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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】連節車両の自動運転方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/10 20060101AFI20240409BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20240409BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20240409BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240409BHJP
   B62D 115/00 20060101ALN20240409BHJP
   B62D 131/00 20060101ALN20240409BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
B60W30/10
B60W60/00
B62D6/00
B62D113:00
B62D115:00
B62D131:00
B62D101:00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022159300
(22)【出願日】2022-10-03
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】515213711
【氏名又は名称】先進モビリティ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000196587
【氏名又は名称】西日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】籾山 冨士男
(72)【発明者】
【氏名】葛西 佑亮
(72)【発明者】
【氏名】相馬 史典
(72)【発明者】
【氏名】吉永 靖男
(72)【発明者】
【氏名】羽坂 佳典
(72)【発明者】
【氏名】不破 邦博
(72)【発明者】
【氏名】近藤 創
(72)【発明者】
【氏名】松本 優希
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健二
(72)【発明者】
【氏名】柏田 庸介
(72)【発明者】
【氏名】高尾 千彰
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-144832(JP,A)
【文献】実開昭54-105447(JP,U)
【文献】特開2006-089970(JP,A)
【文献】特開2001-310651(JP,A)
【文献】特開2017-065454(JP,A)
【文献】特開2019-156066(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110550023(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
B62D 6/00- 6/10
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前車両と後車両が関節機構を介して編成され、エンジンを搭載する後車両がエンジンを搭載しない前車両を押す連節車両によって実行される自動運転方法であって、
連節車両の後車両の最後軸(最後軸の中心点)の軌道が予め決められた単車(単一車両)の最後軸(最後軸の中心点)と共通する目標経路を辿るように目標経路の曲率から連節車両の前車両と後車両との連節角を換算するにあたり、
車両重量変化、前車両の前軸コーナリング係数(Ccf)変化および後車両の後軸コーナリング係数(Ccr)変化に対応するスタビリティファクタ(Ksf)を用いて以下の式(20)から前車両の前輪実舵角(δ)を換算し、換算した操舵角に応じたあて舵を前車両の操舵軸に加えることを特徴とする連節車両によって実行される自動運転方法。
