(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】吸着材、キャニスタ及び吸着材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/20 20060101AFI20240409BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20240409BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20240409BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20240409BHJP
F02M 25/08 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
B01J20/20 B
B01J20/28 Z
B01J20/30
B01J20/34 Z
F02M25/08 311D
F02M25/08 311H
(21)【出願番号】P 2020515502
(86)(22)【出願日】2019-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2019017323
(87)【国際公開番号】W WO2019208600
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2018083363
(32)【優先日】2018-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26-46, D-70376 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】関 建司
(72)【発明者】
【氏名】濱瀬 貴幸
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-103100(JP,A)
【文献】特開2015-124645(JP,A)
【文献】特開2015-124644(JP,A)
【文献】特開2013-177889(JP,A)
【文献】特開2013-011243(JP,A)
【文献】国際公開第2007/077985(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28;20/30-20/34
F02M 25/00-25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャニスタに充填される吸着材であって、
前記吸着材は、少なくとも、活性炭と、前記活性炭より熱容量が高い添加材料とを有して構成されており、前記吸着材には、前記活性炭に由来する100nm未満の第1細孔と、メルタブルコアに由来する1μm以上の第2細孔とが形成されており、
前記吸着材は、外径が6mmより大きく、50mm以下であり、かつ、各部の肉厚が0.2mm以上1mm以下である中空形状の成型体から構成されており、
前記吸着材の体積比熱が0.08kcal/L・℃以上であり、
前記第1細孔の容積に対する、前記第2細孔の容積の割合が、20%以上90%以下であり、
前記吸着材に含まれる前記第1細孔の細孔容積が0.3
1ml/g以上0.7ml/g未満である、吸着材。
【請求項2】
前記吸着材の熱伝導率が0.1kcal/m・h・℃以上である、請求項1に記載の吸着材。
【請求項3】
前記添加材料は、金属酸化物である、請求項1又は2に記載の吸着材。
【請求項4】
前記添加材料の質量が、前記活性炭の質量の1.0倍以上3.0倍以下である、請求項3に記載の吸着材。
【請求項5】
前記添加材料は、相変化温度35℃以下である相変化物質及び相転移温度35℃以下である相転移物質の少なくともいずれかの物質である、請求項1に記載の吸着材。
【請求項6】
前記添加材料の質量は、前記活性炭の質量の0.05倍以上0.3倍以下である、請求項5に記載の吸着材。
【請求項7】
前記吸着材を構成する成型体の骨格に対する、骨格中の前記第2細孔の割合が5vol%以上40vol%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の吸着材。
【請求項8】
前記メルタブルコアは、繊維状の物質であり、直径が1.0μm以上100μm以下であり、長さが1mm未満である、請求項1~7のいずれか1項に記載の吸着材。
【請求項9】
前記メルタブルコアは、長さが0.5mm以下のパルプ繊維である、請求項8に記載の吸着材。
【請求項10】
前記吸着材は、無機バインダを含んで構成されており、
前記メルタブルコアは、前記活性炭及び前記無機バインダの合計質量に対して、10質量%以上45質量%以下である、請求項8又は9に記載の吸着材。
【請求項11】
前記メルタブルコアは、C-N結合を有する、請求項8~10のいずれか1項に記載の吸着材。
【請求項12】
前記吸着材は、n-ブタン濃度が5vol%と50vol%との間でn-ブタン濃度の平衡吸着量の差分が35g/Lを超える、請求項1~11のいずれか1項に記載の吸着材。
【請求項13】
前記吸着材は、ASTMD5228によるBWC評価法における、BWCが6.0g/dL以上9.7g/dL未満である、請求項1~12のいずれか1項に記載の吸着材。
【請求項14】
前記吸着材は、ASTMD5228によるBWC評価法における、ブタンを吸着させ、続いてブタンを脱離させた後のブタン残存量が1.7g/dL未満である、請求項1~13のいずれか1項に記載の吸着材。
【請求項15】
前記吸着材は、ハニカム、中空ペレット及びハニカムペレットの少なくともいずれかの形状の成型体から構成されている、請求項1~14のいずれか1項に記載の吸着材。
【請求項16】
1μm以上の前記第2細孔の平均直径が、1μm以上100μm以下である、請求項1~15のいずれか1項に記載の吸着材。
【請求項17】
前記各部の肉厚の少なくとも一部が0.2mm以上0.6mm未満である、請求項1~16のいずれか1項に記載の吸着材。
【請求項18】
前記添加材料の質量が、前記活性炭の質量の0.42倍以上3.0倍以下である、請求項17に記載の吸着材。
【請求項19】
前記添加材料の質量が、前記活性炭の質量の0.42倍以上1.5倍未満である、請求項18に記載の吸着材。
【請求項20】
前記添加材料の質量が、前記活性炭の質量の0.42倍以上1.0倍以下である、請求項19に記載の吸着材。
【請求項21】
前記添加材料は、金属酸化物である、請求項17~20のいずれか1項に記載の吸着材。
【請求項22】
前記吸着材は、無機バインダを含んで構成されており、
前記メルタブルコアは、前記活性炭及び前記無機バインダの合計質量に対して、5質量%以上45質量%以下である、請求項17~21のいずれか1項に記載の吸着材。
【請求項23】
前記吸着材は、ASTMD5228によるBWC評価法における、BWCが6.0g/dL以上11.0g/dL未満である、請求項17~22のいずれか1項に記載の吸着材。
【請求項24】
内燃機関の燃料タンクの上部気室に連通するタンクポートと、内燃機関の吸気通路に連通するパージポートと、大気に開放される大気ポートと、前記タンクポートから前記大気ポートへと蒸発燃料が流れる吸着材室を有する蒸発燃料処理用のキャニスタにおいて、
前記吸着材室における前記大気ポートに隣接した大気側隣接領域に、請求項1~23のいずれか1項に記載の吸着材が配設されているキャニスタ。
【請求項25】
前記吸着材室における前記タンクポートに隣接したタンク側隣接領域に、ASTMD5228によるBWC評価法における、BWCが15.0g/dL以上の活性炭と、相変化温度が36℃以上である相変化物質及び相転移温度が36℃以上である相転移物質の少なくともいずれかの添加材料とを含む吸着材が配設されている、請求項24に記載のキャニスタ。
【請求項26】
請求項1~23のいずれか1項に記載の吸着材の製造方法であって、
少なくとも、前記活性炭と、前記活性炭より熱容量が高い添加材料と、メルタブルコアとを混合し、その後混練し、
前記混練された混練材料を前記成型体に成型し、
前記成型体に乾燥処理及び焼成処理の少なくともいずれかの処理を施す、
吸着材の製造方法。
【請求項27】
前記添加材料は、金属酸化物である、請求項26に記載の吸着材の製造方法。
【請求項28】
前記各部の肉厚が0.2mm以上1mm以下であり、
前記添加材料の質量が、前記活性炭の質量の1.0倍以上3.0倍以下である、請求項27に記載の吸着材の製造方法。
【請求項29】
前記各部の肉厚の少なくとも一部が0.2mm以上0.6mm未満であり、
前記添加材料の質量が、前記活性炭の質量の0.42倍以上3.0倍以下である、請求項27に記載の吸着材の製造方法。
【請求項30】
前記添加材料は、相変化温度35℃以下である相変化物質及び相転移温度35℃以下である相転移物質の少なくともいずれかの物質である、請求項26に記載の吸着材の製造方法。
【請求項31】
前記添加材料の質量は、前記活性炭の質量の0.05倍以上0.3倍以下である、請求項30に記載の吸着材の製造方法。
【請求項32】
前記混練材料は、無機バインダを含んで構成されており、
前記メルタブルコアは、前記活性炭及び前記無機バインダの合計質量に対して、10質量%以上45質量%以下である、請求項26~31のいずれか1項に記載の吸着材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料タンクから発生する蒸発燃料が大気中へ放散されることを防止する蒸発燃料処理用のキャニスタに用いられる吸着材、キャニスタ及び吸着材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両停止中等に燃料タンク内に貯留されたガソリン燃料が揮発して生じた蒸発燃料を活性炭等からなる吸着材に吸着捕捉し、蒸発燃料が大気中に放散されることを防止する蒸発燃料処理用のキャニスタがある。
【0003】
活性炭等の吸着材は、温度が低いほど吸着容量が多くなり、温度が高いほど吸着容量が低下する特性を有する。したがって、蒸発燃料の吸着時には吸着材の温度は低く、パージ時には吸着材の温度が高いことが望ましい。一方、蒸発燃料は、吸着材に吸着される際に凝縮熱に相当する熱を放出し、吸着材から脱離(パージ)する際に蒸発熱に相当する熱を奪う。すなわち、蒸発燃料の吸着材への吸着は発熱反応であり、吸着材からの脱離は吸熱反応である。そうすると蒸発燃料の吸着・脱離による発熱・吸熱は、吸着材の望ましい温度状態とは逆の方向、すなわち吸着材の吸着・脱離性能を阻害する方向へ作用する。よってキャニスタの性能を向上するために、蒸発燃料の吸着・脱離に伴う発熱・吸熱による、吸着材の温度変化を抑制することが望まれる。
【0004】
特許文献1には、吸着材である活性炭が充填された容器に、活性炭よりも熱容量及び熱伝導性の良好な蓄熱材を分散させることで、温度抑制効果を有する吸着材が開示されている。蓄熱材としては、金属粒子及び金属酸化物粒子が挙げられている。このような蓄熱材が分散された吸着材では、蒸発燃料の吸着時における活性炭の発熱が蓄熱材に移されるので、活性炭の温度上昇を抑制できる。また、吸着燃料の脱離時には、活性炭が蓄熱材の保有熱を奪うことにより、活性炭の温度低下が抑制される。
【0005】
特許文献1では、例えば金属粒子としてアルミニウム粒子を用いた場合に、活性炭に対するアルミニウム粒子の付着率を10~15vol%として吸着性能を最大に向上させている。また、特許文献1では、例えば金属酸化物粒子としてアルミナ粒子を用いた場合に、活性炭に対するアルミナ粒子の付着率を15~20vol%として吸着性能を最大に向上させている。
【0006】
また、特許文献2には、外径が4~6mmの円柱状であり、放射状壁の各部の肉厚が0.6~3mmの吸着材が開示されている。この吸着材では、微視的細孔(直径が2nm以上100nm未満の細孔)に対する、巨視的細孔(直径が100nm以上100000nm未満の細孔)の容積の割合が、65~150パーセントである。特許文献2のキャニスタは、中空であるため中実のペレットよりも圧力損失が低く、パージ性能が良好である。また、巨視的細孔の割合が調整されているため、吸着材の吸着性能を確保しつつ、硬度を高めることができる。
【0007】
また、特許文献3には、特許文献2と同様の外径が4~6mmの円柱状であり、各部の肉厚が0.6mm~1.5mmの中空形状の吸着材が開示されている。特許文献3の吸着材では、ブタンの濃度が5vol%とブタン濃度が50vol%との間のn-ブタンの平衡吸着量の差分が35g/Lを超えるように調整されている。よって、蒸発燃料中のブタンの吸着性能を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3337398号公報
【文献】特許第5867800号公報
【文献】特許第6203043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1の吸着材では、容器内に活性炭とともに金属酸化物粒子等の蓄熱材が封入されることで温度抑制効果がある程度あるものの、金属酸化物粒子等の含有量が少ないため、吸着性能を十分に確保できない。さらに、吸着材である活性炭とともに金属酸化物粒子等が容器に封入されるため、金属酸化物粒子等が封入される分に応じて活性炭の量が少なくなってしまう。よって、特許文献1の吸着材では、蒸発燃料の吸着性能が低下してしまう。
