(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】列車群制御システム及び列車群制御方法
(51)【国際特許分類】
B61L 27/12 20220101AFI20240409BHJP
B60L 15/40 20060101ALI20240409BHJP
B61L 3/12 20060101ALI20240409BHJP
B61L 23/16 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
B61L27/12
B60L15/40 G
B60L15/40 J
B61L3/12 Z
B61L23/16 Z
(21)【出願番号】P 2020119950
(22)【出願日】2020-07-13
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】貝▲塚▼ 悠▲祐▼
(72)【発明者】
【氏名】深見 研一
(72)【発明者】
【氏名】大場 寿彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 聡
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-006009(JP,A)
【文献】特開2015-188293(JP,A)
【文献】特開2002-204507(JP,A)
【文献】特開2017-158330(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017041(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 27/12
B60L 15/40
B61L 3/12
B61L 23/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通過可能状態と通過禁止状態とに切り替わる複数の停止ポイントを有する路線において複数の列車の運行を制御する列車群制御システムであって、
前記複数の列車の位置情報に基づいて前記複数の列車それぞれの
現在地から最初の到着駅までの範囲の制御ランカーブを作成するように構成されたランカーブ作成部を有し、
前記ランカーブ作成部は、
前記複数の列車それぞれ
に対して、前記複数の停止ポイントのうち前記到着駅までの進行方向に存在する
全ての停止ポイントがそれぞれ通過可能状態となる予測時刻に基づいて、
前記全ての停止ポイントでの遅延が最小になる最適進入速度を考慮して、前記到着駅に最も早く到着する最早ランカーブを作成し、
前記複数の列車のそれぞれの前記最早ランカーブにおいて、前記予測時刻に基づいて、前記全ての停止ポイントから、通過時に前記最適進入速度よりも減速する必要がある支障点を抽出し、
抽出された前記支障点に基づいて、前記最早ランカーブの一部を修正して前記制御ランカーブを作成する、
列車群制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の列車群制御システムであって、
前記ランカーブ作成部は、
前記複数の列車のそれぞれの前記最早ランカーブにおいて、前記現在地と抽出された前記支障点のうち前記到着駅に最も近い支障点である制約点との間に存在する停止ポイント
から第1滞留ポイントを探索し、
前記複数の列車のそれぞれの前記最早ランカーブにおいて、前記
最早ランカーブのうち
前記現在地から
探索された前記第1滞留ポイントまでの範囲の少なくとも一部に、等速型ランカーブを設定
し、
前記第1滞留ポイントは、減速が生じる点であり、前記現在地から前記第1滞留ポイントの間において、減速が発生しない、
列車群制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載の列車群制御システムであって、
前記ランカーブ作成部は、
前記複数の列車のそれぞれの前記最早ランカーブにおいて、前記第1滞留ポイントと前記制約点との間に存在する停止ポイント
から第2滞留ポイントを探索し、
前記複数の列車のそれぞれの前記最早ランカーブにおいて、前記最早ランカーブのうち前記第1滞留ポイントから
探索された前記第2滞留ポイントまでの範囲の少なくとも一部に、等速型ランカーブを設定
