IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ウスタフ フォトニキ ア エレクトロニキ アーヴェー ツェーエル,ヴェー.ヴェー.イー.の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】熱光学空間光変調器
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/01 20060101AFI20240409BHJP
   G02B 21/00 20060101ALI20240409BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
G02F1/01 D
G02B21/00
G02B21/36
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022521199
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-09
(86)【国際出願番号】 CZ2020050072
(87)【国際公開番号】W WO2021068995
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】PV2019-637
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CZ
(73)【特許権者】
【識別番号】522140172
【氏名又は名称】ウスタフ フォトニキ ア エレクトロニキ アーヴェー ツェーエル,ヴェー.ヴェー.イー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ピリアリク,マレク
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト,ハドリアン マルク ルイス
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-520612(JP,A)
【文献】特開昭59-068723(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0203558(US,A1)
【文献】特開2005-234356(JP,A)
【文献】特表2016-541027(JP,A)
【文献】特表2017-510846(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0031402(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108388033(CN,A)
【文献】特開2004-109892(JP,A)
【文献】特表2014-520399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
1/21-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間光変調器であって、
熱光学媒質の層であって、前記熱光学媒質は、可視光または近赤外光の少なくとも1つのスペクトル成分に対して少なくとも部分的に透明であり、かつ、20℃の温度で0.01W・K-1・m-1~30W・K-1・m-1の熱伝導率を有し、前記層は、100μmを上限とする厚さを有する熱光学媒質の層と、
前記熱光学媒質の前記層と熱接触状態にある少なくとも1つのマイクロ加熱源であって、各マイクロ加熱源が10μmより小さい少なくとも1つの寸法を有するマイクロ加熱源と、
前記熱光学媒質と熱接触状態にある少なくとも1つの基板であって、前記熱光学媒質の熱光学係数よりも少なくとも10倍小さい熱光学係数と、少なくとも1W・K-1・m-1の熱伝導率とを有し、前記基板の前記熱伝導率は、前記熱光学媒質の前記熱伝導率よりも高い基板と、
を備え、
前記少なくとも1つのマイクロ加熱源は金属、金属窒化物、金属酸化物、または炭素から作製された複数の光熱素子であり、
前記空間光変調器が
前記複数の光熱素子により吸収することのできる少なくとも1つのスペクトル成分を放出するための1または複数の光源、および、
前記1または複数の光源と前記複数の光熱素子との間に配置された少なくとも1つの導光手段を備える光学系、をさらに備える、空間光変調器。
【請求項2】
前記複数の光熱素子は、前記基板と前記熱光学媒質との境界面上に位置し、かつ/または、前記熱光学媒質中に分散し、かつ/または、前記熱光学媒質の所定領域内に位置する、請求項に記載の空間光変調器。
【請求項3】
光熱素子は、0.1nm~1μmの体積を有する粒子である、請求項1または2に記載の空間光変調器。
【請求項4】
前記複数の光熱素子は、実質的に、球形、半球形、棒形、立方体形、星形、柱形、もしくは円盤形の形状を有するか、もしくは、かかる形状を有する複数の光熱素子の混合物であるか、
または、前記複数の光熱素子は、複数のコロイド粒子の形態であり、前記複数のコロイド粒子の最大寸法は、1μmを上限としている、請求項1~3のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項5】
前記複数のコロイド粒子の最大寸法は、100nmより小さい、請求項に記載の空間光変調器。
【請求項6】
前記複数の光熱素子は、補助材料の層中に懸濁または分散し、
前記基板と前記熱光学媒質との境界面上に位置し、かつ/または、前記熱光学媒質の所定領域内に位置する層が形成されており、
前記補助材料は、SF型ガラス、サファイア、エポキシ樹脂、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、tert‐ブチルポリ(エーテル‐エーテルケトン)、ポリジメチルシロキサン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、シリコーン、ポリカーボネートおよびウレタンアクリレートエラストマーの固体材料から選択されたものであるか、または、油、水、グリセロール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、オクタノール、ドデカノールの液体材料から選択されたものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項7】
前記複数の光熱素子は、前記基板に取り付けられた連続または不連続の層を形成しており、
前記連続または不連続の層の最大厚さは、10μmである、請求項1~6のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項8】
前記複数の光熱素子は、前記基板に取り付けられた連続または不連続の層を形成しており、
前記連続または不連続の層の最大厚さは、100nmである、請求項1~6のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項9】
空間光変調器であって、
固体である熱光学媒質の層であって、前記熱光学媒質は、可視光または近赤外光の少なくとも1つのスペクトル成分に対して少なくとも部分的に透明であり、かつ、20℃の温度で0.01W・K -1 ・m -1 ~30W・K -1 ・m -1 の熱伝導率を有し、前記層は、100μmを上限とする厚さを有する熱光学媒質の層と、
前記熱光学媒質の前記層と熱接触状態にある少なくとも1つのマイクロ加熱源であって、各マイクロ加熱源が10μmより小さい少なくとも1つの寸法を有するマイクロ加熱源と、
前記熱光学媒質と熱接触状態にある少なくとも1つの基板であって、前記熱光学媒質の熱光学係数よりも少なくとも10倍小さい熱光学係数と、少なくとも1W・K -1 ・m -1 の熱伝導率とを有し、前記基板の前記熱伝導率は、前記熱光学媒質の前記熱伝導率よりも高い基板と、
