(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20240410BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20240410BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240410BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240410BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L1/02
C08K3/36
C08K3/04
B60C1/00 Z
(21)【出願番号】P 2020021224
(22)【出願日】2020-02-12
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】張 迪
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/142316(WO,A1)
【文献】特開2014-125607(JP,A)
【文献】特開2018-119041(JP,A)
【文献】特開2021-001292(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101974172(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102002173(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,B60C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムと、
非水溶性であり且つ分散水のpHが4.5~6.5となるセルロースナノクリスタルと、シリカおよび/またはカーボンブラックと、を含
み、
前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記セルロースナノクリスタルを0.1質量部以上、ならびに前記シリカおよび前記カーボンブラックを合計で1~80質量部含み、
前記セルロースナノクリスタルの量と前記シリカおよび前記カーボンブラックの合計量との質量比が1:10~25である、タイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ジエン系ゴムが、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、および天然ゴム(NR)からなる群から選ばれる1以上である、請求項
1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項
1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物を用いたタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤを構成するゴム組成物は、弾性率(伸び)、硬度(硬さ)などの機械的特性が優れたものが求められている。そして、このような特性を向上させる技術の1つとして、ゴム組成物中に充填剤(フィラー)としてナノセルロースを配合する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ゴムラテックスと、ミクロフィブリル化植物繊維(セルロースナノファイバー)と、カチオン系高分子とを混合して得られたマスターバッチを用いて作製され、ゴムラテックス中のゴム成分100質量部に対するカチオン系高分子の添加量が0.01~5質量部である、ミクロフィブリル化植物繊維を均一に分散させ、タイヤの要求性能をバランス良く改善できるゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているようなセルロースナノファイバーは、ゴム組成物中に充填剤として配合する際に、シリカやカーボンブラックを併用すると、得られるゴム組成物の引張強さや伸びなどの一部の機械的特性が低下してしまう場合があるという課題があった。
【0006】
そこで本発明は、引張強さおよび伸びがいずれも向上した、ナノセルロースとシリカまたはカーボンブラックとを含有するタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、ジエン系ゴムと、セルロースナノクリスタルと、シリカおよび/またはカーボンブラックと、を含むタイヤ用ゴム組成物が、引張強さおよび伸びがいずれも向上していることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は次の(1)~(6)である。
(1)ジエン系ゴムと、セルロースナノクリスタルと、シリカおよび/またはカーボンブラックと、を含むタイヤ用ゴム組成物。
(2)前記セルロースナノクリスタルが、非水溶性であり且つ分散水のpHが4.5~6.5となるセルロースナノクリスタルである、(1)に記載のタイヤ用ゴム組成物。
