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特許7469316熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュールおよび光センサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュールおよび光センサ
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/852 20230101AFI20240409BHJP
【FI】
H10N10/852
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021542611
(86)(22)【出願日】2020-07-15
(86)【国際出願番号】 JP2020027442
(87)【国際公開番号】W WO2021039168
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2019158548
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】足立 真寛
(72)【発明者】
【氏名】山本 喜之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 恒博
【審査官】今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/153335(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109585638(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/852
H10N 10/17
G01J 1/02
H02N 11/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式Ag2-xαSで表され、
αは、Ni、VおよびTiのうちのいずれか一つから選択され、
xの値は、0よりも大きく、0.6よりも小さい、熱電変換材料。
【請求項2】
xの値は、0.2よりも小さい、請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
xの値は、0.002よりも大きい、請求項1または請求項2に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
xの値は、0.02よりも大きい、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱電変換材料。
【請求項5】
熱電変換材料部と、
前記熱電変換材料部に接触して配置される第1電極と、
前記熱電変換材料部に接触し、前記第1電極と離れて配置される第2電極と、を備え、
前記熱電変換材料部を構成する材料は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱電変換材料である、熱電変換素子。
【請求項6】
請求項5に記載の熱電変換素子を含む、熱電変換モジュール。
【請求項7】
光エネルギーを吸収する吸収体と、
前記吸収体に接続される熱電変換材料部と、を備え、
前記熱電変換材料部を構成する材料は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱電変換材料である、光センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュールおよび光センサに関するものである。
【0002】
本出願は、2019年8月30日出願の日本出願第2019-158548号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0003】
半導体であるBiTe、BiSeまたはBiSeTe3-x(0<x<3)からなるナノワイヤまたはナノチューブを不織布状に集積して形成されたものが、熱電変換素子を構成する熱電変換材料部として用いられている(例えば、特許文献1)。カルコゲナイト系のナノ粒子の溶液をフレキシブル基板に塗布し、乾燥して得られたフィルムが、熱電変換素子を構成する熱電変換材料部として用いられている(例えば、特許文献2)。カルコゲナイト系の薄膜をフレキシブル基板上に成膜したものが、熱電変換素子を構成する熱電変換材料部として用いられている(例えば、特許文献3)。また、延性を有する材料としてα-AgS(硫化銀)が知られている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/126211号
【文献】特開2016-163039号公報
