(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】複合繊維及び該複合繊維を用いた不織布の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 8/14 20060101AFI20240409BHJP
D04H 1/541 20120101ALI20240409BHJP
【FI】
D01F8/14 Z
D04H1/541
(21)【出願番号】P 2020069125
(22)【出願日】2020-04-07
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】米田 泰之
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-192915(JP,A)
【文献】特開平04-316629(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159729(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00
D02G 3/00
D04H 1/00 - 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーからなる成分Aを海成分、熱可塑性ポリマーからなる成分Bを島成分とする海島型複合繊維、又は熱可塑性エラストマーからなる成分Aを鞘成分、熱可塑性ポリマーからなる成分Bを芯成分とする芯鞘型複合繊維であって、該成分Aが以下の(ア)~(オ)の要件を同時に満足することを特徴とする複合繊維。
(ア)成分Aのメルトフローレートが1~35g/10min、
(イ)成分Aの硬度が25~55ショアD、
(ウ)成分Aのビカット軟化温度が130~190℃、
(エ)成分Aがブロック共重合体であり、該ブロック共重合体を構成するハードセグメント成分がポリエステル重合体、ソフトセグメント成分が平均分子量400~5000のポリ(アルキレンオキシド)グリコールであり、且つ該ハードセグメント成分の、ハードセグメント成分とソフトセグメント成分との合計量に対す
る比率が20~70%、
(オ)複合繊維断面における複合繊維の
外周部長さをRとし、外周部長さRのう
ち熱可塑性エラストマー成分Aからなる部分の長さ
、の総和をrとするとき、r/Rが0.7以上である。
【請求項2】
島成分、又は芯成分の直径が0.05~10μmである請求項1記載の複合繊維。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合繊維と、単繊維径が0.1~5μmである熱可塑性合成繊維とを混合して不織布とした後、該不織布を熱圧着して、複合繊維の成分Aを溶融し、成分Bからなる繊維と熱可塑性合成繊維とを複合一体化させることにより、比引張強さが20N・m/g以上、且つタテ50mm、ヨコ25mmの大きさで測定した際の剛軟度が80mgf以下となる不織布とすることを特徴とする不織布の製造方法。
【請求項4】
不織布の平均密度が0.5~1.3g/cm
3である請求項3記載の不織布の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の複合繊維の含有量が30~95質量%である請求項3又は4に記載の不織布の製造方法。
【請求項6】
不織布が湿式不織布である請求項3~5のいずれか1項に記載の不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合繊維及び該複合繊維を用いた不織布の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、鞘成分または海成分として熱可塑性エラストマーを含む芯鞘型複合繊維、または海島型複合繊維と、熱可塑性合成繊維とから構成される不織布を熱圧着して、熱可塑性エラストマーを溶融し、島成分からなる繊維と熱可塑性合成繊維を複合一体化させることにより、優れた強度を有する不織布を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、不織布に高分子弾性体を一体化した人工皮革が知られている。人工皮革は天然皮革の代替品として、靴、衣料、手袋、鞄、ボール、インテリア、車輌用途などの分野に用いられている。
【0003】
