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特許74693603,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/15 20060101AFI20240409BHJP
   C07C 65/05 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C07C51/15
C07C65/05
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022063603
(22)【出願日】2022-04-06
(65)【公開番号】P2023154332
(43)【公開日】2023-10-19
【審査請求日】2024-01-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501243753
【氏名又は名称】大阪新薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125450
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 広明
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 良一
(72)【発明者】
【氏名】戸川 崇光
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-61949(JP,A)
【文献】特開昭63-165341(JP,A)
【文献】特開平3-90047(JP,A)
【文献】特開平10-87562(JP,A)
【文献】特開平10-231271(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104086411(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112020507(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/15
C07C 65/05
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-メチルテトラヒドロピランを反応溶媒として、アルカリ金属水酸化物と化学式(1)で表わされる2,4-ジ-ターシャリーブチルフェノールとを反応させることにより、化学式(2)で表わされる該2,4-ジ-ターシャリーブチルフェノールの塩(但し、Xはアルカリ金属)を生成する第1工程と、
前記第1工程の後、前記反応溶媒と、前記2,4-ジ-ターシャリーブチルフェノールのアルカリ塩とを封入した、加熱した容器内に二酸化炭素を圧入することによって、3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の塩を生成する第2工程と、
前記第2工程の後、pH値が4未満となるようにpH値を調整するpH値調整工程を行うことによって、化学式(3)で表わされる前記3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸を含む固形物を得る第3工程と、を含む、
3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の製造方法。
【化1】
【請求項2】
前記第2工程においては、前記二酸化炭素の圧力が0.01MPa以上0.6MPa以下であり、且つ反応温度が90℃以上130℃以下である、
請求項1に記載の3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の製造方法。
【請求項3】
前記固形物の、前記3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の収率が、80%以上である、
請求項1又は請求項2に記載の3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の製造方法。
【請求項4】
前記反応溶媒の、前記2,4-ジ-ターシャリーブチルフェノールに対する質量比が、0.5以上3以下である、
請求項1又は請求項2に記載の3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸は、有用な化学物質として、例えば医薬品の中間体に用いられている。また、3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の化合物から派生して製造される錯体材料は、複写機のトナー添加物等として採用されている。
【0003】
この3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の製造方法の代表例は、サリチル酸のジブチル化反応、又は2,4-ジターシャリーブチルフェノールのアルカリ塩を二酸化炭素と反応せしめる、所謂コルベシュミット反応である。(特許文献1~5,非特許文献1~3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭62-61949号公報
【文献】特開2007-320880号公報
【文献】特開平10-59897号公報
【文献】特開平10-87562号公報
【文献】WO2004/031113号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】J.Chem.Eng.Data.14,309(1969)
【文献】Eur J Org Chem 3067(2001)