し、
前記第2滞留ポイントは、減速が生じる点であり、前記第1滞留ポイントから前記第2滞留ポイントの間において、減速が発生しない、
列車群制御システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の列車群制御システムであって、
前記ランカーブ作成部は、
前記制御ランカーブを作成する第1処理と、
前記複数の列車又は前記路線における異常の発生時に、前記制御ランカーブから
前記現在地を含む部分ランカーブを抽出し、前記異常に対応して前記部分ランカーブを修正する第2処理と、
を実行するように構成される、列車群制御システム。
【請求項5】
通過可能状態と通過禁止状態とに切り替わる複数の停止ポイントを有する路線において複数の列車の運行を制御する列車群制御方法であって、
前記複数の列車の位置情報に基づいて前記複数の列車それぞれの
現在地から最初の到着駅までの範囲の制御ランカーブを作成する工程を備え、
前記制御ランカーブを作成する工程では、
前記複数の列車それぞれ
に対して、前記複数の停止ポイントのうち前記到着駅までの進行方向に存在する
全ての停止ポイントがそれぞれ通過可能状態となる
予測時刻に基づいて、
前記全ての停止ポイントでの遅延が最小になる最適進入速度を考慮して、前記到着駅に最も早く到着する最早ランカーブを作成し、
前記複数の列車のそれぞれの前記最早ランカーブにおいて、前記予測時刻に基づいて、前記全ての停止ポイントから、通過時に前記最適進入速度よりも減速する必要がある支障点を抽出し、
抽出された前記支障点に基づいて、前記最早ランカーブの一部を修正して前記制御ランカーブを作成する、
列車群制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、列車群制御システム及び列車群制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
列車の運行に遅延が生じた場合に、遅延の解消時間を短縮する制御システムが考案されている(特許文献1参照)。この制御システムでは、先行列車の位置情報に基づいて後続列車の制御ランカーブを修正することで、遅延の解消が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の制御システムは、先行列車の近未来の位置予測に基づいた局所的な修正を行うように設計されている。そのため、多数の列車が密に走行するダイヤの場合や、複数の閉塞区間(つまり信号と信号との間の区間)それぞれに列車が停止した状態が発生した場合等には、不要な加減速が多発する可能性がある。また、列車の間隔が必要以上の大きさとなり、遅延を早期に解消できない可能性もある。
【0005】
本開示の一局面は、複数の列車に対して加減速の回数を低減しつつ遅延の解消時間を短縮できる列車群制御システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、通過可能状態と通過禁止状態とに切り替わる複数の停止ポイントを有する路線において複数の列車の運行を制御する列車群制御システムである。列車群制御システムは、複数の列車の位置情報に基づいて複数の列車それぞれの制御ランカーブを作成するように構成されたランカーブ作成部を備える。ランカーブ作成部は、複数の列車それぞれの進行方向に存在する複数の停止ポイントがそれぞれ通過可能状態となる予測時刻に基づいて、制御ランカーブを作成する。
【0007】
このような構成によれば、複数の停止ポイントの通過可能時刻に基づいた広域的な視野で制御ランカーブが作成されるため、各列車の不必要な加減速を避けることができる。また、停止ポイントの通過可能時刻には、他の列車の予測位置が反映されるため、列車群全体の制御ランカーブを最適化して遅延の解消時間を短縮できる。
【0008】
本開示の一態様では、ランカーブ作成部は、複数の停止ポイントのうち、制御ランカーブを作成する列車の減速に最も影響する第1滞留ポイントを探索し、制御ランカーブのうち現在地から第1滞留ポイントまでの範囲の少なくとも一部に等速型ランカーブを設定してもよい。このような構成によれば、制御ランカーブ作成の計算時間を短縮しつつ、各列車の加減速の回数を低減できる。
【0009】
