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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】走査電子顕微鏡および画像生成方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/153 20060101AFI20240409BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
H01J37/153 B
H01J37/147 B
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020055703
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021157915
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】301014904
【氏名又は名称】東レエンジニアリング先端半導体MIテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 尚也
(72)【発明者】
【氏名】久保田 大輔
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-247465(JP,A)
【文献】特開平10-172486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/153
H01J 37/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークピースを支持するステージと、
電子ビームを偏向させて前記ワークピース上のターゲット領域を前記電子ビームで走査する偏向器と、
前記電子ビームに前記ターゲット領域を走査させる走査電圧と、前記電子ビームの走査領域の全体を光軸中心から離れた位置にある前記ターゲット領域までずらすオフセット電圧を同時に前記偏向器に印加する偏向制御部と、
前記ワークピースから放出された電子を検出する電子検出器を備え、
前記偏向制御部は、収差補正係数を前記走査電圧の指令値に乗算することで前記走査電圧を補正し、前記補正された走査電圧、および前記オフセット電圧を同時に前記偏向器に印加することで前記ターゲット領域を前記電子ビームで走査させ、さらに、前記収差補正係数および前記オフセット電圧を変えることで、前記ステージを移動させることなく、別のターゲット領域を前記偏向器に前記電子ビームで走査させるように構成されている、走査電子顕微鏡。
【請求項2】
前記ターゲット領域を前記電子ビームで走査している間、前記オフセット電圧は一定である、請求項1に記載の走査電子顕微鏡。
【請求項3】
前記偏向制御部は、前記光軸中心から前記ターゲット領域内の所定の点までの距離および方向を算出し、算出した距離および方向に基づいて、前記電子ビームを前記光軸中心から前記ターゲット領域までずらすために必要な前記オフセット電圧を決定する、請求項1に記載の走査電子顕微鏡。
【請求項4】
前記偏向制御部は、複数のターゲット領域に対応する複数の収差補正係数を記憶しており、前記ターゲット領域の位置に基づいて前記複数の収差補正係数から1つの収差補正係数を選択し、前記選択された収差補正係数を前記走査電圧の指令値に乗算することで前記走査電圧を補正するように構成されている、請求項1に記載の走査電子顕微鏡。
【請求項5】
前記偏向制御部は、前記走査電子顕微鏡の最大視野内に定義された複数の分割領域の位置にそれぞれ関連付けられた前記複数の収差補正係数を含む収差補正テーブルを記憶装置内に格納しており、
前記ターゲット領域は、前記複数の分割領域のそれぞれよりも小さい、請求項4に記載の走査電子顕微鏡。
【請求項6】
前記偏向制御部は、複数の収差補正係数を記憶しており、前記ターゲット領域の位置に基づいて前記複数の収差補正係数から収差補正係数を補間し、前記補間された収差補正係数を前記走査電圧の指令値に乗算することで前記走査電圧を補正するように構成されている、請求項1に記載の走査電子顕微鏡。
【請求項7】
前記偏向制御部は、複数の収差補正係数を記憶しており、前記複数の収差補正係数から選択すべき収差補正係数を前記電子ビームの入射位置に従って順次変えながら、前記選択された収差補正係数を前記走査電圧の指令値に乗算することで前記走査電圧を補正するように構成されている、請求項1に記載の走査電子顕微鏡。
【請求項8】
ワークピースを支持するステージと、
電子ビームを偏向させて前記ワークピース上のターゲット領域を前記電子ビームで走査する偏向器と、
前記電子ビームに前記ターゲット領域を走査させる走査電圧と、前記電子ビームの走査領域の全体を光軸中心から離れた位置にある前記ターゲット領域までずらすオフセット電圧を同時に前記偏向器に印加する偏向制御部と、
前記ワークピースから放出された電子を検出する電子検出器を備え、
前記偏向制御部は、焦点補正係数を前記走査電圧の指令値に加算、または前記走査電圧の指令値から減算することで前記走査電圧を補正し、前記補正された走査電圧、および前記オフセット電圧を同時に前記偏向器に印加することで前記ターゲット領域を前記電子ビームで走査させ、さらに、前記焦点補正係数および前記オフセット電圧を変えることで、前記ステージを移動させることなく、別のターゲット領域を前記偏向器に前記電子ビームで走査させるように構成されている、走査電子顕微鏡。
【請求項9】
前記ターゲット領域を前記電子ビームで走査している間、前記オフセット電圧は一定である、請求項8に記載の走査電子顕微鏡。
【請求項10】
前記偏向制御部は、前記光軸中心から前記ターゲット領域内の所定の点までの距離および方向を算出し、算出した距離および方向に基づいて、前記電子ビームを前記光軸中心から前記ターゲット領域までずらすために必要な前記オフセット電圧を決定する、請求項8に記載の走査電子顕微鏡。
【請求項11】
