(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】遺伝子操作された造血幹細胞によるベータサラセミア表現型の補正
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240409BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20240409BHJP
C12N 5/0789 20100101ALI20240409BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240409BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20240409BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240409BHJP
A61K 48/00 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
A61K35/28
C12N5/0789
C12N15/09 100
C12N15/09 110
A61P7/06
C12N15/12
A61K48/00
(21)【出願番号】P 2021560243
(86)(22)【出願日】2020-04-10
(86)【国際出願番号】 EP2020060309
(87)【国際公開番号】W WO2020208223
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-12-03
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(73)【特許権者】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】アメンドーラ,マリオ
(72)【発明者】
【氏名】パヴァーニ,ジュリア
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-533786(JP,A)
【文献】特表2015-523384(JP,A)
【文献】PAPADAKI, M. et al.,Thalassemia Reports,2013年,Vol. 3,pp. 97-101
【文献】METTANANDA, Sachith, et al.,Nature communications,2017年,Vol. 8,pp. 1-11
【文献】XIE, Fei, et al.,Genome research,2014年,Vol. 24,pp. 1526-1533
【文献】WU, Yuxuan, et al.,NATURE MEDICINE,2019年03月25日,Vol. 25,pp. 776-783
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子改変造血幹細胞(HSC)であって、そのゲノム中に含まれる少なくとも1つのαグロビン遺伝子において、
εグロビン、G-γグロビン、A-γグロビン、δグロビン、及びβグロビンタンパク質からなる群より選択される機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子を含み、前記導入遺伝子が内因性配列の制御下に置かれ、内因性配列が、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の転写を可能にし、及び/又はその転写を増強
し、
機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子を含む少なくとも1つのαグロビン遺伝子が、機能的αグロビンタンパク質をコードする遺伝子配列を発現しない、遺伝子改変造血幹細胞。
【請求項2】
機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子が、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の5’領域中に、3’非翻訳領域(3’UTR)中に、及び/又はイントロン中に含まれる、請求項
1に記載の造血幹細胞。
【請求項3】
機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子が、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の5’非翻訳領域(5’UTR)中に及び/又は近位プロモーター中に及び/又は第2イントロン(IVS2)中に含まれる、請求項
2に記載の造血幹細胞。
【請求項4】
少なくとも1つのαグロビン遺伝子が、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択される、請求項1~
3のいずれか一項に記載の造血幹細胞。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の遺伝子改変造血幹細胞に起源を持つ血液細胞。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の少なくとも1つの遺伝子改変造血幹細胞及び/又は請求項
5に記載の少なくとも1つの血液細胞を、医薬的に許容可能な培地中に含む医薬組成物。
【請求項7】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の造血幹細胞のエクスビボ又はインビトロ調製のための方法であって、少なくとも以下の工程を含む方法:
(i)造血幹細胞に、以下による部位特異的遺伝子操作システムを提供すること:
(a)前記造血幹細胞に、(1)選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸又は(2)選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイドペプチド含有エンドヌクレアーゼを提供することであって、前記ガイドペプチド含有エンドヌクレアーゼが、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)又はジンクフィンガーヌクレアーゼであり、前記標的部位は、前記造血幹細胞のゲノム中に含まれる内因性αグロビン遺伝子中に位置付けられる;
(b)少なくとも1つのガイド核酸が工程(a)(1)で提供されている場合、前記造血幹細胞に、標的部位特異性を欠く少なくとも1つのエンドヌクレアーゼをさらに提供すること;及び
(c)前記造血幹細胞に、
εグロビン、G-γグロビン、A-γグロビン、δグロビン、及びβグロビンタンパク質からなる群より選択される機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子をさらに提供すること;及び
(ii)工程(i)で得られた造血幹細胞を培養して、
εグロビン、G-γグロビン、A-γグロビン、δグロビン、及びβグロビンタンパク質からなる群より選択される機能的β様グロビンタンパク質をコードする前記の少なくとも1つの導入遺伝子が、前記造血幹細胞のゲノム中の前記の選択された標的部位に導入され、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の転写を可能にする及び/又はその転写を増強する内因性配列の制御下に置かれるようにすること。
【請求項8】
以下の工程を含む、請求項
7に記載の方法:
(i)造血幹細胞に、以下による部位特異的遺伝子操作システムを提供すること:
(a)前記造血幹細胞に、選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸を提供すること、ここで前記標的部位は、前記造血幹細胞のゲノム中に含まれる内因性αグロビン遺伝子中に位置付けられる;
(b)前記造血幹細胞に、少なくとも1つのクラスター化された、規則的に間隔が空けられた短いパリンドロームリピート(CRISPR)関連ヌクレアーゼをさらに提供すること;及び
(c)前記造血幹細胞に、
εグロビン、G-γグロビン、A-γグロビン、δグロビン、及びβグロビンタンパク質からなる群より選択される機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子をさらに提供すること;並びに
(ii)工程(i)の終了時に得られた造血幹細胞を培養して、前記の少なくとも1つの導入遺伝子が、前記造血幹細胞のゲノム中の前記の選択された標的部位に導入されるようにすること。
【請求項9】
少なくとも1つのクラスター化された、規則的に間隔が空けられた短いパリンドロームリピート(CRISPR)関連ヌクレアーゼが、CRISPR関連タンパク質9(Cas9)である、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
医薬としての使用のための、請求項1~
4のいずれか一項に記載の造血幹細胞、請求項
5に記載の血液細胞、又は請求項
6に記載の医薬組成物。
【請求項11】
βヘモグロビン異常症の処置における使用のための、請求項1~
4のいずれか一項に記載の造血幹細胞、請求項
5に記載の血液細胞、又は請求項
6に記載の医薬組成物。
【請求項12】
細胞中で生理学的レベルのヘモグロビンの産生を回復するためのインビトロ又はエクスビボの方法であって、少なくとも以下の工程を含む方法:
(i)細胞に、以下による部位特異的遺伝子操作システムを提供すること:
(a)前記細胞に、(1)選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸又は(2)選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイドペプチド含有エンドヌクレアーゼを提供すること、ここで、前記ガイドペプチド含有エンドヌクレアーゼは、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)又はジンクフィンガーヌクレアーゼであり、前記標的部位は、前記細胞のゲノム中に含まれる内因性αグロビン遺伝子中に位置付けられる;
(b)少なくとも1つのガイド核酸が工程(a)(1)で提供されている場合、前記細胞に、標的部位特異性を欠く少なくとも1つのエンドヌクレアーゼをさらに提供すること;及び
(c)前記細胞に、
εグロビン、G-γグロビン、A-γグロビン、δグロビン、及びβグロビンタンパク質からなる群より選択される機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子をさらに提供すること
;(ii)工程(i)で得られた細胞を培養して、
εグロビン、G-γグロビン、A-γグロビン、δグロビン、及びβグロビンタンパク質からなる群より選択される機能的β様グロビンタンパク質をコードする前記の少なくとも1つの導入遺伝子が、前記細胞のゲノム中の前記の選択された標的部位に導入され、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の転写を可能にする及び/又はその転写を増強する内因性配列の制御下に置かれるようにすること
、ここで、機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子を含む少なくとも1つのαグロビン遺伝子が、機能的αグロビンタンパク質をコードする遺伝子配列を発現しない;及び
(iii)工程(ii)で得られた細胞を培養して、細胞のゲノム中に導入された
εグロビン、G-γグロビン、A-γグロビン、δグロビン、及びβグロビンタンパク質からなる群より選択される機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子が、細胞の内因性転写システムにより転写されるようにすること。
【請求項13】
細胞中で、生理学的レベルのヘモグロビンの産生をインビトロ又はエクスビボで回復するためのキットであって、以下を含むキット:
(i)選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸又は選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイドペプチド含有エンドヌクレアーゼであって、前記ガイドペプチド含有エンドヌクレアーゼは、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)又はジンクフィンガーヌクレアーゼであり、前記標的部位は、HSCのゲノム中に含まれる内因性αグロビン遺伝子中に位置付けられ
、前記標的部位に下記機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子が導入されることで少なくとも1つのαグロビン遺伝子が、機能的αグロビンタンパク質をコードする遺伝子配列を発現しないようになる;
(ii)少なくとも1つのガイド核酸が部分(i)として提供される場合、さらに、標的部位特異性を欠く少なくとも1つのエンドヌクレアーゼ;及び
(iii)
εグロビン、G-γグロビン、A-γグロビン、δグロビン、及びβグロビンタンパク質からなる群より選択される機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子。
【請求項14】
βサラセミアの処置における使用のための、請求項1~
4のいずれか一項に記載の造血幹細胞、請求項
5に記載の血液細胞、又は請求項
6に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
【0002】
本発明は、ゲノム操作による治療的処置の分野に関する。
【0003】
特に、本発明は、遺伝子改変造血幹細胞(HSC)に、及び医薬としてのその使用に、さらに特にβヘモグロビン異常症の処置における、特にβサラセミアの処置における使用のためのその使用に関する。
【0004】
発明の背景
【0005】
ヘモグロビン異常症は、ヘモグロビン分子のグロビン鎖の1つの異常な構造をもたらす遺伝的欠損の一種であり、世界中で最も一般的な遺伝性疾患の1つである。
【0006】
成体ヘモグロビンは、2対のグロビンサブユニット(α2/β2)からなり、その産生は、赤芽球細胞における均衡の取れた発現を確実にするために厳密に調節されている。
【0007】
βサラセミア及び鎌状赤血球症(SCD)は、世界の2つの最も汎発している遺伝性ヘモグロビン異常症である。本来、βサラセミアは地中海、中東、及びアジアの地域において、ならびにSCDは中央アフリカにおいて出現した。しかし、その後の人口移動によって、これら2つの疾患は世界規模になり、そのようなものとして、多くの国において増大する健康問題となっている。
【0008】
βサラセミアは、11番染色体上のHBB遺伝子における変異に起因する、ヘモグロビンのβ鎖の合成における遺伝的欠損により起こされる一群の遺伝性血液疾患である。変異した対立遺伝子は、部分的な機能が保存されている(タンパク質が低下した機能を有する、又はそれは正常に機能するが、しかし、低下した量で産生される)場合にはβ+、又は機能するタンパク質が産生されていない場合にはβ0と呼ぶ。
【0009】
疾患の重症度は、変異の性質に、及び1つ又は両方の対立遺伝子中での変異の存在に依存する。βサラセミアメジャー(地中海性貧血又はクーリー貧血)は、β0/β0遺伝子型により起こされる。機能的β鎖は産生されず、このように、ヘモグロビンAを組み立てることはできない。これはβサラセミアの最も重度の形態である。中間型βサラセミアは、β+/β0又はβ+/β+遺伝子型により起こされる。この形態では、一部のヘモグロビンAが産生される。軽症型βサラセミアは、β/β0又はβ/β+遺伝子型により起こされる。2つのβグロビン対立遺伝子の1つだけが変異を含み、そのため、β鎖産生が重度に損なわれることはなく、患者は比較的無症候性でありうる。
【0010】
βグロビン遺伝子クラスター中のいくつかの変異、例えばβサラセミアの個体において生じる変異などは、α/βグロビン鎖の均衡を変化させ、遊離αグロビン鎖の蓄積及び沈殿に導きうる。αグロビンについての2つの遺伝子(HBA1及びHBA2)、及び、従って、2倍体細胞中の4つのαグロビン遺伝子(αα/ααとして表すことができる)がある。HBA1及びHBA2のコード配列は同一である。
【0011】
これらの高度に毒性のαグロビン鎖凝集体は、細胞膜を損傷させ、溶血及び無効な造血を起こす。
【0012】
これらの障害は、重度の貧血から臨床的に無症候性の個体までの範囲で、変動する転帰をもたらす。βサラセミアを伴う数千人の乳児が毎年生まれる。
【0013】
βヘモグロビン異常症を伴う患者のための診療における著しい改善にもかかわらず、1つの決定的な処置の選択肢だけが存在する:同種造血幹細胞(HSC)移植。βヘモグロビン異常症のための遺伝子治療の開発は、(1)ヒト白血球抗原(HLA)が同一のドナーの限定された利用可能性、(2)最も若年の患者へのHSC移植の適用の狭い好機、及び(3)HSCベースの遺伝子治療における最近の進歩により正当化されてきた。
【0014】
特に、βグロビン鎖及びαグロビン鎖の産生の間でのこの不均衡を低下させるために、現在の臨床的アプローチの大半が、βグロビン鎖及びβ様グロビン鎖を増加させることを目的としている。例えば、Deverら(Nature 2016; 539(7629): 384-389)は、Cas9リボ核タンパク質及びrAAV6 HRドナー送達を組み合わせることにより、HSCにおいてβグロビン遺伝子での相同組換え(HR)を達成した。
【0015】
あるいは、グロビンの均衡は、αグロビン鎖の産生を低下させることにより改善されるとして記載されてきた。Metamanandaら(Nature communications 8, 424 (2017))は、従って、βサラセミアのための処置として、初代ヒトHSCにおけるαグロビンエンハンサーのゲノム編集を提案した。PapadakiとVassilopoulos(Thalassemia reports 2013; 3(s1):e40)は、shRNA技術を使用してαグロビン転写物を標的化するベクターを開発した。
【0016】
特に、PapadakiとVassilopoulosは、αグロビン転写物を標的化する上記のベクターに加えて、βグロビンの産生のための泡沫状ウイルス(FV)ベクターを開発した。しかし、この方法は偶然に細胞にとって毒性を起し、エンハンサー近接効果による挿入変異誘発又は癌遺伝子トランス活性化のリスクに導きうり、それは腫瘍形成能を有すると以前に報告されている。
【0017】
さらに、現在利用可能なアプローチのいずれも、特に上で言及するアプローチのいずれも、さらに特に、それが重症形態のβサラセミア、例えばβサラセミアメジャーなどを患う個体(また、以下では、用語「β0サラセミア患者」;「β0細胞」;又は「β0-thal」を使用して表し、それらは、残留βグロビン鎖発現を有さない細胞又は患者に関係する)の処置に関する場合、完全に満足できるものではない。
【0018】
従って、ヘモグロビン異常症、特にβサラセミアを処置するための新規の遺伝子治療プラットフォームを開発する必要性が残っており、それらは、当技術分野において公知のものよりも効率的で安全である。