【文献】Synthetic Comm 37,2391(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述において説明した2つの製造方法のうち、前者の方法を採用すると、ジブチル化処理を行う際に、反応が複雑であるとともに副生成物が多く生成するため、精製工程が難しくなる。加えて、望まない副生成物であるトリターシャリーブチル化誘導体が含まれることによって使用が困難となる場合がある。また、非特許文献2及び3に開示される方法によれば、アルキル化の反応または位置選択性を持たせるための保護・脱保護の工程が追加的に必要になるため、工業化に不利である。
【0007】
一方、後者の方法を採用すると、高温及び高圧(例えば150℃以上、5MPa以上)の条件下における反応であり、コルベシュミット反応によるアルカリフェノキシ化が行われると、該アルカリフェノキシ化された化合物は、一般的に用いられるベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒に不溶化して反応が不均一となるため、高い収率及び純度を得ることができなくなるという問題が生じる。
【0008】
なお、特許文献3及び4においては、上述のアルカリフェノキシ化による不溶化によって生じる不均一反応を軽減するための方法も提案されている。その1つは、上述の芳香族溶媒と均一になり、アルカリフェノキシ化の親和性に富む一種の非プロトン性極性溶媒、N-メチルピロリドン(NMP)、3-メチルー2-オキサゾリジノン、1,3-ジメチルー2-イミダゾリジノン等を添加溶媒として採用する方法が開示されている。また、N,N-メチルアセトアミドを溶媒として採用する技術も開示されている。
【0009】
しかしながら、上述の各提案によれば、採用する極性溶媒を回収することができないために、最終的には水性廃液に混合されることになることから、環境への負荷が大きくなるという問題がある。
【0010】
特許文献5において開示される発明は、多少は環境負荷の軽減への貢献があるかも知れない。しかしながら、該発明は、コルベシュミット反応工程において、反応途中に生成されるアルカリフェノキシ誘導体が均一に攪拌される状態にするために、反応溶媒の役目も含め基質フェノール誘導体をアルカリ金属化合物に対して極めて過剰に用いるという反応溶媒を採用している。そのため、回収工程が追加的に必要となるだけでなく、その回収率も高くない。加えて、該発明は、160℃以上という極めて高い反応温度が必要であるとともに、生成物の精製が容易ではないため、該発明が開示する技術思想も工業化には不利である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述の各技術課題を解決することにより、非常に高い純度と高い収率を実現しつつ、工業化に適するとともに環境にも優しい、3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の製造方法の実現に大きく貢献し得る。
【0012】
本発明者らは、特許文献1において開示される発明の開示に基づいて追試を行った。その結果、本発明者らは、アルカリフェノキシ化後に脱水工程が行われると固体化するため、その固体を取り出して粉砕工程を行うことが必要となることから、特許文献1が開示する発明は工業化には不利であることを確認した。
【0013】
さらに、特許文献1が開示する発明においては、その粉砕工程によって得られる粉末をオートクレーブに仕込み、厳しい反応条件、具体的には140℃~160℃の高温、且つ13Kgf/cm(すなわち、1.3MPa)という高圧の条件下で二酸化炭素を吸収させるコルベシュミット反応が行われることになる。該コルベシュミット反応は不均一な反応であることから、上述の芳香性有機溶媒を用いる場合と同様、又はそれ以上に、固形物の析出による反応阻害の問題が発生する。
【0014】
本発明者らは、上述の各技術課題に直面し、様々な検討と分析を重ねた。その結果、本発明者らは、3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸を製造するための溶媒の重要性に着眼した。具体的には、反応過程において固形物が析出しない反応を実現し得る溶媒を採用することができれば、例えば、溶液を継続して撹拌しつつ反応を進めることによって略均一な反応を実現することが可能となる。
【0015】
そこで、本発明者らが鋭意、研究と分析に取り組み、また試行錯誤を重ねた結果、ある特定の溶媒を採用することにより、略均一な溶液における反応を確度高く実現できるとともに、従来技術と比較して、より低い圧力とより低い温度の条件下においても、3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸を製造することが可能となることが分かった。
【0016】
さらに、大変興味深いことに、上述の溶媒を採用すると、非常に高い純度及び収率を実現することができるだけではなく、その溶媒が最終的に生成される廃液には殆ど混入しないため、3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の製造過程によって生成される水性廃液による環境負荷が非常に小さくなることが明らかとなった。これは、廃液処理の容易化、すなわち低コスト化をも実現し得ることになる。本発明は、そのような視点と経緯により創出された。
【0017】
本発明の1つの3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の製造方法は、4-メチルテトラヒドロピランを反応溶媒として、アルカリ金属水酸化物と化学式(1)で表わされる2,4-ジ-ターシャリーブチルフェノールとを反応させることにより、化学式(2)で表わされる該2,4-ジ-ターシャリーブチルフェノールの塩(但し、Xはアルカリ金属)を生成する第1工程と、該第1工程の後、該反応溶媒と、該2,4-ジ-ターシャリーブチルフェノールのアルカリ塩とを封入した、加熱した容器内に二酸化炭素を圧入することによって、3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の塩を生成する第2工程と、該第2工程の後、pH値が4未満となるようにpH値を調整するpH値調整工程を行うことによって、化学式(3)で表わされる前述の3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸を含む固形物を得る第3工程と、を含む。
