IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツングの特許一覧

特許7469506液圧式の非人力・車両ブレーキ設備のためのペダルストロークシミュレータ
<>
  • 特許-液圧式の非人力・車両ブレーキ設備のためのペダルストロークシミュレータ 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】液圧式の非人力・車両ブレーキ設備のためのペダルストロークシミュレータ
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
B60T8/17 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022558478
(86)(22)【出願日】2021-01-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-15
(86)【国際出願番号】 EP2021050908
(87)【国際公開番号】W WO2021197676
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】102020204352.3
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ヴェー,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ハグスピエル,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルヘルム,マクシミリアン
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102017210041(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/00 - 8/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン(4)が中で軸方向へスライド可能に収容されたシリンダ(3)と、前記シリンダ(3)を軸方向に延長するように配置されて前記シリンダ(3)の端面を閉止するカップ状のカバー(5)と、前記カバー(5)の中に配置され、前記シリンダ(3)の中へと入る前記ピストン(4)を付勢する第1のばね部材(8)とを有する、液圧式の非人力・車両ブレーキ設備のためのペダルストロークシミュレータであって
ピストンストッパとして、ばねリング(19)を有し、
前記シリンダ(3)は、前記ピストン(4)と前記シリンダ(3)の前記端面との間に、周回する溝を有し、
前記ばねリング(19)は、
前記溝に配置され、内方に向かって前記溝から突出し、それにより前記ピストン(4)の行程を前記カバー(5)の方向で制限することを特徴とする、ペダルストロークシミュレータ。
【請求項2】
記第1のばね部材(8)を前記カバー(5)の中で保持するソケット(16)を有することを特徴とする、請求項1に記載のペダルストロークシミュレータ。
【請求項3】
前記ソケット(16)は前記カバー(5)にクランプ式に保持されることを特徴とする、請求項2に記載のペダルストロークシミュレータ。
【請求項4】
前記ソケット(16)は管状であり径方向に弾性的であることを特徴とする、請求項2または3に記載のペダルストロークシミュレータ。
【請求項5】
前記ピストン(4)と前記第1のばね部材(8)との間に、前記第1のばね部材(8)のばね力を前記ピストン(4)に伝達する力伝達器(9)が配置されることを特徴とする、請求項1に記載のペダルストロークシミュレータ。
【請求項6】
前記ピストン(4)と前記第1のばね部材(8)との間に、前記第1のばね部材(8)のばね力を前記ピストン(4)に伝達する力伝達器(9)が配置されることを特徴とする、請求項2から4までのいずれか1項に記載のペダルストロークシミュレータ。
【請求項7】
前記ソケット(16)は前記カバー(5)の内部または表面で前記力伝達器(9)も保持することを特徴とする、請求項6に記載のペダルストロークシミュレータ。
【請求項8】
前記ピストン(4)と前記力伝達器(9)との間に、前記ピストン(4)と前記力伝達器(9)を互いに押し離す第2のばね部材(21)が配置されることを特徴とする、請求項5から7までのいずれか1項に記載のペダルストロークシミュレータ。
【請求項9】
前記力伝達器(9)は前記第1のばね部材(8)の中に突入することを特徴とする、請求項からまでのいずれか1項に記載のペダルストロークシミュレータ。
【請求項10】