(3)前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記セルロースナノクリスタルを0.1~30質量部含む、(1)または(2)に記載のタイヤ用ゴム組成物。
(4)前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記シリカおよび前記カーボンブラックを合計で0.1~80質量部含む、(1)~(3)のいずれか1つに記載のタイヤ用ゴム組成物。
(5)前記ジエン系ゴムが、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、および天然ゴム(NR)からなる群から選ばれる1以上である、(1)~(4)のいずれか1つに記載のタイヤ用ゴム組成物。
(6)(1)~(5)のいずれか1つに記載のタイヤ用ゴム組成物を用いたタイヤ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、引張強さおよび伸びがいずれも向上した、ナノセルロースとシリカまたはカーボンブラックとを含有するタイヤ用ゴム組成物を得ることができる。そして、このタイヤ用ゴム組成物を用いることにより、引張強さおよび伸びが優れたタイヤを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例において行った引張試験における、タイヤ用ゴム組成物の破断までの伸び(横軸)と応力(縦軸)との関係を示すグラフである。なお、(a)がシリカおよびセルロースナノクリスタルを充填剤として配合したタイヤ用ゴム組成物の結果であり、(b)がカーボンブラックおよびセルロースナノクリスタルを充填剤として配合したタイヤ用ゴム組成物の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について説明する。
本発明は、ジエン系ゴムと、セルロースナノクリスタルと、シリカおよび/またはカーボンブラックと、を含むタイヤ用ゴム組成物、およびこのタイヤ用ゴム組成物を用いたタイヤである。以下においては、これらを「本発明のタイヤ用ゴム組成物」、および「本発明のタイヤ」ともいう。
【0012】
なお、本発明において「~」を用いて表される数値範囲は、特段の断りがない限り、「~」の前に記載される数値を下限値、および「~」の後に記載される数値を上限値とする数値範囲を意味する。
【0013】
まず、本発明のタイヤ用ゴム組成物に使用するジエン系ゴムは、ポリマー主鎖に二重結合を有するゴム成分であり、具体的には、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリルニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)などが例示される。そして、このようなジエン系ゴムを単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0014】
特に、本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、使用するジエン系ゴムが、SBR、BR、IR、およびNRからなる群から選ばれる1以上(つまりこの群から選ばれる1つを使用する態様または2以上を組み合わせて使用する態様)であるのが好ましい。また、SBRを好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含有するジエン系ゴムであるとより好適であり、SBRからなる(100質量%SBRである)ジエン系ゴムであってもよい。そして、このジエン系ゴムの重量平均分子量は、50,000~3,000,000であることが好ましく、100,000~2,000,000であることがより好ましい。
【0015】
なお、本発明において「重量平均分子量」とは、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定したものを意味する。
【0016】
次に、本発明のタイヤ用ゴム組成物に使用するセルロースナノクリスタル(CNC)は、セルロースミクロフィブリルからなる平均繊維径が1~1000nm、平均繊維長さが0.1~0.5μmである結晶性の極細繊維(ナノセルロース)である。そして、本発明のタイヤ用ゴム組成物に使用するセルロースナノクリスタルには、機械的解繊や化学変性などがされたものも包含される。
なお、本発明のタイヤ用ゴム組成物に使用するセルロースナノクリスタルには、平均繊維長さが0.5μm超であるナノセルロース(セルロースナノファイバー(CNF))は包含されない。
【0017】