【文献】特開昭63-102382号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Guodong Li et al.、“Ductile deformation mechanism in semiconductor α-Ag2S”、npj Computational Materials (2018) 44
【発明の概要】
【0006】
本開示に従った熱電変換素子は、組成式Ag2-xαSで表される。αは、Ni、VおよびTiのうちのいずれか一つから選択される。xの値は、0よりも大きく、0.6よりも小さい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施の形態1における熱電変換材料の外観を示す概略図である。
図2図2は、実施の形態1における熱電変換材料のエネルギー状態を示す概略図である。
図3図3は、第一原理計算に基づいて算出された実施の形態1における熱電変換材料のエネルギー状態を示す図である。
図4図4は、実施の形態2における熱電変換材料のエネルギー状態を示す概略図である。
図5図5は、第一原理計算に基づいて算出された実施の形態2における熱電変換材料のエネルギー状態を示す図である。
図6図6は、第一原理計算に基づいて算出された実施の形態3における熱電変換材料のエネルギー状態を示す図である。
図7図7は、熱電変換素子であるπ型熱電変換素子(発電素子)の構造を示す概略図である。
図8図8は、発電モジュールの構造の一例を示す図である。
図9図9は、赤外線センサの構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
熱電変換においては、熱が電気へと直接変換されるため、変換の際に余分な廃棄物が排出されない。熱電変換を利用した発電装置においては、モータなどの駆動部を必要としないため、装置のメンテナンスが容易であるなどの特長がある。
【0009】
熱電変換における熱源として、室温よりも高い流体を流すパイプや人体を用いることが考えられる。例えば、人体の表面やパイプの表面等の曲面に沿って熱電変換材料から構成される熱電変換材料部を貼り付けることができれば、実用面の観点から好ましい。熱電変換材料に可撓性があれば、熱電変換材料部を曲面に沿って貼り付けることが容易になる。また、熱電変換材料については、効率的に熱電変換できることが求められる。
【0010】
そこで、可撓性を有すると共に効率的な熱電変換を実現できる熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュールおよび光センサを提供することを目的の1つとする。
【0011】
[本開示の効果]
上記熱電変換材料は、可撓性を有すると共に効率的な熱電変換を実現することができる。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示に係る熱電変換材料は、組成式Ag2-xαSで表される。αは、Ni(ニッケル)、V(バナジウム)およびTi(チタン)のうちのいずれか一つから選択される。xの値は、0よりも大きく、0.6よりも小さい。
【0013】
本発明者らは、可撓性を有すると共に効率的な熱電変換を実現するべく鋭意検討した。そして、組成式Ag2-xαSで表され、αは、Ni、VおよびTiのうちのいずれか一つから選択され、xの値は、0よりも大きく、0.6よりも小さい熱電変換材料が、可撓性を有すると共に効率的な変換効率を実現できることを見出した。すなわち、組成式Ag2-xαSで表され、αは、Ni、VおよびTiのうちのいずれか一つから選択され、xの値が0よりも大きく、0.6よりも小さい熱電変換材料は、可撓性を有すると共に効率的な熱電変換を実現することができる。
【0014】
このような熱電性能を発現する理由については、例えば以下のように考えることができる。αとしてNi、VおよびTiのうちのいずれか一つを添加すると、ベースとなる材料において、価電子帯と伝導帯との間、具体的には、禁制帯内における価電子帯の端または伝導帯の端に新規の状態密度のピークが形成される。これにより、アクセプタ準位またはドナー準位が形成され、p型またはn型の化合物半導体を形成することができる。xの値が0よりも大きく、0.6よりも小さいため、化合物半導体の状態密度が崩れることを抑制することができる。よって、本開示の熱電変換材料によると、可撓性を有すると共に効率的な熱電変換を実現することができると考えられる。
【0015】
上記熱電変換材料において、xの値は、0.2よりも小さくてもよい。このようにすることにより、化合物半導体の状態密度が崩れることをより確実に抑制することができる。
【0016】
上記熱電変換材料において、xの値は、0.002よりも大きくてもよい。このようにすることにより、添加元素として効果的に導電性を付与することができる。