【0019】
特に、細胞中での、特に血液細胞中でのヘモグロビンの産生の生理学的レベルを安全で効率的な様式において、インビトロ又はエクスビボで回復させることを可能にする方法についての必要性がある。
【0020】
発明の概要
【0021】
出願人は、上で言及する必要性に対応することを可能にする方法を何とか特定した。
【0022】
本発明の第1の目的は、そのゲノム中に含まれる少なくとも1つのαグロビン遺伝子において、機能的β様グロビンタンパク質、特に機能的βグロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子を含む遺伝子改変造血幹細胞(HSC)に関し、前記の導入遺伝子は、内因性配列の制御下に置かれ、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の転写を可能にする、及び/又は転写、特に内因性プロモーターを増強する。
【0023】
特定の実施形態では、機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子を含む少なくとも1つのαグロビン遺伝子は、機能的αグロビンタンパク質をコードする遺伝子配列を発現しない。
【0024】
一実施形態では、少なくとも1つの導入遺伝子は、少なくとも2つのαグロビン遺伝子中に、好ましくは2つ未満のαグロビン遺伝子中に含まれる。特に、少なくとも2つのαグロビン遺伝子は異なる染色体上にありうる。
【0025】
別の特定の実施形態では、機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子は、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の5’非翻訳領域(5’UTR)中に及び/又は近位プロモーター中に及び/又は第2イントロン(IVS2)中に含まれ、好ましくは、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の5’非翻訳領域(5’UTR)中に又は近位プロモーター中に又は第2イントロン(IVS2)中に含まれる。
【0026】
さらなる実施形態では、少なくとも1つのαグロビン遺伝子は、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択される。
【0027】
本発明者らは、本発明に従った遺伝子改変HSCに起源を持つ細胞において、特に赤血球細胞においてヘモグロビンの生理学的レベルの産生をインビトロ又はエクスビボで回復するための、さらに特にヘモグロビン異常症を処置するための、固有の、簡単で迅速な、ならびにアクセス可能なゲノム編集方法を開発した。この方法はさらに安全で無毒性である。
【0028】
本発明者らの知る限り、少なくとも1つのαグロビン遺伝子を同時に不活性化し、少なくとも1つのβ様グロビン遺伝子の発現を増加させることを可能にする、そのような有利な併用治療は、ヘモグロビン異常症、特にβサラセミアを効率的に処置するための先行技術において記載されたことはない。
【0029】
本発明の別の目的は、本発明に従った遺伝子改変HSCに起源を持つ血液細胞に関する。
【0030】
本発明のさらなる目的は、医薬的に許容可能な培地中に、本発明に従った少なくとも1つの遺伝子改変HSC及び/又は少なくとも1つの血液細胞を含む医薬組成物に関する。
【0031】
本発明の別の目的は、少なくとも以下の工程を含む、本発明に従ったHSCのエクスビボ又はインビトロ調製のための方法に関する:
(i)前記幹細胞に、以下による部位特異的遺伝子操作システムを提供すること:
(a)前記幹細胞に、(1)選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸又は(2)選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイドペプチド含有エンドヌクレアーゼを提供することであって、前記標的部位は、前記HSCのゲノム中に含まれる内因性αグロビン遺伝子中に位置付けられる;
(b)少なくとも1つのガイド核酸が工程(a)(1)で提供されている場合、前記幹細胞に、標的部位特異性を欠く少なくとも1つのエンドヌクレアーゼをさらに提供すること;及び
(c)前記幹細胞に、機能的β様グロビンタンパク質、特にβグロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子をさらに提供すること;及び
(ii)工程(i)で得られた幹細胞を培養して、機能的β様グロビンタンパク質をコードする前記の少なくとも1つの導入遺伝子が、前記HSCのゲノム中の前記の選択された標的部位に導入され、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の転写を可能にする及び/又はその転写を増強する内因性配列の制御下に、特に前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の内因性プロモーターの制御下に置かれるようにする。
【0032】
特に、前記方法は、それが以下の工程を含むようにすることができる:
(i)前記幹細胞に、以下による部位特異的遺伝子操作システムを提供すること:
(a)前記幹細胞に、選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸を提供すること、前記標的部位は、前記HSCのゲノム中に含まれるαグロビン遺伝子中に位置付けられる;
(b)前記幹細胞に、標的部位特異性を欠く少なくとも1つのエンドヌクレアーゼをさらに提供すること;及び
(c)前記幹細胞に、機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子をさらに提供すること;及び
(ii)工程(i)の終了時に得られた幹細胞を培養して、前記の少なくとも1つの導入遺伝子が、前記HSCのゲノム中の前記の選択された標的部位に導入されるようにする。
【0033】
特に、前記方法は、それが以下の工程を含むようにすることができる:
(i)前記幹細胞に、以下による部位特異的遺伝子操作システムを提供すること:
(a)前記幹細胞に、選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸を提供すること、前記標的部位は、前記造血幹細胞のゲノム中に含まれる内因性αグロビン遺伝子中に位置付けられる;
(b)前記幹細胞に、少なくとも1つのクラスター化された、規則的に間隔が空けられた短いパリンドロームリピート(CRISPR)関連ヌクレアーゼをさらに提供すること;及び
(c)前記幹細胞に、機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子をさらに提供すること;及び
(ii)工程(i)の終了時に得られた幹細胞を培養して、前記の少なくとも1つの導入遺伝子が、前記造血幹細胞のゲノム中の前記選択された標的部位中に導入されるようにする。
【0034】
特定の実施形態では、標的部位特異性を欠く少なくとも1つのエンドヌクレアーゼは、クラスター化された、規則的に間隔が空けられた短いパリンドロームリピート(CRISPR)関連ヌクレアーゼ、特にCRISPR関連タンパク質9(Cas9)である。
【0035】
本発明の別の目的は、医薬としてのその使用のための本発明に従ったHSC、血液細胞、又は医薬組成物に関する。
【0036】
本発明のさらなる目的は、βヘモグロビン異常症の処置における使用のための、特にβサラセミアの処置における使用のための、本発明に従ったHSC、血液細胞、又は医薬組成物に関する。
【0037】
本発明の目的は、βヘモグロビン異常症の表現型を有するHSCを遺伝子編集するためのインビトロ又はエクスビボの方法を提供することであって、それが、回復された生理学的レベルのヘモグロビンの産生を有する細胞、特に血液細胞、さらに特に赤血球細胞に分化することができるようにする。
【0038】
本発明の別の目的は、このように、本発明に従った遺伝子改変HSCに起源を持つ赤血球細胞中で生理学的レベルのヘモグロビンの産生を回復するためのインビトロ又はエクスビボの方法に関する。本発明は、細胞中で、特に血液細胞中で、さらに特に赤血球細胞中で生理学的レベルのヘモグロビン産生を回復するためのインビトロ又はエクスビボの方法に関し、少なくとも以下の工程を含む:
(i)細胞に、以下による部位特異的遺伝子操作システムを提供すること:
(a)前記細胞に、(1)選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸又は(2)選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイドペプチド含有エンドヌクレアーゼを提供すること、前記標的部位は、前記細胞のゲノム中に含まれる内因性αグロビン遺伝子中に位置付けられる;
(b)少なくとも1つのガイド核酸が工程(a)(1)で提供されている場合、前記細胞に、標的部位特異性を欠く少なくとも1つのエンドヌクレアーゼをさらに提供すること;及び
(c)前記細胞に、機能的β様グロビンタンパク質、特に機能的βグロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子をさらに提供すること;
(ii)工程(i)で得られた細胞を培養して、機能的β様グロビンタンパク質をコードする前記の少なくとも1つの導入遺伝子が、前記細胞のゲノム中の前記の選択された標的部位に導入され、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の転写を可能にする及び/又はその転写を増強する内因性配列の制御下に、特に前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の内因性プロモーターの制御下に置かれるようにする;及び
(iii)工程(ii)で得られた細胞を培養して、細胞のゲノム中に導入された機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子が、細胞の内因性転写システムにより転写されるようにする。
【0039】
本発明のさらなる目的は、細胞中で、特に血液細胞中で、さらに特に赤血球細胞中で生理学的レベルのヘモグロビンの産生をインビトロ又はエクスビボで回復するためのキットに関し、以下を含む:
(i)選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸又は選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイドペプチド含有エンドヌクレアーゼであって、前記標的部位は、HSCのゲノム中に含まれる内因性αグロビン遺伝子中に位置付けられる;
(ii)少なくとも1つのガイド核酸が部分(i)として提供される場合、さらに、標的部位特異性を欠く少なくとも1つのエンドヌクレアーゼ;及び
(iii)機能的β様グロビンタンパク質、特に機能的βグロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】K562赤白血病細胞株におけるgRNAの設計及び検証
【
図2】βサラセミア表現型をシミュレートしたヒト赤芽球前駆細胞(HUDEP2β0)のαグロビン欠失クローンの調製
【
図3】実施例2において生成された細胞中でのグロビンの均衡
【
図4A】サラセミアHUDEP2 β0細胞におけるβグロビン導入遺伝子の組込み
【
図4B】サラセミアHUDEP2 β0細胞におけるβグロビン導入遺伝子の組込み
【
図5】遺伝子操作細胞におけるβグロビン発現のHPLC分析
【
図6a】遺伝子操作細胞におけるヘモグロビンサブユニット及び四量体のHPLC分析
【
図6b】遺伝子操作細胞におけるヘモグロビンサブユニット及び四量体のHPLC分析
【
図7A】HSPCにおけるHBA2欠失及びβ
AS3組込み効率
【
図7B】HSPCにおけるHBA2欠失及びβ
AS3組込み効率
【
図7C】HSPCにおけるHBA2欠失及びβ
AS3組込み効率
【
図7D】HSPCにおけるHBA2欠失及びβ
AS3組込み効率
【
図9A】BFU-EにおけるHBA2欠失及びβ
AS3組込み効率
【
図9B】BFU-EにおけるHBA2欠失及びβ
AS3組込み効率
【
図10A】免疫不全NOD/SCID/γ(NSG)マウス中に移植された、編集されたHSPCの生着及び分化効率
【
図10B】免疫不全NOD/SCID/γ(NSG)マウス中に移植された、編集されたHSPCの生着及び分化効率
【
図11】以前の実施例からの移植マウスの骨髄からの単離ヒトCD34+細胞のCFCアッセイによる分化確認
【
図12A】エクスビボ及びインビボのRNP処理HSPC間でのInDelsのパーセンテージの比較
【
図12B】エクスビボ及びインビボのRNP処理HSPC間でのHBA2欠失の程度の比較
【
図13A】異なる時間点におけるβ
AS3KI HSPC(GFP陽性)の存在の制御
【
図13B】異なる系統におけるβ
AS3KI HSPC(GFP陽性)の存在の制御
【
図14A】αグロビン遺伝子座のゲノム編集による、サラセミアHSPCにおけるグロビンの均衡の寛解
【
図14B】αグロビン遺伝子座のゲノム編集による、サラセミアHSPCにおけるグロビンの均衡の寛解
【
図14C】αグロビン遺伝子座のゲノム編集による、サラセミアHSPCにおけるグロビンの均衡の寛解
【
図14D】αグロビン遺伝子座のゲノム編集による、サラセミアHSPCにおけるグロビンの均衡の寛解
【
図14E】αグロビン遺伝子座のゲノム編集による、サラセミアHSPCにおけるグロビンの均衡の寛解
【
図14F】αグロビン遺伝子座のゲノム編集による、サラセミアHSPCにおけるグロビンの均衡の寛解
【
図14G】αグロビン遺伝子座のゲノム編集による、サラセミアHSPCにおけるグロビンの均衡の寛解
【0041】
図面の説明
【0042】
図1.K562赤白血病細胞株におけるgRNAの設計及び検証
HBAについての異なるgRNAを発現するプラスミドを、SpCas9を安定的に発現するK562細胞中にトランスフェクトし、それらのDNA切断活性を、TIDEソフトウェアを用いて測定した(Tracking of InDels by Decomposition - Brinkman et al. Nucleic Acids Res. 2014. 42(22):e168); www.tide.calculator.nk)。活性を、
図1中で、InDel%、即ち、改変された対立遺伝子のパーセンテージとして、さらに定義される遺伝子の5’領域(特にHBAの5’UTR)中、さらに定義される遺伝子の3’非翻訳領域(3’UTR)中、前記遺伝子のイントロン1(IVS1-介在配列1について)中又はイントロン2(IVS2)中のいずれかで独立してテストされた16 gRNAの各々について表す。InDel%が100%に近いほど、テストされたgRNAはより効率的である。
横軸:テストされたgRNAにより標的化される領域:5’領域、IVS1又はIVS2;各々のバーは異なるgRNAを表す。
縦軸:InDel%。
【0043】
図2:βサラセミア表現型をシミュレートしたヒト赤芽球前駆細胞(HUDEP2β0)のαグロビン欠失クローンの調製
ヒト赤芽球前駆細胞株(HUDEP2)細胞又は残存βグロビン鎖発現を有さないヒト赤芽球前駆細胞株(HUDEP2β0)を、HBA遺伝子を標的化するCas9:gRNAリボ核タンパク質を用いてヌクレオフェクトし、ヌクレアーゼ活性を、ウェブサイトwww.tide.calculator.nkで入手可能なソフトウェアTIDE(Tracking of InDels by Decomposition)を使用することにより算出された挿入及び欠失(InDel)のパーセンテージに基づいて測定した。
活性を、テストされた各々のgRNAについて、InDel%、即ち、改変された対立遺伝子のパーセンテージとして表す。
InDel%が100%に近いほど、テストされたgRNAはより効率的である。
横軸:左から右へ:HUDEP2細胞を用いて得られた結果、HUDEP2β0細胞を用いて得られた結果。
縦軸:InDel%。
【0044】
図3:実施例2において生成された細胞中でのグロビンの均衡
HUDEP2(WTコントロール)細胞、HUDEP2β0細胞、又はCas9が編集されたHUDEP2β0(HUDEP2β0+ RNP)細胞を分化させ、グロビンRNAを測定した。1つ(-α/αα)又は2つのαグロビン欠失(-α/-α)を伴う、編集されたHUDEP2β0細胞の異なるクローンも選択し、分化させた。グロビン比率は、分化したHUDEP2において1に近く、HUDEP2β0において>1、「HUDEP2β0DELKO」(βグロビン及びαグロビンの両方についてのコントロールクローンノックアウト)において<1である。
横軸:左から右へ:HUDEP2 β0細胞を用いて、HUDEP2 β0+ RNP細胞(αグロビン欠失に関して、全ての異なる型の編集されたHUDEP2 β0の混合物)を用いて、HUDEP2 β0(-α/αα)細胞を用いて、HUDEP2 β0(-α/-α)細胞を用いて、WT HUDEP2細胞(HUDEP2)を用いて、及びHUDEP2 β0 DEL KO細胞を用いて得られた結果。
縦軸:αs様とβ様のmRNA(ベータグロビン、ガンマグロビン、及びデルタグロビン)の比率。
【0045】
図4a及び4b:サラセミアHUDEP2 β0細胞におけるβグロビン導入遺伝子の組込み
図4A:左から右に以下のエレメントを含むAAVベクター構造:ITR、逆方向末端反復、相同性:ヌクレアーゼ切断が生じているゲノム配列に相同な約250bpのDNA配列;βグロビン遺伝子:ボックスはエクソンを表し、線はイントロンを表す;β pA:βグロビンポリアデニル化配列;PGK:ヒトホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター;GFP:緑色蛍光タンパク質;pA:ポリアデニル化配列;特にβグロビン遺伝子。
【0046】
図4B:HUDEP2 β0のαグロビン遺伝子の5’UTRにおけるAAVの標的化組込み。14日目に、細胞をフローサイトメトリーに供し、組込まれたAAVからのGFP発現を分析した。
横軸:GFPシグナル強度(蛍光強度)
縦軸:自家蛍光チャネル(AF)
【0047】
図5:遺伝子操作細胞におけるβグロビン発現のHPLC分析
この図は、βグロビン導入遺伝子が組み入れられたHUDEP2 β0細胞(HUDEP2 β0)において、及びHUDEP2 β0細胞(HUDEP2 β0+β aS3)において発現された対応するパーセンテージ(横軸、左から右)と比較した、野生型HUDEP2細胞(WT HUDEP2)において発現されたβ様グロビンのパーセンテージ(縦軸)を表す。
【0048】
図6a及び6b:遺伝子操作細胞におけるヘモグロビンサブユニット及び四量体のHPLC分析
図6aでは、特にHUDEP2 β0細胞中で形成されたα沈殿物に対応するピークを、充填コントロール(Bio-rad、ヘモグロビンの質コントロール)を使用して同定し、注釈を付けている。予想通り、HbA四量体はHUDEP2 β0細胞において検出されていない。