【化1】
【0018】
この3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の製造方法によれば、上述の反応溶媒を採用することにより、略均一な溶液における反応を確度高く実現できるとともに、従来技術と比較して、より低い圧力とより低い温度の条件下において3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸を製造することができる。また、該製造方法によれば、非常に高い純度及び収率を実現することができるだけではなく、該反応溶媒が最終的に生成される廃液には殆ど混入しないため、該廃液よる環境負荷が非常に小さくなる。従って、廃液処理の容易化、すなわち低コスト化をも実現し得る。
【発明の効果】
【0019】
本発明の1つの3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の製造方法によれば、略均一な溶液における反応を確度高く実現できるとともに、従来技術と比較して、より低い圧力及び温度の条件下において3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸を製造することができる。また、該製造方法によれば、非常に高い純度及び収率を実現することができるだけではなく、該製造方法による該廃液の環境への負荷を非常に小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1における第1工程後の、反応溶液の光学写真である。
図2】実施例1における第3工程後の高速液体クロマトグラフ(HPLC)の図である。
図3】比較例1における第1工程後の、反応溶液の光学写真である。
図4】比較例2における第1工程後の、反応溶液の光学写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1の実施形態>
つぎに、本発明の実施形態について説明する。
【0022】
本実施形態の3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸は、次の(a)~(c)に示す各工程を含む製造方法により製造することができる。
(a)4-メチルテトラヒドロピランを反応溶媒として、アルカリ金属水酸化物と、以下の化学式(1)で表わされる2,4-ジ-ターシャリーブチルフェノールとを反応させることにより、以下の化学式(2)で表わされる該2,4-ジ-ターシャリーブチルフェノールの塩(但し、Xはアルカリ金属)を生成する第1工程
(b)第1工程の後、該反応溶媒と、該2,4-ジ-ターシャリーブチルフェノールのアルカリ塩とを封入した、加熱した容器内に二酸化炭素を圧入することによって、3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の塩を生成する第2工程
(c)第2工程の後、pH値が4未満となるようにpH値を調整するpH値調整工程を行うことによって、以下の化学式(3)で表わされる前述の3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸を含む固形物を得る第3工程
【0023】
【化2】
【0024】
次に、上述の各工程について詳細に説明する。
【0025】
まず、第1工程においては、本発明者らは、出発材として、上記の化学式(1)で表わされる2,4-ジ-ターシャリーブチルフェノールを採用した。また、本発明者らは、第1工程、第2工程、及び第3工程の全ての工程に亘って用いるための反応溶媒として、4-メチルテトラヒドロピランを採用した。
【0026】
本発明者らは、上述のとおり、研究と分析に鋭意取り組み、また試行錯誤を重ねた結果、反応溶媒として、市販においても入手し得る、毒性の低いテトラヒドロピラン誘導体の一つを採用することとした。本実施形態において、テトラヒドロピラン誘導体の中でも、特に4-メチルテトラヒドロピランを採用することにより、略均一な溶液における反応と、公知技術よりも低い圧力とより低い温度の条件下における反応の実現に貢献し得ることを本発明者らは確認した。また、4-メチルテトラヒドロピランは、単蒸留によって回収することが可能であることから、製造原価を抑えるとともに、最終的に生成される廃液による環境への負荷を顕著に軽減し得る。
【0027】
従って、第1工程においては、アルカリ金属水酸化物(好適には、水酸化ナトリウム(NaOH)又は水酸化カリウム(KOH)、より好適には、水酸化ナトリウム(NaOH))と2,4-ジ-ターシャリーブチルフェノールとを反応させる。本実施形態においては、略均一な溶液における反応が行われることにより、上記の化学式(2)で表わされる該2,4-ジ-ターシャリーブチルフェノールの塩(但し、Xはアルカリ金属)が生成される。なお、第1工程において採用され得る、上述の反応溶媒(4-メチルテトラヒドロピラン)の出発材(2,4-ジ-ターシャリーブチルフェノール)に対する質量比は特に限定されないが、該反応溶媒に対する該出発材の質量比が0.5以上3以下であることは、経済的合理性、及びその後の処理工程への影響を軽減する観点から好適な一態様である。
【0028】
第1工程における反応は、例えば、アルカリ金属水酸化物と、2,4-ジ-ターシャリーブチルフェノールと、反応溶媒である4-メチルテトラヒドロピランとを、還流器を接続したオートクレーブ反応器に導入した後、所定の温度(例えば、105℃~120℃)によって加熱し、該反応によって生成される水の留出が確認できなくなるまで、第1工程の反応を継続させる。
【0029】
