(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工機、及び、ワイヤ放電加工機の制御方法
(51)【国際特許分類】
B23H 7/02 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
B23H7/02 R
(21)【出願番号】P 2022557503
(86)(22)【出願日】2021-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2021038338
(87)【国際公開番号】W WO2022085605
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2020177914
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】初 福晨
(72)【発明者】
【氏名】川原 章義
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-063017(JP,A)
【文献】特開平09-136220(JP,A)
【文献】特開平08-300225(JP,A)
【文献】特開平04-081908(JP,A)
【文献】特開2017-019029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 1/00 - 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ電極とワークテーブルに設置された設置物との間に電圧を印加して前記設置物の端面位置を検出するワイヤ放電加工機であって、
前記ワイヤ電極と前記設置物との間の
前記電圧を検出する電圧検出部と、
検出された前記電圧に基づいて、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したか否かを判定する判定部と、
前記ワイヤ電極が前記設置物から離間した状態から、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触するように相対移動し、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したと判定されると前記ワイヤ電極が移動開始位置に移動する端面検出動作を1回とし、又は、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触した状態から、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間するように相対移動し、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間したと判定されると前記ワイヤ電極が移動開始位置に移動する端面検出動作を1回とし、該端面検出動作を所定回数行わせる相対移動制御部と、
各回の前記端面検出動作において、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したと判定されたとき、又は、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間したと判定されたときの前記ワークテーブルに対する前記ワイヤ電極の相対位置を記憶部に記憶させる記憶制御部と、
複数の前記相対位置を小さい順に並べた場合に、中間の所定範囲の順位に位置する複数の前記相対位置を有効データとして抽出するデータ抽出部と、
前記有効データに基づいて前記設置物の端面位置を決定する端面位置決定部と、
前記ワイヤ電極の径、前記設置物の抵抗率、及び、前記設置物の表面粗さのうち少なくとも1つに基づいて、前記ワイヤ電極の径が小さくなるほど、前記設置物の抵抗率が大きくなるほど、前記設置物の表面粗さが粗くなるほど、回数が多くなるように前記所定回数を設定する回数設定部と、
を備える、ワイヤ放電加工機。
【請求項2】
ワイヤ電極とワークテーブルに設置された設置物との間に電圧を印加して前記設置物の端面位置を検出するワイヤ放電加工機であって、
前記ワイヤ電極と前記設置物との間の前記電圧を検出する電圧検出部と、
検出された前記電圧に基づいて、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したか否かを判定する判定部と、
前記ワイヤ電極が前記設置物から離間した状態から、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触するように相対移動し、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したと判定されると前記ワイヤ電極が移動開始位置に移動する端面検出動作を1回とし、又は、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触した状態から、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間するように相対移動し、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間したと判定されると前記ワイヤ電極が移動開始位置に移動する端面検出動作を1回とし、該端面検出動作を所定回数行わせる相対移動制御部と、
各回の前記端面検出動作において、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したと判定されたとき、又は、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間したと判定されたときの前記ワークテーブルに対する前記ワイヤ電極の相対位置を記憶部に記憶させる記憶制御部と、
複数の前記相対位置を小さい順に並べた場合に、中間の所定範囲の順位に位置する複数の前記相対位置を有効データとして抽出するデータ抽出部と、
前記有効データに基づいて前記設置物の端面位置を決定する端面位置決定部と、
前記ワイヤ電極の径、前記設置物の抵抗率、及び、前記設置物の表面粗さのうち少なくとも1つに基づいて、前記ワイヤ電極の径が小さくなるほど、前記設置物の抵抗率が大きくなるほど、前記設置物の表面粗さが粗くなるほど、範囲が狭くなるように前記所定範囲を設定する範囲設定部と、
を備える、ワイヤ放電加工機。
【請求項3】
ワイヤ電極とワークテーブルに設置された設置物との間に電圧を印加して前記設置物の端面位置を検出するワイヤ放電加工機であって、
前記ワイヤ電極と前記設置物との間の前記電圧を検出する電圧検出部と、
検出された前記電圧に基づいて、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したか否かを判定する判定部と、
前記ワイヤ電極が前記設置物から離間した状態から、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触するように相対移動し、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したと判定されると前記ワイヤ電極が移動開始位置に移動する端面検出動作を1回とし、又は、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触した状態から、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間するように相対移動し、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間したと判定されると前記ワイヤ電極が移動開始位置に移動する端面検出動作を1回とし、該端面検出動作を所定回数行わせる相対移動制御部と、