【0017】
上記熱電変換材料において、xの値は、0.02よりも大きくてもよい。このようにすることにより、より確実に可撓性を有すると共に効率的な熱電変換を実現することができる熱電変換材料を得ることができる。
【0018】
本開示の熱電変換素子は、熱電変換材料部と、熱電変換材料部に接触して配置される第1電極と、熱電変換材料部に接触し、第1電極と離れて配置される第2電極と、を備える。熱電変換材料部を構成する材料は、上記熱電変換材料である。
【0019】
本開示の熱電変換素子は、熱電変換材料部を構成する材料が、上記熱電変換材料である。そのため、本開示の熱電変換素子によれば、可撓性を有すると共に効率的な熱電変換を実現することができる。
【0020】
本開示の熱電変換モジュールは、上記熱電変換素子を含む。本開示の熱電変換モジュールによれば、可撓性を有すると共に効率的な熱電変換を実現することができる本開示の熱電変換素子を含むことにより、可撓性を有すると共に効率的な熱電変換を実現することができる熱電変換モジュールを得ることができる。
【0021】
本開示の光センサは、光エネルギーを吸収する吸収体と、吸収体に接続される熱電変換材料部と、を備える。熱電変換材料部を構成する材料は、上記熱電変換材料である。
【0022】
本開示の光センサにおいて、熱電変換材料部を構成する材料は、上記熱電変換材料である。そのため、可撓性を有すると共に高感度な光センサを提供することができる。
【0023】
[本開示の実施の形態の詳細]
次に、本開示の熱電変換材料の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0024】
(実施の形態1)
本開示の実施の形態1に係る熱電変換材料の構成について説明する。本開示の実施の形態1に係る熱電変換材料は、組成式Ag2-xαSで表される。αは、Ni(ニッケル)、V(バナジウム)およびTi(チタン)のうちのいずれか一つから選択される。本実施形態においては、具体的には、αとしてNiが選択される。xの値は、0よりも大きく、0.6よりも小さい。
【0025】
実施の形態1に係る熱電変換材料は、例えば以下の製造方法で製造することができる。まずAg(銀)の粉末と、S(硫黄)の粉末と、Niの粉末とを準備する。ここで、熱電変換材料を組成式Ag2-xNiSとして表した場合に、xの値が0よりも大きく、0.6よりも小さくなるよう、AgおよびNiの配合比率を調整する。これらの粉末を混合してプレスし、ペレット状に固めて圧粉体を得る。次に、得られたペレット状の圧粉体の一部を加熱して結晶化させる。
【0026】
圧粉体の一部の加熱は、例えば抵抗加熱ワイヤといった加熱ヒータを有するチャンバー内で行う。チャンバー内は減圧されている。具体的には、チャンバー内の真空度を例えば1×10-4Pa程度にする。そして、圧粉体を加熱ヒータでおおよそ1秒程度加熱する。結晶化開始温度に達すると圧粉体の一部が結晶化する。圧粉体の一部を結晶化させた後に加熱を停止する。この場合、改めて加熱を行わなくとも、自己発熱により結晶化が促進される。すなわち、結晶化の進行に伴う圧粉体の自己発熱により圧粉体の残部を結晶化させる。このようにして実施の形態1における熱電変換材料を得る。
【0027】
図1は、実施の形態1における熱電変換材料の外観を示す概略図である。図1を参照して、熱電変換材料11は、例えば厚みを有する帯状のバルク体である。熱電変換材料11は、金属製のローラを用いて圧延可能である。具体的には、金属製のローラを用いて熱電変換材料11を引き延ばし、例えば図1中のZ方向で示す厚みを5mmから1μmの範囲にすることができる。このような熱電変換材料11は、可撓性を有し、圧延の際に砕けることはない。熱電変換材料11は可撓性を有するため、曲面に沿って例えばZ方向に曲げることができる。
【0028】
図2は、実施の形態1における熱電変換材料のエネルギー状態を示す概略図である。図2において、横軸はエネルギー準位を示し、縦軸は状態密度を示す。
【0029】
図2を参照して、価電子帯12と伝導帯13との間に、禁制帯14が位置する。禁制帯14内には、添加元素であるNiによって形成される新規準位15が存在する。具体的には、禁制帯14内における価電子帯12の端に新規の状態密度のピークが形成される。この新規の状態密度のピークである新規準位15により、導電型をp型として実施の形態1における熱電変換材料の導電率を上げることができる。よって、効率的な熱電変換を実現することができる。
【0030】
なお、上記のエネルギー状態については、第一原理計算の結果からも把握できる。図3は、第一原理計算に基づいて算出された実施の形態1における熱電変換材料のエネルギー状態を示す図である。図3において、横軸はエネルギー(eV)を示し、縦軸は状態密度(States/eV basis)を示す。なお、図3において、参考としてAgSのエネルギー状態を、破線で示す。以下、図5および図6においても同様に、参考としてAgSのエネルギー状態を、破線で示す。
