(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】燻蒸用ホスフィン及びその製造方法、並びに燻蒸方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/06 20060101AFI20240409BHJP
A01M 17/00 20060101ALI20240409BHJP
A01N 59/26 20060101ALI20240409BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C01B25/06
A01M17/00 B
A01M17/00 Q
A01N59/26
A01P7/04
(21)【出願番号】P 2020563212
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2019050165
(87)【国際公開番号】W WO2020137905
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2018245736
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 裕也
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-164711(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第01570868(GB,A)
【文献】特開昭62-138313(JP,A)
【文献】特表2017-536115(JP,A)
【文献】特開2015-136368(JP,A)
【文献】特開平09-165209(JP,A)
【文献】新実験化学講座 基本操作II,1975年,815-816
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/06
A01M 17/00
A01N 59/26
A01P 7/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
P
4の含有量が10質量ppm以下であり、水分の含有量が10質量ppm以下であり、
ジホスフィンの含有量が100質量ppm以下であり、54℃以下の空気中で1容量%超の濃度を有したときに自然発火しない燻蒸用ホスフィン。
【請求項2】
ホスフィン中のP
4を活性炭により除去した後、シリカゲル又はゼオライトにより水分を除去する精製工程を有する燻蒸用ホスフィンの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の燻蒸用ホスフィンを用いて被燻蒸物を燻蒸する燻蒸方法。
【請求項4】
前記被燻蒸物が、栽培植物、栽培植物以外の食品、土壌、建造物、文化財から選ばれる少なくとも一種である、請求項
3に記載の燻蒸方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燻蒸用ホスフィン及びそれを用いた燻蒸方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスフィンはPH3で表される化合物である。ホスフィンは、殺虫作用に優れており、燻蒸剤として使用されている。
【0003】
ホスフィンは、一般に、黄リン(主成分:P4)とアルカリを作用させる方法、黄リンを高温で加水分解する方法、金属リン化合物、例えばリン化アルミニウム、リン化亜鉛などに水又は酸を反応させる方法、黄リンを電解還元する方法、黄リンを亜鉛又はカドミウム、アマルガムで電解還元する方法、黄リンを加熱して赤リンとし、その赤リンをリン酸中で水と接触させる方法などにより製造されている。しかしながら、いずれの方法によって得られた精製前のホスフィン(以下、「粗製ホスフィン」ともいう)も不純物を有することが知られている。
【0004】
例えば特許文献1には、粗製ホスフィン中に低級水素化燐化合物が含まれると、黄色タール状ないし粉末状のものがバルブなどの内壁に析出してこれを閉塞させ、操作上の危険を来し、延いては危険を伴うことになること、及び、低級水素化燐化合物の除去のために活性炭を用いることが記載されている。また、特許文献2には、半導体製造用の高純度ホスフィンを得るために、ゼオライトによりホスフィンの水分を除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭58-49608号公報
