(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】コネクタ
(51)【国際特許分類】
H01R 13/629 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
H01R13/629
(21)【出願番号】P 2022022453
(22)【出願日】2022-02-16
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 智彬
(72)【発明者】
【氏名】天野 伸祥
(72)【発明者】
【氏名】井田 健雄
【審査官】高橋 学
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-530151(JP,A)
【文献】特開平09-135759(JP,A)
【文献】特開2000-168864(JP,A)
【文献】特開2020-009614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/629-13/639
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1コネクタと、前記第1コネクタと嵌合可能な第2コネクタと、前記第1コネクタの外周面の少なくとも一部を覆うとともに前記第1コネクタに対してコネクタ嵌合方向に沿って相対移動可能なスライド部材と、を備えたコネクタであって、
前記スライド部材の前記第1コネクタに対する前記相対移動によって前記第1コネクタと前記第2コネクタとの嵌合又は嵌合解除が可能なスライド機構を有し、
前記第1コネクタは、
前記第2コネクタの端子と電気的に接続される端子と、
前記スライド部材に覆われた前記外周面に設けられた係止アームと、を有し、
前記スライド部材は、
前記嵌合解除のための前記第1コネクタに対する前記相対移動の途中段階にて、前記係止アームが係止される係止部を有し、
前記係止アームは、前記第1コネクタの前記外周面から前記コネクタ嵌合方向の前方へ向けて延びる片持ち梁状の形状を有し、
前記係止部には、前記係止アームの延出端である自由端の端面が係止され
、
前記係止アームは、弾性変形可能に構成され、
前記スライド部材は、
前記途中段階にて、前記係止部に係止された前記係止アームを弾性変形させて、前記係止アームと前記係止部との係止を解除可能な係止解除片を有し、
前記係止解除片は、前記コネクタ嵌合方向の前方へ向けて延びる片持ち梁状の形状を有し、
前記係止解除片の延出端である自由端の端面と、前記係止部の前記コネクタ嵌合方向の後方側の端面とが隙間を空けて前記コネクタ嵌合方向に対向するように、前記係止解除片が、前記係止部よりも前記コネクタ嵌合方向の後方側に位置する、
コネクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のコネクタにおいて、
前記係止アームの前記自由端には、前記第1コネクタの前記外周面から遠ざかる向きに突出する係止突起が設けられ、前記係止突起の前記コネクタ嵌合方向の前方側の端面が、前記係止部の前記コネクタ嵌合方向の後方側の端面に係止される、
コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、オスコネクタとメスコネクタとを低い挿抜力で嵌合・離脱(即ち、嵌合解除)が可能なコネクタが提案されている。従来コネクタの一つは、一方のコネクタにギアが設けられ、他方のコネクタにラックギアが設けられて、ギア及びラックギアの噛み合いによって、オスコネクタとメスコネクタとの嵌合・離脱時の挿抜力を低減させている(例えば、特許文献1~2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-43743号公報
【文献】特開2020-9614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般に、電気系統のメンテナンス等での作業安全性を確保するために、電源と負荷との間の通電を遮断するための機構が設けられている。これは、例えば、電源回路スイッチと信号回路スイッチのオン・オフにタイムラグを持たせないと、信号回路スイッチのオフ後の残留電流に起因してスパークやアーク等が発生するためである。
【0005】