図6bでは、特にβグロビン導入遺伝子が組み入れられたHUDEP2 β0細胞において発現され、形成された四量体(HbA)に対応するピークを、充填コントロールを使用して同定し、注釈を付けている。検出されたα沈殿物がないことを見ることができる。
横軸:時間(分)
縦軸:電気信号(mV)
【0049】
図7A、7B、7C、及び7D:HSPCにおけるHBA2欠失及びβ
AS3
組込み効率
図7Aは、赤芽球液体培養(●)中での又はBFU-E(バースト形成単位-赤芽球、■)中での赤芽球分化の12日目でのHSPCにおける編集効率を表す。線は平均値を表す。
横軸(左から右へ):リボ核タンパク質複合体だけを用いて投与されたHSPCの群(RNP)、実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、ならびに実施例において定義されているAAVを用いて投与されただけのHSPCの群(AAV)。
縦軸:InDel%。
【0050】
図7Bは、赤芽球液体培養(●)中での又はBFU-E(バースト形成単位-赤芽球、■)中でのHSPC当たりのHBA2遺伝子コピーの数を表す。実線は平均値を表す;点線は、未処理HSPCにおける予想されるHBA2対立遺伝子の数を示す。
横軸(左から右へ):リボ核タンパク質複合体(RNP)だけを用いて投与されたHSPCの群、実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、ならびに実施例において定義されているAAVを用いて投与されただけのHSPCの群(AAV)。
縦軸:細胞当たりのHBA2コピーの数。
【0051】
図7Cは、赤芽球液体培養中での編集されたHSPCにおける%GFPにより特徴付けられるKI効率を表す(●)。線は平均値を表す。
横軸(左から右へ):実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)ならびに実施例において定義されているAAVを用いて投与されただけのHSPCの群(AAV)。
縦軸:GFPの%。
【0052】
図7Dは、赤芽球液体培養の12日目での内因性β及びKI-β
AS3 mRNAの相対的な存在量を表す(n=6)。
横軸(左から右):実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、実施例において定義されているAAVを用いて投与されただけのHSPCの群(AAV)、及び未処理コントロールの群(UT )。
縦軸:β転写物の%。
【0053】
図8:編集されたHSPCのエクスビボ多能性
図8は、編集されたHSPCにおけるコロニー形成単位(CFU)の頻度を表す。各々の列において、上から下へ:CFU-GEMM(顆粒球、赤芽球、マクロファージ、巨核球);BFU-E(バースト形成単位-赤芽球);CFU-GM(顆粒球、マクロファージ)。
バーは平均値±SDを表す(n=3~5)。
横軸(左から右へ):リボ核タンパク質複合体(RNP)だけを用いて投与されたHSPCの群、実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、 実施例において定義されているAAVを用いて投与されただけのHSPCの群(AAV)、及び未処理コントロールの群(UT)。
縦軸:CFCの%。
【0054】
図9A及び9B:BFU-EにおけるHBA2欠失及びβ
AS3
組込み効率
図9Aは、単一のBFU-EにおけるHBA2遺伝子欠失を表す:各々の列の下から上へ:野生型(wt)、1つのHBA2欠失(1del)、及び2つのHBA2欠失(2del)。バーは平均値を表す。
横軸(左から右へ):リボ核タンパク質複合体(RNP)だけを用いて投与されたHSPCの群及び実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体(AAV+RNP)を用いて投与されたHSPCの群。
縦軸:BFU-Eの%。
【0055】
図9Bは、単一のBFU-Eにおけるβ
AS3組込みパターンを表す。バーは平均値±SD(2つの独立した実験から由来するコロニー)を表す:列の下から上へ:組込みなし(0)、単一対立遺伝子(1)及び二対立遺伝子(2)KI。
縦軸:BFU-Eの%。
【0056】
図10A及び10B:免疫不全NOD/SCID/γ(NSG)マウス中に移植された、編集されたHSPCの生着及び分化効率
図10Aは、16週目のマウスの造血器官におけるヒトCD45+/HLA-ABC +細胞のパーセンテージを表す。
黒色線は平均値を示す。
横軸(左から右へ):BM=骨髄;SP=脾臓;PB=末梢血。各々の造血器官について、左から右へ:未処理コントロールの群(UT)(〇)、リボ核タンパク質複合体(RNP)だけを用いて投与されたHSPCの群(●)、実施例において定義されているAAVを用いて投与されただけのHSPCの群(AAV)(▼)、ならびに実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)(+)。
縦軸:CD45+/HLA-ABC+の%。
【0057】
図10Bは、NSGマウスの骨髄におけるヒト異種移植片の免疫表現型を表す。各々の点は1匹の動物を表し、線は平均値を示す。
横軸(左から右へ):ヒトB CD19+(B)、ヒトT CD3+(T)、及びヒト骨髄組織CD33+(My)細胞。各々の造血器官について、左から右へ:未処理コントロールの群(UT)(〇)、リボ核タンパク質複合体(RNP)だけを用いて投与されたHSPCの群(●)、実施例において定義されているAAVだけを用いて投与されたHSPCの群(AAV)(▼)、ならびに実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)(+)。
縦軸:CD45+/HLA-ABC+の%。
【0058】
図11:以前の実施例からの移植マウスの骨髄からの単離ヒトCD34+細胞のCFCアッセイによる分化確認
図11は、骨髄由来CD34のコロニー形成単位(CFU)の頻度を表す。各々の列における下から上へ:BFU-E(バースト形成単位-赤芽球);CFU-GM(顆粒球、マクロファージ);及びCFU-GEMM(顆粒球、赤芽球、マクロファージ、巨核球)。
バーは平均値±SD(n=2~4)を表す。
横軸(左から右へ):リボ核タンパク質複合体だけを用いて投与されたHSPCの群(RNP)、実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、実施例において定義されているAAVを用いて投与されただけのHSPCの群(AAV)、及び未処理コントロールの群(UT)。
縦軸:CFC単位の%。
【0059】
図12A及び12B:エクスビボ及びインビボのRNP処理HSPC間でのInDelsのパーセンテージ(図12A)、ならびにHBA2欠失の程度(図12B)の比較
図12Aは、異なる時点でのRNP移植マウスの末梢血におけるInDel効率を表す(平均値±SD;n=2~4)。
横軸:時間(週)。
縦軸:InDels%。
【0060】
図12Bは、0日目(注射)のRNP処理HSPC及び16週目の移植マウスのBMにおけるHBA2コピーを表す。実線は平均値を示し、点線は未処理のHSPCにおける、予想されるHBA2対立遺伝子の数を示す。
横軸:時間(週)。
縦軸:細胞当たりのHBA2コピーの数。
【0061】
図13A及び13B:異なる時間点(図13A)での及び異なる系統(図13B)におけるβ
AS3
KI HSPC(GFP陽性)の存在の制御
図13Aは、経時的な移植マウスの末梢血中でのGFP陽性細胞を表す。GFPをCD45+細胞のパーセンテージとして表現する;線は平均値を示す。
横軸:時間(週)。
縦軸:%GFP陽性細胞(GFP+細胞)。
【0062】
図13Bは、移植マウスのBMにおけるHSPC(CD34)細胞、骨髄(CD33)細胞、B(CD19)細胞、及びT(CD3)細胞中でのGFP陽性細胞を表す。各々の線は1匹の動物を表す。
横軸(左から右へ):HSPC、骨髄細胞、B細胞及びT細胞。
縦軸:%GFP陽性細胞(GFP+細胞)。
【0063】
図14A、14B、14C、14D、14E、14F、及び14G:αグロビン遺伝子座のゲノム編集により、サラセミアHSPCにおけるグロビンの均衡が寛解される
図14Aは、赤芽球液体培養(●)中での又はBFU-E(バースト形成単位-赤芽球、■)中でのInDels定量化を表す。黒色線は平均値を表す。
横軸(左から右へ):
-β0/β+(左から右へ:リボ核タンパク質複合体(RNP)だけを用いて投与されたHSPCの群、実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、赤芽球特異的βグロビンエンハンサー/プロモーターの制御下にあるβAS3遺伝子をコードするレンチウイルスベクターだけを用いて投与されたHSPCの群(LVβ
AS3)、及び未処理コントロールの群(UT);ならびに
-β0/β0(左から右へ:実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、赤芽球特異的βグロビンエンハンサー/プロモーター制御下でβAS3遺伝子をコードするレンチウイルスベクターだけを用いて投与されたHSPCの群(LVβ
AS3)、及び未処理コントロールの群(UT)。
縦軸:InDels%。
【0064】
図14Bは、赤芽球液体培養(●)中での又はBFU-E(バースト形成単位-赤芽球、■)中での細胞当たりのHBA2遺伝子コピーの数を表す。黒色線は平均値を表す。
横軸(左から右へ):
-β0/β+(左から右へ:リボ核タンパク質複合体(RNP)だけを用いて投与されたHSPCの群、実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、赤芽球特異的βグロビンエンハンサー/プロモーターの制御下にあるβAS3遺伝子をコードするレンチウイルスベクターだけを用いて投与されたHSPCの群(LVβ
AS3)、及び未処理コントロールの群(UT);ならびに
-β0/β0(左から右へ:実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、赤芽球特異的βグロビンエンハンサー/プロモーターの制御下にあるβAS3遺伝子をコードするレンチウイルスベクターだけを用いて投与されたHSPCの群(LVβ
AS3)、及び未処理コントロールの群(UT)。
縦軸:HBA2コピーの数/細胞。
【0065】
図14Cは、赤芽球液体培養(●)中での又はBFU-E(バースト形成単位-赤芽球、■)中での、編集されたサラセミアHSPCにおけるβ
AS3組込みを表す。黒色線は平均値を表す。
横軸(左から右へ):
-β0/β+(左から右へ:リボ核タンパク質複合体(RNP)だけを用いて投与されたHSPCの群、実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、赤芽球特異的βグロビンエンハンサー/プロモーターの制御下にあるβAS3遺伝子をコードするレンチウイルスベクターだけを用いて投与されたHSPCの群(LVβ
AS3)、及び未処理コントロールの群(UT);ならびに
-β0/β0(左から右へ:実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、赤芽球特異的βグロビンエンハンサー/プロモーターの制御下でβAS3遺伝子をコードするレンチウイルスベクターだけを用いて投与されたHSPCの群(LVβ
AS3)、及び未処理コントロールの群(UT)。
縦軸:β
AS3コピーの数。
【0066】
図14Dは、12日目の赤芽球液体培養中での編集されたサラセミアHSPCにおけるα/β様グロビンmRNA比率を表し、黒色線は平均値を示す。
横軸(左から右へ):
-β0/β+(左から右へ:リボ核タンパク質複合体(RNP)だけを用いて投与されたHSPCの群、実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、赤芽球特異的βグロビンエンハンサー/プロモーターの制御下にあるβAS3遺伝子をコードするレンチウイルスベクターを用いて投与されたHSPCの群(LVβ
AS3)、及び未処理コントロールの群(UT));ならびに
-β0/β0(左から右へ:実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、赤芽球特異的βグロビンエンハンサー/プロモーターの制御下でβAS3遺伝子をコードするレンチウイルスベクターだけを用いて投与されたHSPCの群(LVβ
AS3)、及び未処理コントロールの群(UT))。
縦軸:α/(β+γ+δ)比率。
【0067】
図14Eは、赤芽球液体培養の12日目での内因性β及びKI-β
AS3mRNAの相対的な存在量を表す(平均値±SD、n=3)。
横軸(左から右へ):
-β0/β+(左から右へ:実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、赤芽球特異的βグロビンエンハンサー/プロモーターの制御下でβAS3遺伝子をコードするレンチウイルスベクターだけを用いて投与されたHSPCの群(LVβ
AS3)、及び未処理コントロールの群(UT);ならびに
-β0/β0(左から右へ:実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、赤芽球特異的βグロビンエンハンサー/プロモーターの制御下でβAS3遺伝子をコードするレンチウイルスベクターだけを用いて投与されたHSPCの群(LVβ
AS3)、及び未処理コントロールの群(UT))。
【0068】
図14Fは、β+赤芽球における赤芽球分化の間でのβ
AS3RNA発現を表す。値をベクターコピー数(VCN)当たりで標準化し、次にβ
AS3/GAPDHを実施する(GAPDH=ノーマライザー)。黒色線は平均値を示す(n=2~3)。
横軸(左から右へ):
-6日目(左:実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、右:赤芽球特異的βグロビンエンハンサー/プロモーターの制御下でβAS3遺伝子をコードするレンチウイルスベクターだけを用いて投与されたHSPCの群(LVβ
AS3));及び
-12日目(左:実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、右:赤芽球特異的βグロビンエンハンサー/プロモーターの制御下でβAS3遺伝子をコードするレンチウイルスベクターだけを用いて投与されたHSPCの群(LVβ
AS3));及び
-BFU-E(左:実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、右:赤芽球特異的βグロビンエンハンサー/プロモーターの制御下でβAS3遺伝子をコードするレンチウイルスベクターだけを用いて投与されたHSPCの群(LVβ
AS3))。
縦軸:β
AS3転写物/VCN。
【0069】
図14Gは、編集されたサラセミアHSPCから由来するBFU-Eにおけるα/β様グロビンmRNA比率を表す。β0/β+コロニー(n=71)を左軸上に、β0/β0(n=63)を右軸上にプロットする。各々のドットは単一のコロニーを表す。黒色線は平均値±SDを示す(***、p<0.001;**、p<0.01;ANOVA、テューキーの検定)。
横軸(左から右へ):
-β0/β+(左から右へ:リボ核タンパク質複合体(RNP)を用いて投与されたHSPCの群、実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、赤芽球特異的βグロビンエンハンサー/プロモーターの制御下にあるβAS3遺伝子をコードするレンチウイルスベクターだけを用いて投与されたHSPCの群(LVβ
AS3)、及び未処理コントロールの群(UT);ならびに
-β0/β0(左から右へ:実施例において定義されているAAV及びリボ核タンパク質複合体を用いて投与されたHSPCの群(AAV+RNP)、赤芽球特異的βグロビンエンハンサー/プロモーターの制御下でβAS3遺伝子をコードするレンチウイルスベクターだけを用いて投与されたHSPCの群(LVβ
AS3)、及び未処理コントロールの群(UT))。
【0070】
発明の詳細な説明
【0071】
本発明者らは、赤芽球系統に向かって分化した場合に、機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子によりコードされる1以上のβ様グロビンタンパク質を産生することができる遺伝子改変HSCを何とか生成した。特に、本発明者らは、実施するのが簡単で、安全で、効率的で、及び無毒性の方法を使用し、ヘモグロビン産生及びαグロビンとβ様グロビンの均衡、特にβサラセミア、特に重度のβサラセミアプロファイルを呈する細胞におけるαグロビンとβグロビンの均衡を何とか補正した。
【0072】
本発明者らはまた、健常なドナーHSPCを編集することができ、それらが移植マウスにおいて長期の再増殖能力及び多能性を維持することを実証した。
【0073】
最後に、アプローチの臨床的可能性を評価するために、本発明者らは、βサラセミアHSPCを編集し、HSPC由来の赤芽球におけるα/βグロビンの均衡の明らかな改善を達成した。
【0074】
本明細書中に示すように、前記β様グロビンタンパク質は、最初にβサラセミアプロファイルを呈する細胞において高レベルで発現され、それによって、治療レベルのβ様グロビンタンパク質ならびに治療的レベルのヘモグロビン四量体を得ることが可能になる。
【0075】
本発明者らはまた、これらの細胞において有毒なαグロビン沈殿物の産生を何とか有意に低下させた。
【0076】
本明細書中に記載する遺伝子改変HSCは、β様グロビンタンパク質の制御及び回復された発現を有利に提供する。
【0077】
本発明により提供される別の重要な利点は、それがαグロビン鎖の全体的なグロビン発現レベルに負に影響しないことである。
【0078】
安全なαグロビン遺伝子中での導入遺伝子を標的化組込みによる、本明細書中に記載する、エクスビボ又はインビトロで操作されたHSCの使用によって、セミランダム組込みベクターの使用に関連付けられる挿入変異誘発及び癌遺伝子トランス活性化のリスクならびに遺伝子トランス活性化のリスクが有利に最小化される。なぜなら、外因性のプロモーター/エンハンサーエレメントは導入遺伝子発現のために要求されず、ゲノム中に挿入されないためである。
【0079】
さらに、それを必要とする個体への本明細書中に記載するHSCの投与によって、これらの幹細胞に追加の機能を回復又は提供することにより、本文中で考慮する、βヘモグロビン異常症、特にβサラセミアの長期補正が可能になる。
【0080】
この方法は、操作されたHSCがそれらの病理の処置のために投与される、それを必要とする個体に高度に有利である。なぜなら、ヘモグロビン異常症のための現在の処置の大半が健常で免疫適合性のある赤血球細胞の頻繁な注射からなるためであり、それは要求が厳しく、長期的には治癒的ではない。そのような処置は対症的であるだけで、治癒的ではない。したがって、患者は生涯にわたり、これらのタンパク質の反復投与を受けなければならない。