各回の前記端面検出動作において、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したと判定されたとき、又は、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間したと判定されたときの前記ワークテーブルに対する前記ワイヤ電極の相対位置を記憶部に記憶させる記憶制御部と、
複数の前記相対位置を小さい順に並べた場合に、中間の所定範囲の順位に位置する複数の前記相対位置を有効データとして抽出するデータ抽出部と、
前記有効データに基づいて前記設置物の端面位置を決定する端面位置決定部と、
複数の前記有効データ、及び、前記記憶部に記憶されている複数の前記相対位置の少なくとも一方のばらつきの度合を算出する統計部と、
算出された前記度合に基づいて、決定された前記設置物の端面位置の精度を評価する評価部と、
前記設置物の端面位置の精度の評価をユーザに報知するように報知部を制御する報知制御部と、
を備える、ワイヤ放電加工機。
【請求項4】
請求項1
~3のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工機であって、
前記相対移動制御部は、前記ワイヤ電極を走行させた状態で、前記端面検出動作を行わせる、ワイヤ放電加工機。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工機であって、
複数の前記有効データのばらつきの度合を算出する統計部を備え、
算出された前記有効データのばらつきの
前記度合が所定度合以上である場合には、前記相対移動制御部は、再度、前記端面検出動作を前記所定回数行わせる、ワイヤ放電加工機。
【請求項6】
請求項5に記載のワイヤ放電加工機であって、
算出された前記有効データのばらつきの
前記度合が所定度合以上である場合には、設定されている前記所定回数よりも回数が多くなるように前記所定回数を設定する回数設定部を備える、ワイヤ放電加工機。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工機であって、
複数の前記有効データのばらつきの度合を算出する統計部と、
算出された前記有効データのばらつきの
前記度合が所定度合以上である場合には、ユーザに報知するように報知部を制御する報知制御部と、
を備える、ワイヤ放電加工機。
【請求項8】
ワイヤ電極とワークテーブルに設置された設置物との間に電圧を印加して前記設置物の端面位置を検出するワイヤ放電加工機の制御方法であって、
前記ワイヤ放電加工機は、前記ワイヤ電極と前記設置物との間の
前記電圧を検出する電圧検出部を有し、
前記ワイヤ電極が前記設置物から離間した状態から、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触するように相対移動し、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したと判定されると前記ワイヤ電極が移動開始位置に移動する端面検出動作を1回とし、又は、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触した状態から、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間するように相対移動し、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間したと判定されると前記ワイヤ電極が移動開始位置に移動する端面検出動作を1回とし、該端面検出動作を所定回数行わせる相対移動制御ステップと、
各回の前記端面検出動作において、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したと判定されたとき、又は、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間したと判定されたときの前記ワークテーブルに対する前記ワイヤ電極の相対位置を記憶部に記憶させる記憶制御ステップと、
複数の前記相対位置を小さい順に並べた場合に、中間の所定範囲の順位に位置する複数の前記相対位置を有効データとして抽出するデータ抽出ステップと、
前記有効データに基づいて前記設置物の端面位置を決定する端面位置決定ステップと、
前記ワイヤ電極の径、前記設置物の抵抗率、及び、前記設置物の表面粗さのうち少なくとも1つに基づいて、前記ワイヤ電極の径が小さくなるほど、前記設置物の抵抗率が大きくなるほど、前記設置物の表面粗さが粗くなるほど、回数が多くなるように前記所定回数を設定する回数設定ステップと、
を備える、ワイヤ放電加工機の制御方法。
【請求項9】
ワイヤ電極とワークテーブルに設置された設置物との間に電圧を印加して前記設置物の端面位置を検出するワイヤ放電加工機の制御方法であって、
前記ワイヤ放電加工機は、前記ワイヤ電極と前記設置物との間の前記電圧を検出する電圧検出部を有し、
前記ワイヤ電極が前記設置物から離間した状態から、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触するように相対移動し、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したと判定されると前記ワイヤ電極が移動開始位置に移動する端面検出動作を1回とし、又は、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触した状態から、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間するように相対移動し、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間したと判定されると前記ワイヤ電極が移動開始位置に移動する端面検出動作を1回とし、該端面検出動作を所定回数行わせる相対移動制御ステップと、
各回の前記端面検出動作において、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したと判定されたとき、又は、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間したと判定されたときの前記ワークテーブルに対する前記ワイヤ電極の相対位置を記憶部に記憶させる記憶制御ステップと、
複数の前記相対位置を小さい順に並べた場合に、中間の所定範囲の順位に位置する複数の前記相対位置を有効データとして抽出するデータ抽出ステップと、
前記有効データに基づいて前記設置物の端面位置を決定する端面位置決定ステップと、
前記ワイヤ電極の径、前記設置物の抵抗率、及び、前記設置物の表面粗さのうち少なくとも1つに基づいて、前記ワイヤ電極の径が小さくなるほど、前記設置物の抵抗率が大きくなるほど、前記設置物の表面粗さが粗くなるほど、範囲が狭くなるように前記所定範囲を設定する範囲設定ステップと、
を備える、ワイヤ放電加工機の制御方法。
【請求項10】
請求項
8又は9に記載のワイヤ放電加工機の制御方法であって、
前記相対移動制御ステップは、前記ワイヤ電極を走行させた状態で、前記端面検出動作を行わせる、ワイヤ放電加工機の制御方法。
