IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-消火体 図1
  • 特許-消火体 図2
  • 特許-消火体 図3
  • 特許-消火体 図4
  • 特許-消火体 図5
  • 特許-消火体 図6
  • 特許-消火体 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】消火体
(51)【国際特許分類】
   A62C 19/00 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
A62C19/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022559610
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2021043256
(87)【国際公開番号】W WO2022118735
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2022-09-29
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2020199762
(32)【優先日】2020-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】山嵜 司
(72)【発明者】
【氏名】田辺 淳也
(72)【発明者】
【氏名】正田 亮
(72)【発明者】
【氏名】戸出 良平
【合議体】
【審判長】山本 信平
【審判官】倉橋 紀夫
【審判官】青木 良憲
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-37445(JP,A)
【文献】特開2019-150987(JP,A)
【文献】特開2018-35213(JP,A)
【文献】特開2014-50988(JP,A)
【文献】特開2020-81809(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047762(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/069022(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 19/00
A62C 8/06
B31B 70/60
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電盤、分電盤、制御盤、蓄電池又はリチウムイオン電池回収用BOXである消火対象物用の消火体であって、
樹脂層を含む基材から形成された包装袋と、前記包装袋内に封入された消火剤と、前記包装袋の一方の面に粘着層又は接着層及び離型フィルムと、を備え、
前記包装袋が周縁に封止部を有し、前記封止部において前記基材同士が接合されており、
前記基材が、前記樹脂層の前記消火剤側とは反対側にさらに水蒸気バリア層として他の樹脂層を含み、前記他の樹脂層が金属酸化物蒸着層を備え、前記金属酸化物蒸着層が、前記他の樹脂層の前記消火剤側に設けられており、
前記消火剤が、カリウム塩を主成分とする粉末系消火剤である消火剤成分、及びポリビニルアセタール又はポリビニルブチラールであるバインダーを含む組成物であり、
前記金属酸化物蒸着層が、アルミナ蒸着層又はシリカ蒸着層であり、
前記水蒸気バリア層の水蒸気透過度(JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)が10g/m/day以下である、消火体。
【請求項2】
前記樹脂層がポリオレフィン系樹脂を含む、請求項1に記載の消火体。
【請求項3】
前記基材の厚さが4.5~50μmである、請求項1又は2に記載の消火体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テクノロジーの進歩に伴い、我々の暮らしはますます快適になっている一方で、その快適性を生む為の大量のエネルギーが必要となっている。大量のエネルギーを高密度に充填し蓄える、移動させる、使用するといった各々のシーンで、エネルギーの取り扱いには高い安全性が求められる。
【0003】
自動車を例にとると、化石燃料を採掘する際、化石燃料からガソリンを精製する際、ガソリンを運搬する際、ガソリンをエンジンで燃焼させる際等において、発火や火災の危険が潜んでいる。また、エレクトロニクスを例にとると、電線を通じて電気エネルギーを移動させる際、変電所や変圧器にて電気エネルギーの調整を行う際、電気エネルギーを家庭や工場の電気機器にて使用する際、又は一時的に蓄電池に蓄える際等において、同様に発火や火災の危険が潜んでいる。