を備え、
前記少なくとも1つのマイクロ加熱源は、電流により加熱されるように構成された複数の電熱素子であって、少なくとも100S/mの導電率を有する複数の電熱素子である、空間光変調器。
【請求項10】
前記少なくとも1つのマイクロ加熱源は、誘導電流により加熱される複数の電熱素子である、請求項9に記載の空間光変調器。
【請求項11】
前記熱光学媒質の前記層の前記厚さは、1μm~20μmの範囲内にある、請求項1~10のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項12】
前記熱光学媒質は、20℃において、可視光に対して8×10-5-1以上の熱光学係数を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項13】
2つの基板を備え、
前記2つの基板は、前記熱光学媒質の互いに反対の側に位置する、請求項1~12のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項14】
‐少なくとも1つのスペクトル成分を有するプローブビームの源であって、放出された前記プローブビームの軸が照射光路の軸に対応するように配置されたプローブビームの源と、
‐前記照射光路の前記軸上に配置されたビームスプリッタまたは分割ミラーと、
‐前記ビームスプリッタまたは前記分割ミラーが前記プローブビームの前記源と結像手段との間に配置されるように、前記照射光路の前記軸上に配置された前記結像手段と、
‐複数のレンズ、複数のミラーまたは複数の開口のうちの少なくとも1つを備える結像光学系であって、前記結像光学系の軸が結像光路の軸であるように配置されており、像平面および/または後焦点面を有する結像光学系と、
‐前記結像光路の前記軸上に配置された検出器と、
‐前記結像光路の前記軸上もしくは前記照射光路の前記軸上に配置された空間光変調器であって、請求項1~13のいずれか一項に記載の空間光変調器と、
を備える、干渉結像装置。
【請求項15】
前記空間光変調器の、前記基板、前記熱光学媒質、および、1または複数の前記マイクロ加熱源は、前記結像手段と前記検出器との間に配置されており、
前記結像光学系の前記像平面または前記後焦点面の位置は、前記空間光変調器の位置と一致する、請求項14に記載の干渉結像装置。
【請求項16】
請求項1~13のいずれか一項に記載の空間光変調器を用いて、光のプローブビームを空間位相変調する方法であって、
照射光路に沿ってプローブビームを放出する工程と、
前記空間光変調器を通るように前記プローブビームを導く工程であって、前記空間光変調器は、前記プローブビームの少なくとも一部を前記熱光学媒質の前記層を通して透過し、かつ、
〇前記プローブビームの少なくとも一部を、少なくとも1つの前記基板、および、1もしくは複数の前記マイクロ加熱源を通して透過するか、または、
〇前記プローブビームを、少なくとも1つの前記基板上、もしくは、1もしくは複数の前記マイクロ加熱源上で少なくとも部分的に反射する工程と、
1または複数の前記マイクロ加熱源に附近の前記熱光学媒質を加熱させることで、前記熱光学媒質の屈折率に局所的変化を生じさせ、前記熱光学媒質の前記屈折率の前記局所的変化による局所的シフトを、前記プローブビームの波面に生じさせる工程と、
を含む、方法。
【請求項17】
請求項14または15に記載の干渉結像装置を用いる、プローブビームの位相が調節可能な物体の干渉結像の方法であって、
複数のレンズ、複数のミラーまたは複数の開口のうちの少なくとも1つを含む照射光路に沿ってプローブビームを放出する工程と、
前記ビームスプリッタまたは前記分割ミラーと、前記結像手段とを通して、前記物体上へと前記プローブビームを導き、反射ビームまたは透過ビームと、前記物体により散乱されたビームとを生成する工程と、
前記結像手段により、前記反射ビームまたは前記透過ビームを集める工程と、
同じ結像手段を用いて、前記物体により散乱された前記ビームを集める工程と、
集められた前記反射ビームまたは前記透過ビームと、集められた前記物体により散乱された前記ビームとに、前記空間光変調器を通過させる工程であって、前記空間光変調器は、前記プローブビームの少なくとも一部を前記熱光学媒質の前記層を通して透過し、かつ、
〇前記プローブビームの少なくとも一部を、少なくとも1つの前記基板、および、1もしくは複数の前記マイクロ加熱源を通して透過するか、または、
〇前記プローブビームを、少なくとも1つの前記基板上、もしくは、1もしくは複数の前記マイクロ加熱源上で少なくとも部分的に反射する工程と、
1または複数の前記マイクロ加熱源に附近の前記熱光学媒質を加熱させることで、前記熱光学媒質の屈折率に局所的変化を生じさせ、前記熱光学媒質の前記屈折率の前記局所的変化による局所的シフトを、前記反射ビームもしくは前記透過ビームの波面の少なくとも一部、または、前記物体により散乱された前記ビームの波面の少なくとも一部に生じさせる工程と、
前記反射ビームまたは前記透過ビームと、前記物体により散乱された前記ビームとを、前記検出器上で検出する工程と、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間光変調器、および、かかる空間光変調器を含む干渉結像系(interferometric imaging system)に関する。
【背景技術】
【0002】
空間光変調器(Spatial light modulator:SLM)は、光ビームの波面に対して、強度、位相または偏光等の特定の光の特性を空間的に変化させる変調を与える、能動的な光学コンポーネントである。天文学および顕微鏡検査における重要な改善が、SLMによって可能となった。また、SLMは、効率的で能動的な位相整形(phase shaping)を実行するために、欠かせないものとなった。SLMの最も重要な応用には、ビーム整形(beam shaping)および補償光学(adaptive optics)が含まれる。ビーム整形は、超解像イメージング(super-resolution imaging)およびデジタルホログラフィー技術において使用される。また、補償光学は、天文学における大気または生物学における拡散性組織(diffusive tissue)等の不均一物質(材料)を通しての結像において、ビーム形状補正を可能とする。現代のSLMは、電子的にアドレス可能なマイクロピクセルのアレイによって、入射光の波面に対して空間的パターンを形成するものである。局限的な(locally confined)空間光変調を生成するために、2つの主要な技術的手法が存在する。それは、位置の調節が可能なマイクロミラーピクセルに基づく手法、および、複屈折の調節が可能な液晶ピクセルに基づく手法である。種々の手法の主な制限には、応答時間の遅さ、分散効果(dispersion effect)、回折効果(diffraction effect)、回折効果および液晶の場合の異方性効果(anisotropic effect)、デジタルマイクロミラー装置の場合の連続的な調節の欠如が含まれる。
【0003】
