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特許7469317ヒト多能性幹細胞からの背側由来オリゴデンドロサイト前駆細胞
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ヒト多能性幹細胞からの背側由来オリゴデンドロサイト前駆細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0797 20100101AFI20240409BHJP
   C12N 5/079 20100101ALI20240409BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20240409BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C12N5/0797
C12N5/079
C12N5/0735
C12N5/10
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2021543274
(86)(22)【出願日】2020-01-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-01
(86)【国際出願番号】 US2020014834
(87)【国際公開番号】W WO2020154533
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】62/796,077
(32)【優先日】2019-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521324621
【氏名又は名称】アステリアス バイオセラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】大西 憲人
(72)【発明者】
【氏名】マンレイ ネイサン シー.
(72)【発明者】
【氏名】ハルバーシュタット クレイグ アール.
(72)【発明者】
【氏名】ウィットリー エリック エム.
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-517084(JP,A)
【文献】国際公開第2020/061371(WO,A2)
【文献】国際公開第2017/132596(WO,A1)
【文献】特表2017-511153(JP,A)
【文献】特表2010-536357(JP,A)
【文献】Stem Cell Res. Ther.,2018年,Vol.9,67 (pp.1-13)
【文献】Methods,2018年,Vol.133,pp.65-80
【文献】Develop. Neurobiol.,2012年,Vol.72,pp.1471-1481
【文献】Stem Cells Development,2014年,Vol.23, No.1,pp.5-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未分化ヒト多能性幹細胞から、背側神経前駆細胞 (dNPC) を含む細胞集団を得るための方法であって、
a) 未分化ヒト多能性幹細胞の培養物を得る工程;
b) マイトジェン活性化プロテインキナーゼ/細胞外シグナル制御キナーゼ (MAPK/ERK) の少なくとも1つの阻害物質、骨形成タンパク質 (BMP) シグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質、およびレチノイン酸の存在下で、該未分化ヒト多能性幹細胞を第1の期間にわたり接着培養し、それによって神経外胚葉への分化を誘導する工程;ならびに
c) レチノイン酸の存在下かつソニックヘッジホッグ (SHH) およびSHHシグナル伝達活性化物質の非存在下で、b) からの細胞を第2の期間にわたり接着培養し、それによって背側神経前駆細胞を得る工程
を含む、該方法。
【請求項2】
工程c) からの細胞を収集し、収集した該細胞を基質上に再プレーティングし、かつ、塩基性線維芽細胞増殖因子 (bFGF) および上皮増殖因子 (EGF) の存在下で該細胞をさらなる期間にわたりさらに接着培養し、それによって前記神経前駆細胞を増殖させる追加の工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
増殖した前記細胞を収集し、かつ、該細胞がグリア前駆細胞に成熟するまで、bFGFおよびEGFの存在下で該細胞を凝集体として懸濁液中でさらなる期間にわたりさらに培養する追加の工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
グリア前駆細胞を含む前記凝集体を基質上にプレーティングし、かつ、該細胞がオリゴデンドロサイト前駆細胞 (OPC) に成熟するまで、任意で該細胞を時々分割しながら、上皮増殖因子 (EGF) の存在下で該細胞をさらなる期間にわたり接着培養する追加の工程をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
グリア前駆細胞を含む前記凝集体を基質上にプレーティングし、かつ、該細胞がオリゴデンドロサイト前駆細胞 (OPC) に成熟するまで、任意で該細胞を時々分割しながら、血小板由来増殖因子AA (PDGF-AA) およびEGFの存在下で該細胞をさらなる期間にわたり接着培養する追加の工程をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記方法におけるある段階で前記細胞を凍結保存し、かつその後、該細胞を解凍して該方法を続行する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記基質が組換えヒトラミニン-521である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒト多能性幹細胞がヒト胚性幹細胞 (hESC) である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ヒト多能性幹細胞がヒト人工多能性幹細胞 (hiPSC)である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
MAPK/ERKキナーゼの前記少なくとも1つの阻害物質が、PD0325901、AZD6244、GSK1120212、PD184352、およびコビメチニブからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
MAPK/ERKキナーゼの前記少なくとも1つの阻害物質がPD0325901である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
BMPシグナル伝達の前記少なくとも1つの阻害物質がアクチビン受容体様キナーゼ2 (ALK2) の阻害物質である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
BMPシグナル伝達の前記少なくとも1つの阻害物質が、ドルソモルフィン、DMH-1、K02288、ML347、LDN193189、およびノギンタンパク質からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
BMPシグナル伝達の前記少なくとも1つの阻害物質がドルソモルフィンである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の期間が3~4日である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記第2の期間が3~4日である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記凝集体が懸濁液中で7日間培養される、請求項3に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞が、凝集体のプレーティング後、21日間接着培養される、請求項4に記載の方法。
【請求項19】
未分化ヒト多能性幹細胞から、オリゴデンドロサイト前駆細胞 (OPC) を含む細胞集団を得るための方法であって、
該方法が、
a) 請求項1に記載の方法に従って、背側神経前駆細胞 (dNPC) を得る工程;
b) a) からの細胞を収集し、該細胞を基質上に再プレーティングし、かつ、塩基性線維芽細胞増殖因子 (bFGF) および上皮増殖因子 (EGF) の存在下で該細胞をさらなる期間にわたり接着培養し、それによって該神経前駆細胞を増殖させる工程;
c) b) からの細胞を収集し、かつ、該細胞が背側グリア前駆細胞に成熟するまで、bFGFおよびEGFの存在下で該細胞を凝集体として懸濁液中でさらなる期間にわたりさらに培養する工程;ならびに
d) c) からの凝集体を基質上にプレーティングし、かつ、該細胞がOPCに成熟するまで、任意で該細胞を時々分割しながら、上皮増殖因子 (EGF) の存在下で該細胞をさらなる期間にわたり接着培養する工程
を含み、
該OPCが、神経/グリア抗原2 (NG2)、血小板由来増殖因子受容体A (PDGFRα)、およびガングリオシドGD3 (GD3) より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する、
該方法。
【請求項20】
前記接着培養する工程が基質上で行われ、該基質が、(i) 細胞接着ペプチド、ならびに (ii) ラミニンおよびビトロネクチンより選択される細胞外マトリックスより選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記接着培養する工程が組換えヒトラミニン-521上で行われる、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記接着培養する工程がラミニン-511 E8断片上で行われる、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
工程c) が動的懸濁液中で行われる、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
工程d) の間、培地が血小板由来増殖因子AA (PDGF-AA) をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記ヒト多能性幹細胞がhESCである、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記ヒト多能性幹細胞がhiPSCである、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
前記OPCを凍結保存し、かつ、解凍後すぐに対象に投与できる、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年7月23日に出願された米国仮特許出願第62/796,077号に対する優先権を主張し、その全内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本開示は、ヒト胚性幹細胞などの多能性幹細胞を、最初に背側脊髄前駆細胞表現型を有する神経外胚葉前駆細胞に、次いでさらにグリア前駆細胞に、およびさらにオリゴデンドロサイト前駆細胞に分化させるための新規方法に関する。そのような方法によって得られた細胞および細胞組成物、ならびにそのような細胞の使用もまた提供される。本開示はさらに、1つまたは複数のマーカーを発現する、本発明による方法によって生成された細胞に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
オリゴデンドロサイト前駆細胞 (OPC) は、中枢神経系 (CNS) 内のグリア細胞のサブタイプであり、脳および脊髄の脳室帯において生じ、発生中のCNS全体に遊走した後、成熟してオリゴデンドロサイトになる。成熟したオリゴデンドロサイトは、ニューロンの軸索を絶縁するミエリン鞘を生成し、ミエリン鞘が失われたCNS病変を再ミエリン化する。オリゴデンドロサイトはまた、ニューロンの生存を促進する神経栄養因子の産生を含む他の機構を通じて、神経保護に寄与する(Wilkins et al., 2001 Glia 36(l):48-57;Dai et al., 2003 J Neurosci. 23(13):5846-53;Du and Dreyfus, 2002 J Neurosci Res. 68(6):647-54)。大部分の前駆細胞とは異なり、OPCは成体CNS中に依然として豊富に存在し、新たなオリゴデンドロサイトを生じる能力を保持している。したがって、OPCおよびOPC由来の成熟したオリゴデンドロサイトは、脱髄障害および髄鞘形成不全障害(多発性硬化症、副腎白質ジストロフィー、および副腎脊髄ニューロパチーなど)、その他の神経変性障害(アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、およびハンチントン病など)、ならびに急性神経損傷(脳卒中および脊髄損傷 (SCI) など)の重要な治療標的である。
【0004】
胚性幹細胞 (ESC) および人工多能性幹細胞 (iPSC) などのヒト多能性幹細胞を、細胞治療において使用され得るOPCに分化させるためのいくつかのプロトコールが開発されている。これまで、ヒト多能性幹細胞からオリゴデンドロサイト前駆細胞を作製するためのプロトコールは、インビボで脊髄OPCの大部分を生じることが公知である、発生中の脊髄の腹側運動ニューロン前駆細胞 (pMN) ドメインを再現していた(Rowitch, 2004 Nat Rev Neurosci. 5(5):409-19;Ravanelli and Appel, 2015 Genes Dev. 29(23):2504-15)。腹側由来のOPCを生じる腹側神経前駆細胞の誘導には、ソニックヘッジホッグ (SHH) シグナル伝達の活性化が必要である。(Ericson et al., 1996 Cell 87: 661-673;Orentas et al., 1999 Development 126(11):2419-29)。その結果として、多能性幹細胞からOPCを生成するための既存のインビトロプロトコールは、内因性SHH活性化を刺激する手段としての胚様体形成 (Nistor et al., 2005 Glia 49(3):385-96)、またはSHHの直接添加もしくはSHHシグナル伝達の活性化物質の直接添加(Stacpoole et al., 2013 Stem Cell Reports 1(5):437-50;Douvaras and Fossati, 2015 Nat Protoc. 10(8):1143-54;Piao et al., 2015 Cell Stem Cell 16(2):198-210;Wang et al., 2013 Cell Stem Cell 12(2):252-64;Rodrigues et al., 2017 Stem Cell Reports 8(6):1770-1783;およびYamashita et al., 2017 PLoS One 12(2):e0171947)のいずれかに依存している。前者のアプローチは、胚様体内での自発的な分化に依存し、分化過程の最後に不必要な細胞型が生じ得るため、問題がある可能性がある(Priest et al., 2015 Regen Med. 10(8):939-58;Manley et al., 2017 Stem Cells Transl Med. 6(10):1917-1929)。後者の指向性分化は、多能性幹細胞由来のOPCを生成するための現在のアプローチに相当する。これらの方法は、研究目的のためにヒト多能性幹細胞からOPCを作製することに成功しているが、既存のプロトコールを臨床的な商業スケールの生産工程に変換することに関連して、物品の品質、拡張可能性、およびコストに関して課題が残っている。
【0005】
マウスでは、SHHシグナル伝達とは無関係に、背側脊髄においてより小さな第2波のOPCが生成される(Cai et al., 2005 Neuron 45(1): 41-53;Vallstedt et al., 2005 Neuron 45(1): 55-67)。これらの背側由来のマウスOPCは成熟してオリゴデンドロサイトになり、発生過程の軸索のミエリン形成、および局所的なミエリン形成損傷に応答した再ミエリン化に寄与する (Zhu et al., 2011 Glia 59(11):1612-21)。ヒトにおける推定上の背側由来のOPC集団については、あまり知られていない。最近、OLIG2-GFPノックインhPSCレポーター株を用いて作製された、複数の細胞型からなるヒト脳領域特異的前脳オルガノイド(背側前脳オルガノイドおよび腹側前脳オルガノイド)を、機能的なニューロンおよびオリゴデンドログリア細胞の両方に分化させることができることが報告された(Kim et al.、https://www.biorxiv.org/content/biorxiv/early/2018/11/04/460907.full.pdfにおいて利用可能)。しかしながら、これまで、下流の細胞治療適用に適した標的系列特異的細胞集団をもたらし得るヒト多能性幹細胞の指向性分化によって得られた背側由来のOPCの報告はない。
【0006】
多能性幹細胞をOPCに分化させるための改良法が必要である。理想的には、そのような方法は、所望の品質特性を有する標的細胞OPCを一貫してかつ再現性よく生成しながら、細胞治療適用に十分な量のOPCを生成するために容易に拡張可能であるべきである。
【発明の概要】
【0007】
本明細書に記載される様々な態様において、本開示は、とりわけ、ESCおよびiPSCなどのヒト多能性幹細胞を背側神経外胚葉前駆細胞 (dNPC) に、そしてさらにグリア前駆細胞およびOPCに分化させるための堅牢で信頼性のあるプロトコールを提供する。
【0008】
本開示は、一部には、ヒト多能性幹細胞を、SHHシグナル伝達によって媒介される神経外胚葉拘束前駆細胞の腹側化の非存在下で、脊髄OPCに容易にかつ効率的に分化させることができるという発見に基づいている。
【0009】
本開示のある特定の態様において、背側脊髄表現型を有する神経外胚葉前駆細胞は、ヒト多能性幹細胞を、骨形成タンパク質 (BMP) シグナル伝達の1つまたは複数の阻害物質およびレチノイン酸と組み合わせたマイトジェン活性化プロテインキナーゼ/細胞外シグナル制御キナーゼ (MAPK/ERK) シグナル伝達の1つまたは複数の阻害物質と接触させることによって得られる。このアプローチは、二重SMAD阻害としても公知である、トランスフォーミング増殖因子β (TGFβ)/アクチビン/Nodalシグナル伝達阻害物質とBMPシグナル伝達阻害物質の併用添加に依存する、神経外胚葉を誘導する現在の方法とは対照的である(Chambers et al., 2009 Nat. Biotechnol 27 (3):275-280;Douvaras and Fossati, 2015 Nat Protoc. 10(8):1143-54;Piao et al., 2015 Cell Stem Cell 16(2))。
【0010】
驚くべきことに、上記のプロトコールに従って得られ、腹側化モルフォゲンSHHにもSHHシグナル伝達活性化物質に曝露されていない背側神経外胚葉前駆細胞を、脊髄OPCに容易に分化させることができることが発見された。SHHシグナル伝達が活性化される分化プロトコールと比較して、本開示の方法により、著しくより多数の分化細胞が得られることもまた発見された。細胞増殖および細胞収量の実質的な増加により、本開示の方法は、細胞治療およびその他の適用のための大量のOPCおよびその他の神経外胚葉系細胞を生成するための拡張可能でかつ再現性のある過程を提供する。
【0011】
本開示の方法は、分化過程の7日目までに背側脊髄表現型を有する神経外胚葉前駆細胞を、分化過程の21日目までにグリア前駆細胞を、そして分化過程の42日目までにOPCを再現性よく生成する。本開示に従って生成された42日目のOPCは、本開示に従って生成されたOPCが、インビトロでの上皮嚢胞形成に関連したマーカーを含む、より低レベルの非OPCマーカーを発現することを除いて、脊髄損傷を処置するために現在臨床試験中である、別法を用いて作製されたOPC(Priest et al., 2015 Regen Med. 10(8):939-58;Manley et al., 2017 Stem Cells Transl Med. 6(10):1917-1929)と(その全体的なマーカー発現プロファイルの観点から)同等である。
