(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】気泡多孔体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/30 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
C08J9/30
(21)【出願番号】P 2022139393
(22)【出願日】2022-09-01
(62)【分割の表示】P 2021134311の分割
【原出願日】2016-12-07
【審査請求日】2022-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000127307
【氏名又は名称】株式会社イノアック技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】菊地 敦紀
(72)【発明者】
【氏名】幾井 隆介
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-128931(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052599(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152660(WO,A1)
【文献】特開2013-082767(JP,A)
【文献】特開2011-241375(JP,A)
【文献】特表2009-506149(JP,A)
【文献】特開2013-136646(JP,A)
【文献】特開2016-171062(JP,A)
【文献】特開2002-348110(JP,A)
【文献】特開2005-015737(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105482435(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0197201(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0189619(US,A1)
【文献】中国実用新案第204031708(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂内に分散した熱伝導性材料とを含有し、前記熱伝導性材料が少なくとも球状黒鉛を含有する気泡多孔体であって、
前記気泡多孔体の密度が250~600kg/m
3である、ことを特徴とする気泡多孔体。
【請求項2】
マトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂内に分散した熱伝導性材料とを含有し、前記熱伝導性材料が少なくとも球状黒鉛を含有する気泡多孔体であって、
前記気泡多孔体の厚みが0.1~1mmである、ことを特徴とするシート状気泡多孔体。
【請求項3】
マトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂内に分散した熱伝導性材料とを含有し、前記熱伝導性材料が少なくとも球状黒鉛を含有する気泡多孔体が配置されたエレクトロニクス製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子・電気機器製品(エレクトロニクス製品)、特に、薄型・高性能なスマートフォン、パソコン、テレビ等の内部構造が複雑な電子・電気機器製品、の放熱用部材等として有用な気泡多孔体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子・電気機器製品(エレクトロニクス製品)、特にスマートフォン、パソコン、テレビなどの製品は年々、薄型化、高性能化が進んでいる。一方で、データ処理速度が高速化する等により、発熱量が増大する上、内部の構造が複雑であるため、熱がこもりやすくなってきている。その発生した熱により、電子部品の短命化、熱膨張による筐体の変形、低温火傷などの問題が生じる可能性がある。そのため、電子・電気機器製品内部には、放熱を目的として、熱伝導性物質を含む部材が配置されている。従前、当該部材として、熱伝導性物質を含むシリコーン、アクリル等のゲルからなる部材が用いられていたが、前記ゲルからなる部材は、高い熱伝導性を有するが、高硬度であり、圧縮時の応力が高いため、柔軟性に欠け、近年の複雑な内部構造を有する電子・電気機器内に内部構造に追従させて配置するのは困難である。
【0003】
特許文献1には、電子機器用放熱シート等の製造に利用可能な発泡性組成物が開示されている。しかし、特許文献1には、上記形状追従性、即ち柔軟性の観点の問題点・その解決については記載がない。また、この発泡性組成物は、必須成分としてシリコーン系界面活性剤を含むため、当該組成物から製造された放熱シートが高温に曝された場合に、低分子シロキサン成分が遊離し、劣化するという問題があり、耐熱性に欠ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、放熱部材として利用可能な新規な気泡多孔体及びその製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明の他の課題は、放熱性を損なうことなく、適度な柔軟性があり、他部材の形状に対して追従性がある気泡多孔体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記課題を解決するため検討した結果、熱伝導性材料として球状黒鉛を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。上記課題を解決するための手段は以下の通りである。