【0004】
発火や火災の問題に対し、特許文献1では、消火液及び消火器を用いることが提案されている。特許文献2では、ヘリコプターから投下する自動消火装置が提案されている。特許文献3では、エアロゾル消火装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-276440号公報
【文献】特開2015-6302号公報
【文献】特開2017-080023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行技術はいずれも、ある程度の時間が経過した後の火災への対処方法を提案するものである。一方、火災による被害を最小限に抑えるという観点からは、発火から間もない段階で何らかの消火作業(初期消火)が行われることが望ましい。
【0007】
そこで、例えば先行技術に開示される消火剤の成分自体を、発火する虞のある対象物付近に予め存在させておくという方法が考えられる。そうすることで、対象物から発火したことを人間が感知する以前に、当該消火剤の成分により消火が完了することが期待される。しかしながら、解放空間に置かれた消火剤が経時により劣化するという問題に対処する必要がある。加えて、当然ながら消火剤を対象物付近に散布しておけばよいということは現実的ではなく、適度に取り扱い性のある形状で対象物付近に設けておく必要がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、取り扱い性と消火剤の性状安定性とに優れ、火災の発生及び拡大を防止することのできる消火体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、樹脂層を含む基材から形成された包装袋と、包装袋内に封入された消火剤と、を備え、包装袋が周縁に封止部を有し、封止部において基材同士が接合されている、消火体を提供する。このような消火体であれば、包装袋によりその取り扱い性が担保される。また、樹脂層を含む基材が消火剤と外気との接触を抑制することにより消火剤の劣化が抑制される。このように、上記消火体は取り扱い性と消火剤の性状安定性とに優れる。また、消火体を予め対象物付近に設けておくことで初期消火が可能となり、周囲に火が燃え広がる事を抑制することができる。
【0010】
一態様において、樹脂層はポリオレフィン系樹脂を含んでよい。
【0011】
一態様において、基材の厚さは4.5~1000μmであってよい。
【0012】
一態様において、基材はさらに水蒸気バリア層を含んでよい。
【0013】
一態様において、水蒸気バリア層の水蒸気透過度(JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)は10g/m/day以下であってよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、取り扱い性と消火剤の性状安定性とに優れ、火災の発生及び拡大を防止することのできる消火体を提供することができる。本発明の利点を以下に簡潔にまとめる。
・炎が燃え広がることによる被害を最小限に留められる。すなわち初期消火が可能である。
・人が火災発生を確認後、消火器を消火対象付近に持ち運び消火活動を行う必要が無い。
・自動消火装置等の設備に比して簡易的に設置できるため、設置場所の制限が少なくかつ必要な箇所に応じて適用することができる。
・消火剤の性状安定性に優れるため、消火体の交換頻度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、一実施形態に係る消火体の模式外観図である。
図2図2は、一実施形態に係る消火体の模式断面図であり、図1におけるII-II線断面図である。
図3図3は、他の実施形態に係る消火体の模式断面図である。
図4図4は、他の実施形態に係る消火体の模式外観図である。
図5図5は、一実施形態に係る消火体の製造方法を示す模式図である。
図6図6は、他の実施形態に係る消火体の製造方法を示す模式図である。
図7図7は、他の実施形態に係る消火体の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
<消火体>
図1は、一実施形態に係る消火体の模式外観図である。図2は、一実施形態に係る消火体の模式断面図であり、図1におけるII-II線断面図である。消火体10は、樹脂層を含む基材から形成された包装袋11と、包装袋内に封入された消火剤12と、を備える。包装袋11は周縁に封止部11aを有し、封止部11aにおいて基材同士が接合されている。
【0018】
