1/42
G01N33/483 E
(21)【出願番号】P 2020051311
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】浦川 哲
(72)【発明者】
【氏名】真田 雅和
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-031617(JP,A)
【文献】特表2005-522219(JP,A)
【文献】特開2010-022227(JP,A)
【文献】特表2015-508997(JP,A)
【文献】特開2019-110794(JP,A)
【文献】特開平11-304666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
G01N 27/00-27/10
G01N 27/14-27/24
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞懸濁液が滴下される測定面を有する細胞保持容器であって、
前記測定面は、
複数の作用電極が配置される作用領域と、
前記作用領域よりも外側に配置される参照電極と、
前記作用領域と前記参照電極との間に設けられる複数の第1領域と、
径方向に隣り合う2つの前記第1領域の間に配置される第2領域と、
を含み、
前記第1領域における接触角は、前記作用領域における接触角および前記第2領域における接触角よりも
40°以上大き
く、
前記第1領域はそれぞれ、前記作用領域を環状に囲み、
前記第1領域はそれぞれ、周方向に途切れる切れ目を有し、
前記作用電極から前記第1領域の径方向外側に延びる配線が、前記切れ目に配置される、細胞保持容器。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞保持容器であって、
前記作用電極と、前記配線と、前記第1領域の表面とはいずれも金属膜であり、
前記切れ目において、前記金属膜も周方向に途切れ、
前記作用電極から延びる前記配線と、前記第1領域の前記金属膜とは周方向に互いに間隔を開けて配置される、細胞保持容器。
【請求項3】
請求項2に記載の細胞保持容器であって、
前記作用電極、前記配線、および前記第1領域の表面はAu金属膜であり、
前記作用電極を除く前記作用領域の表面、および、前記第2領域の表面はSiOx膜であり、
前記切れ目において、前記配線の上面はSiOx膜で覆われる、細胞保持容器。
【請求項4】
請求項1に記載の細胞保持容器であって、
前記第1領域はそれぞれ、円環状である、細胞保持容器。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の細胞保持容器であって、
前記第1領域は平面状であり、
前記第1領域を形成する材料の平面における接触角が、前記作用領域における接触角および前記第2領域における接触角よりも大きい、細胞保持容器。
【請求項6】
請求項1に記載の細胞保持容器であって、
前記第1領域の表面は、少なくとも径方向に凹凸を有し、
前記第1領域を形成する材料は、凹凸を有する面における接触角が、平面における接触角よりも大きい、細胞保持容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞保持容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、神経細胞等の細胞あるいは組織の誘導電気を測定するために、微小電極アレイ(Micro-Electrode Array)と呼ばれる、複数の電極が底面に設けられた細胞保持容器であるMEA電極を用いて細胞外電位を計測するシステムが知られている。MEA電極については、例えば、特許文献1に記載されている。
【0003】
このようなMEA電極は、測定面に複数の作用電極と参照電極とを有する。細胞外電位の測定時には、まず、細胞または組織の切片を含む培養液等の液体(細胞懸濁液)を作用電極の上に滴下する。しばらくすると、液体中の細胞または組織の切片が作用電極上に沈下して細胞層を形成する。細胞層の形成後、当該細胞層の細胞外電位の測定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
細胞層の細胞外電位を計測する場合、参照電極には細胞層が接触していないことが必要である。このため、細胞懸濁液の滴下時に、細胞懸濁液を参照電極に接触させないことが必要となる。すなわち、細胞懸濁液の滴下領域が参照電極まで拡がらないことが必要となる。
【0006】