[1] マトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂内に分散した熱伝導性材料とを含有し、前記熱伝導性材料が少なくとも球状黒鉛を含有する、ことを特徴とする気泡多孔体。
[2] 前記球状黒鉛が、ベーサル面を褶曲させた構造である、[1]の気泡多孔体。
[3] 前記マトリックス樹脂が、アクリル樹脂である、[1]又は[2]の気泡多孔体。
[4] 前記熱伝導性材料が、金属酸化物を更に含有する、[1]~[3]のいずれかの気泡多孔体。
[5] 前記気泡多孔体の全質量を基準として、前記熱伝導性材料を40~60質量%含有する、[1]~[4]のいずれかの気泡多孔体。
[6] 前記熱伝導性材料が、金属酸化物と球状黒鉛とを配合比率(質量比)0:10~5:5で含有する、[1]~[5]のいずれかの気泡多孔体。
[7] 連続気泡多孔体である、[1]~[6]のいずれか一項記載の気泡多孔体。
[8] JIS K 6254に準拠して測定した25%圧縮荷重が、20kPa以下であり、京都電子工業株式会社製QTM-500を用いてプローブ法で測定した熱伝導率が、0.3W/m・K以上である、[1]~[7]のいずれかの気泡多孔体。
[9] エレクトロニクス製品の放熱材用である、[1]~[8]のいずれかの気泡多孔体。
[10] 側鎖に官能基を有する樹脂、起泡剤及び球状黒鉛を含有する液体組成物を機械発泡させる発泡工程と、前記樹脂が有する官能基同士を反応させる、及び/又は多官能性の架橋剤の官能基と反応させることで硬化させる工程とを含み、
発泡工程と硬化工程とを同時に実施する、及び/又は発泡工程の後に硬化工程を実施する、気泡多孔体の製造方法。
[11] 前記起泡剤が、前記液体組成物のpHが中性からアルカリ領域であり、及び前記起泡剤が少なくとも1種のアニオン性界面活性剤を含む、[10]の製造方法。
[12] 前記気泡多孔体が、[1]~[9]のいずれかの気泡多孔体である、[10]又は[11]の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、放熱部材として利用可能な新規な気泡多孔体及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、放熱性を損なうことなく、適度な柔軟性があり、他部材の形状に対して追従性がある気泡多孔体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の気泡多孔体及びその製造方法について詳述する。本明細書において、「~」はその前後の数値を含む範囲を意味する。
【0009】
[気泡多孔体]
本発明の気泡多孔体は、マトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂内に分散した熱伝導性材料とを含有し、前記熱伝導性材料が少なくとも球状黒鉛を含有する、ことを特徴とする。
(1)球状黒鉛
球状黒鉛は、高い熱伝導性があり、本発明の気泡多孔体の放熱性発現及び/または改善に寄与する。本発明に使用可能な黒鉛は球状である。本発明において、「球状」とは、真球状のみを意味するのではなく、真球形状が円盤状様に若干変形した形状、表面が一様ではなく、表面に層が重なったキャベツ様な外観を有する形状等、一般的には、真球形状とは把握されないものも含む趣旨である。但し、天然黒鉛の結晶形は六方晶形であり、一般的には、未処理の黒鉛は鱗片状であるので、これとは区別される。即ち、本発明には、少なくとも球状化処理が施された黒鉛を使用することを要する。球状化処理には、鱗片状の天然黒鉛を粉砕処理する等の簡易な処理方法も含まれるが、好ましくは、黒鉛に対して等方的に圧力が負荷される処理方法の採用である。当該処理は、気体(アルゴン等の不活性ガス)、液体(例えば水)等の加圧媒体を用いて、等方的に黒鉛に圧を負荷する方法等により実施できる。加熱の有無により、熱間等方加圧処理、冷間等方加圧処理として区別される。いずれを利用してもよい。この処理を施すことで、外形が球形であり、しかも内部の空壁(鱗片層間)が軽減された、高熱伝導性の球状黒鉛が得られる。
【0010】
上記球状化処理された球状黒鉛は、他の側面から、ベーサル面を褶曲させた構造を有する球状黒鉛として特定される。ここで、「ベーサル面」とは、黒鉛結晶(六方晶系)のC軸に直交する面をいう。即ち、本発明の球状黒鉛は、天然黒鉛の結晶系に歪みが生じているものであるのが好ましい。この歪みは、X線回折パターンを測定し、天然黒鉛と比較して、ピークのブロード化の有無又は2θ値のシフトの有無を確認することで把握できる。また、気泡多孔体が、球状黒鉛を含有するか否かの確認は、原料黒鉛のX線回折パターンを測定することで確認する他、気泡多孔体の任意の2以上の断面を顕微鏡観察し、黒鉛相当部分の形状が円様であるか否かによって確認することもできる。具体的には、気泡多孔体の互いに直交する面を顕微鏡観察し、いずれの画像にも黒鉛相当部分の形状が、短径/長径の比が1/2未満の円様の形状であれば、当該気泡多孔は球状黒鉛を含んでいると言える。
【0011】
本発明に使用可能な球状黒鉛の例には、ハイブリダイゼーションシステムを用いた高速気流中衝撃法等によって鱗片状黒鉛などの非球状の黒鉛微粉を球状化処理したもの;及び石油系または石油系のピッチを結晶化させた球状のカーボン粒子や熱硬化性樹脂を硬化させて粉末を得、該粉末を黒鉛化して得られたもの;などが挙げられる。熱伝導性の観点から、前者が好ましい。