熱光学効果(Thermo-optic effect)は、例えばUS6,311,004に記載された、光場の強い閉じ込めによる導波路オプティクスにおける位相シフト制御のための、優れた方法である。しかしながら、自由空間の結像構成では、熱光学効果には、複数の副次的作用および収差が伴う。実際、熱により、機械的ドリフト(mechanical drift)またはレンズ拡張(lens dilation)が誘起され得る。また、巨視的加熱(macroscopic heating)が本質的に遅い。微視的スケールでは、局所加熱の時間的応答は、特徴的寸法(characteristic dimension)の二次に依存し、~10μmよりも小さなスケールでは、サブミリ秒領域に入ることができる。一例では、金属ナノ粒子がそのプラズモン共鳴において照射されると、入射光の一部が吸収され、その結果、当該金属ナノ粒子は、実効的なナノ熱源となる。この効果は、熱プラズモン効果(thermoplasmonic effect)と称される。しかしながら、局所的な熱源は当然、熱源の近傍において、勾配を有する温度プロファイルを生成する。これは、例えば熱イメージングの場合に、位相感知情報を提供するために使用することができ(ACS nano、6(3)、2452~2458)、あるいは、可変倍率を有する光熱レンズにおける集束装置として使用することができる(ACS Photonics、第2巻、355頁~360頁、およびUS9,804,424)。半無限液体媒質中に生成された温度勾配は、媒質の屈折率に三次元勾配を誘起し、その結果、勾配レンズ効果(gradient lens effect)を生ずる。レンズの焦点距離は、200μs程度の短い時間応答で、数μmから調整できることが示されている。特定の光学的特性を有するコンポーネントを作り出すため、熱の流れにより誘起される本来の勾配を利用することは、波面整形の非常に特定的な課題に対する、シンプルな解決策である。
【0004】
局所空間境界内における一様な温度プロファイルの生成は、自由空間光ビームのための熱光学空間光変調器を開発するうえで、主要な課題として残されている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の主題は、熱光学効果を利用して局所的かつほぼ一様に屈折率の変化したエリアをつくり出す、新しいタイプの空間光変調器である。この空間光変調器は、偏光に敏感でなく、残余の回折パターンがない。また、この空間光変調器は、位相シフトの全範囲でMHz範囲の変調振動数に到達することができる。
【0006】
本発明の第1の態様では、熱光学媒質の層であって、前記熱光学媒質は、可視光または近赤外光の少なくとも1つのスペクトル成分に対して少なくとも部分的に透明であり、かつ、0.01W・K-1・m-1~30W・K-1・m-1の熱伝導率を有し、前記層は、100μmを上限とする厚さを有する熱光学媒質の層と、
前記熱光学媒質の前記層と熱接触状態にある少なくとも1つのマイクロ加熱源であって、各マイクロ加熱源が10μmより小さい少なくとも1つの寸法を有するマイクロ加熱源と、
前記熱光学媒質と熱接触状態にある少なくとも1つの基板であって、前記熱光学媒質の熱光学係数よりも少なくとも10倍小さい熱光学係数と、少なくとも1W・K-1・m-1の熱伝導率とを有し、前記基板の前記熱伝導率は、前記熱光学媒質の前記熱伝導率よりも高い基板と、
を備える、空間光変調器が提供される。
【0007】
「光のスペクトル成分」という用語は、光の特定波長、または、光の連続する波長範囲として理解されたい。
【0008】
「少なくとも部分的に透明」という用語は、関連するスペクトル成分について、少なくとも部分的に透過性を有する媒質、好ましくは、関連するスペクトル成分について、少なくとも50%の透過率を有する媒質を意味するものと理解されたい。
【0009】
紫外光は、10nm~380nmの範囲内の波長を有する光である。
【0010】
可視光は、380nm~800nmの範囲内の波長を有する光である。
【0011】
近赤外光は、800nm~2500nmの範囲内の波長を有する光である。
【0012】
赤外光は、2.5μm~1000μmの範囲内の波長を有する光である。
【0013】
「熱光学係数(thermo-optic coefficient)」という用語は、温度に対する屈折率感度のテイラー級数の1次である。
【0014】
「熱接触状態にある」という用語は、他の物体Bと熱接触状態にあると表現された物体Aに誘起される温度変化が、それに比例する温度変化を物体Bの体積の少なくとも一部にもたらすこと、好ましくは、物体Aが物体Bと少なくとも1つの共通表面を有することを意味するものと理解されたい。
【0015】
「変調ビーム(modulating beam)」という用語は、マイクロ加熱源を光吸収により加熱するために使用される光のビームを指す。変調ビームは、均一な強度プロファイル、またはベッセル関数、特に円盤の二次元フーリエ変換に従う強度プロファイルを有することが好ましい。
【0016】
「プローブビーム(probe beam)」という用語は、空間光変調器による変調対象となる光のビームを指す。好ましくは、プローブビームは、少なくとも1つの光源から均一な波面で放出されるか、もしくは、プローブビームは、物体上で反射された光波の一部であるか、もしくは、プローブビームは、物体上で散乱された光波の一部であるか、または、プローブビームは、これら複数の選択肢を組み合わたものである。
【0017】
「ナノ構造を有する層(nanostructured layer)」という用語は、例えばコーティング、蒸着等の管理された方法で製造された、ナノスケールの層またはマイクロスケールの層を意味する。
【0018】
「ナノパターンを有する層(nanopatterned layer)」という用語は、定められた規則的な繰り返しパターンを有するナノスケールの層またはマイクロスケールの層を意味する。
【0019】
一般に、本明細書に具体的に列挙した温度依存的な特性の値は全て、20℃において測定されたものである。
【0020】
前記熱光学媒質の前記層の厚さは、100μmを上限としている。前記熱光学媒質の前記層の厚さは、20μmを上限とすることが好ましく、前記熱光学媒質の前記層の厚さは、1μm~100μmの範囲内または1μm~20μmの範囲内にあることがより好ましい。前記熱光学媒質の前記層の厚さは、一様(均一)であってよいか、または、非一様(不均一)であってよく、例えば、前記厚さは、勾配を形成してもよい。
【0021】
好ましくは、前記熱光学媒質は、可視光から赤外光までの波長範囲について、20℃において、8×10-5-1以上の熱光学係数の大きさ|dn/dT|を有する。すなわち、前記熱光学媒質の熱光学係数は、水の熱光学係数に等しいか、または、水の熱光学係数よりも大きい。
【0022】
いくつかの実施形態では、前記熱光学媒質は、油、水、アルコール(例えば、グリセロール、オクタノール、ドデカノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol:PVA))、ポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane:PDMS)、SF型ガラス、サファイア、エポキシ樹脂、ポリ(メチルメタクリレート)(polymethyl methacrylate:PMMA)、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride:PVC)、ポリ(エチルメタクリレート)(polyethyl methacrylate:PEMA)、tert‐ブチルポリ(エーテル‐エーテルケトン)、ポリスチレン、シリコーン、ポリカーボネートおよびウレタンアクリレートエラストマーから選択される。
【0023】
いくつかの実施形態では、前記熱光学媒質は、液体、ゲルまたはゾル‐ゲルの形態であってもよい。
【0024】
前記マイクロ加熱源が供給する熱は、例えば、以下を原因として生じるものであってよい。
-前記マイクロ加熱源(特に、ナノ粒子光熱素子)のプラズモン振動数を有する変調ビームの照射;
-前記マイクロ加熱源(特に、(複数の)光熱素子の層)が吸収する変調ビームの照射;
-前記マイクロ加熱源(特に、電熱素子)の導電回路内の電流によって生じる誘導加熱またはジュール効果。
【0025】
