(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】複合部材、及び放熱部材
(51)【国際特許分類】
H01L 23/373 20060101AFI20240409BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20240409BHJP
C23C 18/52 20060101ALI20240409BHJP
C23C 28/02 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
H01L23/36 M
B32B15/01 H
C23C18/52 B
C23C28/02
(21)【出願番号】P 2021511285
(86)(22)【出願日】2020-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2020009414
(87)【国際公開番号】W WO2020203014
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2019070853
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健吾
(72)【発明者】
【氏名】池田 智昭
(72)【発明者】
【氏名】細江 晃久
(72)【発明者】
【氏名】石川 福人
(72)【発明者】
【氏名】杉澤 正則
【審査官】金田 孝之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-144767(JP,A)
【文献】特開2016-065153(JP,A)
【文献】特開2017-112277(JP,A)
【文献】特開2018-003105(JP,A)
【文献】特開2014-001439(JP,A)
【文献】特開2003-155575(JP,A)
【文献】特開2002-206170(JP,A)
【文献】特表2018-526531(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1473959(CN,A)
【文献】米国特許第5011708(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0136019(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/373
B32B 9/00
B32B 15/01
C22C 19/03
C22C 23/00
C22C 28/00
C22C 30/00
C23C 18/32
C23C 18/38
C23C 18/52
C23C 28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
純マグネシウム又はマグネシウム合金とSiCとを含む複合材料で構成される基板と、
前記基板の表面に設けられた被覆層とを備え、
前記被覆層は、
最表面に設けられた最表面層と、
前記最表面層の直下に設けられた中間層とを有し、
前記最表面層は、ニッケルとリンとを含み、
前記最表面層における前記ニッケルの含有量は、前記最表面層の全構成元素を100質量%とするとき、
98質量%以上99質量%以下であり、
前記最表面層における前記リンの含有量は、前記最表面層の全構成元素を100質量%とするとき、1質量%以上
2質量%以下であり、
前記中間層は、銅を主成分とし、
前記中間層の厚みは、30μm以上であ
り、
前記最表面層は、前記中間層よりも優先的に腐食する犠牲層として作用する、
複合部材。
【請求項2】
前記被覆層は、前記中間層の直下に設けられた内側層を有し、
前記内側層は、ニッケルとリンとを含む請求項1に記載の複合部材。
【請求項3】
前記中間層の厚みは、200μm以下である請求項1又は請求項2に記載の複合部材。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の複合部材で構成される、
放熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合部材、及び放熱部材に関する。本出願は、2019年4月2日に出願した日本特許出願である特願2019-070853号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