【0012】
好ましい態様において、本発明の方法に従って生成されたOPCは、神経/グリア抗原2 (NG2)、血小板由来増殖因子受容体A (PDGFRα)、およびガングリオシドGD3 (GD3) より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する。さらに好ましい態様において、細胞は、単一のマーカーまたはマーカーの組み合わせの発現によって特徴決定することができる。例えば、本発明の方法に従って生成されたOPCは、単にNG2、PDGFRα、またはGD3によって、またはマーカーNG2、PDGFRα、およびGD3のうちの2つまたは3つによるマーカーの組み合わせによって特徴決定することができる。1つの好ましい態様においては、本発明の方法に従って生成された細胞の少なくとも90%が、NG2および/またはPDGFRαを発現する。さらに好ましい態様においては、細胞の少なくとも50%がGD3をさらに発現する。
【0013】
さらに好ましい態様において、細胞を生成する過程は、細胞を中間バンクに凍結保存し、次いで細胞を解凍して、最終生成物まで分化過程を継続する1つまたは複数の工程を伴う。例えば、中間細胞バンクは、過程の14日目、28日目、および/または35日目に凍結保存することができる。
【0014】
別の態様において、本発明に従って生成されたOPCは、患者の処置のための、すぐに投与できる (RTA) OPC細胞治療組成物として調製される。解凍直後に対象に投与するためのヒトOPCを製剤化する方法、および凍結保存し、凍結保存された組成物を解凍後に対象に投与するためのOPC細胞治療組成物を製剤化する方法もまた提示される。別の局面において、RTA組成物は、解凍および注射 (TAI) 組成物として製剤化することができ、それによって組成物は、OPCをさらに処理することなく、解凍後に注射によって投与される。
【0015】
1つの態様において、本開示は、未分化ヒト多能性幹細胞から、背側神経前駆細胞 (dNPC) を含む細胞集団を得る方法を提供する。ある特定の態様において、本方法は、a) 未分化ヒト多能性幹細胞の培養物を得る工程;b) マイトジェン活性化プロテインキナーゼ/細胞外シグナル制御キナーゼ (MAPK/ERK) の少なくとも1つの阻害物質、骨形成タンパク質 (BMP) シグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質、およびレチノイン酸の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を第1の期間にわたり接着培養し、それによって神経外胚葉への分化を誘導する工程;ならびにc) レチノイン酸の存在下かつソニックヘッジホッグ (SHH) およびSHHシグナル伝達活性化物質の非存在下で、b) からの細胞を第2の期間にわたり接着培養し、それによって背側神経前駆細胞を得る工程を含む。
【0016】
ある特定の態様において、第1の期間は約3~4日である。ある特定の態様において、第2の期間は約3~4日である。
【0017】
ある特定の態様において、本方法は、工程c) からの細胞を収集し、収集した細胞を基質上に再プレーティングし、かつ、塩基性線維芽細胞増殖因子 (bFGF) および上皮増殖因子 (EGF) の存在下で細胞をさらなる期間にわたりさらに接着培養し、それによって細胞を増殖させる追加の工程をさらに含む。ある特定の態様において、基質は細胞接着ペプチドである。他の態様において、基質は細胞外マトリックスタンパク質である。ある特定の態様において、基質は組換えヒトラミニン-521である。他の態様において、基質はビトロネクチンまたはラミニン-511 E8断片である。さらに他の態様において、基質は、例えばSynthemax(登録商標)-II SC基質などの合成基質である。
【0018】
さらなる態様において、本方法は、増殖した細胞を収集し、かつ、細胞がグリア前駆細胞に成熟するまで、bFGFおよびEGFの存在下でこれらの細胞を凝集体として懸濁液中でさらなる期間にわたり培養する追加の工程を含む。ある特定の態様において、培養する工程は動的懸濁液中で行われる。ある特定の態様において、細胞は、懸濁液中で約5~10日間培養される。1つの態様において、細胞は、懸濁液中で約7日間培養される。
【0019】
なおさらなる態様において、本方法は、グリア前駆細胞を含む凝集体を基質上にプレーティングし、かつ、細胞がオリゴデンドロサイト前駆細胞 (OPC) に成熟するまで、任意で細胞を時々分割しながら、上皮増殖因子 (EGF) の存在下で細胞をさらなる期間にわたり接着培養する追加の工程を含む。ある特定の態様において、培地は血小板由来増殖因子AA (PDGF-AA) をさらに含む。ある特定の態様において、細胞は、グリア前駆細胞を含む凝集体のプレーティング後、約2~4週間培養される。1つの態様において、細胞は、グリア前駆細胞を含む凝集体のプレーティング後、21日間培養される。ある特定の態様において、基質は細胞接着ペプチドである。他の態様において、基質は細胞外マトリックスタンパク質である。ある特定の態様において、基質は組換えヒトラミニン-521である。他の態様において、基質はビトロネクチンまたはラミニン-511 E8断片である。さらに他の態様において、基質は、例えばSynthemax(登録商標)-II SC基質などの合成基質である。
【0020】
別の態様において、細胞は、過程の一部においてコーティングせずに培養される。別の態様においては、培養皿の代わりに、懸濁液中のコーティングされたまたはコーティングされていないマイクロキャリアが使用される。
【0021】
ある特定の態様において、MAPK/ERKの少なくとも1つの阻害物質は、PD0325901、AZD6244、GSK1120212、PD184352、およびコビメチニブからなる群より選択される。さらに他の態様において、MAPK/ERKの阻害物質はPD0325901である。
【0022】
ある特定の態様において、BMPシグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質は、アクチビン受容体様キナーゼ2 (ALK2) の阻害物質である。ある特定の態様において、BMPシグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質は、ドルソモルフィン、DMH-1、K02288、ML347、LDN193189、およびノギンタンパク質からなる群より選択される。さらに他の態様において、BMPシグナル伝達の阻害物質はドルソモルフィンである。
【0023】
追加の態様は、本開示に従って得られた、ペアードボックス6 (PAX6) 陽性背側神経前駆細胞 (dNPC) を含む分化細胞集団である。ある特定の態様において、PAX6陽性dNPCは、ペアードボックス3 (PAX3)、ペアードボックス7 (PAX7)、および活性化タンパク質2 (AP2) より選択される1つまたは複数のマーカーをさらに発現する。
【0024】
別の態様において、本開示は、未分化ヒト多能性幹細胞から、神経/グリア抗原2 (NG2) 陽性オリゴデンドロサイト前駆細胞 (OPC) を含む細胞集団を得る方法を提供し、本方法は、a) 未分化ヒト多能性幹細胞の培養物を得る工程;b) マイトジェン活性化プロテインキナーゼ/細胞外シグナル制御キナーゼ (MAPK/ERK) の少なくとも1つの阻害物質、骨形成タンパク質 (BMP) シグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質、およびレチノイン酸の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を第1の期間にわたり接着培養し、それによって神経外胚葉への分化を誘導する工程;c) レチノイン酸の存在下かつソニックヘッジホッグ (SHH) およびSHHシグナル伝達活性化物質の非存在下で、b) からの細胞を第2の期間にわたり接着培養し、それによって背側神経前駆細胞を得る工程;d) c) からの細胞を収集し、細胞を基質上に再プレーティングし、かつ、塩基性線維芽細胞増殖因子 (bFGF) および上皮増殖因子 (EGF) の存在下で細胞をさらなる期間にわたりさらに接着培養し、それによって神経前駆細胞を増殖させる工程;e) d) からの細胞を収集し、かつ、細胞が背側グリア前駆細胞に成熟するまで、bFGFおよびEGFの存在下で細胞を凝集体として懸濁液中でさらなる期間にわたりさらに培養する工程;ならびにf) e) からの凝集体を基質上にプレーティングし、かつ、細胞がOPCに成熟するまで、任意で細胞を時々分割しながら、上皮増殖因子 (EGF) の存在下で細胞をさらなる期間にわたり接着培養する工程を含む。ある特定の態様において、工程f) における培地は、血小板由来増殖因子AA (PDGF-AA) をさらに含む。ある特定の態様において、細胞は、凝集体のプレーティング後、約2~4週間培養される。1つの態様において、細胞は、凝集体のプレーティング後、21日間培養される。ある特定の態様において、基質は細胞接着ペプチドである。他の態様において、基質は細胞外マトリックスタンパク質である。ある特定の態様において、基質は組換えヒトラミニン-521である。他の態様において、基質はビトロネクチンまたはラミニン-511 E8断片である。さらに他の態様において、基質は、例えばSynthemax(登録商標)-II SC基質などの合成基質である。
【0025】
追加の態様は、本開示に従って得られた、NG2陽性OPCを含む分化細胞集団である。ある特定の態様において、分化細胞集団は、NG2陽性である細胞を少なくとも60%含む。ある特定の態様において、分化細胞集団は、NG2陽性である細胞を少なくとも70%含む。ある特定の態様において、分化細胞集団は、NG2陽性である細胞を少なくとも80%含む。他の態様において、分化細胞集団は、NG2陽性である細胞を少なくとも90%含む。ある特定の態様において、分化細胞集団は、NG2陽性である細胞を少なくとも98%含む。
【0026】
ある特定の態様において、分化細胞集団は、PDGFRα陽性である細胞を少なくとも60%含む。ある特定の態様において、分化細胞集団は、PDGFRα陽性である細胞を少なくとも70%含む。ある特定の態様において、分化細胞集団は、PDGFRα陽性である細胞を少なくとも80%含む。他の態様において、分化細胞集団は、PDGFRα陽性である細胞を少なくとも90%含む。ある特定の態様において、分化細胞集団は、PDGFRα陽性である細胞を少なくとも98%含む。
【0027】
ある特定の態様において、分化細胞集団は、GD3陽性である細胞を少なくとも50%含む。ある特定の態様において、分化細胞集団は、GD3陽性である細胞を少なくとも60%含む。ある特定の態様において、分化細胞集団は、GD3陽性である細胞を少なくとも70%含む。ある特定の態様において、分化細胞集団は、GD3陽性である細胞を少なくとも80%含む。他の態様において、分化細胞集団は、GD3陽性である細胞を少なくとも90%含む。ある特定の態様において、分化細胞集団は、GD3陽性である細胞を少なくとも98%含む。
【0028】
別の態様において、分化細胞集団は、上述の割合の範囲内の、NG2およびPDGFRα陽性である細胞を含む。別の態様において、分化細胞集団は、上述の割合の範囲内の、NG2およびGD3陽性である細胞を含む。別の態様において、分化細胞集団は、上述の割合の範囲内の、PDGFRαおよびGD3陽性である細胞を含む。別の態様において、分化細胞集団は、上述の割合の範囲内の、NG2、PDGFRα、およびGD3陽性である細胞を含む。
【0029】
ある特定の態様において、ヒト多能性幹細胞はヒト胚性幹細胞である。他の態様において、ヒト多能性幹細胞はヒト人工多能性幹細胞である。
【0030】
別の態様において、本発明に従って調製された細胞は、凍結保存され、次いでその後解凍されて患者に送達される。好ましい態様において、細胞は、患者に送達する前にさらなる処理を必要としない。ひとたび解凍されたならば、本発明に従って調製された細胞は、患者に直ちに送達することができる。好ましい態様において、細胞は注射によって送達することができる。注射の容積は、例えば、生細胞100,000,000個/mlの細胞濃度で約100マイクロリットルである。
[本発明1001]
未分化ヒト多能性幹細胞から、背側神経前駆細胞 (dNPC) を含む細胞集団を得るための方法であって、
a) 未分化ヒト多能性幹細胞の培養物を得る工程;
b) マイトジェン活性化プロテインキナーゼ/細胞外シグナル制御キナーゼ (MAPK/ERK) の少なくとも1つの阻害物質、骨形成タンパク質 (BMP) シグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質、およびレチノイン酸の存在下で、該未分化ヒト多能性幹細胞を第1の期間にわたり接着培養し、それによって神経外胚葉への分化を誘導する工程;ならびに
c) レチノイン酸の存在下かつソニックヘッジホッグ (SHH) およびSHHシグナル伝達活性化物質の非存在下で、b) からの細胞を第2の期間にわたり接着培養し、それによって背側神経前駆細胞を得る工程
を含む、該方法。
[本発明1002]
工程c) からの細胞を収集し、収集した該細胞を基質上に再プレーティングし、かつ、塩基性線維芽細胞増殖因子 (bFGF) および上皮増殖因子 (EGF) の存在下で該細胞をさらなる期間にわたりさらに接着培養し、それによって前記神経前駆細胞を増殖させる追加の工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1003]
増殖した前記細胞を収集し、かつ、該細胞がグリア前駆細胞に成熟するまで、bFGFおよびEGFの存在下で該細胞を凝集体として懸濁液中でさらなる期間にわたりさらに培養する追加の工程をさらに含む、本発明1002の方法。
[本発明1004]
グリア前駆細胞を含む前記凝集体を基質上にプレーティングし、かつ、該細胞がオリゴデンドロサイト前駆細胞 (OPC) に成熟するまで、任意で該細胞を時々分割しながら、上皮増殖因子 (EGF) の存在下で該細胞をさらなる期間にわたり接着培養する追加の工程をさらに含む、本発明1003の方法。
[本発明1005]
グリア前駆細胞を含む前記凝集体を基質上にプレーティングし、かつ、該細胞がオリゴデンドロサイト前駆細胞 (OPC) に成熟するまで、任意で該細胞を時々分割しながら、血小板由来増殖因子AA (PDGF-AA) およびEGFの存在下で該細胞をさらなる期間にわたり接着培養する追加の工程をさらに含む、本発明1003の方法。
[本発明1006]
前記方法におけるある段階で前記細胞を凍結保存し、かつその後、該細胞を解凍して該方法を続行する、本発明1003の方法。
[本発明1007]
前記基質が組換えヒトラミニン-521である、本発明1001の方法。
[本発明1008]
前記ヒト多能性幹細胞がヒト胚性幹細胞 (hESC) である、本発明1001の方法。
[本発明1009]
前記ヒト多能性幹細胞がヒト人工多能性幹細胞 (hiPSC)である、本発明1001の方法。
[本発明1010]
MAPK/ERKキナーゼの前記少なくとも1つの阻害物質が、PD0325901、AZD6244、GSK1120212、PD184352、およびコビメチニブからなる群より選択される、本発明1001の方法。
[本発明1011]
MAPK/ERKキナーゼの前記少なくとも1つの阻害物質がPD0325901である、本発明1001の方法。
[本発明1012]
BMPシグナル伝達の前記少なくとも1つの阻害物質がアクチビン受容体様キナーゼ2 (ALK2) の阻害物質である、本発明1001の方法。
[本発明1013]
BMPシグナル伝達の前記少なくとも1つの阻害物質が、ドルソモルフィン、DMH-1、K02288、ML347、LDN193189、およびノギンタンパク質からなる群より選択される、本発明1001の方法。
[本発明1014]
BMPシグナル伝達の前記少なくとも1つの阻害物質がドルソモルフィンである、本発明1001の方法。
[本発明1015]
前記第1の期間が約3~4日である、本発明1001の方法。
[本発明1016]
前記第2の期間が約3~4日である、本発明1001の方法。
[本発明1017]
前記凝集体が懸濁液中で約7日間培養される、本発明1003の方法。
[本発明1018]
前記細胞が、凝集体のプレーティング後、約21日間接着培養される、本発明1004の方法。
[本発明1019]
本発明1001の方法に従って得られた、ペアードボックス6 (PAX6) 陽性dNPCを含む分化細胞集団。
[本発明1020]
前記dNPCが、ペアードボックス3 (PAX3)、ペアードボックス7 (PAX7)、および活性化タンパク質2 (AP2) より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する、本発明1018の分化細胞集団。
[本発明1021]
未分化ヒト多能性幹細胞から、オリゴデンドロサイト前駆細胞 (OPC) を含む細胞集団を得るための方法であって、
該方法が、
a) 本発明1001の方法に従って、背側神経前駆細胞 (dNPC) を得る工程;
b) a) からの細胞を収集し、該細胞を基質上に再プレーティングし、かつ、塩基性線維芽細胞増殖因子 (bFGF) および上皮増殖因子 (EGF) の存在下で該細胞をさらなる期間にわたり接着培養し、それによって該神経前駆細胞を増殖させる工程;
c) b) からの細胞を収集し、かつ、該細胞が背側グリア前駆細胞に成熟するまで、bFGFおよびEGFの存在下で該細胞を凝集体として懸濁液中でさらなる期間にわたりさらに培養する工程;ならびに
d) c) からの凝集体を基質上にプレーティングし、かつ、該細胞がOPCに成熟するまで、任意で該細胞を時々分割しながら、上皮増殖因子 (EGF) の存在下で該細胞をさらなる期間にわたり接着培養する工程
を含み、
該OPCが、神経/グリア抗原2 (NG2)、血小板由来増殖因子受容体A (PDGFRα)、およびガングリオシドGD3 (GD3) より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する、
該方法。
[本発明1022]
前記接着培養する工程が基質上で行われ、該基質が、(i) 細胞接着ペプチド、ならびに (ii) ラミニンおよびビトロネクチンより選択される細胞外マトリックスより選択される、本発明1021の方法。
[本発明1023]
前記接着培養する工程が組換えヒトラミニン-521上で行われる、本発明1021の方法。
[本発明1024]
前記接着培養する工程がラミニン-511 E8断片上で行われる、本発明1021の方法。
[本発明1025]
工程c) が動的懸濁液中で行われる、本発明1021の方法。
[本発明1026]
工程d) の間、培地が血小板由来増殖因子AA (PDGF-AA) をさらに含む、本発明1021の方法。
[本発明1027]
前記ヒト多能性幹細胞がhESCである、本発明1021の方法。
[本発明1028]
前記ヒト多能性幹細胞がhiPSCである、本発明1021の方法。
[本発明1029]
前記OPCを凍結保存し、かつ、解凍後すぐに対象に投与できる、本発明1021の方法。
[本発明1030]
本発明1021の方法に従って得られた、OPCを含む分化細胞集団。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本開示に従った、背側神経外胚葉前駆細胞 (dNPC) への、そしてさらにグリア前駆細胞 (GPC) およびオリゴデンドロサイト前駆細胞 (OPC) へのヒト多能性幹細胞の分化を示す図である。背側脊髄表現型を有する神経外胚葉前駆細胞は7日目頃に得られ、GPC(21日目)およびさらにOPC(42日目)に容易に分化させることができる。MAPK/ERKシグナル伝達(PD0325901以外)およびBMPシグナル伝達(ドルソモルフィン以外)のいくつかの追加の小分子阻害物質が試験され、背側神経外胚葉への分化の誘導において同じ程度に十分機能することが判明した(実施例7)。