前記偏向制御部は、複数のターゲット領域に対応する複数の焦点補正係数を記憶しており、前記ターゲット領域の位置に基づいて前記複数の焦点補正係数から1つの焦点補正係数を選択し、前記選択された焦点補正係数を前記走査電圧の指令値に加算、または前記走査電圧の指令値から減算することで前記走査電圧を補正するように構成されている、請求項8に記載の走査電子顕微鏡。
【請求項12】
前記偏向制御部は、前記走査電子顕微鏡の最大視野内に定義された複数の分割領域の位置にそれぞれ関連付けられた前記複数の焦点補正係数を含む焦点補正テーブルを記憶装置内に格納しており、
前記ターゲット領域は、前記複数の分割領域のそれぞれよりも小さい、請求項11に記載の走査電子顕微鏡。
【請求項13】
前記偏向制御部は、複数の焦点補正係数を記憶しており、前記ターゲット領域の位置に基づいて前記複数の焦点補正係数から焦点補正係数を補間し、前記補間された焦点補正係数を前記走査電圧の指令値に加算、または前記走査電圧の指令値から減算することで前記走査電圧を補正するように構成されている、請求項8に記載の走査電子顕微鏡。
【請求項14】
前記偏向制御部は、複数の焦点補正係数を記憶しており、前記複数の焦点補正係数から選択すべき焦点補正係数を前記電子ビームの入射位置に従って順次変えながら、前記選択された焦点補正係数を前記走査電圧の指令値に加算、または前記走査電圧の指令値から減算することで前記走査電圧を補正するように構成されている、請求項8に記載の走査電子顕微鏡。
【請求項15】
第1ターゲット領域および第2ターゲット領域を有するワークピースをステージ上に置き、
第1収差補正係数を走査電圧の指令値に乗算することで補正された走査電圧と、電子ビームの走査領域の全体を光軸中心から離れた位置にある前記第1ターゲット領域までずらす第1オフセット電圧とを同時に偏向器に印加することで前記第1ターゲット領域を前記電子ビームで走査させ、
前記第1ターゲット領域から放出された電子を電子検出器により検出し、
第2収差補正係数を走査電圧の指令値に乗算することで補正された走査電圧と、電子ビームの走査領域の全体を光軸中心から離れた位置にある前記第2ターゲット領域までずらす第2オフセット電圧とを同時に前記偏向器に印加することで、前記ステージを移動させることなく、前記第2ターゲット領域を前記電子ビームで走査させ、
前記第2ターゲット領域から放出された電子を前記電子検出器により検出する、画像生成方法。
【請求項16】
前記第1ターゲット領域を前記電子ビームで走査している間、前記第1オフセット電圧は一定であり、前記第2ターゲット領域を前記電子ビームで走査している間、前記第2オフセット電圧は一定である、請求項15に記載の画像生成方法。
【請求項17】
前記光軸中心から前記第1ターゲット領域内の所定の点までの距離および方向を算出し、
算出した距離および方向に基づいて、前記電子ビームを前記光軸中心から前記第1ターゲット領域までずらすために必要な前記第1オフセット電圧を決定し、
前記光軸中心から前記第2ターゲット領域内の所定の点までの距離および方向を算出し、
算出した距離および方向に基づいて、前記電子ビームを前記光軸中心から前記第2ターゲット領域までずらすために必要な前記第2オフセット電圧を決定することをさらに含む、請求項15に記載の画像生成方法。
【請求項18】
第1ターゲット領域および第2ターゲット領域を有するワークピースをステージ上に置き、
第1焦点補正係数を走査電圧の指令値に加算、または前記走査電圧の指令値から減算することで補正された走査電圧と、電子ビームの走査領域の全体を光軸中心から離れた位置にある前記第1ターゲット領域までずらす第1オフセット電圧とを同時に偏向器に印加することで前記第1ターゲット領域を前記電子ビームで走査させ、
前記第1ターゲット領域から放出された電子を電子検出器により検出し、
第2焦点補正係数を走査電圧の指令値に加算、または前記走査電圧の指令値から減算することで補正された走査電圧と、電子ビームの走査領域の全体を光軸中心から離れた位置にある前記第2ターゲット領域までずらす第2オフセット電圧とを同時に前記偏向器に印加することで、前記ステージを移動させることなく、前記第2ターゲット領域を前記電子ビームで走査させ、
前記第2ターゲット領域から放出された電子を前記電子検出器により検出する、画像生成方法。
【請求項19】
前記第1ターゲット領域を前記電子ビームで走査している間、前記第1オフセット電圧は一定であり、前記第2ターゲット領域を前記電子ビームで走査している間、前記第2オフセット電圧は一定である、請求項18に記載の画像生成方法。
【請求項20】
前記光軸中心から前記第1ターゲット領域内の所定の点までの距離および方向を算出し、
算出した距離および方向に基づいて、前記電子ビームを前記光軸中心から前記第1ターゲット領域までずらすために必要な前記第1オフセット電圧を決定し、
前記光軸中心から前記第2ターゲット領域内の所定の点までの距離および方向を算出し、
算出した距離および方向に基づいて、前記電子ビームを前記光軸中心から前記第2ターゲット領域までずらすために必要な前記第2オフセット電圧を決定することをさらに含む、請求項18に記載の画像生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハ、マスク、パネル、基板などのワークピースを電子ビームで走査して該ワークピースの画像を生成する走査電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェーハに形成されたパターンを検査するために、走査電子顕微鏡が用いられる。走査電子顕微鏡は、ウェーハを保持したステージを移動させることで、ウェーハ上のターゲット領域を所定の撮像位置に移動させ、ステージ移動完了後に電子ビームでターゲット領域を走査することで、そのターゲット領域の画像を生成するように構成されている。
【0003】