特開2012-144767号公報(特許文献1)の複合部材は、複合材料からなる基板と、基板の表面を覆う金属被覆層とを備える。複合材料は、マグネシウム又はマグネシウム合金とSiCとが複合されてなる。金属被覆層は、基板側から順に、下地層、亜鉛層、銅めっき層、ニッケルめっき層を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示に係る複合部材は、
純マグネシウム又はマグネシウム合金とSiCとを含む複合材料で構成される基板と、
前記基板の表面に設けられた被覆層とを備え、
前記被覆層は、
最表面に設けられた最表面層と、
前記最表面層の直下に設けられた中間層とを有し、
前記最表面層は、ニッケルとリンとを含み、
前記中間層は、銅を主成分とし、
前記中間層の厚みは、30μm以上である。
【0005】
本開示に係る放熱部材は、上記本開示に係る複合部材で構成される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る複合部材の概略を示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る複合部材に備わる基板の組織の概略を示す説明図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る複合部材に備わる被覆層の概略を示す断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態2に係る複合部材に備わる被覆層の概略を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
基板の耐食性に優れる上に、放熱性に優れる複合部材の開発が望まれている。
【0008】
そこで、本開示は、基板の耐食性に優れる上に、放熱性に優れる複合部材を提供することを目的の一つとする。また、本開示は、基板の耐食性に優れる上に、放熱性に優れる放熱部材を提供することを別の目的の一つとする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示に係る複合部材及び本開示に係る放熱部材は、基板の耐食性に優れる上に、放熱性に優れる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
本発明者らは、ニッケルで構成された最表面層と最表面層の直下に設けられて銅で構成された中間層とを有する上述の複合部材において、基板の耐食性について調べた。一般的に、ニッケルのイオン化傾向は銅のイオン化傾向よりも大きい。そのため、本発明者らは、塩水中などの腐食環境下において、次の結果が得られると考えていた。銅で構成される中間層ではなく、ニッケルで構成された最表面層が優先的に腐食する犠牲層となる。その結果、従来の複合部材は、中間層の腐食を抑制できて基板の腐食を抑制できる。
【0011】
しかし、腐食環境下において、基板が腐食した。本発明者らは、その原因を鋭意検討したところ、以下の知見を得た。腐食環境下では、ニッケルと銅のイオン化傾向の大小関係が逆転する。即ち、腐食環境下では、銅のイオン化傾向がニッケルのイオン化傾向よりも大きくなる。そのため、最表面層ではなく中間層が腐食する。最表面層がニッケルで構成されていると、中間層の厚みが厚くても、基板の腐食が抑制され難い。
【0012】
そこで、本発明者らは、更に被覆層の構成を鋭意検討したところ、以下の知見を得た。最表面層がニッケルに加えてリンを含み、最表面層の直下に設けらて銅を主成分とする中間層の厚みを厚くすることで、基板の耐食性を向上できる。本発明は、これらの知見に基づくものである。最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0013】
(1)本開示の一態様に係る複合部材は、
純マグネシウム又はマグネシウム合金とSiCとを含む複合材料で構成される基板と、
前記基板の表面に設けられた被覆層とを備え、
前記被覆層は、
最表面に設けられた最表面層と、
前記最表面層の直下に設けられた中間層とを有し、
前記最表面層は、ニッケルとリンとを含み、
前記中間層は、銅を主成分とし、
前記中間層の厚みは、30μm以上である。