図2A】細胞収率に対するSHHSHHシグナル伝達アゴニスト非存在の効果を示す代表的なデータを示す。図2Aは、試験した小分子処理の複数の異なる組み合わせにわたる、7日目~14日目の収率を示す。「+PMA」および「-PMA」は、それぞれ分化過程の4~6日目の間のSHHアゴニストプルモルファミンの存在または非存在を指す。条件A、条件B、および条件Eの黒色バーは、MAPK/ERK阻害物質PD0325901、BMP阻害物質ドルソモルフィン、およびレチノイン酸を含む分化カクテルを用いて導出された神経外胚葉細胞に対応し、条件C、条件D、および条件Fの灰色バーは、他のシグナル伝達調節剤を用いて導出された神経外胚葉細胞に対応する。
図2B】細胞収率に対するSHHおよびSHHシグナル伝達アゴニストの非存在の効果を示す代表的なデータを示す。図2Bは、PMAを含む分化過程(以前の過程 (+PMA))と比較した、本開示において開示される分化プロトコールに従った2つの代表的な実行(実行1および実行2)の様々な時点の段階収率を示す。
図2C】細胞収率に対するSHHおよびSHHシグナル伝達アゴニストの非存在の効果を示す代表的なデータを示す。図2Cは、PMAを含む分化過程(以前の過程 (+PMA))と比較した、本開示に従った2つの代表的な実行(実行1および実行2)の、uhESC 1個からの全体的な理論的収量を示す。
図3】本開示に従って作製され、免疫細胞化学によって染色された背側神経外胚葉前駆細胞の代表的な顕微鏡写真を示す。背側神経外胚葉前駆細胞は、DAPI、PAX7、PAX3、およびPAX6(上部パネル、左から右)、ならびにDAPIおよびAP2(下部パネル、左から右)について染色した。染色された細胞は、IN Cell Analyzer 2000で画像化した。スケールバーは200μmを表し、図中のすべての画像に適用される。
図4】本開示に従って作製され、免疫細胞化学によって染色されたグリア前駆細胞の凝集体の代表的な顕微鏡写真を示す。グリア前駆細胞は、DAPI、PAX7、PAX3、およびPAX6(上部パネル、左から右)、ならびにDAPI、AP2、およびNG2(下部パネル、左から右)について染色した。染色された細胞は、IN Cell Analyzer 2000で画像化した。スケールバーは200μmを表し、図中のすべての画像に適用される。
図5】本開示に従って作製され、免疫細胞化学によって染色されたオリゴデンドロサイト前駆細胞の代表的な顕微鏡写真を示す。オリゴデンドロサイト前駆細胞は、DAPIおよびNG2(上部パネル、左から右)ならびにDAPIおよびAP2(下部パネル、左から右)について、免疫細胞化学により染色した。染色された細胞は、IN Cell Analyzer 2000で画像化した。スケールバーは200μmを表し、図中のすべての画像に適用される。
図6】異なる小分子組み合わせを用いて背側神経外胚葉前駆細胞 (dNPC) に分化させたuhESCの7日目の遺伝子発現プロファイルの相関プロットを示す。各相関プロットは、PD0325901+ドルソモルフィンで処理した細胞の7日目の遺伝子発現プロファイルと、各プロットのY軸に示された代替小分子組み合わせとの比較を示す。各プロットについて、データ点は、実施例7に記載されるようにFluidigm qPCRによって評価され、正規化ΔCTとして算出された96遺伝子の各々を表す。R二乗値を各プロットの左上隅に示すが、これはJMPソフトウェア(SAS、Cary,NC,USA)を用いて最良適合線に基づいて算出された。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明の詳細な説明
この説明は、本開示が実施され得るすべての異なる方法、または本開示に付加され得るすべての特徴の詳細な列挙を意図するものではない。例えば、1つの態様に関して説明された特徴は、その他の態様に組み込むことができ、特定の態様に関して説明された特徴は、その態様から削除することができる。したがって、本開示は、本開示のいくつかの態様において、本明細書に記載される任意の特徴または特徴の組み合わせが除外または省略され得ることを企図する。加えて、本開示から逸脱しない、本明細書で提案された様々な態様に対する多数の変形および付加が、本開示に照らして当業者に明白であろう。その他の例では、本発明が不必要に不明瞭にならないように、周知の構造、インターフェース、およびプロセスは詳細に示されていない。本明細書のいかなる部分も、本発明の全範囲のうちのいずれかの部分の否定をもたらすと解釈されないことが意図される。したがって、以下の説明は、本開示のいくつかの特定の局面を例示することを意図しており、それらのすべての並べ替え、組み合わせ、および変形を網羅的に指定することを意図していない。
【0033】
特に定義されない限り、本明細書で用いられる技術用語および科学用語はすべて、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書における本開示の説明に使用される専門用語は、特定の態様を説明することのみを目的としており、本開示を限定することを意図していない。
【0034】
本明細書において引用される出版物、特許出願、特許、およびその他の参考文献はすべて、全体として参照により組み入れられる。
【0035】
文脈がそうでないことを示していない限り、本明細書に記載される本開示の様々な特徴は、任意の組み合わせで使用され得ることが特に意図される。さらに、本開示はまた、本開示のいくつかの態様において、本明細書に記載の任意の特徴または特徴の組み合わせが除外または省略され得ることを企図する。
【0036】
本明細書において開示される方法は、記載される方法を達成するための1つまたは複数の工程または動作を含み得る。方法の工程および/または動作は、本発明の範囲から逸脱することなく相互に交換され得る。換言すれば、工程または動作の特定の順序が局面の適切な操作に必要とされない限り、特定の工程および/または動作の順序および/または使用は、本発明の範囲から逸脱することなく変更され得る。
【0037】
本開示の説明および添付の特許請求の範囲において用いられる場合、「1つの (a)」、「1つの (an)」、および「その (the)」という単数形は、文脈がそうでないことを明らかに示していない限り、複数形もまた含む。
【0038】
本明細書で用いられる場合、「および/または」は、関連する列挙された項目のうちの1つまたは複数のありとあらゆる可能な組み合わせ、ならびにどれか1つを選ぶもの(「または」)として解釈される場合の組み合わせの欠如を指し、かつ包含する。
【0039】
割合、密度、体積、および同様ものなどの測定可能な値を指す場合に本明細書で用いられる「約」および「およそ」という用語は、指定された量の±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%、またはさらには±0.1%の変動を包含することを意味する。
【0040】
本明細書で用いられる場合、「XからYの間」および「約XからYの間」などの語句は、XおよびYを含むと解釈されるべきである。本明細書で用いられる場合、「約XとYの間」などの語句は「約Xから約Yの間」を意味し、「約XからYまで」などの語句は「約Xから約Yまで」を意味する。
【0041】
本明細書で用いられる場合、「オリゴデンドロサイト前駆細胞」 (OPC) は、神経外胚葉/グリア系列のものであり、特徴的なマーカーである神経/グリア抗原2 (NG2) を発現し、かつオリゴデンドロサイトに分化することができる、中枢神経系において見出される細胞を指す。
【0042】
「グリア系細胞」、「グリア前駆細胞」、および「グリア細胞」という用語は、本明細書において互換的に使用され、神経外胚葉/神経前駆細胞に由来する非ニューロンCNS細胞を指す。グリア前駆細胞は、さらに分化して、OPC/オリゴデンドロサイトまたはアストロサイトを形成し得る。ある特定の態様において、本開示のグリア前駆細胞は、カルシウム電位依存性チャネル補助サブユニットγ4 (CACNG4)、脂肪酸結合タンパク質7 (FABP7)、およびネトリン-1受容体 (DCC) より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する。
【0043】
「神経外胚葉」、「神経外胚葉細胞」、「神経外胚葉前駆体」、「神経外胚葉前駆細胞」、「神経前駆細胞」、および「神経前駆体」という用語は、本明細書において互換的に使用され、神経前駆体経路に沿って分化することができ、CNSニューロン、オリゴデンドロサイト、アストロサイト、および上衣細胞を形成し得る細胞を指す。ある特定の態様において、本開示の神経外胚葉細胞は、ペアードボックス6 (PAX6)、HesファミリーBHLH転写因子5 (HES5)、ならびにジンクフィンガーおよびBTBドメイン含有16 (ZBTB16) より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する。
【0044】
本明細書で用いられる場合、「背側」および「腹側」という用語は、発生中の脊髄の神経管の背側-腹側軸に沿って空間的に分離したドメインに配置された前駆細胞から生じる、異なる神経細胞サブタイプを指す。背側-腹側パターン形成として公知であるこの過程は、神経前駆細胞を分割する分泌シグナルによって制御される。BMPおよびWntシグナル伝達は、背側神経管からのパターン形成を開始するのに対して (Lee and Jessell, 1999 Annu. Rev. Neurosci. 22: 261-294)、SHHの分泌は、腹側神経細胞の運命を確立する上で重要な役割を果たす(Chiang et al., 1996 Nature 383: 407-413;Ericson et al., 1996 Cell 87: 661-683;Briscoe et al., 2001 Mol. Cell 7:1279-1291)。
【0045】
「背側神経外胚葉前駆細胞」、「背側神経前駆細胞」、および「dNPC」という用語は、本明細書において互換的に使用され、背側脊髄表現型を有し、かつ外因性SHHおよびSHHシグナル伝達活性化物質の非存在下で多能性幹細胞を神経外胚葉拘束前駆体に分化させることによって得られた神経前駆細胞を指す。ある特定の態様において、dNPCは、ペアードボックス3 (PAX3)、ペアードボックス7 (PAX7)、および活性化タンパク質2 (AP2) より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する。
【0046】
本明細書で用いられる場合、「胚様体」(EB) という用語は、3つの胚葉すべてに自発的に分化した、多能性幹細胞に由来する三次元の細胞凝集体を指す。EBは、多能性幹細胞を、分化を阻害する培養条件から除去した場合に形成される。例えば、ヒト胚性幹細胞の場合、培地から塩基性線維芽細胞増殖因子 (bFGF) およびトランスフォーミング増殖因子β (TGFβ) を除去すると、3つの胚葉すべてに自発的に分化し、EBが形成される。
【0047】
本明細書で用いられる場合、「BMPシグナル伝達阻害物質」という用語は、骨形成タンパク質 (BMP) シグナル伝達経路に沿ったシグナル伝達を下方制御し得る小分子またはタンパク質調節因子を指す。ある特定の態様において、BMPシグナル伝達阻害物質は、アクチビン受容体様キナーゼ2 (ALK2) としても公知であるアクチビンA受容体I型 (ACVR1) を直接標的とする。ある特定の態様において、BMPシグナル伝達阻害物質は、ドルソモルフィン、DMH-1、K02288、ML347、LDN193189、およびノギンタンパク質からなる群より選択される。
【0048】
本明細書で用いられる場合、「MAPK/ERK阻害物質」という用語は、MAPK/ERKキナーゼを阻害する小分子またはタンパク質調節因子を指す。ある特定の態様において、MAPK/ERK阻害物質は、PD0325901、AZD6244、GSK1120212、PD184352、およびコビメチニブからなる群より選択される。
【0049】
「SHHシグナル伝達活性化物質」、「SHHシグナル伝達アゴニスト」、「SHH活性化物質」、および「SHHアゴニスト」という用語は、本明細書において互換的に使用され、ソニックヘッジホッグ (SHH) シグナル伝達経路を活性化し得る小分子またはタンパク質調節因子を指す。SHHシグナル伝達活性化物質の非限定的な例には、プルモルファミン (PMA)、スムーズンドアゴニスト(SAG、CAS 364590-63-6)、およびソニックヘッジホッグ (SHH) タンパク質が含まれる。
【0050】
本明細書で用いられる場合、「望ましくない細胞型」という用語は、移植時に異所性組織の形成を引き起こし得る、または本明細書に記載される嚢胞アッセイにおいて1つもしくは複数の嚢胞の形成を引き起こす、神経外胚葉系列以外の細胞を指す。1つの態様において、「望ましくない細胞型」には、神経前駆細胞および上皮細胞の両方によって発現されるマーカーであるCD49fが陽性である細胞、または多能性細胞および上皮細胞の両方によって発現される2つのマーカーであるCLDN6もしくはEpCAMが陽性である細胞などの上皮系細胞が含まれ得る。
【0051】
本明細書で用いられる場合、「植え込み」または「移植」は、適切な送達技法を使用する(例えば、注射装置を使用する)標的組織への細胞集団の投与を指す。
【0052】
本明細書で用いられる場合、「対象」は動物またはヒトを指す。
【0053】
本明細書で用いられる場合、「それを必要とする対象」は、中枢神経系の組織が損傷している動物またはヒトを指す。1つの態様において、動物またはヒトは運動機能の喪失を経験している。
【0054】
「中枢神経系」および「CNS」という用語は、本明細書において互換的に使用され、身体の1つまたは複数の活動を制御する神経組織の複合体を指し、これには、脊椎動物の脳および脊髄が含まれるが、これらに限定されない。
【0055】
本明細書で用いられる場合、状態または疾患に関する「処置」または「処置する」とは、状態または疾患が患者に現れた後に、好ましくは臨床結果を含む有益なまたは所望の結果を得るためのアプローチである。疾患に関する有益なまたは所望の結果には、以下のうちの1つまたは複数が含まれるが、これらに限定されない:疾患に関連した状態の改善、疾患の治癒、疾患の重症度の軽減、疾患の進行の遅延、疾患に関連した1つまたは複数の症状の緩和、疾患に罹患している人の生活の質の向上、生存期間の延長、およびそれらの任意の組み合わせ。同様に、本開示の目的のために、状態に関する有益なまたは望ましい結果には、以下のうちの1つまたは複数が含まれるが、これらに限定されない:状態の改善、状態の治癒、状態の重症度の軽減、状態の進行の遅延、状態に関連した1つまたは複数の症状の緩和、状態に罹患している人の生活の質の向上、生存期間の延長、およびそれらの任意の組み合わせ。
【0056】
未分化多能性幹細胞の増殖および培養
本開示に従った多能性幹細胞の分化は、出発材料として任意の適切な多能性幹細胞を用いて実施することができる。1つの態様において、方法は、ヒト胚性幹細胞 (hESC) において実施することができる。別の態様において、方法は、人工多能性幹細胞 (iPSC) において実施することができる。別の態様において、方法は、H1、H7、H9、H13、またはH14細胞株に由来する細胞を用いて実施することができる。別の態様において、方法は、霊長類多能性幹 (pPS) 細胞株において実施することができる。さらに別の態様において、方法は、受精せずにhESCを生成するように刺激された胚である単為生殖生物由来の未分化幹細胞を用いて実施することができる。
【0057】
未分化多能性幹細胞の増殖および培養の方法は、以前に記載されている。多能性幹細胞の組織および細胞培養に関して、読者は、当技術分野で利用可能な多数の出版物、例えば、Teratocarcinomas and Embryonic Stem cells: A Practical Approach (E. J. Robertson, Ed., IRL Press Ltd. 1987);Guide to Techniques in Mouse Development (P. M. Wasserman et al., Eds., Academic Press 1993);Embryonic Stem Cell Differentiation in Vitro (M. V. Wiles, Meth. Enzymol. 225:900, 1993);Properties and Uses of Embryonic Stem Cells: Prospects for Application to Human Biology and Gene Therapy (P. D. Rathjen et al., Reprod. Fertil. Dev. 10:31, 1998;およびR. I. Freshney, Culture of Animal Cells, Wiley-Liss, New York, 2000) のいずれかを参照することを望むと考えられる。
【0058】
未分化多能性幹細胞は、フィーダー細胞を加えずに、未分化状態で維持することができる(例えば、(2004) Rosier et al., Dev. Dynam. 229:259を参照されたい)。無フィーダー培養は、典型的には、分化させずに細胞の増殖を促進する因子を含有する栄養培地によって支持される(例えば、米国特許第第6,800,480号を参照されたい)。1つの態様においては、そのような因子を含有する馴化培地を使用することができる。馴化培地は、そのような因子を分泌する細胞と共に培地を培養することによって得られ得る。適切な細胞には、照射された(ほぼ4,000ラド)初代マウス胚性線維芽細胞、テロメア化マウス線維芽細胞、またはpPS細胞由来の線維芽細胞様細胞(米国特許第6,642,048号)が含まれるが、これらに限定されない。培地は、20%血清代替物および4 ng/ml bFGFを補充したノックアウトDMEMなどの無血清培地中にフィーダーをプレーティングすることによって馴化され得る。1~2日間馴化させた培地は、さらなるbFGFを補充し、pPS細胞の培養を支持するために1~2日間使用することができる(例えば、WO 01/51616;Xu et al., (2001) Nat. Biotechnol. 19:971を参照されたい)。
【0059】
あるいは、未分化形態の細胞の増殖を促進する追加の因子(線維芽細胞増殖因子またはフォルスコリンのような)を補充した、新鮮なまたは非馴化培地を使用することができる。非限定的な例には、40~80 ng/mL bFGFを補充し、SCF (15 ng/mL) またはFlt3リガンド (75 ng/mL) を任意で含有する、X-VIVO(商標)10(Lonza、Walkersville, Md.)またはQBSF(商標)-60 (Quality Biological Inc. Gaithersburg, Md.) のような基本培地が含まれる(例えば、Xu et al., (2005) Stem Cells 23(3):315を参照されたい)。これらの培地製剤は、他の系の2~3倍の速度で細胞増殖を支持するという利点を有する(例えば、WO 03/020920を参照されたい)。1つの態様において、hESなどの未分化多能性細胞は、bFGFおよびTGFβを含む培地で培養することができる。bFGFの非限定的な例示的濃度には、約80 ng/mlが含まれる。TGFβの非限定的な例示的濃度は、約0.5 ng/mlが含まれる。さらに別の態様において、未分化多能性幹細胞は、mTeSR(商標)(Stem Cell Technologies、Vancouver, Canada) などの市販の完全培地で維持することができる。
【0060】
未分化多能性細胞は、フィーダー細胞、典型的には胚または胎児組織由来の線維芽細胞の層上で培養することができる (Thomson et al. (1998) Science 282:1145)。フィーダー細胞は、ヒトまたはマウスの供給源に由来し得る。ヒトフィーダー細胞は、様々なヒト組織から単離することができるか、または線維芽細胞へのヒト胚性幹細胞の分化を介して導出することができる(例えば、WO 01/51616を参照されたい)。使用され得るヒトフィーダー細胞は、胎盤線維芽細胞(例えば、Genbacev et al. (2005) Fertil. Steril. 83(5):1517)、卵管上皮細胞(例えば、Richards et al. (2002)Nat. Biotechnol, 20:933を参照されたい)、包皮線維芽細胞(例えば、Amit et al. (2003) Biol. Reprod.68:2150を参照されたい)、および子宮内膜細胞(例えば、Lee et al. (2005) Biol. Reprod. 72(1 ):42を参照されたい)を含むが、これらに限定されない。