本開示の一態様では、ランカーブ作成部は、第1滞留ポイントよりも先の複数の停止ポイントのうち、制御ランカーブを作成する列車の減速に最も影響する第2滞留ポイントを探索し、第1滞留ポイントから第2滞留ポイントまでの範囲の少なくとも一部に等速型ランカーブを設定してもよい。このような構成によれば、等速型ランカーブを組み合わせた制御ランカーブが作成される。その結果、各列車の加減速の回数を低減できると共に、列車の運行エネルギーを低減できる。
【0010】
本開示の一態様では、ランカーブ作成部は、制御ランカーブを作成する第1処理と、複数の列車又は路線における異常の発生時に、制御ランカーブから現在地を含む部分ランカーブを抽出し、異常に対応して部分ランカーブを修正する第2処理と、を実行するように構成されてもよい。このような構成によれば、異常の発生時に第1処理よりも処理時間の短い第2処理によって部分ランカーブを修正することで、異常事態に対し速やかに対処することができる。つまり、緊急を要しない遅延に対して制御ランカーブの作成によって遅延の解消時間の短縮を図りながら、緊急を要する異常時に速やかに各列車を停止させることができる。
【0011】
本開示の別の態様は、通過可能状態と通過禁止状態とに切り替わる複数の停止ポイントを有する路線において複数の列車の運行を制御する列車群制御方法である。列車群制御方法は、複数の列車の位置情報に基づいて複数の列車それぞれの制御ランカーブを作成する工程を備える。制御ランカーブを作成する工程では、複数の列車それぞれの進行方向に存在する複数の停止ポイントがそれぞれ通過可能状態となる時刻に基づいて、制御ランカーブを作成する。
【0012】
このような構成によれば、各列車の不必要な加減速を避けることができる。また、列車群全体の制御ランカーブを最適化して遅延の解消時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態における列車群制御システムの構成を概略的に示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1のランカーブ作成部が実行する第1処理を概略的に示すフロー図である。
【
図3】
図3は、時間と列車の走行距離との関係の一例を示すグラフである。
【
図4】
図4は、
図2の第1処理で実行される制御ランカーブ作成処理を概略的に示すフロー図である。
【
図5】
図5Aは、第1処理で作成される最早ランカーブの一例であり、
図5Bは、
図5Aにおいて第1滞留ポイントまでを等速型ランカーブとしたランカーブであり、
図5Cは、
図5Bにおいて第2滞留ポイントまでを等速型ランカーブとしたランカーブである。
【
図6】
図6は、
図2の第1処理で実行される滞留ポイント探索処理を概略的に示すフロー図である。
【
図7】
図7は、巡航速度の探索方法の一例を説明するグラフである。
【
図8】
図8Aは、第1滞留ポイントまでのランカーブの変形例であり、
図8Bは、2つのランカーブに沿った列車の走行位置の比較を示すグラフである。
【
図9】
図9Aは、第1処理で作成される制御ランカーブの一例であり、
図9Bは、
図9Aの制御ランカーブから作成される部分ランカーブの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1に示す列車群制御システム1は、同一の路線200を走行する複数の列車100の運行を集中制御する。
【0015】
路線200には、複数の停止ポイントが設けられている。各停止ポイントには、信号機が配置されている。各停止ポイントは、信号機が現示する信号によって、通過可能状態と通過禁止状態とに切り替わる。路線200は、複数の停止ポイント及び駅によって、同時に2以上の列車100が進入しない複数の閉塞区間に区切られている。
【0016】
列車群制御システム1は、複数の車上制御装置2と、地上制御装置3とを備える。車上制御装置2は、路線200を走行する複数の列車100それぞれに搭載されている。
【0017】
<車上制御装置>
車上制御装置2は、自身が搭載された列車100の現在の位置情報及び現在の速度情報を含む走行情報を発信する発信部と、地上制御装置3から発信される走行指令情報を受信する受信部とを有する。走行指令情報には、後述する制御ランカーブ(つまり運転曲線)が含まれる。
