(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】プラズマ加熱装置及びプラズマ加熱方法
(51)【国際特許分類】
B22D 41/01 20060101AFI20240410BHJP
B22D 11/10 20060101ALI20240410BHJP
H05H 1/36 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
B22D41/01
B22D11/10 310D
H05H1/36
(21)【出願番号】P 2020035259
(22)【出願日】2020-03-02
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】宮下 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】金子 宇内
(72)【発明者】
【氏名】島子 英樹
(72)【発明者】
【氏名】玉川 唯
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-513972(JP,A)
【文献】特開2015-199083(JP,A)
【文献】特開2018-098122(JP,A)
【文献】特開2018-034180(JP,A)
【文献】特開2003-334637(JP,A)
【文献】特開2002-340481(JP,A)
【文献】特開2002-340322(JP,A)
【文献】特開2021-001368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 41/01
B22D 11/10
H05H 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンディッシュ内に貯留されている溶湯との間にプラズマを発生させて溶湯を加熱するように構成されたプラズマ加熱装置であって、
少なくとも先端部が黒鉛で構成された第1のプラズマトーチ及び第2のプラズマトーチと、
前記第1のプラズマトーチと前記第2のプラズマトーチとの間に電圧を印加するように構成された電源と、
前記第1のプラズマトーチ及び前記第2のプラズマトーチのそれぞれに印加される電圧の極性を逆転させるように構成された切替部とを備える、プラズマ加熱装置。
【請求項2】
前記切替部は、前記電源の一方の端子と前記第1のプラズマトーチとの間のオン/オフと、前記電源の一方の端子と前記第2のプラズマトーチとの間のオン/オフと、前記電源の他方の端子と前記第1のプラズマトーチとの間のオン/オフと、前記電源の他方の端子と前記第2のプラズマトーチとの間のオン/オフとを切替可能に構成されたスイッチ要素を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記切替部は、前記電源から出力される交流電力を直流電力に変換する整流要素をさらに含み、
前記整流要素は、前記電源と前記スイッチ要素との間に配置されている、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記切替部は、
前記電源から出力される交流電力の正の成分を前記第1のプラズマトーチに印加するように構成された第1の整流要素と、
前記電源から出力される交流電力の負の成分を前記第1のプラズマトーチに印加するように構成された第2の整流要素と、
前記第1の整流要素と前記第1のプラズマトーチとの間のオン/オフと、前記第2の整流要素と前記第1のプラズマトーチとの間のオン/オフとを切り替え可能に構成されたスイッチ要素とを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記第1のプラズマトーチ及び前記第2のプラズマトーチはそれぞれ、金属製の本体と、前記本体の先端部に取り付けられた黒鉛製の先端電極とを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記第1のプラズマトーチの長さと前記第2のプラズマトーチの長さとの差に基づいて前記切替部を制御するように構成された制御部をさらに備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記第1のプラズマトーチ及び前記第2のプラズマトーチにおけるプラズマ発生のトータル時間を算出し、前記トータル時間が所定時間を経過したか否かを判断し、前記トータル時間が前記所定時間
を経過した