【0061】
未分化多能性細胞の培養において、様々な固体表面を使用することができる。それらの固体表面には、6ウェル、24ウェル、96ウェル、または144ウェルプレートなどの標準的な市販の組織培養フラスコまたは細胞培養プレートが含まれるが、これらに限定されない。その他の固体表面には、マイクロキャリアおよびディスクが含まれるが、これらに限定されない。未分化多能性細胞を増殖させるのに適した固体表面は、ガラス、またはプラスチック、例えば、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、melinex、thermanox、もしくはそれらの組み合わせなどを含むがこれらに限定されない種々の物質から作製され得る。適切な表面は、例えば1つまたは複数のアクリレートなどの1つまたは複数のポリマーを含み得る。固体表面は三次元の形状であってよい。三次元固体表面の非限定的な例は、例えば米国特許出願公開第2005/0031598号に以前に記載されている。
【0062】
未分化幹細胞はまた、増殖基質上で無フィーダー条件下で増殖させることができる。増殖基質は、Matrigel(登録商標)マトリックス(例えば、Matrigel(登録商標)もしくはMatrigel(登録商標)GFR)、組換えラミニン、ラミニン-511組換え断片E8、またはビトロネクチンであってよい。本開示のある特定の態様において、増殖基質は組換えヒトラミニン-521(Biolamina、Sweden、販売元Corning Inc.、Corning、NY)である。他の態様において、基質は、例えばSynthemax(登録商標)-II SC基質などの合成基質である。
【0063】
未分化幹細胞は、コラゲナーゼを使用するなど、または手作業でスクレーピングするなどの様々な方法を使用して、継代または継代培養することができる。未分化幹細胞は、Accutase(登録商標)(販売元Sigma Aldrich、MO)または類似のトリプシナーゼを用いるなどの、単一細胞懸濁液を生成する酵素的手段によって、継代培養することができる。あるいは、未分化幹細胞は、PBS中の0.5 mM EDTAなど、またはReLeSR(商標)(Stem Cell Technologies、Vancouver, Canada)を使用するなどの非酵素的手段を用いて、継代培養することができる。
【0064】
1つの態様においては、複数の未分化幹細胞を、約3~約10日間で細胞がコンフルエンスに達することを可能にする播種密度で、播種または継代培養する。1つの態様において、播種密度は、細胞約6.0×103個/cm2~細胞約5.0×105個/cm2の範囲、例えば、増殖表面につき細胞約1.0×104個/cm2など、細胞約5.0×104個/cm2など、細胞約1.0×105個/cm2など、または細胞約3.0×105個/cm2などであってよい。別の態様において、播種密度は、増殖表面につき細胞約6.0×103個/cm2~細胞約1.0×104個/cm2の範囲、例えば、増殖表面につき細胞約6.0×103個/cm2~細胞約9.0×103個/cm2など、細胞約7.0×103個/cm2~細胞約1.0×104個/cm2など、細胞約7.0×103個/cm2~細胞約9.0×103個/cm2など、または細胞約7.0×103個/cm2~細胞約8.0×103個/cm2などであってよい。さらに別の態様において、播種密度は、増殖表面につき細胞約1.0×104個/cm2~細胞約1.0×105個/cm2の範囲、例えば、増殖表面につき細胞約2.0×104個/cm2~細胞約9.0×104個/cm2など、細胞約3.0×104個/cm2~細胞約8.0×104個/cm2など、細胞約4.0×104個/cm2~細胞約7.0×104個/cm2など、または細胞約5.0×104個/cm2~細胞約6.0×104個/cm2などであってよい。1つの態様において、播種密度は、増殖表面につき細胞約1.0×105個/cm2~細胞約5.0×105個/cm2の範囲、例えば、増殖表面につき細胞約1.0×105個/cm2~細胞約4.5×105個/cm2など、細胞約1.5×105個/cm2~細胞約4.0×105個/cm2など、細胞約2.0×105個/cm2~細胞約3.5×105個/cm2など、または細胞約2.5×105個/cm2~細胞約3.0×105個/cm2などであってよい。
【0065】
種々の適切な細胞培養および継代培養の技法のいずれかを使用して、本開示の方法に従って幹細胞を培養することができる。例えば、細胞の継代培養の約2日後から開始して、培地を毎日完全に交換することができる。1つの態様においては、培養物が約90%のコロニー被覆度に達した時点で、定量化用の単一細胞懸濁液を得るために例えばAccutase(登録商標)などの1つまたは複数の適切な試薬を用いて、細胞を剥離し、後続の培養のために播種することができる。1つの態様においては、未分化幹細胞を次いで継代培養した後、適切な期間、例えば約3~10日間で細胞がコンフルエンスに達することを可能にする播種密度で、細胞を適切な増殖基質(例えば、組換えヒトラミニン-521)上に播種することができる。1つの態様において、未分化幹細胞は、コラゲナーゼIVを用いて継代培養し、組換えラミニン上で増殖させることができる。別の態様において、未分化幹細胞は、コラゲナーゼIVを用いて継代培養し、Matrigel(登録商標)上で増殖させることができる。1つの態様において、未分化幹細胞は、ReLeSR(商標)を用いて継代培養し、組換えヒトラミニン-521上で増殖させることができる。
【0066】
未分化幹細胞の播種に関して、播種密度は、細胞約6.0×103個/cm2~細胞約5.0×105個/cm2の範囲、例えば、増殖表面につき細胞約1.0×104個/cm2など、細胞約5.0×104個/cm2など、細胞約1.0×105個/cm2など、または細胞約3.0×105個/cm2などであってよい。別の態様において、播種密度は、増殖表面につき細胞約6.0×103個/cm2~細胞約1.0×104個/cm2の範囲、例えば、増殖表面につき細胞約6.0×103個/cm2~細胞約9.0×103個/cm2など、細胞約7.0×103個/cm2~細胞約1.0×104個/cm2など、細胞約7.0×103個/cm2~細胞約9.0×103個/cm2など、または細胞約7.0×103個/cm2~細胞約8.0×103個/cm2などであってよい。さらに別の態様において、播種密度は、増殖表面につき細胞約1.0×104個/cm2~細胞約1.0×105個/cm2の範囲、例えば、増殖表面につき細胞約2.0×104個/cm2~細胞約9.0×104個/cm2など、細胞約3.0×104個/cm2~細胞約8.0×104個/cm2など、細胞約4.0×104個/cm2~細胞約7.0×104個/cm2など、または細胞約5.0×104個/cm2~細胞約6.0×104個/cm2などであってよい。1つの態様において、播種密度は、増殖表面につき細胞約1.0×105個/cm2~細胞約5.0×105個/cm2の範囲、例えば、増殖表面につき細胞約1.0×105個/cm2~細胞約4.5×105個/cm2など、細胞約1.5×105個/cm2~細胞約4.0×105個/cm2など、細胞約2.0×105個/cm2~細胞約3.5×105個/cm2など、または細胞約2.5×105個/cm2~細胞約3.0×105個/cm2などであってよい。
【0067】
背側神経外胚葉前駆細胞へのそしてさらに背側由来のグリア前駆細胞およびオリゴデンドロサイト前駆細胞へのヒト多能性幹細胞の分化
本開示は、BMPシグナル伝達の小分子およびタンパク質調節因子、ならびにMAPK/ERKキナーゼの阻害物質の組み合わせを使用して、ヒト多能性幹細胞を、背側脊髄表現型を有する神経外胚葉に、そしてさらにグリア前駆細胞およびオリゴデンドロサイト前駆細胞に分化させるための方法を提供する。いかなる特定の理論にも縛られることなく、本発明者らは、本開示の方法に従って得られたヒト背側神経外胚葉前駆細胞を、SHHシグナル伝達の活性化の非存在下で、脊髄OPCに容易にかつ効率的に分化させることができることを発見した。驚くべきことに、この初期の背側表現型は、インビボでの初期のOPC生成の領域ではないにもかかわらず、分化過程の21日目までにグリア前駆細胞を、そして分化過程の42日目までにOPCを生じさせる。本開示に従って生成された42日目のOPCは、基準OPCマーカーであるNG2およびPDGFRαを発現し、脊髄損傷を処置するために現在臨床試験中である、別法を用いて作製されたOPCと(その全体的なマーカー発現プロファイルの点で)同等である。
【0068】
さらに、本発明者らは、SHHシグナル伝達が活性化される分化プロトコールと比較して、本開示の方法によって著しくより多数の分化細胞が得られ、大量の背側神経外胚葉前駆細胞および下流の適用のためのその子孫、例えばグリア前駆細胞またはOPCなどを生成するための拡張可能な過程が提供されることを発見した。
【0069】
1つの態様において、方法は、ヒト多能性幹細胞を、骨形成タンパク質 (BMP) シグナル伝達の1つまたは複数の阻害物質と組み合わせたマイトジェン活性化プロテインキナーゼ/細胞外シグナル制御キナーゼ (MAPK/ERK) の1つまたは複数の阻害物質と接触させる工程を含む。ある特定の態様において、MAPK/ERK阻害物質は小分子である。他の態様において、MAPK/ERK阻害物質は、MAPK/ERKキナーゼを脱リン酸化するホスファターゼなどのタンパク質である。ある特定の態様において、BMPシグナル伝達の阻害物質は小分子である。他の態様において、BMPシグナル伝達の阻害物質はタンパク質である。いくつかの態様において、BMPシグナル伝達の阻害物質の直接の標的は、アクチビンA受容体I型 (ACVR1) としても公知であるALK2である。ある特定の態様においては、MAPK/ERKおよびBMPシグナル伝達の阻害に続いて、細胞を尾側化剤レチノイン酸の存在下で培養し、それによって背側脊髄表現型を有する神経外胚葉拘束前駆細胞を得る。
【0070】
ある特定の態様において、MAPK/ERKの阻害物質は、PD0325901、AZD6244、GSK1120212、PD184352、およびコビメチニブ、ならびにそれらの誘導体からなる群より選択され得る。ある特定の態様において、BMPシグナル伝達の阻害物質は、ドルソモルフィン、DMH-1、K02288、ML347、LDN193189、およびノギンタンパク質からなる群より選択され得る。
【0071】
1つの態様において、方法は、図1に記載されているように、未分化状態のままである未分化ヒト多能性幹細胞を得る工程;小分子PD0325901およびドルソモルフィンおよびレチノイン酸の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を第1の期間にわたり接着培養する工程;ならびに続いて、レチノイン酸の存在下かつSHHシグナル伝達活性化物質の非存在下で細胞を第2の期間にわたり接着培養し、それによって背側神経外胚葉細胞を得る工程を含む。1つの態様において、第1の期間および第2の期間はそれぞれ、約1~約6日の範囲、例えば、約1日など、約2日など、約3日など、約4日など、約5日など、または約6日などであってよい。
【0072】
1つの態様において、方法は、約1μM~約100μMの範囲、例えば、約2μMなど、約3μMなど、約4μMなど、約5μMなど、約6μMなど、約7μMなど、約8μMなど、約9μMなど、約10μMなど、約11μMなど、約12μMなど、約13μMなど、約14μMなど、約15μMなど、約20μMなど、約30μMなど、約40μMなど、約50μMなど、または約60μM、70μM、80μM、もしくは90μMなどの濃度のPD0325901の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。別の態様において、方法は、約10μMの濃度のPD0325901の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。
【0073】
1つの態様において、方法は、約1μM~約100μMの範囲、例えば、約2μMなど、約3μMなど、約4μMなど、約5μMなど、約6μMなど、約7μMなど、約8μMなど、約9μMなど、約10μMなど、約11μMなど、約12μMなど、約13μMなど、約14μMなど、約15μMなど、約20μMなど、約30μMなど、約40μMなど、約50μMなど、または約60μM、70μM、80μM、もしくは90μMなどの濃度のAZD6244の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。別の態様において、方法は、約10μMの濃度のAZD6244の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。
【0074】
1つの態様において、方法は、約1μM~約100μMの範囲、例えば、約2μMなど、約3μMなど、約4μMなど、約5μMなど、約6μMなど、約7μMなど、約8μMなど、約9μMなど、約10μMなど、約11μMなど、約12μMなど、約13μMなど、約14μMなど、約15μMなど、約20μMなど、約30μMなど、約40μMなど、約50μMなど、または約60μM、70μM、80μM、もしくは90μMなどの濃度のPD0325901のGSK1120212の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。別の態様において、方法は、約10μMの濃度のGSK1120212の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。
【0075】
1つの態様において、方法は、約1μM~約100μMの範囲、例えば、約2μMなど、約3μMなど、約4μMなど、約5μMなど、約6μMなど、約7μMなど、約8μMなど、約9μMなど、約10μMなど、約11μMなど、約12μMなど、約13μMなど、約14μMなど、約15μMなど、約20μMなど、約30μMなど、約40μMなど、約50μMなど、または約60μM、70μM、80μM、もしくは90μMなどの濃度のPD184352の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。別の態様において、方法は、約10μMの濃度のPD184352の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。
【0076】
1つの態様において、方法は、約1μM~約100μMの範囲、例えば、約2μMなど、約3μMなど、約4μMなど、約5μMなど、約6μMなど、約7μMなど、約8μMなど、約9μMなど、約10μMなど、約11μMなど、約12μMなど、約13μMなど、約14μMなど、約15μMなど、約20μMなど、約30μMなど、約40μMなど、約50μMなど、または約60μM、70μM、80μM、もしくは90μMなどの濃度のコビメチニブの存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。別の態様において、方法は、約10μMの濃度のコビメチニブの存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。
【0077】
1つの態様において、方法は、約0.2μM~約20μMの範囲、例えば、約0.5μMなど、約0.8μMなど、約1μMなど、約1.5μMなど、約2μMなど、約2.5μMなど、約3μMなど、約3.5μMなど、約4μMなど、約4.5μMなど、約5μMなど、約5.5μMなど、約6μMなど、約6.5μMなど、約7μMなど、約7.5μMなど、約8μMなど、約8.5μMなど、約9μMなど、約10μMなど、約11μMなど、約12μMなど、約13μMなど、約14μMなど、約15μMなど、約16μMなど、約17μMなど、約18μMなど、または約19μMなどの濃度のドルソモルフィンの存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。別の態様において、方法は、約0.2μM~約1μMの範囲、例えば、約0.2μM~約0.9μMなど、約0.3μM~約0.8μMなど、約0.4μM~約0.7μMなど、または約0.5μM~約0.6μMなどの濃度のドルソモルフィンの存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。さらに別の態様において、方法は、約1μM~約10μMの範囲、例えば、約1μM~約9μMなど、約2μM~約8μMなど、約3μM~約7μMなど、または約4μM~約6μMなどの濃度のドルソモルフィンの存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。1つの態様において、方法は、約10μM~約20μMの範囲、例えば、約10μM~約19μMなど、約12μM~約18μMなど、約13μM~約17μMなど、または約14μM~約16μMなどの濃度のドルソモルフィンの存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。1つの態様において、方法は、約2μMの濃度のドルソモルフィンの存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。
【0078】
1つの態様において、方法は、約1 nM~約20μMの範囲、例えば、約10 nMなど、約50 nMなど、約100 nMなど、約150 nMなど、約200 nMなど、約500 nMなど、約1μMなど、約5μMなど、約10μMなど、または約15μMなどの濃度のALK2阻害物質の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。
【0079】
1つの態様において、方法は、約1μM~約10μMの範囲の濃度のDMH-1の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。1つの態様において、方法は、約2μMのDMH-1の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。
【0080】
1つの態様において、方法は、約1μM~約10μMの範囲の濃度のK02288の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。1つの態様において、方法は、約2μMのK02288の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。
【0081】
1つの態様において、方法は、約1μM~約10μMの範囲の濃度のML347の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。1つの態様において、方法は、約2μMのML347の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。
【0082】
1つの態様において、方法は、約1μM~約10μMの範囲の濃度のLDN193189の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。1つの態様において、方法は、約2μMのLDN193189の存在下で、未分化ヒト多能性幹細胞を培養する工程を含む。
【0083】
接着細胞培養に適した任意の組織培養容器を、本開示に従って背側神経外胚葉前駆細胞を得るために使用することができる。適切な増殖基質には、例えば、組換えラミニン、ビトロネクチン、ラミニン-511組換え断片E8、またはマトリゲル(登録商標)マトリックス(例えば、マトリゲル(登録商標)、マトリゲル(登録商標)GFR)が含まれる。本開示のある特定の態様において、増殖基質は組換えヒトラミニン-521(Biolamina、Sweden、販売元Corning Inc.、Corning、NY)である。他の態様において、基質は、例えばSynthemax(登録商標)-II SC基質などの合成基質である。
【0084】
1つの態様においては、本開示に従って得られた背側神経外胚葉前駆細胞を、収集し、かつ、該細胞がグリア前駆細胞に成熟するまで、bFGFおよびEGFの存在下で凝集体として懸濁液中でさらに培養することができる。1つの態様において、さらなる培養期間は、約5~15日の範囲、例えば、約5日、約6日、約7日、約8日、約9日、約10日、約11日、約12日、約13日、約14日、または約15日であってよい。1つの態様において、さらなる培養期間は約7日である。
