(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】抄造樹脂成型品
(51)【国際特許分類】
B29C 43/58 20060101AFI20240410BHJP
B29C 43/18 20060101ALI20240410BHJP
B29C 70/06 20060101ALI20240410BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20240410BHJP
B29K 101/10 20060101ALN20240410BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20240410BHJP
B29K 105/12 20060101ALN20240410BHJP
【FI】
B29C43/58
B29C43/18
B29C70/06
B29C70/42
B29K101:10
B29K105:08
B29K105:12
(21)【出願番号】P 2020041375
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000228383
【氏名又は名称】日本ガスケット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕介
(72)【発明者】
【氏名】田島 渉
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-137114(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043186(WO,A1)
【文献】特開平10-100175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/58
B29C 43/18
B29C 70/06
B29C 70/42
B29K 101/10
B29K 105/08
B29K 105/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と強化繊維とからなる抄造シートが積層された状態で積層方向に加熱加圧成形されてなるとともに、上記抄造シートの積層方向に直交する方向に貫通した開口穴を備えた抄造樹脂成型品において、
上記開口穴の内周面に、相手部材が密着するように構成されたシール部と、当該シール部に隣接して形成されたテーパ状の導入部とを備え、
上記開口穴における上記導入部とシール部との境界部分よりも上記導入部側に、他の部分に比べて樹脂に対する強化繊維の割合が少ない樹脂リッチ部が形成されていることを特徴とする抄造樹脂成型品。
【請求項2】
上記抄造樹脂成型品における上記導入部が形成された側の表面に、上記開口穴を囲繞する凹部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の抄造樹脂成型品。
【請求項3】
上記凹部が上記開口穴を無端状に囲繞する環状溝であることを特徴とする請求項2に記載の抄造樹脂成型品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抄造樹脂成型品に関し、詳しくは熱硬化性樹脂と強化繊維とからなる抄造シートが積層された状態で積層方向に加熱加圧成形されてなるとともに、上記抄造シートの積層方向に直交する方向に貫通した開口穴を備えた抄造樹脂成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱硬化性樹脂と強化繊維とからなる抄造シートを積層させ、これを積層方向に加熱加圧成形した抄造樹脂成型品が知られ、またこのような抄造樹脂成型品として、上記抄造シートの積層方向に直交する方向に開口穴が穿設されたものも知られている(特許文献1)。
一方、このような上記開口穴を備えた部品として、上記開口穴の内周面に相手部材を挿通させて、開口穴の内周面と当該相手部材の外周面とを密着させてシールを行う構造が知られている。
その際、上記開口穴にテーパ状の導入部を形成して、当該導入部によって上記相手部材を開口穴の内周面へとガイドすることも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1では、抄造樹脂成型品に上記開口穴を形成するために、積層させた抄造シートに予め開口穴に対応する穴を穿設して、これを加熱加圧成形するようになっている。
