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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】液体吐出具
(51)【国際特許分類】
   B43K 7/03 20060101AFI20240409BHJP
   B43K 7/10 20060101ALI20240409BHJP
   B43K 7/12 20060101ALI20240409BHJP
   B43K 24/06 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
B43K7/03
B43K7/10
B43K7/12
B43K24/06
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020128386
(22)【出願日】2020-07-29
(65)【公開番号】P2022025519
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】石川 淳
(72)【発明者】
【氏名】岩間 満
【審査官】山下 清隆
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-041683(JP,U)
【文献】特開2015-164788(JP,A)
【文献】実開昭52-035731(JP,U)
【文献】実開昭49-147025(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00- 1/12
B43K 5/00- 8/24
B43K 21/00-21/26
B43K 24/00-24/18
B43K 27/00-27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の吐出具本体と、前記吐出具本体の前方及び後方に着脱可能で一端が開口し他端が閉塞するキャップとを具備し、
前記吐出具本体の前方に設けた先端チップより該吐出具本体の内部に収容した液体を吐出させる液体吐出具であって、
前記吐出具本体の内方に、前記液体を収容する液体収容管を有し、
前記液体収容管の後方部に、該液体収容管に収容された液体の後方に位置する第一空間部を有し、
前記吐出具本体と前記液体収容管との間に、前記第一空間部と連通する第二空間部を有し、
前記吐出具本体が、該吐出具本体の外方と前記第二空間部とを連通させる孔部を有し、
前記キャップが、キャップ本体と軸心に沿った方向へ移動可能で且つ該キャップの外方より操作可能な操作部を設けた当接体とを有し、
前記キャップ本体が、天面に螺旋状の溝部を有し、前記当接体が、側面に前記螺旋状の溝部に係止される螺旋状の突部を有し、前記当接体の操作部を回動操作することにより、前記当接体が前後動する構造とし、
前記キャップを前記吐出具本体の後方に装着する際、前記キャップの当接体に前記吐出具本体の後端が当接するまで、前記キャップ本体の開口端側の内周面が該吐出具本体の外周面に摺接しながら前進することにより、
前記キャップ本体と該吐出具本体との間に、前記孔部を介して前記第二空間部と連通する気体収容部が形成され、前記第一空間部と前記第二空間部と前記気体収容部とで構成される密閉空間内の圧縮された空気を介して、前記液体収容管内の液体が加圧される構造の液体吐出具。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出具であり、
前記当接体が、本体と、前記キャップ本体の内周面を前後方向に摺動する摺動体とを備え、該摺動体に対し前記本体が回動可能に連結された構造の液体吐出具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールペンやマーカー等の筆記具やペン型の修正液や液体糊等の塗布具のように、軸体の前方に設けた先端チップから液体を流出させるものは知られており、さらに加圧により液体の流出量を増加できる構造も知られている。
例えば、筆記具では、特許文献1(特開2000-335173号公報)のように、インキ収容管の後方に加圧機構を設け、ノック体の押圧操作に連動させてインキタンク内のインキを加圧できる構造がある。この様な加圧機構を設けた筆記具では、ペン先からのインキの流出量を多くし、筆跡を太くあるいは濃くすることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-335173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1の筆記具は、加圧を行うための加圧機構が必要であり、構造が複雑になることから、故障のリスクが増え、コストアップにも繋がる。また、前記特許文献1のボールペンは、ノック機構の押出し操作に連動させてインキを加圧する構造のため、加圧量を調整することができない構造であり、加圧力を小さくしたい場合や、加圧が不要の場合でも、インキが定常的に加圧されてしまう。