ところで、第1工程における反応過程において、略均一な溶液における反応を実現できることは特筆に値する。換言すれば、本実施形態の第1工程においては、該溶液の溶質がスラリー化又は固形化すること、あるいは析出することが確度高く防止され得る、という効果が発揮される。この略均一な溶液を用いて反応を行うことによって、後述する、第2工程において従来よりも低い圧力とより低い温度の条件下における反応を実現し得るとともに、最終的に得られる3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸又はその化合物の収率及び純度を飛躍的に高めることが可能となる。
【0030】
その後、上述の第2工程が行われる。具体的には、上述の反応溶媒と、第1工程によって生成された2,4-ジ-ターシャリーブチルフェノールの塩とを封入し、所定の反応温度(例えば、90℃以上130℃以下)となるように加熱した容器内に、二酸化炭素を所定の圧力(0.01MPa以上0.6MPa以下)の条件下において圧入する。その結果、3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の塩を生成することができる。
【0031】
第2工程における反応は、例えば、第1工程において採用された還流器の還流経路の遮断した後に行われる。上述のように該容器内に圧入した二酸化炭素が消費されなくなった後も該容器内の生成物を継続して撹拌したうえで、減圧した圧力条件(例えば、約15kPa以上30kPa以下)の下で、反応溶媒である4-メチルテトラヒドロピランを留去する。本実施形態においては、この反応溶媒を、90%以上(より狭義には、94%以上)回収することに成功している。
【0032】
その後、上述の第3工程が行われる。なお、第2工程において得られた3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の塩を含む固形物に、水と抽出溶媒(例えば、トルエン)とを加えて分液処理が行われることは好適な一態様である。
【0033】
第3工程においては、その後、pH値調整剤(例えば、硫酸)を用いてpH値が4未満(より好適には、pH値が2以上3以下)となるようにpH値を調整する、pH値調整工程が行われる。具体的には、第2工程までの反応に用いた反応溶媒4-メチルテトラヒドロピランの留去による上述の回収によって得られた水層の該pH値を調製する。その結果、析出した固形物を濾過し、乾燥させることにより、3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸を製造するこができる。
【0034】
上述のとおり、本実施形態の製造方法を採用することにより、略均一な溶液における反応を確度高く実現できるとともに、従来よりも低い圧力及び温度の条件下においても、3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸を製造することが可能となる。加えて、本実施形態に製造方法によれば、非常に高い純度(例えば、99%以上)及び非常に高い収率(80%以上(より詳細には、モル換算で80%以上。以下同じ。)、より狭義には、90%以上)を実現することができるだけではなく、その溶媒が最終的に生成される廃液には殆ど混入しないため、3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の製造過程によって生成される水性廃液による環境負荷が非常に小さくなることが明らかとなった。これは、廃液処理の容易化、すなわち低コスト化をも実現し得ることになる。
【0035】
[実施例]
以下、上述の第1の実施形態をより詳細に説明するために、実施例1及び2を比較例1乃至3とともに説明するが、上述の実施形態及び変形例は、これらの例によって限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
本実施例は、例えば実験室において行われる程度の量の3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸を得るための例である。
【0037】
本実施例においては、まず、反応溶媒である4-メチルテトラヒドロピラン150gと、2,4-ジターシャリーブチルフェノール135gと、48.5%苛性ソーダ水(水酸化ナトリウム水溶液)57gとを、還流器を接続したオートクレーブ反応器内に導入した。その後、撹拌しながら、約110℃に加熱することにより、水の留出がなくなるまで第1工程を継続した。この例においては、第1工程が約5時間行われた。
【0038】
図1は、実施例1における第1工程後の、反応溶液の光学写真である。図1中の矢印は、反応溶液を指すために描かれている。図1の写真に示すように、オートクレーブ反応器内の反応溶液は、略均一の状態、換言すれば均一性が高い状態であり、且つ透明度が高いことが確認できた。
【0039】
その後、該還流器の還流経路を遮断し、反応温度が105℃~110℃となるように設定した状態で、内圧が0.5MPaになるように二酸化炭素(CO)を圧入する第2工程を行った。その後、二酸化炭素に消費が無くなったと考えられる状態になった後、前述の温度帯の条件下で、3時間継続的に撹拌した。その後、減圧下にて反応溶媒である4-メチルテトラヒドロピランを留去した。この段階での該反応溶媒の回収率は約94%であった。
【0040】
第2工程を経ることによって得られた生成物(固体)を収容する反応容器内に、抽出溶媒(本実施例では、水)を導入することによって分液処理が施されたのち、pH値が4未満となるようにpH値を調整するための硫酸が導入される第3工程が行われた。なお、本実施例のpH値は約2~約3となった。
【0041】
その結果、析出した白色の固形物を濾過及び洗浄し、乾燥させると、3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸を約139g得ることができた。なお、本実施例の固形物における3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の収率は約84.8%であり、その純度は約100%であった。図2は、本実施例における第3工程後の高速液体クロマトグラフ(HPLC)の図である。図2に示すように、極めて高い純度の3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸が生成されていることが分かる。