【0081】
本明細書中に記載するHSCの投与に基づく処置は、それどころか、限定された数の反復投与、又はさらに、2つの主要な利益を伴う1回の治癒的処置をもたらす:それによって、患者及び彼らの家族の生活の質が有意に改善され、及びそれによって、これらの最も頻繁な生涯にわたる疾患の処置に関連する国民医療制度に対する経済的コスト及び負担が低下するであろう。
【0082】
遺伝子改変造血幹細胞(HSC)
【0083】
上に示すように、本発明は第一に、そのゲノム中に含まれる少なくとも1つのαグロビン遺伝子において、機能的β様グロビンタンパク質、特に機能的βグロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子を含む遺伝子改変HSCに関し、前記導入遺伝子は、内因性配列の制御下に置かれ、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の転写を可能にし、及び/又はその転写を増強する。
【0084】
HSCは、自己複製が可能な多能性幹細胞であり、許容条件下で造血系の全ての細胞型を生じさせるそれらの能力により特徴付けられる。HSCは全能性細胞ではなく、即ち、それらは完全な生物中に発生することは可能ではない。
【0085】
特定の実施形態では、本発明に従ったHSCは、胚性幹細胞から、特にヒト胚性幹細胞から由来し、このように、胚性造血幹細胞である。
【0086】
胚性幹細胞(ESC)は、胚の未分化内部塊細胞から由来する幹細胞であり、自己複製が可能である。許容条件下では、これらの多能性幹細胞は、成体において220を上回る細胞型のいずれか1つにおいて分化することが可能である。ESCは全能性細胞ではなく、即ち、完全な生物に発生することは可能ではない。ESCは、例えば、Young Chungら(Cell Stem Cell 2, 2008 February 7;2(2):113-7)において示されている方法に従って得ることができる。
【0087】
別の特定の実施形態では、本発明に従ったHSCは、誘導多能性幹細胞、さらに特にヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC)である。このように、特定の実施形態によれば、本明細書中に記載するHSCは、造血誘導多能性幹細胞である。
【0088】
hiPSCは、ESCと同様の多能性幹細胞様の状態を示す、遺伝子再プログラム成体細胞である。それらは、ヒトの身体において存在することが公知ではないが、しかし、ESCの質と同様の質を示す人工的に生成された幹細胞である。そのような細胞を生成することは、Ying WANGら(https://doi.org/10.1101/050021)において、ならびにLapillonne H.ら(Haematologica. 2010; 95(10))において、及びJ. DIASら(Stem Cells Dev. 2011; 20(9): 1639-1647)において考察されているように、当技術分野において周知である。
【0089】
「自己再生」は、親細胞の同一の(例、自己再生する)特徴を伴う少なくとも1つの娘細胞を分裂及び生成する細胞の能力を指す。二次娘細胞は、特定の分化経路に関与しうる。例えば、自己再生HSCは分裂し、骨髄又はリンパ経路における分化に関与する1つの娘幹細胞及び別の娘細胞を形成することができる。自己再生によって、造血系の補充のための未分化幹細胞の継続的な供給源が提供される。
【0090】
HSCを同定するために有用なマーカー表現型は、当技術分野において一般に公知のものである。ヒトHSCについて、細胞マーカーの表現型は、好ましくは、CD34+ CD38low/- Cd49f+ CD59+ CD90+ CD45RA- Thy1+ C-kit+ lin-(Notta F, Science. 333(6039):218-21 (2011))の任意の組み合わせを含みうる。マウスHSCについて、細胞マーカーの表現型は例証的に、CD34low/- Sca-1+ C-kit+及びlin- CD150+ CD48- CD90.1.Thy1+/low Flk2/flt3-及びCD117+の任意の組み合わせでありうる(例、Frascoliら(J. Vis. Exp. 2012 Jul 8; (65). Pii:3736.)。
【0091】
本明細書中に記載する幹細胞は、好ましくは精製される。同じことが、本明細書中で定義する血液細胞について適用される。
【0092】
HSCを精製するための多くの方法が、例えばEP1687411において例証されるように、当技術分野において公知である。
【0093】
本明細書中に使用するように、「精製HSC」又は「精製血液細胞」は、列挙された細胞が、精製サンプル中の細胞の少なくとも50%;より好ましくは、精製サンプル中の細胞の少なくとも51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上を構成することを意味する。
【0094】
細胞の選択及び/又は精製は、実質的に純粋な細胞の集団を得るためのポジティブ選択方法及びネガティブ選択方法の両方を含むことができる。
【0095】
一態様では、蛍光活性化細胞選別(FACS)(フローサイトメトリーとしても言及される)を使用し、異なる細胞集団を選別及び分析することができる。HSC又は前駆細胞集団について特異的な細胞マーカーを有する細胞は、細胞マーカーに結合する抗体、又は典型的には抗体の混合物を用いてタグ付けする。異なるマーカーに向けられた各々の抗体を、検出可能な分子、特に他の抗体に共役された他の蛍光色素から区別することができる蛍光色素に結合させる。染色細胞の流れは、蛍光色素を励起する光源を通過し、細胞からの発光スペクトルによって特定の標識抗体の存在が検出される。異なる蛍光色素の同時検出により、異なる組の細胞マーカーを呈する細胞を同定し、集団における他の細胞から単離する。例として、限定しないが、側方散乱(SSC)、前方散乱(FSC)、及び生体色素染色(例、ヨウ化プロピジウムを用いる)を含む他のFACSパラメーターによって、サイズ及び生存率に基づいて細胞の選択が可能になる。HSC及び前駆細胞のFACS選別及び分析は、とりわけ、Akashi, K. et al., Nature 404(6774):193-197 (2000)において記載されている。
【0096】
別の態様では、免疫磁気標識を使用し、異なる細胞集団を選別することができる。この方法は、抗体又はレクチンを介した細胞への小さな磁化可能な粒子の付着に基づく。細胞の混合集団が磁場中に置かれる場合、付着したビーズを有する細胞は磁石により引き付けられ、このようにして、非標識細胞から分離されうる。
【0097】
好ましい実施形態では、本発明に従って遺伝子改変されるHSCは、βヘモグロビン異常症の表現型を提示する、即ち、健常な対応する細胞と比較し、β様グロビンの減少した発現を提示する。特に、本発明に従って遺伝子改変されるHSC細胞は、βサラセミア又は鎌状赤血球症の表現型を提示する。
【0098】
特定の実施形態では、本明細書中に記載する改変HSCは、哺乳動物細胞、特にヒト細胞である。
【0099】
特定の実施形態では、HSC及び/又は血液細胞の初期集団は自家でありうる。
【0100】
「自家」は、同じ患者又は個体から由来する、又はそれにおいて起源を持つことを指す。「自家移植」は、対象自身の細胞又は器官の回収及び再注入又は移植を指す。自家細胞の排他的又は補足的な使用によって、宿主へ戻す細胞の投与の多くの有害効果、特定の移植片対宿主反応を排除又は低下させることができる。
【0101】
この場合では、HSCを前記個体から収集し、本明細書中に記載する方法に従ってエクスビボ又はインビトロで遺伝子改変し、同じ個体に投与した。
【0102】
特に、HSC及び/又は血液細胞の初期集団は、βヘモグロビン異常症を、特にβサラセミア又は鎌状赤血球症を、さらに特にβサラセミアを、さらに特に重度形態のβサラセミアを、例えばβサラセミアメジャーなどを患う個体に起源を持つ。
【0103】
特定の実施形態では、HSC及び/又は血液細胞の初期集団は、同種ドナーから又は複数の同種ドナーから由来しうる。ドナーは、互いに関係しうる、又は無関係でありうるが、移植の設定では、レシピエント(又は個体)に関係しうる、又は無関係でありうる。
【0104】
本明細書中に記載するように改変される幹細胞は、したがって、治療を必要とする個体に外因性でありうる。
【0105】
内因性HSCを利用する本発明の他の実施形態は、個体の1つの解剖学的ニッチから全身循環への、又は別の特定の解剖学的ニッチ中への前記幹細胞の動員を含む。そのような動員は当技術分野において周知であり、例えば、区画、例えば骨髄などからの幹細胞の脱出を刺激することが可能な因子の投与により起こされうる。
【0106】
該当する場合、幹細胞及び前駆細胞は、対象へのサイトカイン又は薬物の事前投与により、骨髄から末梢血中に動員されうる(例、Dominguesら(Int. J. Hematol. 2017 feb; 105(2): 141-152)を参照のこと)。動員を誘導することが可能なサイトカイン及びケモカインは、例として、限定しないが、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、エリスロポエチン(Kiessinger, A. et al., Exp. Hematol. 23:609-612 (1995))、幹細胞因子(SCF)、AMD3100(AnorMed、カナダ、バンクーバー)、インターロイキン8(IL-8)、及びこれらの因子の変異体(例、ペグフィルグラスチム、ダルボポエチン)を含む。
【0107】
本明細書中に記載する方法により調製された細胞は、医薬的に許容可能な担体中に再懸濁して直接使用する、又は当業者が利用可能な種々の細胞精製技術、例えばFACS選別、磁気親和性分離、及び免疫親和性カラムなどによる処理に供してもよい。
【0108】
本明細書中で既に特定しているように、本明細書中に記載するHSC及び血液細胞は、そのグロビン遺伝子の少なくとも1つにおいて、特にその内因性グロビン遺伝子の少なくとも1つにおいて遺伝子改変されている。
【0109】
グロビン遺伝子は、HSC及び血液細胞のゲノム中のクラスターにおいて組織化されており、これらのクラスターは、α様及びβ様ヒトグロビン遺伝子クラスターと呼ばれる。
【0110】
α様ヒトグロビン遺伝子クラスターは、ゼータ(ζ)、シュードゼータ(ψζ)、ミュー(μ)、シュードα-1(ψα1)、シュードα-2(ψα2)、α2(α2)、α1(α1)、及びシータ(θ)グロビン遺伝子を含み、16番染色体上に位置付けられる。
【0111】
β様ヒトグロビン遺伝子クラスターは、イプシロン(ε)、ガンマ-G(Gγ)、ガンマ-A(Aγ)、デルタ(δ)、及びβ(β)グロビン遺伝子を含み、11番染色体上に位置付けられる。
【0112】
したがって、本発明に従ったβ様グロビン遺伝子は、イプシロングロビン(ε)、ガンマGグロビン(Gγ)、ガンマAグロビン(Aγ)、デルタグロビン(δ)、及びβグロビン(β)遺伝子からなる群より選択される遺伝子を指す。特に、本発明に従ったβ様グロビン遺伝子は、βグロビン遺伝子である。
【0113】
特定の実施形態によれば、改変前に、上で考察するHSCは、機能的βグロビンタンパク質(β0表現型を表す)を発現することができる赤芽球に分化することが可能ではない、即ち、HSCは赤芽球に分化することが可能であるが、しかし、赤芽球は機能的βグロビンタンパク質(β0表現型を表す)を発現することができないであろう。
【0114】
別の実施形態によれば、改変前に、上で考察するHSCは、赤芽球に分化することが可能であるが、しかし、赤芽球は機能的βグロビンタンパク質を部分的に発現する。すなわち、改変前に、HSCは赤芽球に分化することが可能であり、前記赤芽球は、低下した機能を有するβグロビンタンパク質を発現するか、又はそれは、正常に機能するが、しかし、低下量で産生されるβグロビンタンパク質(β+表現型を表す)を発現するかのいずれかである。
【0115】
上で言及するように、機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子は、HSC及び血液細胞のゲノム中の少なくとも1つのαグロビン遺伝子中に含まれる。
【0116】
当技術分野において一般的に定義されているように、遺伝子座は、染色体上の遺伝子の固定位置である。
【0117】
本文中で、任意のより多くの表示を伴わない用語「細胞」が言及される場合、それは、本明細書中に記載するように、HSC及び血液細胞の両方に適用される。
【0118】
一実施形態によれば、少なくとも1つのαグロビン遺伝子は、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択される。
【0119】
各々のαグロビン遺伝子のコード領域は、介在配列(IVS)又はイントロンと呼ばれる非コードDNAのストレッチにより2つの位置で中断される。
【0120】
αグロビン遺伝子は、このように、その5’末端から3’末端まで、以下で構成される:
-近位プロモーター領域;
-5’非翻訳領域(5’UTR);
-少なくとも2つのエクソン、特に3つのエクソン;
-少なくとも1つのイントロン、特に2つのイントロン;及び/又は
-3’非翻訳領域(3’UTR)。
【0121】
したがって、本明細書中に記載する細胞において、本明細書中に記載する細胞の少なくとも1つのαグロビン遺伝子中に含まれる機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子は、前記αグロビン遺伝子の5’領域中に、イントロン中に、及び/又は3’UTR中に、特に前記αグロビン遺伝子の近位プロモーター領域中に、5’UTR中に、及び/又はイントロン中に含まれうる。
【0122】
好ましくは、本明細書中に記載する細胞の少なくとも1つのαグロビン遺伝子中に含まれる機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子は、前記αグロビン遺伝子の5’領域中に及び/又はイントロン中に、特に前記αグロビン遺伝子の5’UTR中に及び/又は近位プロモーター中に及び/又はイントロン中に、さらに特に前記αグロビン遺伝子の5’UTR中に又は近位プロモーター中に又はイントロン中に含まれる。
【0123】
特定の実施形態では、本明細書中に記載する細胞の少なくとも1つのαグロビン遺伝子中に含まれる機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子は、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の5’領域中に及び/又はイントロン中に、特に5’領域中に及び/又は第2イントロン(IVS2)中に含まれる。
【0124】
本発明に従った5’領域は、考慮されるαグロビン遺伝子の翻訳開始コドンの上流の領域である。それは、遺伝子の5’UTR配列及び近位プロモーターを含む。
【0125】
特に、本発明に従ったαグロビン遺伝子の5’領域は、αグロビン遺伝子の前記翻訳開始コドンの直接的に上流の500ヌクレオチド配列、好ましくはαグロビン遺伝子の前記翻訳開始コドンの直接的に上流の400ヌクレオチド、より好ましくは300ヌクレオチド、さらに特に250ヌクレオチドに対応する。
【0126】
特定の実施形態では、本明細書中に記載する細胞の少なくとも1つのαグロビン遺伝子中に含まれる機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子は、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の5’領域中に、3’非翻訳領域(3’UTR)中に、及び/又はイントロン中に、特に前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の5’領域中に及び/又は第2イントロン(IVS2)中に含まれる。
【0127】
特定の実施形態では、本明細書中に記載する細胞の少なくとも1つのαグロビン遺伝子中に含まれる機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子は、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の5’非翻訳領域(5’UTR)中に及び/又は近位プロモーター中に及び/又は第2イントロン(IVS2)中に含まれ、好ましくは前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の5’非翻訳領域(5’UTR)中に又は近位プロモーター中に又は第2イントロン(IVS2)中に含まれる。
【0128】
特定の実施形態では、本発明に従ったαグロビン遺伝子の5’領域は、考慮されるαグロビン遺伝子の近位プロモーターに対応する。
【0129】
別の実施形態では、本発明に従ったαグロビン遺伝子の5’領域は、考慮されるαグロビン遺伝子の5’UTR(5’非翻訳領域)に対応する。
【0130】
全ての以下の位置は、Human Dec. 2013 GRCh38/hg38 AssemblyのUCSC Genome Browserに基づいている。
【0131】
特に、HBA1(ヘモグロビンサブユニットα1)ヒト遺伝子を考慮する場合、5’領域は、好ましくは、この遺伝子の5’UTRに対応する。この5’UTRは、位置chr16:176,651-176,716;66nt;RefSeq:NM_000558.4に対応する。
【0132】
特に、HBA2(ヘモグロビンサブユニットα2)ヒト遺伝子を考慮する場合、5’領域は、好ましくは、この遺伝子の5’UTRに対応する。この5’UTRは、位置chr16:172,847-172,912;66nt;RefSeq:NM_000517.4に対応する。
【0133】
さらに特に、本明細書中に記載する細胞の少なくとも1つのαグロビン遺伝子中に含まれる機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子は、前記αグロビン遺伝子の5’領域中に、第1イントロン(IVS1)中に、及び/又は第2イントロン(IVS2)中に、好ましくは前記αグロビン遺伝子の5’UTR中に及び/又は近位プロモーター中に及び/又は第2イントロン(IVS2)中に、より好ましくは前記αグロビン遺伝子の5’UTR中に及び/又は近位プロモーター中に又は第2イントロン(IVS2)中に含まれうる。
【0134】
HBA1(ヘモグロビンサブユニットα1)ヒト遺伝子を考慮する場合、第1イントロン(IVS1)は、この遺伝子の第1エクソンと第2エクソンの間に含まれる117ヌクレオチドに対応しうる。この領域は、位置chr16:176,812-176,928;117nt;RefSeq:NM_000558.4に対応する。
【0135】
HBA2(ヘモグロビンサブユニットα2)ヒト遺伝子を考慮する場合、第1イントロン(IVS1)は、この遺伝子の第1エクソンと第2エクソンの間に含まれる117ヌクレオチドに対応しうる。この領域は、位置chr16:173,008-173,124;117nt;RefSeq:NM_000517.4に対応する。