【0085】
1つの態様において、接着培養された背側神経外胚葉前駆細胞は、TrypLE(商標)Select(Thermo Fisher Scientific、Waltham, MA)、Accutase(登録商標)(Sigma Aldrich、MO)、または類似のトリプシナーゼを用いるなどの酵素的手段によって、収集することができる。あるいは、接着培養された背側神経外胚葉前駆細胞は、PBS中の0.5 mM EDTAなど、またはReLeSR(商標)(Stem Cell Technologies、Vancouver, Canada)を使用するなどの非酵素的手段を用いて、収集することができる。
【0086】
懸濁培養に適した任意の細胞培養容器またはリアクターを、本開示で企図される非接着培養工程のために使用することができる。容器の壁は、典型的には、培養細胞の接着に対して不活性または抵抗性である。動的懸濁液に関して、細胞が沈降するのを防ぐための手段、例えば、磁気的もしくは機械的に駆動される撹拌子もしくはパドルのような撹拌機構、振盪機構(典型的には外側で容器に取り付けられる)、または反転機構(すなわち、細胞にかかる重力の方向を変えるように容器を回転させる装置)もまた存在する。
【0087】
プロセス開発のための懸濁培養に適した容器には、通常の範囲の市販されているスピナー、スピナーフラスコ、ロッカーバッグ、または振盪フラスコが含まれる。商業生産に適した例示的なバイオリアクターには、VerticalWheel(商標)バイオリアクター(PBS Biotech、Camarillo, CA)が含まれる。
【0088】
動的懸濁液の前に凝集体を形成させることもできる。例えば、細胞をAggreWell(商標)プレート上に配置して、均一な細胞凝集体を作製することができる。約3日後に、細胞凝集体を動的懸濁液に移すことができる。
【0089】
1つの態様においては、本開示に従って得られたグリア前駆細胞を、収集し、プレーティングし、かつ、細胞がオリゴデンドロサイト前駆細胞に成熟するまで、上皮増殖因子 (EGF) の存在下でさらなる期間にわたり接着培養することができる。ある特定の態様において、培地は血小板由来増殖因子AA (PDGF-AA) をさらに含む。1つの態様において、さらなる培養期間は、約から約10~30日の範囲、例えば、約10日、約15日、約20日、約25日、または約30日などであってよい。1つの態様において、さらなる培養期間は、約15~25日の範囲、例えば、約15日、約16日、約17日、約19日、約20日、約21日、約22日、約23日、約24日、または約25日などであってよい。1つの態様において、さらなる培養期間は約21日である。
【0090】
OPC組成物
本開示の方法を用いて、細胞治療に適したオリゴデンドロサイト前駆細胞 (OPC) を含む組成物を得ることができる。本開示に従って得られたOPCは、OPCに特有のプロテオグリカンNG2、PDGFRα、および/またはGD3を高レベルで発現し、望ましくない細胞型に関連した非OPCマーカー、例えば、神経前駆細胞および上皮細胞の両方によって発現され得、かつインビトロの嚢胞形成に関連したCD49f (Debnath J, Muthuswamy SK, Brugge JS. Morphogenesis and oncogenesis of MCF-1OA mammary epithelial acini grown in three-dimensional basement membrane cultures. 2003 Methods. 3:256-68)、または多能性細胞および上皮細胞の両方によって発現される2つのマーカーであるCLDN6およびEpCAM(Lin D, Guo Y, Li Y, Ruan Y, Zhang M, Jin X, Yang M, Lu Y, Song P, Zhao S, Dong B, Xie Y, Dang Q, Quan C. Bioinformatic analysis reveals potential properties of human Claudin-6 regulation and functions. Oncol Rep. 2017 Aug;38(2):875-885;Huang L, Yang Y, Yang F, Liu S, Zhu Z, Lei Z, Guo J. Functions of EpCAM in physiological processes and diseases (Review). Int JMol Med. 2018 Oct;42(4): 1771-1785)などを低レベルで発現する。
【0091】
ある特定の態様において、本開示に従って作製されたOPCは、ヒト多能性幹細胞のインビトロで分化した子孫である。ある特定の態様において、本開示に従って得られたOPCは、ヒト胚性幹細胞のインビトロで分化した子孫である。他の態様において、本開示に従って得られたOPCは、人工多能性幹 (iPS) 細胞のインビトロで分化した子孫である。
【0092】
得られたOPC集団の1つまたは複数の特徴を、フローサイトメトリーを用いて様々な細胞マーカーを定量化することにより決定して、例えば、細胞集団のどのくらいの割合が特定のマーカーもしくはマーカーのセットについて陽性であるかを決定すること、またはOPC集団中に存在する望ましくない細胞型を同定することができる。
【0093】
本開示に従って得られたOPC集団は、約30%~約100%のNG2陽性細胞、例えば、少なくとも約35%など、少なくとも約40%など、少なくとも約45%など、少なくとも約50%など、少なくとも約55%など、少なくとも約60%など、少なくとも約65%など、少なくとも約70%など、少なくとも約75%など、少なくとも約80%など、少なくとも約85%など、少なくとも約90%など、少なくとも約95%など、少なくとも約98%など、少なくとも約99%など、少なくとも約99.5%など、少なくとも約99.8%など、または少なくとも約99.9%などのNG2陽性細胞を含み得る。ある特定の態様において、本開示に従って得られたOPC集団は、約45%~約75%のNG2陽性細胞、例えば、約45%~約50%など、約50%~約55%など、約55%~約60%など、約60%~約65%など、約65%~約70%など、約70%~約75%など、約50%~約70%など、約55%~約65%など、または約58%~約63%などのNG2陽性細胞を含み得る。他の態様において、本開示に従って得られたOPC集団は、約60%~約90%のNG2陽性細胞、例えば、約60%~約65%など、約65%~約70%などの陽性細胞を含み得る。
【0094】
本開示に従って得られたOPC集団は、約30%~約100%のPDGFRα陽性細胞、例えば、少なくとも約35%など、少なくとも約40%など、少なくとも約45%など、少なくとも約50%など、少なくとも約55%など、少なくとも約60%など、少なくとも約65%など、少なくとも約70%など、少なくとも約75%など、少なくとも約80%など、少なくとも約85%など、少なくとも約90%など、少なくとも約95%など、少なくとも約98%など、少なくとも約99%など、少なくとも約99.5%など、少なくとも約99.8%など、または少なくとも約99.9%などのPDGFRα陽性細胞を含み得る。ある特定の態様において、本開示に従って得られたOPC集団は、約45%~約75%のPDGFRα陽性細胞、例えば、約45%~約50%など、約50%~約55%など、約55%~約60%など、約60%~約65%など、約65%~約70%など、約70%~約75%など、約50%~約70%など、約55%~約65%など、または約58%~約63%などのPDGFRα陽性細胞を含み得る。他の態様において、本開示に従って得られたOPC集団は、約60%~約90%のPDGFRα陽性細胞、例えば、約60%~約65%など、約65%~約70%などの陽性細胞を含み得る。
【0095】
本開示に従って得られたOPC集団は、約30%~約100%のGD3陽性細胞、例えば、少なくとも約35%など、少なくとも約40%など、少なくとも約45%など、少なくとも約50%など、少なくとも約55%など、少なくとも約60%など、少なくとも約65%など、少なくとも約70%など、少なくとも約75%など、少なくとも約80%など、少なくとも約85%など、少なくとも約90%など、少なくとも約95%など、少なくとも約98%など、少なくとも約99%など、少なくとも約99.5%など、少なくとも約99.8%など、または少なくとも約99.9%などのGD3陽性細胞を含み得る。ある特定の態様において、本開示に従って得られたOPC集団は、約45%~約75%のGD3陽性細胞、例えば、約45%~約50%など、約50%~約55%など、約55%~約60%など、約60%~約65%など、約65%~約70%など、約70%~約75%など、約50%~約70%など、約55%~約65%など、または約58%~約63%などのGD3陽性細胞を含み得る。他の態様において、本開示に従って得られたOPC集団は、約60%~約90%のGD3陽性細胞、例えば、約60%~約65%など、約65%~約70%などの陽性細胞を含み得る。
【0096】
1つの態様において、本開示に従って得られたOPC集団は、本開示の実施例8に記載されている嚢胞アッセイにおいて、細胞100,000個当たり4個以下の上皮嚢胞を形成し得る。別の態様において、本開示に従って得られたOPC集団は、嚢胞アッセイにおいて、細胞100,000個当たり3個以下の上皮嚢胞を形成し得る。別の態様において、本開示に従って得られたOPC集団は、嚢胞アッセイにおいて、細胞100,000個当たり2個以下の上皮嚢胞を形成し得る。さらに別の態様において、本開示に従って得られたOPC集団は、本開示の実施例8に記載されている嚢胞アッセイにおいて、細胞100,000個当たり1個以下の上皮嚢胞を形成し得る。
【0097】
望ましくない細胞型
本開示に従って得られたOPC集団は、例えば、フローサイトメトリーによる望ましくない細胞型に関連したマーカーの定量化により測定して、望ましくない細胞型を低レベルで含む。非限定的な例において、本開示に従って得られた42日目のOPCは、上皮細胞関連マーカーであるEpCAM、CD49f、およびCLDN6を発現する細胞を低レベルで含み得る。
【0098】
望ましくない細胞型に関連したマーカーは、約20%未満の望ましくない細胞型、例えば、約19%未満など、約18%未満など、約17%未満など、約16%未満など、約15%未満など、約14%未満など、約13%未満など、約12%未満など、約11%未満など、約10%未満など、約9%未満など、約8%未満など、約7%未満など、約6%未満など、約5%未満など、約4%未満など、約3%未満など、約2%未満など、約1%未満など、約0.5%未満など、約0.1%未満など、約0.05%未満など、または約0.01%未満などの望ましくない細胞型を含み得る。別の態様において、細胞集団は、約15%~約20%の望ましくない細胞型、例えば、約19%~約20%など、約18%~約20%など、約17%~約20%など、約16%~約20%など、約15%~約19%など、または約16%~約18%などの望ましくない細胞型を含み得る。さらに別の態様において、細胞集団は、約10%~約15%の望ましくない細胞型、例えば、約14%~約15%など、約13%~約15%など、約12%~約15%など、約11%~約15%など、または約12%~約14%などの望ましくない細胞型を含み得る。1つの態様において、細胞集団は、約1%~約10%の望ましくない細胞型、例えば、約2%~約10%など、約1%~約9%など、約2%~約8%など、約3%~約7%など、または約4%~約6%などの望ましくない細胞型を含み得る。1つの態様において、細胞集団は、約0.1%~約1%の望ましくない細胞型、例えば、約0.2%~約1%など、約0.1%~約0.9%など、約0.2%~約0.8%など、約0.3%~約0.7%など、または約0.4%~約0.6%などの望ましくない細胞型を含み得る。1つの態様において、細胞集団は、約0.01%~約0.1%の望ましくない細胞型、例えば、約0.02%~約0.1%など、約0.01%~約0.09%など、約0.02%~約0.08%など、約0.03%~約0.07%など、または約0.04%~約0.06%などの望ましくない細胞型を含み得る。1つの態様において、低レベルの望ましくない細胞型は、約15%未満の望ましくない細胞型の存在を意味し得る。
【0099】
1つの態様において、望ましくない細胞型は、CD49f、CLDN6、またはEpCAMより選択される1つまたは複数のマーカーを発現する細胞を含み得る。
【0100】
凍結保存
収集後、OPCの増殖集団を特定の治療用量(例えば、細胞数)で製剤化し、診療所への出荷のために凍結保存することができる。次いで、すぐに投与できる (RTA) OPC治療組成物を、さらに処理することなく解凍直後に投与することができる。凍結保存に適した培地の例には、90%ヒト血清/10% DMSO、培地3 10% (CS10)、培地2 5% (CS5)、および培地1 2% (CS2)、Stem Cell Banker、PRIME XV(登録商標)FREEZIS、HYPOTHERMASOL(登録商標)、CSB、トレハロース等が含まれるが、これらに限定されない。
【0101】
いくつかの態様において、約0~約8時間の間、凍結保存培地中に保存された濾過後細胞の生存パーセントは、少なくとも約75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%である。他の態様において、約0~約8時間の間、凍結保存培地中に保存された濾過後細胞の回収パーセントは、少なくとも約75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%である。
【0102】
さらなる態様において、約0~約8時間の間、中和培地中に保存され、続いて約0~約8時間の間、凍結保存培地中に保存された濾過後細胞の生存パーセントは、少なくとも約75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%である。他の態様において、約0~約8時間の間、中和培地中に保存され、続いて約0~約8時間の間、凍結保存培地中に保存された濾過後細胞の回収パーセントは、少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%である。
【0103】
さらに他の態様において、約0~約8時間の間、中和培地中に保存され、続いて約0~約8時間の間、凍結保存培地中に保存され、凍結保存された組成物が解凍された後の濾過後細胞の生存パーセントは、少なくとも約75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%である。さらに他の態様において、約0~約8時間の間、中和培地中に保存され、続いて約0~約8時間の間、凍結保存培地中に保存され、凍結保存された組成物が解凍された後の濾過後細胞の回収パーセントは、少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%である。
【0104】
いくつかの態様において、約0~約8時間の間、中和培地中に保存され、続いて約0~約8時間の間、凍結保存培地中に保存され、凍結保存された組成物が解凍された後の濾過後OPCは、デコリンを分泌し得る。他の態様において、約0~約8時間の間、中和培地中に保存され、続いて約0~約8時間の間、凍結保存培地中に保存され、凍結保存された組成物が解凍された後の濾過後OPCは、増殖が可能である。
【0105】
いくつかの態様において、室温で約0~約8時間の間、中和培地中に保存された濾過後OPCの生存パーセントは、少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%である。いくつかの態様において、室温で約0~約8時間の間、凍結保存培地中に保存された濾過後OPCの生存パーセントは、少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%である。さらなる態様において、室温で約0~約8時間の間、中和溶液中で保存され、続いて室温で約0~約8時間の間、凍結保存培地中で保存された濾過後細胞の生存パーセントは、少なくとも約75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%である。なおさらなる態様において、室温で約0~約8時間の間、中和溶液中で保存され、続いて室温で約0~約8時間の間、凍結保存培地中で保存された濾過後細胞の回収パーセントは、少なくとも約75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%、105%、110%、115%、120%、125%、130%、140%、150%である。
【0106】
解凍後にすぐに投与できる (RTA) 適用に適した凍結保存培地中に製剤化されたOPCは、アデノシン、デキストラン-40、ラクトビオン酸、HEPES(N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N'-(2-エタンスルホン酸))、水酸化ナトリウム、L-グルタチオン、塩化カリウム、炭酸水素カリウム、リン酸カリウム、デキストロース、スクロース、マンニトール、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ジメチルスルホキシド (DMSO)、および水中に懸濁されたOPCを含み得る。この凍結保存培地の例は、商標CRYOSTOR(登録商標)の下で市販されており、BioLife Solutions, Inc.によって製造されている。
【0107】
DMSOは、凍結保存過程中に細胞を死滅させ得る氷晶の形成を防ぐための凍結防止剤として使用することができる。いくつかの態様において、凍結保存可能なOPC治療組成物は、約0.1%~約2%のDMSO (v/v) を含む。いくつかの態様において、RTA OPC治療組成物は、約1%~約20%のDMSOを含む。いくつかの態様において、RTA OPC治療組成物は約10%のDMSOを含む。いくつかの態様において、RTA OPC細胞治療組成物は約5%のDMSOを含む。
【0108】
いくつかの態様において、解凍後にすぐに投与できる (RTA) 適用に適した凍結保存培地中に製剤化されたOPC治療剤は、DMSOを含有しない凍結保存培地中に懸濁されたOPCを含み得る。例えば、RTA OPC治療用細胞組成物は、DMSO(ジメチルスルホキシド、(CH3)2SO)または任意の他の双極性非プロトン性溶媒を含まない、トロロクス、Na+、K+、Ca2+、Mg2+、c1-、H2P04-、HEPES、ラクトビオン酸塩、スクロース、マンニトール、グルコース、デキストラン-40、アデノシン、グルタチオン中に懸濁されたOPCを含み得る。この凍結保存培地の例は、商標HYPOTHERMOSOL(登録商標)またはHYPOTHERMOSOL(登録商標)-FRSの下で市販されており、同様にBioLife Solutions, Inc.によって製造されている。他の態様において、解凍後にすぐに投与できる適用に適した凍結保存培地中に製剤化されたOPC組成物は、トレハロース中に懸濁されたOPCを含み得る。
【0109】
RTA OPC治療組成物は、OPCの生着、組み込み、生存、効力等を支援する追加の因子を任意で含み得る。いくつかの態様において、RTA OPC治療組成物は、本明細書に記載されるOPC調製物の機能の活性化物質を含む。
【0110】
いくつかの態様において、RTA OPC治療組成物は、フリーラジカルの除去、pH緩衝化、膨張/浸透の支援、およびイオン濃度バランスの維持によって、凍結および解凍過程中の分子細胞ストレスを減少させる成分を含む培地中に製剤化することができる。
【0111】