また、インキを収容してあるレフィル(液体収容管)の後方空間の空気に対してのみ、加圧機構による圧縮が行える構造であることから、レフィル内のインキ(液体)が未使用でレフィルの後方空間の空気量が少ない時の圧縮力に比べて、インキが減ってレフィルの後方空間の空気が多くなった時の圧縮力が小さくなるため、結果、レフィルの後方空間の空気量が少なく、空気が圧縮され易いボールペンの使用開始時にはインキが多く吐出され、インキが消費されレフィルの後方空間の空気が多くなり、空気が圧縮され難くなった時にはインキの吐出量が減少することになり、インキの残量に当該インキの吐出量が影響を受け易い構造である。
【0005】
本発明の目的は、液体への加圧力を調整することが可能であり、加圧力が液体収容管内の液体の残量変化による影響を受け難い構造の液体吐出具を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
「1.筒状の吐出具本体と、前記吐出具本体の前方及び後方に着脱可能で一端が開口し他端が閉塞するキャップとを具備し、
前記吐出具本体の前方に設けた先端チップより該吐出具本体の内部に収容した液体を吐出させる液体吐出具であって、
前記吐出具本体の内方に、前記液体を収容する液体収容管を有し、
前記液体収容管の後方部に、該液体収容管に収容された液体の後方に位置する第一空間部を有し、
前記吐出具本体と前記液体収容管との間に、前記第一空間部と連通する第二空間部を有し、
前記吐出具本体が、該吐出具本体の外方と前記第二空間部とを連通させる孔部を有し、
前記キャップが、キャップ本体と軸心に沿った方向へ移動可能で且つ該キャップの外方より操作可能な操作部を設けた当接体とを有し、
前記キャップ本体が、天面に螺旋状の溝部を有し、前記当接体が、側面に前記螺旋状の溝部に係止される螺旋状の突部を有し、前記当接体の操作部を回動操作することにより、前記当接体が前後動する構造とし、
前記キャップを前記吐出具本体の後方に装着する際、前記キャップの当接体に前記吐出具本体の後端が当接するまで、前記キャップ本体の開口端側の内周面が該吐出具本体の外周面に摺接しながら前進することにより、
前記キャップ本体と該吐出具本体との間に、前記孔部を介して前記第二空間部と連通する気体収容部が形成され、前記第一空間部と前記第二空間部と前記気体収容部とで構成される密閉空間内の圧縮された空気を介して、前記液体収容管内の液体が加圧される構造の液体吐出具。
2.前記1項に記載の液体吐出具であり、
前記当接体が、本体と、前記キャップ本体の内周面を前後方向に摺動する摺動体とを備え、該摺動体に対し前記本体が回動可能に連結された構造の液体吐出具。」である。
【0007】
本発明の液体吐出具は、キャップを吐出具本体の後方に装着する際に、キャップ本体の開口端側の内周面が吐出具本体の外周面に摺接しながら前進することにより、密閉空間内の圧縮された空気を介して、液体収容管内の液体を加圧する構造であり、圧縮する空気を大気圧より高い気圧となるよう加圧することで、液体を吐出し易くする構造である。
【0008】
また、当接体の操作部を操作して、当接体がキャップ本体の内方に進入する長さを長くすることで、キャップを吐出具本体の後方に装着する際、吐出具本体の後端がキャップの当接体に当接するまでの距離を短くして、キャップ本体の開口端側の内周面が吐出具本体の外周面に摺接しながら前進する量を短くし、液体収容管内の液体を弱く加圧できる構造となる。キャップを装着する際、吐出具本体の後端部がキャップの当接体へ当接するまで装着すれば良いだけなので、使用者がキャップを装着する際の装着する距離を気にすることなく、液体を弱く加圧することができる。
反対に、当接体の操作部を操作して、当接体がキャップ本体の内方に進入する長さを短くすることで、キャップを吐出具本体の後方に装着する際、吐出具本体の後端がキャップの当接体に当接するまでの距離を長くした場合には、キャップ本体の開口端側の内周面が吐出具本体の外周面に摺接しながら前進する量が長くなり、液体収容管内の液体を強く加圧できる構造となる。前述と同様に、キャップを装着する際、吐出具本体の後端がキャップの当接体へ当接するまで装着すれば良いだけなので、使用者がキャップを装着する際の装着する距離を気にすることなく、液体を強く加圧することができる。
