IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エー.エル.エム.ホールディング カンパニーの特許一覧 ▶ エルゴン アスファルト アンド エマルションズ,インコーポレイテッドの特許一覧

特許7469456アスファルト舗装のための、ステロール添加剤を有するビチューメン乳剤
<>
  • 特許-アスファルト舗装のための、ステロール添加剤を有するビチューメン乳剤 図1A
  • 特許-アスファルト舗装のための、ステロール添加剤を有するビチューメン乳剤 図1B
  • 特許-アスファルト舗装のための、ステロール添加剤を有するビチューメン乳剤 図1C
  • 特許-アスファルト舗装のための、ステロール添加剤を有するビチューメン乳剤 図2
  • 特許-アスファルト舗装のための、ステロール添加剤を有するビチューメン乳剤 図3
  • 特許-アスファルト舗装のための、ステロール添加剤を有するビチューメン乳剤 図4
  • 特許-アスファルト舗装のための、ステロール添加剤を有するビチューメン乳剤 図5
  • 特許-アスファルト舗装のための、ステロール添加剤を有するビチューメン乳剤 図6
  • 特許-アスファルト舗装のための、ステロール添加剤を有するビチューメン乳剤 図7
  • 特許-アスファルト舗装のための、ステロール添加剤を有するビチューメン乳剤 図8
  • 特許-アスファルト舗装のための、ステロール添加剤を有するビチューメン乳剤 図9
  • 特許-アスファルト舗装のための、ステロール添加剤を有するビチューメン乳剤 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】アスファルト舗装のための、ステロール添加剤を有するビチューメン乳剤
(51)【国際特許分類】
   E01C 23/00 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
E01C23/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022212818
(22)【出願日】2022-12-29
(62)【分割の表示】P 2019541250の分割
【原出願日】2018-02-01
(65)【公開番号】P2023030185
(43)【公開日】2023-03-07
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】62/453,882
(32)【優先日】2017-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518438209
【氏名又は名称】エー.エル.エム.ホールディング カンパニー
(73)【特許権者】
【識別番号】518438210
【氏名又は名称】エルゴン アスファルト アンド エマルションズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ラインケ,ジェラルド,エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】バウムガードナー,ゲイロン,エル.
(72)【発明者】
【氏名】ハンス,アンドリュー
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03032507(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0362338(US,A1)
【文献】米国特許第08741052(US,B2)
【文献】米国特許第09481794(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 1/00-17/00
E01C 21/00-23/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルトバインダー成分とステロール添加剤とを含むステロール含有アスファルトバインダー組成物であって、前記アスファルトバインダー成分に対して0.5~15重量%の前記ステロール添加剤を含むステロール含有アスファルトバインダー組成物を提供する工程;
前記ステロール含有アスファルトバインダー組成物と骨材とを混合して、アスファルト舗装材料を形成する工程;
既存のアスファルト舗装の一番上に前記アスファルト舗装材料を敷設する工程;および
敷設した前記アスファルト舗装材料を固めて、ステロールを含有するトップコート層を有する被覆されたアスファルト舗装を形成する工程;
を包含する、道路舗装方法。
【請求項2】
前記ステロール添加剤は、純粋ステロールを含む、請求項1に記載の道路舗装方法。
【請求項3】
前記ステロール添加剤は、粗ステロールを含む、請求項1に記載の道路舗装方法。
【請求項4】
前記粗ステロールは、トール油ピッチを含む、請求項3に記載の道路舗装方法。
【請求項5】
前記ステロール添加剤は、純粋ステロール対粗ステロールが10:90から90:10のステロール混合物を含む、請求項1に記載の道路舗装方法。
【請求項6】
前記アスファルトバインダー成分は、再生アスファルト舗装(RAP)、再生アスファルトシングル(RAS)、または、RAPとRASとの両方の組み合わせを含む、請求項1に記載の道路舗装方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔背景技術〕
アスファルト舗装は、鉱物骨材および液体化したアスファルト(ビチューメン)バインダーの混合物である複合材料を、頑丈な表面を形成するために硬化したものである。ビチューメンは、一般的に加熱により液体化する。アスファルト舗装は、溶剤と混合したビチューメン(カットバックとして知られる)あるいは水中に分散したビチューメン(アスファルト乳剤として知られる)を使用して製造することもできる。アスファルト舗装は、再生アスファルト舗装(RAP)、再利用アスファルトシングル(RAS)、粉砕タイヤゴム、および他の消費後廃棄材料を含む、再生もしくは再利用された材料を含むことができる。アスファルト舗装は、アスファルトバインダーの酸化、重荷重、水分による損傷、および変化する気候条件によって経時的に劣化し、その結果、疲労亀裂を生じ、次いで舗装全体の劣化がさらに加速する。
【0002】
劣化したアスファルト舗装を修復もしくは補修する方法では、新しく準備した舗装もしくは再利用舗装のどちらかを使用して、既存の舗装を除去し、置き換える。特定の表面処理を適用することによって、既存の舗装の寿命を延長させることもできる。
【0003】
〔概要〕
本開示は、アスファルト組成物中にステロールを使用する方法、および舗装の保全および維持のために、舗装の最表層部分の構築および表面処理に使用することができる方法に関する。開示したステロール含有アスファルトバインダーは、アスファルトを敷設する際に使用した元の未使用のバインダーもしくは未使用のアスファルトの元の特性の一部または全てを保存もしくは保持することによって、アスファルトの経年劣化の影響を抑制する、減少させる、あるいは克服することができる。
【0004】
一実施形態において、道路舗装方法は、
アスファルトバインダーに対して0.5~15重量%のステロールが添加されたステロール含有アスファルトバインダーを提供する工程;
上記ステロール含有アスファルトバインダーを骨材と混合して、アスファルト舗装材料を形成する工程;
アスファルト舗装層の一番上に上記アスファルト舗装材料を敷設する工程;および
敷設した上記アスファルト舗装材料を固めて、ステロールを含有するトップコート層を有する道路舗装を形成する工程;
を包含する。
【0005】
別の実施形態において、アスファルトバインダーに対して0.5~15重量%のステロールが添加されたステロール含有アスファルトバインダーを含む表面処理を提供する工程と、既存の舗装の表面に上記表面処理を施す工程とを含む、アスファルトを含有する表面を処理する方法を開示する。
【0006】
〔図面の簡単な説明〕
図1Aは、アスファルト舗装の構造を示す。
【0007】
図1Bは、表面処理を施した図1Aのアスファルト舗装の構造を示す。
【0008】
図1Cは、中間層を有するアスファルト舗装を示す。
【0009】
図2は、75℃におけるオーブン劣化日数に対するm‐臨界をグラフで示す。
【0010】
図3は、75℃におけるオーブン劣化日数に対するS‐臨界をグラフで示す。
【0011】
図4は、75℃におけるオーブン劣化日数に対するΔTcをグラフで示す。
【0012】
図5は、75℃におけるオーブン劣化日数に対するR値をグラフで示す。
【0013】
図6は、75℃におけるオーブン劣化日数に対する1.0kPaにおける高温PGグレードをグラフで示す。
【0014】
図7は、60日間のオーブン劣化後の、締め固められた試験片の上部のハーフインチおよびその下のハーフインチから回収されたバインダーのS‐臨界特性およびm‐臨界特性をグラフで示す。
【0015】
図8は、60日間のオーブン劣化後の、締め固められた試験片の上部のハーフインチおよびその下のハーフインチから回収されたバインダーのΔTc特性およびR値特性をグラフで示す。
【0016】
