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▶ 株式会社牧野フライス製作所の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】正面フライス
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/06 20060101AFI20240409BHJP
   B23C 5/22 20060101ALI20240409BHJP
   B23C 5/24 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
B23C5/06 A
B23C5/22
B23C5/24
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023013483
(22)【出願日】2023-01-31
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】永田 福人
(72)【発明者】
【氏名】前田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】上野 裕司
(72)【発明者】
【氏名】星 良夫
(72)【発明者】
【氏名】矢部 和寿
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 照義
(72)【発明者】
【氏名】菅崎 尊暁
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-041625(JP,U)
【文献】国際公開第2007/058244(WO,A1)
【文献】特開2005-342850(JP,A)
【文献】特開平07-024622(JP,A)
【文献】特開2002-331412(JP,A)
【文献】特開2020-199572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/06
B23C 5/22
B23C 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸線周りに回転し、該回転軸線に垂直な面を切削加工する回転工具である正面フライスにおいて、
前記回転軸線方向に開口した収容穴と、回転軸線に略直交し、外周から前記収容穴に貫通する第1の貫通穴とを有するカッターボディと、
前記収容穴に挿入され、かつ、切刃と、前記第1の貫通穴に対応し回転軸線に略直交する第2の貫通穴とを有したカートリッジと、
前記収容穴に挿入され、かつ、前記カートリッジに対して前記回転軸線に関して内側に配置され、前記回転軸線に関して半径方向に延び、前記第1の貫通穴および前記第2の貫通穴に対応するねじ穴が形成された固定具と、
前記カッターボディの外周から前記第1の貫通穴に挿入され、前記第2の貫通穴を通り、前記固定具のねじ穴に螺合することで、前記カッターボディの外周と前記固定具との間に前記カートリッジを挟み込んで固定する固定ボルトと、
を備えた正面フライス。
【請求項2】
前記カートリッジを前記回転軸線方向に位置決めする位置決め装置を更に具備する請求項1に記載の正面フライス。
【請求項3】
前記カッターボディは、前記収容穴の下側に配置された凹所を備え、
前記位置決め装置は、前記カッターボディに螺合するとともに、前記回転軸線方向に延びるねじ軸を具備しており、
前記ねじ軸は、該ねじ軸の先端が前記収容穴内に挿入されたカートリッジの下端部に当接可能に、前記凹所内に配置されている請求項2に記載の正面フライス。
【請求項4】
前記カッターボディは、前記収容穴の下側に配置された凹所を備え、
前記位置決め装置は、前記半径方向に傾斜した係合面を有した楔部材と、該楔部材を前記回転軸線に関して半径方向に移動させる駆動ねじとを具備しており、
前記楔部材は、前記係合面が前記収容穴内に挿入されたカートリッジの下端部に係合可能に前記凹所内に配置されている請求項2に記載の正面フライス。
【請求項5】
前記収容穴の内面は、該収容穴内に挿入された前記カートリッジと前記回転軸線に関して半径方向に接触し、該カートリッジを前記半径方向に支持する支承面を有し、前記カートリッジは、前記支承面に当接する当接面を有している請求項1に記載の正面フライス。
【請求項6】
前記支承面は、前記半径方向に対して垂直な平面である請求項5に記載の正面フライス。
【請求項7】
前記支承面は、半径方向外側に行くほど互いに接近する一対の平面であり、前記カートリッジの当接面は、半径方向外側に行くほど互いに接近する一対の平面より成る請求項5に記載の正面フライス。
【請求項8】
前記支承面は、互いに連結された第1の支承面と第2の支承面とを備え、前記第1の支承面は、前記回転軸線に対して平行で、かつ、前記半径方向に対して傾斜しており、前記第2の支承面は前記回転軸線および前記半径方向の双方に平行となっており、