いくつかの実施形態では、前記マイクロ加熱源は、前記熱光学媒質の前記層と熱接触状態にある複数の光熱素子であってよく、前記複数の光熱素子は、10μmより小さい少なくとも1つの寸法を有し、かつ、紫外光、可視光、近赤外光または赤外光の少なくとも1つのスペクトル成分を少なくとも部分的に吸収してもよい。
【0026】
前記複数の光熱素子は、典型的には、金属(例えば、金、銀、アルミニウム)、金属窒化物(例えば、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル)、金属酸化物(例えば、インジウムスズ酸化物(indium tin oxide:ITO))、炭素から作製される。
【0027】
前記複数の光熱素子は、前記基板と前記熱光学媒質との境界面上に位置し、かつ/または、前記熱光学媒質中に分散し、かつ/または、前記熱光学媒質の特定領域内に位置してもよい。前記熱光学媒質中における分散は、特に、光熱素子がナノ粒子である場合に適しており、とりわけ、ナノ粒子がプローブビームの中心波長よりも小さな大きさを有する場合に適している。
【0028】
いくつかの実施形態では、前記複数の光熱素子は、実質的に、球形、半球形、棒形、立方体形、星形、柱形、もしくは円盤形の形状を有するか、または、かかる形状を有する複数の光熱素子の混合物である。また、素子が分散している場合には、コロイド粒子が用いられてもよい。前記複数の光熱素子は、典型的には、ナノ寸法を有する(ナノ粒子である)、すなわち、最大寸法は、1μmを上限としており、好ましくは100nmより小さい。ナノ粒子光熱素子が前記プローブビームの中心波長よりも小さな大きさを有することが有利である。
【0029】
個々のナノ粒子光熱素子は、0.1nm~1μmの体積を有することが好ましい。
【0030】
前記複数の光熱素子が、前記基板と前記熱光学媒質との境界面上に位置し、かつ/または、前記熱光学媒質の特定領域内に位置する場合、好ましくは、前記複数の光熱素子は、0.01μm-2~10000μm-2の表面密度(すなわち、単位表面積当たりの光熱素子の量)、好ましくは1μm-2~1000μm-2の表面密度で配置されてもよい。前記複数の光熱素子が前記熱光学媒質中に分散している場合、好ましくは、前記複数の光熱素子は、0.01μm-3~10000μm-3の体積密度(すなわち、単位体積当たりの光熱素子の量)、好ましくは1μm-3~100μm-3の体積密度で配置されてもよい。
【0031】
いくつかの実施形態では、前記複数の光熱素子は、補助材料の層中に懸濁または分散し、その結果、前記基板と前記熱光学媒質との境界面上に位置し、かつ/または、前記熱光学媒質の特定領域内に位置することができる層が形成されてもよい。前記補助材料の層の厚さは、勾配を形成してもよい。前記補助材料の層の厚さは、100μmを上限としている。前記補助材料の層の厚さは、20μmを上限とすることが好ましく、前記補助材料の層の厚さは、1μm~100μmの範囲内または1μm~20μmの範囲内にあることがより好ましい。好ましくは、前記複数の光熱素子は、0.01μm-3~10000μm-3の体積密度、好ましくは1μm-3~100μm-3の体積密度で、前記補助材料中に分散または懸濁してもよい。前記補助材料は、好ましくは、SF型ガラス、サファイア、エポキシ樹脂、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(エチルメタクリレート)(PEMA)、tert‐ブチルポリ(エーテル‐エーテルケトン)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリスチレン、シリコーン、ポリカーボネートおよびウレタンアクリレートエラストマー等の固体材料から選択されてもよく、または、油、水およびアルコール(例えば、グリセロール、エチレングリコール、オクタノール、ペンタノール、ジエチレングリコール)等の液体材料から選択されてもよい。いくつかの実施形態では、前記補助材料は、ゲルまたはゾル‐ゲルの形態であってもよい。
【0032】
いくつかの実施形態では、前記複数の光熱素子は、前記基板に取り付けられた連続または不連続の層を形成している。前記層は、好ましくは、ナノ構造および/またはナノパターンを有してもよい。かかる層の最大厚さは、10μmであり、(特に、金属層の場合)好ましくは100nmである。
【0033】
前記複数の光熱素子は、可視光または近赤外光の少なくとも1つのスペクトル成分に対して、(少なくとも部分的に、)透明であるかまたは反射性を有してもよい。
【0034】
前記マイクロ加熱源が複数の光熱素子である場合、前記空間光変調器は、
前記複数の光熱素子により吸収することのできる少なくとも1つのスペクトル成分である変調ビームを放出する1または複数の光源と、
前記1または複数の光源と前記複数の光熱素子との間に配置された少なくとも1つの導光手段を備える光学系と、
をさらに備えることが好ましい。
【0035】
前記変調ビームの前記1または複数の光源は、典型的には、少なくとも0~1mWの範囲内、好ましくは0~1Wの範囲内の調節可能な光出力、および/または、調節範囲が少なくとも10nm、好ましくは少なくとも100nmである、可視光または近赤外光の調節可能な光学スペクトル、および/または、調節可能な偏光を有する。
【0036】
前記導光手段は、複数のレンズ、複数のミラー、複数の開口、複数のビームスプリッタ、複数のダイクロイックビームスプリッタ、音響光学変調器、電気光学変調器、回転円盤、音響光学偏向器、デジタルマイクロミラーデバイス、マイクロ電気機械システム、ガルバノメトリックミラーシステム、光学格子、またはこれらの素子の組合せを含む群から選択してもよい。
【0037】
前記光学系の像平面または後焦点面が前記マイクロ加熱源の層と重なり合うように前記光学系を構成することが有利である。
【0038】
いくつかの実施形態では、前記マイクロ加熱源は、電流により加熱することのできる複数の電熱素子であってもよく、前記熱光学媒質の前記層と熱接触状態にあり、前記複数の電熱素子は、10μmより小さい少なくとも1つの寸法と、少なくとも100S/mの導電率とを有する。
【0039】
前記複数の電熱素子は、典型的には、金属(例えば、銅、鉄、金、銀、アルミニウム、亜鉛、白金、イリジウム、ニッケル)、金属酸化物(例えば、インジウムスズ酸化物(ITO))、または炭素(例えば、グラファイト、グラフェン)から作製される。
【0040】
前記複数の電熱素子は、前記基板の表面上に位置してもよい。
【0041】
前記複数の電熱素子は、連続回路を形成してもよい。
【0042】
前記複数の電熱素子は、ジュール効果または誘導加熱により、加熱されるように構成されてもよい。
【0043】
いくつかの実施形態では、前記基板は、ガラス、ガラスセラミック(例えば、ゼロデュアガラス)、フッ化マグネシウム、サファイア、ダイアモンド、金属、熱伝導性ポリマー、またはこれらの組合せを含む群から選択されてもよい。
【0044】
前記基板は、可視光または近赤外光の少なくとも1つのスペクトル成分に対して、(少なくとも部分的に、)透明であるかまたは反射性を有してもよい。
【0045】
前記基板は、前記熱光学媒質の一方の側に設けられて、前記熱光学媒質と熱接触状態にあってもよい。いくつかの実施形態では、1つの基板よりも多い基板、好ましくは2つの基板が使用され、複数の前記基板は、前記熱光学媒質の互いに反対の側に位置する。
【0046】
本発明の第2の態様では、
少なくとも1つのスペクトル成分を有するプローブビームの源と、
ビームスプリッタまたは分割ミラーと、
結像手段と、
本発明に係る空間光変調器と、
複数のレンズ、複数のミラーまたは複数の開口のうちの少なくとも1つを備える結像光学系と、
検出器と、
を備える、干渉結像装置が提供される。