【0136】
HBA1(ヘモグロビンサブユニットα1)ヒト遺伝子を考慮する場合、第2イントロン(IVS2)は、この遺伝子の第2エクソンと第3エクソンの間に含まれる149ヌクレオチドに対応しうる。この領域は、位置chr16:177,134-177,282;149nt;RefSeq:NM_000558.4に対応する。
【0137】
HBA2(ヘモグロビンサブユニットα2)ヒト遺伝子を考慮する場合、第2イントロン(IVS2)は、この遺伝子の第2エクソンと第3エクソンの間に含まれる142ヌクレオチドに対応しうる。この領域は、位置chr16:173,330-173,471に対応する。142nt;RefSeq:NM_000517.4。
【0138】
本発明者らは実際に、同封の実施例において例証するように、非常に良好なInDelパーセンテージ(本文中でさらに定義する)ならびに高い導入遺伝子(GFP)発現が、β様グロビン遺伝子のゲノム編集がαグロビン遺伝子の選択された位置において生じる場合に得られることを予想外に決定した。
【0139】
特定の実施形態では、機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子を含む少なくとも1つのαグロビン遺伝子は、機能的αグロビンタンパク質をコードする遺伝子配列を発現しない。
【0140】
別の特定の実施形態では、少なくとも1つの導入遺伝子は、少なくとも2つのαグロビン遺伝子、好ましくは2つ未満のαグロビン遺伝子、特に、異なる染色体上にある少なくとも2つのαグロビン遺伝子中に含まれる。
【0141】
したがって、特定の実施形態では、本明細書中に記載する細胞は、そのゲノム中に含まれるそのαグロビン遺伝子の少なくとも1つにおいて、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の転写を可能にする及び/又はその転写を増強する内因性配列、特にプロモーターの制御下にある機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子、
α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つのαグロビン遺伝子;及び
前記αグロビン遺伝子の5’領域中に、第1イントロン(IVS1)中に、及び/又は第2イントロン(IVS2)中に、特に、前記αグロビン遺伝子の5’UTR中に及び/又は近位プロモーター中に及び/又は第2イントロン(IVS2)中に、好ましくは、前記αグロビン遺伝子の5’UTR中に又は近位プロモーター中に又は第2イントロン(IVS2)中に含まれる機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子を含む。
【0142】
特定の実施形態によれば、本発明に従った細胞は、前記HSCのゲノム中に含まれる少なくとも1つのαグロビン遺伝子が、α1グロビン遺伝子及び/又はα2グロビン遺伝子であり、機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子が、5 ’非翻訳領域(5’UTR)中に又はイントロン中に含まれ、特に前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の5’非翻訳領域(5’UTR)中に又は第2イントロン(IVS2)中に含まれるようにする。
【0143】
本発明はまた、本明細書中に記載するように遺伝子改変幹細胞に起源を持つ、好ましくは精製された血液細胞又は赤芽球細胞に関する。
【0144】
「に起源を持つ」により、それは、細胞分化の過程に続いて、遺伝子改変幹細胞が血液細胞又は赤芽球細胞に分化していることを意味する。
【0145】
改変幹細胞は、特に、HSC及びESCからなる群より選択され、好ましくはHSCである。好ましい実施形態では、本明細書中に記載する血液細胞は、造血系からの細胞である。
【0146】
HSCは、2つの型の前駆細胞に、即ち、骨髄前駆細胞中で又はリンパ球前駆細胞中で分化することができる。骨髄前駆細胞は巨核球、血栓細胞、赤血球、マスト細胞、骨髄芽球、好塩基球、好中球、好酸球、単球、及びマクロファージに分化するが、リンパ前駆細胞はナチュラルキラー細胞(NK)、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、及び形質細胞に分化することができる。
【0147】
したがって、本明細書中に記載する「血液細胞」は、リンパ前駆細胞、骨髄前駆細胞、巨核球、血小板、赤血球、マスト細胞、骨髄芽細胞、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、天然キラー細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、及び血漿細胞からなる群より選択することができる。
【0148】
HSC及びリンパ前駆細胞及び骨髄前駆細胞は導入遺伝子を発現しないであろうが、しかし、依然として有用である。なぜなら、それらは、そのようにすることができる細胞に分化することができるためである。
【0149】
好ましい実施形態では、本明細書中に記載する血液細胞は、巨核球、血小板、赤血球、マスト細胞、骨髄芽球、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、及び形質細胞からなる群より選択される。
【0150】
導入遺伝子
【0151】
本明細書中に記載する導入遺伝子は、少なくとも1つのβ様グロビンタンパク質及び/又は少なくとも1つのβ様グロビンリボ核酸をコードし、特に、少なくとも1つの機能的β様グロビンタンパク質をコードする。
【0152】
本発明に従ったβ様グロビン遺伝子は、イプシロングロビン(ε)遺伝子、ガンマGグロビン(Gγ)遺伝子、ガンマAグロビン(Aγ)遺伝子、デルタグロビン(δ)遺伝子、及びベータグロビン(β)遺伝子からなる群より選択される遺伝子を指す。特に、本発明に従ったβ様グロビン遺伝子は、βグロビン遺伝子である。
【0153】
したがって、本発明に従ったβ様グロビンタンパク質は、ε-グロビンタンパク質、G-γ-グロビンタンパク質、A-γ-グロビンタンパク質、δ-グロビンタンパク質、及びβグロビンタンパク質からなる群より選択されるタンパク質を指す。特に、本発明に従ったβ様グロビンタンパク質は、βグロビンタンパク質である。
【0154】
本発明に従ったβ様グロビン遺伝子は、天然又は人工起源のβ様グロビン遺伝子を包含する。人工起源のβ様グロビン遺伝子により、当業者に周知の人工遺伝子合成技術により得られるβ様グロビン遺伝子を意味する。
【0155】
本明細書中に記載する細胞中で機能的β様グロビンタンパク質をコードする導入遺伝子は、内因性配列の制御下にあり、前記導入遺伝子を含むαグロビン遺伝子の転写を可能にする及び/又はその転写を増強する。
【0156】
αグロビン遺伝子の転写を可能にする及び/又はその転写を増強する内因性配列は、αグロビン遺伝子の内因性プロモーターより又は内因性エンハンサーより選択されうる。
【0157】
αグロビン遺伝子の内因性プロモーターは、αグロビン遺伝子の転写を開始する配列である。
【0158】
αグロビン遺伝子の内因性エンハンサーは、αグロビン遺伝子の転写の可能性を増加させるためにアクチベータータンパク質により結合されることができるαグロビン遺伝子の短い配列である。
【0159】
特定の実施形態では、本発明の細胞中で機能的β様グロビンタンパク質をコードする導入遺伝子は、前記導入遺伝子を含むαグロビン遺伝子の内因性プロモーターの制御下にある。
【0160】
一実施形態では、本発明に従った細胞は、そのαグロビン遺伝子の1つにおいて1つの導入遺伝子だけを含むことができ、その導入遺伝子は、本明細書中に記載する1つの機能的β様グロビンタンパク質だけをコードする。
【0161】
別の実施形態では、本発明に従った細胞は、そのαグロビン遺伝子の1つにおいて1つの導入遺伝子だけを含むことができ、その導入遺伝子は、本明細書中に記載する1を上回る機能的β様グロビンタンパク質、特に2つ、3つ、又は4つの機能的β様グロビンタンパク質、好ましくは2つの機能的β様グロビンタンパク質をコードする。
【0162】
本明細書中に記載するように、導入遺伝子によりコードされる1を上回る機能的β様グロビンタンパク質がある場合、機能的β様グロビンタンパク質は、互いに同一である又は異なりうる。
【0163】
さらに、本発明に従った細胞中に1を上回るβ様グロビン導入遺伝子がある場合、前記導入遺伝子は、独立的に同じ又は異なるαグロビン遺伝子中にありうるが、同じαグロビン遺伝子中にある場合、上に記載するように、αグロビン遺伝子の同じ又は異なる部分中にありうる。
【0164】
別の実施形態では、本発明に従った細胞は、そのαグロビン遺伝子の少なくとも1つ、特に2つ、3つ、又は4つの導入遺伝子中に1を上回る導入遺伝子を含むことができる。
【0165】
この実施形態によれば、異なる導入遺伝子は、独立的に1つの導入遺伝子から別の導入遺伝子への同じ又は異なる機能的β様グロビンタンパク質をコードすることができる。
【0166】
また、この実施形態によれば、異なる導入遺伝子は、独立的に、本明細書中に記載するように、1つ、又は1を上回る機能的β様グロビンタンパク質をコードすることができる。それらは、好ましくは、1つの機能的β様グロビンタンパク質だけをコードする。
【0167】
特に、全ての導入遺伝子は、1つの機能的β様グロビンタンパク質だけをコードすることができる。あるいは、少なくとも1つ、特に全ての導入遺伝子は、1を上回る、特に2つ、3つ、又は4つ、より好ましくは2つの機能的β様グロビンタンパク質をコードすることができる。
【0168】
さらに、異なる導入遺伝子によりコードされる機能的β様グロビンタンパク質は、独立的に同一でありうる又は異なりうる。
【0169】
さらにこの実施形態によれば、本発明に従った細胞中の導入遺伝子は、独立的に同じ又は異なるαグロビン遺伝子中にありうるが、同じαグロビン遺伝子中にある場合、αグロビン遺伝子の同じ又は異なる部分中にありうる。
【0170】
本明細書中に記載する導入遺伝子は、任意の型の機能的β様グロビンタンパク質をコードすることができる。
【0171】
導入遺伝子をコードする機能的β様グロビンタンパク質は、野生型形態又はコドン最適化形態でありうる。そのような最適化配列は、有利に、より高い導入遺伝子発現及びタンパク質産生を可能にすることができる。
【0172】
特定の実施形態では、本明細書中に記載する導入遺伝子は、15kbよりも下の、さらに特に10kbよりも下の、好ましくは8kbよりも下のサイズを有する。
【0173】
特定の実施形態では、本明細書中に記載する導入遺伝子は、目的の別の遺伝子をさらに含み、前記の目的の他の遺伝子は以下とは異なる:
-機能的αグロビンタンパク質をコードする遺伝子;及び
-機能的β様グロビン遺伝子をコードする遺伝子。
【0174】
本発明に従った造血幹細胞(HSC)の調製のための方法
【0175】
本発明に従った改変HSCの調製のための方法は、エクスビボ又はインビトロである。
【0176】
本発明は、実際に、特に、本発明に従ったHSCのエクスビボ又はインビトロ調製のための方法に関し、この方法は、以下の工程を含む:
(i)以下による部位特異的遺伝子操作システムを前記幹細胞に提供すること:
(a)前記幹細胞に(1)選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸、又は(2)選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイドペプチド含有エンドヌクレアーゼを提供することであって、前記標的部位は、前記HSCのゲノム中に含まれる内因性αグロビン遺伝子中に位置付けられる;
(b)少なくとも1つのガイド核酸が工程(a)(1)で提供されている場合、前記幹細胞に、標的部位特異性を欠く少なくとも1つのエンドヌクレアーゼをさらに提供すること;及び
(c)前記幹細胞に、機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子をさらに提供すること;
及び
(ii)工程(i)で得られた幹細胞を培養して、機能的β様グロビンタンパク質をコードする前記の少なくとも1つの導入遺伝子が、前記HSCのゲノム中の前記の選択された標的部位に導入され、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の転写を可能にする及び/又はその転写を増強する内因性配列の制御下に、特に前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の内因性プロモーターの制御下に置かれるようにする。
【0177】
本明細書中に記載する標的部位は、上で定義したαグロビン遺伝子のドメイン中に存在することができ、前記ドメインは、αグロビン遺伝子の5’領域、エクソンドメイン、イントロンドメイン、及び3’UTRドメインからなる群より、特に、前記αグロビン遺伝子の5’領域、エクソンドメイン、及びイントロンドメインからなる群より、さらに特に、前記αグロビン遺伝子の5’UTR、近位プロモーター、及びイントロンドメインからなる群より選択される。
【0178】
好ましい実施形態では、前記標的部位は、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の5’領域中に及び/又はイントロン中に、好ましくは、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の5’非翻訳領域(5’UTR)中に及び/又は近位プロモーター中に及び/又は第2イントロン(IVS2)中に位置付けられる、特に、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の5’非翻訳領域(5’UTR)中に又は近位プロモーター中に又は第2イントロン(IVS2)中に含まれる。
【0179】
この方法の特定の実施形態では、使用するHSCは、βヘモグロビン異常症表現型を提示する、即ち、健常な対応する細胞と比較し、β様グロビンの減少した発現を提示する。特に、本発明に従って遺伝子改変されたHSC細胞は、βサラセミア又は鎌状赤血球症の表現型、特にβサラセミアの表現型を提示する。
【0180】
特定の実施形態では、本明細書中に記載する方法の工程(i)(a)は、前記幹細胞に、選択された標的部位に結合するガイドペプチド含有エンドヌクレアーゼを提供することとして定義する。本発明によれば、前記標的は、前記HSCのゲノム中に含まれる内因性αグロビン遺伝子中に位置付けられる。そのようなものとして、本明細書中で使用する用語「選択された標的部位」は、他に定義しない場合、細胞のゲノム中の内因性αグロビン遺伝子中に位置付けられる標的を指す。
【0181】
別の実施形態では、本明細書中に記載する方法の工程(i)(a)は、前記幹細胞に、選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸(又はgRNA)を提供することとして定義する。
【0182】
gRNAは、80ヌクレオチドの定常領域及びワトソン-クリック塩基対形成を介してDNA標的に結合する短い20ヌクレオチドの標的特異的配列(gRNA配列の5’中)を伴う標的特異的な短い一本鎖RNA配列である。
【0183】
特定の実施形態では、本明細書中に記載する方法の工程(i)(a)は、前記幹細胞に、同じグロビン遺伝子ドメイン中の2つの異なる標的部位に結合する2つのガイド核酸(又はgRNA)を提供することとして定義する。
【0184】
上で定義するように、本明細書中に記載する方法の工程(i)(b)は、本明細書中に記載する前記方法の工程(i)(a)が、前記幹細胞に、選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸(又はgRNA)を提供することとして定義される場合にだけ存在する。
【0185】
本明細書中に記載するエンドヌクレアーゼは、標的部位特異性を欠くとして定義され、即ち、前記エンドヌクレアーゼは、本明細書中に記載するHSCのゲノム中の特定の標的部位をそれ自体により認識することができない。
【0186】
特定の標的部位でDNAを特異的に切断するために、そのようなエンドヌクレアーゼは、選択された標的部位に又はガイドペプチドに結合するガイド核酸に会合する必要がある。本発明によれば、及び上で言及するように、選択された標的部位は、前記HSCのゲノム中に含まれる内因性αグロビン遺伝子中に位置付けられる。ガイドペプチドに会合される場合、ガイドペプチド含有エンドヌクレアーゼが本明細書中で言及される。
【0187】
ガイドペプチド又はガイド核酸(gRNA)により標的部位にガイドされる場合、本明細書中に記載するエンドヌクレアーゼは、前記標的部位において一本鎖切断又は二本鎖切断を導入することができる。
【0188】
特に、選択された標的部位に結合する単一のガイド核酸分子(gRNA)又は選択された標的部位に結合するガイドペプチド含有エンドヌクレアーゼが、本明細書中に記載する方法の工程(i)(a)において提供される場合、次にガイドペプチド含有エンドヌクレアーゼ又は本明細書中で定義される方法の工程(i)(b)のエンドヌクレアーゼのエンドヌクレアーゼ部分は、標的部位に二本鎖切断を導入することができる。
【0189】
別の実施形態では、グロビン遺伝子のドメイン中の2つの異なる標的部位を認識することができる2つのガイド核酸分子(gRNA)が、工程(i)(a)において提供される場合、標的部位特異性を欠く1つ又は2つのエンドヌクレアーゼを、本明細書中に記載する方法の工程(i)(b)において提供することができ、1つ又は2つのエンドヌクレアーゼは、2つの異なる標的部位に一本鎖切断を導入することができる。
【0190】
本明細書中に記載する方法の工程(i)(a)、(i)(b)、及び(i)(c)は、独立的に同時に又は互いに別々に実現することができる。好ましい実施形態では、選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸又は工程(i)(a)の選択された標的部位に結合するガイドペプチド含有エンドヌクレアーゼ、工程(i)(b)の標的部位特異性を欠く少なくとも1つのエンドヌクレアーゼ及び工程(i)(c)の導入遺伝子を、前記幹細胞に同時に提供する。
【0191】
インビトロ、エクスビボ、又はインビボのタンパク質及び核酸分子を細胞に導入するための方法は、当技術分野において周知である。細胞において核酸(通常はベクター中に存在する)又はタンパク質を導入するための従来の方法は、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、及びソノポレーションを含む。物理的、機械的、生化学的アプローチに基づく他の技術、例えばマグネトフェクション、オプトインジェクション、オプトポレーション、光学的トランスフェクション、及びレーザーフェクションなども言及することができる(Stewart MP et al., Nature, 2016を参照のこと)。
【0192】