前記カートリッジの当接面は、前記回転軸線に対して平行に、かつ、前記半径方向に対して傾斜している第1の当接面と、前記回転軸線および前記半径方向の双方に対して平行に延在する第2の当接面とを備えている請求項5に記載の正面フライス。
【請求項9】
前記支承面が、ワイヤカット放電加工機により形成され、
前記収容穴が、少なくとも前記支承面を形成する部位において前記回転軸線方向に貫通している請求項5に記載の正面フライス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削チップを取り付けた複数のカートリッジをカッターボディに取り付けた正面フライスに関する。
【背景技術】
【0002】
主軸に対して垂直な面を広範囲に切削加工するために正面フライスが用いられる。
特許文献1には、こうした正面フライスの一例として、工具ヘッド本体と、工具ヘッド本体に固定される筒状のスリーブと、軸方向に摺動可能にスリーブに設けられ工具ヘッド本体から突出する切刃を有するクイルと、切刃の突出量を調整する調整ネジとを備えた工具ヘッドが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、チップが固定されたカートリッジと、カートリッジが挿入されるポケットの形成された本体と、カートリッジを固定する固定具とを具備し、本体が、ポケットの半径方向内側に隣接する固定具挿入穴と、ポケットと固定具挿入穴との間の仕切壁を有しており、固定具挿入穴に挿入された固定具が半径方向外向きの力を仕切壁に及ぼし、カートリッジが半径方向外向きの力に基づいてポケットに固定されるようにしたフライスカッターが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-110408号公報
【文献】特開2020-199572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の工具ヘッドでは、切刃を有したクイルがスリーブによって工具ヘッド本体に間接的に固定されているので、大きな負荷がかかったとき、スリーブの位置がずれる可能性がある。
【0006】
特許文献2のフライスカッターでは、カートリッジを固定する固定具が楔状に形成されているので、固定具に遠心力が加わったときに、楔によって作用している力が低下し、フライスカッターの回転中にカートリッジの位置がずれる可能性がある。
【0007】
本発明は、こうした従来技術の問題を解決することを技術課題としており、正面フライスの回転中に、遠心力によりカートリッジの位置がずれることを防止した正面フライスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するために、本発明によれば、回転軸線周りに回転し、該回転軸線に垂直な面を切削加工する回転工具である正面フライスにおいて、前記回転軸線方向に開口した収容穴と、回転軸線に略直交し、外周から前記収容穴に貫通する第1の貫通穴とを有するカッターボディと、前記収容穴に挿入され、かつ、切刃と、前記第1の貫通穴に対応し回転軸線に略直交する第2の貫通穴とを有したカートリッジと、前記収容穴に挿入され、かつ、前記カートリッジに対して前記回転軸線に関して内側に配置され、前記回転軸線に関して半径方向に延び、前記第1の貫通穴および前記第2の貫通穴に対応するねじ穴が形成された固定具と、前記カッターボディの外周から前記第1の貫通穴に挿入され、前記第2の貫通穴を通り、前記固定具のねじ穴に螺合することで、前記カッターボディの外周と前記固定具との間に前記カートリッジを挟み込んで固定する固定ボルトとを具備する正面フライスが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カートリッジはカッターボディに成形された収容穴内に挿入され、カッターボディの外周と固定具との間に挟み込んでカートリッジを固定するようになっているので、遠心力によってカートリッジの位置がずれることがない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】工具ホルダと共に示す本発明の第1の実施形態による正面フライスの斜視図である。
図2図1の正面フライスの断面図である。
図3図1の正面フライスのカッターボディの先端側から見た斜視図である。
図4図3のカッターボディの後端側から見た斜視図である。
図5図3のカッターボディの先端面を示す平面図である。
図6図1の正面フライスのカートリッジの斜視図である。
図7図6において矢視線VIIの方向に見たカートリッジの正面図である。
図8図6において矢視線VIIIの方向に見たカートリッジの側面図である。
図9図1の正面フライスの固定具の斜視図である。
図10図9において矢視線Xの方向に見た固定具の背面図である。