【文献】特開昭62-138313号公報
【発明の概要】
【0006】
特許文献1に記載のように活性炭で低級水素化燐化合物を除去したホスフィンは、これを燻蒸用に用いた場合であっても、燻蒸ガス供給用装置の配管内に固体が析出し、燻蒸ガス供給用装置の配管やバルブ内が固体析出による閉塞又はスケーリングする問題があった。一方、特許文献2記載の高純度ホスフィンは、高純度であるが故に目詰まりは起こらないが、その反面、高価になってしまう。したがって燻蒸に使用できる程度の経済性を有するホスフィンが求められている。更に、ホスフィンはそれ自体が自然発火性を有するとも、不純物に起因して自然発火性を有するともいわれている。したがって燻蒸の安全性のために、自然発火性が低いホスフィンが求められている。
【0007】
本発明の課題は、不純物による配管やバルブの閉塞やスケーリングが効果的に抑制されるとともに自然発火性が低い燻蒸用ホスフィンを提供することにある。
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、P4及び水分量の両方を所定値以下とすることで、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち本発明は、P4の含有量が10質量ppm以下であり、水分の含有量が10質量ppm以下である燻蒸用ホスフィンを提供するものである。
【0010】
また本発明は、P4の含有量が10質量ppm以下であり、水分の含有量が10質量ppm以下であるホスフィンを用いて被燻蒸物を燻蒸する燻蒸方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。本発明で用いられるホスフィンはPH3で表される化合物である。ホスフィンの性状は固体、液体及び気体のいずれであってもよい。ホスフィンは例えば耐圧容器に収容された液体の状態で流通及び/又は保管され、気体の状態で燻蒸に用いられる。
【0012】
本発明者は、従来の燻蒸用ホスフィンが燻蒸ガス供給用装置の配管を閉塞させてしまう原因について鋭意検討した。その結果、配管の閉塞の有無は、ホスフィン中のP4の量と関係があることを知見した。この理由は明確ではないが、配管内の析出物はP4又は不純物としてホスフィン中に含有されるP4と挙動が類似する固体のリン化水素成分であり、固体のリン化水素も分解するとP4となるからではないかと推察している。本発明者は、ホスフィン中の不純物の指標としてP4の量を低減することで、配管の閉塞を防止し得ると考えている。更に、本発明者は、後述するようにP4の量とともに水分量を低減することで、自然発火性を低くできることを知見した。
【0013】
P4は液体ホスフィン中では固体として存在し、気体ホスフィン中では蒸気又はミストとして存在すると本発明者は推察している。P4は、ホスフィン製造の原料に由来してホスフィン中に混在すると推察される。また上述した通り、本発明者は、前記の固体のリン化水素が更に分解することでもP4を生じ得ると考えている。
【0014】
配管閉塞の抑制及び自然発火の抑制の観点から、ホスフィン中のP4の含有量は10質量ppm以下であり、5質量ppm以下であることがより好ましい。ホスフィン中のP4は実質的に含まないことが好ましいが、燻蒸用ホスフィンの製造コストの点から、0.1質量ppm以上であることが好ましい。ここでP4の量はホスフィン(PH3)に対する割合である。
【0015】
ホスフィン中のP4の量を低減することに加え、ホスフィン中の水分量を低減することも、ホスフィンの配管の閉塞を抑制し、且つ自然発火を抑制するために重要であることを本発明者は知見した。この理由は明確ではないが、ホスフィンは水と接触して反応し、P4又はP4と類似した挙動を有する固体のリン化水素に変化する場合がある。したがって、ホスフィン中の水分量を一定以下とすることで、このような反応が生じることを防止できる。このことに起因して、固体の析出による配管の閉塞が生じることを効果的に抑制でき、且つ自然発火性を低減できるものと本発明者は考えている。
【0016】
配管やバルブの閉塞抑制及び自然発火の抑制の観点から、ホスフィン中の水分量は10質量ppm以下であり、5質量ppm以下であることがより好ましい。ホスフィン中の水分量は低ければ低いほど好ましいが、ホスフィンの製造コストの点から、0.1質量ppm以上であることが好ましい。ここで水分量はホスフィン(PH3)に対する割合である。
【0017】