図9は、152日間のオーブン劣化後の、締め固められた試験片の上部のハーフインチおよびその下のハーフインチから回収されたバインダーのS‐臨界特性およびm‐臨界特性をグラフで示す。
【0017】
図10は、152日間のオーブン劣化後の、締め固められた試験片の上部のハーフインチおよびその下のハーフインチから回収されたバインダーのΔTc特性およびR値特性をグラフで示す。
【0018】
〔詳細な説明〕
本開示は、舗装工事あるいは舗装保全および維持のために使用され得る、組成物におけるステロールの使用と方法に関する。出願人は、ステロールがアスファルトの老朽化の影響を抑制する、減少させる、あるいは克服することによって、未使用のアスファルトバインダーの元の特性の一部または全てを保存もしくは保持することを示している。国際出願番号PCT/US16/037077、PCT/US16/64950およびPCT/US16/064961、PCT/US17/045887を参照のこと。これらの文献のそれぞれを、参照により本明細書にその全体を組み込む。ステロールは、RAP、RAS、もしくはこれら両方の組み合わせのような再生もしくは再利用された材料をバインダーが有する場合に、または、バインダーを軟らかくするためにしばしば使用されるパラフィン系油もしくは再精製パラフィンエンジンオイル残油(REOB)などのパラフィン系添加物をバインダーが有する場合に、特に効果的であった。
【0019】
本明細書における見出しは、単に読解を容易にするために提供され、限定するように解釈されるべきではない。
【0020】
〔略語、頭字語および定義〕
「劣化」とは、硬質、低品質、または規格外の未使用のアスファルトもしくは未使用のバインダーに関し、特に、EN 1427による65℃を超える環球軟化点を有する未使用のバインダー、および、EN 1426による25℃における12dmm以下の浸透値を有する未使用のバインダーに関する。
【0021】
「骨材」および「建設骨材」は、舗装および舗道用途に有用な、石灰石、花崗岩、トラップ岩、砂利、粉砕された砂利、粉砕された石、粉砕された岩およびスラグのような、粒子状の鉱物材料に関する。
【0022】
「アスファルト」は、バインダーおよび骨材、ならびに骨材およびバインダーに混合するのに適した他の組成物に関する。局所的な用途に応じて、用語「アスファルト混合物」もしくは「混合物」は、用語「アスファルト」と置き換え使用されてもよい。
【0023】
「バインダー」は、石油の高粘度の液体の形態または石油の半固体の形態に関する。「バインダー」は、例えばビチューメンを含むことができる。用語「アスファルトバインダー」は、用語「バインダー」と置き換えて使用してもよい。
【0024】
「ビチューメン」は、主として高分子量炭化水素から構成される、天然または製造された、黒色または暗色(固体、半固体または粘性)のセメント質物質のクラスに関し、その内のアスファルト、タールピッチおよびアスファルテンが典型である。
【0025】
ステロールを含有する材料に使われる「粗」とは、完全に精製されていない、およびステロールとは別に成分を含有することができる、のそれぞれを意味する。
【0026】
「m‐臨界」もしくは「クリープ臨界」グレードは、バインダーの低温応力緩和の程度に関する。クリープ臨界温度は、ASTM(the Bending Beam Rheometer(BBR))試験による曲げクリープ剛性に対するクリープ時間の傾きが、0.300の絶対値を有する温度である。クリープ臨界温度は、また、-0.275値における4mm動的せん断レオメーター(BBR)試験によっても決定される。
【0027】
「ニート」または「未使用」のバインダーは、使用されていないバインダー、または、アスファルト舗装もしくはアスファルトシングルから再利用されていないバインダーであり、パフォーマンスグレードのバインダーを含むことができる。
【0028】
「純粋」は、ステロールまたはステロール混合物に使用する場合、少なくとも工業的純度または少なくとも試薬グレードの純度を有することを意味する。
【0029】
「再生アスファルト」および「再利用アスファルト」は、古い舗装、シングル製造スクラップ、屋根フェルトおよびアスファルト含有製造物または施工物からの、再生アスファルト舗装、再利用アスファルトシングル、および再生バインダーに関する。
【0030】
「再生アスファルト」および「RAP」は、以前に使用された道路、舗装、または他の類似の構造物から除去または掘削され、粉砕、裂け、破砕、または粉砕を含む様々な周知の方法のいずれかによって再使用のために処理されたアスファルトに関する。
【0031】
「再生アスファルトシングル」および「RAS」は、引き剥がされた屋根、アスファルトシングルの製造廃棄物および消費廃棄物を含む供給源からのシングルに関する。
【0032】
「S‐臨界」または「剛性臨界」グレードは、バインダーの低温剛性グレードに関する。剛性臨界温度は、ASTM D6648に従って試験したバインダーが、300MPaにおける曲げクリープ剛性値を有する温度、または、曲げビームレオメーター試験または4mm DSR試験のいずれかによって、決定される、ΔTcで示される温度に関する。
【0033】
「軟化剤」は、アスファルト製造処理の間に、未使用のバインダーに再利用されたバインダーを混合および組み込むことを容易にする(または促進する)低粘度の添加剤に関する。
【0034】
「ステロール添加剤」は、アスファルトもしくはバインダーの経年劣化率を遅らせるために、または、未使用のアスファルトもしくは未使用のバインダーの元の特性の一部もしくは全てを提供して、経年劣化したアスファルトもしくは経年劣化したバインダーを回復もしくは更新するために、バインダーと組み合わせることができるステロールまたはステロール混合物に関する。
【0035】
「ステロールブレンド」は、アスファルトバインダーの経年劣化率を遅らせるため、または、未使用のアスファルトもしくは未使用のバインダーの元の特性の一部または全部を提供し、経年劣化したバインダーを回復もしくは更新するために、経年劣化したバインダー(例えば再生または再利用アスファルト)に混合することが可能な純粋ステロールおよび粗ステロールの組成物、混合物またはブレンドに関する。
【0036】
「ΔTc」は、低温剛性臨界温度から低温クリープまたはm‐値臨界温度を差し引いて得られる値に関する。4mm動的せん断レオメーター(DSR)試験および分析手順は、Sui, C.、Farrar,M.、Tuminello,W.、Turner,T.らによる、A New Technique for Measuring low-temperature Properties of Asphalt Binders with Small Amounts of Material、Transport
Research Record:NO 1681,TRB 2010に記載されている。Sui,C.、Farrar,M.J.、Harnsberger,P.M.、Tuminello,W.H.、Turner、T.F.らによる、New Low Temperature Performance Grading Method Using 4 mm Parallel Plates on a Dynamic Shear Rheometer. TRB Preprint CD、2011、およびFarrar、M.による、(2012)、Thin Film Oxidative Aging and Low Temperature Performance Grading Using Small Plate Dynamic Shear Rheometry、An Alternative to Standard RTFO, PAV and BBr、Eurasphalt & Eurobitume 5th E&E Congress-2012 Istanbul(ppPaper O5ee-467)Istanbul: Foundation Euraspaltも参照されたい。
【0037】
全ての重量、部分および百分率は、特に明記しない限り重量に基づく。
【0038】
図1は、典型的なアスファルト舗装の部分断面図である。粉砕された骨材は、土壌であってもよい路床の上の路盤として用いられる。粉砕された骨材路盤は、例えば約152mm(6インチ)~約305mm(12インチ)の平均厚さを有してもよい。骨材路盤の上には、一つ以上のアスファルト層を用いることができる。図1は、下層のアスファルト舗装とトップコートのアスファルト舗装との、二つのアスファルト層を示す。下層のアスファルト舗装は、例えば、いくつかのリフトで舗装された約57mm(2.25インチ)~約305mm(12インチ)、または、いくつかのリフトで舗装された約57mm(2.25インチ)~約127mm(5インチ)の平均厚さを有してもよい。トップコートのアスファルト舗装は、例えば、約38mm(1.5インチ)~約102mm(4インチ)あるいは約38mm(1.5インチ)~約63mm(2.5インチ)の平均厚さを有してもよい。厚さは、最大骨材の大きさによっても決定されることに留意されたい。
【0039】