従来コネクタにおいては、上述したスパークやアーク等は、オスコネクタとメスコネクタとの嵌合を解除する時(即ち、コネクタ離脱時)に発生しやすい。特に、特許文献1~2に開示されているような挿抜力が低減されたコネクタは、オスコネクタ及びメスコネクタの離脱時間が短く通信線と電源線が同時に切断されやすいため、通信線の残留電流に起因してスパークやアーク等が発生しやすい。
【0006】
本発明は、上述した状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、挿抜力を低減しつつ作業安全性に優れるコネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために、本発明に係るコネクタは、下記を特徴としている。
【0008】
第1コネクタと、前記第1コネクタと嵌合可能な第2コネクタと、前記第1コネクタの外周面の少なくとも一部を覆うとともに前記第1コネクタに対してコネクタ嵌合方向に沿って相対移動可能なスライド部材と、を備えたコネクタであって、
前記スライド部材の前記第1コネクタに対する前記相対移動によって前記第1コネクタと前記第2コネクタとの嵌合又は嵌合解除が可能なスライド機構を有し、
前記第1コネクタは、
前記第2コネクタの端子と電気的に接続される端子と、
前記スライド部材に覆われた前記外周面に設けられた係止アームと、を有し、
前記スライド部材は、
前記嵌合解除のための前記第1コネクタに対する前記相対移動の途中段階にて、前記係止アームが係止される係止部を有し、
前記係止アームは、前記第1コネクタの前記外周面から前記コネクタ嵌合方向の前方へ向けて延びる片持ち梁状の形状を有し、
前記係止部には、前記係止アームの延出端である自由端の端面が係止され、
前記係止アームは、弾性変形可能に構成され、
前記スライド部材は、
前記途中段階にて、前記係止部に係止された前記係止アームを弾性変形させて、前記係止アームと前記係止部との係止を解除可能な係止解除片を有し、
前記係止解除片は、前記コネクタ嵌合方向の前方へ向けて延びる片持ち梁状の形状を有し、
前記係止解除片の延出端である自由端の端面と、前記係止部の前記コネクタ嵌合方向の後方側の端面とが隙間を空けて前記コネクタ嵌合方向に対向するように、前記係止解除片が、前記係止部よりも前記コネクタ嵌合方向の後方側に位置する、
コネクタであること。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るコネクタについて以下に述べる。
本構成のコネクタは、第1コネクタ及び第2コネクタの嵌合、又は、第1コネクタ及び第2コネクタの嵌合解除が、スライド部材が第1コネクタに対して相対移動することによって行われるスライド機構を有している。これにより、第1コネクタと第2コネクタとの嵌合又は嵌合解除時に掛かる挿抜力が低減される。
また、本構成のコネクタでは、第1コネクタ及び第2コネクタの嵌合を解除するための、スライド部材の第1コネクタに対する相対移動の途中段階にて、第1コネクタの係止アームとスライド部材の係止部とが係止されるように構成されている。換言すると、本構成のコネクタは、第1コネクタと第2コネクタとの嵌合解除の途中段階にて、嵌合解除の動作が一旦止まることになる。これにより、第1コネクタ及び第2コネクタの嵌合解除に時間(即ち、タイムラグ)を持たせることができ、第1コネクタ及び第2コネクタの端子に残留する電流に起因したスパークやアーク等の発生を抑制できる。
このように、本構成のコネクタは、挿抜力を低減しつつ作業安全性に優れている。
【0010】
なお、第1コネクタ及び第2コネクタの嵌合を解除するための、スライド部材の第1コネクタに対する相対移動の途中段階とは、第1コネクタと第2コネクタとの嵌合解除の途中段階であることは云うまでもない。
【0011】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るコネクタの斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す第1コネクタからスライド部材を外した状態の斜視図である。
【
図5】
図5は、
図1のA-A断面図であり、第1コネクタと第2コネクタの嵌合開始状態を示す図である。
【
図6】
図6は、
図1のA-A断面図であり、第1コネクタと第2コネクタとの嵌合完了状態を示す図である。
【
図8】
図8は、
図7のC部に相当する図であり、嵌合開始状態を示す図である。
【