また、特許文献2の吸着材では、外径が4~6mmのサイズと比較的に小さいため、強度を確保するために、活性炭の骨格の部分が多くなり、また、そのためにパージ性能が低下することによりDBL(Diurnal Breathing Loss、ダイアーナルブリージングロス)性能が十分ではない。
また、特許文献3の吸着材では、n-ブタンの平衡吸着量の差分を調整して吸着性能を高めることができるものの、パージ性能が低くパージ後のブタン残存量が多く、DBL性能が十分ではない。
【0010】
そこで、本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、吸着性能及びパージ性能を向上可能な吸着材、キャニスタ及び吸着材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[構成]
本発明に係る吸着材の特徴構成は、
キャニスタに充填される吸着材であって、
前記吸着材は、少なくとも、活性炭と、前記活性炭より熱容量が高い添加材料とを有して構成されており、前記吸着材には、前記活性炭に由来する100nm未満の第1細孔と、メルタブルコアに由来する1μm以上の第2細孔とが形成されており、
前記吸着材は、外径が6mmより大きく、50mm以下であり、かつ、各部の肉厚が0.2mm以上1mm以下である中空形状の成型体から構成されており、
前記吸着材の体積比熱が0.08kcal/L・℃以上であり、
前記第1細孔の容積に対する、前記第2細孔の容積の割合が、10%以上200%以下である点にある。
【0012】
上記特徴構成では、吸着材は、100nm未満の第1細孔と、1μm以上の第2細孔とを有している。よって、100nm未満の第1細孔によって、蒸発燃料中の例えばブタン等を分子レベルで捕捉することができ、吸着性能を高めることができる。また、1μm以上の第2細孔は、蒸発燃料が通流する通路となるため、パージ性能を高めることができる。
【0013】
また、第1細孔の容積に対する、第2細孔の容積の割合が、10%以上200%以下であるため、吸着性能及びパージ性能を向上できる。これにより、DBL(Diurnal Breathing Loss、ダイアーナルブリージングロス)性能が向上する。なお、前記割合が10%未満の場合は、蒸発燃料の脱吸着速度が遅く、パージ性能の向上が抑制される。また、前記割合が200%を超える場合は、蒸発燃料の吸着に寄与する100nm未満の第1細孔の割合が少なくなり、吸着性能が低下する。
【0014】
また、吸着材には、活性炭に加えて、活性炭よりも熱容量が高い添加材料が含まれており、吸着材が上述の体積比熱等を有する。よって、蒸発燃料の吸着時における活性炭の発熱が添加材料に移されるので、活性炭の温度上昇が抑制され、上記吸着材の吸着性能が向上する。一方、吸着燃料のパージ時には、活性炭が添加材料の保有熱を奪うことにより、活性炭の温度低下が抑制され、上記吸着材のパージ性能が向上する。
【0015】
さらに、吸着材は、外径が6mmより大きく、かつ所定の肉厚の中空形状であるため、この骨格中に第1細孔の容積及び第2細孔の容積を大きく確保できる。よって、吸着性能及びパージ性能が向上し、DBL性能が向上する。一方で、吸着材の外径が50mm以下であるが、上述した100nm未満の第1細孔及び1μm以上の第2細孔の存在、第1細孔の容積に対する、第2細孔の容積の割合、吸着材への添加材料の添加等の構成を吸着材が備えている。よって、吸着材の小型化を図りつつ、吸着性能及びパージ性能を向上でき、DBL性能を向上できる。また、吸着材の硬度が向上する。
【0016】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、前記吸着材の熱伝導率が0.1kcal/m・h・℃以上である点にある。
【0017】
上記特徴構成によれば、吸着材が上述の熱伝導率を有する。よって、蒸発燃料の吸着時における活性炭の発熱が添加材料に移される機能をさらに向上できるので、活性炭の温度上昇が抑制され、上記吸着材の吸着性能が向上する。一方、吸着燃料のパージ時には、活性炭が添加材料の保有熱を奪う機能をさらに向上できることにより、活性炭の温度低下が抑制され、上記吸着材のパージ性能が向上する。
【0018】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、前記添加材料は、金属酸化物である点にある。
【0019】
金属酸化物は、一般的に活性炭に比べて体積比熱及び熱伝導率が大きい。上記特徴構成によれば、このような金属酸化物を添加材料として吸着材に添加することで、吸着材の温度上昇及び温度低下が抑制され、吸着性能及びパージ性能を向上できる。
【0020】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、前記添加材料の質量が、前記活性炭の質量の1.0倍以上3.0倍以下である点にある。
【0021】
上記特徴構成によれば、活性炭よりも熱容量及び熱伝導率が高い添加材料、例えば、金属酸化物の質量が、活性炭の質量の1.0倍~3.0倍である。これにより、吸着材の温度上昇及び温度低下が抑制され、吸着性能及びパージ性能を向上できる。
なお、添加材料の割合を大きくすると吸着材中の活性炭の割合が小さくなり、100nm未満の第1細孔の割合が小さくなる。よって、吸着性能が低下する可能性がある。前述のように第1細孔の容積に対する第2細孔の容積の割合を10%以上200%以下と調整し、また吸着材の外径を6mmより大きく、50mm以下で中空形状とすることで、吸着性能の低下を抑制できる。
【0022】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、前記添加材料は、相変化温度35℃以下である相変化物質及び相転移温度35℃以下である相転移物質の少なくともいずれかの物質である点にある。
【0023】
上記特徴構成では、吸着材には、活性炭に加えて、活性炭よりも熱容量が高い添加材料(相変化温度35℃以下である相変化物質及び相転移温度35℃以下である相転移物質の少なくともいずれかの物質)が含まれている。よって、蒸発燃料の吸着時における活性炭の発熱が添加材料に移されるので、活性炭の温度上昇が抑制され、上記吸着材の吸着性能が向上する。一方、吸着燃料のパージ時には、活性炭が添加材料の保有熱を奪うことにより、活性炭の温度低下が抑制され、上記吸着材のパージ性能が向上する。
【0024】
また、添加材料として、相変化温度35℃以下である相変化物質及び相転移温度35℃以下である相転移物質の少なくともいずれかの物質を用いることができる。ここで、活性炭から蒸発燃料が脱離する際は、熱が奪われるから、活性炭の温度が低下して活性炭のパージ性能が低下してしまう。例えば、活性炭の温度が10℃を下回ると、パージ性能が顕著に低下してしまう。上記の特徴構成によれば、吸着材に、相変化温度が35℃以下の相変化物質及び相転移温度が35℃以下の相転移物質の少なくともいずれかの添加材料が含まれているため、吸着材に含まれる活性炭の温度の過度な低下を抑制して、パージ処理が適切に行われる。
【0025】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、
前記添加材料の質量は、前記活性炭の質量の0.05倍以上0.3倍以下である点にある。
相変化物質及び相転移物質等の添加割合を、活性炭の質量の0.05倍以上0.3倍以下とすることで、活性炭の温度を適正温度に調整可能である。例えば、添加割合が0.05倍未満の場合は、相変化物質及び相転移物質等によって、活性炭の温度の過度な低下を抑制する効果が十分でない。一方、添加割合が0.3倍を超える場合は、相変化物質及び相転移物質等の添加によって、吸着材における活性炭の割合が小さくなり吸着性能が低下する。
【0026】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、
前記吸着材に含まれる前記第1細孔の細孔容積が0.55ml/g未満であり、かつ、前記第1細孔の容積に対する、前記第2細孔の容積の割合が、20%以上90%以下である点にある。
【0027】
上記特徴構成によれば、100nm未満の第1細孔の細孔容積が0.55ml/g未満であるので、第1細孔における蒸発燃料中のブタン等の分子の吸着性能が高くなり過ぎず、パージ性能が向上する。なお、第1細孔の細孔容積が0.55ml/g以上である場合、ASTMD5228によるBWC評価法によるBWC(Butane Working Capacity(ブタンワーキングキャパシティ))が大きくなり、パージ性能が低下する。結果的には、DBL性能が悪くなる。
また、前述の通り第1細孔の細孔容積が0.55ml/g未満でありパージ性能が向上するため、第1細孔の容積に対する第2細孔の容積の割合を20%以上90%以下と、比較的に小さく抑えることができる。
【0028】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、
前記吸着材を構成する成型体の骨格に対する、骨格中の前記第2細孔の割合が5vol%以上40vol%以下である点にある。
【0029】
上記特徴構成によれば、成型体の骨格中の第2細孔の割合を前述のように調整することで、吸脱着速度を向上しつつ、パージ性能を向上できる。なお、骨格中の第2細孔の割合が5vol%未満の場合は、吸着材の骨格中の1μm以上の第2細孔の割合が少なすぎるため、蒸発燃料の通流が阻害され、十分な吸脱着速度及びパージ性能を達成することができない。一方、骨格中の第2細孔の割合が40vol%を超える場合は、吸着材の骨格中の1μm以上の第2細孔の割合が多くなり、強度及び吸着性能が低下する。
【0030】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、前記メルタブルコアは、繊維状の物質であり、直径が1.0μm以上100μm以下であり、長さが1mm未満である点にある。
【0031】
上記特徴構成によれば、所定の直径及び長さのメルタブルコアにより、当該メルタブルコアに由来する第2細孔が吸着材に形成される。この第2細孔は比較的に大きな細孔であり、所定の長さも有するため、第2細孔を通して蒸発燃料の通流が良くなり、吸着性能及びパージ性能を向上できる。
なお、メルタブルコアの直径が1.0μm未満の場合には、蒸発燃料の通流が悪く、脱吸着速度が遅くなり、パージ性能が低下する。一方、メルタブルコアの直径が100μmを超える場合、及び、長さが1mm以上である場合の少なくともいずれかの場合、吸着材の骨格中に存在する第2細孔の容積が大きくなり、吸着材の硬度が低下する。
【0032】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、前記メルタブルコアは、長さが0.5mm以下のパルプ繊維である点にある。
【0033】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、
前記吸着材は、無機バインダを含んで構成されており、
前記メルタブルコアは、前記活性炭及び前記無機バインダの合計質量に対して、10質量%以上45質量%以下である点にある。
【0034】
上記特徴構成によれば、活性炭及び無機バインダの合計質量中のメルタブルコアを前述のように調整することで、吸脱着速度を向上しつつ、パージ性能を向上できる。なお、メルタブルコアの割合が前記の合計質量の10質量%未満の場合は、吸着材中の1μm以上の第2細孔の割合が少なすぎるため、蒸発燃料の通流が阻害され、十分な吸脱着速度及びパージ性能を達成することができない。一方、メルタブルコアの割合が前記の合計質量の45質量%を超える場合は、吸着材中の1μm以上の第2細孔の割合が多くなり、強度及び吸着性能が低下する。また、吸着材の硬度が低下する。
【0035】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、前記メルタブルコアは、C-N結合を有する点にある。
【0036】
上記特徴構成によれば、吸着材を形成する場合に、C-N結合を有するメルタブルコア、活性炭及び添加材料等を混練して加熱すると、メルタブルコアのC-N結合が加熱により切れ、容易に昇華する。これにより、吸着材に、C-N結合を有する繊維状のメルタブルコアに由来する第2細孔を形成できる。
【0037】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、前記吸着材は、n-ブタン濃度が5vol%と50vol%との間でn-ブタン濃度の平衡吸着量の差分が35g/Lを超える点にある。
【0038】
上記特徴構成によれば、蒸発燃料中のブタン等の分子の有効吸着量が大きいため、吸着材の吸着性能を高めることができる。また、吸着材の吸着性能が高いため、吸着材の小型化及び軽量化を図ることができる。吸着性能が高いことによるパージ性能の低下については、金属酸化物および相変化物質等が吸着材中に十分存在しているため、吸脱着時の熱による温度変化を十分に抑制できる。
【0039】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、
前記吸着材は、ASTMD5228によるBWC評価法における、BWCが6.0g/dL以上9.7g/dL未満である点にある。
【0040】
上記特徴構成によれば、BWCが大きく、つまりブタンの有効吸着量が大きいため、吸着材の吸着性能を高めることができ、吸着材の小型化・軽量化を図ることができる。
【0041】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、