いくつかの態様において、解凍後にすぐに投与できる適用に適した凍結保存培地中に製剤化されたOPC治療剤は、1つまたは複数の免疫抑制化合物を含み得る。ある特定の態様において、解凍後にすぐに投与できる適用に適した凍結保存培地中に製剤化されたOPC治療剤は、1つまたは複数の免疫抑制化合物の徐放のために製剤化される1つまたは複数の免疫抑制化合物を含み得る。本明細書に記載される製剤と共に使用するための免疫抑制化合物は、免疫抑制薬の以下のクラスに属し得る:グルココルチコイド、細胞増殖抑制剤(例えば、アルキル化剤または代謝拮抗物質)、抗体(ポリクローナルまたはモノクローナル)、イムノフィリンに作用する薬物(例えば、シクロスポリン、タクロリムス、またはシロリムス)。追加の薬物には、インターフェロン、オピオイド、TNF結合タンパク質、ミコフェノレート、および小さな生物学的剤が含まれる。免疫抑制薬の例には、間葉系幹細胞、抗リンパ球グロブリン (ALG) ポリクローナル抗体、抗胸腺細胞グロブリン (ATG) ポリクローナル抗体、アザチオプリン、BAS 1Ll X lMAB(登録商標)(抗I L-2Ra受容体抗体)、シクロスポリン(シクロスポリンA)、DACLIZUMAB(登録商標)(抗I L-2Ra受容体抗体)、エベロリムス、ミコフェノール酸、RITUX lMAB(登録商標)(抗CD20抗体)、シロリムス、タクロリムス、タクロリムス、およびまたはミコフェノール酸モフェチルが含まれる。
【0112】
製剤
本開示に従うOPC組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含み得る。1つの態様において、薬学的に許容される担体は、ジメチルスルホキシド (DMSO) を含み得る。1つの態様において、薬学的に許容される担体は、ジメチルスルホキシドを含まない。上述したように、組成物は、-80℃~-195℃以下での凍結保存にさらに適合させることができる。
【0113】
本開示に従うOPC組成物は、対象の脊髄への直接注射を介した投与のために製剤化することができる。1つの態様において、本開示に従うOPC組成物は、対象への脳内、脳室内、髄腔内、鼻腔内、または大槽内投与のために製剤化することができる。1つの態様において、本開示に従うOPC組成物は、対象の脳内の梗塞腔への直接のまたはすぐ近接した注射を介した投与のために製剤化することができる。1つの態様において、本開示に従う組成物は、移植による投与のために製剤化することができる。1つの態様において、本開示に従う組成物は、溶液として製剤化することができる。
【0114】
本開示に従うOPC組成物は、1ミリリットル当たり細胞約1×106~約5×108個、例えば、1ミリリットル当たり細胞約1×106個など、1ミリリットル当たり細胞約2×106個など、1ミリリットル当たり細胞約3×106個など、1ミリリットル当たり細胞約4×106個など、1ミリリットル当たり細胞約5×106個など、1ミリリットル当たり細胞約6×106個など、1ミリリットル当たり細胞約7×106個など、1ミリリットル当たり細胞約8×106個など、1ミリリットル当たり細胞約9×106個など、1ミリリットル当たり細胞約1×107個など、1ミリリットル当たり細胞約2×107個など、1ミリリットル当たり細胞約3×107個など、1ミリリットル当たり細胞約4×107個など、1ミリリットル当たり細胞約5×107個など、1ミリリットル当たり細胞約6×107個など、1ミリリットル当たり細胞約7×107個など、1ミリリットル当たり細胞約8×107個など、1ミリリットル当たり細胞約9×107個など、1ミリリットル当たり細胞約1×108個など、1ミリリットル当たり細胞約2×108個など、1ミリリットル当たり細胞約3×108個など、1ミリリットル当たり細胞約4×108個など、または1ミリリットル当たり細胞約5×108個などを含み得る。別の態様において、本開示に従う組成物は、1ミリリットル当たり細胞約1×108~約5×108個、例えば、1ミリリットル当たり細胞約1×108~約4×108個など、1ミリリットル当たり細胞約2×108~約5×108個など、1ミリリットル当たり細胞約1×108~約3×108個など、1ミリリットル当たり細胞約2×108~約4×108個など、または1ミリリットル当たり細胞約3×108~約5×108個などを含み得る。別の態様において、本開示に従う組成物は、1ミリリットル当たり細胞約1×107~約1×108個、例えば、1ミリリットル当たり細胞約2×107~約9×107個など、1ミリリットル当たり細胞約3×107~約8×107個など、1ミリリットル当たり細胞約4×107~約7×107個など、または1ミリリットル当たり細胞約5×107~約6×107個などを含み得る。1つの態様において、本開示に従う組成物は、1ミリリットル当たり細胞約1×106~約1×107個、例えば、1ミリリットル当たり細胞約2×106~約9×106個など、1ミリリットル当たり細胞約3×106~約8×106個など、1ミリリットル当たり細胞約4×106~約7×106個など、または1ミリリットル当たり細胞約5×106~約6×106個などを含み得る。さらに別の態様において、本開示に従う組成物は、1ミリリットル当たり少なくとも細胞約1×106個、例えば、1ミリリットル当たり少なくとも細胞約2×106個など、1ミリリットル当たり少なくとも細胞約3×106個など、1ミリリットル当たり少なくとも細胞約4×106個など、1ミリリットル当たり少なくとも細胞約5×106個など、1ミリリットル当たり少なくとも細胞約6×106個など、1ミリリットル当たり少なくとも細胞約7×106個など、1ミリリットル当たり少なくとも細胞約8×106個など、1ミリリットル当たり少なくとも細胞約9×106個など、1ミリリットル当たり少なくとも細胞約1×107個など、1ミリリットル当たり少なくとも細胞約2×107個など、1ミリリットル当たり少なくとも細胞約3×107個など、1ミリリットル当たり少なくとも細胞約4×107個など、または1ミリリットル当たり少なくとも細胞約5×107個などを含み得る。1つの態様において、本開示に従う組成物は、最大で細胞約1×108個もしくはそれ以上、例えば、1ミリリットル当たり最大で細胞約2×108個もしくはそれ以上など、1ミリリットル当たり最大で細胞約3×108個もしくはそれ以上など、1ミリリットル当たり最大で細胞約4×108個もしくはそれ以上など、1ミリリットル当たり最大で細胞約5×108個もしくはそれ以上など、または1ミリリットル当たり最大で細胞約6×108個もしくはそれ以上などを含み得る。
【0115】
1つの態様において、本開示に従うOPC組成物は、1ミリリットル当たり細胞約4×107~約2×108個を含み得る。
【0116】
さらに別の態様において、本開示に従うOPC組成物は、約10マイクロリットル~約5ミリリットルの範囲、例えば、約20マイクロリットルなど、約30マイクロリットルなど、約40マイクロリットルなど、約50マイクロリットルなど、約60マイクロリットルなど、約70マイクロリットルなど、約80マイクロリットルなど、約90マイクロリットルなど、約100マイクロリットルなど、約200マイクロリットルなど、約300マイクロリットルなど、約400マイクロリットルなど、約500マイクロリットルなど、約600マイクロリットルなど、約700マイクロリットルなど、約800マイクロリットルなど、約900マイクロリットルなど、約1ミリリットルなど、約1.5ミリリットルなど、約2ミリリットルなど、約2.5ミリリットルなど、約3ミリリットルなど、約3.5ミリリットルなど、約4ミリリットルなど、または約4.5ミリリットルなどの容積を有し得る。1つの態様において、本開示に従う組成物は、約10マイクロリットル~約100マイクロリットルの範囲、例えば、約20マイクロリットル~約90マイクロリットルなど、約30マイクロリットル~約80マイクロリットルなど、約40マイクロリットル~約70マイクロリットルなど、または約50マイクロリットル~約60マイクロリットルなどの容積を有し得る。別の態様において、本開示に従う組成物は、約100マイクロリットル~約1ミリリットルの範囲、例えば、約200マイクロリットル~約900マイクロリットルなど、約300マイクロリットル~約800マイクロリットルなど、約400マイクロリットル~約700マイクロリットルなど、または約500マイクロリットル~約600マイクロリットルなどの容積を有し得る。さらに別の態様において、本開示に従う組成物は、約1ミリリットル~約5ミリリットルの範囲、例えば、約2ミリリットル~約5ミリリットルなど、約1ミリリットル~約4ミリリットルなど、約1ミリリットル~約3ミリリットルなど、約2ミリリットル~約4ミリリットルなど、または約3ミリリットル~約5ミリリットルなどの容積を有し得る。1つの態様において、本開示に従うOPC組成物は、約20マイクロリットル~約500マイクロリットルの容積を有し得る。別の態様において、本開示に従うOPC組成物は、約50マイクロリットル~約100マイクロリットルの容積を有し得る。さらに別の態様において、本開示に従うOPC組成物は、約50マイクロリットル~約200マイクロリットルの容積を有し得る。別の態様において、本開示に従うOPC組成物は、約20マイクロリットル~約400マイクロリットルの容積を有し得る。1つの態様において、本開示に従うOPC組成物は、凍結保存のため、またはそれを必要とする対象への投与のために構成された容器内に存在し得る。1つの態様において、容器は充填済みシリンジであってよい。
【0117】
使用方法
本開示に従って得られたOPC組成物は、処置を必要とする対象における1つまたは複数の神経学的機能を改善するための細胞治療において使用することができる。1つの態様においては、本開示に従うOPC細胞集団を、それを必要とする対象に注射または移植することができる。1つの態様においては、本開示に従う細胞集団を、脊髄損傷、脳卒中、または多発性硬化症を処置するために、それを必要とする対象に移植することができる。
【0118】
1つの態様において、本開示に従う細胞集団は、対象における移植部位において脱有髄軸索のミエリン形成を誘導し得る。1つの態様において、本開示の方法に従って作製された細胞集団は、改善された生着および遊走能力を示し得る。1つの態様において、本開示の方法に従って作製された細胞集団は、対象における神経組織の損傷後の修復または再生を改善し得る。
【0119】
本開示に従う細胞集団は、治療を必要とする対象に該集団を移植した後、該対象における感覚機能を改善し得る。感覚機能の改善は、脊髄損傷の神経学的分類に関する国際標準 (ISNCSCI) 検査を使用して、例えば、針で刺す感覚および軽く触れる感覚について右側および左側の感覚レベルを決定するなどして評価することができる。本開示に従う細胞集団は、治療を必要とする対象に該集団を移植した後、該対象における運動機能を改善し得る。運動機能の改善は、ISNCSCI検査を使用して、例えば、完全麻痺、触知可能または目視可能な収縮、能動運動、重力に対する全可動域、および十分な抵抗について右側および左側の運動レベルを決定するなどして評価することができる。
【0120】
本開示に従う細胞集団は、12カ月またはそれ未満に損傷誘発性の中枢神経系実質空洞化の容積を減少させ得る。1つの態様において、本開示に従う細胞集団は、6カ月もしくはそれ未満、5カ月もしくはそれ未満、4カ月もしくはそれ未満、3カ月もしくはそれ未満、2カ月もしくはそれ未満、または1カ月もしくはそれ未満に、対象における損傷誘発性の中枢神経系実質空洞化の容積を減少させ得る。
【0121】
本発明をここまで概説してきたが、本発明は、以下の実施例を参照することにより、より容易に理解されるであろう。実施例は、実例として提供されており、指定のない限り、本開示を限定するように意図されていない。
【実施例
【0122】
実施例1 - 未分化ヒト胚性幹細胞の培養および増殖
H1株から作製されたワーキング細胞バンク (WCB) からの未分化ヒト胚性幹細胞 (uhESC)(WA01;Thomson JA, Itskovitz-Eldor J, Shapiro SS, Waknitz MA, Swiergiel JJ, Marshall VS, Jones JM. Embryonic stem cell lines derived from human blastocysts. Science. 1998 Nov 6; 282(5391):1145-7)は、組換えヒトラミニン-521(rhLn-521、Corning # 354224)でコーティングされ、組織培養処理されたポリスチレンT-75培養フラスコ (Corning # 431082) 上で、完全mTeSR(商標)-1培地 (Stem Cell Technologies # 85850) 中で培養した。細胞がおよそ80~90%の集密度に達するまで、培地を毎日完全に交換し、次いでReLeSR(商標)試薬 (Stem Cell Technologies # 05872) を用いてuhESCを継代した。ReLeSR(商標)で釣り上げたuhESCは、rhLn-521でコーティングされた新たな225 cm2フラスコに播種し、播種の2日後に毎日の培地交換を再開した。WCBから培養したuhESCは、実験に応じて2~5継代の間この様式で増殖させた後、実施例2に記載されるように神経外胚葉前駆細胞に分化させた。
【0123】
実施例2 - ヒト胚性幹細胞を、背側脊髄前駆細胞表現型を有する神経外胚葉前駆細胞に分化させる方法
増殖させたuhESCを、rhLn-521でコーティングされた容器に播種し、40~70%の集密度に達するまで培養し、その時点で分化を開始した。
【0124】
0~3日目:mTeSR(商標)-1培地を完全に除去し、10μMのMAPK/ERK阻害物質、PD0325901(PD;Sigma-Aldrichカタログ番号PZ0162)、2μMのBMPシグナル阻害物質、ドルソモルフィン(Dorso;Sigma-Aldrichカタログ番号P5499)、および1μMのレチノイン酸(RA;Sigma-Aldrichカタログ番号R2625)を補充したグリア前駆細胞培地(GPM;2% B27補充物質(Gibcoカタログ番号17504-044)および0.04μg/mLトリヨードチロニン(Sigma-Aldrichカタログ番号T5516-1MG)を補充したDMEM/F12 (Gibcoカタログ番号10565-018) からなる)を添加することにより、分化を開始した。この培地は毎日補充した。
【0125】
4~6日目:4日目に、培地を、1μM RAおよび150μMアスコルビン酸(Sigma-Aldrichカタログ番号A4544)を補充したGPMに切り替え、毎日補充した。
【0126】
7日目:7日目に、実施例3に記載される増殖およびグリア前駆細胞へのさらなる分化のために、細胞を収集した。細胞のサブセットを回収して、定量的PCR(qPCR;実施例6に記載される)、フローサイトメトリー(実施例5に記載される)による解析を行い、利用可能な場合には、解析用に確保された別個のウェルプレートを調製して、免疫細胞化学的検査 (ICC)(実施例5に記載される)を行った。7日目の時点で、これらの細胞は、背側脊髄前駆細胞と一致するマーカー発現を示した(表2、図3)。
【0127】
実施例3 - ヒト胚性幹細胞をグリア系細胞に分化させる方法
7~13日目:特に背側表現型についての神経外胚葉前駆細胞へのuhESCの分化は、実施例2に記載されるように行った。7日目に、TrypLE(商標)Select(Thermo Fisher、cat# A12859-01)を用いて細胞を釣り上げ、計数し、20 ng/mLヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、Thermo Fisher、cat# PHG0263)、10 ng/mL上皮増殖因子(hEGF、Thermo Fisher、cat# PHG0311)、10μM Rhoキナーゼ阻害物質(RI、Tocrisカタログ番号1254)を補充したGPM中で、rhLn-521でコーティングされた容器上に細胞2.7×104個/cm2の播種密度で播種した。培地は、使用済みの培地を吸引し、それを新鮮なGPM+hbFGF+EGFと交換することにより、毎日補充した。
【0128】
14~21日目:14日目に、TrypLE(商標)Selectを用いて細胞を釣り上げ、計数し、GPM+hbFGF+EGF+RIに再懸濁し、PBS-0.1LまたはPBS-0.5Lミニバイオリアクターシステム (PBS Biotech) のいずれかの中に、生細胞1.83×106個/mLの密度で動的懸濁培養として再播種した。14日目の細胞のサブセットを回収し、フローサイトメトリー(実施例5)、ICC(実施例5)、およびqPCR(実施例6)による解析を行った。PBS0.1LおよびPBS0.5Lミニバイオリアクターは、それぞれ35RPMおよび28RPMで回転するように設定した。培地は、凝集体を沈降させ、使用済み培地の70~80%を除去し、同量のGPM+bhFGF+EGFと交換することにより、毎日補充した。15日目に、回転速度をPBS0.1LおよびPBS0.5Lミニバイオリアクターについてそれぞれ45RPMおよび32RPMに上昇させた。
【0129】
21日目に、凝集体のサブセットを回収して、ICC(実施例5)およびqPCR(実施例6)を行った。21日目までに、分化した細胞は、グリア拘束細胞と一致するマーカーを発現した(表2、図4)。
【0130】
実施例4 - ヒト胚性幹細胞をオリゴデンドロサイト前駆細胞に分化させる方法
21~42日目:実施例3で得られたグリア拘束前駆細胞を、オリゴデンドロサイト前駆細胞 (OPC) にさらに分化させた。0~20日目の分化プロトコールは、実施例2および3に記載されるように行った。21日目に、凝集体を動的懸濁液から、rhLn-521でコーティングされた培養容器に移した。例えば、総容積60 mLの1×PBS-0.1Lミニバイオリアクターから開始して、60 mLの培養物をそれぞれ30 mLの容積の2×T75フラスコに分割した。続いて、20ng/mL EGFおよび10ng/mL血小板由来増殖因子AA(PDGFAA;PeproTech、cat# AF-100-13A)を補充したGPMを、細胞に1日おきに供給した。7日ごと(すなわち、28日目および35日目)に、TrypLE(商標)Selectを用いて細胞を釣り上げ、計数し、生細胞4×104個/cm2の播種密度で、rhLn-521でコーティングされた新たな培養容器に再播種した。
【0131】
分化した細胞を42日目に収集した。TrypLE(商標)Selectを用いて細胞を容器から剥離し、計数し、CryoStor10(BioLife Solutions、cat# 210102)中に再製剤化した後に、凍結保存した。細胞のサブセットを回収して、フローサイトメトリー(実施例5)、ICC(実施例5)、およびqPCR(実施例6)による解析を行った。42日目までに、分化した細胞は、3つの解析法により測定して、OPCに特徴的なマーカーを発現した(表1、表2、図5)。
【0132】
実施例5 - 免疫細胞化学的検査およびフローサイトメトリーによる分化細胞集団の特徴決定
フローサイトメトリーおよび免疫細胞化学的検査 (ICC) を用いて、細胞集団におけるタンパク質マーカー発現の異なる局面を検出し、特徴決定することができる。フローサイトメトリーは、所与のタンパク質マーカープロファイルを示す集団内の個々の細胞の割合を定量化するために使用できるのに対して、ICCは、各タンパク質マーカーの細胞内局在に関する追加の情報を提供し、単一の細胞または細胞凝集体に適用することができる。これらのタンパク質プロファイリングアプローチのいずれかまたは両方を使用することにより、本発明者らは、本開示の方法による、神経外胚葉前駆細胞、グリア前駆細胞、およびオリゴデンドロサイト前駆細胞へのヒト胚性幹細胞の分化を追跡した。
【0133】
神経外胚葉前駆細胞およびグリア前駆細胞に分化したヒト胚性幹細胞について、分化した7日目および21日目の細胞におけるタンパク質マーカーの発現をICCにより特徴決定した。接着細胞および細胞凝集体を、4%パラホルムアルデヒド (PFA) で室温 (RT) にて30分間固定した。固定した細胞および凝集体をリン酸緩衝生理食塩水 (PBS) で洗浄し、固定した凝集体を次いで順次、漸増濃度のスクロース溶液(10%、20%、および30%重量/容積)中に、それぞれRTで30分間、RTで30分間、および4℃で一晩置いた。スクロース置換後、凝集体をTissue-Tek最適切断温度 (OCT) 溶液 (Sakura Finetek USA # 4583) 中に包埋し、-80℃で凍結した。OCTで包埋した凝集体を-20℃まで加温し、クライオスタット(モデルCM3050 S、Leica Biosystems、Buffalo Grove, IL, USA)を用いて30μm切片に切断し、ポリ-L-リジン (Sigma-Aldrich # P4707) でコーティングされたスライドグラス上にマウントした。免疫細胞化学的染色を行うために、固定した接着細胞およびスライドにマウントした凝集体切片を透過処理し、PBS中の0.1% Triton(商標)X-100/2%正常ヤギ血清/1%ウシ血清アルブミンからなるブロッキング溶液中で、室温 (RT) で2時間ブロッキングした。透過処理およびブロッキングの後、接着細胞および凝集体切片を、神経外胚葉前駆細胞を検出するためのPAX6(BD Pharmingen # 561462またはBioLegend # 901301)、ならびに背側脊髄前駆細胞を検出するためのAP2 (Developmental Studies Hybridoma Bank -DSHB #3B5)、PAX3 (DSHB #Pax3)、およびPAX7(DSHB #Pax7)を含む、関心対象のタンパク質マーカーに特異的な一次抗体を含有する、Triton(商標)X-100不含のブロッキング溶液中で4℃で一晩インキュベートした。次いで、接着細胞および凝集体切片をPBSで3回洗浄した後、Triton(商標)X-100不含のブロッキング溶液中の、選択した一次抗体に特異的な二次抗体および4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール (DAPI) 対比染色液と共に、遮光しながらRTで1時間インキュベートした。接着細胞および凝集体切片をPBSで3回洗浄し、IN Cell Analyzer 2000(GE Healthcare、Pittsburgh, PA, USA)を用いて画像化した。