【0018】
また、車上制御装置2は、制御ランカーブに沿って、搭載された列車100を自動運転させるATO装置を有する。列車群制御システム1は、完全な自動運転型の(つまり運転士が乗車しない)列車100を群単位で制御することができる。
【0019】
<地上制御装置>
地上制御装置3は、地上設備に設置されている。地上制御装置3は、通信部31と、ランカーブ作成部32と、運行管理装置33と、運転保安装置34とを有する。
【0020】
通信部31は、複数の地上基地局31Aを有する。複数の地上基地局31Aは、互いに異なる地点に配置されており、近くを走行している列車100との無線通信を行う。なお、1つの地上基地局31Aが複数の列車100と通信を行ってもよい。
【0021】
通信部31は、複数の地上基地局31Aによって、複数の車上制御装置2から複数の列車100の走行情報を受信するように構成されている。また、通信部31は、複数の地上基地局31Aによって、複数の車上制御装置2に走行指令情報を発信するように構成されている。
【0022】
ランカーブ作成部32は、複数の列車100それぞれの制御ランカーブを作成するように構成されている。ランカーブ作成部32は、例えば、プロセッサと、RAM、ROM等の記憶媒体と、入出力部とを備えるコンピュータにより構成される。
【0023】
ランカーブ作成部32は、地上ネットワーク35を介して、通信部31が受信した複数の列車100の走行情報と、運行管理装置33が管理している複数の列車100の運行ダイヤと、運転保安装置34が検知した進路情報とを取得する。
【0024】
ランカーブ作成部32は、制御ランカーブを作成する第1処理と、制御ランカーブを部分的に修正する第2処理とを実行するように構成されている。第1処理及び第2処理の具体的な内容については後述する。
【0025】
ランカーブ作成部32は、作成した制御ランカーブを複数の列車100それぞれの車上制御装置2に送信する。列車100は、受信した制御ランカーブに沿って路線200を走行する。
【0026】
運行管理装置33は、運行ダイヤが記憶されたデータベースを有する。運行管理装置33は、ランカーブ作成部32に複数の列車100の運行ダイヤを提供する。
【0027】
運転保安装置34は、路線200の各閉塞区間における列車100の有無を含む進路情報を検知するATC地上装置を有する。進路情報には、列車100の臨時速度制限情報等も含まれている。
【0028】
<第1処理(ランカーブの作成手順)>
第1処理では、ランカーブ作成部32は、複数の列車100それぞれの進行方向に存在する複数の停止ポイントがそれぞれ通過可能状態となる予測時刻(以下、「開通時刻」ともいう。)に基づいて、複数の列車100それぞれの制御ランカーブを作成する。
【0029】
具体的には、ランカーブ作成部32は、地上ネットワーク35を介して取得した走行情報、運行ダイヤ、及び進路情報に基づいて、走行中の複数の列車100に対し制御ランカーブをリアルタイムに作成する。
【0030】
各列車の制御ランカーブは、少なくとも各列車の現在地から最初の到着駅までの範囲で作成される。また、制御ランカーブは、到着駅までの全ての停止ポイントの開通時刻を考慮して作成される。
【0031】
以下、
図2のフロー図を参照しつつ、ランカーブ作成部32が実行するランカーブ作成処理について説明する。
【0032】
まず、ランカーブ作成部32は、複数の列車100のうち最も進行方向前方に位置する先頭列車の制御ランカーブを作成する(ステップS101)。先頭列車の前方には他の列車が存在しないため、先頭列車に対しては、他の列車の位置と関係なく最速で目的地(つまり到着駅)に到達する制御ランカーブが作成される。
【0033】
次に、ランカーブ作成部32は、先頭列車を除いた残りの全列車(つまり、先頭列車から数えて2番目の列車から最後尾の列車まで)に対して、支障点の算出(ステップS102)と、制御ランカーブの作成(ステップS103)とを進行方向前方の列車から順に繰り返す(ループL1)。
【0034】
支障点とは、複数の停止ポイントのうち、最適進入速度(つまり遅延が最小になる速度)未満への減速が通過までに必要となるポイントである。
図3に時間Tを横軸、距離D(つまり列車の位置)を縦軸にとった平面の一例を示す。