燻蒸用ホスフィンのP4の含有量及び水分含有量を前記の上限値以下とするためには、例えば、粗製ホスフィンに対して、後述する特定の精製方法を行うことが挙げられる。燻蒸用ホスフィンの原料となる粗製ホスフィンの製造には黄リンとアルカリを作用させる方法、黄リンを高温で加水分解する方法、金属リン化合物、例えばリン化アルミニウム、リン化亜鉛などに水又は酸を反応させる方法、黄リンを電解還元する方法、黄リンを亜鉛又はカドミウム、アマルガムで電解還元する方法、黄リンを加熱して赤リンとし、その赤リンをリン酸中で水と接触させる方法など、いずれの方法を用いてもよい。
好ましくは、黄リンとアルカリを作用させてホスフィンを製造する。
黄リンとアルカリを作用させる方法としては、次の(1)及び(2)のいずれであってもよい。
(1)P4+3NaOH+3H2O→3PH3+3NaH2PO2
(2)P4+4H2O+2NaOH→2PH3+2NaH2PO3
【0018】
従来の燻蒸用ホスフィンは、リン化アルミニウム又はリン化亜鉛に水を接触させて製造され、そのまま燻蒸に用いられていた。あるいは、前記の各方法において製造した粗製ホスフィンを単に活性炭やゼオライト等で精製して用いられていた。このような従来の燻蒸用ホスフィンの水分量及びP4の量は、前記上限よりも多いものであった。
【0019】
本発明で用いられるホスフィン中でのP4の含有量及び水分含有量を前記の上限値以下とするためには、例えば、前記各方法で得た粗製ホスフィンから、ゼオライトや活性炭などを用いてP4を吸着除去する方法、氷点下の冷却によりホスフィンを脱水する方法、及び、シリカゲルやゼオライトなどを用いてホスフィンを脱水する方法を組み合わせた方法を用いることができる。また上記方法に、前記各方法で得た粗製ホスフィンを水で洗浄する方法を組み合わせてもよい。水で洗浄する方法の後に、乾燥を行うことは必要であるが、その点以外、これらの方法の順序に特に限定はない。
【0020】
前記したように、ホスフィンは水と接触して反応し、P4又はP4と類似した挙動を有する固体のリン化水素に変化するおそれがあるため、ホスフィン中の水分を先に除去できると、P4又は固体のリン化水素の副生を抑えることが可能である。しかし、ホスフィンを脱水するために用いられる上記したゼオライトやシリカゲルは、水分除去に機能する細孔を有しており、ホスフィン中のP4や固体のリン化水素の存在は、この細孔を塞ぐことにより、充分な脱水の効果を得られ難くするおそれがある。また、P4や固体のリン化水素の蓄積により、発火し易くなるおそれがある。このような観点から、ホスフィン中のP4を速やかに吸着除去した後、ホスフィンを脱水する順序であると、脱水のために使用されるシリカゲルやゼオライトの寿命を延ばすことができることや、工程の安全性を高められるため特に好ましい。
【0021】
前記ゼオライトとしては特に限定されず、天然又は合成の何れでも良いが、例えば天然のゼオライトとしては、アナルサイム(Analcime:SiO2/Al2O3=3.6~5.6)、チャバサイト(Chabazite:SiO2/Al2O3=3.2~6.0)、クリノプチライト(Crinoptilolite:SiO2/Al2O3=8.5~10.5)、エリオナイト(Erionite:SiO2/Al2O3=5.8~7.4)、フォジャサイト(Faujasite:SiO2/Al2O3=4.2~4.6)、モルデナイト(Mordenaite:SiO2/Al2O3=0.34~10.0)、フィリップサイト(Phillipsite:SiO2/Al2O3=2.6~4.4)等が挙げられる。合成ゼオライトはA型ゼオライト(SiO2/Al2O3=1.4~2.4)、X型ゼオライト(SiO2/Al2O3=2~3)、Y型ゼオライト(SiO2/Al2O3=3~6)などが挙げられる。粒子径は、比表面積が好ましくは150m2/g以上で、平均粒子径が好ましくは0.1~100μm、さらに好ましくは0.1~50μmである。
【0022】
前記活性炭としては特に限定されず、石炭、石油ピッチ、タール等の鉱物由来の活性炭、ヤシ殻、木材、竹材等の植物由来の活性炭、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂等の樹脂類を原料とした活性炭、分子ふるい炭素からなる活性炭等が挙げられる。活性炭の形状としては、例えば粉末活性炭、粒状活性炭、破砕状活性炭、繊維状活性炭等が挙げられる。活性炭の比表面積は150m2/g以上、さらには300m2/g以上であることが好ましい。
【0023】