【0014】
上記の構成は、基板の耐食性に優れる。その理由は、銅を主成分とする中間層の直上に設けられる最表面層がニッケルに加えてリンを含むからである。その上、中間層の厚みが十分に厚いからである。最表面層がニッケルに加えてリンを含むことで、最表面層の直下に銅を主成分とする中間層を設けても、腐食環境下でも最表面層と中間層の構成材料におけるイオン化傾向の大小関係が逆転しない。即ち、最表面層の構成材料のイオン化傾向が中間層の構成材料のイオン化傾向よりも大きい。そのため、腐食環境下でも中間層ではなく最表面層が優先的に腐食する犠牲層となる。よって、中間層の腐食が抑制される。このように中間層の腐食が抑制される上に、中間層が十分に厚いため、基板の腐食が抑制される。
【0015】
また、上記の構成は、放熱性に優れる。その理由は、熱伝導率の高い銅を主成分とする中間層の厚みが十分に厚いからである。そのため、上記の構成は、放熱部材に好適に利用できる。
【0016】
更に、上記の構成は、半田との密着性に優れる。その理由は、最表面層がニッケルを含むことで半田とのなじみ性に優れるからである。そのため、上記の構成は、例えば半導体装置の半導体素子や半導体素子が搭載される絶縁基板など、半田によって接合される相手部材との密着性に優れる。
【0017】
(2)上記複合部材の一形態として、
前記被覆層は、前記中間層の直下に設けられた内側層を有し、
前記内側層は、ニッケルとリンとを含むことが挙げられる。
【0018】
上記の構成は、基板と被覆層との密着性を高められる。内側層は、ニッケルとリンとを含むことで、基板と中間層のいずれに対してもなじみ性が良いからである。
【0019】
(3)上記複合部材の一形態として、
前記中間層の厚みは、200μm以下であることが挙げられる。
【0020】
上記の構成は、熱膨張係数の増加、重量の増加、生産性の低下を抑制し易い。その理由は、中間層の厚みが厚すぎないからである。このように上記の構成は、上述のように放熱性に優れる上に、本構成により熱膨張係数の増加を抑制できるため、放熱部材として一層好適に利用できる。特に、上記の構成は、上述のように半田との密着性にも優れるため、半田によって接合される相手部材の放熱部材に好適である。その理由は、熱膨張係数の増加が抑制されることで、ヒートサイクルを受けても熱伸縮により相手部材が複合部材から剥離し難いからである。
【0021】
(4)本開示の一形態に係る放熱部材は、
上記(1)から上記(3)のいずれか一つに記載の複合部材で構成される。
【0022】
上記の構成は、放熱性に優れる。その理由は、放熱性に優れる複合部材で構成されるからである。特に、上記の構成は、半田によって接合される相手部材の熱を効率よく放出し易い。その理由は、半田との密着性に優れる複合部材で構成されるからである。また、上記の構成は、腐食環境下でも好適に利用できる。その理由は、耐食性に優れる基板を備える複合部材で構成されるからである。
【0023】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態の詳細を、以下に説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0024】
《実施形態1》
〔複合部材〕
実施形態1の複合部材1を、
図1から
図3を参照して説明する。本形態の複合部材1は、基板2と被覆層3とを備える。基板2は、純マグネシウム(Mg)又はMg合金とSiC(炭化ケイ素)とを含む複合材料で構成される。被覆層3は、基板2の表面に設けられている。本形態における複合部材1の特徴の一つは、被覆層3が最表面に設けられた特定の最表面層32と最表面層32の直下に設けられた特定の中間層31とを有する点にある(
図3)。以下、各構成を詳細に説明する。
図2は、
図1の基板2上に示す破線の円で囲まれた領域を拡大して示す。
図3は、
図1の基板2と被覆層3との境界付近に示す破線の楕円で囲まれた領域を拡大して示す。
【0025】
[基板]
基板2は、金属20と非金属22とを含む複合材料で構成されている(
図2)。基板2は、公知のものを利用できる。
【0026】
(金属)