図3中、Cは列車の現在地を表し、Aは列車の到着駅を表している。
【0035】
図3では、第1停止ポイントP1が現時刻T0から時刻T1まで通過禁止状態となるため、列車は、時刻T1までは第1停止ポイントP1よりも先には進めない。また、列車は第1停止ポイントP1を通過するまでに最適進入速度未満まで減速するか、又は停止する必要がある。
【0036】
同様に、第1停止ポイントP1よりも前方に位置する第2停止ポイントP2が時刻T2まで通過禁止状態となるため、列車は、時刻T2までは第2停止ポイントP2よりも先には進めない。さらに、第2停止ポイントP2よりも前方に位置する第3停止ポイントP3が時刻T3まで通過禁止状態となるため、列車は、時刻T3までは第3停止ポイントP3よりも先には進めない。
【0037】
図3の例では、第1停止ポイントP1、第2停止ポイントP2、及び第3停止ポイントP3は、いずれも支障点S1,S2,S3となっている。支障点は、複数の列車100の走行シミュレーションによって算出される。走行シミュレーションでは、単位時間ごとに全ての列車100の位置を予測してもよいし、1つの列車100ごとに時間による位置変化を予測してもよい。
【0038】
ランカーブ作成部32は、少なくとも1つの支障点の算出(S102)後、制御ランカーブの作成(S103)を実行する。ここでは
図4に示すフローを参照しつつ、制御ランカーブの作成処理について説明する。
【0039】
制御ランカーブの作成処理において、ランカーブ作成部32は、まずランカーブ計算の開始点と終了点とを設定する(ステップS201)。具体的には、ランカーブ作成部32は、計算開始点を列車の現在地とし、終了点を到着駅とする。
【0040】
開始点と終了点との設定後、ランカーブ作成部32は、開始点から終了点までの最早ランカーブを作成する(ステップS202)。最早ランカーブは、停止ポイントの状態(つまり信号)を考慮しつつ、列車を最も早く到着駅に到達させるランカーブである。
【0041】
最早ランカーブの計算では、
図3に示すように、最適進入速度未満に減速する必要のある現在地Cと第1停止ポイントP1との間の区間では、最適進入速度で第1停止ポイントP1に到達する点P1-1で計算を打ち切る。その上で、第1停止ポイントP1が通過可能状態となる点P1-2から計算を再開する。
【0042】
このように最早ランカーブの計算において点P1-1と点P1-2との間の計算を省略しても、到着駅に最も早く到達する時刻の計算に支障はない。一方、点P1-1と点P1-2との間のランカーブの計算には、後述する巡航速度等の算出が必要となる。
【0043】
そのため、点P1-1と点P1-2との間の計算を省略することで、計算時間を短縮できる。
図3における点P2-1と点P2-2との間、及び点P3-1と点P3-2との間についても同様である。
【0044】
現在地Cから到着駅Aまでの最早ランカーブの一例を
図5Aに示す。
図5Aの横軸は距離Dであり、縦軸は速度Vである。また、
図5Aの停止ポイントP1,P2,P3は、通過までに最適進入速度未満に減速する停止ポイントであり、停止ポイントQ1,Q2は、それぞれ、通過までに最適進入速度未満まで減速する必要がない(つまり最適進入速度が維持される)停止ポイントである。
【0045】
最早ランカーブの作成後、ランカーブ作成部32は、算出した少なくとも1つの支障点に対応する停止ポイントから、到着駅に最も近い停止ポイントを第1制約点として設定する(ステップS203)。第1制約点から到着駅までの間には支障点は存在しない。そのため、最早ランカーブのうち、第1制約点から到着駅までの部分は制御ランカーブの一部として確定される。
【0046】
図5Aの例では、第3停止ポイントP3が第1制約点として設定される。また、最早ランカーブのうち第3停止ポイントP3から到着駅Aまでの部分が、制御ランカーブのうち第3停止ポイントP3から到着駅Aまでの部分とされる。
【0047】
さらに、ランカーブ作成部32は、現在地から到着駅までの間に存在する追越駅(つまり列車が停車しない通過駅)に最も近い停止ポイントを第2制約点として設定する。1つの列車に対し、第2制約点は複数存在し得る。また、追越駅が存在しない場合は、第2制約点の設定は行われない。
【0048】