アスファルト層を修飾する用語「下層」および「トップコート」は、相対的な用語として理解されたい。アスファルト層が路盤から離れるほど、アスファルト層はより「上部」にあると考えられる。最上部のアスファルト層であるトップコートは、太陽、雨、雪または、凍結および解凍のような天候および要因に曝される。舗装は、また、車両交通による摩擦摩耗、破損およびその他の損傷をも経験する。時間とともに、これらの環境およびサービス因子は、アスファルト舗装、とりわけ表層を劣化させる。
【0040】
理想的には、アスファルト層の寿命を延ばすために、路盤から最上部までの全ての舗装を、ステロール含有アスファルト舗装材料を用いて建設することである。経年劣化は、アスファルト舗装の最上部(例えば、固められた舗装の最上部38mmから65mm)に限定されない。しかしながら、アスファルトバインダーは、表面において最も激しく経年劣化する傾向にあり、経年劣化の程度およびバインダーに対する結果として生じる有害な影響は、典型的には、バインダーまたは舗装材料の他の組成物に添加され得る材料に関わらず、舗装の深さと共に減少する。
【0041】
ステロールはアスファルト舗装全体に添加してもよいが、ステロールは若干、高価である。しかしながら費用を管理するために、最上層のアスファルト層または複数の層を、ステロール含有アスファルトバインダー舗装材料により舗装してもよい。そうすることは、トップコート層を経年劣化に対してより耐久的にし、その一方で、トップコート層の速すぎる劣化により引き起こされる天候、要因、および他の損傷から、下層のアスファルト舗装をより長く保護することによって、バインダーの経年劣化を抑制することができる。例えば、アスファルト、特に最上層または複数の上層の経年劣化を遅らせることにより、下層の舗装への空気の動きとそれに伴う酸化が減少し、経年劣化したバインダーに関連する表面ひび割れを減らすことができる。同様にして、最上層または複数の上層のアスファルトの経年劣化を遅らせることにより、トップコート層の吸湿、および層または層のひび割れを通した水分の通過を減らすことができ、それによって舗装に対する更なる損傷および経年劣化率の増加を制限する。舗装の破損が始まる状態にバインダーが達するまでの時間を延長することにより、舗装全体の寿命が改善される。
【0042】
舗装を再度表面仕上げする場合、例えば、古い舗装の上部76mm(3インチ)~102mm(4インチ)を粉砕し、粉砕された部分の一部または全部をステロール含有置換部分に置き換えることができる。置換部分は、最上層12mm(0.5インチ)~19mm(0.75インチ)、最上層12mm(0.5インチ)~38mm(1.5インチ)、ステロール含有バインダーを含む薄層オーバーレイのような多くの異なる構成として用いることができる。例えば、二つの38mmリフトを、ステロール含有バインダーを含む最上層38mmだけに用いることもできる。別の例として、粉砕された76mm(3インチ)あるいは102mm(4インチ)は、50mm(2インチ)リフトまたは25mm(1インチ)の薄層オーバーレイ(すなわち薄層)を含む50mm(2インチ)リフトに置き換えることが可能であり、最上層リフトまたはオーバーレイは、ステロール含有バインダーを含んでいる。
【0043】
舗装の劣化に対処するための他の組成物および方法は、本明細書に開示したステロール含有表面処理により、既存の舗装を保存および維持することを含む。このような処理において、ステロールを、舗装の保全のための表面処理におけるアスファルトブレンド成分として使用することができる。
【0044】
アスファルト表面処理は、いくつかのアスファルトの種類およびアスファルト骨材の用途を含む広い用語であり、その下にある舗装の構造寿命を延長するために使用することができる。このような表面処理は、通常、25ミリメートル(1インチ)未満の厚さであり、任意の種類の道路表面に適用することができる。道路表面は、例えば、下塗りされた粒状路盤、または、既存のアスファルトもしくはポルトランドセメントコンクリート舗装であってもよい。既存のアスファルト表面に用いられる表面処理は、シールコートと呼ばれることもある。チップシールと一般的に呼ばれる表面処理は、アスファルト乳剤を噴霧し、直ちに乳剤上に骨材カバーを広げ、回転させることによって行われる。サンドウィッチシールはもう一つの表面処理技術であり、大きな骨材を最初に配置し、アスファルト乳剤(通常はポリマー改質された)をその骨材の上に噴霧し、その後すぐにより小さい骨材をアスファルト乳剤の上に敷設して、シール材内に固定する技術である。ケープシールは、単一の表面処理であり、その後、スラリーシール材あるいは微小表面層により空隙を埋める。これらの表面処理および他の表面処理は、所望に応じて複数回、適用することができる。いくつかの実施形態において、ステロール含有アスファルトバインダーは、タックコートおよびフォグシールとして用いられる。
【0045】
地域や気候のような要因を考慮して、ステロール含有アスファルトバインダーを含む表面処理を、乳剤、加熱処理ビチューメンまたはカットバックとして用いることもできる。全ての場合において、表面処理に使用するビチューメンは、スチレンブタジエンゴム(SBR)格子、スチレンブタジエンスチレン(SBS)ブロック共重合体、反応性エチレンターポリマー(RET)、粉砕タイヤゴム、アクリル格子、ネオプレン格子、エチレン酢酸ビニル(EVA)およびポリブテンなどのクラスから誘導されるポリマー添加剤を含有することができる。加熱された、カットバックされた、または乳化した形態のアスファルトに組み込むことができる任意のポリマーが候補であり、このリストに限定するものとして解釈されるべきではない。幾つかの表面処理は、バインダーとしてアスファルト乳剤のみに基づく(例えばスラリーシール材およびマイクロサーフェシング)。チップシールは、乳化剤、加熱処理アスファルトバインダー、またはカットバックアスファルトを用いて、施工することができる。バインダーの種類の選択は、しばしば地域や気候により決定される。これらの処理のいずれかにステロールを添加することは、表面処理におけるバインダーの経年劣化に対する好ましい影響を及ぼし、それにより表面処理の有効寿命が延長する結果、表面処理の下の舗装の経年劣化に対する保護の延長を提供する。
【0046】
舗装建設プロセスがどのようなものであっても、主要な成分は、バインダーに添加されたステロール添加剤を含む。
【0047】
〔ステロール添加剤〕
開示したステロール添加剤は、好ましくはアスファルトバインダーの経年劣化率を変更(例えば、低減または遅延)することが可能であり、または、経年劣化したバインダーを回復もしくは更新して、未使用のアスファルトバインダーの特性の一部もしくは全てを提供することができる。開示した組成物および方法は、植物由来の化学物質のクラス、すなわち化合物のステロールクラスを使用する。一方で植物ステロールは、アスファルテンと同数の縮合もしくは部分である不飽和環を含まないが、直鎖または分枝鎖分子ではないという利点を有する。例えば、植物ステロールは、物理的もしくは、アスファルトバインダーの剛性、有効温度範囲、および低温特性などの流動学的特性を変更あるいは改善することができる。
【0048】
いくつかの実施形態では、ステロール添加剤は、トリテルペノイドの分類に属し、特にステロールあるいはスタノールに属する。開示したステノール(例えば、トリテルペノイド)は、アスファルテンと共に効果的に作用することができる。アスファルテンは、あるレベルの不飽和を有する広範な縮合環系を含む。典型的なバインダーのアスファルテン含有量は、10%未満から20%を超える範囲であり得る。アスファルテンは、典型的には、n-ヘプタンに不溶性であるとされる。正確な構造は不明である上に、異なるバインダーの性能挙動は似ていないことに基づけば、特に異なる原油源からの任意の二つのバインダー中におけるアスファルテン構造が同じであることはなさそうである。アスファルテンは、バインダーに色と剛性を与え、バインダーの経年劣化に伴い、含有量を増加させる。その結果、RAPおよび/またはRASの添加物は、アスファルテン含有量の増加の理由となる。カルボニルおよびスルホキシドのような他の酸化生成物を伴うアスファルテン含有量の増加は、ビチューメン混合物の硬化およびそれらの最終的な破損の原因である。それらの非常な化学的性質により、アスファルテンは、脂肪族化学物質に容易には溶解しない。芳香族溶媒はアスファルテンを容易に溶解し、芳香族プロセス油は、再生混合物に使用されてきた。しかしながら、これらの油は、列挙された潜在的な発がん性物質を含む多核芳香族化合物を含み得るため、望ましくない添加物である。ほとんどの植物由来の油は、あるレベルの不飽和の直鎖あるいは分岐鎖の炭化水素であり、そのため、それらは混合物中のバインダー全体を軟化させるほど、経年劣化を遅らせることにおいて効果的ではない。
【0049】
トリテルペノイドは、ステロール、トリテルペンサポニンおよび関連構造を含む植物性天然産物の主要な群である。トリテルペノイドは天然物であっても合成物であってもよい。典型的には、それらは、植物材料からの抽出により得られる。トリテルペノイドの単離のための抽出工程は、例えば国際出願公開番号WO 2001/72315 A1およびWO 2004/016336 A1に記載され、これらの開示は、その全体を参考としてそれぞれ本明細書に組み込む。
【0050】
トリテルペノイドは、植物ステロールおよび植物スタノールを含む。開示したトリテルペノイドは、エステル化または非エステル化された型の任意の本明細書で記載した植物ステロールを含む。