前記吸着材は、ASTMD5228によるBWC評価法における、ブタンを吸着させ、続いてブタンを脱離させた後のブタン残存量が1.7g/dL未満である点にある。
【0042】
上記特徴構成の吸着材は、ブタン残存量が1.7g/dL未満であり、パージ性能に優れている。
【0043】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、
前記吸着材は、ハニカム、中空ペレット及びハニカムペレットの少なくともいずれかの形状の成型体から構成されている点にある。
【0044】
上記特徴構成の吸着材は、ハニカム、中空ペレット及びハニカムペレットの少なくともいずれかの形状であり、中空形状である。よって、中空の領域において蒸発燃料を流れ良く通流させて、活性炭の第1細孔と蒸発燃料及びパージ時の空気との接触時間及び接触面積等を高めて吸着性能を向上できる。
【0045】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、1μm以上の前記第2細孔の平均直径が、1μm以上100μm以下である点にある。
【0046】
上記特徴構成によれば、第2細孔の平均直径が1μm以上100μm以下であるので、吸着材の硬度の低下を抑制できる。なお、第2細孔の平均直径が100μmを超えると、吸着材における第2細孔が大きくなりすぎて硬度を保つことができず、吸着材としての実用性に欠ける。
【0047】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、前記各部の肉厚の少なくとも一部が0.2mm以上0.6mm未満である点にある。
【0048】
上記特徴構成によれば、中空形状の吸着材の各部の肉厚の少なくとも一部が0.2mm以上0.6mm未満である。このように肉厚を設定することで、中空形状を形成する各部により構成される空間を比較的に大きく確保できるので空間において蒸発燃料の通流が良くなる。空間内での蒸発燃料の通流がよくなることで、蒸発燃料と第1及び第2細孔との接触を促進できる。これにより、100nm未満の第1細孔によって、蒸発燃料中の例えばブタン等を分子レベルで捕捉することができ、吸着性能を高めることができる。また、肉厚が薄くなることおよび1μm以上の第2細孔によって、空気によるパージ性能を高めることができる。よって、吸着性能及びパージ性能を向上でき、DBL性能を向上できる。
【0049】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、前記添加材料の質量が、前記活性炭の質量の0.42倍以上3.0倍以下である点にある。
【0050】
添加材料は、蒸発燃料の吸着時における活性炭の発熱を抑制して吸着材の吸着性能を向上させるとともに、吸着燃料のパージ時における活性炭の温度低下を抑制して吸着材のパージ性能を向上させる。上記特徴構成によれば、中空形状の吸着材の各部の肉厚の少なくとも一部が0.2mm以上0.6mm未満である場合、活性炭への添加材料の添加割合の下限値を小さくしても吸着性能及びパージ性能を向上でき、DBL性能を向上できる。
【0051】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、前記添加材料の質量が、前記活性炭の質量の0.42倍以上1.5倍未満である点にある。
【0052】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、前記添加材料の質量が、前記活性炭の質量の0.42倍以上1.0倍以下である点にある。
【0053】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、前記添加材料は金属酸化物である点にある。
【0054】
金属酸化物は、一般的に活性炭に比べて体積比熱及び熱伝導率が大きい。上記特徴構成によれば、このような金属酸化物を添加材料として吸着材に添加することで、吸着材の温度上昇及び温度低下が抑制され、吸着性能及びパージ性能を向上できる。
【0055】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、前記吸着材に含まれる前記第1細孔の細孔容積が0.8ml/g未満であり、かつ、前記第1細孔の容積に対する、前記第2細孔の容積の割合が、10%以上90%以下である点にある。
【0056】
吸着材の各部の肉厚の少なくとも一部が0.2mm以上0.6mm未満である場合、上記特徴構成のように100nm未満の第1細孔の細孔容積の上限値を0.8ml/g未満とすることができる。前述の通り吸着材の各部により構成される空間において蒸発燃料が通流することで、吸着材に形成された第1及び第2細孔による蒸発燃料中の例えばブタン等の吸着性能及びパージ性能を向上できる。そして、吸着材の肉厚の少なくとも一部を0.2mm以上0.6mm未満の範囲とすることで、第1細孔の細孔容積の上限値を0.8ml/g未満と大きくしても、第1細孔における蒸発燃料中のブタン等の分子の吸着性能が高くても、肉厚が薄いことにより、パージ性能及びDBL性能を向上できる。これは、吸着材の肉厚の少なくとも一部が0.2mm以上0.6mm未満の範囲であるため、肉厚が薄いことにより、空気によるバージ性能が向上できるためであると考えられる。
【0057】
なお、吸着材の各部の肉厚の少なくとも一部が0.2mm以上0.6mm未満において、第1細孔の細孔容積が0.8ml/g以上である場合、ASTMD5228によるBWC評価法によるBWC(Butane Working Capacity(ブタンワーキングキャパシティ))が大きくなり過ぎて、パージ性能が低下する。結果的には、DBL性能が悪くなる。
また、前述の通り第1細孔の細孔容積が0.8ml/g未満においてパージ性能が向上するため、第1細孔の容積に対する第2細孔の容積の割合の下限値を10%以上として、比較的に小さく抑えることができる。
【0058】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、前記吸着材は、無機バインダを含んで構成されており、
前記メルタブルコアは、前記活性炭及び前記無機バインダの合計質量に対して、5質量%以上45質量%以下である点にある。
【0059】
上記特徴構成によれば、活性炭及び無機バインダの合計質量中のメルタブルコアを前述のように調整することで、吸脱着速度を向上しつつ、パージ性能を向上できる。そして、吸着材の肉厚の少なくとも一部を0.2mm以上0.6mm未満の範囲とすることで、活性炭及び無機バインダの合計質量中のメルタブルコアの割合の下限値を5質量%以上と小さくしても、吸着材の肉厚が薄いために、パージ性能及びDBL性能を向上できる。
【0060】
なお、メルタブルコアの割合が前記の合計質量の5質量%未満の場合は、吸着材中の1μm以上の第2細孔の割合が少なすぎるため、蒸発燃料および空気の通流が阻害され、十分な吸脱着速度及びパージ性能を達成することができない。一方、メルタブルコアの割合が前記の合計質量の45質量%を超える場合は、吸着材中の1μm以上の第2細孔の割合が多くなり、強度及び吸着性能が低下する。また、吸着材の硬度が低下する。
【0061】
[構成]
本発明に係る吸着材の更なる特徴構成は、前記吸着材は、ASTMD5228によるBWC評価法における、BWCが6.0g/dL以上11.0g/dL未満である点にある。
【0062】
上記特徴構成によれば、BWCが大きく、つまりブタンの有効吸着量が大きいため、吸着材の吸着性能を高めることができ、吸着材の小型化・軽量化を図ることができる。また、吸着材の肉厚の少なくとも一部を0.2mm以上0.6mm未満の範囲とすることで、BWCの上限値を11.0g/dL未満と比較的に大きくできる。
【0063】
[構成]
本発明に係るキャニスタの特徴構成は、
内燃機関の燃料タンクの上部気室に連通するタンクポートと、内燃機関の吸気通路に連通するパージポートと、大気に開放される大気ポートと、前記タンクポートから前記大気ポートへと蒸発燃料が流れる吸着材室を有する蒸発燃料処理用のキャニスタにおいて、
前記吸着材室における前記大気ポートに隣接した大気側隣接領域に、上記の吸着材が配設されている点にある。
【0064】
吸着材に含まれる活性炭からの蒸発燃料の脱離(パージ)は、パージポートからの吸気によって大気ポートから大気が流入して行われる。活性炭から蒸発燃料が脱離する際は、熱が奪われるから、活性炭の温度が低下して活性炭のパージ性能が低下してしまう。例えば、活性炭の温度が10℃を下回ると、パージ性能が顕著に低下してしまう。上記の特徴構成によれば、吸着材室における大気ポートに隣接した大気側隣接領域に、上述の吸着材が配設されているから、大気側隣接領域における吸着材に含まれる活性炭の温度の過度な低下を抑制して、パージ処理が適切に行われる。
【0065】
[構成]
本発明に係るキャニスタの更なる特徴構成は、
前記吸着材室における前記タンクポートに隣接したタンク側隣接領域に、ASTMD5228によるBWC評価法における、BWCが15.0g/dL以上の活性炭と、相変化温度が36℃以上である相変化物質及び相転移温度が36℃以上である相転移物質の少なくともいずれかの添加材料とを含む吸着材が配設されている点にある。
【0066】
上記の特徴構成によれば、吸着材室におけるタンク側隣接領域に、温度変化に応じて潜熱の吸収及び放出を生じる相変化物質等の添加材料を含む吸着材が配設されている。よって、当該吸着材により活性炭の温度変化を抑制して活性炭の性能低下を防ぐことができる。
【0067】
また、燃料タンクへの給油が行われる際には、一度に多量の蒸発燃料がキャニスタに流入する場合がある。タンクポートから流入した蒸発燃料は、タンクポート近傍から大気ポートへ向けて吸着帯を形成し、その吸着帯では吸着熱により活性炭の温度が上昇する。活性炭は35℃(約35℃)を超えると、吸着性能が顕著に低下してしまう。上記の特徴構成によれば、タンク側隣接領域は、燃料タンクへの給油の際、活性炭への蒸発燃料の吸着による発熱によって活性炭の温度が35℃以上になる領域であり、そのタンク側隣接領域に相変化温度が36℃以上である相変化物質及び相転移温度が36℃以上である相転移物質の少なくともいずれかの添加材料を含む吸着材が配設されている。よって、活性炭の温度が35℃を超える事態が抑制されるので好ましい。
さらに、活性炭を含む吸着材がタンク側隣接領域に配設されるから、吸着材室に収納される活性炭の量の減少が抑制され、吸着性能の低下を抑制できる。
【0068】
[構成]
本発明に係る上記の吸着材の製造方法の特徴構成は、
少なくとも、前記活性炭と、前記活性炭より熱容量が高い添加材料と、前記メルタブルコアとを混合し、その後混練し、
前記混練された混練材料を前記成型体に成型し、
前記成型体に乾燥処理及び焼成処理の少なくともいずれかの処理を施す点にある。
【0069】
上記特徴構成によって、上記と同様に吸着性能及びパージ性能が向上した吸着材を得ることができる。
【0070】
[構成]
本発明に係る上記の吸着材の製造方法の更なる特徴構成は、前記添加材料は、金属酸化物である点にある。
【0071】
上記特徴構成によれば、一般的に活性炭に比べて体積比熱及び熱伝導率が大きい金属酸化物を添加材料として吸着材に添加することで、吸着材の温度上昇及び温度低下が抑制され、吸着性能及びパージ性能を向上できる。
【0072】
[構成]
本発明に係る上記の吸着材の製造方法の更なる特徴構成は、前記各部の肉厚が0.2mm以上1mm以下であり、前記添加材料の質量が、前記活性炭の質量の1.0倍以上3.0倍以下である点にある。
【0073】
上記特徴構成によれば、吸着材の温度上昇及び温度低下が抑制され、吸着性能及びパージ性能を向上できる。
【0074】
[構成]
本発明に係る上記の吸着材の製造方法の更なる特徴構成は、前記各部の肉厚の少なくとも一部が0.2mm以上0.6mm未満であり、前記添加材料の質量が、前記活性炭の質量の0.42倍以上3.0倍以下である点にある。
【0075】
上記特徴構成によれば、中空形状の吸着材の各部の肉厚の少なくとも一部が0.2mm以上0.6mm未満に設定することで、中空形状を形成する各部により構成される空間を比較的に大きく確保できるので空間において蒸発燃料の通流が良くなる。空間内での蒸発燃料の通流がよくなることで、蒸発燃料と第1及び第2細孔との接触を促進できる。これにより、100nm未満の第1細孔によって、蒸発燃料中の例えばブタン等を分子レベルで捕捉することができ、吸着性能を高めることができる。また、肉厚が薄くなることおよび1μm以上の第2細孔によって、空気によるパージ性能を高めることができる。
【0076】
[構成]
本発明に係る上記の吸着材の製造方法の更なる特徴構成は、前記添加材料は、相変化温度35℃以下である相変化物質及び相転移温度35℃以下である相転移物質の少なくともいずれかの物質である点にある。
【0077】
上記特徴構成によって、上記と同様に吸着性能及びパージ性能が向上した吸着材を得ることができる。
【0078】
[構成]
本発明に係る上記の吸着材の製造方法の更なる特徴構成は、
前記添加材料の質量は、前記活性炭の質量の0.05倍以上0.3倍以下である点にある。
【0079】
上記特徴構成によれば、添加材料として、相変化物質及び相転移物質を用いることで、吸着性能及びパージ性能を向上できる。
【0080】
[構成]
本発明に係る上記の吸着材の製造方法の更なる特徴構成は、
前記混練材料は、無機バインダを含んで構成されており、
