(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】風車翼アセンブリ及び風車
(51)【国際特許分類】
F03D 80/00 20160101AFI20240409BHJP
F03D 1/06 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
F03D80/00
F03D1/06 A
(21)【出願番号】P 2020074036
(22)【出願日】2020-04-17
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】刈込 界
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-011741(JP,A)
【文献】特開2009-074447(JP,A)
【文献】特表2017-517671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 1/00-80/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風車翼と、
前記風車翼の表面に取り付けられたボルテックスジェネレータと、
を備え、
前記ボルテックスジェネレータは、
前記表面に立設される支持部と、
前記支持部を介して前記表面に支持される小翼と、
を備え、
前記小翼は、流入風に対して下流側に位置する小翼後縁の前記表面に対する高さが、前記流入風に対して上流側に位置する小翼前縁における前記表面に対する高さより大きく、
前記小翼は、前記風車翼の翼長方向に対する垂直断面において、略一定の厚さを有する平板形状を有する、風車翼アセンブリ。
【請求項2】
風車翼と、
前記風車翼の表面に取り付けられたボルテックスジェネレータと、
を備え、
前記ボルテックスジェネレータは、
前記表面に立設される支持部と、
前記支持部を介して前記表面に支持される小翼と、
を備え、
前記小翼は、流入風に対して下流側に位置する小翼後縁の前記表面に対する高さが、前記流入風に対して上流側に位置する小翼前縁における前記表面に対する高さより大きく、
前記小翼は、前記表面の法線方向から見て、前記小翼前縁から前記小翼後縁に向けて翼幅が広がるように形成される、風車翼アセンブリ。
【請求項3】
風車翼と、
前記風車翼の表面に取り付けられたボルテックスジェネレータと、
を備え、
前記ボルテックスジェネレータは、
前記表面に立設される支持部と、
前記支持部を介して前記表面に支持される小翼と、
を備え、
前記小翼は、流入風に対して下流側に位置する小翼後縁の前記表面に対する高さが、前記流入風に対して上流側に位置する小翼前縁における前記表面に対する高さより大きく、
前記小翼は、前記表面の法線方向から見て、前記風車翼の翼幅方向に沿った中心線の両側において、それぞれ前記小翼後縁に向けて翼幅が狭くなるように形成される、風車翼アセンブリ。
【請求項4】
前記支持部は翼形状を有する、請求項1から
3のいずれか一項に記載の風車翼アセンブリ。
【請求項5】
前記風車翼の前縁から翼コード方向に沿ったボルテックスジェネレータの取付位置xの前記風車翼の翼コード長c0に対する比x/c0は、0.2≦x/c0≦0.5を満たす、請求項1から
4のいずれか一項に記載の風車翼アセンブリ。
【請求項6】
前記小翼は、流入風に対して下流側に位置する小翼後縁の前記表面に対する高さが、前記流入風に対して上流側に位置する小翼前縁における前記表面に対する高さより大きい、請求項1から5のいずれか一項に記載の風車翼アセンブリ。
【請求項7】
前記小翼は、前記風車翼の翼長方向に対する垂直断面において、前記小翼前縁及び前記小翼後縁の間に前記表面に対する高さが最小となる最近接点を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の風車翼アセンブリ。
【請求項8】
前記小翼は、前記風車翼の翼長方向に対する垂直断面において、前記表面に対して凸状に湾曲する、請求項1から7のいずれか一項に記載の風車翼アセンブリ。
【請求項9】
風車翼と、
前記風車翼の表面に取り付けられたボルテックスジェネレータと、
を備え、
前記ボルテックスジェネレータは、
前記表面に立設される支持部と、
前記支持部を介して前記表面に支持される小翼と、
を備え、
前記小翼は、流入風に対して下流側に位置する小翼後縁の前記表面に対する高さが、前記流入風に対して上流側に位置する小翼前縁における前記表面に対する高さより大きく、