【0051】
例示的な純粋植物ステロールは、カンペステロール、スチガステロール、スチグマステロール、β-シトステロール、Δ5-アベノステロール、Δ7-スチガステロール、Δ7-アベノステロール、ブラシカステロールまたはこれらの混合物を含む。他の実施形態では、ステロールブレンドは、純粋ステロールの混合物を含む。市販の入手可能な純粋ステロール、および純粋ステロールの混合物は、ベータ-シトステロール(ベータ-シトステロール ~40から60%;カンペステロール ~20から40%;スティマステロール
~5%)と呼ばれるMP Biomedicals(カタログ番号02102886)から入手可能なものを含む。いくつかの実施形態では、純粋ステロールは、純粋コレステロールを含むことができる。コレステロールは、本明細書では植物ステロールと同様の効果を有することが示されている。
【0052】
いくつかの実施形態では、純粋ステロールは、少なくとも70重量%のステロールを有することが可能であり、いくつかの実施形態では、少なくとも80重量%、少なくとも85重量%または95重量%のステロールを有することができる。
【0053】
例示的な粗植物ステロールは、トウモロコシ油、小麦胚芽油、サルサパリラ根、大豆ピッチおよびトウモロコシ油ピッチなどのような多様な植物源を含む、多量のステロールを有する改質もしくは非改質天然産物を含む。例えば、トール油ピッチは、木材、特に松材から紙を製造する工程から間接的に得られる。例えば、トール油は、木材パルプ化(例えばクラフト法)の生成物であり、トール油ピッチは、トール油の蒸留の副産物である。トール油ピッチは、非常に複雑な物質であり、ロジン、脂肪酸、酸化生成物およびエステル化物質を含み得、かなりの部分はステロールエステルである。粗ステロールの植物源は、様々な製造工程から残された末端または尾部であるという点で安価である。
【0054】
いくつかの実施形態では、粗ステロール源は、スチグマステロール、β-シトステロール、カンペステロール、エルゴステロール、ブラシカステロール、コレステロールおよびラノステロールまたはそれらの混合物を含む。いくつかの実施形態では、粗ステロールは、大豆油、トウモロコシ油、稲ふすま油、ピーナッツ油、ヒマワリ種子油、ベニバナ油、綿実油、菜種油、コーヒー種子油、コムギ胚芽油、トール油、およびウールグリースを含む。いくつかの実施形態では、粗ステロールは、生物由来の供給源あるいは部分的な生物由来の蒸留残渣を含む。いくつかの実施形態では、粗ステロール源は、トール油ピッチ、大豆油またはトウモロコシ油を含む。
【0055】
開示した植物源からの油屑またはピッチのいずれも、適切な粗ステロール源である。米国特許第2,715、638号、1955年8月16日、Albrechtには、脂肪酸不純物を中和工程において除去することによって、トール油ピッチからステロールを回収する処理が開示されている。これに続いて、ステロールエステルを鹸化し、次いで遊離ステロールを回収し、イソプロパノールにより洗浄し、乾燥させる。
【0056】
粗ステロールは、好ましくは植物源から得られる。粗ステロールは、トール油ピッチ、粗トール油、サトウキビ油、ホットウェルスキミング、綿実ピッチ、大豆ピッチ、トウモロコシ油ピッチ、小麦胚芽油またはライムギ胚芽油を含む。いくつかの実施形態では、トール油ピッチは、粗ステロールの供給源である。トール油ピッチは、約30から40%の不鹸化性分子を含むことができる。不鹸化性分子は、アルカリ水酸化物と反応しない分子である。トール油ピッチ中に残存する脂肪酸およびロジン酸は、水酸化カリウムもしくは水酸化ナトリウムと容易に反応し、したがって不鹸化性の成分は容易に分離することができる。45%の不鹸化性部分は、シトステロールに含まれ得ることが示されている。そのため、トール油ピッチ試料は、重量に対して約13.5%から18%のステロール分子を含有することができる。いくつかの実施形態では、粗ステロールは、食品グレード(例えば85重量%未満のステロール)未満の純度を有し得るか、もしくは85重量%より多く含有することができるが、食品への使用に不適切な物質になり得る不純物または汚染物をも含有することになる。
【0057】
いくつかの実施形態では、粗ステロールは動物由来であってもよい。いくつかの実施形態では、粗ステロールはコレステロールである。
【0058】
開示したステロールは、動物由来、植物由来、純粋または粗製を含む任意の組み合わせにより使用され得ることは、理解されるべきである。例えば、いくつかの実施形態では、ステロールは、植物からの純粋ステロールである。いくつかの実施形態では、ステロールは、植物由来および動物由来の組み合わせからの粗ステロールである。
【0059】
アスファルトバインダーに添加されるステロールは、例えば、アスファルト中のバインダーの約0.5~約15重量%、約1~約10重量%、あるいは約1~約3重量%の範囲であってもよい。いくつかの実施形態では、アスファルトバインダーに添加されるステロールは、例えば、アスファルト中の未使用バインダーの約0.5~約15重量%、約1~約10重量%、あるいは約1~約3重量%の範囲であってもよい。
【0060】
いくつかの実施形態では、ステロールは、純粋ステロール:粗ステロールブレンドが、例えば、アスファルト組成物中の未使用バインダーに対して、約0.5~約15重量%、約1~約10重量%、または約1~約3重量%の範囲である、ステロールブレンドである。ステロールブレンドは、いくつかの実施形態では、10:90から90:10の比率の粗ステロールに対する純粋ステロールを含む。いくつかの実施形態中のステロールブレンドは、少なくとも20:80、30:70、または40:60の比率の粗ステロールに対する純粋ステロールを含み、いくつかの実施形態では、80:20、70:30、または60:40未満の比率の純粋なステロール対粗ステロールを含む。
【0061】
いくつかの実施形態では、ステロールは、REOB、未使用パラフィンもしくはナフテン系基油、未処理もしくは未再精製廃液ドレイン油または廃エンジン油材料、真空塔アスファルト増量材、パラフィン系もしくはナフテン系加工油、あるいは潤滑基油のような軟化剤と組み合わせたRASおよび/またはRAPのようなビチューメン材料を含有するバインダーの、経年劣化によるレオロジー特性の劣化を変更し、減らし、あるいは遅らせることができる。
【0062】
いくつかの実施形態では、ステロールは、生物由来の油または添加物のような軟化剤と組み合わせたRASおよび/またはRAPのような再生ビチューメン材料を含有するバインダーの経年劣化によるレオロジー特性の劣化を変更し、減らし、あるいは遅らせることができる。このような生物由来の油または添加物は、自然または生物由来の油またはエステル、そしてその誘導体もしくは修飾体を含む。生物由来の油または添加物の非限定的な例は、一つ以上の野菜油もしくはそのエステル、種子油もしくはそのエステル、大豆油もしくはそのエステル、トウモロコシ油もしくはそのエステル、カシュー油もしくはそのエステル、パーム油もしくはそのエステル、キャノーラ油もしくはそのエステル、ベニバナ油もしくはそのエステル、ヒマワリ油もしくはそのエステル、シトルス油もしくはそのエステル、松油もしくはそのエステル、ロジン油もしくはそのエステル、または動物由来の脂肪酸エステルを含む。例示的な商業的に入手可能な生物由来の油または添加物は、Agri‐Pure Gold(登録商標)ブランド(Agri‐Pure Gold 53、55、63S、67、135、142S、200、500、750S、および2000など)下のCargill IncorporatedならびにAnova(商標)ブランドのアスファルト生物由来剤から入手可能なそれらのものを含む。
【0063】
各実施形態では、ステロールは、RAP、RAS、RAPおよびRASの両方の組み合わせたような再生ビチューメン材料、あるいは、RAP、RAS、またはRAPおよびRASの両方と組み合わせた軟化剤を含むバインダーの経年劣化によるレオロジー特性の劣化を変更し、減らし、あるいは遅らせることができる。
【0064】
〔バインダー〕
使用するバインダーは、当技術分野およびいずれかの領域で知られている、天然に存在するか製造された任意のバインダーを含むことができる。アスファルト基バインダーは、石油系バインダーを含む。適切なアスファルト基またはアスファルトバインダーは、ASTM D‐6373、D‐3387、D‐946、AASHTO M320、M226、またはM20に準拠するバインダーを含む。
【0065】
いくつかのアスファルト舗装は、舗装されるアスファルト中の成分としてRAPおよびRASのような再生材料を含むことができる。典型的には、アスファルト混合物の重量に対して、RAP濃度は50%と同様であってもよく、RAS濃度は6%と同様であってもよい。典型的なRAPのバインダー含有量は、4~6重量%の範囲であり、典型的なRASのバインダー含有量は、20~25重量%の範囲である。その結果、50重量%のRAPを含む混合物は、最終的なバインダー混合物に寄与する2.5%~3.0%のRAPバインダーを有し、また6重量%のRASを含むバインダー混合物は、最終的なバインダー混合物に寄与する1.2%~1.5%のRASバインダーを有する。