【数1】
【請求項2】
請求項1に記載の連節車両によって実行される自動運転方法において、前記スタビリティファクタ(Ksf)を以下の式(17i)を用いて算出することを特徴とする連節車両によって実行される自動運転方法。
【数2】
【請求項3】
請求項に記載の連節車両によって実行される自動運転方法において、前車両の前軸コーナリング係数(Ccf)を以下の式(18)、及び後車両の後軸コーナリング係数(Ccr)を以下の式(19)を用いて算出することを特徴とする連節車両によって実行される自動運転方法。
【数3】
【請求項4】
請求項1に記載の連節車両によって実行される自動運転方法において、前記前車両の実舵角に対する後車両の横すべり角(β 2 )とヨーレイト(r 2 を以下の式(16)式(17)を用いて算出することと特徴とする連節車両によって実行される自動運転方法。
【数4】

ここに、v2は後車両の重心点の速度、Vx1は前車両の前後速度、Vx2は後車両の前後速度
【請求項5】
請求項1に記載の連節車両によって実行される自動運転方法において、連節機に上下荷重を検出するロードセル(上下荷重センサ)を装備し、前車両と後車両の後軸の空気ばねのエア配管部に空気圧センサを装備して、乗客数変化に伴う車両重量変化を検出することを特徴とする連節車両によって実行される自動運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は計画された経路を運行するバス高速輸送システム(Bus Rapid Transit, BRT)に供される自動運転連節車両(Articulated Vehicle)とその制御に関する。
【背景技術】
【0002】
専用道路を走行するバスによって、鉄道並みの大量輸送を可能にするシステムをバス高速輸送(BRT)システムと称する。鉄道車両は、複数の車両が連結して同じ軌道レールの上を人の操舵を必要とせず走る。
バス高速輸送システムは、連節バス或いは単車バスが、レールのない路面を“人が運転操舵”して走る。本発明は、その“人の運転”を“自動運転”にし、且つ、複数の連節バス或いは連節バスと単車バスが1つの路線を共有して混在し混合し、互いに加減速を等しくして、1つの路線内で車間距離を詰めて、運行するシステムである。
【0003】
尚、ここで言う連節バスは、前側と後側の間に関節機構を有する二両編成のバスであり、エンジン(ガソリン・ディーゼル・水素エンジン、ハイブリッドエンジン、電動モータなどの動力源を総称)を搭載する後側車両が、エンジンを搭載しない前側車両を押して前進する。後から押されるため増加傾向になる連節角を抑制しての進路制御が必要になる。その点、エンジンを搭載する前側車両(トラクタ)がエンジンを搭載しない後側車両(トレーラ)を引くため前後車両の相対角が減少傾向になる牽引車と異なる。
【0004】
人の運転によってレールのない路面で、鉄道がレールの上を走る様に、バスが「同じ軌跡を描き」走行してきて、駅・バス停のプラットホーム・縁石に横づけして(接弦して・正着して)停車することは簡単ではない。
特に、後車両が前車両を押して前進する連節車両には、その押す力(駆動力)によって生じる連節角の増加を抑制しつつ経路を辿る運転技量、連節する前車両と同じ軌道を辿らない後車両の軌道を見込みながら車線を辿り且つ正着する運転技量が求められる。
【0005】
同じ軌跡を描く自動運転には、「経路の曲率乃至経路方位角と操舵角の関係式」が必要である。「後車両の軌道を見込む」の自動運転には「後車両の方位角乃至後車両の経路方位角と操舵角の関係式」が必要である。
【0006】
特許文献1は、その図1に単車の場合と連節車両の場合のバス停正着軌跡を図示して、単車及び連節車両いずれの場合にも「最後軸の軌跡が車両全体の動きの根幹になる」としているが、その図4に「後軸が描く軌跡を辿るハンドル角を算出する方法」を、単車のみを例に示し、連節車両については示していない。
【0007】
特許文献2は、連節車両の前部に走行レーンの画像を取得するカメラを備え、走行レーンの画像から経路と推奨速度を読み取って、前車両の前輪の操舵及び速度制御を支援する