前記風車翼の翼根から翼長方向に沿ったボルテックスジェネレータの取付位置yの前記風車翼の翼長c1に対するパーセント比y/c1×100は、10[%]≦y/c1×100≦40[%]を満たす、風車翼アセンブリ。
【請求項10】
前記風車翼の翼長方向に対する垂直断面において、前記小翼前縁及び前記小翼後縁を結ぶラインの表面に対する角度θは、5[度]≦θ≦10[度]を満たす、請求項1から9のいずれか一項に記載の風車翼アセンブリ。
【請求項11】
前記風車翼の翼コード長c0に対する前記ボルテックスジェネレータの高さHのパーセント比であるH/c0×100が、0.5[%]≦H/c0×100≦3[%]を満たす、請求項1から10のいずれか一項に記載の風車翼アセンブリ。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の風車翼アセンブリを備える風車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、風車翼アセンブリ及び風車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、風車の運転効率を向上させる観点から、風車翼の空力的性能を改善する試みがなされている。風車翼の空力的性能に影響を及ぼす要素として、風車翼の表面に沿った流れの剥離がある。風車翼では、前縁側から流入する流れによって表面に境界層が形成される。境界層は、風車翼の前縁近傍では比較的薄い層流であるが、後縁側に向かうに従って流れが不安定化し、乱流に遷移する。風車翼の表面における圧力は、前縁側から後縁側に向かうに従って増加することから、風車翼の表面に沿った流れには減速させる力が作用し、流れが静止すると剥離が生じてしまう。このような風車翼の表面に沿った流れの剥離は、流れに対して逆流成分を生じさせ、風車翼の空力的性能を低下する要因となる。
【0003】
風車翼の空力的性能を向上させる手段の一つとして、風車翼の表面にボルテックスジェネレータを設置することで、風車翼の表面に沿った流れの剥離を防止することが知られている。例えば特許文献1~3には、ボルテックスジェネレータを備える風車翼が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2008/113349号
【文献】米国特許第9752559号明細書
【文献】特開2018-25114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、風車翼の空力性能のさらなる改善要求が高まりつつあり、上記特許文献1~3に記載のボルテックスジェネレータの剥離抑制効果を更に高めることが望まれている。
【0006】
本開示の少なくとも一実施形態は、優れた剥離抑制効果を享受できるボルテックスジェネレータを備える風車翼アセンブリ及び風車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態に係る風車翼アセンブリは、上記課題を解決するために、
風車翼と、
前記風車翼の表面に取り付けられたボルテックスジェネレータと、
を備え、
前記ボルテックスジェネレータは、
前記表面に立設される支持部と、
前記支持部を介して前記表面に支持される小翼と、
を備え、
前記小翼は、流入風に対して下流側に位置する小翼後縁の前記表面に対する高さが、前記流入風に対して上流側に位置する小翼前縁における前記表面に対する高さより大きい。
【発明の効果】
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、優れた剥離抑制効果を享受できるボルテックスジェネレータを備える風車翼アセンブリ及び風車を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る風力発電装置の概略構成図である。
【
図2】
図1の風車翼アセンブリを示す斜視図である。
【
図4】翼長方向に沿ったエネルギ効率係数の分布を示すグラフである。
【
図5】一実施形態に係るボルテックスジェネレータの翼長方向に沿った断面図である。
【
図6】
図5のボルテックスジェネレータを上方から示す平面図である。
【
図7A】翼形状を有する支持部の形状の一例である。
【
図7B】翼形状を有する支持部の形状の他の例である。
【
図8A】小翼の取付角度と小翼の揚力係数との相関を示すグラフである。
【
図8B】小翼の取付角度と小翼の抗力係数との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0011】