図11図9において矢視線XIの方向に見た固定具の側面図である。
図12】収容穴内に挿入されたカートリッジおよび固定具を軸方向に見た部分略示図である。
図13】変形例による収容穴内に挿入されたカートリッジと固定具とともに示すカッターボディの略示部分断面図である。
図14】回転軸線に垂直な平面に沿った図13と同様の略示部分断面図である。
図15】収容穴の支承面をワイヤカット放電により加工したカッターボディの後端面を示す斜視図である。
図16図15のカッターボディの先端面を示す平面図である。
図17】工具ホルダと共に示す本発明の第2の実施形態による正面フライスの斜視図である。
図18図17の正面フライスの断面図である。
図19図17の正面フライスの第1のカッターボディ部分を先端側から見た斜視図である。
図20図19の第1のカッターボディ部分を後端側から見た斜視図である。
図21図17の正面フライスの第2のカッターボディ部分を先端側から見た斜視図である。
図22図21の第2のカッターボディ部分を後端側から見た斜視図である。
図23図21の第2のカッターボディ部分の断面図である。
図24】位置決め装置の一例を示す側面図である、
図25】工具ホルダと共に示す本発明の第3の実施形態による正面フライスの斜視図である。
図26図25の正面フライスの断面図である。
図27図25の正面フライスのカッターボディの先端側から見た斜視図である。
図28図27のカッターボディの断面図である。
図29】位置決め装置の楔部材の斜視図である。
図30図29において、矢視線XXXの方向に見た楔部材の側面図である。
図31図29において、矢視線XXXIの方向に見た楔部材の背面図である。
図32図25の正面フライスのカートリッジの正面図である。
図33】変形例による収容穴内に挿入されたカートリッジおよび固定具を軸方向に見た部分略示図である。
図34図33の収容穴に挿入されるカートリッジの斜視図である。
図35】更なる変形例による収容穴内に挿入されたカートリッジおよび固定具を軸方向に見た部分略示図である。
図36図35の変形例による収容穴を示す軸方向に見た部分略示図である。
図37図35の変形例によるカートリッジの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1図16を参照すると、本発明の第1の実施形態による正面フライス100は、回転軸線O周りに回転し、該回転軸線Oに対して垂直なワークの面を切削加工する回転工具である。正面フライス100は、工具ホルダ130に取り付けるように形成された概ね円柱状のカッターボディ110を具備している。カッターボディ110は、後述する工具ホルダ130の中央ボス部136を受容する中央開口部116を有している。カッターボディ110は、中央開口部116に固定ねじ122を挿通して、カッターボディ110を工具ホルダ130に固定するようになっている。また、カッターボディ110において工具ホルダ130に接触する端面(後端面)110bには、後述する工具ホルダ130の位置決め突起138を受容する切欠き部112が形成されている。
【0012】
工具ホルダ130は、工作機械(図示せず)の主軸(図示せず)の先端に形成されたテーパ穴(図示せず)に挿入されるテーパシャンク132、主軸の端面に当接する当接面134aを有したフランジ134、フランジ134の外周面に形成された周溝134b、カッターボディ110の中央開口部116に嵌合する中央ボス部136を有している。中央ボス部136には、固定ねじ122に螺合する内ねじが形成されている。正面フライス100は、主軸に装着したときに、主軸の回転軸線(図示せず)に合致する回転軸線Oを有している。
【0013】
工具ホルダ130は、本実施形態では、HSK規格に準拠した2面拘束形の工具ホルダであるが、本発明において、工具ホルダ130は、7/24テーパのシャンク形状を有した工具ホルダや、1/10テーパの中空シャンク形状を有した工具ホルダであってもよい。
【0014】
カッターボディ110には、カートリッジ10を受容する複数の、本実施形態では10個の収容穴114が形成されている。収容穴114は、回転軸線Oを中心として等角度間隔で配置されている。収容穴114は、回転軸線Oの方向に延在し、カッターボディ110においてワーク(図示せず)に対面する端面(先端面)110aに開口している。本実施形態では、収容穴114は、工具ホルダ130側が閉じた有底状の穴により形成されているが、カッターボディ110の先端面110aおよび後端面110bの双方に開口する貫通穴としてもよい。
【0015】
カッターボディ110には、更に、回転軸線Oに直交する第1の貫通穴としての開口部118a、118bが形成されている。開口部118a、118bは、外周面から半径方向に延び、収容穴114に開口するように形成されている。図示するように、1つの収容穴114に対して2つの開口部118a、118bが配設される。2つの開口部118a、118bは、好ましくは、円形の断面を有し、各々の中心が、互いにカッターボディ110の軸方向に整列するように(図1、2では上下に)配置される。