【0031】
図3を参照して、実線で示す組成式Ag2-xNiSのエネルギー状態は、価電子帯12と、伝導帯13と、を含む。そして、図3中に示す新規準位15は、禁制帯14内における価電子帯12の端に形成されている。このように、第一原理計算の結果からも新規準位15の存在を把握することができる。このような熱電変換材料は、可撓性を有すると共に効率的な変換効率を実現することができる。
【0032】
(実施の形態2)
次に、他の実施の形態である実施の形態2について説明する。実施の形態2の熱電変換材料は、αとしてVを選択している点において実施の形態1の場合とは異なっている。図4は、実施の形態2における熱電変換材料のエネルギー状態を示す概略図である。図4において、横軸はエネルギー準位を示し、縦軸は状態密度を示す。
【0033】
図4を参照して、価電子帯12と伝導帯13との間に、禁制帯14が位置する。禁制帯14内には、添加元素であるVによって形成される新規準位16が存在する。具体的には、禁制帯14内における伝導帯13の端に新規の状態密度のピークが形成される。この新規の状態密度のピークである新規準位16により、導電型をn型として実施の形態2における熱電変換材料の導電率を上げることができる。よって、効率的な熱電変換を実現することができる。
【0034】
なお、本実施形態においても、上記のエネルギー状態については、第一原理計算の結果からも把握できる。図5は、第一原理計算に基づいて算出された実施の形態2における熱電変換材料のエネルギー状態を示す図である。図5において、横軸はエネルギー(eV)を示し、縦軸は状態密度(States/eV basis)を示す。
【0035】
図5を参照して、実線で示す組成式Ag2-xSのエネルギー状態は、価電子帯12と、伝導帯13と、を含む。そして、図5中に示す新規準位16は、禁制帯14内における伝導帯13の端に形成されている。このように、第一原理計算の結果からも新規準位16の存在を把握することができる。このような熱電変換材料は、可撓性を有すると共に導電型をn型として効率的な変換効率を実現することができる。
【0036】
(実施の形態3)
次に、さらに他の実施の形態である実施の形態3について説明する。実施の形態3の熱電変換材料は、αとしてTiを選択している点において実施の形態1および実施の形態2の場合とは異なっている。
【0037】
図6は、第一原理計算に基づいて算出された実施の形態3における熱電変換材料のエネルギー状態を示す図である。図6において、横軸はエネルギー(eV)を示し、縦軸は状態密度(States/eV basis)を示す。
【0038】
図6を参照して、実線で示す組成式Ag2-xTiSのエネルギー状態は、価電子帯12と、伝導帯13と、を含む。そして、図6中に示す新規準位17は、禁制帯14内における伝導帯13の端に形成されている。このように、第一原理計算の結果からも新規準位17の存在を把握することができる。このような熱電変換材料は、可撓性を有すると共に導電型をn型として効率的な変換効率を実現することができる。
【0039】
なお、上記の実施の形態における熱電変換材料において、xの値を、0.2よりも小さくしてもよい。このようにすることにより、化合物半導体の状態密度が崩れることをより確実に抑制することができる。また、上記の実施の形態における熱電変換材料において、xの値を、0.002よりも大きくしてもよい。このようにすることにより、添加元素として効果的に導電性を付与することができる。また、上記の実施の形態における熱電変換材料において、xの値を、0.02よりも大きくしてもよい。このようにすることにより、より確実に可撓性を有すると共に効率的な熱電変換を実現することができる熱電変換材料を得ることができる。
【0040】
(実施の形態4)
次に、本開示に係る熱電変換材料を用いた熱電変換素子の一実施形態として、発電素子について説明する。
【0041】
図7は、本実施の形態における熱電変換素子であるπ型熱電変換素子(発電素子)21の構造を示す概略図である。図7を参照して、π型熱電変換素子21は、第1熱電変換材料部であるp型熱電変換材料部22と、第2熱電変換材料部であるn型熱電変換材料部23と、高温側電極24と、第1低温側電極25と、第2低温側電極26と、配線27とを備えている。
【0042】
n型熱電変換材料部23を構成する材料は、導電型がn型である熱電変換材料である。p型熱電変換材料部22を構成する材料は、導電型がp型である実施の形態1の熱電変換材料である。
【0043】