まず
図1及び
図2を参照して、一実施形態に係る風車翼を備える風力発電装置1の全体構成について説明する。
図1は一実施形態に係る風力発電装置1の概略構成図であり、
図2は
図1の風車翼アセンブリ2を示す斜視図である。
【0012】
図1に示すように、風力発電装置1は、少なくとも一本(例えば3本)の風車翼アセンブリ2を備える。風車翼アセンブリ2は放射状にハブ4に取り付けられ、風車翼アセンブリ2及びハブ4により風力発電装置1のロータ6が構成される。風車翼アセンブリ2で風を受けると、ロータ6が回転し、ロータ6に連結された発電機(不図示)で電力が生成されるようになっている。
【0013】
尚、
図1に示す実施形態では、ロータ6は、タワー8の上方に設けられたナセル10によって支持されている。またタワー8は、水上又は陸上に設けられた土台構造12(基礎構造又は浮体構造等)に立設されている。
【0014】
図2に示すように、風車翼アセンブリ2は風車翼14を備える。風車翼14の表面(翼面)には、ボルテックスジェネレータ16が取り付けられている。
【0015】
風車翼14は、風力発電装置1のハブ4に取り付けられる翼根18と、ハブ4から最も遠くに位置する翼先端20とを含む。また、風車翼14は、翼根18から翼先端20にかけて、前縁24と後縁26とを有する。また、風車翼14の表面14aは、圧力面28(腹面)と、圧力面28に対向する負圧面30(背面)とを含んで構成される。
【0016】
図2に示すように、風車翼アセンブリ2において、複数のボルテックスジェネレータ16が風車翼14の表面14aに取り付けられる。以下の実施形態では、ボルテックスジェネレータ16は、風車翼14の表面14aのうち負圧面30に取り付けられている。これらの複数のボルテックスジェネレータ16は、翼長方向に沿って配列されている。
【0017】
尚、本願明細書において、「翼長方向」は、翼根18と翼先端20とを結ぶ方向を意味し、「翼コード方向」は、風車翼14の前縁24と後縁26とを結ぶ線(コード)に沿った方向を意味する。
【0018】
ここで
図3は
図2のA―A断面図である。
図3では、風車翼14の負圧面30に取り付けられたボルテックスジェネレータ16を誇張して表示している(実際のボルテックスジェネレータ16は、風車翼14の翼コード長c0に対して十分に小さい)。
【0019】
風車翼14は、運用時に前縁24側から流入風Uを受ける。前縁24への流入風Uは、負圧面30上に境界層32を形成する。境界層32は、表面14aから十分に離れた位置における流速と等しくなる位置として定義される。境界層32の内側(負圧面30側)は、前縁24近傍では比較的薄い層流であるが、前縁24から後縁26に向かって次第に発達することで、遷移点35を境界として乱流に遷移する。負圧面30における圧力は、前縁24側から後縁26側に向かうに従って増加することから、負圧面30に沿った流れには、下流側に行くに従って減速成分が次第に増加する。その結果、剥離点37より下流側(後縁26側)では、負圧面30の近傍に逆流域40が形成され、剥離が生じる。ボルテックスジェネレータ16は、負圧面30上に設置されることで、このような剥離を抑制する効果(剥離抑制効果)を有する。
【0020】
尚、負圧面30における境界層32の厚さδ、遷移点35、剥離点37は、それぞれ風車翼14の運用条件(例えば、流入風Uの流速、風向き、温度、気圧等)に依存するが、
図3では、特定の条件下における一例が示されている。
【0021】
幾つかの実施形態において、翼コード方向における前縁24からのボルテックスジェネレータ16の取付位置xの翼コード長c0に対する比x/c0は、0.2≦x/c0≦0.5を満たす。ここで
図3に示すように、境界層32の高さδは、風車翼14の下流側(すなわち後縁26側)に向かうに従って増加する。そのため、ボルテックスジェネレータ16の取り付け位置xが上記条件を満たすように、翼コード方向において比較的前縁24側に設定することで、剥離前の流れを利用して剥離を防止するための縦渦をボルテックスジェネレータ16によって効果的に生成できる。
【0022】
また幾つかの実施形態において、翼コード方向における前縁24からのボルテックスジェネレータ16の取付位置xは、翼コード方向における前縁24からの遷移点35の位置x1、及び、翼コード方向における前縁24からの剥離点37の位置x2に対して、x1<x<x2を満たすように配置してもよい。このようにボルテックスジェネレータ16の取付位置xを設定することで、翼コード方向において比較的前縁24側に設定することで、剥離前の流れを利用して剥離を防止するための縦渦をボルテックスジェネレータ16によって効果的に生成できる。