このように、本発明の液体吐出具は、キャップの外方より操作可能な操作部を操作することで、キャップを吐出具本体の後方に装着する際、吐出具本体の後端がキャップの当接体へ当接するまでの距離を変化させ、その結果、密閉空間内の空気が圧縮される量が変化して、液体収容管内の液体への加圧力を変化させることができる構造であり、予め操作部にて当接体がキャップ本体の内方に進入する長さを設定しておくことで、使用者がキャップを装着する際の装着する距離を気にすることなく、設定に応じた液体の加圧を一定して行うことが可能となる。
【0009】
また、本発明構造における液体吐出具は、第一空間部と第二空間部と気体収容部とで構成される密閉空間内の空気を圧縮することから、大きな容積の空気を加圧することができ、液体収容管内の液体が減少して液体収容管内の空気が増加しても、加圧力の変化が生じ難く、結果、液体の吐出量を安定させることができる。
【0010】
さらに、キャップを吐出具本体の後方に装着する際に、吐出具本体の少なくとも外周面を軸径方向に変位させる構造とすることで、キャップ本体の内周面を吐出具本体の外周面に密着させながら前進させることができ、密閉空間内の空気を効率よく圧縮することが可能となる。
この場合、吐出具本体の材質は、吐出具本体全体又はその表面のみを、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ABS樹脂などの軟質樹脂で成形したり、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどで成形することができる。また、吐出具本体を薄い肉厚で形成することでも、キャップ本体の内周面で吐出具本体の少なくとも外周面を押圧して変形させることもできる。
また、キャップ本体の材質は、キャップの内周面で吐出具本体を軸径方向に変位させるために、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、AS樹脂などの硬質樹脂で成形するとよい。
【0011】
さらに、キャップの開口端側の内周面に、前記吐出具本体の外周面を摺接する円環状の凸部を設けることで、キャップの内周面と吐出具本体の外周面とを密着させる部分を特定させることができ、効率よく気密をとることができる。なお、キャップの開口端側に設ける円環状の凸部は、キャップと一体で成形してもよく、あるいはキャップの内面にOリング等を固設して設けてもよい。
【0012】
また、さらに、吐出具本体における、液体収容部の後端部より前方位置、且つキャップを吐出具本体の後方に装着し、密閉空間内の空気の圧縮が開始される際において、該キャップの円環状の凸部より後方位置に、吐出具本体の外方と第二空間部とを連通させる孔部を設けることにより、液体が液体収容部の後端部から漏出した場合でも、液体は吐出具本体の後部内側の方へ流れ易く、また液体が吐出具本体の外部には漏出し難いものとなる。
【0013】
さらに、キャップの天面に螺旋状の溝部を設け、当接体の側面に前記螺旋状の溝部に係止される螺旋状の突部を設け、当接体の操作部を回動させることで当接体を前後動させる構造とすることで、当接体の操作部を操作して、キャップ本体の内方に進入する当接体の長さを微調整し易い構造となる。キャップの螺旋状の溝部は、雌螺子で形成することができ、当接体の螺旋状の突部は、雄螺子で形成することができる。
【0014】
さらに、当接体が、本体と、キャップ本体の内周面を前後方向に摺動する摺動体とを備え、摺動体に対し本体が回動可能に連結された構造とすることにより、キャップと吐出具本体との間に形成される気体収容部がキャップ本体の内周面と密着する摺動体で区画され、キャップの天面の螺旋状の溝部と、当接体の側面の螺旋状の突部との係合に隙間が形成されていても、摺動体がキャップ本体の内周面に密着することで、第一空間部と第二空間部と気体収容部とで密閉空間を構成することができる。
この場合、摺動体を、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ABS樹脂などの軟質樹脂で成形したり、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどで成形することで、摺動体の外周面をキャップ本体の内周面より若干大きくし、摺動体の外周面をキャップ本体の内周面に当接させ僅かに圧縮変形させるとよい。なお、摺動体を外周面の摩擦抵抗が高いエラストマーで成形した場合でも、摺動体に対し本体が回動可能に連結されるので、キャップ本体の内周面に対し摺動体が回動されることなく前後動することができ、操作性が優れる。