特定の実施形態では、工程(i)(b)の標的部位特異性を欠くエンドヌクレアーゼは、RNAガイドエンドヌクレアーゼである。特に、このRNAガイドエンドヌクレアーゼはgRNAにより向けられ、標的部位内に一本鎖又は二本鎖切断を導入することができる。
【0193】
本明細書中に記載するRNAガイドエンドヌクレアーゼは、特に、クラスター化された、規則的に間隔が空けられた短いパリンドロームリピート(CRISPR)関連タンパク質(Cas)、特にCRISPR関連タンパク質9(Cas9)又はラクノスピラ、アシダミノコッカス、プレボテラ、及びフランシセラ1(Cpf1)におけるCRISPR関連エンドヌクレアーゼでありうる。
【0194】
特定の実施形態では、標的部位特異性を欠く少なくとも1つのエンドヌクレアーゼは、クラスター化された、規則的に間隔が空けられた短いパリンドロームリピート(CRISPR)関連ヌクレアーゼ、特にCRISPR関連タンパク質9(Cas9)である。
【0195】
ゲノム編集用のCRISPR-Casシステムは、標的化のためにタンパク質-DNA相互作用を使用する他のシステムの代わりに、操作RNA及び標的DNA部位の間の単純な塩基対形成ルールを使用する特定のシステムである。
【0196】
CRISPR-Cas RNAガイドヌクレアーゼは、侵入するプラスミド及びウイルスから防御するために細菌中で進化した適応免疫システムから由来する。
【0197】
第1の実施形態によれば、それは、侵入する核酸の短い配列がCRISPR遺伝子座中に組み入れられる機構にある。それらは次に、転写され、CRISPR RNA(crRNA)に処理され、トランス活性化crRNA(tracrRNA)と一緒に、CRISPR関連(Cas)タンパク質と複合体を形成し、核酸の間のワトソン-クリック塩基対形成を通じたCasヌクレアーゼによるDNA切断の特異性を指示する。crRNAは、「プロトスペーサー」配列として公知の可変配列を持つ。crRNAのプロトスペーサーにコードされた部分が、相補的な標的DNA配列を、それらが「プロトスペーサー隣接モチーフ」(PAM)として公知の短い配列に隣接している場合、切断するようにCas9を向ける。CRISPR中に組み入れられたプロトスペーサー配列は切断されない。なぜなら、それらはPAM配列の隣に存在しないためである(Maliら(Nat. Methods, 2013 Oct;10(10):957-63);及びWrightら(2016 Jan. 14;164(1-2):29-44 Cell)を参照のこと)。
【0198】
この第1の実施形態によれば、本明細書中に記載するガイドRNA(gRNA)は、単一のRNAに対応するか(次にsgRNAと呼ばれる)、又はcrRNA及びtracrRNAの融合物に対応する。本文中で使用される用語「ガイドRNA」又は「gRNA」は、特定の形態が具体的に示されている場合を除き、これらの2つの形態を指定する。
【0199】
この実施形態に従った、ならびにcrRNA及びtracrRNAの融合物に対応するgRNAにおいて、ヌクレオチド1~32は天然crRNAであり、ヌクレオチド37~100は天然tracrRNAであり、ヌクレオチド33~36は、2つのgRNAの間のGAAAリンカーに対応する(Jinek et al.(2012)Science 337:816-821及びCong et al.(2013)Science; 339(6121): 819-823を参照のこと)。
【0200】
そのようなgRNAは有利に、CRISPR-Cas9システムにおいて使用される。
【0201】
gRNAは人工的であり、自然において存在しない。
【0202】
gRNAの配列は、上に示すように、その標的化DNA配列に相補的なRNA配列である。
【0203】
本明細書中に記載する、好ましいgRNAは、配列番号1~配列番号32からなる群より選択される核酸配列に相補的な核酸配列を含むgRNAの間で選択することができる。本明細書中に記載する特に好ましいgRNAは、配列番号1~配列番号14、配列番号31及び配列番号32からなる群より選択される核酸配列に相補的な核酸配列を含む、より好ましくは、配列番号3、配列番号4及び配列番号7~配列番号16からなる群より選択される核酸配列に相補的な核酸配列を含むgRNAの間で選択することができる。
【0204】
さらに特に、本明細書中に記載するgRNAは、配列番号3、配列番号4及び配列番号7~配列番号10からなる群より選択される核酸配列に相補的な核酸配列を含むgRNAの間で選択する。
【0205】
特に、本発明の方法において使用されるgRNAは、配列番号7又は8、特に配列番号7の核酸配列に相補的な配列を有するものである。
【0206】
他のgRNA(異なるPAMを有する異なるCas又はCas9ヌクレアーゼと使用することができる)は、本発明に従った方法において設計及び使用することができる。
【0207】
20ヌクレオチドの前記核酸配列は、完全なgRNA配列の5’末端の最初の20ヌクレオチドに対応し、本発明の第1の実施形態では、PAM配列、好ましくはPAM配列NGGに直接的に先行する、即ち、PAMシグナルは配列表の完全な配列のヌクレオチド21~23である。
【0208】
PAM配列において、Nはアデニン(A)、シトシン(C)、チミン(T)、又はグアニン(G)でありうる。
【0209】
実施例において例証するように、HBA1及び/又はHBA2の5’領域(5’UTR又は近位プロモーター)又はイントロン(IVS1又はIVS2)のいずれかを標的化する多くの設計されたgRNAの間で、本発明者らは、Cas9誘発性ダブルストレインブレイク(DSB)によって陽性のdDNA組込み事象がもたらされない場合に、対立遺伝子KOを生成する可能性を最小限にするために特定のgRNAを選択した。
【0210】
別の実施形態によれば、機構は、トランス活性化crRNA(tracrRNA)が使用されないことを除き、上で言及する第1の実施形態の1つと同様である。実際に、この実施形態では、CRISPR RNA(crRNA)は、CRISPR関連(Cas)タンパク質と複合体を形成し、核酸間のワトソン-クリック塩基対形成を通じたCasヌクレアーゼによるDNA切断の特異性を指示する。この実施形態によれば、Casタンパク質は有利にはCpf1である。実際に、例えばCpf1とCas9の間の重要な違いは、Cpf1が、tracrRNAを要求しない単一のRNAガイドヌクレアーゼであることである。
【0211】
Cpf1酵素は細菌フランシセラ・ノビシダから単離された。Cpf1タンパク質は、Cas9のそれぞれのヌクレアーゼドメインに遠く関係している、予測されるRuvC様エンドヌクレアーゼドメインを含む。しかし、Cpf1は、それがHNH(Cas9のRuvC様ドメイン内に存在する第2のエンドヌクレアーゼドメイン)を欠くという点でCas9とは異なる。Cpf1は、ガイドの5’側でTリッチPAM、TTTNを認識し、それによって、ガイドの3’側でNGG PAMを使用するCas9とは異なる。
【0212】
PAM配列TTTNにおいて、Nは、アデニン(A)、シトシン(C)、チミン(T)、又はグアニン(G)でありうる。
【0213】
本実施形態によれば、本明細書中に記載するガイドRNA(gRNA)は、唯一のcrRNAに対応し、tracrRNAと融合する必要はない。そのようなgRNAは、有利には、CRISPR-Cpf1システムにおいて使用される。
【0214】
特定の実施形態によれば、本明細書中で定義する方法の工程(i)(a)の選択された標的部位に結合するガイドペプチド含有エンドヌクレアーゼは、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)又はジンクフィンガーヌクレアーゼである。
【0215】
TALENs技術は、特異的DNA結合ドメインに融合された非特異的DNA切断ドメイン(ヌクレアーゼ)を含む。特異的DNA結合ドメインは、宿主植物細胞において遺伝子の転写を変化させるためにキサントモナス細菌により分泌されるタンパク質である転写アクチベーター様エフェクター(TALE)から由来する高度に保存されたリピートで構成されている。DNA切断ドメイン又は切断ハーフドメインは、例えば、Fok Iの種々の制限エンドヌクレアーゼ及び/又はホーミングエンドヌクレアーゼ(例えば、Fok IタイプIIS制限エンドヌクレアーゼ)から得ることができる(Wright et al.(Biochem. J. 2014 Aug. 15;462(1):15-24)を参照のこと)。
【0216】
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)技術は、DNA切断ドメイン(ヌクレアーゼ)へのジンクフィンガーDNA結合ドメインの融合により生成される人工制限酵素の使用にある。ジンクフィンガードメインは、所望のDNA配列を特異的に標的化し、それによって、関連するヌクレアーゼが複雑なゲノム内の固有の配列を標的化することが可能になる。
【0217】
ジンクフィンガーDNA結合ドメインは、2フィンガーモジュールの鎖を含み、各々がDNAの固有の六量体(6bp)配列を認識する。2フィンガーモジュールを縫い合わせてジンクフィンガータンパク質を形成する。TALENs技術におけるように、DNA切断ドメインはFok Iのヌクレアーゼドメインを含む(Carroll D, Genetics, 2011 Aug; 188(4): 773-782;Urnov F.D. Nat Rev Genet. (9):636-46, (2010))。
【0218】
本明細書中に記載する方法の工程(i)(c)の機能的β様グロビンタンパク質をコードする導入遺伝子に関して、前記導入遺伝子は、好ましくは、プロモーターの制御下にはなく、及び/又は提供された導入遺伝子は、 幹細胞のゲノム中に挿入されないプロモーターの制御下にある。
【0219】
実際に、以前に示したように、本明細書中に記載し、以前に定義した方法から得ることができる遺伝子改変HSCは、αグロビン遺伝子中に含まれる機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子が、それが挿入される前記αグロビン遺伝子の転写を可能にする及び/又はその転写を増強する内因性配列、特にプロモーターの制御下にあるようにする。
【0220】
本発明に従ったHSCのαグロビン遺伝子の転写を可能にする及び/又はその転写を増強する内因性配列、特にプロモーターの使用によって、有利に、上で言及するように、細胞中での導入遺伝子の高度で組織特異的な転写が可能になる。
【0221】
本明細書中に記載する方法の工程(ii)において、工程(i)で得られた幹細胞を、前記導入遺伝子が前記HSCのゲノム中の前記の選択された標的部位で導入されるように培養する。
【0222】
特定の実施形態では、本発明に従ったHSCのエクスビボ又はインビトロ調製のための方法は、以下の工程を含む:
(i)前記幹細胞に、以下による部位特異的遺伝子操作システムを提供すること:
(a)前記幹細胞に、選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸を提供することであって、前記標的部位は、前記HSCのゲノム中に含まれるαグロビン遺伝子中に位置付けられる;
(b)前記幹細胞に、標的部位特異性を欠く少なくとも1つのエンドヌクレアーゼをさらに提供すること;及び
(c)前記幹細胞に、機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子をさらに提供すること;
及び
(ii)工程(i)の終了時に得られた幹細胞を、前記の少なくとも1つの導入遺伝子が前記HSCのゲノム中の前記の選択された標的部位で導入されるように培養すること。
【0223】
以前に言及したように、少なくとも1つのαグロビン遺伝子を、好ましくは、α1グロビン遺伝子及びα2グロビン遺伝子からなる群より選択する。
【0224】
特定の実施形態では、本発明は、本発明に従ったHSCのエクスビボ又はインビトロ調製のための方法に関し、以下の工程を含む:
(i)前記幹細胞に、以下による部位特異的遺伝子操作システムを提供すること:
(a)前記幹細胞に、選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸を提供することであって、前記標的部位は、前記HSCのゲノム中に含まれる内因性αグロビン遺伝子の5’領域中に及び/又は第2イントロン(IVS2)中に位置付けられる;
(b)前記幹細胞に、少なくとも1つのクラスター化された、規則的に間隔が空けられた短いパリンドロームリピート(CRISPR)関連ヌクレアーゼ、特にCRISPR関連タンパク質9(Cas9)をさらに提供すること;及び
(c)前記幹細胞に、機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子をさらに提供すること;
及び
(ii)工程(i)の終了時に得られた幹細胞を、前記導入遺伝子が前記HSCのゲノム中の前記の選択された標的部位で導入されるように培養すること。
【0225】
特定の実施形態では、本発明は、本発明に従ったHSCのエクスビボ又はインビトロ調製のための方法に関し、以下の工程を含む:
(i)前記幹細胞に、以下による部位特異的遺伝子操作システムを提供すること:
(a)前記幹細胞に、選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸を提供することであって、前記標的部位は、前記HSCのゲノム中に含まれる内因性αグロビン遺伝子の5’領域中に及び/又は第2イントロン(IVS2)中に位置付けられる;
(b)前記幹細胞に、少なくとも1つのクラスター化された、規則的に間隔が空けられた短いパリンドロームリピート(CRISPR)関連ヌクレアーゼ、特にCRISPR関連タンパク質9(Cas9)をさらに提供すること;及び
(c)前記幹細胞に、機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子をさらに提供すること;
及び
(ii)工程(i)の終了時に得られた幹細胞を、前記導入遺伝子が前記HSCのゲノム中の前記の選択された標的部位で導入されるように培養して、
選択された標的部位に結合する前記の少なくとも1つのガイド核酸が、配列番号1~配列番号32からなる群より選択される、好ましくは、配列番号1~配列番号14、配列番号31及び配列番号32からなる群より、さらに特に、配列番号3、配列番号4、及び配列番号7~配列番号16からなる群より選択される核酸配列に相補的な核酸配列中にあるgRNAからなる群より選択される。
【0226】
医薬組成物
【0227】
本発明はまた、医薬的に許容可能な培地中に本明細書中に記載する少なくとも1つの遺伝子改変HSC及び/又は本明細書中に記載する少なくとも1つの血液細胞(又は赤芽球細胞)を含む医薬組成物に関する。
【0228】
本明細書中に記載する医薬的に許容可能な培地は、哺乳動物個体への投与のために特に適切である。
【0229】
「医薬的に許容可能な培地」は、医薬組成物を製剤化する際に当業者に公知の標準的な医薬的に許容可能な培地、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、水性エタノール、又はグルコース、マンニトール、デキストラン、プロピレングリコール、油(例、植物油、動物油、合成油など)、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、ゼラチン、又はポリソルベート80などの溶液のいずれかを含む。
【0230】
本明細書中に記載する医薬組成物は、しばしば、1つ以上の緩衝液(例、中性緩衝生理食塩水又はリン酸緩衝生理食塩水);糖(例、グルコース、マンノース、ショ糖、又はデキストラン);マンニトール;タンパク質;ポリペプチド又はアミノ酸、例えばグリシンなど;抗酸化剤(例、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソールなど);静菌剤;キレート剤、例えばEDTA又はグルタチオンなど;製剤をレシピエントの血液と等張、低張、又は弱高張にする溶質;懸濁剤;増粘剤及び/又は保存剤をさらに含む。
【0231】
無論、担体の型は、典型的には、投与の様式に依存して変動しうる。
【0232】
一実施形態では、本明細書中に記載する細胞は、それを必要とする個体におけるヘモグロビン異常症、特にβサラセミアに関連付けられる状態を処置する際に有効である治療化合物との組み合わせにおいて組成物中で使用することができる。例えば、本明細書中に記載する細胞は、日和見感染又は個体において既に進行中の感染を予防するために、抗菌性化合物、抗真菌性化合物、又は抗ウイルス性化合物と投与することができる。例証的に、血小板は、血小板数を安全なレベルに回復するための一時的な手段として、本明細書中に記載する組成物中で、本明細書中に記載する細胞と一緒に投与することができる。
【0233】
一実施形態では、本明細書中に記載する細胞は、本明細書中に記載する組成物において、上で定義する他のHSC又は血液細胞との組み合わせにおいて使用することができるが、本明細書中に記載するように改変することはできない。
【0234】
一実施形態では、本明細書中に記載する細胞は、投与された細胞の治療効果を増強する他の薬剤及び化合物との組み合わせにおいて、本明細書中に記載する組成物中で使用することができる。
【0235】
別の実施形態では、本明細書中に記載する細胞は、本明細書中に記載するHSC又は前駆細胞の分化を増強する治療用化合物と、本明細書中に記載する組成物中で投与することができる。これらの治療用化合物は、HSCの及び/又は内因性である前駆細胞の、及び/又は治療の一部として個体に投与されるものの分化及び動員を誘導する効果を有する。
【0236】
医薬としてのそれらの使用のための遺伝子改変細胞
【0237】
本発明の別の目的は、医薬としてのその使用のための、本発明に従ったHSC、又は本発明に従った血液細胞、又は本発明に従った医薬組成物である。
【0238】
本明細書中に記載する細胞を、任意の適切な経路、例えば静脈内、心臓内、髄腔内、筋肉内、関節内又は骨髄内注射などにより、治療的な利益を提供するのに十分な量で対象中に投与する。
【0239】
治療効果を達成するために必要とされる細胞の量は、特定の目的のための従来の手順に従って経験的に決定する。
【0240】
一般的に、治療目的のために細胞を投与するために、細胞を薬理学的に有効な用量で与える。
【0241】
「薬理学的に有効な量」又は「薬理学的に有効な用量」により、特に障害又は疾患の状態を処置するために(障害又は疾患の1つ以上の症状又は徴候を低下又は排除することを含む)、所望の生理学的効果を産生するのに十分な量又は所望の結果を達成することが可能な量を意味する。
【0242】
例証的には、βサラセミアを患う患者への細胞の投与によって、投与前の患者におけるβ様グロビンの量、及び従って、ヘモグロビンの量と比較した場合に、患者におけるβ様グロビンの量、及び従って、ヘモグロビンの量が増加した場合に治療的な利益が提供される。
【0243】
細胞は、当技術分野において周知の方法により投与される。一実施形態では、投与は静脈内注入による。別の方法では、投与は骨髄内注射による。