図9】
図9は、
図7のC部に相当する図であり、第1コネクタと第2コネクタとの嵌合解除の途中段階を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態>
以下、本発明に係る実施の形態の例を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るコネクタ1の斜視図である。
図2は、
図1に示すコネクタ1の分解斜視図である。
図3は、
図2に示す第1コネクタ3からスライド部材2を外した状態の斜視図である。
図4は、
図2に示す第1コネクタ3の分解斜視図である。
【0014】
図1~
図4(特に、
図2及び
図4)に示すように、本発明の実施形態に係るコネクタ1は、第1コネクタ3と、第2コネクタ5と、第1コネクタ3に対してコネクタ嵌合方向に沿って相対移動可能なスライド部材2と、第1コネクタ3の支軸32に回転可能に軸支された伝達ギア部材6と、スライド部材2に設けられた第1ラックギア部23と、第2コネクタ5に設けられた第2ラックギア部53と、を備えている。
【0015】
第1コネクタ3及び第2コネクタ5は、それぞれ先端部を突き合わせることで、互いに嵌合されて接続される。
【0016】
第1コネクタ3は、
図4に示すように、ハウジング31と、メス端子43と、を有する。ハウジング31は、電気絶縁性の合成樹脂から成形されたものである。メス端子43は、導電性金属材料から形成されたもので、円筒形の棒状に形成されている。メス端子43は、後述するオス端子60と接続される通電用端子である。なお、第1コネクタ3は、通信用端子(図示省略)を更に有する。
【0017】
メス端子43は、ハウジング31の後方に形成された端子収容室40に収容されている。端子収容室40に収容されたメス端子43の接続端は、ハウジング31の先端に設けられたガイド部46に係合される。ガイド部46の先端外周にパッキン42が装着された後、ガイド部46の先端にはフロントホルダ41が固定される。メス端子43は、その接続穴49がガイド部46のガイド孔に連通されている。先端にフロントホルダ41が固定されたガイド部46のガイド孔には、オス端子60が挿通可能とされる。
【0018】
また、メス端子43は、その後端部に、接合穴48が形成されており、この接合穴48には、ハウジング31の後端から引き出される給電用のケーブル45の導体が挿し込まれてカシメ接続されている(
図7参照)。ハウジング31の後端から引き出される給電用のケーブル45にはシール部材70が装着され、ハウジング31に対して液密にシールされる。シール部材70は、ハウジング31の後端に装着されるリヤホルダー47によって離脱が規制される。
【0019】
ハウジング31は、断面楕円形の筒状部37と、筒状部37の外周側に設けられた断面矩形状のスライド支持部38とが一体成形されている。
【0020】
スライド支持部38の上面には、コネクタ嵌合方向の前端から後方に延びるラック挿通溝35が形成されており、後述する第2ラックギア部53の基部55がコネクタ嵌合方向に挿通する。また、スライド支持部38の上面には、ラック挿通溝35に沿って途中までコネクタ嵌合方向に延びるラックガイド33が突設されている。ラックガイド33のコネクタ嵌合方向後端の上面には、スライド係止部33aが突設されている。更に、スライド支持部38の上面には、伝達ギア部材6を回動可能に軸支するための支軸32が垂設されている。
【0021】
更に、スライド支持部38の上面には、片持ち梁状の係止アーム81が設けられている。係止アーム81は、スライド支持部38のコネクタ嵌合方向後端の上面に設けられて、スライド支持部38の上面に近付くように(
図4の紙面下方に向けて)弾性変形が可能である。
【0022】
スライド支持部38の両側面には、それぞれ上面側と下面側に沿って一対のスライドガイド溝34がコネクタ嵌合方向に沿って凹設されている。また、スライド支持部38の両側面には、コネクタ嵌合方向の前端から後方に延びるスライド規制溝36が凹設されている。このスライド規制溝36のコネクタ嵌合方向の後端側は、スライド支持部38の背面に連通しておらず、行き止まりとなっている。
【0023】
ハウジング31の支軸32に回動可能に軸支される伝達ギア部材6は、略扇状に形成されており、支軸32に軸支される軸孔61と、第1ラックギア部23に噛み合う従動ギア部63と、支軸32を挟んで従動ギア部63と反対側に設けられて第2ラックギア部53と噛み合う主動ギア部65と、を有する。ここで、従動ギア部63のギア比は、主動ギア部65のギア比よりも大きくされている。