このセルロースナノクリスタルは、通常、ジエン系ゴムなどのゴム成分に対して、充填剤として単に単独で配合しても、ゴム成分中における分散性が非常に悪いため、得られるタイヤ用ゴム組成物の機械的特性を向上させることは極めて難しい。しかしながら、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴムに対して、このセルロースナノクリスタルが充填剤として配合され、さらに、後述するシリカおよび/またはカーボンブラックも充填剤として併用して配合されていることにより、ジエン系ゴム中におけるセルロースナノクリスタルの分散性が高まり、さらにシリカおよび/またはカーボンブラックとの相乗的な作用により、引張強さおよび伸びがいずれも向上したものとなることが特徴である。
【0018】
また、本発明のタイヤ用ゴム組成物では、粉末状であるセルロースナノクリスタルを、水などの溶媒に分散させることなくそのままシリカやカーボンブラックとともにジエン系ゴム中に添加、混合することができるが、セルロースナノクリスタルが非水溶性であると、その分散性がより向上し、また得られるタイヤ用ゴム組成物の機械的特性もより向上し易いため好ましい。ここで「非水溶性」とは、水に添加、混合した場合に溶解せず、且つコロイド溶液にもならないものを意味する。そして、ジエン系ゴムへの添加前において、溶媒である水にこのセルロースナノクリスタルが添加、混合されて得られる分散水(例えば、セルロースナノクリスタルを1質量%含む分散水)としたときに、この分散水のpHが4.5~6.5となるセルロースナノクリスタルであると、より好ましい。
【0019】
さらに、本発明のタイヤ用ゴム組成物には、化学変性されていないセルロースナノクリスタルを使用するとより好適である。化学変性セルロースナノクリスタルよりも耐熱性がより高いからである。
【0020】
なお、本発明のタイヤ用ゴム組成物に化学変性セルロースナノクリスタル(分子内のOH基に変性基が導入されたセルロースナノクリスタル)を使用する場合には、セルロースナノクリスタル分子内のOH基にアクリル基が導入されたアクリル変性セルロースナノクリスタル、アセチル基が導入されたアセチル変性セルロースナノクリスタル、アルケニル無水コハク酸(Alkenyl Succinic Anhydride:ASA)が導入されたASA変性セルロースナノクリスタルなどが使用できる。なお、アクリル変性セルロースナノクリスタルは、セルロースナノクリスタルにアクリレート変性処理を施すことにより得ることができ、アセチル変性セルロースナノクリスタルは、セルロースナノクリスタルにアセチル化処理を施すことにより得ることができ、ASA変性セルロースナノクリスタルは、セルロースナノクリスタルにASA処理を施すことにより得ることができる。また、これら以外の変性基としては、アミノ基、スルホン基、リン酸基などが例示される。
【0021】
このセルロースナノクリスタルの原料となるセルロースは、木材由来または非木材(バクテリア、藻類、綿など)由来のいずれでもよく、特段限定されないが、綿由来セルロースから得られたセルロースナノクリスタル(綿由来セルロースナノクリスタル)は、結晶化度が高く熱安定性がより高いため好適である。セルロースナノクリスタルの作製方法としては、例えば、セルロース原料を酸などにより加水分解し、得られた結晶性のセルロースをアセトンやトルエンなどの低誘電率有機溶媒中に懸濁し、固形分を低誘電率有機溶媒中において粉砕し、粉砕後に低誘電率有機溶媒を乾燥除去してセルロースナノクリスタルを得る方法が示される。さらに、この得られた粉末をふるいなどによって分粒して、微粒子(例えば、JIS Z 8801に準拠して150μmふるいにかけたときの通過画分の質量割合が90質量%以上である微粒子)を得てもよい。また、この微粒子の表面を塩酸などにより表面処理してもよい。
【0022】
そして、このセルロースナノクリスタルの平均繊維径は1~1000nmであり、好ましくは1~200nmである。またセルロースナノクリスタルの平均アスペクト比(平均繊維長さ/平均繊維径)は好ましくは10~500、より好ましくは50~400である。平均繊維径が上記範囲未満および/または平均アスペクト比が上記範囲を超えると、セルロースナノクリスタルの分散性が低下する可能性がある。また平均繊維径が上記範囲を超過および/または平均アスペクト比が上記範囲未満であるとセルロースナノクリスタルの補強性能が低下する可能性がある。
【0023】
ここで、本発明においてセルロースナノクリスタルの「平均繊維径」および「平均繊維長さ」とは、TEM観察またはSEM観察により、構成する繊維の大きさに応じて適宜倍率を設定して電子顕微鏡画像を得て、この画像中の少なくとも50本以上において測定したときの繊維径および繊維長さの平均値を意味する。そして、このようにして得られた平均繊維長さおよび平均繊維径から、平均アスペクト比を算出する。
【0024】
そして、本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、ジエン系ゴム100質量部に対して、このセルロースナノクリスタルを好ましくは0.1~80質量部、より好ましくは0.5~50質量部、さらに好ましくは1.0~30質量部、さらに好ましくは2.0~20質量部、さらに好ましくは3.0~15質量部含有させるのが好適である。ジエン系ゴムに対するセルロースナノクリスタルの量が少なすぎると、得られるタイヤ用ゴム組成物の機械的特性が高まりにくい傾向がある。また、ジエン系ゴムに対するセルロースナノクリスタルの量が多すぎると、得られるタイヤ用ゴム組成物のコストが高くなる可能性があり、さらに、セルロースナノクリスタルの分散性も低下し易い傾向がある。