通常、1枚のウェーハ内には、多数のターゲット領域が設定される。したがって、1つのターゲット領域の画像の生成が完了すると、ステージを移動させて他のターゲット領域を所定の撮像位置まで移動させる。そして、ステージ移動完了後に電子ビームで上記他のターゲット領域を走査することで、そのターゲット領域の画像を生成するように構成されている。走査電子顕微鏡は、このような動作を繰り返すことで、1枚のウェーハ上の複数のターゲット領域の画像を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-84626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、ステージの移動時間には、ステージが移動を開始してから、ステージが停止し、かつステージの微小な振動が許容レベル以下に収まるまでの時間が含まれる。したがって、ステージの移動にはある程度の時間がかかり、スループットが低下してしまう。特に、1枚のウェーハ上に多くのターゲット領域が設定されている場合は、ステージを何度も移動させる必要があり、すべてのターゲット領域の画像の生成を完了するには多くの時間を必要とする。
【0006】
そこで、本発明は、ステージの移動回数を少なくすることで、スループットを向上させることができる走査電子顕微鏡および画像生成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、電子ビームを偏向させてワークピース上のターゲット領域を前記電子ビームで走査する偏向器と、前記電子ビームに前記ターゲット領域を走査させる走査電圧と、前記電子ビームを光軸中心から前記ターゲット領域までずらすオフセット電圧を前記偏向器に印加する偏向制御部と、前記ワークピースから放出された電子を検出する電子検出器を備え、前記偏向制御部は、収差補正係数を前記走査電圧の指令値に乗算することで前記走査電圧を補正し、前記補正された走査電圧、および前記オフセット電圧を前記偏向器に印加するように構成されている、走査電子顕微鏡が提供される。
【0008】
一態様では、前記偏向制御部は、複数の収差補正係数を記憶しており、前記ターゲット領域の位置に基づいて前記複数の収差補正係数から1つの収差補正係数を選択し、前記選択された収差補正係数を前記走査電圧の指令値に乗算することで前記走査電圧を補正するように構成されている。
一態様では、前記複数の収差補正係数は、前記走査電子顕微鏡の最大視野内に定義された複数の分割領域の位置にそれぞれ関連付けられており、前記ターゲット領域は、前記複数の分割領域のそれぞれよりも小さい。
一態様では、前記偏向制御部は、複数の収差補正係数を記憶しており、前記ターゲット領域の位置に基づいて前記複数の収差補正係数から収差補正係数を補間し、前記補間された収差補正係数を前記走査電圧の指令値に乗算することで前記走査電圧を補正するように構成されている。
一態様では、前記偏向制御部は、複数の収差補正係数を記憶しており、前記複数の収差補正係数から選択すべき収差補正係数を前記電子ビームの入射位置に従って順次変えながら、前記選択された収差補正係数を前記走査電圧の指令値に乗算することで前記走査電圧を補正するように構成されている。
【0009】
一態様では、電子ビームを偏向させてワークピース上のターゲット領域を前記電子ビームで走査する偏向器と、前記電子ビームに前記ターゲット領域を走査させる走査電圧と、前記電子ビームを光軸中心から前記ターゲット領域までずらすオフセット電圧を前記偏向器に印加する偏向制御部と、前記ワークピースから放出された電子を検出する電子検出器を備え、前記偏向制御部は、焦点補正係数を前記走査電圧の指令値に加算、または前記走査電圧の指令値から減算することで前記走査電圧を補正し、前記補正された走査電圧、および前記オフセット電圧を前記偏向器に印加するように構成されている、走査電子顕微鏡が提供される。
【0010】
一態様では、前記偏向制御部は、複数の焦点補正係数を記憶しており、前記ターゲット領域の位置に基づいて前記複数の焦点補正係数から1つの焦点補正係数を選択し、前記選択された焦点補正係数を前記走査電圧の指令値に加算、または前記走査電圧の指令値から減算することで前記走査電圧を補正するように構成されている。
一態様では、前記複数の焦点補正係数は、前記走査電子顕微鏡の最大視野内に定義された複数の分割領域の位置にそれぞれ関連付けられており、前記ターゲット領域は、前記複数の分割領域のそれぞれよりも小さい。
一態様では、前記偏向制御部は、複数の焦点補正係数を記憶しており、前記ターゲット領域の位置に基づいて前記複数の焦点補正係数から焦点補正係数を補間し、前記補間された焦点補正係数を前記走査電圧の指令値に加算、または前記走査電圧の指令値から減算することで前記走査電圧を補正するように構成されている。
一態様では、前記偏向制御部は、複数の焦点補正係数を記憶しており、前記複数の焦点補正係数から選択すべき焦点補正係数を前記電子ビームの入射位置に従って順次変えながら、前記選択された焦点補正係数を前記走査電圧の指令値に加算、または前記走査電圧の指令値から減算することで前記走査電圧を補正するように構成されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、走査電圧に加え、オフセット電圧が偏向器に印加される。オフセット電圧は、電子ビームの走査領域の全体を光軸中心からずらすことができる。したがって、走査電子顕微鏡は、ステージを移動させずに、光軸中心から離れたターゲット領域を電子ビームで走査することができる。結果として、ステージを移動させる回数が低減され、スループットを大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】走査電子顕微鏡の一実施形態を示す模式図である。
図2】X偏向器、Y偏向器、およびステージ上のウェーハを模式的に示す側面図である。
図3】ウェーハ上のターゲット領域を示す平面図である。
図4】最大視野内に位置する複数のターゲット領域の一例を示す平面図である。
図5】収差補正テーブルの一例を示す模式図である。
図6】収差補正係数を補間する一実施形態を説明する図である。
図7】焦点補正テーブルの一例を示す模式図である。
図8】焦点補正係数を補間する一実施形態を説明する図である。
図9】収差補正テーブルの他の一例を示す模式図である。
図10】焦点補正テーブルの他の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、走査電子顕微鏡の一実施形態を示す模式図である。走査電子顕微鏡1は、ワークピースの画像を生成する画像生成装置である。ワークピースの例としては、半導体デバイスの製造に使用されるウェーハ、マスク、パネル、基板などが挙げられる。以下に説明する実施形態では、ワークピースの例としてウェーハが採用されているが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0014】