と判断したときに前記切替部を制御するように構成された制御部をさらに備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記第1のプラズマトーチを流れる電流値から予測される前記第1のプラズマトーチの損耗速度と、前記第2のプラズマトーチを流れる電流値から予測される前記第2のプラズマトーチの損耗速度とに基づいて、前記切替部を制御するように構成された制御部をさらに備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の装置によって前記タンディッシュ内の溶湯を加熱するプラズマ加熱方法であって、
前記電源から前記第1のプラズマトーチ及び前記第2のプラズマトーチに電圧を印加して、前記第1のプラズマトーチ及び前記第2のプラズマトーチからプラズマを発生させることにより、前記タンディッシュ内の溶湯を加熱することと、
前記切替部により、前記第1のプラズマトーチ及び前記第2のプラズマトーチのそれぞれに印加される電圧の極性を逆転させることとを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラズマ加熱装置及びプラズマ加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、タンディッシュ内の溶湯(溶融した液状の金属)をプラズマアークによって加熱する加熱装置を開示している。当該加熱装置は、タンディッシュ内に配置される一対のプラズマトーチ(アノード電極及びカソード電極)を含む。これらの電極は、黒鉛で構成されているので、プラズマアークの発生に伴い異なる速度で徐々に損耗する。そのため、当該加熱装置は、これらの電極の高さ方向の相対位置を調整するための相対位置調整装置を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の加熱装置の場合、アノード電極がカソード電極よりも早く損耗するので、アノード電極が先に交換時期に達する。すなわち、アノード電極の交換時期とカソード電極の交換時期とが異なってしまう。したがって、電極の交換タイミングが頻繁に訪れるので、交換作業に手間と時間を要していた。
【0005】
そこで、本開示は、プラズマトーチを効率的に交換することが可能なプラズマ加熱装置及びプラズマ加熱方法を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
例1.プラズマ加熱装置の一例は、タンディッシュ内に貯留されている溶湯との間にプラズマを発生させて溶湯を加熱するように構成されていてもよい。プラズマ加熱装置の一例は、少なくとも先端部が黒鉛で構成された第1のプラズマトーチ及び第2のプラズマトーチと、第1のプラズマトーチと第2のプラズマトーチとの間に電圧を印加するように構成された電源と、第1のプラズマトーチ及び第2のプラズマトーチのそれぞれに印加される電圧の極性を逆転させるように構成された切替部とを備えていてもよい。この場合、第1のプラズマトーチがアノード電極として機能し且つ第2のプラズマトーチがカソード電極として機能する状態と、第1のプラズマトーチがカソード電極として機能し且つ第2のプラズマトーチがアノード電極として機能する状態とが、切替部によって適宜切り替えられる。そのため、第1のプラズマトーチ及び第2のプラズマトーチの一方のみが早期に損耗してしまう事態が抑制されるので、これらのトーチを同じタイミングで交換することができる。したがって、プラズマトーチを効率的に交換することが可能となる。また、この場合、特許文献1に記載されている相対位置調整装置を要しない。そのため、装置の簡素化を図ることが可能となる。さらに、この場合、第1のプラズマトーチ及び第2のプラズマトーチの少なくとも先端部が黒鉛で構成されている。そのため、プラズマを発生させる際にトーチの先端部を溶湯に浸漬し、当該先端部を溶湯から引き上げることにより、100%に近い確率でプラズマを発生させることが可能となる。
【0007】
例2.例1の装置において、切替部は、電源の一方の端子と第1のプラズマトーチとの間のオン/オフと、電源の一方の端子と第2のプラズマトーチとの間のオン/オフと、電源の他方の端子と第1のプラズマトーチとの間のオン/オフと、電源の他方の端子と第2のプラズマトーチとの間のオン/オフとを切替可能に構成されたスイッチ要素を含んでいてもよい。この場合、簡単な構成で切替部を実現することが可能となる。
【0008】
例3.例2の装置において、切替部は、電源から出力される交流電力を直流電力に変換する整流要素をさらに含んでいてもよい。整流要素は、電源とスイッチ要素との間に配置されていてもよい。