この方法では、抄造シートに穴を穿設する際に、抄造シート内の強化繊維が切断され、切断された強化繊維が開口穴の内周面に露出してしまうことから、開口穴の内周面の平滑性が保てず、シール面として不適当になる場合がある。
これに対し、上記抄造シートを加熱加圧しながら、軟化した抄造シートに対して開口穴を穿設することにより、強化繊維が内周面に露出してしまうのを防止することが考えられるが、このような方法で開口穴を穿設すると以下のような問題が発生する恐れがある。
まず、抄造樹脂成型品を加熱加圧成型すると、抄造シート内で軟化した樹脂だけが移動し、他の部分に比べて樹脂に対する強化繊維の割合が少ない樹脂リッチ部が形成される場合がある。
この樹脂リッチ部はその他の強化繊維を含んだ部分との境界部分で層間剥離を生じさせやすいことから、当該樹脂リッチ部が上記開口穴のシール部に位置してしまうと、当該樹脂リッチ部と他の部分との間で層間剥離が生じた場合に、当該シール部に亀裂が生じてシール性が確保できないこととなる。
このような問題に鑑み、本発明は開口穴のシール部に破損が生じないようにした抄造樹脂成型品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明にかかる抄造樹脂成型品は、熱硬化性樹脂と強化繊維とからなる抄造シートが積層された状態で積層方向に加熱加圧成形されてなるとともに、上記抄造シートの積層方向に直交する方向に貫通した開口穴を備えた抄造樹脂成型品において、
上記開口穴の内周面に、相手部材が密着するように構成されたシール部と、当該シール部に隣接して形成されたテーパ状の導入部とを備え、
上記開口穴における上記導入部とシール部との境界部分よりも上記導入部側に、他の部分に比べて樹脂に対する強化繊維の割合が少ない樹脂リッチ部が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によれば、樹脂リッチ部を上記開口穴における上記導入部とシール部との境界部分よりも上記導入部側に形成したため、樹脂リッチ部と他の部分との層間剥離が発生してしまった場合であっても、シール部の破損が防止され、シール性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図7】樹脂リッチ部がシール部まで形成されている成形品の断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について説明すると、
図1は本発明にかかる抄造樹脂成型品(以下、成型品1とよぶ)の平面図を、
図2は
図1のII―II部の模式断面図を示している。
本実施例において、上記抄造樹脂成型品とは、後に詳述するが、熱硬化性樹脂と強化繊維Fとを液中に分散させて抄造した抄造シートを積層させ、これを
図3~
図6に示す成型装置2によって加熱加圧成形したものとなっている。
本実施例の成型品1は所定板厚の部品となっており、その略中央には円形の開口穴3が形成されている。またこの成型品1には、
図2に示すように円筒状の相手部材4が上記開口穴3に挿入されるようになっている。
上記相手部材4には、その外周面にリング状のシール部材4aが設けられており、当該シール部材4aが成型品1の開口穴3の内周面に形成されたシール部3aに密着することで、上記成型品1と相手部材4との間のシールが行われるようになっている。
上記相手部材4を本実施例の成型品1に装着する際には、上記相手部材4を成型品1の開口穴3に対して上方から挿入するようになっており、このため上記開口穴3には、当該相手部材4を挿入する側の表面に、テーパ状に拡径する導入部3bを形成したものとなっている。
このような構成により、上記相手部材4を上方から開口穴3に挿入すると、上記シール部材4aが最初に上記導入部3bに当接し、その後相手部材4をさらに下方に移動させることで、シール部材4aが変形しながら上記シール部3aへとガイドされ、シール部材4aが開口穴3と相手部材4との間で圧縮された状態で挟持されてシールするようになっている。
なお、上記導入部3bの形状としては、
図2に示すような断面円弧状に形成されたもののほか、断面直線状の傾斜面として構成してもよい。
【0009】
そして、本実施例の成型品1における上記導入部3bが形成された表面には、上記開口穴3を囲繞する位置に凹部としての無端状の環状溝5が形成されている。