また、細胞層の厚みは、細胞懸濁液の濃度および滴下量が一定であれば、細胞懸濁液の滴下領域の面積(滴下面積)によって左右される。細胞懸濁液の滴下面積が大きければ細胞層は薄くなり、細胞懸濁液の滴下面積が小さければ細胞層は厚くなる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、細胞懸濁液の滴下領域および滴下面積を調節できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、細胞懸濁液が滴下される測定面を有する細胞保持容器であって、前記測定面は、複数の作用電極が配置される作用領域と、前記作用領域よりも外側に配置される参照電極と、前記作用領域と前記参照電極との間に設けられる複数の第1領域と、径方向に隣り合う2つの前記第1領域の間に配置される第2領域と、を含み、前記第1領域における接触角は、前記作用領域における接触角および前記第2領域における接触角よりも40°以上大きく、前記第1領域はそれぞれ、前記作用領域を環状に囲み、前記第1領域はそれぞれ、周方向に途切れる切れ目を有し、前記作用電極から前記第1領域の径方向外側に延びる配線が、前記切れ目に配置される。
【0009】
本願の第2発明は、第1発明の細胞保持容器であって、前記作用電極と、前記配線と、前記第1領域の表面とはいずれも金属膜であり、前記切れ目において、前記金属膜も周方向に途切れ、前記作用電極から延びる前記配線と、前記第1領域の前記金属膜とは周方向に互いに間隔を開けて配置される。
【0010】
本願の第3発明は、第2発明の細胞保持容器であって、前記作用電極、前記配線、および前記第1領域の表面はAu金属膜であり、前記作用電極を除く前記作用領域の表面、および、前記第2領域の表面はSiOx膜であり、前記切れ目において、前記配線の上面はSiOx膜で覆われる。
【0011】
本願の第4発明は、第1発明の細胞保持容器であって、前記第1領域はそれぞれ、円環状である。
【0012】
本願の第5発明は、第1発明ないし第4発明のいずれかの細胞保持容器であって、前記第1領域は平面状であり、前記第1領域を形成する材料の平面における接触角が、前記作用領域における接触角および前記第2領域における接触角よりも大きい。
【0013】
本願の第6発明は、第1発明の細胞保持容器であって、前記第1領域の表面は、少なくとも径方向に凹凸を有し、前記第1領域を形成する材料は、凹凸を有する面における接触角が、平面における接触角よりも大きい。
【発明の効果】
【0014】
本願の第1発明から第6発明によれば、作用領域または第2領域の外側に配置された第1領域によって細胞懸濁液が拡がるのが抑制される。これにより、細胞懸濁液の滴下領域を第1領域の内側に調整することができる。また、第1領域が複数段あることにより、複数の滴下領域および滴下面積から選択することができる。したがって、細胞懸濁液の滴下面積を選択して細胞層の厚みを調節することができる。
【0016】
特に、本願の第4発明によれば、細胞懸濁液の拡がり方が等方的になる。これにより、細胞層の厚みも等方的となる。
【0018】
特に、本願の第5発明によれば、材料の選択によって接触角を設定する。
【0019】
特に、本願の第6発明によれば、第1領域を構成する材料の平面における接触角が、作用領域および第2領域の接触角に比べて十分大きくない場合であっても、凹凸を設けることによって第1領域の接触角を十分に大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態に係る細胞保持容器の斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る細胞保持容器の上面図である。
【
図3】第1実施形態に係る細胞保持容器に細胞懸濁液を滴下後の様子を概念的に示す図である。
【
図4】第1実施形態に係る細胞保持容器の部分断面図である。
【
図5】第1実施形態に係る細胞保持容器の部分上面図である。
【
図6】一変形例に係る細胞保持容器の部分上面図である。
【
図7】一変形例に係る細胞保持容器の部分断面図である。
【
図8】他の変形例に係る細胞保持容器の部分断面図である。
【
図9】他の変形例に係る細胞保持容器の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において細胞保持容器の底面に平行な方向を「水平方向」、水平方向に直交する方向を「上下方向」と称する。しかしながら、細胞保持容器の使用時の姿勢は、細胞保持容器の底面が必ずしも水平方向とならなくてもよい。また、測定領域の中央部を中心とした円弧に沿う方向を「周方向」、測定領域の中央部から延びる方向を「径方向」と称する。
【0022】