【0244】
輸血される細胞の数は、因子、例えば性別、年齢、体重、疾患又は障害の型、障害の段階、細胞集団中での所望の細胞のパーセンテージ(例、細胞集団の純度)、及び治療的な利益を産生するために必要とされる細胞数などを考慮に入れる。
【0245】
一般的に、注入される細胞の数は、1.104~5.106個細胞/kg、特に1.105~10.106個細胞/kg、好ましくは5.105個細胞~約5.106個細胞/kg体重でありうる。
【0246】
本明細書中に記載する医薬組成物は、以前に言及したように、それを必要とする個体中への本明細書中に記載する細胞の投与のために使用することができる。
【0247】
細胞の投与は、単回投与又は連続投与を通じうる。連続投与が含まれる場合、異なる細胞数及び/又は異なる細胞集団を各々の投与のために使用してもよい。
【0248】
例証的に、第1の投与は、即時の治療的な利益ならびにより長期の効果を提供する本明細書中に記載する細胞又は細胞集団でありうるが、第2の投与は、第1の投与の治療的効果を延長させる長期の効果を提供する、本明細書中に記載する細胞を含む。
【0249】
本明細書中に記載する幹細胞、血液細胞、又は医薬組成物は、ヘモグロビン異常症の、特にβヘモグロビン異常症の処置において、特にそれを必要とする個体におけるβサラセミアの処置における使用のために使用することができる。
【0250】
特定の実施形態では、本明細書中に記載する幹細胞、血液細胞、又は医薬組成物は、それを必要とする個体における重症形態のβサラセミアであって、βサラセミアメジャーとしても知られているβサラセミアの処置において使用することができる。
【0251】
したがって、本発明のさらなる目的は、ヘモグロビン異常症の、特にβヘモグロビン異常症の処置におけるその使用するための、特にそれを必要とする個体におけるβサラセミア、特にβサラセミアメジャーの処置における使用のための本明細書中に記載する遺伝子改変HSC、又は本明細書中に記載する血液細胞、又は本明細書中に記載する医薬組成物である。
【0252】
それはまた、それを必要とする個体における、ヘモグロビン異常症の、特にβヘモグロビン異常症の処置のための、特にβサラセミアの、特にβサラセミアメジャーの処置における使用のための、それを必要とする前記個体への本明細書中に記載するHSC、本発明の血液細胞、及び/又は本明細書中に記載する医薬組成物の投与を含む方法として言及することができる。
【0253】
本発明はまた、それを必要とする個体におけるヘモグロビン異常症、特にβヘモグロビン異常症を処置するための、特にβサラセミア、特にβサラセミアメジャーを処置するための医薬の製造のための本明細書中に記載するHSC、本発明の血液細胞、及び/又は本明細書中に記載する医薬組成物の使用に関する。
【0254】
細胞における生理学的レベルのヘモグロビンの産生を回復するための方法
【0255】
本発明の別の目的は、β様グロビン発現、特にβグロビン発現が欠損している細胞中で、特に血液細胞中で、特に赤血球細胞中で生理学的レベルのヘモグロビンの産生を回復するためのインビトロ又はエクスビボの方法であって、少なくとも以下の工程を含む:
(i)細胞に、以下による部位特異的遺伝子操作システムを提供すること:
(a)前記細胞に、(1)選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸又は(2)選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイドペプチド含有エンドヌクレアーゼを提供すること、前記標的部位は、前記細胞のゲノム中に含まれる内因性αグロビン遺伝子中に位置付けられる;
(b)少なくとも1つのガイド核酸が工程(a)(1)で提供されている場合、前記細胞に、標的部位特異性を欠く少なくとも1つのエンドヌクレアーゼをさらに提供すること;及び
(c)前記細胞に、機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子をさらに提供すること;
(ii)工程(i)で得られた細胞を培養して、機能的β様グロビンタンパク質をコードする前記の少なくとも1つの導入遺伝子が、前記細胞のゲノム中の前記の選択された標的部位に導入され、前記の少なくとも1つのαグロビン遺伝子の転写を可能にする及び/又はその転写を増強する内因性配列の制御下に置かれるようにする; 及び
(iii)工程(ii)で得られた細胞を培養して、細胞のゲノム中に導入された機能的β様グロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子が、細胞の内因性転写システムにより転写されるようにする。
【0256】
特定の実施形態では、β様グロビン発現が、本発明に従って欠損している細胞における生理学的レベルのヘモグロビンの産生を回復するためのインビトロ又はエクスビボの方法の工程(i)及び(ii)は、上に記載するHSCの調製のための方法からの工程(i)及び(ii)と同じ様式で定義されうる。
【0257】
特に、「生理学的レベルのヘモグロビンの産生を回復する」は、本明細書中の方法を受けたHSCに起源を持つ細胞、特に赤血球細胞におけるヘモグロビンの産生のレベルが、βグロビン発現が欠損していない細胞中での、特に赤血球細胞中でのヘモグロビンの産生のレベルに対して同じである、又は少なくとも類似していることを意味する。
【0258】
特に、本明細書中の方法を受けた細胞における回復されたヘモグロビンのレベルは、βヘモグロビン異常症を患っていない、特にβサラセミアを患っていない個体からの細胞中での、特に血液細胞中での、さらに特に赤血球細胞中でのヘモグロビンのレベルと同じである、又は少なくとも非常に類似している。
【0259】
特に、本明細書中の生理学的レベルのヘモグロビンの産生を回復するための方法はまた、β様グロビン発現、特にβグロビン発現が欠損している細胞中での、特に血液細胞中での、さらに特に赤血球細胞中でのβ様グロビンの、特にβグロビンの生理学的レベルの産生を回復することを可能にする。
【0260】
特定の実施形態では、「生理学的レベルのβ様グロビンの産生を回復する」は、本明細書中の方法を受けた後の細胞中でのβ様グロビンの産生のレベルが、β様グロビン発現が欠損していない細胞中での、特に血液細胞中での、さらに特に赤血球細胞中でのβ様グロビンのレベルと同じである、又は少なくとも類似している。そのようなものとして、本明細書中の方法を受けた後の細胞中でのβ様グロビンのレベルは、本明細書中の方法を受ける前の細胞中でのβ様グロビンのレベルよりも有意に高い。
【0261】
特に、本明細書中の方法を受けた細胞中でのβ様グロビンの回復レベルは、βヘモグロビン異常症を患っていない、特にβサラセミアを患っていない個体からの細胞中での、特に血液細胞中での、さらに特に赤血球細胞中でのβ様グロビンのレベルと同じである、又は少なくとも類似している。
【0262】
β様グロビン発現が、本発明に従って欠損している細胞、特に血液細胞、さらに特に赤血球細胞は、β様グロビン発現レベルが、細胞中でのα/β様グロビン鎖の均衡、特にα/βグロビン鎖の均衡によって、遊離αグロビン鎖の蓄積及び沈殿に導かれるような細胞を意味する。
【0263】
そのようなものとして、本発明に従った遺伝子改変HSCに起源を持つ細胞中での、特に血液細胞中での、さらに特に赤血球細胞中でのβ様グロビン発現は、一度、細胞中のα/β様グロビン鎖の均衡によって、遊離αグロビン鎖の蓄積及び沈殿にもはや導かれない場合、欠損しているとはもはや考えられない。
【0264】
β様グロビン発現が欠損している細胞、特に血液細胞、さらに特に赤血球細胞の例は、ヘモグロビン異常症を患っている個体、特にβサラセミアを患っている個体からの細胞である。
【0265】
細胞中での生理学的レベルのヘモグロビンの産生をインビトロ又はエクスビボで回復するためのキット
【0266】
本発明はまた、上で定義する本発明の方法を実施するために必要なエレメントを提供するキットに関する。
【0267】
特に、本発明は、HSCを、回復した生理学的レベルのヘモグロビンの産生、特にβグロビン発現が欠損していない細胞、特に血液細胞、さらに特に赤血球細胞に類似しているヘモグロビンの産生のレベルを有する細胞、特に血液細胞、さらに特に赤血球細胞に分化させるための、HSCを遺伝子編集するためのキットに関する。
【0268】
したがって、本発明の別の目的は、細胞中での、特に血液細胞、さらに特に赤血球細胞中での生理学的レベルのヘモグロビンの産生をインビトロ又はエクスビボで回復するためのキットに関し、以下を含む:
(i)選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイド核酸又は選択された標的部位に結合する少なくとも1つのガイドペプチド含有エンドヌクレアーゼであって、前記標的部位は、 HSCのゲノム中に含まれる内因性αグロビン遺伝子中に位置付けられる;
(ii)少なくとも1つのガイド核酸がパート(i)として提供される場合、さらに、標的部位特異性を欠く少なくとも1つのエンドヌクレアーゼ;
(iii)機能的β様グロビンタンパク質、特に機能的βグロビンタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子。
【0269】
本発明に従ったキットを構成するエレメントのすべての単一の1つが、本文中で以前に詳述したようになりうる。
【0270】
特定の実施形態では、本発明に従ったキットは、追加で、上で言及する遺伝子編集を受けなければならないHSCを含む。
【0271】
本発明を、本明細書中の実施例に任意の方法で限定することなく、それらによりさらに例証する。
【0272】
実施例
【0273】
実施例1:K562赤白血病細胞株におけるgRNAの設計及び検証
【0274】
本発明者らは、HBA1/2遺伝子の5’領域(5’UTR又は近位プロモーター)、3’非翻訳領域(3’UTR)、又はイントロンの1つ(IVS1又はIVS2)を標的化するいくつかのgRNAを設計した。
【0275】
プラスミドをコードするgRNA候補を、SpCas9(K562-Cas9)を構成的に発現する安定なK562細胞クローン中でヌクレオフェクトした。
【0276】
この実施例において使用するgRNA候補は、本文中で後に示す表中で表されるものである。
【0277】
さらに特に、K562(ATCC(登録商標)CCL-243)を、2mMグルタミンを含み、及び10%ウシ胎児血清(FBS、BioWhittaker、Lonza)、HEPES(10mM、LifeTechnologies)、ピルビン酸ナトリウム(1mM、LifeTechnologies)、ならびにペニシリン及びストレプトマイシン(各々100U/ml、LifeTechnologies)を添加したRPMI 1640培地(Gibco)中で維持した。K562-Cas9の安定なクローンを、spCas9を発現するレンチウイルスベクター(Addgene#52962)及びブラストサイジン耐性カセットを用いた感染により作製し、選択し、サブクローニングした。
【0278】
2.5×105個のK562-Cas9細胞を、SF Cell Line 4D-Nucleofectof Kitを伴うNucleofector Amaxa 4D(Lonza)を使用し、20μL容量中の200ngのgRNA含有ベクター(Addgene#53188)を用いてトランスフェクトした。
【0279】
ヌクレオフェクション後48時間に、細胞をペレット化し、DNAを、MagNA Pure 96 DNA及びViral NA Small Volume Kit(Roche)を使用して抽出した。50ngのゲノムDNAを使用し、KAPA2G Fast ReadyMix(Kapa Biosystem)を使用して、各々のgRNAの切断部位に及ぶ領域を増幅した。サンガーシーケンシング後、逆位及び欠失のパーセンテージ(InDel)を、ソフトウェアTIDE(Tracking of InDels by Decomposition - Brinkman et al. Nucleic Acids Res. 2014. 42(22):e168))により、ウェブサイトwww.tide.calculator.nkを使用して算出した。
【0280】
InDelは、ヌクレアーゼ活性により生成されたDNA末端の非相同末端結合(NHEJ)DNA修復により起こされる、ゲノム中での塩基の挿入又は欠失である。それは、Brinkmanら(Brinkman et al. Nucleic Acids Res. 2014. 42(22):e168))において十分に定義されている。したがって、InDelの結果が100%に近いほど、テストされるgRNAはより効率的である。
【0281】
【0282】
標的5’領域、特にHBAの5’UTR、3’UTR、IVS1及びIVS2(それぞれ、5’領域についての核酸配列の配列番号8に相補的な配列を有するgRNA、IVS1についての核酸配列の配列番号28に相補的な配列を有するgRNA、及びIVS2についての核酸配列の配列番号32に相補的な配列を有するgRNA)について最も性能の高いgRNAを、ドナーDNA(dDNA)を含む導入遺伝子の組込み及び発現についてさらにテストした。dDNAとして、プロモーターレスGFPをコードするインテグラーゼ欠損レンチウイルスベクター(IDLV)を生成し、成功裏の標的化時には内因性αグロビンプロモーターの制御下にあると予想され、ピューロマイシン発現カセットによってdDNA含有細胞について濃縮する。
【0283】
dDNAの組込みをテストするために、K562-Cas9細胞を、インテグラーゼ欠損レンチウイルスベクター(IDLV)を用いて最初に形質導入し、24時間後に、選択されたgRNAをコードするプラスミドを用いてトランスフェクトした。ピューロマイシン選択後、高いパーセンテージのGFP陽性細胞が、テストした全てのgRNA及びdDNAについて観察されたが(データは示さず)、有意なGFP発現は、カセットのランダムな組込み時には検出されなかった(データは示さず)。
【0284】
本発明者らは次に、K562の赤芽球分化を誘導し、HBA及びHBB転写を上方調節し、GFP発現における同時増加を観察し、レポーターが実際に内因性グロビンプロモーターの転写調節下にあることを確認した(データは示さず)。最後に、全てのgRNA/dDNAの組み合わせについての正しい組込みを、単一のGFP+細胞クローンでのPCR及びサンガーシーケンシングにより検証した(データは示さず)。
【0285】
要約すると、本発明者らは、内因性赤芽球αグロビンプロモーターの制御下で的確で機能的な導入遺伝子の標的化組込みを達成するために、いくつかの効率的なgRNAを同定し、dDNAカセットを設計した。
【0286】
実施例2:請求項に係る方法を評価するためのモデルとしてのHBB-KO細胞の生成及びαグロビン欠失クローンの調製
【0287】
β0-thal表現型(HUDEP2β0-thal)を再現するヒト赤芽球前駆細胞株(HUDEP2)のHBB-KOクローンを生成し、本発明の戦略の治療効果を評価する。HUDEP2β0-thalを、HBB遺伝子のエクソン1を標的化するCas9:gRNA複合体のヌクレオフェクションにより生成した。編集された細胞をサブクローン化し、早期停止コドンを生成するHBBのエクソン1中での二対立遺伝子+1挿入を伴う単一の細胞クローンを増殖させた。分化後、βグロビン鎖又は成体ヘモグロビン四量体(HbA)の非存在をHPLCにより確認した。
【0288】
HUDEP2細胞及びHUDEP2β0細胞を、HBA遺伝子を標的化するCas9:gRNAリボ核タンパク質(RNP)を用いてヌクレオフェクトする。実施例1において得られた結果に基づき、HBAの5’領域を標的化する、核酸配列の配列番号8に相補的な配列を有するgRNAを、HUDEP2細胞において細胞当たり平均1つの欠失をもたらすその高い切断効率(~83%InDels)を考慮して選択する。
【0289】
HUDEP2及びHUDEP2 β0を、StemSpan無血清増殖培地(SFEM、Stemcell Technologies)、ペニシリン及びストレプトマイシン(各々100U/ml、LifeTechnologies)、50ng/mL組換えヒト幹細胞因子(SCF)、3IU/mLエポエチンアルファ(Epogen、Amgen)、0.4μg/mLデキサメタゾン、1μg/mLドキシサイクリンを含む維持培地中で培養する。
【0290】
条件当たり2×105個~2.5×105個の間の細胞を、P3 Primary Cell 4D-Nucleofectorキット(Lonza)を使用し、Cas9:gRNA(RNP、Synthegoから購入した改変シングルガイドRNA)複合体を用いてヌクレオフェクトする。ヌクレオフェクション後の5日に、ペレットを回収し、DNAを、MagNA Pure 96DNA及びViralNA Small Volume Kit(Roche)を使用して抽出する。50ngのゲノムDNAを使用し、KAPA2G Fast ReadyMix(Kapa Biosystem)を使用し、各々のgRNAの切断部位に及ぶ領域を増幅する。
【0291】
サンガーシーケンシング後、逆位及び欠失のパーセンテージ(InDel)を、実施例1において言及するように、ソフトウェアTIDE(分解によるInDelの追跡)により算出する。
【0292】
【0293】
この図中に例証するように、αグロビン欠失遺伝子型(ヘテロ(-α/αα)又はホモ(-α/-α)遺伝子型)のクローンが、HUDEP2及びHUDEP2β0の2つの型の細胞集団において効率的に生成される。
【0294】
実施例3:実施例2において生成された細胞中でのグロビンの均衡の観察
【0295】
実施例2において得られた細胞を、3工程プロトコールを使用して9日間にわたり分化させる。
【0296】
細胞を、1%L-グルタミン、ペニシリン、及びストレプトマイシン(各々100U/ml、LifeTechnologies)、330μg/mLヒトホロトランスフェリン、10μg/mL組換えヒトインスリン溶液、2IU/mlヘパリン、5%不活化ヒトAB血漿、3IU/mlエポエチンアルファ(Epogen、Amgen)、100ng/mL SCF、及び1μg/mLドキシサイクリンを添加したIscoveの改変ダルベッコ培地(IMDM)中で4日間にわたり維持する。
【0297】
細胞を次に、SCFの非存在において3日間にわたり、ならびにドキシサイクリン及びSCFを伴わずに残りの2日間にわたり培養する。
【0298】
全RNAを、RNeasy mini/micro Kit(QIAGEN、ドイツ)を使用して抽出し、製造元の指示に従ってDNaseを用いて処置する。グロビンmRNAの定量化のために、全RNAを、Transcriptor First Strand cDNA合成キット(Roche)を使用して逆転写し、qPCRを、Syber Green/Rox(Life Scientific)を使用して実施する。グロビン発現は、GAPDH転写物を参照として使用して標準化する(配列番号33:CTTCATTGACCTCAACTACATGGTTT、配列番号34:TGGGATTTCCATTGATGACAAG)。
【0299】