図3は、他の実施形態に係る消火体の模式断面図である。消火体20は、樹脂層を含む基材から形成された包装袋21と、包装袋内に封入された消火剤22と、を備える。包装袋21は周縁に封止部21aを有し、封止部21aにおいて基材同士が接着剤23により接合されている。
【0019】
図4は、他の実施形態に係る消火体の模式外観図である。消火体30は、樹脂層を含む基材から形成された包装袋31と、包装袋内に封入された消火剤(図示せず)と、を備える。包装袋31は周縁に封止部31a及び折り返し部31bを有し、封止部31aにおいて基材同士が接合されている。折り返し部31bは、一対の基材の代わりに一枚の基材を用い、それを折り返すことにより形成される。封止部31aは、封止部11aに準拠した態様でも、封止部21aに準拠した態様でもよい。
【0020】
消火体を鉛直方向上部から見たとき、封止部11aの幅は特に制限されないが、消火剤の性状安定性の観点から、例えば2~40mmとすることができる。
【0021】
消火体の中央部の厚さは、その層構成や封入される消火剤の量により変動するため必ずしも限定されないが、消火性能を維持しつつ、設置スペースを問われないよう薄型化できる観点から、例えば0.2~20mmとすることができ、2~20mmであってもよい。また、消火体の主面(消火体を鉛直方向上部から見たときの面)の面積は、消火性能及び取り扱い性の観点から、例えば9~620cmとすることができる。
【0022】
消火体は、発火する虞のある対象物上や対象物近辺に予め設けられる。対象物から発火した場合、消火体により初期消火が行われることになる。
【0023】
(基材)
基材は樹脂層を含む。樹脂層の材質としては、ポリオレフィン(PE、PP、COP等)、ポリエステル(PET等)、フッ素樹脂(PTFE、ETFE、EFEP、PFA、FEP、PCTFE等)、ビニル樹脂(PVC、PVA等)、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド等が挙げられる。基材は、これらの材質からなる一つの樹脂層から構成されていてよく、複数の樹脂層から構成されていてよい。複数の樹脂層は、それぞれ異なる材質からなるものであってよい。基材が複数の層から構成される場合、層同士は接着剤(接着層)により接着されていてよい。接着剤としては、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、ウレタン系接着剤又はポリビニルエーテル系接着剤、またはそれら合成系接着剤、等が挙げられる。
【0024】
樹脂層は、熱溶融性(熱融着性)を有してよい。熱溶融性を有する樹脂層を熱溶融層と言うことができる。熱溶融層は、基材の最内層側(消火剤と対向する側)に設けることができる。基材が熱溶融層を備える場合、包装袋周縁の封止部をヒートシール部ということができる。熱溶融性を有する樹脂としてはポリオレフィン系樹脂が挙げられる。すなわち、樹脂層はポリオレフィン系樹脂を含んでよい。ポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、無延伸ポリプロピレン樹脂(CPP)等のポリオレフィン系樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・αオレフィン共重合体等のポリエチレン系樹脂や、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・エチレンブロック共重合体、プロピレン・αオレフィン共重合体等のポリプロピレン系樹脂などが挙げられる。これらのうち、ヒートシール性に優れ、かつ水蒸気透過度が低く消火剤の劣化を抑制し易い観点から、ポリオレフィン系樹脂は、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、又は無延伸ポリプロピレン樹脂(CPP)を含んでよい。これらの樹脂は透明性を有しており、消火剤の外観検査が容易である。そのため、消火体の交換時期の確認等がし易くなる。
【0025】
基材は、水蒸気バリア層を含んでよい。水蒸気バリア層は、基材の最外層側に設けられていてよく、基材の中間層として設けられていてよい。基材が水蒸気バリア層を備える場合、消火体の設置場所や使用環境に依らず、消火剤の性状が大きく変化しない程度の水蒸気バリア性を維持し易くなる。水蒸気バリア層の水蒸気透過度(JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)は、消火剤の種類に応じ設計できるため特に制限されないが、10g/m/day以下とすることができ、1g/m/day以下であってよい。水蒸気透過度の調整の観点から、水蒸気バリア層としてはアルミナ蒸着層、シリカ蒸着層等の金属酸化物蒸着層を備えるポリエステル樹脂層(例えばPET層)、アルミ箔等の金属箔が挙げられる。水蒸気バリア層が金属酸化物蒸着層を備える場合、金属酸化物蒸着層は消火剤側を向いていてよい。