【0047】
より具体的には、前記干渉結像装置は、
少なくとも1つのスペクトル成分を有するプローブビームの源であって、放出された前記プローブビームの軸が照射光路の軸であるように配置されたプローブビームの源と、
前記照射光路の前記軸上に配置されたビームスプリッタまたは分割ミラーと、
前記ビームスプリッタまたは前記分割ミラーが前記プローブビームの前記源と結像手段との間に配置されるように、前記照射光路の前記軸上に配置された前記結像手段と、
複数のレンズ、複数のミラーまたは複数の開口のうちの少なくとも1つを備える結像光学系であって、前記結像光学系の軸が結像光路の軸であるように配置されており、像平面および/または後焦点面を有する結像光学系と、
前記結像光路の前記軸上または前記照射光路の前記軸上に配置された、請求項1~13のいずれか一項に記載の空間光変調器と、
前記結像光路の前記軸上に配置された検出器と、
を備える。
【0048】
前記プローブビームの前記源は、好ましくは、可視領域内または近赤外領域内における少なくとも1つのスペクトル成分を有してもよい。前記プローブビームの前記源は、より好ましくは、シングルモードレーザであってもよい。
【0049】
前記ビームスプリッタは、10%~90%の反射率、好ましくは30%~70%の反射率を有する非偏光ビームスプリッタであってもよいか、または、前記結像系の収集効率をより高めることを可能にする、偏光ビームスプリッタと四分の一波長板との組み合わせであってもよい。
【0050】
前記分割ミラーは、異なる反射率を有する少なくとも2つの異なる表面コーティングの特定のパターンを備える平面光学素子である。当該異なる反射率を有する少なくとも2つの異なる表面は、90%より大きい反射率を有する少なくとも1つの表面と、10%より小さい反射率を有する少なくとも1つの表面とであることが好ましい(例えば、部分的な反射性を有する2mm未満の楕円エリアを有するガラス基板、2mm未満の楕円エリア内のコーティングされていない高い反射性を有するコーティングを有するガラス基板)。
【0051】
前記結像手段には、少なくとも0.1の開口数(numerical aperture:NA)を有する固浸レンズまたは高倍率レンズまたは顕微鏡対物レンズが含まれてもよい。
【0052】
前記検出器は、光の点検出器、光のエリア検出器、およびカメラ装置から選択されてもよい。
【0053】
前記干渉結像装置のいくつかの実施形態では、前記空間光変調器の、前記基板、前記熱光学媒質、および前記マイクロ加熱源は、前記結像手段と前記検出器との間に配置されており、前記結像光学系の前記像平面または前記後焦点面の位置は、前記空間光変調器の位置と一致してもよい。
【0054】
本発明の第3の態様では、本発明に係る空間光変調器を用いて、光のプローブビームを空間位相変調する方法が提供される。当該方法は、
照射光路に沿ってプローブビームを放出する工程と、
本発明による空間光変調器を通るように前記プローブビームを導く工程であって、前記空間光変調器は、前記プローブビームの少なくとも一部を前記熱光学媒質の前記層を通して透過し、かつ、
〇前記プローブビームの少なくとも一部を、少なくとも1つの前記基板、および、1もしくは複数の前記マイクロ加熱源を通して透過するか、または、
〇前記プローブビームを、少なくとも1つの前記基板上、もしくは、1もしくは複数の前記マイクロ加熱源上で少なくとも部分的に反射する工程と、
1または複数の前記マイクロ加熱源に附近の前記熱光学媒質を加熱させることで、前記熱光学媒質の屈折率に局所的変化を生じさせ、その結果、前記熱光学媒質の前記屈折率の前記局所的変化による局所的起伏(局所的しわ:local corrugation)を、前記プローブビームの波面に生じさせる工程と、
を含む。特に、矩形プロファイルの温度変化によって、矩形に近い起伏(しわ)が前記プローブビームの波面に生じ、前記プローブビームにおける熱誘起位相シフトの4分の1全幅(full-width-at-quarter-maximum:FWQM)は、温度の当該矩形プロファイルの幅の3倍よりも小さく、好ましくは2倍よりも小さい。
【0055】
前記照射光路には、典型的には、複数のレンズ、複数のミラー、複数の開口もしくは複数のビームスプリッタ等の複数の光学素子、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0056】
本発明の第4の態様では、本発明に係る、空間光変調器および/または干渉結像装置を用いる、プローブビームの位相が調節可能な物体の干渉結像の方法であって、
複数のレンズ、複数のミラーまたは複数の開口のうちの少なくとも1つを含む照射光路に沿ってプローブビームを放出する工程と、
ビームスプリッタまたは分割ミラーと、結像手段とを通して、前記物体上へと前記プローブビームを導き、反射ビームまたは透過ビームと、前記物体により散乱されたビームとを生成する工程と、
前記結像手段により、前記反射ビームまたは前記透過ビームを集める工程と、
同じ結像手段を用いて、前記物体により散乱された前記ビームを集める工程と、
集められた前記反射ビームまたは前記透過ビームと、集められた前記物体により散乱された前記ビームとに、前記空間光変調器を通過させる工程であって、前記空間光変調器は、前記プローブビームの少なくとも一部を前記熱光学媒質の前記層を通して透過し、かつ、
〇前記プローブビームの少なくとも一部を、少なくとも1つの前記基板、および、1もしくは複数の前記マイクロ加熱源を通して透過するか、または、
〇前記プローブビームを、少なくとも1つの前記基板上、もしくは、1もしくは複数の前記マイクロ加熱源上で少なくとも部分的に反射する工程と、
1または複数の前記マイクロ加熱源に附近の前記熱光学媒質を加熱させることで、前記熱光学媒質の屈折率に局所的変化を生じさせ、その結果、前記熱光学媒質の前記屈折率の前記局所的変化による局所的シフトを、前記反射ビームもしくは前記透過ビームの波面の少なくとも一部、または、前記物体により散乱された前記ビームの波面の少なくとも一部に生じさせる工程と、
前記反射ビームまたは前記透過ビームと、前記物体により散乱された前記ビームとを、前記検出器上で検出する工程と、
を含む方法が提供される。
【0057】
(特に複数の光熱素子および複数の電熱素子の)粒子の大きさの測定方法は、横方向寸法については、透過型電子顕微鏡(transmission electron microscopy:TEM)または走査型電子顕微鏡(scanning electron microscopy:SEM)であり、厚さについては、原子間力顕微鏡(atomic force microscope:AFM)である。本明細書において言及される最大寸法とは、粒子の集合内における任意の粒子の最大寸法を表す。
【0058】
粒子体積の測定方法は、
粒子の大きさを測定する工程と、
最大寸法を有する理想球体の体積を考えることによって、球形粒子、半球形粒子、立方体形粒子および星形粒子の体積の上限推定値を計算する工程、または、形状を理想直方体とみなすことにより、測定された寸法からナノロッド形、柱形または円盤形の体積の上限推定値を計算する工程と、
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1a】位相変調素子の種々の構成を示す。
図1b】位相変調素子の種々の構成を示す。
図1c】位相変調素子の種々の構成を示す。
図1d】位相変調素子の種々の構成を示す。
図1e】位相変調素子の種々の構成を示す。
図1f】位相変調素子の種々の構成を示す。
図1g】位相変調素子の種々の構成を示す。
図1h】位相変調素子の種々の構成を示す。
図1i】位相変調素子の種々の構成を示す。
図2】変調ビームとプローブビームとが共通の焦点において空間的に重なり合う構成における、空間光変調器の実施形態を示す。