【請求項11】
請求項
8~1
0のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工機の制御方法であって、
複数の前記有効データのばらつきの度合を算出する統計ステップを備え、
算出された前記有効データのばらつきの
前記度合が所定度合以上である場合には、
前記相対移動制御ステップに戻り、再度、前記端面検出動作を前記所定回数行わせる、ワイヤ放電加工機の制御方法。
【請求項12】
請求項1
1に記載のワイヤ放電加工機の制御方法であって、
算出された前記有効データのばらつきの
前記度合が所定度合以上である場合には、設定されている前記所定回数よりも回数が多くなるように前記所定回数を設定する第2の回数設定ステップを備える、ワイヤ放電加工機の制御方法。
【請求項13】
請求項
8~1
2のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工機の制御方法であって、
複数の前記有効データのばらつきの度合を算出する統計ステップと、
算出された前記有効データのばらつきの
前記度合が所定度合以上である場合には、ユーザに報知するように報知部を制御する報知制御ステップと、
を備える、ワイヤ放電加工機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ電極とワークテーブルに設置された設置物との間に電圧を印加して設置物の端面位置を検出するワイヤ放電加工機、及び、ワイヤ放電加工機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2004-314191号公報には、ワイヤ放電加工機が開示されている。このワイヤ放電加工機は、以下の方法により、ワークテーブルに設置された被加工物の位置を検出する。ワイヤ放電加工機は、ワイヤ電極とワークテーブルに設置された被加工物との間に電圧を印加させた状態で、ワイヤ電極を被加工物に近づける。その後、ワイヤ電極と被加工物との間の電圧が降下したときのワイヤ電極の位置に基づいて被加工物の位置を検出する。
【発明の概要】
【0003】
ワークテーブルに設置された被加工物等の設置物は、その表面に油膜、スラッジ等が付着していることがある。また、ワイヤ電極の巻癖、振動等により、ワイヤ電極が撓んでいることがある。そのため、特開2004-314191号公報の技術のように、ワイヤ電極を設置物に接触させて設置物の位置を求めようとする場合、設置物の位置の検出精度が低下するという問題がある。
【0004】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、ワークテーブルに設置された設置物の位置を、より高精度に検出することができるワイヤ放電加工機、及び、ワイヤ放電加工機の制御方法を提供することを目的とする。
【0005】
本発明の第1の態様は、ワイヤ電極とワークテーブルに設置された設置物との間に電圧を印加して前記設置物の端面位置を検出するワイヤ放電加工機であって、前記ワイヤ電極と前記設置物との間の電圧を検出する電圧検出部と、検出された前記電圧に基づいて、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したか否かを判定する判定部と、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間した状態から、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触するように相対移動し、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したと判定されると前記ワイヤ電極が移動開始位置に移動する端面検出動作を1回とし、又は、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触した状態から、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間するように相対移動し、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間したと判定されると前記ワイヤ電極が移動開始位置に移動する端面検出動作を1回とし、該端面検出動作を所定回数行わせる相対移動制御部と、各回の前記端面検出動作において、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したと判定されたとき、又は、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間したと判定されたときの前記ワークテーブルに対するワイヤ電極の相対位置を記憶部に記憶させる記憶制御部と、複数の前記相対位置を小さい順に並べた場合に、中間の所定範囲の順位に位置する複数の前記相対位置を有効データとして抽出するデータ抽出部と、前記有効データに基づいて前記設置物の端面位置を決定する端面位置決定部と、を備える。
【0006】
本発明の第2の態様は、ワイヤ電極とワークテーブルに設置された設置物との間に電圧を印加して前記設置物の端面位置を検出するワイヤ放電加工機の制御方法であって、前記ワイヤ放電加工機は、前記ワイヤ電極と前記設置物との間の電圧を検出する電圧検出部を有し、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間した状態から、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触するように相対移動し、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したと判定されると前記ワイヤ電極が移動開始位置に移動する端面検出動作を1回とし、又は、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触した状態から、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間するように相対移動し、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間したと判定されると前記ワイヤ電極が移動開始位置に移動する端面検出動作を1回とし、該端面検出動作を所定回数行わせる相対移動制御ステップと、各回の前記端面検出動作において、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したと判定されたとき、又は、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間したと判定されたときの前記ワークテーブルに対する前記ワイヤ電極の相対位置を記憶部に記憶させる記憶制御ステップと、複数の前記相対位置を小さい順に並べた場合に、中間の所定範囲の順位に位置する複数の前記相対位置を有効データとして抽出するデータ抽出ステップと、前記有効データに基づいて前記設置物の端面位置を決定する端面位置決定ステップと、を備える。
【0007】
本発明により、ワークテーブルに設置された設置物の位置を、より高精度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図2は、有効データの抽出について説明する図である。
【
図3】