本実施例では、成型品1の板厚を6.6mm、上記導入部3bの板厚方向の寸法を4mmとしており、これに対し上記環状溝5の深さを1.5mm、幅を2.5mmに設定している。
また上記導入部3bの外周縁部と環状溝5の内周縁部までの距離を1mmに設定している。このような寸法とすることで、3~20mm程度の強化繊維をからみあった状態で押さえ付けることができ、後述する樹脂リッチ部への強化繊維の移動を規制することができる。逆に、環状溝5と導入部3bより10mm以上離隔すると、上記押さえ付けの効果が得られず、強化繊維が樹脂リッチ部へと流れやすくなる。
なお、上記寸法は一例であり、成型品1の板厚や導入部3bの板厚方向の寸法によって適宜変更可能である。
【0010】
本実施例の成型品1は、熱硬化性樹脂と強化繊維Fとを液中に分散させて抄造した抄造シートを積層させ、これを成型装置2によって加熱加圧成形したものとなっている。
したがって、成形された成型品1の内部では、硬化した熱硬化性樹脂に強化繊維Fが含まれた構造を有しており、
図2ではこの強化繊維Fを模式的に示したものとなっている。
そして本実施例の成形品1を成形する際、抄造シートを積層方向に加熱加圧成形することにより、樹脂内の強化繊維Fは積層方向に対して直交する方向、すなわち略水平方向を向くようになっている。
【0011】
ここで、上記抄造シート中には上記強化繊維Fがほぼ均等に分散されており、当該抄造シートを単純に積層方向に加熱加圧成型すると、この強化繊維Fの分布が偏ることなく積層方向に圧縮されることとなる。
しかしながら、後述するように本実施例では上記成型装置2によって抄造シートを加熱加圧しながら開口穴3を形成するようになっており、このとき軟化した樹脂の一部が移動して、他の部分に比べて樹脂に対する強化繊維Fの割合が少ない樹脂リッチ部Rが形成される。
ここで上記樹脂リッチ部Rとは、樹脂リッチ部R以外の他の部分(以下、通常部)における樹脂と強化繊維Fとの割合が1:1程度であるのに対し、樹脂と強化繊維Fとの割合が2:1~5:1程度である部分のことを指すものとする。
【0012】
そして本実施例の成型品1は、上記開口穴3の周囲を構成する材料部分において、導入部3bとシール部3aとの境界部分よりも上記導入部3b側に上記樹脂リッチ部Rが形成されていることを特徴としている。換言すると、樹脂リッチ部Rによって上記シール部3aが構成されないようになっている。
上記樹脂リッチ部Rは、上記通常部との間で層間剥離が生じやすいため、この層間剥離がシール部3aで発生するとシール部3aのシール性が低下してしまうという恐れがあった。
そこで本実施例では、樹脂リッチ部Rを上記導入部3bとシール部3aとの境界部分よりも上記導入部3b側に形成することで、強化繊維Fを含む強度の高い通常部によってシール部3aを構成し、層間剥離によるシール部3aの破損を防止するものとなっている。
【0013】
以下、上記成型品1について詳細に説明すると、まず成型品1を成形するために使用する抄造シートは、混合分散工程、抄造工程、脱水工程、乾燥工程を経て作成することができる。
まず抄造シートの原材料として、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂粉末と、強化繊維Fである炭素繊維とを用い、混合分散工程ではこれらを貯水槽に水とともに所定の割合で投入し、これを撹拌して所定濃度の混合液を作成する。
上記混合液を作成する際の濃度としては、上記フェノール樹脂を水と混合する前の原材料全体に対して30~60wt%の割合で使用し、また炭素繊維については30~60wt%の割合で使用する。また必要に応じてPAやPP、セルロースなどの有機繊維やガラス等の無機繊維、タルク等の無機充填剤を混合することもできる。
【0014】
ここで上記強化繊維Fとしての炭素繊維としては、繊維長3~12mmの長繊維と、繊維長0.1~3mmの短繊維とが混合されたものを使用するのが好ましく、その際長繊維と短繊維との割合を4:1~1:1程度の割合で設定するのが望ましい。
なお、上記強化繊維Fとしては炭素繊維のほかにガラス繊維等の他の強化繊維Fも用いることが可能である。また、上記炭素繊維としてリサイクル炭素繊維を使用しても良く、その場合、安価に成型品1を得ることができる。
【0015】