【0015】
吐出具本体の形状は特に限定されるものでないが、吐出具本体を握り易いように、筆記具のような棒状の形態が好ましい。
【0016】
先端チップは、筆記具の場合には、ボールペンチップやフェルトチップあるいは筆先やペン芯を備えた万年筆のペン体などがあげられ、塗布具の場合には、繊維収束体やスポンジなどがあげられる。先端チップは、収容管内の液体を外部に吐出させる最終的な経路になっていることから、液体流路の大きさや弁機構の有無などが、液体収容管に収容された液体の後端に接する空気の加圧状態に関係する。例えば液体流路が大きければ大気圧より少し高く加圧するだけでも液体が吐出し易くなる。先端チップに弁機構を設けることにより、気体収容部と第一空間部と第二空間部とで構成される密閉空間内の空気を大きく圧縮した場合でも、意図せずに液体が吐出してしまうことを防止できる。
【0017】
尚、大気圧を1000hPaとした場合、例えば粘度が低い筆記具用インキ(一例として20℃の環境下における粘度が1mPa・s~2000mPa・sの筆記具用インキ)では、前記密閉された空間の空気の気圧を前記大気圧である1000hPaを越え1500hPaの範囲となる加圧状態にすることで筆記具用インキを吐出し易くすることができるようになり、例えば粘度が高い液体(一例として20℃の環境下における粘度が3000mPa・s~50000mPa・sの筆記具用インキ)では、前記密閉された空間の空気の気圧を1100hPa~5000hPaの範囲となる加圧状態にすることで筆記用インキを吐出し易くすることができるようになる。しかしながら加圧する数値は特に限定されるものではなく、前述の通り液体の粘度などの特性や先端チップの構造により適宜設定すればよい。
【0018】
液体は、液体収容管に収容できるものであれば特に限定されるものではなく、筆記用インキや修正液、あるいは液状糊や化粧液など、液体吐出具の用途に応じて適宜選定すればよい。筆記用インキにおいては、油性インキや水性インキなど特に限定されず、剪断減粘性を有するインキを使用することもできる。
また、熱変色材料を含有したマイクロカプセル顔料を着色剤として用いた熱変色性インキは、カプセル内に色材を含有することから、一般的に筆跡濃度を高くし難い傾向にあるが、本発明構造の液体吐出具を用いることで、加圧によるインキ流出量の増加で筆跡濃度を高くすることが可能となる。
尚、マイクロカプセル顔料を含有した熱変色性インキの筆跡濃度を高くする方法としては、着色剤となるマイクロカプセル顔料の量を多くする場合や、マイクロカプセル顔料の粒径を大きくする場合もあるが、前記マイクロカプセル顔料の量を多くした場合にはインキの粘度が高くなって流出し難くなり、前記マイクロカプセル顔料の粒径を大きくした場合には当該顔料がインキ流路を通り難くなり、インキの流出がし難くなる虞がある。しかしながらこの様なインキでも、本発明構造の液体吐出具は、インキを加圧することで強制的に当該インキを吐出させることができることから使用可能である。
また、液中に酸化チタンや光輝性顔料などの比重が比較的大きい固形分を含み、その固形分が液中で沈降しないように静置時の粘度を高くしたインキでも、本発明構造の液体吐出具は、前記マイクロカプセル顔料を含有した熱変色性インキと同様に、インキを加圧することで強制的に当該インキを吐出させることができる。
また、修正液や液体糊のように、乾燥した液体が先端チップに付着してしまうような場合でも、液体を加圧して吐出し易くすることができる。
この様に本発明の液体吐出具は様々な液体の吐出具として適した構造である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、液体への加圧力を調整することが可能であり、加圧力が液体収容管内の液体の残量変化による影響を受け難い構造の液体吐出具が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態のボールペンのキャップを外した状態の縦断面図で、一部を側面図で示した図である。
図2】本実施形態のボールペンで、キャップを軸体の前方に装着した状態を示す縦断面図で、一部を側面図で示した図である。
図3】本実施形態のボールペンで、キャップを軸体の後方に装着した第一の状態を示す概念図であり、加圧が開始される状態である。