第2制約点を設定することで、通過列車が追越駅を通過する時刻を早めることができるため、退避している各駅停車列車の出発を早めることができる。その結果、遅延回復のボトルネックとなる各駅停車列車の遅延解消を図ることができる。
【0049】
制約点の設定後、ランカーブ作成部32は、制御ランカーブの計算の終了点を、第1制約点及び第2制約点のうち最も現在地に近い(つまり最も到着駅から遠い)点に再設定する(ステップS204)。
【0050】
終了点の再設定後、ランカーブ作成部32は、複数の停止ポイントのうち、制御ランカーブを作成する列車の減速に最も影響する第1滞留ポイントを探索する(ステップS205)。
図3では、支障点S1に対応する第1停止ポイントP1が、第1滞留ポイントである。
【0051】
第1滞留ポイントの探索は、例えば、
図6に示すフローによって実行される。まず、ランカーブ作成部32は、二分探索のための巡航速度(つまり列車の上限速度)の初期値を設定する(ステップS301)。具体的には、Vu(最大値)とVd(最小値)との2つの値を設定する。
【0052】
次に、ランカーブ作成部32は、巡航速度をV=(Vu+Vd)/2とした等速型ランカーブを作成する(ステップS302)。等速型ランカーブとは、初期部分(つまり加速部分)と終端部分(つまり減速部分)とを除いて速度が一定のランカーブである。
【0053】
続いてランカーブ作成部32は、作成した等速型ランカーブにおける支障点(つまりブレーキパターンが生じる点)の数を算出し、支障点の数が0より大きいか否か判定する(ステップS303)。支障点の数が0の場合(S303:NO)、速度が不十分と判断されるため、ランカーブ作成部32は、巡航速度Vを増加させる(ステップS304)。具体的には、ランカーブ作成部32は、Vu=V、Vd=Vとして巡航速度を更新し、等速型ランカーブの作成(S302)を再度実行する。
【0054】
支障点の数が0より大きい場合(S303:YES)、ランカーブ作成部32は、さらに支障点の数が2より小さいか否か判定する(ステップS305)。支障点の数が2以上の場合(S305:NO)、速度が大きすぎると判断されるため、ランカーブ作成部32は、巡航速度Vを減少させる(ステップS306)。具体的には、ランカーブ作成部32は、Vu=Vu、Vd=Vとして巡航速度を更新し、等速型ランカーブの作成(S302)を再度実行する。
【0055】
支障点の数が2より小さい場合(S305:YES)、つまり、支障点の数が1の場合、ランカーブ作成部32は、最後に作成した等速型ランカーブにおける支障点に対応する停止ポイントを第1滞留ポイントとして確定する(ステップS307)。
【0056】
滞留ポイントの探索では、巡航速度の初期値を工夫することで滞留ポイントの探索時間の短縮を図ることができる。例えば、等加速度で加減速できると仮定した際の巡航速度を解析で求め、この巡航速度を初期値としてもよい。なお、実際には走行抵抗などにより等加速度運動は実現されない場合があるため解析的に巡航速度を求めることはできないが、巡航速度の初期値として解析値を用いることで、第1滞留ポイントを確定させる反復計算の回数を削減できる。
【0057】
また、二分探索に代えて、
図7に示すように、第1滞留ポイントを確定させる巡航速度V0を非線形方程式f(V)=0の解として求めてもよい。f(V)は、巡航速度Vの列車が現在地からブレーキパターン上の目的位置に最適進入速度で到達するまでの時間を表す関数g(V)から、現在時刻から第1滞留ポイントの開通時刻までの時間T0を減じた走行時間を表す関数である。なお、
図7中、Vmaxは最高速度、Vminは最低速度を示す。
【0058】
上述したf(V)=0は、非線形方程式であり、f(V)の厳密な特定は困難な場合が多いが、ある巡航速度V1で走行した場合の走行時間f(V1)は演算可能である。そのため、挟み撃ち法、割線法等の非線形方程式の求解法を用いて、f(V)=0となる巡航速度V0を求めることができる。
【0059】
図4に示すように、第1滞留ポイントの探索後、ランカーブ作成部32は、開始点から終了点までの部分ランカーブを作成する(ステップS206)。具体的には、制御ランカーブのうち現在地から第1滞留ポイントまでの第1範囲R10の全体に渡って等速型ランカーブを設定する。