次に、上記抄造工程では、従来公知の抄造槽に上記混合液を投入し、上記抄造槽に設けた網によって上記強化繊維Fを抄き取りながら水を排水し、上記網の上面に水を多量に含む抄造シートを形成する。
続く脱水工程では、上記抄造工程によって得られた抄造シートを上下から押圧して脱水し、その後の乾燥工程では、上記脱水した抄造シートを加熱して乾燥させる。
このようにして得られた抄造シートを利用して上記成型品1を作成する場合には、成型品1の形状や板厚に応じて複数枚積層させる必要があり、本実施例では複数枚の抄造シートを積層させた状態で熱硬化性樹脂が硬化しない温度で加熱し、これにより一部の樹脂を軟化させて抄造シート同士を接着させて抄造体を作成する。
【0016】
このようにして抄造体とされた抄造シートSは、
図3~
図6に示す成型装置2に投入されて加熱加圧成形される。
上記成型装置2は、地面に設置された下型11と、当該下型11に対して上方から降下し、下型11との間で上記抄造シートSを加熱しながら加圧する上型12と、上記上型12と別体に設けられて上記開口穴3を穿設するポンチからなる工具13が設けられている。
また上記上型12および下型11には図示しないヒータが内蔵されており、これにより抄造シートSを構成する熱硬化性樹脂を加熱溶融させながら加熱加圧成型するものとなっている。
【0017】
上記下型11および上型12には、それぞれ成形後の成型品1の形状に従って製品面が形成されており、特に上型12には上記環状溝5を形成するための環状突起12aが形成されている。
また上記上型12における上記開口穴3に対応する位置には、上記開口穴3よりも大径の挿通孔12bが設けられており、当該挿通孔12bの内部を上記工具13が上下に移動可能となっている。
一方、上記下型11における上記開口穴3に対応する位置には、上記開口穴3と略同径の逃がし穴11aが設けられており、当該逃がし穴11aの内部を上記工具13が上下に移動し、また穿設された抄造シートSの一部が落下するようになっている。
【0018】
上記工具13は上記上型12と別体に設けられており、抄造シートSが上型12と下型11とによって挟持されると、所要の速度で下降し、剪断力によって抄造シートSに開口穴3を穿設するものとなっている。
また上記工具13は、上記開口穴3のシール部4aと同径に加工された穴加工部13aと、当該穴加工部13aの上部に形成されて上記開口穴3の導入部3bを形成するテーパ部13bとから構成されている。
【0019】
以下、
図3~
図6を用いて上記成型装置2の動作を説明する。
まず
図3は上記上型12が上死点に位置した状態を示し、この状態で積層された抄造シートSを上記下型11にセットする。この時、抄造シートSでは、強化繊維が積層方向に対して直交する方向(図示水平方向)、すなわち上型12による圧縮方向に対して直交する方向を向いた状態となっている。
続いて、上記下型11および上型12に設けたヒータが抄造シートSを内部の熱硬化性樹脂が硬化しない程度の温度で加熱し、これにより抄造シートSが軟化する。
【0020】
図4は上記上型12が下降して、下型11との間で抄造シートSを上下から挟持した状態を示している。
このとき抄造シートSの熱硬化性樹脂が軟化しているため、抄造シートSは積層方向に圧縮され、これ伴って内部の強化繊維Fは積層方向に対して直交する方向を維持したまま圧縮される。
一方、上記上型12に形成された環状突起12aが接触する部分では、抄造シートSが当該環状突起12aによって変形し、抄造シートSの内部の強化繊維Fが押さえつけられるとともに、抄造シートSの上面に上記環状溝5が形成されることとなる。
またこのとき上記工具13は上方に待機しており、その先端部は抄造シートSに接触しておらず、開口穴3の加工は開始されていない。従って、当該開口穴3が形成される部分においても、上記強化繊維Fは積層方向に対して直交する方向を維持したままとなっている。
しかしながら、抄造シートSが上型12と下型11とによって圧縮されると、上記軟化した樹脂の一部が上記上型12の挿通孔12bによって形成される空間へとあふれ出てしまい、上記樹脂リッチ部Rが形成されることとなる。
一方、このときあふれ出る樹脂リッチ部Rの量は、上記開口穴3の周囲に形成した上記環状溝5を形成する際に強化繊維Fを押さえつけることで制限するようになっており、これにより形成される樹脂リッチ部R分の大きさを抑えることができる。
【0021】
そして
図5は、上記工具13が下降して上記開口穴3の形成が行われている途中の状態を示している。