【0026】
基材は、消火剤を支持するための消火剤支持層を含んでよい。消火剤を消火剤支持層上に予め形成しておくことで、消火剤の取り扱いが容易となる。消火剤支持層としてはポリエステル樹脂層(例えばPET層)が挙げられる。
【0027】
基材の厚さは、消火体の使用環境や、許容されるスペース等に応じて適宜選択することができる。例えば、厚い基材であれば、水蒸気透過を抑制し易く、強度や剛性を得易く、平面性の高い形態を得易く、ハンドリングが容易となる。また、薄い基材であれば、狭いスペースに消火体を設けることができる。基材の厚さは、例えば4.5~1000μmとすることができ、12~100μmであってよく、12~50μmであってよい。樹脂層及び水蒸気バリア層の厚さは、基材の厚さに応じて適宜調整すればよい。樹脂層の厚さ(基材が複数の樹脂層を含む場合はその総厚)は、例えば25~150μmとすることができ、30~100μmであってよい。水蒸気バリア層の厚さは、例えば4.5~25μmとすることができ、7~12μmであってよい。
【0028】
(消火剤)
消火剤としては特に制限されず、いわゆる消火の4要素(除去作用、冷却作用、窒息作用、負触媒作用)を有するものを、対象物の態様に応じて適宜用いることができる。消火剤としては、一般消火薬剤(カリウム塩を主成分とする粉末系消火剤の他、炭酸水素ナトリウムやリン酸塩等の一般的な粉末系消火剤が挙げられる)に加え、砂(標準砂)等が挙げられる。万能な消火剤としてはABC消火剤が挙げられ、油や電気火災用の消火剤としてはBC消火剤が挙げられる。対象物がリチウムイオン電池である場合は、BC消火剤や、その他リチウムイオン電池用の消火剤が用いられる。
【0029】
消火剤の量は、対象物の態様、発火時の火力、消火時間、許容されるスペース等に応じて適宜選択することができる。消火剤の量が多い程消火能力は向上し、消火時間も短縮されるが、嵩が増す場合もあるため消火体を載置できる場所が限られることになる。消火剤の量は、例えば0.4~3.9g/cmとすることができ、1.0~2.5g/cmであってよい。
【0030】
消火剤はバインダーと混合されていてよい。すなわち、消火剤は消火剤(消火剤成分)及びバインダーを含む組成物であってよい。当該組成物(消火剤組成物)中に含まれる消火剤の含有量は、消火剤組成物の全量を基準として70~97質量%とすることができる。
【0031】
バインダー樹脂としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を使用できる。熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ(1-)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、エチレン-プロピレン樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等が挙げられる。熱硬化性樹脂として、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム(1,2-BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPR、EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アクリルゴム(ACM、ANM)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)、多加硫ゴム(T)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM、FZ)、ウレタンゴム(U)等のゴム類、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。バインダー樹脂には硬化剤成分が含まれていてよい。
【0032】
(接着剤)
接着剤としては、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、ウレタン系接着剤又はポリビニルエーテル系接着剤、またはそれら合成系接着剤、等が挙げられる。これらのうち、85℃-85%RH高温高湿時における基材との密着性、低コストを両立する観点から、接着剤としてはエポキシ-ウレタン合成系接着剤を好適に用いることができる。
【0033】
接着剤を用いることで、樹脂層が熱溶融性を有していない場合でも、基材の周縁を接合することができる。接着剤を用いて基材の周縁を接合する場合、包装袋周縁の封止部は、接着部ということができる。