図3は、制御装置において行われる端面位置検出処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、制御装置において行われる端面位置検出処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、制御装置において行われる端面位置検出処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、報知部に表示されたワークの端面位置の精度の評価の画像の例を示す図である。
【
図9】
図9は、制御装置において行われる端面位置検出処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔第1実施形態〕
[ワイヤ放電加工機の構成]
図1はワイヤ放電加工機10の構成図である。ワイヤ放電加工機10は、ワイヤ電極12をワーク14に対して相対移動させながら、ワイヤ電極12とワーク(設置物)14との極間において放電を生じさせて加工を行う。ワーク14は、図示しないワークテーブルに設置されている。ワークテーブルがX軸方向及びY軸方向に移動することにより、ワイヤ電極12はワーク14に対して相対移動する。
【0010】
ワイヤ放電加工機10は、電圧検出部16、電圧供給回路18、走行機構20、移動機構22、記憶部24、及び、制御装置26を有している。制御装置26は、電圧制御部28、走行制御部30、接触判定部32、相対移動制御部34、回数設定部36、記憶制御部38、データ抽出部40、範囲設定部42、統計部44及び端面位置決定部46を有する。
【0011】
電圧検出部16は、極間の電圧(以下、極間電圧ともいう)を検出する。電圧供給回路18は、極間に電圧を供給する。走行機構20は、ワイヤ電極12を図示しない上ワイヤガイドから下ワイヤガイドに向かって走行させる。移動機構22は、ワークテーブルをX軸方向及びY軸方向に移動させて、ワイヤ電極12をワーク14に対して相対移動させる。記憶部24は、例えば、ハードディスク、ソリッドステートドライブ(SSD)等の記録媒体である。ワークテーブルは、Z軸方向(上下方向)に関して、上ワイヤガイドと下ワイヤガイドとの間に位置する。Z軸方向は、X軸方向及びY軸方向と直交する方向である。
【0012】
電圧制御部28は、電圧供給回路18を制御して、端面検出電圧を極間に印加させる。端面検出電圧は、ワーク14の加工時に極間に放電を生じさせるために極間に印加される電圧に比べて低い電圧に設定されている。
【0013】
走行制御部30は、走行機構20を制御して、ワイヤ電極12を走行させる。
【0014】
接触判定部32は、電圧検出部16が検出した極間電圧に基づいてワイヤ電極12がワーク14に接触したか否かを判定する。接触判定部32には、極間に端面検出電圧が印加されているときに、ワイヤ電極12がワーク14に接触したか否か判定を行う。接触判定部32は、極間電圧が所定電圧未満である場合にはワイヤ電極12がワーク14に接触したと判定し、極間電圧が所定電圧以上である場合にはワイヤ電極12がワーク14から離間していると判定する。
【0015】
相対移動制御部34は、移動機構22を制御して、ワイヤ電極12の端面検出動作を所定回数(例えばN回)行う。端面検出動作とは、ワイヤ電極12が、ワーク14から離間した位置(移動開始位置)からワーク14に接触する位置まで移動し、その後、ワイヤ電極12が、ワーク14に接触した位置から移動開始位置まで戻る1往復の動作のことをいう。この1往復の動作が、1回の端面検出動作としてカウントされる。
【0016】
回数設定部36は、所定回数を設定する。所定回数は、ワイヤ電極12の径、ワーク14の抵抗率及びワーク14の表面粗さの少なくともいずれか1つに基づいて設定される。ワイヤ電極12の径が小さくなるほど、所定回数は多く設定される。ワーク14の抵抗率が大きくなるほど、所定回数は多く設定される。ワーク14の表面粗さが粗くなるほど、所定回数が多く設定される。
【0017】
記憶制御部38は、各回の端面検出動作においてワイヤ電極12がワーク14に接触したと判定されたときの、ワークテーブルに対するワイヤ電極12の相対位置を示すX軸及びY軸の座標値(以下、単に、ワイヤ電極12の座標値ともいう)を記憶部24に記憶させる。
【0018】
データ抽出部40は、各回の端面検出動作において取得されたワイヤ電極12の座標値から有効データを抽出する。
図2は、有効データの抽出について説明する図である。以下では、X軸の座標値に対する有効データの抽出について説明するが、Y軸の座標値に対する有効データの抽出についても同様に行われる。
【0019】
データ抽出部40は、所定回数行われた端面検出動作のそれぞれにおいて取得されたワイヤ電極12の座標値を小さい順に並べる。
図2の示す例では、所定回数がN回であって、順位が1番である座標値が最小値X(1)であり、順位がN番である座標値が最大値X(N)となる。また、X(a)≦X(a+1)[a=1~N-1]の関係を有する。
【0020】
データ抽出部40は、順位が1番目からn番目までの座標値、及び、順位が(N-n+1)番目からN番目までの座標値のそれぞれを無効データとする。一方、データ抽出部40は、順位が(n+1)番目から(N-n)番目までの座標値のそれぞれを有効データとして抽出する。
【0021】
範囲設定部42は、有効データとする座標値の順位の範囲(以下、所定範囲という)を設定する。範囲設定部42は、無効データとする座標値の順位の範囲を設定してもよい。所定範囲は、ワイヤ電極12の径、ワーク14の抵抗率及びワーク14の表面粗さの少なくともいずれか1つに基づいて設定される。ワイヤ電極12の径が小さくなるほど、所定範囲は狭く設定される。ワーク14の抵抗率が大きくなるほど、所定範囲は狭く設定される。ワーク14の表面粗さが粗くなるほど、所定範囲は狭く設定される。
【0022】
統計部44は、有効データの最大値と最小値との差を算出する。この差は、有効データのばらつきの度合として用いられる。なお、有効データのばらつきの度合として、有効データの分散又は標準偏差を用いてもよい。有効データの最大値と最小値との差をDとして、
図2に示す例を用いると、差Dは次の式により求められる。
D=X(N-n)-X(n+1)
【0023】
端面位置決定部46は、有効データに基づいてワーク14の端面位置を決定する。端面位置決定部46は、例えば、有効データの平均に基づいて、ワーク14の端面位置の座標値を決定する。
【0024】
制御装置26は、図示しない演算処理装置及びストレージを備えるコンピュータを有する。演算処理装置は、例えば、中央処理装置(CPU)、マイクロプロセッシングユニット(MPU)等のプロセッサ、及び、ROM、RAM等からなるメモリを有している。ストレージは、例えば、ハードディスク、ソリッドステートドライブ(SSD)等の記録媒体である。電圧制御部28、走行制御部30、接触判定部32、相対移動制御部34、回数設定部36、記憶制御部38、データ抽出部40、範囲設定部42、統計部44及び端面位置決定部46は、ストレージに記憶されたプログラムを演算処理装置が実行することにより実現される。
【0025】
[端面位置検出処理]
図3は、制御装置26において行われる端面位置検出処理の流れを示すフローチャートである。
【0026】
ステップS1において、回数設定部36は、端面検出動作を行う回数(所定回数)を設定する。その後、ステップS2へ移行する。
【0027】
ステップS2において、範囲設定部42は、有効データとして抽出する順位の所定範囲を設定する。その後、ステップS3へ移行する。
【0028】