金属20は、純Mg又はMg合金で構成されている。純Mgは、99.8質量%以上のMgを含み、残部が不可避的不純物からなる。Mg合金は、添加元素を含有し、残部がMg及び不可避的不純物からなる。添加元素は、例えば、Li(リチウム),Ag(銀),Ni(ニッケル),Ca(カルシウム),Al(アルミニウム),Zn(亜鉛),Mn(マンガン),Si(ケイ素),Cu(銅),Zr(ジルコニウム),Be(ベリリウム),Sr(ストロンチウム),Y(イットリウム),Sn(スズ),Ce(セリウム),及び希土類元素(Y,Ceを除く)からなる群より選択される少なくとも一種の元素が挙げられる。これらの元素の合計含有量は、Mg合金全体を100質量%とするとき、20質量%以下が好ましい。上記合計含有量が20質量%以下の基板2は、添加元素の含有量が多すぎないため、熱伝導率の低下を抑制できる。Mg合金は、公知の規格合金などを利用できる。金属20が純Mgで構成された基板2は、金属20がMg合金で構成された基板2に比較して、熱伝導率に優れる傾向にある。一方、金属20がMg合金で構成された基板2は、金属20が純Mgで構成された基板2に比較して、耐食性などに優れる傾向にある。
【0027】
(非金属)
非金属22は、SiCで構成されている。SiCは、熱伝導率が高い。そのため、この基板2は、放熱部材に好適に利用できる。また、SiCは、Mgよりも熱膨張係数が小さい。そのため、この基板2は、例えば、半導体装置(図示略)の半導体素子や半導体素子が搭載される絶縁基板などの相手部材との熱膨張係数の整合性に優れる。よって、この基板2は、半導体素子などの放熱部材に好適である。
【0028】
〈存在形態〉
非金属22の存在状態は、代表的には、粉末形態やネットワーク形態が挙げられる。粉末形態は、金属20のマトリクス中に非金属22が粉末粒子として存在する。ネットワーク形態は、非金属22同士を結合するネットワーク部により連結され、非金属22の間に金属20が充填された形態をいう。基板2中の非金属22は、代表的には原料に用いた組成、形状、大きさなどが実質的に維持されて存在する。非金属22の存在状態は、原料にSiC粉末を用いれば、上記粉末形態となる。また、非金属22の存在状態は、原料に網目状のSiC多孔体などの成形体を用いれば、上記ネットワーク形態となる。
【0029】
〈含有量〉
基板2中のSiCの含有量は、基板2を100体積%とするとき、50体積%以上が好ましい。SiCの含有量が50体積%以上であることで、熱伝導率が高くなり易い上に、熱膨張係数が小さくなり易い。基板2中のSiCの含有量が多いほど、基板2の熱伝導率が高くなり易い上に、基板2の熱膨張係数が小さくなり易い。基板2中のSiCの含有量は、更に60体積%以上が好ましく、特に65体積%以上が好ましい。基板2中のSiCの含有量は、例えば、90体積%以下が好ましい。その理由は、SiCの含有量が90体積%以下であることで、基板2の製造性に優れるからである。基板2中のSiCの含有量は、更に85体積%以下が好ましい。
【0030】
(その他)
基板2は、SiCに加えて、以下の非金属を含むことができる。非金属は、例えば、Si3N4、Si、MgO、Mg2Si、MgB2、Al2O3、AlN、SiO2、ダイヤモンド、及びグラファイトから選択される少なくとも1種が挙げられる。これらの非金属は、熱膨張係数がMgよりも小さく、熱伝導性に優れ、かつMgと反応し難い。
【0031】
(平面形状)
基板2の平面形状は、特に限定されず、複合部材1の用途に応じて適宜選択できる。基板2の平面形状は、代表的には、矩形状が挙げられる。その他、基板2の平面形状は、円形、楕円形、矩形以外の種々の多角形などが挙げられる。
【0032】
(厚み)
基板2の厚みは、特に限定されず、複合部材1の用途に応じて適宜選択できる。複合部材1を例えば半導体素子などの放熱部材として用いる場合、基板2の厚みは、例えば、10mm以下が挙げられ、更には6mm以下が挙げられる。
【0033】
[被覆層]
被覆層3は、基板2の表面に設けられている(
図1)。被覆層3の被覆領域は、複合部材1の用途に応じて適宜選択できる。複合部材1を半導体素子などの放熱部材に利用する場合、基板2の対向する一対の面のうち、一方の面は半導体素子が実装される実装面に利用される。他方の面は冷却装置に接触する冷却面として利用される。通常、上記実装面に半田が塗布される。そのため、被覆層3の被覆領域は、実装面の少なくとも半田が塗布される領域が挙げられる。被覆層3の被覆領域は、基板2の実装面の全域にわたる領域としてもよいし、基板2の実装面と冷却面の全域にわたる領域としてもよいし、基板2の表面の全域にわたる領域としてもよい。被覆層3は、本形態では基板2側から順に中間層31、最表面層32を有する二層構造である(