図4図3の状態からキャップを前進させた概念図であり、インキが加圧された状態である。
図5】本実施形態のボールペンで、キャップを軸体の後方に装着した第二の状態を示す概念図であり、加圧が開始される状態である。
図6図5の状態からキャップを前進させた概念図であり、インキが加圧された状態である。
図7】本実施形態のボールペンで、キャップを軸体の後方に装着した第三の状態を示す概念図であり、加圧が開始される状態である。
図8図7の状態からキャップを前進させた概念図であり、インキが加圧された状態である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、図面を参照しながら説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本実施形態では、液体吐出具として、キャップ式のボールペンについて説明を行うが、本発明構造の液体吐出具は、マーカーや万年筆などの筆記具や、修正ペンや液体糊のような塗布具、あるいは化粧具に採用することが可能である。
本実施形態においては、ペン先がある方を前方と表現し、その反対側を後方と表現する。説明を分かり易くするために、図面中の同様の部材、同様の部分については同じ符号を付してある。
【0022】
図1は、本実施形態のボールペンのキャップを外した状態の縦断面図で、一部を側面図で示した図である。
図1に示すように、本実施形態のボールペン1(液体吐出具)は、軸体2(吐出具本体)を、前軸3と該前軸3に螺合した後軸4とで構成してある。軸体2の内方には、ボールペンレフィル5を配設してあり、ボールペンレフィル5には、インキ6(液体)を収容してあり、インキ6の後方にはグリース状のインキ追従体7を収容してある。インキ追従体7は、インキ6の後方への流出を防止し、インキ6の減少に伴い前方へ移動する。
ボールペンレフィル5は、インキタンク5a(液体収容部)の前方に配したボールペンチップ5b(先端チップ)を、前軸3の前端開口3aから突出させており、前軸3の前方内面に形成された縮径部3bと後軸4の後方内面に形成されたリブ4aとで挟持され、軸体2に固定されている。
【0023】
前軸3の前端開口3aとボールペンレフィル5のボールペンチップ5bとの隙間は、シリコンゴム(不図示)で密閉されている。また、前軸3と後軸4とは、前軸3の嵌合部3cの前方に設けた圧入部3dと、後軸4の嵌合受部4bの前方に設けた圧入受部4cとが圧入嵌合されることで密閉されている。
軸体2には、後軸4におけるインキタンク5aの後端部5cより10mm前方位置に中心がある直径1mmの丸孔状の孔部4dを設けてある。
インキタンク5aの後方部には、インキタンク5aに収容されたインキ6及びインキ追従体7の後方に位置する第一空間部K1を有し、軸体2とインキタンク5aとの間に、第一空間部K1と連通する第二空間部K2を有している。前記孔部4dは、第二空間部K2と外部とを連通させるが、インキ6がインキタンク5aの後端部5cから漏出した場合でも、孔部4dがインキタンク5aの後端部5cより前方に位置していることから、インキ6は、後軸4の後部の内側の方へ流れ易く、また軸体2の外部へは漏出し難い構造である。
なお、後軸4は軟質樹脂であるポリプロピレンで成形され、キャップ8は硬質樹脂であるポリカーボネートで成形されている。また、後軸4及びキャップ8は共に、透明な樹脂で成形されており内部が視認できる。
【0024】
図2は、キャップを軸体の前方に装着した状態を示す縦断面図で、一部を側面図で示した図である。
図2に示すように、前軸3には、キャップ8を装着して、ボールペンチップ5bの保護ができるようにしてある。キャップ8は、開口端8a側の内周面に円環状の凸部8bを設けてあり、円環状の凸部8bが、前軸3の外周面に形成した突起部3eを乗り越えることでキャップ8が軸体2に係止される。
【0025】
キャップ8は、キャップ本体81と軸心に沿った方向へ移動可能で且つキャップ8の外方より操作可能な操作部82aを設けた当接体82とを有しており、当接体82は、本体821と、キャップ本体81の内周面を前後方向に摺動する摺動体822とを備え、摺動体822に対し本体821が回動可能に連結されている。
本実施形態のキャップ8は、キャップ本体81の天面811に雌螺子部811a(螺旋状の溝部)を有し、当接体82の側面821に前記雌螺子部811aと螺合する雄螺子部821a(螺旋状の突部)を有し、当接体82の操作部82aを回動操作することにより、当接体82が前後動する構造である。
【0026】