前記シリカゲルとしては、シリカゾルを除く無定形シリカであればよいが、例えば、JIS Z0701の規格に合致するシリカゲル、ホワイトカーボン等の湿式法で得られた微粉末ケイ酸、エアロジル等の乾式法で得られた微粉末ケイ酸、シリコンまたはフェロシリコンの製造工程からの副産物であるダスト、あるいは天然に産生する軟ケイ石等が挙げられる。粒子径は、比表面積が好ましくは150m2/g以上で、平均粒子径が好ましくは0.1~100μm、さらに好ましくは0.1~50μmである。
【0024】
本発明で用いられるホスフィンは、不純物の一種であるジホスフィンの量が一定以下であることが好ましい。ジホスフィンはH4P2で表される化合物である。ジホスフィンは分解すると、P4と似た挙動を示す固体状の水素化リンを生じることがある。このことから、本発明で用いられるホスフィンは、ジホスフィンの量が100質量ppm以下であることが好ましく、70質量ppm以下が好ましく、50質量ppm以下がより好ましく、30質量ppm以下が更に好ましい。ジホスフィンの量は1質量ppm以上であることが、ホスフィンの製造しやすさの点で好ましい。ジホスフィンの量はホスフィン(PH3)に対する割合である。
【0025】
ジホスフィンの量を前記の上限値以下とするには、例えば、水分量及びP4の量を前記の上限値以下とするために前記で述べた精製方法と同様の方法を採用すればよい。
【0026】
本発明において、ホスフィン中の水分量、P4の量及びジホスフィン量はすべてガス状態のホスフィンにおいて測定するものとする。ホスフィン中の水分量は、カールフィッシャー法により測定する。P4の量はリンバナドモリブデン酸比色法により測定する。ジホスフィンの量は核磁気共鳴法により測定する。
【0027】
本発明において用いられるホスフィンは、上述した水分、P4及びジホスフィン以外の不純物の量が極力少ないことも好ましい。具体的にはホスフィン中、H2の量は100質量ppm以上10000質量ppm以下であることが好ましく、200質量ppm以上9000質量ppm以下であることがより好ましい。
N2の量は1質量ppm以上500質量ppm以下であることが好ましく、10質量ppm以上300質量ppm以下であることがより好ましい。
O2の量は0.1質量ppm以上50質量ppm以下であることが好ましく、0.5質量ppm以上30質量ppm以下であることがより好ましい。
AsH3の量は1質量ppm以上500質量ppm以下であることが好ましく、10質量ppm以上300質量ppm以下であることがより好ましい。
CO2の量は0.01質量ppm以上1質量ppm以下であることが好ましく、0.05質量ppm以上0.5質量ppm以下であることがより好ましい。
不純物が前記の範囲内である燻蒸用ホスフィンは、製造コストや製造容易性と安全性の両立を図ることができるため好ましい。これらの不純物の量は、ホスフィンに対する量であり、例えばガスクロマトグラフィーや原子吸光分析法により測定することができる。
【0028】
本発明で用いられるホスフィンの純度は、98質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることがより好ましい。ホスフィンの純度は99.9質量%以下であることがホスフィンの製造容易性の点で好ましい。
【0029】
本発明で用いられるホスフィンは上述した低い水分量及び低いP4の量を有することで自然発火性が低く、従来に比して取扱い性の良いものである。例えば、本発明で用いられるホスフィンは、54℃以下の空気中で1容量%超、好ましくは1.3容量%以上の濃度を有したときに自然発火しないことが好ましい。なお、1容量%超及び1.3容量%以上の濃度を有したときに自然発火しないとは、それぞれ、1容量%超及び1.3容量%以上の何れかの濃度において自然発火しないことを意味し、1容量%超及び1.3容量%以上のすべての濃度において自然発火しないことまで要するものではない。具体的にはホスフィンを大気圧下において、IEC60079-20-1 2010の規定に基づき自然発火温度を測定したときに、自然発火温度が54℃超であることが好ましい。自然発火温度の具体的な測定方法は後述する方法を用いることができる。
【0030】
本発明において、ホスフィンは、ボンベ、貯留タンク等の圧力容器により液体で保管・流通された後、常温・常圧にて気化され、そのまま、或いは不活性ガスと混合されて、燻蒸に用いられる。不活性ガスとしては、二酸化炭素や窒素が挙げられる。ホスフィンと不活性ガスとの混合比率は体積比率でホスフィン:不活性ガス=1:0.1~100が好ましく、1:0.5~90がより好ましい。