走査電子顕微鏡1は、電子ビームを放出する電子銃15、電子銃15から放出された電子ビームを集束する集束レンズ16、電子ビームをX方向に偏向するX偏向器17、電子ビームをY方向に偏向するY偏向器18、電子ビームをワークピースの一例であるウェーハWにフォーカスさせる対物レンズ20、ウェーハWを支持するステージ31を有する。電子銃15の構成は特に限定されない。例えば、フィールドエミッタ型電子銃、または半導体フォトカソード型電子銃などが電子銃15として使用できる。
【0015】
X方向およびY方向は、互いに垂直である。X偏向器17およびY偏向器18は、電子ビームを偏向させる偏向器である。ステージ31は、ウェーハWをX方向およびY方向に独立に移動させることができるアクチュエータ(図示せず)を内蔵している。このようなステージ31は、XYステージとも呼ばれる。
【0016】
走査電子顕微鏡1は、ステージ31の変位を測定するステージ変位測定器23をさらに備えている。ステージ変位測定器23は、ステージ31のX方向およびY方向の変位を別々に測定するように構成されている。このようなステージ変位測定器23の例として、ステージ31のX方向の変位およびY方向の変位を測定する2つのレーザ干渉計が挙げられる。
【0017】
集束レンズ16および対物レンズ20はレンズ制御装置21に接続され、集束レンズ16および対物レンズ20の動作はレンズ制御装置21によって制御される。X偏向器17、Y偏向器18は、偏向制御部22に接続されており、X偏向器17、Y偏向器18の偏向動作は偏向制御部22によって制御される。ステージ変位測定器23も、偏向制御部22に接続されており、ステージ31の変位の測定値は偏向制御部22に送られるようになっている。チャンバー30内に配置されるステージ31は、ステージ制御装置32に接続されており、ステージ31の動作および位置はステージ制御装置32によって制御される。
【0018】
二次電子検出器25と反射電子検出器26は画像取得装置28に接続されている。画像取得装置28は二次電子検出器25と反射電子検出器26から出力された電子検出信号を画像に変換するように構成される。二次電子検出器25および反射電子検出器26のそれぞれは、ウェーハWから放出された電子を検出する電子検出器である。搬送装置34は、ウェーハWを、チャンバー30内のステージ31に載置し、かつステージ31からウェーハWを取り出すためハンドを備えた搬送ロボット(図示せず)を有している。
【0019】
電子銃15から放出された電子ビームは集束レンズ16で集束された後に、X偏向器17、Y偏向器18で偏向されつつ対物レンズ20により集束されてウェーハWの表面に照射される。ウェーハWに電子ビームの一次電子が照射されると、ウェーハWからは二次電子および反射電子が放出される。二次電子は二次電子検出器25により検出され、反射電子は反射電子検出器26により検出される。二次電子検出器25および反射電子検出器26の電子検出信号、すなわち二次電子の検出信号および反射電子の検出信号は、画像取得装置28に入力され画像に変換される。このようにして、走査電子顕微鏡1は、ウェーハWの表面の画像を生成する。
【0020】
偏向制御部22は、少なくとも1台のコンピュータと、電源22cを備えている。より具体的には、偏向制御部22は、プログラムが格納された記憶装置22aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する処理装置22bと、X偏向器17およびY偏向器18に印加すべき電圧を生成する電源22cを備えている。記憶装置22aは、RAMなどの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。処理装置22bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレー)が挙げられる。ただし、偏向制御部22の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0021】
処理装置22bは、走査電圧の指令値およびオフセット電圧の指令値を生成し、これらの指令値を電源22cに送る。電源22cは、処理装置22bからの指令値に従って走査電圧とオフセット電圧を生成し、これら走査電圧およびオフセット電圧を、X偏向器17およびY偏向器18に同時に印加するように構成されている。走査電圧は、電子ビームを偏向させて、ウェーハW上のターゲット領域を電子ビームで走査させるための電圧である。オフセット電圧は、電子ビームを光軸中心からターゲット領域までずらすための電圧である。
【0022】
図2は、X偏向器17、Y偏向器18、およびステージ31上のウェーハWを模式的に示す側面図であり、図3は、ウェーハW上のターゲット領域Tを示す平面図である。光軸中心Oは、X偏向器17およびY偏向器18に電圧を印加しないときの電子ビームの軌道に相当する。偏向制御部22は、X偏向器17およびY偏向器18にオフセット電圧を印加することで、電子ビームの走査領域を光軸中心Oからずらすことができる。
【0023】
図3に示すように、ターゲット領域Tは、光軸中心Oから離れた位置にある。通常であれば、ステージ31を移動させて光軸中心Oをターゲット領域T内に位置させる。本実施形態では、ステージ31を移動させずに、走査電圧に加えて、オフセット電圧をX偏向器17およびY偏向器18に印加することで、電子ビームは、光軸中心Oから離れたターゲット領域Tの全体を走査することができる。
【0024】
オフセット電圧は、電子ビームを光軸中心Oからターゲット領域Tまでずらすための電圧であり、光軸中心Oからターゲット領域Tまでの距離および方向に基づいて決定される。より具体的には、偏向制御部22の処理装置22bは、光軸中心Oからターゲット領域T内の所定の点(例えばターゲット領域Tの中心点)までの距離および方向を算出し、算出した距離および方向に基づいて、電子ビームを光軸中心Oからターゲット領域Tまでずらすために必要なオフセット電圧の指令値を決定する。そして、処理装置22bは、オフセット電圧の指令値を電源22cに送る。電源22cは、オフセット電圧の指令値に従ってオフセット電圧を生成し、オフセット電圧をX偏向器17およびY偏向器18に印加する。