【0066】
開示したステロールを有するバインダーは、低減した剛性、より効果的な温度範囲、および望ましい低温特性のような、改善された物理的特性およびレオロジカル特性を有する再生アスファルト(例えばRAPもしくはRAS)を提供することができる。
【0067】
〔他の添加剤〕
アスファルトは、開示したステロール含有アスファルトバインダーに加えて、他の成分を有してもよい。そのような他の成分は、エラストマー、非ビチューメンバインダー、接着促進剤、軟化剤、活性剤および他の適切な成分を含むことができる。
【0068】
有用なエラストマーは、例えば、エチレン‐酢酸ビニルコポリマー、ポリブタジエン、エチレン‐プロピレンコポリマー、エチレン‐プロピレン‐ジエンターポリマー、反応性エチレンターポリマー(例えば、ELVALOY(登録商標))、ブタジエン‐スチレンブロック共重合体、スチレン‐ブタジエン‐スチレン(SBS)ブロックコポリマー、イソプレン‐スチレンブロック共重合体およびスチレン‐イソプレン‐スチレン(SIS)ブロックコポリマー、クロロプレンポリマー(ネオプレン)などを含む。硬化エラストマー添加剤は、粉砕タイヤゴム材料を含んでもよい。例えば、2015年カリフォルニア州標準仕様書(第37部、第423頁)および第39部「加熱混合アスファルト」(第447頁から始まり、http://www.dot.ca.gov/dist1/d1lab/SECTION%2039%20%20HMA.pdfおよびhttp://caltrans-opac.ca.gov/publicat.htmで入手可能)を参照のこと。
【0069】
アスファルトバインダーは、混合物またはブレンドを形成するために、バインダー(例えば未使用バインダー)にステロールを混合もしくはブレンドすることにより製造される。いくつかの実施形態において、この混合物またはブレンドは、再生アスファルト材料(例えばRASおよび/またはRAP)および骨材に追加される。当業者は、成分の添加および混合は任意の順番で行うことが可能である、と認識するだろう。いくつかの実施形態では、アスファルト混合物を製造する方法は、約100℃から約250℃または約130℃から約200℃の温度で、未使用のアスファルトにステロールを混合もしくはブレンドすることを含む。いくつかの実施形態では、未使用のアスファルトをステロールおよび軟化剤と組み合わせる。さらに他の実施形態では、未使用のアスファルトを、アスファルト舗装材料を形成するために、ステロールおよび骨材と組み合わせ、混合する。他の実施形態では、未使用のバインダーを、アスファルト舗装材料を形成するために、RAP、RASもしくはRAPおよびRASの組み合わせから抽出されたバインダー、ステロール、ならびに骨材と組み合わせ、混合する。
【0070】
石、砂利、砂などを含む適切な骨材の混合物は、約132~187℃の高温に加熱され、同様に加熱されたステロールを含有するアスファルトバインダーと、骨材粒子がバインダーにより被覆されるまで混合する。この温度範囲で作製する舗装混合物は、加熱混合物と呼ばれることもある。アスファルトおよび骨材の混合物は、次に、舗装機械により表面に敷設され、追加の機器によって、高温のままで、通常、ローラー圧縮される。固められた骨材およびアスファルトバインダーは、最終的に舗装を形成するために、冷却するにつれ、硬化する。
【0071】
開示したステロール含有アスファルトバインダーは、例えば冷たく湿っている骨材を熱いバインダーまたは冷たいバインダーに混合する冷却混合工程のような他の工程による道路舗装の最も上のアスファルト層に敷設され得、このようなバインダーは、適切な界面活性剤と共に水に分散したアスファルト乳化剤、もしくはアスファルトの混合物および、ナプタ、#1油または#2油(一般にカットバックアスファルトと呼ばれる)のような適切な炭化水素溶媒であってもよい。乳化したアスファルト粒子は、骨材を被覆かつ結合し、水が蒸発した後に残る。カットバックアスファルトを使用するときに、炭化水素溶媒は、溶媒の揮発性に応じて異なる速度で蒸発する。溶媒の揮発性にかかわらず、後に残るものは、溶媒が除去されるにつれて(例えば蒸発により)、アスファルト成分が時間と共に徐々に硬化するもしくは固くなる舗装材料である。
【0072】
バインダーはまた、被覆効果を高めるために、発泡しており、かつ、骨材と混合していてもよい。いくつかの乳剤はまた、特定の用途に適した材料を製造するために、水に加えて炭化水素溶媒も利用する。加温混合工程は、また、舗装を形成するために使用されてよく、その舗装の最表層のアスファルト層は、ステロール含有アスファルトバインダーを含む。
【0073】
一実施形態では、道路舗装を形成するための方法は、未使用アスファルトバインダーに対して0.5~15重量%のステロールが添加されたステロール含有アスファルトバインダーを提供すること、ステロール含有アスファルトバインダーと骨材とを組み合わせてアスファルト舗装材料を形成すること、アスファルト舗装層の表層にアスファルト舗装材料を敷設すること、および、敷設されたアスファルト舗装材料を、典型的には、道路舗装を形成するための舗装層内における骨材のムラおよび位置に依存する最大理論密度の89%もしくはそれ以上の適切な密度に固めることを開示する。
【0074】
別の実施形態では、アスファルト含有表面を処理するための方法は、アスファルトバインダーに対して0.5~15重量%のステロールが添加されたステロール含有アスファルトバインダーを含む表面処理を提供すること、および、既存の舗装の表面に、上記表面処理を適用することを含む。
【0075】
いくつかの実施形態では、バインダーはバインダーのブレンドを含む。いくつかの実施形態では、バインダーブレンドは、未使用のバインダーおよび再生アスファルトから抽出したバインダーを含む。例えば、RAS材料から抽出したバインダーは、アスファルトシングルの製造廃棄物、アスファルトシングルの消費廃棄物、もしくはアスファルトシングルの製造廃棄物および消費廃棄物から抽出したバインダーの混合物から抽出してもよい。いくつかの実施形態では、バインダーブレンドは、約60重量%から約95重量%の未使用バインダーと、未使用アスファルトの約0.5重量%から約15.0重量%のステロールとを含んでよい。いくつかの実施形態では、バインダーブレンドは、RAP、RAS、あるいはRPAとRASの組み合わせのような再生アスファルトから抽出した5重量%から約40重量%のバインダーをさらに含むことができる。ステロール添加剤は、RAP‐あるいはRAS‐含有アスファルトバインダーブレンドの高温および低温特性と、低温および高温の両端におけるPGグレーディングを改善することを示している。
【0076】
アスファルト舗装材料は、道路舗装の最上層として敷設してもよく、最上層は、例えば、約38mmまで、または、約65mmまでの平均厚さを有する。いくつかの実施形態では、アスファルト舗装材料は、道路舗装の最上層として敷設してもよく、最上層は、例えば、約12mmまで、または、約38mmまでの平均厚さを有する。
【0077】
経年劣化への反応においてバインダーがどの程度効果的に異なるか、もしくは、バインダーの経年劣化に対する反応に影響する添加剤がどの程度効果的に異なるかの尺度は、パラメーター デルタTc(ΔTc)である。ΔTcは、S‐臨界温度からm‐臨界温度を差し引くことにより算出される。Andersonらは、2011年の論文において、より大きい値のΔTcは、アスファルト舗装の疲労ひび割れと良く相関していることを示した。具体的には、ΔTcが5℃もしくはそれ以上の場合にひび割れが非常に起こり易いことをその研究は示した。Andersonらは、m‐臨界温度からS‐臨界温度を差し引く手順を使用し、そのため、よりプラスのΔTc値であるほど、疲労ひび割れの機会がより多くなる。2011年以降、アスファルトリサーチコミュニティは上記のような計算を逆転させ、現在、よりマイナスの値のΔTcがバインダー性能の低下を示す。より最近に、Reinkeらは、チェコ共和国のプラハでの2016EE会議において研究を発表し、よりマイナスの値のΔTcは、アメリカ合衆国のミネソタの二つの研究計画における疲労ひび割れと強い相関があることを示した(Reinke、Hanz、Anderson、ミネソタにおける、バインダー性能に対する再精製エンジン油残渣の影響および二つの舗装における混合性能、6th Eurasphalt and Eurobitume
Congress、Prague、June 1-3、2016、DOI:dx.doi.org/10.14211/EE.2016.284)。したがって、製造および使用時における、ΔTcの警告限界値は、-3℃であり、潜在的な失敗値は-5℃である。言い換えると、-5℃は、-3℃よりもよりマイナスであり、それゆえに-5℃のΔTc値は、-3℃のΔTc値よりも悪い。
【0078】
上記のように、ΔTcを決定するために、Western Research Instituteの4mm DSR試験手順および分析方法が採用された。DSR試験手順および方法はまた、2016年6月10日に出願された国際出願PCT/US16/37077号、2016年12月5日に出願されたPCT/US2016/064950号、および2016年12月5日に出願されたPCT/US2016/064961号に開示されており、これらのそれぞれの全体を本明細書中に参照として援用する。