人工皮革は、極細繊維からなる不織布の内部の空隙に高分子弾性体を含浸付与して得られる基材に、所望の外観を付与するための表面処理が施されて製造される。さらに高分子弾性体を含浸する工程としては一般的に有機溶剤や水に溶解したウレタンを湿式で繊維間に含浸し、水中で溶剤を除去し、乾燥するといった工程を有し、煩雑で、生産性が悪い。
そこで、溶剤を使用せず、表皮材となる樹脂をコーティングする新たな方法や材料が求められていた。
【0004】
このような課題を解決するため、特許文献1には、ポリエステル弾性体とそれよりも高融点のポリマーからなる海島型複合繊維を成形後熱圧着してポリエステル弾性体を溶融させ、繊維補強されたシート状成形品を得ることが開示されている。また、特許文献2には、海島型複合繊維をマトリックス樹脂に添加し、海成分を溶融させて該島成分を補強繊維とする繊維強化エラストマー成形品を得ることが開示されている。
【0005】
しかしながら、上記の方法では、補強繊維の含有量が相対的に少なくなるため、得られるエラストマー成形品に充分な強度を付与することができない上、熱圧着してマトリックス樹脂となる海成分を溶融させる際、金属ローラーへ樹脂が接着してしまい、熱圧着が困難となるばかりでなく、密度が高いにも関わらず柔らかいエラストマー成形品が得られないので、人工皮革の表皮材といった用途には応用できない、という問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭58-197312号公報
【文献】特開2012-207220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、かかる従来技術における問題点を解消し、充分な強度を有すると共に、密度が高いにも関わらず柔らかいエラストマー成形品を、熱圧着の際の金属ローラーへの樹脂の付着等のトラブルなく製造することが可能な複合繊維及び該複合繊維を用いた不織布の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討をおこなった結果、芯鞘型複合繊維、または海島型複合繊維の表面を形成する部分、即ち鞘成分又は海成分に特定の熱可塑性エラストマーを使用し、熱圧着成形時に該複合繊維と熱可塑性合成繊維とを併用して成形体を製造するとき、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明によれば、
1.熱可塑性エラストマーからなる成分Aを海成分、熱可塑性ポリマーからなる成分Bを島成分とする海島型複合繊維、又は熱可塑性エラストマーからなる成分Aを鞘成分、熱可塑性ポリマーからなる成分Bを芯成分とする芯鞘型複合繊維であって、該成分Aが以下の(ア)~(オ)の要件を同時に満足することを特徴とする複合繊維。
(ア)成分Aのメルトフローレートが1~35g/10min、
(イ)成分Aの硬度が25~55ショアD、
(ウ)成分Aのビカット軟化温度が130~190℃、
(エ)成分Aがブロック共重合体であり、該ブロック共重合体を構成するハードセグメント成分がポリエステル重合体、ソフトセグメント成分が平均分子量400~5000のポリ(アルキレンオキシド)グリコールであり、且つ該ハードセグメント成分の、ハードセグメント成分とソフトセグメント成分との合計量に対する比率が20~70%、
(オ)複合繊維断面における複合繊維の外周部長さをRとし、外周部長さRのうち熱可塑性エラストマー成分Aからなる部分の長さ、の総和をrとするとき、r/Rが0.7以上である。
2.上記1記載の複合繊維と、単繊維径が0.1~5μmである熱可塑性合成繊維とを混合して不織布とした後、該不織布を熱圧着して、複合繊維の成分Aを溶融し、
成分Bからなる繊維と熱可塑性合成繊維とを複合一体化させることにより、比引張強さが20N・m/g以上、且つタテ50mm、ヨコ25mmの大きさで測定した際の剛軟度が80mgf以下となる不織布とすることを特徴とする不織布の製造方法、
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、充分な強度を有すると共に、密度が高いにも関わらず柔らかいエラストマー成形品を、熱圧着の際の金属ローラーへの樹脂の付着等のトラブルなく製造することが可能となるので、人工皮革の表皮材といった用途に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明により得られる不織布の断面構造の1例を例示した模式図である。
【
図2】複合繊維断面における成分Aの比率r/Rが1.0である本発明の海島型複合繊維の1例を例示した模式図である。