【0025】
図4は、最大視野内に位置する複数のターゲット領域の一例を示す平面図である。図4に示す最大視野MXは、電子ビームをX偏向器17およびY偏向器18によって偏向させることができる最大の範囲である。言い換えれば、ターゲット領域が最大視野MX内にある限りにおいて、走査電子顕微鏡1は、ステージ31を移動させることなくターゲット領域の画像を生成することができる。図4に示すように、光軸中心Oは、最大視野MXの中心に位置する。
【0026】
走査電子顕微鏡1は、次のようにして、光軸中心Oから離れた位置にある第1ターゲット領域T1と第2ターゲット領域T2の画像を生成する。まず、第1ターゲット領域T1と第2ターゲット領域T2が最大視野MX内に位置するように、ウェーハWを支持するステージ31を所定の撮像位置まで移動させる。電子銃15は電子ビームを発しながら、偏向制御部22は、走査電圧と、電子ビームを光軸中心Oから第1ターゲット領域T1までずらす第1オフセット電圧をX偏向器17およびY偏向器18に印加することで、第1ターゲット領域T1を電子ビームで走査する。電子ビームが第1ターゲット領域T1を走査している間、走査電圧は変化するのに対して、第1オフセット電圧は一定である。
【0027】
第1ターゲット領域T1への電子ビームの照射により、ウェーハWから二次電子および反射電子が放出される。二次電子および反射電子は、電子検出器である二次電子検出器25および反射電子検出器26によって検出される。電子検出信号、すなわち二次電子の検出信号および反射電子の検出信号は、画像取得装置28に送信され、画像取得装置28は二次電子の検出信号および反射電子の検出信号から、第1ターゲット領域T1の画像を生成する。
【0028】
次に、ステージ31を上記所定の撮像位置に維持したまま(すなわち、ステージ31を移動させずに)、偏向制御部22は、走査電圧と、電子ビームを光軸中心Oから第2ターゲット領域T2までずらす第2オフセット電圧をX偏向器17およびY偏向器18に印加することで、第2ターゲット領域T2を電子ビームで走査する。電子ビームが第2ターゲット領域T2を走査している間、走査電圧は変化するのに対して、第2オフセット電圧は一定である。
【0029】
第2ターゲット領域T2への電子ビームの照射により、ウェーハWから二次電子および反射電子が放出される。二次電子および反射電子は、電子検出器である二次電子検出器25および反射電子検出器26によって検出される。電子検出信号、すなわち二次電子の検出信号および反射電子の検出信号は、画像取得装置28に送信され、画像取得装置28は二次電子の検出信号および反射電子の検出信号から、第2ターゲット領域T2の画像を生成する。
【0030】
このように、走査電子顕微鏡1は、ステージ31を移動させずに、光軸中心Oから離れた複数のターゲット領域T1,T2を電子ビームで走査することができる。結果として、ステージ31を移動させる回数が低減され、スループットを大幅に向上させることができる。ターゲット領域が最大視野MX内に位置している限り、走査電子顕微鏡1は、ステージ31を移動させることなく、さらに別のターゲット領域の画像を生成することが可能である。
【0031】
オフセット電圧の印加により電子ビームを光軸中心Oから大きく逸らすと、収差が発生することがある。そこで、一実施形態では、走査電子顕微鏡1は、次のようにして収差を補正するように構成されている。
【0032】
偏向制御部22は、収差を補正するための複数の収差補正係数を記憶装置22a内に記憶している。偏向制御部22は、複数の収差補正係数から1つの収差補正係数を選択し、選択された収差補正係数を走査電圧の指令値に乗算することで走査電圧を補正し、補正された走査電圧、およびオフセット電圧をX偏向器17およびY偏向器18に印加するように構成されている。より具体的には、処理装置22bは、記憶装置22a内に格納されている複数の収差補正係数から1つの収差補正係数を選択し、選択された収差補正係数を走査電圧の指令値に乗算することで走査電圧の指令値を補正し、補正された指令値を電源22cに送る。電源22cは、補正された指令値に従って、補正された走査電圧を生成し、補正された走査電圧、およびオフセット電圧をX偏向器17およびY偏向器18に印加する。一実施形態では、偏向制御部22は、複数の収差補正係数から1つの収差補正係数を選択し、選択された収差補正係数を走査電圧の指令値に加算、または走査電圧の指令値から減算することで走査電圧を補正してもよい。
【0033】
収差は、電子ビームの光軸中心Oからの偏向に起因して起こる。したがって、収差の程度は、光軸中心Oに対するターゲット領域の位置によって変わりうる。そこで、一実施形態では、偏向制御部22は、ターゲット領域の位置に基づいて、収差補正係数を選択するように構成されている。より具体的には、偏向制御部22は、ターゲット領域の位置に基づいて、記憶装置22a内に格納されている複数の収差補正係数から1つの収差補正係数を選択するように構成されている。
【0034】
記憶装置22a内には、複数の収差補正係数と、最大視野MX内の位置との関係を表す収差補正テーブルが格納されている。図5は、収差補正テーブルの一例を示す模式図である。図5に示すように、収差補正テーブルは、最大視野MX内に配列された複数の収差補正係数C00~C33を含む。これら収差補正係数C00~C33は、最大視野MX内に定義された複数の分割領域R1~R16の位置にそれぞれ関連付けられている。複数の分割領域R1~R16は同じ形状および同じ大きさを有しており、最大視野MXの全体に分布している。本実施形態では、最大視野MX内にマトリクス状に配列された複数の収差補正係数C00~C33は、最大視野MX内にマトリクス状に分布する複数の分割領域R1~R16にそれぞれ割り当てられている。複数の収差補正係数C00~C33は、光軸中心Oからの距離、およびその他の要素に基づいて予め定められる。
【0035】