【0009】
例4.例1の装置において、切替部は、電源から出力される交流電力の正の成分を第1のプラズマトーチに印加するように構成された第1の整流要素と、電源から出力される交流電力の負の成分を第1のプラズマトーチに印加するように構成された第2の整流要素と、第1の整流要素と第1のプラズマトーチとの間のオン/オフと、第2の整流要素と第1のプラズマトーチとの間のオン/オフとを切り替え可能に構成されたスイッチ要素とを含んでいてもよい。この場合、簡単な構成で切替部を実現することが可能となる。
【0010】
例5.例1~例4のいずれかの装置において、第1のプラズマトーチ及び第2のプラズマトーチはそれぞれ、金属製の本体と、本体の先端部に取り付けられた黒鉛製の先端電極とを含んでいてもよい。
【0011】
例6.例1~例5のいずれかの装置は、第1のプラズマトーチの長さと第2のプラズマトーチの長さとの差(以下、「長さ差」と称することがある。)に基づいて切替部を制御するように構成された制御部をさらに備えていてもよい。この場合、長さ差が所定値以上に大きくなる前に、制御部が自動的に切替部を制御する。そのため、第1のプラズマトーチ及び第2のプラズマトーチの損耗量をより均一化することができる。したがって、これらのトーチを無駄なく消費しつつ、同じタイミングで交換することが可能となる。ところで、長さ差が所定値以上となると、プラズマアークの発生が不安定となることがある。しかしながら、例6の場合、長さ差が所定値以上に大きくなる前に、制御部が自動的に切替部を制御する。そのため、長さ差が所定値以上となることが防止される。したがって、これらのトーチを用いて、プラズマアークを継続的に安定して着火することが可能となる。
【0012】
例7.例1~例5のいずれかの装置は、所定時間が経過したときに切替部を制御するように構成された制御部をさらに備えていてもよい。ところで、第1のプラズマトーチ及び第2のプラズマトーチのうちアノード電極側がより早く損耗するので、所定時間が経過したときには、長さ差が所定値以上となる。そこで、例7の制御部のように切替部を制御することにより、例6の装置と同様の作用効果が得られる。
【0013】
例8.例1~例5のいずれかの装置は、第1のプラズマトーチを流れる電流値から予測される第1のプラズマトーチの損耗速度と、第2のプラズマトーチを流れる電流値から予測される第2のプラズマトーチの損耗速度とに基づいて、切替部を制御するように構成された制御部をさらに備えていてもよい。ところで、プラズマトーチの損耗速度は、これを流れる電流値の大きさに比例(例えば、おおよそ2乗に比例))して大きくなる。すなわち、プラズマトーチの使用環境等に応じて異なるものの、プラズマトーチの損耗速度は、これを流れる電流値の関数(例えば、二次関数)で表すことができる。したがって、当該関数を用いて、長さ差を予測することができる。そこで、例8の制御部のように切替部を制御することにより、例6の装置と同様の作用効果が得られる。
【0014】
例9.プラズマ加熱方法の一例は、例1~例8のいずれかの装置によってタンディッシュ内の溶湯を加熱するであってもよい。プラズマ加熱方法の一例は、電源から第1のプラズマトーチ及び第2のプラズマトーチに電圧を印加して、第1のプラズマトーチ及び第2のプラズマトーチからプラズマアークを発生させることにより、タンディッシュ内の溶湯を加熱することと、所定のタイミングで、電源から第1のプラズマトーチ及び第2のプラズマトーチへの通電を停止し、且つ、切替部により、第1のプラズマトーチ及び第2のプラズマトーチのそれぞれに印加される電圧の極性を逆転させることとを含んでいてもよい。この場合、例1の装置と同様の作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本開示に係るプラズマ加熱装置及びプラズマ加熱方法によれば、プラズマトーチを効率的に交換することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、連続鋳造装置の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、プラズマ加熱装置の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、プラズマ加熱装置によって溶湯を加熱する方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図4】