運転支援システムと運転支援方法について示しているが、その走行レーンは「前車両の前輪が辿る経路」であり、特許文献1が述べる「単車及び連節車両いずれの場合にも最後軸の軌跡が車両全体の動きの根幹になる」ところを押さえていないので、この経路での運行は同じ仕様の連節車両の運行に限られる。仕様が異なる車両の運行はできない。
【0008】
バスが駅・バス停のプラットホーム・縁石に横づけして停車する。乗降口が開き、乗客が乗降して、乗降口が閉まりバスが発進する。この間の乗客乗降に伴い車両総重量とその重心位置が変化するので、出発時の車両の加速特性(動力性能)・減速特性(制動性能)・操舵特性(横運動性能)は、到着時と異なる。加速特性は、車両総重量と道路勾配の変化に影響されるので、その変化を推定ないし検出して適応する適応制御が求められる。減速特性は、加速特性同様に車両総重量と道路勾配の変化に影響されるが、装備するEBS(電子制御ブレーキシステム)によって対処される。操舵特性は、車両総重量の変化に加えて重心位置の変化及び路面摩擦(各車軸のコーナリング係数)の変化に影響されるので、その変化を推定ないし検出して適応する適応制御が求められる。
【0009】
特許文献3は、その図6において車両重量と軸重を推定する方法を説明している。車速とエンジン回転からギヤ比を判別してピークトルク点における空車加速度を把握して照合用空車加速度データとし、その空車加速度と道路勾配を含む実稼働加速度から算出する平坦路実稼働換算値との比から積車重量を推定する。更に、後軸の空気ばねの空気圧から後軸荷重を検出して、車両重量から後軸荷重を引算して前軸荷重を求めること、即ち、重心位置を求める方法を示している。しかし、それは、単車についてであり、連節車両については示しておらず、運行中の加速度から検出する方法であり、駅・バス停における停車時の乗客乗降によって生じる自重・軸重変化を求める必要までは満たせていない。
【0010】
更に、特許文献3は、その図3において操舵特性(横運動性能)の指標であるスタビリティファクタの式(4)と横すべり係数の式(5)を実験同定する方法を説明している。
実験同定されたスタビリティファクタ及び横すべり係数を制御に適用することにより、2軸車、3軸車、4軸車に適用する車両操舵装置の提供が可能になるとしているが、その実験同定されたスタビリティファクタおよび横すべり係数に含まれる各車軸のコーナリング係数を求めて制御モデルに反映する方法、更に連節車両への適用については示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第5981010号 車両の停車システム
【文献】特許第6243079号 車両用の運転支援システムおよび運転支援方法
【文献】特許第6202700号 車両操舵装置
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した従来技術にあっては、単車バスと連節バスが、同じ経路を、バス停における乗客乗降に伴う自重など自車の状態が変化しても、それに適応して、同じ軌跡を描き、加減速を等しくして、車間距離を詰めて、自動運行するBRTシステムのための連節車両の自動運転方法を示していない。
【0013】
本発明は、同じ経路を同じ軌跡を描き辿るについては、特許文献1が述べるところの、単車及び連節車両いずれの場合にも「最後軸の軌跡が車両全体の動きの根幹になる」を踏まえて「後軸が描く軌跡を辿るハンドル角を算出する方法」を、連節車両について示し、自重などの自車の状態の変化を検出する方法を示し、検出した自車の状態を諸元とする進路制御式、加速度制御式、減速度制御式を示して、乗客数の変化に伴う車両状態量の変化、路面摩擦変化に適応しての混成BRTシステムのための自動運転制御法を示す。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解消するため本発明は、単車・連節車両を問わず“最後軸の軌跡”を経路とする経路設定をして、車両諸元寸法が異なる単車・連節車両が辿ることができる様にする。