【0060】
例えば、
図5Aのランカーブにおいて第1停止ポイントP1が第1滞留ポイントであった場合、
図5Bに示すように、現在地Cから第1停止ポイントP1までの等速型ランカーブR1が設定される。等速型ランカーブR1における巡航速度は、上述した滞留ポイント探索と同様の手順で決定される。
【0061】
ランカーブ作成部32は、
図8Aに示すように、第1範囲R10の一部(具体的には、第1範囲R10の後方の領域)のみに等速型ランカーブを設定してもよい。
図8Aの例では、ランカーブ作成部32は、第1停止ポイントP1から中継点Zまでに等速型ランカーブR12を設定し、中継点Zから現在地Cまでに最早ランカーブR11を設定する。
【0062】
図8Bに示すように、最早ランカーブと等速型ランカーブとを組み合わせた
図8AのランカーブXは、
図5Bの等速型ランカーブのみのランカーブYに比べて、特定地点D1に到達する時間を早めることができる。例えば、特定地点D1が追越駅である場合、ランカーブXによって後続の列車のこの追越駅への到達時間を早めることができる。
【0063】
一方で、
図5Bのように第1範囲R10に等速型ランカーブのみを設定した場合は、
図8Aのように第1範囲R10において最早ランカーブと等速型ランカーブとを組み合わせた場合に比べて、消費エネルギーを低減できる。
【0064】
等速型ランカーブの設定後、ランカーブ作成部32は、次の計算の開始点を第1滞留ポイントに設定する(ステップS207)。その後、ランカーブ作成部32は、設定した開始点が計算の終了点と一致するか否か判定する(ステップS208)。
【0065】
開始点が終了点と一致しない場合(S208:NO)、ランカーブ作成部32は、新たな開始点と終了点との間で次の滞留ポイントの探索(S205)、部分ランカーブの作成(S206)、及び開始点を滞留ポイントとする設定(S207)を行う。
【0066】
つまり、ランカーブ作成部32は、第1滞留ポイントよりも先の複数の停止ポイント(つまり第1滞留ポイントと到着駅との間の停止ポイント)のうち、制御ランカーブを作成する列車の減速に最も影響する第2滞留ポイントを探索し、第1滞留ポイントから第2滞留ポイントまでの第2範囲R20の全体に渡って等速型ランカーブを設定する。
【0067】
図5Bのランカーブの例では、第3停止ポイントP3が第2滞留ポイントであった場合、
図5Cに示すように、第1滞留ポイントである第1停止ポイントP1から第3停止ポイントP3までの等速型ランカーブR2が設定される。なお、ランカーブ作成部32は、第2範囲R20の一部のみに等速型ランカーブを設定してもよい。
【0068】
開始点が終了点と一致する場合(S208:YES)、ランカーブ作成部32は、第1制約点までの計算が終了したか否か判定する(ステップS209)。第2制約点が存在する場合で第1制約点までの計算が終了していない場合(S209:NO)、ランカーブ作成部32は、計算の開始点をこれまでの計算で終了点としていた第2制約点に再設定すると共に、計算の終了点をこの第2制約点に近接する次の第2制約点又は第1制約点に再設定する(ステップS210)。
【0069】
計算の開始点及び終了点の再設定後、ランカーブ作成部32は、滞留ポイント探索(S205)から開始点と終了点との一致判定(S208)まで再び実行する。これにより、第1制約点まで等速型ランカーブが繰り返し設定される。
【0070】
第1制約点までの計算が終了した場合(S209:YES)、ランカーブ作成部32は、これまでに得られた制御ランカーブを確定する(ステップS211)。
【0071】
図2に示すように、ループL1によって最後尾の列車まで制御ランカーブの作成が完了した後、ランカーブ作成部32は、最後尾の列車から先頭列車まで、スムージング(ステップS104)と、支障点の再算出(ステップS105)とを進行方向後方の列車から順に繰り返す(ループL2)。
【0072】
ランカーブ作成部32は、スムージング(S104)において、到着駅への到達時刻を変えない範囲で、各列車の制御ランカーブを最適化する。具体的には、エネルギー消費量が低減されるように制御ランカーブを修正する。
【0073】
スムージング後、ランカーブ作成部32は、制御ランカーブの修正に合わせて、各列車の支障点の再算出(S105)を実行する。支障点の算出方法は、ループL1における支障点の算出(S102)と同じである。