【0016】
図6図8を参照すると、カートリッジ10は、略直方体状の部材より成る本体12を有しており、該本体12の一端部(図6図8では上端)には頭部14が形成されている。頭部14には、切削チップ16を受容する切欠き部が形成されている。本実施形態では、切削チップ16は、三角形、好ましくは正三角形の端面を有する板状または三角柱状のスローアウェイチップである。切削チップ16は、ひし形のような四角形状のスローアウェイチップであってもよい。切削チップ16は、固定ねじ16aによって、頭部14に固定される。切刃をカートリッジに固定する方法は、切削チップ16をねじ止めする方式だけでなく、ロウ付けで固定したり、切刃を別部品にせずにカートリッジと一体で形成したりしてもよい。
【0017】
カートリッジ10の本体12は、互いに平行な外側面18aと、第2の貫通穴として、内側面18bと、該外側面18aから内側面18bへ本体12を貫通して延設された2つの通し穴12a、12bを有している。カートリッジ10の外側面18aは、収容穴114の内面(支承面128(図12参照))に当接する当接面である。内側面18bは、後述する固定具20の押圧面である外側面24から押圧される受圧面となっている。
【0018】
通し穴12a、12bは、カートリッジ10をカッターボディ110に取り付けたときに回転軸線Oに関して半径方向に向くように形成される。通し穴12a、12bには、カートリッジ10をカッターボディ110の収容穴114内に固定する固定ねじ120が挿通される。
【0019】
収容穴114には、更に、固定具20が収容される。図9図11を参照すると、固定具20は、互いに対向する外側面24と内側面26とを有する略直方体状の部材22より成り、外側面24から内側面26へ向けて延びる2つのねじ穴22a、22bが形成されている。外側面24は、収容穴114の支承面128に対してカートリッジ10を半径方向外側に押圧する押圧面として作用する。
【0020】
本実施形態では、ねじ穴22a、22bは固定具20を貫通しているが、ねじ穴22a、22bは内側面26まで延在していてもよい。ねじ穴22a、22bには、固定ねじ120に螺合する内ねじが形成されている。ねじ穴22a、22bは、固定具20をカッターボディ110に取り付けたとき、回転軸線Oに関して半径方向に向くように形成されている。
【0021】
収容穴114は、カッターボディ110の先端面100aから軸方向にカートリッジ10および固定具20を受容する。収容穴114内では、カッターボディ110の回転軸線Oに関して、カートリッジ10が固定具20よりも半径方向外側に配置される。
【0022】
カートリッジ10および固定具20を収容穴114内に挿入した後、固定ボルト120をカッターボディ110の開口部118a、118bおよびカートリッジ10の通し穴12a、12bに挿通し、固定具20のねじ穴22a、22bに螺合させる。
【0023】
固定ねじ120を更に締め付けることによって、固定具20の押圧面たる外側面24が、カートリッジ10の受圧面たる内側面18bに接触し、該内側面18bに押圧される。こうして、カートリッジ10は、固定ボルト120を締め付けることによって、図12に示すように、カッターボディ110収容穴114の支承面128と、固定具20の押圧面たる外側面24との間に挟持、固定される。本実施形態では、支承面128は、収容穴114の内面において、開口部218a、218bが形成されている内面により形成される。支承面128は、半径方向外側に位置する半径方向に対して垂直な平面により形成される。
【0024】
既述の実施形態では、1つの収容穴114内にカートリッジ10と固定具20の双方が収容されるが、本発明はこれに限定されない。図13、14を参照すると、収容穴114は、薄い仕切り124によって、カートリッジ10を収容するための第1の収容部114aと、固定具20を収容するための第2の収容部114bとに分割されている。仕切り124には、固定ねじ120を挿通するための開口部(図示せず)が形成されている。仕切り124の厚さ(回転軸線Oに関して半径方向の寸法)は、例えば0.8mmとすることができる。
【0025】
本実施形態では、図13、14に示すように、第1の収容部114aにカートリッジ10を挿入し、第2の収容部114bに固定具20を挿入した後に、固定ねじ120をカッターボディ110の開口部118a、118bおよびカートリッジ10の通し穴12a、12bおよび仕切り124の開口部に挿通し、固定具20のねじ穴22a、22bに螺合させる。
【0026】
次いで、固定ねじ120を締め付けることによって、仕切り124は、固定具20によって付勢され、半径方向外方に膨出、変形する。これにより、カートリッジ10は、第1の収容部114a内で支承面128と仕切り124との間に挟持、固定される。