【0012】
球状黒鉛としては市販品も好適に用いることができ、その具体例としては、日本黒鉛工業社製の球状化黒鉛などが挙げられる。本発明に用いる球状黒鉛の平均粒径(メジアン径)は、1~100μm程度である。放熱性確保と柔軟性確保とは一方を改善すると他方が低下するという傾向があるが、比較的平均粒径の小さい球状黒鉛を用いると、双方の性質をバランスよく改善できるので好ましい。気泡多孔体の最終形状によって、好ましい平均粒径範囲は変動するが、厚さ0.1~1.0mm程度のシート状の形態では、5~30μm程度であるのが好ましく、5μm~15μmであるのがより好ましい。
【0013】
球状以外の異方性形状(矩形状、鱗片(フレーク)状)の黒鉛を用いると、気泡多孔体の放熱性にも異方性が生じ、黒鉛添加による放熱性の改善が不十分になる。但し、不純物として異方性形状の黒鉛が、本発明の効果を少なくとも得られる程度に少い割合で、不可避的にもしくは任意に含む態様が、本発明から排除されるものではない。球状黒鉛は、全黒鉛の90質量%以上であるのが好ましく、95質量%以上であるのが好ましく、99質量%以上であるのがさらに好ましい。
【0014】
(2)マトリックス樹脂
本発明の気泡多孔体は、マトリックス樹脂を含有する。マトリックス樹脂は、本発明の気泡多孔体の主成分である。マトリックス樹脂の一態様は、線状の複数の高分子鎖が、架橋剤もしくは高分子鎖自体が有する官能基によって架橋された三次元網目構造を有する樹脂である。
【0015】
マトリックス樹脂の種類については特に制限はなく、気泡多孔構造を形成可能な、より具体的には、発泡処理によって多孔構造を形成可能な樹脂であれば、いずれも利用できる。使用可能な樹脂の例には、アクリル樹脂;ウレタン樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂; ポリ塩化ビニル樹脂;ポリスチレン樹脂;メラミン樹脂、尿素樹脂等のアミノ系樹脂;フェノール樹脂;が含まれる。マトリックス樹脂は、上記態様では、別途添加される架橋剤によって、及び/又は自己が有する官能基によって形成された架橋構造を有する。安定的に多孔構造を形成可能であること、黒鉛との併用により柔軟性のある多孔体を形成可能であることから、アクリル樹脂及びウレタン樹脂が好ましい。また、用途によっては高温に曝される場合があるので、耐熱性の高い樹脂が好ましく、その観点では、アクリル樹脂が好ましい。マトリックス樹脂がアクリル樹脂の態様では、150℃の高温に曝されても、放熱性を維持するとともに、顕著な熱劣化がない。
【0016】
前記アクリル樹脂の重合性単量体の例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アルリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルプロピオン酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸ハーフエステル、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のカルボキシル基を有する不飽和結合含有単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有重合性単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有重合性単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0017】
マトリックス樹脂の主成分は、架橋構造を有するアクリル樹脂がより好ましい。架橋構造を有するアクリル樹脂の例には、官能基を側鎖に導入可能な(メタ)アクリル酸エステルを単独で、又は側鎖に官能基を導入可能な1種以上の他のモノマー(例えばイタコン酸、アクリルニトリル)とともに共重合させるのと同時に又は重合後に、架橋反応を進行させて架橋構造を形成したアクリル樹脂が含まれる。一旦、側鎖に官能基を有するアクリル樹脂を得た後、架橋構造を形成するのが好ましい。架橋構造は、樹脂の側鎖部分の官能基間の反応によって、及び/又は当該官能基と別途添加される架橋剤との反応によって、形成することができる。アクリル樹脂は、架橋構造を形成するのに寄与する官能基を有するのが好ましく、その例には、水酸基、カルボキシル基、ニトリル基、グリシジル基、スルホン基等が含まれる。
【0018】
また、架橋剤としては、従来公知の架橋剤を用いることができ、その例には、2官能性以上の多官能性化合物(本発明において、「多官能性化合物」とは2以上の官能基を有する化合物を意味する。一つの分子中に含まれる官能基は同一であっても異なっていてもよい。)が挙げられる。具体的には、脂肪族イソシアネートである、粗製ヘキサメチレンジイソシアネート(クルードHDI)もしくは前記クルードHDIを精製したヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)およびHDIの三量体であるHDIイソシアヌレート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、芳香族イソシアネートであるジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)およびトルエンジイソシアネート(TDI)のイソシアネート基をブロック剤で変性したブロック型ポリイソシアネート等のイソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、メラミン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤などを、使用する樹脂配合系が含有する官能基の種類及び、官能基量に応じて適量使用することができる。架橋構造の一例は、アクリル樹脂が側鎖に有する上記いずれか1種以上の官能基と、架橋剤が有するジイソシアネート基との反応によって形成される架橋構造である。