【
図3】複合繊維断面における成分Aの比率r/Rが0.6である海島型複合繊維の1例を例示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細を説明する。
本発明において、熱可塑性エラストマーからなる不織布を製造する際には、熱可塑性エラストマーからなる成分Aと、熱可塑性ポリマーからなる成分Bとから構成される複合繊維を使用する。
【0013】
ここで、成分Aの熱可塑性エラストマーとは、ガラス転移温度が-40℃~30℃の範囲にある重合体、および/またはガラス転移温度が-40℃~30℃の範囲にある重合体部分を分子構造中に有している重合体であればいずれも使用できる。ガラス転移温度が-40℃~30℃の重合体、およびガラス転移温度が-40℃~30℃の範囲にある重合体部としては、例えば、ポリエーテル、ポリエステル、ポリブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどの共役ジエン系化合物のうち1種から得られる単独重合体、前記共役ジエン系化合物のうちの2種以上からなるランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体;あるいは前記した重合体または共重合体からなる重合体部分を分子構造中に有する重合体を挙げることができる。ガラス転移温度が-40℃よりも低い場合は、樹脂の耐熱性が低くなるため好ましくない。またガラス転移点が30℃よりも大きい場合は常温におけるポリマーの弾性が小さくなり、熱可塑性繊維との成形品とした際に柔軟性が失われるため好ましくない。
【0014】
このような熱可塑性エラストマーの粘度としては、試験温度230℃、試験荷重2.16kgの条件下でのメルトフローレートが1g/10min~35g/10minであることが必要である。メルトフローレートが1g/10minよりも小さい場合は、繊維として成型することが難しい。また、メルトフローレートを35g/10minよりも大きくした場合、熱圧着成形時に金属ローラーへの樹脂の付着等のトラブルが発生する。
【0015】
上記熱可塑性エラストマーのメルトフローレートは、5g/10min~35g/10minであることが好ましく、10g/10min~30g/10minであることがさらに好ましく、最も好ましくは15g/10min~25g/10minである。
【0016】
また、上記熱可塑性エラストマー重合体の硬度は25ショアD~55ショアDであることが必要である。該硬度が25ショアDよりも小さい場合、熱圧着時の金属ローラー等との離型性が悪く、金属ローラーや金型へ付着する。一方、該硬度が55ショアDよりも大きい場合は、熱圧着しても接着強力が低下する。
【0017】
上記熱可塑性エラストマーの硬度は25ショアD~50ショアDであることが好ましく、25ショアD~45ショアDであることがさらに好ましく、最も好ましくは30ショアD~45ショアDである。
【0018】
さらに、上記熱可塑性エラストマーのビカット軟化温度は130℃~190℃であることが必要である。該ビカット軟化温度が130℃より小さい場合、熱圧着時に離型性が悪化する。一方、該ビカット軟化温度が190℃よりも大きい場合、熱圧着時の接着性が低下し、糸同士の接着力が低下する。
【0019】
上記熱可塑性エラストマーのビカット軟化温度は135℃~180℃であることが好ましく、135℃~170℃であることがさらに好ましく、最も好ましくは140℃~170である。
【0020】
このような熱可塑性エラストマーの中でも優れた染色性、機械的強度や耐摩耗性を有する熱可塑性ポリエステルエラストマーが特に好ましい。このような熱可塑性ポリエステルエラストマーはブロック共重合体であり、該ブロック共重合体を構成するハードセグメント成分がポリエステル重合体、ソフトセグメント成分が平均分子量400~5000のポリ(アルキレンオキシド)グリコールであり、且つ該ハードセグメント成分の、ハードセグメント成分とソフトセグメント成分との合計量に対する比率が20~70%であることが必要であり、好ましくは30~60%である。
【0021】