【0027】
なお、支承面128は、カートリッジ10を正しく位置決めする、特に、カートリッジ10に取り付けられたスローアウェイチップ16のコーナ切刃16bを半径方向に正しく位置決めするために非常に重要であるので、精密に加工することが望ましい。一例として、支承面128は、ワイヤカット放電加工機を用いて加工することができる。そのために、図15、16に示すように、カッターボディ110の後端面110bから収容穴114内に開口するように軸方向に延びる小孔126を形成し、該小孔126をスタートホールとして用いて、ワイヤカット放電加工により支承面128を形成することができる。
【0028】
次に、図17図24を参照して、本発明の第2の実施形態を説明する。図17図24では、既述した実施形態と同様のまたは対応する構成要素には同じ参照符号が付されており、以下では重複する説明を省略する。
【0029】
第2の実施形態による正面フライス200は、工具ホルダ130に取り付けるように形成された概ね円柱状のカッターボディを具備している。本実施形態では、カッターボディは、第1のカッターボディ部分210と、第2のカッターボディ部分220とにより形成される。
【0030】
第1のカッターボディ部分210は、固定ねじ122を挿通するための中心穴216と、カートリッジ10を受容する複数の、本実施形態では10個の収容穴214とを有している。収容穴214は、回転軸線Oを中心として等角度間隔で配置されている。収容穴214は、第1のカッターボディ部分210においてワーク(図示せず)に対面する端面(先端面)210aから、第2のカッターボディ部分220に対面する端面(後端面)210bへ軸方向に第1のカッターボディ部分210を貫通するように形成されている。
【0031】
第1のカッターボディ部分210には、更に、第1の貫通穴としての開口部218a、218bが形成されている。開口部218a、218bは、外周面から半径方向に延び、収容穴214に開口するように形成されている。図示するように、1つの収容穴214に対して2つの開口部218a、218bが配設される。2つの開口部218a、218bは、好ましくは、円形の断面を有し、各々の中心が、互いに第1のカッターボディ部分210の軸方向に整列するように(図18図20では上下に)配置される。
【0032】
なお、収容穴214の内面において、開口部218a、218bが形成されている内面は、既述の実施形態と同様に半径方向に対して垂直な平面より成る支承面となっている。
【0033】
第1のカッターボディ部分210には、更に、軸方向に該第1のカッターボディ部分210を貫通する複数のボルト穴212が形成されている。複数のボルト穴212は、第1のカッターボディ部分210の外周面の近傍において、収容穴114の間に配置することができる。複数のボルト穴212には内ねじが形成されている。第1のカッターボディ部分210は、更に、後端面210bから軸方向に突出するボス部210cを有している。
【0034】
図21図23を参照すると、第2のカッターボディ部分220は、組み立てたときに、第1のカッターボディ部分210に隣接する部分に、第1のカッターボディ部分210の収容穴214に対応する複数の凹所228が設けられている。凹所228の各々は、第1のカッターボディ部分210に接する前端面220aから軸方向に所定の深さ、かつ、第1のカッターボディ部分210の外周から半径方向に所定の深さで形成されている。
【0035】
第2のカッターボディ部分220は、更に、複数の通し穴222と、位置決め装置のための複数の受容穴224とを有している。複数の通し穴222と受容穴224とは、第2のカッターボディ部分220の周方向に交互に等角度間隔に配置されている。複数の通し穴222は、第2のカッターボディ部分220の後端面220bから前端面220aへ軸方向に第2のカッターボディ部分220を貫通して延設されている。
【0036】
第2のカッターボディ部分220の前端面220aには、また、複数の逃げ溝226を形成することができる。この場合、逃げ溝226は、第1のカッターボディ部分210と第2のカッターボディ部分220とが結合され、収容穴214内にカートリッジ10と固定具20とが挿入されたときに、固定具20が逃げ溝226の真上になるように配置することができる。
【0037】
複数の受容穴224の各々は、凹所228に開口するように軸方向に延在している。図示する実施形態では、複数の受容穴224の各々は、第2のカッターボディ部分220の後端面220bから各凹所228へ軸方向に第2のカッターボディ部分220を貫通している。受容穴224の内周面は、後述する位置決め装置に係合する内ねじを有することができる。
【0038】