その“最後軸の軌跡”とは、連節バスの場合は、連節後車両の重心の運動に対応するので、連節車両全体の車両運動を連節後車両の運動に集約した横運動モデルを導出して、後車の後軸の軌跡に対応する前車の前軸実舵角制御式、後車の後軸の軌跡に対応した連節角制御式を示す。その制御式に含まれる自重変化、路面摩擦変化に適応するタイヤ特性式を示す。自重変化、勾配変化に適応する加速度制御式及び減速度制御式を示す。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、単車・連節車両共用経路でのバス高速輸送システムが成立し、乗客数の変化に伴う自重・重心位置などの車両内部状態変化、道路の勾配・路面の湿潤などの車両外部状態変化(環境変化)に適応してのバス高速輸送システムが成立する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】鉄道の軌道と自動車の軌道の相違の説明図である。
図2】単車と連節車両の最後軸の軌道が共通することの説明図である。
図3】連節車両の横運動モデルの説明図である。
図4】連節車両の横運動モデルの状態方程式導出の説明図である。
図5】連節車両の横運動モデルの同定実験の説明図である。
図6】車両重量変化・重心位置変化・軸重変化を検出するセンサの装備の説明図である。
図7】車両重量変化・重心位置変化の検出フローの説明図である。
図8】加速度表現での走行性能曲線図と加速制御式の説明図である。
図9】勾配推定の説明図である。
図10】減速制御式の説明図である。
図11】GPSと磁気マーカと慣性計測との整合をとり機能する車両(力学)モデルの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を図1から図11にもとづいて説明する。
図1に鉄道の軌道と自動車の軌道の相違を示す。図の左側に鉄道の軌道を示し、右側に自動車の軌道を示す。鉄道が前軸の左右輪と後軸の左右輪が同じ轍を通る同轍軌道であるのに対して、自動車は前軸の旋回内輪と後軸の旋回内輪の轍に内輪差、前軸の旋回外輪と後軸の旋回外輪の轍に外輪差が生じ同じ轍を通らない。そのため、バス高速輸送システム(BRT)の軌道を定めて、そこで自動車を自動運転制御するについて、前軸又は後軸いずれの軌道を基軸にするかの配慮が必要になる。
【0018】
図2に、単車と連節車両の最後軸の軌道が共通することを示す。図の左側に単車の軌道を示し、右側に連節車両の軌道を示す。点線で示す単車の後車軸中心の軌跡と連節車両の後車両の後車軸中心の軌跡が共通していることが判る。このことから、バス高速輸送システム(BRT)の軌道は、最後車軸の軌跡で定める必要がある。
【0019】
図3に、連節車両の横運動モデルを説明する。図の左側に車両平面図、右側に車両モデル図を示す。車両平面図は、図の上部から下部へ前車両、連節機、後車両が示され、その下部に連節機が示され、更にその下に後車両が示され、連節角(δ12)が生じた状態の前車両外形が点線で示される。前車両には、ハンドル、前軸(操舵輪)、重心、後軸(非駆動軸)が図示され、後車両には、重心、後軸(駆動軸)が図示されている。これら図示されているものは、乗客乗降に伴う車両総重量変化、軸荷重変化、タイヤ特性変化と、ハンドル操作に伴う車両の横運動(進路変化)に関係する車両状態量である。これら車両状態量を記号で表現すると右側の車両モデル図になる。
【0020】
【数1】
【0021】
前車両の重心を原点とするx1y1座標と、後車両の重心を原点とするx2y2座標を定め、連節点pcでx1y1座標とx2y2座標を連節させ、連節角をδ12とする。前車両と後車両それぞれに重心位置に質量m1,m2、慣性モーメントI1,I2を置き、それら重心点の速度v1,v2としその車体横すべり角をβ,βとし、それら重心点回りのヨーレイトをr1,r2とする。前車両の重心点から前方lf1に前軸左右輪を中央に集約した前車両前軸タイヤを置き、タイヤ速度をvf1、タイヤ切れ角をδ、タイヤ横すべり角をβf1、そのタイヤが発生するコーナリングフォースをCF1とする。前車両の重心点から後方lr1に後軸左右輪を中央に集約した前車後軸タイヤを置き、タイヤ速度をvr1、タイヤ横すべり角をβr1、そのタイヤが発生するコーナリングフォースをCR1とする。後車両の重心点から後方lf2に後軸左右輪を中央に集約した後車後軸タイヤを置き、タイヤ速度をvr2、タイヤ横すべり角をβr2、そのタイヤが発生するコーナリングフォースをCR2とする。前車両の重心から後方lc1の位置且つ後車両の重心から前方lf2の位置に連節点pcを置いて、その連節点に作用する前後荷重をFx,横荷重をFyとし、その連節点における前車両の横すべり角をβp1、前車両の横すべり角をβp2とする。