図4は、プラズマ加熱装置の他の例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、プラズマ加熱装置の他の例を示す概略図である。
【
図6】
図6は、プラズマトーチを流れる電流値と、プラズマトーチの損耗速度との関係を概略的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0018】
[連続鋳造装置の構成]
まず、
図1を参照して、連続鋳造装置100の構成について説明する。連続鋳造装置100は、取鍋101と、タンディッシュ102と、鋳型103と、鋳片支持ロール104と、プラズマ加熱装置1を備える。
【0019】
取鍋101は、溶湯(溶鋼)Mを貯留する容器である。タンディッシュ102は、取鍋101の下方に配置されている。タンディッシュ102は、取鍋101の底壁に設けられたノズル101aから流出した溶湯Mを貯留するように構成されている。
【0020】
鋳型103は、タンディッシュ102の下方に配置されている。鋳型103は、タンディッシュ102の底壁に設けられたノズル102aから流出した溶湯を冷却しながら所定形状に成形するように構成されている。鋳片支持ロール104は、鋳型103から引き抜かれた鋳片Sを冷却しつつ搬送するように構成されている。
【0021】
[プラズマ加熱装置の構成]
プラズマ加熱装置1は、タンディッシュ102内の溶湯Mを加熱するように構成されている。プラズマ加熱装置1は、プラズマトーチ2,3と、昇降機4と、動作ガス源5と、電源装置10と、コントローラCtr(制御部)とを備える。
【0022】
プラズマトーチ2,3は、タンディッシュ102内の溶湯Mとの間にプラズマを発生させるように構成されている。プラズマトーチ2,3は、例えば、直線状に延びる棒状体であってもよいし、屈曲した棒状体であってもよい。プラズマトーチ2,3の断面形状は、例えば、円形状であってもよいし、多角形状であってもよいし、他の形状であってもよい。プラズマトーチ2,3の太さ(プラズマトーチ2,3の断面形状が円形状である場合には直径)は、例えば、50mm~500mm程度であってもよい。プラズマトーチ2,3の長さは、例えば、1000mm~2500mm程度であってもよい。
【0023】
プラズマトーチ2(第1のプラズマトーチ)は、金属製の本体2aと、黒鉛製の先端電極2bとを含む。本体2aの内部には、プラズマトーチ2の全体を冷却するための冷却液の流路(図示せず)が設けられている。先端電極2bは、本体2aの下端に取り付けられている。先端電極2bは、本体2aに対して着脱可能に構成されていてもよい。プラズマトーチ3(第2のプラズマトーチ)は,プラズマトーチ2と同様に、本体3a及び先端電極3bを含む。
【0024】
昇降機4は、本体2a,3a(プラズマトーチ2,3)の基端部を保持するように構成されている。昇降機4は、コントローラCtrからの動作信号に基づいて、プラズマトーチ2,3を昇降するように構成されている。昇降機4の動作により、先端電極2b,3bが、タンディッシュ102内の溶湯Mに対して近接及び離間する。
【0025】
動作ガス源5は、コントローラCtrからの動作信号に基づいて、プラズマを発生させるための動作ガス(例えば、アルゴン、窒素等の不活性ガス)を、プラズマトーチ2,3に供給するように構成されている。動作ガス源5から供給される動作ガスは、プラズマトーチ2,3の長手方向に延びる貫通孔(図示せず)を流れて、先端電極2b,3bの下端面から溶湯Mに向けて供給される。
【0026】
電源装置10は、コントローラCtrからの動作信号に基づいて、プラズマトーチ2,3に電気を供給することと、プラズマトーチ2,3に供給されている電気を停止することとを実行するように構成されている。電源装置10は、
図2に示されるように、電源11と、配線12A~12Dと、整流要素13A,13B(切替部)と、スイッチ要素14A~14D(切替部)とを含む。
【0027】
電源11は、プラズマトーチ2とプラズマトーチ3との間に所定の電圧(例えば、100V~500V~500程度)を印加するように構成されている。
図2に例示されるように、電源11は、交流電源であってもよい。
【0028】
配線12Aは、電源11の一方の電極とプラズマトーチ2とを電気的に接続している。配線12Bは、電源11の他方の電極とプラズマトーチ3とを電気的に接続している。配線12Cは、配線12Aと配線12Bとを電気的に接続している。配線12Dは、配線12A,12Cの接続点とプラズマトーチ2との間における配線12Aと、電源11と配線12B,12Cの接続点との間における配線12Bとを電気的に接続している。