【0079】
ΔTcパラメーターはまた、AASHTO T313あるいはASTM D6648を基にしたBending Beam Rheometer(BBR)試験手順を用いて、決定することができる。BBR試験手順を使用するとき、300MPaにおける剛性失敗基準、および、クリープまたは0.300のm‐値失敗基準のための結果は、失敗基準未満の一つの結果と、失敗基準を超える一つの結果と共に得られるというように、試験を十分な温度において行うことが重要である。-5℃より低いΔTc値のバインダーのいくつかの事例では、これは、3以上の試験温度におけるBBR試験の実施を要求し得る。上記のBBR基準要求が満たされない場合にデータから算出されるΔTc値は、正確ではないかもしれない。
【0080】
実施形態では、ステロール含有アスファルトバインダーは、-5.0℃以上のΔTcを有するアスファルトバインダー組成物を提供することができる。いくつかの実施形態では、ステロール含有アスファルトバインダーは、75℃における27、60、90および152時間の劣化後の、-5.0℃以上のΔTcを有するアスファルトバインダーを提供することができる。さらに他の実施形態において、ステロールを有するアスファルトバインダーは、同様に経年劣化したステロールを含有していないアスファルトバインダーと比較して、よりマイナスのΔTc値、および経年劣化後の減少したR値を有するアスファルトバインダーを提供することができる。実施形態では、ステロール含有アスファルトバインダーは、-5.0℃~+5℃、-4℃~+4℃、あるいは-3℃~+5℃のΔTcにおいて添加されたアスファルトバインダー組成物、舗装あるいは表面処理を提供することができる。
【0081】
〔乳剤〕
舗装構造は、乳剤中のアスファルトを使用することができる一方で、乳剤は典型的には、アスファルト表面処理に適用するために使用される。典型的な乳剤は、1以上の乳化剤を含む水中に分散したアスファルトバインダー粒子を有する水性乳剤を含む。
【0082】
乳剤内で使用する乳化剤は、任意の公知のカチオン性、アニオン性、非イオン性あるいは両性界面活性剤を含むことができる。舗装用途では、アスファルト乳剤は、ASTM D977およびD2397において、「固化」あるいは「硬化」に要する時間により、急速施工(RS)、中速施工(MS)、または、低速施工(SS)に分類される。乳剤は、水分の蒸発を通して硬化する。いくつかの乳剤(例えばカチオン性乳剤)は、骨材表面において分散したアスファルト粒子の電気化学的な堆積を通しても硬化する。これは、アスファルト粒子が骨材表面に移動した後、アスファルト粒子同士が結合または融合して均一なアスファルト層を形成するような融合の工程である。これは、化学的な「破壊」と考えることができる。いずれにしても、乳剤が硬化あるいは固化する前に、アスファルト粒子から水が分離することを介して、乳剤は通常破壊する。破壊時間は、乳剤の安定性により決定し、乳剤がより安定ならば、破壊時間はより長くなる。乳化剤はまた、表面電荷(もしくはその欠如)により、カチオン性、アニオン性、非イオン性あるいは両性として、分類することができる。固化時間と表面電荷特性とを組み合わせることにより、舗装用途に使用される乳化剤を、例えばカチオン性急速固化(CRS)、カチオン性中速固化(CMS)およびカチオン性低速固化(CSS)として分類することができる。これらの分類は、当該分野で公知であり、そしてASTM D977およびD2397に記載されているように、容易に計測することができる。
【0083】
アスファルト乳剤は、ポリマー、溶媒、本明細書に記載したような他の添加剤のような、他の物質を含んでいてもよい。
【0084】
開示した表面処理は、ステロールアスファルトバインダーを含有する水性乳剤である。バインダーは、ステロールをアスファルトバインダー(例えば未使用バインダー)に混合することにより形成することができる。ステロール含有バインダーはその後、乳化剤の助けにより、連続した水相に分散される。乳化剤および予熱したアスファルト乳剤は、典型的には、高いせん断混合が水中に分散したアスファルト液滴を有するアスファルト乳剤を製造する、コロイドミルに送り込まれる。
【0085】
ミクロ表面形成において、および、任意のスラリーシール処理のために、アスファルト乳剤は、例えば、結果として得られるアスファルトベースの冷温舗装構築物の強度および耐久性を増加させる、ならびに、これらの構築物の硬化時間を低減させるようにポリマー改質する。
【0086】
微小表面層構築物に適したポリマー格子は、カチオン性SBR(スチレン‐ブタジエンゴム)格子、天然ゴム格子およびポリクロロプレン格子(例えばDenka Performance Elastomer LLCから入手可能なNEOPRENE(登録商標))を含む。SBS(ポリ(スチレン‐ブタジエン‐スチレン))ブロック共重合体およびコポリマーは、例えばエチレン、エチレン酢酸ビニル(EVA)、グリシジルメタクリレートターポリマーあるいは、エチレン、n‐ブチルアクリレート(nBA)、グリシジルメタクリレートターポリマーであり、これらを使用可能であるが、典型的には加熱されたアスファルト(例えば160~170℃)にゆっくりと添加するべきであり、次いで、高いせん断で混合することで、アスファルト乳剤を形成する前にアスファルト中にポリマーを分散させる。使用可能な市販のターポリマーは、E.I.DuPont de Nemoursから入手可能なELVALOY(登録商標)を含み得る。
【0087】
ステロール含有乳剤は、好ましくは、約0.1重量%~約10重量%の間の界面活性剤、55重量%~95重量%のステロール含有アスファルトバインダーと、総量に足された水とを含む。乳剤の添加前に、通常、処理される表面を、例えば、表面を掃くこと、圧縮空気を表面に吹くこと、もしくは表面を洗浄することにより、過剰な表面汚れ、雑草および汚染物質を除去することにより清掃する。
【0088】
乳剤は、例えばブラッシング、ワイピングおよびドローイングのように多孔質表面に液体を塗布するまたはスプレー塗布するような適切な任意の方法を用いて、塗布することができる。スプレー塗布は、薄い乳剤層を短時間で塗布することができるため、好ましい乳剤使用方法である。乳剤を、好ましくは10(15°F)~93℃(200°F)あるいは、15℃(60°F)~87℃(190°F)の間の温度で塗布する。乳剤は、望ましくは、塗布温度において粘性を有しており、これにより表面に吹き付け可能であり、好ましくは1~5センチポアズの粘性を有する。
【0089】
〔常温路上再生〕
開示したステロール含有アスファルトバインダーは、当該技術分野で知られているように、任意の常温路上再生(CIR)処理に、用いることもできる。CIRは、熱を使用せずに、既存のアスファルト表面の一部の除去、再処理、および再舗装を含む。CIR処理は、例えば既存の材料の再使用、新しい材料の使用の最少化、材料輸送および運搬需要の低減、および材料の非加熱により費用を低減することから、経済的であり得る。CIRは、既存のアスファルト舗装の上部数インチの除去を含むことができる。CIRは、例えば、古い舗装を使用して新しい舗装層を形成する、亀裂、轍およびポットホールを除去する、および舗装表面を回復させるために用いることができる。いくつかの実施形態では、上部1インチ以上、上部6インチ以下を除去することができる。CIRのための除去は、一般的には、粉砕または研磨により行われる。粉砕は、望ましくは、粉砕機を使用するか、再生利用機と呼ばれる機械を使用して行われる。
【0090】
名前が示唆するように、CIRは、連続的な処理中の地ならしにおいて実行される。除去した材料は、乳剤あるいは発泡アスファルトと混合するために、CIR舗装車両の構成要素であるクラッシャーを通常通過する。除去した材料は、次いで所望のグラデーションを生成するために粉砕され、および/または地ならしされる。望ましいグラデーションは、最大粒径のみを特定することができる。グラデーションの一つの例は、除去した材料が1と1/4インチの公称サイズ未満である。もう一つの例では、除去した材料は、公称サイズの1インチ以下である。未使用骨材を、除去した材料に加えることが可能である。
【0091】
次に、材料を、ステロール含有アスファルトバインダー、石灰、ポルトランドセメントまたはフライアッシュを有するアスファルト乳剤と共に混合することができる。混合は、当技術分野で知られている任意の機械、粉砕機あるいはパグミルによって実行することが可能であるが、これらに限定されない。次いで、材料を、粉砕した表面に戻し、地ならしすることが可能である。これらの工程に使用する機械の例は、アスファルト舗装機およびモータグレーダである。
【0092】
〔カットバック〕
いくつかの実施形態では、ステロール含有アスファルトバインダーは、複合組成物あるいはネットワークの一部として、溶媒により希釈する、あるいは「カット」し、例えばフィラークレイおよびセルロース繊維などの不活性添加物と同様に、ポリマーおよび界面活性剤という機能的添加物をさらに含んでもよい。これらの添加物は、粘度、弾性接着および硬化速度のような特定の機能特性を有する組成物を提供するために、カットバック構築物に含まれる。