ステップS3において、相対移動制御部34は、移動機構22を制御し、ワイヤ電極12をワーク14から離間させた位置から、ワイヤ電極12をワーク14に接触させる方向に相対移動させる。電圧制御部28は、電圧供給回路18を制御して、端面検出電圧を極間に印加させる。走行制御部30は、走行機構20を制御して、ワイヤ電極12を走行させる。その後、ステップS4へ移行する。
【0029】
ステップS4において、接触判定部32は、ワイヤ電極12がワーク14に接触したか否かを判定する。ワイヤ電極12がワーク14に接触した場合にはステップS5へ移行し、ワイヤ電極12がワーク14に接触していない場合にはステップS3へ戻る。
【0030】
ステップS5において、相対移動制御部34は、移動機構22を制御して、ワイヤ電極12を移動開始位置に移動させる。その後、ステップS6へ移行する。
【0031】
ステップS6において、相対移動制御部34は、端面検出動作の回数が所定回数以上であるか否かを判定する。端面検出動作の回数が所定回数以上である場合にはステップS7へ移行し、端面検出動作の回数が所定回数未満である場合にはステップS3へ戻る。
【0032】
ステップS7において、データ抽出部40は、有効データを抽出する。その後、ステップS8へ移行する。
【0033】
ステップS8において、統計部44は、有効データの最大値と最小値の差を算出する。その後、ステップS9へ移行する。
【0034】
ステップS9において、統計部44は、有効データの最大値と最小値の差が所定値以上であるか否かを判定する。有効データの最大値と最小値の差が所定値以上である場合にはステップS10へ移行し、有効データの最大値と最小値の差が所定値未満である場合にはステップS11へ移行する。所定値は、本発明の所定度合に相当する。
【0035】
ステップS10において、回数設定部36は、所定回数を、前回設定した所定回数よりも多い回数に設定する。その後、ステップS3へ戻る。これにより、相対移動制御部34により、新たに設定された所定回数、端面検出動作が行われる。
【0036】
ステップS11において、端面位置決定部46は、有効データに基づいて、ワーク14の端面位置を決定する。その後、端面位置検出処理は終了する。
【0037】
[作用効果]
ワイヤ電極12がワーク14と接触したと接触判定部32が判定したときの、ワイヤ電極12の座標値に基づいてワーク14の端面位置を求める場合、以下のような理由により、実際の端面位置に対して大きなズレが生じることがある。
【0038】
ワーク14に付着したスラッジ等にワイヤ電極12が接触した場合、極間電圧が低下する。この場合、ワイヤ電極12がワーク14に直接接触していないにも関わらず、接触判定部32は、ワイヤ電極12がワーク14と接触したと判定する。このときのワイヤ電極12の座標値に基づいて求められたワーク14の端面位置は、実際のワーク14の端面位置よりもワーク14の外側の位置となる。
【0039】
ワーク14に油膜が付着している場合、油膜の導電性はワーク14の導電性よりも低いため、ワイヤ電極12がワーク14と接触しても極間電圧が安定しない。そのため、ワイヤ電極12がワーク14に接触した瞬間には、接触判定部32は、ワイヤ電極12がワーク14から離間していると判定する場合がある。その後、ワイヤ電極12がワーク14に接触した時点から遅れて、接触判定部32は、ワイヤ電極12がワーク14に接触したと判定する。ワイヤ電極12がワーク14から離間していると判定されている間は、ワイヤ電極12はさらにワーク14に向かって移動しようとする。そのため、接触判定部32が、ワイヤ電極12がワーク14に接触したと判定した時点では、ワイヤ電極12がワーク14に押圧されて屈曲した形状となる。このときのワイヤ電極12の座標値に基づいて求められたワーク14の端面位置は、実際のワーク14の端面位置よりもワーク14の内側の位置となる。
【0040】
ワイヤ電極12は、ボビンに巻回されているときに巻癖がつくことがある。また、ワイヤ電極12が走行しているときに、ワイヤ電極12は振動する。そのため、ワイヤ電極12がワーク14に接触するときに、ワイヤ電極12が湾曲した形状となっていることがある。このときのワイヤ電極12の座標値に基づいて求められたワーク14の端面位置は、実際のワーク14の端面位置よりもワーク14の外側又は内側の位置となることがある。
【0041】
上記のような理由により、ワイヤ電極12がワーク14に接触したと接触判定部32が判定したときのワイヤ電極12の座標値に基づいて求められたワーク14の端面位置は、実際の端面位置に対して大きな誤差が生じることがある。
【0042】
そこで、本実施形態では、相対移動制御部34は、移動機構22を制御して、端面検出動作を所定回数行う。記憶制御部38は、各回の端面検出動作においてワイヤ電極12がワーク14に接触したと判定されたときの、ワイヤ電極12の座標値を記憶部24に記憶させる。さらに、データ抽出部40は、記憶部24に記憶されているワイヤ電極12の複数の座標値を小さい順に並べて、順位が所定範囲内である座標値のそれぞれを有効データとして抽出する。端面位置決定部46は、抽出された有効データに基づいてワーク14の端面位置を決定する。これにより、実際のワーク14の端面位置に対して比較的誤差が小さい座標値が有効データとして抽出されるため、ワーク14の端面位置の精度が向上する。
【0043】
また、本実施形態では、相対移動制御部34は、ワイヤ電極12を走行させた状態で、端面検出動作を行うように移動機構22を制御する。これにより、端面位置を検出しようとするワーク14の表面に付着したスラッジ、油膜等を除去することができる。
【0044】
また、本実施形態では、回数設定部36は、所定回数を設定する。所定回数は、ワイヤ電極12の径、ワーク14の抵抗率及びワーク14の表面粗さの少なくともいずれか1つに基づいて設定される。ワイヤ電極12の径が小さくなるほど、所定回数は多く設定される。ワーク14の抵抗率が大きくなるほど、所定回数は多く設定される。ワーク14の表面粗さが粗くなるほど、所定回数は多く設定される。
【0045】
ワイヤ電極12の径が小さくなるほどワイヤ電極12の振動の振幅が大きくなる。また、ワーク14の抵抗率が大きくなるほど、ワイヤ電極12がワーク14に接触したときの極間電圧が安定しなくなる。また、ワーク14の表面粗さが粗くなるほど、各回の端面検出動作においてワイヤ電極12がワーク14に接触する位置が大きく変化する。すなわち、ワイヤ電極12の径が小さくなるほど、ワーク14の抵抗率が大きくなるほど、ワーク14の表面粗さが粗くなるほど、各回の端面検出動作において、ワイヤ電極12がワーク14に接触したと判定されたときのワイヤ電極12の座標値のばらつきが大きくなる。
【0046】
ワイヤ電極12の径が小さくなるほど、ワーク14の抵抗率が大きくなるほど、ワーク14の表面粗さが粗くなるほど、所定回数は多く設定されるため、記憶部24に記憶されるワイヤ電極12の座標値の分布を正規分布に近づけることができる。正規分布に近い分布の座標値の中央部の座標値が、有効データとして抽出されるため、ワーク14の端面位置の精度が向上する。
【0047】
また、本実施形態では、範囲設定部42は、所定範囲を設定する。所定範囲は、ワイヤ電極12の径、ワーク14の抵抗率及びワーク14の表面粗さの少なくともいずれか1つに基づいて設定される。ワイヤ電極12の径が小さくなるほど、所定範囲は範囲が狭く設定される。ワーク14の抵抗率が大きくなるほど、所定範囲は範囲が狭く設定される。ワーク14の表面粗さが粗くなるほど、、所定範囲は範囲が狭く設定される。これにより、実際のワーク14の端面位置に対して比較的誤差が小さい座標値が有効データとして抽出されるため、ワーク14の端面位置の精度が向上する。