【0019】
(3)添加剤
本発明の気泡多孔体は、上記マトリックス樹脂及び球状黒鉛とともに、他の添加剤を含んでいてもよい。
添加剤の一例は、黒鉛以外の熱伝導性材料である。球状黒鉛とともに、他の熱伝導性材料を添加することで、放熱性をより高めることができる。他の熱伝導性材料の例には、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物;酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物;タルク等の粘土鉱物が含まれる。併用する熱伝導性材料の熱伝導率は、30W/m・K以上であるのが好ましい。また、熱伝導性材料の中には、硬度の高い材料があり、用いると本発明の気泡多孔体の柔軟性が失われる場合があるので、硬度の低い熱伝導性材料を用いるのが好ましい。具体的には、モース硬度が9以下、より好ましくはモース硬度が6以下、の材料を用いるのが好ましい。放熱性及び柔軟性の観点から好ましい態様の一例は、熱伝導性材料として、球状黒鉛とともにモース硬度が前記範囲の金属酸化物を含有する態様である。
【0020】
添加剤の他の例には、界面活性剤の1種又は2種以上が含まれる。界面活性剤は、発泡処理の過程で安定的に気泡を形成するのに寄与する。即ち、起泡剤として機能する。また、マトリックス樹脂中に、球状黒鉛を安定的に分散させるのにも寄与する。特に球状黒鉛に対して湿潤性に優れた界面活性剤を使用すると、マトリックス樹脂に対する球状黒鉛の高い分散性を確保できるので好ましい。従来公知のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。気泡形成安定性及び湿潤性に優れた界面活性剤の例には、スルホコハク酸塩類(例えばジアルキルスルホコハク酸コハク酸ナトリウム)、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類といった親水性スルホン基を含むアニオン性界面活性剤が含まれる。また、湿潤性に優れた界面活性剤の例には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルといったポリオキシアルキレン鎖を有するノニオン性界面活性剤が含まれる。本発明では、気泡形成安定性及び湿潤性の双方に優れた前記アニオン性界面活性剤の1種以上を用いる、又は上記アニオン性界面活性剤の1種以上とともに、上記湿潤性に優れるノニオン性界面活性剤の1種以上を用いるのが好ましい。また、アミノ酸型、ベタイン型、アミンオキシド型等の両性界面活性剤を1種以上用いてもよい。
【0021】
本発明は、界面活性剤としてシリコーン系界面活性剤を使用しなくても、高い放熱性を有する気泡多孔体が得られるという点にも特徴がある。シリコーン系界面活性剤は、気泡形成安定性に優れるが、高温に曝されると低分子シロキサンが遊離するという問題がある。本発明は、界面活性剤としてシリコーン系界面活性剤を使用しないことで、シリコーンフリーの耐熱性に優れる気泡多孔体を提供できる。
【0022】
本発明の効果を害しない範囲で、その他、増粘剤、気泡核剤、可塑剤、滑剤、着色剤、酸化防止剤、充填剤、補強剤、難燃剤、帯電防止剤、表面処理剤等の公知の添加成分を使用してもよい。
結果、得られる気泡多孔体のガラス転移温度(Tg)は、-80~0℃が好ましい。より好ましくは、-60~-10℃である。このガラス転移温度は、気泡多孔体の硬度指標とすることができる。Tgが-80℃より低すぎると気泡多孔体が、柔らかくなりシート等の腰がなくなり、また、Tgが0℃より高いと、気泡多孔体が、硬くなり柔軟性がなくなる。
【0023】
(4)組成
本発明の気泡多孔体に含まれる前記熱伝導性材料の割合は、気泡多孔体の全質量を基準として、30~70質量%であるのが好ましく、35~65質量%であるのがより好ましく、40~60質量%であるのがさらに好ましい。熱伝導性材料として、球状黒鉛のみを含有する態様では、球状黒鉛の割合が前記範囲であるのが好ましい。また、上記した通り、本発明には、熱伝導性材料として、球状黒鉛以外の材料、例えば金属酸化物を含んでいてもよいが、金属酸化物と球状黒鉛との質量比は、0:10~2:3であるのが好ましく、0:10~5:5であるのがより好ましい。
【0024】
(5)形態・性質
本発明の気泡多孔体中の気泡の形態については特に制限はないが、連続気泡であるのが好ましい。放熱性、柔軟性の観点から、連続気泡であるのが好ましい。なお、「連続気泡」とは、隣り合う気泡を隔てる樹脂膜に貫通孔があり、隣り合う気泡どうしが3次元的に連通している状態をいう。また、「連続気泡」構造であると、発泡体内部まで外気が通過できる性質がある。本発明では、厳密に全ての孔間が連通していることを要求するものではなく、一部閉じた孔が内部に存在していても、全体として外気が通過できる性質があれば、「連続気泡」構造であるとする。気泡の形態については、電子顕微鏡で観察することで確認できる。
【0025】