上記ソフトセグメント成分のポリ(アルキレンオキシド)グリコールの分子量が400より小さい場合はソフトセグメントとハードセグメントが微分散となり高い弾性をえられず好ましくない。また5000よりも大きい場合は、ハード成分との共重合とすることが難しく好ましくない。さらに、ハードセグメント成分の、ハードセグメント成分とソフトセグメント成分との合計量に対する比率が70%よりも大きい場合は、ポリマーの弾性が小さくなり、熱可塑性繊維との成形品とした際に柔軟性が失われる。またハードセグメント成分の、ハードセグメント成分とソフトセグメント成分との合計量に対する比率が20%よりも小さい場合は、ポリマーの耐熱性が低くなり、熱圧着成形時に金属ローラーへの樹脂の付着等のトラブルが発生する。この他、ハード成分としては接着性の向上のためイソフタル酸などを共重合してもよい。
【0022】
また、上記熱可塑性エラストマーには、複合繊維の離型性を向上させる目的で各種無機物やポリマーをブレンドすることもできる。無機物としてはカーボンブラック、シリカやタルク、酸化チタンなどがあげられる。またブレンドするポリマーの例としては変性ポリオレフィンなどがあげられる。
【0023】
次に、複合繊維の成分Bを構成する熱可塑性ポリマーとしては、ガラス転移温度が30℃~150℃である熱可塑性ポリマーを用いることが好ましい。該ガラス転移温度が30℃よりも小さな熱可塑性ポリマーを用いた場合、複合繊維の形状が安定せず、工程通過性が悪化するため好ましくない。一方、該ガラス転移温度が150℃よりも高い場合、複合繊維の柔軟性、延伸性が失われ、後工程における断糸の原因となるため好ましくない。このような複合繊維の成分Bを構成する熱可塑性ポリマーの例としてはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン6,6等がある。
【0024】
上記複合繊維の断面形状としては、芯鞘型、海島型であることが必要であり、芯鞘型はいわゆる偏芯芯鞘型でも良く、また、海島型の場合、島成分の大きさや島数には特に限定はない。いずれの形状の複合繊維においても、熱圧着後、鞘もしくは海成分同士を融着させるので、成分Aを鞘もしくは海成分、成分Bを芯もしくは島成分とすることが肝要である。
【0025】
尚、上記複合繊維においては、複合繊維断面における複合繊維の外周部長さRのうち、熱可塑性エラストマー成分Aからなる部分の長さの総和をrとするとき、r/Rが0.7以上であることが必要である。この比率r/Rが例えば図3に示す如く、0.7未満の場合(図3では0.6)、熱圧着時に成分A同士の溶融一体化が十分にみられず、不織布が製造できない場合がある。r/Rの好ましい値は0.8以上であり、さらに好ましい値は0.95以上である。
【0026】
また、上記複合繊維においては、島成分又は芯成分の繊維径が小さくなるほど不織布の柔軟性が増すことから、島又は芯成分の直径は0.05~10μmであることが、柔軟性を増す観点からは好ましい。
また、上記複合繊維においては、海成分又は鞘成分の直径は0.125~25μmであることが、不織布の複合一体化が促進される観点からは好ましい。
【0027】
上記複合繊維の強度としては実用上の使用に耐えうるために、好ましくは破断強度が2.0cN/dtex以上、さらに好ましくは2.5cN/dtex以上、さらに好ましくは3.0cN/dtex以上とすることが好ましい。
【0028】
さらに複合繊維の後加工性を向上させる目的で、スルホン酸金属塩を付与することもできる。例えば、スルホン酸金属塩としては、長鎖脂肪族スルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩等を用いることができる。
【0029】
スルホン酸金属塩を繊維表面に付与する方法については、特に限定されないが、スルホン酸金属塩を、水中に分散させた紡糸油剤とし、バスディップ方式、スプレー方式またはオイリングローラー方式のいずれかの方式で紡糸油剤として糸条表面に付与する方法が好ましく例示される。さらに、この時に、繊維間の膠着防止効果を高めるため、スルホン酸金属塩の付与前に糸条を冷却することが望ましい。その方法として、0℃~35℃に冷却された紡糸油剤を糸条に付与する方法が好ましく例示される。
上記複合繊維の製造方法については特に限定はなく、従来公知の方法を使用すれば良い。
【0030】
本発明においては、次いで、上記の複合繊維と、繊維径が0.1~5μmである熱可塑性合成繊維とを用いて不織布とした後、該不織布を熱圧着して、複合繊維の成分Aを溶融し、複合繊維の成分Bからなる繊維と熱可塑性合成繊維とを複合一体化させることにより不織布を得る。
【0031】