また、図2が示すキャップ8の状態は、図1の状態のキャップ8の操作部82aを回動操作させ、摺動体822がキャップ本体81の天面811に当接するまで移動した状態であり、その状態でキャップ8を前軸3に装着することで、前述の通り、円環状の凸部8bが、前軸3の外周面に形成した突起部3eを乗り越えることでキャップ8が軸体2に係止され、同時に、ボールペンチップ5bが、スチレン系熱可塑性エラストマーで成形された摺動体822に当接して、ボールペンチップ5bの乾燥が防止されるようにしてある。
【0027】
本実施形態では、当接体82の本体821における、操作部82aの反対側に位置する端部には外鍔部82bが設けられ、当該外鍔部82bが、摺動体822に設けられた凹部822aに挿着されると共に、凹部822aに設けられた内鍔部822bに当接されることで抜け止め状態になっている。また、ポリカーボネートで成形されたキャップ本体81の内径に対し、スチレン系熱可塑性エラストマーで成形された摺動体822の外径が若干大きく形成されており、摺動体822の外周面をキャップ本体81の内周面に当接させて、摺動体822を僅かに径方向に圧縮変形させるようにして、密着して気密がとれるようにしてある。
なお、操作部82aを回動操作して当接体82を前後動させる際、当接体82の本体821が回動しても、操作部82aと共に回動する本体821の外鍔部82bが摺動体822の凹部822aに対して空回りすることにより、摺動体822の外周面とキャップ本体81との摩擦抵抗の影響が少なくなり、キャップ本体81に対する摺動体822の前後動がし易くなるようにしてある。
操作部82aは、雄螺子部821aの谷径より大径に形成されており、操作部82aを回動して当接体82を前進させた際には、図3に示すように操作部82aがキャップ本体81の天面811に当接することで、当接体82の前進が規制されるようになっている。操作部82aの外面には縦溝が設けられ、指で回動させ易くなっている。
【0028】
インキ6は、まず、酸化チタン分散体20.0 質量部、溶剤(エチレングリコール)1.0質量部、水40.0質量部、分散剤(界面活性剤)1.0質量部を採取し、分散機を使用し、充分に分散した後、遠心分離を行い、粗大分を除去して酸化チタン分散体を得る。その後、作製した酸化チタン分散体62.0質量部、水24.4質量部、樹脂エマルジョン(アクリルエマルジョン)10 .0質量部、リン酸エステル系界面活性剤1.0質量部、pH調整剤(トリエタノールアミン)1.0質量部、防錆剤(ベンゾトリアゾール)1.0質量部、防カビ剤0.2質量部をマグネットホットスターラーで加温撹拌等してベースインキを作成した。その後、上記作製したベースインキを加温しながら、剪断減粘性付与剤(サクシノグリカン)0.4質量部を投入してホモジナイザー攪拌機を用いて均一な状態となるまで充分に混合攪拌した後、濾紙を用い濾過を行って、白色のインキを得た。
【0029】
次に、図3から図8を用いて、キャップ8を軸体2の後方に装着して、インキ6を加圧する状態について説明する。
図3は、本実施形態のボールペンで、キャップを軸体の後方に装着した第一の状態を示す概念図であり、加圧が開始される状態である。図4は、図3の状態からキャップを前進させた概念図であり、インキが加圧された状態である。
図5は、本実施形態のボールペンで、キャップを軸体の後方に装着した第二の状態を示す概念図であり、加圧が開始される状態である。図6は、図5の状態からキャップを前進させた概念図であり、インキが加圧された状態である。
図7は、本実施形態のボールペンで、キャップを軸体の後方に装着した第三の状態を示す概念図であり、加圧が開始される状態である。図8は、図7の状態からキャップを前進させた概念図であり、インキが加圧された状態である。
【0030】
図3が示す状態のキャップ8は、図1に示すキャップ8の状態であり、操作部82aがキャップ本体81の天面811に当接して、当接体82のキャップ本体81の内方への進入が規制された状態であり、また、キャップ8を軸体2に装着させていき、キャップ8の円環状の凸部8bが後軸4の孔部4dを越えた状態であり、キャップ本体81と軸体2との間に、孔部4dを介して第二空間部K2と連通する気体収容部K3が形成され、第一空間部K1と第二空間部K2と気体収容部K3とで密閉空間MKが構成された状態である。この図3の状態では、摺動体822と後軸4の後端との間には、5mmの隙間である距離L1が生じている。
【0031】