前記ピストン(4)と反対を向くほうの前記第1のばね部材(8)の側で、前記第1のばね部材(8)のばね力を円周近傍で前記カバー(5)に導出する支持ディスク(18)が前記カバー(5)の中に配置されることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載のペダルストロークシミュレータ。
【請求項11】
前記第1のばね部材(8)は皿ばねセットを有することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載のペダルストロークシミュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提項の構成要件を有するペダルストロークシミュレータに関する。
【0002】
ペダルストロークシミュレータは、非人力操作による液圧式の車両ブレーキ設備で、マスタブレーキシリンダが操作されたときのペダルストローク(ハンドブレーキの場合にはレバーストローク)を可能にする。マスタブレーキシリンダは、非人力操作がなされるときに、マスタブレーキシリンダによってではなく、たとえばハイドロポンプやピストン・シリンダユニットなどの外部エネルギーによって生成される、液圧によるブレーキ圧についての目標値発生器としての役目を果たす。マスタブレーキシリンダは非人力ブレーキングの際に、たとえば弁の閉止によって他の車両ブレーキ設備から液圧的に分断され、それが操作されたとき、非人力ブレーキング中にマスタブレーキシリンダと連通するペダルストロークシミュレータへとブレーキ液を押し除ける。
【背景技術】
【0003】
特許文献1は、シリンダの中で軸方向へスライド可能なピストンと、シリンダの中へと入るピストンを付勢するピストンばねとしての圧縮コイルばねとを有するペダルストロークシミュレータを開示している。ピストンばねは、シリンダを軸方向に延長するようにシリンダの端面に配置されてシリンダを液密に閉止する、カップ状のカバーに収容される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】ドイツ特許出願公開第102017210041A1号明細書
【発明の概要】
【0005】
請求項1の構成要件を有する本発明によるペダルストロークシミュレータは、液圧式の非人力・車両ブレーキ設備の筋力操作可能なマスタブレーキシリンダへの接続のために意図され、シリンダと、シリンダの中で軸方向にスライド可能なピストンとを有する。カップ状のカバーが、シリンダの端面を好ましくは液密に閉止する。「カップ状」とは、開いた端面と閉じた端面とを有する、特に管状、特別には円筒管状を意味し、開いた端面がシリンダのほうを向く。
【0006】
カバーの中に、シリンダの中へと入るピストンを付勢する第1のばね部材が配置される。第1のばね部材はたとえば圧縮コイルばねであってよく、特に皿ばねセットである。これがピストンを直接的に、または他の構成部品を介して間接的に付勢することができるが、ピストンをその行程全体で付勢する必要はない。
【0007】
カバーの方向でピストンの行程を制限するために、本発明は、ピストンとカバーとの間の周回する溝に挿入され、内方に向かって溝から突出するばねリングを意図し、それにより、これがピストンの行程をカバーの方向で制限するピストンストッパを形成する。ピストンストッパは、カバーと反対を向く側でピストンを付勢するブレーキ圧に基づくピストンの力をカバーが受けないように保つ。さらに、ピストンストッパを形成するばねリングは、第1のばね部材がカバーの中で支持されるばね力を制限する。ピストンの行程の制限は、同時に、第1のばね部材のたわみ距離も制限するからである。
【0008】
従属請求項は、独立請求項に記載されている発明の発展例と好ましい実施形態を対象としている。
【0009】
本発明の1つの実施形態は、第1のばね部材をペダルストロークシミュレータのカバーの中で保持し、第1のばね部材が皿ばねセットである場合には特にその皿ばねも一緒に保持するソケットを意図する。ソケットは、第1のばね部材に応力をかけるための第1のばね部材の運動を許容する。カバー、ソケット、および第1のばね部材は、ペダルストロークシミュレータの組立前に組み合わせておくことができる、本発明によるペダルストロークシミュレータの組立を簡易化する予備組立モジュールを形成する。
【0010】
本明細書と図面に開示されている一切の構成要件は、それ自体として単独で、または原則として任意の組合せで、本発明の実施形態において具体化されていてよい。本発明の1つの請求項の、または1つの実施形態の、すべての構成要件ではなく1つまたは複数の構成要件だけを有する本発明の実施形態も、原則として可能である。
【0011】