図3)。
図3の中間層31の厚み及び最表面層32の厚みは、模式的に示されたものであり、必ずしも実際の厚みに対応しているわけではない。
【0034】
(中間層)
中間層31は、最表面層32の直下に設けられている。この中間層31は、本形態では基板2の直上に設けられている。
【0035】
中間層31は、Cuを主成分とする。Cuを主成分とするとは、中間層31の全構成元素を100質量%とするとき、Cuの含有量が98.0質量%以上を満たすことをいう。中間層31におけるCuの含有量は、更に99.0質量%以上が好ましく、特に99.5質量%以上が好ましい。中間層31は、実質的にCuのみで構成されていてもよい。実質的にCuのみで構成とは、Cu以外に不可避不純物を含むことを許容することをいう。ここでは、中間層31の組成と含有量とは、エネルギー分散型X線分析(EDX)により求めるものとする。
【0036】
中間層31の厚みは、30μm以上が挙げられる。中間層31の厚みが30μm以上を満たす複合部材1は、基板2の耐食性に優れる上に、放熱性に優れる。その理由は、中間層31の厚みが十分に厚いからである。中間層31の厚みは、200μm以下が好ましい。中間層31の厚みが200μm以下を満たす複合部材1は、熱膨張係数の増加、重量の増加、生産性の低下を抑制し易い。その理由は、中間層31の厚みが厚すぎないからである。この複合部材1は、放熱性に優れる上に熱膨張係数の増加を抑制できるため、放熱部材に好適である。中間層31の厚みは、更に50μm以上150μm以下が好ましく、特に80μm以上100μm以下が好ましい。中間層31の厚みの求め方は後述する。
【0037】
(最表面層)
最表面層32は、被覆層3のうち最表面に設けられる。この最表面層32は、中間層31の直上に設けられている。最表面層32の組成は、NiとP(リン)とを含有する。Niを含む最表面層32は、半田とのなじみ性に優れるため、半田との密着性に優れる。そのため、最表面層32は、半田によって接合される半導体素子などの相手部材との密着性に優れる。また、Niに加えてPを含む最表面層32は、その直下に中間層31が設けられていても、腐食環境下でも優先的に腐食する犠牲層としての機能を有する。そのため、最表面層32は、中間層31の腐食を抑制できる。よって、最表面層32は、基板2の腐食を抑制できる。
【0038】
最表面層32におけるNiの含有量は、最表面層32の全構成元素を100質量%とするとき、87質量%以上99質量%以下が挙げられる。最表面層32におけるPの含有量は、最表面層32の全構成元素を100質量%とするとき、1質量%以上13質量%以下が挙げられる。Pの含有量が少ないほど、最表面層32は半田との密着性が高い。Pの含有量が多いほど、最表面層32は耐食性に優れる。最表面層32におけるPの含有量は、求められる特性に応じて上記の範囲内において適宜選択するとよい。最表面層32は、実質的にNiとPのみで構成されていてもよい。実質的にNiとPのみで構成とは、NiとP以外に不可避不純物を含むことを許容することをいう。最表面層32の組成と含有量とは、上述の中間層31と同様、EDXにより求めるものとする。
【0039】
最表面層32の厚みは、例えば、0.1μm以上6.0μm以下が好ましい。最表面層32の厚みが0.1μm以上の複合部材1は、基板2の耐食性と、半田との密着性に優れる。その理由は、最表面層32の厚みが十分に厚いからである。最表面層32の厚みが6.0μm以下の複合部材1は、熱膨張係数の増加、熱伝導率の低下、生産性の低下を抑制し易い。最表面層32の厚みは、更に1.5μm以上5.0μm以下が好ましく、特に2.0μm以上4.0μm以下が好ましい。最表面層32の厚みの求め方は後述する。
【0040】
[製造方法]