【0023】
幾つかの実施形態において、翼長方向における翼根18からのボルテックスジェネレータ16の取付位置yの翼長c1(
図2を参照)に対するパーセント比y/c1×100は、10[%]≦y/c1×100≦40[%]を満たす。一般的に、風車翼14のうち翼先端20側は、空力的性能を比較的良好に考慮した設計がなされるが、翼根18側はハブ4に対する十分な取付剛性を確保するために、空力的性能が比較的低下する設計がなされる。尚、
図2では、上記条件を満たす取付位置yの範囲に、複数のボルテックスジェネレータ16が設置された場合が例示されている。
【0024】
ここで
図4は翼長方向に沿ったエネルギ効率係数dCpの分布を示すグラフである。エネルギ効率係数dCpは、風車翼アセンブリ2の数Nb、ロータ6の回転数Ω、流入風速U、取付位置y、空気密度ρ、局所トルクdQを用いて次式から得られる値を用いている。
【0025】
図4では、エネルギ効率係数dCpの最良理論値がともに示されている。
図4によれば、パーセント比y/c1が40[%]以下の範囲において、翼長方向に沿ったエネルギ効率係数dCpと最良理論値との乖離幅が拡大する傾向が見られる。そのため、取付位置yが上記条件を満足するように設計することで、翼根18側においてハブ4に対する十分な取付剛性を確保した場合においても、翼根18側の空力的性能を効果的に向上することができる。
【0026】
続いてボルテックスジェネレータ16の構成について具体的に説明する。
図5は一実施形態に係るボルテックスジェネレータ16の翼コード方向に沿った断面図であり、
図6は
図5のボルテックスジェネレータ16を上方(負圧面30の法線方向)から示す平面図である。
尚、
図5では翼コード方向に沿ったボルテックスジェネレータ16の大きさが、翼コード長c0に対して十分小さいため、ボルテックスジェネレータ16に対して風車翼14の負圧面30が平坦であるとみなして示している。
【0027】
ボルテックスジェネレータ16は、風車翼14の負圧面30(表面14a)に取り付けられる支持部31と、支持部31によって支持される小翼34とを含む。支持部31は、負圧面30(表面14a)に立設されるように固定される。支持部31の他端側には、小翼34が取り付けられる。
【0028】
尚、支持部31は基部を介して、負圧面30(表面14a)に対して間接的に取り付けられていてもよい。この場合、基部は、例えば、円形形状や楕円形状や長方形等の多角形の形状を有していてもよい。また基部上には、複数の支持部31が取り付けられていてもよい。
【0029】
また幾つかの実施形態では、支持部31は翼形状を有する。支持部31の断面は翼形状のような流線形状を有して流れ方向に正対させることで、支持部31に作用する抵抗力を減らすことができ、空力性能の観点で都合がよい。翼形状を有する支持部31の形状の例を
図7A及び7Bに示す。
図7Aは、小翼34の中央に支持部31を設定した形態を表している。構造強度を増すため等の理由で支持部31を複数にしてもよい。
図7Bは、支持部31を2つとした形態を示す。
【0030】
小翼34は、負圧面30(表面14a)に沿って延在する平面形状を有する。当該平面形状は、小翼前縁36と、小翼後縁38とを有する。小翼前縁36は流入風Uの上流側(風車翼14の前縁24側)に位置し、小翼後縁38は流入風Uの下流側(風車翼14の後縁26側)に位置する。
【0031】
小翼34は、
図5に示すように、小翼後縁38の高さH2が小翼前縁36の高さH1より大きくなるように、負圧面30(表面14a)に対して傾斜して配置される。これにより、小翼34と負圧面30(表面14a)との間を通過する流れD1は、小翼34より上方を通過する流れD2より流速が大きくなり、その結果、ボルテックスジェネレータ16の下流側に
図5に示す縦渦D3を形成することで、逆流域40で生じる剥離を抑制する。
【0032】
幾つかの実施形態において、小翼34は、
図5に示すように、翼長方向に対する垂直断面において、小翼前縁36及び小翼後縁38の間に負圧面30(表面14a)に対する高さが最小となる最近接点42を有する。これにより、表面14aに対して傾斜して設置された小翼34に反りを持たせることができ、剥離抑制のための縦渦D3をより効果的に生じさせることができる。
【0033】
幾つかの実施形態において、小翼前縁36及び小翼後縁38を結ぶラインの負圧面30(表面14a)に対する傾斜角度θは、5[度]≦θ≦10[度]を満たす。ここで