【0134】
図3は、背側脊髄前駆細胞の表現型を示す、7日目の神経外胚葉前駆細胞の代表的なICCデータを示す。分化の7日後、2つの代表的な実験からの接着細胞集団は、神経外胚葉前駆細胞に特有のタンパク質マーカーであるPAX6(Lippmann ES, Williams CE, Ruhl DA, Estevez-Silva MC, Chapman ER, Coon JJ, Ashton RS. Deterministic HOX patterning in human pluripotent stem cell-derived neuroectoderm. Stem Cell Reports. 2015 Apr 14;4(4):632-44;Kim DS, Lee DR, Kim HS, Yoo JE, Jung SJ, Lim BY, Jang J, Kang HC, You S, Hwang DY, Leem JW, Nam TS, Cho SR, Kim DW. Highly pure and expandable PSA-NCAM-positive neural precursors from human ESC and iPSC-derived neural rosetes. PLoS One. 2012;7(7):e39715)、ならびに背側脊髄前駆細胞マーカーであるAP2、PAX3、およびPAX7 (Le Dreau G, Marti E. Dorsal-ventral paterning of the neural tube: a tale of three signals. Dev Neurobiol. 2012 Dec;72(12):1471-81;Marklund U, Alekseenko Z, Andersson E, Falci S, Westgren M, Perlmann T, Graham A, Sundstrom E, Ericson J. Detailed expression analysis of regulatory genes in the early developing human neural tube. Stem Cells Dev. 2014 Jan 1;23(1):5-15)を発現していた。
【0135】
図4は、21日目のグリア前駆細胞の代表的なICCデータを示す。凝集体の切片を作製し、背側前駆細胞マーカーAP2、PAX3、およびPAX7、ならびに汎神経前駆細胞マーカーPAX6について染色した。これらの初期前駆細胞は21日目でもなお存在していたが、オリゴデンドロサイト前駆細胞マーカーNG2を発現している、明確なグリア集団もまた存在していた (Zhang Y, Chen K, Sloan SA, Bennet ML, Scholze AR, O'Keeffe S, Phatnani HP, Guamieri P, Caneda C, Ruderisch N, Deng S, Liddelow SA, Zhang C, Daneman R, Maniatis T, Barres BA, Wu JQ. An RNA-sequencing transcriptome and splicing database of glia, neurons, and vascular cells of the cerebral cortex. J Neurosci. 2014 Sep 3;34(36):11929-47)。
【0136】
42日目までにオリゴデンドロサイト前駆細胞に分化したヒト胚性幹細胞について、得られた単一細胞集団におけるタンパク質マーカー発現を、フローサイトメトリーおよびICCの両方により特徴決定した。
【0137】
オリゴデンドロサイト前駆細胞のタンパク質マーカー発現をICCによって特徴決定するために、透過処理を100%メタノールを用いてRTで2分間行ったこと、およびブロッキング溶液がPBS中の10%ウシ胎仔血清からなったことを除いて、スライドにマウントした凝集体切片について上記された通りに、染色を行った。
【0138】
図5は、42日目のオリゴデンドロサイト前駆細胞の代表的なICCデータを示す。2つの代表的な実験から得られた単一細胞集団は、オリゴデンドロサイト前駆細胞マーカーNG2を発現しており (Zhang Y, Chen K, Sloan SA, Bennet ML, Scholze AR, O'Keeffe S, Phatnani HP, Guamieri P, Caneda C, Ruderisch N, Deng S, Liddelow SA, Zhang C, Daneman R, Maniatis T, Barres BA, Wu JQ. An RNA-sequencing transcriptome and splicing database of glia, neurons, and vascular cells of the cerebral cortex. J Neurosci. 2014 Sep 3;34(36):11929-47)、背側脊髄前駆細胞マーカーAP2の発現が減少していた(図3と5を比較されたい)。
【0139】
フローサイトメトリーにより42日目の細胞表面マーカーを定量化するために、細胞を解凍培地(DMEM培地中の10%ウシ胎仔血清)中で解凍し、遠心分離し、染色緩衝液(PBS中の2%ウシ胎仔血清/0.05%アジ化ナトリウム)に再懸濁した。細胞を、NG2 (Invitrogen # 37-2300)、PDGFRα (BD Biosciences # 563575)、GD3 (Millipore # MAB2053)、A2B5 (BD # 563775)、CD49f (Millipore # CBL458P)、EpCAM (Dako # M080401-2)、およびCLDN6 (Thermo Fisher # MA5-24076) を含む、関心対象のマーカーに特異的な一次抗体、ならびにそれらのアイソタイプ対照と共に氷上で30分間インキュベートした。細胞を染色緩衝液で洗浄して、未結合の抗体を除去した;非コンジュゲート化抗体の場合には、次いで細胞を、適切なフルオロフォアコンジュゲート化二次抗体と共に氷上で30分間インキュベートした。細胞を洗浄し、次いで、死細胞を区別するためにヨウ化プロピジウムを添加した。場合によっては、細胞を、Matrigel (Corning # 356231) でコーティングされた組織培養容器中で37℃/5% CO2で一晩培養して、実施例4に記載される42日目の収集手順に対して感受性を示すタンパク質マーカーを回収し、次いでTrypLE(商標)Select (Thermo Fisher # A12859-01) を用いて収集し、上記のようにフローサイトメトリー解析のために染色した。細胞はすべて、Attune NxT(Thermo Fisher、Waltham, MA, USA)フローサイトメーターで解析した。所与のタンパク質マーカーを発現している細胞の割合を算出するために、ヨウ化プロピジウムによって染色された死細胞にゲートをかけ、アイソタイプ対照抗体への非特異的結合を示した細胞の数を補正した後に、対応する抗体に結合した生細胞の数を、解析した細胞の総数に対する割合として表した。
【0140】
表1は、実施例5に記載される方法論に従って作製された42日目のオリゴデンドロサイト前駆細胞の代表的なフローサイトメトリーデータを示す。2つの代表的な実行について示されるように、得られた細胞集団中の高い割合の細胞が、NG2およびPDGFRα (Zhang Y, Chen K, Sloan SA, Bennett ML, Scholze AR, O'Keeffe S, Phatnani HP, Guamieri P, Caneda C, Ruderisch N, Deng S, Liddelow SA, Zhang C, Daneman R, Maniatis T, Barres BA, Wu JQ. An RNA-sequencing transcriptome and splicing database of glia, neurons, and vascular cells of the cerebral cortex. J Neurosci. 2014 Sep 3;34(36):11929-47)、およびGD3 (Gallo V, Zhou JM, McBain CJ, Wright P, Knutson PL, Armstrong RC. Oligodendrocyte progenitor cell proliferation and lineage progression are regulated by glutamate receptor-mediated K+ channel block. J Neurosci. 1996 Apr 15; 16(8):2659-70) を含む特徴的なオリゴデンドロサイトマーカー、ならびにプレOPCマーカーであるA2B5 (Keirstead HS, Nistor G, Bernal G, Totoiu M, Cloutier F, Sharp K, Steward O. Human embryonic stem cell-derived oligodendrocyte progenitor cell transplants remyelinate and restore locomotion after spinal cord injury. J Neurosci. 2005 May 11;25(19):4694-705) を発現していた。加えて、得られた集団において、神経前駆細胞/上皮マーカーCD49f (Krebsbach PH, Villa-Diaz LG. The Role of Integrin a6 (CD49f) in Stem Cells: More than a Conserved Biomarker. Stem Cells Dev. 2017 Aug 1 ;26(15):1090-1099)、ならびに上皮マーカーであるCLDN6 (Lin D, Guo Y, Li Y, Ruan Y, Zhang M, Jin X, Yang M, Lu Y, Song P, Zhao S, Dong B, Xie Y, Dang Q, Quan C. Bioinformatic analysis reveals potential properties of human Claudin-6 regulation and functions. Oncol Rep. 2017 Aug;38(2):875-885) およびEpCAM (Huang L, Yang Y, Yang F, Liu S, Zhu Z, Lei Z, Guo J. Functions of EpCAM in physiological processes and diseases (Review). Int J Mol Med. 2018 Oct;42(4):1771-1785) を含む非OPCマーカーは、最小限に検出された。
【0141】
(表1)本開示に従う方法によって生成されたオリゴデンドロサイト前駆細胞についての代表的なフローサイトメトリーデータ
【0142】
本開示に記載される方法論によって作製された細胞集団は、脊髄損傷を処置するために現在臨床試験中であり、別の方法を用いて作製されたOPC(Priest CA, Manley NC, Denham J, Wirth ED 3rd, Lebkowski JS. Preclinical safety of human embryonic stem cell-derived oligodendrocyte progenitors supporting clinical trials in spinal cord injury. Regen Med. 2015 Nov;10(8):939-58;Manley NC, Priest CA, Denham J, Wirth ED 3rd, Lebkowski JS. Human Embryonic Stem Cell-Derived Oligodendrocyte Progenitor Cells: Preclinical Efficacy and Safety in Cervical Spinal Cord Injury. Stem Cells Transl Med. 2017 Oct;6(10): 1917-1929) と比較して、オリゴデンドロサイト前駆細胞マーカーNG2について陽性の細胞の割合がより高く、非OPCマーカーであるCD49f、CLDN6、およびEpCAMの発現が減少していた。
【0143】
実施例6 - 遺伝子発現プロファイリングによる分化細胞集団の特徴決定
遺伝子発現プロファイリングを用いて、出発多能性細胞集団、ならびに神経外胚葉前駆細胞、グリア前駆細胞、およびオリゴデンドロサイト前駆細胞の作製を含む分化の各段階の細胞表現型を特徴決定することができる。遺伝子発現プロファイリングには、マイクロアレイおよびRNA-seqのような方法を用いる網羅的トランスクリプトームプロファイリング、ならびに定量的リアルタイムPCR (qPCR) などの感度を高めた方法を用いる標的遺伝子プロファイリングの両方が含まれる。
【0144】
遺伝子発現プロファイリングを行うために、Qiagen RLT溶解緩衝液 (Qiagen # 79216) 中で細胞を溶解し、製造業者の指針に従ってQiagen RNeasyミニキット (Qiagen # 74106) を用いてRNAを精製した。qPCRに基づく解析については、精製したRNAを次いで、製造業者の指針に従ってInvitrogen Superscript IV VILOマスターミックス (Thermo Fisher Scientific # 11756050) を用いる標準的な方法に従って、cDNAに変換した。次いで、製造業者の指針に従って遺伝子特異的プライマー・プローブセット(Applied Biosystems Taqman遺伝子発現アッセイ、Thermo Fisher Scientific # 4331182)を用いて、標的遺伝子および参照ハウスキーピング遺伝子の相対的発現レベルを定量化した。標的遺伝子の所与のセットの相対的発現レベルを決定するために、PCR反応を、ABI 7900HTリアルタイム配列検出システム (Applied Biosystems)、BioMark HDシステム (Fluidigm)、または同等物で行った。各標的遺伝子は,GAPDHなどの1つまたは複数の参照遺伝子に対して正規化して、その相対的発現レベルを決定した。
【0145】
表2は、本開示に従う方法によって作製された細胞集団において、多能性遺伝子、神経外胚葉前駆細胞遺伝子、グリア前駆細胞遺伝子、背側脊髄前駆細胞遺伝子、腹側脊髄前駆細胞遺伝子、およびオリゴデンドロサイト前駆細胞遺伝子の発現を測定する2つの代表的な実験からのqPCRの結果を示す。以下の時点で、RNA試料を回収した:分化前(0日目)、神経外胚葉前駆細胞への分化後(7日目)、グリア前駆細胞への分化後(21日目)、およびオリゴデンドロサイト前駆細胞への分化後(42日目)。上記の方法を用いて、RNA試料をqPCR用に処理した。3つの多能性遺伝子(NANOG、LIN28A、SOX2)、3つの神経外胚葉前駆細胞遺伝子(PAX6、HES5、ZBTB16)、3つのグリア前駆細胞遺伝子(CACGN4、DCC、FABP7)、および3つのオリゴデンドロサイト前駆細胞遺伝子(CSPG4、PDGFRα、DCN)を含む、各分化状態を示す遺伝子の選択されたパネルを定量化した。各遺伝子について、5つのハウスキーピング遺伝子(ACTB、GAPDH、EP300、PGK1、SMAD1)の平均値を用いて正規化ΔCT値を算出し、ΔΔCT法を用いてベースライン(定量化の限界未満の発現)に対する発現倍率を算出した。
【0146】
(表2)本開示に従ってOPCに分化させたH1 uhESCにおける、多能性、神経外胚葉前駆細胞 (NPC)、背側脊髄前駆細胞、腹側脊髄前駆細胞、グリア前駆細胞 (GPC)、およびオリゴデンドロサイト前駆細胞 (OPC) の遺伝子マーカーのqPCR解析
【0147】
表2を参照すると、本開示に従う方法によるuhESCの7日間の分化によって、NANOGの下方制御、ならびにLIN28A、SOX2、PAX6、HES5、およびZBTB16の発現を含む、神経外胚葉前駆細胞と一致する遺伝子発現プロファイルが得られた(Patterson M, Chan DN, Ha I, Case D, Cui Y, Van Handel B, Mikkola HK, Lowry WE. Defining the nature of human pluripotent stem cell progeny. Cell Res. 2012 Jan;22(1):178-93;Lippmann ES, Williams CE, Ruhl DA, Estevez-Silva MC, Chapman ER, Coon JJ, Ashton RS. Deterministic HOX patterning in human pluripotent stem cell-derived neuroectoderm. Stem Cell Reports. 2015 Apr 14;4(4):632-44;Woo SM, Kim J, Han HW, Chae JI, Son MY, Cho S, Chung HM, Han YM, Kang YK. Notch signaling is required for maintaining stem-cell features of neuroprogenitor cells derived from human embryonic stem cells. BMC Neurosci. 2009 Aug 17;10:97;Avantaggiato V, Pandolfi PP, Ruthardt M, Hawe N, Acampora D, Pelicci PG, Simeone A. Developmental analysis of murine Promyelocyte Leukemia Zinc Finger (PLZF) gene expression: implications for the neuromeric model of the forebrain organization. J Neurosci. 1995 Jul;15(7 Pt 1):4927-42)。
【0148】