ここで、複合繊維と共に不織布を形成する熱可塑性合成繊維とは、複合繊維の成分Aよりも高い融点を示す熱可塑性ポリマーからなり、具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン6,6などからなる熱可塑性合成繊維などが例示される。
【0032】
上記熱可塑性合成繊維の直径は0.1~5μmが好ましく、さらに好ましくは0.4~4μmである。該繊維の直径が0.1μmよりも小さい場合、湿式抄紙法で不織布を形成する際に、分散不良となる欠点が生じやすく、好ましくない。また該繊維の直径が5μmよりも大きくなる場合、不織布にした際、接着不良による強度の低下や柔軟性の低下が起こるので好ましくない。
【0033】
上記不織布は、熱圧着加工の際、成分Aの熱可塑性エラストマーが溶融し、不織布中の複合繊維同士の接触点、又は複合繊維と熱可塑性合成繊維との接触点が熱融着し、複合一体化されている。
【0034】
ここで不織布を形成するにあたり、該不織布中の複合繊維の重量比率は30重量%~95重量%とすることが好ましい。さらに好ましくは50重量%~90重量%である。不織布中の複合繊維の重量比率が30重量%よりも小さい場合は、熱圧着加工後の不織布内の接着が弱く、複合一体化が十分に行われないので、不織布の強度が低くなる。また複合繊維の重量比率が95重量%よりも大きい場合は、不織布の柔軟性が低下するため好ましくない。
【0035】
不織布の形成方法としては湿式抄紙法によって不織布を作製した後、熱カレンダーや金型によって複合繊維の成分Aの熱可塑性エラストマーを熱圧着することによって、製造することができる。不織布を斑なく均一なものとするにあたり、湿式抄紙法が最も好ましい。熱圧着方法としては連続生産ができ熱ロールで一定圧力を付与するカレンダー加工を用いることができる。一方、この他金型等を用いて熱圧着することも可能である。
【0036】
得られた不織布の比引張強さは20N・m/g以上、さらに好ましくは25N・m/g以上であることが好ましい。20N・m/g未満では実用上の使用に耐えられず好ましくない。
【0037】
また、得られた不織布の平均密度は0.5~1.3g/cm3であることが好ましい。
上記不織布は、さらに他の繊維基材層と重ね合わせる構造をとっても良い。該繊維基材層の厚さは特に限定されないが、例えば、300~3000μm、さらに好ましくは、500~1500μm程度であることが好ましい。
【0038】
また、繊維基材層を形成する繊維の種類は特に限定されず、ポリエチレンテレフタレート及びその共重合体、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610等のポリアミド系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのオレフィン系繊維などを用いることができる。
【0039】
加えて、上記不織布に繊維基材層を重ね合わせるにあたり、それぞれを接着させるため、熱可塑性エラストマーからなる複合繊維、熱可塑性接着繊維、熱硬化性繊維を主成分とする接着層をその間に加えることもできる。こうすることにより、不織布と繊維基材層の密着性が増すため好ましい。
【0040】
なお、本発明の不織布には、通常の染色加工や起毛加工が施されていてもよい。さらには、撥水加工、防炎加工、難燃加工、マイナスイオン発生加工など公知の機能加工が付加されていてもさしつかえない。
【実施例】
【0041】
以下、実施例および比較例により、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例及び比較例に制限されるものではない。なお実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0042】
(1)繊維の熱接着性
金属ローラー温度220℃、荷重2MPaでカレンダー加工を実施したとき、繊維同士の融着がみられ、複合一体化が十分に行われた場合は〇、見られない場合は×とした。
【0043】
(2)繊維の離型性
金属ローラー温度220℃、荷重2MPaでカレンダー加工を実施したとき、金属ローラーへの繊維付着がみられない場合を〇、繊維の付着がみられる場合を×とした。
【0044】
(3)メルトフローレート(MFR)
乾燥処理後のポリマーをISO1133に従い、230℃、荷重2.16kgの条件で押し出し、測定を行った。
【0045】
(4)ビカット軟化温度
ISO306に従い測定を実施した。
【0046】
(5)硬度
ISO868に従い測定を実施した。