【0025】
さらに、本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、ジエン系ゴムに対して、前述したセルロースナノクリスタルと共に、このセルロースナノクリスタルのジエン系ゴム中における分散性をより高めるために、シリカおよびカーボンブラックから選ばれる1以上を充填剤として使用する。
【0026】
ここで、本発明において「シリカ」とは、二酸化ケイ素(SiO2)からなる、あるいは二酸化ケイ素を主成分とする(例えば80質量%以上、さらには90質量%以上含む)粒子物質を意味し、「カーボンブラック」とは、工業的に品質制御して製造された直径3~500nm程度の炭素微粒子を意味する。
【0027】
まず、本発明のタイヤ用ゴム組成物にシリカを配合する場合には、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、およびコロイダルシリカからなる群から選ばれる1以上を使用することができる。そして、シリカのCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロマイド)吸着比表面積は特に限定されないが、80~280m2/g程度であってよい。なお、このCTAB吸着比表面積は、シリカ表面へのCTAB吸着量をJIS K6217-3:2001「第3部:比表面積の求め方-CTAB吸着法」にしたがって測定した値である。
このようなセルロースナノクリスタルとシリカとを充填剤として併用した本発明のタイヤ用ゴム組成物は、引張強さおよび伸びが向上したものとなる。
【0028】
なお、この場合において、シリカの分散性を向上し且つジエン系ゴムの補強性能をより向上させるために、シリカと共にシランカップリング剤を配合してもよい。本発明のタイヤ用ゴム組成物におけるシランカップリング剤の含有量は、シリカの含有量に対して好ましくは3質量%~20質量%、より好ましくは5質量%~15質量%、さらに好ましくは7質量%~10質量%であってよい。シランカップリング剤の含有量がシリカの含有量の3質量%未満であると、シリカの分散性を向上する効果などが充分に得られない可能性がある。また、シリカの含有量の20質量%超であると、シランカップリング剤同士が重合してしまいやすい傾向にある。
【0029】
ここで、このシランカップリング剤は、硫黄含有シランカップリング剤であるのが好ましい。硫黄含有シランカップリング剤としては、例えば、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイル-テトラスルフィド、トリメトキシシリルプロピル-メルカプトベンゾチアゾールテトラスルフィド、トリエトキシシリルプロピル-メタクリレート-モノスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイル-テトラスルフィド、ビス-[3-(トリエトキシシリル)-プロピル]テトラスルフィド、ビス-[3-(トリメトキシシリル)-プロピル]テトラスルフィド、ビス-[3-(トリエトキシシリル)-プロピル]ジスルフィド、3-メルカプトプロピル-トリメトキシシラン、3-メルカプトプロピル-トリエトキシシラン等が挙げられ、これらのいずれかを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
次に、本発明のタイヤ用ゴム組成物にカーボンブラックを配合する場合には、例えば、SAFHS、SAF、ISAF-HS、ISAF、ISAF-LS、IISAF-HS、HAF-HS、HAF、HAF-LS、FEF等の各種グレードのものを使用することができる。また、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)も特に限定されないが、60~400m2/g程度であってよい。なお、この窒素吸着比表面積(N2SA)は、JIS K6217-2に準拠して求めた値である。
セルロースナノクリスタルとカーボンブラックとを充填剤として併用した本発明のタイヤ用ゴム組成物は、シリカと同様に、引張強さおよび伸びが向上したものとなる。さらに、本発明のタイヤ用ゴム組成物では、セルロースナノクリスタル、シリカ、およびカーボンブラックの3成分をいずれも充填剤として使用しても、同様に、引張強さおよび伸びを向上させることができる。また、この3成分の充填剤を使用した構成において、さらに前述したシランカップリング剤を使用してもよい。
【0031】