加えて、分化の7日後に作製された神経外胚葉前駆細胞は、背側マーカーであるTFAP2A(AP2としても公知である)、PAX3、およびPAX7の発現に基づいて、背側脊髄前駆細胞と一致する表現型を示した(Le Dreau G, Marti E. Dorsal-ventral patterning of the neural tube: a tale of three signals. Dev Neurobiol. 2012 Dec;72(12):1471-81;Marklund U, Alekseenko Z, Andersson E, Falci S, Westgren M, Perlmann T, Graham A, Sundstrom E, Ericson J. Detailed expression analysis of regulatory genes in the early developing human neural tube. Stem Cells Dev. 2014 Jan 1;23(1):5-15)。背側脊髄前駆細胞の表現型のさらなる証拠として、得られた神経外胚葉前駆細胞は、その発現がソニックヘッジホッグシグナル伝達経路の活性化を必要とする腹側脊髄前駆細胞マーカーOLIG2またはNKX2-2を発現していなかった(Le Dreau G, Marti E. Dorsal-ventral patterning of the neural tube: a tale of three signals. Dev Neurobiol. 2012 Dec;72(12):1471-81;Marklund U, Alekseenko Z, Andersson E, Falci S, Westgren M, Perlmann T, Graham A, Sundstrom E, Ericson J. Detailed expression analysis of regulatory genes in the early developing human neural tube. Stem Cells Dev. 2014 Jan 1;23(1):5-15)。
【0149】
21日間の分化の後、得られた細胞集団は、多能性および神経外胚葉前駆細胞マーカーの下方制御、ならびにCACNG4、DCC(ネトリン受容体としても公知である)、およびFABP7の誘導を含む、グリア前駆細胞と一致する遺伝子発現プロファイルを示した(Zhang Y, Chen K, Sloan SA, Bennett ML, Scholze AR, O'Keeffe S, Phatnani HP, Guamieri P, Caneda C, Ruderisch N, Deng S, Liddelow SA, Zhang C, Daneman R, Maniatis T, Barres BA, Wu JQ. An RNA-sequencing transcriptome and splicing database of glia, neurons, and vascular cells of the cerebral cortex. J Neurosci. 2014 Sep 3;34(36):11929-47;Fitzgerald DP, Cole SJ, Hammond A, Seaman C, Cooper HM. Characterization of neogenin-expressing neural progenitor populations and migrating neuroblasts in the embryonic mouse forebrain. Neuroscience. 2006 Oct 27;142(3):703-16;Rosenzweig S, Carmichael ST. The axon-glia unit in white matter stroke: mechanisms of damage and recovery. Brain Res. 2015 Oct 14;1623:123-34;Petit A, Sanders AD, Kennedy TE, Tetzlaff W, Glattfelder KJ, Dailey RA, Puchalski RB, Jones AR, Roskams AJ. Adult spinal cord radial glia display a unique progenitor phenotype. PLoS One. 2011;6(9):e24538。グリア前駆細胞の表現型のさらなる証拠として、得られた21日目の細胞は、神経外胚葉前駆細胞/神経前駆細胞におけるその発現に加えて (Woo SM, Kim J, Han HW, Chae JI, Son MY, Cho S, Chung HM, Han YM, Kang YK. Notch signaling is required for maintaining stem-cell features of neuroprogenitor cells derived from human embryonic stem cells. BMC Neurosci. 2009 Aug 17;10:97)、HES5は哺乳動物の発生中の中枢神経系において、神経前駆細胞からグリア前駆細胞への切り替えを促進することもまた示されている (Bansod S, Kageyama R, Ohtsuka T. Hes5 regulates the transition timing of neurogenesis and gliogenesis in mammalian neocortical development. Development. 2017 Sep 1;144(17):3156-3167) HES5の持続的な発現を示した。加えて、得られた21日目のグリア前駆細胞は、背側脊髄前駆細胞マーカーであるTFAP2A、PAX3、およびPAX7の持続的な発現を示し、これにより、背側にパターン形成された神経前駆細胞からの導出の証拠がさらに提供された。
【0150】
本開示に記載される方法に従った42日間の分化の後、得られた細胞集団は、初期系列マーカーおよび背側脊髄前駆細胞マーカーの両方の下方制御、ならびにCSPG4(NG2としても公知である)、PDGFRα、およびDCNの誘導を含む、オリゴデンドロサイト前駆細胞と一致するマーカーを発現した (Zhang Y, Chen K, Sloan SA, Bennett ML, Scholze AR, O'Keeffe S, Phatnani HP, Guamieri P, Caneda C, Ruderisch N, Deng S, Liddelow SA, Zhang C, Daneman R, Maniatis T, Barres BA, Wu JQ. An RNA-sequencing transcriptome and splicing database of glia, neurons, and vascular cells of the cerebral cortex. J Neurosci. 2014 Sep 3;34(36):11929-47)。
【0151】
実施例7 - MAPK/ERKおよびBMPシグナル伝達の代替小分子阻害物質を用いた背側神経外胚葉前駆細胞へのヒト胚性幹細胞の分化
実施例2で使用した小分子阻害物質(PD0325901およびドルソモルフィン)に加えて、MAPK/ERKおよびBMPシグナル伝達の代替小分子阻害物質を、ヒト胚性幹細胞を背側神経外胚葉前駆細胞に分化させるそれらの能力について試験した。表3に、試験した代替小分子阻害物質を列挙する。各条件を、6ウェル組織培養プレートの2つ組ウェルで試験した。
【0152】
(表3)ヒト胚性幹細胞を背側神経外胚葉前駆細胞に分化させるために使用した小分子阻害物質
【0153】
分化7日目に、細胞を回収し処理して、実施例6に記載されたようにRNA抽出およびqPCRによる遺伝子発現プロファイリングを行った。各遺伝子について、5つのハウスキーピング遺伝子(ACTB、GAPDH、EP300、PGK1、SMAD1)の平均値に対する正規化ΔCT値を算出し、ΔΔCT法を用いてベースライン(定量化の限界未満の発現)に対する発現倍率を算出した。表4は、各小分子組み合わせの生物学的2つ組の発現倍率値の平均値(ベースラインに対する)を示す。表4を参照すると、試験した小分子組み合わせのそれぞれを用いたuhESCの7日間の分化によって、多能性マーカーNANOGの下方制御、ならびにLIN28A、SOX2、PAX6、HES5、およびZBTB16を含む、神経外胚葉前駆細胞表現型に関連した遺伝子の同程度の発現維持または誘導が得られた。加えて、試験した小分子化組み合わせはそれぞれ、背側マーカーであるTFAP2A、PAX3、およびPAX7の発現、ならびに腹側マーカーであるOLIG2およびNKX2-2の発現の欠如に基づく背側脊髄前駆細胞表現型をもたらした。
【0154】
各小分子組み合わせによる処理後に得られた7日目の細胞表現型をより包括的に比較するために、多能性、神経外胚葉前駆細胞、神経管パターン形成、グリア前駆細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞、神経堤細胞、ニューロン、アストロサイト、周皮細胞、シュワン細胞、および上皮細胞の公知のマーカーからなる96遺伝子パネルを用いて、Fluidigm qPCRを実施した。図6を参照すると、それぞれの代替小分子組み合わせの7日目の細胞表現型と、PD0325901+ドルソモルフィンによる処理によって作製された細胞表現型との、正規化ΔCT値の回帰プロットによる比較により、試験した小分子組み合わせのそれぞれによって、同様の全体的細胞表現型が達成され得ることが示された。まとめると、表4および図6に示される結果から、本開示の方法を使用してuhESCを背側神経外胚葉前駆細胞に、そしてさらにグリア前駆細胞に、およびオリゴデンドロサイト前駆細胞に分化させるために、(i) MAPK/ERK阻害物質と (ii) BMPシグナル阻害物質との、(iii) SHHシグナル伝達活性化物質の非存在下での様々な組み合わせを用いることができることが支持される。
【0155】
(表4)小分子阻害物質の異なる組み合わせを用いてNPCに分化させたH1 uhESCにおける多能性と神経外胚葉前駆細胞 (NPC) とについての遺伝子マーカーのqPCR解析
【0156】
実施例8 - インビトロ嚢胞アッセイを用いた、分化したOPC集団における異質の上皮系細胞の存在の評価
本開示に従って作製されたOPC集団における望ましくない上皮系細胞の存在を、インビトロ嚢胞アッセイを用いて試験した。嚢胞アッセイは、本質的にはDebnathら (Debnath J, Muthuswamy SK, Brugge JS. Morphogenesis and oncogenesis of MCF-1OA mammary epithelial acini grown in three-dimensional basement membrane cultures. 2003 Methods. 3:256-68) によるプロトコールに従って行った。簡潔に説明すると、上皮嚢胞形成を刺激することが公知である因子の存在下で、OPCを3D培養系で20日間増殖させた。嚢胞の視覚的検出に加えて、上皮マーカーCD49fの基底外側タンパク質発現を含む嚢胞構造の存在もまた、免疫細胞化学的検査を用いて評価した。
【0157】
OPCを、嚢胞支持培地中でマトリゲル(登録商標)(Corning) のパッド上に細胞21.9×103個/cm2の密度で播種した(合計で、24ウェルプレートの12ウェルに細胞0.5×106個を播種した)。細胞は20日間培養した。20日目に、生存嚢胞計数を行い、細胞回収溶液 (Corning # 354253) を用いてマトリゲル(登録商標)を溶解し、細胞を4%パラホルムアルデヒド (PFA) で氷上で5分間固定し、ブロッキング緩衝液中で一晩透過処理した。続いて、嚢胞をCD49f (ITGA6)、ファロイジンについて染色し、DAPIで対比染色した。嚢胞をIN Cell Analyzer 2000 (GE Healthcare Life Sciences) を用いて画像化し、嚢胞の頻度、サイズ、および染色強度を、IN Cell Developerソフトウェア (GE Healthcare Life Sciences) およびMATLAB(商標)(Mathworks) を用いて定量化した。表5を参照すると、本開示に従う方法を用いて2回の代表的な実行から作製され、インビトロ嚢胞アッセイで試験されたOPCは、細胞100,000個当たり検出可能な嚢胞を生成しなかった。対照的に、インビボで上皮嚢胞形成を引き起こすことが以前に判明した代替方法 (Manley NC, Priest CA, Denham J, Wirth ED 3rd, Lebkowski JS. Human Embryonic Stem Cell-Derived Oligodendrocyte Progenitor Cells: Preclinical Efficacy and Safety in Cervical Spinal Cord Injury. Stem Cells Transl Med. 2017 Oct;6(10):1917-1929) によって作製されたOPCの3つの対照ロット(対照A、対照B、および対照C)は、アッセイで嚢胞を生じた。
【0158】
(表5)本開示に従う方法によって生成されたオリゴデンドロサイト前駆細胞についての代表的な嚢胞アッセイの結果
【0159】
実施例9 - SHHシグナル伝達活性化物質の存在下と非存在下における分化した細胞の収率の比較
様々な小分子分化レジメンを試験する中で、プルモルファミン (PMA) などのSHHシグナル伝達活性化物質を分化過程から除去すると、7日目から14日目の間の細胞の段階収率が一貫して増加することが発見された(図2A)。PMAおよび他のSHHシグナル伝達アゴニストは、初期の脊髄前駆細胞の腹側化を駆動するため (Kutejova E, Sasai N, Shah A, Gouti M, Briscoe J. Neural Progenitors Adopt Specific Identities by Directly Repressing All Alternative Progenitor Transcriptional Programs. Dev Cell. 2016 Mar 21;36(6):639-53)、このことから、7日目から14日目までに存在する培養条件が、より背側表現型の神経前駆細胞の増殖に有利であることが示唆される。驚くべきことに、この初期の背側表現型は、インビボで初期のOPCが生成される領域ではないにもかかわらず、それでもなお42日目にOPC細胞をもたらすことが判明した(図5)。
【0160】
本開示に従った分化過程からのSHHシグナル伝達活性化物質の除去の影響を、さらに試験し定量化した。SHHアゴニストPMAを分化過程から除去した2つの代表的な実験(実行1および実行2)では、PMAを含む実行と比較して、7日目から14日目までの段階収率が増加した(図2B)。これにより、全体的な理論的細胞収量が実質的に増加した(図2C)。
【0161】
実施例10 - インビトロ機能バイオアッセイ(デコリン分泌および遊走アッセイ)
デコリンは、天然に存在する細胞外の小さなロイシンリッチプロテオグリカンであるTGF-β1/2アンタゴニストであり、細胞外マトリックス (ECM) の構成要素との相互作用を通じて多様な細胞機能を制御する。中枢神経系においてニューロンおよびアストロサイトによって発現されるデコリンは、分解およびその合成の抑制によって瘢痕由来の軸索成長阻害物質の力価の蓄積を有意に減らすその抗瘢痕化効果を介して、瘢痕組織を軽減し、空洞化を阻止し、かつ創傷治癒を促進する [Ahmed, Z., et al., Decorin blocks scarring and cystic cavitation in acute and induces scar dissolution in chronic spinal cord wounds. Neurobiol Dis, 2014. 64: p. 163-76]。ヒト組換えタンパク質はそれ自体で、外因的に添加した場合に、脊髄損傷の動物モデルにおいて有益な効果を有することが示された[Wu, L., et al., Combined transplantation of GDAs(BMP) and hr-decorin in spinal cord contusion repair. Neural Regen Res, 2013. 8(24): p. 2236-48]。
【0162】
製造された3つのGPOR-OPC1臨床バッチの長期安定性データにより、ほぼ15~30 ng/mlの分泌レベルが示される。
【0163】
このインビトロアッセイでは、OPC1細胞によるデコリン産生を、市販用に製造された固相サンドイッチELISAキットを用いて測定する。効力アッセイのための試験材料は、OPC1医薬品細胞のバイアルを解凍し、細胞を48時間培養し、馴化培地 (CM) を収集し、それらのCM上清をELISAによる試験時まで冷凍保存することによって生成される上清である。現在進行中のOPC1プロセス開発研究により、改良型過程のOPC1細胞を48時間インビトロで培養した後のデコリン分泌のレベルは、GPOR-OPC1バッチ(上記)のレベルと同様であり、ほぼ20~35 ng/mlの範囲内であることが示される。
【0164】
ラット頸部SCIモデルによって例証される、インビボにおけるOPC1活性の特徴の1つは、注射部位から脊髄における空洞化の損傷部位および周囲部位へのOPC1細胞のインビボ遊走である。遊走アッセイは、PDGFααおよびPDGFββなどの異なる走化性因子に応答したOPC1細胞の遊走のインビトロ測定に基づく[Armstrong, R.C., L. Harvath, and M.E. Dubois-Dalcq, Type 1 astrocytes and oligodendrocyte-type 2 astrocyte glial progenitors migrate toward distinct molecules. J Neurosci Res, 1990. 27(3): p. 400-7;Milner, R., et al., Contrasting effects of mitogenic growth factors on oligodendrocyte precursor cell migration. Glia, 1997. 19(1): p. 85-90;Sanchez-Rodriguez, M.A., et al., The endocannabinoid 2-arachidonoylglycerol regulates oligodendrocyte progenitor cell migration. Biochem Pharmacol, 2018. 157: p. 180-188]。
【0165】
このインビトロアッセイでは、OPC-1細胞を、transwellシステム(Corning(商標)Transwell(商標)ポリカーボネート膜インサート、孔径8μm)の個々のウェルに播種する。細胞を、化学誘引因子 (PDGFββ) を含むかまたは含まない下部ウェル中の培地に曝露する。一晩インキュベートした後、トランスウェルを通じて遊走した細胞を収集し、計数して、遊走したインプット細胞の%を決定し、次いでこれを遊走の%として報告する。この方法は現在、研究段階にあり、方法の性能を評価し改善するためにさらなる研究が行われている。現在進行中のOPC1プロセス開発研究により、PDGFββ化学誘引物質による16~24時間の刺激に応答したOPC1細胞のインビトロ遊走の%は、ほぼ15~50%の範囲内であることが示される。
【0166】
より高いデコリン分泌およびより高い遊走の割合が、より高い純度(バイオマーカー発現のフローサイトメトリー解析)、より優れた収量、および優れた形態評価を示した改良型過程のOPC1バッチについて観察され、その逆も同様であり;より低いデコリン分泌およびより低い遊走の割合が、より低い純度、より低い収量、および劣った形態評価を示したOPC1バッチについて観察されることが、デコリン分泌および遊走バイオアッセイを用いたOPC1インビトロ機能の評価により示される。
【0167】
例えば、表6は、マーカーデータ、デコリン分泌、および遊走バイオアッセイによって特徴決定される42日目の最終生成物の概要を提供する。
【0168】
(表6)42日目 - 最終生成物
【0169】
特定の態様を参照して本開示を説明してきたが、本開示の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができ、その要素に対して同等物を代用することができることが、当業者によって理解されるであろう。加えて、本開示の範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本開示の教示に適合させるために、多くの修正を行うことができる。
【0170】
したがって、本開示は、本開示を実施するために企図される最良の様式として開示された特定の態様に限定されず、本開示は、添付の特許請求の範囲および精神の範囲内にあるすべての局面を含むことが意図される。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6