図3】空間分解された位相変調のパターンを符号化するために、集束変調ビームがプローブビームのエリアを横切って音響光学的に走査される、空間光変調器の実施形態を示す。
図4】デジタルマイクロミラー装置によって変調ビームの波面に空間的パターンが形成される、空間光変調器の実施形態を示す。
図5】光熱素子の層として使用した基板上に固定化された金ナノロッドの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す(スケールバー=200nm)。
図6図5に示す基板上に固定化された金ナノロッドの消光スペクトルを示す。
図7】本発明に係る空間光変調器を用いる、反射ビームの位相が調節可能な物体の干渉結像の構成を示す。
図8a】特定のフィールドプロファイル内における、空間光変調器を用いて誘起した反射ビームの3つの異なる位相シフトにおいて得られた金ナノスフェアの実験的な干渉結像を示す(スケールバー=0.5μm)。
図8b】特定のフィールドプロファイル内における、空間光変調器を用いて誘起した反射ビームの3つの異なる位相シフトにおいて得られた金ナノスフェアの実験的な干渉結像を示す(スケールバー=0.5μm)。
図8c】特定のフィールドプロファイル内における、空間光変調器を用いて誘起した反射ビームの3つの異なる位相シフトにおいて得られた金ナノスフェアの実験的な干渉結像を示す(スケールバー=0.5μm)。
図9】熱誘起位相シフト振幅に関連する散乱体試料の干渉コントラストの実験結果を示す。
図10】熱誘起位相シフト応答時間を特徴付ける実験結果を示す。上図は、時間的加熱変調、下図は、時間的コントラスト変化を示す。
図11a】熱レンズ効果を特徴付ける(特性評価する)ために使用した金ナノスフェアの実験的な干渉結像を示す。
図11b】熱レンズ効果を特徴付けるために使用した金ナノスフェアの実験的な干渉結像を示す。
図12a】位相シフトがπだけ生じた場合の、図11a~図11bに示される3つのナノスフェアの像の相対変位を特徴付ける実験結果を示す。
図12b】位相シフトがπだけ生じた場合の、図11a~図11bに示される3つのナノスフェアの像の相対変位を特徴付ける実験結果を示す。
図12c】位相シフトがπだけ生じた場合の、図11a~図11bに示される3つのナノスフェアの像の相対変位を特徴付ける実験結果を示す。
図13】熱光学媒質としてグリセロールを考えた場合の、(好ましくは熱光学媒質の厚さに対応する)熱伝播長に対する応答時間依存性の数値シミュレーションの結果を示す。xy軸は対数スケールである。
図14】種々の最高温度に対応する種々の加熱パワーに対する、モデル化された位相シフトの数値シミュレーションの結果を示す。考察した系には、直径60μmの熱源、および、ガラスカバースリップとサファイア窓との間に挟まれた熱光学媒質として厚さ20μmのグリセロール層が含まれる。
図15】直径100μmの円盤熱源、厚さ250μmのグリセロール熱光学媒質の場合の位相シフトプロファイル、および、直径100μmの円盤熱源、厚さ5μmのグリセロール熱光学媒質の場合の位相シフトプロファイルの数値シミュレーションの結果を、それぞれ示す。熱光学媒質は、ガラスカバースリップとサファイア窓との間に挟まれている。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本発明の主題は、空間光変調器、より具体的には光位相変調器である。本発明は、局所空間境界内に一様な温度プロファイルをつくり出し、その結果、熱光学媒質内の適切な横方向の温度分布を実現することに基づく。これは、特に光変調または電気変調において、その変調の横方向分布を綿密に複製する。本発明において用られる新規の構造によって、空間的に局限された熱源の近傍で温度プロファイルを一様な分布に近づけることが可能となり、温度勾配により変調されたパターンのぼけが最小限となる。ごく簡単に言えば、この原理は、温度に対する屈折率感度の大きい熱光学媒質の薄層を、マイクロ加熱源(光熱素子または電熱素子)の加熱層と高伝導性透明基板との間に局限することに基づく。光熱素子の場合、光回折によってのみ制限される構造的詳細を有する光熱素子に、求められる温度変化のパターンを変調ビーム源がいったん形成すると、発生した熱は、高温伝導性基板に向かい、環境中に放散する。同様に、ジュール効果または誘導を用いて、求められる温度変化のパターンを電熱素子に生成してもよい。
【0061】
したがって、マイクロ加熱源が連続または不連続の層を形成する場合、温度勾配は、熱光学媒質の層を横切って、マイクロ加熱源の層に対して垂直な方向に形成される。この勾配は、熱光学媒質の層の厚さ、および、マイクロ加熱源(例えば、光熱素子)と基板との間の温度差に由来する。その結果、横方向において、異なる温度を有するエリア間の勾配は、垂直勾配と共にスケールする。このため、熱光学材料の層の厚さを減少させ、基板の熱伝導率を増加させることによって、鋭く、ステップ状に近い関数へと調節することができる。この手段により、自由空間光学系(free-space optical system)における空間分解された高速の位相変調のための光位相変調器が作成された。
【0062】
図7に示す共通経路ホモダイン干渉計を有する構成において、熱光学空間位相変調の効果を実験により試験した。散乱の干渉検出(interferometric detection of scattering:iSCAT)としても知られるこの実験において、ガラスカバースリップ18上に堆積した散乱物体19(具体的な一試験例では、30nmの金ナノスフェア)を含む平面境界面に、プローブビーム(特に、波長488nmのコヒーレントな平面波)20を照射した。ガラスカバースリップにより反射ビームが形成され、散乱物体19により散乱ビームが形成される。反射ビームおよび散乱ビームは、結像手段(例えば、顕微鏡の対物レンズ)17により集められ、検出器(例えば、CMOSカメラ)21上に結像する。当該検出器21において、この2つのビームは重なり合い、干渉する。結像ビーム経路に沿って、反射ビームおよび散乱ビームは、同じ軌道を共有して光学系12を通る2つの光波を形成した。このビーム経路に対して垂直な断面において、これらは異なる空間プロファイルを有する。特に、顕微鏡の後焦点面では、反射ビームは、直径60μmのスポットに集束し、散乱ビームは、直径約8mmの平行波として伝播した。一例では、空間位相変調装置を試験するために、密度300μm-1で向きがランダムな20nm×50nm(直径×長さ)の複数の金ナノロッド(図5の走査型電子顕微鏡像、および、図6の対応する消光スペクトル)をコーティングしたガラスカバースリップ、厚さ<20μmのグリセロール層および厚さ3mmの研磨したサファイア基板を備える位相変調素子6を、ビームの伝播方向に対して垂直な結像ビーム経路の後焦点面内に配置した。位相変調素子6の位置において、反射ビームと散乱ビームとが合わさり、空間光変調器のプローブビーム9が形成される。反射ビームの位置と一致する直径60μmのエリアに、波長660nmの光源22からダイクロイックミラー8を介して変調ビーム4を照射した。0mW~130mWの範囲の音響光学変調器10により変調ビーム4のパワーを変調することにより、反射ビームの像の強度プロファイルに小さな影響を及ぼすかまたは全く影響を及ぼさない干渉信号の強いコントラスト変化がCMOSカメラ上で観測された(図8a~図8c)。一般的に説明される構成では、干渉信号のコントラストは、以下のように表される。
【0063】
【数1】