本形態の複合部材1は、基板2の表面に基板2側から順に、中間層31、最表面層32を形成することで製造できる。基板2は、公知の溶浸法、加圧溶浸法、粉末冶金法、溶融法などにより製造することで用意してもよいし、市販品を購入するなどして用意してもよい。中間層31の形成は、ダイレクトプレーティングにより行える。ダイレクトプレーティングは、基板2に対して触媒を付着させて行う。触媒としては、例えば、パラジウムやカーボンが挙げられる。その他、中間層31は、無電解Cuめっき後に電気Cuめっきを行うことで形成できる。また、中間層31は、Cuをスパッタリングした後に電気Cuめっきを行うことで形成できる。最表面層32の形成は、めっき法などで行える。めっき法としては、電気めっき、無電解めっきなどが挙げられる。
【0041】
〔作用効果〕
本形態の複合部材1は、基板2の耐食性と放熱性とに優れる。そのため、本形態の複合部材1は、腐食環境下において使用される放熱部材に好適に利用できる。更に、本形態の複合部材1は、半田との密着性に優れる上に、半導体などとの熱膨張係数の整合性に優れる。そのため、本形態の複合部材1は、半田によって接合される半導体素子などの放熱部材に好適である。
【0042】
《実施形態2》
〔複合部材〕
実施形態2の複合部材1を、
図4を参照して説明する。本形態の複合部材1は、被覆層3が中間層31の直下に特定の内側層30を有する点が、実施形態1の複合部材1と相違する。即ち、被覆層3は、基板2側から順に、内側層30、中間層31、最表面層32を有する三層構造である。
図4は、
図3に示す断面図と同様の位置を拡大して示す断面図である。以下の説明は、実施形態1との相違点を中心に行う。実施形態1と同様の構成の説明は省略する。
【0043】
[被覆層]
(内側層)
内側層30は、中間層31の直下に設けられている。この内側層30は、本形態では基板2の直上に設けられている。
【0044】
内側層30の組成は、NiとPとを含有する。NiとPとを含む内側層30は、基板2と中間層31との密着性に優れる。内側層30におけるNiの含有量は、上述の最表面層32と同じ範囲が挙げられる。同様に、内側層30におけるPの含有量は、上述の最表面層32と同じ範囲が挙げられる。内側層30は、実質的にNiとPのみで構成されていてもよい。実質的にNiとPのみで構成とは、NiとP以外に不可避不純物を含むことを許容することをいう。内側層30におけるNiとPの含有量は、最表面層32と同一であってもよいし異なっていてもよい。内側層30の材質は、上述の中間層31などと同様、EDXにより求められる。
【0045】
内側層30の厚みは、例えば、3.0μm以上20.0μm以下が好ましい。内側層30の厚みが3.0μm以上の複合部材1は、基板2の耐食性に優れる。その理由は、内側層30の厚みが十分に厚いからである。内側層30の厚みが20.0μm以下の複合部材1は、複合部材1の熱膨張係数の増加や熱伝導率の低下を抑制し易い。内側層30の厚みは、更に4.0μm以上15.0μm以下が好ましく、特に6.0μm以上12.0μm以下が好ましい。内側層30の厚みは、最表面層32の厚みと同一であってもよいし、最表面層32の厚みと異なっていてもよい。内側層30の厚みの求め方は後述する。
【0046】
[製造方法]
本形態の複合部材1は、基板2の表面に基板2側から順に、内側層30、中間層31、最表面層32を形成することで製造できる。基板2の準備は、上述の通りである。内側層30の形成は、上述した最表面層32の形成と同様、めっき法などで行える。中間層31及び最表面層32の形成は、上述の通りである。
【0047】
〔作用効果〕
本形態の複合部材1は、実施形態1の複合部材1と同様の効果を奏することができる。その上、本形態の複合部材1は、実施形態1の複合部材1に比較して、被覆層3が内側層30を有するため、基板2と被覆層3との密着性に優れる。
【実施例】
【0048】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0049】
《試験例1》
基板の表面に種々の被覆層を形成した複合部材を作製し、複合部材における基板の耐食性と、複合部材の熱膨張係数(ppm/K)及び熱伝導率(W/m・K)とを調べた。基板は、純MgとSiCとを含む複合材料からなるものを用いた。基板中のSiCの含有量は、70体積%とした。基板の厚みは5mmである。
【0050】
〔試料No.1~No.4〕