図8A及び
図8Bは小翼34の傾斜角度θと小翼34の揚力係数α1及び抗力係数α2との相関をそれぞれ示すグラフである。小翼34の揚力係数α1は、傾斜角度θが増加するに従って増加するが、ある値でピークを示し、それ以上に増加すると減少する振る舞いを有する。また小翼34の抗力係数α2は、傾斜角度θが比較的小さい範囲では小さな値で安定しているが、ある値以上になると、傾斜角度θの増加に伴って、急激に増加する。そのため、傾斜角度θが上記条件を満たすように設定することで、小翼34の揚力係数α1と抗力係数α2とのバランスを好適にとることができ、良好な空力的性能が得られる。
【0034】
幾つかの実施形態において、小翼34は、
図5に示すように、翼長方向に対する垂直断面において、表面14a(負圧面30)に対して凸状に湾曲する形状を有する。これにより上流側(前縁24側)から受ける流入風Uを小翼34の表面に沿ってよりスムーズに導くことで、剥離抑制のための縦渦D3をより効果的に生じさせることができる。
【0035】
幾つかの実施形態において、小翼34は、
図5に示すように、翼長方向に対する垂直断面において、略一定の厚さを有する。これにより、より簡易的な構成で剥離抑制効果を発揮可能なボルテックスジェネレータ16を実現できる。
【0036】
図9は
図5の変形例である。幾つかの実施形態において、小翼34は、
図9に示すように、翼長方向に対する垂直断面において、平板形状を有する。この場合、小翼前縁36及び小翼後縁38は直線上に位置し、傾斜角度θは負圧面30(表面14a)に対する小翼34の角度と一致する。これにより、より簡易的な構成で剥離抑制効果を発揮可能なボルテックスジェネレータ16を実現できる。
【0037】
図10は
図5の他の変形例である。幾つかの実施形態において、
図10に示すように、小翼34は翼形状を有する。この場合、小翼34の両面の中点を結んで規定されるキャンバーラインCLは、負圧面30(表面14a)に対して凸状に湾曲する。このような小翼34を用いることで、より空力的性能に優れたボルテックスジェネレータ16を実現できる。
【0038】
幾つかの実施形態において、キャンバーラインCLの最大キャンバPの小翼コード長c2に対するパーセント比P/c2は、P/c0≦10[%]を満たす。このようにパーセント比P/c2を比較的小さく抑えることで、前述の傾斜角度θの範囲において好適な剥離抑制効果が得られる。
【0039】
幾つかの実施形態において、小翼34は、翼コード長c0に対するボルテックスジェネレータ16の高さH(典型的には、小翼後縁38の高さH1と等しい)のパーセント比であるH/c0×100が、0.5[%]≦H/c0×100≦3[%]を満たす。より好ましくは、パーセント比H/c0×100は1[%]である。
【0040】
一般的にボルテックスジェネレータ16の高さHが境界層32の高さδに対して大きい場合、ボルテックスジェネレータ16の存在による空気抵抗により、風車翼14の空力的性能が低下する。逆に、ボルテックスジェネレータ16の高さHが境界層32の高さδに対して小さい場合、ボルテックスジェネレータ16によって生成される縦渦が小さくなり、ボルテックスジェネレータ16による剥離抑制効果が減少してしまう。そこで、ボルテックスジェネレータ16の高さHが上記条件を満たすように設計することで、ボルテックスジェネレータ16による空気抵抗と、ボルテックスジェネレータ16による剥離抑制効果とのバランスを適正化し、風車翼アセンブリ2の全体として空力的性能を向上することができる。
【0041】
幾つかの実施形態において、ボルテックスジェネレータ16の高さH(典型的には、小翼後縁38における表面14aからの高さH1と等しい)の境界層32の高さδに対する比H/δが、0.2≦H/δ≦2を満たす。より好ましくは、比H/δが、0.5≦H/δ≦1.5を満たす。
【0042】
図3に示すように、境界層32の高さδは翼コード方向に沿った位置によって変化する。そのため、比H/δが上記条件を満たすように設定することで、ボルテックスジェネレータ16の高さHを、その取付位置xにおける境界層32の高さδに最適化し、剥離抑制に必要な縦渦を効果的に得ることができる。
【0043】
幾つかの実施形態において、小翼34は、表面14aの法線方向から見て、小翼前縁36から小翼後縁38に向けて翼幅が広がるように形成される。
図6に示す実施形態では、小翼前縁36は、翼コード方向に沿った中心線Cとの交点C1からそれぞれ下流側に向けて斜めに延びる2辺L1、L2を有することで、上流側に凸形状を有する。