p型熱電変換材料部22とn型熱電変換材料部23とは、間隔をおいて並べて配置される。高温側電極24は、p型熱電変換材料部22の一方の端部31からn型熱電変換材料部23の一方の端部32にまで延在するように配置される。高温側電極24は、p型熱電変換材料部22の一方の端部31およびn型熱電変換材料部23の一方の端部32の両方に接触するように配置される。高温側電極24は、p型熱電変換材料部22の一方の端部31とn型熱電変換材料部23の一方の端部32とを接続するように配置される。高温側電極24は、導電材料、例えば金属からなっている。高温側電極24は、p型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23にオーミック接触している。
【0044】
第1低温側電極25は、p型熱電変換材料部22の他方の端部33に接触して配置される。第1低温側電極25は、高温側電極24と離れて配置される。第1低温側電極25は、導電材料、例えば金属からなっている。第1低温側電極25は、p型熱電変換材料部22にオーミック接触している。
【0045】
第2低温側電極26は、n型熱電変換材料部23の他方の端部34に接触して配置される。第2低温側電極26は、高温側電極24および第1低温側電極25と離れて配置される。第2低温側電極26は、導電材料、例えば金属からなっている。第2低温側電極26は、n型熱電変換材料部23にオーミック接触している。
【0046】
配線27は、金属などの導電体からなる。配線27は、第1低温側電極25と第2低温側電極26とを電気的に接続する。
【0047】
π型熱電変換素子21において、例えばp型熱電変換材料部22の一方の端部31およびn型熱電変換材料部23の一方の端部32の側が高温、p型熱電変換材料部22の他方の端部33およびn型熱電変換材料部23の他方の端部34の側が低温、となるように温度差が形成されると、p型熱電変換材料部22においては、一方の端部31側から他方の端部33側に向けてp型キャリア(正孔)が移動する。このとき、n型熱電変換材料部23においては、一方の端部32側から他方の端部34側に向けてn型キャリア(電子)が移動する。その結果、配線27には、矢印Iの向きに電流が流れる。このようにして、π型熱電変換素子21において、温度差を利用した熱電変換による発電が達成される。すなわち、π型熱電変換素子21は発電素子である。
【0048】
p型熱電変換材料部22を構成する材料として、実施の形態1の熱電変換材料が採用される。その結果、π型熱電変換素子21はp型熱電変換材料部22が位置する部分において可撓性を有する発電素子となっている。また、効率的な熱電変換を実現することができる発電素子となっている。
【0049】
なお、p型熱電変換材料部22を構成する材料として、実施の形態1以外の熱電変換材料を採用し、n型熱電変換材料部23を構成する材料として、実施の形態2または実施の形態3の熱電変換材料を採用してもよい。このようなπ型熱電変換素子21はn型熱電変換材料部23が位置する部分において可撓性を有する発電素子となっている。また、効率的な熱電変換を実現することができる発電素子となっている。
【0050】
また、p型熱電変換材料部22を構成する材料として、実施の形態1の熱電変換材料を採用し、n型熱電変換材料部23を構成する材料として、実施の形態2または実施の形態3の熱電変換材料を採用してもよい。このようなπ型熱電変換素子21はp型熱電変換材料部22が位置する部分およびn型熱電変換材料部23が位置する部分において可撓性を有する発電素子となっている。また、効率的な熱電変換を実現することができる発電素子となっている。
【0051】
上記実施の形態においては、本開示の熱電変換素子の一例としてπ型熱電変換素子について説明したが、本開示の熱電変換素子はこれに限られない。本開示の熱電変換素子は、例えばI型(ユニレグ型)熱電変換素子など、他の構造を有する熱電変換素子であってもよい。
【0052】
(実施の形態5)
π型熱電変換素子21を複数個電気的に接続することにより、熱電変換モジュールとしての発電モジュールを得ることができる。本実施の形態の熱電変換モジュールである発電モジュール41は、π型熱電変換素子21が直列に複数個接続された構造を有する。
【0053】
図8は、発電モジュールの構造の一例を示す図である。図8を参照して、本実施の形態の発電モジュール41は、p型熱電変換材料部22と、n型熱電変換材料部23と、第1低温側電極25および第2低温側電極26に対応する低温側電極25、26と、高温側電極24と、低温側絶縁体基板28と、高温側絶縁体基板29とを備える。低温側絶縁体基板28および高温側絶縁体基板29は、アルミナなどのセラミックからなる。p型熱電変換材料部22とn型熱電変換材料部23とは、交互に並べて配置される。低温側電極25、26は、上述のπ型熱電変換素子21と同様にp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23に接触して配置される。高温側電極24は、上述のπ型熱電変換素子21と同様にp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23に接触して配置される。p型熱電変換材料部22は、一方側に隣接するn型熱電変換材料部23と共通の高温側電極24により接続される。また、p型熱電変換材料部22は、上記一方側とは異なる側に隣接するn型熱電変換材料部23と共通の低温側電極25、26により接続される。このようにして、全てのp型熱電変換材料部22とn型熱電変換材料部23とが直列に接続される。