メルタブルコアは、前記活性炭及び前記無機バインダの合計質量に対して、10質量%以上45質量%以下である点にある。
【0081】
上記特徴構成によれば、活性炭及び無機バインダの合計質量中のメルタブルコアを前述のように調整することで、吸脱着速度を向上しつつ、パージ性能を向上できる。
【0082】
[構成]
本発明に係る上記の吸着材の製造方法の更なる特徴構成は、前記添加材料の質量が、前記活性炭の質量の0.42倍以上3.0倍以下である点にある。
添加材料は、蒸発燃料の吸着時における活性炭の発熱を抑制して吸着材の吸着性能を向上させるとともに、吸着燃料のパージ時における活性炭の温度低下を抑制して吸着材のパージ性能を向上させる。上記特徴構成によれば、中空形状の吸着材の各部の肉厚の少なくとも一部が0.2mm以上0.6mm未満である場合、添加材料の質量の下限値を活性炭の質量の約0.42倍と小さくすることができる。吸着材の肉厚の少なくとも一部を0.2mm以上0.6mm未満の範囲とすることで、活性炭への添加材料の添加割合の下限値を小さくしても吸着性能及びパージ性能を向上でき、DBL性能を向上できる。
【0083】
[構成]
本発明に係る上記の吸着材の製造方法の更なる特徴構成は、前記添加材料の質量が、前記活性炭の質量の0.42倍以上1.5倍未満である点にある。また、更なる特徴構成は、前記添加材料の質量が、前記活性炭の質量の0.42倍以上1.0倍以下である点にある。
【0084】
[構成]
本発明に係る上記の吸着材の製造方法の更なる特徴構成は、前記吸着材に含まれる前記第1細孔の細孔容積が0.8ml/g未満であり、かつ、前記第1細孔の容積に対する、前記第2細孔の容積の割合が、10%以上90%以下である点にある。
【0085】
吸着材の各部の肉厚の少なくとも一部が0.2mm以上0.6mm未満である場合、上記特徴構成のように100nm未満の第1細孔の細孔容積の上限値を0.8ml/g未満とすることができる。前述の通り吸着材の各部により構成される空間において蒸発燃料が通流することで、吸着材に形成された第1及び第2細孔による蒸発燃料中の例えばブタン等の吸着性能及びパージ性能を向上できる。そして、吸着材の肉厚の少なくとも一部を0.2mm以上0.6mm未満の範囲とすることで、第1細孔の細孔容積の上限値を0.8ml/g未満と大きくしても、第1細孔における蒸発燃料中のブタン等の分子の吸着性能が高くても、肉厚が薄いことにより、パージ性能及びDBL性能を向上できる。これは、吸着材の肉厚の少なくとも一部が0.2mm以上0.6mm未満の範囲であるため、肉厚が薄いことにより、空気によるバージ性能が向上できるためであると考えられる。
【0086】
なお、吸着材の各部の肉厚の少なくとも一部が0.2mm以上0.6mm未満において、第1細孔の細孔容積が0.8ml/g以上である場合、ASTMD5228によるBWC評価法によるBWC(Butane Working Capacity(ブタンワーキングキャパシティ))が大きくなり過ぎて、パージ性能が低下する。結果的には、DBL性能が悪くなる。
また、前述の通り第1細孔の細孔容積が0.8ml/g未満においてパージ性能が向上するため、第1細孔の容積に対する第2細孔の容積の割合の下限値を10%以上として、比較的に小さく抑えることができる。
【0087】
[構成]
本発明に係る上記の吸着材の製造方法の更なる特徴構成は、
前記吸着材は、無機バインダを含んで構成されており、
前記メルタブルコアは、前記活性炭及び前記無機バインダの合計質量に対して、5質量%以上45質量%以下である点にある。
活性炭及び無機バインダの合計質量中のメルタブルコアを前述のように調整することで、吸脱着速度を向上しつつ、パージ性能を向上できる。そして、吸着材の肉厚の少なくとも一部を0.2mm以上0.6mm未満の範囲とすることで、活性炭及び無機バインダの合計質量中のメルタブルコアの割合の下限値を5質量%以上と小さくしても、吸着材の肉厚が薄いために、パージ性能及びDBL性能を向上できる。
なお、メルタブルコアの割合が前記の合計質量の5質量%未満の場合は、吸着材中の1μm以上の第2細孔の割合が少なすぎるため、蒸発燃料および空気の通流が阻害され、十分な吸脱着速度及びパージ性能を達成することができない。一方、メルタブルコアの割合が前記の合計質量の45質量%を超える場合は、吸着材中の1μm以上の第2細孔の割合が多くなり、強度及び吸着性能が低下する。また、吸着材の硬度が低下する。
【0088】
[構成]
本発明に係る上記の吸着材の製造方法の更なる特徴構成は、前記吸着材は、ASTMD5228によるBWC評価法における、BWCが6.0g/dL以上11.0g/dL未満である点にある。
【0089】
上記特徴構成によれば、BWCが大きく、つまりブタンの有効吸着量が大きいため、吸着材の吸着性能を高めることができ、吸着材の小型化・軽量化を図ることができる。また、吸着材の肉厚の少なくとも一部を0.2mm以上0.6mm未満の範囲とすることで、BWCの上限値を11.0g/dL未満と比較的に大きくできる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【
図1】吸着材の形状を示す上面図及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0091】
〔実施形態〕
以下に、本実施形態に係るキャニスタ及びキャニスタに用いられる吸着材について説明する。本実施形態では、キャニスタは、自動車の燃料タンクから発生する蒸発燃料の処理に用いられる。吸着材は、このキャニスタ内に充填されている。
エンジン駆動時や車両停止時等に燃料タンクが昇温することで発生した蒸発燃料は、キャニスタ内に充填されている吸着材に吸着されることで、蒸発燃料が大気中へ放散されることが防止される。吸着材に吸着された蒸発燃料は、エンジン駆動時の吸気管負圧やエンジン駆動とは別個独立して駆動制御される吸引ポンプによって脱離(パージ)され、吸着材が再生される。
【0092】
(1)吸着材の構成
以下に、まずは吸着材の構成について
図1を用いて説明する。
図1に示すように、本実施形態の吸着材10は、外周の円筒状壁10Aと、この円筒状壁10Aの内側にハニカム形状を構成するハニカム状壁10Bとを有して、中空形状の成型体から構成されている。そして、ハニカム状壁10Bは、円筒状壁10Aの内部を上面視においてハニカム形状に区画しており、複数の空間10Cを形成している。円筒状壁10A及びハニカム状壁10Bは、長手方向(側面視における高さ方向)に延びている。これにより、ハニカム形状に区画された複数の空間10Cが長手方向に延びて形成されている。吸着材10がこのようなハニカム形状であると、中空の領域において蒸発燃料及びパージ時の空気を流れ良く通流させて、吸着材10を構成する活性炭と蒸発燃料との接触時間及び接触面積等を高めて吸着性能及びパージ性能を向上できる。
【0093】
吸着材10の外径Dは、6mmより大きく、50mm以下であり、長手方向の長さLは200mm以下である。また、円筒状壁10A及びハニカム状壁10Bの肉厚は、0.2mm以上1mm以下である。なお、外径D及び長さLが比較的に大きいハニカム形状からなる吸着材10は、単にハニカムと称され、比較的に小さいハニカム形状から成る吸着材10はハニカムペレットと称される場合がある。本実施形態では、好ましくは、円筒状壁10A及びハニカム状壁10Bの肉厚は、0.6mm以上1mm以下である。
【0094】
吸着材10は、少なくとも、細孔(後述の第1細孔)を有する活性炭と、メルタブルコアと、添加材料と、バインダとを含む原材料から形成される。
吸着材10の製造方法は、次の通りである。前述の活性炭、メルタブルコア、添加材料及びバインダを含む原材料は、例えばリボンミキサ等の混合機を用いて、水と混合及び混練される。そして、混練された混練材料は、押出成型又は金型成型等により
図1に示すハニカム形状に成型される。その後、成型された材料は、赤外線、熱風、蒸気及びマイクロ波等を用いて約200℃以下で乾燥される。次いで、ベルトキルン等により不活性ガス雰囲気下にて650℃~1000℃で30分~4時間焼成され、吸着材10が製造される。
この焼成等の過程において成型された材料が加熱されることで、吸着材10には、メルタブルコアが昇華、又は、分解及び揮発して残った細孔(後述の第2細孔)が形成される。
なお、約200℃以下での比較的に低温での乾燥は、例えば、成型時の水分を飛ばす工程、又は/及び、メルタブルコア等の昇華性物質の昇華工程であり得る。また、650℃~1000℃での比較的に高温での焼成は、例えば、成型時の水分を飛ばす工程、メルタブルコア等の昇華性物質の昇華工程、又は/及び、バインダに含まれる後述の無機バインダを固める工程であり得る。
【0095】
活性炭としては、市販されている石炭系、木質系等の活性炭を粉砕して粒子径が350μm以下(42メッシュパス)の粉末状の活性炭を用いることができる。活性炭は、多孔質に形成されており、100nm未満の大きさの細孔である第1細孔を有している。また、比表面積としては、通常500~2500m2/g、好ましくは1000~2000m2/gである。なお、選定する活性炭の比表面積は、吸着材のBWCの値及び活性炭の配合量に応じて、適宜選定することができる。
以下において、BWC(Butane WorkingCapacity(ブタンワーキングキャパシティ))とは、ASTMD5228によるBWC評価法により測定されるブタン吸着性能の評価値である。
【0096】
メルタブルコアとしては、融点が高く、分解しやすい材料が用いられる。本実施形態では繊維状のメルタブルコアが用いられ、例えば、融点が高く、分解しやすいポリエステル、ポリプロピレン、パルプ繊維、アミド繊維及びセルロース繊維等のポリマーが用いられる。
【0097】
繊維状のメルタブルコアは、直径が1.0μm以上である。好ましくは、繊維状のメルタブルコアは、直径が100μm以下であり、長さが1mm未満である。好ましくは、繊維状のメルタブルコアは、直径が50μm以下であり、長さが0.1mm以上0.5mm以下である。より好ましくは、繊維状のメルタブルコアは、直径が40μm以下であり、長さが0.3mm以下である。
【0098】
前述の通り、活性炭と、メルタブルコアと、添加材料と、バインダとを含む原材料が混練されて、焼成等を経ることでメルタブルコアが昇華し、第2細孔が形成される。このように第2細孔はメルタブルコアが昇華、又は、分解及び揮発することで形成されるため、第2細孔は繊維状のメルタブルコアと同程度の直径及び長さを有して形成される。つまり、第2細孔は、1μm以上の大きさの細孔である。また、第2細孔の好ましい細孔径及び長さは繊維状のメルタブルコアと同程度である。
【0099】
ここで、孔径は、平均細孔直径を意味し、例えば、窒素吸脱着法による吸着、脱離等温線の測定、水銀圧入法等を用いて測定される。本実施形態では、水銀圧入法を用いて測定している。その他、SEMによる粒径分析によっても孔径を求めることができる。
【0100】
このように形成されたメルタブルコアに由来する第2細孔は比較的に大きな細孔であり、所定の長さも有するため、第2細孔を通して蒸発燃料の通流が良くなり、吸着性能及びパージ性能を向上できる。
なお、メルタブルコアの直径が1.0μm未満の場合には、蒸発燃料及びパージ時の空気の通流が悪く、脱吸着速度が遅くなり、パージ性能が低下する。一方、メルタブルコアの直径が100μmを超える場合、及び、長さが1mm以上である場合の少なくともいずれかの場合、吸着材10の骨格中に存在する第2細孔の容積が大きくなり、吸着材10の硬度が低下する。
【0101】
メルタブルコアがパルプ繊維の場合、長さが0.5mm以下であるのが好ましい。
また、メルタブルコアがC-N結合を有すると好ましい。吸着材10を形成する場合に、C-N結合を有するメルタブルコア、活性炭及び添加材料等を混練して加熱すると、メルタブルコアのC-N結合が加熱により切れ、容易に分解及び揮発する。これにより、吸着材10に、C-N結合を有する繊維状のメルタブルコアに由来する第2細孔を形成できる。また、C-N結合が存在することにより、加熱時に炭化物の生成による第2細孔の閉塞が抑制できる。
【0102】
以上のような吸着材10の成型体には、活性炭が有する100nm未満の第1細孔と、メルタブルコアに由来する1μm以上の第2細孔とを含む細孔が形成されている。より詳細には、
図1に示すように吸着材10の成型体は、円筒状壁10A及びハニカム状壁10Bからなる骨格から形成されている。この円筒状壁10A及びハニカム状壁10Bが、活性炭、メルタブルコア、添加材料及びバインダを含む原材料から構成されており、活性炭に由来する100nm未満の第1細孔及びメルタブルコアに由来する1μm以上の第2細孔を有している。このような吸着材10は、100nm未満の第1細孔によって、蒸発燃料中の例えばブタン等を分子レベルで捕捉することができ、吸着性能を高めることができる。また、1μm以上の第2細孔は、蒸発燃料が通流する通路となるため、パージ性能を高めることができる。
さらに、円筒状壁10A及びハニカム状壁10Bには、バインダ、特に有機バインダが加熱により昇華することにより形成される細孔も含まれる場合がある。
【0103】