なお、図面は概略的に示されるものであり、説明の便宜のため、図面中の一部の構成は誇張して表現される場合がある。すなわち、図面に示される構成の大きさおよび位置の相互関係は必ずしも正確に記載されるものではなく、適宜変更され得るものである。
【0023】
<1.第1実施形態>
<1-1.細胞保持容器の構成>
本発明の第1実施形態に係る細胞保持容器1について、
図1および
図2を参照しつつ説明する。
図1は、細胞保持容器1の斜視図である。
図2は、細胞保持容器1の上面図である。なお、
図2中、領域の境界を明確にするため、一部の領域を着色して示している。また、
図1および
図2において、後述する作用電極200および参照電極500から延びる配線については、図示を省略している。
【0024】
この細胞保持容器1は、内部に細胞層および培地を収容および保持するとともに、保持された細胞層の電気的特性を計測するための容器である。細胞保持容器1は、その底面に、細胞保持容器1内に収容された細胞または組織の電気的特性を計測するための電極を有している。この細胞保持容器1は、細胞または組織の切片を含む培養液等の液体(細胞懸濁液)を滴下した後に形成される細胞層について、電気的特性を計測するためのものである。しかしながら、細胞保持容器1内で細胞を培養して形成された細胞層や、脳スライス試料等の生体組織について電気的特性を計測する際に使用してもよい。
【0025】
図1および
図2に示すように、細胞保持容器1は、カップ状の凹部90を有する本体部9と、凹部90の底面を構成する測定面8とを有する。本実施形態の細胞保持容器1は、本体部9が凹部90を1つだけ有する有底円筒形の容器である。このため、本体部9は、平板状の底板部91と、底板部91の縁部から上方に延びる側壁部92とを有する。そして、底板部91の上面が測定面8となる。
【0026】
本実施形態の細胞保持容器1は、本体部9が凹部90を1つだけ有する有底円筒形の容器であるが、本発明はこれに限られない。本体部9が複数の凹部90を有する、所謂マルチウェルプレートであってもよい。
【0027】
細胞保持容器1に細胞懸濁液を滴下する際には、測定面8が鉛直上向きとなるように、例えば載置台に載置され、固定される。そして、測定面8の上に細胞懸濁液が所定の容量滴下される。細胞懸濁液の滴下量は、例えば数μL(より具体的には、例えば4μL)程度である。細胞懸濁液の滴下後、細胞保持容器1の姿勢を維持したまま、しばらく待機を行う。この間に、滴下された細胞懸濁液中に含まれる細胞や組織片は、液中を沈下して、測定面8上においてシート状の細胞層を形成する。これにより、細胞懸濁液の拡がった領域(滴下領域)に細胞層が形成される。詳細な細胞懸濁液の滴下方法については、後述する。
【0028】
測定面8は、作用領域20、内側第1領域31、中間第1領域32、外側第1領域33、内側第2領域41、外側第2領域42、および参照領域50を有する。本実施形態の測定面8は上面視において円形であるが、本発明はこれに限られない。測定面は、楕円形、正方形その他の正多角形、あるいは長方形等の他の形状であってもよい。
【0029】
作用領域20は、測定面8の中央に設けられた領域である。
【0030】
3つの第1領域31,32,33は、作用領域20よりも外側に配置される領域である。第1領域31,32,33はそれぞれ、作用領域20を環状に囲む。具体的には、第1領域31,32,33はそれぞれ、同心円環状の領域である。
【0031】
内側第1領域31、中間第1領域32および外側第1領域33は、径方向内側から径方向外側へ向かって順に、径方向に間隔を空けて配置される。
【0032】
2つの第2領域41,42は、作用領域20および内側第1領域31よりも外側に配置される領域である。第2領域41,42もそれぞれ、作用領域20を環状に囲む。具体的には、第2領域41,42はそれぞれ、同心円環状の領域である。
【0033】
2つの第2領域41,42はそれぞれ、第1領域31,32,33のうちの径方向に隣り合う2つの間に配置される。具体的には、内側第2領域41は内側第1領域31と中間第1領域32との間に配置される。外側第2領域42は中間第1領域32と外側第1領域33との間に配置される。
【0034】
参照領域50は、外側第2領域42の外側の領域である。
【0035】
このように、径方向内側から順に、作用領域20、内側第1領域31、内側第2領域41、中間第1領域32、外側第2領域42、外側第1領域33、参照領域50の順に径方向に隣り合って配置される。
【0036】
また、測定面8には、複数の作用電極200と、2つの参照電極500とが配置されている。
【0037】