【0029】
整流要素13A,13Bは、電源11から出力される交流電力を直流電力に変換するように構成されている。整流要素13Aは、電源11の一方の電極と配線12A,12Cの接続点との間における配線12Aに配置されている。整流要素13Bは、電源11の他方の電極と配線12B,12Dの接続点との間における配線12Bに配置されている。
【0030】
図2に例示されるように、整流要素13A,13Bはサイリスタであってもよい。整流要素13A,13Bがサイリスタである場合、整流要素13A,13Bは、電源11から出力される交流電力の負の成分を低減又は除去して、電源11から出力される交流電力の正の成分を下流の要素に印加してもよい。整流要素13A,13Bがサイリスタである場合、整流要素13A,13Bのゲート端子を通じて、コントローラCtrが整流要素13A,13Bの導通又は非導通を制御してもよい。
【0031】
スイッチ要素14A~14Dは、コントローラCtrからの動作信号に基づいて、オン/オフを切り替え可能に構成されていてもよい。すなわち、スイッチ要素14A~14Dは、電子的にオン/オフを切り替える電子スイッチであってもよい。あるいは、スイッチ要素14A~14Dは、作業者によって物理的に操作が行われる操作用スイッチであってもよい。
【0032】
スイッチ要素14Aは、配線12A,12Cの接続点と、配線12A,12Dの接続点との間における配線12Aに配置されている。スイッチ要素14Bは、配線12B,12Dの接続点と、配線12B,12Cの接続点との間における配線12Bに配置されている。スイッチ要素14Cは、配線12Cに配置されている。スイッチ要素14Dは、配線12Dに配置されている。
【0033】
スイッチ要素14A,14Bは、同時にオン/オフが切り替えられるように構成された2極式のスイッチ要素であってもよい。スイッチ要素14C,14Dは、同時にオン/オフが切り替えられるように構成された2極式のスイッチ要素であってもよい。
【0034】
スイッチ要素14A,14Bがオンで且つスイッチ要素14C,14Dがオフの場合、電源11の一方の端子、整流要素13A及びプラズマトーチ2が電気的に接続されると共に、電源11の他方の端子、整流要素13B及びプラズマトーチ3が電気的に接続される。そのため、プラズマトーチ2が正極(アノード電極)となり、プラズマトーチ3が負極(カソード電極)となる。
【0035】
一方、スイッチ要素14A,14Bがオフで且つスイッチ要素14C,14Dがオンの場合、電源11の一方の端子、整流要素13A及びプラズマトーチ3が電気的に接続されると共に、電源11の他方の端子、整流要素13B及びプラズマトーチ2が電気的に接続される。そのため、プラズマトーチ3が正極(アノード電極)となり、プラズマトーチ2が負極(カソード電極)となる。
【0036】
コントローラCtrは、例えば、記録媒体(図示せず)に記録されているプログラム又はオペレータからの操作入力等に基づいて、昇降機4、動作ガス源5又は電源装置10を動作させるための動作信号を生成するように構成されている。コントローラCtrは、生成した動作信号を、対応する機器に送信して、当該機器を動作させるように構成されている。
【0037】
[プラズマ加熱方法]
続いて、
図3を参照して、プラズマ加熱装置1によってタンディッシュ102内の溶湯Mを加熱する方法について説明する。
【0038】
プラズマ加熱装置1によってプラズマを発生させるには、まず、タンディッシュ102内(溶湯Mの湯面近傍)を動作ガス雰囲気とする。具体的には、プラズマトーチ2,3の先端部がタンディッシュ102内に配置された状態で、コントローラCtrが動作ガス源5を制御して、プラズマトーチ2,3内の貫通孔を介して動作ガスを動作ガス源5からタンディッシュ102内に供給する(
図3のステップS1参照)。
【0039】
次に、この状態で、昇降機4によってプラズマトーチ2,3を溶湯Mに向けて降下させる(
図3のステップS2参照)。先端電極2b,3b(プラズマトーチ2,3)と溶湯Mとの距離(ギャップ)が所定の大きさとなるまで先端電極2b,3bを溶湯Mに近づける。
【0040】
次に、コントローラCtrがスイッチ要素14A~14Dを制御して、スイッチ要素14A,14Bをオンの状態とし且つスイッチ要素14C,14Dをオフの状態とする。これにより、プラズマトーチ2,3に電源11から電圧が印加され、プラズマトーチ2が正極(アノード電極)となり、プラズマトーチ3が負極(カソード電極)となる(