ターゲット領域T1,T2は、最大視野MX内に位置する。ターゲット領域T1,T2のそれぞれの大きさは、予め設定された大きさ内に制限される。より具体的には、ターゲット領域T1,T2のそれぞれは、最大視野MX内に定義された各分割領域よりも小さい。
【0036】
偏向制御部22は、ターゲット領域T1の位置に基づいて、収差補正テーブル内の複数の収差補正係数から1つの収差補正係数を選択する。図5に示す例では、ターゲット領域T1の位置に対応する収差補正係数はC30である。偏向制御部22は、ターゲット領域T1の位置に基づいて、収差補正係数C00~C33の中から1つの収差補正係数C30を選択する。偏向制御部22は、選択された収差補正係数C30を走査電圧の指令値に乗算することで走査電圧を補正し、補正された走査電圧、およびオフセット電圧をX偏向器17およびY偏向器18に印加する。
【0037】
本実施形態によれば、ターゲット領域T1の位置に基づいて走査電圧が補正されるので、収差を低減またはなくすことができる。収差補正テーブルは図5に示す例に限られない。収差補正テーブル内に含まれるマトリクス状の複数の収差補正係数の数は、図5に示す実施形態よりも少なくてもよく、または多くてもよい。
【0038】
図5に示す別のターゲット領域T2では、ターゲット領域T1内の収差補正係数C30とは異なる収差補正係数C13が使用される。このように、本実施形態によれば、偏向制御部22は、ターゲット領域ごとに異なる収差補正係数を使用して収差を補正することができる。特に、本実施形態によれば、1つのターゲット領域を電子ビームで走査している間は、1つの固定された収差補正係数のみが走査電圧の補正に使用されるので、偏向制御部22は走査中に他の収差補正係数を記憶装置22aから読み出す必要がなく、結果としてスループットが向上できる。
【0039】
図6に示すように、ターゲット領域Tが複数の分割領域にまたがる場合は、偏向制御部22は、ターゲット領域Tに重なる複数の分割領域に割り当てられた複数の収差補正係数を用いて収差補正係数を補間する。図6に示す例では、ターゲット領域Tに重なる分割領域はR3,R4,R7,R8であり、これら分割領域R3,R4,R7,R8に対応する収差補正係数は、C20,C30,C21,C31である。偏向制御部22は、これら収差補正係数C20,C30,C21,C31を用いて収差補正係数を補間する。収差補正係数の補間の具体的な方法の例としては、加重補間法、三角形分割補間法が挙げられる。
【0040】
オフセット電圧の印加により電子ビームを光軸中心Oから大きく逸らすと、焦点ずれが発生することがある。そこで、一実施形態では、走査電子顕微鏡1は、次のようにして焦点を補正するように構成されている。
【0041】
偏向制御部22は、焦点を補正するための複数の焦点補正係数を記憶装置22a内に記憶している。偏向制御部22は、複数の焦点補正係数から1つの焦点補正係数を選択し、選択された焦点補正係数を走査電圧の指令値に加算、または走査電圧の指令値から減算することで走査電圧を補正し、補正された走査電圧、およびオフセット電圧をX偏向器17およびY偏向器18に印加するように構成されている。より具体的には、処理装置22bは、記憶装置22a内に格納されている複数の焦点補正係数から1つの焦点補正係数を選択し、選択された焦点補正係数を走査電圧の指令値に加算、または走査電圧の指令値から減算することで走査電圧の指令値を補正し、補正された指令値を電源22cに送る。電源22cは、補正された指令値に従って、補正された走査電圧を生成し、補正された走査電圧、およびオフセット電圧をX偏向器17およびY偏向器18に印加する。
【0042】
焦点ずれは、電子ビームの光軸中心Oからの偏向に起因して起こる。したがって、焦点ずれの程度は、光軸中心Oに対するターゲット領域の位置によって変わりうる。そこで、一実施形態では、偏向制御部22は、ターゲット領域の位置に基づいて、焦点補正係数を選択するように構成されている。より具体的には、偏向制御部22は、ターゲット領域の位置に基づいて、記憶装置22a内に格納されている複数の焦点補正係数から1つの焦点補正係数を選択するように構成されている。
【0043】
記憶装置22a内には、複数の焦点補正係数と、最大視野MX内の位置との関係を表す焦点補正テーブルが格納されている。図7は、焦点補正テーブルの一例を示す模式図である。図7に示すように、焦点補正テーブルは、最大視野MX内に配列された複数の焦点補正係数D00~D33を含む。これら焦点補正係数D00~D33は、最大視野MX内に定義された複数の分割領域S1~S16の位置にそれぞれ関連付けられている。複数の分割領域S1~S16は同じ形状および同じ大きさを有しており、最大視野MXの全体に分布している。本実施形態では、最大視野MX内にマトリクス状に配列された複数の焦点補正係数D00~D33は、最大視野MX内にマトリクス状に分布する複数の分割領域S1~S16にそれぞれ割り当てられている。複数の焦点補正係数D00~D33は、光軸中心Oからの距離、およびその他の要素に基づいて予め定められる。
【0044】
ターゲット領域T1,T2は、最大視野MX内に位置する。ターゲット領域T1,T2のそれぞれの大きさは、予め設定された大きさ内に制限される。より具体的には、ターゲット領域T1,T2のそれぞれは、最大視野MX内に定義された各分割領域よりも小さい。
【0045】
偏向制御部22は、ターゲット領域T1の位置に基づいて、焦点補正テーブル内の複数の焦点補正係数から1つの焦点補正係数を選択する。図7に示す例では、ターゲット領域T1の位置に対応する焦点補正係数はD30である。偏向制御部22は、ターゲット領域T1の位置に基づいて、焦点補正係数D00~D33の中から1つの焦点補正係数D30を選択する。偏向制御部22は、選択された焦点補正係数D30を走査電圧の指令値に加算、または走査電圧の指令値から減算することで走査電圧を補正し、補正された走査電圧、およびオフセット電圧をX偏向器17およびY偏向器18に印加する。
【0046】
本実施形態によれば、ターゲット領域T1の位置に基づいて走査電圧が補正されるので、焦点ずれを低減またはなくすことができる。焦点補正テーブルは図7に示す例に限られない。焦点補正テーブル内に含まれるマトリクス状の複数の焦点補正係数の数は、図7に示す実施形態よりも少なくてもよく、または多くてもよい。