ここで、rは、ガラスカバースリップの振幅反射率、sは、散乱振幅、Δφは、散乱ビームと反射ビームとの位相差、φSLMは、空間光変調器によって反射ビームに誘起される位相シフトである。種々のナノ粒子干渉像の平均コントラスト変化を記すことにより、コントラストの正弦曲線的な変化を観察することができた(図9)。さらに、図10の上のタイミングチャートに記載した加熱変調を使用した場合、70μsの応答時間に達することができた(図10の下の図表)。結像した複数のナノ粒子の局在する位置の絶対的変化を比較することで(図11a~図11b)、反射ビームの位相をπだけシフトさせると、あらゆる方向に10nm未満だけ像が歪むことがわかった(図12a~図12c)。視野内の粒子‐粒子距離に位置変化を関連付けた場合、散乱ビームにより伝えられる像の歪みは0.5%未満であるという結論が得られた。したがって、熱レンズ効果は無視できるものと考えられる。
【0064】
定常状態に達する熱プロセスの特性応答時間(characteristic response time)τは、熱方程式から推定することができ、次式で表される。
【0065】
【数2】

ここで、Lは、系の特徴的な大きさ、例えば、どのパラメータが熱の伝播を制限するのかに応じて厚さまたは加熱エリアの直径であり、ρは密度、cは熱容量、κは熱光学媒質の熱伝導率である。この式は、図13において示されるように、構造の幾何学的形状を縮小することによって、応答時間をさらに低減できることを示している。なお、これには光学的結像の回折限界によって制限される、ナノ秒範囲の理論的限界がある。
【0066】
熱により生じる位相シフトの理論モデルは、熱方程式を解くことに基づく。均一な液体媒質中にパワーQを供給する点熱源を考えた場合、定常状態における温度分布T(r)は、次式により支配される。
【0067】
【数3】

ここで、κは、媒質の熱伝導率(W・K-1・m-1)、r(rは太字)は、熱源からのベクトル距離(m)を表す三次元ベクトル、Tはリザーバ温度、すなわち室温であり、G(r)=1/(4πκ|r|)(rは太字)は、熱方程式のグリーン関数を表す。概念実験の証明に使用された系は、三層構造:ガラスカバースリップとサファイア窓(両者とも140μmの厚さを有する)との間に挟まれた厚さ20μmの液体グリセロール、および、ガラス/グリセロール境界面におけるマイクロ加熱源の層を備えるものであった。この場合、グリーン関数は、この三層の熱伝導率とそれらのそれぞれの厚さに依存して、より複雑な形式を有する。われわれのシミュレーションでは、以前に導出された形式を、参考文献Eng Anal Bound Elem1999;23(9):777-786から用いた。
【0068】
二次元熱源を考える場合には、Qを二次元関数とみなす。温度は、Q(ρ)とG(ρ,z)との畳み込み積から計算される。
【0069】
【数4】

Q(ρ)は、熱源密度(W/m)を表す。ρおよびzは系の円筒座標、特に、ρは、熱源に平行な座標であり、zは、軸方向の座標である。シミュレーションでは、光熱素子をマイクロ加熱源として考えた。複数のマイクロ加熱源を有する表面S(m)上にパワーP(W)の変調ビームが集束し、当該変調ビームをマイクロ加熱源(光熱素子)が受け取った。当該マイクロ加熱源は特に、吸収断面積σabs(m)のガラス層上に均一に分布する金ナノロッドである。供給される加熱パワーの合計は下記となる。
【0070】
【数5】

屈折率分布Δn(ρ,z)=n(T(ρ,z))-n(T)と温度T(ρ,z)との関係は、温度変化が小さい場合、屈折率変化のテイラー級数の1次で近似できる。一般に、これは熱光学係数dn/dTと称される。加熱層を通ってz軸方向に伝播する波長λの変調ビームを考えた場合、熱誘起位相シフトφthermは、次式により与えられる。
【0071】
【数6】

ここで、ΔおよびΔは、2つの基板の厚さ、Δは、熱光学媒質の厚さ、ΔnおよびΔnはそれぞれ、下側基板および上側基板の屈折率変化、Δnは、熱光学媒質の屈折率変化である。
【0072】
図14は、モデルで使用される加熱パワーに関連する温度変化に対する、結果としての位相シフトの依存性を示す。この特定の系では、最大位相シフトは、グリセロールの沸点(290℃)により制限される。この制限は、直径60μmの円盤熱源、プローブビームの波長488nm、ガラス基板とサファイア基板との間に挟まれたグリセロール層の厚さ20μmの場合、2.6πの位相シフトの大きさと等価である。図15は、厚さ250μmの熱光学媒質(グリセロール)および厚さ5μmの熱光学媒質(グリセロール)に対するプローブビーム9の位相シフトプロファイルを、それぞれ、長い破線および短い破線でプロットしたものである。厚さ250μmの層の位相シフトプロファイルは、構造の加熱された領域から数百μm離れて広がる緩慢な位相シフト勾配を明瞭に示している。熱光学媒質の層の厚さを減少させることと、隣接する基板の高い熱伝導率とのギャップを埋めることとを組み合わせることで、勾配プロファイルを鋭くステップ状のプロファイル(短い破線)へと変形させる結果が得られる。
【0073】
本発明の複数の可能な実施形態および実験的アプローチは、図1図4および図7に示されている。図1は、位相変調素子6の種々の実施形態を示し、図2図4および図7は、位相変調装置が種々の光学系の構成に含まれた、種々の実施形態を示す。
【0074】
図1aおよび図1bに描かれた一実施形態では、光熱素子3は、一例では、密度が300μm-1で向きがランダムな20nm×50nm(直径×長さ)の金ナノロッド(図5および図6に記載)であり、基板1上に固定化されている(特定の実施形態では、当該基板は、例えば、ガラス、サファイア、またはダイアモンドである)。熱光学媒質2は、この特定の例では液体グリセロールであり、ナノロッドの層の上部に配置され、別の基板1で挟まれている。金ナノロッドのプラズモン共鳴に近い中心波長を特徴とする変調ビーム4と称される光ビームは、光熱素子3を両側から照射する(それぞれ、図1aおよび図1bに示す)。
【0075】
第2の実施形態(図1c)では、光熱素子3は、二層の熱光学媒質2の間に挟まれている。当該二層の熱光学媒質2は、当該熱光学媒質よりも高い熱伝導率を有する2つの基板1に囲まれている。この構成では、光熱素子2は、熱光学媒質の固体層、ガラス層、またはポリマー層のうちの2つの層により局限することができる。熱光学媒質2の例には、P‐SF68ガラス(dn/dT=24.1×10-6-1)等の温度に対する屈折率感度の高いガラス、またはPDMS(dn/dT≒-4.5×10-4-1)等のポリマーが含まれる。したがって、屈折率の熱光学的変化は、マイクロ加熱源の両側において起こり、熱放散は、両基板へと対称的に起こる。
【0076】
第3の実施形態(図1d)では、マイクロ加熱源(例えば、光熱素子)の下方に変調ビームの反射面5がある。その結果、変調ビーム4は、マイクロ加熱源3によって二度吸収され、変調効率が増加する。
【0077】
第4の実施形態(図1e)は、図1cに記載された実施形態および図1dに記載された実施形態の原理を組み合わせたものである。マイクロ加熱源(例えば、光熱素子)3は、二層の熱光学媒質2の間に挟まれている。一方の熱光学媒質の層に近接して、反射面5がある。
【0078】
第5の実施形態(図1f)は、図1eの実施形態と同様であるが、熱誘起屈折率変化プロファイルの形状を改善するため、マイクロ加熱源(例えば、光熱素子)と反射面5との間に追加の透明基板2が位置している。
【0079】
第6の実施形態(図1g)では、上層および下層2は、位相変調素子6内に多重反射を発生させるファブリ-ペロ共振器を形成するように設計した半透明ミラーである。これにより、光熱素子3の吸収効率が最大化する。これは、追加のキャビティ離調効果(cavity detuning effects)を特徴としており、空間光変調システムの振幅変調オプションが得られる。
【0080】