【0022】
図4に、連節車両の横運動モデルの状態方程式導出について説明する。連節点pcで連節される前車両と後車両との、連節分離状態を左側に、連節状態を右側に示して、連節部における拘束条件の説明に供する。先に、右側図により、前車両の前後運動のつり合い式、横運動のつり合い式、回転運動のつり合い式、及び後車両の前後運動のつり合い式、横運動のつり合い式、回転運動のつり合い式について説明した後に、左側図により連節部の拘束条件式について説明する。
【0023】
【数2】
【0024】
【数3】
【0025】
【数4】
【0026】
【数5】
【0027】
先の段落(0014)で述べた「連節車両全体の車両運動を連節後車両の運動に集約した横運動モデル」を導出するためには、前車両のヨー角(ω)及び横すべり角(β)を、後車両のヨー角(ω)及び横すべり角(β)で表現する必要がある。その対応について以下に述べる。
【0028】
・連節点の横すべり角は、前車両の重心点横すべり角(β)から展開すると式(14)、後車両の重心点横すべり角(β)から展開すると式(15)になる。
【0029】
【数6】
【0030】
・前車両の重心点横すべり角は、式(14)から式(14a)に展開して、βp1に式(10)のβp1を代入すると式(14b)になる。
【0031】
【数7】
【0032】
・式(14c)に前側車両のヨーレイトr1が含まれる。これを後車両の状態量で表現する。式(14c)における前車両のヨーレイトr1と後車両のヨーレイトr2は、式(9a)から次の様に展開してr1=r2と見做し、式(14d)の様に整理する。
【0033】
【数8】
【0034】
連節車両全体の車両運動を連節後車両の運動に集約した横運動モデルの制御式は、各軸のコーナリングフォース(CF1、CR1、CR2)を各軸の荷重(Nf1、Nr1、Nr2)と各軸の路面摩擦係数に相当するコーナリング係数(前車両前軸をCcf、前車両後軸及び後車後軸をCcr)の積で表現すると、次の様になる。
【0035】
【数9】
【0036】
【数10】
【0037】
【数11】
【0038】
【数12】
【0039】
【数13】
【0040】
【数14】
【0041】
導出した式(16)、式(17)について、実験同定を可能にするために、横すべり係数とスタビリティファクタで表現する式に展開する。
【0042】
【数15】
【0043】
【数16】
【0044】
横すべり係数kβ0の式(16i)と、スタビリティファクタKSFの式(17i)の一次の連立方程式を解くと、前車両の前軸コーナリング係数Ccfの式(18)、前車両の後軸および後車両の後軸コーナリング係数Ccrの式(19)が得られる。
【0045】
【数17】
【0046】
図5に連節車両の横運動モデルの同定実験について説明する。図の左側に、前車両前軸の実舵角δを固定(保持)して定常円旋回する連節車両図を示し、その定常円旋回によって得られる後車両の重心点における横すべり角βの車速依存特性(式16h))及び後車両の重心点の旋回半径の車速依存特性(式(17h))を示している。左図において、後車両の重心の旋回半径は極低速時後車両後車軸の延長線上の点“Ov0”から、車速上昇時の“Ovup”へ移動する。この変化を右側の図の横すべり係数Kβ0及びスタビリティファクタKSFを式(16i)及び式(17i)の実験同定値として取得する。即ち、この変化は、前出の式(0)の静的旋回半径Rr2=1/ρ2rが、車速上昇に依存し式(17h)の動的変化をして、式(20)になることを意味する。
【0047】
【数18】
【0048】