異なるグロビン転写物を測定する:HBG1及びHBG2(配列番号35:CCTGTCCTCTGCCTCTGCC;配列番号36:GGATTGCCAAAACGGTCAC)、HBB(配列番号37:GCAAGGTGAACGTGGATGAAGT;配列番号38:TAACAGCATCAGGAGTGGACAGA)、HBA(配列番号 番号:39 CGGTCAACTTCAAGCTCCTAA、配列番号40:ACAGAAGCCAGGAACTTGTC)、及びHBD(配列番号41:CAAGGGCACTTTTTCTCAG、配列番号42:AATTCCTTGCCAAAGTTGC)。
【0300】
【0301】
野生型HUDEP2細胞を用いて得られた結果も、コントロールとしてこの図(HUDEP2)中に表す。
【0302】
「HUDEP2 β0 DEL KO」として表す別のコントロールは、αグロビン発現の完全なノックアウトが実施されたHUDEP2細胞からなる。
【0303】
これらの細胞において、1つ又は2つのHBA遺伝子の欠失時でのαグロビン沈殿物(HPLCによる)の有意な低下(データは示さず)及びα/βグロビンの均衡の同時寛解が観察され、それらはHBA欠失効率と相関した(α/β様mRNA比率は、-α/αα細胞について6.4+/-2.4から2.1+/-0.6まで、-α/-α細胞については1.0+/-0.5に行く)。
【0304】
したがって、グロビンの均衡がこれらの細胞において有意に改善されている。
【0305】
実施例4:サラセミアHUDEP2 β0細胞におけるβグロビン導入遺伝子の組込みの観察
【0306】
しかし、HUDEP2 β0細胞について予想されるように、それらは、野生型細胞と比較してより低いヘモグロビンレベルを有し、それは望ましくない。
【0307】
この理由のため、HBA欠失を、内因性HBAプロモーターの制御下でβAS3グロビン導入遺伝子のノックインと組み合わせる。
【0308】
βAS3グロビン導入遺伝子は、Levasseurら(J Biol Chem. 2004 Jun 25;279(26):27518-24)において最初に記載された組換えヒト抗鎌状βグロビンポリペプチドである。
【0309】
HUDEP2 β0細胞を、以前に記載されているように、Cas9 RNPを用いて編集し、gRNA標的部位についての相同性アーム間にβ
AS3グロビン遺伝子及び構成的GFPレポーター(各々250bp)を含む、
図4A中に例証するAAV6(MOI 15000)ベクターを用いて4時間にわたり感染させる。gRNA 15.1を使用し、αグロビン遺伝子の5’UTR中にAAVを挿入した。
【0310】
ウイルスを洗浄した後、編集された細胞を維持培地中に2週間にわたり保持する。GFP発現を次に、フローサイトメトリーによりモニターする。なぜなら、AAV6トラップを安定的に組込んだ細胞が、ヌクレオフェクション後の14日にGFPレポーターを発現するためである。
【0311】
得られた結果を
図4B中に表し、GFPを発現する編集されたHSCの分画を示す。
【0312】
分化時に異なる細胞により発現されるβ様グロビンのパーセンテージも、HPLCにより測定する。
【0313】
クロマトグラフィー後、異なるグロビンに対応するピーク面積を測定する。ベータグロビン発現を、全ベータ様グロビン(ベータ+ガンマ+デルタ)のパーセンテージとして表す。
【0314】
【0315】
際立ったことに、HUDEP2β0-thal細胞における高いレベルのHBBタンパク質の発現が観察され、細胞当たり1つの組込みを伴う(編集されたHUDEP2β0-thal細胞におけるβ様グロビンのβAS3=81.5+/- 13.8%、対して野生型HUDEP2におけるβグロビンのβ=85.6+/-4.1%)。
【0316】
このように、βAS3グロビン導入遺伝子の標的上組込みがサラセミアHUDEP2 β0において満足に達成できることが実証される。
【0317】
実施例5:遺伝子操作細胞におけるヘモグロビンサブユニット及びヘモグロビンのHPLC分析
【0318】
HUDEP2 β0細胞を、Cas9 RNPを用いて編集し、実施例4において記載するように、AAV6を用いて感染させる。
【0319】
ウイルスを洗浄した後、編集された細胞を維持培地中で2週間保持する。
【0320】
GFP陽性細胞を、MoFlocellソーター(Beckman Coulter)を使用して選別し、以前に記載されたように分化させる。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を、NexeraX2 SIL-30ACクロマトグラフ(島津製作所、日本、京都)を使用して細胞ペレット上で実施し、LC Solutionソフトウェアを用いて分析する。
【0321】
分化したHUDEP2 β0を水中で溶解し、グロビン鎖を、250×4.6mm、3.6μmのAeris Wideporeカラム(Phenomenex)を使用して分離する。サンプルを、溶液A(水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸、95:5:0.1)及び溶液B(水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸、5:95:0.1)の勾配混合物を用いて溶出し、220nmでの吸光度をモニターする。
【0322】
【0323】
図6aは、HUDEP2 β0細胞において同定されたヘモグロビンサブユニットをさらに表す。これらの細胞中で四量体(HBA)の産生がなく、有毒なα沈殿物が存在することを観察することができる。
【0324】
図6bは、β
AS3グロビン導入遺伝子が組込まれたHUDEP2 β0細胞において同定されたヘモグロビンサブユニットを表す。
【0325】
産生された大量のHBA(垂直矢印)が観察されるが、より多くのα沈殿物は観察することはできない。
【0326】
したがって、サラセミアHUDEP2細胞におけるHbA産生の回復が実証される。
【0327】
実施例6:インビボ実験
【0328】
プロトコール
【0329】
NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/SzJ(NSG)マウスをJackson Laboratory(005557系統)から購入し、特定病原体除去(SPF)条件において維持する。本試験は、倫理委員会CEEA-51により承認され、動物実験に関するフランス及びヨーロッパの法律(APAFiS#16499-2018071809263257_v4)に従って行う。
【0330】
編集されたCD34+細胞を以下のように調製する。
【0331】
ヒト臍帯血(UCB)サンプルが、Center Hospitalier Sud-Francilien(CHSF、フランス、エヴリー)により提供され、フランスの生物倫理法(フランスの高等教育・研究・イノベーション省への宣言DC-2012-1655)に従って処理する。
【0332】
CD34+細胞を、製造元の指示に従ってCD34 MicroBead Kit(Miltenyi Biotec、フランス、パリ)を用いた免疫染色後、AUTOMACS PRO(Miltenyi Biotec、フランス、パリ)を用いた免疫磁気選択により精製する。動員された末梢血液(MPB)及びUCB CD34+も、Cliniscience(Nanterre、フランス)から購入する。
【0333】
MPB又はUCB由来のHSPCを解凍し、予備刺激培地中で48時間にわたり培養する(StemSpan、Stemregenin-1 0.75uM、StemCell Technologies、カナダ、ブリティッシュコロンビア州バンクーバー;rhSCF 300ng/mL、rhFlt3-L 300ng/mL 、rhTPO 100ng/mL、及びrhIL-320ng/mL、CellGenix、ドイツ、フライブルク)。
【0334】
sgRNA(HBA15.1)を製造元の指示に従って希釈し、リボ核タンパク質複合体(RNP)を、30pmolのspCas9(比率1:1.5)を用いて形成させる(Menoret et al., Sci Rep. 2015; 5: 14410からのspCas9)。条件当たり2.5×105個のHSPCに、P3 Primary Cell 4D-Nucleofectorキット(CA137プログラム)を使用し、RNPをトランスフェクトする(Lattanzi A et al. Mol Ther. 2019;27(1):137-150)。ノックイン実験では、トランスフェクション後の15分後に、HSPCを、以下に詳述するAAV6を用いて6時間形質導入し(MOI 10,000~30,000)、洗浄し、予備刺激培地中で追加の24~48時間放置する。
【0335】
2つの異なるカセットをβグロビン遺伝子(HBB;遺伝子ID:3043)の発現のために設計する:
i)第1のカセットはβグロビンcDNAを含み、3つの抗鎌状点変異(βAS3)を伴い、その後にウッドチャック転写後調節エレメント(WPRE)及びSV40polyAが続く;
ii)第2のカセットは、イントロンならびにその本来の3’UTR及びpA部位を伴う全βAS3遺伝子を含み、3つの抗鎌状点変異を伴う(実施例4)。
【0336】
各々のカセット、それに続くSV40ポリAを伴う構成的ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK)プロモーターの制御下にあるGFPレポーター遺伝子は、相同性アーム(各々250bp)により隣接され、標準的なAAVベクター骨格(AAV2)中で、そのITR(逆方向末端反復)に関してセンス方向でクローン化される。
【0337】
赤芽球特異的βグロビンエンハンサー/プロモーターの制御下にあるβAS3遺伝子をコードするレンチウイルスベクターは既に記載されている(Weber et al., Mol. Ther. Methods Clin. Dev. 2018; 10:268-280)。
【0338】
本試験において使用する全ての組換え一本鎖AAV2/6を、トリプルトランスフェクションプロトコールを使用して生成し、Ayuso E et al. Curr Gene Ther. 2010;10(6):423-436において記載されているように2つの連続した塩化セシウム(CsCl)密度勾配又はクロマトグラフィーにより精製する。各々の調製物のベクター力価を、AAVゲノムのITR領域に対応するプライマー及びプローブを使用した定量的リアルタイムPCRベースの滴定方法により決定する(Rohr UP et al. J Virol Methods. 2002;106(1):81-88)。
【0339】
レンチウイルス(LV)を、第3世代のパッケージングプラスミドpMDLg/p.RRE及びpK.REVを使用した293Tの一過性トランスフェクションにより産生し、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質G(VSV-G)エンベロープを用いてシュードタイプ化する。LVをHCT116細胞中で滴定し、HIV-1 Gag p24含量をELISA(Perkin-Elmer)により製造元の指示に従って測定する。
【0340】
操作後、HSPCを赤芽球分化培地(StemSpan、StemCell Technologies、カナダ、ブリティッシュコロンビア、バンクーバー;rhSCF 20ng/mL、rhEpo 1U/ml、IL3 5ng/mL、デキサメタゾン2μM、及びエストラジオール1μM;Sigma-Aldrich、米国ミシガン州セントルイス)中で又は半固体Methocult培地(コロニー形成細胞(CFC)アッセイ、H4435、StemCell Technologies、カナダ、ブリティッシュコロンビア、バンクーバー)中で14日間培養する。コロニーを、形態学的基準(BFU-E、CFU-G/GM、及びCFU-GEMM)に従ってカウント及び同定する。一部の実験では、BFU-Eを、Wen J et al. J Hematol Oncol. 2017;10(1):119において記載されているように採取し、赤芽球前駆細胞増殖培地中で培養する。
【0341】
編集後の48時間に、5~7×105個のCD34+細胞を致死量以下の照射(150cGy)後、8週齢の雌NSGマウス中に静脈内注射する。
【0342】
ヒト細胞の生着レベル及びKIレベルを、抗ヒトCD45(Fluorochrome APC、BD BioscienceからのクローンHI30;カタログ番号555485)抗体及びHLA-ABC抗体(Fluorochrome PE、BD BioscienceからのクローンG46-2.6;カタログ番号555553)を使用したフローサイトメトリーにより、末梢血中で、異なる時間点でモニターした。移植後の16週に、血液、骨髄、及び脾臓を回収して分析する。末梢血を染色し、赤血球細胞をサンプル固定(VersaLyse溶解溶液及びIOTest3固定溶液、Beckman Coulter、米国カリフォルニア州パサデナ)の間に、製造元の指示に従って溶解する。
【0343】
ヒトCD34+細胞又はCD45+細胞を、AUTOMACS PRO(PosselD2分離プログラム;Miltenyi Biotec、フランス、パリ)との組み合わせにおいてCD34又はCD45 MicroBead Kit UltraPureを用いて、製造元の指示を使用した免疫磁気選択により、マウス末梢血又は骨髄から精製する。
【0344】
統計分析を、Windows用のGraphPad Prismバージョン6.00(GraphPad Software、米国カリフォルニア州ラホーヤ、www.graphpad.com)を使用して実施する。3つ以上の群についてのTukeyの多重比較事後検定を用いた一元配置分散分析又は二元配置分散分析(ANOVA)を、示したように実施する。値を、他に示さない限り、平均値±標準偏差(SD)として表現する。
【0345】
結果
【0346】
得られた結果は、HSPCが本発明に従って効率的に編集され、長期的な多系統の生着の可能性を保持することができることを例証する。
【0347】
臨床的に関連する細胞におけるこの戦略を評価するために、及び上で詳述するように、本発明者らは、ヒト臍帯血HSPCにRNPを用いてトランスフェクトし、次にAAVを用いて形質導入した。任意の選択を伴うことなく、本発明者らは、ロバストなゲノム切断を達成し(
図7A)、それによって、効率的なHBA2欠失及びドナーDNA KIがもたらされた(
図7B及び7C)。
【0348】
分化時、HSPC由来の赤芽球はβ
AS3-mRNAを発現し、それは全βグロビンRNAの約15%(14.2±9.4、n=6)を占めた(
図7D)。
【0349】
次に、本発明者らは、HSPCをメチルセルロース中に蒔き(CFCアッセイ(コロニー形成細胞))、改変前駆細胞がそれらの多系統の可能性を保持していることを確認した(
図8)。
【0350】
単一のBFU-E(バースト形成単位-赤芽球)ジェノタイピングによって、コロニーの半分以上がHBA2欠失(
図9A)及びβ
AS3KI(
図9B)を有し、41%が両方の改変を有することが示された(以下の表を参照のこと)。
【表1】
【0351】
HBA2欠失HSPC及びβ
AS3 KI HSPCの両方を次に、免疫不全NOD/SCID/γ(NSG)マウス中に移植し、それらのインビボでのホーミング、生着、及び多系統の可能性を評価した。編集されたHSPCの両方が、骨髄(BM)、脾臓(SP)、及び血液(PB)における成功裏の生着(
図10A)ならびに系統分化(
図10B-ヒトB細胞(B)、ヒトT細胞(T)、及びヒト骨髄細胞(My))を示した。
【0352】
NSGマウスはヒト赤芽球分化を支持しないため(Ishikawa F et al. Blood. 2005;106(5):1565-1573)、本発明者らは、生着マウスの骨髄からの単離ヒトCD34 +細胞のCFCアッセイにより分化を確認した(
図11)。
【0353】
さらに、InDelsのパーセンテージ(
図12A)、ならびにHBA2欠失の程度(
図12B)が、エクスビボ及びインビボのRNP処理HSPCにおいて同様のままであり、幹細胞及び前駆細胞の両方における同様の効率が確認された。
【0354】
β
AS3 KI HSPC(GFP陽性)が、異なる時間点(
図13A)で、異なる系統(
図13B)において存在していた。
【0355】
全体的に、これらのデータは、本発明者が、インビボでの長期生着ならびに分化するそれらの能力を保存しながら、HSPCにおいて効率的なHBA2欠失及びβAS3 KIを達成することができたことを示す。
【0356】
実施例7:患者のHSPCを編集することによって、β+及びβ0サラセミアの表現型が寛解される
【0357】
治療条件において本発明をテストするために、本発明者らは、βサラセミア患者のHSPCにおけるグロビンの不均衡の補正を評価した。
【0358】
特に、本発明者らは、β+細胞におけるHBA2欠失アプローチ、ならびに実際の患者からのβ+及びβ0サラセミアHSPCにおけるα欠失及びβAS3 KI戦略の組み合わせをテストした。
【0359】
HSPCを、RNPを用いてトランスフェクトし、上に記載するようにAAVを用いて形質導入する。ポジティブコントロールとして、HSPCを、また、現在サラセミアについての臨床治験中である、βグロビン遺伝子プロモーター及びそのミニ遺伝子座制御領域(LCR)の制御下でβAS3導入遺伝子をコードするLVを用いて形質導入した(LV βAS3;Marktel S et al. Nat Med. 2019;25(2):234-241;Miccio A et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2008;105(30):10547-10552)。
【0360】
RNPトランスフェクションは、赤芽球液体培養及びCFC(コロニー形成細胞)の両方において、InDels(RNPについて90.5%±7.1及びRNP+AAVについて90.4%±9.0、平均値±SD、
図14A)、HBA2欠失(RNPについて0.95±0.06 HBA2コピー/細胞及びRNP+AAVについて0.77±0.15、平均値±SD;
図14B)、及びβ
AS3 KI(RNP+AAVについて0.80±0.21標的上コピー/細胞、平均値±SD;
図14C)を生成する際に非常に効率的である。
【0361】
グロビン発現を赤芽球分化の間にモニターする。
【0362】
mRNAグロビンの不均衡(α/β様グロビン比率として測定)は全ての条件において寛解され(
図14D)、β
AS3発現に起因して、β
AS3 KI細胞はHBA2欠失赤芽球よりも良好に機能する(
図14E及び14F)。注目すべきことに、改変HSPCは、適した赤芽球分化及び多系統の可能性を保持した。β0及びβ+編集HSPCから由来する単一のBFU-EコロニーのグロビンmRNA分析によって、α/β不均衡が全ての条件において改善され、同時のα下方調節及びβ
AS3発現に起因する最も強い効果を伴うことが示された(
図14G)。
【0363】
全体的に、これらのデータは、本発明者らが、HSPCの可能性に影響を及ぼすことなく、βサラセミアHSPCを改変し、それらのα/βグロビンの均衡を低下させることができることを示す。
【0364】
【配列表】