上記上型12と下型11とによって抄造シートSが押圧された状態で、上記工具13を所定のスピードで下降させると、工具13によって抄造シートSが剪断方向の応力を受け、開口穴3に相当する部分が圧縮されながら下型11に形成された逃がし穴11aに向けて変形してゆく。
このとき、抄造シートSにおける開口穴3に相当する部分では、上記工具13の側面に付着した熱硬化性樹脂が下方へと引きずられ、これに伴って強化繊維Fにおける開口穴3側の端部が下方へと引きずられる。
また上記
図4において上記上型12の挿通孔12bによって形成される空間へとあふれ出た樹脂リッチ部Rについても、工具13に付着した部分が下方へと引きずられることとなる。
このとき、工具13を所定の下降スピードで下降させることで、開口穴3に相当する部分の強化繊維Fは工具13によって切断されず、工具13の通過に伴って当該工具13の周囲を取り囲むように移動する。
【0022】
そして
図6は、上記工具13が下降端まで下降し、上記開口穴3が穿設された状態を示している。
上記工具13が下降端まで下降すると、当該工具13によって抄造シートSが貫通され、上記穴加工部13aによって上記開口穴3のシール部3aが形成されるとともに、上記テーパ部13bによって上記開口穴3の導入部3bが形成されることとなる。
このとき、上記樹脂リッチ部Rはテーパ部13bによって押圧されるが、この樹脂リッチ部Rは開口穴3におけるシール部3aと導入部3bとの境界部分よりも導入部3b側にとどまるようになっている。
これは上記環状溝5によって当該環状溝5より開口穴3側に流れる樹脂の量が制限されていることに加え、上記工具13の下降スピードによって調整することが可能である。
【0023】
このようにして成型装置2による加熱加圧圧縮および開口穴3の成形の後、成形された成型品1は成型装置2より取り出され、上記開口穴3のシール部3aやその周辺のバリ等を除去するなどの仕上げ工程を行い、また必要に応じて熱硬化性樹脂をさらに架橋反応させるためにアニーリングなどの処理を行う。
【0024】
このようにして得られた成型品1は、
図2に示すように上記開口穴3のシール部3aには上記強化繊維Fが位置しており、上記樹脂リッチ部Rは位置しないようになっている。
また抄造シートSを加熱加圧成型しながら工具13によって開口穴3を形成したことにより、シール部3aの内周面に強化繊維Fの端部が露出しないようになっており、これによりシール面が滑らかにされてシール性能を得ることが可能となっている。
これに対し、
図6は、樹脂リッチ部Rが上記シール部3aまで達してしまった抄造樹脂成型品1の断面図を示している。このような抄造樹脂成型品1では、成形途中に大量の樹脂リッチ部Rが形成されてしまい、工具13がシール部3aまで樹脂リッチ部Rを引き込んでしまった場合や、工具13の下降速度が速すぎて樹脂リッチ部Rを引き込んでしまった場合が考えられる。
このように樹脂リッチ部Rがシール部3aまで達していると、成型品1の使用中に振動等によって樹脂リッチ部Rと通常部との境界部分で層間剥離が生じる場合があり、シール部3aが破損してシール性が悪化する恐れがあった。
【0025】
本実施例の成型品1では、樹脂リッチ部Rと通常部との境界が上記シール部3aと導入部3bとの境界よりも導入部3b側に位置しているため、仮に境界剥離が生じてもシール部3aが破損することはなく、シール性を維持することができる。
特に、本実施例では開口穴3を囲繞するように環状溝5を形成したことにより、当該環状溝5から開口穴3に向けて樹脂が流れるのを阻止し、樹脂リッチ部Rが大きくなりすぎないようにすることができる。
なお、上記環状溝5については、これに代えて上記開口穴3を囲繞するように複数の凹部を所定の間隔で形成するようにしてもよく、この凹部によって環状溝5と同様に樹脂の流入を阻止することができる。
また上記工具13の下降スピードを制御すれば、環状溝5や凹部自体を省略しても、上記樹脂リッチ部Rが上記シール部3aに到達しないようにすることも可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 成型品(抄造樹脂成型品) 2 成型装置
3 開口穴 3a シール部
3b 導入部 4 相手部材
5 環状溝(凹部) 11 下型
12 上型 12b 挿通孔
13 工具 13b テーパ部
F 強化繊維 R 樹脂リッチ部
S 抄造シート