【0047】
(6)溶融粘度
乾燥処理後のポリマーを、紡糸時のメルター溶融温度に設定したオリフィスにセットして5分間溶融保持したのち、数水準の荷重をかけて押し出し、そのときのせん断速度と溶融粘度をプロットする。そのプロットをなだらかにつないで、せん断速度-溶融粘度曲線を作成し、せん断速度が1,000秒-1の時の溶融粘度を算出した。
【0048】
(7)不織布の平均密度
JIS K-6401により測定した。
【0049】
(8)不織布の比引張強さ
JIS P 8113に従い、タテ、ヨコ方向双方各5回測定し、その平均値を不織布の比引張強さとした。
【0050】
(9)不織布の剛軟度
目付40g/m2となるよう湿式抄紙法により、不織布を作製し、タテ50mm、ヨコ25mmとしたサンプルを作製し、JIS L 1913 ガーレ法により測定した。
【0051】
(10)複合繊維断面における成分Aの長さの比率
供試複合繊維の横断面写真を透過型電子顕微鏡TEMを用い、倍率30000倍において撮影した。この電子顕微鏡写真を用いて、複合繊維外周を測定し、Rとした。また成分Aからなる部分の長さの総和を測定し、rとした。r/Rを複合繊維断面における成分Aの長さの比率として算出した。
【0052】
[実施例1]
テレフタル酸(TA)ジメチル100重量部、テトラメチレングリコール59重量部、ポリテトラメチレングリコール(PTMG;分子量1500)300重量部、触媒としてテトラブトキシチタネート0.2重量部を蒸留装置を備えた反応容器に仕込み、常法に従い210℃でエステル交換反応を行い、引き続いて240℃で重縮合反応を行い、重縮合反応終了直前に酸化防止剤として住友化学製スミライザー(登録商標)GA-80を1重量部、住友化学製スミライザー(登録商標)TP-Dを1重量部を添加し溶融攪拌後、常法に従いチップ化してソフトセグメントを65重量%含有するポリエーテルエステルブロック共重合体エラストマー(ポリエステルエラストマー1)を得た。
【0053】
得られたポリエステルエラストマー1の融点は200℃、メルトフローレート15g/10min、ビカット軟化温度は140℃、硬度は30ショアDであった。
得られた熱可塑性エラストマーを海成分とし、280℃における溶融粘度が1000poiseとなるポリエチレンテレフタレート(PET)を島成分とし、1フィラメントあたり25島となる海島型複合繊維口金を用いてポリマーを吐出し、1000m/minで巻き取ることにより、300dtex10フィラメントとなる海島型複合繊維の未延伸糸を得た。この時の海ポリマーと島ポリマーの吐出量の比は1:1であった。
【0054】
次に、この海島型複合繊維を4倍に延伸し75dtex36フィラメントの海島型複合繊維を得た。この海島型複合繊維における島成分の直径は3μmであり、複合繊維の外周は全てポリエステルエラストマー1に覆われていた。このようにして得られた複合繊維を繊維長方向に5mm長でカット行った。
【0055】
また上記で得られた海島型複合繊維を、繊維径3μm、カット長3mmのポリエチレンテレフタレート繊維と重量比50:50で混合し、100g/m2の坪量で湿式抄紙を行った。その後150℃で乾燥し、220℃でカレンダー加工行い、海成分であるポリエステルエラストマー1を溶融し、島成分であるポリエチレンテレフタレート(PET)からなる繊維と熱可塑性合成繊維とが複合一体化された不織布を得た。この際、熱接着性、離型性について測定行いどちらも良好であった。その測定結果を表1に記す。
【0056】
[実施例2]
島ポリマーとして260℃における溶融粘度が1500poiseのナイロン6(NY6)を用いた以外は実施例1と同様の方法で海島型複合繊維を作製し、その後不織布とした。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例3]
島ポリマーとして260℃における溶融粘度が1500poiseのポリトリメチレンテレフタレートを用いた以外は実施例1と同様の方法で海島型複合繊維を作製し、その後不織布とした。結果を表1に示す。
【0058】
[実施例4]