複数の作用電極200は、いずれも作用領域20内に配置される。複数の作用電極200は、上面視において作用領域20内に2次元的に配列されている。本実施形態では、16個の作用電極200が4行4列のマトリックス状に配列されているが、作用電極200の個数および配置はこれに限られない。作用電極200は互いに間隔を空けて配置されていればよい。
【0038】
また、本実施形態の作用電極200は、いずれも上面視において正方形であるが、作用電極200の形状は丸形、長方形、その他任意の形状であってもよい。
【0039】
参照電極500は、いずれも参照領域50に配置される。本実施形態の参照電極500は、外側第1領域33の外縁部に沿って円弧状に延びる。なお、参照電極500の数は2つに限られず、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。また、参照電極500の形状も円弧状に限られず、作用電極200と同様、上面視において正方形、長方形、その他任意の形状であってもよい。
【0040】
具体的には、本実施形態では、作用領域20の表面は、作用電極200の部分を除いて、SiOx膜である。第1領域31,32,33の表面は、金(Au)である。第2領域41,42の表面は、SiOx膜である。参照領域50の表面は、参照電極500の部分を除いて、SiOx膜である。また、作用電極200および参照電極500は金(Au)である。また、本実施形態では、作用領域20、第1領域31,32,33、および第2領域41,42はそれぞれ、その表面が、各領域を構成する材料を平面状に形成したものである。
【0041】
SiOx膜の平面状の表面における接触角は30°未満であり、金(Au)の平面状の表面における接触角は約80°である。このため、作用領域20および第2領域41,42の接触角は30°未満であり、第1領域31,32,33の接触角は約80°である。
【0042】
このように、第1領域31,32,33における接触角は、作用領域20における接触角と、第2領域41,42における接触角よりも大きい。なお、「作用領域20における接触角」とは、「作用領域20の作用電極200を除いた部分における接触角」である。これにより、第1領域31,32,33と、作用領域20および第2領域41,42との境界部において、作用領域20および第2領域41,42上に滴下された液体が第1領域31,32,33に進入するのが抑制される。
【0043】
より具体的には、上記の通り、第1領域31,32,33における接触角は、作用領域20における接触角および第2領域41,42における接触角よりも40°以上大きい。このため、第1領域31,32,33と、作用領域20および第2領域41,42との境界部において、作用領域20および第2領域41,42上に滴下された液体が第1領域31,32,33に進入するのが、より効率よく抑制される。
【0044】
本実施形態では、上記の通り、第1領域31,32,33は平面状である。そして、第1領域31,32,33を形成する材料(金(Au))の平面における接触角が、作用領域20および第2領域41,42における接触角よりも大きい。すなわち、第1領域31,32,33の表面形状を複雑にすることなく、作用領域20および第2領域41,42上に滴下された液体が第1領域31,32,33に進入するのが抑制される。
【0045】
<1-2.細胞懸濁液の拡がり方>
細胞保持容器1において細胞懸濁液から形成された細胞層を計測する場合には、まず、細胞または組織の切片を含む培養液等の液体(細胞懸濁液)を作用電極の上に滴下する。しばらくすると、液体中の細胞または組織の切片が作用電極上に沈下して細胞層を形成する。細胞層の形成後、当該細胞層の細胞外電位の測定を行う。
【0046】
ここで、細胞懸濁液の滴下後の細胞懸濁液の拡がり方について、
図3を参照しつつ説明する。
図3は、細胞懸濁液の滴下後の様子を概念的に示す図である。
図3においては、
図2中の着色した箇所がわかるように、A-A’断面における測定面8部分を、実際の断面形状ではなく、
図2と同じ着色を付してブロック状に示している。すなわち、
図3においては、
図2において着色がなされた部分と、着色がなされていない部分とを、便宜的にブロック分けして断面のように示している。繰り返しとなるが、
図3のブロック分けの断面図は、実際の細胞保持容器1の断面形状とは異なる。
【0047】
細胞懸濁液をマイクロピペット等で作用領域20の中央部に滴下すると、作用領域20内は比較的接触角が小さいため、細胞懸濁液が作用領域20内に拡がりやすい。このため、細胞懸濁液は作用領域20の外縁部まで拡がっていく。
【0048】