【0044】
また幾つかの実施形態において、小翼34は、表面14aの法線方向から見て、翼コード方向に沿った中心線Cの両側において、それぞれ小翼後縁38に向けて翼幅が狭くなるように形成される。
図6に示す実施形態では、小翼後縁38は、翼コード方向に沿った中心線Cとの交点C2から下流側に向けて斜めに延びる2辺L3、L4を有することで、下流側に対して凹形状を有する。
【0045】
本発明者の鋭意検討の結果、小翼34の小翼前縁36及び小翼後縁38の形状がそれぞれ鋭くなるに従って、剥離抑制効果を発揮するための縦渦を効果的に発生できることを見出した。
図6の実施形態では、2辺L1及びL2で規定される角度θ1、2辺L1及びL3で規定される角度θ2、2辺L2及びL4で規定される角度θ3がそれぞれ比較的小さく形成されているため、剥離抑制効果を発揮するための縦渦D3を効果的に発生できる。
【0046】
図11A及び
図11Bはそれぞれ
図6の変形例である。
図11Aに示す変形例では、小翼34は、
図6と同様に、各辺L1、L2、L3、L4を有するとともに、更に、辺L1の下流側端部と辺L3の下流側端部とを接続する辺L5と、辺L2の下流側端部と辺L4の下流側端部とを接続する辺L6と、を有する。辺L5、L6は、中心線Cに平行である。このような
図11Aに示す小翼34は、
図6に比べて辺L5、L6を有する分、角度θ2、θ3が大きくなっているため(言い換えると、下流側の角度の鋭さが低下しているため)、
図6に比べると縦渦D3が発生しにくくなるものの、従来に比べて良好な剥離抑制効果を得ることができる。
【0047】
また
図11Bに示す変形例では、小翼34は、小翼前縁36及び小翼後縁38は、それぞれ中心線Cに対して垂直な辺L7、L8であり、辺L7、L8の両端が辺L9、L10で接続された、略矩形状の平面形状を有する。このような
図11Bに示す小翼34は、
図11Aに比べて、小翼前縁36及び小翼後縁38の鋭さが更に低下しているため(すなわち角度θ1は実質的にゼロであり、角度θ2、θ3は90度であるため)、
図11Aに比べると縦渦D3が発生しにくいものの、従来に比べて良好な剥離抑制効果を得ることができる。
【0048】
以上説明したように、上述の各実施形態によれば、風車翼14の表面14a(負圧面30)上に支持部31及び小翼34を有するボルテックスジェネレータ16を備えることで、優れた剥離抑制効果を享受できる。
【0049】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0050】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0051】
(1)一態様に係る風車翼アセンブリ(例えば上記実施形態の風車翼アセンブリ2)は、
風車翼(例えば上記実施形態の)と、
前記風車翼の表面(例えば上記実施形態の表面14a)に取り付けられたボルテックスジェネレータ(例えば上記実施形態のボルテックスジェネレータ16)と、
を備え、
前記ボルテックスジェネレータは、
前記表面に立設される支持部(例えば上記実施形態の支持部31)と、
前記支持部を介して前記表面に支持される小翼(例えば上記実施形態の小翼34)と、
を備え、
前記小翼は、流入風に対して下流側に位置する小翼後縁(例えば上記実施形態の小翼後縁38)の前記表面に対する高さが、前記流入風に対して上流側に位置する小翼前縁(例えば上記実施形態の小翼前縁36)における前記表面に対する高さより大きい。
【0052】
上記(1)の態様によれば、風車翼の表面に取り付けられるボルテックスジェネレータは、支持部によって支持される小翼を備える。小翼は、小翼後縁が小翼前縁より高く取り付けられることで縦渦を効果的に発生させ、優れた剥離抑制効果をもたらすことができる。
【0053】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記小翼は、前記風車翼の翼長方向に対する垂直断面において、前記小翼前縁及び前記小翼後縁の間に前記表面に対する高さが最小となる最近接点を有する。
【0054】
上記(2)の態様によれば、小翼は小翼前縁及び前記小翼後縁の間に前記表面に対する高さが最小となる最近接点を有することにより(いわゆる反り形状を有することにより)、剥離抑制のための縦渦をより効果的に生じさせることができる。
【0055】
(3)他の態様では、上記(1)又は(2)の態様において、
前記小翼は、前記翼本体の翼長方向に対する垂直断面において、前記表面に対して凸状に湾曲する。
【0056】