【0031】
本発明において、燻蒸とは、カビ、細菌や昆虫など種々の有害生物の駆除の目的で、これらに対して駆除効果のある気体を対象物(以下、「被燻蒸物」ともいう)と接触させることをいう。例えば、被燻蒸物は、栽培植物、栽培植物以外の食品、土壌、建造物、文化財などが挙げられる。栽培植物は、収穫前であってもよく、収穫後であってもよい。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
<実施例1>
黄リン30gに25質量%の水酸化ナトリウム水溶液102.4gを加え、常法によって反応させて体積比でホスフィン:水素=1:1である混合ガス10.5Lを発生させた。この発生ガスを-200℃の液体窒素に浸漬して冷却した加圧容器に導入してホスフィンを凝縮させ、水分の一部を除去した。その後、液体窒素から加圧容器を取り出して徐々に室温まで昇温することにより未凝縮の水素を放出して粗製ホスフィンを得た。
【0034】
得られた粗製ホスフィンを、300mlの活性炭(大阪ガスケミカル社製、粒状白鷺G2c)を充填した内径40mm、長さ400mmのカラムに1L/minの流量で通し、次いで冷却塔に通して10℃に冷却した後、300mlのA形シリカゲル(JIS Z0701)を充填した内径40mm、長さ400mmのカラムに1L/minの流量で通して精製ホスフィンを得た。得られた精製ホスフィンの水分量、P4の量及びジホスフィン量を表1に示す。また、得られた精製ホスフィンの水分、P4及びジホスフィン以外の不純物は、H2が3000質量ppm、N2が41.2質量ppm、O2が0.94質量ppm、AsH3が100質量ppm、CO2が0.1質量ppmであった。
【0035】
<実施例2>
実施例1において、A型シリカゲルに変えてA型ゼオライト(和光純薬社製、モレキュラーシーブ3A)に通すこと以外は実施例1と同じ方法で精製ホスフィンを得た。得られた精製ホスフィンの水分量、P4の量及びジホスフィン量を表1に示す。また、得られた精製ホスフィンの水分、P4及びジホスフィン以外の不純物は、H2が2950質量ppm、N2が41.8質量ppm、O2が0.95質量ppm、AsH3が99質量ppm、CO2が0.1質量ppmであった。
【0036】
<実施例3>
実施例1と同様の方法で得られた粗製ホスフィンを、3L/minの流量で活性炭及びA型シリカゲルに通すこと以外は実施例1と同じ方法で精製ホスフィンを得た。得られた精製ホスフィンの水分量、P4の量及びジホスフィン量を表1に示す。また、得られた精製ホスフィンの水分、P4及びジホスフィン以外の不純物は、H2が3100質量ppm、N2が42.2質量ppm、O2が0.1質量ppm、AsH3が105質量ppm、CO2が0.1質量ppmであった。
【0037】
<比較例1>
実施例1において得られた粗製ホスフィンを比較例1とした。得られた粗製ホスフィンの水分量、P4の量及びジホスフィン量を表1に示す。
【0038】
<比較例2>
実施例1と同様の方法で得られた粗製ホスフィンを、10L/minの流量で活性炭及びA型シリカゲルに通すこと以外は実施例1と同じ方法で行い精製ホスフィンを得た。得られた精製ホスフィンの水分量、P4の量及びジホスフィン量を表1に示す。また、得られた精製ホスフィンの水分、P4及びジホスフィン以外の不純物は、H2が3200質量ppm、N2が62.2質量ppm、O2が2質量ppm、AsH3が200質量ppm、CO2が0.2質量ppmであった。
【0039】
<実施例4>
リン化アルミニウム300gに、40℃に加温した水1リットルを徐々に加え、常法によって反応させてガス30Lを発生させた。この発生ガスを-200℃の液体窒素に浸漬して冷却した加圧容器に導入してホスフィンを凝縮させ、水分の一部を除去した。その後、液体窒素から加圧容器を取り出して徐々に室温まで昇温することにより粗製ホスフィンを得た。
得られた粗製ホスフィンを、実施例1と同じ方法で精製し、精製ホスフィンを得た。得られた精製ホスフィンの水分量、P4の量及びジホスフィン量を表1に示す。また、得られた精製ホスフィンの水分、P4及びジホスフィン以外の不純物は、H2が3100質量ppm、N2が42.2質量ppm、O2が1質量ppm、AsH3が100質量ppm、CO2が0.1質量ppmであった。
【0040】
<比較例3>
実施例4において得られた粗製ホスフィンを比較例3とした。得られた粗製ホスフィンの水分量、P4の量及びジホスフィン量を表1に示す。