図3のステップS3参照)。これにより、先端電極2b,3bと溶湯Mとの間で絶縁破壊が生じ、先端電極2b,3bと溶湯Mとの間に電流が流れる。そのため、先端電極2b,3bと溶湯Mとの間にプラズマアークが発生し、溶湯Mが加熱される。なお、先端電極2b,3bは、熱を受けることにより徐々に損耗(消耗)していく。特に、アノード電極は、カソード電極よりも早く損耗する。
【0041】
次に、プラズマトーチ2,3への通電開始(溶湯Mの加熱開始)から一定の処理時間(例えば、20分~30分程度)が経過すると、コントローラCtrがスイッチ要素14A,14Bを制御して、スイッチ要素14A,14Bをオフの状態とする。すなわち、プラズマトーチ2,3への通電をいったん停止する(
図3のステップS4参照)。次に、昇降機4によってプラズマトーチ2,3を上昇させる(
図3のステップS5参照)。
【0042】
次に、コントローラCtrが、プラズマの発生のトータル時間を算出し、当該トータル時間が所定時間(例えば、2時間~4時間程度)を経過したか否かを判断する(
図3のステップS6参照)。プラズマの発生から所定時間経過していないとコントローラCtrが判断した場合(
図3のステップS6でNO)、処理を終了する。
【0043】
一方、当該トータル時間が所定時間を経過したとコントローラCtrが判断した場合(
図3のステップS6でYES)、コントローラCtrがスイッチ要素14C,14Dを制御して、スイッチ要素14C,14Dをオンの状態としてから処理を終了する。これにより、プラズマトーチ2,3に印加される電圧の極性が逆転する(
図3のステップS7参照)。このとき、コントローラCtrは当該トータル時間のカウントをリセットしてもよい。
【0044】
[作用]
以上の例によれば、プラズマトーチ2がアノード電極として機能し且つプラズマトーチ3がカソード電極として機能する状態と、プラズマトーチ2がカソード電極として機能し且つプラズマトーチ3がアノード電極として機能する状態とが、スイッチ要素14A~14Dによって適宜切り替えられる。そのため、プラズマトーチ2,3の一方のみが早期に損耗してしまう事態が抑制されるので、プラズマトーチ2,3を同じタイミングで交換することができる。したがって、プラズマトーチ2,3を効率的に交換することが可能となる。
【0045】
以上の例によれば、相対位置調整装置等の付加的な装置を要しない。そのため、プラズマ加熱装置1の簡素化を図ることが可能となる。
【0046】
以上の例によれば、プラズマトーチ2,3の先端部が、黒鉛製の先端電極2b,3bで構成されている。そのため、プラズマを発生させる際に先端電極2b,3bを溶湯に浸漬し、先端電極2b,3bを溶湯から引き上げることにより、100%に近い確率でプラズマを発生させることが可能となる。
【0047】
以上の例によれば、プラズマトーチ2,3が、金属製の本体2a,3aと、黒鉛製の先端電極2b,3bとを含む。先端電極2b,3bが金属製の本体2a,3aに対して着脱可能に構成されている場合には、先端電極2b,3bの交換を極めて簡便に行うことが可能となる。また、本体2a,3aは交換されずに再利用される。そのため、プラズマトーチ2,3のランニングコストを低減することが可能となる。
【0048】
以上の例によれば、スイッチ要素14A~14Dのオン/オフにより、プラズマトーチ2,3に印加される電圧の極性を逆転させている。そのため、簡単な構成で、極性を逆転させるための切替部を実現することが可能となる。
【0049】
ところで、プラズマトーチ2,3のうちアノード電極側がより早く損耗するので、所定時間が経過したときには、プラズマトーチ2の長さとプラズマトーチ3の長さとの差(長さ差)が所定値(例えば、10mm~50mm程度)以上となる。以上の例によれば、所定時間が経過したときにスイッチ要素14A~14Dをオン/オフして、プラズマトーチ2,3に印加される電圧の極性を逆転させている。すなわち、長さ差が所定値以上に大きくなる前に、コントローラCtrが自動的にスイッチ要素14A~14Dを制御している。そのため、プラズマトーチ2,3の損耗量をより均一化することができる。したがって、プラズマトーチ2,3を無駄なく消費しつつ、同じタイミングで交換することが可能となる。
【0050】