そして、式(18)により前車両の前軸のタイヤコーナリング係数の実験同定値を取得し、式(19)により前車両の後軸及び後車両の後軸のタイヤコーナリング係数の実験同定値を取得する。
【0049】
図6に、車両重量変化・重心位置変化・軸重変化を検出するセンサ装備を説明する。図の左側に連節車両の平面図と側面図を示す。図の右側の枠内に前車両と後車両を連節する連節機を示す。連節機には、Y軸ジョイントとZ軸ジョイントがある。Y軸ジョイント部にて前後車両間の前後荷重、横荷重及び上下荷重の伝搬がされると共に、前後車両間のピッチ角変化が吸収されて、Z軸ジョイント部にて前後車両間のヨー角変化(方位角変化)が吸収される。このY軸ジョイント部に上下荷重を検出するロードセル(上下荷重センサ)を装備し、前車両と後車両の各車軸の空気ばねのエア配管部に空気圧センサを装備して、乗客数などの変化に伴う車両総重量の変化を検出する。Z軸ジョイント部には、連節角変化を検出する角度センサが、自動運転に限らず標準装備される。
【0050】
図7に、図6に照合して進めるところの車両総重量変化、重心位置変化、軸重変化の検出フローを説明する。
工程(1)にて、連節前に前車両の前軸/後軸荷重、後車両のYジョイント及び後軸の荷重(Nf1,Nr1,Nf2,Nr2)を計測する。工程(2)にて、空車の前車両重心位置、及び後車両重心位置(lf1v,lf2v)を式(21)式(22)により計算する。ここまでは、車両製造工程での検査管理項目として記録されることが望ましい。
【0051】
【数19】
【0052】
工程(3)にて、空車連節状態での各軸の空気ばね荷重(△Nf1,△Nr1,△Nr2)及びジョイント荷重(△Nf2)を把握して、この荷重をゼロ点とする。工程(4)にて、乗車状態での各軸空気ばね荷重及び連節ジョイント荷重のゼロ点補正後値(△Nf1w,△Nf2w,△Nr2w,及び、△Nf2w)を把握する。工程(5)にて、後車の乗客荷重(△Nr2w,及び△Nf2w)とその合力点(lf2p)を式(23)により計算する。
【0053】
【数20】
【0054】
工程(6)にて、前車の乗客荷重(△Nr1w、及び△Nf1w)とその合力点(lf1p)を式(24)式(25)及び式(26)により計算する。
【0055】
【数21】
【0056】
工程(7)にて、後車の車両重量と乗客重量の合計の車両総重量(w1+△W2)とその合重心点(lf2vp)を式(27)式(28)により計算する。
【0057】
【数22】
【0058】
工程(8)にて、前車の車両重量と乗客重量の合計の車両総重量(W1+△W1)とその合重心点(lf1vp)を式(29)式(30)により計算する。
【0059】
【数23】
【0060】
工程(9)にて、乗車状態での各軸荷重(Nf1w,Nr1w,Nr2w)を式(31)式(32)及び式(33)により計算する。
【0061】
【数24】
【0062】
以上の様にして、求められた乗客の乗降に伴う車両総重量、重心位置及び軸荷重の変化は、前後運動モデル及び横運動モデルの諸元に反映されて、その変化への適応制御に用いられる。
【0063】
図8に、加速度表現での走行性能曲線図と加速制御式を説明する。図の上段の左から右へ順に、エンジントルク図、ギヤ変速図、走行性能曲線図に並べ、その右側下段に加速度表現での走行性能曲線図を示す。そして、加速度表現での走行性能曲線式(34)、下段の右から左へ移動して、要求加速度の式(35)、その下に要求加速度に応えるアクセル開度式(36)、更にその下に発生加速度から乗車時車両質量を算出する式(37)を示す。
【0064】
エンジントルク図はピークトルク点(np)を持ちそのピーク点より低回転側を使用する。エンジントルクは、AMT(Automated Mechanical Transmission)を経てギヤ変速されて走行性能線図になる。この図の4段のギヤ比の例では、四つの山(駆動力)が描かれる。その山に接して点線で描かれる二次曲線は双曲線になる。その駆動力は、ころがり抵抗と空気抵抗の和の速度依存の二次曲線で表現される惰行抵抗に坂路勾配に重力加速度を乗じた勾配抵抗を加えた走行抵抗に消費される。その双曲線からその走行抵抗を差引いた駆動力が余剰牽引力になる。