正面フライス200は、受容穴224の各々に対して、カートリッジ10を軸方向に位置決めするための位置決め装置を備えている。位置決め装置の一例として、図24を参照して差動ねじ240を説明する。なお、位置決め装置は、単動ねじであってもよい。
【0039】
位置決め装置としての差動ねじ240は、ねじ軸242とローレットネジ244とを備えている。ローレットネジ244には、受容穴224の内ねじに係合する外ねじが形成された第1のねじ部244aが先端部分に設けられ、ローレットネジ244を回転させる際にレンチ(図示せず)を挿入するためのレンチ穴244bが側面に設けられている。ねじ軸242の先端部には平坦部248が設けられ、平取り部248とは反対側の端部に当接部246が設けられている。平坦部248は、受容穴224に設けられている角穴(図示せず)に挿入して、ねじ軸242が受容穴224に対して回転することを防止する。
【0040】
ねじ軸242は、平取り部248と当接部246との間に、ローレットネジ244の内側に設けられた内ねじ(図示せず)に係合する第2のねじ部(図示せず)が形成されている。第2のねじ部は、第1のねじ部244aのピッチより小さいピッチを有している。
【0041】
ローレットネジ244を1回転させると、ローレットネジ244は、第2のカッターボディ部分220に対して、第1のねじ部244aの1ピッチに等しい距離だけ軸方向に移動する。このとき、ねじ軸242は受容穴224に対して回転できないため、ローレットネジ244とともに軸方向に第1のねじ部244aの1ピッチに等しい距離移動をするのと同時に、ローレットネジ244に対してローレットネジ244の移動方向とは反対方向に第2のねじ部の1ピッチに等しい距離移動する。結果的に、ローレットネジ244を1回転させると、ねじ軸242は、第1のねじ部244aのピッチと第2のねじ部のピッチの差分に等しい距離軸方向に移動する。この差動機構により、当接部246の位置を微調整することができる。
【0042】
第2のカッターボディ部分220は、また、第1のカッターボディ部分210のボス部210cを受容する中央開口部230を有している。第2のカッターボディ部分220の後端面220bには、工具ホルダ130の位置決め突起138を受容する切欠き部220cが形成されている。
【0043】
カッターボディの組立に先立って、ローレットネジ244の内ねじと、ねじ軸242の第2のねじ部とを螺合して、差動ねじ240を組み立てる。次いで、ねじ軸242の平坦部248を第2のカッターボディ部分220の受容穴224の角穴内に挿入しつつ、ローレットネジ244の第1のねじ部244aを受容穴224の内ねじに係合させて、差動ねじ240を第2のカッターボディ部分220に取り付ける。
【0044】
次いで、第1のカッターボディ部分210の複数のボルト穴212の各々と、第2のカッターボディ部分220の複数の通し穴222とを位置合わせしつつ、第1のカッターボディ部分210のボス部210cを第2のカッターボディ部分220の中央開口部230に嵌合させる。
【0045】
次いで、固定ボルト202を通し穴222に挿通して、ボルト穴212の内ねじに螺合、締め付けると共に、固定ボルト202を通し穴222に挿通し、第1のカッターボディ部分210のボルト穴212の内ねじに螺合締め付けることによって、第1のカッターボディ部分210と第2のカッターボディ部分220とが結合される(図23参照)。このとき、位置決め装置、本実施形態では、差動ねじ240のローレットネジ244は、レンチ穴244bにレンチを挿入してローレットネジ244を回転させるために、カッターボディの外部からアクセス可能となっている。
【0046】
第1のカッターボディ部分210と第2のカッターボディ部分220とが結合されると、位置決め装置としての差動ねじ240のねじ軸242の当接部246は、収容穴214内でカートリッジ10の本体12の下端面18c(図8参照)に当接可能な位置に配置される。
【0047】
次いで、収容穴214内にカートリッジ10および固定具20を配置した後、既述の実施形態と同様に、固定ボルト120を第1のカッターボディ部分210の開口部218a、218bおよびカートリッジ10の通し穴12a、12bに挿通し、固定具20のねじ穴22a、22bに螺合させる。
【0048】
収容穴214内でカートリッジ10が簡単には動かない程度に固定ねじ120を締め付けた後、位置決め装置たる差動ねじ240のローレットネジ244を回転させることによって、カートリッジ10を軸方向に精密に位置決めすることが可能となる。カートリッジ10を軸方向に位置決めした後に固定ねじ120を更に締め付けることによって、カートリッジ10は、軸方向に移動することなく、収容穴214の支承面に半径方向に押圧され、収容穴214内に固定される。
【0049】
既述の実施形態では、位置決め装置は、軸方向に移動するねじ軸242を有した差動ねじ240であるが、本発明は、これに限定されない。位置決め装置は、回転軸線Oに関して半径方向に移動するねじ軸を有していてもよい。