試料No.1~No.4の複合部材は、基板の直上に基板側から順に、第一層、及び第二層を有する二層構造の被覆層を形成して作製した。即ち、第二層が最表面層である。また、第一層が最表面層の直下に設けられた層である。第一層は、実質的にCuのみで構成されるCuめっき層を形成した。第一層の形成は、ダイレクトプレーティングにより行った。ダイレクトプレーティングは、基板に付着させる触媒の粉末にパラジウムを用いて行った。その際、処理時間を種々変更して、第一層の厚みを異ならせた。第二層は、実質的にNiとPのみで構成されるNi-Pめっき層を形成した。第二層の形成は、無電解めっきにより行った。無電解めっきのめっき液は、奥野製薬工業株式会社製のトップニコロンLPH-LFを用いた。めっき液の温度は85℃とした。処理時間は15minとした。第二層におけるPの濃度は2質量%であった。Pの濃度は、上述したように、EDXにより求めた。
【0051】
〔試料No.5,No.6〕
試料No.5,No.6の複合部材は、第二層のPの含有量を異ならせた点を除き、試料No.2と同様にして作製した。即ち、試料No.5,No.6の複合部材では、第二層が最表面層である。また、試料No.5,No.6の複合部材では、第一層が最表面層の直下に設けられた層である。試料No.5,No.6において、第二層の形成に用いた無電解めっきのめっき液の種類と、めっき液の温度と、処理時間とが、試料No.2と異なる。具体的には、試料No.5において、めっき液は、奥野製薬工業株式会社製のICPニコロンGM(NP)を用いた。めっき液の温度は80℃とした。処理時間は13minとした。試料No.6において、めっき液は、奥野製薬工業株式会社製のトップニコロンSA-98-LFを用いた。めっき液の温度は90℃とした。処理時間は13minとした。試料No.5の複合部材の第二層におけるPの濃度は6質量%であった。試料No.6の複合部材の第二層におけるPの濃度は11質量%であった。各第二層のPの濃度は、上述と同様、EDXにより求めた。
【0052】
〔試料No.7~No.10〕
試料No.7~No.10の複合部材は、基板の直上に基板側から順に、第一層、第二層、及び第三層を有する三層構造の被覆層を形成して作製した。即ち、第三層が最表面層である。また、第二層が最表面層の直下に設けられた層である。更に、第一層が第二層の直下に設けられた層である。第一層と第三層はいずれも、試料No.1の第二層と同様にして、実質的にNiとPのみで構成されるNi-Pめっき層(Pの含有量が2質量%)を形成した。第一層と第三層とは、処理時間を変更して、厚みを異ならせた。第二層は、試料No.1などの第一層と同様にして、実質的にCuのみで構成されるCuめっき層を形成した。
【0053】
〔試料No.101、No.102〕
試料No.101の複合部材は、第一層の厚みを異ならせた点を除き、試料No.1と同様にして作製した。試料No.101の複合部材では、第二層が最表面層である。また、試料No.101の複合部材では、第一層が最表面層の直下に設けられた層である。試料No.102の複合部材は、第二層の厚みを異ならせた点を除き、試料No.7と同様にして作製した。試料No.102の複合部材では、第三層が最表面層である。また、試料No.102の複合部材では、第二層が最表面層の直下に設けられた層である。更に、試料No.102の複合部材では、第一層が第二層の直下に設けられた層である。
【0054】
〔試料No.103〕
試料No.103の複合部材は、基板の直上に基板側から順に、第一層、及び第二層を有する二層構造の被覆層を形成して作製した。即ち、第二層が最表面層である。また、第一層が最表面層の直下に設けられた層である。第一層は、実質的にZrからなる層を形成した。第一層の形成は、化成処理により行った。第二層は、試料No.1の第二層と同様にして、実質的にNiとPのみで構成されるNi-Pめっき層を形成した。
【0055】
〔試料No.104〕
試料No.104の複合部材は、基板の直上に第一層のみからなる被覆層を形成して作製した。第一層は、試料No.1の第二層と同様にして、実質的にNiとPのみで構成されるNi-Pめっき層を形成した。
【0056】
〔試料No.105〕
試料No.105の複合部材は、基板の直上に基板側から順に、第一層、及び第二層を有する二層構造の被覆層を形成して作製した。即ち、第二層が最表面層である。また、第一層が最表面層の直下に設けられた層である。第一層は、試料No.1の第二層と同様にして、実質的にNiとPのみで構成されるNi-Pめっき層を形成した。第二層は、Niめっき層を形成した。第二層の形成は、電気めっきにより行った。