【0065】
車速に対する駆動力で表現される走行性能曲線図の駆動力に代え加速度と減速度で表現すると加速度表現での走行性能曲線図になる。平坦なテストコースにおいてアクセル開度全開で加速実験をして(2)の実線で示す発生加速度曲線を得て、高速域からギヤを中立にしてアクセルを放して減速度を記録して(3)の惰行抵抗減速度の2次曲線を得て、それを(2)の発生加速度曲線に加えると(1)の点線で示す双曲線の式(34)になる。
【0066】
【数25】
【0067】
【数26】
【0068】
左辺のyは、要求加速度(乃至、発生加速度)である。右辺のaが双曲線定数、xが車速、m0が空車質量、mLが乗車質量、Acc%がアクセル開度、Drがころがり抵抗相当加速度、Daが空気抵抗相当加速度、Dθは勾配抵抗相当加速度である。a、m0、Dr、Daは図の右下の「加速度表現での走行性能曲線図」を作成する際の実験によって既知であり、mL図6図7によって既知であるから、現在走行中の道路勾配Dθ、車速x、アクセル開度Acc%に応じた加速度yが算出できる。尚、道路勾配Dθは、後述図9により取得できる。
【0069】
式(35)から式(36)の要求加速度に対するアクセル開度の式が得られる。この式(36)から、現在走行中の道路勾配Dθ、車速xにおいて、要求加速度yを受けて、アクセル開度Acc%を決める制御ができる。
【0070】
【数27】
【0071】
式(35)式(36)から式(37)の乗車時車両質量の式が得られる。搭載されている加速度計によって検出される発生加速度y、車速x、アクセル開度、道路勾配を入力することにより乗車時車両質量mLが判り、図6図7による検出値と照合しての検証ができる。自動運転は、アクセル開度Acc%相対の状態量を制御して行われる。
【0072】
【数28】
【0073】
図9に、道路勾配の推定方法を説明する。車両に搭載される重力加速度計(G計)の読み値(Gx(static))は、坂道で静止乃至定速状態では式(38)になる。
【0074】
【数29】
【0075】
図10に、減速度制御の方法を説明する。乗客数の変化、道路勾配の変化に適応してブレーキペダルストロークに比例する減速度を発生させる電子制御ブレーキシステム(EBS)が装備されていることを前提とする。図の右側にブレーキペダルストローク(%)に対する発生減速度(m/s)例を示す。減速度制御式は式(41)になる。
【0076】
【数30】
【0077】
図11に、GPSと磁気マーカと慣性計測との整合をとり機能する車両(力学)モデルを説明する。図の上部太線の上側に前後運動を示し、太線の下側に横運動を示す。先ず、前後運動の部分について説明する。車速(車輪速)と前後加速度(Gx)から道路勾配(図9参照)を推定し、アクセル%と車速と道路勾配から自重(図7,8)を推定して、計画車速に対する要求加減速度に対応するアクセル%、或いはブレーキ%を算出して計画車速、或いは運行事情に合わせて車速制御する。車両運動には車体横すべり角を伴うため車輪速(前後速度)と車体横すべり角の影響を受けないGPSによる車速(前後と横の合成速度)との相違が生じるので、「車載する加速度計による横加速度を積分しての横速度と前後加速度を積分しての前後速度の比から求める横すべり角」及び「車両モデルから得られる車体横すべり角」の余弦で除し、GPS車速と照合して誤差補正する。
【0078】
次に、横運動部分について説明する。GPSベースでの目標経路座標を備えて現在位置から目標経路へ流入する曲線式を作成してその曲率計算をする。並行して、視覚センサによる目標点に至る経路曲率を計算もして備えて待機する。視覚センサが障害検出すると、その障害を回避するための前後距離と横距離をパラメータとする進路変更式に検出した前後距離と横距離を代入して進路変更の曲率を算出して、その曲率を計画経路曲率へ加えて合成曲率を得てハンドル角の式に代入すると共に、「その合成曲率と車速から求められる横加速度」と「車輪速と横加速度とヨーレイトによって検出される道路カント」との和になる「相対カント角(ξ)」をハンドル角の式へ代入する。ハンドル角の式(20)には、積載により変化する軸重が代入され車両或いは車両モデルへの入力舵角を算出する。その入力操舵は操舵モータによって行われる。その際に、操舵モータのゼロ点位置と実車ハンドル中立位置との偏差が車両制御量に入力され、それを受けて車両運動が生じ、生じた横すべり角(β)、ヨー角(φ)から移動座標とその方位角がGPS,磁気センサ、及びIMUから出力される。並行してハンドル角に操舵ヒステリシス補正が加えられた実舵角が式(16)式(17)の車両モデルに入力され、横すべり角(β)、ヨー角(φ)から移動座標とその方位角の計算値が出力される。