図3に示す状態から図4に示す状態、つまり、軸体2の後端2aがキャップ8の摺動体822へ当接する状態まで該キャップ8を該軸体2に装着させると、キャップ8は摺動体822が軸体2の後端2aに当接するまで5mmの距離L1を移動して、キャップ8の円環状の凸部8bが軸体2の外周面を摺接しながら前進することで、第一空間部K1と第二空間部K2と気体収容部K3とで構成された密閉空間MKの内部の空気の気圧が1230hPaに圧縮され、インキタンク5a内のインキ6が加圧されるようにしてある。
【0032】
また、インキ6への加圧力は、インキタンク5aに収容されているインキ6の量により変化し、インキ6が多くインキタンク5a内の第一空間部K1が小さい場合には加圧力が大きく、インキ6が少なくインキタンク5a内の第一空間部K1が大きい場合には加圧力が小さくなる傾向がある。
しかしながら、本実施形態では、前述の通り、キャップ8を軸体2に装着する際に圧縮される空気が、第一空間部K1と第二空間部K2と気体収容部K3とで構成された密閉空間MKの内部の空気全体であることから、インキ6の残量により容積が変化する第一空間部K1の影響を受け難い構造である。
具体的には、インキタンク5a内のインキ6が未使用である図3の状態では、第一空間部K1の容積が100mmであり、図示しないがインキ6が僅かとなった状態では、第一空間部K1の容積が1400mmとなり、容積変化の比率が大きい。これに対し、インキ6が未使用である図3の状態では、密閉空間MKの容積は2100mmであり、図示しないがインキ6が僅かとなった状態では、密閉空間MKの容積は3400mmとなり、容積変化の比率は小さい。
実際に、大気圧を1000hPaとした場合、図3に示す本実施形態のボールペン1は、インキタンク5a内のインキ6が未使用な状態で、キャップ8を図4に示す位置まで軸体2の後方に装着した際には、密閉空間MK内の空気の気圧を1230hPaに加圧することができ、インキタンク5a内のインキ6が僅かな状態でキャップ8を図4に示す位置まで軸体2の後方に装着した際には、密閉空間MK内の空気の気圧を1130hPaに加圧することができ、加圧量の変化が少ない。
【0033】
図3の状態から図4の状態までキャップ8を前進させることにより、キャップ8の円環状の凸部8bが後軸4の外周面を摺接しながら前進して、第一空間部K1と第二空間部K2と気体収容部K3とで構成された密閉空間MKの内部の空気が圧縮され、インキ6が加圧される。本実施形態の後軸4は、後方が後端に向かって縮径する緩やかな円弧状面を有する先窄み形状に形成してある。これによりキャップ8を軸体2の後方に装着する際に、キャップ8の円環状の凸部8bが軸体2の外周面に最初に当接する位置、つまり図3の位置までは、容易にキャップ8を装着することができる。
また、前述の通り、後軸4が軟らかい樹脂で形成されていることから、軸体4の後方にキャップ8を装着させる際に、キャップ8の円環状の凸部8bが、後軸4の外周面を圧接して内方へ変形させながら前進するので、密閉空間MKの気密性が高くなると共に、キャップ8が前進して圧縮された密閉空間MKの空気の反発力を強く受ける場合にも、キャップ8と軸体2との接触抵抗が増加していることから、該キャップ8が軸体2から脱落することなく、空気の圧縮を行える。
具体的には、キャップ8の円環状の凸部8bの内径を10mmとしてあり、図3において円環状の凸部8bが当接した後軸4の外径は10.2mmとしてあり、密閉空間MKの空気が圧縮された図4において円環状の凸部8bが当接した後軸4の外径は10.4mmとしてあり、図3の位置から図4の位置まで、円環状の凸部8bが前進する際の先窄み形状の後軸4の外径差が0.2mmとなるようにしてある。
尚、キャップ8の内周面に設けた円環状の凸部8bは、圧縮が開始された後に、後軸4の外周面に密着して効率よく気密をとることができ、円環状の凸部8bは断面半円弧状に形成してあり、後軸4の外周面に対して最内径の箇所でのみ当接することから、円環状の凸部8bが孔部4dを乗り越え加圧が開始される時あるいは加圧が解放される時の状況変化が顕著となる。
【0034】
図5が示す状態のキャップ8は、操作部82aを回動操作して、当接体82がキャップ本体81の内方に進入する長さを短くしており、また、キャップ8を軸体2に装着させていき、キャップ8の円環状の凸部8bが後軸4の孔部4dを越えた状態であり、キャップ本体81と軸体2との間に、孔部4dを介して第二空間部K2と連通する気体収容部K3が形成され、第一空間部K1と第二空間部K2と気体収容部K3とで密閉空間MKが構成された状態である。この図5の状態では、摺動体822と後軸4の後端との間には、前記距離L1の二倍の10mmの隙間である距離L2が生じている。
【0035】