【0048】
また、本実施形態では、有効データの最大値と最小値との差が所定値以上である場合には、相対移動制御部34は、移動機構22を制御して、再度、端面検出動作を所定回数行う。有効データの最大値と最小値との差は、有効データのばらつきの度合として算出される。これにより、ばらつきが小さい有効データに基づいてワーク14の端面位置が決定されるため、ワーク14の端面位置の精度が向上する。
【0049】
また、本実施形態では、有効データの最大値と最小値との差が所定値以上である場合には、回数設定部36は、所定回数を、現在設定されている所定回数よりも多い回数に設定する。これにより、端面検出動作の回数が増加するため、記憶部24に記憶されている座標値の分布を正規分布に近づけることができる。正規分布に近い分布の座標値の中央部の座標値が、有効データとして抽出されるため、ワーク14の端面位置の精度が向上する。
【0050】
〔第2実施形態〕
図4はワイヤ放電加工機10の構成図である。本実施形態のワイヤ放電加工機10は、第1実施形態のワイヤ放電加工機10に対して構成が一部相違する。本実施形態のワイヤ放電加工機10は、第1実施形態のワイヤ放電加工機10の構成に加え、報知部48、及び、制御装置26の報知制御部50を有している。
【0051】
報知部48は、文字、画像等を表示する表示装置、音声等を発する音響装置、光を点灯、点滅させる表示灯等である。報知制御部50は、報知部48を制御して、ユーザに報知する。
【0052】
[端面位置検出処理]
図5は、制御装置26において行われる端面位置検出処理の流れを示すフローチャートである。
【0053】
ステップS21において、回数設定部36は、端面検出動作を行う回数(所定回数)を設定する。その後、ステップS22へ移行する。
【0054】
ステップS22において、範囲設定部42は、有効データとして抽出する順位の所定範囲を設定する。その後、ステップS23へ移行する。
【0055】
ステップS23において、相対移動制御部34は、移動機構22を制御して、ワイヤ電極12をワーク14に接触させる方向に相対移動させる。電圧制御部28は、電圧供給回路18を制御して、端面検出電圧を極間に印加させる。走行制御部30は、走行機構20を制御して、ワイヤ電極12を走行させる。その後、ステップS24へ移行する。
【0056】
ステップS24において、接触判定部32は、ワイヤ電極12がワーク14に接触したか否かを判定する。ワイヤ電極12がワーク14に接触した場合にはステップS25へ移行し、ワイヤ電極12がワーク14に接触していない場合にはステップS23へ戻る。
【0057】
ステップS25において、相対移動制御部34は、移動機構22を制御して、ワイヤ電極12を移動開始位置に移動させる。その後、ステップS26へ移行する。
【0058】
ステップS26において、相対移動制御部34は、端面検出動作の回数が所定回数以上であるか否かを判定する。端面検出動作の回数が所定回数以上である場合にはステップS27へ移行し、端面検出動作の回数が所定回数未満である場合にはステップS23へ戻る。
【0059】
ステップS27において、データ抽出部40は、有効データを抽出する。その後、ステップS28へ移行する。
【0060】
ステップS28において、統計部44は、有効データの最大値と最小値の差を算出する。その後、ステップS29へ移行する。
【0061】
ステップS29において、統計部44は、有効データの最大値と最小値の差が所定値以上であるか否かを判定する。有効データの最大値と最小値の差が所定値以上である場合にはステップS30へ移行し、有効データの最大値と最小値の差が所定値未満である場合にはステップS31へ移行する。
【0062】
ステップS30において、報知制御部50は、報知部48を制御して、ユーザに報知する。その後、ステップS31へ移行する。報知制御部50は、例えば、表示装置である報知部48に、報知部48を制御して、検出されたワーク14の端面位置の精度が低いことを示す文字、画像等を報知部48に表示させる。報知制御部50は、例えば、音響装置である報知部48を制御して、検出されたワーク14の端面位置の精度が低いことを示す音、音声等を報知部48から出力させる。例えば、報知部48がLEDである場合には、報知制御部50は、LEDである報知部48を制御して、報知部48を点灯、点滅等をさせて、検出されたワーク14の端面位置の精度が低いことを示す。
【0063】
ステップS31において、端面位置決定部46は、有効データに基づいて、ワーク14の端面位置を決定する。その後、端面位置検出処理は終了する。
【0064】
[作用効果]
本実施形態では、報知制御部50は、有効データの最大値と最小値との差が所定値以上である場合には、報知部48を制御して、ユーザに報知する。これにより、検出されたワーク14の端面位置の精度が低いことをユーザに知らせることができる。
【0065】
〔第3実施形態〕
図6はワイヤ放電加工機10の構成図である。本実施形態のワイヤ放電加工機10は、第1実施形態のワイヤ放電加工機10に対して構成が一部相違する。本実施形態のワイヤ放電加工機10は、第1実施形態のワイヤ放電加工機10の構成に加え、報知部48、及び、制御装置26の報知制御部50並びに評価部52を有している。
【0066】
報知部48は、文字、画像等を表示する表示装置、音声等を発する音響装置、光を点灯、点滅させる表示灯等である。報知制御部50は、報知部48を制御して、ユーザに報知する。評価部52は、有効データのばらつきに基づいて、端面位置決定部46により決定されたワーク14の端面位置の精度を評価する。
【0067】
[端面位置検出処理]
図7は、制御装置26において行われる端面位置検出処理の流れを示すフローチャートである。
【0068】
ステップS41において、回数設定部36は、端面検出動作を行う回数(所定回数)を設定する。その後、ステップS42へ移行する。
【0069】
ステップS42において、範囲設定部42は、有効データとして抽出する順位の所定範囲を設定する。その後、ステップS43へ移行する。
【0070】
ステップS43において、相対移動制御部34は、移動機構22を制御して、ワイヤ電極12をワーク14に接触させる方向に相対移動させる。電圧制御部28は、電圧供給回路18を制御して、端面検出電圧を極間に印加させる。走行制御部30は、走行機構20を制御して、ワイヤ電極12を走行させる。その後、ステップS44へ移行する。
【0071】
ステップS44において、接触判定部32は、ワイヤ電極12がワーク14に接触したか否かを判定する。ワイヤ電極12がワーク14に接触した場合にはステップS45へ移行し、ワイヤ電極12がワーク14に接触していない場合にはステップS43へ戻る。
【0072】
ステップS45において、相対移動制御部34は、移動機構22を制御して、ワイヤ電極12を移動開始位置に移動させる。その後、ステップS46へ移行する。
【0073】
ステップS46において、端面検出動作の回数が所定回数以上であるか否かを判定する。端面検出動作の回数が所定回数以上である場合にはステップS47へ移行し、端面検出動作の回数が所定回数未満である場合にはステップS43へ戻る。
【0074】
ステップS47において、データ抽出部40は、有効データを抽出する。その後、ステップS48へ移行する。
【0075】