次に、図面に示されている実施形態を参照しながら本発明について詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明によるペダルストロークシミュレータを示す軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面に示す本発明によるペダルストロークシミュレータ1は、他の部分は図示しない液圧式の非人力・車両ブレーキ設備のブレーキ圧・スリップコントロールのハイドロリックブロック2の中に配置される。ハイドロリックブロック2は、ブレーキ圧・スリップコントロールの電磁弁やその他の構成部品のための収容部を備える直方体の金属ブロックであり、これらがハイドロリックブロック2の穿孔により、液圧式の車両ブレーキ設備の回路図に準じて互いに接続される。このようなハイドロリックブロック2およびブレーキ圧・スリップコントロールは周知であり、ここではこれ以上説明しない。
【0014】
ハイドロリックブロック2は、ペダルストロークシミュレータのシリンダ3を形成する円筒状の止まり穴を有している。シリンダ3の中で、ピストン4が軸方向へスライド可能に収容されている。


【0015】
開いた端部と閉じた端部を有する円筒管状のカバー5がシリンダ3の端面を液密に閉止しており、カバー5の開いた端部はシリンダ3のほうを向いている。カバー5はその形状に基づき「カップ状」であると形容することができる。本実施例では、カバーは薄板から深絞り部品として製作されるが、このことは本発明について強制的ではない。
【0016】
カバー5はその開いた端部に、外方を向く周回するフランジ6を有していて、このフランジで、シリンダ3への連通部にねじ止めされるねじ付きリング7により、ユニオンナットのような形式でシリンダ3に取り付けられる。
【0017】
カバー5の中に、皿ばねセットが第1のばね部材8として配置されている。ピストン4と第1のばね部材8との間に、力伝達器9のフランジ12からそれぞれ反対方向へ同軸に屹立する2つのタペット10,11を有する力伝達器9が配置されている。両方のタペットのうち一方のタペット10は、ペダルストロークシミュレータ1の第1のばね部材8を構成する皿ばねセットの皿ばね13の中心穴に突入して、皿ばね13をセンタリングし、ないしは案内する。
【0018】
他方のタペット11はピストン4にある円錐状の同軸の窪み14に突入するが、図示しているようにピストン4がシリンダ3の底面15にあるときには、タペット11が窪み14の底面に当接せず、それにより、ピストン4が力伝達器9なしで少しの区間だけ動くことができる。力伝達器9のタペット11がピストン4の窪み14の底面に当接し、力伝達器9のフランジ12が第1のばね部材8に当接しているとき、第1のばね部材8がそのばね力をピストン4へと伝達する。
【0019】
ペダルストロークシミュレータ1は、第1のばね部材8のための、ないしはその皿ばねセットの皿ばね13のための、ソケット16を有している。本実施例では、ソケット16は連続する長手方向スリット17を有する円筒管状のスリーブであり、それによって径方向で弾性的であり、径方向にばね作用を有する。ソケット16は初期応力をもってカバー5に内側で当接し、それによりカバー5の中でクランプ式に保持される。本実施例では、ソケット16は第1のばね部材8と同様にカバー5よりも軸方向に長く、したがってカバー5からシリンダ3の中に突き出しているが、このことは本発明について強制的ではない。
【0020】
たとえば、カバー5の中に圧入される、長手方向スリット17のないソケット16も可能であり、ならびに/または、厳密に円形ではない、および/もしくは外方に向かって突出するビード、突起などを有し、それによってカバー5の中でクランプ式に保持されるソケット16も可能である。これらの列挙は代替案を明示するためであり、完結したものではない。
【0021】
ソケット16の縁部は、ピストン4のほうを向く端部のところで内方に向かって突き出すように成形されていて、力伝達器9のフランジ12に上から係合し、それによってソケット16が力伝達器9をそのフランジ12で保持し、およびフランジ12を介して第1のばね部材8をカバー5の中で保持する。カバー5、ソケット、16、力伝達器9、および第1のばね部材8が予備組立モジュールを形成し、ペダルストロークシミュレータ1の組立前にこれらを組み合わせておくことができ、このことはペダルストロークシミュレータ1の組立を簡易化する。
【0022】
第1のばね部材8はソケット16の中で軸方向に可動であり、それにより、ピストン4により力伝達器9を介して軸方向へ弾性的に圧縮され、すなわち応力をかけることができる。ソケット16は、第1のばね部材8のための案内部を形成する。
【0023】