添加材料は、活性炭より熱容量が高い材料が用いられるのが好ましい。例えば、添加材料として、活性炭より体積比熱が大きい物質が用いられるのが好ましい。さらに、添加材料として、活性炭より熱伝導率が高い物質が用いられるのが好ましい。本実施形態では、活性炭より体積比熱及び熱伝導率が高い材料であり、例えば、一般的に活性炭に比べて体積比熱及び熱伝導率が大きい金属酸化物が用いられる。金属酸化物は、例えばアルミニウム、鉄等の酸化物である。金属酸化物の体積比熱が0.4kcal/L・℃以上で、熱伝導率が0.5kcal/m・h・℃以上が好ましい。また、金属酸化物の比熱は、0.25~0.4kcal/kg・℃以上が好ましい。なお、例えば、活性炭の体積比熱は0.05~0.12kcal/L・℃で、熱伝導率が0.064kcal/m・h・℃である。
【0104】
このように、吸着材10は、活性炭に加えて、活性炭よりも体積当たり熱容量及び熱伝導率が高い金属酸化物を含んでいる。このような上記の金属酸化物を含む吸着材10は、体積比熱が0.08kcal/L・℃以上であると好ましい。さらに、上記の金属酸化物を含む吸着材10は、熱伝導率が0.1kcal/m・h・℃以上であると好ましい。また、吸着材10の体積比熱は、より好ましくは0.12kcal/L・℃以上であり、さらに好ましくは0.12kcal/L・℃より大きい。また、吸着材10は、比熱が例えば0.2kcal/kg・℃以上であると好ましい。よって、蒸発燃料の吸着時における活性炭の発熱が金属酸化物に移される機能が向上し、活性炭の温度上昇が抑制され、吸着材10の吸着性能が向上する。一方、吸着燃料のパージ時には、活性炭が金属酸化物の保有熱を奪う機能が向上することにより、活性炭の温度低下が抑制され、吸着材10のパージ性能が向上する。特に、添加材料として、前述のように活性炭よりも体積比熱及び熱伝導率が大きい金属酸化物を用いることで、吸着性能及びパージ性能を向上できる。
【0105】
また、吸着材10において、添加材料としての金属酸化物の質量は、活性炭の質量の1.0倍以上3.0倍以下であるのが好ましい。つまり、原材料に、活性炭よりも熱容量及び熱伝導率が高い金属酸化物が、活性炭の質量の1.0倍~3.0倍の多さで含まれており、このような原材料により吸着材10が形成されている。これにより、吸着材10の温度上昇及び温度低下が抑制され、吸着性能及びパージ性能を向上できる。なお、金属酸化物の質量が活性炭の質量の1.0倍未満の場合には、温度の制御効果が低く、パージ性能が低下する。一方、金属酸化物の質量が活性炭の質量の3.0倍を超える場合には、活性炭の含有割合が少なくなり、吸着性能が低下する。
より好ましくは、金属酸化物の質量は、活性炭の質量の1.5倍~2.5倍である。
【0106】
なお、添加材料は体積比熱及び熱伝導率が活性炭よりも大きければよく、金属酸化物に限られず、ケイ素等の無機酸化物等であってもよい。
【0107】
バインダとしては、無機バインダ及び有機バインダが用いられる。
無機バインダとしては、粉末状のベントナイト、木節粘土、シリカゾル、アルミナゾル、白土などの粉体あるいはゾルの固形分が用いられる。このような無機バインダの添加量は、吸着材10を製造するのに用いる、活性炭、メルタブルコア、添加材料及びバインダを含む原材料の全質量に対して、10~50質量%程度である。
【0108】
また、有機バインダとしては、本実施形態では、吸着材10の製造において焼成の工程が実施されるため、通常のハニカムを成型する際に用いられる有機バインダを使用可能である。有機バインダとして、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等が使用できる。このような有機バインダの添加量は、吸着材10を製造するのに用いる原材料の全質量に対して、3~10質量%程度である。
【0109】
以上のような活性炭と、メルタブルコアと、添加材料と、バインダとを含む原材料から形成された吸着材10では、前述の通り、活性炭が有する100nm未満の第1細孔と、メルタブルコアに由来する1μm以上の第2細孔とを含む細孔が形成されている。ここで、第1細孔の容積に対する、第2細孔の容積の割合が、10%以上200%以下であるのが好ましい。前記割合が10%未満の場合は、蒸発燃料の脱吸着速度が遅く、パージ性能の向上が抑制される。また、前記割合が200%を超える場合は、蒸発燃料の吸着に寄与する100nm未満の第1細孔の割合が少なくなり、吸着性能が低下する。よって、第1細孔の容積に対する、第2細孔の容積の割合が、10%以上200%以下であることで、吸着性能及びパージ性能を向上できる。これにより、DBL(Diurnal Breathing Loss、ダイアーナルブリージングロス)性能が向上する。なお、DBL性能とは、駐車中にガソリンタンクで発生した蒸発燃料が破過した吸着材から放出されることにより発生する蒸発燃料の量により表現される性能である。
好ましくは、第1細孔の容積に対する、第2細孔の容積の割合が、10%以上170%以下、より好ましくは、30%以上130%以下であり、さらに好ましくは、50%以上100%以下である。
【0110】
また、上記実施形態の吸着材10は、前述の通り、外径が6mmより大きく、かつ所定の肉厚の中空形状であるため、この骨格中に第1細孔の容積及び第2細孔の容積を大きく確保できる。よって、吸着性能及びパージ性能が向上し、DBL性能が向上する。一方で、吸着材10の外径が50mm以下であるが、上述した100nm未満の第1細孔及び1μm以上の第2細孔の存在、第1細孔の容積に対する、第2細孔の容積の割合、吸着材への金属酸化物の添加等の構成を吸着材10が備えている。よって、吸着材10の小型化を図りつつ、吸着性能及びパージ性能を向上でき、DBL性能を向上できる。また、吸着材10の硬度が向上する。
【0111】
なお、上述したように原材料において、添加材料としての金属酸化物の質量が、活性炭の質量の1.0倍以上3.0倍以下であると、吸着材10の温度上昇及び温度低下が抑制され、吸着性能及びパージ性能を向上できるので好ましい。ここで、金属酸化物の割合を大きくすると吸着材10中の活性炭の割合が小さくなり、100nm未満の第1細孔の割合が小さくなる。よって、吸着性能が低下する可能性がある。しかし、前述のように第1細孔の容積に対する第2細孔の容積の割合を10%以上200%以下と調整し、また吸着材10の外径を6mmより大きく、50mm以下で中空形状とすることで、吸着性能の低下を抑制できる。
【0112】
また、吸着材10に含まれる第1細孔の細孔容積が0.55ml/g未満であり、かつ、第1細孔の容積に対する、第2細孔の容積の割合が、20%以上90%以下であるのが好ましい。ここで、第1細孔の細孔容積は、吸着材10の骨格を形成する成型体に含まれるすべての第1細孔の容積である。第2細孔の細孔容積も同様である。100nm未満の第1細孔の細孔容積が0.55ml/g未満であるので、第1細孔における蒸発燃料中のブタン等の分子の吸着性能が高くなり過ぎず、パージ性能が向上する。なお、第1細孔の細孔容積が0.55ml/g以上である場合、BWCが大きくなり、パージ性能が低下する。結果的には、DBL性能が悪くなる。好ましくは、100nm未満の第1細孔の細孔容積が0.45ml/g未満であり、より好ましくは0.42ml/g以下であり、さらに好ましくは0.4ml/g以下である。
また、前述の通り第1細孔の細孔容積が0.55ml/g未満でありパージ性能が向上するため、第1細孔の容積に対する第2細孔の容積の割合を20%以上90%以下と、比較的に小さく抑えることができる。
【0113】
また、吸着材10を構成する成型体の骨格に対する、骨格中の第2細孔の割合が5vol%以上40vol%以下であるのが好ましい。吸着材10を構成する成型体の骨格とは、
図1において、活性炭に由来する第1細孔及びメルタブルコアに由来する第2細孔を含む円筒状壁10A及びハニカム状壁10Bである。よって、第1細孔及び第2細孔を含む円筒状壁10A及びハニカム状壁10Bからなる骨格の体積に対する、この骨格中の第2細孔の割合が、5vol%以上40vol%以下であるのが好ましい。
【0114】
吸着材10の成型体の骨格中の第2細孔の割合を前述のように調整することで、活性炭の第1細孔と蒸発燃料及びパージ時の空気との接触時間及び接触面積等を高めて吸脱着速度を向上しつつ、パージ性能を向上できる。なお、骨格中の第2細孔の割合が5vol%未満の場合は、吸着材10の骨格中の1μm以上の第2細孔の割合が少なすぎるため、蒸発燃料の通流が阻害され、十分な吸脱着速度及びパージ性能を達成することができない。一方、骨格中の第2細孔の割合が40vol%を超える場合は、吸着材10の骨格中の1μm以上の第2細孔の割合が多くなり、強度及び吸着性能が低下する。
【0115】
より好ましくは、吸着材10を構成する成型体の骨格に対する、骨格中の第2細孔の割合が5vol%以上35vol%以下であり、より好ましくは10vol%以上30vol%以下である。
【0116】
また、原材料において、メルタブルコアは、活性炭及び無機バインダの合計質量に対して、5質量%以上45質量%以下であるのが好ましい。
原材料において、活性炭及び無機バインダの合計質量中のメルタブルコアを前述のように調整することで、吸脱着速度を向上しつつ、パージ性能を向上できる。なお、メルタブルコアの割合が前記の合計質量の5質量%未満の場合は、吸着材10中の1μm以上の第2細孔の割合が少なすぎるため、蒸発燃料および空気の通流が阻害され、十分な吸脱着速度及びパージ性能を達成することができない。一方、メルタブルコアの割合が前記の合計質量の45質量%を超える場合は、吸着材10中の1μm以上の第2細孔の割合が多くなり、吸着性能が低下する。また、吸着材10の硬度が低下する。
【0117】
また、吸着材10は、n-ブタン濃度が5vol%と50vol%との間でn-ブタン濃度の平衡吸着量の差分が35g/Lを超えるのが好ましい。この場合、蒸発燃料中のブタン等の分子の有効吸着量が大きいため、吸着材10の吸着性能を高めることができる。また、吸着材10の吸着性能が高いため、吸着材10の小型化・軽量化を図ることができる。
【0118】
また、吸着材10は、ASTMD5228によるBWC評価法における、BWCが6.0g/dL以上9.7g/dL未満であるのが好ましい。この場合、BWCが大きく、つまりブタンの有効吸着量が大きいため、吸着材の吸着性能を高めることができ、吸着材の小型化・軽量化を図ることができる。
【0119】
また、吸着材10は、ASTMD5228によるBWC評価法における、ブタンを吸着させ、続いてブタンを脱離させた後のブタン残存量が1.7g/dL未満であるのが好ましい。ブタン残存量が1.7g/dL未満であり、パージ性能に優れている。
【0120】
また、1μm以上の第2細孔の平均直径が、1μm以上100μm以下であるのが好ましい。第2細孔は、繊維状のメルタブルコアから形成されるが、その孔径の平均が1μm以上100μm以下であるので、吸着材10の硬度の低下を抑制できる。なお、第2細孔の平均直径が100μmを超えると、吸着材10における第2細孔が大きくなりすぎて硬度を保つことができず、吸着材10としての実用性に欠ける。
好ましくは、5μm以上100μm以下であり、また、好ましくは、5μm以上50μm以下であり、より好ましくは、10μm以上50μm以下である。
【0121】
(2)吸着材の実施例及び比較例
実施例1に係る吸着材、比較例1~3に係る吸着材を製造し、表1に示す結果を得た。
実施例1及び比較例1~3では、表1に示す所定量の次の材料を用いた。
活性炭:INGEVITY BAX1500の粉砕品
有機バインダ:HPC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)
無機バインダ:ベントナイト
メルタブルコア:繊維状セルロース
金属酸化物:酸化鉄
また、比較例1では、炭化物としてヤシがら炭化物を用いた。
【0122】
【0123】
表1において、DBL性能は次のように評価した。
米国ブリードエミッション試験方法(BETP)によって、キャニスタのDBL排出量が20mg未満となるパージ量で判断した。
◎は、40g/hrのブタン添加ステップの後、100BV(キャニスタの容量の100倍のパージ量)以下のパージを与えて2日間のDBL排出量が20mg未満である場合である。
〇は、40g/hrのブタン添加ステップの後、157BV(キャニスタの容量の157倍のパージ量)以下のパージを与えて2日間のDBL排出量が20mg未満である場合である。
△は、40g/hrのブタン添加ステップの後、210BV(キャニスタの容量の210倍のパージ量)以下のパージを与えて2日間のDBL排出量が20mg未満である場合である。
×は、40g/hrのブタン添加ステップの後、210BV(キャニスタの容量の210倍のパージ量)以下のパージを与えて2日間のDBL排出量が20mg以上である場合である。
【0124】
実施例1の吸着材は、繊維状のメルタブルコアが8質量部及び金属酸化物が42質量部を含む原材料から製造されている。肉厚(円筒状壁10A及びハニカム状壁10Bの肉厚)は0.60mmである。この場合、BWCが6.3g/dLと大きく、ブタン残存量が1.0g/dLと小さく、DBL性能が◎で優れている。吸着材の硬度も確保されている。
実施例1の吸着材の原材料において、繊維状のメルタブルコアは、活性炭及び無機バインダの合計質量に対して、22.9質量%含まれている。
実施例1の吸着材の原材料において、金属酸化物の質量は、活性炭の質量の2.3倍である。
【0125】