【0054】
低温側絶縁体基板28は、板状の形状を有する低温側電極25、26のp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23に接触する側とは反対側の主面側に配置される。低温側絶縁体基板28は、複数の(全ての)低温側電極25、26に対して1枚配置される。高温側絶縁体基板29は、板状の形状を有する高温側電極24のp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23に接触する側とは反対側に配置される。高温側絶縁体基板29は、複数の(全ての)高温側電極24に対して1枚配置される。
【0055】
直列に接続されたp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23のうち両端に位置するp型熱電変換材料部22またはn型熱電変換材料部23に接触する高温側電極24または低温側電極25、26に対して、配線27が接続される。そして、高温側絶縁体基板29側が高温、低温側絶縁体基板28側が低温となるように温度差が形成されると、直列に接続されたp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23により、上記π型熱電変換素子21の場合と同様に矢印Iの向きに電流が流れる。このようにして、発電モジュール41において、温度差を利用した熱電変換による発電が達成される。
【0056】
(実施の形態6)
次に、本開示に係る熱電変換材料を用いた熱電変換素子の他の実施の形態として、光センサの一つである赤外線センサについて説明する。
【0057】
図9は、赤外線センサ51の構造の一例を示す図である。図9を参照して、赤外線センサ51は、隣接して配置されるp型熱電変換材料部52と、n型熱電変換材料部53とを備える。p型熱電変換材料部52とn型熱電変換材料部53とは、基板54上に形成される。
【0058】
赤外線センサ51は、基板54と、エッチングストップ層55と、n型熱電変換材料層56と、n型オーミックコンタクト層57と、絶縁体層58と、p型熱電変換材料層59と、n側オーミックコンタクト電極61と、p側オーミックコンタクト電極62と、熱吸収用パッド63と、吸収体64と、保護膜65とを備えている。
【0059】
基板54は、二酸化珪素などの絶縁体からなる。基板54には、凹部66が形成されている。エッチングストップ層55は、基板54の表面を覆うように形成されている。エッチングストップ層55は、例えば窒化珪素などの絶縁体からなる。エッチングストップ層55と基板54の凹部66との間には空隙が形成される。
【0060】
n型熱電変換材料層56は、エッチングストップ層55の基板54とは反対側の主面上に形成される。n型熱電変換材料層56を構成する熱電変換材料は、実施の形態1の熱電変換材料である。n型オーミックコンタクト層57は、n型熱電変換材料層56のエッチングストップ層55とは反対側の主面上に形成される。n型オーミックコンタクト層57は、例えば多数キャリアであるn型キャリア(電子)を生成させるn型不純物がドープされる。これにより、n型オーミックコンタクト層57の導電型はn型となっている。
【0061】
型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面の中央部に接触するように、n側オーミックコンタクト電極61が配置される。n側オーミックコンタクト電極61は、n型オーミックコンタクト層57に対してオーミック接触可能な材料、例えば金属からなっている。n型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面上に、例えば二酸化珪素などの絶縁体からなる絶縁体層58が配置される。絶縁体層58は、n側オーミックコンタクト電極61から見てp型熱電変換材料部52側のn型オーミックコンタクト層57の主面上に配置される。
【0062】