【0042】
(実施例2)
本実施例は、例えば試作的、又は量産的に製造され得る量の3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸を得るための例である。
【0043】
本実施例においては、まず、反応溶媒である4-メチルテトラヒドロピラン40Kgと、2,4-ジターシャリーブチルフェノール30.8Kgと、48.5%苛性ソーダ水12.3Kgとを、還流器を接続した200Lが収容できるオートクレーブ反応器に導入した。その後、撹拌しながら、約110℃に加熱することにより、水の留出がなくなるまで第1工程を継続した。この例においては、第1工程が約6時間行われた。
【0044】
その後、該還流器の還流経路を遮断し、反応温度が105℃~110℃となるように設定した状態で、内圧が0.5MPaになるように二酸化炭素(CO)を圧入する第2工程を行った。その後、二酸化炭素に消費が無くなったと考えられる状態になった後、前述の温度帯の条件下で、3時間継続的に撹拌した。その後、減圧下にて反応溶媒である4-メチルテトラヒドロピランを留去した。この段階での該反応溶媒の回収率は約95%であった。
【0045】
第2工程を経ることによって得られた生成物(固体)を収容する反応容器内に、抽出溶媒(本実施例では、水)を導入することによって分液処理が施されたのち、pH値が4未満となるようにpH値を調整するための硫酸が導入される第3工程が行われた。なお、本実施例のpH値は約2~約3となった。
【0046】
その結果、析出した白色の固形物を濾過及び洗浄し、乾燥させると、3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸を約34.7kg得ることができた。なお、本実施例の固形物における3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の収率は約92.8%であり、その純度は約99.8%であった。
【0047】
[比較例]
次に、比較例について説明する。
【0048】
(比較例1)
本比較例においては、上述の実施例1における反応溶媒の4-メチルテトラヒドロピランの代わりに、トルエン150gを該溶媒として採用した点を除き、第1実施例の条件と同一の条件において各処理が行われた。
【0049】
その結果、第1工程の際に溶質が固化した。図3は、本比較例における第1工程後の、反応溶液(又は反応混合物)の光学写真である。図3中の矢印は、反応溶液を指すために描かれている。図3に示すように、図1の写真とは明らかに異なり、透明性が失われるとともに溶質の固化又は析出が非常に進んでいることが確認された。その後、本発明者らは、前述の状態であっても撹拌を継続し、その後、第2工程及び第3工程を行った。
【0050】
その結果、析出した白色の固形物を濾過及び洗浄し、乾燥させると、3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸を約59.3g得ることができた。なお、本実施例の固形物における3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の収率は約36.2%であり、その純度は約96.6%であった。
【0051】
(比較例2)
本比較例においては、上述の実施例1における反応溶媒の4-メチルテトラヒドロピランの代わりに、トルエン150g及び極性溶媒のNMP15gを該溶媒として採用した点を除き、第1実施例の条件と同一の条件において各処理が行われた。
【0052】
その結果、第1工程の際に溶質がスラリー化した。図4は、本比較例における第1工程後の、反応溶液(又は反応混合物)の光学写真である。図4中の矢印は、反応溶液を指すために描かれている。図4に示すように、図1の写真とは明らかに異なり、透明性が失われるとともに溶質の少なくとも一部の固化又は析出が進んでいることが確認された。その後、本発明者らは、前述の状態であっても撹拌を継続し、その後、第2工程及び第3工程を行った。
【0053】
その結果、析出した白色の固形物を濾過及び洗浄し、乾燥させると、3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸を約65.7g得ることができた。なお、本実施例の固形物における3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の収率は約40.1%であり、その純度は約98.4%であった。
【0054】
(比較例3)
本比較例においては、本発明者らは、特許文献2の実施例1に記載された方法と同様に、反応溶媒を用いなかった(すなわち、無溶媒である)点を除き、第1実施例の条件と同一の条件において各処理を行おうと試みた。
【0055】
しかしながら、第1工程において固化が生じた結果、本発明者らは、工業的見地から継続不能あり、第2工程における圧力条件を採用することも不可能であると判断し、その後の処理を行うことを断念した。
【0056】
[各実施例と各比較例の一覧表]
以下に、上述の各実施例及び各比較例の結果をまとめた表を示す。なお、表を見易くするために表内の数値については、「約」の文字が省略されている。また、比較例1及び2においては、既に説明したとおりの状況となったため、反応溶媒を回収することが困難又は不可能であった。
【0057】
【表1】
【0058】
上述の実施形態及び各実施例は、本発明を何ら限定するものではない。上述の実施形態及び各実施例の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸の製造方法は、有用な化学物質の製造方法として、多様な用途の材料(例えば、医薬品の中間体又は複写機のトナー添加物等)の製造方法又はその一部として広く利用され得る。
図1
図2
図3
図4