比較例1の吸着材は、繊維状のメルタブルコア及び金属酸化物がともに含まれずに製造されており、肉厚は実施例1と同様である。この場合、BWCが4.7g/dLと小さく吸着性能が低いことが分かる。比較例1の吸着材は、実施例1の吸着材と比較して長さが大きく、比較例1の吸着材の体積は実施例1の吸着材の体積よりも大きい。しかしながら、比較例1のBWCは実施例1よりも小さい。また、DBL性能が〇であり、実施例1に比べて劣っている。ブタン残存量は0.8g/dLと小さいが、吸着性能が低く吸着量が少なかったために小さくなったと考えられる。結果として、比較例1の吸着材は、体積が比較的に大きいにも関わらず吸着性能及びDBL性能等が低く、吸着材の小型化及び軽量化を図ることができていないことが分かる。
【0126】
比較例2の吸着材は、繊維状のメルタブルコア及び金属酸化物がともに含まれずに製造されており、肉厚は実施例1と同様である。比較例2の吸着材は、BWCが7.1g/dLと大きいが、DBL性能が×である。よって、吸着材において、BWCが比較的に大きい場合に、繊維状のメルタブルコア及び金属酸化物が含まれていないときには、DBL性能が悪化することが分かる。
【0127】
比較例3の吸着材は、繊維状のメルタブルコアが10質量部含まれているが、金属酸化物が含まれずに製造されており、肉厚は実施例1と同様である。比較例3の吸着材は、BWCが6.8g/dLと大きいが、DBL性能が△である。よって、吸着材において、BWCが比較的に大きい場合に、金属酸化物が含まれていないときには、DBL性能が悪化することが分かる。なお、比較例3では、実施例1に比べて繊維状のメルタブルコアの量が多いが、DBL性能が悪化している。
【0128】
比較例4の吸着材は、繊維状のメルタブルコア及び金属酸化物が含まれて製造されているが、メルタブルコアが15質量部と実施例1,2に比べて多い。肉厚は実施例1と同様である。よって、比較例4の吸着材には、繊維状のメルタブルコアに由来する第2細孔が比較的に多く形成されて。よって、DBL性能は◎であるものの、硬度が低下していることが分かる。
【0129】
比較例5の吸着材は、繊維状のメルタブルコア及び金属酸化物が含まれて製造されており、活性炭が42質量部と実施例1に比べて多い。肉厚は実施例1と同様である。活性炭が多く含まれているので、BWCが9.7g/dLと大きいが、吸着性能が高いためにパージ性能が悪くDBL性能が△である。
また、比較例5では、100nm未満の第1細孔の細孔容積が0.77ml/gである。比較例5では、繊維状のメルタブルコア及び金属酸化物が含まれており、パージ性能及び温度抑制効果が向上されているはずであるが、DBL性能が△と悪い。よって、実施例1、比較例1~4のそれぞれの第1細孔の細孔容積0.34ml/g、0.54ml/g、0.53ml/g、0.53ml/g、0.34ml/gと比較すると、比較例5の第1細孔の細孔容積は0.55ml/g以上であることが分かる。よって、第1細孔の細孔容積が0.55ml/g以上である場合は、吸着材に繊維状のメルタブルコア及び金属酸化物が含まれていてもDBL性能を向上できないことが分かる。
【0130】
なお、金属酸化物を含む上記実施例1及び比較例4、5の吸着材は、いずれも、体積比熱が0.08kcal/L・℃以上、かつ熱伝導率が0.1kcal/m・h・℃以上を満たしている。一方、比較例1~3の吸着材は、前述の体積比熱が0.08kcal/L・℃以上、及び熱伝導率が0.1kcal/m・h・℃以上の少なくともいずれかを満たさない。
【0131】
(3)キャニスタの構成
図2に、第1実施形態に係るキャニスタ100の断面図を示す。キャニスタ100は、自動車の燃料タンクから発生する蒸発燃料の処理用に設置される。キャニスタ100は、ケース21、カバー22、プレート28、コイルスプリング29、フィルタFを有して構成される。キャニスタ100の内部には吸着材室Rが形成され、上記で製造された吸着材10が収納される。
【0132】
ケース21は、下方が開口した中空筒状の合成樹脂(例えば、ナイロン)製の部材である。カバー22は、円盤形状の合成樹脂(例えば、ナイロン)製の部材である。カバー22は、ケース21の下側に例えば振動溶接や接着などによって接合されており、ケース21の開口を塞いでいる。
【0133】
ケース21の上側には、タンクポート23、パージポート24、及び大気ポート25が形成されている。タンクポート23は、自動車の燃料タンク(図示なし)の上部と連通しており、燃料タンクから発生する蒸発燃料がタンクポート23を通ってケース21の内部に流入する。パージポート24は、内燃機関の吸気通路(図示なし)に連通する。吸気通路は、内燃機関の吸気管に連通されているか、エンジンの駆動とは独立して駆動制御される吸引ポンプに接続されている。大気ポート25は、大気に開放されており、大気が大気ポート25を通ってケース21の内部に流入する。
【0134】
ケース21の内部には、隔壁26及び補助隔壁27が形成されている。隔壁26は、ケース21の内部の上端からカバー22の近傍まで延びる隔壁であって、パージポート24と大気ポート25との間に位置する。補助隔壁27は、ケース21の内部の上端からカバー22に向けて延びる短寸の隔壁であって、タンクポート23とパージポート24との間に位置する。
隔壁26によって、ケース21の内部の空間が、左右に分けられている。そして、図中右側の空間(大気ポート25の側の空間)が、フィルタFにより上下に仕切られている。この大気ポート25の側の空間の、下側の空間(カバー22の側の空間)を第2領域32とし、上側の空間(大気ポート25の側の空間)を第3領域33とする。また、隔壁26によって分けられたタンクポート23側の空間を第1領域31とする。本実施形態では、第3領域33に、上記の吸着材10が配設されており、第1領域31及び第2領域32に活性炭が配設されている。
【0135】
第1領域31と第2領域32との間に配置されたフィルタFは、合成樹脂製の不織布や発泡ウレタン製のフィルタであって、蒸発燃料や空気が通流可能に構成されている。第1領域31と第2領域32の下部には、プレート28が配置されている。プレート28は、多数の貫通孔が形成された金属板であって、蒸発燃料や空気が通流可能に構成されている。プレート28は、コイルスプリング29により上方向へ付勢されており、もって第1領域31、第2領域32及び第3領域33に封入された吸着材10及び活性炭が上方に押し固められている。
【0136】
以上の構成により、キャニスタ100の内部には、タンクポート23(及びパージポート24)と大気ポート25との間に亘るU字状の流路が形成される。タンクポート23から流入する蒸発燃料は、まず第1領域31に流入し、プレート28の下方を通って、第2領域32に流入し、第3領域33に流入することになる。第1領域31、第2領域32及び第3領域33は、タンクポート23から大気ポート25へ流れる蒸発燃料を吸着する領域であり、活性炭及び吸着材10を収容しており、以下、吸着材室Rと総称する場合がある。また第1領域31はタンクポート23に隣接しており、タンク側隣接領域Tと呼ぶ場合がある。第3領域33は大気ポート25に隣接しており、大気側隣接領域Uと呼ぶ場合がある。
【0137】
上述の通り、本実施形態では、第3領域33である大気側隣接領域Uに、上記の吸着材10が配設されている。吸着材10に含まれる活性炭からの蒸発燃料の脱離(パージ)は、パージポート24からの吸気によって大気ポート25から大気が流入して行われる。活性炭から蒸発燃料が脱離する際は、熱が奪われるから、活性炭の温度が低下して活性炭のパージ性能が低下してしまう。例えば、活性炭の温度が10℃を下回ると、パージ性能が顕著に低下してしまう。上記構成によれば、吸着材室Rにおける大気ポート25に隣接した大気側隣接領域Uに、上述の吸着材10が配設されているから、大気側隣接領域Uにおける吸着材10に含まれる活性炭の温度の過度な低下を抑制して、パージ処理が適切に行われる。
【0138】
なお、本実施形態では、大気側隣接領域Uに上記の吸着材10を配設しているが、タンク側隣接領域Tにも上記の吸着材10を配設することができる。
【0139】
〔他の実施形態〕
なお上述の実施形態(他の実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【0140】
(1)上記実施形態では、蒸発燃料の吸着時の活性炭の温度上昇の抑制と、吸着燃料のパージ時の活性炭の温度低下の抑制とに、添加材料として金属酸化物を用いている。しかし、添加材料としては、金属酸化物以外の相変化物質及び相転移物質の少なくともいずれかを用いることができる。上記実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する点は説明を省略するか簡単にする。
【0141】
この変形例での吸着材は、第1細孔を有する活性炭と、メルタブルコアと、相変化物質及び相転移物質の少なくともいずれかと、有機バインダと、無機バインダと、例えばヤシがら炭化物などの炭化物(フィラーBWC調整材、硬度向上材として機能)とを含む原材料から形成される。添加材料としては、上記実施形態の吸着材10の金属酸化物の代わりに相変化物質及び相転移物質の少なくともいずれかが用いられる。これら相変化物質及び相転移物質は活性炭よりも熱容量が高い物質であり、相変化物質の相変化温度及び相転移物質の相転移温度における吸着材10の体積比熱が0.08kcal/L・℃以上となるように添加される。
【0142】
なお、上記の相変化物質及び相転移物質は、所定の相変化温度及び相転移温度で相が変化及び転移する物質であり、上述の金属酸化物と同様の作用を有する物質である。つまり、蒸発燃料の吸着時における活性炭の発熱が相転移物質に移されるので、活性炭の温度上昇が抑制され、吸着材10の吸着性能が向上する。一方、吸着燃料のパージ時には、活性炭が相転移物質の保有熱を奪うことにより、活性炭の温度低下が抑制され、吸着材10のパージ性能が向上する。
また、相変化物質及び相転移物質は、潜熱量が比較的に高いことも相まって、上記のように相変化物質及び相転移物質の少なくともいずれかを含む吸着材の吸着性能及びパージ性能を向上できる。
【0143】
相変化物質の相変化温度及び相転移物質の相転移温度は35℃以下であるのが好ましい。また、相変化物質及び相転移物質はカプセル状であるのが好ましい。
相変化物質としては、活性炭の温度変化に応じて固相と液相との間で相変化可能な物質であれば特に限定されず、有機化合物や無機化合物を使用できる。具体的には、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、ヘンイコサン、ドコサンなどの直鎖の脂肪族炭化水素や、天然ワックス、石油ワックス、LiNO3・3H2O、Na2SO4・10H2O、Na2HPO4・12H2Oなどの無機化合物の水和物、カプリン酸、ラウリル酸、パルミチン酸、ミリスチン酸等の脂肪酸類、炭素数が12から15の高級アルコール、バルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ステアリル、ミリスチン酸ミリスチル等のエステル化合物等が挙げられる。
従って、相変化物質を用いる場合には、相変化物質の種類や添加量を調整することにより、相変化温度における吸着材10の体積比熱を0.08kcal/L・℃以上とすることができる。
【0144】
また、相転移物質としては、例えば、二酸化バナジウムとタングステンとの合金(VXWYO2)が挙げられる(X+Y=1)。後述の実施例2では、X=0.98(98質量部)、Y=0.02(2質量部)の二酸化バナジウムとタングステンとの合金(V0.98W0.02O2)を用いている。この場合、相転移物質(V0.98W0.02O2)の相転移温度は20℃となり、当該相転移物質の相転移温度における吸着材10の体積比熱を0.08kcal/L・℃以上とすることができる。
前述の二酸化バナジウムとタングステンとの合金からなる相転移物質において、Y(タングステンの含有割合)をY=0.02(2質量部)よりも減らすことで、相転移温度を20℃より大きく調整することが可能である。さらには、Y(タングステンの含有割合)を減らすことで、相転移温度を、20℃より大きく、かつ、35℃以下に調整することも可能である。逆に、Y(タングステンの含有割合)をY=0.02(2質量部)よりも増加することで、相転移温度を20℃よりも小さく調整することが可能である。このようにY(タングステンの含有割合)を調整することで、相転移温度における吸着材10の体積比熱を0.08kcal/L・℃以上とすることができる。また、相転移物質を用いる場合には、相転移物質の種類や吸着材10への添加量を調整することにより、相転移温度における吸着材10の体積比熱を0.08kcal/L・℃以上とすることができる。
【0145】
原材料において、相変化物質及び相転移物質の少なくともいずれかの質量は、活性炭の質量の0.05倍以上0.3倍以下であるのが好ましい。
ここで、活性炭から蒸発燃料が脱離する際は、熱が奪われるから、活性炭の温度が低下して活性炭のパージ性能が低下してしまう。例えば、活性炭の温度が10℃を下回ると、パージ性能が顕著に低下してしまう。上記の吸着材には、相変化温度及び相転移温度が35℃以下の相変化物質及び相転移物質等の添加材料が含まれているため、吸着材に含まれる活性炭の温度の過度な低下を抑制して、パージ処理が適切に行われる。
また、相変化物質及び相転移物質等の添加割合を、活性炭の質量の0.05倍以上0.3倍以下とすることで、活性炭の温度を適正温度に調整可能である。例えば、添加割合が0.05倍未満の場合は、相変化物質及び相転移物質等によって、活性炭の温度の過度な低下を抑制する効果が十分でない。一方、添加割合が0.3倍を超える場合は、相変化物質及び相転移物質等の添加によって、吸着材における活性炭の割合が小さくなり吸着性能が低下する。