上記の通り、内側第1領域31の表面における接触角は、作用領域20の接触角よりも大きい。この接触角の差により、細胞懸濁液は、作用領域20の外縁部から内側第1領域31へと進入しにくい。したがって、細胞懸濁液の拡がりは、内側第1領域31の内縁部で留まる。すなわち、細胞懸濁液の滴下範囲を内側第1領域31の内側に制御することができる。この場合、細胞懸濁液の断面形状Cは、
図3上段に示す「内側第1領域で制御した場合」のようになる。
【0049】
次に、細胞懸濁液の滴下範囲を拡げたい場合、例えば、細胞懸濁液を内側第1領域31の全体を覆うように拡げながら滴下する。この場合、内側第1領域31上に滴下された細胞懸濁液は、内側第1領域31内から、内側第1領域31と隣接し、かつ、内側第1領域31より接触角の小さい、作用領域20および内側第2領域41へと進入する。その後、細胞懸濁液は、比較的接触角の小さい作用領域20および内側第2領域41内に拡がる。このため、細胞懸濁液は、作用領域20、内側第1領域31および内側第2領域41の全体を覆うように拡がる。
【0050】
内側第2領域41の外縁部付近において、隣接する中間第1領域32の表面における接触角は、内側第2領域41の表面における接触角よりも大きい。この接触角の差により、細胞懸濁液は、内側第2領域41の外縁部から中間第1領域32へと進入しにくい。したがって、細胞懸濁液の拡がりは、中間第1領域32の内縁部で留まる。すなわち、細胞懸濁液の滴下範囲を中間第1領域32の内側に制御することができる。この場合、細胞懸濁液の断面形状Cは、
図3中段に示す「中間第1領域で制御した場合」のようになる。
【0051】
続いて、細胞懸濁液の滴下範囲をさらに拡げたい場合、例えば、細胞懸濁液を内側第1領域31および中間第1領域32の全体を覆うように拡げながら滴下する。この場合、内側第1領域31上に滴下された細胞懸濁液は、内側第1領域31内から、内側第1領域31と隣接し、かつ、内側第1領域31より接触角の小さい、作用領域20および内側第2領域41へと進入する。また、中間第1領域32上に滴下された細胞懸濁液は、中間第1領域32内から、中間第1領域32と隣接し、かつ、中間第1領域32より接触角の小さい、内側第2領域41および外側第2領域42へと進入する。
【0052】
その後、細胞懸濁液は、比較的接触角の小さい作用領域20、内側第2領域41および外側第2領域42内に拡がる。このため、細胞懸濁液は、作用領域20、内側第1領域31、内側第2領域41、中間第1領域32および外側第2領域42の全体を覆うように拡がる。
【0053】
外側第2領域42の外縁部付近において、隣接する外側第1領域33の表面における接触角は、外側第2領域42の表面における接触角よりも大きい。この接触角の差により、細胞懸濁液は、外側第2領域42の外縁部から外側第1領域33へと進入しにくい。したがって、細胞懸濁液の拡がりは、外側第1領域33の内縁部で留まる。すなわち、細胞懸濁液の滴下範囲を外側第1領域33の内側に制御することができる。この場合、細胞懸濁液の断面形状Cは、
図3下段に示す「外側第1領域で制御した場合」のようになる。
【0054】
このように、第1領域31,32,33における接触角が、作用領域20における接触角および第2領域41,42における接触角よりも大きいことにより、作用領域20または第2領域41,42の外側に隣接する第1領域31,32,33によって細胞懸濁液が拡がるのが抑制される。これにより、細胞懸濁液の滴下領域を第1領域31,32,33の内側に調整することができる。
【0055】
また、第1領域31,32,33が複数段に配置されることにより、細胞懸濁液の滴下面積を複数の面積から選択することができる。本実施形態では、細胞懸濁液の滴下面積を、内側第1領域31の内側の領域の面積、中間第1領域32の内側の領域の面積、および外側第1領域33の内側の領域の面積のいずれかから選択することができる。
【0056】
したがって、細胞懸濁液の滴下領域および滴下面積を選択して、その後に形成される細胞層の厚みを調整することができる。
【0057】
本実施形態では、第1領域31,32,33はそれぞれ、作用領域20を環状に囲む。このように、第1領域31,32,33がそれぞれ環状であることにより、周方向の全域において細胞懸濁液の拡がりを抑制できる。したがって、細胞懸濁液の滴下領域をより厳密に調節することができる。なお、後述のように、第1領域31,32,33は、周方向の僅かな幅の切れ目を有しているが、当該箇所を除いて環状であるため、このような効果は十分に有している。
【0058】