【0034】
図3では、封止部にのみ接着剤が用いられているが、接着剤が消火剤の性状安定性に影響を与えないものであれば、基材内面の全面に用いられてもよい。
【0035】
図7は、他の実施形態に係る消火体の模式断面図である。消火体60は、基材から形成された包装袋61と、包装袋内に封入された消火剤62と、包装袋の一方の面に粘着層64(又は接着層)及び離型フィルム65と、を備える。基材は、内層として樹脂層611と、外層として水蒸気バリア層612と、消火剤を支持するための消火剤支持層613とを含む。樹脂層611と水蒸気バリア層612とは、接着層63を介して積層されている。同図では、消火剤は消火剤支持層上に層として形成されているが、消火剤支持層を用いずに単独で(例えば粉末のまま)樹脂層内に封入されていてよい。本実施形態では、包装袋の一方の面に粘着層64が設けられているため、発火の懸念がある箇所に消火体をより一層容易に設置することができる。また、粘着層64を覆うように離型フィルム65が設けられている。離型フィルム65は、消火体を所望の箇所に貼り付ける際には剥がされるものであり、樹脂製であっても紙製であってもよい。
【0036】
消火体は、意匠層を更に備えてもよい。意匠層は印刷もしくは印字によって形成することができる。意匠の具体例として、住空間を意識した木目調や、タイル調などの白色、グレー調のベタパターン、並びに、絵柄、模様、デザイン及び文字パターンなどが挙げられる。意匠層を設けることで、意匠性を高めることができる、消火体を周囲の環境に馴染ませることができる、消火体の強度を高めることもできるなどの効果が奏される。意匠層は、例えば図7の態様であれば包装袋の粘着層側(消火体を貼り付ける側)とは逆側の面に設けることができる。基材に含まれる層が透明である場合は、基材中に意匠層を設けてもよく、例えば図7の態様であれば、水蒸気バリア層の内側に意匠層を設けてよい。意匠層は単層構造であっても多層構造であってもよい。
【0037】
(消火対象物)
消火対象物としては、発火する虞のあるものであれば特に制限されない。発火する虞のあるものとしては、例えば、電線、配電盤、分電盤、制御盤、蓄電池(リチウムイオン電池等)、建材用壁紙、天井材等の建材、リチウムイオン電池回収用BOX(リサイクルBOX)、ごみ箱、自動車関連部材、コンセント、コンセントカバーなどの各部材が挙げられる。
【0038】
<消火体の製造方法>
消火体は、例えば以下の製造方法により製造することができるが、これらに制限されるものではない。
【0039】
図5は、一実施形態に係る消火体の製造方法を示す模式図である。同図に示されるように、一対の基材44間に消火剤42を設け、基材44の周縁をヒートシールや接着剤により接合して封止することで、消火体を得ることができる。
【0040】
図6は、他の実施形態に係る消火体の製造方法を示す模式図である。同図に示されるように、一枚の基材54を折り返し、対向する基材54間に消火剤52を設け、折り返した部分以外の基材54の周縁をヒートシールや接着剤により接合して封止することで、消火体を得ることができる。
【0041】
また、開口を残した状態で一対の基材の周縁をヒートシールや接着剤により接合し、開口から消火剤を入れた後、開口をヒートシールや接着剤により接合して封止することで、消火体を得ることができる。
【0042】
また、一枚の基材を折り返し、開口を残した状態で対向する基材の周縁をヒートシールや接着剤により接合し、開口から消火剤を入れた後、開口をヒートシールや接着剤により接合して封止することで、消火体を得ることができる。
【0043】
消火剤として、消火剤及びバインダーを含む消火剤組成物を用いる場合、例えば消火剤組成物を含む塗液を、基材上(樹脂層や消火剤支持層上)に塗布することで消火剤の層を形成し、これを用いて基材間に消火剤を設けてもよい。また、消火剤を練り込んだ樹脂を基材上に載置することで、基材間に消火剤を設けてもよい。消火剤(消火剤含有層)は、消火剤及びバインダーを含む組成物の層、又は消火剤を含有する樹脂層であってよい。
【実施例
【0044】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0045】
<消火体の作製>
(実施例1)
東洋インキ社製のエポキシ-ウレタン合成系接着剤AD-393とCAT-EP5、希釈溶剤としてIPAを用意し、これらを配合比15:1:25.7で混合後、1分間攪拌し、固形分20質量%のドライラミネート用接着剤を作製した。
サイズ210mm×297mmの、三井化学東セロ社製のCPPであるSC-30(厚さ30μm)と、凸版印刷社製アルミナ蒸着PETであるGL-ARH(厚さ12μm)を用意した。