【0074】
<第2処理>
第2処理では、ランカーブ作成部32は、路線200を走行する複数の列車100又は路線200における異常の発生時に、第1処理で作成された制御ランカーブから現在地を含む部分ランカーブを抽出し、異常に対応して部分ランカーブを修正する。
【0075】
列車100又は路線200における異常とは、火災、自然災害、停電、車両の故障等である。ランカーブ作成部32は、走行中の複数の列車100に対し部分ランカーブをリアルタイムに抽出及び修正する。
【0076】
例えば、
図9Aに示す制御ランカーブR100に沿って列車が運行しているときに路線で異常が発生することを想定する。この場合、ランカーブ作成部32は、
図9Bに示すように、現在地Cから最も近い停止ポイントP11で停止する部分ランカーブR101を作成する。
【0077】
部分ランカーブR101は、制御ランカーブR100のうち現在地Cから停止ポイントP11までの抽出部分に対し、列車が停止ポイントP11で停止できるようにランカーブ作成部32が修正を行ったものである。
【0078】
[1-2.列車群制御方法]
本実施形態の列車群制御方法は、通過可能状態と通過禁止状態とに切り替わる複数の停止ポイントを有する路線において複数の列車の運行を制御する。本実施形態の列車群制御方法は、例えば列車群制御システム1を用いて実施される。
【0079】
列車群制御方法は、複数の列車の位置情報に基づいて複数の列車それぞれの制御ランカーブを作成する工程を備える。制御ランカーブを作成する工程は、上述したランカーブ作成部32が実行する第1処理に相当する。
【0080】
[1-3.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)複数の停止ポイントの通過可能時刻に基づいた広域的な視野で制御ランカーブが作成されるため、各列車の不必要な加減速を避けることができる。また、停止ポイントの通過可能時刻には、他の列車の予測位置が反映されるため、列車群全体の制御ランカーブを最適化して遅延の解消時間を短縮できる。
【0081】
(1b)制御ランカーブのうち現在地から滞留ポイントまでの範囲に等速型ランカーブを設定することを繰り返すことで、制御ランカーブ作成の計算時間を短縮しつつ、各列車の加減速の回数を低減できる。また、等速型ランカーブを組み合わせた制御ランカーブが作成されるため、列車の運行エネルギーを低減できる。
【0082】
(1c)異常の発生時に第1処理よりも処理時間の短い第2処理によって部分ランカーブを修正することで、異常事態に対し速やかに対処することができる。つまり、緊急を要しない遅延に対して制御ランカーブの作成によって遅延の解消時間の短縮を図りながら、緊急を要する異常時に速やかに各列車を停止させることができる。
【0083】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0084】
(2a)上記実施形態の列車群制御システム1において、ランカーブ作成部32は、必ずしも制御ランカーブのスムージングと支障点の再算出とを進行方向後方の列車から順に繰り返さなくてもよい。つまり、第1処理におけるループL2は省略されてもよい。
【0085】
(2b)上記実施形態の列車群制御システム1において、ランカーブ作成部32は、少なくとも第1処理を実行するように構成されれば、必ずしも第2処理を実行するように構成されなくてもよい。
【0086】
(2c)上記実施形態の列車群制御システム1は、必ずしも車上制御装置2を備えなくてもよい。例えば、列車群制御システム1は、地上に設置され、地上から複数の列車100の位置情報を検出する検出装置を備えてもよい。ランカーブ作成部32は、検出装置が検出した位置情報に基づいて制御ランカーブを作成してもよい。
【0087】
(2d)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0088】
1…列車群制御システム、2…車上制御装置、3…地上制御装置、31…通信部、
31A…地上基地局、32…ランカーブ作成部、33…運行管理装置、
34…運転保安装置、35…地上ネットワーク、100…列車、200…路線。