図5に示す状態から図6に示す状態まで、つまり、軸体2の後端2aがキャップ8の摺動体822へ当接する状態まで該キャップ8を該軸体2に装着させると、キャップ8は摺動体822が軸体2の後端2aに当接するまで10mmの距離L2を移動して、キャップ8の円環状の凸部8bが軸体2の外周面を摺接しながら前進することで、第一空間部K1と第二空間部K2と気体収容部K3とで構成された密閉空間MKの内部の空気の気圧が1590hPaに圧縮され、インキタンク5a内のインキ6が加圧されるようにしてある。
また、前述の通り図5において円環状の凸部8bが当接した後軸4の外径は10.2mmとしてあり、密閉空間MKの空気が圧縮された図6において円環状の凸部8bが当接した後軸4の外径は10.5mmとしてあり、図5の位置から図6の位置まで、円環状の凸部8bが前進する際の先窄み形状の後軸4の外径差が0.3mmとなるようにしてある。
【0036】
図7が示す状態のキャップ8は、操作部82aをさらに回動操作して、当接体82がキャップ本体81の内方に進入する長さをさらに短くしており、また、キャップ8を軸体2に装着させていき、キャップ8の円環状の凸部8bが後軸4の孔部4dを越えた状態であり、キャップ本体81と軸体2との間に、孔部4dを介して第二空間部K2と連通する気体収容部K3が形成され、第一空間部K1と第二空間部K2と気体収容部K3とで密閉空間MKが構成された状態である。この図7の状態では、摺動体822と後軸4の後端との間には、前記距離L1の三倍の15mmの隙間である距離L3が生じている。
【0037】
図7に示す状態から図8に示す状態まで、つまり、軸体2の後端2aがキャップ8の摺動体822へ当接する状態まで該キャップ8を該軸体2に装着させると、キャップ8は摺動体822が軸体2の後端2aに当接するまで15mmの距離L3を移動して、キャップ8の円環状の凸部8bが軸体2の外周面を摺接しながら前進することで、第一空間部K1と第二空間部K2と気体収容部K3とで構成された密閉空間MKの内部の空気の気圧が2280hPaに圧縮され、インキタンク5a内のインキ6が加圧されるようにしてある。
また、前述の通り図7において円環状の凸部8bが当接した後軸4の外径は10.2mmとしてあり、密閉空間MKの空気が圧縮された図8において円環状の凸部8bが当接した後軸4の外径は10.6mmとしてあり、図7の位置から図8の位置まで、円環状の凸部8bが前進する際の先窄み形状の後軸4の外径差が0.4mmとなるようにしてある。
【0038】
前述の通り、図4に示す状態では、密閉空間MKの内部の空気の気圧が1230hPaに圧縮され、図6に示す状態では、密閉空間MKの内部の空気の気圧が1590hPaに圧縮され、図8に示す状態では、密閉空間MKの内部の空気の気圧が2280hPaに圧縮され、インキタンク5a内のインキ6は、図4の状態<図5の状態<図6の状態の順で、加圧力が大きくなる。
【0039】
このように、本実施形態のボールペン1は、キャップ8の外方より操作可能な操作部82aを回動操作することで、キャップ8を軸体2の後方に装着する際、軸体2の後端2aがキャップ8の摺動体822へ当接するまでの距離を変化させ、その結果、密閉空間内MKの空気が圧縮される量が変化して、インキタンク5a内のインキ6への加圧力を変化させることができる構造であり、予め操作部82aにて当接体82がキャップ本体81の内方に進入する長さを設定しておくことで、使用者がキャップ8を装着する際の量を気にすることなく、設定に応じたインキ6の加圧を一定して行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0040】
1…ボールペン(液体吐出具)、
2…軸体(吐出具本体)、2a…後端、
3…前軸、3a…前端開口、3b…縮径部、3c…嵌合部、3d…圧入部、3e…突起部、
4…後軸、4a…リブ、4b…嵌合受部、4c…圧入受部、4d…孔部、
5…ボールペンレフィル、5a…インキタンク(液体収容部)、5b…ボールペンチップ(先端チップ)、5c…後端部、
6…インキ(液体)、
7…インキ追従体、
8…キャップ、8a…開口端、8b…円環状の凸部、
81…キャップ本体、811…天面、811a…雌螺子部(螺旋状の溝部)、
82…当接体、82a…操作部、82b…外鍔部、821…本体、821…側面、821a…雄螺子部(螺旋状の突部)、
822…摺動体、822a…凹部、822b…内鍔部、
K1…第一空間部、K2…第二空間部、K3…気体収容部、MK…密閉空間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8