【0041】
【0042】
ホスフィンガス中の水分量の測定方法
875KFガス用水分計(メトローム社製)を用いてカールフィッシャー法により測定した。測定温度は25℃とした。
【0043】
ホスフィンガス中のP4量の測定方法
ホスフィンガスを冷却ベンゼン中に通気してP4を吸収させ、脱気によりホスフィンを除去して得られた溶液を、リンバナドモリブデン酸比色法により測定した。測定温度は25℃とした。
【0044】
ジホスフィン量の測定方法
ホスフィンガスをアセトン・ドライアイス溶液に吸収させた溶液を、核磁気共鳴(NMR)装置(日本電子株式会社製、JNM-ECA500)を用いて測定した。
【0045】
ホスフィンガス中のAsH3の測定方法
原子吸光分析装置として、VARIAN―AA240(アジレント・テクノロジー社製)を使用した。検量線に使用する標準液はヒ素標準液原子吸光用標準液(和光純薬工業(株)社製、1000ppm)を使用した。サンプルは100mlのホスフィンガスを、1規定の過マンガン酸カリウム水溶液50mlに完全に吸収させこの吸収液をヒ素量について原子吸光法絶対検量線法で分析した。測定したヒ素量からAsH3としてのモル数を算出して、ホスフィン中のアルシン換算の質量基準濃度を算出した。
【0046】
ホスフィンの純度、及び、H2、N2、O2、CO2測定方法
下記の条件のガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、GC-7A)分析により測定した。ホスフィンの純度は、ホスフィン中の水分量、P4、ジホスフィン及びAsH3の各量並びにガスクロマトグラフィー分析により検出されたホスフィン以外のガス成分の分析値を差し引いた数値とした。なお実施例及び比較例ではホスフィン以外のガスとして、H2、N2、O2及びCO2が検出された。
【0047】
ガスクロマトグラフィーの測定条件:
測定試料を不活性ガス雰囲気下でセプタムキャップ付きの容器に小分けし、シリンジで測定試料0.2μLをガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、「GC-7A」)に打ち込み、下記条件にて測定した。
・カラム:Porapak T 50~80メッシュ(ジーエルサイエンス(株)製)
・カラム温度:60℃
・検出器:TCD、キャリアガス:He(100kPa圧)
不純物ガス成分の量は、検出したピーク総面積を100%として、それに対するピークの比率を計算する面積百分率法により求めた。
【0048】
[評価]
(1)異物析出性
実施例及び比較例で得られたホスフィンガスを、それぞれ加圧して液化ホスフィンとし、47L高圧ガスボンベに充填した。このボンベから内径3.18mm、長さ2mのステンレスBA管(SUS304 TP-SC-BA JIS G3459)に20L/分の速度で通気した。9時間経過後、目視にて配管内部の粉末析出の有無を確認し、以下の評価基準で評価した。結果を表2に示す。
-:配管内部に全く粉末が検出されなかった。
+:配管内部に粉末が析出し、配管内壁にスケーリングが検出された。
【0049】
【0050】
(2)自然発火性
IEC60079-20-1:2010の規定の通りに、自然発火温度を測定した。当該規定では、自然発火温度の測定は、所定温度に加熱された開放状態にあり内部が空気で満たされた200mlの三角フラスコにガスサンプルを注入し、自然発火が起こるか否かを確認することにより行った。20mlのガスサンプル(ホスフィン)は200mlの気密なシリンジにより、毎秒25mlのスピードで、三角フラスコ内に注入された。注入完了後、5分間以内に発火が起きる場合を自然発火性があると観察した。自然発火温度は、20℃から1℃ごとに測定した。
試験に使用するフラスコ及びフラスコを加熱する窯としては、「IEC60079-20-1:2000」におけるFigure A.1に記載のものを用いた。フラスコの材質としてはホウケイ酸ガラスを用いた。
ガスサンプルを注入する装置としては、「IEC60079-20-1:2000」におけるFigure A.9に記載のものを用いた。
結果を表3に示す。
【0051】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の燻蒸用ホスフィンは、不純物による燻蒸ガス供給用装置の配管やバルブの閉塞が効果的に抑制され、且つ自然発火性が低いものである。また本発明の燻蒸方法は、燻蒸ガス供給用装置の配管の閉塞が防止され、且つ自然発火の可能性が低減されており、安全である。