【0024】
第2コネクタ5は、ハウジング51と、オス端子60を有する。ハウジング51は、電気絶縁性の合成樹脂から成形されたもので、フード部51aを有している。フード部51aの内側には、一対の断面円形状の嵌合穴59が形成されており、これらの嵌合穴59の中心に、その軸方向に沿ってオス端子60が設けられている。第2コネクタ5の後端から突出するオス端子60は、電源等の回路に接続されている。つまり、オス端子60は、通電用端子である。なお、第2コネクタ5は、信号等の回路に接続される通信用端子(図示省略)も更に有している。第2コネクタ5の通信用端子は、第1コネクタ3の通信用端子と電気的に接続されている。
【0025】
ハウジング51の後部外周面には、パッキン77が装着されており、パッキン77はリヤホルダー75によって離脱が規制される。
【0026】
ハウジング51の上面には、コネクタ嵌合方向の前端から後方に延びる第2ラックギア部53が設けられている。ハウジング51の第2ラックギア部53は、フード部51aのコネクタ嵌合方向沿って延設された基部55の上端に形成されている。そこで、第2コネクタ5が第1コネクタ3に嵌合された際、第2ラックギア部53は、ラック挿通溝35を介してハウジング31のスライド支持部38の上面に突出し、伝達ギア部材6の主動ギア部65と噛み合うことができる。
【0027】
スライド部材2は、
図3及び
図4に示すように、ハウジング31のスライド支持部38における上面と両側面を略覆う三平面を有する断面U字形状の枠体である。スライド部材2の一方の入隅部における内壁面には、コネクタ嵌合方向に沿うように第1ラックギア部23が形成されている。スライド部材2の両内壁面には、スライド支持部38の両側面に凹設されたスライドガイド溝34にそれぞれ対応してスライド嵌合されるスライドガイドレール24が、コネクタ嵌合方向に沿って突設されている。また、スライド部材2の両内壁面におけるコネクタ嵌合方向前端部には、スライド支持部38の両側面に凹設されたスライド規制溝36にそれぞれ対応してスライド嵌合されるスライド突起26が突設されている。
【0028】
スライド部材2の上壁には、コネクタ嵌合方向の前端から後方に延びる一対のスリットにより形成された可撓アームからなるスライド係止部25が形成されている。スライド係止部25の自由端には、上壁から下方に向かってストッパ突起27と当接突起28とが突設されている。
【0029】
更に、スライド部材2の上壁には、係止部82が設けられている。係止部82におけるスライド支持部38の上面と対向する面(即ち、係止部82の下面)には、スライド支持部38の上面に向かって短く突出する係止突起83が設けられている(
図7参照)。係止突起83は、後述する第1コネクタ3と第2コネクタ5との嵌合解除の途中段階にて、係止アーム81を係止可能なように、係止アーム81に対応する位置に設けられている(
図9参照)。
【0030】
スライド部材2の上壁には、略矩形U字状のスリットにより形成された可撓アームからなる係止解除片84が形成されている。係止解除片84は、スライド支持部38の上面に近付くように(
図7の紙面右方に向けて)弾性変形が可能である。係止解除片84は、第1コネクタ3と第2コネクタ5との嵌合解除の途中段階にて、弾性変形した際に、係止アーム81と接触可能なように、係止アーム81に対応する位置に設けられている(
図9参照)。
【0031】
更に、スライド部材2の両外壁面には、コネクタ嵌合方向と交差する方向に延びる複数の滑り止めリブ30が突設されている。また、スライド部材2の一方の側壁には、スライド部材2の嵌合保証機構を構成するスライダー29が配設されている。
【0032】
図3に示すように、スライド部材2は、スライドガイドレール24をそれぞれスライド支持部38のスライドガイド溝34に嵌入させるようにして、ハウジング31のコネクタ嵌合方向前方から挿着される。
【0033】
スライド部材2が所定量挿入されると、スライド係止部25のストッパ突起27がラックガイド33のスライド係止部33aに当接するが、内側のテーパ面の作用によってスライド係止部25が上方へ弾性変形することで、ストッパ突起27はスライド係止部33aを通過することができる。
【0034】
そして、