【0146】
この変形例での吸着材は、第1細孔を有する活性炭と、メルタブルコアと、相変化物質及び相転移物質の少なくともいずれかと、有機バインダと、炭化物とを含む原材料から形成される。これらの原材料は、例えばリボンミキサ等の混合機を用いて混合及び混練される。そして、混練された混練材料は、押出成型又は金型成型等により
図1に示すハニカム形状に成型される。その後、成型された材料は、赤外線、熱風、蒸気及びマイクロ波等を用いて、相変化物質等のカプセルの分解温度以下であり、かつメルタブルコアの分解温度以上で乾燥され、吸着材となる。
【0147】
この変形例での吸着材は、第3領域33である大気側隣接領域Uに配設することができる。これにより、大気側隣接領域Uにおける吸着材に含まれる活性炭の温度の過度な低下を抑制して、パージ処理が適切に行われる。
【0148】
上記に記載した添加材料として、相転移物質を用いた実施例2に係る吸着材と、相変化物質を用いた実施例3に係る吸着材を製造し、表2に示す結果を得た。
実施例2、3では、表2に示す所定量の次の材料を用いた。
活性炭:INGEVITY BAX1500の粉砕品
有機バインダ:HPC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)
無機バインダ:ベントナイト
実施例2では、添加材料として相転移物質である二酸化バナジウムとタングステンとの合金(V0.98W0.02O2)を用いた。この合金の相転移温度は20℃であり、当該相転移物質の相転移温度における吸着材10の体積比熱は0.08kcal/L・℃以上である。また、実施例2では、メルタブルコアとして繊維状セルロースを用いた。
実施例3では、添加材料として相変化物質としてヘキサデカンを内包する一次粒径が4mmのマイクロカプセルを用いた。この相変化物質の相変化温度は約18℃であり、当該相変化物質の相変化温度における吸着材10の体積比熱は0.08kcal/L・℃以上である。なお、実施例3では、メルタブルコアとしてナフタレンを用いており、無機バインダは含まれていない。 また、実施例2、3では、炭化物としてヤシがら炭化物を用いた。
【0149】
【0150】
表2において、DBL性能等の各種性能等は表1と同様に評価した。
【0151】
実施例2の吸着材は、繊維状のメルタブルコアが8質量部及び相転移物質が5質量部を含む原材料から製造されている。肉厚は実施例1と同様である(肉厚(円筒状壁10A及びハニカム状壁10Bの肉厚)は0.60mmである。)。この場合、BWCが6.3g/dLと大きく、ブタン残存量が1.1g/dLと小さく、DBL性能が◎で優れている。吸着材の硬度も確保されている。
実施例2の吸着材の原材料において、相転移物質の質量は、活性炭の質量の0.28倍である。
また、実施例2の吸着材の原材料には、炭化物(ヤシがら炭化物)が36質量部含まれている。
【0152】
実施例3の吸着材は、繊維状のメルタブルコアとしてのナフタレンが8質量部及び相変化移物質が5質量部を含む原材料から製造されている。肉厚は実施例1と同様である。この場合、BWCが6.2g/dLと大きく、ブタン残存量が1.0g/dLと小さく、DBL性能が◎で優れている。吸着材の硬度も確保されている。
実施例3の吸着材の原材料において、相変化物質の質量は、活性炭の質量の0.28倍である。
また、実施例3の吸着材の原材料には、炭化物(ヤシがら炭化物)が51質量部含まれている。
【0153】
実施例2,3では、実施例1と比較して、活性炭及びメルタブルコアが同程度の質量部で含まれている。また、実施例2、3では、実施例1の金属酸化物に代えて、それぞれ相転移物質及び相変化物質が含まれている。
表2の結果から、上記のような実施例2,3の吸着材では、実施例1と同様に吸着性能及びパージ性能が向上しているのが分かった。
【0154】
(2)上記実施形態では、
図1の吸着材10は、外周の円筒状壁10A及びハニカム状壁10Bの肉厚が0.2mm以上1mm以下となっている。本変形例では、
図1の吸着材10のハニカム状壁10Bの肉厚を0.2mm以上0.6mm未満とした構成について説明する。上記実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する点は説明を省略するか簡単にする。
【0155】
本変形例では、吸着材10のハニカム状壁10Bの肉厚が0.2mm以上0.6mm未満に設定されており、このハニカム状壁10Bによって、
図1に示す吸着材10の中空形状を構成する複数の空間10Cが形成されている。
ここで、
図1に示す吸着材10(外径Dは6mmより大きい)において、一方の吸着材10では、ハニカム状壁10Bの肉厚を0.2mm以上1.0mm未満の範囲内で設計する。そして、一方の吸着材10のハニカム状壁10Bの肉厚を例えば0.8mmとする。また、一方の吸着材10と同一の形状及び同一の外径Dを有する他方の吸着材10では、ハニカム状壁10Bの肉厚を0.2mm以上0.6mm未満の範囲内で設計する。ここでは、他方の吸着材10のハニカム状壁10Bの肉厚を例えば0.4mmとする。
【0156】
この場合、一方の吸着材10と他方の吸着材10とでは同一形状で外径Dが同じであるものの、他方の吸着材10のハニカム状壁10Bの肉厚(例えば0.4mm)は、一方の吸着材10のハニカム状壁10Bの肉厚(例えば0.8mm)よりも薄い。よって、他方の吸着材10の蒸発燃料の通流方向視(
図1の上図)における各空間10Cの空間面積は、一方の吸着材10の各空間10Cの空間面積よりも大きい。このように、ハニカム状壁10Bの肉厚を0.2mm以上0.6mm未満の範囲内で設計することで、空間10Cを比較的に大きく確保できるため空間10Cにおける吸着材10における蒸発燃料の通流が良くなり、また肉厚が薄くなることによりパージ性能が向上する。
【0157】
空間10C内での蒸発燃料の通流がよくなることで、蒸発燃料と、活性炭が有する100nm未満の第1細孔及びメルタブルコアに由来する1μm以上の第2細孔を含む細孔との接触を促進できる。これにより、100nm未満の第1細孔によって、蒸発燃料中の例えばブタン等を分子レベルで捕捉することができ、吸着性能を高めることができる。また、肉厚が薄くなることおよび1μm以上の第2細孔によって、空気によるパージ性能を高めることができる。よって、吸着性能及びパージ性能を向上でき、DBL性能を向上できる。
【0158】
上記実施形態では、吸着材10において、添加材料としての金属酸化物の質量は、活性炭の質量の1.0倍以上3.0倍以下に設定されている。ハニカム状壁10Bの肉厚が0.2mm以上0.6mm未満である本変形例では、添加材料としての金属酸化物の質量は、活性炭の質量の0.42倍以上3.0倍以下に設定されるのが好ましい。
【0159】
上記実施形態で説明した通り、添加材料は、蒸発燃料の吸着時における活性炭の発熱を抑制して吸着材の吸着性能を向上させるとともに、吸着燃料のパージ時に活性炭の温度低下を抑制して吸着材のパージ性能を向上させる。本変形例の通り、吸着材10のハニカム状壁10Bの肉厚が0.2mm以上0.6mm未満である場合、活性炭への金属酸化物の添加割合の下限値を活性炭の質量の約0.42倍と比較的に小さくしても、吸着性能及びパージ性能を向上でき、DBL性能を向上できる。なお、上記実施形態では、吸着材10の円筒状壁10A及びハニカム状壁10Bの肉厚が0.2mm以上1.0mm以下であり、吸着材10において、活性炭への金属酸化物の添加割合の下限値は活性炭の質量の1.0倍と本変形例よりも大きくなっている。
【0160】
また、好ましくは、添加材料の質量は、活性炭の質量の0.42倍以上1.5倍未満である。より好ましくは、添加材料の質量が、前記活性炭の質量の0.42倍以上1.0倍以下である。
【0161】
また、ハニカム状壁10Bの肉厚が0.2mm以上0.6mm未満である吸着材10において、吸着材10に含まれる第1細孔の細孔容積が0.8ml/g未満であり、かつ、第1細孔の容積に対する、第2細孔の容積の割合が、10%以上90%以下であるのが好ましい。ここで、第1細孔の細孔容積は、吸着材10の骨格を形成する成型体に含まれるすべての第1細孔の容積である。第2細孔の細孔容積も同様である。
【0162】
前述の通り、吸着材10の各部の肉厚の少なくとも一部が0.2mm以上0.6mm未満である場合、100nm未満の第1細孔の細孔容積の上限値を0.8ml/g未満とすることができる。前述の通り吸着材10のハニカム状壁10Bにより構成される空間10Cにおいて蒸発燃料が通流することで、吸着材10に形成された第1及び第2細孔による蒸発燃料中の例えばブタン等の吸着性能及びパージ性能を向上できる。そして、吸着材10のハニカム状壁10Bの肉厚を0.2mm以上0.6mm未満の範囲とすることで、第1細孔の細孔容積の上限値を0.8ml/g未満と大きくしても、第1細孔における蒸発燃料中のブタン等の分子の吸着性能が高くても、肉厚が薄いことにより、パージ性能及びDBL性能を向上できる。これは、吸着材10の肉厚の少なくとも一部が0.2mm以上0.6mm未満の範囲であるため、つまり、吸着材10のハニカム状壁10Bの肉厚が薄いことにより、空気によるバージ性能が向上できるためであると考えられる。
【0163】
なお、吸着材10のハニカム状壁10Bの肉厚が0.2mm以上0.6mm未満において、第1細孔の細孔容積が0.8ml/g以上である場合、ASTMD5228によるBWC評価法によるBWC(Butane Working Capacity(ブタンワーキングキャパシティ))が大きくなり過ぎて、パージ性能が低下する。結果的には、DBL性能が悪くなる。
【0164】
また、前述の通り第1細孔の細孔容積が0.8ml/g未満においてパージ性能が向上するため、第1細孔の容積に対する第2細孔の容積の割合の下限値を10%以上として、比較的に小さく抑えることができる。
なお、好ましくは第1細孔の容積に対する第2細孔の容積の割合の上限値を70%以下にできる。より好ましくは当該上限値を50%以下にできる。さらに好ましくは当該上限値を25%以下にできる。
【0165】
また、原材料において、吸着材10は、無機バインダを含んで構成されている。そして、ハニカム状壁10Bの肉厚が0.2mm以上0.6mm未満である吸着材10において、メルタブルコアは、活性炭及び無機バインダの合計質量に対して、5質量%以上45質量%以下であるのが好ましい。
原材料において、活性炭及び無機バインダの合計質量中のメルタブルコアを前述のように調整することで、吸脱着速度を向上しつつ、パージ性能を向上できる。そして、吸着材10のハニカム状壁10Bの肉厚を0.2mm以上0.6mm未満の範囲とすることで、活性炭及び無機バインダの合計質量中のメルタブルコアの割合の下限値を5質量%以上と小さくしても、吸着材の肉厚が薄いために、パージ性能及びDBL性能を向上できる。
【0166】
なお、メルタブルコアの割合が前記の合計質量の5質量%未満の場合は、吸着材10中の1μm以上の第2細孔の割合が少なすぎるため、蒸発燃料および空気の通流が阻害され、十分な吸脱着速度及びパージ性能を達成することができない。一方、メルタブルコアの割合が前記の合計質量の45質量%を超える場合は、吸着材10中の1μm以上の第2細孔の割合が多くなり、強度及び吸着性能が低下する。また、吸着材10の硬度が低下する。
なお、好ましくは前記の合計質量に対するメルタブルコアの割合の上限値を30質量%以下にできる。より好ましくは当該上限値を20%以下にできる。さらに好ましくは当該上限値を10%以下にできる。
【0167】
また、ハニカム状壁10Bの肉厚が0.2mm以上0.6mm未満である吸着材10において、ASTMD5228によるBWC評価法における、BWCが6.0g/dL以上11.0g/dL未満であるのが好ましい。
BWCが大きく、つまりブタンの有効吸着量が大きいため、吸着材10の吸着性能を高めることができ、吸着材10の小型化・軽量化を図ることができる。また、吸着材10の肉厚を0.2mm以上0.6mm未満の範囲とすることで、BWCの上限値を11.0g/dL未満と比較的に大きくできる。
なお、好ましくは前記のBWCの下限値を7.0g/dL以上にできる。より好ましくは当該下限値を8.0g/dL以上にできる。
【0168】
なお、上記では、ハニカム状壁10Bの肉厚を0.2mm以上0.6mm未満としているが、ハニカム状壁10Bの肉厚及び円筒状壁10Aの肉厚の少なくともいずれかを0.2mm以上0.6mm未満とすることができる。
つまり、ハニカム状壁10Bの肉厚を0.2mm以上0.6mm未満とし、円筒状壁10Aの肉厚も0.2mm以上0.6mm未満とすることができる。ハニカム状壁10Bの肉厚及び円筒状壁10Aの肉厚をともに0.2mm以上0.6mm未満とした場合にも上記と同様の効果を得ることができる。
また、円筒状壁10Aの肉厚を0.2mm以上0.6mm未満とし、ハニカム状壁10Bの肉厚を0.2mm以上1.0mm未満とすることができる。この場合も上記と同様の効果を得ることができる。
さらには、円筒状壁10A及びハニカム状壁10Bの少なくとも一部の肉厚を0.2mm以上0.6mm未満とすることができる。例えば、円筒状壁10Aの少なくとも一部の肉厚を0.2mm以上0.6mm未満とすることもできる。また、例えば、ハニカム状壁10Bの少なくとも一部の肉厚を0.2mm以上0.6mm未満とすることもできる。また、例えば、円筒状壁10Aの少なくとも一部及びハニカム状壁10Bの少なくとも一部の肉厚を0.2mm以上0.6mm未満とすることもできる。この場合も上記と同様の効果を得ることができる。なお、上記と同様の効果を得るために、肉厚0.2mm以上0.6mm未満とする部分の全体(ハニカム状壁10B及び円筒状壁10A)に対する割合を適宜調整するのが好ましい。