上記(3)の態様によれば、小翼が湾曲形状を有することにより、より空力的性能に優れたボルテックスジェネレータを実現できる。
【0057】
(4)他の態様では、上記(1)又は(2)の態様において、
前記小翼は、前記翼本体の翼長方向に対する垂直断面において、略一定の厚さを有する平板形状を有する。
【0058】
上記(4)の態様によれば、ボルテックスジェネレータが平板形状を有する小翼を備えることで、より簡易的な構成で剥離抑制効果を有する風車翼アセンブリを実現できる。
【0059】
(5)他の態様では、上記(1)から(4)のいずれか一態様において、
前記小翼は、前記表面の法線方向から見て、前記小翼前縁から前記小翼後縁に向けて翼幅が広がるように形成される。
【0060】
上記(5)の態様によれば、小翼の前縁側形状をこのように形成することで、剥離抑制効果を発揮するための縦渦を効果的に発生できる。
【0061】
(6)他の態様では、上記(1)から(5)のいずれか一態様において、
前記小翼は、前記表面の法線方向から見て、前記翼本体の翼幅方向に沿った中心線の両側において、それぞれ前記小翼後縁に向けて翼幅が狭くなるように形成される。
【0062】
上記(6)の態様によれば、小翼の後縁側形状をこのように形成することで、剥離抑制効果を発揮するための縦渦を効果的に発生できる。
【0063】
(7)他の態様では、上記(1)から(6)のいずれか一態様において、
前記支持部は翼形状を有する。
【0064】
上記(7)の態様によれば、ボルテックスジェネレータにおいて小翼を支持する支持部材に翼形状を適用することで、より空力的性能に優れた風車翼アセンブリを実現できる。
【0065】
(8)他の態様では、上記(1)から(7)のいずれか一態様において、
前記風車翼の前縁から翼コード方向に沿ったボルテックスジェネレータの取付位置xの前記風車翼の翼コード長c0に対する比x/c0は、0.2≦x/c0≦0.5を満たす。
【0066】
上記(8)の態様によれば、ボルテックスジェネレータを当該条件を満たすように風車翼に取り付けることで、剥離前の流れを利用して剥離を防止するための縦渦を効果的に生成できる。
【0067】
(9)他の態様では、上記(1)から(8)のいずれか一態様において、
前記風車翼の翼根18から翼長方向に沿ったボルテックスジェネレータの取付位置yの前記風車翼の翼長c1に対するパーセント比y/c1×100は、10[%]≦y/c1×100≦40[%]を満たす。
【0068】
上記(9)の態様によれば、ボルテックスジェネレータを当該条件を満たすように風車翼に取り付けることで、剥離前の流れを利用して剥離を防止するための縦渦を効果的に生成できる。
【0069】
(10)他の態様では、上記(1)から(9)のいずれか一態様において、
前記翼本体の翼長方向に対する垂直断面において、前記小翼前縁及び前記小翼後縁を結ぶラインの表面に対する角度θは、5[度]≦θ≦10[度]を満たす。
【0070】
上記(10)の態様によれば、小翼が有する小翼前縁及び小翼後縁を結ぶラインの表面に対する角度θを上記条件を満たすように構成することで、小翼の揚力係数と抗力係数とのバランスを好適にとることができ、良好な空力的性能が得られる。
【0071】
(11)他の態様では、上記(1)から(10)のいずれか一態様において、
前記風車翼の翼コード長c0に対する前記ボルテックスジェネレータの高さHのパーセント比であるH/c0×100が、0.5[%]≦H/c0×100≦3[%]を満たす。
【0072】
上記(11)の態様によれば、ボルテックスジェネレータの表面に対する高さを上記条件を満たすことで、ボルテックスジェネレータによる空気抵抗と、ボルテックスジェネレータによる剥離抑制効果とのバランスを適正化し、風車翼アセンブリ全体として空力的性能を向上することができる。
【0073】
(12)一態様に係る風車は、
上記(1)から(11)のいずれか一態様の風車翼アセンブリを備える。
【0074】
上記(12)の態様によれば、上記構成のボルテックスジェネレータを備える風車アセンブリを有することで、優れた空力性能を有する風車を実現できる。
【符号の説明】
【0075】
1 風力発電装置
2 風車翼アセンブリ
4 ハブ
6 ロータ
8 タワー
10 ナセル
12 土台構造
14 風車翼
14a 表面
16 ボルテックスジェネレータ
18 翼根
20 翼先端
24 前縁
26 後縁
28 圧力面
30 負圧面
31 支持部
32 境界層
34 小翼
35 遷移点
36 小翼前縁
37 剥離点
38 小翼後縁
40 逆流域
42 最近接点