図2に示したように、スライド規制溝36にスライド嵌合されたスライド突起26が、スライド規制溝36の後端に達すると、スライド部材2はコネクタ嵌合方向後方への移動が規制される。また、スライド部材2をコネクタ嵌合方向前方へ移動させようとすると、スライド係止部25のストッパ突起27が、スライド係止部33aに当接するが、内側のテーパ面の作用によってスライド係止部25を上方へ弾性変形させることができず、移動が規制される。従って、一対のスライド係止部25,33aの係止により、スライド部材2が第1コネクタ3に対して初期位置に保持される。
【0035】
また、
図8に示すように、スライド部材2が所定量挿入された際、係止アーム81は、係止突起83よりもコネクタ嵌合方向の前方に位置している。このとき、係止アーム81の上端は、係止部82の係止突起83の下端よりも上方に位置している。このため、スライド部材2が第1コネクタ3に対して初期位置に保持されるよう移動すると、係止アーム81は、係止突起83と接触する。更に、スライド部材2の移動を続けると、係止突起83によって係止アーム81が下方に押されて、係止アーム81は下方へ弾性変形する。スライド部材2の移動を更に続けると、係止アーム81は、係止突起83を擦り抜けた後、弾性変形から復元して、係止突起83よりもコネクタ嵌合方向の後方に位置する(
図7参照)。
【0036】
そして、このようにスライド部材2が装着された第1コネクタ3と第2コネクタ5とは、それぞれ先端部を突き合わせることで、互いに嵌合されることができる。
【0037】
コネクタ1の第1コネクタ3と第2コネクタ5を嵌合させる際には、第1コネクタ3と第2コネクタ5を若干嵌合させて、
図5に示すように、伝達ギア部材6の主動ギア部65を第2コネクタ5の第2ラックギア部53に係合した状態とする。
【0038】
この際、スライド支持部38のラック挿通溝35に基部55が挿通案内される第2ラックギア部53の先端部は、解除部としてスライド係止部25の当接突起28に当接してスライド係止部25が上方へ弾性変形させる。そこで、スライド係止部25に形成されたストッパ突起27も上方へ移動し、スライド係止部33aによるスライド部材2の移動規制が解除される。従って、スライド部材2をコネクタ嵌合方向前方へ移動させることができるようになる。
【0039】
そこで、第1コネクタ3に対して相対移動可能なスライド部材2をコネクタ嵌合方向(
図5中の左方向)に移動させると、スライド部材2に設けた第1ラックギア部23により第1コネクタ3に軸支された伝達ギア部材6の従動ギア部63が
図5中の反時計回り方向へ回動される。
【0040】
伝達ギア部材6が回動されることで、従動ギア部63と反対側に設けられた主動ギア部65は、第2コネクタ5のハウジング51に設けられた第2ラックギア部53を第1コネクタ3に対して嵌合する方向(
図5中の右方向)に移動させる。
【0041】
そこで、スライド部材2をコネクタ嵌合方向に移動させることで、
図5に示すように、第1コネクタ3と第2コネクタ5を完全嵌合させることができる(
図6参照)。
【0042】
また、第1コネクタ3と第2コネクタ5とを嵌合解除させる際には、第1コネクタ3に対してスライド部材2をコネクタ嵌合方向と反対方向に移動させることで、伝達ギア部材6が嵌合時とは逆方向に回転し、主動ギア部65は、第2コネクタ5のハウジング51に設けられた第2ラックギア部53を第1コネクタ3に対して嵌合を解除(即ち、離脱)する方向に移動させることができる。
【0043】
ここで、コネクタ1は、
図9に示すように、第1コネクタ3と第2コネクタ5との嵌合解除の移動を続けると、移動の途中段階(即ち、嵌合が解除される前)で、第1コネクタ3の係止アーム81が、第2コネクタの係止部82の係止突起83に係止される。具体的には、係止アーム81のコネクタ嵌合方向の前端部と、係止突起83のコネクタ嵌合方向の後端部と、が当接して、第1コネクタ3及び第2コネクタ5は嵌合を解除する方向への移動が規制される。
【0044】
この状態(
図9に示す嵌合解除途中段階)にて、係止解除片84を上方から下方に向けて押すと、係止解除片84は、下方に弾性変形して係止アーム81に接触する。更に係止解除片84を下方に向けて押すと、係止解除片84を介して係止アーム81を下方に弾性変形させることができ、更には係止アーム81と係止突起83との係止を解除することができる。
【0045】