ところで、長さ差が所定値以上となると、プラズマアークの発生が不安定となることがある。しかしながら、以上の例によれば、所定時間が経過したときにスイッチ要素14A~14Dをオン/オフして、プラズマトーチ2,3に印加される電圧の極性を逆転させている。そのため、長さ差が所定値以上となることが防止される。したがって、プラズマトーチ2,3を用いて、プラズマアークを継続的に安定して着火することが可能となる。
【0051】
[変形例]
本明細書における開示はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特許請求の範囲及びその要旨を逸脱しない範囲において、以上の例に対して種々の省略、置換、変更などが行われてもよい。
【0052】
(1)プラズマ加熱装置1による溶湯Mの加熱処理に際して、コントローラCtrは、プラズマトーチ2,3の交換時期に達したか否かを判断してもよい。交換時期に達したとコントローラCtrが判断した場合、コントローラCtrは、プラズマトーチ2,3への通電を停止するようにスイッチ要素14A~14Dを制御してもよいし、交換時期に達した旨を作業者に報知してもよい。
【0053】
(2)プラズマトーチ2,3の少なくとも先端部が黒鉛製であればよい。そのため、プラズマトーチ2,3の半分程度が黒鉛製であってもよいし、プラズマトーチ2,3の全体が黒鉛製であってもよい。
【0054】
(3)
図4(a),(b)に示されるように、プラズマトーチ2,3に印加される電圧の極性を、2つの双投式のスイッチ要素14A,14Bで切り替えてもよい。
【0055】
図4(a)に示される例では、スイッチ要素14Aは、電源11の一方の端子、整流要素13A及びプラズマトーチ2を電気的に接続する状態と、電源11の一方の端子、整流要素13A及びプラズマトーチ3を電気的に接続する状態とを切替可能に構成されている。スイッチ要素14Bは、電源11の他方の端子、整流要素13B及びプラズマトーチ3を電気的に接続する状態と、電源11の他方の端子、整流要素13B及びプラズマトーチ2を電気的に接続する状態とを切替可能に構成されている。
【0056】
図4(b)に示される例では、スイッチ要素14Aは、電源11の一方の端子、整流要素13A及びプラズマトーチ2を電気的に接続する状態と、電源11の他方の端子、整流要素13B及びプラズマトーチ2を電気的に接続する状態とを切替可能に構成されている。スイッチ要素14Bは、電源11の他方の端子、整流要素13B及びプラズマトーチ3を電気的に接続する状態と、電源11の一方の端子、整流要素13A及びプラズマトーチ3を電気的に接続する状態とを切替可能に構成されている。
【0057】
(4)
図4(c)に示されるように、電源11は直流電源であってもよい。
【0058】
(5)
図5(a)に示されるように、プラズマトーチ2,3に印加される電圧の極性を逆転させるための切替部が、整流要素13A~13D(第1の整流要素、第2の整流要素)によって構成されていてもよい。この場合、電源装置10は、電源11と、配線12A,12B,12E,12Fと、整流要素13A~13Dとを含んでいてもよい。配線12Eは、配線12Aに対して並列に接続されていてもよい。配線12Fは、配線12Bに対して並列に接続されていてもよい。整流要素13A~13Dは、サイリスタであってもよい。
【0059】
整流要素13A,13Cはそれぞれ、配線12A,12Eに配置されており、互いに逆向きに並列接続されていてもよい。整流要素13B,13Dはそれぞれ、配線12B,12Fに配置されており、互いに逆向きに並列接続されていてもよい。この場合、整流要素13A~13Dのゲート端子を通じて、コントローラCtrが整流要素13A~13Dの導通又は非導通を制御してもよい。すなわち、
図5(a)に示される例では、整流要素13A~13Dのゲート端子が、切替部を構成するスイッチ要素として機能する。
【0060】
(6)
図5(b)に示されるように、プラズマトーチ2,3に印加される電圧の極性を逆転させるための切替部が、整流要素13A~13D(第1の整流要素、第2の整流要素)と、双投式のスイッチ要素14A,14Bとによって構成されていてもよい。この場合、電源装置10は、電源11と、配線12A,12B,12E,12Fと、整流要素13A~13Dとを含んでいてもよい。配線12Eは、配線12Aに対して並列に接続されていてもよい。配線12Fは、配線12Bに対して並列に接続されていてもよい。整流要素13A,13Bは、ダイオードであってもよい。
【0061】