ステップS48において、端面位置決定部46は、有効データに基づいて、ワーク14の端面位置を決定する。その後、ステップS49へ移行する。
【0076】
ステップS49において、統計部44は、有効データの最大値と最小値の差を算出する。その後、ステップS50へ移行する。
【0077】
ステップS50において、評価部52は、有効データの最大値と最小値の差に基づいて、ステップS48で決定されたワーク14の端面位置の精度を評価する。その後、ステップS51へ移行する。評価部52は、有効データの最大値と最小値の差が大きいほど、ワーク14の端面位置の精度を低く評価する。有効データの最大値と最小値の差に代えて、記憶部24に記憶されているすべての座標値の最大値と最小値の差に基づいて、ワーク14の端面位置の精度が評価されてもよい。有効データの最大値と最小値の差に代えて、有効データの分散又は標準偏差に基づいて、ワーク14の端面位置の精度が評価されてもよい。有効データの最大値と最小値の差に代えて、記憶部24に記憶されているすべての座標値の分散又は標準偏差に基づいて、ワーク14の端面位置の精度が評価されてもよい。
【0078】
ステップS51において、報知制御部50は、報知部48を制御して、ユーザにワーク14の端面位置の精度の評価を報知する。その後、端面位置検出処理は終了する。報知制御部50は、例えば、表示装置である報知部48を制御して、ワーク14の端面位置の精度の評価を示す文字、画像等を報知部48に表示させる。
図8は、報知部48に表示されたワーク14の端面位置の精度の評価の画像の例を示す図である。
図8に示すように、長方形の図形のうち着色された範囲の割合で、評価を示すようにしてもよい。
図8では、着色された範囲をハッチングで示している。報知制御部50は、例えば、音響装置である報知部48を制御して、検出されたワーク14の端面位置の精度の評価を示す音、音声等を報知部48から出力させてもよい。例えば、報知部48がLEDである場合には、報知制御部50は、LEDである報知部48を制御して、報知部48を点灯、点滅等をさせて、検出されたワーク14の端面位置の精度が低いことを示す。例えば、評価が高い場合には報知部48を消灯させ、評価が低い場合には報知部48を点滅させ、評価が中程度の場合には報知部48の点灯させるようにしてもよい。
【0079】
〔第4実施形態〕
本実施形態のワイヤ放電加工機10は、第1実施形態のワイヤ放電加工機10と構成が同一であるものの、端面検出動作が第1実施形態と異なる。
【0080】
相対移動制御部34は、移動機構22を制御して、端面検出動作を所定回数(例えばN回)行わせる。本実施形態における端面検出動作とは、ワイヤ電極12が、ワーク14に接触している位置(移動開始位置)からワーク14から離間する位置まで移動し、その後、ワイヤ電極12が、ワーク14から離間した位置から移動開始位置まで1往復の動作のことをいう。この1往復の動作が、1回の端面検出動作としてカウントされる。
【0081】
[端面位置検出処理]
図9は、制御装置26において行われる端面位置検出処理の流れを示すフローチャートである。
【0082】
ステップS61において、回数設定部36は、端面検出動作を行う回数(所定回数)を設定する。その後、ステップS62へ移行する。
【0083】
ステップS62において、範囲設定部42は、有効データとして抽出する順位の所定範囲を設定する。その後、ステップS63へ移行する。
【0084】
ステップS63において、相対移動制御部34は、移動機構22を制御して、ワイヤ電極12をワーク14に接触させた位置から、ワイヤ電極12をワーク14から離間させる方向に相対移動させる。電圧制御部28は、電圧供給回路18を制御して、端面検出電圧を極間に印加させる。走行制御部30は、走行機構20を制御して、ワイヤ電極12を走行させる。その後、ステップS64へ移行する。
【0085】
ステップS64において、接触判定部32は、ワイヤ電極12がワーク14から離間しているか否かを判定する。ワイヤ電極12がワーク14から離間している場合にはステップS65へ移行し、ワイヤ電極12がワーク14から離間していない場合にはステップS63へ戻る。
【0086】
ステップS65において、相対移動制御部34は、移動機構22を制御して、ワイヤ電極12を移動開始位置に移動させる。その後、ステップS66へ移行する。
【0087】
ステップS66において、相対移動制御部34は、端面検出動作の回数が所定回数以上であるか否かを判定する。端面検出動作の回数が所定回数以上である場合にはステップS67へ移行し、端面検出動作の回数が所定回数未満である場合にはステップS63へ戻る。
【0088】
ステップS67において、データ抽出部40は、有効データを抽出する。その後、ステップS68へ移行する。
【0089】
ステップS68において、統計部44は、有効データの最大値と最小値の差を算出する。その後、ステップS69へ移行する。
【0090】
ステップS69において、統計部44は、有効データの最大値と最小値の差が所定値以上であるか否かを判定する。有効データの最大値と最小値の差が所定値以上である場合にはステップS70へ移行し、有効データの最大値と最小値の差が所定値未満である場合にはステップS71へ移行する。
【0091】
ステップS70において、回数設定部36は、所定回数を、前回設定した所定回数よりも多い回数に設定する。その後、ステップS63へ戻る。これにより、相対移動制御部34により、新たに設定された所定回数、端面検出動作が行われる。
【0092】
ステップS71において、端面位置決定部46は、有効データに基づいて、ワーク14の端面位置を決定する。その後、端面位置検出処理を終了する。
【0093】
[作用効果]
本実施形態では、相対移動制御部34は、移動機構22を制御して、端面検出動作を所定回数行う。記憶制御部38は、各回の端面検出動作においてワイヤ電極12がワーク14から離間したと判定されたときの、ワイヤ電極12の座標値を記憶部24に記憶させる。さらに、データ抽出部40は、記憶部24に記憶されているワイヤ電極12の複数の座標値を小さい順に並べて、順位が所定範囲内である座標値のそれぞれを有効データとして抽出する。端面位置決定部46は、抽出された有効データに基づいてワーク14の端面位置を決定する。これにより、実際のワーク14の端面位置に対して比較的誤差が小さい座標値が有効データとして抽出されるため、ワーク14の端面位置の精度が向上する。
【0094】
〔他の実施形態〕
第1実施形態~第4実施形態のワイヤ放電加工機10では、ワークテーブルにワーク14の端面位置を検出していたが、ワーク14に限らず、ワークテーブルに設置された治具の端面位置を検出してもよい。
【0095】
〔実施形態から得られる発明〕
上記実施形態から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0096】