【0169】
本変形例の吸着材10として、実施例4~8、比較例6に係る吸着材を製造し、表3に示す結果を得た。なお、実施例4~6、比較例6に係る吸着材は、円筒状壁10Aの肉厚は0.60mmであり、ハニカム状壁10Bの肉厚は0.50mmである。
実施例4~8及び比較例6では、表3に示す所定量の次の材料を用いた。
活性炭:ASTMD5228によるBWC評価法における、BWCが14g/dLの活性炭の粉砕品
有機バインダ:HPC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)
無機バインダ:ベントナイト
メルタブルコア:繊維状セルロース
金属酸化物:酸化鉄
【0170】
表3において、DBL性能等の各種性能等は表1と同様に評価した。
【0171】
【0172】
実施例4の吸着材は、活性炭を45質量部及び金属酸化物を28質量部を含む原材料から製造されている。この場合、金属酸化物の質量が活性炭の質量の0.62倍(28/45)である。
また、第1細孔の細孔容積は0.65ml/gであり、第1細孔の容積に対する第2細孔の容積の割合は20%である。
また、メルタブルコアは、活性炭及び無機バインダの合計質量に対して8質量%(5/(45+16)×100)である。
実施例4の場合、BWCが9.6g/dLと大きく、ブタン残存量が1.1g/dLと小さく、DBL性能が◎で優れている。吸着材の硬度も確保されている。
【0173】
実施例5の吸着材は、活性炭を47質量部及び金属酸化物を26質量部を含む原材料から製造されている。この場合、金属酸化物の質量が活性炭の質量の0.55倍(26/47)である。
また、第1細孔の細孔容積は0.67ml/gであり、第1細孔の容積に対する第2細孔の容積の割合は17%である。
また、メルタブルコアは、活性炭及び無機バインダの合計質量に対して6質量%(4/(47+16)×100)である。
実施例5の場合、BWCが9.8g/dLと大きく、ブタン残存量が1.1g/dLと小さく、DBL性能が○で良好である。吸着材の硬度も確保されている。
【0174】
実施例6の吸着材は、活性炭を50質量部及び金属酸化物を24質量部を含む原材料から製造されている。この場合、金属酸化物の質量が活性炭の質量の0.48倍(24/50)である。
また、第1細孔の細孔容積は0.70ml/gであり、第1細孔の容積に対する第2細孔の容積の割合は15%である。
また、メルタブルコアは、活性炭及び無機バインダの合計質量に対して6質量%(4/(50+16)×100)である。
実施例6の場合、BWCが10.3g/dLと大きく、ブタン残存量が1.1g/dLと小さく、DBL性能が○で良好である。吸着材の硬度も確保されている。
【0175】
実施例7の吸着材は、活性炭を40質量部及び金属酸化物を39質量部を含む原材料から製造されている。この場合、金属酸化物の質量が活性炭の質量の0.98倍(39/40)である。
また、第1細孔の細孔容積は0.55ml/gであり、第1細孔の容積に対する第2細孔の容積の割合は23%である。
また、メルタブルコアは、活性炭及び無機バインダの合計質量に対して10質量%(6/(80+25)×100)である。
実施例7の場合、BWCが8.7g/dLと大きく、ブタン残存量が1.0g/dLと小さく、DBL性能が◎で優れている。吸着材の硬度も確保されている。
【0176】
実施例8の吸着材は、活性炭を80質量部及び金属酸化物を39質量部を含む原材料から製造されている。この場合、金属酸化物の質量が活性炭の質量の0.49倍(39/80)である。
また、第1細孔の細孔容積は0.74ml/gであり、第1細孔の容積に対する第2細孔の容積の割合は12%である。
また、メルタブルコアは、活性炭及び無機バインダの合計質量に対して6質量%(6/(80+25)×100)である。
実施例8の場合、BWCが10.4g/dLと大きく、ブタン残存量が1.3g/dLと小さく、DBL性能が○で良好である。吸着材の硬度も確保されている。
【0177】
比較例6の吸着材は、活性炭を95質量部及び金属酸化物を39質量部を含む原材料から製造されている。この場合、金属酸化物の質量が活性炭の質量の0.41倍(39/95)である。
また、第1細孔の細孔容積は0.76ml/gであり、第1細孔の容積に対する第2細孔の容積の割合は9%である。
また、メルタブルコアは、活性炭及び無機バインダの合計質量に対して5質量%(6/(95+28)×100)である。
比較例6の場合、BWCが11g/dLであり、ブタン残存量が1.7g/dLであり、DBL性能が×で不良である。
【0178】
実施例4~8の活性炭(円筒状壁10Aの肉厚が0.6mm、ハニカム状壁10Bの肉厚が0.5mm)には、質量基準で、添加材料である金属酸化物が活性炭に対して0.42倍以上1.0倍未満で含まれている。これにより、吸着材のハニカム状壁10Bの肉厚が0.5mm(0.2mm以上0.6mm未満に含まれる)である実施例4~8では、BWCが9.6~10.4g/dLであり大きい。また、ブタン残存量は1.0~1.3と小さい。また、DBL性能は◎又は○で比較的良好である。
【0179】
一方、吸着材の円筒状壁10Aの肉厚が0.6mm、ハニカム状壁10Bの肉厚が0.6mmであり、添加物質が金属酸化物である実施例1では、金属酸化物が活性炭に対して2.3倍(42/18)含まれている。この実施例1の活性炭は、BWCが6.3g/dLであり、ブタン残存量が1.0であり、DBL性能は◎であり優れている。
実施例4~8の活性炭に含まれる金属酸化物の割合は、実施例1の活性炭に含まれる金属酸化物の割合よりも小さい。しかし、実施例4~8の活性炭のBWC、ブタン残存量、DBL性能及び硬度等の性能は実施例1の活性炭等に比べて劣っていない。
【0180】
よって、活性炭の肉厚を薄くした場合には、つまり本実施例のようにハニカム状壁10Bの肉厚を薄くした場合には、活性炭に含まれる金属酸化物の割合を小さくしても、活性炭のBWC、ブタン残存量、DBL性能及び硬度等の性能を良好な状態にできる。
また、上記実施形態の比較例5と本変形例の実施例7との比較から、本変形例の実施例7の方が優れていることが理解できる。つまり、上記実施形態の比較例5(円筒状壁10Aの肉厚が0.6mm、ハニカム状壁10Bの肉厚が0.6mm)では、質量基準で、添加材料である金属酸化物が活性炭に対して1.0倍(42/42)で含まれている。一方、本変形例の実施例7(円筒状壁10Aの肉厚が0.6mm、ハニカム状壁10Bの肉厚が0.5mm)では、質量基準で、添加材料である金属酸化物が活性炭に対して0.98倍(39/40)で含まれている。比較例5と実施例7とでは、活性炭に対する金属酸化物の割合が同程度であるが、実施例7の方がBWC、ブタン残存量、DBL性能等の性能が優れている。このことから、活性炭の肉厚を薄くし、つまり本実施例のようにハニカム状壁10Bの肉厚を薄くし場合には、活性炭に含まれる金属酸化物の割合を小さくしても(実施例7では0.98倍)、活性炭のBWC、ブタン残存量、DBL性能等の性能を良好な状態にできる。
【0181】
(3)上記実施形態では、大気側隣接領域Uに吸着材10を配設しているが、タンク側隣接領域Tに次の吸着材を配設することができる。
当該変形例の吸着材に用いる活性炭は、ASTMD5228によるBWC評価法における、BWCが15.0g/dL以上であると好ましい。
そして、ASTMD5228によるBWC評価法における、BWCが15.0g/dL以上の活性炭と、相変化温度が36℃以上である相変化物質及び相転移温度が36℃以上である相転移物質の少なくともいずれかの添加材料とを含む。
【0182】
上記構成によれば、吸着材室Rにおけるタンク側隣接領域Tに、温度変化に応じて潜熱の吸収及び放出を生じる相変化物質等の添加材料を含む吸着材が配設されている。よって、当該吸着材により活性炭の温度変化を抑制して活性炭の性能低下を防ぐことができる。
【0183】
また、燃料タンクへの給油が行われる際には、一度に多量の蒸発燃料がキャニスタ100に流入する場合がある。タンクポート23から流入した蒸発燃料は、タンクポート23近傍から大気ポート25へ向けて吸着帯を形成し、その吸着帯では吸着熱により活性炭の温度が上昇する。活性炭は35℃(約35℃)を超えると、吸着性能が顕著に低下してしまう。上記の構成によれば、タンク側隣接領域Tは、燃料タンクへの給油の際、活性炭への蒸発燃料の吸着による発熱によって活性炭の温度が35℃以上になる領域であり、そのタンク側隣接領域Tに相変化温度が36℃以上である相変化物質及び相転移温度が36℃以上である相転移物質の少なくともいずれかの添加材料を含む吸着材が配設されている。よって、活性炭の温度が35℃を超える事態が抑制されるので好ましい。
さらに、活性炭を含む吸着材がタンク側隣接領域Tに配設されるから、吸着材室Rに収納される活性炭の量の減少が抑制され、吸着性能の低下を抑制できる。
【0184】
(4)上記実施形態では、メルタブルコアとして繊維状のものを例に挙げた。しかし、メルタブルコアとしては、少なくとも繊維状のメルタブルコアを含んでいればよく、さらに粉末状のメルタブルコアを含んでいてもよい。粉末状のメルタブルコアとしては、例えば繊維状のメルタブルコアと同様の材料が挙げられ、繊維径が1μm未満である。粉末状のメルタブルコア及び繊維状のメルタブルコアと、活性炭と、バインダと、添加材料とを混合及び混練等して、焼成等することで、粉末状及び繊維状のメルタブルコアが昇華する。これにより、粉末状のメルタブルコアに由来する1μm未満の細孔と、繊維状のメルタブルコアに由来する1μm以上の細孔とを有する吸着材10が形成される。吸着材10の成型体において、1μm未満の細孔と1μm以上の細孔とが分散状態で混在しており、1μm以上の細孔が、分散した1μm未満の細孔どうしを連通するように形成される場合もある。よって、このような吸着材10において、蒸発燃料が吸着材10のメルタブルコア内を流れ良く流通し、メルタブルコア及び活性炭の細孔において蒸発燃料が吸着される。
【0185】
(5)上記実施形態では、吸着材10の形状はハニカム形状に構成されている。しかし、吸着材の形状は、中空形状であればハニカム形状に限定されない。例えば、
図3、
図4に示す形状の吸着材であってもよい。
図3の場合、吸着材40は、空間40Bを形成する外周の円筒状壁40Aを有して、長手方向に空間40Bが延びる中空円筒形状の成型体から構成されている。
図4の場合、吸着材45は、外周の円筒状壁45Aと、この円筒状壁45Aの内側の放射状壁45Bとを有して、中空形状の成型体から構成されている。放射状壁45Bは、円筒状壁45Aの内部を上面視において放射状に区画しており、長手方向に延びる空間45Cを形成している。吸着材40及び吸着材45のその他の構成は、吸着材10と同様である。
図3及び
図4の吸着材10は、中空ペレットと称される場合がある。
また、上記実施形態では、吸着材10は、四角形状の空間40Bが集合したハニカム形状に構成されている。しかし、空間40Bの形状は四角形状に限定されず、三角形状、六角形状等の多角形状であってもよい。
【0186】
(6)上記実施形態では、バインダとして有機バインダ及び無機バインダを用いている。しかし、バインダとしては、有機バインダ及び無機バインダの少なくともいずれかを用いてもよい。なお、吸着材10の製造にあたり、焼成の工程の有無によって、使用する有機バインダを選択するのが好ましい。
【0187】
焼成の工程が実施される場合には、通常のハニカムを成型する際に用いられる有機バインダを使用可能である。よって、上記実施形態に記載の通り、有機バインダとして、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等が使用できる。このような有機バインダの添加量は、吸着材10を製造するのに用いる、活性炭、メルタブルコア、添加材料及びバインダを含む原材料の全質量に対して、3~10質量%程度である。
【0188】
焼成の工程が実施されない場合には、有機バインダとして、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシエチルメチルセルロース等のセルロース、EVA(Ethylene vinyl acetate)、エポキシ、ラテックス、スチレン及びブタジエン等のエマルジョンバインダー等の有機バインダを使用可能である。なお、耐溶剤性が必要な場合は、架橋剤及び自己架橋型のバインダを採用するのが好ましい。このような有機バインダの添加量は、吸着材10を製造するのに用いる原材料の全質量に対して、3~10質量%程度である。
【0189】
(7)上記実施形態では、
図2に示すように、吸着材室Rが第1領域31、第2領域32及び第3領域33の3つに区分けされている。しかし、第2領域32及び第3領域33からなる領域は2つに区分けされるのではなく、3つ以上に区分けされていてもよい。この場合も同様に、大気ポート25に最も隣接している領域が大気側隣接領域Uであり、当該大気側隣接領域Uに上記実施形態の吸着材10が配置される。
【符号の説明】
【0190】
10 :吸着材
10A :円筒状壁
10B :ハニカム状壁
10C :空間
21 :ケース
22 :カバー
23 :タンクポート
24 :パージポート
25 :大気ポート
26 :隔壁
27 :補助隔壁
R :吸着材室
T :タンク側隣接領域
U :大気側隣接領域