また、本実施形態では、第1領域31,32,33はそれぞれ、円環状である。このため、各第1領域31,32,33の内側の領域において、細胞懸濁液の拡がり方が等方的になる。したがって、細胞懸濁液の滴下後に形成される細胞層の厚みも等方的となる。
【0059】
<1-3.測定面の断面形状について>
続いて、本実施形態における測定面8の断面形状について、
図4を参照しつつ説明する。
図4は、O-B断面における細胞保持容器1の断面図である。
【0060】
測定面8の形成時には、まず、本体部9の底板部91の上面に、測定面8のうち金(Au)を材料とする領域を形成する。例えば、液相成膜法や気相成膜法により、本体部9の底板部91の上面に、金(Au)を材料とする金属膜(以下では「Au金属膜」と称する)を形成する。その後、リソグラフィー法によって、レジストパターンの形成、エッチングおよびレジストの除去を行うことによって、作用電極200、参照電極500、作用電極200および参照電極500から延びる配線(例えば
図5に示す配線501)、ならびに第1領域31,32,33を形成する。なお、これらの金(Au)を材料とする領域は、リフトオフ法により形成されてもよい。
【0061】
次に、SiOxを材料とする領域を形成する。例えば、真空蒸着法やスパッタリングにより、底板部91およびAu金属膜の上にSiOx絶縁膜の層を形成する。その後、リソグラフィー法によって、作用電極200、参照電極500および第1領域31,32,33が露出するように、レジストパターンの形成、エッチングおよびレジストの除去を行う。これにより、SiOx絶縁膜が残った部分が作用領域20、第2領域41,42および参照領域50となる。なお、配線上のSiOx絶縁膜は除去しない。
【0062】
ここで、作用電極200、参照電極500および第1領域31,32,33を含むAu金属膜で形成された領域の縁部において、Au金属膜の上に、SiOx絶縁膜が僅かに残る。これにより、測定面8を形成するAu金属膜およびSiOx絶縁膜が、
図4に示すような断面形状を形成する。一例として、内側第2領域41を構成するSiOx絶縁膜の内縁部は、内側第1領域31を構成するAu金属膜の外縁部の上に積層される。
【0063】
ここで、作用電極200から延びる配線を、作用電極200とともに底板部91の上面に形成する場合について、
図5を参照しつつ説明する。
図5は、細胞保持容器1の部分上面図である。本実施形態では、第1領域31,32,33と、作用電極200および参照電極500と、作用電極200から延びる配線201および参照電極500から延びる配線(図示なし)とを同じ材料かつ同じ層として形成する。
【0064】
このような場合に、さらに、作用電極200から延びる配線201は、第1領域31,32,33を横切って配置される場合がある。その場合、第1領域31,32,33と配線201とが導通しないために、第1領域31,32,33を、配線201およびその周縁部と重ならない様に配置する必要がある。そのため、例えば、
図5に示すように、第1領域31,32,33はそれぞれ、配線201が配置されるための周方向の切れ目311,321,331を有している。なお、当該切れ目311,321,322の周方向の幅は僅かであるため、第1領域31,32,33による細胞懸濁液の拡がりを抑制する効果は十分にある。
【0065】
<2.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0066】
図6は、一変形例に係る細胞保持容器1Aの部分上面図である。
図7は、
図6の例の細胞保持容器1AのC-D断面図である。この細胞保持容器1Aでは、作用電極200Aから延びる配線201Aと、第1領域31A,32A,33Aを形成する金属膜とが、第2領域41A,42Aを形成するSiOx絶縁膜の層を挟んで上下方向に重なって配置される。
【0067】
このようにすれば、
図6に示すように、第1領域31A,32A,33Aが周方向の切れ目を有していなくてよい。このため、第1領域31A,32A,33Aによる細胞懸濁液の広がりを抑制する効果が向上する。
【0068】
図7に示すように、この細胞保持容器1Aでは、作用電極200A、配線201Aおよび参照電極500Aを構成する金属層の上に、SiOx絶縁膜を形成している。SiOx絶縁膜は、作用電極200Aおよび参照電極500Aを除く測定面8の全体に形成されている。これにより、作用電極200Aを除く作用領域20A、第1領域31A,32A,33A、第2領域41A,42Aおよび参照電極500Aを除く参照領域50AがSiOx絶縁膜で覆われる。そして、その後、第1領域31A,32A,33Aにおいて、SiOx絶縁膜上に、当該SiOx絶縁膜よりも接触角の大きい層を形成している。このようにすれば、第1領域31A,32A,33Aと配線201Aとを上下方向に重ねて配置することができる。