カバー5の中では、その閉じた端部と第1のばね部材8との間に穴付きディスクが支持ディスク18として配置されていて、その直径はカバー5の内径とほとんど同じである。したがって支持ディスク18は、カバー5の円周壁から閉じた端部への移行部の円周近傍でカバー5に内側から当接し、そのようにして、第1のばね部材8のばね力を円周近傍でカバー5に導出し、それにより、ばね力がカバー5の円周壁で実質的に引張力として作用し、カバー5の閉じた端部で作用することがなく、もしくはほとんど作用することがない。「円周近傍で」とは、カバー5の内側円周から間隔がないことを意味し、もしくは多くとも、ほぼカバー5の壁厚の間隔をおくことを意味する。
【0024】
シリンダ3は、力伝達器9のフランジ12とピストン4との間に、本実施例ではV字型の周回する溝を有していて、その中にばねリング19が挿入されており、このばねリングが内方に向かって溝から突出して、ピストン4の行程をカバー5の方向に制限するピストンストッパを形成する。ピストン4がばねリング19に当接すると、第1のばね部材8がそれ以上応力を受けなくなり、第1のばね部材8と反対を向くほうのピストン4の側の液圧がさらに上昇したとしても、そのばね力は増大しなくなる。このようにしてばねリング19は、第1のばね部材8が内側からカバー5に向かって押圧をするばね力を制限する。さらにばねリング19は、第1のばね部材8が「塊になる」のを防止し、すなわち、第1のばね部材8が圧縮コイルばねである場合には圧縮コイルばねのそれぞれの巻回が互いに当接し合うのを防止し、あるいは第1のばね部材8が皿ばねセットである場合には、それぞれの皿ばね13が平たく圧縮されて互いに平坦に当接するのを防止する。
【0025】
ばねリング19が挿入されている溝の底面にリリーフ穴20が連通していて、ピストン4がシリンダ3の中でスライドしたとき、これを通してブレーキ液がカバー5およびシリンダ3から、カバー5のほうを向いているピストン4の側で流入および流出することができる。本実施例では、リリーフ穴20は溝とその底面で接線方向に交わっているが、リリーフ穴20がこれ以外の方向に、たとえば軸平行に、溝に連通することもできる(図示せず)。
【0026】
力伝達器9のフランジ12とピストン4との間に、ピストン4と力伝達器9を互いに押し離す圧縮コイルばねが第2のばね部材21として配置されているが、圧縮コイルばね以外のばね部材も可能である(図示せず)。第2のばね部材21は第1のばね部材8のばね力の数分の1しか有しておらず、ピストン4の窪み14の底面に力伝達器9のタペット11が当接するまで、ピストン4を付勢する。第2のばね部材21はいわゆる「ジャンプイン」をシミュレートし、すなわち、液圧ホイールブレーキのブレーキパッドがブレーキディスク、ブレーキドラム、またはその他のブレーキ体に当接するまでの、車両ブレーキ設備のマスタブレーキシリンダの低い操作力をシミュレートする。
【0027】
力伝達器9のフランジ12は、円周にわたって均等または不均等に配分されてタペット10の周囲に配置された径方向に延びる3つのリブ22を、ピストン4のほうを向く側に有している。第2のばね部材21はリブ22の上に支持され、これらのリブが可塑的な圧縮によって第2のばね部材のばね力の調整を可能にし、それに伴って「ジャンプイン」を可能にする。力伝達器9のフランジ12は、3つを超えるリブ22を有することもでき、あるいは、第2のばね部材21のためのこれ以外の載置部を有することもできる(図示せず)。
【0028】
ペダルストロークシミュレータ1のシリンダ3は、カバー5と反対を向くほうのピストン4の側で、本実施例では折れ曲がった接続穴23により、図示しないマスタブレーキシリンダに接続されている。操作時にマスタブレーキシリンダからペダルストロークシミュレータ1のシリンダ3へと押し除けられるブレーキ液が、ペダルストロークシミュレータ1のピストン4を、ピストン4の窪み14の底面に力伝達器9のタペット11が当たるまでは反力なしに動かし、引き続いて第2のばね部材21の低いばね力に抗して動かし、力伝達器9のタペット11がピストン4の窪み14に当接するとただちに第1のばね部材8の大幅に高いばね力に抗して動かし、このときブレーキ液の液圧を通じてばね部材8,21がマスタブレーキシリンダの操作力を生起する。通常、マスタブレーキシリンダとペダルストロークシミュレータ1との間に電磁弁が配置され、これによってペダルストロークシミュレータ1が、車両ブレーキ設備が非人力操作されたときにマスタブレーキシリンダと接続される。
【符号の説明】
【0029】
1 ペダルストロークシミュレータ
3 シリンダ
4 ピストン
5 カバー
8 第1のばね部材
9 力伝達器
16 ソケット
18 支持ディスク
19 ばねリング
21 第2のばね部材
図1