【0057】
〔試料No.106~No.110〕
試料No.106~No.110の複合部材は、基板の直上に基板側から順に、第一層、第二層、及び第三層を有する三層構造の被覆層を形成して作製した。即ち、第三層が最表面層である。また、第二層が最表面層の直下に設けられた層である。更に、第一層が第二層の直下に設けられた層である。第一層は、試料No.1の第二層と同様にして、実質的にNiとPのみで構成されるNi-Pめっき層を形成した。第二層は、試料No.1などの第一層と同様にして、実質的にCuのみで構成されるCuめっき層を形成した。第三層は、試料No.105の第二層と同様にして、Niめっき層を形成した。
【0058】
〔厚み測定〕
各層の厚みは、次のようにして求めた。各試料にCP(Cross-section Polisher)加工を施して厚み方向の断面をとる。この断面において、走査型電子顕微鏡により10以上の観察視野をとる。各視野の倍率及び各視野のサイズは、同一視野内に、各層における厚み方向の全域が含まれるサイズとする。各観察視野において、厚み方向に沿った各層の長さを10箇所以上測定する。各層において、測定した全ての長さの平均値をとる。各平均値を各層の厚みとする。各層の厚みを表1に示す。
【0059】
〔耐食性の評価〕
耐食性の評価は、塩水噴霧試験をJIS Z 2371(2015)に準拠して行い、孔食の発生時間と、168時間(hr)後の腐食状態とを調べることで行った。塩水噴霧試験は、5質量パーセント濃度の塩化ナトリウム水溶液を用いた。試験温度は、35℃とした。試験時間は、168hrとした。
【0060】
孔食の発生は、目視により確認した。この確認は、試験開始から168hrまで24hrごとに行った。その結果を表1を示す。表1の孔食開始時間の欄の「-」は、孔食が発生しなかったことを意味する。
【0061】
168hr経過後の各試料の腐食状態は、目視により確認した。168hr経過後の状態の評価は、「A」、「B」、「C」の三段階で行った。孔食が発生していないものを「A」とし、孔食が発生したものを「B」とし、試料の形状が維持されていないものを「C」とした。試料の形状が維持されていないとは、基板の四隅がなくなっていたり、腐食生成物で複合部材の全面が覆われていたりする場合を言う。腐食生成物で複合部材の全面が覆われている場合、基板自体が腐食している。その結果を表1に示す。
【0062】
〔熱膨張係数及び熱伝導率の測定〕
熱膨張係数及び熱伝導率の測定は、各試料から測定用の試験片を切り出し、市販の測定器(NETZSCH JAPAN製 TMA4000SE)を用いて行った。熱伝導率は、室温(20℃程度)で測定した。熱膨張係数は、30℃~120℃の範囲について測定した平均値である。それら結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
表1に示すように、試料No.1~No.10の複合部材は、塩水噴霧試験の開始から168hr経過後に孔食が発生しなかった。試料No.1~No.3、No.5~No.10の複合部材は、熱膨張係数が7.5ppm/K、7.6ppm/Kであった。これに対して、試料No.4の複合部材は、熱膨張係数が7.8ppm/Kであり、試料No.1などに比較して熱膨張係数が高かった。試料No.1~No.10の複合部材はいずれも、熱伝導率が220W/m・K以上であった。試料No.1~No.10の複合部材は、実質的にCuで構成されるCu層(試料No.1~No.6では第一層、試料No.7~No.10では第二層)の厚みが厚いほど、熱伝導率が高くなる傾向にある。
【0065】
これに対して、試料No.101~No.110の複合部材はいずれも、塩水噴霧試験の開始から96hrの時点までに孔食が発生した。特に、試料No.103、No.104の複合部材は、塩水噴霧試験の開始から168hr経過後の形状が維持されていなかった。
【0066】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
【0067】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
1 複合部材、2 基板、20 金属、22 非金属、3 被覆層、30 内側層、31 中間層、32 最表面層