ワイヤ電極(12)とワークテーブルに設置された設置物(14)との間に電圧を印加して前記設置物の端面位置を検出するワイヤ放電加工機(10)であって、前記ワイヤ電極と前記設置物との間の電圧を検出する電圧検出部(16)と、検出された前記電圧に基づいて、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したか否かを判定する判定部(32)と、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間した状態から、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触するように相対移動し、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したと判定されると前記ワイヤ電極が移動開始位置に移動する端面検出動作を1回とし、又は、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触した状態から、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間するように相対移動し、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間したと判定されると前記ワイヤ電極が移動開始位置に移動する端面検出動作を1回とし、該端面検出動作を所定回数行わせる相対移動制御部(34)と、各回の前記端面検出動作において、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したと判定されたとき、又は、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間したと判定されたときの前記ワークテーブルに対するワイヤ電極の相対位置を記憶部(24)に記憶させる記憶制御部(38)と、複数の前記相対位置を小さい順に並べたときに、中間の所定範囲の順位に位置する複数の前記相対位置を有効データとして抽出するデータ抽出部(40)と、前記有効データに基づいて前記設置物の端面位置を決定する端面位置決定部(46)と、を備える。
【0097】
上記のワイヤ放電加工機であって、前記相対移動制御部は、前記ワイヤ電極を走行させた状態で、前記端面検出動作を行わせてもよい。
【0098】
上記のワイヤ放電加工機であって、前記ワイヤ電極の径、前記設置物の抵抗率、及び、前記設置物の表面粗さのうち少なくとも1つに基づいて、前記ワイヤ電極の径が小さくなるほど、前記設置物の抵抗率が大きくなるほど、前記設置物の表面粗さが粗くなるほど、回数が多くなるように前記所定回数を設定する回数設定部(36)を備えてもよい。
【0099】
上記のワイヤ放電加工機であって、前記ワイヤ電極の径、前記設置物の抵抗率、及び、前記設置物の表面粗さのうち少なくとも1つに基づいて、前記ワイヤ電極の径が小さくなるほど、前記設置物の抵抗率が大きくなるほど、前記設置物の表面粗さが粗くなるほど、範囲が狭くなるように前記所定範囲を設定する範囲設定部(42)を備えてもよい。
【0100】
上記のワイヤ放電加工機であって、複数の前記有効データのばらつきの度合を算出する統計部(44)を備え、算出された前記有効データのばらつきの度合が所定度合以上である場合には、前記相対移動制御部は、再度、前記端面検出動作を前記所定回数行わせてもよい。
【0101】
上記のワイヤ放電加工機であって、算出された前記有効データのばらつきの度合が所定度合以上である場合には、設定されている前記所定回数よりも回数が多くなるように前記所定回数を設定する回数設定部を備えてもよい。
【0102】
上記のワイヤ放電加工機であって、複数の前記有効データのばらつきの度合を算出する統計部と、算出された前記有効データのばらつきの度合が所定度合以上である場合には、ユーザに報知するように報知部(48)を制御する報知制御部(50)と、を備えてもよい。
【0103】
上記のワイヤ放電加工機であって、複数の前記有効データ、及び、前記記憶部に記憶されている複数の前記相対位置の少なくとも一方のばらつきの度合を算出する統計部と、算出された前記度合に基づいて、決定された前記設置物の端面位置の精度を評価する評価部(52)と、前記設置物の端面位置の精度の評価をユーザに報知するように報知部を制御する報知制御部と、を備えてもよい。
【0104】
ワイヤ電極(12)とワークテーブルに設置された設置物(14)との間に電圧を印加して前記設置物の端面位置を検出するワイヤ放電加工機(10)の制御方法であって、前記ワイヤ放電加工機は、前記ワイヤ電極と前記設置物との間の電圧を検出する電圧検出部(16)を有し、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間した状態から、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触するように相対移動し、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したと判定されると前記ワイヤ電極が移動開始位置に移動する端面検出動作を1回とし、又は、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触した状態から、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間するように相対移動し、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間したと判定されると前記ワイヤ電極が移動開始位置に移動する端面検出動作を1回とし、該端面検出動作を所定回数行わせる相対移動制御ステップと、各回の前記端面検出動作において、前記ワイヤ電極が前記設置物に接触したと判定されたとき、又は、前記ワイヤ電極が前記設置物から離間したと判定されたときの前記ワークテーブルに対する前記ワイヤ電極の相対位置を記憶部(24)に記憶させる記憶制御ステップと、複数の前記相対位置を小さい順に並べたときに、中間の所定範囲の順位に位置する複数の前記相対位置を有効データとして抽出するデータ抽出ステップと、前記有効データに基づいて前記設置物の端面位置を決定する端面位置決定ステップと、を備える。
【0105】
上記のワイヤ放電加工機の制御方法であって、前記相対移動制御ステップは、前記ワイヤ電極を走行させた状態で、前記端面検出動作を行わせてもよい。
【0106】
上記のワイヤ放電加工機の制御方法であって、前記ワイヤ電極の径、前記設置物の抵抗率、及び、前記設置物の表面粗さのうち少なくとも1つに基づいて、前記ワイヤ電極の径が小さくなるほど、前記設置物の抵抗率が大きくなるほど、前記設置物の表面粗さが粗くなるほど、回数が多くなるように前記所定回数を設定する回数設定ステップを備えてもよい。
【0107】
上記のワイヤ放電加工機の制御方法であって、前記ワイヤ電極の径、前記設置物の抵抗率、及び、前記設置物の表面粗さのうち少なくとも1つに基づいて、前記ワイヤ電極の径が小さくなるほど、前記設置物の抵抗率が大きくなるほど、前記設置物の表面粗さが粗くなるほど、範囲が狭くなるように前記所定範囲を設定する範囲設定ステップを備えてもよい。
【0108】
上記のワイヤ放電加工機の制御方法であって、複数の前記有効データのばらつきの度合を算出する統計ステップを備え、算出された前記有効データのばらつきの度合が所定度合以上である場合には、相対移動制御ステップに戻り、再度、前記端面検出動作を前記所定回数行わせてもよい。
【0109】
上記のワイヤ放電加工機の制御方法であって、算出された前記有効データのばらつきの度合が所定度合以上である場合には、設定されている前記所定回数よりも回数が多くなるように前記所定回数を設定する第2の回数設定ステップを備えてもよい。
【0110】
上記のワイヤ放電加工機の制御方法であって、複数の前記有効データのばらつきの度合を算出する統計ステップと、算出された前記有効データのばらつきの度合が所定度合以上である場合には、ユーザに報知するように報知部を制御する報知制御ステップと、を備えてもよい。