【0050】
以下、図25図32を参照して、本発明の第3の実施形態を説明する。図25図32では、既述した実施形態と同様のまたは対応する構成要素に同じ参照符号を付して、重複する説明は省略する。
【0051】
本発明の第3の実施形態による正面フライス300は、工具ホルダ130に取り付けるように形成された概ね円柱状のカッターボディ310を具備している。カッターボディ310は、固定ねじ122を挿通するための中心穴316と、カートリッジ10を受容する複数の、本実施形態では10個の収容穴314と、位置決め装置を配置する複数の凹所320とを有している。凹所320は、内ねじが形成されたねじ穴322を有している。ねじ穴322は、回転軸線Oに関して半径方向に延設されている。
【0052】
収容穴314は、回転軸線Oを中心として等角度間隔で配置されている。カッターボディ310には、更に、第1の貫通穴としての開口部318a、318bが形成されている。開口部318a、318bは、外周面から半径方向に延び、収容穴314に開口するように形成されている。図示するように、1つの収容穴314に対して2つの開口部318a、318bが配設される。2つの開口部318a、318bは、好ましくは、円形の断面を有し、各々の中心が、互いに第1のカッターボディ部分210の軸方向に整列するように(図25図32では上下に)配置される。
【0053】
なお、収容穴314の内面において、開口部318a、318bが形成されている内面は、既述の実施形態と同様に半径方向に対して垂直な平面より成る支承面となっている。
【0054】
正面フライス300は、収容穴314の各々に対して、カートリッジ10′を軸方向に位置決めするための位置決め装置を備えている。本実施形態では、位置決め装置は、図29図31に示す楔部材40と、該楔部材40を駆動する駆動ねじ340とを備えている。
【0055】
位置決め装置としての楔部材40は、略直方体状の部材であって、対向する側面の一方から他方へ該楔部材40を貫通するねじ穴44が形成されている。ねじ穴44は、カッターボディ310に取り付けたときに、回転軸線Oに関して半径方向に延びるように形成されている。楔部材40は、カートリッジ10′の下端面に係合する係合面42を有している。係合面42は、図30に示すように、カッターボディ310に取り付けたときに、回転軸線Oに関して半径方向に傾斜している。
【0056】
駆動ねじ340は、凹所320のねじ穴322に係合する第1のねじ部と、楔部材40のねじ穴44に係合する第2のねじ部とを備えている。第1のねじ部と第2のねじ部は互いに逆ねじに形成されている。こうして、駆動ねじ340を回転させると、楔部材40はねじ穴322に対して接近または離反するように構成されている。
【0057】
本実施形態では、カートリッジ10′の下端面18cは、図32に示すように、楔部材40の係合面42に対応して、カッターボディ310に取り付けたときに、回転軸線Oに関して半径方向に傾斜している。
【0058】
カッターボディ310の組立に際して、まず、駆動ねじ340の第2のねじ部をねじ穴44に螺合させた状態で、第1のねじ部を凹所320のねじ穴332に螺合させることにより、楔部材40がカッターボディ310に取り付けられる。
【0059】
次いで、収容穴314内にカートリッジ10′および固定具20を配置した後、既述の実施形態と同様に、固定ボルト120を第1のカッターボディ部分210の開口部318a、318bおよびカートリッジ10の通し穴12a、12bに挿通し、固定具20のねじ穴22a、22bに螺合させる。
【0060】
収容穴314内でカートリッジ10′が簡単には動かない程度に固定ねじ120を締め付けた後、駆動ねじ340を回転させることによって、楔部材40を半径方向に移動させ、カートリッジ10′を軸方向に精密に位置決めすることが可能となる。カートリッジ10′を軸方向に位置決めした後に固定ねじ120を更に締め付けることによって、カートリッジ10′は、軸方向に移動することなく、収容穴314の支承面に半径方向に押圧され、収容穴314内に固定される。
【0061】
既述の実施形態では、支承面は、収容穴114、214、314の内面において、開口部218a、218bが形成されている、半径方向に対して垂直な平面により形成されている。然しながら、本発明はこれに限定されず、支承面は他の形態をとることができる。要は、支承面は、収容穴114、214、314の内面であって、カートリッジ10、10′を固定具20によって半径方向外方へ押圧したときに、該カートリッジ10、10′を半径方向に位置決めできる内面であればよい。
【0062】
例えば、図33を参照すると、収容穴114″は、開口部118a、118bが形成されている内面に隣接して、2つの支承面128″を有している。2つの支承面128″は、半径方向外方へ向けて互いに接近するように線対称状に形成されている。
【0063】