本発明の気泡多孔体の密度が250~600kg/m3であると、放熱性及び柔軟性の双方に優れるので好ましく、300~500kg/m3であると、より好ましい。密度が前記範囲より低いと、放熱性が低くなり、用途によっては(例えば、精密電子・電気機器製品内部に配置される放熱シートの用途には)適さなくなる。また密度が前記範囲を超えると、柔軟性が低くなり、硬度が高まる結果、複雑な構造に対する形状追従性が悪くなり、用途によっては(例えば、精密電子・電気機器製品内部に配置される放熱シートの用途には)適さなくなる。
【0026】
本発明によれば、高い放熱性及び高い柔軟性を示す気泡多孔体を提供できる。具体的には、 JIS K 6254に準拠して測定した25%圧縮荷重(厚さ25%分を圧縮する時に必要な圧力を意味する。「25%CLD(Compression-Load-Deflection)」と略記する場合がある。)が、20kPa以下であり、京都電子工業株式会社製QTM-500を用いてプローブ法で測定した熱伝導率が、0.3W/m・K以上である気泡多孔体を提供できる。柔軟性の観点からは、前記25%圧縮荷重は低いほど好ましいが、取り扱い性等の観点から、一般的には、25%圧縮荷重の下限値は3kPa程度になる。放熱性の観点からは、前記熱伝導率は高いほど好ましいが、一般的には上限値は0.7W/m・K程度になる。
【0027】
本発明の気泡多孔体の一実施形態は、厚み0.1~1mm程度のシート状の気泡多孔体である。本発明の気泡多孔体は、薄いシート状であっても、十分に高い放熱性を示すとともに、シート状であることにより、その柔軟性を活かして、複雑な内部構造を有する精密電子・電気機器製品内に容易に配置することできる。前記実施形態は、精密電子・電気機器製品内部にこもりがちであった熱を除去し、精密電子・電気機器製品の熱による劣化を軽減する放熱シートの用途に供することができる。
【0028】
(6)成形方法
本発明の気泡多孔体を所望の形状にするために、従来公知の種々の方法により、成形加工することができる。所望の最終形状に応じて適切な成形加工方法を選択することができる。シート状の気泡多孔体を製造する場合は、キャスティング法を利用することができる。気泡の導入処理(発泡処理)は、成形加工の前に行うのが好ましい。また、マトリックス樹脂が架橋構造を有する態様では、架橋構造の形成、即ち架橋反応の進行は、成形加工と同時に行ってもよい。
【0029】
(7)用途
本発明の気泡多孔体は、電子・電気機器製品の放熱材として用いるのに適する。その他、パッキング材としても有用である。特に内部構造が複雑な精密電子・電気機器製品の放熱材に適する。放熱部材の中には、耐熱性が悪く、熱源になる電子部品等に接触させずに配置されているものもある。本発明の気泡多孔体、特にマトリックス樹脂がアクリル樹脂である態様は、耐熱性にも優れるので、熱源になる電子部品に接触可能な接触型放熱材の用途に供することもできる。
【0030】
[気泡多孔体の製造方法]
本発明は、側鎖に官能基を有する樹脂、起泡剤及び球状黒鉛を含有する液体組成物を機械発泡させる発泡工程と、前記樹脂が有する官能基同士を反応させる、及び/又は多官能性の架橋剤の官能基と反応させることで硬化させる工程とを含み
発泡工程と硬化工程とを同時に実施する、及び/又は発泡工程の後に硬化工程を実施する、気泡多孔体の製造方法にも関する。
この方法によれば、本発明の気泡多孔体を安定的に製造することができる。
【0031】
(1)液体組成物の各成分
本発明の製造方法に用いる液体組成物は、少なくとも、側鎖に官能基を有する樹脂、起泡剤、及び球状黒鉛を含む。さらに、前記樹脂の硬化に寄与する多官能性化合物、即ち架橋剤を含んでいてもよい。側鎖に官能基を有する樹脂、起泡剤、球状黒鉛、及び架橋剤それぞれの好ましい例等については、上記[気泡多孔体]について説明した各成分の好ましい例等と同様である。
【0032】
液体組成物として調製するために、さらに溶媒を含んでいるのが好ましい。使用可能な溶媒の例には、水、有機溶媒(例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルカルビトール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のアルコール類、N-メチルピロリドン等の極性溶剤の1種または2種以上)が含まれるが、本発明では、水のみを用いるのが好ましい。有機溶媒を用いると、液体組成物の粘度が水を使用した場合と比較して高くなり、気泡形成安定性及び成形性が悪くなる。有機溶媒を含まないのが好ましいが、成形性に影響を与えない程度(例えば成形性を害する程度に粘度が向上しない程度)の割合で含んでいてもよい。
【0033】
(2)液体組成物の調製方法
前記液体組成物は、前記樹脂の水系エマルジョン及び球状黒鉛の水系分散液をそれぞれ調製して、これらを混合して調製すると、球状黒鉛の凝集等を生じさせずに液体組成物を調製できるので好ましい。前記樹脂の水系エマルジョン中の樹脂の固形分濃度、及び前記球状黒鉛の水系分散液中の球状黒鉛の固形分濃度については特に制限はないが、一般的には、50質量%~90質量%程度である。球状黒鉛の水系分散液中にあらかじめ起泡剤となる界面活性剤を混合しておくと、樹脂の水系エマルジョンと混合した際の樹脂中への球状黒鉛の分散安定性がより向上するので好ましい。特に、起泡剤として、湿潤性が良好な界面活性剤の少なくとも1種を用いると、球状黒鉛の樹脂中への分散安定性がより改善するので好ましい。中でも、気泡形成安定性及び湿潤性が良好な上記アニオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種を用いるのが好ましく、さらに湿潤性が良好な上記ノニオン性界面活性剤から選ばれる少なくとも1種を用いるのがより好ましい。例えば、球状黒鉛の水系分散液は、固形分20~60質量%程度の界面活性剤(起泡剤)の水溶液ないし水懸濁液に、球状黒鉛を混合することで調製できる。なお、架橋剤、他の熱伝導性材料等、他の添加剤を使用する態様では、球状黒鉛の水系分散液中に他の添加剤を添加して、樹脂の水系エマルジョンと混合して、液体組成物を調製するのが好ましい。