本発明のタイヤ用ゴム組成物におけるシリカおよびカーボンブラックの合計含有量としては、ジエン系ゴム100質量部に対して、シリカおよびカーボンブラックを合計で0.1~80質量部含むのが好ましく、1~70質量部含むのがより好ましく、10~60質量部含むのがさらに好ましい。なお、シリカまたはカーボンブラックのいずれか1つをセルロースナノクリスタルと共に使用する場合には、シリカ単独あるいはカーボンブラック単独として上記した含有量となるようにすればよい。
【0032】
そして、得られるタイヤ用ゴム組成物の引張強さおよび伸びがより高まることなどから、本発明のタイヤ用ゴム組成物中において、セルロースナノクリスタルとシリカおよびカーボンブラックの合計量との質量比(セルロースナノクリスタルの量:シリカおよびカーボンブラックの合計量)を1:1~100とするのが好ましく、1:5~50とするのがより好ましく、1:10~25とするのがさらに好ましい。なお、これも、シリカまたはカーボンブラックのいずれか1つをセルロースナノクリスタルと共に使用する場合には、セルロースナノクリスタルの量に対してシリカ単独あるいはカーボンブラック単独の量として上記した比率となるようにすればよい。
【0033】
さらに、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、本発明の効果に大きな影響を与えない範囲において、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を適量配合することができ、これらの添加剤を公知の方法で混練してタイヤ用ゴム組成物とし、さらには加硫、架橋などを行うのに使用することができる。
【0034】
例えば、本発明のタイヤ用ゴム組成物における酸化亜鉛の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して0.2~10.0質量部であることが好ましく、0.4~5.0質量部であることがより好ましく、1.0~4.0質量部であることがさらに好ましい。また、加硫剤または架橋剤の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して0.3~3.0質量部であることが好ましく、0.5~2.5質量部であることがより好ましい。さらに、加硫促進剤または架橋促進剤の含有量は、一次促進剤単独もしくは二次とのブレンドでジエン系ゴム100質量部に対して0.5~4.0質量部であることが好ましく、1.0~2.5質量部であることがより好ましい。そして、ステアリン酸の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1~5.0質量部であることが好ましく、0.2~4.0質量部であることがより好ましい。
【0035】
本発明のタイヤ用ゴム組成物の製造方法は、常法にしたがえばよく、特段限定はされない。製造方法の一例としては、ジエン系ゴム、セルロースナノクリスタル、シリカおよび/またはカーボンブラック、ならびに他の成分を、バンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混錬機を用いて常温あるいは高温下で混練、混合することによりタイヤ用ゴム組成物を製造することができる。なお、加硫系成分(硫黄および加硫促進剤など)を使用する場合には、これ以外の成分を先に高温下で混合し、冷却してから加硫系成分を混合するのが好ましい。
【0036】
以上のようにして得られた本発明のタイヤ用ゴム組成物は、セルロースナノクリスタル、ならびにシリカおよび/またはカーボンブラックの相乗的な補強性能により、特に引張強さ(TB)および伸び(EB)が優れている。また、セルロースナノクリスタルはシリカの60%程度の比重であることから、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、シリカだけを充填剤として配合した従来のタイヤ用ゴム組成物と比較してより軽量化されたものとすることも可能である。
【0037】
そして、この本発明のタイヤ用ゴム組成物を用いて、引張強さおよび伸びが優れた本発明のタイヤを得ることができる。なお、本発明のタイヤは、空気入りタイヤであることが好ましく、この空気入りタイヤに充填する気体としては、例えば、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、およびその他の気体を使用することができる。
【0038】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【実施例】
【0039】
<タイヤ用ゴム組成物の作製および評価I>
下記表1に示す組成のタイヤ用ゴム組成物を作製した。