【0047】
図7に示す別のターゲット領域T2では、ターゲット領域T1内の焦点補正係数D30とは異なる焦点補正係数D13が使用される。このように、本実施形態によれば、偏向制御部22は、ターゲット領域ごとに異なる焦点補正係数を使用して焦点を補正することができる。特に、本実施形態によれば、1つのターゲット領域を電子ビームで走査している間は、1つの固定された焦点補正係数のみが走査電圧の補正に使用されるので、偏向制御部22は走査中に他の焦点補正係数を記憶装置22aから読み出す必要がなく、結果としてスループットが向上できる。
【0048】
図8に示すように、ターゲット領域Tが複数の分割領域にまたがる場合は、偏向制御部22は、ターゲット領域Tに重なる複数の分割領域に割り当てられた複数の焦点補正係数を用いて焦点補正係数を補間する。図8に示す例では、ターゲット領域Tに重なる分割領域はS3,S4,S7,S8であり、これら分割領域S3,S4,S7,S8に割り当てられた焦点補正係数は、D20,D30,D21,D31である。偏向制御部22は、これら焦点補正係数D20,D30,D21,D31を用いて焦点補正係数を補間する。焦点補正係数の補間の具体的な方法の例としては、加重補間法、三角形分割補間法が挙げられる。
【0049】
偏向制御部22は、図5に示す収差補正テーブルと、図7に示す焦点補正テーブルの両方を記憶装置22a内に記憶してもよい。偏向制御部22は、ターゲット領域の位置に基づいて、複数の収差補正係数の中から1つの収差補正係数を選択するか、または複数の収差補正係数から1つの収差補正係数を補間する。さらに、偏向制御部22は、ターゲット領域の位置に基づいて、複数の焦点補正係数の中から1つの焦点補正係数を選択するか、または複数の焦点補正係数から1つの焦点補正係数を補間する。そして、偏向制御部22は、選択または補間された収差補正係数を走査電圧の指令値に乗算して指令値を補正し、選択または補間された焦点補正係数を、補正された指令値に加算(または補正された指令値から減算)することで走査電圧を補正し、補正された走査電圧、およびオフセット電圧をX偏向器17およびY偏向器18に印加する。
【0050】
このように、本実施形態によれば、偏向制御部22は、収差補正係数と焦点補正係数の両方を使用して、収差と焦点ずれの両方を低減またはなくすことができる。
【0051】
収差の程度は、電子ビームのターゲット領域への入射位置によって変わりうる。そこで、一実施形態では、偏向制御部22は、ターゲット領域内の電子ビームの入射位置に従って、収差補正係数を変化させるように構成されている。より具体的には、偏向制御部22は、ターゲット領域内の電子ビームの入射位置に基づいて、記憶装置22a内に格納されている複数の収差補正係数から1つの収差補正係数を選択するように構成されている。
【0052】
記憶装置22a内には、複数の収差補正係数と、最大視野MX内の位置との関係を表す収差補正テーブルが格納されている。図9は、収差補正テーブルの一例を示す模式図である。図9に示すように、収差補正テーブルは、最大視野MX内に配列された複数の収差補正係数C00~C99を含む。これら収差補正係数C00~C99は、最大視野MX内に定義された複数の位置にそれぞれ関連付けられている。本実施形態では、最大視野MX内にマトリクス状に配列された複数の収差補正係数C00~C99は、最大視野MX内のマトリクス状に分布する複数の位置にそれぞれ対応する。複数の収差補正係数C00~C99は、光軸中心Oからの距離、およびその他の要素に基づいて予め定められる。
【0053】
ターゲット領域T1は、最大視野MX内に位置する。偏向制御部22は、ターゲット領域T1内の電子ビームの入射位置に基づいて、収差補正テーブル内の複数の収差補正係数から1つの収差補正係数を選択する。図9に示す例では、ターゲット領域T1内の各位置に対応する収差補正係数は、C61~C83である。偏向制御部22は、ターゲット領域T1内の電子ビームの入射位置に基づいて、収差補正係数C61~C83の中から1つの収差補正係数を選択する。すなわち、偏向制御部22は、電子ビームがターゲット領域T1内を走査している間、電子ビームの入射位置に従って収差補正係数を次々に変える。そして、偏向制御部22は、選択された収差補正係数を走査電圧の指令値に乗算することで走査電圧を補正し、補正された走査電圧、およびオフセット電圧をX偏向器17およびY偏向器18に印加する。
【0054】
本実施形態によれば、偏向制御部22は、複数の収差補正係数から選択すべき収差補正係数を電子ビームの入射位置に従って順次変えながら、選択された収差補正係数を走査電圧の指令値に乗算することで走査電圧を補正する。電子ビームの入射位置に従って走査電圧が補正されるので、収差を低減またはなくすことができる。収差補正テーブルは図9に示す例に限られない。収差補正テーブル内に含まれるマトリクス状の複数の収差補正係数の数は、図9に示す実施形態よりも多くてもよい。通常、収差補正テーブルに含まれる収差補正係数の数が多いほど、収差をより細かく補正することができる。
【0055】
図9に示す別のターゲット領域T2では、ターゲット領域T1内の収差補正係数C61~C83とは異なる収差補正係数C47~C58が使用される。このように、本実施形態によれば、偏向制御部22は、ターゲット領域ごとに異なる組の収差補正係数を使用して収差を補正することができる。
【0056】
一実施形態では、偏向制御部22は、ターゲット領域内の電子ビームの入射位置に従って、焦点補正係数を変化させるように構成されている。より具体的には、偏向制御部22は、ターゲット領域内の電子ビームの入射位置に基づいて、記憶装置22a内に格納されている複数の焦点補正係数から1つの焦点補正係数を選択するように構成されている。
【0057】
記憶装置22a内には、複数の焦点補正係数と、最大視野MX内の位置との関係を表す焦点補正テーブルが格納されている。図10は、焦点補正テーブルの一例を示す模式図である。図10に示すように、焦点補正テーブルは、最大視野MX内に配列された複数の焦点補正係数D00~D99を含む。これら焦点補正係数D00~D99は、最大視野MX内に定義された複数の位置にそれぞれ関連付けられている。本実施形態では、最大視野MX内にマトリクス状に配列された複数の焦点補正係数D00~D99は、最大視野MX内のマトリクス状に分布する複数の位置にそれぞれ対応する。複数の焦点補正係数D00~D99は、光軸中心Oからの距離、およびその他の要素に基づいて予め定められる。