GL-ARHの蒸着層側に、上記のドライラミネート用接着剤をワイヤーバー#14を用いてバーコート法にて塗工し、80℃、30秒の条件でオーブンにて乾燥し、ドライ塗布量2g/mの接着層(ADH)を得た。
大成ラミネーター社製の卓上ラミネーターFA-570を用いて、ラミネート温度60℃、圧力0.5MPaの条件で、上記の接着層にSC-30のコロナ処理面側を貼合し、積層フィルムを得た。
積層フィルムから80mm角サンプルを2枚切り出し、SC-30が対向するようにして、テスター産業社製のヒートシーラーTP-701-Bに設置した。そして、150℃、0.5MPa、10秒間の条件で、幅1cm、長さ30cmのシールバーを用いて、積層フィルムの端部3辺をヒートシールし、積層フィルムの袋を得た。
消火剤としてモリタ宮田工業株式会社製ABC消火剤を32.5g計量し、積層フィルムの袋内に充填した。
上記のヒートシーラーを用いて、開口部端部を上記と同様の条件でヒートシールし、消火体を作製した。
【0046】
(実施例2)
実施例1のCPPの代わりに、三井化学東セロ株式会社製LLDPEであるMC-S#60(厚さ60μm)、アルミナ蒸着PETの代わりに、凸版印刷社製シリカ蒸着PETであるGL-RD(厚さ12μm)を用意し、実施例1と同様の手順で積層フィルムを作製した。このようにして得られた積層フィルムを用いたこと以外は、実施例1と同様にして消火体を得た。
【0047】
(実施例3(参考例)
サイズ210mm×297mmの、三井化学東セロ社製のCPPであるSC-30(厚さ50μm)、東洋アルミ社製のアルミ箔である8021(厚さ7μm)、及び東レ社製のPETであるS10(厚さ12μm)を用意し、各層を実施例1と同様の手順で、ドライラミネート用接着剤を用いて貼り合わせを行うことにより、3層からなる積層フィルムを得た。このようにして得られた積層フィルムを用いたこと以外は、実施例1と同様にして消火体を作製した。
【0048】
(実施例4)
実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。この積層フィルムからサイズ80mm×160mmの矩形サンプルを1枚切り出し、SC-30を内側にして対向する短辺を合わせるように2つ折りした。これをテスター産業社製、ヒートシーラーTP-701-Bに設置し、150℃、0.5MPa、10秒間の条件で、幅1cm、長さ30cmのシールバーを用いて、積層フィルムの短辺以外の端部2辺をヒートシールし、積層フィルムの袋を得た。
消火剤としてモリタ宮田工業株式会社製ABC消火剤を32.5g計量し、積層フィルムの袋内に充填した。
上記のヒートシーラーを用いて、開口部端部を上記と同様の条件でヒートシールし、消火体を作製した。
【0049】
(実施例5)
実施例2と同様にして積層フィルムを作製した。このようにして得られた積層フィルムを用いたこと以外は、実施例4と同様にして消火体を作製した。
【0050】
(実施例6(参考例)
実施例3と同様にして積層フィルムを作製した。このようにして得られた積層フィルムを用いたこと以外は、実施例4と同様にして消火体を作製した。
【0051】
各例にて得られた消火体は取り扱い性に優れ、なおかつ消火剤が包装袋内に封入されているため消火剤の性状安定性にも優れていた。このような消火体を予め対象物付近に設けておくことで、対象物の発火による火災の発生及び拡大を防止することができる。
【0052】
各例の消火体について下記評価を実施した。結果を表1に示す。
【0053】
<水蒸気バリア層の水蒸気透過度>
水蒸気バリア層の水蒸気透過度を測定した。測定はJIS K 7129B MOCON法に準拠し、40℃/90%RH条件下で行った。
【0054】
<消火剤の外観変化>
消火体を40℃/90%RH条件下に7日間放置した。その後、消火剤の外観の変化(消火剤含有層の変色、膨潤等)の有無を確認した。
【0055】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の消火体は特に、建装材、自動車部材、航空機部材、エレクトロニクス部材等の産業資材に用いられる部材に対し、好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
10,20,30,60…消火体、11,21,31,61…包装袋、12,22,42,52,62…消火剤、23…接着剤、11a,21a,31a…封止部、31b…折り返し部、44,54…基材、63…接着層、64…粘着層(接着層)、65…離型フィルム、611…樹脂層、612…水蒸気バリア層、613…消火剤支持層。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7