【0034】
(3)液体組成物の組成・性質
前記液体組成物の全固形分濃度は、50~90質量%程度であり、65~85質量%であるのが好ましい。一般的には、液体組成物の全固形分中、樹脂(及び所望により添加される架橋剤)及び球状黒鉛(所望により添加される他の熱伝導性材料)の合計質量が95%以上になり、起泡剤(具体的には界面活性剤)等の他の添加剤の合計質量は5%以下になる。但し、用いる材料の種類等に応じて固形分中の各材料の好ましい質量割合も変動する。また、液体組成物のpHは、安定的に気泡を形成するために、中性からアルカリ領域であるのが好ましく、具体的には、pHが7以上であり、7~11であるのが好ましい。より好ましくは、7~9である。液体組成物のpHは、起泡剤の種類や添加量を調整することで前記好ましい範囲にすることができる。また、液体組成物の粘度は、以下の発泡工程において安定的に気泡を形成するために、10000~200000mPa・s程度であるのが適切である。
【0035】
(4)発泡工程
発泡工程では、前記液体組成物を攪拌して、気泡を発生させる、機械発泡を実施する。機械発泡(メカニカルフロス)法は、液体組成物を攪拌羽根等で攪拌することにより、大気中の空気等の気体をエマルジョン組成物に混入させて発泡させる方法である。撹拌装置としては、機械発泡法に一般に用いられる撹拌装置を特に制限なく使用可能であるが、例えば、ホモジナイザー、ディゾルバー、メカニカルフロス発泡機等を使用することができる。本発明では、機械発泡法により発泡工程を実施することで、独立気泡の形成を抑制し、連続気泡の形成を支配的にして、硬化後の多孔体の密度が大きくなるのを防止し、柔軟性の高い多孔体を得ている。
【0036】
攪拌条件については特に制限はないが、攪拌時間は、通常は1~10分、好ましくは2~6分である。また、上記の混合における攪拌速度は、気泡を細かくするために200rpm以上が好ましく(500rpm以上がより好ましく)、発泡機からの発泡物の吐出をスムーズにするために2000rpm以下が好ましい(800rpm以下がより好ましい)。発泡工程の温度条件についても特に制限はないが、通常は常温である。発泡と同時に後述の硬化工程も実施する場合は、官能基の反応を進行させるために加熱してもよい。
【0037】
(5)硬化工程
硬化工程では、前記樹脂が有する官能基同士を反応させる、及び/又は架橋剤の官能基と反応させることで、樹脂を硬化させる。この工程により、前記液体組成物が、気泡多孔体としての構造体になる。硬化工程は、発泡工程後に実施するのが好ましい。液体組成物中の溶媒(水)を蒸発させるため、及び架橋反応を進行させるために、加熱するのが好ましい。加熱温度及び加熱時間も、原料を架橋(硬化)させることができる温度及び時間であればよく、例えば、80~150℃(特に、120℃程度が好適)で1時間程度とすればよい。
【0038】
また、硬化工程は、得られる気泡多孔体を所望の形状にするための成形加工の一工程として実施されてもよい。例えば、シート状の気泡多孔体を製造する態様では、硬化工程を、キャスティング法の一工程として実施してもよい。具体的には、「(4)発泡工程」を実施した液体組成物を、基材表面に所望の厚みに流延し、加熱して溶媒(水)を蒸発させつつ、架橋反応を進行させて硬化させ、基材表面にシートを製造することができる。液体組成物を流延する基材としては、特に制限はなく、樹脂基材(厚み25~50μmPETフィルム、所望により表面が離型処理されたもの)、厚み2μm~100μmの金属基材またはテープ形状に裁断された長尺の金属基材、同様にテープ形状に裁断された厚み1μm~30μmのPETフィルムと2μm~100μmの粘着材層との積層基材、及び、テープ形状に裁断された長尺フィルムに積層された凹部の深さが2μm~100μm、凸部の高さが2μm~100μmの凹凸形状を有する粘着層からなるエアレス積層基材等を用いることができる。
【0039】
本発明の製造方法の一実施形態は、
側鎖に官能基を有する樹脂、起泡剤及び球状黒鉛を含有する液体組成物を機械発泡させる発泡工程と、
発泡工程の後に、前記液体組成物を基材の表面にシート状に流延する流延工程と、
流延工程の後に、前記樹脂が有する官能基同士を反応させる、及び/又は多官能性の架橋剤の官能基と反応させることで硬化させ、シートを得る硬化工程
とを含むシート状気泡多孔体の製造方法である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により、本発明の気泡多孔体及びその製造方法の効果について、具体的に説明する。
【0041】
(材料)
・マトリックス樹脂材料
マトリックス樹脂材料1として、アクリルニトリル-アクリル酸アルキルエステル-イタコン酸共重合体であるアクリル樹脂のエマルジョン(Tg-40℃、pH9、固形分濃度60質量%、溶媒は水)を準備した。
マトリックス樹脂材料2として、ウレタン樹脂のエマルジョン(pH8、固形分濃度60質量%、溶媒は水)を準備した。
・起泡剤
起泡剤として、以下の界面活性剤をそれぞれ準備した。
アニオン界面活性剤1として、ステアリン酸アンモニウムと水との混合液(pH11・固形分30%)を準備した。
アニオン界面活性剤2として、アルキルスルホコハク酸ナトリウムと水との混合液(pH9.3・固形分35%)を準備した。