型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面には、さらに保護膜65が配置される。保護膜65は、n側オーミックコンタクト電極61から見てp型熱電変換材料部52とは反対側のn型オーミックコンタクト層57の主面上に配置される。n型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面上には、保護膜65を挟んで上記n側オーミックコンタクト電極61とは反対側に、他のn側オーミックコンタクト電極61が配置される。
【0063】
絶縁体層58のn型オーミックコンタクト層57とは反対側の主面上に、p型熱電変換材料層59が配置される。
【0064】
p型熱電変換材料層59の絶縁体層58とは反対側の主面上の中央部には、保護膜65が配置される。p型熱電変換材料層59の絶縁体層58とは反対側の主面上には、保護膜65を挟む一対のp側オーミックコンタクト電極62が配置される。p側オーミックコンタクト電極62は、p型熱電変換材料層59に対してオーミック接触可能な材料、例えば金属からなっている。一対のp側オーミックコンタクト電極62のうち、n型熱電変換材料部53側のp側オーミックコンタクト電極62は、n側オーミックコンタクト電極61に接続されている。
【0065】
互いに接続されたp側オーミックコンタクト電極62およびn側オーミックコンタクト電極61のn型オーミックコンタクト層57とは反対側の主面を覆うように、吸収体64が配置される。吸収体64は、例えばチタンからなる。n側オーミックコンタクト電極61に接続されない側のp側オーミックコンタクト電極62上に接触するように、熱吸収用パッド63が配置される。また、p側オーミックコンタクト電極62に接続されない側のn側オーミックコンタクト電極61上に接触するように、熱吸収用パッド63が配置される。熱吸収用パッド63を構成する材料としては、例えばAu(金)/Ti(チタン)が採用される。すなわち、吸収体64とn型熱電変換材料層56とは、熱的に接続されている。吸収体64とp型熱電変換材料層59とは、熱的に接続されている。
【0066】
赤外線センサ51に赤外線が照射されると、吸収体64は赤外線のエネルギーを吸収する。その結果、吸収体64の温度が上昇する。一方、熱吸収用パッド63の温度上昇は抑制される。そのため、吸収体64と熱吸収用パッド63との間に温度差が形成される。そうすると、p型熱電変換材料層59においては、吸収体64側から熱吸収用パッド63側に向けてp型キャリア(正孔)が移動する。一方、n型熱電変換材料層56においては、吸収体64側から熱吸収用パッド63側に向けてn型キャリア(電子)が移動する。そして、n側オーミックコンタクト電極61およびp側オーミックコンタクト電極62からキャリアの移動の結果として生じする電流を取り出すことにより、赤外線が検出される。
【0067】
本実施の形態の赤外線センサ51においては、p型熱電変換材料層59を構成する熱電変換材料として、実施の形態1の熱電変換材料が採用される。その結果、赤外線センサ51は、p型熱電変換材料層59が配置される部分において可撓性を有すると共に高感度な赤外線センサとなっている。
【0068】
また、本実施の形態の赤外線センサ51においては、n型熱電変換材料層56を構成する熱電変換材料として、実施の形態2または実施の形態3の熱電変換材料が採用されてもよい。その結果、赤外線センサ51は、n型熱電変換材料層56が配置される部分において可撓性を有すると共に高感度な赤外線センサとなっている。
【0069】
なお、p型熱電変換材料層59を構成する熱電変換材料として、実施の形態1の熱電変換材料を採用し、n型熱電変換材料層56を構成する熱電変換材料として、実施の形態2または実施の形態3の熱電変換材料を採用することにより、p型熱電変換材料層59が配置される部分およびn型熱電変換材料層56が配置される部分の双方に可撓性が求められる場合に対応することができる。
【0070】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
11 熱電変換材料
12 価電子帯
13 伝導帯
14 禁制帯
15,16,17 新規準位
21 π型熱電変換素子
22,52 p型熱電変換材料部
23,53 n型熱電変換材料部
24 高温側電極
25 第1低温側電極(低温側電極)
26 第2低温側電極(低温側電極)
27,42,43 配線
28 低温側絶縁体基板
29 高温側絶縁体基板
31,32,33,34 端部
41 熱電変換モジュール
51 赤外線センサ(光センサ)
54 基板
55 エッチングストップ層
56 n型熱電変換材料層
57 n型オーミックコンタクト層
58 絶縁体層
59 p型熱電変換材料層
61 n側オーミックコンタクト電極
62 p側オーミックコンタクト電極
63 熱吸収用パッド
64 吸収体
65 保護膜
66 凹部
I 矢印
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9