【0093】
カットバックは、それらの粘度がニートアスファルトの粘度よりも低く、したがって低温敷設に使用可能であることから、用いられる。カットバックを敷設した後、カットバックを製造するために使用した溶媒に依存した異なる速度で、溶媒は蒸発する。溶媒が蒸発するに従って、残ったアスファルトバインダーの粘度は高くなり、結果として骨材混合物がより安定する。カットバックアスファルトは、石油溶媒が蒸発すると「硬化」したと言われる。
【0094】
例示的なカットバック溶媒は、名前を挙げると、石油溶媒、軽質サイクル油(LCO)および#2ディーゼル燃料、ナフタ、#1油あるいは#2油を含む。
【0095】
カットバックアスファルトの種類は、American Society of Testing and Materials(ASTM)により、以下のように定義される:
SC=低速硬化型(道路油):ASTM D-2026-72
MC=中速硬化型:ASTM D-2027-76
RC=急速硬化型:ASTM D-2028-76。
【0096】
カットバックは、例えば50~96重量%のアスファルトバインダー、70~90重量%のアスファルトバインダー、もしくは75~85%のアスファルトバインダーを含むことができ、残りはカットバック溶剤である。さらに、カットバックアスファルトは、従来の量の剥離防止剤あるいは他の添加物を含んでもよい。
【0097】
〔中間層〕
開示したステロール含有アスファルトバインダーは、中間層にも使用することができる。図1Cは、古いアスファルト舗装および新しく敷いたアスファルト層の間に配置されるかもしれない、複数の層としての中間層を示す。中間層は典型的には、高いバインダー量を有するアスファルト混合物である。
【0098】
一つの例示的な実施形態では、中間層混合物は、6%~12%のポリマー改質バインダーおよび88%~94%の粉砕した骨材を有する。バインダーは、未使用バインダーおよび0.5%~15%のステロールのブレンドをエラストマーと共に改質することにより製造される。材料要求の例は、Iowa DOT明細書SS-15006、“Specification for Hot Mix Asphalt Interlayer”に見出すことができる。いくつかの実施形態では、アスファルトバインダー(ポリマー改質された、あるいはされていない)は、開示したステロールを有する。
【0099】
〔実施例〕
以下の研究は、乳剤を製造するために使用されるアスファルトバインダーベース中のステロールの存在が、締め固められた試験片中の混合物の上部1/2インチ中のバインダーの劣化を、未処理で締め固められただけの試験片と比較して遅らせることを示した。
【0100】
使用したビチューメン混合物の試験片として、5.6%の総バインダー含有量に対して未使用のPG58S-28アスファルトバインダー(4.5重量%)を使用し、0.2バインダー置き換え率で得られた再利用アスファルト舗装(RAP)を含む、Wisconsin specification 3 million Equivalent Single Axel Load(ESAL)混合物を用いた。これらのビチューメン混合物は、接頭語TおよびPによって参照される、二つのジャイレトリー締固め機を使用して、6%~8%の目標空隙率に、締め固めた。Tとして参照されるジャイレトリー締固め機は、ノースカロライナ州リサーチトライアングルパークのTroxler Electronic Laboratories、Inc.によって製造された。Pとして参照されるジャイレトリー締固め機は、ペンシルバニア州グローブシティのPine Instrument Companyによって製造された。
【0101】
全ての試験片を、高さ95mmおよび直径150mmに締め固めた。全ての試験片を、公称1/8インチの壁厚を有する内径6インチの下水管から切り取った、高さ約97mmのスリーブに挿入した。試験片の上面と底面は露出したままとした。締め固めた試験片を、それぞれ20個(10Tおよび10P)の試験片を有する三つのグループに分けた。グループ1の20個の試験片は、何の処理もせず、加熱劣化もしくは自然に劣化させた。グループ2の20個の試験片は、0.2ガロン/ydに相当する量の、PG 64S-22を基にしたバインダーから製造されたカチオン性急速硬化(CQS)乳剤で処理した。グループ3の20個の試験片は、0.2ガロン/ydに相当する量の、乳化する前に5%のフィステロールを添加されたPG 64S-22から製造されたカチオン性急速硬化(CQS)乳剤で処理した。CQS乳剤の百分率残渣は、それぞれの場合において、65%と66%の間であった。下水管に挿入されたままのジャイレトリー試験片の上部に対して、重量で乳剤を敷設するために、発泡ブラシを使用した。ジャイレトリー試験片の上部は、ジャイレトリーモールドから取り出した、締め固められた試験片の上部であった。全ての試験片の空隙は、AASHTO T-166を使用して決定し、各試験片に割り当てた固有の英数字識別子により標識した。各試験片を有する下水管の外側に、「未処理」、「CQS」あるいは「CQS+ステロール」とラベル付けすると共にTまたはPとラベル付けし、その後に特定の試験片に割り当てた固有の数値識別子で標識した。
【0102】
一グループあたり20試験片の三つのグループを、さらに10試験片からなる三つのグループに分けた。10個の試験片からなるサブグループのそれぞれは、10個の未処理の試験片、10個のCQS処理した試験片、および10個のCQS+ステロール処理した試験片を有しており、10個の試験片のそれぞれのグループは5個のTおよび5個のP試験片とした。30個の試験片の一つのサブグループを、劣化のために強制的に75℃の通風オーブン内に載置し、30個の試験片からなる他のサブグループを、自然に劣化させるために、開放した状態で載置した。オーブン状態の試料を、75℃のオーブンに載置して27、60、90および152日間した後に取り出した。
【0103】
オーブン状態により劣化を加速することは、試験片を、できるだけ実際の舗装の状態に刺激する。実際の状態では、舗装層の温度は、表層からの深さが増すにつれ、低下する。PVCスリーブ内に試験試料を包み込むことにより、酸素が試料の側壁を通って移動することを防止し、それにより舗装の実際の状態に刺激する。
【0104】
表1~5は、未処理、CQS乳化剤、および植物性ステロール5%を有するアスファルトから製造されたCQS乳化剤に関して、締め固めた混合物の試験片の最上部から1/2インチの層から回収したバインダー試料を試験することにより得られたデータをまとめた。
【0105】
表1は、すべての処理に対するベースとなるデータ、もしくはコントロールデータである。表1のデータは、処理を受けておらず、また劣化していない、締め固めた混合試験片から得られた。
【0106】
【表1】
【0107】
表2~5のデータは、強制通風したオーブン中において、75℃で27、60、90、および152日間劣化させた後に回収したバインダーデータをまとめた。1.0kPaおよび2.2kPaの両方におけるPGグレードは、バインダーの剛性の相対的な変化の指標を提供する。バインダーが1.0kPaあるいは2.2kPaの剛性を達成する温度が高いほど、バインダーは、より劣化する。低温剛性臨界温度(S‐臨界)および応力緩和臨界温度(m‐臨界)は、回収したバインダーの低温のグレードにおける変化を追跡する。これらの値は、本明細書において参照するSuiらの手順に従った、4mm動的せん断レオメーター試験を用いて決定した。ΔTcで標識した変数は、S‐臨界の値からm‐臨界の値を差し引くことにより決定した。ΔTcの結果が負であればあるほど、バインダーを含む混合物が疲労亀裂し易くなる。-5℃以下のΔTc値は、疲労亀裂し易い混合物であることを示す。R値変数は、バインダーの応力緩和能の指標である。より高いR値を伴うバインダーは、より応力緩和し難く、その結果、より亀裂を生じ易い。
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
【表5】
【0112】
これらの表にまとめたデータは、5%ステロールを有するバインダーから製造されたCQS乳剤により処理された試験片から回収されたバインダーが、他の二つの処理と比べて、m‐臨界温度の最も低い値、ΔTcの最も低い負の値、およびR値の最も低い値を有することを示す。全ての劣化工程において、ステロール含有処理は、状態温度および酸化硬化による劣化の影響を遅らせた。
【0113】
図2~6は、より容易な解釈のために、プロットされた表1~5からのデータを示す。劣化したアスファルトバインダーに関して、低温m‐臨界値(図2)は、バインダーの低温PGグレードである。m‐臨界温度は、応力緩和係数マスター曲線の60秒において測定される勾配から得られる。m‐臨界勾配値は、Bending Beam Rheometerあるいは試験(ASTM D6648)から得る、もしくはウェスタン研究所におけるSuiおよびFarrarの研究が示したように、4mm DSR試験から得ることができる。バインダーの応力緩和が容易であればあるほど、バインダーの破損温度はより低くなる。ステロール添加は、低温および中間の温度におけるバインダーの応力緩和能の改善を示した。
【0114】