【0079】
図の中央部の縦長枠に実車、その下の太線の縦長枠に車両モデルを示す。実車に搭載されるIMU(慣性計測装置inertial measurement unit)によって横加速度Gy_imu、前後加速度Gx_imu,ヨーレイトγ_imuが検出され、GPSからはX座標X_GPS、Y座標Y_GPS、方位角λ_GPSが検出され、磁気センサからはX座標Xmk、Y座標Ymk、方位角λmkが検出される。Gy_imuとGx_imu,からIMU検出横すべり角βimuが計算され、GPS検出の車速VGPSと車両CAN検出の前後車速Vcanから横すべり角βGPSが検出され、車両モデルの式(16)から算出されるβcalの三つのβが、システム診断状況によって待機冗長構造を構成する。このβとIMU検出のヨーレイトγ_imuから、IMUによるX座標Ximu、Y座標Yimu、方位角λimuが算出され、GPS検出のX座標XGPS、Y座標YGPS、方位角λGPS及び磁気センサ検出のX座標Xmk、Y座標Ymk、方位角λmk、更に車両モデルから計算出力されるX座標Xcal、Y座標Ycal、方位角λcal、の四つが、システム診断状況によって待機冗長構造を構成する。待機冗長構造からシステム診断状況により出力された自己位置(X,Y)と進行方向(λ)の現在位置をフィードフォワード項である目標経路座標に照らし、現在位置から目標経路へ流入する曲線式を作成し、その曲率から舵角決める。GPSが使用できない環境下では、視覚センサによって目標経路を定め、舵角を決める。この様に、GPSと磁気マーカと慣性計測および車両モデルとの整合をとり機能する冗長システムを構成する。
【0080】
以上述べた様に、本発明は、単車・連節車両を問わず最後軸の軌跡を経路とする経路設定をし、車両諸元寸法が異なる単車・連節車両が辿ることができる様にして、その経路曲率から操舵角を算出する式、即ち軸距と連節点位置をパラメータとする幾何寸法とそのスタビリティファクタで構成する制御式を備える。レールのない路面を“人の運転”に依らず自動運転するバス高速輸送システムに運用される自動運転連節車両およびその制御方法を実現する。
【0081】
そして、その“スタビリティファクタで構成する制御式”を、車両総重量とその重心位置及び軸荷重とタイヤコーナリング係数を変数とする式で表現し、車両総重量、重心位置、軸荷重の変化は、装備するセンサで検出し、タイヤコーナリング係数は、実験同定値を持つことによって進路制御にかかわる自車両の状態変化、道路の湿潤への適応を可能にする。更に、加減速制御にかかわる自車両の状態変化、道路勾配への適応を可能にする。
かくして、レールのない路面を“人の運転”に依らず自動運転するバス高速輸送システムに運用される自動運転連節車両およびその制御方法を実現する。
【要約】
【課題】
連節バス及び単車バスが共用運行されるバス高速輸送システムのための、連節バス及び単車バスが共用可能運行経路の設定と自動運転連節バスの制御方法の必要に応える。
【解決手段】
単車・連節車両を問わず最後軸の軌跡を経路とする経路設定をして、その経路を車両諸元寸法が異なり乗客乗降に伴う車両重量が変化する連節車両が辿ることができる様にする。自重変化、重心位置変化、軸荷重変化を捉えるセンサを装備する。動力性能を自重変化、道路勾配変化と共に捉えて要求加速度に応え、制動性能を自重変化、道路勾配変化と共に捉えて要求減速度に応える。路面の湿潤に適応して前後横運動の安全制御の必要を満たす。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11