整流要素13A,13Cはそれぞれ、配線12A,12Eに配置されており、互いに逆向きに並列接続されていてもよい。整流要素13B,13Dはそれぞれ、配線12B,12Fに配置されており、互いに逆向きに並列接続されていてもよい。スイッチ要素14Aは、電源11の一方の端子、整流要素13A及びプラズマトーチ2を電気的に接続する状態と、電源11の一方の端子、整流要素13C及びプラズマトーチ2を電気的に接続する状態とを切替可能に構成されていてもよい。スイッチ要素14Bは、電源11の他方の端子、整流要素13B及びプラズマトーチ3を電気的に接続する状態と、電源11の他方の端子、整流要素13D及びプラズマトーチ3を電気的に接続する状態とを切替可能に構成されていてもよい。
【0062】
(7)
図5(c)に示されるように、プラズマトーチ2,3に印加される電圧の極性を逆転させるための切替部が、整流要素13A,13Bによって構成されていてもよい。この場合、電源装置10は、電源11と、配線12A,12Bと、整流要素13A,13Bとを含んでいてもよい。整流要素13A,13Bは、トライアックであってもよい。整流要素13Aは、配線12Aに配置されていてもよい。整流要素13Bは、配線12Bに配置されていてもよい。この場合、整流要素13A,13Bのゲート端子を通じて、電源11から出力される交流電力の正の成分をプラズマトーチ2に印加するのか、電源11から出力される交流電力の負成分をプラズマトーチ2に印加するのかを、コントローラCtrが制御してもよい。すなわち、
図5(c)に示される例では、整流要素13A,13Bのゲート端子が、切替部を構成するスイッチ要素として機能する。
【0063】
(8)プラズマトーチ2,3の長さを距離センサ等でモニタして、プラズマトーチ2の長さとプラズマトーチ3の長さとの差(長さ差)が所定値以上であるか否かを、コントローラCtrが判断してもよい。長さ差が所定値以上となったとコントローラCtrが判断した場合、コントローラCtrが自動的にスイッチ要素14A~14Dを制御して、プラズマトーチ2,3に印加される電圧の極性を逆転させてもよい。この場合も、プラズマトーチ2,3を無駄なく消費しつつ、同じタイミングで交換することが可能となる。また、プラズマトーチ2,3を用いて、プラズマアークを継続的に安定して着火することが可能となる。
【0064】
(9)ところで、プラズマトーチの損耗速度は、これを流れる電流値の大きさに比例して大きくなる。すなわち、プラズマトーチの使用環境等に応じて異なるものの、プラズマトーチの損耗速度は、これを流れる電流値の関数(例えば、二次関数)で表すことができる。
図6の曲線L1は、プラズマトーチがアノード電極として機能する場合における、電流値と損耗速度との関数の一例である。
図6の曲線L2は、プラズマトーチがカソード電極として機能する場合における、電流値と損耗速度との関数の一例である。
【0065】
そこで、プラズマトーチ2,3を流れる電流を電流センサ等でモニタして、曲線L1,L2等の関数から得られる損耗速度に基づいてプラズマトーチ2,3の長さをコントローラCtrが計算(予測)してもよい。さらに、コントローラCtrは、計算の結果として得られたプラズマトーチ2の予測長さとプラズマトーチ3の予測長さとの差(長さ差)が所定値以上であるか否かを、判断してもよい。長さ差が所定値以上となったとコントローラCtrが判断した場合、コントローラCtrが自動的にスイッチ要素14A~14Dを制御して、プラズマトーチ2,3に印加される電圧の極性を逆転させてもよい。この場合も、プラズマトーチ2,3を無駄なく消費しつつ、同じタイミングで交換することが可能となる。また、プラズマトーチ2,3を用いて、プラズマアークを継続的に安定して着火することが可能となる。
【0066】
(10)以上の例では、コントローラCtrは、溶湯Mの加熱処理が終了するごとに、プラズマの発生のトータル時間が所定時間を経過したか否かを判断している。しかしながら、コントローラCtrは、溶湯Mの加熱処理中に、当該トータル時間が所定時間を経過したか否かを常に監視してもよい。このとき、コントローラCtrは、当該トータル時間が所定時間を経過したと判断ときに、溶湯Mの加熱処理の途中でも当該処理を終了させてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…プラズマ加熱装置、2…プラズマトーチ(第1のプラズマトーチ)、2a…本体、2b…先端電極、3…プラズマトーチ(第2のプラズマトーチ)、3a…本体、3b…先端電極、10…電源装置、11…電源、13A~13D…整流要素(第1の整流要素、第2の整流要素、切替部)、14A~14D…スイッチ要素(切替部)、100…連続鋳造装置、102…タンディッシュ、Ctr…コントローラ(制御部)、M…溶湯(溶鋼)。