そして、係止アーム81と係止突起83との係止を解除させつつ(即ち、係止解除片84を上方から下方に向けて押した状態を維持したまま)、第1コネクタ3及び第2コネクタ5を、嵌合を解除する方向に相対移動させると、係止アーム81の上端部が係止突起83に潜り込むことになる。なお、係止アーム81の上端部に係止突起83が潜り込んだ状態では、係止アーム81と係止突起83の係止が解除されているため、係止解除片84を操作しなくてよい。そして、この状態にて、更に移動を続けると係止アーム81は係止突起83を擦り抜けた後、弾性変形から復元して、第1コネクタ3及び第2コネクタ5の嵌合が解除される。
【0046】
ここで、例えば、
図9に示す嵌合解除の途中段階にて、第1コネクタ3及び第2コネクタ5の通信用端子の接続が解除(即ち、切断)される場合には、メス端子43及びオス端子60の切断と、の間に時間(即ち、タイムラグ)を持たせることができる。また、
図9に示す嵌合解除の途中段階にて、第1コネクタ3及び第2コネクタ5の通信用端子の接続が解除されない場合には、電源回路スイッチと信号回路スイッチのオン・オフのタイムラグを持たせることができる。
【0047】
このように、
図9に示す嵌合解除の途中段階では、第1コネクタ3の通信用端子、及び、第2コネクタ5の通信用端子は、接続されていてもよいし、切断されていてもよい。
【0048】
また、
図9に示す嵌合解除の途中段階にて、第1コネクタ3及び第2コネクタ5の通信用端子がフード部51aの内側に位置する場合には、通信用端子の切断と、メス端子43及びオス端子60の切断が同時に行われてもよい。換言すると、上述した場合では、スパークやアーク等がフード部51a内で発生することになるため、作業安全性が確保されていると言える。
【0049】
ここで、本発明のスライド機構とは、伝達ギア部材6と、第1ラックギア部23と、従動ギア部63と、主動ギア部65と、第2ラックギア部53と、を含んで構成される機構である。
【0050】
<作用・効果>
本実施形態に係るコネクタ1によれば、第1コネクタ3及び第2コネクタ5の嵌合、又は、第1コネクタ3及び第2コネクタ5の嵌合解除が、スライド部材2が第1コネクタ3に対して相対移動することによって行われる。これにより、第1コネクタ3と第2コネクタ5との嵌合又は嵌合解除時に掛かる挿抜力が低減される。
【0051】
また、コネクタ1では、第1コネクタ3及び第2コネクタ5の嵌合を解除するための、スライド部材2の第1コネクタ3に対する相対移動の途中段階にて、第1コネクタ3の係止アーム81とスライド部材2の係止部82(具体的には、係止突起83)とが係止されるように構成されている。換言すると、コネクタ1は、第1コネクタ3と第2コネクタ5との嵌合解除の途中段階にて、嵌合解除の動作が一旦止まることになる。これにより、第1コネクタ3及び第2コネクタ5の嵌合解除に時間(即ち、タイムラグ)を持たせることができ、例えば通信用端子に残留する電流に起因したスパークやアーク等の発生を抑制できる。
【0052】
このように、本実施形態に係るコネクタ1は、挿抜力を低減しつつ作業安全性に優れている。
【0053】
更に、本実施形態に係るコネクタ1によれば、スライド部材2は、係止突起83に係止された係止アーム81を弾性変形させて、係止アーム81と係止突起83との係止を解除可能な係止解除片84を有している。換言すると、第1コネクタ3と第2コネクタ5との嵌合解除の途中段階にて、係止解除片84を操作して係止突起83に係止された係止アーム81を弾性変形させることによって、係止アーム81と係止突起83との係止を解除できる。このように、本実施形態に係るコネクタ1は、作業性にも優れている。
【0054】
更に、本実施形態に係るコネクタ1によれば、伝達ギア部材6の従動ギア部63のギア比を伝達ギア部材6の主動ギア部65のギア比よりも大きくすることで、倍力効果が発生し、嵌合作業力を低減させることができる。
【0055】
加えて、本実施形態に係るコネクタ1の更なる効果について以下に述べる。
【0056】
本実施形態に係るコネクタ1によれば、第1コネクタ3と第2コネクタ5を嵌合しない状態では、一対のスライド係止部25,33aの係止によりスライド部材2が初期位置に保持されるので、第1コネクタ3及び第2コネクタ5の嵌合の際には、第1ラックギア部23及び第2ラックギア部53と、伝達ギア部材6の従動ギア部63及び主動ギア部65とを確実に係合させることができる。
【0057】