【0058】
ターゲット領域T1は、最大視野MX内に位置する。偏向制御部22は、ターゲット領域T1内の電子ビームの入射位置に基づいて、焦点補正テーブル内の複数の焦点補正係数から1つの焦点補正係数を選択する。図10に示す例では、ターゲット領域T1内の各位置に対応する焦点補正係数は、D61~D83である。偏向制御部22は、ターゲット領域T1内の電子ビームの入射位置に基づいて、焦点補正係数D61~D83の中から1つの焦点補正係数を選択する。すなわち、偏向制御部22は、電子ビームがターゲット領域T1内を走査している間、電子ビームの入射位置に従って焦点補正係数を次々に変える。そして、偏向制御部22は、選択された焦点補正係数を走査電圧の指令値に加算、または走査電圧の指令値から減算することで走査電圧を補正し、補正された走査電圧、およびオフセット電圧をX偏向器17およびY偏向器18に印加する。
【0059】
本実施形態によれば、偏向制御部22は、複数の焦点補正係数から選択すべき焦点補正係数を電子ビームの入射位置に従って順次変えながら、選択された焦点補正係数を走査電圧の指令値に加算、または走査電圧の指令値から減算することで走査電圧を補正する。電子ビームの入射位置に従って走査電圧が補正されるので、焦点ずれを低減またはなくすことができる。図10は、焦点補正テーブルの一例を示すものであって、焦点補正テーブルは図10に示す実施形態に限られない。焦点補正テーブル内に含まれるマトリクス状の複数の焦点補正係数の数は、図10に示す実施形態よりも多くてもよい。通常、焦点補正テーブルに含まれる焦点補正係数の数が多いほど、焦点をより細かく補正することができる。
【0060】
図10に示す別のターゲット領域T2では、ターゲット領域T1内の焦点補正係数D61~D83とは異なる焦点補正係数D47~D58が使用される。このように、本実施形態によれば、偏向制御部22は、ターゲット領域ごとに異なる組の焦点補正係数を使用して焦点を補正することができる。
【0061】
偏向制御部22は、図9に示す収差補正テーブルと、図10に示す焦点補正テーブルの両方を記憶装置22a内に記憶してもよい。図9および図10に示す例では、偏向制御部22は、ターゲット領域T1内の電子ビームの入射位置に基づいて、収差補正係数C61~C83の中から1つの収差補正係数を選択し、さらに複数の焦点補正係数D61~D83の中から1つの焦点補正係数を選択する。そして、偏向制御部22は、選択された収差補正係数を走査電圧の指令値に乗算して指令値を補正し、さらに選択された焦点補正係数を、補正された指令値に加算(または補正された指令値から減算)することで走査電圧を補正し、補正された走査電圧、およびオフセット電圧をX偏向器17およびY偏向器18に印加する。
【0062】
ターゲット領域T2では、偏向制御部22は、ターゲット領域T2内の電子ビームの入射位置に基づいて、収差補正係数C47~C58の中から1つの収差補正係数を選択し、さらに複数の焦点補正係数D47~D58の中から1つの焦点補正係数を選択する。そして、偏向制御部22は、選択された収差補正係数を走査電圧の指令値に乗算して指令値を補正し、さらに選択された焦点補正係数を、補正された指令値に加算(または補正された指令値から減算)することで走査電圧を補正し、補正された走査電圧、およびオフセット電圧をX偏向器17およびY偏向器18に印加する。
【0063】
このように、本実施形態によれば、偏向制御部22は、収差補正係数と焦点補正係数の両方を使用して、収差と焦点ずれの両方を低減またはなくすことができる。
【0064】
一実施形態では、偏向制御部22は、ステージ31の変位の測定値に基づいて補正電圧を決定し、補正電圧をX偏向器17およびY偏向器18にさらに印加するように構成されてもよい。以下、この実施形態について説明する。
【0065】
図1に示すステージ31は、主に金属から構成されている。チャンバー30内は真空が形成されるため、チャンバー30内の温度は上昇しやすい。特に、ステージ31は、X方向およびY方向に移動するためのアクチュエータ(図示せず)を内蔵しているため、ステージ31自体が熱源となりうる。ステージ31の温度が上昇すると、ステージ31自体が熱膨張し、ステージ31上のウェーハWのターゲット領域の位置が変化することがある。
【0066】
そこで、本実施形態では、偏向制御部22は、ステージ変位測定器23から送られてくるステージ31の変位の測定値に基づいて補正電圧を決定し、上述した走査電圧(あるいは補正された走査電圧)およびオフセット電圧とともに、補正電圧をX偏向器17およびY偏向器18に印加するように構成されている。補正電圧は、ステージ31の変位量に従って変わる。通常、ステージ31の変位量が大きいほど、補正電圧は大きくなる。偏向制御部22は、ステージ31の変位量と補正電圧との関係を示す相関データ(例えば相関式または相関テーブル)を記憶装置22a内に記憶している。偏向制御部22は、ステージ変位測定器23から送られてくるステージ31の変位の測定値と、上記相関データから補正電圧を決定する。
【0067】
本実施形態によれば、走査電子顕微鏡1は、ウェーハW上のターゲット領域の正しい位置に基づいて、ターゲット領域の画像を生成することができる。
【0068】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0069】
1 走査電子顕微鏡
15 電子銃
16 集束レンズ
17 X偏向器
18 Y偏向器
20 対物レンズ
21 レンズ制御装置
22 偏向制御部
22a 記憶装置
22b 処理装置
22c 電源
23 ステージ変位測定器
25 二次電子検出器
26 反射電子検出器
28 画像取得装置
30 チャンバー
31 ステージ
32 ステージ制御装置
34 搬送装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10