両性界面活性剤1として、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインと水との混合液(pH7.5・固形分30%)を準備した。
両性界面活性剤2として、ミリスチルベタインと水との混合液(pH6.5、固形分36%)を準備した。
ノニオン界面活性剤1として、ポリオキシエチレンアルキルエーテルと水との混合液(pH6.5、固形分50%)を準備した。
【0042】
・架橋剤
架橋剤として、疎水系HDIイソシアヌレート(官能基数3.5)を準備した。
・熱伝導性材料(黒鉛)
黒鉛1として、日本黒鉛工業社製の球状黒鉛の粉体(平均粒径20μm)を準備した。この球状黒鉛は、球状化処理によって、黒鉛結晶(六方晶系)のベーサル面が褶曲されている。
黒鉛2として、黒鉛1と粒径のみ異なる日本黒鉛工業社製の球状黒鉛の粉体(平均粒径10μm)を準備した。
黒鉛3として、伊藤黒鉛工業社製の球状黒鉛の粉体(平均粒径20μm)を準備した。
この黒鉛は、黒鉛1、黒鉛2と異なり、黒鉛結晶(六方晶系)のベーサル面は褶曲していない球状に加工されたものである(球状に加工された鱗片状黒鉛)。
黒鉛4として、伊藤黒鉛工業社製の黒鉛の粉体(平均粒径20μm)を準備した。この黒鉛は、球状化処理されておらず、黒鉛結晶(六方晶系)のベーサル面は褶曲していない(鱗片状黒鉛)。
・熱伝導性材料(黒鉛以外)
金属酸化物1として、アルミニウムとマグネシウムからなる酸化物の粉体(形状:球状、平均粒径10μm、モース硬度6)を準備した。
金属酸化物2として、アルミニウムとマグネシウムからなる酸化物の粉体(形状:球状、平均粒径20μm、モース硬度6)を準備した。
金属酸化物3として、酸化アルミニウムの粉体(形状:球状、平均粒径20μm、モース硬度9)を準備した。
【0043】
(実施例1及び2)
下記表に示す割合で、黒鉛1、アニオン界面活性剤1、アニオン界面活性剤2、両性界面活性剤1、両性界面活性剤2、及びノニオン界面活性剤1を混合し、そこに架橋剤を添加して、黒鉛1の水分散液を調製し、これを、上記マトリックス樹脂用材料1の100質量部に添加・混合して、実施例1及び2用の液体組成物をそれぞれ調製した。
この液体組成物の全固形分濃度、及び熱伝導性材料の固形分濃度等は、下記表に記載の通りである。この液体組成物のpHは8.4であった。また粘度も機械発泡可能な粘度範囲であった。
【0044】
上記で調製した各液体組成物を、機械発泡法(攪拌500回転、攪拌時間3分、温度23℃)により発泡させ、その後、前記液体組成物を、離型処理したPETフィルム基材の表面にシート状に流延し、120℃に加熱して、水を蒸発させるとともに、架橋反応を進行させて、アクリル樹脂を硬化させて、気泡多孔シートを作製した。得られた気泡多孔シートの厚み、外観、密度、熱伝導率(高いほど放熱性に優れる)、硬度(低いほど柔軟性に優れる)、及び耐熱性のそれぞれを下記方法で測定し、その結果は、下記表に示す。
【0045】
(実施例3及び4)
上記液体組成物の調製において、黒鉛1に替えて黒鉛2を用いた以外は同様にして、下記表に示す組成の実施例3及び4用の各液体組成物をそれぞれ調製した。各液体組成物のpHは、実施例1の液体組成物と同様に8.4であった。
実施例3及び4の液体組成物それぞれを用いた以外は、上記と同様にして、実施例3及び4のシート状気泡多孔体をそれぞれ製造し、同様に評価した。結果を下記表に示す。
【0046】
(実施例5及び6)
上記液体組成物の調製において、黒鉛1に替えて黒鉛3を用いた以外は同様にして、下記表に示す組成の実施例5及び6用の各液体組成物をそれぞれ調製した。各液体組成物のpHおよび粘度は上記実施例と大差なく、メカニカルフロス法による気泡形成に関しても大差はなかった。
実施例5及び6の液体組成物それぞれを用いた以外は、上記と同様にして、実施例5及び6のシート状気泡多孔体をそれぞれ製造し、同様に評価した。結果を下記表に示す。
【0047】
(比較例1及び2)
上記液体組成物の調製において、黒鉛1に替えて黒鉛4を用いた以外は同様にして、下記表に示す組成の比較例1及び2用の各液体組成物をそれぞれ調製した。各液体組成物の粘度は上記実施例と比較して顕著に高く、メカニカルフロス法による気泡形成が劣っていた。
比較例1及び2の液体組成物それぞれを用いた以外は、上記と同様にして、比較例1及び2のシート状気泡多孔体をそれぞれ製造し、同様に評価した。結果を下記表に示す。
【0048】
(厚み)
各シートの厚みは、接触子がΦ50mmの厚みゲージを用いて測定した。測定値を下記表に示す。
(密度)
各シートの密度は、JIS K 6401に準拠して測定した。測定値を下記表に示す。
(外観評価)
各シート表面及び気泡(セル)の外観評価は目視にて行った。また作製したシートのいずれも、連続気泡であることは、走査型電子顕微鏡(200倍)により確認した。
セルが均一かつ表面が荒れていない場合を「○」、若干セルが荒れている、また表面状態が荒い場合を「△」、セルが非常に荒い、セルが形成されていないまたは表面状態が顕著に荒れている場合を「×」と評価した。結果を下記表に示す。
【0049】
(熱伝導率)
各シートの熱伝導率は、京都電子工業株式会社製 迅速熱伝導率計(QTM-500)を用いてプローブ法により測定した。熱伝導率が0.3W/m・K以上の場合を「○」、熱伝導率が0.2W/m・K以上、0.3W/m・K未満の場合を「△」、熱伝導率が0.2W/m・K未満の場合を「×」と評価した。評価結果を下記表に示す。
(柔軟性)