更に、本実施形態に係るコネクタ1によれば、スライド部材2を初期位置に保持するための一対のスライド係止部25,33aの係止は、両ハウジングの嵌合に伴って解除部である第2ラックギア部53の先端部により解除されるので、作業性がよい。
【0058】
更に、本実施形態に係るコネクタ1によれば、伝達ギア部材6は、第1コネクタ3に対してコネクタ嵌合方向に沿って相対移動可能なスライド部材2によって回動されるため、例えばレバー式コネクタのようなコネクタ体格以上の回転軌跡が無くなり、操作スペースを縮小できる。
【0059】
更に、本実施形態に係るコネクタ1によれば、第1ラックギア部23及び第2ラックギア部53と、伝達ギア部材6の従動ギア部63及び主動ギア部65とは、噛合う歯によって動力を伝達する。そのため、動きがスムーズであり、荷重を複数の歯と接点で分担するので強度的にも有利となる。
【0060】
<他の形態>
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0061】
図10に示すように、係止アーム81aに上方へ短く突出する係止突起81bが設けられてもよく、更には、係止部82aに係止突起が設けられなくてもよい。この場合、係止アーム81aの係止突起81bと係止部82aとが係止される。
【0062】
つまり、第1コネクタ3及び第2コネクタ5の嵌合解除の途中段階では、係止突起81bのコネクタ嵌合方向の前端部と、係止部82aのコネクタ嵌合方向の後端部とが当接して、第1コネクタ3及び第2コネクタ5は嵌合を解除する方向への移動が規制される。
【0063】
ここで、上述した本発明に係るコネクタの実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]~[2]に簡潔に纏めて列記する。
[1]
第1コネクタ(3)と、前記第1コネクタと嵌合可能な第2コネクタ(5)と、前記第1コネクタの外周面の少なくとも一部を覆うとともに前記第1コネクタに対してコネクタ嵌合方向に沿って相対移動可能なスライド部材(2)と、を備えたコネクタ(1)であって、
前記スライド部材(2)の前記第1コネクタ(3)に対する前記相対移動によって前記第1コネクタ(3)と前記第2コネクタ(5)との嵌合又は嵌合解除が可能なスライド機構を有し、
前記第1コネクタ(3)は、
前記第2コネクタ(5)の端子(オス端子60,通信用端子)と電気的に接続される端子(メス端子43,通信用端子)と、
前記スライド部材(2)に覆われた前記外周面に設けられた係止アーム(81,81a)と、を有し、
前記スライド部材(2)は、
前記嵌合解除のための前記第1コネクタ(3)に対する前記相対移動の途中段階にて、前記係止アーム(81,81a)が係止される係止部(82,82a,係止突起83)を有する、
コネクタ(1)。
[2]
上記[1]に記載のコネクタ(1)において、
前記係止アーム(81,81a)は、弾性変形可能に構成され、
前記スライド部材(2)は、
前記途中段階にて、前記係止部(82,82a,係止突起83)に係止された前記係止アーム(81,81a)を弾性変形させて、前記係止アーム(81,81a)と前記係止部(82,82a,係止突起83)との係止を解除可能な係止解除片(84)を有する、
コネクタ(1)。
【0064】
更に、上述した本発明に係るコネクタの嵌合解除方法の実施形態の特徴を以下[3]に記載する。
[3]
上記[1]又は上記[2]に記載のコネクタ(1)における前記第1コネクタ(3)及び前記第2コネクタ(5)の嵌合解除方法であって、
前記嵌合解除のために、前記スライド部材(2)を前記第1コネクタ(3)に対して前記相対移動させる工程と、
前記途中段階にて、前記係止解除片(84)を操作して前記係止部(82,82a,係止突起83)に係止された前記係止アーム(81,81a)を弾性変形させて、前記係止アーム(81,81a)と前記係止部(82,82a,係止突起83)との係止を解除する工程と、を含む、
嵌合解除方法。
【符号の説明】
【0065】
1 コネクタ
2 スライド部材
3 第1コネクタ
5 第2コネクタ
6 伝達ギア部材
23 第1ラックギア部
31 ハウジング
43 メス端子
51 ハウジング
51a フード部
53 第2ラックギア部
60 オス端子
63 従動ギア部
65 主動ギア部
81,81a 係止アーム
81b 係止突起
82,82a 係止部
83 係止突起
84 係止解除片