第7の実施形態(図1h)は、2つの基板1の間に挟まれた層7を形成する補助材料(auxiliary material)(例えば、PDMSまたはグリセロール)の層中にマイクロ加熱源(例えば、光熱素子)が懸濁または分散しているケースを示す。層7は、熱光学媒質の機能を有し、同時に、マイクロ加熱源を含む。
【0081】
第8の実施形態(図1i)は、図1hの実施形態と同様である。補助材料(例えば、PDMS)の層中にマイクロ加熱源(例えば、光熱素子)が懸濁または分散し、2つの基板1の間に挟まれた層7が形成されている。層7の厚さは、直線的な勾配を有し、これにより、追加的な位相変調を有する線形位相勾配を生み出すことができる。
【0082】
図2に示す第9の実施形態では、プローブビーム9と称される光ビームの制限された直径内に均一な位相シフトを誘起するために、図1a、図1b、図1cまたは図1hの位相変調素子のうちの1つが使用されている。異なる中心波長を有するプローブビーム9および変調ビーム4は、それらの光学スペクトルに基づいて選択されたダイクロイックミラー8を用いて結合される。これらはいずれも、光学レンズ12からなる無限焦点系に係る同じ位置に焦点が合わされている。次いで、光学フィルタ11が、変調ビームをフィルタリングする。プローブビーム9および変調ビーム4は、システム性能に何ら影響なく、共伝播または逆伝播することができる(共伝播のバージョンが図示されている)。位相変調素子6は、プローブビーム9とプローブビーム9の光軸に直交する変調ビーム4との焦平面に配置されている。変調ビーム4は、位相変調素子6のセグメントを均一に照射し、光熱素子の層内で光熱効果を介して熱光学媒質の屈折率の変動を生み出す。屈折率の変化した位相変調素子6の同じセグメントをプローブビーム9が通過するとき、プローブビームは、屈折率変化と熱光学媒質の層の厚さとに由来する位相シフトを受ける。変調ビーム4のパワーは、音響光学変調器10を介して制御され、位相シフトの大きさに影響が及ぼされる。
【0083】
第10の実施形態(図3)では、図1a、図1b、図1cまたは図1hの位相変調素子のうちの1つを使用して、空間的パターンが形成された位相シフトが、プローブビーム9上に誘起される。これは、プローブビーム9の横方向の位相シフト分布を空間的に制御するように設計されている。光学系12は、変調ビーム4を位相変調素子6上に集束させる一方で、プローブビームをコリメートするために使用される。光学系12の後焦点面に配置された音響光学偏向器13は、変調ビームの焦点位置を位相変調素子6上で走査するために使用される。プローブビームの安定した位相シフト分布を達成するためには、変調ビーム4の位置の走査は、位相シフト変化の応答時間と比較して十分に高速である必要がある。位相変調素子の典型的な応答時間の範囲が1μs~100μsであることを考慮すると、リフレッシュレート要件を満たすためには、MHzからGHzの周波数で動作する音響光学偏向器が必要である。走査の間、音響光学変調器10により、変調ビームのパワーを時間的に変調し、その結果、プローブビーム上に二次元位相シフトパターンを生成することが可能となる。
【0084】
第11の実施形態(図4)では、図1a、図1b、図1cまたは図1hの位相変調素子のうちの1つを使用して、プローブビーム9上に空間的パターンが形成された位相シフトが、誘起される。これは、プローブビーム9の横方向の位相シフト分布を空間的に制御するように設計されている。この場合、プローブビーム9および変調ビーム4はいずれもコリメートされた状態で、位相変調素子6にある。デジタルマイクロミラー装置13を使用して、変調ビーム4の強度プロファイルにパターンが形成され、変調ビーム4の強度の変動(バリエーション)が、位相変調素子6上に写される。
【0085】
第12の実施形態は、図7に示す干渉顕微鏡である。これは、図1a、図1b、図1cまたは図1hの位相変調素子のうちの1つを使用するものである。光源15から放射されたコヒーレントな平面波20、好ましくはシングルモードレーザにより、ガラスカバースリップ18上に堆積した散乱物体19を含む平面境界面を照射する。ガラスカバースリップにより反射ビームが形成され、散乱物体19により散乱ビームが形成される。反射ビームおよび散乱ビームは、結像手段17(好ましくは、顕微鏡の対物レンズ)により集められ、検出器(例えば、CMOSカメラ)21上に結像する。当該検出器において、これら2つのビームは重なり合い、干渉する。結像ビーム経路に沿って、反射ビームおよび散乱ビームは、ビームスプリッタ16および光学系12を介する同じ軌道を共有する、2つの光波を形成する。ビーム経路に対して垂直な断面において、これらは異なる空間プロファイルを有する。特に、顕微鏡の後焦点面では、反射ビームは回折により制限されるスポットに集束し、散乱ビームは平行波として伝播する。位相変調素子6は、光の伝播方向に対して垂直な結像ビーム経路の後焦点面に配置される。位相変調素子6の位置において、反射ビームと散乱ビームとが合わさり、空間光変調器のプローブビーム9が形成される。変調ビーム4は、光源22により生成される。異なる中心波長を有するプローブビーム9および変調ビーム4は、それらの光学スペクトルに基づいて選択されたダイクロイックミラー8を用いて結合される。これらはいずれも、光学レンズ12からなる無限焦点系に係る同じ位置に焦点が合わされている。次いで、光学フィルタ11が、変調ビームをフィルタリングする。プローブビーム9および変調ビーム4は、システム性能に何ら影響を及ぼすことなく、共伝播または逆伝播することができる(共伝播のバージョンが図示されている)。変調ビーム4は、位相変調素子6のセグメントを照射し、光熱素子の層内で光熱効果を介して熱光学媒質の屈折率の変動を生み出す。プローブビーム9が位相変調素子6を通過するとき、反射ビームは、屈折率の変化した位相変調素子6のセグメントを通過する。反射ビームに対応するプローブビームの一部は、屈折率変化と熱光学媒質の層の厚さとに由来する位相シフトを受ける。変調ビーム4のパワーは、音響光学変調器10を介して制御され、その結果、熱誘起位相シフトの大きさが調節される。
【0086】
本明細書の実施形態は、光熱素子に言及して説明されているが、変調ビームの代わりにジュール効果または誘導を使用することで、電熱素子により再現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
とりわけ先端技術および現代的な結像方法における広範囲の産業上の応用が、本発明により提供される。有用性のある例には、超解像顕微鏡(super-resolution microscope)、ホログラフィック顕微鏡、および干渉顕微鏡等の科学機器が含まれる。本発明はさらに、補償光学に使用されてもよい。補償光学における、光波変調のために利用可能な能動的コンポーネントの一群が本発明により補完される(本発明は、特に変調速度と分解能に優れる)。最後に、こちらも劣らず重要なことだが、本発明は、定量的位相結像(quantitative phase imaging)の方法、および三次元画像処理の方法に使用されてもよい。本発明によって、観察する物体についての位相情報(例えば、三次元情報)を非常に高速に走査する可能性が提供されるからである。
【0088】
一般に、本発明は、広範囲のナノ科学およびバイオ科学、特に、材料および生物学的な物質(材料)の特性評価に適用可能である。具体例として、本発明は、医学的診断用の三次元細胞断層撮影装置、あるいは、単一の生体分子種の質量を検出するための質量測光法(mass photometry)に使用することができる。

図1.a】
図1.b】
図1.c】
図1.d】
図1.e】
図1.f】
図1.g】
図1.h】
図1.i】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b
図8c
図9
図10
図11a
図11b
図12a-12c】
図13
図14
図15