【0069】
なお、このように第1領域31A,32A,33Aと配線201Aとを異なる層として形成する場合、第1領域31A,32A,33Aと配線201Aとを異なる材料で形成できる。第1領域31A,32A,33Aは導電性を有していなくてよいため、作用領域20Aおよび第2領域41A,42Aよりも接触角が大きく、電極200A,500Aおよび配線201Aとは異なる材料で形成してもよい。
【0070】
図8は、他の変形例に係る細胞保持容器1Bの部分断面図である。この細胞保持容器1Bは、第1実施形態に係る細胞保持容器1と、第1領域31B,32B,33Bを形成する材料および第1領域31B,32B,33Bの形状が異なる。
【0071】
この細胞保持容器1Bにおいて、作用領域20B、第2領域41B,42Bおよび参照領域50Bは、第1実施形態と同様に、SiOx絶縁膜で形成されている。また、作用電極200Bおよび参照電極500Bは、第1実施形態と同様に、Au金属膜で形成されている。一方、第1領域31B,32B,33Bは、例えば、ポリイミドで形成されている。ポリイミドは、平面状の表面における接触角が60°~70°である。このため、平面状の表面における接触角が30°未満であるSiOxに比べて接触角が大きいものの、接触角の差が40°以上とはならない。
【0072】
そこで、この細胞保持容器1Bでは、第1領域31B,32B,33Bの表面が、径方向に凹凸を有する。なお、「径方向に凹凸を有する」とは、表面の高さが径方向の位置に応じて周期的に変化することを意味する。
図8の例では、第1領域31B,32B,33Bに設けられた凹部が、第1領域31B,32B,33Bを形成するポリイミド層の下端部まで達しているが、凹部の深さはポリイミド層の厚みよりも小さくてもよい。
【0073】
第1領域31B,32B,33Bを形成する材料であるポリイミドは、凹凸を有する面における接触角が、平面における接触角よりも大きい。このため、第1領域31B,32B,33Bにおいて、ポリイミドの凹凸を有する面における接触角は、70°よりも大きい。このため、第1領域31B,32B,33Bの接触角は、SiOxにより形成された作用領域20Aおよび第2領域41A,42Aの接触角よりも40°以上大きい。
【0074】
図8の例のように、第1領域の接触角をより大きくするために、第1領域の表面に凹凸形状を設けてもよい。このようにすれば、第1領域を構成する材料の平面における接触角が、作用領域および第2領域の接触角に比べて十分大きくない場合であっても、凹凸を設けることによって第1領域の接触角を十分に大きくすることができる。
【0075】
なお、第1領域の表面は、径方向だけでなく、周方向にも凹凸を有していてもよい。また、このように表面に凹凸形状を設ける第1領域の材料は、ポリイミドに限らず、作用領域および第2領域を形成する材料よりも平面における接触角の大きな材料であればよい。
【0076】
図9は、他の変形例に係る細胞保持容器1Cの上面図である。
図9中、
図2中に示す第1実施形態の構成と同等の構成については、
図2中と同じ符号を付している。
図9の例の細胞保持容器1Cでは、参照領域50Cに、4つの参照電極500Cが周方向に略等間隔に配置されている。参照電極500Cはそれぞれ、上面視で正方形状である。
【0077】
図9の例のように、参照電極の数および形状は、第1実施形態に示した例に限られない。同様に、作用電極の数および形状についても、本願で開示した例に限られない。
【0078】
また、上記の実施形態および変形例において、作用電極および参照電極の材料として金(Au)を挙げたが、その他の導電性材料であってもよい。また、作用領域および参照領域の材料としてSiOxを挙げたが、その他の絶縁性材料であってもよい。また、第1領域の材料として金(Au)およびポリイミドを挙げたが、その他の、作用領域および第2領域よりも接触角の大きい材料であってもよい。また、第2領域の材料としてSiOxを挙げたが、その他の、第1領域よりも接触角の小さい材料であってもよい。
【0079】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1,1A,1B,1C 細胞保持容器
8 測定面
20,20A,20B 作用領域
31,32,33,31A,32A,33A,31B,32B,33B 第1領域
41,42,41A,42A,41B,42B 第2領域
50,50A,50B,50C 参照領域
200,200A 作用電極
500,500A,500C 参照電極