具体的には、下記表1に示す質量部のスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR;日本ゼオン社製,NIPOL 1502)、セルロースナノクリスタル粉末(CNC;フィラーバンク社製,化学変性されていない非水溶性セルロースナノクリスタル(1質量%の分散水としたときのpH5.5)、実施例のみ)、ステアリン酸(日油社製)、亜鉛華(酸化亜鉛(ZnO);正同化学工業社製)、ならびに、シランカップリング剤(Evonik Degussa社製,Si69(TESPT))およびシリカ粒子(Solvay社製,Zeosil 1165)、あるいはカーボンブラック(KH東海カーボン社製,シースト(登録商標)、N2SA=92m2/g)を密閉式バンバリーミキサーで混練りし、所定時間の経過後、ミキサーから放出して室温冷却させた。次に、オープンロールを用いて、硫黄(四国化成工業社製,ミュークロン OT-20)および加硫促進剤(大内新興化学工業社製,ノクセラーCZ(CBBS)、シリカ配合の組成物にはさらに住友化学社製,ソクシノールD-G(DPG))を混合して混錬し、これを15cm×10cm×0.1cmの金型中において160℃30分間プレス加硫して、標準例1~2および実施例1~4のタイヤ用ゴム組成物を得た。
【0040】
そして、得られた標準例1~2および実施例1~4のタイヤ用ゴム組成物について、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251:2010に準拠して行い、破断時引張強さ(TB:MPa)、切断時伸び(=切断時の伸び率:EB)、および応力(モジュラス:MPa)を室温(20℃)にて測定した。
【0041】
このTBおよびEBの測定結果を下記表1下段に示し、伸びと応力との関係をグラフ化したものを
図1に示した。
【0042】
なお、表1のTBおよびEBの結果については、実施例1および2は標準例1のTBおよびEBを100とした場合における相対値(インデックス表示(%))として示し、実施例3および4は標準例2のTBおよびEBを100とした場合における相対値(インデックス表示(%))として示した。
【0043】
また、
図1については、左側のグラフが標準例1(non:実線)、シリカおよびセルロースナノクリスタルを充填剤として配合した実施例1(CNC(3phr):短点線)および実施例2(CNC(5phr):長点線)のデータであり、右側のグラフが標準例2(non:実線)、カーボンブラックおよびセルロースナノクリスタルを充填剤として配合した実施例3(CNC(3phr):短点線)および実施例4(CNC(5phr):長点線)のデータである。そして、いずれもグラフの右末端の時点でタイヤ用ゴム組成物が切断したことを表す。
【0044】
【0045】
これらの結果から、実施例1~4のタイヤ用ゴム組成物は、引張強さおよび切断時伸びがいずれも標準例より向上していることが明らかとなった。
【0046】
<タイヤ用ゴム組成物の作製および評価II>
下記表2に示す組成のタイヤ用ゴム組成物を作製した。
具体的には、下記表2に示す質量部のスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR;日本ゼオン社製、NIPOL 1502)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス(SBRラテックス;日本ゼオン社製、LX112)と酸化セルロースナノファイバー(CNF;日本製紙社製,Cellenpia)分散液とを混合して乾燥したSBR-CNF複合体(SBR-CNF;SBRとCNFとの質量比は3:1(SBR:CNF=3:1)、比較例のみ)、ステアリン酸(日油社製)、亜鉛華(酸化亜鉛(ZnO);正同化学工業社製)、プロセスオイル(昭和シェル石油社製,エキストラクト4号S)、ならびに、シランカップリング剤(Evonik Degussa社製,Si69(TESPT))およびシリカ粒子(Solvay社製,Zeosil 1165)、あるいはカーボンブラック(KH東海カーボン社製,シースト(登録商標)、N2SA=92m2/g)を密閉式バンバリーミキサーで混練りし、所定時間の経過後、ミキサーから放出して室温冷却させた。次に、オープンロールを用いて、硫黄(四国化成工業株式会社製,ミュークロン OT-20)および加硫促進剤(大内新興化学工業株式会社製,ノクセラーCZ(CBBS)、シリカ配合の組成物にはさらに住友化学社製,ソクシノールD-G(DPG))を混合して混錬し、これを15cm×10cm×0.1cmの金型中において160℃30分間プレス加硫して、標準例3~4および比較例1~4のタイヤ用ゴム組成物を得た。
【0047】
そして、得られた標準例3~4および比較例1~4のタイヤ用ゴム組成物について、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251:2010に準拠して行い、破断時引張強さ(TB:MPa)および切断時伸び(=切断時の伸び率:EB)を室温(20℃)にて測定した。
【0048】
これらの結果を、下記表2下段に示した。なお、比較例1および2については、標準例3のTBおよびEBを100とした場合における相対値(インデックス表示(%))として示し、比較例3および4については、標準例4のTBおよびEBを100とした場合における相対値(インデックス表示(%))として示した。
【0049】
【0050】
これらの結果から、比較例1~4のタイヤ用ゴム組成物は、引張強さおよび切断時伸びがいずれも標準例より低下していることが明らかとなった。