各シートの硬度をJIS K6254に準拠して測定した。具体的には、直径50mmに打ち抜いたサンプルをオートグラフを用いて、1mm/minの速度で厚さの25%を押しつぶした際の反発応力の大きさを測定した。測定には、(株)島津製作所製のAUTOGRAPH AGS-Xを用いた。25%CLDが20kPa未満の場合を「○」、25%CLDが20kPa以上、50kPa未満の場合を「△」、25%CLDが50kPa以上の場合を「×」と評価した。結果を下記表に示す。
(耐熱性)
各シートの温度150℃の恒温槽に336時間放置した後取り出し、常温常湿にて24時間放置後、サンプル片を作製し、引張強度測定を行った。引張強度は、JIS K6251に準拠して測定した。測定には、(株)島津製作所製のAUTOGRAPH AGS-Xを用いた。別途、150℃×336時間での処理前にも同様に引張強度を測定しておき、処理前後の引張強度の値を、以下の式に代入し、低下率を算出し評価した。
低下率=(処理後の引張強度÷処理前の引張強度)×100
低下率が20%未満の場合を「○」、20%以上、30%未満の場合を「△」、30%以上の場合を「×」と評価した。
【0050】
【0051】
上記表に示した結果から、球状黒鉛である黒鉛1~3を含む実施例1~6は、同じ割合で鱗片状黒鉛である黒鉛4を含む比較例1及び2と比較して、総合的評価として優れていることが理解できる。特に、平均粒径が比較的小さい(20μm未満)のベーサル面褶曲球状黒鉛を用いると、外観に悪影響を及ばさずに、熱伝導率(放熱性)と柔軟性の双方の改善効果が得られる組成の幅が広くなることが理解できる。
【0052】
一方、鱗片状の黒鉛4を用いた比較例1及び2は、実施例1~6と比較して、熱伝導率が悪い(放熱性に劣る)ことに加えて、外観も劣っていることが理解できる。この原因は、各シートの原料として用いた液体組成物の粘度が高く、機械発泡法によって安定的に気泡が形成されなかったことによるものと考えられる。鱗片状黒鉛の量が増えるほど液の粘度が増加する傾向にあるので、比較例の放熱性を改善するために、さらに鱗片状黒鉛の量を増加しても、熱伝導性の改善を図ることはできず、即ち、上記結果から、鱗片状の黒鉛を使用するのでは、球状黒鉛を使用した場合に得られる高い熱伝導性(放熱性)と柔軟性は実現し得ないと言える。
さらに、下記表に示す通り、比較例1用の組成物の調製において、黒鉛4とともに金属酸化物1を併用して、熱伝導率の改善を試みたが、熱伝導率の改善効果が若干得られたものの、一方で外観不良が顕著になった。即ち、鱗片状黒鉛と金属酸化物との併用では、熱伝導率の改善効果には限界があり、球状黒鉛を用いる本件発明の実施例の効果は得られないことが理解できる。
【0053】
【0054】
(実施例7~12)
上記実施例1又は2の液体組成物の調製に替えて、黒鉛1又は2の濃度を変える、黒鉛1又は2とともに金属酸化物(他の熱伝導性材料)を用いる、その混合割合を変更する等して、下記表に示す組成の実施例7~21用の各液体組成物をそれぞれ調製した。各液体組成物のpHは、実施例1又は2の液体組成物と同様に、8.4程度であった。
下記表に示す組成の各液体組成物を用いた以外は、上記実施例1等と同様にして、実施例7~21のシート状気泡多孔体をそれぞれ製造した。
【0055】
【0056】
上記表中に記載の実施例7~21は、球状黒鉛1又は2と金属酸化物1~3のいずれかを組み合わせた実施例である。いずれも鱗片状の黒鉛を用いた比較例1及び2と比較して、熱伝導率が高かった。中でも、黒鉛1又は2(特に黒鉛1)とモース硬度が9未満の金属酸化物1又は2と組み合わせた実施例7~14及び18~21は、モース硬度9の金属酸化物3を用いた実施例15~17と比較して、柔軟性改善効果に優れていた。モース硬度が9未満の金属酸化物を用いると、金属酸化物の影響による柔軟性低下を抑制でき、高い熱伝導率と柔軟性をバランスよく達成できる。
なお、放熱性が若干劣る実施例であっても、放熱性に対する要求が厳しくない用途(例えばパッキング材)には、有用であるし、また柔軟性が若干劣る実施例であっても、内部構造が複雑ではない電子・電気機器に放熱材として用いることができる。
【0057】
(実施例22~31)
上記実施例1の液体組成物の調製に替えて、黒鉛1の濃度を変える、黒鉛1とともに金属酸化物(他の熱伝導性材料)を用いる、その混合割合を変更する、マトリックス樹脂の種類を変更する等して、下記表に示す組成の実施例22~31用の各液体組成物をそれぞれ調製した。各液体組成物のpHは、実施例1の液体組成物と同様に8.4であったが、実施例31用の液体組成物のpHは8.0であった。また、液体組成物の中には、実施例1等の液体組成物と比較して、粘度が高く、機械発泡法による気泡形成に劣るものもあった。
実施例1の液体組成物を、各液体組成物に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例22~31のシート状気泡多孔体をそれぞれ製造した。
【0058】
【0059】
得られた各シートについて、実施例1等と同様に上記評価を行ったところ、いずれも総合評価として比較例より優れていて、実用に耐えるレベルであった。
上記表1、表3及び表4に示す実施例の評価結果から、特に、熱伝導性材料を40~60質量%含む実施例、全熱伝導性材料のうち球状黒鉛が占める割合が50質量%以上であると、高い放熱性と柔軟性をバランスよく有するシートが得られることが理解できる。
また、マトリックス樹脂としてアクリル樹脂を用いると、さらに耐熱性にも優れるシートが得られることが理解できる。
なお、上記実施例では、球状黒鉛の配合によって得られる効果を明確化するために、各実施例の界面活性剤の組成を同一にしたが、組成を変動しても、同様の効果が得られる。