図3は、異なる劣化期間における、低温S‐臨界もしくは剛性臨界値のプロットである。図3は、任意の劣化期間を与えられた処理間において、S‐臨界値にわずかな変化が存在することを示す。S‐臨界温度はm‐臨界温度よりも低いが、バインダーの低温破損グレードに関するPGバインダーの特定が、これら二つの低温値の内のより温かい方に基づくことは、強調する価値がある。それゆえに、添加物は、m‐臨界値が低下する速度を遅くすることができる場合、バインダーはより良好な低温性能を有することになる。
【0115】
図4は、異なる劣化時間におけるΔTc値をプロットしたものである。図4は、まず(27日間において)、CQSおよびCQS+ステロール乳剤の両方においてこれらをそれぞれ混合試験片に添加することによって、ゼロ時間における元のΔTc値と比較してΔTc値が改善することを示す。未処理の試料から回収したバインダーは、2℃以上減少したΔTcを示す一方で、そのままCQS処理した試料のΔTcは約0.5℃減少しただけであった。CQS+ステロール処理した試料のΔTc値は、0.6℃増えていた。元の試験片に添加した追加のアスファルトバインダーは、CQS処理した試験片の劣化速度の減少を説明し、追加のアスファルトバインダーにステロールの影響を加えたものは、劣化0日の混合物のΔTcと比較して、27日間劣化させた後に回収したアスファルトバインダーの改善を説明した。60日間および90日間の劣化後、CQS+ステロール処理した試験片から回収したバインダーのΔTc値は、未処理およびCQS処理試験片と比較して、-5℃よりもなお大きかった。152日間の劣化後でさえ、CQS+ステロール処理試験片は、他の処理と比較して、より良好なΔTc値を有する。
【0116】
図5は、異なる処理に関して、バインダーのレオロジカル指数あるいはT値のプロットである。R値は、バインダーの応力緩和能のもう一つの指標である。R値が増加したバインダーは、応力緩和能が低下している。R値を3以下に維持することが望ましく、図5が示すように、乳化処理の最初の実施は、他のこれら二つの処理によりR値を低下させたが、60時間の劣化により、未処理およびCQS処理試験片はR値が3以上となった。全ての連続した劣化を通して、CQS+ステロール処理試験片は、一貫して他の処理よりも良好なR値を有した。
【0117】
図6は、様々な処理を施し劣化させたものから回収したバインダーの高温PGグレードのプロットである。データは、劣化に伴う高温グレードの、相対的にわずかな変化を示すが、CQS+ステロール処理は、一貫して最も低い高温値を有する。轍に抵抗するために十分な剛性を有し、より中西部の典型的なアメリカ気候において、これらすべてのバインダーが適切な剛性を有する限り、バインダーの高温特性はあまり重要ではない。
【0118】
表6および7は、60日間および152日間の劣化後の、締め固めた試験片の上から二番目の1/2インチから回収したバインダーの特性を示す。これらの間隔で、このデータを取得する目的は、上部1/2インチの混合物層のバインダーの劣化と比較して、これらの層におけるバインダーの劣化を示すためであった。未処理試験片の上から二番目の1/2インチのバインダーからのΔTc値を除いて、回収したバインダーの特性は、60日間と152日間とにおいて類似していた。60日間劣化させた未処理試料が-3.80℃のΔTcを有することは、CQSおよびCQS+ステロール処理と比較して、より暖かいS‐臨界値であることが原因である。より暖かいS‐臨界値は、処理した試料と比較して、剛性破損温度のより大きい劣化を示し、混合物の上から二版目の1/2インチにより多くの酸素が移動する原因となり得る。未処理の試料は、乳剤処理を有していなかったため、その表面からハーフインチは、酸素が混合物に浸透するより大きな機会を有したと考えられる。60日間劣化させた未処理のバインダーから回収したバインダーのR値は、他の二つの処理と同様であり、これは、応力緩和の同様の特性とも一致しており、また上から二番目の1/2インチから回収したバインダーは、三つ全ての処理におけるm‐臨界特性の類似性とも一致している。
【0119】
図7は、60日間劣化させた、上部1/2インチおよび上から二番目の1/2インチの間で回収したバインダーの、S‐臨界およびm‐臨界データの棒グラフの比較を示す。図8は、60日間劣化させた同じバインダーのΔTcとR値特性との間の比較を示す。図9および図10は、152日間劣化させた上部および上から二番目の1/2インチにおいて回収したバインダーの同様のそれぞれのプロットを示す。
【0120】
S‐臨界値は、何れの処理においても、また、何れの深さに対してもほとんど変化を示さず、CQS+ステロール処理した上部1/2インチのm‐臨界値は2.4℃であり、上から二番目のハーフインチからのバインダーよりも、より良好な低温m‐臨界値を示す。CQS処理した試験片が、上から二番目のハーフインチから回収したバインダーより良好な0.6℃のm‐臨界値であったという事実は、混合物に添加した追加のバインダーが、CQS+ステロール試験片のm‐臨界値を大幅に改善する源ではないということ、および、ステロール含有乳剤のフォグシール処理が、上部ハーフインチ層に存在することを示す。
【0121】
図8にプロットしたデータは、60日間の劣化後の上部ハーフインチおよび上から二番目のハーフインチからのバインダーのΔTc値を示す。ステロール処理した混合物の上部ハーフインチのR値も、また上から二番目のハーフインチの値より低かった。
【0122】
図9は、152日間の劣化後のS‐臨界およびm‐臨界の比較を示す。S‐臨界データは、両方の層の全ての処理に対してとても類似している。m‐臨界値は、明確な差を示す。上から二番目のハーフインチ層は、わずかにより暖かいm‐臨界温度を有する未処理の試験片と良く類似していた。CQS処理試験片は、上部ハーフインチが、上から二番目のハーフインチと比較して(-10.09℃対-7.42℃)、2.67℃より冷たい(すなわちより良好な)m‐臨界値を有していた。これは、フォグシール中に追加された余分なアスファルトに起因する。しかしながら、CQS+ステロールの上部ハーフインチは、CQSだけの処理よりも2.7℃より冷たい(すなわちより良好な)、およびCQS+ステロール処理試験片の上から二番目の層よりも5.7℃より低い(すなわち良好な)m‐臨界値を有していた。これは、ステロール処理試験片が、上部ハーフインチに存在することを示す。CQS処理は、また、一般的なフォグシール処理が上部ハーフインチに存在することを示す一方で、同時に、アスファルト乳剤を敷設するだけでは、処理中にステロール添加物を存在させることによる劣化を遅らせる利点が得られないことが強調されることを示す。
【0123】
図10は、152日間の状態の後の、三つの処理におけるΔTcおよびR値を比較する。未処理の試験片の両方の層、並びに、CQS処理およびCQS+ステロール処理の試験片における上から二番目の層のハーフインチのΔTc値は、乳化処理された試験片よりわずかに良好であるが全て類似しており、このことは、これらの試験片の表面に追加したアスファルトに起因していると考えられる。CQS処理試験片は、上から二番目のハーフインチより上部層のハーフインチの方が2.2℃良好なΔTcを有していたが、CQS+ステロール処理試験片では、上部ハーフインチのΔTcは、上から二番目の層のハーフインチよりも5℃良好であった。R値データはまた、類似した相対的な性能も示す。未処理の試験片は、ほぼ同一のR値を有し、CQS処理試験片は、上部ハーフインチのバインダーが、上から二番目のハーフインチのバインダーよりも0.25のR値の改善を有し、CQS+ステロール処理試験片が、上部ハーフインチのバインダーが、上から二番目のハーフインチのバインダーよりも0.74のR値の改善を有することを示す。
【図面の簡単な説明】
【0124】
図1A】アスファルト舗装の構造を示す。
図1B】表面処理を施した図1Aのアスファルト舗装の構造を示す。
図1C】中間層を有するアスファルト舗装を示す。
図2】75℃におけるオーブン劣化に対するm‐臨界をグラフで示す。
図3】75℃におけるオーブン劣化に対するS‐臨界をグラフで示す。
図4】75℃におけるオーブン劣化に対するΔTcをグラフで示す。
図5】75℃におけるオーブン劣化に対するR値をグラフで示す。
図6】75℃におけるオーブン劣化に対する1.0kPaにおける高温PGグレードをグラフで示す。
図7】60日間のオーブン劣化後の、固められた試験片の上部のハーフインチおよびその下のハーフインチから回収されたバインダーのS‐臨界特性およびm‐臨界特性をグラフで示す。
図8】60日間のオーブン劣化後の、締め固められた試験片の上部のハーフインチおよびその下のハーフインチから回収されたバインダーのΔTc特性およびR値特性をグラフで示す。
図9】152日間のオーブン劣化後の、締め固められた試験片の上部のハーフインチおよびその下のハーフインチから回収されたバインダーのS‐臨界特性およびm‐臨界特性をグラフで示す。
図10】152日間のオーブン劣化後の、締め固められた試験片の上部のハーフインチおよびその下のハーフインチから回収されたバインダーのΔTc特性およびR値特性をグラフで示す。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10