この場合、カートリッジも支承面128″の形状に適合する当接面を有している。図34を参照すると、カートリッジ10″は、角柱状の本体12″を有している。本体12″は、通し穴12a″、12b″が形成されている外側面18a″に隣接して、2つの当接面19を備えている。2つの当接面19は、半径方向外方へ向けて互いに接近するように面取り状に傾斜している。本実施形態によれば、既述の平面状の支承面128に比べて、カートリッジ10″は、加工中に周方向に位置がずれにくくなる。
【0064】
更に、図35図37を参照すると、収容穴150は、第1の支承面152および第2の支承面154を備えている。図33の例では、支承面128″は、回転軸線Oに関する周方向に互いに離間しているが、図35図37の例では、第1の支承面152と第2の支承面154は互いに繋がっている。第1の支承面152と第2の支承面154との間の小孔156は、支承面152、154をワイヤカット放電加工機で加工するときのスタートホールである。
【0065】
第1の支承面152は、回転軸線Oに対して平行であるが、半径方向に対しては傾斜している。第2の支承面154は回転軸線Oおよび半径方向の双方に平行となっている。第2の支承面154は、加工に際して正面フライスの回転方向に関して後側となる内側面である。
【0066】
この場合も、カートリッジは、第1の支承面152および第2の支承面154の形状に適合する当接面を有している。図37を参照すると、カートリッジ50の本体52は、外側面54が、カッターボディの回転軸線Oに対して平行に延在しているが、半径方向に対しては傾斜しており、第1の支承面152に当接する第1の当接面となっている。側面56は、回転軸線Oおよび半径方向の双方に対して平行に延在しており、第2の支承面154に当接する第2の当接面となっている。第2の当接面56は、カートリッジの本体において、加工に際して正面フライスの回転方向に関して後側となる側面である。本実施形態によれば、既述の平面状の支承面128に比べて、カートリッジ50は、加工中に周方向に位置がずれにくくなる。
【符号の説明】
【0067】
10 カートリッジ
12 本体
12a 通し穴
12b 通し穴
14 頭部
16 スローアウェイチップ
16b コーナ切刃
18a 外側面
18b 内側面
18c 下端面
19 当接面
20 固定具
22 部材
22a ねじ穴
22b ねじ穴
24 外側面
26 内側面
40 楔部材
42 係合面
44 ねじ穴
50 カートリッジ
52 本体
54 第1の当接面
56 第2の当接面
56 側面
100 正面フライス
100a 先端面
110 カッターボディ
110a 先端面
110b 後端面
112 切欠き部
114 収容穴
114a 第1の収容部
114b 第2の収容部
116 中央開口部
118a 開口部
118b 開口部
120 固定ボルト
120 カートリッジ固定ボルト
126 小孔
128 支承面
130 工具ホルダ
132 テーパシャンク
134 フランジ
134a 当接面
134b 周溝
136 中央ボス部
138 突起
150 収容穴
152 第1の支承面
154 第2の支承面
156 小孔
200 正面フライス
202 固定ボルト
210 第1のカッターボディ部分
210a 先端面
210b 後端面
210c ボス部
212 ボルト穴
214 収容穴
216 中心穴
218a 開口部
218b 開口部
220 第2のカッターボディ部分
220a 前端面
220b 後端面
220c 切欠き部
222 通し穴
224 受容穴
226 逃げ溝
228 凹所
230 中央開口部
242 ねじ軸
244 ローレットネジ
244a 第1のねじ部
244b レンチ穴
246 当接部
248 平坦部
300 正面フライス
310 カッターボディ
314 収容穴
316 中心穴
318a 開口部
318b 開口部
320 凹所
322 ねじ穴
332 ねじ穴
【要約】
【課題】正面フライスの回転中に、遠心力によりカートリッジの位置がずれることを防止すること。
【解決手段】正面フライスが、回転軸線O方向に開口した収容穴114と、回転軸線に略直交し、外周から収容穴に貫通する第1の貫通穴118a、118bとを有するカッターボディ110と、収容穴に挿入され、第2の貫通穴12a、12bを有し、切刃16bを有した切削チップ16が固定されたカートリッジ10と、収容穴に挿入され、かつ、カートリッジに対して回転軸線に関して内側に配置され、回転軸線に関して半径方向に延びるねじ穴が形成された固定具20と、カッターボディの外周から第1の貫通穴に挿入され、第2の貫通穴を通り、固定具のねじ穴に螺合することで、カッターボディの外周と固定具との間にカートリッジを挟み込んで固定する固定ボルト120とを有している。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37