芯ポリマーとして280℃における溶融粘度が1000poiseとなるポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、鞘ポリマーとしてポリエステルエラストマー1を用い、総繊度60dtexフィラメント数72の芯鞘型複合繊維を得た。この時の鞘ポリマーと芯ポリマーの吐出量の比は7:3であった。その後実施例1と同様の方法で、芯鞘型複合繊維を、ポリエチレンテレフタレート繊維と混合し、湿式抄紙を行った。その後150℃で乾燥し、220℃でカレンダー加工を行い、鞘成分であるポリエステルエラストマー1を溶融し、芯成分であるポリエチレンテレフタレート(PET)からなる繊維と熱可塑性合成繊維とが複合一体化された不織布を得た。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例5]
芯ポリマーとして280℃における溶融粘度が1000poiseとなるポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、鞘ポリマーとしてポリエステルエラストマー1を用い、総繊度60dtexフィラメント数72の偏芯芯鞘型複合繊維を得た。この時、繊維断面形状を観察したところ、r/R=0.8であった。その後実施例1と同様の方法で、偏芯芯鞘型複合繊維を、ポリエチレンテレフタレート繊維と混合し、湿式抄紙を行った。その後150℃で乾燥し、220℃でカレンダー加工を行い、鞘成分であるポリエステルエラストマー1を溶融し、芯成分であるポリエチレンテレフタレート(PET)からなる繊維と熱可塑性合成繊維とが複合一体化された不織布を得た。結果を表1に示す。
【0060】
[比較例1]
実施例1において、海成分として、メルトフローレートが20g/10min、ビカット軟化温度が180℃のナイロン6(IV=2.7)を用いた以外は実施例1と同様に実施して海島型複合繊維を得た。この時、ナイロン6樹脂については硬度が高すぎて、測定限界である80ショアDを遥かに越える値となるため、硬度を測定することができなかった。その後、湿式抄紙法により、熱可塑性合成繊維と混合し、カレンダー加工して不織布としようとしたが、熱接着性が悪く、不織布を得ることはできなかった。測定結果を表1に記す。
【0061】
[比較例2]
実施例1において、ポリテトラメチレングリコール(PTMG;分子量1500)640重量部に変更し、ソフトセグメントを80重量%とした以外は実施例1と同様の方法でポリエーテルエステルブロック共重合体エラストマーを重合しポリエーテルエステルブロック共重合体エラストマー(ポリエステルエラストマー2)を得た。その後、実施例1と同様に実施して海島型複合繊維を作製した。その後、実施例1と同様の方法により湿式抄紙法により、熱可塑性合成繊維と混合し、カレンダー加工して不織布としようとしたが、金属ローラーとの離型性が悪く、不織布を得ることはできなかった。測定結果を表1に記す。
尚、得られたポリエステルエラストマー2の融点は180℃、メルトフローレートは15g/10min、ビカット軟化温度は110℃、硬度は20ショアDであった。
【0062】
[比較例3]
実施例1において、ポリテトラメチレングリコール(PTMG;分子量1500)55重量部に変更し、ソフトセグメントを25重量%とした以外は実施例1と同様の方法でポリエーテルエステルブロック共重合体エラストマーを重合しポリエーテルエステルブロック共重合体エラストマー(ポリエステルエラストマー3)を得た。その後、実施例1と同様に実施して海島型複合繊維を作製した。その後、実施例1と同様の方法により湿式抄紙法により、熱可塑性合成繊維と混合し、カレンダー加工して不織布としようとしたが、熱接着性が悪く、不織布を得ることはできなかった。測定結果を表1に記す。
尚、得られたポリエステルエラストマー3の融点は210℃、メルトフローレートは15g/10min、ビカット軟化温度は200℃、硬度は63ショアDであった。
【0063】
[比較例4]
実施例1において、海島型複合繊維の島成分が繊維外周表面にあり、複合繊維断面における成分Aの比率r/Rが0.35である海島型複合繊維を作製した以外は実施例1と同様に実施して湿式抄紙を行った。その後、実施例1と同様の方法により湿式抄紙法により、熱可塑性合成繊維と混合し、カレンダー加工して不織布としようとしたが、熱接着性が悪く、不織布を得ることはできなかった。測定結果を表1に記す。
【0064】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、充分な強度を有すると共に、密度が高いにも関わらず柔らかいエラストマー成形品を、熱圧着の際の金属ローラーへの樹脂の付着等のトラブルなく製造することが可能となるので、表皮材料として靴、衣料、手袋、鞄、ボール、インテリア、車輌用途などの分野に用いることができる。